説明

インクセット、画像形成方法

【課題】発色性に優れたインクセット、及び当該インクセットを用いた画像形成方法を提供する。
【解決手段】白色のインクジェット用顔料インクと、ジエン系共重合体を含有する非白色のインクジェット用顔料インクと、を含むインクセット。前記白色のインクジェット用顔料インク及び前記非白色のインクジェット用顔料インクのうち少なくともいずれかが、ウレタン樹脂及びアクリル樹脂のうち少なくともいずれかを含むインクセット。前記ウレタン樹脂及び前記アクリル樹脂についての、破断点伸度が200%〜500%であり、弾性率が20MPa〜400MPaであり、かつ、ガラス転移温度が−10℃以下であるインクセット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクセット及び画像形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、紙などの被記録媒体に、画像データ信号に基づき画像を形成する記録方法として、種々の方式が利用されてきた。このうち、インクジェット方式は、安価な装置で、必要とされる画像部のみにインクを吐出し被記録媒体上に直接画像形成を行うため、インクを効率良く使用でき、ランニングコストが安い。さらに、インクジェット方式は騒音が小さいため、記録方法として優れている。
【0003】
近年、インクジェット方式の記録方法を利用して、被記録媒体上にインクを吐出することにより、光沢度が高くて耐水性及び耐擦性に優れた画像を、被記録媒体の表面に形成するための試みがなされている。
【0004】
例えば、特許文献1は、40.0重量部のカーボンブラック顔料分散液(顔料濃度20%)と、5.5重量部のグリセリンと、16.5重量部の1,3−ブタンジオールと、2.0重量部の2−エチル−1,3−ヘキサンジオールと、2.5重量部のフッ素系界面活性剤(固形分濃度40%)と、10.0重量部の自己乳化型ポリウレタン樹脂エマルジョン(固形分濃度30%)と、6.0重量部のカルボキシ変性メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体樹脂(MBR、樹脂固形分50%)と、17.0重量部の蒸留水と、からなるインクジェット記録用インクを、普通紙上に印刷する技術を開示している(段落0030、実施例1)。
【0005】
例えば、特許文献2は、167gのイエロー顔料分散体(顔料平均粒径75nm)、71.4gのラテックス(日本ゼオン社製のNipol SX1503、平均粒径60nm、添加量3wt%)、200gのエチレングリコール、120gのジエチレングリコール、4gの湿潤剤(日信化学社製のオルフィン1010)、及び2gの防腐剤(ゼネカ社製のプロキセルGXL)を、イオン交換水で合計1000gになるよう調製されたインクジェット用水性顔料インクを、普通紙上に印刷する技術を開示している(段落0042〜0044、0052)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−120990号公報
【特許文献2】特開2001−106951号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2に開示されたブラック色やイエロー色のインクを、インクジェット記録方法により普通紙上に吐出して画像を形成した場合、当該画像にヒビ割れ、凹凸、及び汚れ等が見られ、発色性に劣るという問題が生じる。
【0008】
そこで、本発明は、発色性に優れたインクセット、及び当該インクセットを用いた画像形成方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解決するため鋭意検討した。その結果、カラーインク等の非白色のインクジェット用顔料インクを用いて、被記録媒体、特に着色した被記録媒体に対して印刷すると、発色性に劣ることが分かった。そこで、ジエン系共重合体を含有させた非白色のインクジェット用顔料インクとともに、白色のインクジェット用顔料インクも備えたインクセットとすることにより、発色性が優れたものとなることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は下記のとおりである。
[1]
白色のインクジェット用顔料インクと、ジエン系共重合体を含有する非白色のインクジェット用顔料インクと、を含む、インクセット。
[2]
前記白色のインクジェット用顔料インク及び前記非白色のインクジェット用顔料インクのうち少なくともいずれかが、ウレタン樹脂及びアクリル樹脂のうち少なくともいずれかを含む、[1]に記載のインクセット。
[3]
前記ウレタン樹脂及び前記アクリル樹脂についての、破断点伸度が200%〜500%であり、弾性率が20MPa〜400MPaであり、かつ、ガラス転移温度が−10℃以下である、[2]に記載のインクセット。
[4]
前記ジエン系共重合体の含有量が、前記非白色のインクジェット用顔料インクの総質量に対して、0.5質量%〜3質量%である、[1]〜[3]のいずれかに記載のインクセット。
[5]
前記ジエン系共重合体が、メチルメタクリレート・ブタジエンゴムである、[1]〜[4]のいずれかに記載のインクセット。
[6]
[1]〜[5]のいずれかに記載のインクセットを用いて、インクジェット記録方式により被記録媒体に画像を形成することを含む、画像形成方法。
[7]
前記被記録媒体に対して前記白色のインクジェット用顔料インクを付着させ、かつ、該白色のインク層に対して前記非白色のインクジェット用顔料インクを付着させる付着工程と、前記白色のインクジェット用顔料インク及び前記非白色のインクジェット用顔料インクが付着した被記録媒体を加熱する加熱工程と、を含む、[6]に記載の画像形成方法。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に制限されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0012】
本明細書において、「非白色」とは白色以外の有色を意味する。「記録物」とは、被記録媒体上にインクが記録されて画像が形成されたものをいう。「印捺物」とは、上記の記録物に含まれるものであり、被記録媒体の一種である布帛上にインクが記録されて画像が形成されたものをいう。
【0013】
本明細書において、「発色性」とは、被記録媒体上で非白色インクが光沢を呈する性質をいう。「耐擦性」とは、記録物における記録面のOD値を分母とし、当該記録物における記録面に摩擦力を加えた後の記録面のOD値を分子として算出される、定着率が高い性質をいう。「洗濯堅牢性」とは、洗濯による記録物の変退色の程度が小さい性質をいう。
【0014】
