説明

インク受容膜およびそれを用いた積層基板、導電性部材

【課題】導電時のマイグレーションの発生を防止するとともに、導電ペースト印刷時の滲みを防止することが出来るインク受容膜およびそれを用いた積層基板、導電性部材を提供する。
【解決手段】シシランカップリング剤の縮合物を主成分とするインク受容膜であって、インク受容膜の酸含有量はNOとして0.6ppm以下であり、比表面積は30cm/cm以下であることを特徴とするインク受容膜である。また、前記インク受容膜が基板に積層していることを特徴とする積層基板である。さらに、前記積層基板のインク受容膜が積層された面に、導電性材料を印刷又は塗布することにより導電性パターンが形成されていることを特徴とする導電性部材である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インク受容膜およびそれを用いた積層基板、導電性部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プリント配線基板の配線パターンの形成方法には、大別して、サブトラクティブ法、セミアディティブ法、およびアディティブ法がある。そして、上記いずれの方法においても、フォトリソグラフィ技術を用いている。しかしながら、フォトリソグラフィ技術によってレジストパターンを形成して、所望の配線パターンを形成する方法は、フォトマスクの作成に時間が必要である。また、配線用金属の不要部除去のためのエッチング処理とは別に、レジストパターンを形成するためのレジストの露光現像処理も必要である。そのため、配線パターンを形成するのに時間やコストがかかる。
【0003】
そこで、近年、導電微粒子分散インク描画方式を用いることにより、プリント配線基板の配線パターンを形成する方法が提案されている。この導電微粒子分散インク描画方式は、インクジェット印刷方式を用いて、導電性の微粒子材料を、所望の配線パターンに応じて、直接、基板上にパターンニングすることにより、配線パターンを形成する。導電微粒子分散インク描画方式は、マスクを作成する必要がないため、フォトリソグラフィ技術によって、レジストパターンを形成して、所望の配線パターンを形成する従来の方法と比較すると製造工程の数が少ない。しかしながら、微粒子材料のパターンを高精細で描くためには、導電ペースト印刷時の滲みを防止することが必要となる。
【0004】
このような問題を解決するために、例えば特許文献1には、基材にあらかじめ無機酸化物微粒子からなる凝集促進層を設け、金属超微粒子溶液を塗布した際に、下層の無機酸化物微粒子により形成された細孔へ主として溶媒が選択的に浸透することで、金属超微粒子の凝集を促進することが出来る導電性パターン形成用基材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−229653号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、これら凝集促進層のような多孔質層を有する基材においては、めっきなどの湿式プロセスにおいて、処理液が多孔質に入り込み、回路特性に悪影響を及ぼすことや、銀を主成分とするインクを用いた場合には導電時のマイグレーション(金属成分が移動する現象)が促進されるといった問題がある。
【0007】
今回、本発明者らが多孔質層を有する基材により配線形成を試みたところ、配線基板を高温、高湿度下において使用すると、電極周辺にデンドライト状のマイグレーションが発生して通電直後に短絡してしまうことが分かった。
【0008】
本発明は、上記のような問題を鑑みてなされたものであって、導電時のマイグレーションの発生を防止するとともに、導電ペースト印刷時の滲みを防止することが出来るインク受容膜およびそれを用いた積層基板、導電性部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以上の目的を達成するために、本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、シランカップリング剤の縮合物を主成分とし、特定の酸含有量と比表面積を有するインク受容膜を基板に積層した導電性部材は、導電時のマイグレーションの発生を防止するとともに、導電ペースト印刷時の滲みを防止することが出来ることを見出し、本発明に至った。
【0010】
すなわち本発明は、シランカップリング剤の縮合物を主成分とするインク受容膜であって、インク受容膜の酸含有量はNOとして0.6ppm以下であり、比表面積は30cm/cm以下であることを特徴とするインク受容膜に関する。
【0011】
また、本発明は、前記インク受容膜が基板に積層した積層基板、および前記積層基板のインク受容膜が積層された表面に、導電性材料を印刷又は塗布することにより導電性パターンが形成された導電性部材に関する。
【発明の効果】
【0012】
以上のように、本発明によれば、導電時のマイグレーションの発生を防止するとともに、導電ペースト印刷時の滲みを防止することが出来るインク受容膜およびそれを用いた積層基板、導電性部材を提供することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実験例1および2において導電性部材に印刷された櫛型パターン電極を表す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(インク受容膜)
本発明に係るインク受容膜においては、後述する導電性部材の耐マイグレーション性を考慮し、インク受容膜の多孔度および膜の酸の量が規定されている。なお、インク受容膜の多孔度は、膜の比表面積を測定することによって分かる。
【0015】
本発明に係るインク受容膜の酸含有量は、NOとして0.6ppm以下であり、好ましくは0.5ppm以下、より好ましくは0.1を超え0.5ppmの範囲であり、特に好ましくは0.2〜0.5ppmの範囲である。具体的には、本発明におけるインク受容膜の酸含有量は以下のイオンクロマトグラフィーを用いる硝酸イオン量の定量方法において検出される硝酸イオンの濃度を測定する方法により求められる。
【0016】
まず、シランカップリング剤の縮合物をポリイミドフィルムに塗工し、200℃で90秒の間加熱乾燥する。次に、加熱乾燥した後のポリイミドフィルムの塗工物を縦12cm横10cmの大きさにカットする。縦12cm×横10cmの大きさのサンプルを純水10gに入れ、50℃で4時間加熱した後、液を回収する。次に、イオンクロマトグラフィー(IC日本ダイオネクス製DX−120)の直接IC法により、この液の硝酸イオン量を測定することで、インク受容膜の酸含有量を測定することが出来る。検出される硝酸イオンの濃度が0.6ppmよりも大きい場合には、導電ペーストを印刷したパターンの絶縁信頼性試験において、高温高湿条件で1000時間を耐久させる良好な結果を得ることが難しい。
【0017】
