説明

インク組成物、インクセット、及び画像形成方法

【課題】吐出安定性、洗浄性に優れるインク組成物を提供する。
【解決手段】着色剤と水不溶性ポリマーとを含有する水不溶性ポリマー粒子と、下記一般式(1)で表される化合物とを含有し、前記水不溶性ポリマーに由来する遊離ポリマーの含有量がインク全質量に対して1.0質量%以下であるインク組成物。



(式中、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、又は炭素数1〜22の炭化水素基を示し、Rは炭素数1〜18の2価の炭化水素基を示す。R及びRは同一でも異なっていてもよいが、R及びRが共に水素原子である場合を除く。R〜Rは置換基を有していてもよい。m及びnは、それぞれ独立に0〜30の平均付加モル数を示し、AOはアルキレンオキシ基を示す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インク組成物、インクセット、及び画像形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の印刷の高速化の要求から、インクジェット記録用装置として、所定サイズの用紙の幅の分だけ多数のノズルがライン状に形成されたラインヘッドを備えるものが提案されている。
このラインヘッド式の液体吐出装置では、ヘッドの走査を伴わないことから、ライン状に配置された多数のノズルの一部に目詰まりが生じても目詰まりが生じていない他の正常なノズルで補完印刷を行なうことはできない。したがって、こうしたラインヘッド式の液体吐出装置では、ノズルの目詰まりに対する新たな対策が必要な他、よりノズルの目詰まりが少ないインクが求められている。
【0003】
このような中、写像性と印字濃度に優れるとされる水系インクとして、顔料を含む水不溶性ポリマーを含み、前記水不溶性ポリマーに由来する遊離ポリマーの含有量が0.40重量%以下である水性インクが開示されている(例えば、特許文献1参照。)。
また、光沢性、保存安定性に優れる水系インクとして、着色剤を含有する水不溶性架橋ポリマー粒子と水不溶性有機化合物とを含む、インクジェット記録用水分散体であって、該水不溶性架橋ポリマーが、水不溶性ポリマーを架橋剤で架橋させたポリマーであるインクジェット記録用水分散体が開示されている(例えば、特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−084501号公報
【特許文献2】特開2007−314784号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のインクはポリマーが水に不溶性のため、ノズル部材への付着が起こりやすく、また、ポリマーの構造上、インクが泡立ちやすいという問題を有していた。
。特にラインヘッド式のインクジェット記録に用いた場合ではノズルの目詰りの問題が顕著であり、付着によりメンテナンスで除去しにくい問題がある。
特許文献2に記載のインクは、ポリマーが水に不溶性のため、ノズル部材への付着が起こりやすく、また、遊離のポリマーの存在により、さらにノズル部材へ付着しやすく、インクが泡立ちやすいという問題を有していた。
特に、近年のラインヘッド式のインクジェット記録ではノズルの目詰まりが問題となり、更にメンテナンスで目詰まりを除去し難いという問題が顕在化してきたが、上記特許文献1及び2に記載のインクにおいても、吐出安定性及びメンテナンスにおいてもインクの十分ではなかった。
【0006】
したがって、本発明は、吐出安定性、洗浄性に優れるインク組成物及びこれを含むインクセット、並びに該インク組成物を用いる画像形成方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
<1> 着色剤と水不溶性ポリマーとを含有する水不溶性ポリマー粒子と、下記一般式(1)で表される化合物とを含有し、前記水不溶性ポリマーに由来する遊離ポリマーの含有量がインク全質量に対して1.0質量%以下であるインク組成物。
【0008】
【化1】



【0009】
(式中、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、又は炭素数1〜22の炭化水素基を示し、Rは炭素数1〜18の2価の炭化水素基を示す。R及びRは同一でも異なっていてもよいが、R及びRが共に水素原子である場合を除く。R〜Rは置換基を有していてもよい。m及びnは、それぞれ独立に0〜30の平均付加モル数を示し、AOはアルキレンオキシ基を示す。)
【0010】
<2> 前記水不溶性ポリマーが、塩生成基含有モノマー(a)由来の構成単位と、スチレン系マクロマー(b)及び疎水性モノマー(c)の少なくとも一方に由来する構成単位とを有するポリマーである上記<1>に記載のインク組成物。
<3> 前記水不溶性ポリマー粒子が、塩生成基含有モノマー(a)由来の構成単位とスチレン系マクロマー(b)及び疎水性モノマー(c)の少なくとも一方に由来する構成単位とを有するポリマーと、架橋剤とを混合し、前記ポリマーを架橋させて得られるポリマー粒子である上記<1>又は<2>に記載のインク組成物。
【0011】
<4> 上記<1>〜<3>のいずれか1項に記載のインク組成物を有するインクセット。
<5> 複数の吐出口が2次元マトリックス状に配設され、前記吐出口から上記<1>〜<3>の何れか1項に記載のインク組成物、又は<4>に記載のインクセットのインク組成物を吐出して画像を形成する画像形成方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、吐出安定性、洗浄性に優れるインク組成物及びこれを含むインクセット、並びに該インク組成物を用いる画像形成方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】インクジェットヘッドの内部構造の一例を示す概略断面図である。
【図2】ノズルプレートの吐出口配列の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<インク組成物>
本発明のインク組成物は、着色剤と水不溶性ポリマーとを含有する水不溶性ポリマー粒子と後述の下記一般式(1)で表される化合物とを含有し、前記水不溶性ポリマーに由来する遊離ポリマーの含有量がインク組成物の全質量に対して1.0質量%以下であることを特徴とする。
本発明のインク組成物は上記構成をとることにより、特に、後述の一般式(1)で表される化合物を含有し、かつ、前記遊離ポリマーの含有量1.0質量%以下とすることにより、吐出安定性に優れ、かつ、洗浄性にも優れるものとなる。
本発明において、着色剤に未吸着のポリマー、着色剤を含有していないポリマー粒子、着色剤に吸着しているが吸着力が弱く、インク中の成分により剥がれ易いポリマー等の遊離し易いポリマー等を総称して「遊離ポリマー」ともいう。
一方、インク組成物中における着色剤の分散に直接寄与するポリマーを「着色剤に吸着したポリマー」又は単に「吸着ポリマー」ともいう。
【0015】
顔料分散体を用いてインク組成物を調整する際には、後述するような、水溶性有機溶媒などを添加する。そのため、インク組成物の溶媒は、主に水が主成分の媒体である顔料分散体とは媒体の溶媒組成が異なり、水単独の溶媒と比較し疎水的になる傾向があり、その場合、着色剤に吸着したポリマーが遊離しやすくなる。本発明者は、インク組成物中における遊離ポリマーが、後述する吐出安定性、洗浄性、長期保存安定性、及び長期保存後の吐出安定性等に影響をおよぼす1つの因子であることを見出した。そのため、本発明におけるインク組成物中の遊離ポリマーは、インク組成物自体を用いた測定により算出を行なう必要がある。
【0016】
本発明のインク組成物中の遊離ポリマー量は、吐出安定性及び洗浄性を向上させる観点から、1.0質量%とする必要がある。
インク組成物中の遊離ポリマー量が1.0質量%以下を超えると、インクジェットノズル部材への付着が増え、ノズルの目詰まりが生じ吐出し難くなり、また、ノズル部材への付着により洗浄してもインク組成物が洗浄し難くなる。
前記インク組成物中の遊離ポリマー量は好ましくは0.75質量%以下、より好ましくは0.40質量%以下、更に好ましくは0.30質量%以下であり、含有されていないことが最も好ましい。遊離ポリマー量が0.40質量%以下であると、より吐出安定性及び洗浄性が向上し、さらにはインクを長期間経時した後でも安定して吐出することができるため、好ましい。なお、遊離ポリマー量は実施例に記載する方法で測定することができる。
インク組成物中の遊離ポリマー量は、下記のように行った値を採用する。
インク組成物を高速超遠心分離装置(商品名:Optima XL100K、ベックマン社製)にて80,000rpmで1時間の条件で遠心し、着色剤を含むポリマー粒子を沈降させ上澄みを回収する。回収した上澄み液中の水不溶性ポリマー量を、核磁気共鳴分析装置(商品名:Inova400(13C−NMR)、バリアンテクノロジー社製)を用いて定量する。検量線は、着色剤を含むポリマー粒子の標品を用いて濃度3点で作成したものを用いる。
吸着ポリマー量に対する遊離ポリマー量の質量比(遊離ポリマー/吸着ポリマー)は、吐出安定性及び洗浄性を向上させ、さらにはインクを長期間経時した後でも安定して吐出させる観点から、好ましくは0.23以下、より好ましくは0.20以下、更に好ましくは0.15以下である。
インク組成物中、着色剤、吸着ポリマー及び遊離ポリマーの合計含有量、すなわち主な固形分量は、吐出安定性及び洗浄性を向上させる観点から、好ましくは1.5〜10.0質量%、より好ましくは2.5〜8.0質量%、更に好ましくは3.0〜7.5質量%である。
なお、固形分量は実施例記載の方法により求めることができる。
【0017】
[着色剤]
本発明のインク組成物における着色剤は水不溶性ポリマー粒子中に含まれる。
本発明における着色剤は、特に制限はなく、顔料、疎水性染料(油溶性染料、分散染料等)、水溶性染料(酸性染料、反応染料、直接染料等)等を用いることができ、耐水性、保存安定性及び耐擦過性の観点から、顔料及び疎水性染料が好ましい。中でも、近年要求が強い高耐候性を発現させるためには、顔料を用いることが好ましい。
顔料及び疎水性染料は、インク組成物に使用する場合には、界面活性剤、ポリマーを用いて、インク中で安定な粒子にする必要がある。特に、分散性等の観点から、ポリマーの粒子中に顔料及び/又は疎水性染料を含有させることが好ましい。
顔料は、無機顔料及び有機顔料のいずれであってもよい。また、必要に応じて、それらと体質顔料を併用することもできる。
【0018】
(顔料)
本発明のインク組成物においては、分散性、耐水性等の観点から、顔料を水不溶性ポリマー粒子中に含有させることが好ましい。
顔料は、無機顔料及び有機顔料のいずれも使用できる。また、必要に応じて、それらと体質顔料を併用することもできる。
無機顔料としては、例えば、カーボンブラック、金属酸化物、金属硫化物、金属塩化物等が挙げられる。これらの中では、特に黒色水系インクにおいては、カーボンブラックが好ましい。カーボンブラックとしては、ファーネスブラック、サーマルランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等が挙げられる。
有機顔料としては、例えば、アゾ顔料、ジスアゾ顔料、フタロシアニン顔料、キナクリドン顔料、イソインドリノン顔料、ジオキサジン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、チオインジゴ顔料、アントラキノン顔料、キノフタロン顔料等が挙げられる。
色相は特に限定されるものではなく、赤色有機顔料、黄色有機顔料、青色有機顔料、オレンジ有機顔料、グリーンオレンジ有機顔料等の有彩色顔料を用いることができる。
好ましい有機顔料の具体例としては、C.I.ピグメント・イエロー13,17,74,83,97,109,110,120,128,139,151,154,155,174,180;C.I.ピグメント・レッド48,57:1,122,146,176,184,185,188,202;C.I.ピグメント・バイオレット19,23;C.I.ピグメントブルー15,15:1,15:2,15:3,15:4,16,60;C.I.ピグメント・グリーン7,36等の各品番製品が挙げられる。
体質顔料としては、シリカ、炭酸カルシウム、タルク等が挙げられる。
【0019】
疎水性染料は、架橋ポリマー粒子中に含有させることができるものであればよく、その種類には特に制限がない。油溶性染料は、ポリマー中に効率よく染料を含有させる観点から、ポリマーの製造時に使用する有機溶媒(好ましくメチルエチルケトン)に対して、2g/L以上、好ましくは20〜500g/L(25℃)溶解するものが望ましい。
疎水性染料としては、油溶性染料、分散染料等が挙げられ、これらの中では油溶性染料が好ましい。
油溶性染料としては、例えば、C.I.ソルベント・ブラック、C.I.ソルベント・イエロー、C.I.ソルベント・レッド、C.I.ソルベント・バイオレット、C.I.ソルベント・ブルー、C.I.ソルベント・グリーン、及びC.I.ソルベント・オレンジからなる群から選ばれる1種以上の各品番製品が挙げられ、オリエント化学株式会社、BASF社等から市販されている。
分散染料としては、例えば、C.I.ディスパーズ・イエロー、C.I.ディスパーズ・オレンジ、C.I.ディスパーズ・レッド、C.I.ディスパーズ・バイオレット、C.I.ディスパーズ・ブルー、C.I.ディスパーズ・グリーンからなる群から選ばれる1種以上の各品番製品が挙げられる。これらの中では、イエローとしてC.I.ソルベント・イエロー29及び30、シアンとしてC.I.ソルベント・ブルー70、マゼンタとしてC.I.ソルベント・レッド18及び49、ブラックとしてC.I.ソルベント・ブラック3及び7、及びニグロシン系の黒色染料が好ましい。
上記の着色剤は、単独で又は2種以上を組み合せて用いることができる。
着色剤と水不溶性ポリマーとの質量比(水不溶性ポリマー/顔料)は、光沢性と保存安定性の観点から、好ましくは10/90〜90/10、更に好ましくは20/80〜80/20、特に好ましくは20/80〜50/50である。
【0020】
本発明のインク組成物において、水不溶性ポリマーと着色剤(特に、顔料)の質量比は、印字濃度と分散安定性を高める等の観点から、水不溶性ポリマーに対する着色剤の質量比(着色剤/水不溶性ポリマー)が、配合量による計算値換算で、50/50〜90/10であることが好ましく、50/50〜80/20であることがより好ましい。
また、着色剤に吸着し、インク組成物中における着色剤の分散に直接寄与するポリマー(「着色剤に吸着したポリマー」又は単に「吸着ポリマー」ともいう)と着色剤の量比については、印字濃度と分散安定性を高めると共に、固形分をできるだけ減らす観点から、インク組成物中における、着色剤に対する吸着ポリマーの質量比(吸着ポリマー/着色剤)が、0.1〜0.75であることが好ましく、0.1〜0.55であることがより好ましく、0.15〜0.55であることがより更に好ましく、0.15〜0.45であることが特に好ましい。ここで吸着ポリマーの量は、実施例に記載のとおり、インク組成物中における水不溶性ポリマーの量から遊離ポリマーの量を減じた値である。
【0021】
本発明のインク組成物の着色剤の含有量は、印画濃度を向上させる観点から、2質量%以上であり、好ましくは2〜4.8質量%、より好ましくは2〜4.5質量%、更に好ましくは2.5〜4.5質量%である。
【0022】
[水不溶性ポリマー粒子]
本発明における水不溶性ポリマー粒子は、少なくとも1種の前記着色剤と前記水溶性ポリマーを含んで構成される。
水不溶性ポリマーとしては、水不溶性ビニル系ポリマー、水不溶性エステル系ポリマー、水不溶性ウレタン系ポリマー等が挙げられる。これらの中では、水分散体の安定性の観点から、水不溶性ビニルポリマーが好ましい。ここで、水不溶性ポリマーとは、105℃で2時間乾燥させた後、25℃の水100gに溶解させたときに、その溶解量が10g以下、好ましくは5g以下、更に好ましくは1g以下であるポリマーをいう。上記溶解量は、水不溶性ポリマーが塩生成基を有する場合は、その種類に応じて、水不溶性ポリマーの塩生成基を酢酸又は水酸化ナトリウムで100%中和した時の溶解量をいう。
前記着色剤が顔料であるとき、本発明のインク組成物は、分散安定性、耐水性、吐出性、印字濃度等の観点から着色剤を水不溶性ポリマー粒子中に含有させることが好ましい。
【0023】
水不溶性ポリマーは、吐出安定性、洗浄性を発現させる観点から、塩生成基含有モノマー(a)由来の構成単位と、スチレン系マクロマー(b)及び/又は疎水性モノマー(c)由来の構成単位と、を少なくとも含むポリマーであることが好ましく、スチレン系マクロマー(b)由来の構成単位を含む水不溶性グラフトポリマーであることが更に好ましい。
水不溶性グラフトポリマーは、塩生成基含有モノマー(a)由来の構成単位と、疎水性モノマー(c)由来の構成単位を含むポリマーを主鎖に有し、スチレン系マクロマー(b)由来の構成単位を側鎖に有することが好ましい。
このような水不溶性ポリマーとしては、塩生成基含有モノマー(a)(以下、「(a)成分」ともいう)、スチレン系マクロマー(b)(以下、「(b)成分」ともいう)及び/又は疎水性モノマー(c)(以下「(c)成分」ともいう)を含むモノマー混合物(以下「モノマー混合物」ともいう)を共重合してなる水不溶性ビニル系ポリマーが好ましい。
【0024】
(塩生成基含有モノマー(a))
塩生成基含有モノマー(a)は、得られる分散体の分散安定性を高める等の観点から用いられる。塩生成基としては、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基、アミノ基、アンモニウム基等が挙げられる。
(a)成分としては、カチオン性モノマー、アニオン性モノマー等が挙げられる。その例として、特開平9−286939号公報5頁7欄24行〜8欄29行に記載されているもの等が挙げられる。
【0025】
カチオン性モノマーの代表例としては、不飽和アミノ基含有モノマー、不飽和アンモニウム塩含有モノマー等が挙げられる。これらの中では、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N−(N’,N’−ジメチルアミノプロピル)(メタ)アクリルアミドが好ましい。
【0026】
アニオン性モノマーの代表例としては、不飽和カルボン酸モノマー、不飽和スルホン酸モノマー、不飽和リン酸モノマー等が挙げられる。
不飽和カルボン酸モノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、2−メタクリロイルオキシメチルコハク酸等が挙げられる。
不飽和スルホン酸モノマーとしては、スチレンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、3−スルホプロピル(メタ)アクリレート、ビス−(3−スルホプロピル)−イタコネート等が挙げられる。
不飽和リン酸モノマーとしては、ビニルホスホン酸、ビニルホスフェート、ビス(メタクリロキシエチル)ホスフェート、ジフェニル−2−アクリロイロキシエチルホスフェート、ジフェニル−2−メタクリロイロキシエチルホスフェート、ジブチル−2−アクリロイロキシエチルホスフェート等が挙げられる。
上記アニオン性モノマーの中では、分散安定性、吐出性等の観点から、不飽和カルボン酸モノマーが好ましく、アクリル酸又はメタクリル酸がより好ましい。
【0027】
(スチレン系マクロマー(b))
スチレン系マクロマー(b)(以下、単に「マクロマー」又は「(b)成分」という場合がある。)は、着色剤(特に、顔料)との親和性を高めることで、顔料を含有した水不溶性ポリマー粒子の分散安定性を高める等の観点から用いられる。スチレン系マクロマー(b)としては、数平均分子量が500〜100,000、好ましくは1,000〜10,000で、片末端に不飽和基等の重合性官能基を有するモノマーであるマクロマーが挙げられる。
なお、(b)成分の数平均分子量は、標準物質としてポリスチレンを用い、溶媒として50ミリモル/Lの酢酸を含有するテトラヒドロフランを用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィーによって測定する。
(b)成分のマクロマーとしては、顔料との親和性を高める観点からグラフト鎖が疎水的であることが好ましい。
【0028】
スチレン系マクロマーとは、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等のスチレン系モノマー由来の構成単位を有するマクロマーを意味する。スチレン系モノマーの中ではスチレンが好ましい。
スチレン系マクロマーは、例えば、片末端に重合性官能基を有するスチレン単独重合体、及び片末端に重合性官能基を有する、スチレンと他のモノマーとの共重合体が挙げられる。片末端に存在する重合性官能基は、アクリロイルオキシ基又はメタクリロイルオキシ基が好ましく、これらを共重合させることで、スチレン系マクロマー由来の構成単位を有する水不溶性グラフトポリマーを得ることができる。
他のモノマーとしては、例えば、(1)アクリロニトリル、後述の(2)(メタ)アクリル酸エステル類(b−2 モノマー)、及び(3)スチレン以外の芳香環含有(メタ)アクリレート系モノマー(b−3 モノマー)等が挙げられる。
側鎖中、又はスチレン系マクロマー中、スチレン系モノマー由来の構成単位の含有量は、顔料分散性の観点から、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、特に好ましくは90質量%以上である。
商業的に入手しうるスチレン系マクロマーとしては、例えば、東亜合成株式会社の商品名、AS−6、AS−6S、AN−6、AN−6S、HS−6、HS−6S等が挙げられる。
【0029】
(疎水性モノマー(c))
疎水性モノマー(c)は、耐水性着色剤の分散安定性の向上、遊離ポリマー量の低減等の観点から用いられ、アルキル(メタ)アクリレート、アルキル(メタ)アクリルアミド、芳香環含有モノマー、及び、水不溶性ポリマーが、後述する下記一般式(1)、並びに一般式(2)で表される繰り返し単位を構成しえるモノマー及びその化合物等が挙げられる。
【0030】
アルキル(メタ)アクリレートとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、(イソ)プロピル(メタ)アクリレート、(イソ又はターシャリー)ブチル(メタ)アクリレート、(イソ)アミル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、(イソ)オクチル(メタ)アクリレート、(イソ)デシル(メタ)アクリレート、(イソ)ドデシル(メタ)アクリレート、(イソ)ステアリル(メタ)アクリレート等の炭素数1〜22のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルが挙げられる。
アルキル(メタ)アクリルアミドとしては、メチル(メタ)アクリルアミド、ジメチル(メタ)アクリルアミド、ジエチル(メタ)アクリルアミド、ジブチル(メタ)アクリルアミド、t−ブチル(メタ)アクリルアミド、オクチル(メタ)アクリルアミド、ドデシル(メタ)アクリルアミドなどの、炭素数1〜22のアルキル基を有する(メタ)アクリルアミドが挙げられる。
芳香環含有モノマーとしては、スチレン、2−メチルスチレン、ビニルトルエン等のスチレン系モノマー、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸のアリールエステル、エチルビニルベンゼン、4−ビニルビフェニル、1,1−ジフェニルエチレン、ビニルナフタレン、クロロスチレン等の炭素数6〜22の芳香族炭化水素基を有するビニルモノマーが好ましく挙げられる。
なお、本明細書にいう「(イソ又はターシャリー)」及び「(イソ)」は、これらの基が存在している場合とそうでない場合の双方を含むことを意味し、これらの基が存在していない場合には、ノルマルであることを示す。また、「(メタ)アクリレート」は、アクリレートとメタクリレートの双方の場合を含むことを示す。
【0031】
【化2】



