説明

インクセット及び画像形成方法

【課題】毒性があり環境に対し有害な銅を含む着色剤を含有しない第一のインクと、再生紙を作る場合に生分解性を低下させない樹脂を含む第二のインクからなる環境負荷の低いインクセット及び該インクセットを用いた画像形成方法の提供。
【解決手段】フェロシアン化第二鉄と、HLBが15以上のアルキレンオキサイド付加物型非イオン性界面活性剤又はアルキレンオキサイド付加物リン酸エステル型アニオン性界面活性剤を含む第一のインクを、インクジェット方式で被記録媒体に付着させ、次いで、ポリ乳酸系樹脂水性分散体を含む第二のインクを被記録媒体に付着させる画像形成方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクセット、該インクセットを用いた画像形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録に使用されるインクは、水を主成分とし、これに着色剤や湿潤剤を含有したものが一般的である。着色剤には主に染料が用いられているが、該染料系インクの場合、画像の耐光性が劣り、紫外線吸収剤などを含む保護層を設けない普通紙については問題がある。そこで耐候性改善のため耐光性のよいフタロシアニン銅誘導体を染料として用い、耐光性の改善を行ってきている。
また近年、顔料を着色剤に用いたインクが使用され始め、耐光性等の欠点は大きく改善されてきている。シアン顔料としては、フタロシアニン銅顔料が、従来のものよりも発色が良く色相が適しているため、インクジェット方式では、シアン色はフタロシアニン銅顔料を用いて印字することが一般的に行われている。
しかし、フタロシアニン銅誘導体やフタロシアニン銅顔料を用いることにより発色性と耐光性は改善されるが、印字物を廃棄する度に着色剤中の銅が環境中に排出されることになる。銅イオンは生体内に蓄積される懸念は少ないが、水質汚濁防止法では3mg/L以下に抑えることになっており、水道水質基準としては1.0mg/L以下に抑えることが義務づけられている。
【0003】
一方、再生紙を作る場合、インクジェット印字では、従来の印字方法のように印字部位を紙から剥離してフローテーションによりインクを回収することができず、主に洗浄脱色を行う方法しか再生紙の白色度を向上させる方法がない。そのため再生紙を作成するにはインクジェットインクにより汚染された洗浄排水が多量に発生してしまう。
また排水を浄化するために微生物処理を行う場合、着色剤に含まれる銅が微生物に対して毒として働き、微生物の活性を低下させて浄化工程の妨げとなる可能性がある。更に、今後、インクジェット印字物の古紙リサイクルが行われるようになると、銅の毒性が問題になる可能性がある。現在、日本バイオプラスチック協会の生分解性プラスチックの基準(クリーンプラ基準)として、毒性の金属に準じて、Cd:0.5mg/kg、As:3.5mg/kg、Hg:0.5mg/kg、Cu:37.5mg/kg、Se:0.75mg/kg、Ni:25mg/kg、Zn:150mg/kg、Mo:100mg/kgの含有上限が定められており、生分解性の製品には毒性金属の管理が求められつつある。
【0004】
またインクジェット印字物の耐候性や定着性向上、風合いや光沢付与のため、印字前後に樹脂を含む処理液を塗布することが行われている。トナーや印刷インキなどの樹脂成分は古紙再生過程において紙から剥離し分離回収されるが、溶剤と共に処理された樹脂は繊維に含浸するため、紙から剥離することが出来ず、紙として再生することを困難にする。そのため再生されずに廃棄されることになるが、紙が本来持ち合わせていた生分解性を、含浸している樹脂が低下させるため、土中での分解が進みにくく燃焼処理しかできないのが実情である。
なお、紺青を用いたインクやポリ乳酸系樹脂を用いたコーティング剤は公知であるが(特許文献1〜3参照)、本発明のような目的でこれらを組み合わせて用いた例はない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、毒性があり環境に対し有害な銅を含む着色剤を含有しない第一のインクと、再生紙を作る場合に生分解性を低下させない樹脂を含む第二のインクからなる環境負荷の低いインクセット及び該インクセットを用いた画像形成方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題は、次の1)〜4)の発明によって解決される。
1) フェロシアン化第二鉄と、HLBが15以上のアルキレンオキサイド付加物型非イオン性界面活性剤又はアルキレンオキサイド付加物リン酸エステル型アニオン性界面活性剤を含む第一のインクと、ポリ乳酸系樹脂水性分散体を含む第二のインクからなることを特徴とするインクセット。