また、本発明に係るインク受容膜の比表面積は、30cm/cm以下であり、好ましくは15cm/cm以下、より好ましくは1を超え15cm/cmの範囲であり、特に好ましくは7〜13cm/cmの範囲である。ここで、インク受容膜の比表面積は、単位基板面積当り、単位インク受容膜高さ当りの、インク受容膜の表面積である。測定される比表面積の値が30cm/cmよりも大きい場合には、導電ペーストを印刷したパターンの絶縁信頼性試験において、高温高湿条件で1000時間を耐久させる良好な結果を得ることが難しい。
【0018】
本発明に係るインク受容膜においては、後述する実施例より、たとえ膜に残存する硝酸イオン量が低くても受容膜が多孔質である場合には、絶縁信頼性試験において良好な結果を得ることができないことが示された。即ち、絶縁信頼性試験において、1000時間を耐久させる良好な結果を得るためには、膜に残存する硝酸イオン量を低くすると同時に、受容膜の比表面積を低くする、即ち無孔の構造に近づけることが必要である。
【0019】
(シランカップリング剤の縮合物)
本発明に係るインク受容膜は、主成分としてシランカップリング剤の縮合物を含む。上記縮合物において、原料となるシランカップリング剤の例としては、特に限定されず、例えば、下記一般式(1)で表される化合物、その縮合生成物を例示することができる。
【0020】
【化1】

【0021】
ここで、上記式(1)中、Wは、炭素数1〜20のアルコキシ基、水酸基、炭素数1〜20のアセトキシ基、ハロゲン原子、水素原子、炭素数1〜20のオキシム基、フェノキシ基、アミノキシ基、アミド基からなる群より選ばれる基を示す。Rは、直鎖状若しくは分岐状の炭素数1〜30のアルキル基、炭素数5〜20のシクロアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、アミノ基を有する炭素数1〜30のアルキル基からなる群より選ばれる官能基を示す。なお、炭素数6〜20のアリール基は、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシ基又はハロゲン原子で置換されていてもよい。
また、xは1〜4の整数であり、yは0〜3の整数であり、x+y=4である。さらに、xが2以上のとき、複数のWは互いに同一でも異なっていてもよく、yが2以上のとき、複数のRは互いに同一でも異なっていてもよい。
【0022】
上記式(1)で表される化合物としては、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ−n−プロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラ−n−ブトキシシランに代表されるテトラアルコキシシラン類;メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、n−プロピルトリエトキシシラン、イソプロピルトリメトキシシラン、イソプロピルトリエトキシシラン、n−ブチルトリメトキシシラン、n−ブチルトリエトキシシラン、n−ペンチルトリメトキシシラン、n−ヘキシルトリメトキシシラン、n−ヘプチルトリメトキシシラン、n−オクチルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、シクロヘキシルトリメトキシシラン、シクロヘキシルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリエトキシシラン、3,3,3−トリフロロプロピルトリメトキシシラン、3,3,3−トリフロロプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、2−ヒドロキシエチルトリメトキシシラン、2−ヒドロキシエチルトリエトキシシラン、2−ヒドロキシプロピルトリメトキシシラン、2−ヒドロキシプロピルトリエトキシシラン、3−ヒドロキシプロピルトリメトキシシラン、3−ヒドロキシプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3−イソシアナートプロピルトリメトキシシラン、3−イソシアナートプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、3−(メタ)アクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−(メタ)アクリルオキシプロピルトリエトキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリn−プロポキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリイソプロポキシシラン、3−ウレイドプロピルトリメトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリエトキシシランに代表されるトリアルコキシシラン類;ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジ−n−プロピルジメトキシシラン、ジ−n−プロピルジエトキシシラン、ジイソプロピルジメトキシシラン、ジイソプロピルジエトキシシラン、ジ−n−ブチルジメトキシシラン、ジ−n−ブチルジエトキシシラン、ジ−n−ペンチルジメトキシシラン、ジ−n−ペンチルジエトキシシラン、ジ−n−ヘキシルジメトキシシラン、ジ−n−ヘキシルジエトキシシラン、ジ−n−ヘプチルジメトキシシラン、ジ−n−ヘプチルジエトキシシラン、ジ−n−オクチルジメトキシシラン、ジ−n−オクチルジエトキシシラン、ジ−n−シクロヘキシルジメトキシシラン、ジ−n−シクロヘキシルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシランに代表されるジアルコキシシラン類;トリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシランに代表されるモノアルコキシシラン類;N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジプロポキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジイソプロポキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリプロポキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリイソプロポキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノイソブチルジメチルメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノイソブチルメチルジメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