説明

インク吐出ヘッドおよびインク吐出ヘッドの製造方法

【課題】ノズル形状などインク吐出に関する部位の形状の精度を保持しつつ犠牲層の除去をおこなう。
【解決手段】インクを収容可能な共通液室101と、共通液室101から流入されるインクをエネルギー発生素子202によって吐出可能なノズル102ごとのノズルチャンバ103とを含み構成されるインク室110を区画する壁部のうち、インクの供給を受け付ける供給口105が形成される基板201および保護膜203と、ノズルチャンバを区画するノズル層204と、を有し、基板201、保護膜203およびノズル層204とは異なる場所に形成され、110インク室の内部空間の形成に際して一時的に形成される犠牲層を除去する1以上の犠牲層除去口と、犠牲層が除去された後、犠牲層除去口を封止する封止部材としての接点保護材130と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、インクジェットプリンターなどに用いられるインク吐出ヘッドおよびインク吐出ヘッドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱源駆動方式を用いたインク吐出ヘッドは、インク室内部に設けられた熱源によってインクに気泡を発生させる。インク吐出ヘッドは、発生させた気泡の膨張力によって、ノズルからインクを用紙面に吐出する。
【0003】
従来のインク吐出ヘッドは、インク室の内部空間を形成するため、熱源が設けられた基板上に犠牲層を形成する。犠牲層は、インク室壁部に設けられた犠牲層除去口を介して溶解除去される。近年では、犠牲層除去口としてのスリットを、インク室壁部のうちノズルを有するノズル壁部に設けて、犠牲層を除去する提案がされている(たとえば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第7325310号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した特許文献1に記載の技術は、ノズルが形成されるノズル壁部に犠牲層除去口としてのスリットを設け、犠牲層除去後にスリットの埋め込みをおこなう構成である。したがって、スリットの形成や埋め込みの際の応力によって歪みが生じてノズル形状の精度を保持することが困難になり、インク吐出の精度が低下するという問題が一例として挙げられる。また、スリットの形成や埋め込みをおこなう必要が生じるため、工程が増加し効率的なインク吐出ヘッドの製造をおこなうことができないという問題が一例として挙げられる。
【0006】
この発明は、上述した問題を解決するためになされたものであり、ノズル形状などインク吐出に関する部位の形状の精度を確保しつつ犠牲層の除去をおこなうことができるインク吐出ヘッドおよびインク吐出ヘッドの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するため、請求項1の発明のインク吐出ヘッドは、インクを収容可能な共通液室と、前記共通液室から流入される前記インクをエネルギー発生素子によって吐出可能なノズルごとのノズルチャンバとを含み構成されるインク室を区画する壁部のうち、前記インクの供給を受け付ける供給口が形成される供給口壁部と、前記壁部のうち、前記供給口壁部とは異なる、前記ノズルチャンバを区画するノズル壁部と、を有し、前記供給口壁部および前記ノズル壁部とは異なる場所に形成され、前記インク室の内部空間の形成に際して一時的に形成される犠牲層を除去する1以上の犠牲層除去口と、前記犠牲層が除去された後、前記犠牲層除去口を封止する封止部材と、を備えることを特徴とする。
【0008】
請求項2の発明のインク吐出ヘッドは、上記発明において、前記犠牲層除去口は、前記壁部のうち、前記供給口壁部および前記ノズル壁部とは異なる流路壁部に設けられ、前記犠牲層を可溶な溶媒の流動方向が、前記内部空間中における前記ノズルチャンバに向かう方向となるよう配置されることを特徴とする。
【0009】
請求項3の発明のインク吐出ヘッドは、上記発明において、前記インク室を区画する流路壁部のうち、前記ノズルチャンバを区画形成していない流路壁部は、前記犠牲層除去口から流入される前記犠牲層を可溶な溶媒の流動方向を変換可能な変換手段を備えることを特徴とする。
【0010】
請求項4の発明のインク吐出ヘッドは、上記発明において、前記犠牲層除去口は、前記インク室内側の開口部の断面積が外側の開口部の断面積よりも小さいことを特徴とする。
【0011】
請求項5の発明のインク吐出ヘッドは、上記発明において、前記犠牲層除去口は、前記インク室を区画する流路壁部のうち、前記ノズル列の外側に少なくとも2つ配置されることを特徴とする。
【0012】
