説明

インクレス印刷装置

複数変色ジアセチレン化合物を含む基板と組み合わせて使用する基板マーキング装置が開示される。基板マーキング装置は、異なる波長の放射線を放射できる少なくとも2つの放射線源と、光学伝達素子と、制御システムとを備えている。制御システムは、デジタルファイル情報を有しており、放射線源ごとの一組の放射指令に変換する。放射線源は、無色状態から複数の不変色の範囲の一つの色への変色のために基板が活性化されるように制御システムにより決定されたシーケンス及び強度で基板に放射線を加える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクレス印刷装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の印刷方法では、基板に色素材を直接塗布することにより基板上に色領域を形成する必要がある。このことは、(インクジェット印刷のような)種々の標準的な方法、熱転写及び写真技法を利用することにより行われている。標準的な印刷では、インク消耗品が必要であり、熱転写ではリボンを消費する。写真技法では、現像液及び定着剤が必要である。
【0003】
これらの方法に代えて、インクレス印刷方法が開発されている。インクレス印刷方法では、画像を定着させる際に消耗品が不要なドライプロセスを使用する。公知のインクレス印刷方法では、ジアセチレンのような感光性を付加する材料を備えるまたは有する基板を製造する。これらの感光性を付加する材料は、レーザのような適当なエネルギー源に暴露(exposed)されると変色しやすい。所望の画像を印刷するために、レーザービームは、基板の様々な領域に選択的に照射されるように、基板に対して操作される。照射した領域の連続した変色により画像が形成される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
これらの工程を実行する上記のインクレス印刷方法およびシステムには、欠点がある。特に、上記のインクレス印刷方法およびシステムでは、達成可能な変色及び/または変色の制御レベルが比較的制限される。この制限により、インクレス印刷技術の有効性が制限されて、インクレス印刷を取り上げる商業的な関心が制限される。
【0005】
そのため、本発明の目的は、上記問題を少なくとも部分的に克服または軽減する解決策を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、放射線照射により変色しやすい材料を含む基板のマーキングに適した基板マーキング装置が提供される。基板マーキング装置は、2以上の全く異なる波長で放射線を生成する放射線源と、放射制御手段とを備えている。放射制御手段は、所望の態様で基板にマーキングするために、放射線源からの所望の量の放射線を基板の選択された領域に制御可能に照射するように、放射線源からの放射線の放射を制御する。
【0007】
2つの異なる波長で放射線を供給することにより、マーキングプロセスに対して追加のレベルでの制御が可能となり、その結果発色可能な範囲に対して追加のレベルでの制御が可能となる。また、プロセスの有効性を大きくすることができる。
【0008】
このような基板マーキング装置では、マーキングが望まれる領域を2以上の全く異なる波長で照射することを要求されるので、本発明の基板マーキング装置を使用してマーキングされる基板の光安定性は、既に公知の基板マーキング装置でマーキングされる基板の光安定性と比較して改善することができる。詳細には、一つの波長の放射線を基板の活性化に使用することができ、他の波長の放射線を基板の変色に使用することができる。基板のマーキングをしたい領域のみに活性化させる放射線が照射されるので、このマーキングした領域にのみ変色が誘引される。そのため、2つの波長を適切に選択することにより、基板の光安定性を、従来よりも大きく改善することができ、基板は、背景光または周辺光が原因となって時間と共に変色しやすくなることがない。
【0009】
放射線源は、2つの全く異なる波長で放射線を生成可能な一つの放射線源とすることができる。代わりに、放射線源は2以上の放射線源を備えていてもよい。特定の実施形態では、放射線源は、第1の波長の放射線を生成する第1の放射線源と、第1の放射線とは異なる第2の放射線を生成する第2の放射線源を備えている。
【0010】
放射制御手段は、マイクロプロセッサを備えていてもよい。必要な場合には、制御電子機器を設けることができる。放射線源は、放射制御手段により直接動作させてもよく、1以上の駆動アンプを介して動作させてもよい。
【0011】
放射制御手段は、デジタル画像ファイルを放射線源ごとの一組の放射指令に変換可能であってもよい。詳細には、この変換には、基板上の特定のスポットまたは領域に画像ファイル中の特定のピクセルをマッピングすることと、画像ピクセルの色と整合するように基板の各スポットまたは領域の色を変更するために、放射線源から要求される照射を決定することとが含まれる。要求される照射は、入射放射線の持続期間及び/または強度の観点から決定することができる。