2) 前記アルキレンオキサイド付加物型非イオン性界面活性剤がβ−ナフタレンアルキレンオキサイド付加物であることを特徴とする1)記載のインクセット。
3) フェロシアン化第二鉄と、HLBが15以上のアルキレンオキサイド付加物又はアルキレンオキサイド付加物リン酸エステル型アニオン性界面活性剤を含む第一のインクを、インクジェット方式で被記録媒体に付着させ、次いで、ポリ乳酸系樹脂水性分散体を含む第二のインクを被記録媒体に付着させることを特徴とする画像形成方法。
4) 前記アルキレンオキサイド付加物型非イオン性界面活性剤がβ−ナフタレンアルキレンオキサイド付加物であることを特徴とする3)記載の画像形成方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、毒性があり環境に対し有害な銅を含む着色剤を含有しない第一のインクと、再生紙を作る場合に生分解性の高い樹脂を含む第二のインクからなる環境負荷の小さいインクセット及び該インクセットを用いた画像形成方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、上記本発明について詳しく説明する。
本発明のインクセットは、第一のインクと第二のインクからなる。
<第一のインク>
本発明に係る第一のインクとしては、通常の記録用インクに留まらず、使用用途に応じてレジスト、医療分野におけるDNA試料、光学分野における樹脂レンズ材料など、ヘッド部材の耐久温度範囲で液化するものであれば、いずれも使用可能である。
第一のインクの着色剤としては、自然界へ放出後の安全性や耐水性の面から顔料のフェロシアン化第二鉄を用いるが、その他の有害な金属を含まない顔料を併用してもよい。
通常の場合、顔料は分散体として添加する。顔料分散体は、顔料粒子を水や溶剤などの溶媒に分散させたものであり、疎水性の高い顔料粒子を親水性の高い溶媒に対して濡れさせ、顔料粒子が安定に溶媒に分散している状態に加工したものである。
併用する顔料の例としては、シアンの色調補正のために加える水分散性顔料が挙げられ、顔料表面に少なくとも1種の親水基を直接もしくは他の原子団を介して結合させた自己分散型顔料、樹脂微粒子に水不溶性もしくは難溶性の顔料を含有させたポリマーエマルジョン、界面活性剤もしくは平均分子量50000以下の水溶性高分子化合物によって分散安定化された水分散性顔料などがある。
このような水分散性顔料は、顔料粒子が集合状態(結晶状態を含む)であるか樹脂分子と共存しており単分子で存在していないため、耐水性、耐光性、耐ガス性に優れ、画像保存性の向上に寄与する。特に前記自己分散型顔料又はポリマーエマルジョンを用いた場合、着色剤固形分に対するインク粘度が低く抑えられるため、水分散性樹脂や湿潤剤を多く入れることが可能となる。
【0009】
フェロシアン化第二鉄以外の顔料としては、有機顔料や無機顔料を用いることができ、特に比重の面で有機顔料が好適である。これらの顔料は複数混合して用いても良い。顔料の体積平均粒子径は0.01〜0.30μmが好ましい。0.01μm未満では粒子径が染料に近づくため耐光性やフェザリングが悪化してしまうし、0.30μmを超えると、吐出口の目詰まりやプリンター内のフィルターでの目詰まりが発生し、吐出安定性を得ることができない。
【0010】
第一のインクには、HLBが15以上のアルキレンオキサイド付加物型非イオン性界面活性剤又はアルキレンオキサイド付加物リン酸エステル型アニオン性界面活性剤を顔料の分散剤として含有させる。
顔料を溶媒中に分散するためには、HLBが15〜19.5の界面活性剤が好ましい。HLBが15未満では界面活性剤の分散媒へのなじみが悪いため分散安定性が悪化する傾向があり、HLBが19.5を超えると界面活性剤が顔料に吸着しにくくなるため、やはり分散安定性が悪化する傾向がある。
界面活性剤のHLB(Hydrophile−Lipophile Balance)の計算は、一般にグリフィン(Griffin)法で行う。計算式は、HLB値=20×(親水基の重量%)である。アニオン基が含まれる場合はグリフィン法によって直接算出できないため、Devies法、有機概念図を応用した小田式の方法等(浸界面活性剤入門)により算出される値を、適宜グリフィン法による値に換算して得られる値を用いる。
【0011】
アルキレンオキサイド付加物型非イオン性界面活性剤としては、アルキレンオキサイド付加物エーテル型非イオン性界面活性剤、アルキレンオキサイド付加物エステル型非イオン性界面活性剤などが挙げられる。