請求項6の発明のインク吐出ヘッドの製造方法は、インクを収容可能なインク室を区画する壁部のうち、前記インクを供給可能な供給口が形成される供給口壁部上に、1以上のエネルギー発生素子を配置する素子配置工程と、前記インク室における、前記エネルギー発生素子によって加熱される前記インクを吐出可能なノズルごとのノズルチャンバを区画するノズル壁部を形成するノズル壁形成工程と、前記供給口壁部上に、前記インク室を区画する流路壁部を形成する流路壁形成工程と、前記流路壁部に、前記インク室の内部空間の形成に際して一時的に形成される犠牲層を除去する1以上の犠牲層除去口を形成する除去口形成工程と、前記供給口壁部と、前記流路壁部と、前記ノズル壁部とによって区画される領域に対し、犠牲層を形成する犠牲層形成工程と、前記犠牲層除去口を経由して、前記犠牲層を可溶な溶媒の流入、前記犠牲層の溶出をおこなう犠牲層除去工程と、を含むことを特徴とする。
【0013】
請求項7の発明のインク吐出ヘッドの製造方法は、上記発明において、前記犠牲層除去工程によって前記犠牲層が除去された後、前記犠牲層除去口を封止部材によって封止する封止工程を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に記載の発明によれば、インク室を区画する壁部のうち、インク吐出の際にインクの流路となるノズルおよび供給口が形成される壁部とは異なる壁部に犠牲層除去口を設けて犠牲層を除去することができる。したがって、インクの流路に関する部位と、犠牲層除去口とが離れて形成されるため、インクの流路に関する部位における形状の精度を確保することで、インク吐出ヘッドにおけるインク吐出の精度の向上を図ることができる。
【0015】
請求項2に記載の発明によれば、犠牲層を除去する溶媒の流動方向を、インク室におけるノズルチャンバに向かう方向とすることができる。したがって、インク吐出をおこなうノズルを有するノズルチャンバにおける犠牲層を確実に除去し、インク吐出の精度の向上を図ることができる。
【0016】
請求項3に記載の発明によれば、インク室においてノズルチャンバを区画していない流路壁部に設けられる変換部によって、溶媒の流動方向を変換することができる。したがって、犠牲層除去のための溶媒の流動方向を変換させて容易に犠牲層を除去することができる。
【0017】
請求項4に記載の発明によれば、インク室内側における犠牲層除去口の断面積が外側よりも小さい断面積とすることで、溶媒を容易に流入させることができる一方、溶媒の流出を抑制することができる。したがって、犠牲層の除去を確実におこなうことができる。
【0018】
請求項5に記載の発明によれば、犠牲層除去口をノズル列の外側に設けることで、溶媒を確実にインク室全域に流入させることができる。したがって、確実な犠牲層の除去を図り、インク吐出の精度を向上させることができる。
【0019】
請求項6に記載の発明によれば、インク室を区画する壁部のうち、インク吐出の際にインクの流路となるノズルおよび供給口が形成される壁部とは異なる壁部に犠牲層除去口を設けて犠牲層を除去することができる。したがって、インクの流路に関する部位と、犠牲層除去口とが離れて形成されるため、インクの流路に関する部位における形状の精度を保持することで、インク吐出ヘッドにおけるインク吐出の精度の向上を図ることができる。
【0020】
請求項7に記載の発明によれば、犠牲層除去口を封止することで、インク吐出ヘッドを使用する際に、インクの漏洩なくインク吐出をおこなう事ができるので、画質の向上やインク吐出の精度の向上を図ることができる。
【0021】
以上説明したように、本発明にかかるインク吐出ヘッドおよびインク吐出ヘッドの製造方法によれば、ノズル形状などインク吐出に関する部位の形状の精度を保持しつつ犠牲層の除去をおこなうことができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施形態にかかるインク吐出ヘッドの一例を示す平面図である。
【図2】本発明の実施形態にかかるインク吐出ヘッドにおいて図1に示すA−A線拡大断面図である。
【図3】本発明の実施形態にかかるインク吐出ヘッドにおいて図1に示すB−B線拡大断面図である。
【図4】本発明の実施形態にかかるインク吐出ヘッドの生成工程の一例を示す説明図である。
【図5】本発明の実施形態にかかる犠牲層除去における溶媒の流入工程の一例を示す説明図である。
【図6】本発明の変形例における犠牲層除去口の一例を示す説明図である。
【図7】本発明の変形例における側壁部の一例を示す説明図である。
【図8】本発明の変形例における犠牲層除去口の配置の一例について示す説明図である。
【図9】本発明の変形例における犠牲層除去口の封止の一例を示す説明図である。
【図10】本発明の変形例におけるインク室への溶媒の流入方向の一例(その1)を示す説明図である。
【図11】本発明の変形例におけるインク室への溶媒の流入方向の一例(その2)を示す説明図である。
【図12】本発明の変形例における犠牲層除去口の封止について説明する説明図である。
