説明

インクタンクおよびインクジェットカートリッジ

【課題】製造効率の悪化、および製造コストの増大を招くことなく、外部へのインクの漏れを防止することができるインクタンクおよびインクカートリッジを提供すること。
【解決手段】タンクケース9の開口部に取り付けられる蓋5と、タンクケース9内のインク吸収体3と、の間に、インク吸収体3と大気連通口6との間に位置するインク遮断板8を挟持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクの収納部内にインク吸収体を備えるインクタンク、およびインクジェットカートリッジに関するものである。
【背景技術】
【0002】
インクに負圧を付与するための負圧発生部材として、インクの収納部内にインク吸収体を備えるインクタンクは、その物流時の姿勢や環境温度が変化した場合に、インク吸収体の内部においてインクが移動して、そのインクがインク吸収体から溢れ出ることがある。インクタンクの蓋に形成された大気連通口が下を向くように、インクタンクが置かれている状況において、インク吸収体から溢れ出たインクが大気連通口に入った場合には、そのインクが外部に漏れ出るおそれがある。このようなインクタンクと記録ヘッドとが組み合わされたインクジェットカートリッジの場合も同様である。
【0003】
このようなインクの外部への漏れを防止する方法として、特許文献1には、インクタンクの蓋の内面にガード部材を接合する方法が提案されている。
【0004】
【特許文献1】特登録03564895
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、インクタンクの蓋にガード部材を接合するためには、溶着機を用いたり、接着剤などの特別な部材を追加する必要がある。そのため、インクタンクやインクジェットカートリッジの製造効率の悪化、および製造コストの増大を招くおそれがある。
【0006】
本発明の目的は、製造効率の悪化、および製造コストの増大を招くことなく、外部へのインクの漏れを防止することができるインクタンクおよびインクカートリッジを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のインクタンクは、インク吸収体が備えられるインク収納部、および前記インク収納部内のインクを供給するためのインク供給口が設けられたタンクケースと、前記インク収納部内を大気に連通させるための大気連通口、および前記インク吸収体を押圧するためのリブが設けられて、前記インク収納部の開口部に取り付けられる蓋と、を備えるインクタンクにおいて、前記蓋と前記インク吸収体との間に、前記インク吸収体と前記大気連通口との間に位置するインク遮断板を挟持することを特徴とする。
【0008】
本発明のインクジェットカートリッジは、上記のインクタンクと、前記インク供給口から供給されるインクを吐出可能なインクジェット記録ヘッドと、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、インク吸収体と大気連通口の間にインク遮断板を位置させることにより、インク吸収体からインクが溢れ出た場合に、そのインクが大気連通口内に直接滴下する事態を回避して、外部へのインク漏れを防止することができる。すなわち、インク遮断板によって、インク吸収体から溢れ出たインクを大気連通口から遠ざけるように、導くことができる。インク遮断板と対向しないインク吸収体の部分からインクが漏れ出た場合、そのインクが直接滴下する位置には大気連通口がないため、そのインクが外部に漏れ出ることはない。
【0010】
また、蓋とインク吸収体との間にインク遮断板を挟持するため、そのインク遮断板を蓋に結合するための溶着機を用いたり、接着剤などの特別な部材を追加する必要がない。したがって、製造効率の悪化、および製造コストの増大を招くことなく、外部へのインクの漏れを防止することができるインクタンクおよびインクカートリッジを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態におけるインクジェットカートリッジ1の斜視図、図2は、その分解斜視図、図3は、その断面図である。インクジェットカートリッジ1は、インクを収容するインクタンク2と、そのインクタンク2の不図示のインク供給口から供給されるインクを吐出可能なインクジェット記録ヘッド4と、を一体的に結合した構成となっている。インクタンク2の本体は、タンクケース9と蓋5によって形成されており、タンクケース9のインク収納部内にはインク吸収体3が挿入されている。記録ヘッド4は、電気熱変換体(ヒータ)やピエゾ素子などの吐出エネルギー発生素子を用いて、吐出口からインクを吐出する構成となっている。電気熱変換体を用いた場合には、その発熱によってインクを発泡させ、その発泡エネルギーを利用して吐出口からインクを吐出することができる。