−11−アミノウンデシルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルシラントリオール、3−トリエトキシシリル−N−(1,3−ジメチル−ブチリデン)プロピルアミン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N,N−ビス〔3−(トリメトキシシリル)プロピル〕エチレンジアミン、(アミノエチルアミノエチル)フェネチルトリメトキシシラン、(アミノエチルアミノエチル)フェネチルトリエトキシシラン、(アミノエチルアミノエチル)フェネチルトリプロポキシシラン、(アミノエチルアミノエチル)フェネチルトリイソプロポキシシラン、(アミノエチルアミノメチル)フェネチルトリメトキシシラン、(アミノエチルアミノメチル)フェネチルトリエトキシシラン、(アミノエチルアミノメチル)フェネチルトリプロポキシシラン、(アミノエチルアミノメチル)フェネチルトリイソプロポキシシラン、N−(ビニルベンジル)−2−アミノエチル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(ビニルベンジル)−2−アミノエチル−3−アミノプロピルメチルジメトキシラン、N−β−(N−ビニルベンジルアミノエチル)−N−γ−(N−ビニルベンジル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(N−ジ(ビニルベンジル)アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(N−ジ(ビニルベンジル)アミノエチル)−N−γ−(N−ビニルベンジル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、メチルベンジルアミノエチルアミノプロピルトリメトキシシラン、ジメチルベンジルアミノエチルアミノプロピルトリメトキシシラン、ベンジルアミノエチルアミノプロピルトリメトキシシラン、ベンジルアミノエチルアミノプロピルトリエトキシシラン、又は3−(N−フェニル)アミノプロピルトリメトキシシラン、2−[2−(3−トリメトキシシリルプロピルアミノ)エチルアミノ]エチルアミン、2−[2−(3−トリエトキシシリルプロピルアミノ)エチルアミノ]エチルアミン、2−[2−(3−トリイソプロポキシシリルプロピルアミノ)エチルアミノ]エチルアミン、p−アミノフェニルトリメトキシシラン等のシランカップリング剤が挙げられる。これらは1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0023】
本発明に係るインク受容膜は、後工程のインクの焼成などの高温処理(250℃以上)で熱分解や昇華などが起こらず、膜の形態を保持した上でかつその機能が低下しないことが要求される。このため、縮合物の原料となるシランカップリング剤には縮合した場合の耐熱性が要求される。そこで、本発明に係るシランカップリング剤は、縮合後の耐熱性の高いものを使用することが有効である。このようなシランカップリング剤として、例えば、フェニルトリエトキシシランおよびp−アミノフェニルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、(アミノエチルアミノメチル)フェネチルトリメトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、2−[2−(3−トリメトキシシリルプロピルアミノ)エチルアミノ]エチルアミンが挙げられ、その中でもフェニルトリエトキシシランおよびp−アミノフェニルトリメトキシシランが好適に用いられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、アミノ基を有するシランカップリング剤と、アミノ基を有しないシランカップリング剤とを組み合わせて用いてもよい。シランカップリング剤は、ポリイミドフィルムなどの有機基材や、導電インクを焼結して成る導電性パターンに対する接着性、更に耐熱性の高さを考慮して、アミノ基を有することが好ましい。
【0024】
本発明においては、前記シランカップリング剤をゾルゲル反応によって加水分解−縮合反応してSi−Oの繰り返し単位を主骨格とする縮合物を作製する。本発明に係るインク受容膜は、インク受容膜に残存する酸の量を低減することが極めて重要である。このため、シランカップリング剤をゾルゲル反応によって加水分解−縮合反応してSi−Oの繰り返し単位を主骨格とする縮合物を作製する際に、酸を使用しないもしくは膜に残存しないように系を中和する方法などが好適に用いられる。
【0025】
また、本発明においては、上記ゾルゲル反応で得られた反応物と、下記一般式(2)で表される金属アルコキシド化合物とを混合して縮合反応(ゾルゲル反応)させることが好ましい。
【0026】
【化2】

【0027】
上記一般式(2)において、Mは、Si、Ti、Al、Zr、Li、Na、Ca、Sr、Ba、Zn、B、Ga、Y、Ge、Pb、P、Sb、V、Ta、W、La、Nd、Inの金属原子群から選ばれる少なくとも1種の金属原子を示す。一般に入手および合成が容易であるという理由から、Mは、好ましくは、Si、Ti、Al、Zrであり、特に好ましくは、Tiである。
【0028】
上記一般式(2)において、Rは、非加水分解性基、例えば炭素数1〜20のアルキル基、(メタ)アクリロイルオキシ基、アミノ基若しくはエポキシ基を有する炭素数1〜20のアルキル基やアルケニル基、炭素数2〜20のアルケニル基、炭素数6〜20のアリール基又は炭素数7〜20のアラルキル基を示す。
【0029】
ここで、炭素数1〜20のアルキル基としては、炭素数1〜10のものが好ましく、またこのアルキル基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれであってもよい。この他にも、水酸基やチオール、イミダゾールなどの置換基を含む官能基も挙げることが出来る。炭素数1〜20のアルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などが挙げられる。
(メタ)アクリロイルオキシ基、アミノ基若しくはエポキシ基を有する炭素数1〜20のアルキル基としては、上記置換基を有する炭素数1〜10のアルキル基が好ましく、またこのアルキル基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれであってもよい。この置換基を有するアルキル基の例としては、γ−アクリロイルオキシプロピル基、γ−メタクリロイルオキシプロピル基、γ−アミノプロピル基、3−(2−アミノエチルアミノ)プロピル基、3−フェニルアミノプロピル基、γ−グリシドキシプロピル基、3,4−エポキシシクロヘキシル基などが挙げられる。