アルキレンオキサイド付加物エーテル型非イオン性界面活性剤の例としては、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンミリスチルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン−α−ナフチルエーテル、ポリオキシエチレン−β−ナフチルエーテル、ポリオキシエチレンモノスチリルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンジスチリルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルナフチルエーテル、ポリオキシエチレンモノスチリルナフチルエーテル、ポリオキシエチレンジスチリルナフチルエーテル等のポリオキシエチレン芳香族エーテルが挙げられる。
【0012】
アルキレンオキサイド付加物エステル型非イオン性界面活性剤の例としては、ポリオキシエチレンモノラウレート、ポリオキシエチレンモノステアレート、ポリオキシエチレンモノオレート、ポリエチレングリコールジステアレート等のポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレート等のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンヤシ脂肪酸グリセリル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレントリイソステアリン酸等のグリセライドエチレンオキシド付加物、ポリオキシエチレンテトラオレイン酸等のソルビットエステルエチレンオキシド付加物等が挙げられる。
また、アルキレンオキサイド付加物リン酸エステル型アニオン性界面活性剤の例としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルリン酸塩、ポリオキシエチレンモノスチリルフェニルエーテルリン酸塩、ポリオキシエチレンジスチリルフェニルエーテルリン酸塩が挙げられる。
【0013】
これらの他に、補助的に上記以外のノニオン系又はアニオン系の界面活性剤系分散剤、高分子分散剤等を適宜使用可能である。また、上記の界面活性剤のポリオキシエチレンの一部をポリオキシプロピレンに置き換えた界面活性剤やポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル等の芳香環を有する化合物をホルマリン等で縮合させた界面活性剤も使用できる。
このようなアニオン系界面活性剤の例としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンモノスチリルフェニルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンジスチリルフェニルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルカルボン酸塩、ポリオキシエチレンモノスチリルフェニルエーテルカルボン酸塩、ポリオキシエチレンジスチリルフェニルエーテルカルボン酸塩、ナフタレンスルホン酸塩ホルマリン縮合物、メラニンスルホン酸塩ホルマリン縮合物、ジアルキルスルホコハク酸エステル塩、スルホコハク酸アルキル二塩、ポリオキシエチレンアルキルスルホコハク酸二塩、アルキルスルホ酢酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、アルキルスルホン酸塩、N−アシルアミノ酸塩、アシル化ペプチド、石鹸等が挙げられるが、これらのうち、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンジスチリルフェニルエーテルの硫酸塩は分散安定化能力が高く、分散への影響のない範囲で添加可能である。
【0014】
また高分子分散剤の例としては、水性高分子として、天然系ではアラビアガム、トラガンガム、グーアガム、カラヤガム、ローカストビーンガム、アラビノガラクトン、ペクチン、クインスシードデンプン等の植物性高分子、アルギン酸、カラギーナン、寒天等の海藻系高分子、ゼラチン、カゼイン、アルブミン、コラーゲン等の動物系高分子、キサンテンガム、デキストラン等の微生物系高分子、半合成系ではメチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース等の繊維素系高分子、デンプングリコール酸ナトリウム、デンプンリン酸エステルナトリウム等のデンプン系高分子、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸ブロピレングリコールエステル等の海藻系高分子、純合成系ではポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、アクリル酸−アクリロニトリル共重合体、酢酸ビニル−アクリル酸エステル共重合体、アクリル酸−アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−アクリル酸−アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン−メタクリル酸−アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン−α−メチルスチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−α−メチルスチレン−アクリル酸共重合体−アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、ビニルナフタレン−マレイン酸共重合体、酢酸ビニル−エチレン共重合体、酢酸ビニル−脂肪酸ビニルエチレン共重合体、酢酸ビニル−マレイン酸エステル共重合体、酢酸ビニル−クロトン酸共重合体、酢酸ビニル−アクリル酸共重合体等が挙げられる。
【0015】
上記界面活性剤の添加量は顔料の10〜50重量%程度が好ましい。添加量が10重量%未満では顔料分散体及びインクの保存安定性が低下したり、分散に極端に時間がかかることがあるし、50重量%を超えるとインクの粘度が高くなりすぎてインクジェットインクとしての吐出安定性が低下する傾向がある。
またインクとしての物性を調整するために界面活性剤を添加することも出来る。このような界面活性剤としてはHLBが15未満のアニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、両性界面活性剤が用いられる。着色剤の種類や湿潤剤、水溶性有機溶剤の組合せによって、顔料の分散安定性を損なわない界面活性剤を選択する。
アニオン系界面活性剤としては、例えばポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸塩、ドデシルベンゼンスルホン酸塩、琥珀酸エステルスルホン酸塩、ラウリル酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルサルフェートの塩などが挙げられる。
【0016】
ノニオン系界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンアルキルアミドなどが挙げられる。
両性界面活性剤としては、例えばラウリルアミノプロピオン酸塩、ラウリルジメチルベタイン、ステアリルジメチルベタイン、ラウリルジヒドロキシエチルベタインなどが挙げられる。具体例としては、ラウリルジメチルアミンオキシド、ミリスチルジメチルアミンオキシド、ステアリルジメチルアミンオキシド、ジヒドロキシエチルラウリルアミンオキシド、ポリオキシエチレンヤシ油アルキルジメチルアミンオキシド、ジメチルアルキル(ヤシ)ベタイン、ジメチルラウリルベタイン等が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。
これらの界面活性剤は、日光ケミカルズ(株)、日本エマルジョン(株)、日本触媒(株)、東邦化学(株)、花王(株)、アデカ(株)、ライオン(株)、青木油脂(株)、三洋化成(株)、日油(株)などの会社から容易に入手できる。
【0017】
上記の他にアセチレングリコール系界面活性剤を用いてもよく、例えば2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、3,6−ジメチル−4−オクチン−3,6−ジオール、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3−オールなどのアセチレングリコール系〔例えばエアープロダクツ社(米国)のサーフィノール104、82、465、485あるいはTGなど〕が挙げられるが、特にサーフィノール104、465やTGが良好な印字品質を示す。
更にフッ素系界面活性剤を用いてもよく、例えばパーフルオロアルキルスルホン酸塩、パーフルオロアルキルカルボン酸塩、パーフルオロアルキルリン酸エステル、パーフルオロアルキルエチレンオキサイド付加物、パーフルオロアルキルベタイン、パーフルオロアルキルアミンオキサイド化合物、パーフルオロアルキルエーテル基を側鎖に有するポリオキシアルキレンエーテルポリマー及びこの硫酸エステル塩、フッ素系脂肪族系ポリマーエステルが挙げられる。
このようなフッ素系界面活性剤の市販品としては、サーフロンS−111、S−112、S−113、S121、S131、S132、S−141、S−145(旭硝子社製)、フルラードFC−93、FC−95、FC−98、FC−129、FC−135、FC−170C、FC−430、FC−431、FC−4430(住友スリーエム社製)、FT−110、250、251、400S(ネオス社製)、ゾニールFS−62、FSA、FSE、FSJ、FSP、TBS、UR、FSO、FSO−100、FSN N、FSN−100、FS−300、FSK(Dupont社製)、ポリフォックスPF−136A、PF−156A、PF−151N(OMNOVA社製)などが挙げられ、各社から容易に入手できる。
