説明

インクタンク用シール部材および該シール部材を含むインクタンク

【課題】耐インク性、密着性および成形性に優れたインクジェット記録装置用弾性部材および該弾性部材を含むインクジェット記録装置、ならびにインクタンク用弾性部材および該弾性部材を含むインクタンクを提供すること。
【解決手段】インクジェット記録装置用弾性部材は、結晶性ポリオレフィンブロックおよび非晶性ポリオレフィンブロックを有するブロック共重合体100重量部と、ポリオレフィン樹脂3〜40重量部と、軟化剤40〜250重量部とを含有する材料からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録装置用弾性部材および該弾性部材を含むインクジェット記録装置、ならびにインクタンク用弾性部材および該弾性部材を含むインクタンクに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置は、通常、記録用紙の紙幅方向に往復動するキャリッジに印刷信号に対応してインク滴を吐出するインクジェット記録ヘッドを搭載して、外部のインクタンクから記録ヘッドにインクが供給されるように構成されている。このようなインクタンク等のインク貯蔵容器は、小型の記録装置にあっては取り扱いの便を考慮してキャリッジに着脱可能に搭載できるように構成されている。
【0003】
このようなインク貯蔵容器は、通常、記録ヘッドからのインクの漏れ出しを防止するため、多孔質材を収容し、この多孔質材にインクを含浸させて毛細管力によりインクを保持するように構成されている。一方で、印字品質や印刷速度の向上が求められ、これにともなって記録ヘッドのノズル開口数が多くなり、単位時間当りのインク消費量が増加する傾向にある。
【0004】
このような傾向に対応するためには、望ましくはインク貯蔵容器に収容するインク量を増量する必要があり、インク量を増大させるためには多孔質材の体積を増大する必要がある。しかしながら、多孔質材の毛細管力でインクを保持するには、高さ、すなわち水頭に限界があるため、底面積を増加させて体積を大きくせざるを得ず、キャリッジのサイズが大きくなり、結果として記録装置が大型化するという問題がある。
【0005】
もとより、平均孔径が小さい多孔質材を用いてインクの保持力を上げることも考えられるが、インクの流れに対する流体抵抗が大きくなり、記録ヘッドのインク消費量に対応して安定にインクを供給することが困難となるばかりでなく、インク供給口から離れた領域のインクを記録ヘッドに確実に供給することが困難となり、結果としてインク貯蔵容器のインクが消費し切れなくなり、無駄が生じるという新たな問題が生じる。
【0006】
このような問題を解消するため、特開2003−94682号公報には、下部インク収容室、上部インク収容室、記録ヘッドにインクを供給するインク供給口、下部インク収容室と上部インク収容室とを接続するインク吸い上げ流路、インク供給口と上部インク収容室とを結ぶインク流路、および下部インク収容室を大気に連通させる大気連通部を備えた容器と、該容器に収容され、かつインク流路の途中に配置された負圧発生機構とを含むインクジェット記録装置用インクカートリッジが開示されている。このインクカートリッジによれば、インクが負圧発生機構を介して記録ヘッドに供給されるため、インク量の変化による圧力変動を可及的に防止することができる。このインクカートリッジにおいて、負圧発生機構に使用される膜弁には、負圧調整機構の応答バラツキを防止して、インク供給能力のバラツキの低減を図るために、膜弁が収容される差圧弁収容室および膜弁押え板と膜弁との間の密着性の向上が求められている。
【0007】
また、キャリッジにインクカートリッジが装着される際に、インクカートリッジのインク供給口にはシール部材が設けられ、このシール部材の穴に、記録ヘッドに連通するインク供給針が差し込まれる。インク供給口とシール部材との間からインクが漏れ出さないように、インク供給針とシール部材との間には、より高い密着性が求められている。また、
このシール部材には、より高い調芯性(インク供給針とシール部材との間にずれが生じてもシール状態を維持していること)が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−94682号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、耐インク性、密着性および成形性に優れたインクジェット記録装置用弾性部材および該弾性部材を含むインクジェット記録装置、ならびにインクタンク用弾性部材および該弾性部材を含むインクタンクを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様に係るインクジェット記録装置用弾性部材は、結晶性ポリオレフィンブロックおよび非晶性ポリオレフィンブロックを有するブロック共重合体(以下、単に「ブロック共重合体」ともいう。)100重量部と、ポリオレフィン樹脂3〜40重量部と、軟化剤40〜250重量部とを含有する材料からなる。
【0011】
上記インクジェット記録装置用弾性部材は、インクジェット記録装置本体に設けられるシール部材であることができる。この場合、前記シール部材は、インクジェット記録装置の記録ヘッドを封止するキャップ部材であることができる。
【0012】
本発明の一態様に係るインクジェット記録装置は、上記インクジェット記録装置用弾性部材を含むことができる。
【0013】
本発明の一態様に係るインクタンク用弾性部材は、結晶性ポリオレフィンブロックおよび非晶性ポリオレフィンブロックを有するブロック共重合体100重量部と、ポリオレフィン樹脂3〜40重量部と、軟化剤40〜250重量部とを含有する材料からなる。
【0014】
上記インクタンク用弾性部材において、前記ブロック共重合体の数平均分子量は250,000〜350,000であることができる。
【0015】
上記インクタンク用弾性部材において、前記ブロック共重合体の前記結晶性ポリオレフィンブロックは、結晶性ポリエチレンブロックであることができる。