本明細書において、「(メタ)アクリレート」は、アクリレート及びそれに対応するメタクリレートのうち少なくともいずれかを意味し、「(メタ)アクリル」はアクリル及びそれに対応するメタクリルのうち少なくともいずれかを意味し、「(メタ)アクリロイル」はアクリロイル及びそれに対応するメタクリロイルのうち少なくともいずれかを意味する。
【0015】
[インクセット]
本発明の一実施形態に係るインクセットは、白色のインクジェット用顔料インク(以下、単に「白色インク」ともいう。)と、ジエン系共重合体を含有する非白色のインクジェット用顔料インク(以下、単に「非白色インク」ともいう。)と、を含むものである。白色インクの下地の上に非白色インクの画像を形成する場合、非白色インクがジエン系共重合体を含有することにより、白色インク上の非白色インクの発色性を優れたものとすることができる。さらに言えば、白色インクの下地の上に非白色インクを重ね塗りすることで、着色した被記録媒体上であっても高品質な非白色インクの画像を形成することができる。
【0016】
上記非白色インクの種類としては、以下に限定されないが、例えば、カラーインク、黒色インク、及び灰色インクが挙げられる。このうち、カラーインクとしては、以下に限定されないが、例えば、シアンインク、マゼンタインク、イエローインク、ライトシアンインク、ライトマゼンタインク、ライトイエローインク、レッドインク、グリーンインク、ブルーインク、ブラックインクが挙げられる。
【0017】
上記インクセットを構成する非白色インクは、上記の各種インクを、1種単独で用いてもよく、あるいは2種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、上記インクセットを構成する白色インクも、インク組成として、1種単独で用いてもよく、あるいは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0018】
また、非白色インクとしては、顔料を含有する水系インクを用いることが好ましい。
【0019】
以下、上記インクセットを構成するインクジェット用顔料インク(以下、纏めて「インク」ともいう。)について詳細に説明する。
【0020】
〔顔料〕
インクが含有する顔料としては、無機顔料及び有機顔料のいずれも使用可能である。
【0021】
まず、白色インクに含まれる白色顔料としては、以下に限定されないが、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、硫化亜鉛、酸化アンチモン、及び酸化ジルコニウム等の白色無機顔料が挙げられる。当該白色無機顔料以外に、白色の中空樹脂粒子及び高分子粒子などの白色有機顔料を使用することもできる。
【0022】
白色顔料のカラーインデックス(C.I.)としては、以下に限定されないが、例えば、C.I.Pigment White 1(塩基性炭酸鉛),4(酸化亜鉛),5(硫化亜鉛と硫酸バリウムの混合物),6(酸化チタン),6:1(他の金属酸化物を含有する酸化チタン),7(硫化亜鉛),18(炭酸カルシウム),19(クレー),20(雲母チタン),21(硫酸バリウム),22(天然硫酸バリウム),23(グロスホワイト),24(アルミナホワイト),25(石膏),26(酸化マグネシウム・酸化ケイ素),27(シリカ),28(無水ケイ酸カルシウム)が挙げられる。
【0023】
これらの中でも、発色性に一層優れるとともに、隠蔽性及び分散粒径にも優れ、かつ、良好な視認性(明度)が得られるため、酸化チタンが好ましい。
【0024】
上記酸化チタンの中でも、白色顔料として一般的なルチル型の酸化チタンが好ましい。このルチル型の酸化チタンは、自ら製造したものであってもよく、市販されているものであってもよい。ルチル型の酸化チタン(粉末状)を自ら製造する場合の工業的製造方法として、従来公知の硫酸法及び塩素法が挙げられる。
ルチル型の酸化チタンの市販品としては、例えば、Tipaque(登録商標) CR−60−2、CR−67、R−980、R−780、R−850、R−980、R−630、R−670、PF−736等のルチル型(以上、石原産業社(ISHIHARA SANGYO KAISHA, LTD.)製商品名)が挙げられる。
【0025】
酸化チタンの50%平均粒子径(以下、「D50」ともいう。)は、50〜500nmが好ましく、150〜350nmがより好ましい。D50が上記の範囲内にあると、インクの耐擦性に優れ、また、記録された画像の視認性を優れたものとすることも可能であるので、高画質の画像を形成することができる。
【0026】
ここで、本明細書における「酸化チタンの50%平均粒子径」は、インクを調製する前における酸化チタンのD50でなく、インク中に存在する酸化チタンのD50を意味する。また、本明細書における「50%平均粒子径」とは、動的光散乱法による球換算50%平均粒子径を意味し、以下のようにして得られる値である。
分散媒中の粒子に光を照射し、この分散媒の前方・側方・後方に配置された検出器によって、発生する回折散乱光を測定する。得られた測定値を利用して、本来は不定形である粒子を、球形であると仮定し、当該粒子の体積と等しい球に換算された粒子集団の全体積を100%として累積カーブを求め、その際の累積値が50%となる点を、「動的光散乱法による球換算50%平均粒子径(D50)」とする。
【0027】
白色顔料として酸化チタンを使用する場合は、光触媒作用を抑制するために、アルミナシリカで表面処理されたものが好ましい。その際の表面処理量(アルミナシリカの量)は、表面処理された白色顔料の総質量(100質量%)に対して、5〜20質量%程度であるとよい。
【0028】
次に、非白色インクに含まれる非白色顔料、即ち白色顔料以外の顔料としては、以下に限定されないが、例えば、アゾ系、フタロシアニン系、染料系、縮合多環系、ニトロ系、及びニトロソ系などの有機顔料(ブリリアントカーミン6B、レーキレッドC、ウォッチングレッド、ジスアゾイエロー、ハンザイエロー、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、アルカリブルー、アニリンブラック等)、コバルト、鉄、クロム、銅、亜鉛、鉛、チタン、バナジウム、マンガン、及びニッケル等の金属類、金属酸化物及び硫化物、並びにファーネスカーボンブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、及びチャンネルブラック等のカーボンブラック(C.I.ピグメントブラック7)類、さらには黄土、群青、及び紺青等の無機顔料を用いることができる。
【0029】