【0012】
放射線源は、連続的にまたはパルス的に放射線を放射可能とすることができる。放射線源が第1及び第2の放射線源を備えている実施形態については、第1の放射線源及び第2の放射線源が、実質的に同時に基板の同一のまたは異なる領域を照射するようにしてもよい。代わりに、第1及び第2の放射線源が、基板の同一のまたは異なる領域を特定のシーケンスで照射するようにしてもよい。シーケンスには、必要に応じてどちらかのまたは両方の放射線源を使用する単一照射または複数照射のいずれかを含むことができる。
【0013】
基板マーキング装置は、放射線方向付け手段を備えていてもよい。放射線源が第1及び第2の放射線源を備えている実施形態については、放射線方向付け手段は、1つのまたは両方の放射線源からの放射線を基板の選択された領域に方向付けすることができる。第1の放射線源及び第2の放射線源は、それぞれ専用の放射線方向付け手段を備えていてもよいし、第1及び第2の放射線源は、共通する放射線方向付け装置を共有していてもよい。放射線方向付け手段は、基板の表面を横切って放射された放射線をスキャンするように動作可能であることが好ましい。この動作を行うために、放射線方向付け手段は、傾斜ガルバノ・ミラー(galvanometer tilted mirror)、音響光学若しくは電気光学スキャナ、MEMsビーム偏光器、レゾナントスキャナまたはポリゴン回転ミラー(rotating polygon)のいずれかを含むことができる。
【0014】
共通する放射線方向付け手段を共有する実施形態においては、放射線結合エレメントを備えていてもよい。放射線結合エレメントは、第1及び第2の放射線源から放射された放射線を単一ビームに結合する。放射線結合エレメントは、プリズム、ダイクロイックミラーまたはホログラフィック回折格子を含む回折格子のような光学部品とすることができる。
【0015】
第1及び第2の放射線源は、単一のエミッタまたは複合のエミッタを備えることができる。放射線源が個別エミッタを複数備えている場合には、1以上の1次元または2次元の列に配置することができる。このような実施形態においては、各エミッタは、放射制御手段によって個別にアドレス可能であり、制御可能である。
【0016】
個別エミッタにはそれぞれ、専用のエミッタ放射線方向付け手段を設けても良い。エミッタ放射線方向付け手段はそれぞれ、個別エミッタから放射された放射線を基板の特定のスポットまたは領域に方向付けできることが好ましい。放射された放射線の方向付けには、放射された放射線の焦点合わせ(focusing)及び/またはターニング(turning)を含んでもよい。エミッタ放射線方向付け手段は、それぞれ単一レンズ、一対のレンズ、テレセントリックデザインを含む複合レンズ、光ファイバ光ガイドまたは1以上のレンズを組み合わせた光ガイドの1以上を備えていてもよい。一実施形態では、専用のエミッタ放射線方向付け手段はそれぞれ、放射されたビームの幅を狭くする光ファイバ光ガイドテーパを備えることができる。光ファイバ光ガイドテーパは直線状とすることができる。代わりに、光ファイバ光ガイドテーパは、放射された放射線の入力面及び出力面が互いに0°とならないように、その内部に曲がりを有していることができる。入力面と出力面との間の角度は、20°乃至90°の範囲とすることができる。内部に曲がりを有している光ファイバ光ガイドテーパを使用すると、並列に並んだ複数のエミッタの列を並列にならべることにより、連続的に拡大可能な幅の列が形成されて、解像度を大きくすることができる。
【0017】
基板マーキング装置はさらに、放射線源または放射線方向付け手段に対する所望の位置に基板を保持する基板保持手段を備えていてもよい。基板マーキング装置はさらに、放射線源または放射線方向付け手段と基板との相対的な位置を制御可能に変更することができてもよい。相対的な位置は、連続的に変更することができ、また指示付けされたステップを使用して変更することができる。相対的な位置の変更により、基板マーキング装置は、大きい基板を段階的に制御可能に照射することができる。
【0018】
放射線源は、熱放射線である第1の波長の放射線を供給できることが好ましい。より詳細には、第1の放射線源は、基板に熱エネルギーを供給できることが好ましい。熱エネルギーは、必要に応じたまたは要求に応じた任意の手段によって放射線源から基板に伝達される。そのため「熱放射線」という語は、放射線源と基板との間の接触を介した伝導を含んだ任意の手段により熱エネルギーの伝達を含むものとして理解される。上記のように、熱放射線の放射線源は、パルス的にまたは連続的に放射することができ、単一の、複数のまたは1次元若しくは2次元の熱放射線エミッタの列を備えることができる。熱放射線は、広域スペクトルを有していてもよく、より詳細な周波数範囲に限定されていてもよい。具体的には、熱放射線は、赤外線(IR)及び/または近赤外線(NIR)とすることができる。適当な熱放射線エミッタには、近赤外線レーザ(装置)若しくは赤外線レーザ(装置)、近赤外線ダイオード若しくは赤外線発光ダイオード(LEDs)、抵抗加熱素子または誘導加熱素子とすることができるがこれらに限定されない。