【0016】
上記インクタンク用弾性部材において、前記ブロック共重合体の前記非晶性ポリオレフィンブロックは、非晶性ポリエチレン/ブテンブロックであることができる。
【0017】
上記インクタンク用弾性部材は、記録ヘッドにインクを供給するためのインク供給口とインク収容室とを結ぶインク流路の途中に配置された負圧発生機構に含まれる膜弁であることができる。この場合、前記負圧発生機構が差圧弁であることができる。
【0018】
上記インクタンク用弾性部材は、記録ヘッドにインクを供給するためのインク供給口に設けられるシール部材であることができる。
【0019】
本発明の一態様に係るインクタンクは、上記インクタンク用弾性部材を含む。
【0020】
上記インクジェット記録装置用弾性部材および上記インクタンク用弾性部材によれば、結晶性ポリオレフィンブロックおよび非晶性ポリオレフィンブロックを有するブロック共
重合体100重量部と、ポリオレフィン樹脂3〜40重量部と、軟化剤40〜250重量部とを含有する材料からなることにより、耐インク性、密着性および成形性に優れている。
【0021】
例えば、上記インクタンク用弾性部材が、記録ヘッドにインクを供給するインク供給口とインク収容室とを結ぶインク流路の途中に配置された負圧発生機構に含まれる膜弁である場合、該弾性部材が上記材料からなることにより、膜弁とその周囲の部材との間の密着性を高めることができ、かつ、摺動負荷を減らすことができる。これにより、記録ヘッドへのインクの供給をよりスムーズに行うことができるため、負圧発生機構の応答バラツキ(インク供給能力のバラツキ)を低減することができる。
【0022】
また、例えば、上記インクタンク用弾性部材が、記録ヘッドにインクを供給するインク供給口に設けられるシール部材である場合、該弾性部材が上記材料からなることにより、耐インク性に優れ、かつ、インク供給針とシール部材との間の密着性および調芯性をより高めることができるため、インク供給口からのインクの漏れ出しを確実に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1(a)および図1(b)はそれぞれ、本発明の一実施形態に係るインクカートリッジの表裏の外観を示す斜視図である。
【図2】図2(a)乃至図2(d)はそれぞれ、図1(a)および図1(b)に示されるインクカートリッジの上面図、正面図、底面図、および側面図である。
【図3】図3は、図1(a)および図1(b)に示すインクカートリッジが装着されるキャリッジの一例を示す断面図である。
【図4】図4(a)および図4(b)はそれぞれ、図3に示されるインクカートリッジをキャリッジに装着する過程を示す図である。
【図5】図5(a)および図5(b)はそれぞれ、図3に示されるインクカートリッジを構成する容器本体の一例を、開口面および表面の構造で示す斜視図である。
【図6】図6は、図1(a)および図1(b)に示されるインクカートリッジを構成する容器本体の底面の構造を、開口面側から見た状態で示す斜視図である。
【図7】図7は、図1(a)および図1(b)に示されるインクカートリッジを構成する容器本体の開口面の構造を示す正面図である。
【図8】図8は、図1(a)および図1(b)に示されるインクカートリッジを示す分解斜視図である。
【図9】図9は、図1(a)および図1(b)に示されるインクカートリッジを示す分解斜視図である。
【図10】図10は、差圧弁収容室の近傍の構造を拡大して示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の一実施形態に係るインクジェット記録装置用弾性部材および該弾性部材を含むインクジェット記録装置、ならびにインクタンク用弾性部材および該弾性部材を含むインクタンクについて、図面を参照しながら説明する。
【0025】
1.インクタンク用弾性部材
本実施形態に係るインクタンク用弾性部材は、結晶性ポリオレフィンブロックおよび非晶性ポリオレフィンブロックを有するブロック共重合体100重量部と、ポリオレフィン樹脂3〜40重量部と、軟化剤40〜250重量部とを含有する材料(以下、「弾性部材用材料」ともいう。)からなる。
【0026】
1.1.弾性部材用材料
1.1.1.ブロック共重合体
ブロック共重合体(エラストマー)を構成する結晶性ポリオレフィンブロックおよび非晶性ポリオレフィンブロックはそれぞれ、1種または2種以上のオレフィンブロックを有する。
【0027】
ブロック共重合体の結晶性ポリオレフィンブロックは、結晶性ポリエチレンブロックであることが好ましい。また、ブロック共重合体の非晶性ポリオレフィンブロックは、非晶性ポリエチレン/ブテンブロックであることが好ましい。
【0028】
ブロック共重合体が結晶性ポリエチレンブロックおよび非晶性ポリエチレン/ブテンブロックを含む場合、このようなブロック共重合体は、1,2−ビニル結合よりも1,4−ビニル結合を多く含むポリブタジエンブロック(i)と、1,4−ビニル結合よりも1,2−ビニル結合を多く含むポリブタジエンブロック(ii)とを含む共重合体を水素添加することにより製造することができる。かかる水素添加によって、ポリブタジエンブロック(i)が結晶性ポリエチレンブロックへと変換され、ポリブタジエンブロック(ii)が非晶性ポリエチレン/ブテンブロックへと変換される。
【0029】
ブロック共重合体の具体例としては、例えば、CEBCが挙げられる。CEBCでは、結晶性ポリオレフィンブロックが結晶性ポリエチレンブロックであり、非晶性ポリオレフィンブロックが非晶性ポリエチレン/ブテンブロックである共重合体である。このCEBCでは、分子の中央部分にエチレン/ブテンの交互共重合体からなる非晶性ポリエチレン/ブテンブロックが配置され、この非晶性ポリエチレン/ブテンブロックの両側に結晶性ポリエチレンブロックが配置されている。このため、CEBCは、(結晶性)ポリエチレン−(非晶性)ポリエチレン/ブテン−(結晶性)ポリエチレントリブロック共重合体と称されることもある。
