説明

インク乾燥防止装置

【課題】塗布ヘッドのノズル面をキャップしてインクの乾燥を防止するとともに、清浄動作を自動化することにより手作業によるノズル面の清浄動作を省くことができるインク乾燥防止装置を提供する。
【解決手段】塗布ヘッドの複数のノズルを配置したノズル面側を覆うキャップトレイと、このキャップトレイを支持するトレイ支持部と、を備えており、キャップトレイには、塗布ヘッドのノズル面に対向する位置に配置されるとともに保存液が湿潤された多孔質体を有するキャップ部が設けられ、塗布ヘッドをキャップトレイに接近させると、塗布ヘッドのノズル面がキャップ部の多孔質体に当接し、さらに塗布ヘッドをキャップトレイに押付けると、キャップトレイが塗布ヘッドから押付力を受けることにより、トレイ支持部が押付方向と直交する方向に変位し、ノズル面に対する多孔質体の当接位置がノズル面に沿って摺動する構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のノズルからインクを着弾させるインクジェット塗布装置において、インクを吐出する塗布ヘッドにおけるインクの乾燥を防止するインク乾燥防止装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
カラー液晶ディスプレイ等のフラットパネルディスプレイには、カラーフィルタが用いられている。このカラーフィルタは、インクジェット塗布装置等によって効率よく製造されている。インクジェット塗布装置は、複数のノズルを有する塗布ヘッドを有しており、この塗布ヘッドのノズルからR(赤色)、G(緑色)、B(青色)の3色のインクを所定位置に高精度に吐出することができる。
【0003】
カラーフィルタの形成は、ガラス等の基板上に3色のインクを所定パターンに精度よく
塗布することによって行われる。高精度で品質のよいカラーフィルタを形成するには、複数のノズルが配置されたノズル面を綺麗に保つ必要がある。すなわち、ノズル面のノズルに乾燥したインクなどの不純物が付着すると、インクの飛行に影響を及ぼしたり、吐出されたインクと共に不純物が基板上に落下するなど、高品質なカラーフィルタの形成が困難になる。そのため、インクジェット塗布装置を長期間停止させる必要がある場合には、塗布ヘッドのインクの乾燥を防止するために塗布ヘッドがキャップされる。具体的には、下記特許文献1に記載されているように、塗布ヘッドを下降させることにより、保存液を湿潤された多孔質体にノズル面を押し当てて密着させることによりキャップされる。これにより、ノズル面が保存液にほぼ曝される状態になり、ノズル面に乾燥したインク等が付着するのが防止される。そして、再度装置を稼働させる場合には、拭取り作業等の清浄動作を行うことにより、ノズル面を清浄した後、塗布動作を行っていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−242058号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記のインクジェット塗布装置では、ノズル面の清浄動作が困難であるという問題があった。具体的には、インクジェット塗布装置のヘッドユニットには、塗布ヘッドが複数個隣接して構成されるヘッドモジュールが複数個設けられている。これらの塗布ヘッドのノズル面が多孔質体に押し付けられて密着されると、多孔質体に含まれる保存液が染み出すことにより、ノズル面の中央部分を含め、ノズル面の端部にまで保存液が付着する。そして、塗布ヘッドを上昇させてキャップの多孔質体から離間させると、ノズル面の中央部分及び端部に保存液が付着したままとなり、高品質なカラーフィルタの形成にはノズル面の清浄が必要となる。しかし、ノズル面の清浄度を保つためには、ノズル面の中央部分及び端部に付着した保存液を手作業で拭き取る(ワイピング)という作業が余儀なくされることになり、この清浄動作が繁雑で困難な作業となっていた。