【0032】
[式中、Rは水素原子または置換基を表す。R〜Rのうちの1つはWと結合する単結合を表し、それ以外のものは各々独立に水素原子または置換基を表す。Jは*−CO−、*−COO−、*−CONR10−、*−OCO−、メチレン基、フェニレン基、又は*−CCO−を表す。R10は水素原子、アルキル基、アリール基、又はアラルキル基を表す。Wは単結合または2価の連結基を表す。Aはヘテロ環基を表す。Qは、炭素原子とともに環を形成するのに必要な原子群を表す。*−は、主鎖に連結する結合手を表す。]
〜Rの置換基として1価の置換基が挙げられる。1価の置換基(以下、Zとする)の例として、アルキル基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜10のアルキル基であり、例えばメチル、エチル、iso−プロピル、tert−ブチル、n−オクチル、n−デシル、n−ヘキサデシル)、シクロアルキル基(好ましくは炭素数3〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数3〜10のシクロアルキル基であり、例えばシクロプロピル、シクロペンチル、シクロヘキシルなどが挙げられる。)、アルケニル基(好ましくは炭素数2〜30、より好ましくは炭素数2〜20、特に好ましくは炭素数2〜10のアルケニル基であり、例えばビニル、アリル、2−ブテニル、3−ペンテニルなどが挙げられる。)、アルキニル基(好ましくは炭素数2〜30、より好ましくは炭素数2〜20、特に好ましくは炭素数2〜10のアルキニル基であり、例えばプロパルギル、3−ペンチニルなどが挙げられる。)、アリール基(好ましくは炭素数6〜30、より好ましくは炭素数6〜20、特に好ましくは炭素数6〜12のアリール基であり、例えばフェニル、p−メチルフェニル、ナフチル、アントラニルなどが挙げられる。)、
【0033】
アミノ基(好ましくは炭素数0〜30、より好ましくは炭素数0〜20、特に好ましくは炭素数0〜10のアミノ基であり、例えばアミノ、メチルアミノ、ジメチルアミノ、ジエチルアミノ、ジベンジルアミノ、ジフェニルアミノ、ジトリルアミノなどが挙げられる。)、アルコキシ基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜10のアルコキシ基であり、例えばメトキシ、エトキシ、ブトキシ、2−エチルヘキシロキシなどが挙げられる。)、アリールオキシ基(好ましくは炭素数6〜30、より好ましくは炭素数6〜20、特に好ましくは炭素数6〜12のアリールオキシ基であり、例えばフェニルオキシ、1−ナフチルオキシ、2−ナフチルオキシなどが挙げられる。)、ヘテロ環オキシ基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜12のヘテロ環オキシ基であり、例えばピリジルオキシ、ピラジルオキシ、ピリミジルオキシ、キノリルオキシなどが挙げられる。)、
【0034】
アシル基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜12のアシル基であり、例えばアセチル、ベンゾイル、ホルミル、ピバロイルなどが挙げられる。)、アルコキシカルボニル基(好ましくは炭素数2〜30、より好ましくは炭素数2〜20、特に好ましくは炭素数2〜12のアルコキシカルボニル基であり、例えばメトキシカルボニル、エトキシカルボニルなどが挙げられる。)、アリールオキシカルボニル基(好ましくは炭素数7〜30、より好ましくは炭素数7〜20、特に好ましくは炭素数7〜12のアリールオキシカルボニル基であり、例えばフェニルオキシカルボニルなどが挙げられる。)、アシルオキシ基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜10のアシルオキシ基であり、例えばアセトキシ、ベンゾイルオキシなどが挙げられる。)、アシルアミノ基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜10のアシルアミノ基であり、例えばアセチルアミノ、ベンゾイルアミノなどが挙げられる。)、
【0035】
アルコキシカルボニルアミノ基(好ましくは炭素数2〜30、より好ましくは炭素数2〜20、特に好ましくは炭素数2〜12のアルコキシカルボニルアミノ基であり、例えばメトキシカルボニルアミノなどが挙げられる。)、アリールオキシカルボニルアミノ基(好ましくは炭素数7〜30、より好ましくは炭素数7〜20、特に好ましくは炭素数7〜12のアリールオキシカルボニルアミノ基であり、例えばフェニルオキシカルボニルアミノなどが挙げられる。)、スルホニルアミノ基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜12であり、例えばメタンスルホニルアミノ、ベンゼンスルホニルアミノなどが挙げられる。)、スルファモイル基(好ましくは炭素数0〜30、より好ましくは炭素数0〜20、特に好ましくは炭素数0〜12のスルファモイル基であり、例えばスルファモイル、メチルスルファモイル、ジメチルスルファモイル、フェニルスルファモイルなどが挙げられる。)、
【0036】
カルバモイル基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜12のカルバモイル基であり、例えばカルバモイル、メチルカルバモイル、ジエチルカルバモイル、フェニルカルバモイルなどが挙げられる。)、アルキルチオ基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜12のアルキルチオ基であり、例えばメチルチオ、エチルチオなどが挙げられる。)、アリールチオ基(好ましくは炭素数6〜30、より好ましくは炭素数6〜20、特に好ましくは炭素数6〜12のアリールチオ基であり、例えばフェニルチオなどが挙げられる。)、ヘテロ環チオ基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜12のヘテロ環チオ基であり、例えばピリジルチオ、2−ベンズイミゾリルチオ、2−ベンズオキサゾリルチオ、2−ベンズチアゾリルチオなどが挙げられる。)、
【0037】
スルホニル基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜12のスルホニル基であり、例えばメシル、トシルなどが挙げられる。)、スルフィニル基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜12のスルフィニル基であり、例えばメタンスルフィニル、ベンゼンスルフィニルなどが挙げられる。)、ウレイド基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜12のウレイド基であり、例えばウレイド、メチルウレイド、フェニルウレイドなどが挙げられる。)、リン酸アミド基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜12のリン酸アミド基であり、例えばジエチルリン酸アミド、フェニルリン酸アミドなどが挙げられる。)、ヒドロキシ基、メルカプト基、ハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子であり、より好ましくはフッ素原子が挙げられる)、
【0038】
シアノ基、スルホ基、カルボキシル基、オキソ基、ニトロ基、ヒドロキサム酸基、スルフィノ基、ヒドラジノ基、イミノ基、ヘテロ環基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜12のヘテロ環基であり、ヘテロ原子としては、例えば窒素原子、酸素原子、硫黄原子、具体的には例えばイミダゾリル、ピリジル、キノリル、フリル、チエニル、ピペリジル、モルホリノ、ベンズオキサゾリル、ベンズイミダゾリル、ベンズチアゾリル、カルバゾリル基、アゼピニル基などが挙げられる。)、シリル基(好ましくは炭素数3〜40、より好ましくは炭素数3〜30、特に好ましくは炭素数3〜24のシリル基であり、例えばトリメチルシリル、トリフェニルシリルなどが挙げられる。)、シリルオキシ基(好ましくは炭素数3〜40、より好ましくは炭素数3〜30、特に好ましくは炭素数3〜24のシリルオキシ基であり、例えばトリメチルシリルオキシ、トリフェニルシリルオキシなどが挙げられる。)などが挙げられる。これらの置換基は、更に上記置換基Zより選択されるいずれか1つ以上の置換基により置換されてもよい。
【0039】
上記の中でも、Rは、水素原子、アルキル基またはアリール基が好ましく、さらに好ましくは水素原子またはアルキル基である。
〜RのうちWと結合する単結合以外を表すものは、好ましくは水素原子、アルキル基、アリール基、アミノ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシルオキシ基、アシルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、スルホニルアミノ基、カルバモイル基、スルホニル基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、シアノ基、カルボキシル基、ニトロ基、ヘテロ環基であり、さらに好ましくは、水素原子、アルキル基、アリール基、アミノ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシル基、アシルアミノ基、スルホニルアミノ基、カルバモイル基、スルホニル基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、又はシアノ基であり、より好ましくは、水素原子、アシル基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、又はシアノ基である。
【0040】
前記一般式(1)及び(2)中、Jは、*−CO−、*−COO−、*−CONR10−、*−OCO−、メチレン基、フェニレン基、又は*−CCO−を表す。*は主鎖側で結合する部位を表す。これらのうち、Jとしては*−CO−、**−CONR10−、フェニレン基、*−CCO−が好ましく、−CCO−がより好ましい。R10は、水素原子、アルキル基、アリール基、またはアラルキル基を表し、水素原子、アルキル基、アリール基が好ましく、その好ましい範囲は置換基Zで説明したアルキル基、アリール基の好ましい範囲と同義である。
【0041】
前記一般式(1)及び(2)中、Wは単結合または2価の連結基を表す。
2価の連結基としては、例えば、イミノ基、直鎖、分岐もしくは環状のアルキレン基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜12、さらに好ましくは炭素数1〜4のアルキレン基であり、例えばメチレン、エチレン、プロピレン、ブチレン、ペンチレン、へキシレン、オクチレン、デシレンなどが挙げられる。)、アラルキレン基(好ましくは炭素数7〜30、より好ましくは炭素数7〜13のアラルキレン基であり、例えばベンジリデン、シンナミリデンなどが挙げられる。)、アリーレン基(好ましくは炭素数6〜30、より好ましくは炭素数6〜15のアリーレン基であり、例えば、フェニレン、クメニレン、メシチレン、トリレン、キシリレンなどが挙げられる。)、*−(CR1112NHCONH−、*−(CR1112CONH−等が挙げられる。*は主鎖側で結合する部位を表す。ここで、R11及びR12は各々独立に水素原子または置換基を表し、好ましくは水素原子、アルキル基、ハロゲン原子、水酸基であり、さらに好ましくは水素原子またはアルキル基であり、より好ましくは水素原子である。複数存在するR11及びR12は互いに同一でも異なっていてもよい。nは正の整数を表し、好ましくは1〜10であり、より好ましくは2〜5である。これらの中でも、*−(CR1112NHCONH−、*−(CR1112CONH−、イミノ基が好ましく、イミノ基がより好ましい。
【0042】
Wは、好ましくは、単結合、アルキレン基またはアリーレン基であり、より好ましくは単結合またはアルキレン基である。さらに好ましくは単結合である。
Wはさらに置換基を有していてもよく、そのような置換基としては前記Zで説明した基が挙げられる。また、Wは上述の2価の連結基を複数組み合わせて構成されたものでもよい。また、Wはその中にエーテル結合を有していることも好ましい。
【0043】
前記一般式(1)中、Aはヘテロ環基を表す。本発明においてヘテロ環基とは、ヘテロ環化合物から水素原子を1つ取り除いた1価の基をいう。
で表されるヘテロ環基としては、色材(特に顔料)を構成しうるヘテロ環基であることが好ましい。van−der−waals相互作用により顔料との親和性が高いヘテロ環基を有することで顔料との吸着性が良好となり、安定な分散体を得ることができる。
ヘテロ環基を構成するヘテロ環化合物としては、分子中に水素結合基を少なくとも1つ有するものが好ましく、チオフェン、フラン、キサンテン、ピロール、イミダゾール、イソインドリン、イソインドリノン、ベンズイミダゾロン、インドール、キノリン、カルバゾール、アクリジン、アクリドン、キナクリドン、アントラキノン、フタルイミド、キナルジン、キノフタロン等が挙げられる。これらのうち、ベンズイミダゾロン、インドール、キノリン、カルバゾール、アクリジン、アクリドン、アントラキノン、及びフタルイミドが特に好ましい。
これらのヘテロ環基は、使用する顔料に類似するヘテロ環基であることが特に好ましい。
【0044】
具体的には、キナクリドン系顔料に対してはアクリドン、及びアントラキノン等から選択される1種以上が本発明においては特に好適に用いられる。水不溶性ポリマーと色材との吸着を強固にし、インク溶媒に使用する溶剤種や量に関わらず、ポリマーの、色材からの遊離を低減することができる。
【0045】
前記一般式(2)中、Qは、炭素原子(詳しくは−C=C−の2つの炭素原子)とともに環を形成するのに必要な原子群を表す。その原子群としては炭素、窒素、酸素、ケイ素、リン、及び/又は硫黄によって構成される環であり、好ましくは炭素、窒素、酸素、及び/又は硫黄であり、さらに好ましくは、炭素、窒素、及び/又は酸素であり、より好ましくは炭素及び/又は窒素である。これらの原子群により構成されるQは飽和であっても不飽和であってもよく、置換可能である場合、置換基を有していてもよい。その置換基としては前記Zで説明した基と同義である。
【0046】
一般式(2)中、Wと結合する環構造基(R〜Rを有するアリール基とQとからなる環構造基)の例としては、置換基を有してもよい下記式(i)〜(vi)のいずれかで表される環構造基が挙げられる(式中*はWと結合する部位を意味する。)。これらの中でも、置換基を有してもよい下記式(i)、(ii)又は(iii)で表される環構造基が好ましく、置換基を有してもよい下記式(i)で表される環構造基がより好ましい。
【0047】
【化3】