【0030】
ブロック共重合がCEBCであることにより、密着性および成形性と、適度な硬度との両方を具備する弾性部材を得ることができる。
【0031】
CEBCは例えば、1,2−ビニル結合よりも1,4−ビニル結合を多く含むポリブタジエンブロック(i)、1,4−ビニル結合よりも1,2−ビニル結合を多く含むポリブタジエンブロック(ii)、および1,2−ビニル結合よりも1,4−ビニル結合を多く含むポリブタジエンブロック(i)を含むトリブロック共重合体を水添することにより製造することができる。
【0032】
より具体的には、1,2−ビニル結合の含有量が20モル%以下(好ましくは15モル%以下)のポリブタジエンブロック(X)と、1,2−ビニル結合の含有量が25〜95モル%(好ましくは25〜75モル%、より好ましくは25〜55モル%)のポリブタジエンブロック(Y)からなり、ブロック構造がX−(Y−X)nまたは(X−Y)m(ここで、nは1以上、mは2以上の整数である。)で表される直鎖状または分岐状のブロック共重合体について、ブタジエン重合単位の90%以上(好ましくは95〜100%)を水素添加することにより、CEBCを製造することができる。このような方法で得られたCEBCは、230℃で2160gの荷重におけるメルトフローレートが0.1〜100g/100分(特に、0.5〜50g/10分)であるのが好ましい。
【0033】
CEBC中の結晶性ポリエチレンブロックの割合は、CEBC総量の15〜40質量%であるのが好ましい。結晶性ポリエチレンブロックの割合が15質量%未満である場合、CEBCの剛性、耐熱性、および表面硬度が低下することがあり、一方、40質量%を超える場合、低温耐衝撃性が低下することがある。
【0034】
ブロック共重合体の数平均分子量は250,000〜350,000であることが好ましく、280,000〜320,000であることがより好ましい。
【0035】
ブロック共重合体の数平均分子量が250,000より小さく、かつ、インクタンク用弾性部材が、記録ヘッドにインクを供給するためのインク供給口とインク収容室とを結ぶインク流路の途中に配置された負圧発生機構に含まれる膜弁である場合、負圧発生機構の応答バラツキが発生する傾向にあり、一方、350,000を超える場合、密着性および成形性が劣る傾向にある。
【0036】
1.1.2.ポリオレフィン樹脂
ポリオレフィン樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン(特には結晶性ポリブテン)などを挙げることができる。中でも、アイソタクティックポリプロピレンまたはその共重合体が好ましい。
【0037】
ポリオレフィン樹脂は、いわゆる変性ポリオレフィン樹脂であってもよい。変性ポリオレフィン樹脂は、上述のポリオレフィン樹脂に、マレイン酸,無水マレイン酸等の不飽和ポリカルボン酸、アクリル酸類や水酸基を有する重合性モノマーをグラフトまたは共重合させた樹脂である。このような変性ポリオレフィン樹脂としては、例えば、三井デュポンポリケミカル(株)製ニュクレルシリーズ(商品名),三洋化成(株)製ユーメックスシリーズ(商品名),エクソン化学社製エクセラーシリーズ(商品名),ユニロイヤル社製ポリドンシリーズ(商品名),三井化学(株)製アドマーシリーズ(商品名)などとして市販されているものを使用することができる。
【0038】
ブロック共重合体100重量部に対するポリオレフィン樹脂の割合は3〜40重量部であることが好ましく、5〜25重量部であることがより好ましい。上記割合が3重量部を下回ると剛性が劣る傾向があり、一方、上記割合が40重量部を超えると調芯性が劣る傾向があり、また、応答バラツキが発生する傾向がある。
【0039】
1.1.3.軟化剤
軟化剤としては、例えば、鉱物油系のパラフィン系オイル、ナフテン系オイル、または合成系のポリイソブチレン系オイルであって、その数平均分子量が450〜5000であるものが好ましい。なお、軟化剤は1種を単独で用いてもよく、互いの相溶性が良好であれば2種以上を混合して用いてもよい。
【0040】
ブロック共重合体100重量部に対する軟化剤の割合は40〜250重量部であることが好ましく、100〜200重量部であることがより好ましい。上記割合が40重量部を下回ると、成形性が劣る傾向にあり、調芯性劣る傾向があり、また、応答バラツキが発生する傾向があり、一方、上記割合が250重量部を超えると応答バラツキが発生する傾向がある。
【0041】
1.1.4.その他の成分
本実施形態に係るインクタンク用弾性部材は、石油系炭化水素化合物を実質的に含まない材料からなる。ここで、「石油系炭化水素化合物を実質的に含まない」とは、弾性部材用材料における石油系炭化水素化合物の配合割合が0.1質量%未満であることをいい、石油系炭化水素化合物としては、例えば、合成テルペン樹脂、芳香族系炭化水素樹脂、脂肪族系炭化水素樹脂等が挙げられる。
【0042】
さらに、本実施形態に係るインクタンク用弾性部材は、ステアリン酸塩などのアニオン性界面活性剤を実質的に含まない材料からなるのが好ましい。ここで、「高級脂肪酸塩の界面活性剤を実質的に含まない」とは、弾性部材用材料におけるアニオン性界面活性剤の
配合割合が0.1質量%未満であることをいい、アニオン性界面活性剤としては、例えば、ステアリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ラウリン酸ナトリウム、ミリスチン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、ラウリン酸カリウム、ミリスチン酸カリウム、ステアリン酸カリウムなどの高級脂肪酸およびその塩が挙げられる。本実施形態に係るインクタンク用弾性部材がアニオン性界面活性剤を実質的に含まない材料からなることにより、前記弾性部材の成形時に生じる被膜の発生を防止することができる。
【0043】