【0012】
インクタンク2内にインクを充填する際には、蓋5が取り付けられる前に、その蓋が取り付けられるタンクケース9の開口部から注入ニードルを差し込み、その注入ニードルを通して、加圧したインクをインクタンク2内に注入(加圧充填方式)する。インクの充填が終了した後、タンクケース9の開口部に蓋5が溶着される。充填されたインクは、インク吸収体3の下方から吸収される。そのため、インク注入後のインク吸収体3の状態は、図4に示すように、インクが充填されている部分3aと、充填されていない部分3bと、の2層状態になる。
【0013】
タンクケース9の開口部に溶着される蓋5の内面には、複数のリブ7と大気連通口6が形成されている。リブ7はインク吸収体3を押圧するためのものであり、図5のように、長い直線状のリブ7a、短い直線状のリブ7b、およびT字状のリブ7cなどを含むように複数設けられている。蓋5の内面において、大気連通口6の周囲には、煙突状に5mm程度突出する環状の凸部10が形成されている。本例の場合、蓋5の外面にはシール12(図1参照)が貼着されており、そのシール12の下に位置する蓋5の外面の部分には、大気連通口6の開口部と連通する溝13が形成されている。その溝13とシール12とによって形成される連通路を通して、大気連通口6が大気に連通される。
【0014】
また、蓋5の内面には凹部11が形成されている。さらに、蓋5とインク吸収体3との間には、インク遮断板8が介在されている。そのインク遮断板8は、大気連通口6とインク吸収体3との対向面間に介在するように備えられている。
【0015】
本例におけるタンクケース9は、既存のタンクケース9aの上部に枠状部材9bを溶着した構成となっており、これにより大容量のタンクケースが形成されている。既存のタンクケース9aに対する枠状部材9bの溶着は、例えば、振動溶着によって枠状部材9bの溶着リブ9cを溶融することにより行われる。その溶着を安定して行う上においては、溶着リブ9cの真上を押圧することが理想とされる。そのため、枠状部材9bの内部には、不図示の溶着ホーンを受けるための受け部9dが設けられている。その受け部9dを設けるために、枠状部材9bの内寸は、既存のタンクケース9aの内寸よりも4ミリ程度大きくなっている。したがって、タンクケース9の上側に位置する枠状部材9bの内壁は、インク吸収体3と部分的にしか密着していない。
【0016】
このように本例のタンクケース9は、既成のタンクケース9aよりも高さが高く、インクの収容量が増大している。例えば、既成のタンクケース9aは、高さが40mm程度でインクの収容量が20g程度であり、枠状部材9bを取り付けることにより、高さが70mm程度でインクの収容量が40g程度のタンクケース9が構成される。
【0017】
図6は、インク遮断板8が備わっていない以外は、本例と同様の構成のタンクケース9を含む比較例としてのインクジェットカートリッジの説明図である。
【0018】
このようなインクジェットカートリッジの物流時における環境温度の変化を想定して、その内部のインクが凍るほどの低温環境と、高温環境と、を繰り返すテストを行った場合、インク吸収体3の内部においてインクが移動する現象が確認された。インク吸収体3の端部まで移動して、そのインク吸収体3から溢れ出したインクは、枠状部材9bと蓋5とインク吸収体3との間に形成されているバッファ空間に溜まることによって、外部へのインクの漏れが防止される。蓋5の内面には、大気連通口の周囲に位置する高さ5mm程度の環状の凸部10、リブ7、および凹部11が形成されているため、充分なバッファ空間が確保されている。
【0019】
このインクジェットカートリッジを図6のように蓋5が下側に位置する姿勢とし、その環境温度を繰り返し変化させた場合には、同図のように、インクがインク吸収体3の中心部付近を移動して、インク吸収体3から漏れ出ることがある。大気連通口6と対向するインク吸収体3の位置の付近からインクが溢れ出た場合には、そのインクが大気連通口6内に直接滴下して、外部に漏れ出るおそれがある。
【0020】