炭素数2〜20のアルケニル基としては、炭素数2〜10のアルケニル基が好ましく、また、このアルケニル基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれであってもよい。このアルケニル基の例としては、ビニル基、アリル基、ブテニル基、ヘキセニル基、オクテニル基などが挙げられる。
炭素数6〜20のアリール基としては、炭素数6〜10のアリール基が好ましく、例えばフェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基などが挙げられる。炭素数7〜20のアラルキル基としては、炭素数7〜10のアラルキル基が好ましく、例えばベンジル基、フェネチル基、フェニルプロピル基、ナフチルメチル基などが挙げられる。
【0030】
一方、Rは、炭素数1〜6のアルキル基であって、直鎖状、分岐状、環状のいずれであってもよく、その例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などが挙げられる。
【0031】
また、上記一般式(2)で表される金属アルコキシド化合物において、mは、金属原子Mの価数で、3又は4であり、nは、mが4の場合は0〜2の整数、mが3の場合は0〜1の整数である。Rが複数ある場合、各Rは互いに同一であってもよいし、異なっていてもよく、またORが複数ある場合、各ORは互いに同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0032】
上記一般式(2)で表される金属アルコキシド化合物において、Mが4価のTi、Si、Zrであって、mが4で、nが0〜2の整数である場合のアルコキシド化合物の例としては、テトラメトキシチタン、テトラエトキシチタン、テトラ−n−プロポキシチタン、テトライソプロポキシチタン、テトラ−n−ブトキシチタン、テトライソブトキシチタン、テトラ−sec−ブトキシチタン、テトラ−tert−ブトキシチタン、メチルトリメトキシチタン、メチルトリエトキシチタン、メチルトリプロポキシチタン、メチルトリイソプロポキシチタン、エチルトリメトキシチタン、エチルトリエトキシチタン、プロピルトリエトキシチタン、ブチルトリメトキシチタン、フェニルトリメトキシチタン、フェニルトリエトキシチタン、ビニルトリメトキシチタン、ビニルトリエトキシチタン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシチタン、γ−アクリロイルオキシプロピルトリメトキシチタン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシチタン、ジメチルジメトキシチタン、メチルフェニルジメトキシチタンなど、および上記化合物におけるチタンを、シラン又はジルコニウムに置き換えた化合物を挙げることができる。
【0033】
また、上記一般式(2)で表される金属アルコキシド化合物において、Mが3価のアルミニウムであって、mが3で、nが0〜1の整数である場合のアルコキシド化合物の例としては、トリメトキシアルミニウム、トリエトキシアルミニウム、トリ−n−プロポキシアルミニウム、トリイソプロポキシアルミニウム、トリ−n−ブトキシアルミニウム、トリイソブトキシアルミニウム、トリ−sec−ブトキシアルミニウム、トリ−tert−ブトキシアルミニウム、メチルジメトキシアルミニウム、メチルジエトキシアルミニウム、メチルジプロポキシアルミニウム、エチルジメトキシアルミニウム、エチルジエトキシアルミニウム、プロピルジエトキシアルミニウムなどを挙げることができる。
【0034】
これらの金属アルコキシド化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0035】
また、上記ゾルゲル反応において、前記シランカップリング剤と前記金属アルコキシド化合物との割合は、質量%の場合、80:20〜95:5であることが好ましい。金属アルコキシド化合物の添加量がこの範囲よりも多い場合には、溶液の反応性が高くなるため、縮合物含有液のゾルゲル反応の速度が速くなり、最終的には溶液がゲル化し、均一な製膜を実現することが難しい。一方、金属アルコキシド化合物の添加量がこの範囲よりも少ない場合には、シランカップリング剤の反応性が低いため、分子量が上がらずインク受容膜がうまく形成できない。
【0036】
(フィラー)
本発明に係るインク受容膜は、フィラーを含有することが好ましい。フィラーは、その1次粒子径が30〜1000nmの範囲であることが好ましい。ここで1次粒子径は、フィラー分散液を希釈して走査型電子顕微鏡にて観察した電子顕微鏡画像から粒子の平均粒径を計算することで得ることができる。1次粒子径が30nmより小さい場合には、導電ペースト印刷時の印刷性に効果が小さく、1次粒子径が1000nmより大きい場合には、溶液を作製した際に粒子が沈降しやすく、均一な膜を製膜することが難しくなる。
【0037】
これらのフィラーとしては、無機フィラーまたは有機フィラーのいずれでも使用することができる。無機フィラーとしては、例えばシリカ微粒子、コロイダルシリカ、アルミナ、コロイダルアルミナ、コロイダルチタン、ジルコニウムゾル、珪酸カルシウム、ゼオライト、カオリナイト、ハロイサイト、白雲母、タルク、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、ベーマイト等を挙げることができる。この中でも好ましくはコロイダルシリカが挙げられ、例えばLEVASILシリーズ(H.C.Starck(株)製)、メタノールシリカゾル、IPA−ST、MEK−ST、NBA−ST、XBA−ST、DMAC−ST、ST−UP、ST−OUP、ST−20、ST−40、ST−C、ST−N、ST−O、ST−50、ST−OL、MP−2040(以上、日産化学工業(株)製)、クオートロンPLシリーズ(扶桑化学(株)製)、OSCALシリーズ(触媒化成工業(株)製)、ハイプレシカ(宇部日東化成(株)製)が好適に用いられる。この中でも上記した縮合物の溶液へのフィラーの分散性の観点から、ハイプレシカ(宇部日東化成(株)製)が最も好適に用いられる。また、有機フィラーとしては、ポリイミド粒子などが挙げられる。
【0038】
本発明に係るインク受容膜は、インク受容膜表面に孔が存在しないか、または少ない。前記シランカップリング剤の縮合物に対するフィラーの割合は、フィラーが10〜80質量%の範囲であることが好ましく、20〜70質量%がより好ましく、30〜70質量%がさらに好ましい。シランカップリング剤と金属アルコキシド化合物との縮合物に対するフィラーの割合は、フィラーが10〜70質量%の範囲であることが好ましく、20〜70質量%がより好ましく、30〜60質量%がさらにより好ましい。
添加するフィラーの割合が、上記割合より小さい場合には製膜時にフィラーが基板上に均一に敷きつめられず、導電ペースト印刷時の印刷性に効果が十分に期待できない場合がある。また、添加するフィラーの割合が上記割合より大きい場合には、得られるインク受容膜の比表面積は30cm/cmを超える多孔構造となり、電気特性に悪影響を及ぼす場合がある。さらには、湿式工程で液が多孔質の膜表面に留まる可能性がある。