【0006】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、塗布ヘッドのノズル面をキャップしてインクの乾燥を防止するとともに、清浄動作を自動化することにより手作業によるノズル面の清浄動作を省くことができるインク乾燥防止装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本発明のインク乾燥防止装置は、インクが吐出されるノズルを複数有する塗布ヘッドのインクの乾燥を防止するインク乾燥防止装置であって、前記塗布ヘッドの複数のノズルを配置したノズル面側を覆うキャップトレイと、このキャップトレイを支持するトレイ支持部と、を備えており、前記キャップトレイには、前記塗布ヘッドのノズル面に対向する位置に配置されるとともに保存液が湿潤されたキャップ部が設けられ、前記塗布ヘッドを前記キャップトレイに接近させると、前記塗布ヘッドのノズル面が前記キャップ部に当接し、さらに塗布ヘッドをキャップトレイに押付けると、前記キャップトレイが前記塗布ヘッドから押付力を受けることにより、前記トレイ支持部が押付方向と直交する方向に変位し、前記ノズル面に対する前記キャップ部の当接位置がノズル面に沿って摺動することを特徴としている。
【0008】
上記インク乾燥防止装置によれば、塗布ヘッドのノズル面がキャップ部に当接することにより、塗布ヘッドのインクの乾燥を防止できるとともに、キャップトレイが塗布ヘッドから押付力を受けることにより、ノズル面に対するキャップ部の当接位置がノズル面に沿って摺動することにより、ノズル面の清浄動作を自動的に行うことができる。具体的には、塗布ヘッドをキャップする際、塗布ヘッドをキャップトレイに近接させることによりキャップ部の保存液で湿潤した部分に塗布ヘッドのノズル面を当接させてノズル面をキャップする。この状態では、多孔質体の保存液が染み出すことにより、ノズル面全体が有効に乾燥防止される。この状態から、さらに塗布ヘッドをキャップトレイに押付けると、トレイ支持部が押付方向と直交する方向に変位する。具体的には、トレイ支持部の変位に従ってキャップトレイが押付方向と直交する方向に変位することにより、ノズル面に当接していたキャップ部の湿潤した部分がノズル面に沿って摺動し、当該湿潤した部分がノズル面をワイピングする。すなわち、キャップ部の湿潤した部分が所定の押付力によりノズル面に密着した状態にされることにより、ノズル面の端部を含むノズル面全体がキャップ部の湿潤した部分に当接する。この状態で摺動させると、保存液が染み出た状態でノズル面全体がワイピングされるため、ノズル面の中央部分及び端部に保存液が拭き取られ、ノズル面全体が清浄される。このように、塗布ヘッドをキャップトレイに近接させる動作を行うことにより、自動的に多孔質体がノズル面をワイピングし、ノズル面の清浄動作を行うことができる。したがって、塗布ヘッドのノズル面をキャップしてインクの乾燥を防止できるとともに、ノズル面の清浄動作を自動化することにより手作業による清浄動作を省略することができる。
【0009】
また、前記トレイ支持部は、バネ部材で形成されており、このトレイ支持部は、キャップトレイが前記塗布ヘッドから押付力を受けることにより、押付方向と直交する方向に変位し、キャップトレイと塗布ヘッドとが相対的に互いに離間すると、元の形状に復元する構成にしてもよい。
【0010】
この構成によれば、前記キャップトレイと前記塗布ヘッドとが相対的に接近及び離間を繰り返すことにより、前記キャップ部の湿潤した部分が前記ノズル面に当接した状態で前記ノズル面に沿って繰り返し摺動させてキャップ部によるノズル面のワイピングを繰り返し行うことができる。
【0011】
また、前記トレイ支持部は、ガイド部を有しており、このガイド部により、前記キャップトレイが前記塗布ヘッドから押付力を受けると、前記キャップトレイの変位が、押付方向と直交する方向に案内される構成にしてもよい。
【0012】
この構成によれば、キャップトレイを押付方向と直交する方向に強制的に変位させることができるため、前記キャップ部の湿潤した部分によるノズル面のワイピング動作を確実に行うことができる。
【0013】
また、前記塗布ヘッドが搭載されるヘッドユニットには、前記塗布ヘッドが複数隣接して配置されることにより一体的に形成されたヘッドモジュールが複数設けられており、前記キャップトレイの前記キャップ部は、前記ヘッドモジュールのノズル面を覆う位置に配置されており、前記ヘッドユニットとキャップトレイとを相対的に互いに近接させると、すべての塗布ヘッドがそれぞれ対向する位置に配置されたキャップ部に当接する構成にしてもよい。
【0014】