更に詳しくは、ブラックインクとして使用されるカーボンブラックとしては、No.2300、No.900、MCF88、No.33、No.40、No.45、No.52、MA7、MA8、MA100、No.2200B等(以上、三菱化学社(Mitsubishi Chemical Corporation)製商品名)、Raven 5750、Raven 5250、Raven 5000、Raven 3500、Raven 1255、Raven 700等(以上、コロンビアカーボン(Carbon Columbia)社製)、Rega1 400R、Rega1 330R、Rega1 660R、Mogul L、Monarch 700、Monarch 800、Monarch 880、Monarch 900、Monarch 1000、Monarch 1100、Monarch 1300、Monarch 1400等(以上、キャボット社(Cabot JAPAN K.K.)製商品名)、Color Black FW1、Color Black FW2、Color Black FW2V、Color Black FW18、Color Black FW200、Color B1ack S150、Color Black S160、Color Black S170、Printex 35、Printex U、Printex V、Printex 140U、Special Black 6、Special Black 5、Special Black 4A、Special Black 4等(以上、デグッサ(Degussa)社製商品名)が挙げられる。
【0030】
イエローインクに使用される顔料としては、C.I.ピグメントイエロー 1、2、3、4、5、6、7、10、11、12、13、14、16、17、24、34、35、37、53、55、65、73、74、75、81、83、93、94、95、97、98、99、108、109、110、113、114、117、120、124、128、129、133、138、139、147、151、153、154、167、172、180が挙げられる。
【0031】
マゼンタインクに使用される顔料としては、C.I.ピグメントレッド 1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、14、15、16、17、18、19、21、22、23、30、31、32、37、38、40、41、42、48(Ca)、48(Mn)、57(Ca)、57:1、88、112、114、122、123、144、146、149、150、166、168、170、171、175、176、177、178、179、184、185、187、202、209、219、224、245、及びC.I.ピグメント ヴァイオレット 19、23、32、33、36、38、43、50が挙げられる。
【0032】
シアンインクに使用される顔料としては、C.I.ピグメントブルー 1、2、3、15、15:1、15:2、15:3、15:34、15:4、16、18、22、25、60、65、66、及びC.I.バットブルー 4、60が挙げられる。
【0033】
マゼンタ、シアン、及びイエロー以外の顔料としては、例えば、C.I.ピグメント グリーン 7、10、及びC.I.ピグメント ブラウン 3、5、25、26、及びC.I.ピグメント オレンジ 1、2、5、7、13、14、15、16、24、34、36、38、40、43、63が挙げられる。
【0034】
上記非白色顔料は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0035】
顔料の含有量は、使用する顔料種により異なるが、良好な発色性を確保することなどから、インクの総質量(100質量%)に対して、1〜30質量%が好ましく、1〜15質量%がより好ましい。中でも、酸化チタンの含有量は、沈降し難いとともに、(特に黒地の被記録媒体上での)隠蔽性及び色再現性に優れるため、インクの総質量(100質量%)に対して、1〜20質量%が好ましく、5〜13質量%がより好ましい。
【0036】
上記の白色顔料及び非白色顔料はそれぞれ、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0037】
なお、本発明の目的を損なわない範囲で、非白色インクに白色顔料が含まれてもよく、白色インクに非白色顔料が含まれてもよい。
【0038】
〔顔料分散体〕
上記の顔料は、インク中で、分散された状態として、即ち顔料分散体として存在するとよい。顔料分散体のD50は、50nm以上1μm以下が好ましい。当該D50が50nm以上であると、記録物の発色性を良好に維持できる。また、当該D50が1μm以下であると、定着性を良好に維持できる。白色顔料の分散体のD50は、100〜600nmがより好ましく、200〜500nmがさらに好ましい。当該D50が100nm以上であると、隠蔽性及び発色性を良好に維持できる。当該D50が1μm以下であると、定着性を良好に維持でき、かつ、インクジェットヘッドからの吐出安定性も良好に維持できる。非白色顔料の分散体のD50は、70〜230nmがより好ましく、80〜130nmがさらに好ましい。
【0039】
顔料分散体としては、以下に限定されないが、例えば、自己分散型顔料及び樹脂分散型顔料が挙げられる。
【0040】
(自己分散型顔料)
上記の自己分散型顔料は、分散剤なしに水性媒体中に分散あるいは溶解することが可能な顔料である。ここで「分散剤なしに水性媒体中に分散あるいは溶解」とは、顔料を分散させるための分散剤を用いなくても、その表面の親水基により、水性媒体中に安定に存在している状態を言う。そのため、分散剤に起因する消泡性の低下による発泡がほとんど無く、吐出安定性に優れるインクが調製しやすい。また、分散剤に起因する大幅な粘度上昇が抑えられるため、顔料をより多く含有することが可能となり印字濃度を十分に高めることが可能になる等、取り扱いが容易である。
【0041】
上記の親水基は、−OM、−COOM、−CO−、−SO3M、−SO2M、−SO2NH2、−RSO2M、−PO3HM、−PO32、−SO2NHCOR、−NH3、及び−NR3(これらの式中のMは、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、置換基を有していてもよいフェニル基、又は有機アンモニウムを表し、Rは、炭素原子数1〜12のアルキル基または置換基を有していてもよいナフチル基を表す。)からなる群から選択される一以上の親水基であることが好ましい。
【0042】
自己分散型顔料の中でも、自己分散カーボンブラックが好ましい。この自己分散カーボンブラックを用いることで、印捺物の発色性が一層優れたものとなる。分散剤を用いることなく水に分散可能とする方法としては、以下に限定されないが、カーボンブラックの表面をオゾンや次亜塩素酸ナトリウム等で酸化する方法が挙げられる。当該自己分散カーボンブラック分散体のD50は、50〜300nmが好ましく、50〜150nmがより好ましく、70〜130nmがさらに好ましく、80〜120nmがさらにより好ましい。当該D50が50nm以上であると、発色性を良好に維持できる。また、D50が300nm以下であると、印捺物の発色性がより一層優れたものとなる。さらに、D50が150nm以下であると、定着性を良好に維持できる。
【0043】