【0048】
前記一般式(2)で表される構成単位(繰り返し単位)は、下記一般式(3)で表されるものであることが好ましい。
【0049】
【化4】



【0050】
前記一般式(3)中、R〜Rはそれぞれ独立に水素原子または置換基を表す。R〜R、J及びWは、前記一般式(2)におけるR〜R、J及びWと同義であり、好ましい範囲も同様である。
〜Rが置換基を表す場合、その置換基としては前記Zで説明した基が挙げられる。R〜Rは、好ましくは水素原子、アルキル基、アリール基、アミノ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシルオキシ基、アシルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、スルホニルアミノ基、カルバモイル基、スルホニル基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、シアノ基、カルボキシル基、ニトロ基、又はヘテロ環基であり、より好ましくは、水素原子、アルキル基、アリール基、アミノ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシル基、アシルアミノ基、スルホニルアミノ基、カルバモイル基、スルホニル基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、又はシアノ基であり、さらに好ましくは、水素原子、アシル基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、シアノ基であり、特に好ましくは水素原子である。
【0051】
前記一般式(3)で表される繰り返し単位は、下記(a)、(b)、(c)又は(d)の置換基の組合せが好ましく、下記(b)、(c)又は(d)の組合せがより好ましく、下記(c)又は(d)の組合せがさらに好ましく、下記(d)の組合せが特に好ましい。下記*−は、主鎖と結合する結合手を表す。
(a)Jは、*−CO−、*−CONR10−、フェニレン基、又は*−CCO−基であり、R10は、水素原子、アルキル基、又はアリール基である。Wは、単結合、イミノ基、アルキレン基、又はアリーレン基である。Rは、水素原子、アルキル基、又はアリール基である。R〜Rは、それぞれ独立に、単結合、水素原子、アルキル基、アリール基、アミノ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシルオキシ基、アシルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、スルホニルアミノ基、カルバモイル基、スルホニル基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、シアノ基、カルボキシル基、ニトロ基、又はヘテロ環基である。ただし、R〜Rのうち1つはWと結合する単結合である。R〜Rは、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アリール基、アミノ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシルオキシ基、アシルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、スルホニルアミノ基、カルバモイル基、スルホニル基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、シアノ基、カルボキシル基、ニトロ基、又はヘテロ環基である。
【0052】
(b)Jは、それぞれ独立に、*−CCO−、*−CONR10−、又はフェニレン基であり、R10は水素原子またはアルキル基である。Wは、イミノ基、単結合、又はアリーレン基である。Rは水素原子またはアリール基である。R〜Rは、それぞれ独立に水素原子、アルキル基、アリール基、アミノ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシル基、アシルアミノ基、スルホニルアミノ基、カルバモイル基、スルホニル基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、又はシアノ基である。ただし、R〜Rのうち1つはWと結合する単結合である。R〜Rは、それぞれ独立に水素原子、アルキル基、アリール基、アミノ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシル基、アシルアミノ基、スルホニルアミノ基、カルバモイル基、スルホニル基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、又はシアノ基である。
【0053】
(c)Jは*−CCO−又は*−CONR10−であり、R10は水素原子である。Wはイミノ基または単結合である。Rは水素原子またはアリール基である。R〜Rは、それぞれ独立に水素原子、アシル基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、又はシアノ基である。ただし、R〜Rのうち1つはWと結合する単結合である。R〜Rは、それぞれ独立に水素原子、アシル基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、又はシアノ基である。
【0054】
(d)Jは*−CCO−である。Wはイミノ基である。Rは水素原子またはアリール基である。R〜Rは、それぞれ独立に水素原子、アシル基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、又はシアノ基である。ただし、R〜Rのうち1つはWと結合する単結合である。R〜Rは水素原子である。
【0055】
以下に、前記一般式(1)で表される繰り返し単位の具体例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0056】
【化5】

【0057】
【化6】

【0058】
以下に、前記一般式(2)で表される繰り返し単位の具体例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0059】
【化7】

【0060】
【化8】

【0061】
(c)成分としては、着色剤(特に、顔料)の分散性向上、遊離ポリマー量を低減する観点から、芳香環含有モノマー、及び水不溶性ポリマーとして用いる際にヘテロ環を含有する繰り返し単位を構成し得るモノマーが好ましく、中でも本発明のインク組成物として用いる際に、着色剤(特に、顔料)の分散性を向上させ、遊離ポリマーを低減させる等の観点から、上述した水不溶性ポリマーとして用いる際にヘテロ環を含有する繰り返し単位を構成し得るモノマー(以下、c−1と表記する)成分が好ましい。
【0062】
(c)成分中における(c−1)成分の含有量は、遊離ポリマーの低減、及び印字濃度、並びに耐擦過性向上等の観点から、(c)成分の全質量に対して、好ましくは10〜100質量%、より好ましくは20〜80質量%である。
【0063】
芳香環含有モノマーとしては、スチレン系モノマー(c−2)成分が好ましく、スチレン及び2−メチルスチレンが更に好ましい。(c)成分中における(c−2)成分の含有量は、印字濃度、耐擦過性向上等の観点から、(c)成分の全質量に対して、好ましくは10〜100質量%、より好ましくは20〜80質量%である。また、
【0064】
また、(c)成分としては、着色剤分散性向上等の観点から、芳香環含有モノマーが好ましく、中でも(メタ)アクリル酸のアリールエステル(c−3)成分が好ましく、炭素数7〜22、好ましくは炭素数7〜18、更に好ましくは炭素数7〜12のアリールアルキル基を有する(メタ)アクリレート、又は、炭素数6〜22、好ましくは炭素数6〜18、更に好ましくは炭素数6〜12のアリール基を有する(メタ)アクリレートが好ましい。このようなモノマーとしては、具体的には、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート等が好ましく挙げられる。(c)成分中の(c−2)成分の含有量は、着色剤分散性等の観点から、(c)成分の全質量に対して、好ましくは10〜100質量%、より好ましくは20〜80質量%である。
上記(c)成分は、それぞれ単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができ、(c−1)成分と(c−2)成分、(c−2)成分と(c−3)成分、あるいは(c−1)成分と(c−2)成分とを併用することも好ましく、遊離ポリマーの低減の観点からは、(c−1)成分と(c−2)成分、(c−2)成分と(c−3)成分を組み合わせることがより好ましく、(c−1)成分と(c−2)成分を組み合わせることが最も好ましい。
【0065】
本発明においては、上記(a)、(b)、(c)各成分を含むモノマー混合物は、更に水酸基含有モノマー(d)(以下「(d)成分」ともいう)を含有することが好ましい。
(d)成分は、分散安定性を高めるものである。(d)成分としては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(n=2〜30、nはオキシアルキレン基の平均付加モル数を示す。以下同じ。)(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(n=2〜30)(メタ)アクリレート、ポリ(エチレングリコール(n=1〜15)・プロピレングリコール(n=1〜15))(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの中では、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノメタクリレート、ポリプロピレングリコールメタクリレートが好ましい。
【0066】
上記モノマー混合物は、更に、下記式(3)で表されるモノマー(e)(以下「(e)成分」ともいう)を含有することができる。
CH=C(R)COO(RO) (3)
(式中、Rは水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基、Rはヘテロ原子を有していてもよい炭素数1〜30の2価の炭化水素基、Rはヘテロ原子を有していてもよい炭素数1〜30の1価の炭化水素基、pは平均付加モル数を示し、1〜60、好ましくは1〜30の数である。)
(e)成分は、インク組成物の吐出安定性を高め、連続印字してもヨレの発生を抑制する等の優れた効果を発現するものである。
式(3)において、R又はRが有してもよいヘテロ原子としては、それぞれ独立に例えば、窒素原子、酸素原子、ハロゲン原子又は硫黄原子が挙げられる。
で示される基の代表例としては、炭素数6〜30の芳香族基、炭素数3〜30のヘテロ環基、又は炭素数1〜30のアルキレン基等が挙げられ、これらは置換基を有していてもよい。Rで示される基の代表例としては、炭素数6〜30の芳香族基、又は炭素数3〜30のヘテロ環基等が挙げられ、これらは置換基を有していてもよい。R及びRは2種以上を組合わせたものであってもよい。置換基としては、芳香族基、ヘテロ環基、アルキル基、ハロゲン原子、又はアミノ基等が挙げられる。
【0067】
上記Rとしては、炭素数1〜24の置換基を有していてもよいフェニレン基、炭素数1〜30、好ましくは炭素数1〜20の脂肪族アルキレン基、芳香族環を有する炭素数7〜30のアルキレン基及びヘテロ環を有する炭素数4〜30のアルキレン基が好ましく挙げられる。RO基の特に好ましい具体例としては、オキシエチレン基、オキシ(イソ)プロピレン基、オキシテトラメチレン基、オキシヘプタメチレン基、オキシヘキサメチレン基又はこれらオキシアルキレンの1種以上からなる炭素数2〜7のオキシアルキレン基やオキシフェニレン基が挙げられる。
としては、フェニル基、炭素数1〜30、好ましくは分岐鎖を有していても良い炭素数1〜20の脂肪族アルキル基、芳香族環を有する炭素数7〜30のアルキル基又はヘテロ環を有する炭素数4〜30のアルキル基が好ましく挙げられる。Rのより好ましい例としては、メチル基、エチル基、(イソ)プロピル基、(イソ)ブチル基、(イソ)ペンチル基、(イソ)ヘキシル基等の炭素数1〜12のアルキル基、フェニル基等が挙げられる。
【0068】
(e)成分の具体例としては、メトキシポリエチレングリコール(上記式(3)におけるpが1〜30)(メタ)アクリレート、メトキシポリテトラメチレングリコール(p=1〜30)(メタ)アクリレート、エトキシポリエチレングリコール(p=1〜30)(メタ)アクリレート、(イソ)プロポキシポリエチレングリコール(p=1〜30)(メタ)アクリレート、ブトキシポリエチレングリコール(p=1〜30)(メタ)アクリレート、オクトキシポリエチレングリコール(p=1〜30)、メトキシポリプロピレングリコール(p=1〜30)(メタ)アクリレート、メトキシ(エチレングリコール・プロピレングリコール共重合)(p=1〜30、その中のエチレングリコール部分は1〜29)(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの中では、メトキシポリエチレングリコール(p=1〜30)(メタ)アクリレートが好ましい。
商業的に入手しうる(d)、(e)成分の具体例としては、新中村化学工業株式会社の多官能性アクリレートモノマー(NKエステル)M−40G,90G,230G,日本油脂株式会社のブレンマーシリーズ、PE−90,200,350,PME−100,200,400,1000、PP−1000,PP−500,PP−800,AP−150,AP−400,AP−550,AP−800,50PEP−300,50POEP−800B、43PAPE−600B等が挙げられる。
上記(a)〜(e)成分は、それぞれ単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0069】
上記(a)〜(e)成分のモノマー混合物中における含有量は次のとおりである。
(a)成分の含有量は、得られる着色剤(特に、顔料)を含有した水不溶性ポリマー粒子の分散安定性等の観点から、好ましくは1〜50質量%、より好ましくは2〜40質量%、特に好ましくは3〜20質量%である。
(b)成分の含有量は、着色剤(特に、顔料)を含有する水不溶性ポリマー粒子の分散安定性等の観点から、好ましくは0〜50質量%、より好ましくは1〜50質量%、更に好ましくは5〜40質量%である。
(c)成分の含有量は、着色剤(特に、顔料)を含有する水不溶性ポリマー粒子の分散安定性等の観点から、好ましくは0〜98質量%、より好ましくは5〜98質量%、更により好ましくは10〜60質量%である。
(a)成分の含有量と、(b)成分と(c)成分の合計含有量との質量比((a)/[(b)+(c)])は、得られるインク組成物の吐出性等の観点から、好ましくは0.01〜1、より好ましくは0.02〜0.67、更に好ましくは0.03〜0.50である。
【0070】
(d)成分の含有量は、吐出性、分散安定性の観点から、好ましくは0〜40質量%、好ましくは5〜40質量%、より好ましくは7〜30質量%である。
(e)成分の含有量は、吐出性、分散安定性等の観点から、好ましくは0〜50質量、好ましくは5〜50質量%、より好ましくは10〜40質量%である。
(a)成分と(d)成分との合計含有量は、水中での分散安定性等の観点から、好ましくは6〜60質量%、より好ましくは10〜50質量%である。
また、(a)成分と(e)成分の合計含有量は、水中での分散安定性、吐出性等の観点から、好ましくは6〜75質量%、より好ましくは13〜50質量%である。
(a)成分と(d)成分と(e)成分との合計含有量は、水中での分散安定性及び吐出性の観点から、好ましくは6〜60質量%、より好ましくは7〜50質量%である。
【0071】
(水不溶性ポリマーの製造)
本発明の水不溶性ポリマー粒子を構成する水不溶性ポリマーは、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法等の公知の重合法により、前記モノマー混合物を共重合させることによって製造されるが、これらの重合法の中では、溶液重合法の場合に、特に顔料分散性等の本発明の効果が好適に得られる。
溶液重合法で用いる溶媒としては、水不溶性ポリマーと親和性の高い極性有機溶媒が好ましい。
極性有機溶媒としては、例えば、ブトキシエタノール等の脂肪族アルコール;トルエン、キシレン等の芳香族類;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;酢酸エチル等のエステル類、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン等が挙げられる。これらの中では、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、トルエン、キシレン、ブトキシエタノール、又はこれらの1種以上と水との混合溶媒が好ましい。
【0072】
重合の際には、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)等のアゾ化合物や、tert−ブチルペルオキシオクトエート、ジベンゾイルオキシド等の有機過酸化物等の公知のラジカル重合開始剤を用いることができる。ラジカル重合開始剤の量は、モノマー混合物1モルあたり、好ましくは0.001〜5モル、より好ましくは0.01〜2モルである。重合の際には、更に、オクチルメルカプタン、2−メルカプトエタノール等のメルカプタン類、チウラムジスルフィド類等の公知の重合連鎖移動剤を添加してもよい。
モノマー混合物の重合条件は、使用するラジカル重合開始剤、モノマー、溶媒の種類等によって異なるが、通常、重合温度は、好ましくは30〜100℃、より好ましくは50〜80℃であり、重合時間は、好ましくは1〜20時間である。また、重合雰囲気は、窒素ガス雰囲気、アルゴン等の不活性ガス雰囲気であることが好ましい。
重合反応の終了後、反応溶液から再沈澱、溶媒留去等の公知の方法により、生成したポリマーを単離することができる。また、得られたポリマーは、再沈澱を繰り返したり、膜分離、クロマトグラフ法、抽出法等により、未反応のモノマー等を除去して精製することができる。
得られるポリマーの重量平均分子量は、顔料の分散安定性、耐水性、吐出性等の観点から5,000〜500,000が好ましく、10,000〜400,000がより好ましく、10,000〜300,000が特に好ましい。ポリマーの重量平均分子量の測定は、実施例記載の方法により行うことができる。
水不溶性ポリマー溶液の固形分は、3〜30質量%が好ましく、5〜20質量%がより好ましく、10〜15質量%が特に好ましい。
【0073】
上記水不溶性ポリマーは、塩生成基含有モノマー(a)由来の塩生成基を有している場合は、中和剤により中和して用いる。中和剤としては、水不溶性ポリマー中の塩生成基の種類に応じて、酸又は塩基を使用することができる。例えば、塩酸、酢酸、プロピオン酸、リン酸、硫酸、乳酸、コハク酸、グリコール酸、グルコン酸、グリセリン酸等の酸、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、トリブチルアミン、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、ベンジルトリメチルアンモニウムヒドロキシド、コリンヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド等の塩基が挙げられる。
水不溶性ポリマーの中和度は、好ましくは10〜200%、より好ましくは20〜150%、特に好ましくは50〜150%である。
中和度は、塩生成基がアニオン性基である場合、下記式によって求めることができる。
{[中和剤の質量(g)/中和剤の当量]/[ポリマーの酸価(KOHmg/g)×ポリマーの質量(g)/(56×1000)]}×100
塩生成基がカチオン性基である場合、中和度は下記式によって求めることができる。
[[中和剤の質量(g)/中和剤の当量]/[ポリマーのアミン価(HCLmg/g)×ポリマーの質量(g)/(36.5×1000)]]×100
酸価やアミン価は、水不溶性ビニルポリマーの構成単位から、計算で算出することができる。または、適当な溶剤(例えばメチルエチルケトン)にポリマーを溶解して、滴定する方法でも求めることができる。
【0074】
−架橋剤−
本発明における水不溶性ポリマー粒子は、塩生成基含有モノマー(a)由来の構成単位と、スチレン系マクロマー(b)及び疎水性モノマー(c)の少なくとも一方に由来する構成単位と、を有する水不溶性ポリマーと架橋剤とを混合し、前記ポリマーを架橋させて得られるポリマー粒子であることが好ましい。
前記架橋剤は、水不溶性ポリマーを適度に架橋するため、分子内に少なくとも2個の反応性基を有する化合物が好ましい。架橋剤の分子量は、反応のし易さ、及び得られる架橋ポリマー粒子の保存安定性の観点から、120〜2000が好ましく、150〜1500が更に好ましく、150〜1000が特に好ましい。
架橋剤に含まれる反応性基の数は、分子量を制御して着色剤分散性、吐出安定性、さらにインクの泡立ちを抑制し、消泡性も向上する観点から、2〜4が好ましく、2が最も好ましい。反応性基としては、水酸基、エポキシ基、アルデヒド基、アミノ基、及びカルボキシ基からなる群から選ばれる1以上が好ましく挙げられる。
架橋剤としての具体例としては、
(a)分子中に2つ以上の水酸基を有する化合物:例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン、ポリグリセリン、プロピレングルコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルアルコール、ジエタノールアミン、トリジエタノールアミン、ポリプロピレングリコール、ポリビニルアルコール、ペンタエリスリトール、ソルビット、ソルビタン、グルコース、マンニット、マンニタン、ショ糖、ブドウ糖等の多価アルコール、
(b)分子中に2つ以上のエポキシ基を有する化合物:例えば、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル等のポリグリシジルエーテル、
(c)分子中に2つ以上のアルデヒド基を有する化合物:例えば、グルタールアルデヒド、グリオキザール等のポリアルデヒド、
(d)分子中に2つ以上のアミノ基を有する化合物:例えば、エチレンジアミン、ポリエチレンイミン等のポリアミン、及び
(e)分子中に2つ以上のカルボキシ基を有する化合物:例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、アジピン酸の等多価カルボン酸が挙げられる。
【0075】
水不溶性ポリマーは、前記架橋剤と反応しうる塩生成基(架橋性官能基)を有するが、両者の好適な組合せ例は、次のとおりである。
水不溶性ポリマーの塩生成基がカルボキシ基、スルホン酸基、リン酸基等の酸性基の場合は、架橋剤は前記(a)、(b)及び(d)化合物が好ましい。
また、水不溶性ポリマーの塩生成基がアミノ基の場合は、架橋剤は前記(b)、(c)及び(e)化合物が好ましい。
上記の組合せの中では、水不溶性ポリマーに適度な架橋構造を付与するように制御する観点から、酸性基(カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基等)、アミノ基から選ばれる1種以上の塩生成基を有する水不溶性ポリマーと、(b)分子中に2つ以上のエポキシ基を有する化合物との組合せが特に好ましい。
【0076】
前記架橋剤と反応しうる塩生成基(架橋性官能基)として、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基等の酸性基、アミノ基等を有する水不溶性ポリマーは、上記した水不溶性ポリマーの製造において、該塩生成基を有するモノマーを含む重合性モノマー組成物を共重合することによって製造することができる。
前記架橋剤と反応しうる塩生成基として、酸性基、アミノ基等の塩生成基を有するポリマーは、前述の塩生成基含有モノマーを共重合したポリマーを用いることができる。
【0077】
本発明のインク組成物における前記水不溶性ポリマー粒子は架橋された水不溶性ポリマー粒子とすることが好ましい。
水不溶性ポリマー粒子を架橋して水不溶性ポリマー粒子を製造する方法としては、
(i)着色剤を含有する水不溶性ポリマー粒子と架橋剤とを反応させて、架橋された水不溶性ポリマー粒子を得ても、また、(ii)着色剤を含有していない水不溶性ポリマー粒子を架橋させて架橋された水不溶性ポリマー粒子を得、その後に着色剤を含有させてもよい。これらの中では、保存安定性、製造し易さから、(i)による方法が好ましい。
【0078】
[一般式(1)で表される化合物]
本発明のインク組成物は、着色剤を含有する水不溶性ポリマー粒子と、下記一般式(1)で表される化合物(以下、「特定の化合物」ともいう。)の少なくとも1種を含有する。
本発明において、水不溶性ポリマーが適度な架橋構造を有することで化合物を更に含有し易くなる点で、前記水不溶性ポリマー粒子は架橋された水不溶性ポリマー粒子とすることが好ましいが、架橋された水不溶性ポリマー粒子として含有することにより、インク組成物は泡立ちが少なく、消泡性に優れるものとなると考えられる。
特定の化合物は、インク組成物のノズル部材への付着性の抑制、吐出性及び消泡性の向上の観点から、分子量100〜2,000のものが好ましく、分子量100〜1,200のものがより好ましい。
水100gに対する特定の化合物の溶解量(20℃)は、好ましくは5g以下、より好ましくは3g以下、更に好ましくは1g以下、特に好ましくは0.5g以下である。
特定の化合物は、水不溶性ポリマーを含有するインク組成物の部材付着性、吐出性、消泡性を向上させる観点から、そのLogP値が好ましくは4〜16、より好ましくは5〜16、特に好ましくは6〜15である。
【0079】
ここで「LogP値」とは、特定の化合物の1−オクタノール/水の分配係数の対数値を意味し、KowWin(Syracuse Research Corporation,USA)のSRC’s LOGKOW / KOWWIN Programにより、フラグメントアプローチで計算された数値を用いる(The KowWin Program methodology is described in the following journal article: Meylan, W.M. and P.H. Howard. 1995. Atom/fragment contribution method for estimating octanol−water partition coefficients. J. Pharm. Sci. 84: 83−92.)。フラグメントアプローチは化合物の化学構造に基づいており、原子の数及び化学結合のタイプを考慮している。LogP値は、一般に有機化合物の親疎水性の相対的評価に用いられる数値である。
【0080】
特定の化合物は、下記一般式(1)で表される化合物である。
【0081】
【化9】