また、弾性部材用材料には、クレー、珪藻土、シリカ、タルク、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、金属酸化物、マイカ、グラファイト、水酸化アルミニウムなどの無機系充填材、各種の金属粉、ガラス粉、セラミックス粉、粒状あるいは粉末ポリマー等の粒状あるいは粉末状固体充填材,その他の各種の天然または人工の短繊維,長繊維(各種のポリマーファイバー等)などを配合することができる。
【0044】
さらに、他の添加剤として、必要に応じて、難燃剤、抗菌剤、ヒンダードアミン系光安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、着色剤、シリコーンオイル、シリコーンポリマー、クマロン樹脂、クマロン−インデン樹脂、フェノールテルペン樹脂、ロジン誘導体などの各種粘着付与剤(タッキファイヤー)、レオストマーB(商標:リケンテクノス社製)、ボンドファースト(商標:住友化学社製)などの各種接着性エラストマーなどを配合してもよい。
【0045】
1.2.インクタンク用弾性部材の具体例
1.2.1.具体例1
本実施形態に係るインクタンク用弾性部材は、例えば、記録ヘッドにインクを供給するインク供給口とインク収容室とを結ぶインク流路の途中に配置された負圧発生機構に含まれる膜弁であることができる(具体例1)。ここで、負圧発生機構が差圧弁であることが好ましい。このような膜弁としては例えば、後述する図8〜図10に示す膜弁212が挙げられる。
【0046】
本実施形態に係るインクタンク用弾性部材が上記膜弁であり、上記膜弁が結晶性ポリオレフィンブロックおよび非晶性ポリオレフィンブロックを有するブロック共重合体100重量部と、ポリオレフィン樹脂3〜40重量部と、軟化剤40〜250重量部とを含有する材料からなることにより、膜弁とその周囲の部材との間の密着性を高めることができ、かつ、摺動負荷を減らすことができる。これにより、記録ヘッドへのインクの供給をよりスムーズに行うことができるため、負圧発生機構の応答バラツキ(インク供給能力のバラツキ)を低減することができる。このような効果が得られる理由としては、弾性部材用材料に含まれるブロック共重合体が結晶性ポリオレフィンブロックおよび非晶性ポリオレフィンブロックを有することにより、その分子構造に起因して、ブロック共重合体の分子表面が滑らかであることが考えられる。
【0047】
上記膜弁の硬度は10〜36であるのが好ましく、18〜25であるのがより好ましい。特に、上記膜弁が結晶性ポリオレフィンブロックおよび非晶性ポリオレフィンブロックを有するブロック共重合体100重量部と、ポリオレフィン樹脂5〜15重量部と、軟化剤150〜200重量部とを含有する材料からなることにより、上述した範囲の硬度を有し、かつ良好な密着性を発揮することができる。なお、本発明において、硬度はJIS K7215(1986)HDA 15秒後値により測定することができる。
【0048】
1.2.2.具体例2
また、本実施形態に係るインクタンク用弾性部材は、例えば、記録ヘッドにインクを供給するインク供給口に設けられるシール部材であることができる(具体例2)。このようなシール部材としては例えば、後述する図8〜図10に示すシール部材252が挙げられ
る。
【0049】
本実施形態に係るインクタンク用弾性部材が上記シール部材であり、上記シール部材が結晶性ポリオレフィンブロックおよび非晶性ポリオレフィンブロックを有するブロック共重合体100重量部と、ポリオレフィン樹脂3〜40重量部と、軟化剤40〜250重量部とを含有する材料からなることにより、耐インク性に優れ、かつ、インク供給針とシール部材との間の密着性および調芯性をより高めることができるため、インク供給口からのインクの漏れ出しを確実に防止することができる。このような効果が得られる理由としては、弾性部材用材料に含まれるブロック共重合体が結晶性ポリオレフィンブロックおよび非晶性ポリオレフィンブロックを有することにより、その分子構造に起因して、ブロック共重合体の分子表面が滑らかであることが考えられる。
【0050】
上記シール部材の硬度は25〜55であるのが好ましく、30〜45であるのがより好ましい。特に、上記シール部材が結晶性ポリオレフィンブロックおよび非晶性ポリオレフィンブロックを有するブロック共重合体100重量部と、ポリオレフィン樹脂10〜30重量部と、軟化剤100〜200重量部とを含有する材料からなることにより、上述した範囲の硬度を有し、かつ良好な密着性を発揮することができる。
【0051】
1.3.インクタンク用弾性部材の製造
本実施形態に係るインクタンク用弾性部材は、射出成形や押出成形などの従来公知の成形方法によって製造することができる。例えば、上記弾性部材用材料を金型内に溶融射出成形することにより、本実施形態に係るインクタンク用弾性部材を製造することができる。
【0052】
1.4.その他の応用例
本実施形態に係るインクタンク用弾性部材を構成する弾性部材用材料は、他のインクジェット記録装置用の弾性部材にも使用することができる。
【0053】
例えば、特開2001−225484号に開示されたようなインクジェット記録装置本体に設けられるシール部材である、インクジェット記録装置の記録ヘッドを封止するキャップが挙げられる。
【0054】
1.5.作用効果
本実施形態に係るインクタンク用弾性部材の作用効果を説明する前に、比較対照として、公知のインクジェット記録装置用弾性部材について説明する。
【0055】
1.5.1.公知のインクタンク用弾性部材
特開2000−978号公報および国際公開番号WO2003/027183号には、SEPS(スチレン−エチレン/プロピレン−スチレンのトリブロック共重合体)やSEBS(スチレン−エチレン/ブテン−スチレンのトリブロック共重合体)などのスチレン系エラストマーからなるインクジェット記録装置用弾性部材が開示されている。
【0056】