【0018】
前記界面活性剤は、これらに限定されるものではなく、単独で用いても、複数のものを混合して用いてもよい。単独では記録液中で容易に溶解しない場合も、混合することで可溶化され、安定に存在することができる。
インク物性を調整するための界面活性剤として浸透性の効果を発揮するためには、添加量を0.01〜5重量%とすることが望ましい。0.01重量%未満では添加した効果が無く、5.0重量%より多いと記録媒体への浸透性が必要以上に高くなり、画像濃度の低下や裏抜けの発生といった問題が発生する。更に種々の物性の普通紙に対応するためには0.5〜2重量%がより好ましい
【0019】
第一のインクには樹脂を添加してもよいが、樹脂の種類によっては多量に添加すると生分解性を低下させてしまうため、添加量は少ない方が望ましい。用いる樹脂には特に限定はないが、分散性樹脂は体積平均粒子径が小さいものほど粘度が上昇する傾向があるため、過剰な高粘度にならないように体積平均粒子径は50nm以上が好ましい。
更にインクジェットヘッドのインク流路やノズル口は小さいため、インク中に大きな粒子が存在すると吐出性を悪化させてしまうので、吐出性を悪化させないように体積平均粒子径を500nm以下とすることが好ましく、150nm以下がより好ましい。
水分散性樹脂は水分散性着色剤を紙面に定着させる働きを持つことが望ましく、定着性を向上させるためには最低造膜温度(MFT)が20℃以下であることが好ましい。しかしガラス転移点(Tg)が−40℃未満になると樹脂皮膜の粘稠性が強くなり印字物にタックが生じるため、ガラス転移点が−40℃以上の水分散性樹脂であることが望ましい。
【0020】
第一のインクを所望の物性にするため、あるいは乾燥による記録ヘッドのノズルの詰まりを防止するためなどの目的で、着色剤の他に水溶性有機溶媒を加えることが好ましい。水溶性有機溶媒には湿潤剤、浸透剤が含まれる。これらの溶媒は、水とともに単独で又は複数混合して用いられる。
湿潤剤は乾燥による記録ヘッドのノズルの詰まりを防止することを目的に添加される。
また、浸透剤は記録用インクと被記録媒体の濡れ性を向上させ、浸透速度を調整する目的で添加される。浸透剤としては、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル系界面活性剤、アセチレングリコール系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、シリコン系界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル系界面活性剤、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル系界面活性剤が挙げられる。これらの化合物は液の表面張力を低下させることができるので、濡れ性を向上させ浸透速度を高めることができる。
【0021】
第一のインクには防腐防黴剤を加えてもよい。防腐防黴剤を加えることによって、菌の繁殖を抑えることができ、保存安定性、画質安定性を高めることができる。
第一のインクには防錆剤を加えてもよい。防錆剤を加えることによって、ヘッド等の接液する金属面に被膜を形成し、腐食を防ぐことができる。
第一のインクには酸化防止剤を加えてもよい。酸化防止剤を加えることによって、腐食の原因となるラジカル種が生じた場合にも酸化防止剤がラジカル種を消滅させるので腐食を防止することができる。
第一のインクにはpH調整剤を加えてもよい。第一のインクのpHは3〜11が好ましく、フェロシアン化第二鉄の観点からは4〜7が更に好ましい。pH調整剤により第一のインクのpHを好ましい範囲に調整することが出来る。
第一のインクの表面張力は、20〜60mN/mが好ましく、被記録媒体との濡れ性と液滴の粒子化の両立の観点からは30〜50mN/mが更に好ましい。
第一のインクの粘度は、1.0〜20.0mPa・sが好ましく、吐出安定性の観点からは2.0〜10.0mPa・sが更に好ましい。
【0022】
第一のインクは、インクジェットヘッドとして、インク流路内のインクを加圧する圧力発生手段として圧電素子を用いてインク流路の壁面を形成する振動板を変形させてインク流路内容積を変化させてインク滴を吐出させるいわゆるピエゾ型のもの(特開平2−51734号公報参照)、あるいは、発熱抵抗体を用いてインク流路内でインクを加熱して気泡を発生させるいわゆるサーマル型のもの(特開昭61−59911号公報参照)、インク流路の壁面を形成する振動板と電極とを対向配置し、振動板と電極との間に発生させる静電力によって振動板を変形させることで、インク流路内容積を変化させてインク滴を吐出させる静電型のもの(特開平6−71882号公報参照)などの何れのインクジェットヘッドを搭載するプリンタにも良好に使用できる。