【0019】
放射線源はさらに、紫外線(UV)を第2の波長の放射線として供給できることが好ましい。上記したように、紫外線源は、パルス的にまたは連続的に照射することができ、単一の、複数のまたは1次元若しくは2次元の紫外線エミッタの列を備えることができる。適切な紫外線エミッタは、紫外線レーザ、紫外線発光ダイオード、または(例えば水銀または重水素のような)紫外線ランプを含むことができる。波長は、100nm乃至25ミクロンの範囲であることが好ましく、200nm乃至2500nmの範囲であることがより好ましい。
【0020】
放射線源が紫外線及び熱放射線の両方を供給するこのような実施形態は、当該技術分野での公知のインクレス印刷技術よりも効率を大幅に改善する。通常では、単一の紫外線源のみを使用しており、このような構成でも所望の変色をさせることができるが、このようにするには多くの場合において、より多くの時間とエネルギーが必要になる。熱放射線源は、より効率的であり、しかも低コストで放射能力を高めることができるので、青から赤に基板を変色する場合には、従来技術の構成に対して特に有利である。
【0021】
さらに、放射線源が紫外線及び熱放射線の両方を供給できる実施形態では、当技術分野で公知のインクレス印刷技術と比較して、マーキング工程後に背景光または周辺光への色形成層の光安定性を大幅に改善することができる。詳細には、熱放射線は、基板のマーキングが所望される領域の活性化に使用することができ、紫外線及び熱放射線源のいずれかまたは両方は、これらの領域の変色に使用することができる。このような構成においては、熱放射線に暴露された領域のみが活性化され、その後の変色を引き起こすことができる。このように、基板の活性化されていない他の領域の光安定性が大幅に改善され、例えば背景光または周辺光の入射が原因となって時間と共に変色しやすくなることがない。
【0022】
基板は、任意の適切な基板とすることができる。特に、基板は、ベース層上にジアセチレン材料層を有していてもよい。ジアセチレン材料層は、さらに赤外線吸収材料または近赤外線吸収材料を含んでいてもよい。あるいは、ジアセチレン材料層は、赤外線吸収材料の層または近赤外線吸収材料の層の上に設けてもよく、逆に設けてもよい。
【0023】
基板マーキング装置は、較正手段を備えてもよい。
【0024】
本発明の第2の態様によれば、本発明の第1の態様の基板マーキング装置の較正方法が提供される。
【0025】
較正方法は、複数の波長及び複数の強度のシーケンスで放射線を基板に照射してテストパターンを形成する工程を備えていてもよい。テストパターンは、所定の較正画像と比較することにより確認することができる。テストパターンが較正画像と実質的に同一でない場合には、基板マーキング装置を調整する工程と、テストパターンを再形成する工程とをさらに備えることができる。テストパターンを再形成する工程では、複数の波長及び複数の強度の調整されたシーケンスで基板に放射線を照射してテストパターンを形成する。この調整は、手動または自動のいずれかとすることができる。要求及び/または必要に応じて、このような調整を多くすることができる。
【0026】
本発明の第2の態様では、要求及び/または必要に応じて、本発明の第1の態様の特徴の一部または全部を含めることができる。
【0027】
本発明の第三の態様によれば、本発明の第1の態様の基板マーキング装置を使用する基板マーキング方法が提供される。この基板マーキング方法は、変色のために基板を活性化する第1の波長の放射線を照射する工程と、基板を変色させる第2の波長の放射線を基板に照射する工程とを備えている。
【0028】
第1の波長の放射線は、熱放射線としてもよい。熱放射線は、広域スペクトルを有しているか、赤外線及び/または近赤外線とすることができる。
【0029】
熱放射線を生成する熱放射線源は、1以上の近赤外線レーザ若しくは赤外線レーザまたは近赤外線発光ダイオード若しくは赤外線発光ダイオードとすることができる。加えてまたは代わりに、熱放射線の放射源は、抵抗加熱素子または誘導加熱素子を備え、熱エネルギーを伝導により提供してもよい。
【0030】
第2の波長の放射線は、紫外線とすることができる。紫外線を生成する紫外線放射源は、紫外線レーザ、紫外線発光ダイオード、(例えば水銀または重水素のような)紫外線ランプ、または(例えばコロナ放電またはスパークのような)紫外線放電源の一以上を備えることができる。