これらのスチレン系エラストマーを含む組成物には通常、ステアリン酸などのアニオン性界面活性剤が含まれている。よって、これらのスチレン系エラストマーを用いてインクジェット記録装置用弾性部材を製造する場合、該組成物を金型に流し込んで弾性部材を成形する際に、該界面活性剤の被膜が発生することがある。このため、被膜を除去するために金型を洗浄する手間が生じる。また、これらのスチレン系エラストマーを用いてインクジェット記録装置用弾性部材を製造する場合、通常、成形時の温度を200℃以上にする必要があるうえ、スチレンブロックの相溶性が低く、成形性がやや低い場合がある。
【0057】
また、これらのスチレン系エラストマーを用いてシール部材(図8および図9参照)を製造した場合、得られた該シール部材は密着性が低い。
【0058】
1.5.2.本実施形態に係るインクタンク用弾性部材の作用効果
これに対して、本実施形態に係るインクタンク用弾性部材によれば、アニオン性界面活性剤を実質的に含まない弾性部材用材料からなるため、該界面活性剤の皮膜の発生を防止することができる。よって、金型の洗浄等の手間を省くことができる。
【0059】
また、本実施形態に係るインクタンク用弾性部材によれば、より低温(170℃以下)での成形が可能であり、耐油性、耐インク性、および流動性が高く、かつ、弾性部材用材料中の他の成分(ポリオレフィン樹脂など)との相溶性に優れているため、成形が容易である。
【0060】
さらに、本実施形態に係るインクタンク用弾性部材によれば、非晶性ポリオレフィンブロックおよび結晶性ポリオレフィンブロックを有するブロック共重合体を含む材料からなるため、該ブロック共重合体の分子表面が滑らかであり、かつ、上記スチレン系エラストマーよりも静摩擦係数が高い。これにより、他の部材(特に、摺動する部材)との密着性に優れている。
【0061】
2.インクカートリッジ
本発明の一実施形態に係るインクを収容するインク収容部を備えたインクタンクであり、インクジェット記録装置に対して着脱可能なインクカートリッジは、上記実施形態に係るインクカートリッジ(インクタンク)用弾性部材を含む。以下、本実施形態に係るインクカートリッジの構成について以下に説明する。
【0062】
2.1.インクカートリッジの外観構成
図1(a)、図1(b)、および図2(a)〜(d)はそれぞれ、本発明の一実施形態に係るインクカートリッジ161の外観を示す。インクカートリッジ161は、一方の面が開口した扁平な矩形状の有底箱型の容器本体162と、この開口を封止する蓋体163とを主体として構成されている。挿入方向の先端側(本実施形態では底面)の長手方向の一方に偏するようにインク供給口164が容器本体162と一体に形成され、上部の側方にはそれぞれ係止部材165、166が容器本体162と一体に形成されている。
【0063】
インク供給口164側に偏して位置する係止部材165は、挿入方向の先端側(本実施形態では下端より若干上部)を回動支点165aとし、かつ上部が外側に拡開可能に形成され、また対向する他方の係止部材166は、係止部材165と協働してインクカートリッジの把持を補助するように形成されている。これら係止部材165、166は、その側面が幅方向の位置を規制するガイド部材となるように、キャリッジ260(後述する)に設けられた挿入口の幅に対応する幅として構成されている。
【0064】
また、インク供給口164側の係止部材165の下部には、基板の一方の面に複数の電極167aが形成され、他方の面に半導体記憶素子が形成された記憶手段167が設けられ、他方の係止部材166の下部にはバルブ収容室168が形成されている。
【0065】
インク供給口164の近傍で、かつ容器本体162の中央領域側には、インクカートリッジ161の挿抜方向に延び、かつ少なくとも先端側が開口したスリット部169が形成されている。このスリット部169は、少なくともインク供給口164の先端がキャリッジ260のインク供給針262に到達する以前にインク供給口164の開口面がインク供給針262に対して直交するように規制できる長さ、および幅となるように構成されている。
【0066】
2.2.キャリッジの構成および機構
一方、インクカートリッジ161が装着されるインクジェット記録装置のキャリッジ260は、図3に示したように、底面に記録ヘッド261が設けられており、記録ヘッド261に連通するインク供給針262が設けられている。インク供給針262が設けられている領域から離れた領域には押圧部材(本実施形態では板バネ263)が設けられている。インク供給針262との間には、位置決め用の凸片264がカートリッジ161の挿抜方向に延出形成されている。また、インク供給針262の側の側壁265には、電極266が配置され、電極266の上部には、係止部材165の突起165bと係合する凹部267が形成されている。
【0067】
インクカートリッジ161をバネ263に抗して押し込むと、図4(b)に示したように、係止部材165の突起165bが、係止部材165の全体の弾性に抗して凹部267に落ち込んで係合する。
【0068】
装着された状態では、インクカートリッジ161の記憶手段167の電極167aが設けられている面が、係止部材165の突起165bにより挿抜方向の位置を規制されてバネ263による付勢力(図中、矢印Kの力)によりキャリッジ260の電極266に押し付けられているため、印刷時の振動に関わりなく、確実にコンタクトを維持する。
【0069】
2.3.インクカートリッジの内部構成
2.3.1.インク収容室の構成
図5(a)および図5(b)は、本実施形態に係るインクカートリッジ161を構成する容器本体162の一例を表裏の構造で示す。容器本体162の内側には、略水平方向、より詳細にはインク供給口164の側が若干下方となるように延びる壁170により、容器本体162が上下に分割されている。容器本体162の下部領域には第1インク収容室171が設けられ、容器本体162の上部は、壁170を底面とするように容器本体162の壁172と一定の間隙を持たせて大気連通路173を形成するように、枠部174により区画されている。枠部174は、底部に連通口175aが形成された垂直な壁175により分割され、一方の領域を第2インク収容室176として、また他方の領域を第3インク収容室177として形成されている。