【図13】本発明の変形例における犠牲層除去口の封止について図12に示したC−C線拡大断面図である。
【図14】本発明の変形例における犠牲層除去口を封止するめっき層を電源配線とする一例を示す説明図である。
【図15】本発明の変形例における犠牲層除去口の封止について図14に示したD−D線拡大端断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に添付図面を参照して、この発明にかかるインク吐出ヘッドおよびインク吐出ヘッドの製造方法の好適な実施の形態を詳細に説明する。
【0024】
(実施形態)
(インク吐出ヘッドの構成)
図1〜図3を用いて、本発明の実施形態にかかるインク吐出ヘッドの構成について説明する。図1は、本発明の実施形態にかかるインク吐出ヘッドの一例を示す平面図である。図2は、本発明の実施形態にかかるインク吐出ヘッドにおいて図1に示すA−A線拡大断面図である。図3は、本発明の実施形態にかかるインク吐出ヘッドにおいて図1に示すB−B線拡大断面図である。
【0025】
インク室110は、壁部であるノズルチャンバ103や共通液室101を区画する側壁部104と、供給口105を備える供給口壁部としてのシリコンなどからなる基板201およびエネルギー発生素子202や導電線107を保護する保護膜203と、側壁部104上に形成され、ノズル102が設けられたノズル壁部としてのノズル層204とによって区画されている。なお、特に図示しないが、基板201上には、保護膜203と側壁部104など各層を接続する密着層、ノズル層204上の撥水膜、エネルギー発生素子202上のタンタル(Ta)製の耐キャビテーション膜などが形成されることとしてもよい。
【0026】
また、インク室110は、インク室110の内部空間の形成に際して一時的に形成される犠牲層を除去するための犠牲層除去口106を有している。犠牲層除去口106は、インク室110の内部空間に一時的に形成される犠牲層を除去するため、犠牲層を除去する溶媒の流入および犠牲層の流出をおこなう流路である。
【0027】
犠牲層除去口106は、インク室110における配線基板120側の側壁部104に形成される構成である。すなわち、犠牲層除去口106は、側壁部104のうち、ノズルチャンバ103が形成される側壁部104に形成される。犠牲層除去口106をインクの流路となる供給口105が形成される供給口壁部である基板201および保護膜203やノズル102が形成されるノズル壁部であるノズル層204とは異なる側壁部104に形成することによって、供給口105やノズル102の形状に不具合を与えることなくインクの流路を適切に形成することができる。
【0028】
配線基板120上の電源配線Vccは、エネルギー発生素子202から延設される導電線107に接続され、不図示の電源装置からの電源をエネルギー発生素子202へ供給する。制御配線ChNは、エネルギー発生素子202から延設される導電線107に接続され、不図示の制御回路からの制御信号により、選択的に電源からのエネルギーをエネルギー発生素子202へ伝達する。
【0029】
接点保護材130は、配線基板120上の電源配線Vccおよび制御配線ChNと、インク室110の導電線107との接点となる接合部材205,305を保護する。接点保護材130は、犠牲層除去口106を封止する封止材としても機能する。具体的には、接点保護材130は、インク室110の内部空間を形成するために一時的に形成される犠牲層を除去した後、犠牲層除去口106からインク室110のインクが流出するのを防ぐ。このようにして、犠牲層除去口106を封止するための工程や構成を設ける必要がなく、接点を保護する工程によって犠牲層除去口106の封止もおこなうこととなるため、効率的にインク吐出ヘッドの生成をおこなうことができる。
【0030】
(インク吐出ヘッドの製造方法)
図4および図5を用いて、本発明の実施形態にかかるインク吐出ヘッド100の生成工程について説明する。図4は、本発明の実施形態にかかるインク吐出ヘッドの生成工程の一例を示す説明図である。なお、図4では説明を簡単にするため、保護膜203や導電線107などの形成については省略し、基板201、流路壁104およびノズル層204で区画されるインク室110を形成する場合について説明する。
【0031】
図4(a)における工程400では、基板201上にエネルギー発生素子202を配置する。エネルギー発生素子202は、たとえば、タンタルとアルミニウムの合金(TaAl)などを含む発熱抵抗体であり、解像度に応じて所定の間隔で配置され、図示しない導電線107が延設される。
【0032】
図4(b)における工程401では、基板201上にインク室110を区画する壁部である流路壁部としての側壁部104が形成される。側壁部104は、たとえば、図示しない密着層などによって基板201上に接合される。そして、本実施形態では、側壁部104のうち、電源配線Vccを備えるノズル102側の壁部に図1に示した犠牲層除去口106が形成される。