この構成によれば、ヘッドユニットとキャップトレイとを相対的に近接させることにより、ヘッドユニットに搭載されたすべての塗布ヘッドのノズル面を前記キャップ部の湿潤した部分によるワイピングにより清浄することができる。
【0015】
また、前記キャップ部は、保存液が湿潤された多孔質体が設けられ、この多孔質体は前記ヘッドモジュールの塗布ヘッド配列方向に連続的に形成される凹凸形状を有して固定されており、前記キャップトレイとヘッドユニットとが互いに接近すると、前記多孔質体の凸部は塗布ヘッドのノズル面に当接し、前記多孔質体の凹部は塗布ヘッド同士の隣接部分に位置するように、前記多孔質体が配置されている構成にしてもよい。
【0016】
この構成によれば、ノズル面の端部に多孔質体が当接するのを避けることができるため、ノズル面の端部に保存液が付着するのを抑えることができるとともに、ノズル面の端部に多孔質体を非接触にできるため、多孔質体がノズル面を摺動する時に必要な初期の摺動動力を抑えることができる。すなわち、ノズル面の端部の拭取りは、ノズル面の端部に拭取り部材(多孔質体)が引っかかるなどにより、拭取り動作の初期に大きな動力が必要になるが多孔質体を上記構成にすることにより、必要以上の初期の摺動動力を抑えることができるため、自動化が容易となる。
【発明の効果】
【0017】
本発明のインク乾燥防止装置によれば、塗布ヘッドのノズル面をキャップしてインクの乾燥を防止するとともに、清浄動作を自動化することにより手作業によるノズル面の清浄動作を省くことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態におけるインク乾燥装置を備えたインクジェット塗布装置を概略的に示す側面図である。
【図2】上記インクジェット塗布装置を概略的に示す正面図である。
【図3】上記インク乾燥防止装置とヘッドユニットとを概略的に示す正面図である。
【図4】上記インク乾燥防止装置とヘッドユニットとを概略的に示す上面図である。
【図5】上記インク乾燥防止装置のキャップトレイを概略的に示す断面図である。
【図6】上記インク乾燥防止装置の動作を示す図であり、(a)は、キャップトレイとヘッドモジュールが離間した状態を示す図であり、(b)は、ヘッドモジュールがキャップトレイに当接した状態を示す図であり、(c)は、ヘッドモジュールの押付力をキャップトレイに作用させた状態を示す図であり、(d)は、ヘッドモジュールの押付力を解放した状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明のインク乾燥防止装置に係る実施の形態を図面を用いて説明する。
【0020】
図1は、インク乾燥防止装置を備えたインクジェット塗布装置の一実施形態を示す側面図であり、図2は、インクジェット塗布装置の正面図、図3は、インク乾燥防止装置とヘッドユニットとを示す正面図、図4は、インク乾燥防止装置とヘッドユニットとを示す上面図である。
【0021】
図1〜図4において、インクジェット塗布装置1は、R(赤色)、G(緑色)、B(青色)の各インクを基板10に対して吐出することで、例えばカラー液晶ディスプレイ等のフラットパネルディスプレイに用いられるカラーフィルタを製造することができる。インクジェット塗布装置1は、図1、図2に示すように、基板10を載置するステージ2と、基板10にインクを塗布する塗布ユニット3とを有しており、塗布ユニット3がステージ2に載置された基板10上を移動しつつ、3色のインクを所定の位置に吐出することにより、基板10上に所定のパターンのカラーフィルターが形成される。そして、長時間塗布を行わない場合などには、塗布ユニット3のインクが乾燥するのを防止するため、ステージ2の横に設けられたインク乾燥防止装置4において塗布ユニット3がキャップされるようになっている。
【0022】
なお、以下の説明では、この塗布ユニット3が移動する方向をX軸方向、これと水平面上で直交する方向をY軸方向、X軸およびY軸方向の双方に直交する方向をZ軸方向として説明を進めることとする。
【0023】