【0070】
第1インク収容室171に対向する領域には、第2インク収容室176と容器本体162の底面162a(第1インク収容室171の底部)とを接続する吸い上げ流路178が形成されている。吸い上げ流路178は、記録ヘッドでのインク消費量に対応できる程度の断面積に形成され、吸い上げ流路178の下端には、第1インク収容室171に開口し、かつ毛細管力によりインクを保持できる吸い込み口178aが形成されている。また、吸い上げ流路178の上端には、第2インク収容室176の底部に連通する流出口178bが開口するように形成されている。
【0071】
吸い上げ流路178の吸い込み口178aの近傍には連通口179a、179bを備えた壁179が形成されている。この吸い上げ流路178に対向する箇所には、図6に示したように、容器本体162に外部からインクの注入のための開口180、および、第1インク収容室171と連通する開口181が形成されている。この吸い上げ流路178は、容器本体162の表面に凹部178c(図5(b)参照)を形成し、この凹部178cを遮気性フィルム255(図8および図9参照)により封止することにより構成されている。
【0072】
第3インク収容室177は、枠部174の上面174aと一定の間隙を隔てて壁182、184、186により区画されている。また、第4のインク収容室183は、壁170
、184、186、187により区画されている。さらに、壁182に連続して差圧弁収容室193(図9参照)の裏面に連通する流路が壁184により区画されている。
【0073】
壁184の下部には、壁170との間に連通口186aを備えた区画壁186が形成されている。また、枠部174との間には下部に連通口187aを備えた区画壁187を設けてインク流路188が形成されている。インク流路188の上部は、フィルタ室となる貫通穴189を介してカートリッジ161の表面側に連通している。この貫通穴189には、多孔質材からなるフィルタ215(図8参照)が挿入されている。なお、図中、符号162bは、記憶手段167を収容する凹部を示す。
【0074】
貫通穴189は、図6に示したように、壁187に連続するように形成された壁190により分離され、凹部190aを介してインク流路188の上端に連通し、容器本体162の表面側の水滴形の凹部190bを介して差圧弁収容室193の裏面の壁194、および壁184で区画された流路の上部の凹部184aに連通されている。
【0075】
図5(b)に示すように、差圧弁収容室193の下部とインク供給口164とは、容器本体162の表面に形成された凹部195と、この凹部195を覆う遮気性フィルム255とからなる流路により接続されている。
【0076】
また、容器本体162の表面には、可及的に流路抵抗が高くなるように蛇行する細溝196が形成され、細溝196の周囲には幅広の溝197が形成され、第2インク収容室176に対向する領域には矩形状の凹部198が形成されている。
【0077】
矩形状の凹部198には、さらに一段下がった位置に枠部198aと離散的にリブ198bとが形成され、この枠部198aで固定するように撥インク性と通気性とを備えた通気性フィルム258(図9参照)を張設して大気通気室が区画形成されている。
【0078】
凹部198の底面には貫通穴198cが形成されており、第2インク収容室176の壁199で区画された細長い領域199a(図5(a)参照)に連通されている。また、凹部198のうち通気性フィルム258よりも表面側の領域には、細溝196の一端196aが連通している。領域199aの他端は、ここに形成された貫通穴200と、容器本体162の表面に形成された溝201と、貫通穴201aとを介して、バルブ収容室168に連通されている。
【0079】
一方、バルブ収容室168の裏面には、凹部203が形成され、バルブ収容室168の先端には、第2インク収容室176の近傍に開口する貫通穴203aが形成されている。凹部203から貫通穴203aの領域は、フィルム221により封止されて大気連通用の流路を形成している。この貫通穴203aは、枠部174と一定の間隙をもって形成された垂直に延びる壁204と蓋体163とに区画された流路205に連通している。流路205の上端205aは、壁204と枠部174とで形成された流路206、または大気連通路173を介して第1インク収容室171の上端に連通されている。
【0080】
バルブ収容室168のカートリッジ挿入側の先端は(本実施形態では図5(b)に示したように下部の窓168aにより)開放されていて、記録装置本体のキャリッジ160に設けられた複数の識別片270、271、272(図3参照)およびバルブ作動杆が進入可能な後述する識別ブロック230が下部に装着され、大気開放弁225が上部に装着されている。
【0081】
2.3.2.差圧弁およびインク供給口の構成
図8に示したように、容器本体162の開口側の枠部174、壁170、175、18
2、184、186、187、190、および199には、フィルム254を熱溶着等により接着して上部に位置するインク収容室(176、177、183)を形成するとともに、下部のインク収容室(171)とは分離された状態で、蓋体163が気密的に嵌着されている。また、バルブ収容室168には、弁体225と板バネ222を収容した状態で、フィルム256が貼着されている。
【0082】
他方、図9に示したように、容器本体162の表面側には差圧弁収容室193に膜弁212、バネ210、膜弁212の排出口側と凹部195を連通させる溝213aを備えた膜弁押え板213とを装着してから、差圧弁収容室193、細溝196、溝201、凹部190b、凹部195、凹部198、凹部178cを覆うことができるサイズの1枚の遮気性フィルム255が貼着される。また、バルブ収容室168の凹部203に対向する領域には、遮気性を有し作動杆により容易に弾性変形する膜221を貼着して、その表面側に識別片230が爪230a、230bにより装着、固定されている。
【0083】