自己分散型顔料は、例えば、顔料に物理的処理または化学的処理を施すことで、前記親水基を顔料の表面に結合(グラフト)させることにより製造される。当該物理的処理としては、例えば真空プラズマ処理等が例示できる。また、当該化学的処理としては、例えば水中で酸化剤により酸化する湿式酸化法や、p−アミノ安息香酸を顔料表面に結合させることによりフェニル基を介してカルボキシル基を結合させる方法等が例示できる。
【0044】
(樹脂分散型顔料)
上記の樹脂分散型顔料は、樹脂分散によって分散可能とした顔料である。樹脂分散型顔料に用いられる樹脂(ポリマー)としては、以下に限定されないが、例えば、顔料の分散に用いられる分散ポリマーのTgは、55℃以下であることが好ましく、50℃以下がより好ましい。当該Tgが55℃以下であると、定着性を良好なものとすることができる。当該ポリマーのゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による重量平均分子量(スチレン換算)が10,000以上200,000以下であるものを用いることが好ましい。これにより、インクの保存安定性が一層良好となる。
ここで、本明細書における重量平均分子量(Mw)は、日立製作所社(Hitachi, Ltd.)製L7100システムのゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて、ポリスチレン換算重量平均分子量として測定するものとする。
【0045】
上記ポリマーとして、その構成成分のうち70質量%以上が(メタ)アクリレート及び(メタ)アクリル酸の共重合によるポリマーであると、定着性及び光沢性に一層優れる。炭素数1〜24のアルキル(メタ)アクリレート及び炭素数3〜24の環状アルキル(メタ)アクリレートのうち少なくとも一方が70質量%以上のモノマー成分から重合されたものであることが好ましい。その具体例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、t−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、イソボロニル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、テトラメチルピペリジル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシ(メタ)アクリレート及びベヘニル(メタ)アクリレートが挙げられる。また、その他の添加成分としてヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコール(メタ)アクリレート等のヒドロキシル基を有するヒドロキシ(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、及びエポキシ(メタ)アクリレートを用いることもできる。
【0046】
(ポリマーに被覆された顔料)
また、定着性、光沢性、及び色再現性に一層優れるため、上記樹脂分散型顔料の中でもポリマーに被覆された顔料(マイクロカプセル化顔料)が好適に用いられる。
【0047】
当該ポリマーに被覆された顔料は、転相乳化法により得られるものである。つまり、上記のポリマーをメタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、アセトン、メチルエチルケトン、及びジブチルエーテル等の有機溶媒に溶解させる。得られた溶液に顔料を添加し、次いで中和剤及び水を添加して混練・分散処理を行うことにより水中油滴型の分散体を調整する。そして、得られた分散体から有機溶媒を除去することによって、水分散体としてポリマーに被覆された顔料を得ることができる。混練・分散処理は、例えば、ボールミル、ロールミル、ビーズミル、高圧ホモジナイザー、及び高速攪拌型分散機などを用いることができる。
【0048】
中和剤としては、エチルアミン、トリメチルアミン等の3級アミン、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、及びアンモニア等が好ましく、得られる水分散体のpHが6〜10であることが好ましい。
【0049】
顔料を被覆するポリマーとしては、GPCによる重量平均分子量が10,000〜150,000程度のものが、顔料を安定的に分散させる点で好ましい。
【0050】
ポリマーに被覆された顔料の中でも、ポリマーに被覆されたカラー顔料が好ましい。このカラー顔料を用いることで、印捺物の発色性が一層優れたものとなる。
【0051】
〔ジエン系共重合体〕
上記非白色インクは、ジエン系共重合体、即ちジエン系のゴムラテックスを含有する。非白色インクが当該ジエン系共重合体を含有することにより、下地を構成する白色インクの物性にかかわらず、非白色インク層と白色インク層との間の結着性(密着性)が優れたものとなる。その結果、非白色インクの発色性が優れたものとなる。
【0052】
また、後述するように、本実施形態におけるインクは、界面活性剤やバインダー樹脂(上記ジエン系共重合体を除く。以下同じ。)を含有することが好ましい。だが、非白色インクと白色インクとの間で、含まれる界面活性剤やバインダー樹脂の種類が異なると、白色インクが非白色インクを弾いてしまう場合がある。非白色インクが弾かれると、当該非白色インクに含まれる顔料や樹脂が凝集したり、ひび割れの原因となったりする場合がある。その結果、記録物において下地の白が露出してしまう虞がある。そこで、非白色インクに上記ジエン系共重合体を含有させることにより、非白色インクが弾かれてしまう状況を避けることができる。
【0053】
さらに、後述するように、本実施形態のインクセットを用いて画像を形成する際、非白色インクの画像を加熱処理するのが好ましい。だが、この加熱処理を行うと、上記と同様、非白色インクが弾かれてしまう結果、ピンホール現象が生じて下地の白が露出してしまう。そこで、上記と同様、非白色インクに上記ジエン系共重合体を含有させることにより、非白色インクが弾かれてしまう、いわゆるピンホール現象を避けることができる。
【0054】
上記ジエン系共重合体としては、以下に限定されないが、例えば、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、メチルメタクリレート・ブタジエンゴム(MBR)、及びアクリルニトリル・ブタジエンゴム(NBR)が挙げられる。中でも、非白色インクの発色性が一層優れたものとなるため、MBRが好ましい。
【0055】
ジエン系共重合体は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0056】
ジエン系共重合体の含有量は、非白色インクの総質量(100質量%)に対して、0.5〜3質量%であることが好ましく、0.8〜1.5質量%であることがより好ましい。当該含有量が0.5質量%以上であると、非白色インクの発色性が一層優れたものとなる。また、当該含有量が3質量%以下であると、高温時の保存安定性が優れたものとなる。