【0033】
図4(c)における工程402では、インク室110の内部空間を保持するための犠牲層450が形成される。犠牲層450は、側壁部104を覆う領域にも形成される。犠牲層450の形成は、たとえば、供給口壁部となる基板201、側壁部104によって形成されるインク室110の内部空間に、半硬化樹脂などを注入し乾燥させることによっておこなわれる。
【0034】
図4(d)における工程403では、犠牲層450で埋められた領域がインク室110の内部空間となるよう、犠牲層450の上面が平坦になるよう削除される。犠牲層450は、たとえば、犠牲層450と側壁部104の上面が同一平面上に位置するまで切削、研磨や溶解などによって削除される。
【0035】
図4(e)における工程404では、犠牲層450と、側壁部104とを覆うようにノズル層204が形成される。ノズル壁部としてのノズル層204は、たとえば、塗布や貼付によって形成される。このように、同一平面となった犠牲層450と側壁部104の上面にノズル層204を形成することで、平坦なノズル層204を形成することができる。
【0036】
図4(f)における工程405では、工程404によって形成されたノズル層204にノズル102を形成する。ノズル102は、たとえば、インク室110におけるエネルギー発生素子202の対向する位置に形成される。ノズル102の形成は、たとえば、機械加工、フォトリソグラフィー、犠牲層450を溶解しない溶媒などによっておこなわれる。また、工程404において、あらかじめノズル102の形成されたノズル層204を貼付することとしてもよい。
【0037】
図4(g)における工程406では、供給口壁部である基板201、側壁部104、ノズル壁部であるノズル層204などの壁部によって区画されるインク室110の内部空間に形成されている犠牲層450を除去する。犠牲層450の除去は、犠牲層除去口106から犠牲層450を可溶な溶媒を流入させて、流入された溶媒によって溶解された犠牲層450を犠牲層除去口106から流出させる。
【0038】
ここで、図5を用いて、犠牲層450の除去における溶媒の流入の概要について説明する。図5は、本発明の実施形態にかかる犠牲層除去における溶媒の流入工程の一例を示す説明図である。図5において、インク室110は、共通液室101と、ノズルチャンバ103とに犠牲層450が埋め込まれている。犠牲層除去口106は、矢印501の方向に犠牲層450を可溶な溶媒をインク室110に流入させ、溶解された犠牲層450を流出させる。
【0039】
犠牲層除去口106は、側壁部104のうち、ノズル102を有するノズルチャンバ103側の側壁部104に形成されている。具体的には、ノズル102が形成されるノズル層204や供給口105が形成される基板201や保護膜203などを含む供給口壁部とは異なる壁部に形成される。犠牲層除去口106をインクの流路となる供給口105やノズル102が形成される壁部とは異なる側壁部104に形成することによって、供給口105やノズル102の形状に不具合を与えることなくインクの流路を形成することができる。
【0040】
図5の例では、犠牲層除去口106は、ノズルチャンバ103側の側壁部104のうち、インク室110に配列されたノズル102およびノズルチャンバ103の外側(図5における上下方向)に2つ配置されている。このように、ノズル102列の外側に設けることで、溶媒がインク室110全域に行き渡り、確実に犠牲層450を除去することができる。
【0041】
犠牲層450は、犠牲層除去口106から流入された溶媒によって溶解する。基板201、側壁部104、ノズル層204などの壁部は、溶媒に対して不溶であり、犠牲層450は、溶媒に対して可溶である。溶媒によって溶解された犠牲層450は、犠牲層除去口106を介して除去される。
【0042】
図4に戻って、図4(h)における工程407では、基板201などの供給口壁部に対して、図示しないインクタンクからのインクの供給を受け付ける供給口105が形成される。供給口105は、たとえば、機械加工や薬液によるエッチングなどによって形成される。
【0043】
インク室110が形成されると、インク室110と、配線基板120とを接点保護材130で接続する。具体的には、接点保護材130は、封止工程として図1〜図3に示したように犠牲層除去口106を封止しつつ、導電線107と、電源配線Vccおよび制御配線ChNとの接続部を覆うよう塗布されることとなる。
【0044】