塗布ユニット3は、本実施形態では、基板10上にRGB3色のインクを塗布するものであり、インクを吐出するヘッドユニット31と、このヘッドユニット31を支持するガントリ32とを有している。ガントリ32は、ステージ2のY軸方向両端部分に設けられる支持部材32aと、これら2つの支持部材32aを連結するビーム部32bとを有しており、支持部材32aとビーム部32bによって略門型形状を有している。また、ステージ2に隣接する位置には、X軸方向に延びるレール21が設けられており、支持部材32aは、それぞれレール21上にスライド自在に設けられている。そして、支持部材32aには、リニアモータなどの駆動手段が設けられており、リニアモータを駆動制御することにより、支持部材32aがX軸方向に移動し、任意の位置で停止できるようになっている。すなわち、塗布ユニット3がステージ2上を跨ぐ状態でX軸方向に移動し、任意の位置で停止することができる。なお、レール21は、インク乾燥防止装置4まで延びており、リニアモータを駆動制御することにより、塗布ユニット3がインク乾燥防止装置4で停止することができる。
【0024】
また、ビーム部32bには、インクを吐出するヘッドユニット31が設けられている。ヘッドユニット31は、ビーム部32bが支持部材32aに対して昇降動作することにより、基板10に対して昇降動作できるようになっている。これにより基板10にインクを吐出する塗布動作の際には、基板10とヘッドユニット31との距離が適切になるように調節される。また、ヘッドユニット31は、ステージ2のY軸方向寸法の約半分の大きさを有しており、ビーム部32bに対してY軸方向に移動可能に取付けられている。すなわち、X軸方向の所定位置で基板10と対向するヘッドユニット31は、Y軸方向に移動することにより、そのX軸方向所定位置における基板10のすべてのY軸方向領域と対向できるようになっている。
【0025】
また、ヘッドユニット31は、複数のヘッドモジュール5を搭載しており、このヘッドモジュール5からインクが吐出される。ここで、図4は、ヘッドユニット31の上面図である。すなわち、ヘッドユニット31には、複数のヘッドモジュール5が所定間隔で並べて配置されており、図4に示す例では、共通色のヘッドモジュール5がY軸方向に沿って配置され、異なる色のヘッドモジュール5がX軸方向に所定間隔Y軸方向に変位した状態で配置されている。例えば、本実施形態では、上段に並ぶヘッドモジュール5(R)から赤色インクが吐出され、中段に並ぶヘッドモジュール5(G)から緑色インクが吐出され、下段に並ぶヘッドモジュール5(B)から青色インクが吐出されるようになっている。
【0026】
また、ヘッドモジュール5は、複数の塗布ヘッド51が一体化されたものである。この塗布ヘッド51は、ピエゾ素子を駆動源としたインク吐出装置であり、インクが吐出されるノズルが複数配列されたノズル面51aを有している(図3参照)。ヘッドモジュール5には、一体化されたすべての塗布ヘッド51のノズル面51aが基板10側に向く状態で配置されている。そして、ピエゾ素子を駆動させることにより、ノズル面51aに配列された各ノズルから一滴ずつインクを吐出できるようになっている。これにより、基板10上の塗布領域の所定位置に所定のインクを吐出することにより、吐出パターンを形成することができる。すなわち、ガントリ32をX軸方向(+方向)に走行させつつ、基板10上の所定位置に位置するノズルからインクを吐出させる。次いで、基板10のX軸方向端部でガントリ32を停止させた状態でヘッドユニット31をビーム部32bのY軸方向端部まで移動させ、今度はガントリ32をX軸方向(−方向)に走行させつつ、基板10上の所定位置に位置するノズルからインクを吐出させることにより、基板10全体に所定パターンを形成することができる。
【0027】
ここで、カラーフィルタの生産を一時的に停止するなど、基板10への塗布動作を長時間行わない場合には、インク乾燥防止装置4により塗布ヘッド51のインクの乾燥を防止される。
【0028】
インク乾燥防止装置4は、塗布ヘッド51のノズル面51aを覆ってキャップすることにより、インクの乾燥を防止するものである。すなわち、塗布ヘッド51をキャップする場合には、塗布ユニット3をインク乾燥防止装置4まで走行させ、ヘッドユニット31がインク乾燥防止装置4に対向する位置で停止させる。そして、ヘッドユニット31を下降させてヘッドユニット31とインク乾燥防止装置4とを当接させることにより、塗布ヘッド51のインクの乾燥を防止できるようになっている。
【0029】
このインク乾燥防止装置4は、図3に示すように、基台41上にキャップトレイ42とキャップトレイ42を支持するトレイ支持部43とを有しており、キャップトレイ42に塗布ヘッド51が当接することでキャップされる。