【0031】
基板は、ベース層上にジアセチレン材料層を有していてもよい。ジアセチレン材料層は、赤外線吸収材料または近赤外線吸収材料を備えているか、赤外線吸収材料層上または近赤外線吸収材料上に設けられていてもよい。
【0032】
本発明の第3の態様では、要求及び/または必要に応じて、本発明の第1及び/または第2の態様の特徴の一部または全部を含めることができる。
【0033】
本発明がより明確に理解されるように、添付図面を参照して一実施の形態を一例として説明する。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の基板マーキング装置の第1の実施の形態を示す図である。
【図2】本発明の基板マーキング装置の第2の実施の形態を示す図である。
【図3】本発明の基板マーキング装置の第3の実施の形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
図1を参照すると、基板マーキング装置100が示されている。基板マーキング装置100は、画像を形成するために、放射線照射により変色しやすい材料を有する基板101のマーキングに適している。
【0036】
基板101は、ジアセチレン材料層が上部に形成されたベース層を備えている。ジアセチレン材料層は、IR(赤外線)若しくはNIR(近赤外線)吸収材料が組み込まれていてもよく、IR吸収材料層上若しくはNIR吸収材料層上に形成してもよい。放射線の照射により変色しやすい他の材料がドープされた基板を使用してもよいことは、当業者に当然に理解される。
【0037】
本発明の基板マーキング装置での使用に特に適した最先端のジアセチレンの例は、WO2006018640、WO2009093028及びUS6524000に開示されている。放射時に励振を使用し不活性型と活性型との間で可逆的に活性化されるジアセチレン、または例えば不活性型から活性型への溶融再結晶化を使用する非可逆的に活性化されるジアセチレンであることが好ましい。
【0038】
基板マーキング装置100は、それぞれ放射線源である3つのプリントヘッド111,112及び113を備えている。プリントヘッド111及び113は、それぞれIRまたはNIRエミッタ列を備えており、プリントヘッド112は、UVエミッタ列を備えている。より詳細には、プリントヘッド111及び113は、抵抗加熱器または誘導加熱器のような接触型サーマルプリントヘッドを備えていてもよい。各プリントヘッド111,112及び113の種々の個別エミッタは、マイクロプロセッサ115により駆動アンプ114を介して個別にアドレス可能であり、個別に制御可能である。
【0039】
マイクロプロセッサ115は、デジタル画像ファイルを、各プリントヘッド111,112及び113ごとの一組の放射指令に変換することができる。典型的なこの変換には、基板上の特定のスポットまたは領域に画像ファイル中の特定のピクセルをマッピングすることと、各画像ピクセルの色と整合するように基板の各スポットまたは領域の色を変更するために、各プリントヘッド111,112及び113の個別エミッタから要求される照射(持続期間及び/または強度)を決定することとが含まれる。
【0040】
各プリントヘッドのエミッタ列の個別エミッタには、専用の放射線方向付け手段が設けられている。放射線方向付け手段は、各エミッタが放射すると照射スポットの特定の連続(または不連続)パターンが形成されるように、個別エミッタをそれぞれ基板101の表面のスポットに結像させる。放射線方向付け手段は、各エミッタに適切な1以上のレンズ及び/または1以上の光ガイドを備えている。典型的には、各プリントヘッド111,112及び113は、専用の放射線方向付け手段と組み合わされたエミッタ列が基板101上の照射スポットの整合パターンを形成するように適合される。従って、画像ファイル中のピクセルを1以上の照射スポットにマッピングすることができる。
【0041】
マイクロプロセッサ115はさらに、プリントヘッド111,112及び113に対する基板101の動作を制御することができる。この動作は、図1の矢印102で示す単一方向または複数方向に行うことができる。典型的なこの動作は、プリントヘッド111により照射されたスポットパターンの領域が、次にプリントヘッド112のスポットパターンにより対応するように照射される位置に移動し、次にプリントヘッド113のスポットパターンにより対応するように照射される位置に移動するように、矢印102によって示される方向に指示付けされたステップで基板を移動させることで実行される。別の実行においては、基板101の動作に加えて、または動作に代えて、プリントヘッド111,112及び113を移動可能とすることができる。例えば、指示付けされたステップによる矢印102の方向への基板の移動に加えて、矢印102に対して実質的に垂直な方向にプリントヘッド111,112及び113を移動させることができる。プリントヘッド111,112及び113の幅は、基板の幅全体を横切って延びても、また横切らなくてもよい。プリントヘッド111,112及び113の幅が基板の幅よりも狭い場合には、上記のように矢印102と実質的に垂直な方向にプリントヘッド111,112及び113を移動できることが好ましい。