具体的には、接点保護材130は、インク室110の内部空間を形成するために一時的に形成される犠牲層を除去した後、犠牲層除去口106からインク室110のインクが流出するのを防ぐ。このようにして、犠牲層除去口106を封止するための工程や構成を設ける必要がないため、効率的にインク吐出ヘッドの生成をおこなうことができる。換言すれば、必要不可欠である導電線107と、電源配線Vccおよび制御配線ChNとの接点を保護する工程によって、犠牲層除去口106の封止もおこなうことができる。
【0045】
なお、接点保護材130による犠牲層除去口106の封止は、図4(h)における工程407の後工程として説明したが、これに限ることはない。具体的には、犠牲層450が除去される工程406の後であればよい。
【0046】
なお、本発明の各構成要素における処理と、本発明の実施形態の各工程とを関連付けて説明すると、図4(a)に示した工程400によって、本発明の素子配置工程が実行される。図4(b)に示した工程401によって、本発明のノズル壁形成工程および流路壁形成工程および除去口形成工程が実行される。図4(c)〜(f)に示した工程402,403,404,405によって、本発明の犠牲層形成工程が実行される。図4(g)に示した工程406によって、本発明の犠牲層除去工程が実行される。
【0047】
以上説明したように、本発明の実施形態によれば、インク室110を区画する壁部のうち、ノズル層204からなるノズル壁部と、基板102などからなる供給口壁部とは異なる側壁部104に犠牲層除去口106を形成しているため、インクの流路となる供給口やノズル102の形状の精度を保持しつつ、インク吐出ヘッドの生成をおこなうことができる。したがって、精度の高いノズル102によるインク吐出の精度向上を図ることができる。
【0048】
また、犠牲層除去口106を、ノズル102列の外側に設けることによって、溶媒がインク室全域に行き渡り、確実に犠牲層450を除去することができる。また、流入する溶媒の流れが直接ノズル102に向かうことを防ぎ、ノズル102の破損を予防することで、ノズル102の形状の精度を確保することができる。
【0049】
また、犠牲層除去口106を封止する工程を特別に設けることなく、インク室110と、配線基板120とを接続する接点保護材130によって、犠牲層除去口106を封止することができるため、工程の簡略化を実現し、インク吐出ヘッド製造の効率化を図ることができる。
【0050】
(その他一部の変形例)
本発明の実施形態では特に、犠牲層除去口106の形状について対向する側壁104が平行な流路として図1および図5に図示したが、これに限ることはない。具体的には、犠牲層除去口106の開口部について、インク室110の内側の断面積の方が、外側の断面積よりも小さい流路であってもよい。
【0051】
図6を用いて、本発明の変形例における犠牲層除去口106の一例について説明する。図6は、本発明の変形例における犠牲層除去口の一例を示す説明図である。図6において、犠牲層除去口106は、矢印601の方向から犠牲層450を可溶な溶媒をインク室に流入させ、溶解された犠牲層450を流出させる。犠牲層除去口106は、溶媒の流入に対して下流となるインク室110側の開口部の断面積が、溶媒の流入に対して上流となる配線基板120側の開口部の断面積よりも小さい。このようにすることで、溶媒の流入を容易にすることができるため、確実に犠牲層を除去することができる。
【0052】
また、本発明の実施形態では特に、インク室110において、犠牲層除去口106を有するノズル102側の側壁部104に対向する側壁部104が平坦であることとして図1および図5に図示したが、これに限ることはない。具体的には、犠牲層除去口106から流入する溶媒の流動方向となるノズル102側の側壁部104の対向側の側壁部104に、溶媒の流動方向の変換手段を設けることとしてもよい。
【0053】
図7を用いて、本発明の変形例における側壁部104の一例について説明する。図7は、本発明の変形例における側壁部の一例を示す説明図である。図7において、犠牲層450が埋め込まれるインク室110の内部空間には、犠牲層除去口106を介して、矢印701の方向に溶媒が流入し、溶解された犠牲層450が流出する。
【0054】
犠牲層除去口106を介して、インク室110に流入した溶媒は、犠牲層除去口106と対向する側壁部104に向かい、側壁部104に設けられている変換手段としての流路変換部710によって、矢印702の方向に流動方向が変換される。流動方向が変換された溶媒は、ノズル102側へ流動し、ノズル102上に埋め込まれた犠牲層450を溶解する。このようにすることで、狭隘な部位であるノズルチャンバ103などインク室110内に確実に溶媒を浸透させることができる。したがって、犠牲層450を除去するための溶媒の流動方向の最適化を図り、的確に犠牲層450を除去することができる。換言すれば、犠牲層除去のための溶媒の流動方向を変換させて、容易に犠牲層を除去することができる。
【0055】