第一のインクは、各種分野に適用可能であるが、インクジェット記録方式による画像形成装置(プリンタ等)に特に好適に使用することができる。例えば、印字又は印字前後に被記録用紙及び第一のインクを50〜200℃で加熱し、印字定着を促進する機能を有するプリンタ等に使用することもできる。
【0023】
<第二のインク>
第二のインクは第一のインクによって形成された画像を保護するための樹脂被膜を形成するために付着させる。樹脂の種類によっては添加することにより生分解性を低下させてしまうため、生分解性樹脂を50wt%以上添加することが望ましく、70wt%以上添加することが更に望ましい。
用いる樹脂としては特に限定されないが、生分解性樹脂としてポリ乳酸及びその変性物が好ましい。ポリ乳酸はポリエステル骨格を持ち、他のポリエステルモノマーとの共重合により変性し易く、光学異性体の比率をコントロールすることにより結晶性を制御でき、樹脂の特性を制御し易い。また非水溶性の樹脂であるから、皮膜を形成すると水に触れても容易に膨潤することはなく、本発明の様に印刷画像の表面処理用途などの耐水性を求める用途には最適である。
ポリ乳酸以外の生分解性樹脂を混合添加することも可能であり、このような生分解性樹脂としてはポリカプロラクトン、ポリグリコール酸、変性ポリビニルアルコール、カゼイン、変性澱粉、セルロース、変性セルロースなどが挙げられる。また、これらは耐久性や物性面で難分解性樹脂よりも劣っている場合があり、その特性を改善するために、一般的な樹脂を添加したり、上記生分解性樹脂と共重合することで改質したりすることが可能である。
【0024】
生分解性樹脂に含まれるポリ乳酸の割合は生分解性樹脂の50重量%以上とすることが望ましく、80重量%以上とすることが更に望ましい。添加量が50重量%未満では成膜した樹脂層の耐水性が低くなりやすく、画像の耐久性が低くなってしまう。またポリ乳酸以外の生分解性樹脂は水溶液になるものが多く、これらの添加比率が上がると第二のインクの粘度が高くなりすぎてしまうため、インク中の樹脂比率を上げにくくなってしまう。また粘度が高いとインクの塗工方法が限定されてしまう欠点がある。そのためポリ乳酸の添加量を80重量%以上とすることによりインク粘度を低く抑え、インク中の樹脂比率を上げることが好ましい。
【0025】
第二のインクに用いる樹脂の特性としては、画像の保護層を形成するための被膜形成が
行われる必要があり、常温から低加温状態で乾燥皮膜化することが望ましい。樹脂インクを塗布後に加熱乾燥させる場合、水系インクなので、乾燥温度を100℃以上としても、液状の水が存在する間は温度が100℃以上に上がりにくい状態にある。樹脂の造膜温度を100℃以下とすれば、液状の水を無くす過程で造膜することができ、短時間かつ省エネルギーで被膜を形成できる効果がある。そのため最低造膜温度は100℃以下が望ましいが、更に好ましくは20℃以下である。ここで最低造膜温度とは、ポリ乳酸系樹脂水性分散体をアルミニウム等の金属板の上に薄く流延し温度を上げていった時に、透明な連続フィルムが形成される最低の温度をいう。測定装置としては島川製作所社製最低成膜温度測定装置を用いることができる。
最低造膜温度は樹脂によって異なるが、乾燥過程の樹脂エマルジョン界面に作用する造膜温度調整剤や、樹脂を軟化させる可塑剤の添加により最低造膜温度を調節することが可能であり、本発明の樹脂に対して用いることが出来る。
【0026】
このような生分解性樹脂の中でも乳酸を骨格に持つ水分散ポリエステル樹脂が、他の成分との共重合が容易で水分散に有為なイオン性骨格を導入しやすいので好ましい。また、エマルジョンにすれば、第二のインクに添加したときのインク粘度を下げることができ、高樹脂濃度で塗工することができる。
エマルジョン中の樹脂粒径は数μm〜数十nmとするが、インクジェット塗布の場合、ノズル口やリストリクターに影響を与えないように体積平均粒子径が500nm以下のものが望ましく、150nm以下のものが更に好ましい。
第二のインクの塗工方法は特に限定されず、ローラ塗布、スプレー塗布、昇華塗布など何れの方式でもよく、インクジェット方式でのスプレー塗布も可能である。インクジェット塗布ならば塗布量や塗布位置の制御を高精度かつ容易に行うことが出来る。
【実施例】
【0027】
以下、実施例及び比較例を示して本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0028】
<顔料分散体の調製>
調製例1〜6
顔料分散体の調製は以下の手順で行った。
下記表1の調製例1〜6の各欄に示す所定量の界面活性剤を水と混合し、スターラーで攪拌して溶解させた。次いで顔料を添加して10分間攪拌した後、混合液を超音波洗浄機に設置して、1時間毎に顔料粒子径を計測しつつ3時間まで分散を行った。
【表1】