【0039】
(インク受容膜作製溶液の調製)
本発明においては、前記シランカップリング剤と金属アルコキシド化合物とをゾルゲル反応によって加水分解−縮合反応してM−O(Mは上記と同じである。以下、同じ。)の繰り返し単位を主骨格とする縮合物を作製した後、フィラーと混合する。本発明に係るインク受容膜に用いられる縮合物の製造方法は、シランカップリング剤に水を加えて縮合反応させる第1工程と、上記一般式(2)で表される金属アルコキシド化合物と前記第1工程で得られた反応物とを混合して縮合反応させる第2工程と、前記第2工程で得られた溶液をフィラーの溶液と混合する第3工程とを備える。金属アルコキシド化合物を用いる第2工程については省略することもできる。以下では、第2工程を含む形態について述べる。
【0040】
上記第1工程および第2工程における縮合反応において、溶媒としては、例えばアルコール系、セロソルブ系、ケトン系、エーテル系、グリコールエーテル系などの極性溶媒、好ましくは相溶性の観点からグリコールエーテル系、特に好ましくはエチレングリコールモノ−t−ブチルエーテルが用いられる。縮合反応は、上記溶媒中、該金属アルコキシド化合物を、水を用い、通常0〜70℃、好ましくは20〜60℃の温度にて加水分解処理し、さらに、所望により溶媒を留去又は添加することにより行うことができる。上記反応により、M−Oの繰り返し単位を主骨格とする縮合物を得ることができる。一般的には、これらの縮合反応では、酸性の化合物を触媒として加える方法が好適に用いられる。しかし、後述する導電性部材の耐マイグレーション性を考慮した際、膜に残存する酸の量を低減することが極めて重要である。このため、シランカップリング剤をゾルゲル反応によって加水分解−縮合反応してSi−Oの繰り返し単位を主骨格とする縮合物を作製する際に、酸を使用しないもしくは酸を使用した後膜に残存しないように系を中和する方法、および2相系を用いる方法などが本発明では好適に用いられる。酸を使用しない具体的な方法としては、例えば、縮合反応を行なう条件において、一般的に用いられる酸触媒を使用せず、加熱操作のみで反応を進行させることが挙げられる。一方、酸を使用した後膜に残存しないように系を中和する具体的な方法としては、例えば、後述する調整例1のように、疎水性溶媒と水の2層系で、溶媒中に組成物、水中に酸・アルカリ触媒を入れることにより、界面で反応を進行させ、溶媒や組成物に酸・アルカリが残存しないように工夫する合成方法がある。このような操作によって作製することにより、イオンクロマトグラフィーによって測定されるNOの濃度が0.6ppm以下の膜を得ることができる。
【0041】
上記M−Oの繰り返し単位を主骨格とする縮合物は、アミノ基を有するシランカップリング剤のアミノ基や一般式(2)におけるORの加水分解により生じるOH基が残存しているために、ポリイミドフィルムやカバー材・ボンディングシートなどの有機物や、金属などの無機物に対する接着性にも優れている。
【0042】
上記第3工程のフィラーとの混合は、上記反応により得たM−Oの繰り返し単位を主骨格とする縮合物の溶液に対して、前で述べたフィラーを混合することにより実施することが出来る。フィラーは、適当な溶媒に混合させた状態で混合することが出来る。
【0043】
上記製造方法によって製造された縮合物は、上記加水分解−縮合反応により、M−Oの繰り返し単位を主骨格とする縮合物を所定濃度で含む塗工液の状態として得ることができるため、本発明に係るインク受容膜を基板上に作製する場合、塗工液の状態で基板表面に塗布されることが好ましい。また、塗工液は、上記縮合物を得た後に所定濃度に調整することも出来る。当該塗工液における上記縮合物の濃度については、基板表面に塗工可能な濃度であればよく、特に制限はないが、通常0.05〜35質量%、好ましくは0.1〜20質量%、より好ましくは0.2〜10質量%である。縮合物の濃度が、35質量%を超えると、液の安定性が低下する、即ち、液がゲル化しやすくなり、保存期間(ポットライフ)が悪くなる場合がある。また、縮合物の濃度が、0.05質量%未満であると、縮合反応が十分に進行せず、分子量が上昇しないため、十分な膜厚の塗膜が得にくい場合がある。
【0044】
(積層基板およびその製造方法)
本発明は、上記インク受容膜が、基板表面に積層された積層基板であることを特徴とする。本発明に係る積層基板は、上記塗工液を基板表面に塗工することによって得ることが出来る。
【0045】
本発明に係る積層基板において、基板として用いられる基材としては、特に限定されるものではない。基材の具体例としては、ポリエチレン・ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、ポリ塩化ビニル・塩化ビニル共重合体等の塩化ビニル系樹脂、エポキシ樹脂、ポリアリレート、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリイミド、フッ素樹脂、フェノキシ樹脂、トリアセチルセルロース、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミド、ポリフェニレンスルファイド、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート等のアクリル樹脂、セロファン、ナイロン、ポリスチレン系樹脂、ABS樹脂等の各種樹脂類よりなるフィルム、石英ガラス、無アルカリガラス、結晶化透明ガラス、パイレックス(登録商標)等の各種ガラス、紙、不織布、布、各種金属、各種セラミックス等を挙げることが出来る。また用途に応じこれら基材を適宜組み合わせることが出来、例えば、銅箔とポリイミドを積層したフレキシブルプリント基板材料や、紙とポリオレフィン樹脂を積層したポリオレフィン樹脂被覆紙を用いることが出来る。更には、これらの樹脂等を使用し、立体形状に成型された物体も支持体として使用可能である。
【0046】
これらの中でも特に、導電インクあるいはペーストを焼結する際に、高温で処理することにより低抵抗を実現できること、耐熱性、寸法安定性および機械特性などの観点からポリイミドフィルムが好ましい。このポリイミドフィルムとしては、製膜する無機膜との接着性の観点から、表面に無機層が形成されているポリイミドフィルムが、特に好ましい。
【0047】
このようなポリイミドフィルムとしては、ガラス転移温度(Tg)が200℃以上のものが好ましく、250℃以上のものがより好ましく、300℃以上のものが特に好ましい。上記Tgは、固体粘弾性スペクトルにおけるtanδのピーク温度、あるいは損失弾性率E”のピーク温度から好適に得ることができる。
【0048】