また、インク供給口164は、インク供給針262(図3参照)の挿通により開弁する弁体250を、バネ251により常時閉弁状態(本実施形態では、下方に押圧するように挿入する)にして、弁体250、およびインク供給針262(図3参照)と容器本体162との密着性を確保するシール部材252を挿入して構成されている。シール部材252は具体的には、上記実施形態に係る材料からなることが好ましい。
【0084】
なお、図8において、符号253は、インク供給口164に貼着されて流通工程でのインクの漏れ出しを防止し、かつ、インク供給針262の挿通が可能な保護用のフィルムを示す。
【0085】
図10は、差圧弁収容室193の近傍の断面構造を示す。図10に示したように、差圧弁収容室193には、バネ210と、中心に貫通穴211を備えた膜弁212とが収容されている。
【0086】
膜弁212は、その周囲を環状の厚肉部212aと、この厚肉部212aと一体的に形成された枠部214とを備え、この枠部214を介して容器本体162に固定されている。膜弁212は弾性変形可能な材料からなり、具体的には、上記実施形態に係る材料からなることが好ましい。
【0087】
また、バネ210は、一端を膜弁212のバネ受け部212bにより支持され、他端を容器本体162に嵌着された膜弁押え板213により支持されている。
【0088】
このような構成により、フィルタ215を通過したインクは、インク流通口194aを通過して膜弁212に阻止される。この状態でインク供給口164の圧力が低下すると、膜弁212がバネ210の付勢力に抗して弁座部194bから離れるため、貫通穴211を通過し、凹部194により形成された流路を経由してインク供給口164に流れ込む。
【0089】
インク供給口164のインク圧力が所定の値に上昇すると、膜弁212がバネ210の付勢力に負けて弁座部194bに弾接され、インクの流通が遮断される。このような動作を繰返すことにより一定の負圧を維持しながらインクをインク供給口164に排出することができる。
【0090】
3.実施例
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、本実施例において、%および部は、重量基準である。
【0091】
3.1.シール部材の製造例
表1に示す成分を用いて、溶融射出成形により実施例1〜5および比較例1〜7のシール部材212(図8および図9参照)を製造した。ブロック共重合体として、実施例1〜5および比較例1〜4で用いたCEBCは、JSR(株)製、商品名「DR6200」であり、比較例5および7で使用したSEPS(対照)は、クラレ(株)製、商品名「SEPS4055」であり、比較例6で使用したSIBS(スチレン−イソブテン/ブテン−スチレン)(対照)は、カネカ(株)製、商品名「073T」であった。
【0092】
また、ポリオレフィン樹脂として、PP(ポリプロピレン)は、サンアローマー(株)製、商品名「PM900A」を使用し、軟化剤として、出光興産(株)製、商品名「PW−90」を使用した。
【0093】
なお、比較例7で使用した石油系炭化水素化合物は、イーストマン・ケミカル社製、商品名「Endex155」であった。
【0094】
【表1】

【0095】
3.2.シール部材の評価
次に、実施例および比較例で製造されたシール部材212について評価を行った。その結果を以下に示す。
【0096】
3.2.1.調芯性
実施例1〜5および比較例1〜7で製造されたシール部材をインクカートリッジ161のインク供給口164(図8および図9参照)に取り付けた後、インクカートリッジ161をキャリッジ260に取り付けた状態で(図3参照)60℃で5日間保持した後、該シール部材とインク供給針262とをずらしていき、シール供給口164にインク供給針262を挿入し、インク供給針262にチューブを挿入して真下に垂し、そのチューブに水を注入して約−10kg/Paの圧力をかけた状態のインク供給針262のズレ量を測定した。ズレ量が大きいほど、シール部材とインク供給針262との調芯性が良好であるといえる。
【0097】
その結果、実施例1〜5で得られたシール部材(5サンプル平均)では、ズレ量が平均
1.16mm,最大1.5mmであったのに対して、比較例1〜7で得られたシール部材(5サンプル平均)では、ズレ量が平均1.12mm,最大1.27mmであった。
【0098】
以上の結果から、実施例で得られたシール部材は、比較例で得られたシール部材よりも調芯性が良好であることが理解できる。
【0099】
3.2.2.密着性(タック性)
実施例1〜5および比較例1〜7で製造されたシール部材をインクカートリッジ161のインク供給口164(図8および図9参照)に取り付けた後、インクカートリッジ161をキャリッジ260に取り付けた状態で(図3参照)60℃で5日間保持した後、該シール部材からインク供給針262を外す際の荷重(脱技力)を測定した。なお、シール供給口164にはバネ251が取り付けられていない状態で行った。荷重が大きいほど、シール部材がインク供給針251から外れにくく、密着性が良好であるといえる。
【0100】
その結果、実施例で得られたシール部材(3サンプル平均)では、荷重が平均4.0Nであったのに対して、比較例で得られたシール部材(5サンプル平均)では、脱気力が平均6.36Nであった。
【0101】
以上の結果から、実施例1〜5で得られたシール部材は、比較例1〜7で得られたシール部材よりも密着性が良好であることが理解できる。
【0102】
3.3.膜弁の製造例
表2に示す成分を用いて、溶融射出成形により実施例6〜11および比較例8〜14の膜弁212(図8〜図10参照)を製造した。ブロック共重合体として、実施例6〜11および比較例8〜12で用いたCEBCは、JSR(株)製、商品名「DR6200」であり、比較例12および13で使用したSEPS(対照)は、クラレ(株)製、商品名「SEPS4055」であり、比較例14で使用したSIBS(スチレン−イソブテン/ブテン−スチレン)(対照)は、カネカ(株)製、商品名「073T」であった。