【0030】
キャップトレイ42は、塗布ヘッド51のノズル面51aをキャップするものであり、図3〜図5に示すように、略直方体形状のキャップトレイ42が3つ基台41上に設けられている。具体的には、キャップトレイ42は、ヘッドユニット31のY軸方向寸法とほぼ同じ寸法か少し大きい寸法でY軸方向に延びる形状を有している。そして、同一色の塗布ヘッド51すべてを一度にキャップするように構成されており、図4に示す例では、赤色の塗布ヘッド51をキャップするキャップトレイ42(R)と、緑色の塗布ヘッド51をキャップするキャップトレイ42(G)と、青色の塗布ヘッド51をキャップするキャップトレイ42(B)が、X軸方向に3段に分かれて配置されている。すなわち、インク乾燥防止装置4上にヘッドユニット31が停止した場合に、ヘッドユニット31の同一色のインクを吐出する塗布ヘッド51が、Y軸方向に亘って共通のキャップトレイ42と対向するように配置されており、キャップされた状態では、同一色のインクを吐出する塗布ヘッド51が共通のキャップトレイ42で一度にキャップされるようになっている。
【0031】
キャップトレイ42は、保存液を貯留するトレイ本体42aと塗布ヘッド51をキャップするキャップ部42bとを有している。
【0032】
トレイ本体42aは、一方向に延びる形状を有しており、図5に示すように、ヘッドモジュール5のX軸方向寸法とほぼ同じか少し大きい寸法で、同一色のインクを吐出する塗布ヘッド51がY軸方向に並ぶ寸法とほぼ同じ寸法に形成されている。すなわち、ヘッドユニット31とインク乾燥装置とが対向して配置された状態では、同一色のインクを吐出するヘッドモジュール5が共通のキャップトレイ42に対向するようになっている。また、トレイ本体42aは、保存液を溜める貯留部61を有しており、この貯留部61に保存液が溜められている。この保存液は、インクを溶解させるものであればよく、例えば、インクを構成する主要剤を用いれば、インクを溶解させやすい点で好ましい。また、この貯留部61には、上方に突出する間仕切部62が形成されており、塗布ヘッド51と対向したときにノズル面51aに対向する位置に形成されている。この間仕切部62は、後述のキャップ部42bの多孔質体70を凹凸形状に形成するためのものであり、複数個の間仕切部62がY軸方向に延伸して形成されている。
【0033】
キャップ部42bは、塗布ヘッド51のノズル面51aに当接することによりノズル面51aをキャップし、インクの乾燥を防止するものである。キャップ部42bは、保存液を吸収する多孔質体70を有しており、この多孔質体70がトレイ本体42aに取付けられることによって形成されている。この多孔質体70は、ヘッドモジュール5と同じか少し大きい程度のシート状に形成されており、トレイ本体42aとヘッドモジュール5とが対向する位置にそれぞれ固定されている。
【0034】
具体的には、図4、図5に示すように、ヘッドモジュール5のノズル面51aを覆う程度の大きさの多孔質体70が、トレイ本体42aのヘッドモジュール5と対向する位置に載置されており、1つのトレイ本体42aに載置されたすべての多孔質体70が1つの押さえ板71によって挟まれることによって固定されている。この押さえ板71は、トレイ本体42aに取付可能な枠体であって、その中央部分には、一方向(Y軸方向)に延びる棒状体を有している。そして、押さえ板71をトレイ本体42aに取付けた状態では、棒状体がトレイ本体42aの間仕切部62の間に位置するように設計されている。これにより、多孔質体70が押さえ板71によって挟まれた状態では、多孔質体70は、間仕切部62によって上向きに支持されるとともに、押さえ板71の棒状体によって下向きに押圧される。すなわち、多孔質体70は、図5に示すように、凹凸形状を形成した状態で固定される。その結果、ヘッドモジュール5と多孔質体70が対向した状態では、凹凸形状の凸部70aがノズル面51aに対向し、凸部70aがノズル面51aに当接させやすいようになっている。そして、凹部70bはノズル面51a間(塗布ヘッド51間)に位置することにより、多孔質体70がノズル面51aの端部に直接触れるのを押さえ、ノズル面51aの端部に保存液をできるだけ付着させにくいようになっている。
【0035】