このようなポリイミドフィルムとして、例えば芳香族ポリイミドフィルムを用いることができる。ポリイミドフィルムは、ポリイミドフィルムを構成する酸無水物成分とジアミン成分とから得ることができる。酸無水物成分としては、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ピロメリット酸二無水物などを主成分として含むものが挙げられるが、これに限定されない。また、ジアミン成分としては、パラフェニレンジアミン、4,4−ジアミノジフェニルエーテルなどを主成分として含むものが挙げられるが、これに限定されない。ポリイミドフィルムの具体例としては、例えば、商品名「ユーピレックス(S、又はR)」(登録商標、宇部興産社製)、商品名「カプトン」(登録商標、東レ・デュポン社製)、商品名「アピカル」(登録商標、カネカ社製)などのポリイミドフィルムを挙げることができる。
【0049】
基材としてプラスチックフィルムを用いた場合、基板の厚さに特に制限はなく、用途に応じて適宜選択されるが、通常1〜150μm程度であり、好ましくは、2〜120μm、さらに好ましくは、3〜100μmである。1μmより薄い場合は、基板の操作性が悪くなる場合があり、150μmを超えると剛直となり操作性が低下し、重量が増しさらにコストアップになる場合がある。
【0050】
上記基板は、その表面に処方される金属アルコキシド化合物を、加水分解−縮合反応してなるM−Oの繰り返し単位を主骨格とする縮合物を含む塗工液との濡れ性を改善する目的、又は、塗工液の有効成分との密着性を向上させる目的で、所望により該表面に、コロナ処理、プラズマ処理、クロム酸処理(湿式)、火炎処理、熱風処理、オゾン・紫外線照射処理、アルカリ処理、サンドブラスト処理、溶剤処理、あるいはプライマー処理を施すことができる。これらの表面処理法は、基材の種類に応じて適宜選ばれるが、一般的には、コロナ処理、プラズマ処理、アルカリ処理が、効果および操作性などの面から、好ましく用いられる。
【0051】
上記塗工液を基板表面に塗工する方法としては特に制限はなく、従来公知の方法、例えばスピンコート法、スプレーコート法、バーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ブレードコート法、ダイコート法、グラビアコート法などにより塗工し、成膜したのち、自然乾燥又は加熱乾燥することにより、所望の層を形成することができる。層の厚さは、通常0.01〜3μm程度、好ましくは0.02〜1μm、より好ましくは0.05〜0.5μmである。層の厚さが0.01μm未満では、フィラーの量が少なくなり、十分な凹凸構造を形成しにくいため、印刷性改善の効果が十分得られない場合があり、3μmを超えると、塗膜に欠陥が形成される場合がある。
【0052】
(導電性部材およびその製造方法)
本発明に係る導電性部材に用いられる金属ナノ粒子を含む導電性材料には、公知あるいは市販の導電性パターンを形成するために供されている導電インクあるいはペーストを広く用いることが出来る。例えば、FA−323(藤倉化成製)、銀ペーストMDot−SLP/H(三ツ星ベルト製)、NPStypeHP(ハリマ化成製)、CA−2503−4(大研化学製)が挙げられる。金属ナノ粒子の金属は、銀又は銅が好適に用いられる。
【0053】
導電インクの焼成後の膜厚は、特に限定は無いが、通常0.1〜30μm、好ましくは0.3〜20μm、より好ましくは0.5〜15μmである。金属ナノ粒子を含むインクあるいはペーストの焼成後の膜厚が、0.1μmより薄い場合は配線材料としての十分な性能が得られない場合があり、30μmより厚い場合はクラックが入るおそれがある。
【0054】
本発明において、導電インクあるいはペーストは、様々な印刷方法あるいは塗布方式によりパターンが形成される。例えば線状の塗布を行うことが出来るディスペンサー印刷方法を用いた任意の線状のパターン形成、サーマル、ピエゾ、マイクロポンプ、静電気等の各種方式のインクジェット印刷方法を用いた任意の線状あるいは面状のパターン形成、凸版印刷方法、フレキソ印刷方法、平版印刷方法、凹版印刷方法、グラビア印刷方法、反転オフセット印刷方法、枚葉スクリーン印刷方法、ロータリースクリーン印刷方法等の公知の各種印刷方法により任意のパターンを形成することが出来る。また、グラビアロール方式、スロットダイ方式、スピンコート方式等、公知の各種塗布方式を用い、導電性パターン形成用積層基板の全面あるいは一部に連続した面としてパターンを形成すること、間欠塗工ダイコーター等を用い導電性パターン形成用基材の全面あるいは一部に断続した面としてパターンを形成すること、あるいは浸漬塗布方法(ディップ方式ともいわれる)を用い、導電性パターン形成用の積層基板全体に金属ナノ粒子を含むインクあるいはペーストを付着させることも出来る。より好ましい印刷方法としては、インクジェット印刷方法、フレキソ印刷方法、グラビア印刷方法、反転オフセット印刷方法、枚葉スクリーン印刷方法、ロータリースクリーン印刷方法を挙げることが出来る。
【0055】
これらの方法によりパターン化された導電インクあるいはペーストは、加熱により焼成し導電性パターンとすることができる。この時の焼成条件としては、使用する基材によってかなり限定されるものの、優れた導電性および焼結の進行によってパターンの強度が増すため、高温であればあるほどよい。特にポリイミドを基材として用いた場合には、250℃の温度で0.5時間以上焼成することが好ましい。
【0056】
以上のように、本発明に係る積層基板に金属(ナノ粒子)を含む導電インクあるいはペーストを印刷あるいは塗布することにより、プラズマディスプレイパネル、航空機用液晶パネル、カーナビゲーション用液晶パネル等、各種のフラットディスプレイパネルに貼合して用いられる透明電磁波シールド、RFID、無線LAN、電磁誘導による給電、電磁波吸収等に用いられる種々のアンテナ、各種フラットディスプレイパネルに用いられるバス電極やアドレス電極、あるいは半導体インクや抵抗インク、誘電体インクを併用し多数回の印刷を重ね作製される電子回路等を製造するために用いられる導電性部材を提供することが出来る。
【実施例】
【0057】
以下、実施例により本発明を詳しく説明するが、本発明の内容は実施例に限られるものではない。
【0058】
(実験例1)
まず、基板上に形成するインク受容膜を得るための塗工液の調製方法について示す。
【0059】
(調製例1)塗工液1の調製
フェニルトリエトキシシラン(PhTES)16.8gとジフェニルジエトキシシラン(DPhDES)8.2gをジエチルエーテル71.9gに入れ、室温で数分攪拌した。得られた溶液に対して、濃塩酸20.0g、水80.0gの混合液を加え、室温で3時間激しく攪拌した。分液漏斗にて分離した水相に対して、ジエチルエーテル50.0g加え、激し振とうした後、静置して水相と有機相を分離した。この操作を合計2度繰り返した。この操作で分離した有機相に、pH=13のNaOH水溶液100gを加え、室温で3時間激しく攪拌した。分液漏斗にて分離した水相に、ジエチルエーテル50.0gを加え、激し振とうした後、静置して水相と有機相を分離した。この操作を合計2度繰り返した。その後、分離した有機相を、室温でゆっくりと攪拌してある程度のジエチルエーテルを除き、シャーレに移し替え、オーブンで50℃、9日間乾燥して固形物を得た。