【0103】
また、ポリオレフィン樹脂として、PP(ポリプロピレン)は、サンアローマー(株)製、商品名「PM900A」を使用し、軟化剤として、出光興産(株)製、商品名「PW−90」を使用した。
【0104】
なお、比較例14で使用した石油系炭化水素化合物は、イーストマン・ケミカル社製、商品名「Endex155」であった。
【0105】
【表2】

【0106】
3.4.膜弁の評価
実施例6〜11の膜弁によれば、膜弁とその周囲の部材との間の密着性を高めることができ、かつ、摺動負荷を減らすことができた。これに対して、比較例8〜14の膜弁によれば、膜弁とその周囲の部材との間の密着性が低く、かつ、摺動負荷が大きかった。
【0107】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。例えば、本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法および結果が同一の構成、あるいは目的および結果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【符号の説明】
【0108】
161…インクカートリッジ、162…容器本体、162b…凹部、163…蓋体、164…インク供給口、165,166…係止部材、165b…突起、167…記憶手段、167a…電極、168…バルブ収容室、169…スリット部、170…壁、171…第1インク収容室、172…壁、173…大気連通路、174…枠部、174a…枠部の上面、175…壁、176…第2インク収容室、177…第3インク収容室、178…吸い上げ流路、178a…吸い込み口、178b…流出口、178c…凹部、179a,179b…連通口、180,181…開口、182…壁、183…第4のインク収容室、184…壁、186…区画壁、186a,187a…連通口、187…区画壁、188…インク流路、189…貫通穴、190…壁、190b…凹部、193…差圧弁収容室、194…壁、194a…インク流通口、194b…弁座部、195…凹部、196…細溝、197…溝、198…凹部、199a…細長い領域、199…壁、199a…領域、200…貫通穴、201…溝、201a…貫通穴、203…凹部、203a…貫通穴、204…壁、205…流路、205a…流路の上端、206…流路、210…バネ、211…貫通穴、212…膜弁、212a…厚肉部、213…膜弁押え板、213a…溝、214…枠部、215…フィルタ、221…膜、225…大気開放弁、230…識別ブロック、230
a,230b…爪、250…弁体、251…バネ、252…シール部材、253…保護用フィルム、254…フィルム、255…フィルム、256…フィルム、258…通気性フィルム、260…キャリッジ、261…ヘッド、262…インク供給針、263…板バネ、264…凸片、265…側壁、266…電極、267…凹部,270,271,272…識別片

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶性ポリオレフィンブロックおよび非晶性ポリオレフィンブロックを有するブロック共重合体100重量部と、ポリオレフィン樹脂3〜40重量部と、軟化剤40〜250重量部とを含有する材料からなる、インクジェット記録装置用弾性部材。
【請求項2】
請求項1において、
インクジェット記録装置本体に設けられるシール部材である、インクジェット記録装置用弾性部材。
【請求項3】
請求項2において、
前記シール部材は、インクジェット記録装置の記録ヘッドを封止するキャップ部材である、インクジェット記録装置用弾性部材。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載のインクジェット記録装置用弾性部材を含む、インクジェット記録装置。
【請求項5】
結晶性ポリオレフィンブロックおよび非晶性ポリオレフィンブロックを有するブロック共重合体100重量部と、ポリオレフィン樹脂3〜40重量部と、軟化剤40〜250重量部とを含有する材料からなる、インクタンク用弾性部材。
【請求項6】
請求項5において、
前記ブロック共重合体の数平均分子量は250,000〜350,000である、インクタンク用弾性部材。
【請求項7】
請求項5または6において、
前記ブロック共重合体の前記結晶性ポリオレフィンブロックは、結晶性ポリエチレンブロックである、インクタンク用弾性部材。
【請求項8】
請求項5ないし7のいずれかにおいて、
前記ブロック共重合体の前記非晶性ポリオレフィンブロックは、非晶性ポリエチレン/ブテンブロックである、インクタンク用弾性部材。
【請求項9】
請求項5ないし8のいずれかにおいて、
記録ヘッドにインクを供給するためのインク供給口とインク収容室とを結ぶインク流路の途中に配置された負圧発生機構に含まれる膜弁である、インクタンク用弾性部材。
【請求項10】
請求項9において、
前記負圧発生機構が差圧弁である、インクタンク用弾性部材。
【請求項11】
請求項5ないし8のいずれかにおいて、
記録ヘッドにインクを供給するためのインク供給口に設けられるシール部材である、インクタンク用弾性部材。
【請求項12】
請求項5ないし11のいずれかに記載の弾性部材を含む、インクタンク。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−49282(P2013−49282A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−246461(P2012−246461)
【出願日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【分割の表示】特願2008−53933(P2008−53933)の分割
【原出願日】平成20年3月4日(2008.3.4)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】