【0057】
なお、ジエン系共重合体は、本発明の目的を損なわない範囲で、白色インク中に含まれていてもよい。
【0058】
〔バインダー樹脂〕
本実施形態のインクセットにおいて、白色インク及び非白色インクのうち少なくともいずれかが、バインダー樹脂(上述の通り上記ジエン系共重合体を除く。)として、ウレタン樹脂及びアクリル樹脂のうち少なくともいずれかを含むことが好ましい。白色インクがこれらのバインダー樹脂を含む場合、白色インク(下地)の被記録媒体に対する定着性が優れたものとなり、結果として記録物における耐擦性が優れたものとなる。また、非白色インクがこれらのバインダー樹脂を含む場合、非白色インク層(重ね塗り層)の白色インク層(下地)に対する定着性が優れたものとなり、結果として記録物における耐擦性が優れたものとなる。
【0059】
特に、白色インク(下地)の被記録媒体に対する定着性をより優れたものとすることが、記録物における耐擦性を一層優れたものとする上で最も好ましい。したがって、上記の中でも、白色インクがウレタン樹脂を含むことがより好ましく、白色インクがウレタン樹脂を含み、かつ、非白色インクがウレタン樹脂及びアクリル樹脂のうち少なくともいずれかを含むことがさらに好ましい。
【0060】
上記のように、非白色インクがジエン系共重合体とウレタン樹脂及びアクリル樹脂のうち少なくともいずれかとを共に含む場合、画像のヒビ割れ防止及び吐出安定性に一層優れたものとなる。このとき、ジエン系共重合体はウレタン樹脂(アクリル樹脂)同士を繋ぐバインダーとして作用しているものと推測される。
【0061】
白色インク及び非白色インクのうち少なくともいずれかに含まれ得るバインダー樹脂の物性について説明する。まず、一般的にインクジェット記録が行われる温度範囲(15〜35℃)において、当該バインダー樹脂は造膜性を有することが好ましいため、そのガラス転移温度(Tg)は、−10℃以下であることが好ましく、−15℃以下であることがより好ましい。バインダー樹脂のガラス転移温度が上記範囲内である場合、記録物における顔料の定着性が一層優れたものとなる結果、耐擦性が一層優れたものとなる。なお、Tgの下限については特に限定されないが、−50℃以上であるとよい。
【0062】
また、上記バインダー樹脂の酸価は、10〜100mgKOH/gであることが好ましく、15〜50mgKOH/gであることがより好ましい。酸価が100mgKOH/g以下であると、記録物(特に印捺物)の洗濯堅牢性を良好に維持することができる。また、酸価が10mgKOH/g以上であると、インクの保存安定性を良好に維持することができ、被記録媒体上での発色性及び定着性を優れたものに維持することができる。
なお、本明細書における酸価は、京都電子工業社(Kyoto Electronics Manufacturing Co.,Ltd.)製のAT610を用いて測定を行い、以下の式に数値をあてはめて算出した値を採用するものとする。
酸価(mg/g)=(EP1−BL1)×FA1×C1×K1/SIZE
(上記式中、EP1は滴定量(mL)、BL1はブランク値(0.0mL)、FA1は滴定液のファクター(1.00)、C1は濃度換算値(5.611mg/mL)(0.1mo1/L KOH 1mLの水酸化カリウム相当量)、K1は係数(1)、SIZEは試料採取量(g)をそれぞれ表す。)
【0063】
また、上記バインダー樹脂は、布帛のような伸縮しやすい被記録媒体に対して、インク層の破断やひび割れを防ぎ、優れた洗濯堅牢性及び耐擦性を確保するため、破断点伸度が200〜500%、弾性率が20〜400MPaであることが好ましい。
【0064】
ここで、本明細書における破断点伸度は、約60μmの厚さのフィルムを作成し、引張試験ゲージ長20mm及び引っ張り速度100mm/分の条件下で測定して得られた値を採用するものとする。また、本明細書における弾性率は、約60μmの厚さのフィルムを作成し、平行部幅10mm及び長さ40mmの引張試験ダンベルに成形し、JIS K7161:1994に準拠して引張試験を行って求められる引っ張り弾性率を採用するものとする。
なお、上記JIS K7161:1994について具体的に説明すると、対応国際規格がISO 527−1:1993であり、標題がプラスチック−引張特性の試験方法であり、かつ、規格の概要は、定められた条件下でのプラスチック及びプラスチック複合材の引張特性を測定するための一般原則について規定したものである。
【0065】
バインダー樹脂のD50は、好ましくは30〜300nmであり、より好ましくは80〜300nmである。D50が上記範囲内であると、白色インク中でバインダー樹脂粒子を均一に分散させることができる。また、一層優れた耐擦性を確保するため、D50の下限値は100nmであることがさらに好ましい。
【0066】
上記で説明したバインダー樹脂の物性を満足するウレタン樹脂として、以下に限定されないが、例えば、スーパーフレックス 460,470,610,700(以上、第一工業製薬社(Dai-ichi Kogyo Seiyaku Co., Ltd.)製商品名)、NeoRez R−9660,R−9637,R−940(以上、楠本化成社(Kusumoto Chemicals,Ltd.)製商品名)、アデカボンタイター HUX−380,290K(以上、アデカ(Adeka)社製商品名)、タケラック(登録商標) W−605,W−635,WS−6021(以上、三井化学社(Mitsui Chemicals, Inc.)商品名)、ポリエーテル(大成ファインケミカル社(TAISEI FINECHEMICAL CO,.LTD)商品名、Tg=20℃)が挙げられる。
【0067】
また、上記で説明したバインダー樹脂の物性を満足するアクリル樹脂として、以下に限定されないが、例えば、日本合成化学社(Nippon Synthetic Chemical Industry Co., Ltd.)製のモビニール952Aが挙げられる。
【0068】
〔グリコールエーテル〕
本実施形態におけるインクは、グリコールエーテルを含有することが好ましい。これにより、記録物の滲みを防止することができる。グリコールエーテルとしては、以下に限定されないが、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、及びジプロピレングリコールモノブチルエーテルから選択される一種以上を用いることが好ましい。
【0069】
また、グリコールエーテルの含有量は、インクの総質量(100質量%)に対し、0.1〜20質量%が好ましく、0.5〜10質量%がより好ましい。
【0070】
〔界面活性剤〕
本実施形態におけるインクは、界面活性剤として、アセチレングリコール系界面活性剤、アセチレンアルコール系界面活性剤、及びポリシロキサン系界面活性剤のうち少なくともいずれかを含有することが好ましい。これにより、印字などの画像の乾燥性が一層良好となり、かつ、高速印刷が可能となる。