なお、図7の例では、流路変換部710として、側壁部104に凸部を1つ設けて説明したが、これに限ることはない。具体的には、インク室104内部に溶媒が行き渡る構成であればよく、側壁部104に複数の凸部を設けたり、図示の上下の側壁部104に設けたりしてもよい。このようにすることで、確実に溶媒をインク室110に浸透させることができ、インク室110に埋め込まれた犠牲層450を確実に除去することができる。
【0056】
また、本発明の実施形態では特に、犠牲層除去口106は、インク室110に配列されたノズル102側の側壁部104に形成されることとして説明したが、これに限ることはない。具体的には、犠牲層除去口は、側壁部104のうち、ノズル102側およびノズル102と対向する側とは異なる側壁部104に形成されることとしてもよい。
【0057】
図8を用いて、本発明の変形例における犠牲層除去口の配置の一例について説明する。図8は、本発明の変形例における犠牲層除去口の配置の一例について示す説明図である。図8において、犠牲層除去口806は、側壁部104のうち、ノズル102を有するノズルチャンバ103を形成する側壁部104側およびノズルチャンバ103を形成する側壁部104と対向する側壁部104とは異なる側壁部104(図8における上側および下側の側壁部104)に配置されている。具体的には、犠牲層除去口806は、インク室110の犠牲層450を除去する溶媒の流路となり、矢印801の方向に溶媒を流入させるとともに、溶解された犠牲層450を流出させる。犠牲層除去口806は、インクの流路となる供給口105やノズル102が形成される壁部とは異なる壁部である側壁部104に形成されることとなる。したがって、犠牲層除去口806の形成によって、供給口105やノズル102の形状に不具合を与えることがないため、インクの流路を適切に形成することができる。
【0058】
図9を用いて、本発明の変形例における図8に示した犠牲層除去口806の封止の一例について説明する。図9は、本発明の変形例における犠牲層除去口の封止の一例を示す説明図である。図9において、インク吐出ヘッド100は、接点保護材130によって配線基板120上の電源配線Vccおよび制御配線ChNと、インク室110の導電線107との接点が保護されたインク室110および配線基板120が、接着剤910によってインクタンク901に接続されている。
【0059】
具体的には、接着剤910は、図8に示したインク室110における犠牲層除去口806を封止するとともに、インク室110、配線基板120およびインクタンク901を接着している。すなわち、必要な工程であるインクタンク901との接着工程によって、犠牲層除去口806の封止もおこなわれる構成である。したがって、犠牲層除去口806を封止するための工程を別途設けることなく、効率的にインク吐出ヘッドの生成をおこなうことができる。
【0060】
図8に示した変形例では、インク室110内部に流入する溶媒の方向は、矢印801に示すように、犠牲層除去口806が配置された側壁部104に対して垂直な方向として説明したが、これに限ることはない。具体的には、インク室110内において、溶媒を向かわせたい方向に対して開口する構成でもよい。
【0061】
図10を用いて、本発明の変形例におけるインク室110への溶媒の流入方向の一例(その1)について説明する。図10は、本発明の変形例におけるインク室への溶媒の流入方向の一例(その1)を示す説明図である。図10において、犠牲層除去口1006は、側壁部104のうち、ノズル102側およびノズル102と対向する側とは異なる側壁部104に配置されている。犠牲層除去口1006における溶媒の流路は、矢印1001の方向に溶媒が流入し、溶解された犠牲層450が流出するよう形成されている。このようにノズル102を有するノズルチャンバ103に向けて溶媒を流入させることで、狭隘な部位にまで溶媒を浸透させ、確実に犠牲層450を除去することができる。
【0062】
なお、図10の説明では、側壁部104のうち、ノズル102側およびノズル102と対向する側とは異なる側壁部104に形成される犠牲層除去口1006について、ノズル102を有するノズルチャンバ103に向けて溶媒を流入させる方向に開口しているが、これに限ることはない。具体的には、ノズル102側およびノズル102と対向する側とは異なる側壁部104に形成される犠牲層除去口が、側壁部104のうち、ノズル102と対向する側の側壁部104に向けて溶媒を流入させる方向に開口する。その際、流入する溶媒の流動方向となるノズル102側の側壁部104の対向側の側壁部104に、溶媒の流動方向の変換手段を設けることとしてもよい。
【0063】
図11を用いて、本発明の変形例におけるインク室110への溶媒の流入方向の一例(その2)について説明する。図11は、本発明の変形例におけるインク室への溶媒の流入方向の一例(その2)を示す説明図である。図11において、犠牲層除去口1106は、側壁部104のうち、ノズル102側およびノズル102と対向する側とは異なる側壁部104に配置されている。犠牲層除去口1106における溶媒の流路は、矢印1101の方向に溶媒が流入し、溶解された犠牲層450が流出するよう形成されている。