なお、上記表1中の「C.I.Pigment Blue 27」はフェロシアン化第二鉄・水和物であり、「C.I.Pigment Blue 15:3」はフタロシアニン銅である。
また、界面活性剤は下記表2に示すとおりであり、「D、E」はアルキレンオキサイド付加物型非イオン性界面活性剤、「C」はアルキレンオキサイド付加物リン酸エステル型アニオン性界面活性剤であり、「A、B」は何れにも該当しない界面活性剤である。
【表2】

【0029】
分散経過の計測結果を下記表3に記す。
調製例1〜3、6は、分散時間にかかわらず粒子径の増加が起こらず、安定的に顔料の分散が出来た。調製例4、5は全く分散できず、超音波照射を停止し1分間静置しただけで顔料が沈降した状態となった。
【表3】

上記表中の「US」は超音波照射時間の略である。
【0030】
<第一のインクの調製>
調製例7〜14
第一のインクの調製は以下の手順で行った。
下記表4の調製例7〜14の欄に示された所定量の溶剤、界面活性剤、水をスターラーで攪拌して均一に混合した。次いで、着色剤を添加し1時間攪拌した後、混合液を5μmフィルター(日本ポール社製MILLEX SV)により加圧濾過して第一のインクを得た。
【表4】

なお、上記表4中のC.I.Acid Blue 9は、下記〔化1〕に示す化合物である。
【化1】

また、溶剤の「1,3−BD」は1,3−ブタンジオール、「Gly」はグリセリンであり、界面活性剤の「エマルゲンLS−106」は花王社製のポリオキシアルキレンアルキルアルコールエーテル、「Zonyl FSO−100」はDupont社製のポリオキシアルキレンパーフロロアルキルアルキルアルコールエーテルである。
【0031】
<第二のインクの調製>
調製例15〜19
第二のインクの調製は以下の手順で行った。
下記表5の調製例15〜19の欄に示された所定量の界面活性剤と水をスターラーで攪拌して均一に混合した。次いで樹脂エマルジョンを添加して1時間攪拌した後、混合液を5μmフィルター(日本ポール社製MILLEX SV)で加圧濾過して第二のインクを得た。
【表5】

なお、上記表5中の樹脂は下記表6、表7に示すとおりである。表中の「プラセマL110」「ランディPL3000」「テラマックLAE−013N」が本願発明におけるポリ乳酸系樹脂水性分散体に該当する。また、「プラセマL110」のMFT(最低造膜温度)は110℃と高いため、サプセラマPCZを可塑剤として混合し、40℃に下げて用いた。また、「ニッポールLX407BP」は、0℃と100℃の2つのTgを有するため「0/100」と記載した。この樹脂はコアシェル型の構造を有し、主構成モノマーからなる単一ポリマーのTgのうち、ポリスチレンのTgが約100℃、ポリブタジエンのTgが−55℃であり、ポリスチレンとスチレン・ブタジエン共重合体がコアシェルのエマルジョンを形成した結果、0℃と100℃のTgを示す。
【表6】

【表7】

【0032】
実施例1〜7、比較例1〜8
<印字方法>
インクジェットプリンター(IPSIO GX3000、リコー社製)のインクの吐出力を自在に変えられるようにファーム変更し、評価用プリンタに用いた。
このプリンタのインク供給経路やヘッド内のインクを純水で置換し、元々のインクの代わりに調製例の7〜10の第一のインクを充填したカートリッジを、KCMYのカートリッジの代わりに取り付け、充填動作後にヘッドリフレッシング動作を10回繰り返し、インク供給経路やヘッド内のインクを第一のインクに置き換えた。その後、ノズルチェックパターンを印字し、ノズル抜けが無くなるまでヘッドリフレッシング動作を行った。
評価用紙としてマイペーパー(リコー社製)を用い、印字モードとしてプリンタ添付のドライバで「普通紙標準はやいモードの色補正なし」を選択した。
また100cmの単色ベタチャートをEPSON社製ファイン用紙上に上記印字モードで印字し、0.09gの付着量となるようにプリンタの吐出力を調整した。
上記条件によりMicrosoft Word2000で作成した20cm×20cmの単色ベタチャートと12ポイントの単色文字を打ち出した。
上記印字を行った後、同様にインク供給経路を純水で置換し、再び調製例11〜14の第一のインクを充填し、同じ方法で付着量が一定になるように調整して画像を印字した。
【0033】
<第二のインクの塗布>
上記第一のインクで印字したマイペーパー(リコー社製)上に、ワイヤーバーを用いて第二のインクを、塗布量が5g/mとなるように手早く塗布した後、25℃×12時間乾燥させた。その後、印字面を鏡面のSUS板に接した状態で、紙面裏側より10cm/secの速度でドライアイロンを掛け、印字面を平滑にした評価サンプルを作成した。
第一のインクと第二のインクの組み合わせは下記表8の実施例1〜7、比較例1〜8の欄に示すとおりである。
【表8】