【0071】
これらの中でも、滲みが一層低減し、かつ、印刷品質がより向上するため、上記インクは、アセチレングリコール系界面活性剤及びアセチレンアルコール系界面活性剤のうち少なくともいずれかを用いることがより好ましい。
【0072】
上記のアセチレングリコール系界面活性剤及びアセチレンアルコール系界面活性剤としては、以下に限定されないが、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール及び2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオールのアルキレンオキシド付加物、並びに2,4−ジメチル−5−デシン−4−オール及び2,4−ジメチル−5−デシン−4−オールのアルキレンオキサイド付加物から選択される一種以上が好ましい。これらは、オルフィン104シリーズやオルフィンE1010等のEシリーズ(エアプロダクツ社(Air Products Japan, Inc.)製商品名)、サーフィノール465やサーフィノール61(日信化学工業社(Nissin Chemical Industry CO.,Ltd.)製商品名)等の市販品として入手可能である。
【0073】
また、ポリシロキサン系界面活性剤としては、BYK−347、BYK−348(ビックケミー・ジャパン社(BYK Japan KK)製商品名)などが挙げられる。
【0074】
上記の界面活性剤は、インクの総質量(100質量%)に対し、0.1〜3質量%であることが好ましい。
【0075】
〔水〕
本実施形態におけるインクに含まれる水は、粘度を好適な範囲に調整するため、インクの総質量(100質量%)に対し、20〜80質量%含まれていることが好ましい。
【0076】
〔その他の成分〕
本実施形態におけるインクは、その保存安定性及びインクジェットヘッドからの吐出安定性を良好に維持するため、目詰まり改善のため、又はインクの劣化を防止するため、保湿剤、溶解助剤、浸透制御剤、粘度調整剤、pH調整剤、溶解助剤、酸化防止剤、防腐剤、防黴剤、腐食防止剤、及び分散に影響を与える金属イオンを捕獲するためのキレート等の、種々の添加剤を適宜添加することもできる。
なお、本実施形態のインクセットは、上記の白色インク及び非白色インクと組成の異なる、従来公知のインクをさらに含んでもよい。
【0077】
このように、本実施形態によれば、発色性に優れたインクセットを提供することができる。具体的には、白色のインクジェット用顔料インクと、ジエン系共重合体を含有する非白色のインクジェット用顔料インクと、を含む、非白色画像の発色性に優れたインクセットを提供することができる。
【0078】
[画像形成方法]
本発明の一実施形態に係る画像形成方法は、上記実施形態のインクセットを用いて、インクジェット記録方式により、被記録媒体に画像を形成することを含むものである。
【0079】
より具体的に言えば、上記の画像形成方法は、被記録媒体に対して白色インクを付着させ、かつ、当該白色インク層に対して非白色インクを付着させる付着工程と、白色インク及び非白色インクが付着した被記録媒体を加熱する加熱工程と、を少なくとも含むことが好ましい。
【0080】
上記画像形成方法に用いられる被記録媒体としては、絹、綿、羊毛、ナイロン、ポリエステル、レーヨン等の天然繊維又は合成繊維などの布帛が挙げられる。これらのうち、高温下での定着に耐えられるため、布帛が好ましく、その中でも綿がより好ましい。
【0081】
上記のインクジェット記録方式では、上記インクセットを構成する各インクを、インクジェット記録装置に装填して使用する。当該インクジェット記録装置としては、特に限定されないが、例えばドロップオンデマンド型のインクジェット記録装置が挙げられる。このドロップオンデマンド型のインクジェット記録装置には、記録ヘッドに配設された圧電素子を用いて記録を行う圧電素子記録方法を採用した装置、及び記録ヘッドに配設された発熱抵抗素子のヒーター等による熱エネルギーを用いて記録を行う熱ジェット記録方法を採用した装置などがあり、いずれの記録方法を採用したものでもよい。
【0082】
〔前処理工程〕
上記インクセットを用いて被記録媒体上に画像を形成する前に、凝集剤を含む前処理剤を塗布することが好ましい。前処理剤に含まれる凝集剤として、有機酸及び多価金属から選択される一種以上が好ましく挙げられる。当該有機酸としては、酢酸、プロピロン酸、及び乳酸などが好ましく挙げられる。上記多価金属塩としては、マグネシウム塩、カルシウム塩、及びアルミニウム塩などが好ましく挙げられる。上記凝集剤はインク中の顔料を凝集させると共に、水分散性樹脂(樹脂エマルジョン)を析出させて、布帛上にインクの膜を形成させることができる。このように、前処理剤を用いて被記録媒体を前処理しておくことが好ましい。この前処理工程は、被記録媒体に前処理剤を付着させた後、被記録媒体を乾燥するというものである。前処理の具体例として、以下に限定されないが、例えば、前処理剤中に被記録媒体を浸積する手段、及び前処理剤を被記録媒体に塗布又は噴霧する手段が挙げられる。
【0083】
上記前処理剤としては、例えば、水溶性高分子などの糊剤を0.01〜20質量%含有させたものを用いることができる。当該糊剤としては、以下に限定されないが、例えば、トウモロコシ及び小麦などのデンプン物質、カルボキシメチルセルロース及びヒドロキシメチルセルロース等のセルロース系物質、アルギン酸ナトリウム、アラビヤゴム、ローカストビーンガム、トラントガム、グアーガム、及びタマリンド種子などの多糖類、ゼラチン及びカゼイン等のタンパク質、タンニン及びリグニン等の天然水溶性高分子、並びにポリビニルアルコール系化合物、ポリエチレンオキサイド系化合物、アクリル酸系化合物、及び無水マレイン酸系化合物などの合成の水溶性高分子が挙げられる。
【0084】
なお、上記前処理剤には、必要に応じて、尿素及びチオ尿素などの保湿剤、pH調整剤、還元防止剤、浸透剤、金属イオン封鎖剤、並びに消泡剤などの各種添加剤を含有させてもよい。
【0085】
被記録媒体に前処理剤を付着させた後の乾燥は、好ましくは110〜200℃、より好ましくは120〜180℃で、2分間以内の加熱処理を行うとよい。加熱温度が110℃以上であると、記録物における良好な定着性を確保できる。また、加熱温度が200℃以下であると、被記録媒体、顔料、及び高分子などの劣化を効果的に防止することができる。
【0086】
〔付着工程〕
上記の付着工程では、まず、被記録媒体(上記前処理がなされたものを含む。)の面に向けて、上記インクセットを構成する上述の白色インクを吐出し、下地の画像を形成する。その後、当該下地の画像に向けて、上記インクセットを構成する上述の非白色インクを吐出し重ね塗りすることにより、非白色の画像を形成する。当該重ね塗りにおいては、白色の露出を防ぐため、非白色の画像が下地の画像面の実質的に全てを被覆するのが好ましい。