【0082】
(式中、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、又は炭素数1〜22の炭化水素基を示し、Rは炭素数1〜18の2価の炭化水素基を示す。R及びRは同一でも異なっていてもよいが、R及びRが共に水素原子である場合を除く。R〜Rは置換基を有していてもよい。m及びnは、それぞれ独立に0〜30の平均付加モル数を示し、AOはアルキレンオキシ基を示す。)
【0083】
及びRは、ノズル部材への付着性の抑制、吐出性及び消泡性の向上の観点から、好ましくは炭素数2〜18、更に好ましくは炭素数4〜12の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基又はアルケニル基、炭素数7〜23、好ましくは炭素数7〜11のアラルキル基、あるいは炭素数6〜22、好ましくは炭素数6〜10のアリール基である。
好ましい具体的としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ヘキシル基、2−エチルヘキシル基、オクチル基、ドデシル基、セチル基、フェニル基、ベンジル基等が挙げられる。以下の式においても同様である。
は、2価の脂肪族炭化水素基、環式脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基が好ましく、好ましくは炭素数2〜15、更に好ましくは炭素数2〜12、特に好ましくは炭素数2〜8のアルキレン基又はアルケニレン基あるいは、炭素数6〜10のアリーレン基、更に好ましくはフェニレン基、炭素数3〜8の環式飽和又は不飽和炭化水素基である。具体的には、エチレン基、トリメチレン基、プロパン−1,2−ジイル基、テトラメチレン基、ヘプタメチレン基、ヘキサメチレン基、ペンタン−1,5−ジイル基、オクタメチレン基、ドデカメチレン基、フェニレン基等が挙げられる。以下の式においても同様である。
m及びnは、それぞれ独立に、好ましくは0〜20、より好ましくは0〜15、更に好ましくは1〜15、特に好ましくは2〜14、最も好ましくは2〜12である。
【0084】
AOは、エチレンオキシ基(EO)、プロピレンオキシ基(トリメチレンオキシ基又はプロパン−1,2−ジイルオキシ基)(PO)、又はブチレンオキシ基(テトラメチレンオキシ基等)(BO)等の炭素数2〜4のアルキレンオキシ基を示し、m及びnが2以上の場合は複数存在するAOは同一でも異なっていてもよく、異なる場合それぞれはAOはブロック付加していても、ランダム付加していてもよい。
〜Rが有していてもよい置換基としては、例えば、フッ素、塩素、臭素原子等のハロゲン原子、メトキシ、エトキシ、イソプロポキシ基等の炭素数1〜12のアルコキシ基、フェニルオキシ基等のアリールオキシ基、メトキシカルボニル基等のオキシカルボニル基、アセチル、ベンゾイル基等のアシル基、アセチルオキシ基等のアシルオキシ基、シアノ基、ニトロ基、ヒドロキシル基、カルボキシ基、オキソ基、エポキシ基、エーテル基、エステル基等が例示できる(これらを総称して「置換基」という)。これらの置換基は1つであっても2つ以上を組み合わせてもよい。
が有していてもよい置換基としては、−CO(O)−(AO)−Rが好ましい。式中、AOは前記と同義である。Lは、前記のmと同じ意味を示し、好ましい範囲も同じである。Rは、前記のRと同じ意味を示し、好ましい範囲も同じである。この場合、Rは、芳香族炭化水素基であることが好ましい。
上記一般式(1)で表される化合物は(1)脂肪族カルボン酸エステル、(2)芳香族カルボン酸エステル、及び(3)シクロアルカン(ケン)カルボン酸エステルから選択される1種であることが好ましい。
【0085】
(1)脂肪族カルボン酸エステルは、より具体的には、前記一般式(1)で表される化合物において、Rが、置換基を有していてもよい、2価の脂肪族炭化水素基である化合物が更に好ましい。この置換基としては前記の置換基が挙げられる。
脂肪族カルボン酸エステルの具体例としては、ジメチルアジペート、ジエチルアジペート、ジブチルアジペート、ジイソブチルアジペート、ビス(2−エチルヘキシル)アジペート、ジイソノニルアジペート、ジイソデシルアジペート、ビス(ブチルジエチレングリコール)アジペート、ジメチルセバケート、ジエチルセバケート、ジブチルセバケート、ビス(2−エチルヘキシル)セバケート、ジエチルサクシネート、ビス(2−エチルヘキシル)アゼレート等の脂肪族二塩基酸エステル等が挙げられる。これらの中でも、ジエチルアジペート、ジブチルアジペート、ジイソブチルアジペート、ビス(ブチルジエチレングリコール)アジペート、ビス(オクトキシポリエチレングリコール)アジペート(R及びRは共に2−エチルヘキシル、EOの各平均付加モル数m及びn=1〜4)、ビス(オクトキシポリプロピレングリコール)アジペート(R及びRは共に2−エチルヘキシル、POの各平均付加モル数m及びn=1〜6)、ビス(オクトキシポリエチレングリコール・ポロプロピレングリコール)アジペート(R及びRは共に2−エチルヘキシル、EO及びPOの各合計平均付加モル数m及びn=4〜12、ブロック付加)、ビス[オクトキシポリ(エチレングリコール・プロピレングリコール)]アジペート(R及びRは共に2−エチルヘキシル、EO及びPOの各合計平均付加モル数m及びn=4〜12、ランダム付加)、ジエチルセバケート、ジブチルセバケート、ジイソブチルセバケート等の炭素数6〜14の脂肪族二塩基酸のジエステルが特に好ましい。
【0086】
(2)芳香族カルボン酸エステルは、より具体的には、下記一般式(2)で表される化合物が更に好ましい。
【0087】
【化10】



【0088】
(式中、R及びRは、前記と同じ意味であり、同一でも異なっていてもよい。AO、m及びnは、前記と同じ意味であり、m及びnはが2以上の場合はAOは同一でも異なっていてもよい。)
芳香族カルボン酸エステルの具体例としては、ジメチルフタレート、ジエチルフタレート、ジブチルフタレート、ジイソブチルフタレート、ビス(2−エチルヘキシル)フタレート、ジ−n−オクチルフタレート、ジイソデシルフタレート、ブチルベンジルフタレート、オクチルベンジルフタレート、ノニルベンジルフタレート、ステアリルベンジルフタレート、オクチルデシルフタレート、ジシクロヘキシルフタレート、ジフェニルフタレート、ビス(ジメチルシクロヘキシル)フタレート、ビス(t−ブチルシクロヘキシル)フタレート、エチルフタリルエチルグリコレート等のフタル酸エステル、トリブチルトリメリテート、トリイソブチルトリメリテート、トリ(2−エチルヘキシル)トリメリテート等のトリメリット酸エステル等が挙げられる。これらの中でも、ジメチルフタレート、ジエチルフタレート、ジブチルフタレート、ジイソブチルフタレート等の炭素数1〜5の脂肪族アルコール残基を有するフタル酸ジエステル、オクチルベンジルフタレート、ノニルベンジルフタレート、ステアリルベンジルフタレート等の炭素数3〜18のアルキル基を有するベンジルフタレート、ビス(オクトキシポリエチレングリコール)フタレート(R及びRは共に2−エチルヘキシル、EOの各平均付加モル数m及びn=1〜5)、ビス(オクトキシポリプロピレングリコール)フタレート(R及びRは共に2−エチルヘキシル、POの各平均付加モル数m及びn=1〜4)、ビス(オクトキシポリエチレングリコール・ポロプロピレングリコール)フタレート(R及びRは共に2−エチルヘキシル、EO及びPOの各合計平均付加モル数m及びn=4〜12、ブロック付加)、ビス[オクトキシポリ(エチレングリコール・プロピレングリコール)]フタレート(R及びRは共に2−エチルヘキシル、EO及びPOの各合計平均付加モル数m及びn=4〜12、ランダム付加)等のフタル酸エステル、及びトリブチルトリメリテート、トリイソブチルトリメリテート等の炭素数3〜5の脂肪族アルコール残基を有するトリメリット酸ジエステルが特に好ましい。
【0089】
(3)シクロアルカン(ケン)カルボン酸エステルは、より具体的には、下記一般式(3)で表されるシクロヘキサン(セン)カルボン酸エステルが更に好ましい。シクロアルカン(ケン)基としては、炭素数3〜8の不飽和基を1つ有していてもよい、環式炭化水素基が挙げられる。
【0090】
【化11】



【0091】
(式中、R及びRは、前記と同じ意味であり、同一でも異なっていてもよい。AO、m及びnは、前記と同じ意味であり、m及びnはが2以上の場合はAOは同一でも異なっていてもよい。)
シクロアルカン(ケン)カルボン酸エステルの具体例としては、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジブチルエステル、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジイソノニルエステル等のシクロヘキサンカルボン酸エステル類、3,4−シクロヘキセンジカルボン酸ジブチルエステル、3,4−シクロヘキセンカルボン酸ジイソノニルエステル等のシクロヘキセンカルボン酸エステル等が挙げられる。
上記の特定の化合物の(1)〜(3)は、単独で又は2種以上を混合して用いてもよい。これらの中でも、特定の化合物は前記一般式(1)で表される化合物がインクの泡立ちを抑制し、インクジェット記録装置に使用されるノズルプレート等の部材へのインク付着を抑制し、洗浄性を向上させる観点から好ましい。
【0092】
該特定の化合物は、後述のインク組成物の製造方法の工程(1)〜(2)の少なくともいずれかの工程中又は工程後に添加してもよい。
製造工程における泡立ちや、製造装置への着色剤の固着を抑制する観点から、工程(2)で得られる着色剤を含有する水不溶性ポリマー粒子の着色剤水分散体と特定の化合物とを混合するか、又は更に着色剤を含有する架橋された水不溶性ポリマー粒子の水分散体と特定の化合物とを混合することが好ましい。
【0093】
工程(2)で得られる着色剤を含有する水不溶性ポリマー粒子の着色剤水分散体と特定の化合物との混合割合は、保存安定性、インク長期経時後の吐出安定性の観点から、前記水不溶性ポリマー粒子の水分散体の固形分(着色剤と水不溶性ポリマー)100重量部に対して、特定の化合物は、1〜100重量部であることが好ましく、3〜50重量部がより好ましく、3〜30重量部が更に好ましい。
または、架橋された水不溶性ポリマー粒子の着色剤水分散体と特定の化合物との混合割合は、保存安定性、インク長期経時後の吐出安定性の観点から、架橋された架橋ポリマー粒子の着色剤水分散体の固形分(着色剤と架橋された水不溶性ポリマー)100重量部に対して、特定の化合物は、1〜100重量部であることが好ましく、3〜50重量部がより好ましく、3〜30重量部が更に好ましい。
また、特定の化合物の量は、保存安定性、及びインク長期経時後の吐出安定性の観点から、架橋された水不溶性ポリマー100重量部に対して、5〜300重量部であることが好ましく、15〜150重量部がより好ましく、20〜200重量部が更に好ましい、30〜95重量部が特に好ましい。
【0094】
着色剤を含有する水不溶性ポリマー粒子の着色剤水分散体と特定の化合物との混合方法、及び着色剤を含有する架橋された水不溶性ポリマー粒子の水分散体と特定の化合物との混合方法は、該水分散体に特定の化合物を添加してもよく、その逆であってもよい。混合する温度は、5〜50℃程度が好ましい。混合した後、前記の分散方法により、再分散することも好ましい。
本発明における着色剤を含有する水不溶性ポリマー粒子(又は架橋された水不溶性ポリマー粒子)の水分散体は、特定の化合物の少なくともその一部が水不溶性ポリマー粒子に含有されており、特定の化合物と着色剤とを含有する水不溶性ポリマー粒子の水分散体となっている。
【0095】
(インク組成物の製造方法)
本発明のインク組成物の製造方法は特に限定されないが、例えば、下記工程(1)〜(4)を有する方法、あるいは、着色剤を溶解した溶液、および水性媒体の少なくとも一方に水不溶性ポリマーを含有せしめ、これら両者を接触させて着色剤の粒子を析出させる方法(以下、ビルドアップ法と表記する場合がある。)により製造することが好ましい。
工程(1):水不溶性ポリマー(又は架橋された水不溶性ポリマー)、有機溶媒、着色剤、及び水を含有する混合物を、分散処理する工程
工程(2):前記有機溶媒を除去し、着色剤を含有する水不溶性ポリマー粒子の着色剤水分散体を得る工程
工程(3):工程(2)で得られた着色剤水分散体を遠心分離して、沈殿物を得る工程
工程(4):工程(3)で得られた沈殿物を水系媒体に再分散する工程
工程(1)〜(2)により、着色剤を含有する水不溶性ポリマー粒子の着色剤水分散体を得ることができるが、吐出性(安定性、回復性)、洗浄性、及びインク長期経時後の吐出安定性を向上させ、遊離ポリマー量を減少させる観点から、工程(3)を行って着色剤水分散体を得ることが好ましく、さらに、固形分を減少させて、インクヘッドノズルに使用する撥水性部材へのインク付着を抑制し、洗浄性をさらに向上させる観点から、工程(4)を行うことが好ましい。
ここで、「着色剤を含有する水不溶性ポリマー粒子の水分散体」とは、水を主成分とする媒体中に着色剤を含有する水不溶性ポリマー粒子が分散しているものをいう。
【0096】
<工程(1)>
工程(1)では、まず、前記水不溶性ポリマーを有機溶媒に溶解させ、次に着色剤、水、及び必要に応じて中和剤、界面活性剤等を加えて混合し、水中油型の分散体を得る方法が好ましい。
混合物中、着色剤は、5〜50質量%が好ましく、10〜40質量%がより好ましく、有機溶媒は、10〜70質量%が好ましく、10〜50質量%がより好ましく、水不溶性ポリマーは、2〜40質量%が好ましく、3〜20質量%がより好ましく、水は、10〜70質量%が好ましく、20〜70質量%がより好ましい。
水不溶性ポリマーが塩生成基を有する場合、中和剤を用いることが好ましい。中和剤を用いて中和する場合の中和度には、特に限定がない。通常、最終的に得られる水分散体の液性が中性、例えば、pHが4.5〜10であることが好ましい。水不溶性ポリマーの望まれる中和度により、pHを決めることもできる。中和剤としては、前記のものが挙げられる。また、水不溶性ポリマーを予め中和しておいてもよい。
有機溶媒としては、エタノール、イソプロパノール、イソブタノール等のアルコール系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジエチルケトン等のケトン系溶媒及びジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶媒が挙げられる。有機溶媒は、水100gに対する溶解量が20℃において、5g以上のものが好ましく、10g以上のものが更に好ましく、より具体的には5〜80gのものが好ましく、10〜50gのものが更に好ましい。特に、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンが好ましい。
【0097】
工程(1)における混合物の分散方法に特に制限はない。本分散だけで水不溶性ポリマー粒子の平均粒径を所望の粒径となるまで微粒化することもできるが、好ましくは予備分散させた後、更に剪断応力を加えて本分散を行い、ポリマー粒子の平均粒径を所望の粒径とするよう制御することが好ましい。工程(1)の分散は、5〜50℃で行うのが好ましく、10〜35℃で行うのが更に好ましい。
混合物を予備分散させる際には、アンカー翼等の一般に用いられている混合撹拌装置を用いることができる。混合撹拌装置の中では、ウルトラディスパー〔浅田鉄鋼株式会社、商品名〕、エバラマイルダー〔株式会社荏原製作所、商品名〕、TKホモミクサー〔プライミクス株式会社、商品名〕等の高速攪拌混合装置が好ましい。
本分散の剪断応力を与える手段としては、例えば、ロールミル、ビーズミル、ニーダー、エクストルーダ等の混練機、高圧ホモゲナイザー〔株式会社イズミフードマシナリ、商品名〕、ミニラボ8.3H型〔Rannie社、商品名〕に代表されるホモバルブ式の高圧ホモジナイザー、マイクロフルイダイザー〔Microfluidics 社、商品名〕、ナノマイザー〔ナノマイザー株式会社、商品名〕等のチャンバー式の高圧ホモジナイザー等が挙げられる。これらの装置は複数を組み合わせることもできる。これらの中では、着色剤を用いる場合に、着色剤の小粒子径化の観点から、高圧ホモジナイザーが好ましい。
【0098】
<工程(2)>
工程(2)では、得られた分散体から、公知の方法で有機溶媒を留去して水系にすることで、着色剤を含有する水不溶性ポリマー粒子の水分散体を得ることができる。得られた該水不溶性ポリマー粒子を含む水分散体中の有機溶媒は実質的に除去されることが好ましいが、本発明の目的を損なわない限り、残存していてもよく、必要により工程(3)の遠心分離後に再除去すればよい。残留有機溶媒の量は0.1質量%以下であることが好ましく、0.01質量%以下であることがより好ましい。
得られた着色剤を含有する水不溶性ポリマー粒子の水分散体は、着色剤を含有する水不溶性ポリマーの固体分が水を主媒体とする中に分散しているものである。ここで、水不溶性ポリマー粒子の形態は特に制限はなく、少なくとも着色剤と水不溶性ポリマーにより粒子が形成されていればよい。例えば、水不溶性ポリマーに着色剤が内包された粒子形態、水不溶性ポリマー中に着色剤が均一に分散された粒子形態、ポリマー粒子表面に着色剤が露出された粒子形態等が含まれる。
【0099】
<工程(3)>
工程(3)では、工程(2)で得られた着色剤を含有する水不溶性ポリマー粒子の水分散体を遠心分離し、上澄み液と沈殿物に分離して、沈殿物を取り出す。なお、工程(3)の出発原料となる着色剤を含有する水不溶性ポリマー粒子の水分散体は、工程(1)、(2)を経たものではなく、酸析等の一般的方法により得られたものを用いてもよい。
工程(3)の出発原料である水分散体中には、着色剤に未吸着のポリマー、着色剤を含有していないポリマー粒子、着色剤に吸着しているが吸着力が弱く、インク中のビヒクル成分により剥がれ易いポリマー等の遊離し易いポリマー等(総称して「遊離ポリマー」ともいう。)が存在する。そこで、この遠心分離操作によって、これらの遊離ポリマーを低減させることができる。このような遊離ポリマーは、ノズルに付着して、印字曲がりやスジの原因になると吐出不良、洗浄性不良の原因となると考えられる。
【0100】
工程(3)の遠心分離における遠心加速度としては、遊離し易いポリマー等を低減させる観点から、2,000G以上が好ましく、3,000G以上がより好ましく、4,000G以上が更に好ましく、同観点から、その上限は150,000G以下が好ましく、140,000G以下がより好ましく、130,000G以下が更に好ましい。これらの観点から、2,000〜150,000Gが好ましく、3,000〜140,000Gがより好ましく、4,000〜130,000Gが更に好ましい。
ここで、遠心加速度は、下記式(4)で求められるa値を、重力加速度(9.8m/s)で除した値を用いる。
a[m/s]=N×π×r/900 (4)
〔式中、Nは1分間あたりの回転数(min−1)、rは回転先端部までの半径(m)、πは円周率を示す。〕
遠心加速度と処理時間との積は、遊離し易いポリマー等を低減させる観点から、2,000G・hr以上が好ましく、3,000G・hr以上がより好ましく、4,000G・hr以上が更に好ましく、同観点から、その上限は450,000G・hr以下が好ましく、420,000G・hr以下がより好ましく、390,000G・hr以下が更に好ましい。これらの観点から、2,000〜450,000G・hrが好ましく、3,000〜420,000G・hrがより好ましく、4,000〜390,000G・hrが更に好ましい。
遠心分離装置としては、無孔の回転ボウルを高速回転させることによって懸濁物質を遠心沈降させる遠心沈降機を好適に用いることができる。遠心沈降機としては、遠心沈降管型、円筒型、分離板型、バスケット型、スクリデカンター型等の遠心沈降機が挙げられる。〔例えば、化学工学会編「化学装置便覧」、改訂二版第2刷、丸善株式会社、平成8年4月5日、798頁参照〕。
【0101】
<工程(4)>
工程(4)では、工程(3)で得られた沈殿物を水系媒体に再分散する。再分散方法としては、得られた沈殿物に水を加え、分散処理する方法が好ましい。分散方法としては、前記工程(1)で述べた方法と同じである。ここで、「水系媒体」とは、実質的に水を主成分とするものであるが、インクで用いられる溶媒、添加剤等が入っていてもよい。
【0102】
<ビルドアップ法>
ここで、上述したビルドアップ法について説明する。本発明のインク組成物を作製するにあたって、好ましい態様としては、着色剤を溶解した溶液、および水性媒体の少なくとも一方に上述した水不溶性ポリマーを含有せしめ、これら両者を接触させて着色剤の粒子を析出させる方法が挙げられる(以下、これを第1の態様と表記する)。また、着色剤を溶解した溶液、および水性媒体の少なくとも一方に分散剤を含有せしめ、これら両者を接触させて着色剤の粒子を析出させ、更に、前記着色剤の粒子と、重合性化合物とを重合させる工程を経ることにより、着色剤を含有する水不溶性ポリマー粒子の着色剤水分散体を得る方法が挙げられる(以下、これを第2の態様と表記する)。ここで、着色剤を溶解する場合、溶解させる目的に応じてアルカリ存在下、あるいは酸存在下で行うことが好ましい。
【0103】
着色剤を溶解する溶媒としては、水に対する溶解度が5質量%以上であるものが好ましく用いられ、さらには水に対して自由に混合するものが好ましい。具体的には、ジメチルスルホキシド、ジメチルイミダゾリジノン、スルホラン、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、アセトン、ジオキサン、テトラメチル尿素、ヘキサメチルホスホルアミド、ヘキサメチルホスホロトリアミド、ピリジン、プロピオニトリル、ブタノン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、エチレングリコールジアセテート、γ−ブチロラクトン等が好ましい溶剤として挙げられ、中でもジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルイミダゾリジノン、スルホラン、アセトン又はアセトニトリル、テトラヒドロフランが好ましい。また、酸性溶媒として、濃硫酸、燐酸、濃塩酸、濃硝酸、メタンスルホン酸などが挙げられ、中でも濃硫酸、メタンスルホン酸が好ましい。これらは1種類単独でまたは2種類以上を併用して用いることができる。
【0104】
上記着色剤を溶解する溶媒の使用割合は特に限定されないが、色材のより良好な溶解状態と、所望とする微粒子径の形成の容易性、更に水性分散体の色濃度をより良好なものとするために、色材1質量部に対して2〜500質量部、さらには5〜100質量部の範囲で用いるのが好ましい。
【0105】
上述した水性媒体とは、水単独または水と水に可溶な有機溶媒との混合溶媒である。このとき有機溶媒の添加は、顔料や分散剤を均一に溶解するために水のみでは不十分な場合、および流路中を流通するのに必要な粘性を得るのに水のみで不十分な場合などに用いることが好ましい。
【0106】
着色剤を溶解した溶液と水性媒体とを混合する実施態様は特に限定されない。例えば、水性媒体を撹拌しておきそこに着色剤の溶液を添加する実施態様、該溶液及び水性媒体をそれぞれ長さのある流路に同一の長手方向に送りこみ、その流路を通過する間に両液を接触させ着色剤微粒子を析出させる実施態様等が挙げられる。前者(撹拌混合する実施態様)については、特に水性媒体中に供給管等を導入しそこから着色剤の溶液を添加する液中添加による実施態様が好ましい。さらに具体的には、国際公開WO2006/121018号パンフレットの段落0036〜0047に記載の装置を用いて液中添加を行うことができる。後者(流路を用いて両者を混合する実施態様)については、例えば、特開2005−307154号公報の段落0049〜52及び図1〜図4、特願2006−78637号公報の段落0044〜0050に記載のマイクロリアクターを用いることができる。
【0107】
ここで、第2態様にかかる方法で用いることのできる重合性化合物としては、重合性部分を有する化合物で上述した着色剤を溶解する溶媒に溶解し、かつ着色剤含有粒子との重合性を維持し得る化合物が用いられる。好ましくは、ラジカル重合やイオン重合で用いられるモノマーを用いることができる。
【0108】
具体的に、モノマーの種類は本発明の効果が得られるものであれば特に限定されるものではないが、スチレン、4−メチルスチレン、4−エチルスチレン、スチレンスルホン酸およびその塩等の炭素数8〜20のα−オレフィン性芳香族炭化水素類、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酢酸イソプロペニル等の炭素数3〜20のビニルエステル類、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン、テトラクロロエチレン等の炭素数2〜20の含ハロゲンビニル化合物類、メタクリル酸およびその塩、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸−2−エチルへキシル、メタクリル酸ステアリル、アクリル酸およびその塩、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸−2−エチルへキシル、メタクリル酸ラウリル、アクリル酸ステアリル、イタコン酸メチル、イタコン酸エチル、マレイン酸およびその塩、無水マレイン酸、マレイン酸メチル、マレイン酸エチル、フマル酸およびその塩、フマル酸メチル、フマル酸エチル、クロトン酸およびその塩、クロトン酸メチル、クロトン酸エチル等の炭素数4〜20のオレフィンカルボン酸およびエステル類、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、シアン化アリル等の炭素数3〜20の含シアノビニル化合物類、アクリルアミド、メタクリルアミド、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸およびその塩等の炭素数3〜20のビニル系アミド化合物類、アクロレイン、クロトンアルデヒド等の炭素数3〜20のオレフィンアルデヒド類、4−ビニルビリジン、4−ビニルアニリン等の炭素教8〜20のビニル系芳香族アミン類、4−ビニルフェノール等の炭素数8〜20のオレフィンフェノール類、ブタジエン、イソプレン等の炭素教4〜20のジエン系化合物類等が挙げられる。また、この他にも多官能性モノマーやマクロモノマー、その他従来公知であるモノマーおよびその誘導体から適宜選ぶことができる。また、これらの重合性化合物は、1種類単独でまたは2種類以上を併用して用いることができる。上記重合性化合物の使用割合は本発明の目的を達成できる範囲で、特に限定されるものではないが、着色剤含有粒子の分散安定性を更に向上させ、または水性分散体とした際の色濃度をより良好なものとする上で、着色剤1質量部に対して0.001〜10質量部、さらには0.005〜2.0質量部の範囲で用いるのが好ましい。
【0109】
なお、後述する、分散剤として機能する重合性化合物を用いた場合は、その量は分散剤としても必要とされる量で、かつ重合性化合物を添加することによる効果が得られる量とされる。分散剤を必要とする重合性化合物と、分散剤として機能する重合性化合物を併用した場合は、これらの合計量を上記の範囲から設定することが好ましい。
【0110】
第2の態様にかかる方法においては、着色剤溶液に添加する分散剤として、第1の態様に係る方法において挙げたものを用いることが好ましいが、水溶性を有していても良く、この場合、第2の態様における重合工程を経た後に水不溶性を呈していれば良く、反応性乳化剤を用いることもできる。この反応性乳化剤は、上記の重合性化合物として利用できるものであり、反応性乳化剤を使用することで分散剤と重合性化合物の両方の機能をこれにより得ることができ、用いる組成分の数を低減化できる。ただし、重合性化合物及び分散剤としても機能を有する反応性乳化剤を併用してもよいし、反応性乳化剤、重合性化合物及び分散剤の3種を併用することもできる。分散剤の添加量は上述した水不溶性ポリマーの使用範囲から選択することができ、分散剤として機能し得る重合性化合物と重合性を持たない分散剤とを併用した場合にはこれらの合計が上述した水不溶性ポリマーの使用範囲となるように選択するのが好ましい。
【0111】
分散剤として機能する重合性化合物は、着色剤溶液と水の混合により着色剤含有粒子が形成された際に、これに分散性を付与できるものである。好ましい具体例としては、疎水性部分、親水性部分および重合性部分を同一分子内に有する反応性乳化剤であり、さらに親水性部分がカルボン酸基、スルホン酸基、リン酸基、水酸基、アルキレンオキサイドのうちの1種以上を用いて構成されているものが好ましく利用される。具体的に、反応性乳化剤の例としては、本発明の目的を達成できるものであれば特に限定されるものではないが、ビニルスルホン酸、4−ビニルベンゼンスルホン酸、アリルスルホン酸、3−(メタ)アクリロイルオキシプロパンスルホン酸、2−メチルアリルスルホン酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエタンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、モノ{2−(メタ)アクリロイルオキシエチル}アシッドホスフェート、アリルアルコールの硫酸エステルおよびこれらの塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン高級脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルのような各種のポリエーテル鎖を側鎖に有するビニルエーテル類、アリルエーテル類、アクリル酸エステルもしくはメタクリル酸エステル類のモノマーなどが使用される。また、市販されている反応性乳化剤として代表的なものとしては、「アデカリアソープ SE−10N」、「アデカリアソープ SE−20N」、「アデカリアソープ SE−30N」、「アデカリアソープ NE−10」、「アデカリアソープ NE−20」、「アデカリアソープ NE−30」(旭電化工業株式会社製)、「アクアロン HS−05」、「アクアロンHS−10」、「アクアロンHS−20」、「アクアロン HS−30」、「H−3330PL」、「アクアロン RN−10」、「アクアロン RN−20」、「アクアロンRN−30」、「アクアロン RN−50」(第一工業製薬株式会社製)、「ラテムル S−120」、「ラテムル S−120A」、「ラテムル S−180」、「ラテムル S−180A」、「ラテムル ASK」(花王株式会社製)、「エレミノールJS−2」、「エレミノール RS−30」(三洋化成工業株式会社製)、「RMA−564」、「RMA−568」、「RMA−1114」、「アントックス MS−60」、「アントックス MS−2N」、「RN−1120」、「RA−2614」(日本乳化剤株式会社製)がある。これらの1種または2以上を組み合わせて用いることができる。
【0112】
第2の態様にかかる方法においては上述した重合開始剤を用いることができる。この重合開始剤は、着色剤溶液調製用の水及び上述した着色剤を溶解する溶媒の一方のみに、あるいはこれらの両方に添加しておくことができる。重合形態としては、ラジカル重合、イオン重合などが利用できるが、操作性、簡便性および使用できる重合性化合物のバリエーションの広さなどからラジカル重合で行うのが好適である。重合の開始及び進行は、熱や光またはその併用により、あるいは熱や光またはその併用により活性種を発生させる重合開始剤を用いて行ってもよい。
【0113】
ビルドアップ法においては、着色剤粒子を形成した後に、前記着色剤粒子を加熱する工程を導入することが好ましい。加熱工程を導入する意義については、特許第3936558号公報に記載の効果や、安定な結晶構造を有する着色剤粒子を得ることができる等、いわゆるオストワルド熟成に代表されるものであり、この処理により、分散体の粘度を低下させるとともに、分散安定性を向上させることができる。
上記加熱は30〜110℃で行うことが好ましく、加熱時間は10〜360分であることが好ましい。この加熱処理は上記水不溶性色材溶液と水性媒体とを混合して微粒子を生成させた分散体とした後に行うことが好ましい。
【0114】
ビルドアップ法においては、上述した水と着色剤の粒子と水不溶性ポリマーとを含有する分散体を用い、この着色剤の微粒子を再分散可能に凝集させた軟凝集体とし、該軟凝集体を前記分散体から分離することができる。さらには、前記軟凝集体に再分散性を付与し、その凝集を解き再分散媒体に再分散させることができる。
【0115】
ビルドアップ法において、前記の着色剤の粒子を再分散可能に凝集させた軟凝集体とし該軟凝集体を前記分散体から分離する工程、及びにこの凝集体の凝集を解き再分散させる工程について詳しく説明する。
以下に具体的に述べるように、着色剤の粒子を析出させた(さらに、重合させる工程を経た)混合液を酸処理し、好ましくは凝集体の形成に酸を添加して処理し、粒子の凝集体を形成させることが好ましい。酸を用いた処理は、好ましくは、粒子を酸で凝集させてこれを溶剤(分散媒)と分離し、濃縮、脱溶剤および脱塩(脱酸)を行う工程を含む。系を酸性にすることで酸性の親水性部分による静電反発力を低下させ、粒子を凝集させることができる。
【0116】
ここで用いる酸としては、沈殿し難い微粒子となっているものを凝集させて、スラリー、ペースト、粉状、粒状、ケーキ状(塊状)、シート状、短繊維状、フレーク状などにして通常の分離法によって効率よく溶剤と分離できる状態にするものであれば、いかなるものでも使用できる。さらに好ましくは、アルカリと水溶性の塩を形成する酸を利用するのがよく、酸自体も水への溶解度が高いものが好ましい。また脱塩を効率よく行うために、加える酸の量は粒子が凝集する範囲でできるだけ少ない方がよい。具体的には塩酸、硫酸、硝酸、酢酸、リン酸、トリフルオロ酢酸、ジクロロ酢酸、メタンスルホン酸などが挙げられるが、塩酸、酢酸および硫酸が特に好ましい。酸によって容易に分離可能な状態にされた顔料粒子の水性分散液は遠心分離装置や濾過装置またはスラリー固液分離装置などで容易に分離することができる。この際、希釈水の添加、またはデカンテーションおよび水洗の回数を増やすことで脱塩、脱溶剤の程度を調節することができる。凝集方法としては、さらにミョウバンなどの無機化合物や高分子凝集剤を合わせて用いることも可能である。
【0117】
ここで得られた凝集体は、含水率の高いペーストやスラリーのままで用いることもできるが、必要に応じてスプレードライ法、遠心分離乾燥法、濾過乾燥法または凍結乾燥法などのような乾燥法により、微粉末として用いることもできる。
【0118】
この再分散処理としてアルカリ処理を挙げることができる。すなわち、酸を用いて凝集させた粒子をアルカリで中和し、粒子の析出時の一次粒子径で水等に再分散させることが好ましい。すでに脱塩および脱溶剤が行われているため、不純物の少ないコンクベースを得ることができる。ここで使用するアルカリは、酸性の親水性部分を持つ分散剤の中和剤として働き、水への溶解性が高まるもので、いかなるものでも使用できる。具体的にはアミノメチルプロパノール、ジメチルアミノプロパノール、ジメチルエタノールアミン、ジエチルトリアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ブチルジエタノールアミン、モルホリン等の各種有機アミン、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物、アンモニアが挙げられる。これらの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0119】