また、多孔質体70が押さえ板71によって挟まれた状態では、多孔質体70の一部が貯留部61に貯留された保存液と接触し、保存液が多孔質体70に吸収されるようになっている。これにより多孔質体70が乾燥するのを抑え、多孔質体70は保存液で湿潤された状態を保てるようになっている。そして、塗布ヘッド51のノズル面51aがキャップ部42bの多孔質体70に当接することにより、多孔質体70の保存液がノズル面51aに染み出し、ノズル面51aと大気との接触が保存液により遮断される。これにより、ノズル面51aをキャップして塗布ヘッド51のインクを乾燥から防止することができる。なお、本実施形態では、キャップ部42bに多孔質体70を用いるが保存液を湿潤できる部材であればよく、多孔質体70の代わりに、布部材、綿部材、紙部材等が使用可能である。ただし、耐久性や拭取り性能の点から、多孔質体70を用いるのが好ましい。すなわち、多孔質体70を用いて上述の凹凸形状にすることで、ノズル面51aの端部の引っかかりが防止できることにより、拭取り動作の初期動力を抑えることができる。
【0036】
また、トレイ支持部43は、キャップトレイ42を支持するものであり、基台41上に設置されている。本実施形態におけるトレイ支持部43は、板バネ80が使用されており、キャップトレイ42の底面部42cと基台41の表面とにボルト81によって締結されている。具体的には、キャップトレイ42の底面部42cの4隅にそれぞれ板バネ80が取付けられている。一般的に板バネ80は、荷重を受けると、荷重を受ける方向に収縮するとともに、収縮する方向と直交する方向に自然に変位する。すなわち、図5に示す例では、Y軸方向から見て、板バネ80が断面S字状に見えるように設けられており、これらのトレイ支持部43がZ方向から荷重を受けると、X軸方向に変位する。これにより、キャップ動作を行う際にノズル面51aを清浄することができる。すなわち、塗布ヘッド51のノズル面51aをキャップ部42bの多孔質体70に当接させ、さらに塗布ヘッド51のノズル面51aを多孔質体70側に押圧して変位させることにより、トレイ支持部43である板バネ80がZ方向(塗布ヘッド51がキャップ部42bに近接する方向)に収縮するとともに、Z方向と直交する方向(塗布ヘッド51がキャップ部42bに近接する方向と直交する方向)にも変位することにより、ノズル面51aに当接する多孔質体70の当接位置が、ノズル面51aに沿って変位する。すなわち、図5に示す例では、トレイ支持部43の変位方向(X軸方向)に従って多孔質体70の当接位置がX軸方向に摺動する。逆に、塗布ヘッド51をキャップ部42bから離間させるため塗布ヘッド51の押付力を解除すると、トレイ支持部43である板バネ80が復元することにより、多孔質体70の当接位置が元の位置に変位する。したがって、塗布ヘッド51とキャップトレイ42とを相対的に近接させることにより、また、近接させた状態から離間させることにより、多孔質体70の当接位置がノズル面51aに沿って摺動し、ノズル面51aを多孔質体70でワイピングすることができる。すなわち、塗布ヘッド51をキャップトレイ42に近接させる動作を行うことにより、塗布ヘッド51のノズル面51aを清浄することができる。
【0037】
ここで、「直交する方向に変位する」とは、Z方向(鉛直方向)に対して直交方向(水平方向)のみに変位する場合のみならず、Z方向に対して直交方向成分を有する変位であればよい。すなわち、Z方向に対して交差する方向に変位する場合であれば、「直交する方向に変位する」に含まれるものとする。
【0038】
また、本実施形態のトレイ支持部43には、ガイド部82を有している。ガイド部82は、キャップトレイ42の変位を案内するものであり、塗布ヘッド51とキャップトレイ42とが互いに近接する方向と直交する方向に案内するように設けられている。このガイド部82は、所定角度の傾斜面82aを有するブロック部材であり、その傾斜面82aがキャップトレイ42の底面部42cに当接するように設置されている。具体的には、キャップトレイ42が塗布ヘッド51から押付力を受けたときに、塗布ヘッド51がキャップ部42bに近接する方向と直交する方向を向くように設置されており、図5に示す例では、傾斜面82aがX軸方向に向く状態で設置されている。これにより、キャップトレイ42が塗布ヘッド51から押付力を受けZ方向下向きに変位すると、キャップトレイ42の底面部42cが傾斜部分に当接し、キャップトレイ42が下向きに変位しようとするのを近接する方向と直交する方向(X軸方向)に案内する。すなわち、トレイ支持部43の板バネ80が塗布ヘッド51から押付力を受けたときにZ方向に直交する方向に変位するのを補助し、キャップトレイ42が変位する方向性を所定方向に確実に案内する。よって、このガイド部82を設けることにより、塗布ヘッド51のノズル面51aを多孔質部材が摺動するワイピング方向を一定に設定することができ、キャップトレイ42をZ軸方向に変位させるだけで、より確実にワイピングを行わせることができる。