本例のインクジェットカートリッジ1は、前述したように、大気連通口6とインク吸収体3との対向面間にインク遮断板8を備えている。そのため、インク吸収体3から溢れ出たインクが大気連通口6内に直接滴下することがなく、そのインクの漏れを防止することができる。また、インク吸収体3の弾性復元力を利用して、そのインク吸収体3と蓋5との間にインク遮断板8を挟持することができるため、特別な溶着や接着などの手段を用いることなく、そのインク遮断板8を取り付けることができる。つまり、タンクケース9、蓋5、およびインク吸収体3のいずれとも結合されないように、単にインク遮断板8を追加することによって、インクの漏れを防止することができる。したがって、インクタンクおよびインクジェットカートリッジの製造効率の悪化、および製造コストの増大を招くことなく、インクの漏れを防止することができ。
【0021】
本発明のインクジェットカートリッジ1は、次のように製造することができる。
【0022】
インクジェット記録ヘッド4が組み込まれたタンクケース9aに対して、枠状部材9bを振動溶着機を用いて溶着することにより、大容量のタンクケース9を形成する。その後、タンクケース9内にインク吸収体3を挿入してから、前述したように加圧充填方式によってインクを注入する。インクが注入されたインク吸収体3の上にインク遮断板8を載置してから、振動溶着機を用いて、タンクケース9の開口部に蓋5を溶着する。
【0023】
インク遮断板8は、それを無造作にインク吸収体3の上に乗せた場合にも、それが確実に大気連通口6とインク吸収体3との対向面間に位置するように、サイズや形状に設定することが望ましい。例えば、図7のように大気連通口6がタンクケース9の開口部のほぼ中央に位置する場合には、インク遮断板8の辺の長さL1,L2は、タンクケース9の開口部の辺の長さL11,L12の60%程度以上とする。これによりインク遮断板8は、図7中の実線の位置や2点鎖線の位置などのように、どのように動いても大気連通口6とインク吸収体3との対向面間に配置される。したがって、インクタンクおよびインクジェットカートリッジの組立て作業効率を向上させることができる。
【0024】
本例におけるインク遮断板8は、図2および図3のように、インク吸収体3の上面とほぼ同じ大きさの平面形状となっており、その長さL1,L2は、長さL11,L12の60%程度以上となっている。
【0025】
インク遮断板8の材質は、インクとの接触によって変質せず、インクにも悪影響を及ぼさないものを用いる。例えば、タンクケース9と同材質のものを使用することができる。また、振動溶着機によってタンクケース9に蓋5を溶着しても、インク遮断板8を溶融するほどの熱は発生しないため、それが蓋5やインク吸収体3と結合することはない。
【0026】
(第2の実施形態)
インク遮断板8の形状は図6の形状に限定されず、例えば、図8および図9のように外周部に突起8aを有する形状であってもよい。これらの突起8aによって、タンクケース9の内部におけるインク遮断板8の位置が規制され、それが必ず大気連通口6とインク吸収体3との対向面間に位置する。したがって、前述した実施形態と同様に、インク吸収体3から漏れ出たインクが大気連通口6内に直接滴下することを防止できる。このようなインク遮断板8の形状によって、その平面積を小さくして、その成形材料を少なくすることができ、その成形材料の無駄な使用を抑制することができる。また、リブ7の全てに当接するようにインク遮断板8を配置することにより、インク吸収体3を均等に押圧することが可能となる。このことは、インク吸収体3の機能を発揮する上において好ましい。
【0027】
(他の実施形態)
大気連通口は、タンクケース内のインク収納部と大気とを連通することができればよく、その大気連通口の形状、形成位置、および、それを大気に連通させるための連通路の構成などは、何ら上述した実施形態のみに特定されず任意である。また本発明は、シリアルスキャンタイプまたはフルラインタイプなどの種々のインクジェット記録装置に用いられるインクタンクおよびインクカートリッジに対して、広く適用することができる。
【0028】