上記のアルカリの使用量は、凝集した粒子を水に安定に再分散できる範囲であれば特に限定されるものではないが、印刷インキやインクジェットプリンタ用インクなどの用途に用いる場合、各種部材の腐食の原因になる場合があるため、pHが6〜12、さらに好ましくは7〜11の範囲になる量を使用するのがよい。
【0120】
また、粒子析出時に用いる分散剤に応じて、上記のアルカリ処理とは異なる方法を用いてもよく、例えば、従来公知の低分子分散剤や高分子分散を使用した再分散処理があげられる。これらの再分散処理は上述したアルカリ処理と併用してもよい。
【0121】
また、凝集した粒子を再分散する際に、再分散用媒体として水溶性の有機溶剤を添加して、再分散しやすくすることができる。具体的に使用できる有機溶剤としては特に限定されるものではないが、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、tert−ブタノール等の低級アルコール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジアセトンアルコール等の脂肪族ケトン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、エチレングリコールモノメチルまたはモノエチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテル、トリプロピレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールフェニルエーテル、プロピレングリコールフェニルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルまたはモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルまたはモノエチルエーテル、N−メチルピロリドン、2−ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルイミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミドなどが挙げられる。これらは、1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。また、顔料粒子を再分散させて水性分散液とするとき、ここにおける水の量は99〜20質量%であることが好ましく、95〜30質量%とすることがより好ましい。上記の水溶性有機溶剤の量は50〜0.1質量%であることが好ましく、30〜0.05質量%とすることがより好ましい。
【0122】
凝集した粒子に水、上記アルカリおよび水溶性の有機溶剤を加える際には、必要に応じて撹拌、混合、サンドミル、ビーズミル、ボールミル、ディゾルバーなどの分散機や超音波分散装置を用いることができる。特に含水率の高い有機顔料のペースト、スラリーを用いる際は水を加えなくてもよい。さらに、再分散の効率を高める目的、および不用となった水溶性有機溶剤または過剰なアルカリ等を除去する目的で加熱、冷却、または蒸留などを行うことができる。
【0123】
ビルドアップ法により得られる分散体は分散安定性に優れ、遊離ポリマーが非常に少ないため、本発明のインク組成物として好適に用いることができる。
【0124】
本発明のインク組成物には、通常用いられる湿潤剤、浸透剤、分散剤、粘度調整剤、消泡剤、防黴剤、防錆剤等を添加することができる。
本発明のインク組成物中の水の含有量は、好ましくは30〜90質量%、より好ましくは40〜80質量%である。インク組成物の表面張力(20℃)は、好ましくは25〜50mN/mであり、より好ましくは27〜45mN/mである。
本発明のインク組成物の粘度(20℃)は、良好な吐出性を維持するために、好ましくは2〜12mPa・s、より好ましくは2.5〜10mPa・s、更に好ましくは2.5〜6mPa・sである。なお、粘度の測定は、東機産業株式会社製のE型粘度計「RE80」を用いて、測定温度20℃、測定時間1分、回転数100rpm、ロータは標準(1°34′×R24)を使用して行うことができる。
【0125】
<インクセット>
本発明のインクセットは、本発明のインク組成物の少なくとも1種を含んで構成される。
本発明のインクセットの態様としては、
(1)多色画像(例えば、フルカラー画像)の形成に用いることができる異なる色調を有する複数のインク組成物の組合せの態様、
(2)インク組成物の少なくとも1種と、前記インク組成物と接触して凝集体を形成可能な処理液の少なくとも1種とを含む態様、
(3)上記(1)と(2)の組み合わせの態様
の(1)〜(3)等が挙げられる。
本発明のインクセットは、前記インク組成物を用いる画像形成方法に用いられ、特に後述の画像形成方法に用いるインクセットであることが好ましい。以下、(1)及び(2)の態様について述べる。
【0126】
(1)の態様:異なる色調を有する複数のインク組成物の組合せからなるインクセットとしては、フルカラー画像を形成するためにマゼンタ色調インク、シアン色調インク、及びイエロー色調インクを有することが好ましい。また、色調を整えるために、更にブラック色調インクを用いてもよい。また、イエロー、マゼンタ、シアン色調インク以外のレッド、グリーン、ブルー、白色インクやいわゆる印刷分野における特色インク(例えば無色)等を用いてもよい。
これらの複数の色調を有するインク組成物は、本発明のインク組成物の作製において着色剤を適宜選択することにより作製することができる。
【0127】
(2)の態様:本発明のインク組成物の少なくとも1種と、前記インク組成物と接触して凝集体を形成可能な処理液の少なくとも1種とを含む態様である。
【0128】
(処理液)
処理液は、インク組成物と接触したときに凝集体を形成できる水性組成物であり、具体的には、インク組成物と混合されたときに、インク組成物中の着色粒子(顔料等)などの分散粒子を凝集させて凝集体を形成可能な凝集成分を少なくとも含み、必要に応じて、他の成分を含んで構成することができる。インク組成物と共に処理液を用いることで、インクジェット記録を高速化でき、高速記録しても濃度、解像度の高い画像が得られる。
【0129】
(凝集成分)
処理液は、インク組成物と接触して凝集体を形成可能な凝集成分の少なくとも1種を含有する。インクジェット法で吐出された前記インク組成物に処理液が混合することにより、インク組成物中で安定的に分散している顔料等の凝集が促進される。
【0130】
処理液の例としては、インク組成物のpHを変化させることにより凝集物を生じさせることができる液体組成物が挙げられる。このとき、処理液のpH(25℃±1℃)は、インク組成物の凝集速度の観点から、1〜6であることが好ましく、1.2〜5であることがより好ましく、1.5〜4であることが更に好ましい。この場合、吐出工程で用いる前記インク組成物のpH(25±1℃)は、7.5〜9.5(より好ましくは8.0〜9.0)であることが好ましい。
中でも、本発明においては、画像濃度、解像度、及びインクジェット記録の高速化の観点から、前記インク組成物のpH(25℃)が7.5以上であって、処理液のpH(25℃)が3〜5である場合が好ましい。
前記凝集成分は、1種単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0131】
処理液は、凝集成分として、酸性化合物の少なくとも1種を用いて構成することができる。酸性化合物としては、リン酸基、ホスホン酸基、ホスフィン酸基、硫酸基、スルホン酸基、スルフィン酸基、又はカルボキシル基を有する化合物、あるいはその塩(例えば多価金属塩)を使用することができる。中でも、インク組成物の凝集速度の観点から、リン酸基又はカルボキシル基を有する化合物がより好ましく、カルボキシル基を有する化合物であることが更に好ましい。
【0132】
カルボキシル基を有する化合物としては、ポリアクリル酸、酢酸、グリコール酸、マロン酸、リンゴ酸、マレイン酸、アスコルビン酸、コハク酸、グルタル酸、フマル酸、クエン酸、酒石酸、乳酸、ピロリドンカルボン酸、ピロンカルボン酸、ピロールカルボン酸、フランカルボン酸、ピリジンカルボン酸、クマリン酸、チオフェンカルボン酸、ニコチン酸、若しくはこれらの化合物の誘導体、又はこれらの塩(例えば多価金属塩)等の中から選ばれることが好ましい。これらの化合物は、1種類で使用されてもよく、2種類以上併用されてもよい。
【0133】
本発明における処理液は、上記酸性化合物に加えて、水系溶媒(例えば、水)を更に含んで構成することができる。
処理液中の酸性化合物の含有量としては、凝集効果の観点から、処理液の全質量に対して、5〜95質量%であることが好ましく、10〜80質量%であることがより好ましい
【0134】
また、高速凝集性を向上させる処理液の好ましい一例として、多価金属塩あるいはポリアリルアミンを添加した処理液も挙げることができる。多価金属塩としては、周期表の第2属のアルカリ土類金属(例えば、マグネシウム、カルシウム)、周期表の第3属の遷移金属(例えば、ランタン)、周期表の第13属からのカチオン(例えば、アルミニウム)、ランタニド類(例えば、ネオジム)の塩、及びポリアリルアミン、ポリアリルアミン誘導体を挙げることができる。金属の塩としては、カルボン酸塩(蟻酸、酢酸、安息香酸塩など)、硝酸塩、塩化物、及びチオシアン酸塩が好適である。中でも、好ましくは、カルボン酸(蟻酸、酢酸、安息香酸塩など)のカルシウム塩又はマグネシウム塩、硝酸のカルシウム塩又はマグネシウム塩、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、及びチオシアン酸のカルシウム塩又はマグネシウム塩である。
【0135】
金属の塩の処理液中における含有量としては、1〜10質量%が好ましく、より好ましくは1.5〜7質量%であり、更に好ましくは2〜6質量%の範囲である。
【0136】
処理液の粘度としては、インク組成物の凝集速度の観点から、1〜30mPa・sの範囲が好ましく、1〜20mPa・sの範囲がより好ましく、2〜15mPa・sの範囲がさらに好ましく、2〜10mPa・sの範囲が特に好ましい。なお、粘度は、VISCOMETER TV−22(TOKI SANGYO CO.LTD製)を用いて20℃の条件下で測定されるものである。
また、処理液の表面張力としては、インク組成物の凝集速度の観点から、20〜60mN/mであることが好ましく、20〜45mN/mであることがより好ましく、25〜40mN/mであることがさらに好ましい。なお、表面張力は、Automatic Surface Tensiometer CBVP−Z(協和界面科学(株)製)を用いて25℃の条件下で測定されるものである。
【0137】
[画像形成方法]
本発明の画像形成方法は、複数の吐出口(以下、「ノズル」ともいう。)が2次元マトリックス状に配設され、前記吐出口から本発明の前記インク組成物、又は本発明の前記インクセットのインク組成物を前記吐出口から吐出して画像を形成する工程(以下、「インク吐出工程」ということがある。)を含む構成としたものであり、必要に応じて、その他の工程を設けて構成されてもよい。
本発明の画像形成方法は、特に、本発明のインク組成物を用いた構成とすることにより、インク組成物に因るノズル目詰まりを抑制することができ、この結果、吐出安定性及び洗浄性に優れたものとなる。
【0138】
[インク吐出工程]
インク吐出工程では、ノズルプレートを備えたインクジェットヘッドを用い、インク組成物を吐出して画像を形成される。本工程では、記録媒体上に選択的にインク組成物を付与でき、所望の可視画像を形成できる。
【0139】
インクジェット法を利用した画像の記録は、具体的には、エネルギーを供与することにより、所望の被記録媒体、すなわち普通紙、樹脂コート紙、例えば特開平8−169172号公報、同8−27693号公報、同2−276670号公報、同7−276789号公報、同9−323475号公報、特開昭62−238783号公報、特開平10−153989号公報、同10−217473号公報、同10−235995号公報、同10−337947号公報、同10−217597号公報、同10−337947号公報等に記載のインクジェット専用紙、フィルム、電子写真共用紙、布帛、ガラス、金属、陶磁器等に液体組成物を吐出することにより行なえる。なお、本発明に好ましいインクジェット記録方法として、特開2003−306623号公報の段落番号0093〜0105に記載の方法が適用できる。
【0140】
インクジェット法は、特に制限はなく、公知の方式、例えば、静電誘引力を利用してインクを吐出させる電荷制御方式、ピエゾ素子の振動圧力を利用するドロップオンデマンド方式(圧力パルス方式)、電気信号を音響ビームに変えインクに照射して放射圧を利用してインクを吐出させる音響インクジェット方式、及びインクを加熱して気泡を形成し、生じた圧力を利用するサーマルインクジェット(バブルジェット(登録商標))方式等のいずれであってもよい。なお、前記インクジェット法には、フォトインクと称する濃度の低いインクを小さい体積で多数射出する方式、実質的に同じ色相で濃度の異なる複数のインクを用いて画質を改良する方式や無色透明のインクを用いる方式が含まれる。
【0141】
また、インクジェット法で用いるインクジェットヘッドは、オンデマンド方式でもコンティニュアス方式でも構わない。また、吐出方式としては、電気−機械変換方式(例えば、シングルキャビティー型、ダブルキャビティー型、ベンダー型、ピストン型、シェアーモード型、シェアードウォール型等)、電気−熱変換方式(例えば、サーマルインクジェット型、バブルジェット(登録商標)型等)、静電吸引方式(例えば、電界制御型、スリットジェット型等)及び放電方式(例えば、スパークジェット型等)などを具体的な例として挙げることができるが、いずれの吐出方式を用いても構わない。なお、前記インクジェット法により記録を行う際に使用するインクノズル等については特に制限はなく、目的に応じて、適宜選択することができる。
【0142】
インクジェットヘッドとしては、記録媒体の1辺の全域に対応して記録素子が配列されているラインヘッドを用いたライン方式(シングルパス方式)とがあることが、本発明の吐出安定性、洗浄性の向上の効果を顕著に奏することから好ましい。シングルパス方式とは、記録媒体の全域をカバーするフルラインヘッドを用いて、該フルラインヘッドと記録媒体とを相対的に一回だけ移動させる動作で、記録媒体の全面に画像を形成する態様である。このようなシングルパス方式の例としては、特開2005−96443号公報、特開2005−280346号公報に記載がある。つまり、シングルパス方式では、フルラインヘッドの素子配列方向と直交する方向に記録媒体を走査させることで記録媒体の全面に画像記録を行なうことができ、短尺ヘッドを走査するキャリッジ等の搬送系が不要となる。また、キャリッジの移動と記録媒体との複雑な走査制御が不要になり、記録媒体だけが移動するので、シャトル方式に比べて記録速度の高速化が実現できる。本発明の画像形成方法は、これらのいずれにも適用可能であるが、一般にシングルパス方式に適用した場合に吐出精度の向上及びノズルプレートのインクとの接触による侵食防止に対する効果が大きい。
【0143】
更には、本発明におけるインク吐出工程では、ライン方式による場合に、インク組成物を1種のみ用いるのみならず2種以上のインク組成物を用い、先に吐出するインク組成物(第n色目(n≧1)、例えば第2色目)とそれに続いて吐出するインク組成物(第n+1色目、例えば第3色目)との間の吐出(打滴)間隔を1秒以下にして好適に記録を行なうことができる。本発明においては、ライン方式で1秒以下の吐出間隔として、インク滴間の干渉で生じる滲みや色間混色を防止しつつ、従来以上の高速記録下で耐擦過性に優れ、ブロッキングの発生が抑えられた画像を得ることができる。また、色相及び描画性(画像中の細線や微細部分の再現性)に優れた画像を得ることができる。
【0144】
インクジェットヘッドから吐出されるインクの液滴量としては、高精細な画像を得る観点で、0.5〜6pl(ピコリットル)が好ましく、1〜5plがより好ましく、更に好ましくは2〜4plである。
【0145】
−インクジェットヘッド−
本発明の画像形成方法において、インクジェットヘッドは少なくともノズルプレートを備えている。図1は、インクジェットヘッドの内部構造の一例を示す概略断面図である。
【0146】
図1に示すように、インクジェットヘッド200は、吐出口(ノズル)を有するノズルプレート11と、ノズルプレートの吐出方向と反対側に設けられたインク供給ユニット20とを備えている。ノズルプレート11には、インクを吐出する複数の吐出口12が設けられている。
【0147】
ノズルプレート11は、図2に示すように、32×60個の吐出口(ノズル)が2次元配列されて設けられている。このノズルプレートは、例えば、シリコンで形成され、ノズル口内及びインク吐出方向側の表面にはシリコンが露出した構造になっている。
【0148】
このノズルプレートにより高速シングルパス(記録媒体が1回通過)で1200dpiの高精細で高画質記録が可能である。すなわち、ノズルプレートの複数のノズルが2次元マトリックス状に配置されており、このノズルプレートに固定されたインク供給ユニットは多くのインクを高周波数で吐出(いわゆる高Dutyにて吐出)させることができる流路構成となっている。
【0149】
(インクジェットヘッドノズルの撥水処理)
記録ヘッドにおいて、ノズルの表面は特開2002−292878号公報に記載されるような撥水処理を施すことが吐出安定性、洗浄性の向上の点でより好適である。例えば、フッ素系樹脂性部材や単層のフッ素系樹脂プレート、もしくは、基材の最表面にフッ素系樹脂層が形成された2層以上の複数層の構造の部材(プレート)などが利用可能である。
【0150】
フッ素系樹脂性製部材、またはフッ素系樹脂層の材料としては、主鎖に−CF−を含み、末端基が−CFのフルオロカーボン樹脂、主鎖に−SiF−を含み、末端基が−SiFのフルオロシリコーン樹脂、もしくは、これらフルオロカーボン樹脂およびフルオロシリコーン樹脂のフッ素原子の一部を水素原子で置換したハイドロフルオロカーボン樹脂、ハイドロフルオロシリコーン樹脂等の従来公知の各種のフッ素系樹脂が利用可能である。
【0151】
より具体的には、フッ素系樹脂性部材またはフッ素系樹脂層の材料として、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PFA(テトラフルオロエチレンパーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)、FEP(テトラフルオロエチレンヘキサフルオロプロピレン共重合体)、ETFE(テトラフルオロエチレン共重合体)等のフッ素系樹脂を一例として挙げることができる。また、この中でも、PTFEは特に好ましい例として示すことができる。
【0152】
なお、本発明において、撥水性とは、一般に知られているバルク材料の表面の持つ、水に対する接触角よりも大きい接触角を持つ表面の性質をいう。すなわち、バルク材料の内、最も大きい接触角を持つ材料は、PFA樹脂であり、その接触角は、約115°であるので、これよりも大きい接触角を示す表面の性質を超撥水性という。従って、本発明において、フッ素系樹脂性部材やフッ素系樹脂層の表面の超撥水化処理とは、フッ素系樹脂本来の撥水性よりも撥水性を持つように、すなわち、フッ素系樹脂が本来持っている接触角よりも大きい接触角を持つようにフッ素系樹脂の表面を処理することをいう。従って、本発明では、水に対する接触角は、120°以上が好ましいが、150°以上、あるいは170°以上であっても良い。なお、接触角の上限は、特に制限はない。
【0153】
ここで、本発明に用いられる、フッ素系樹脂性部材やフッ素系樹脂層の表面の超撥水化処理に関しては、特に、制限的ではなく、フッ素系樹脂の表面に超撥水性を付与できればどのような処理でも良いが、例えば、「表面改質層を有するフッ素樹脂成形体、フッ素樹脂の表面処理方法、および処理装置(特開2000−17091号公報)」や、「フッ素樹脂の超撥水性に及ぼすArイオン注入の影響(第15回イオン注入表層処理シンポジウム予稿集)」等に詳細に記述されている方法などを用いれば良い。また、本発明に用いられる親水化処理に関しては、特に、制限的ではなく、フッ素系樹脂の表面に親水性を付与できればどのような処理でも良いが、例えば、「フッ素樹脂に対する表面改質技術の最先端(日東技報 Vol.34, No.1 <May, 1996>)」等に詳細に記述されている方法などを用いれば良い。
【0154】
−記録媒体−
本発明の画像形成方法は、記録媒体に上に画像を記録するものである。
記録媒体には、特に制限はないが、一般のオフセット印刷などに用いられる、いわゆる上質紙、コート紙、アート紙などのセルロースを主体とする一般印刷用紙を用いることができる。
【0155】
記録媒体としては、一般に市販されているものを使用することができ、例えば、王子製紙(株)製の「OKプリンス上質」、日本製紙(株)製の「しおらい」、及び日本製紙(株)製の「ニューNPI上質」等の上質紙(A)、王子製紙(株)製の「OKエバーライトコート」及び日本製紙(株)製の「オーロラS」等の微塗工紙、王子製紙(株)製の「OKコートL」及び日本製紙(株)製の「オーロラL」等の軽量コート紙(A3)、王子製紙(株)製の「OKトップコート+」及び日本製紙(株)製の「オーロラコート」等のコート紙(A2、B2)、王子製紙(株)製の「OK金藤+」及び三菱製紙(株)製の「特菱アート」等のアート紙(A1)等が挙げられる。また、インクジェット記録用の各種写真専用紙を用いることも可能である。
【実施例】
【0156】
以下に実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。尚、特に断りの無い限り、「部」及び「%」は質量基準である。
【0157】
≪一般式(1)で表される化合物(特定の化合物)の合成≫
(特定の化合物Aの合成例1)
反応容器内に、無水フタル酸100部及び2−エチルヘキシルアルコールのエチレンオキサイド4mol付加物(日本乳化剤株式会社製、商品名:ニューコール1004)400部、テトライソプロポキシチタネート0.5部を入れて混合し、窒素ガス置換を十分に行った後、220℃に昇温し、エステル化反応を行った。さらに同温度にて減圧反応を行うことでエステル化反応を完結させ、余分なアルコールをトッピングにより除去することでフタル酸ジエステル系の特定の化合物Aを得た。
特定の化合物Aは、フタル酸を基本構造に、両末端に2−エチルヘキシル基のエチレンオキサイドが4モル付加物を有している。フタル酸のLogP値は0.57であり、エチレンオキサイドのLogP値は−0.27、2−エチルヘキシル基のLogP値は3.91であるので、特定の化合物AのLogP値は6.23(=0.57−0.27×8+3.91×2)と計算される。
【0158】
(特定の化合物Bの合成例2)
反応容器内に、アジピン酸70部及び2−エチルヘキシルアルコールのエチレンオキサイド4mol、プロピレンオキサイド2mol付加物(日本乳化剤株式会社製)450部、テトライソプロポキシチタネート0.5部を入れて混合し、窒素ガス置換を十分に行った後、230℃に昇温し,エステル化反応を行った。さらに同温度にて減圧反応を行うことでエステル化反応を完結させ、余分なアルコールをトッピングにより除去することでアジピン酸ジエステル系の特定の化合物Bを得た。
特定の化合物Bは、アジピン酸を基本構造に、両末端に2−エチルヘキシルアルコールのエチレンオキサイド4モル、プロピレンオキサイド2モル付加物を有している。アジピン酸のLogP値は0.29であり、エチレンオキサイドのLogP値は−0.27、プロピレンオキサイドのLogP値は0.14、2−エチルヘキシル基のLogP値は3.91であるので、特定の化合物BのLogP値は6.51(=0.29−0.27×8+0.14×4+3.91×2)と計算される。
【0159】
なお、水不溶性ポリマー及び水不溶性架橋ポリマーの重量平均分子量は、下記の方法により測定した。
【0160】
[水不溶性ポリマーの重量平均分子量(Mw)の測定]
溶媒として、60mmol/Lのリン酸と50mmol/Lのリチウムブロマイドを含有するN,N−ジメチルホルムアミドを用いたゲルクロマトグラフィー法により、標準物質としてポリスチレンを用いて測定した。使用カラム:東ソー株式会社製(TSK−GEL、α−M×2本)、本体:東ソー株式会社製(HLC−8120GPC)、流速:1mL/minを用いた。
【0161】
≪水不溶性ポリマーの製造≫
(水不溶性ポリマー1の製造:ポリマー製造例1)
反応容器内に、メチルエチルケトン20部、重合連鎖移動剤(2−メルカプトエタノール)0.11部、及び表1に示す各モノマーの200部の10%を入れて混合し、十分に窒素ガス置換を行い、混合溶液を得た。
一方、滴下ロートに、表1に示すモノマーの残りの90%を仕込み、前記重合連鎖移動剤0.99部、メチルエチルケトン60部、及びラジカル重合開始剤(2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル))1.2部を入れて混合し、十分に窒素ガス置換を行い、混合溶液を得た。
窒素雰囲気下、反応容器内の混合溶液を攪拌しながら65℃まで昇温し、滴下ロート中の混合溶液を3時間かけて徐々に滴下した。滴下終了から65℃で2時間経過後、前記ラジカル重合開始剤0.3部をメチルエチルケトン5部に溶解した溶液を加え、更に65℃で2時間、70℃で2時間熟成させ、さらにメチルエチルケトン120部加え、30分間攪拌し、固形分含有量(有効分含有量)約50%の水不溶性ポリマー1の溶液を得た。この水不溶性ポリマー1の重量平均分子量(Mw)は42,000であった。
【0162】
(水不溶性ポリマー2の製造:ポリマー製造例2)
反応容器内に、メチルエチルケトン20部、重合連鎖移動剤(2−メルカプトエタノール)0.1部、及び表1に示す各モノマーの200部の10%を入れて混合し、十分に窒素ガス置換を行い、混合溶液を得た。
一方、滴下ロートに、表1に示すモノマーの残りの90%を仕込み、前記重合連鎖移動剤0.5部、メチルエチルケトン60部、及びラジカル重合開始剤(2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル))1.2部を入れて混合し、十分に窒素ガス置換を行い、混合溶液を得た。
窒素雰囲気下、反応容器内の混合溶液を攪拌しながら65℃まで昇温し、滴下ロート中の混合溶液を3時間かけて徐々に滴下した。滴下終了から65℃で2時間経過後、前記ラジカル重合開始剤0.3部をメチルエチルケトン5部に溶解した溶液を加え、更に65℃で2時間、70℃で2時間熟成させ、さらにメチルエチルケトン120部加え、30分間攪拌し、固形分含有量(有効分含有量)約50%の水不溶性ポリマー2の溶液を得た。この水不溶性ポリマー2の重量平均分子量(Mw)は72,000であった。
【0163】
【表1】