このようにして得られた固体を1.0質量%になるようにメチルイソブチルケトンに溶解して、調製例1に係る塗工液1を得た。
【0060】
(比較調製例1)塗工液2の調製
チタンテトライソプロポキシド10.1gをエチレングリコールモノ−t−ブチルエーテル19.9gに溶解した液に、60質量%硝酸1.7g、水0.6gとエチレングリコールモノ−t−ブチルエーテル7.8gの混合溶液を攪拌しながらゆっくり滴下し、その後30℃で4時間攪拌し反応溶液1を得た。その液に、エチレングリコールモノ−t−ブチルエーテル102.2gを混合し攪拌することで、比較調製例1に係る塗工液2を得た。
【0061】
(比較調製例2)塗工液3の調製
比較調製例1で得た反応溶液1を20.0g、エチレングリコールモノ−t−ブチルエーテル34.3g、プロピレングリコール13.3g、メチルイソブチルケトン63.1gに、濃度15wt%のチタニアナノ粒子分散液9.3gを混合し攪拌することで、比較調製例2に係る塗工液3を得た。
【0062】
次に、インク受容膜の成膜工程および導電性材料の印刷工程を示す。
【0063】
(実施例1)
調製例1に係る塗工液1をマイヤーバー(松尾産業No.1ワイヤー線形2ミル(76.2μm)、ウェット膜厚6μm)で、ポリイミドフィルム(宇部興産(株)製ユーピレックスSGA、厚さ35μm)に塗布し、200℃で90秒間オーブンで乾燥した。そのサンプル上へスクリーン印刷により、図1のように藤倉化成(株)製FA−323を400μmピッチ(ライン:約280μm/スペース:約120μm)の櫛型パターン電極を印刷後、送風オーブンを用いて、150℃で10分間乾燥することで、銀ペーストが印刷された導電性部材を作製した。このとき、焼成後のペースト厚みは、およそ5μmであった。その導電性部材に、有沢製作所製カバーレイ(CVA−0525KA)を、180℃2.9MPa30分間、真空でプレスし、ラミネートした。
【0064】
(比較例1)
調製例1に係る塗工液1の代わりに宇部日東化成製の多孔膜形成塗料ハイセラテックIR−S600(シランカップリング剤の縮合物)を使用し、かつ、マイヤーバーをマイヤーバー(松尾産業No.2ワイヤー線形6ミル(152.4μm)、ウェット膜厚12μm)に変えた以外は実施例1と同様の操作を行い、カバーレイをラミネートしたポリイミド基板上の櫛型パターン電極を用意した。
【0065】
(比較例2)
調製例1に係る塗工液1の代わりに比較調製例1に係る塗工液2を使用し、実施例1と同様の操作を行い、カバーレイをラミネートしたポリイミド基板上の櫛型パターン電極を用意した。
【0066】
(比較例3)
調製例1に係る塗工液1の代わりに比較調製例2に係る塗工液3を使用し、実施例1と同様の操作を行い、カバーレイをラミネートしたポリイミド基板上の櫛型パターン電極を用意した。
【0067】
(絶縁信頼性試験)
実施例1および比較例1〜3の方法で作製したカバーレイをラミネートしたポリイミド基板上の櫛型パターン電極に、85℃、85%Rhの環境下52Vのバイアス電圧を1000時間印加して、絶縁信頼性試験を行なった。判定基準としては、絶縁抵抗値が1MΩ未満となった時点を故障したと判断した。その後光学顕微鏡でデンドライトの観測を行った。
【0068】
(マイグレーション速度の算出)
絶縁信頼性試験において、1000時間以内に短絡した水準に対しては、配線間距離を短絡時間で割ることで算出した値を採用した。また、1000時間試験をクリアーした水準では、試験後サンプルのデンドライトの長さを1000時間で割ることで算出した値を採用した。それぞれの電極に関する結果を表1に纏めた。
その結果、実施例1の方法で作製したサンプルのみが絶縁信頼性試験において、1000時間を耐久するという良好な性能を得ることが出来ることが判明した。
【0069】
(硝酸イオン量:イオンクロマトグラフィー)
調製例1および比較調製例1、2の方法で作製した塗工液1〜3、および宇部日東化成(株)製「ハイセラテックIR−S600」をそれぞれポリイミドフィルムに塗工し、200℃で90秒間オーブンで加熱乾燥した。縦12cm横10cmの表面積のサンプルを純水10gに入れ、50℃で約4時間加熱した後、液を回収した。イオンクロマトグラフィー(IC日本ダイオネクス製DX−120)の直接IC法により、この液の硝酸イオン量を測定した。この結果を表1に纏めた。
【0070】
(比表面積の測定方法)
調製例1および比較調製例1、2の方法で作製した塗工液1〜3、および宇部日東化成(株)製「ハイセラテックIR−S600」をそれぞれポリイミドフィルムに塗工し、200℃で90秒間オーブンで加熱乾燥した。縦10cm横10cmの表面積のサンプルを島津製作所製「micromeritics、FlowSorbll2300」を用いて測定した。なお、厚さ35μmのポリイミドフィルムの単位面積あたりの重量を0.0051g/cm、ポリイミドの密度を1.47g/cmとして、測定値を換算し比表面積値(cm/cm)とした。この結果を表1に纏めた。
【0071】
【表1】

【0072】
表1の結果より、絶縁信頼性試験において、1000時間を耐久させる良好な結果を得るためには、膜に残存する硝酸イオン量を0.6ppm以下の範囲で低くする必要がある。但し、実施例1と比較例1のサンプルでの硝酸イオン量の比較を行なったところ、その量に大きな差はないことが分かる。しかしながら、比較例1のサンプルの比表面積は他のサンプルと比較して非常に大きくなっており、たとえ膜に残存する硝酸イオン量が低くてもサンプルが多孔質である場合には、絶縁信頼性試験において不良な結果を与えることが示された。
即ち、絶縁信頼性試験において、1000時間を耐久させる良好な結果を得るためには、膜に残存する硝酸イオン量を低くすると同時に、サンプルの比表面積を低くする、即ち無孔の構造に近づけることが必要であることが明らかになった。
【0073】
このように、絶縁信頼性試験において良好な試験結果を得るためには、無孔の構造を実現することが必要と思われるが、このような構造体をインク受容層として用いた場合においては、これまで公知の情報ではインクをスクリーン印刷した場合の印刷性(断線や結合を起こさずに印刷できるライン/スペース幅)が不良になると予想された。
これに対して、本発明においては膜の酸の量を低減し、製膜した膜に粒子を導入することで印刷性と絶縁信頼性とを両立したインク受容層を実現することができた。以下にその実施例を説明する。
【0074】
(実験例2)
まず、以下ではインク受容膜を得るための塗工液に用いられる縮合物溶液の調製方法について示す。
【0075】
(調製例2)縮合物1溶液の調製