また、インク遮断板は必ずしも平板である必要はない。しかし、インク吸収体の表面に載置可能な形状であることが望ましい。またインク遮断板は、少なくとも大気連通口とインク吸収体とを直線的に結ぶ線上に位置することにより、インク吸収体から溢れ出たインクが大気連通口内に直接滴下する事態を回避することができる。蓋の内面に、大気連通口の開口部の周囲に位置する環状の凸部を設けた場合、インク遮断板は、環状の凸部の内側の領域と、インク吸収体と、の対向面間に位置させればよい。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の第1の実施形態におけるインクジェットカートリッジの斜視図である。
【図2】図1のインクジェットカートリッジの分解斜視図である。
【図3】図1のインクジェットカートリッジの断面図である。
【図4】図1のインクジェットカートリッジ内のインクの吸収状態を説明するための断面図である。
【図5】図1のインクジェットカートリッジにおける蓋の内面図である。
【図6】比較例としてのインクジェットカートリッジを説明するための断面図である。
【図7】インク遮断板の形状の一例を説明するための要部の平面図である。
【図8】インク遮断板の形状の他の例を説明するための要部の平面図である。
【図9】インク遮断板の形状のさらに他の例を説明するための要部の平面図である。
【符号の説明】
【0030】
1 インクジェットカートリッジ
2 インクタンク
3 インク吸収体
4 インクジェット記録ヘッド
5 蓋
6 大気連通口
7 リブ
8 インク遮断板
9 タンクケース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インク吸収体が備えられるインク収納部、および前記インク収納部内のインクを供給するためのインク供給口が設けられたタンクケースと、前記インク収納部内を大気に連通させるための大気連通口、および前記インク吸収体を押圧するためのリブが設けられて、前記インク収納部の開口部に取り付けられる蓋と、を備えるインクタンクにおいて、
前記蓋と前記インク吸収体との間に、前記インク吸収体と前記大気連通口との間に位置するインク遮断板を挟持することを特徴とするインクタンク。
【請求項2】
前記インク遮断板は、前記タンクケース、前記蓋、および前記インク吸収体のいずれとも結合されないことを特徴とする請求項1に記載のインクタンク。
【請求項3】
前記インク遮断板は、前記インク吸収体の表面に載置可能な平板であることを特徴とする請求項1または2に記載のインクタンク。
【請求項4】
前記インク遮断板は、前記タンクケースと同じ材質であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のインクタンク。
【請求項5】
前記蓋には前記リブが複数設けられ、
前記インク遮断板は、前記複数のリブの全てと当接するように、前記蓋と前記インク吸収体との間に挟持される
ことを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のインクタンク。
【請求項6】
前記インク遮断板は、前記タンクケース内における位置を規制するための突起を有することを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載のインクタンク。
【請求項7】
前記インク遮断板は、少なくとも前記大気連通口と前記インク吸収体とを直線的に結ぶ線上に位置することを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載のインクタンク。
【請求項8】
前記蓋の内面に、前記大気連通口の開口部の周囲に位置する環状の凸部を設けたことを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載のインクタンク。
【請求項9】
前記インク遮断板は、前記環状の凸部の内側の領域と、前記インク吸収体と、の対向面間に位置することを特徴とする請求項8に記載のインクタンク。
【請求項10】
請求項1から9のいずれかに記載のインクタンクと、
前記インク供給口から供給されるインクを吐出可能なインクジェット記録ヘッドと、
を備えることを特徴とするインクジェットカートリッジ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−184114(P2009−184114A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−23143(P2008−23143)
【出願日】平成20年2月1日(2008.2.1)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】