【0164】
なお、表1に示す化合物の詳細は、以下のとおりである。
(b)スチレンマクロマー:東亜合成株式会社製、商品名:AS−6S、数平均分子量:6000、重合性官能基:メタクロイルオキシ基
(d)M−90G:ポリエチレングリコールモノメタクリレート(エチレンオキシド平均付加モル数=9、末端メチル基):新中村化学工業株式会社製、商品名:NKエステルM−90G
(e)PP−800:ポリプロピレングリコールモノメタクリレート(プロピレンオキシド平均付加モル数=13、末端水酸基):日本油脂株式会社製、商品名:ブレンマーPP−800
【0165】
<水不溶性ポリマー3の製造:ポリマー製造例3>
(モノマー(C)の合成)
200mlの三口フラスコに4−ビニル安息香酸16.6g(0.112mol)、トルエン80ml、N,N−ジメチルホルムアミド2滴を入れて室温下で攪拌しているところに、塩化チオニル9.7ml(0.14mol)を加えて60℃で2時間加熱攪拌した。その後、系内を40℃付近まで冷却して減圧下でトルエンおよび過剰の塩化チオニルを除去して化合物(B)を得た。この化合物(B)はこれ以上精製することなく、速やかに次の反応に用いた。
500mlの三口フラスコに2−アミノアントラキノン22.5g(0.101mol)、ピリジン110mlを加えて、氷冷下で攪拌しているところに(B)を滴下ロートでゆっくりと滴下した。氷冷下で30分攪拌した後、60℃で3時間加熱攪拌した。その後、室温下まで冷却し、反応混合物を攪拌しながら水を加えた。生じた粗結晶を濾別し、水、メタノールでかけ洗いしたのち、集めた粗結晶を500mlの三口フラスコに入れ、メタノール500mlを加えて60℃で加熱攪拌した。その後、結晶を濾別し、メタノールで洗浄、乾燥することでモノマー(C)21.5gを得た(収率:75%)。モノマー(C)のNMR測定結果を下記に示した。
H−NMR(300MHz,CDCl)δ=5.48(br.d,1H,J=12.0Hz)、6.07(br.d,1H,J=17.4Hz)、6.89(br.dd,1H,J=12.0,17.4Hz)、7.78(br.d,2H,J=8.4Hz)、7.94−8.05(m,4H)、8.08(br.d,2H,J=8.4Hz)、8.19−8.24(m,1H)、8.29−8.34(m,1H)、9.19(dd,1H,J=1.5,6.9Hz)、13.1(br.s,1H).
【0166】
(水不溶性ポリマー2の製造)
200mlの三口フラスコにスチレン8.9g(0.085mol)、モノマー(C)5.0g(0.014mol)、メタクリル酸6.1g(0.071mol)、N−メチルピロリドン45.7gを加え、窒素気流下、80℃の内温で加熱しているところに、V−601(商品名)0.39g(1.7mmol)、N−メチルピロリドン0.5gの混合溶液を加えた。
80℃でそのまま加熱攪拌した。2時間おきに、V−601(商品名)0.39g(1.7mmol)、N−メチルピロリドン0.5gの混合溶液を3回追添加し、さらに80℃で2時間攪拌したあと混合物を室温下まで冷却した。3Lのステンレスバケツにメタノール600ml、水600mlを加えて攪拌しているところに、得られたスチレン/モノマー(C)/メタクリル酸の共重合体混合物をゆっくりと滴下した。得られた粉体を濾別し、水不溶性ポリマー2(酸価185、質量平均分子量50000)を10.5g得た。
【0167】
≪顔料分散体の製造≫
(顔料分散体A−1の製造:分散体製造例1)
ポリマー製造例1で得られた水不溶性ポリマー溶液を減圧乾燥させて得られた水不溶性ポリマー1 200部をメチルエチルケトン400部に溶かし、その中に中和剤(5N水酸化ナトリウム水溶液)16部(中和度60%)及びイオン交換水1600部加えてポリマーの塩生成基を中和し、更に銅フタロシアニン顔料(C.I.ピグメント・ブルー15:4、東洋インキ製造株式会社製、商品名:LIONOGEN BLUE LX−4033)645部を加え、ビーズミル型分散機UAM05型(寿工業株式会社製)ジルコニアビーズ(粒径:50μm)を用いて20℃で2時間混合分散した。得られた分散液をマイクロフルイダイザー(Microfluidics 社製、商品名)で200MPaの圧力でさらに12パス分散処理した。
【0168】
得られた分散液に、イオン交換水250部を加え、攪拌した後、減圧下で60℃でメチルエチルケトンを除去し、更に一部の水を除去し、0.2μmのメンブレンフィルターで濾過し、粗大粒子を除去することにより、顔料濃度が20%の顔料分散体A−1を得た。
【0169】
(顔料分散体A−2の製造:分散体製造例2)
分散体製造例1において得られた顔料分散体A−1を200000Gで3時間の遠心分離処理を行い、上澄みを除去した後、得られた沈降物をイオン交換水48部に再分散させた。0.2μmのメンブレンフィルターで濾過し、粗大粒子を除去し、顔料濃度が18%になるようにイオン交換水で調整した後、顔料含有ポリマー粒子の顔料分散体A−2を得た。
上記の再分散させた顔料分散体A−2中の顔料濃度は、同じ顔料を用いた濃度既知の顔料分散体A−1の吸光度を基準に、吸光度を測定することで求めた。
【0170】
(顔料分散体A−3の製造:分散体製造例3)
分散体製造例2において得られた顔料分散体A−2 89部に対して架橋剤としてデナコールEX−810(分子量:216、ナガセケムテックス株式会社製、エポキシ当量113)0.11部を加え、イオン交換水を0.80部添加して80℃で4時間攪拌した後、顔料濃度が15%になるようにイオン交換水で調整した後、顔料分散体A−3を得た。このときの水不溶性ポリマー100部に対する架橋剤の使用量は3.3部、重量平均セグメント分子量は3100、架橋ポリマーの重量平均分子量(Mw)は28万であった。
【0171】
(顔料分散体A−4の製造:分散体製造例4)
分散体製造例1において得られた顔料分散体A−1 80部に対して架橋剤としてデナコールEX−810 0.11部を加え、イオン交換水を0.80部添加して80℃で4時間攪拌し、顔料濃度が15%になるようにイオン交換水で調整した後、顔料分散体A−4を得た。このときの水不溶性ポリマー100部に対する架橋剤の使用量は3.4部、重量平均セグメント分子量は3200、架橋ポリマーの重量平均分子量(Mw)は29万であった。
【0172】
(顔料分散体B−1の製造:分散体製造例5)
分散体製造例1において用いた水不溶性ポリマーを、ポリマー製造例2で得られた水不溶性ポリマー溶液を減圧乾燥させて得られた水不溶性ポリマー2 200部に変更し、顔料をキナクリドン顔料(C.I.ピグメント・バイオレット19、クラリアントジャパン株式会社製、商品名:Inc Jet Magenta E5B02)571質量部に変えた以外は、分散体製造例1と同様にして、顔料濃度が20%の顔料分散体B−1を得た。
【0173】
(顔料分散体B−2の製造:分散体製造例6)
分散体製造例5において得られた顔料分散体B−1を200000Gで3時間の遠心分離処理を行い、上澄みを除去した後、得られた沈降物をイオン交換水48部に再分散させた。0.2μmのメンブレンフィルターで濾過し、粗大粒子を除去し、顔料濃度が18%になるようにイオン交換水で調整した後、顔料含有ポリマー粒子の顔料分散体B−2を得た。
上記の再分散させた顔料分散体B−2中の顔料濃度は、同じ顔料を用いた濃度既知の顔料分散体B−1の吸光度を基準に、吸光度を測定することで求めた。
【0174】
(顔料分散体B−3の製造:分散体製造例7)
分散体製造例6において得られた顔料分散体B−2 89部に対して架橋剤として前記デナコールEX−810 0.13部を加え、イオン交換水を0.80部添加して80℃で4時間攪拌した後、顔料濃度が15%になるようにイオン交換水で調整した、顔料分散体B−3を得た。このときの水不溶性ポリマー100部に対する架橋剤の使用量は3.9部であった。
【0175】
(顔料分散体B−4の製造:分散体製造例8)
分散体製造例5において得られた顔料分散体B−1 80部に対して架橋剤として前記デナコールEX−810 0.13部を加え、イオン交換水を0.80部添加して80℃で4時間攪拌し、顔料濃度が15%になるようにイオン交換水で調整した後、顔料分散体B−4を得た。このときの水不溶性ポリマー100部に対する架橋剤の使用量は4.0部であった。
【0176】
(顔料分散体Cの製造:分散体製造例9)
無置換キナクリドン(C.I.ピグメント・バイオレット19、クラリアントジャパン株式会社製、商品名:Inc Jet Magenta E5B−02)13.2部、ポリマー製造例2で得られた水不溶性ポリマー2(酸価185mgKOH/g、Mw=50000)6.6部、ジメチルスルホキシド140部、アルカリとしてテトラメチルアンモニウムヒドロキシド(以下、MeNOH、25%メタノール溶液)40.6部を混合し、40℃にて加熱攪拌し、さらに顔料と、分散剤が共に完全に溶解ようにMeNOHを少量加え、攪拌したし、濃青紫色の顔料溶解液を得た。
【0177】
5Lのビーカーにイオン交換水2000gを加え氷冷却下で攪拌しているところに、前記の顔料溶解液をテルモ株式会社製のテルモシリンジ(商品名:SS−50ESZ)、テルモニードル(商品名:NN−1838R、口径1.20mm×長さ38mm)にて吸い上げ、速やかに吐出し、顔料分散体を得た。
氷冷却下で30分攪拌したのち、2Lの三口フラスコに移し、外温設定50℃で6時間加熱した。その後、室温まで冷却した後、この顔料分散体に希塩酸を滴下してpHを7.0に調整し、顔料の分散体から顔料粒子を凝集させ、軟凝集体を得た。
得られた凝集物を平均孔径0.2μmのメンブレンフィルターを用いて減圧濾過し、イオン交換水で2回水洗して、顔料軟凝集体の粉体aを得た。
その後、集めた顔料軟凝集体の粉体aにアセトン200mlを加えて室温下で1時間攪拌し、再度0.2μmのメンブレンフィルターを用いて減圧濾過した後、再びイオン交換水を用いて水洗を行ない、脱塩及び脱溶剤された顔料粒子の分散体粉体を得た。
【0178】
次に、この粉体に顔料分10%になるようにイオン交換水、及び1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を少量ずつ加え、株式会社日本精機製作所製の超音波ホモジナイザーUS−150T(商品名)で超音波分散処理を行い、pH8.8に調整した顔料分散体Cを得た。
【0179】
上記のようにして得られた顔料分散体を表2に示すインク組成により調液後、0.2μmのメンブレンフィルターで濾過し、各インクを作製した。
【0180】
[インク中の遊離ポリマー量の測定]
上記で調製したインクジェット用インク試料を、高速超遠心分離装置(商品名:Optima XL100K、ベックマン社製)にて80,000rpmで1時間の条件で遠心し、顔料を含む水不溶性ポリマー粒子を沈降させ上澄みを回収した。回収した上澄み液中の水不溶性ポリマー量を、核磁気共鳴分析装置(商品名:Inova400(13C−NMR)、バリアンテクノロジー社製)を用いて定量した。検量線は、分散剤標品を用いて濃度3点で作成した。測定結果を表2に示す。
【0181】
【表2】