【0034】
実施例及び比較例の評価サンプルについて、下記のようにして評価を行った。
〔評価方法〕
<耐水性試験>
評価サンプルの文字列を30℃×30分間、水に浸積させ、浸積後の水分を5Aの濾紙で吸水し、評価サンプルの文字列の滲みと濾紙に転写したインクから、以下の基準で評価した。比較例7については画像がないため評価しなかった。

◎:滲みがない。
○:目視では滲みはないが文字の周囲0.05mm程度までインクの染み出しがある。
△:目視で判る程度の滲みがある。
×:濾紙に転写するほどインクの染み出しが多く、文字濃度も低下する。

【0035】
<定着性試験>
評価サンプルをクロックメータCM−1型によりJISL 0803 綿3号と接触させ、10回摺り合わせた後、綿布に付着したインクを分光測色濃度計(エックスライト社製Model−938)で測色し、初期の綿布の色に対する色濃度により、下記の基準で評価した。比較例7については画像がないため評価しなかった。

○:綿布の濃度増加が0.1未満
×:綿布の濃度増加が0.1以上

【0036】
<生分解性試験>
評価サンプルを疑似コンポストに埋め、30℃×1ヶ月間静置した後、評価サンプルの状態を下記の基準で評価した。

○:サンプルの形状を保っていない。
×:サンプル形状を保っている。

【0037】
<土壌汚染性試験>
評価サンプルの作成に用いた第一のインクをICP発光分光分析装置で分析し、日本バイオプラスチック協会のクリーンプラ基準に準じて、Cd:0.5mg/kg、As:3.5mg/kg、Hg:0.5mg/kg、Cu:37.5mg/kg、Se:0.75mg/kg、Ni:25mg/kg、Zn:150mg/kg、Mo:100mg/kgの基準上限値を満たすかどうかについて評価した。評価結果を表9に示す。表中のNDは検出感度以下を示す。また、第二のインクには色材が含まれていないため重金属を除去することは容易であり、土壌汚染を回避することは技術的には容易であるため、評価を行っていない。

○:何れも基準上限値未満
×:基準上限値以上

【0038】
【表9】

【先行技術文献】
【特許文献】
【0039】
【特許文献1】特開2008−069304号公報
【特許文献2】特表2001−508482号公報
【特許文献3】特開2006−263961号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェロシアン化第二鉄と、HLBが15以上のアルキレンオキサイド付加物型非イオン性界面活性剤又はアルキレンオキサイド付加物リン酸エステル型アニオン性界面活性剤を含む第一のインクと、ポリ乳酸系樹脂水性分散体を含む第二のインクからなることを特徴とするインクセット。
【請求項2】
前記アルキレンオキサイド付加物型非イオン性界面活性剤がβ−ナフタレンアルキレンオキサイド付加物であることを特徴とする請求項1記載のインクセット。
【請求項3】
フェロシアン化第二鉄と、HLBが15以上のアルキレンオキサイド付加物型非イオン性界面活性剤又はアルキレンオキサイド付加物リン酸エステル型アニオン性界面活性剤を含む第一のインクを、インクジェット方式で被記録媒体に付着させ、次いで、ポリ乳酸系樹脂水性分散体を含む第二のインクを被記録媒体に付着させることを特徴とする画像形成方法。
【請求項4】
前記アルキレンオキサイド付加物型非イオン性界面活性剤がβ−ナフタレンアルキレンオキサイド付加物であることを特徴とする請求項3記載の画像形成方法。

【公開番号】特開2012−144629(P2012−144629A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−3544(P2011−3544)
【出願日】平成23年1月12日(2011.1.12)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】