【0042】
使用の際に、基板101は、各プリントヘッド111,112及び113によって順番に放射された放射線に連続的に暴露される。各領域への照射は、各プリントヘッド111,112及び113の対応するエミッタにより放射される放射線により決定される。本実施の形態では、プリントヘッド111により放射された近赤外線または赤外線により、プリントヘッド111のスポットパターンに対応する基板101の照射領域が活性化される。近赤外線または赤外線は、近赤外線または赤外線吸収材料により吸収されると、温度が上昇して、ジアセチレン材料が、低い活性状態からより高い活性状態に活性化される。次に、プリントヘッド112からの紫外光の照射に暴露されて、初期重合が発生し、ジアセチレン材料が変色する。変色の特質は、照射への暴露に依存する。次にプリントヘッド113により放射された近赤外線または赤外線をさらに照射することにより、ジアセチレン材料の構造変化が生じる。この構造変化には、放射線へのさらなる暴露に対応したさらなる変色を含むことができる。基板101の領域を、熱放射線及び紫外線で適切なシーケンスで照射することにより、異なる色の異なる範囲を形成することができる。
【0043】
基板のマーキングされる領域のみが近赤外線または赤外線に暴露されるので、マーキングされる領域のジアセチレン材料のみが、低い活性状態からより高い活性状態に活性化される。このように、基板の活性化されていない他の領域の光安定性は、活性化工程を使用しない従来の技術に比べて大幅に改善される。特に、紫外線源のみを使用する従来の技術よりも改善される。このようにして基板は、背景光または周辺光が原因となって時間と共に変色しやすくならなくなる。
【0044】
さらに、紫外線源及び熱放射線源の両方が色形成工程で使用されているので、従来の技術に比べて本技術の効率は大きく改善されている。青から赤に基板を変色する場合には、紫外線源のみを使用する従来の構成に対して特に利点がある。熱放射線源はより効率的であるので、低コストで放射能力を高めることができる。
【0045】
各プリントヘッド111,112,113のエミッタは、個別に制御可能であるので、基板の各エリアで実行される特定の照射のシーケンスを、制御可能に変更して色画像を形成することができる。このような場合に形成された画像の空間分解能は、各プリントヘッド111、112及び113の照射スポットパターンの各スポットの大きさによって制限される。
【0046】
図2を参照すると、他の実施の形態の基板マーキング装置150が示されている。図2に示す装置では、プリントヘッド111,112、プロセッサ115及び駆動アンプ1141が基板マーキング装置100として設けられているが、プリントヘッド113は設けられていない。本実施の形態では、プリントヘッド113による最終照射工程はおこなわれない。
【0047】
本実施の形態では、画像を形成するために使用する工程が少なくなっているので、第1の実施の形態で画像を形成する場合によりも早く画像を形成でき、有効である。さらに、プリントヘッド113が設けられていないので、基板マーキング装置150の製造コストを大幅に削減することができる。
【0048】
最終照射工程がないので、本工程を使用して達成可能な色範囲が狭くなってしまうことがある。そのため必要な場合には、上記実施の形態でプリントヘッド113により実施した工程を、本発明の本実施の形態において実施するようにしてもよい。本実施の形態では、放射線は、プリントヘッド111により生成される。このような実施形態では、先に触れたより限定された色範囲の問題を被らないのであれば、2つのプリントヘッドを備えた基板マーキング装置は3つのプリントヘッドを備えた基板マーキング装置よりも低コストで製造できるというコストの優位性を享受する。
【0049】
図3を参照すると、更に他の実施の形態の基板マーキング装置200が示されている。本実施の形態では、第1の放射線源211は、紫外線レーザを備えている。第2の放射線源212は、赤外線レーザまたは近赤外線レーザである。各放射線源211及び212は、マイクロプロセッサ(図示せず)の制御下において連続的にまたはパルス的に動作される。
【0050】
放射線源211,212はいずれも、分離した放射線を単一ビームに結合するビーム結合エレメント213に放射線のビームを供給する。ビーム結合エレメント213は、プリズム、ダイクロイックミラーまたは回折格子とすることができる。