【0039】
次に、インク乾燥防止装置4の動作について図6を用いて説明する。
【0040】
まず、インクジェット塗布装置1の塗布動作を中断し、長時間装置を停止させる場合には、塗布ヘッド51にキャップが行われ塗布ヘッド51のインクの乾燥が防止される。具体的には、塗布ユニット3のガントリ32を駆動制御し、ヘッドユニット31がインク乾燥防止装置4に対向する位置で停止させる。すなわち、塗布ヘッド51のノズル面51aがキャップ部42bの多孔質体70に対向する位置で停止させる(図6(a))。
【0041】
そして、ヘッドユニット31を下降させることにより、ヘッドモジュール5における塗布ヘッド51のノズル面51aをキャップ部42bの多孔質体70に当接させる(図6(b))。これにより、多孔質体70に含まれている保存液が染み出し、ノズル面51a全体を覆うことにより大気との接触が遮断され、塗布ヘッド51のインクの乾燥が防止される。
【0042】
そして、さらにこの状態からヘッドユニット31を下降させる。すなわち、塗布ヘッド51からキャップ部42bが押付けられることにより、トレイ支持部43がZ方向に収縮すると共に、Z方向と直交する方向にも変位する(図6(c))。すなわち、キャップトレイ42がZ方向と直交する方向に変位するとともに、キャップトレイ42がガイド部82の傾斜面82aに当接することにより、キャップトレイ42が元の位置(図6(c)の破線で示す位置)からZ方向と直交する方向(図6の例ではX軸方向)に変位方向が誘導される。これにより、塗布ヘッド51のノズル面51aに当接していた多孔質体70の当接位置は、キャップトレイ42のZ方向と直交する方向(X軸方向)に変位することにより、ノズル面51aに沿ってノズル面51aの配列方向に摺動する。すなわち、ノズル面51aが多孔質体70によってワイピングされ、ノズル面51aが清浄される。
【0043】
次に、再度、塗布動作を行うためにヘッドユニット31を上昇させると、板バネ80が復元することにより多孔質体70の当接位置が元の位置に変位する(図6(d))。そして、さらにヘッドユニット31を上昇させることにより、塗布ヘッド51がキャップ部42bから離間し、所定の高さ位置になるとガントリ32を走行させて塗布ユニット3をインクジェット塗布装置1側に移動させる。
【0044】
このように、ヘッドユニット31を昇降動作させることにより、多孔質体70の当接位置がノズル面51aに沿って摺動する。すなわち、塗布ヘッド51をキャップをする際、及び、塗布ヘッド51をキャップから離間させる際に、ノズル面51aを多孔質体70により自動的にワイピングして清浄することができる。
【0045】
上記実施形態では、キャップトレイ42が3つ設けられたインク乾燥防止装置4の例について説明したが、キャップトレイ42は、1つ又は2つでもよく、3つ以上設けるものであってもよい。その場合、インクの色が同一である塗布ヘッド51を共通のキャップトレイ42にすることが好ましい。すなわち、塗布ヘッド51のノズル面51aと多孔質体70が当接することにより、保存液の貯留部61に異なるインクが溶け込み、それぞれのノズル面51aのノズルに異なるインクが混入するのを防止するためである。
【0046】
また、上記実施形態では、キャップトレイ42がヘッドユニット31のY軸方向に配列されたヘッドモジュール5を全て覆う構成について説明したが、Y軸方向において、適当なところで分割した構成のキャップトレイ42を用いてもよい。
【0047】
また、上記実施形態では、トレイ支持部43にS字状のバネ部材を用いる例について説明したが、トレイ支持部43をコイルバネとガイド部82とを有する構成であってもよい。この構成であっても、塗布ヘッド51からキャップ部42bが押圧されることにより、トレイ支持部43のコイルバネがZ方向に収縮すると共に、Z方向と直交する方向にも変位する。すなわち、キャップトレイ42がZ方向と直交する方向に変位するとともに、キャップトレイ42がガイド部82の傾斜面82aに当接することにより、Z方向と直交する方向(図5の例ではX軸方向)に変位方向が誘導される。