なお、白色インク及び非白色インクの吐出条件は、吐出されるインクの物性によって適宜決定すればよい。
【0087】
また、上記の付着工程において、下地の形成後であって重ね塗りを行う前に、下地を乾燥するのが好ましい。この乾燥を行うことにより、下地の白インク層が後に重ね塗りする非白色インク層と混ざり合って白色が露出することを防止できる。乾燥の条件は、白インクが乾燥しさえすればよく、特に限定されない。
【0088】
〔加熱工程〕
上記の加熱工程では、白色インク及び非白色インクが付着した被記録媒体を加熱処理する。当該加熱処理により、非白色インクに含まれ得る樹脂(上記ウレタン樹脂など)を下地に融着し、かつ、水分を蒸発させることができる。その結果、形成された画像の耐擦性を一層優れたものとすることができる。
【0089】
上記加熱処理としては、以下に限定されないが、例えば、ヒートプレス法、常圧スチーム法、高圧スチーム法、及びサーモフィックス法が挙げられる。また、加熱の熱源としては、以下に限定されないが、例えば赤外線(ランプ)が挙げられる。また、加熱処理時の温度は、非白色インクに含まれ得る樹脂を融着し、かつ、水分を蒸発させることができればよく、150〜200℃程度であるとよい。
【0090】
上記加熱工程後は、記録物を水洗し、乾燥してもよい。このとき、必要に応じてソーピング処理、即ち未固着の顔料を熱石鹸液などで洗い落とす処理を行ってもよい。
【0091】
このようにして、布帛などの被記録媒体上に、下地としての白色インク及び重ね塗りした非白色インクの画像が形成された、印捺物などの記録物を得ることができる。当該記録物は、ひび割れ、凹凸、及び汚れ等の発生を防ぐことができるため発色性に優れ、かつ、白色インク層及び非白色インク層の定着性(密着性)が良好なため耐擦性にも優れる。
【実施例】
【0092】
以下、本発明の実施形態を実施例によってさらに具体的に説明するが、本実施形態はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0093】
[前処理剤の調製]
まず、画像形成の前に被記録媒体を前処理するための前処理剤を、以下のようにして調製した。なお、各成分の量は固形分量で表している。
【0094】
15質量%の硝酸カルシウム・四水和物と、0.2質量%のポリアクリルアミド(ダイヤニトリックス社(Dia-Nitrix Co.,Ltd.)製のアクリパーズM−2000A)と、0.1質量%の界面活性剤(BYK社製のBYK−348)と、モビニール966A(日本合成化学社(Nippon Synthetic Chemical Industry Co., Ltd.)製商品名)10質量%と、イオン交換水(残部)とを、総量が100質量%になるよう混合して、前処理剤を調製した。
【0095】
[インクの調製]
〔使用材料〕
下記の実施例及び比較例において使用した主な材料は、以下の通りである。
【0096】
(1.顔料分散液)
白色顔料分散液を以下のようにして調製した。酸化チタン「R62N」(堺化学工業社製)250g、顔料分散剤として「デモールEP」(花王社製)10g(有効成分として2.5g)を用い、これらをイオン交換水740gと混合し、ビーズミル(シンマルエンタープライゼス社製、DYNO−MILL KDL A型)を用いて、0.5mmφのジルコニアビーズを充填率80%、滞留時間2分で分散し、白色顔料分散液(顔料分25%、以下では単に「W」とも言う。)を得た。
【0097】
また、ブラック顔料分散液を以下のようにして調製した。カーボンブラックであるモナーク880(キャボット社製)を用いた。攪拌機、温度計、還流管、及び滴下ロートを備えた反応容器を窒素置換した後、ベンジルアクリレート20質量部、2−エチルヘキシルアクリレート5質量部、ブチルアクリレート15質量部、ラウリルアクリレート10質量部、アクリル酸2質量部、t―ドデシルメルカプタン0.3質量部を混合した。この混合液を70℃で加熱し、別に用意したベンジルアクリレート150質量部、アクリル酸15質量部、ブチルアクリレート50質量部、t−ドデシルメルカプタン1質量部、メチルエチルケトン20質量部、及びアゾビスイソバレロニトリル1質量部を滴下ロートに入れて、4時間かけて反応容器に滴下しながら分散ポリマーを重合反応させた。次に、反応容器にメチルエチルケトンを添加して40質量%濃度の分散ポリマー溶液を作製した。分子量の分散度(Mw/Mn)は3.1であった。
ここで、本明細書における重量平均分子量(Mw)の測定方法は上述のとおりである。また、本明細書における数平均分子量(Mn)は、重量平均分子量(Mw)と同様に、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって、ポリスチレン換算の数平均分子量として測定された値で示される。
上記分散ポリマー溶液40質量部と、カーボンブラックであるモナーク880(キャボット社製)30質量部、0.1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液100質量部、及びメチルエチルケトン30質量部と、を混合し、ホモジナイザーで30分攪拌した。その後、イオン交換水を300質量部添加して、さらに1時間攪拌した。その後、ロータリーエバポレーターを用いてメチルエチルケトンの全量と水の一部とを留去し、0.1mol/Lの水酸化ナトリウムで中和してpH9に調整してから0.3μmのメンブレンフィルターでろ過した。このようにして、固形分(分散ポリマーとカーボンブラック)が20質量%であるブラック顔料分散液(以下、単に「K」とも言う。)を調製した。
【0098】
また、シアン顔料分散液を以下のようにして調製した。ピグメントブルー15:3(銅フタロシアニン顔料、クラリアント社製)を用い、分散ポリマーの合成の際にベンジルアクリレートの代わりにシクロヘキシルアクリレートを用いた点以外は、ブラック顔料分散液と同じ手法で、シアン顔料分散液(以下、単に「C」とも言う。)を調製した。当該Cに含まれる分散ポリマーの分子量の分散度(Mw/Mn)は3.0であった。
【0099】
また、マゼンタ顔料分散液を以下のようにして調製した。ピグメントレッド122(ジメチルキナクリドン顔料:クラリアント製)を用い、分散ポリマーの合成の際にベンジルアクリレートの代わりにシクロヘキシルアクリレートを用いた点以外は、ブラック顔料分散液と同じ手法で、マゼンタ顔料分散液(以下、単に「M」とも言う。)を調製した。当該Mに含まれるポリマーの分子量の分散度(Mw/Mn)は3.0であった。
【0100】
また、イエロー顔料分散液を以下のようにして調製した。ピグメントイエロー180(ジケトピロロピロール:クラリアント製)を用い、分散ポリマーの合成の際にベンジルアクリレートの代わりにシクロヘキシルアクリレートを用いた点以外は、ブラック顔料分散液と同じ手法で、イエロー顔料分散液(以下、単に「Y」とも言う。)を調製した。当該Yに含まれる分散ポリマーの分子量の分散度(Mw/Mn)は3.5であった。