【0051】
単一ビームは、放射線方向付け手段によって基板101の表面のスポットに結像させることができる。放射線方向付け手段214はさらに、マイクロプロセッサ(図示せず)の制御下において基板101の表面を横切る一致スポットをスキャンすることができる。放射線方向付け手段214は、傾斜ガルバノ・ミラー、音響光学若しくは電気光学スキャナ、MEMsビーム偏光器、レゾナントスキャナまたはポリゴン回転ミラーとすることができる。基板101の表面を横切るスポットのスキャンは、放射線方向付け手段214及び/または基板101の動作により行うことができる。例えば、放射線方向付け手段214がレゾナントスキャナ及び/またはポリゴン回転ミラーを備えている実施形態については、基板101を放射線方向付け手段214に対して移動させることができる。
【0052】
先の実施形態のように、マイクロプロセッサは、デジタル画像ファイルを、各放射線源211及び212並びに放射線方向付け手段214ごとの一組の放射指令に変換することができる。典型的なこの変換には、基板上の特定のスポットまたは領域に画像ファイル中の特定のピクセルをマッピングすることと、各画像ピクセルの色と整合するように基板の各スポットまたは領域の色を変更するために、個々の放射線源211及び212から要求される照射(持続期間及び/または強度)を決定することとが含まれる。基板101の表面の特定のスポットに入射する各放射線源からの放射線を適切に順番付けすることにより、スポットの変色を制御することができる。次に、放射線方向付け手段214を使用して基板101全体のビームをスキャンすることにより、画像を基板101に完全に形成する。
【0053】
基板マーキング装置200は適宜のシーケンスで動作させることができる。例えば、基板の各スポットを、放射線源211及び212の両方の放射線に同時に暴露させてもよいし、各放射線源211及び212のパルス的な放射線に順番に暴露させてもよい。詳細には、パルス的な実施形態では、暴露のシーケンスは、上記第1の実施の形態と同じ態様の、赤外線または近赤外線、紫外線、赤外線または近赤外線とすることができる。
【0054】
連続的な暴露においては、ビームが次のスポットをスキャンする前に1つのスポットが完全なシーケンスで暴露されるように、スポット基準でスポットにシーケンスを適用することができる。
【0055】
代わりに、次の曝露工程がライン又は領域の各スポットに適用される前に、スポットからスポットにビームをスキャンすることにより、スポットのラインまたは領域におけるスポットごとに順番に、シーケンス内の各暴露工程が適用されるように、ライン基準でラインにまたは領域基準で領域にシーケンスを適用してもよい。
【0056】
3つの実施の形態の基板マーキング装置100.150,200が適当な基板101へのインクレス印刷に使用できることは明白であるが、各基板マーキング装置には、例えば基板上の適切な誘電体コーティング内への導電特性の形成を含む他の適当なタスクを任意に適用することができる。
【0057】
なお本発明は、一例としてのみ記載された上記実施の形態の詳細に限定されるものでないことは当然に理解される。
【符号の説明】
【0058】
100,150,200 基板マーキング装置
101 基板
111,112,113 プリントヘッド
114 駆動アンプ
115 マイクロプロセッサ
211,212 放射線源
213 ビーム結合エレメント
214 放射線方向付け手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線照射により変色しやすい材料を含む基板のマーキングに適した基板マーキング装置であって、2以上の全く異なる波長で放射線を生成する放射線源と、所望の態様で前記基板にマーキングするために、前記放射線源からの所望の量の前記放射線を前記基板の選択された領域に制御可能に照射するように、前記放射線源からの前記放射線の放射を制御する放射制御手段とを備えていることを特徴とする基板マーキング装置。
【請求項2】
前記放射線源は、変色のために前記基板を活性化する第1の波長の放射線と、前記基板を変色させる第2の波長の放射線を放射する請求項1に記載の基板マーキング装置。
【請求項3】
前記第1の波長の放射線は、熱放射線である請求項2に記載の基板マーキング装置。
【請求項4】
前記熱放射線は、広域スペクトルを有しているか、赤外線及び/または近赤外線である請求項3に記載の基板マーキング装置。
【請求項5】
前記熱放射線を生成する熱放射線源は、1以上の近赤外線レーザ若しくは赤外線レーザまたは近赤外線ダイオード若しくは赤外線ダイオードである請求項3または4に記載の基板マーキング装置。
【請求項6】
前記熱放射線を生成する熱放射線源は、抵抗加熱素子または誘導加熱素子を備えており、前記熱エネルギーは、伝導により供給される請求項3または4に記載の基板マーキング装置。