【0048】
なお、トレイ支持部43について、S字状のバネやコイルバネなど、バネ部材について例をあげたが、ゴム材により形成された柱状部材など、Z方向のみに収縮する部材以外の部材であれば、Z方向と直交する方向に変位するため、ワイピングの効果を得ることができる。
【0049】
また、複数のヘッドモジュール5のノズル面51aを対応する複数のキャップ部42bで一度に覆う例について説明したが、ヘッドモジュール5のノズル面51aごとに、それぞれ独立したインク乾燥防止装置4を備える構成であってもよい。
【符号の説明】
【0050】
1 インクジェット塗布装置
2 ステージ
3 塗布ユニット
4 インク乾燥防止装置
5 ヘッドモジュール
31 ヘッドユニット
42 キャップトレイ
43 トレイ支持部
51 塗布ヘッド
51a ノズル面
70 多孔質体
80 板バネ
82 ガイド部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクが吐出されるノズルを複数有する塗布ヘッドのインクの乾燥を防止するインク乾燥防止装置であって、
前記塗布ヘッドの複数のノズルを配置したノズル面側を覆うキャップトレイと、
このキャップトレイを支持するトレイ支持部と、
を備えており、
前記キャップトレイには、前記塗布ヘッドのノズル面に対向する位置に配置されるとともに保存液が湿潤されたキャップ部が設けられ、
前記塗布ヘッドを前記キャップトレイに接近させると、前記塗布ヘッドのノズル面が前記キャップ部に当接し、さらに塗布ヘッドをキャップトレイに押付けると、前記キャップトレイが前記塗布ヘッドから押付力を受けることにより、前記トレイ支持部が押付方向と直交する方向に変位し、前記ノズル面に対する前記キャップ部の当接位置がノズル面に沿って摺動することを特徴とするインク乾燥防止装置。
【請求項2】
前記トレイ支持部は、バネ部材で形成されており、このトレイ支持部は、キャップトレイが前記塗布ヘッドから押付力を受けることにより、押付方向と直交する方向に変位し、キャップトレイと塗布ヘッドとが相対的に互いに離間すると、元の形状に復元することを特徴とする請求項1に記載のインク乾燥防止装置。
【請求項3】
前記トレイ支持部は、ガイド部を有しており、このガイド部により、前記キャップトレイが前記塗布ヘッドから押付力を受けると、前記キャップトレイの変位が、押付方向と直交する方向に案内されることを特徴とする請求項1又は2に記載のインク乾燥防止装置。
【請求項4】
前記塗布ヘッドが搭載されるヘッドユニットには、前記塗布ヘッドが複数隣接して配置されることにより一体的に形成されたヘッドモジュールが複数設けられており、
前記キャップトレイの前記キャップ部は、前記ヘッドモジュールのノズル面を覆う位置に配置されており、
前記ヘッドユニットとキャップトレイとを相対的に互いに近接させると、すべての塗布ヘッドがそれぞれ対向する位置に配置されたキャップ部に当接することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のインク乾燥防止装置。
【請求項5】
前記キャップ部は、保存液が湿潤された多孔質体が設けられ、この多孔質体は前記ヘッドモジュールの塗布ヘッド配列方向に連続的に形成される凹凸形状を有して固定されており、
前記キャップトレイとヘッドユニットとが互いに接近すると、前記多孔質体の凸部は塗布ヘッドのノズル面に当接し、前記多孔質体の凹部は塗布ヘッド同士の隣接部分に位置するように、前記多孔質体が配置されていることを特徴とする請求項4に記載のインク乾燥防止装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−20230(P2012−20230A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−159968(P2010−159968)
【出願日】平成22年7月14日(2010.7.14)
【出願人】(000219314)東レエンジニアリング株式会社 (505)
【Fターム(参考)】