【0064】
犠牲層除去口1106を介して、インク室110に流入した溶媒は、犠牲層450を溶解しつつノズル102側の側壁部104に向かい、側壁部104に設けられている変換手段としての流路変換部1110によって、矢印1102の方向に流動方向が変換される。流動方向が変換された溶媒は、ノズル102側へ流動し、ノズル102上に埋め込まれた犠牲層450を溶解する。このようにすることで、狭隘な部位であるノズルチャンバ103などインク室110内に確実に溶媒を浸透させることができる。したがって、犠牲層450を除去するための溶媒の流動方向の最適化を図り、的確に犠牲層450を除去することができる。換言すれば、犠牲層除去のための溶媒の流動方向を変換させて、容易に犠牲層を除去することができる。
【0065】
また、本発明の実施形態では特に、ノズル102側の側壁部104にインク除去口106が設けられる場合、インク室110と、配線基板120とを接続する接点保護材130によって封止することとして説明したが、これに限ることはない。具体的には、犠牲層除去口106の開口部に対応する部位における導電線107と、図示しない電源配線Vccとの接続部位にめっき層を設け、めっき層によって開口部を封止する構成でもよい。
【0066】
図12を用いて、本発明の変形例における犠牲層除去口106の封止について説明する。図12は、本発明の変形例における犠牲層除去口の封止について説明する説明図である。図12において、犠牲層除去口106の開口部は、導電線107と、図示しない電源配線の接続部位となっている。接続部位には、図3に示した接合部材305を設ける代わりにめっき層1201を設ける構成である。
【0067】
図13は、本発明の変形例における犠牲層除去口の封止について図12に示したC−C線拡大端面図である。図13において、インク吐出ヘッド100のインク室110は、共通液室101および犠牲層除去口106を含み構成されており、基板201と、基板201上に形成されるエネルギー発生素子202から延設される導電線107を保護する保護膜203と、保護膜203上に形成される側壁部104と、を有している。
【0068】
導電線107は、図示しないエネルギー発生素子202から延設され、めっき層1201を介して電源配線Vccに接続されることとなる。すなわち、めっき層1201は、電源配線Vccとしての電極として機能するとともに、図3に示した接合部材305の代わりとしても機能して、図示のように犠牲層除去口106を封止する封止部材となる。
【0069】
また、図13では、ノズル102列の外側に設けられた電源配線Vccに対してめっき層を設け、犠牲層除去口106を封止するとともに、電源配線Vccと、導電線107とを接続することとして説明したが、これに限ることはない。具体的には、犠牲層除去口106を封止するめっき層を電源配線Vccとして設け、各エネルギー発生素子202から延設される導電線107に接続する構成としてもよい。
【0070】
図14は、本発明の変形例における犠牲層除去口を封止するめっき層を電源配線とする一例を示す説明図である。図14において、めっき層1401は、ノズル102における各エネルギー発生素子202から延設される導電線107と接続される。具体的には、めっき層1401は、エネルギー発生素子202に電源を供給するための導電線107と接続され、制御配線ChNと接続される導電線107とは絶縁される構成である。換言すれば、めっき層1401は、犠牲層除去口106の開口部を封止しつつ、各エネルギー発生素子へ電源を供給する電源配線としての機能を有する。
【0071】
図15は、本発明の変形例における犠牲層除去口の封止について図14に示したD−D線拡大端面図である。図15において、インク吐出ヘッド100のインク室110は、共通液室101およびノズルチャンバ103を含み構成されており、基板201と、基板201上に形成されるエネルギー発生素子202から延設される導電線107を保護する保護膜203と、保護膜203上に形成される側壁部104と、を有している。
【0072】
導電線107は、図示しない制御配線ChNと接続される配線であり、めっき層1401とは、絶縁層1501によって絶縁されている。すなわち、エネルギー発生素子202から延設される導電線107のうち、制御配線ChNと接続される導電線107は、絶縁層1501によって絶縁され、エネルギー発生素子202に電源を供給する導電線は、電源配線として機能するめっき層と接続されることとなる。このように、接点保護材130の代わりにめっき層1201,1401を用いて犠牲層除去口106を封止することで、各基板との接続の信頼性を向上させることができる。
【0073】