【請求項7】
前記第2の波長の放射線は、紫外線である請求項2乃至6のいずれか1項に記載の基板マーキング装置。
【請求項8】
前記紫外線を生成する紫外線放射源は、紫外線レーザ、紫外線発光ダイオード、(例えば水銀または重水素のような)紫外線ランプ、または(例えばコロナ放電またはスパークのような)紫外線放電源の一以上を備える請求項7に記載の基板マーキング装置。
【請求項9】
前記基板は、ベース層上にジアセチレン材料層を有している請求項1乃至8のいずれか1項に記載の基板マーキング装置。
【請求項10】
前記ジアセチレン材料層は、赤外線吸収材料または近赤外線吸収材料を備えているか、赤外線吸収材料の層上または近赤外線吸収材料の層上に設けられている請求項9に記載の基板マーキング装置。
【請求項11】
前記放射線源は、単一の放射線源である請求項1乃至10のいずれか1項に記載の基板マーキング装置。
【請求項12】
前記放射線源は、2以上の放射線源を備えている請求項1乃至11のいずれか1項に記載の基板マーキング装置。
【請求項13】
前記放射線源は、第1の波長の放射線を生成する第1の放射線源と、第2の波長の放射線を生成する第2の放射線源とを備える請求項2に直接的にまたは間接的に従属する場合の請求項12に記載の基板マーキング装置。
【請求項14】
前記放射制御手段は、マイクロプロセッサを備えている請求項1乃至13のいずれか1項に記載の基板マーキング装置。
【請求項15】
前記放射制御手段は、デジタル画像ファイルを、前記放射線源ごとの一組の放射指令に変換する請求項1乃至14のいずれか1項に記載の基板マーキング装置。
【請求項16】
前記放射線源は、連続的にまたはパルス的に放射線を放射する請求項1乃至15のいずれか1項に記載の基板マーキング装置。
【請求項17】
前記第1の放射線源及び前記第2の放射線源は、実質的に同時に前記基板の複数の領域を照射するように動作可能である請求項13に直接的にまたは間接的に従属する場合の請求項14乃至16のいずれか1項に記載の基板マーキング装置。
【請求項18】
前記第1の放射線源及び前記第2の放射線源は、特定のシーケンスで前記基板の前記複数の領域を照射するように動作可能である請求項13に直接的にまたは間接的に従属する場合の請求項14乃至16のいずれか1項に記載の基板マーキング装置。
【請求項19】
前記シーケンスには、前記第1の放射線源及び前記第2の放射線源のいずれかまたは両方を使用する単一照射または複数照射のいずれかが含まれる請求項18に記載の基板マーキング装置。
【請求項20】
前記放射線源から前記基板の選択された領域に前記放射線を方向付けするように動作可能な放射線方向付け手段をさらに備える請求項1乃至19のいずれか1項に記載の基板マーキング装置。
【請求項21】
前記第1の放射線源及び前記第2の放射線源は、共通する放射線方向付け手段を共有する請求項13に直接的にまたは間接的に従属する場合の請求項20に記載の基板マーキング装置。
【請求項22】
前記放射線方向付け手段は、前記基板の前記表面を横切って放射された放射線をスキャンするように動作可能である請求項20または21に記載の基板マーキング装置。
【請求項23】
前記放射線方向付け手段は、傾斜ガルバノ・ミラー、音響光学若しくは電気光学スキャナ、MEMsビーム偏光器、レゾナントスキャナまたはポリゴン回転ミラーのいずれかを備えている請求項20乃至22のいずれか1項に記載の基板マーキング装置。
【請求項24】
放射線結合エレメントが設けられており、前記放射線結合エレメントは、第1の放射線源及び第2の放射線源から放射された放射線を単一ビームに結合する請求項13に直接的にまたは間接的に従属する場合の請求項21乃至23のいずれか1項に記載の基板マーキング装置。
【請求項25】
前記放射線結合エレメントは、プリズム、ダイクロイックミラー、回折格子またはホログラフィック回折格子である請求項24に記載の基板マーキング装置。
【請求項26】
前記第1の放射線源及び第2の放射線源は、それぞれ単一のエミッタを備えている請求項13に直接的にまたは間接的に従属する場合の請求項14乃至25のいずれか1項に記載の基板マーキング装置。
【請求項27】
前記第1及び第2の放射線源は、それぞれ複合の個別エミッタを備えている請求項13に直接的にまたは間接的に従属する場合の請求項14乃至25のいずれか1項に記載の基板マーキング装置。
【請求項28】
前記個別エミッタは、1以上の1次元または2次元の列に配置されている請求項27に記載の基板マーキング装置。
【請求項29】
前記エミッタはそれぞれ、前記放射制御手段により個別にアドレス可能であり、かつ、制御可能である請求項27または請求項28に記載の基板マーキング装置。
【請求項30】