【0101】
(2.ジエン系共重合体)
・スチレン・ブタジエンゴム(日本エイアンドエル社(NIPPON A&L INC.)製のSR−100、以下では「SBR」と略記した。)
・アクリルニトリル・ブタジエンゴム(日本エイアンドエル社製のNA−11、以下では「NBR」と略記した。)
・メチルメタクリレート・ブタジエンゴム(日本エイアンドエル社製のMR−170、以下では「MBR」と略記した。)
(3.バインダー樹脂)
・ウレタン樹脂(三井化学社(Mitsui Chemicals, Inc.)製のタケラックW−605)
・アクリル樹脂(日本合成化学社製のモビニール952A)
(4.界面活性剤)
・BYK−348(BYK社製商品名)
(5.グリコールエーテル)
・ハイソルブDB(東邦化学工業社(TOHO Chemical Industry Co., Ltd.)製商品名)
(6.保湿剤)
・グリセリン(阪本薬品工業社(Sakamoto Yakuhin Kogyo Co., Ltd.)製)
【0102】
〔白色インクの調製〕
表1及び表2に示す含有量(単位は質量%)で、顔料分散液、バインダー樹脂、界面活性剤、グリコールエーテル、保湿剤、及びイオン交換水を混合攪拌した。この攪拌液を、孔径5μmのフィルターでろ過し、真空ポンプを用いて脱気処理して、実施例及び比較例で用いる各白色インクを得た。
【0103】
〔非白色インクの調製〕
表3及び表4に示す含有量(単位は質量%)で、顔料、バインダー樹脂、ジエン系共重合体、界面活性剤、グリコールエーテル、保湿剤、及びイオン交換水を混合攪拌した。この攪拌液を、孔径5μmのフィルターでろ過し、真空ポンプを用いて脱気処理して、実施例及び比較例で用いる各非白色インクを得た。
【0104】
【表1】

【0105】
【表2】

【0106】
【表3】

【0107】
【表4】

【0108】
[印捺物の製造]
〔前処理工程〕
布帛として綿100%のTシャツを用い、これに上記で調製した前処理剤を塗布した。塗布後、160℃で1分間の加熱処理(乾燥)を行った。
【0109】
〔付着工程〕
次に、インクジェット記録装置(セイコーエプソン社(Seiko Epson Corporation)製のEPSON MJ−3000C)を用いてインクを布帛に付着させた。具体的には、上記で調製した各白色インクを布帛上に印刷し、白色インクの下地を形成した。引き続き、上記で調製した各非白色インクを当該下地上に重ね塗り印刷して、上塗り層を形成した。
【0110】
〔熱処理工程〕
上塗り層形成後の布帛に対し、160℃で1分間の加熱処理を行い、布帛上に画像が形成された印捺物を得た。
【0111】
[印捺物の評価]
上記で得られた各捺染物の評価を、次のように行った。
【0112】
〔発色性〕
印捺物の表面状態を目視で調べることにより、発色性を評価した。評価基準は以下のとおりである。評価結果を表5及び表6に示す。
AA:印捺物表面を見ると、下地の白インクが見えず、さらに印捺物に光沢が見られた。
A:印捺物表面を見ると、下地の白インクが見えなかったが、印捺物に光沢は見られなかった。
B:印捺物表面を見ると、下地の白インクが当該表面の面積の30%以下の範囲で見られた。
C:印捺物表面を見ると、下地の白インクが見える箇所が当該表面の面積の30%を超える範囲で見られた。
【0113】
〔耐擦性〕
印捺物を、JIS L0849II型に従い、学振式摩擦試験機AB−301(テスター産業社製商品名)を使用し、対向白布として綿添付白布(JIS染色堅牢度試験用、JIS L0803準拠コードNo.670101、財団法人日本規格協会)を用い、対向白布のdryモード及びwetモードの両条件を評価した。その結果より定着率(対向布のOD値/初期印捺物のOD値)を算出した。評価基準は以下のとおりである。評価結果を表5及び表6に示す。
A:定着率が98%以上であった。
B:定着率が90%以上98%未満であった。
C:定着率が85%以上90%未満であった。
D:定着率が85%未満であった。
【0114】
【表5】

【0115】
【表6】

【0116】
以上より、白色インクと、ジエン系共重合体を含有する非白色インクと、を含むインクセット(各実施例)は、そうでないインクセット(各比較例)に比べて、発色性に優れ、さらには耐擦性にも優れることが分かった。さらに、実施例の中でも白色インク及び非白色インクがバインダー樹脂を含有するインクセットは、発色性及び耐擦性に極めて優れることも分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
白色のインクジェット用顔料インクと、ジエン系共重合体を含有する非白色のインクジェット用顔料インクと、を含む、インクセット。
【請求項2】
前記白色のインクジェット用顔料インク及び前記非白色のインクジェット用顔料インクのうち少なくともいずれかが、ウレタン樹脂及びアクリル樹脂のうち少なくともいずれかを含む、請求項1に記載のインクセット。
【請求項3】
前記ウレタン樹脂及び前記アクリル樹脂についての、破断点伸度が200%〜500%であり、弾性率が20MPa〜400MPaであり、かつ、ガラス転移温度が−10℃以下である、請求項2に記載のインクセット。
【請求項4】
前記ジエン系共重合体の含有量が、前記非白色のインクジェット用顔料インクの総質量に対して、0.5質量%〜3質量%である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のインクセット。
【請求項5】
前記ジエン系共重合体が、メチルメタクリレート・ブタジエンゴムである、請求項1〜4のいずれか1項に記載のインクセット。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のインクセットを用いて、インクジェット記録方式により被記録媒体に画像を形成することを含む、画像形成方法。
【請求項7】
前記被記録媒体に対して前記白色のインクジェット用顔料インクを付着させ、かつ、該白色のインク層に対して前記非白色のインクジェット用顔料インクを付着させる付着工程と、
前記白色のインクジェット用顔料インク及び前記非白色のインクジェット用顔料インクが付着した被記録媒体を加熱する加熱工程と、
を含む、請求項6に記載の画像形成方法。

【公開番号】特開2013−112701(P2013−112701A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−257813(P2011−257813)
【出願日】平成23年11月25日(2011.11.25)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】