また、上述した説明では、実施形態および一部の変形例について別々の例として説明したが、これに限ることはない。すなわち、それぞれを組み合わせた構成として、実施形態および一部の変形例を適宜組み合わせて利用してもよい。
【0074】
なお、上述で説明した方法は、あらかじめ用意されたプログラムをパーソナルコンピュータやワークステーションなどのコンピュータで実行することにより実現することができる。このプログラムは、ハードディスク、フレキシブルディスク、CD−ROM、MO、DVDなどのコンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録され、コンピュータによって記録媒体から読み出されることによって実行される。またこのプログラムは、インターネットなどのネットワークを介して配布することが可能な伝送媒体であってもよい。
【符号の説明】
【0075】
100 インク吐出ヘッド
101 共通液室
102 ノズル
103 ノズルチャンバ
104 側壁部
105 供給口
106 犠牲層除去口
107 導電線
110 インク室
120 配線基板
130 接点保護材
Vcc 電源配線
ChN 制御配線
201 基板
202 エネルギー発生素子
203 保護膜
204 ノズル層
205,305 接合部材


【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを収容可能な共通液室と、前記共通液室から流入される前記インクをエネルギー発生素子によって吐出可能なノズルごとのノズルチャンバとを含み構成されるインク室を区画する壁部のうち、前記インクの供給を受け付ける供給口が形成される供給口壁部と、
前記壁部のうち、前記供給口壁部とは異なる、前記ノズルチャンバを区画するノズル壁部と、を有し、
前記供給口壁部および前記ノズル壁部とは異なる場所に形成され、前記インク室の内部空間の形成に際して一時的に形成される犠牲層を除去する1以上の犠牲層除去口と、
前記犠牲層が除去された後、前記犠牲層除去口を封止する封止部材と、
を備えることを特徴とするインク吐出ヘッド。
【請求項2】
前記犠牲層除去口は、前記壁部のうち、前記供給口壁部および前記ノズル壁部とは異なる流路壁部に設けられ、前記犠牲層を可溶な溶媒の流動方向が、前記内部空間中における前記ノズルチャンバに向かう方向となるよう配置されることを特徴とする請求項1に記載のインク吐出ヘッド。
【請求項3】
前記インク室を区画する流路壁部のうち、前記ノズルチャンバを区画形成していない流路壁部は、前記犠牲層除去口から流入される前記犠牲層を可溶な溶媒の流動方向を変換可能な変換手段を備えることを特徴とする請求項1または2に記載のインク吐出ヘッド。
【請求項4】
前記犠牲層除去口は、前記インク室内側の開口部の断面積が外側の開口部の断面積よりも小さいことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載のインク吐出ヘッド。
【請求項5】
前記犠牲層除去口は、前記インク室を区画する流路壁部のうち、前記ノズル列の外側に少なくとも2つ配置されることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載のインク吐出ヘッド。
【請求項6】
インクを収容可能なインク室を区画する壁部のうち、前記インクを供給可能な供給口が形成される供給口壁部上に、1以上のエネルギー発生素子を配置する素子配置工程と、
前記インク室における、前記エネルギー発生素子によって加熱される前記インクを吐出可能なノズルごとのノズルチャンバを区画するノズル壁部を形成するノズル壁形成工程と、
前記供給口壁部上に、前記インク室を区画する流路壁部を形成する流路壁形成工程と、
前記流路壁部に、前記インク室の内部空間の形成に際して一時的に形成される犠牲層を除去する1以上の犠牲層除去口を形成する除去口形成工程と、
前記供給口壁部と、前記流路壁部と、前記ノズル壁部とによって区画される領域に対し、犠牲層を形成する犠牲層形成工程と、
前記犠牲層除去口を経由して、前記犠牲層を可溶な溶媒の流入、前記犠牲層の溶出をおこなう犠牲層除去工程と、
を含むことを特徴とするインク吐出ヘッドの製造方法。
【請求項7】
前記犠牲層除去工程によって前記犠牲層が除去された後、前記犠牲層除去口を封止部材によって封止する封止工程を含むことを特徴とする請求項6に記載のインク吐出ヘッドの製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2013−49210(P2013−49210A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−188795(P2011−188795)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】