前記個別エミッタにはそれぞれ、前記個別エミッタから放射された放射線を前記基板の特定のスポット又は領域に方向付けする専用のエミッタ放射線方向付け手段が設けられている請求項27乃至29のいずれか1項に記載の基板マーキング装置。
【請求項31】
前記エミッタ放射線方向付け手段はそれぞれ、単一レンズ、一対のレンズ、複合レンズ、光ファイバ光ガイドまたは1以上のレンズを組み合わせた光ガイドを備えている請求項30に記載の基板マーキング装置。
【請求項32】
前記専用のエミッタ方向付け手段はそれぞれ、光ファイバ光ガイドテーパを備えている請求項30に記載の基板マーキング装置。
【請求項33】
前記光ファイバ光ガイドテーパは、放射された放射線の入力面及び出力面が互いに0°とならないように、その内部に曲がりを有している請求項32に記載の基板マーキング装置。
【請求項34】
前記基板マーキング装置は、放射線源または放射線方向付け手段と基板との相対的な位置を連続的にまたは指示付けされた複数のステップを使用して制御可能に変更する請求項1乃至33のいずれか1項に記載の基板マーキング装置。
【請求項35】
変色のために基板を活性化させる第1の波長の放射線で前記基板を照射する工程と、
前記基板を変色させるために第2の波長の放射線で前記基板を照射する工程とを備える請求項1乃至請求項34のいずれか1項に記載の基板マーキング装置を使用する基板マーキング方法。
【請求項36】
前記第1の波長の放射線は、熱放射線である請求項35に記載の基板マーキング方法。
【請求項37】
前記熱放射線は、広域スペクトルを有しているか、赤外線及び/または近赤外線である請求項36に記載の基板マーキング方法。
【請求項38】
前記熱放射線を生成する熱放射線源は、1以上の近赤外線レーザ若しくは赤外線レーザまたは近赤外線ダイオード若しくは赤外線ダイオードである請求項36または37に記載の基板マーキング方法。
【請求項39】
前記熱放射線を生成する熱放射線源は、抵抗加熱素子または誘導加熱素子を備えており、前記熱エネルギーは、伝導により供給される請求項36または37に記載の基板マーキング方法。
【請求項40】
前記第2の波長の放射線は、紫外線である請求項35乃至39のいずれか1項に記載の基板マーキング方法。
【請求項41】
前記紫外線を生成する紫外線放射源は、紫外線レーザ、紫外線発光ダイオード、(例えば水銀または重水素のような)紫外線ランプ、または(例えばコロナ放電またはスパークのような)紫外線放電源の一以上を備える請求項40に記載の基板マーキング方法。
【請求項42】
前記基板は、ベース層上にジアセチレン材料層を有している請求項35乃至41のいずれか1項に記載の基板マーキング方法。
【請求項43】
前記ジアセチレン材料層は、赤外線吸収材料または近赤外線吸収材料を備えているか、赤外線吸収材料の層上または近赤外線吸収材料の層上に形成されている請求項42に記載の基板マーキング方法。
【請求項44】
請求項1乃至34のいずれか1項に記載の基板マーキング装置の較正方法。
【請求項45】
複数の波長及び複数の強度のシーケンスでに放射線を基板に照射してテストパターンを形成する工程をさらに備える請求項44に記載の基板マーキング装置の較正方法。
【請求項46】
所定の較正画像と比較することによりテストパターンを確認する工程をさらに備える請求項45に記載の基板マーキング装置の較正方法。
【請求項47】
前記テストパターンが較正画像と実質的に同一でない場合には、前記基板マーキング装置を調整する工程と、第2のテストパターンを形成するように複数の波長及び複数の強度の調整されたシーケンスで基板に放射線を照射して前記第2のテストパターンを形成する工程とをさらに備える請求項46に記載の基板マーキング装置の較正方法。
【請求項48】
前記調整は手動で行われる請求項47に記載の基板マーキング装置の較正方法。
【請求項49】
前記調整は自動で行われる請求項47に記載の基板マーキング装置の較正方法。
【請求項50】
前記基板マーキング装置の調整は1よりも多い請求項47乃至49のいずれか1項に記載の基板マーキング装置の較正方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公表番号】特表2013−517947(P2013−517947A)
【公表日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−550514(P2012−550514)
【出願日】平成23年1月25日(2011.1.25)
【国際出願番号】PCT/GB2011/050116
【国際公開番号】WO2011/089447
【国際公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【出願人】(507055925)データレース リミテッド (24)
【氏名又は名称原語表記】DATALASE LTD.
【Fターム(参考)】