アミノフェネチルトリメトキシシラン(Gelest社製)(5.6g)をエチレングリコールモノ−t−ブチルエーテル(23.7g)に溶解させた。ここに、水(0.7g)を滴下して、60℃で1時間縮合反応を行い、縮合物1溶液を調製した。
【0076】
(調製例3)縮合物2溶液の調製
チタンテトライソプロポキシド(0.9g)をエチレングリコールモノ−t−ブチルエーテル(80.2g)に溶解させた。ここに、縮合物1(18.9g)を滴下して、30℃で4時間縮合反応を行い、縮合物2溶液を調製した。
【0077】
これらのゾルゲル反応を利用した縮合物を得る方法としては、通常触媒として酸を加える方法が広く知られているが、調整例2および3については、上記の実験例1での結果を鑑み、酸を用いない方法で縮合物を調整した。
【0078】
次に、インク受容膜に導入するフィラーの調整方法について示す。本実験例においては、フィラーとしては、シリカ粒子を用いた。シリカ粒子としては、宇部日東化成株式会社製の「ハイプレシカ」および日産化学工業株式会社製の「MP−2040」を使用した。
【0079】
なお、フィラーの平均粒子およびCV値は、下記の方法に従って測定した。
(平均粒径の測定)
1質量%に水で希釈した後、電子顕微鏡用試料台に1滴垂らし乾燥させてサンプルを作製した。走査型電子顕微鏡(JSM−6700F、日本電子製)にて50,000倍にて観察した。
電子顕微鏡画像から画像処理ソフト(Mac−View、マウンテック製)を用いて得られた画像からシリカ粒子の平均粒径を計算した。結果を表2に示す。
【0080】
(CV値の測定)
1質量%に水で希釈した後、電子顕微鏡用試料台に1滴垂らし乾燥させてサンプルを作製した。走査型電子顕微鏡(JSM−6700F、日本電子製)にて50,000倍にて観察した。
電子顕微鏡画像から画像処理ソフト(Mac−View、マウンテック製)を用いて得られた画像からシリカ粒子の平均粒径と標準偏差を計算した後、CV値を以下の式によって計算した。結果を表2に示す。
【0081】
【数1】

【0082】
次に、ポリイミド基板上に形成するインク受容膜を得るための塗工液の調製方法について示す。
【0083】
(調整例4)塗工液P−0〜P−9の調製
以下の手順で塗工液P−0〜P−9を調整した。具体的には、溶媒としてエチレングリコールモノ−t−ブチルエーテルを表2に示す量を添加し、表2に示す種類と量の縮合物2溶液およびシリカ粒子スラリー(シリカ粒子は、宇部日東化成株式会社製の「ハイプレシカ」を使用)を、この順で添加して、塗工液P−0〜P−9を調整した。シリカ粒子については、平均粒子径が異なる3種類(0.08μm、0.35μm、0.68μm)を使用した。ここで、表2中、「バインダー」とは縮合物2溶液の縮合物をいう。
【0084】
【表2】

【0085】
(調整例5)塗工液の調製
シリカ粒子として宇部日東化成株式会社製の「ハイプレシカ」の代わりに、日産化学工業株式会社製の「MP−2040」を用いて、上記P−0〜P−9と同様の方法で塗工液を調製した。この結果、上記したいずれのバインダー/粒子の比率の条件においても、溶液はゲル化する傾向を示した。この結果、シリカ粒子としては「ハイプレシカ」が、ポリイミドフィルムへの塗布が可能なスラリー溶液としてより優れていることが明らかとなった。
【0086】
次に、インク受容膜の成膜工程および導電性材料の印刷工程を示す。
【0087】
(実施例2〜10)
表2に示す塗工液P−1〜P−9を、マイヤーバー(松尾産業No.1ワイヤー線形2ミル(76.2μm)、ウェット膜厚6μm)で、ポリイミドフィルム(宇部興産(株)製ユーピレックスSGA、厚さ35μm)に塗布し、200℃で90秒間オーブンで乾燥した。そのサンプル上へスクリーン印刷により、図1のように三ツ星ベルト製銀ペーストMDotを100μmピッチ(スクリーン版の設計:ライン:30μm/スペース:70μm)の櫛型パターン電極を印刷後、送風オーブンを用いて、250℃で30分間乾燥することで、銀ペーストが印刷された実施例2〜10に係る導電性部材を作製した。
【0088】
(印刷性の評価)
上記した方法によって得られたポリイミドフィルム上の銀インクのパターンのライン幅(μm)について評価した。ライン幅がより細い方がより細かい回路を作製することが可能であり、集積密度を向上できるため、印刷性が良いと判断できる。
【0089】
(印刷性、イオンクロマトグラフィー、比表面積)
実験例1と同様の方法に基づいて、塗工液P−1〜P−9を用いてポリイミドフィルム上に作製したインク受容膜である金属酸化物膜の印刷性およびイオンクロマトグラフィー、比表面積の評価結果を表3に纏めた。
【0090】
【表3】

【0091】
いずれの場合においてもライン幅は印刷に問題のない範囲である。さらに、これら一連の膜に残存する硝酸イオン量は低く、サンプルの比表面積も低いことが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シランカップリング剤の縮合物を主成分とするインク受容膜であって、インク受容膜の酸含有量はNOとして0.6ppm以下であり、比表面積は30cm/cm以下であることを特徴とするインク受容膜。
【請求項2】
インク受容膜はフィラーを含み、前記フィラーは粒径が30〜1000nmの範囲であり、シランカップリング剤の縮合物に対するフィラー濃度は10〜60質量%である請求項1記載のインク受容膜。
【請求項3】
前記シランカップリング剤は、アミノ基を有する請求項1又は2記載のインク受容膜。
【請求項4】
前記フィラーは、シリカフィラーである請求項2又は3記載のインク受容膜。
【請求項5】
前記インク受容膜の酸含有量はNOとして0.5ppm以下であり、比表面積は15cm/cm以下である請求項1から4いずれか記載のインク受容膜。
【請求項6】
請求項1から5いずれか記載のインク受容膜が基板に積層していることを特徴とする積層基板。
【請求項7】
前記基板はポリイミドフィルムであり、前記ポリイミドフィルムの厚さは1〜150μmの範囲である請求項6記載の積層基板。
【請求項8】
請求項6又は7記載の積層基板のインク受容膜が積層された面に、導電性材料を印刷又は塗布することにより導電性パターンが形成されていることを特徴とする導電性部材。
【請求項9】
前記導電性材料は、金属ナノ粒子を含み、前記金属ナノ粒子の金属は、銀又は銅である請求項8記載の導電性部材。

【図1】
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【公開番号】特開2013−89649(P2013−89649A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−226384(P2011−226384)
【出願日】平成23年10月14日(2011.10.14)
【出願人】(000120010)宇部日東化成株式会社 (203)
【Fターム(参考)】