【0182】
フタル酸オクチルベンジル(LogP=6.79)
セバシン酸ジ−n−ブチル(LogP=6.30)
【0183】
〈起泡性・消泡性評価〉
表2に記載のインク10gを直径2cm×高さ10cmの円筒状ガラス容器に封入して50回振り混ぜ、泡と液体との界面から、泡の最高高さまでの高さ(H)を測定して起泡性の評価を行い、当該泡と液体との界面から泡の最高高さまでの高さ(H)が、0.5Hとなるまでの時間を消泡性として評価した(評価実験は23〜24℃の気温の下でおこなった。)。結果を表3に示す。
【0184】
《インクジェット画像記録》
ノズル口径20μm、駆動周波数30kHz、インク液滴量3.8pl、ノズル数512(1色当たりのノズル数128)のラインヘッド方式のピエゾ型記録ヘッドを搭載した評価用プリンタを用いて、記録解像度が1440×1440dpi(なお、本発明でいうdpiとは、2.54cm当たりのドット数を表す)で、表2に記載の各インクの印画評価を行なった。なお、印画媒体としてA4サイズの大昭和製紙社製のしらおい紙(64g/m)を用い、ベタ画像を印字した。
【0185】
〈ヘッドに対するインク付着性評価(付着性評価)〉
PTFEの表面に対してArイオンを注入することにより、撥水処理をしたヘッドノズル部材上に各インクを1μL滴下し、30分間室温下で乾燥させた後、滴下したインクと同じインクを、前記インクの乾燥物上に10μLを滴下した。10秒間経過後、ヘッドノズル部材のインク滴を200gの加重で1方向に1回のふき取りを行い、ヘッドノズル部材上のインク付着物の観察を目視で行なった。また、インクの付着が有る場合には、さらに前記インクの乾燥物上に10μLを滴下し、10秒間経過後、ノズル部材のインク滴を200gの加重で1方向に1回ふき取る操作を繰り返し、以下の評価基準により、インクの付着性評価を行なった。結果を表3に示す。
[評価基準]
3:1回の操作でインク付着物が除去できた。
2:2回の操作でインク付着物が除去できた。
1:3回の操作後もインクの付着物が観察された。
【0186】
〈吐出安定性の評価〉
前記評価用プリンタを用いて、23℃、20%RHの環境下で、A4大のページに1cm×10cmのウェッジチャートを間隔を空けて10個有する画像を連続2000枚プリントを行い、10枚目と2000枚目に出力した画像を目視観察で比較を行い、下記の基準により吐出安定性の評価を行った。結果を表3に示す。
<評価基準>
3:10枚目と2000枚目のいずれの画像にも、印字曲がりやスジ(不吐出による印字抜け)の発生はみられない。
2:2000枚目の画像に印字曲がりの発生が認められる。
1:2000枚目の画像に印字曲がりとスジの発生が認められる。
【0187】
〈吐出回復性の評価〉
前記評価用プリンタを用いて、23℃、20%RHの環境下で、A4大のページに1cm×10cmのウェッジチャートを間隔を空けて10個有する画像を連続9枚プリントし、10分間印字を停止した後、10枚目のプリントを行った。10枚目のプリント時のノズルの吐出状態と出力した画像を目視観察し、下記の基準により吐出回復性の評価を行った。結果を表3に示す。
<評価基準>
3:全ノズル共に、吐出状態に変化が見られないし、また、画像のスジ(不吐出による印字抜け)の発生は2個数%以下のノズルで観られた。
2:スジの発生は3〜10個数%未満のノズルで観られた。
1:スジの発生は10個数%以上のノズルで観られた。
【0188】
〈洗浄性評価〉
前記評価用プリンタを用いて、23℃、20%RHの環境下で、A4大のページに1cm×10cmのウェッジチャートを間隔を空けて10個有する画像を連続2000枚プリントを行ったのち、炭酸水素ナトリウムでpH8.2に調整した20%ジエチレングリコール水溶液をノズル面に付与し、ゴムブレードによるワイプ操作(クリーニング操作)を1回行った。ワイプ終了後、A4大のページに1cm×10cmのウェッジチャートを間隔を空けて10個有する画像を連続20枚プリントし、得られた画像の目視観察により、吐出回復性を確認した。次いでラインヘッドを取り外した後、ヘッド吐出面を観察し、以下の基準により、洗浄性の評価を行なった。結果を表3に示す。
【0189】
3:ヘッド吐出面にインクの残渣は見られず、吐出も安定だった。
2:ヘッド吐出面にインクの残渣は見られないが、プリントした画像にインクのボタ落ちが発生していた。
1:ヘッド吐出面にインクの残渣が見られ、プリントした画像にインクのボタ落ちが多数発生していた。
【0190】
〈分散安定性の評価〉
表2に記載のインク50mlを蒸発が起こらないように密閉したサンプル容器に入れ、60℃の恒温槽に3週間静置し、Microtrac粒度分布測定装置(Version 10.1.2−211BH(商品名)、日機装(株)製)を用いて、動的光散乱法により測定した体積平均粒子径(Mv)の変化率を求め、分散安定性を評価し、結果を表3に示す。
<評価基準>
4・・・粒径変化率が5%未満
3・・・粒径変化率が5%以上10%未満
2・・・粒径変化率が10%以上30%以下
1・・・粒径変化率が30%を超え実用上許容できないレベル
【0191】
〈サーモ後着弾位置精度の評価〉
<無色インク組成物の作製>
無色インク組成物を、以下の材料を混合して調製した。
(無色インク組成物)
・クエン酸 ・・・15g
・オルフィンE1010(日信化学工業(株)製) ・・・1g
・イオン交換水 ・・・84g
【0192】
(サーモ後着弾位置精度の評価)
インクジェット記録装置としてプリントヘッド(ヘッド:1,200dpi/20inch幅フルラインヘッド、吐出液滴量:0、2.0、3.5、4.0pLの4値記録、駆動周波数:30kHz(記録媒体搬送速度635mm/sec))を備えた画像記録装置を外部から液供給できるように作製した。
この装置に上記で得た表2に記載の各インクを装填し、上記のように調製した無色インク組成物と各インクとを各々別個の吐出ノズルから、この順に上質紙(商品名:しらおい、76.5g/m品、日本製紙(株)製)上に吐出して、1ドットラインを描画した。なお、インクジェット用インクは調製後60℃静置にて3週間経過したものを用いた。
これを乾燥後、100℃10秒間定着加熱して画像を固定した。そして、ドットラインの直線性を下記の評価基準に従って、目視にて官能評価を行った。なお、ラインの曲がりが顕著であると判定されたもの(判定「1」)の典型的なものの曲がり程度を測定したところ、本来着弾すべき位置から最大で7μmのズレが生じていた。また、インクが吐出できなかったり、途中で吐出できなくなってしまい評価できなかったものは“−”として表した。評価結果を表3に示す。
【0193】
<評価基準>
5・・・ライン曲がりが発生していない。
4・・・ライン曲がりがわずかに見られる。
3・・・ライン曲がりが見られるが、実用上許容範囲内であった。
2・・・ライン曲がりが大きく、実用上許容できない程度であった。
1・・・ライン曲がりが顕著であった。
【0194】
【表3】

【0195】
表3から明らかな通り、本発明のインク組成物は吐出安定性、及び洗浄性の評価項目において良好な結果であった。
【符号の説明】
【0196】
11・・・ノズルプレート 12・・・吐出口(ノズル)20・・・インク供給ユニット
21・・・圧力室 22・・・ノズル連通路 23・・・インク供給流路
24・・・供給調整路 25・・・共通液室
30・・・圧電素子(圧電アクチュエータ;圧力発生手段)
31・・・振動板 32・・・接着層 33・・・下部電極
34・・・圧電体層 35・・・上部電極
41・・・循環絞り 42・・・循環路
200・・・インクジェットヘッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
着色剤と水不溶性ポリマーとを含有する水不溶性ポリマー粒子と、下記一般式(1)で表される化合物とを含有し、前記水不溶性ポリマーに由来する遊離ポリマーの含有量がインク全質量に対して1.0質量%以下であるインク組成物。
【化1】



(式中、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、又は炭素数1〜22の炭化水素基を示し、Rは炭素数1〜18の2価の炭化水素基を示す。R及びRは同一でも異なっていてもよいが、R及びRが共に水素原子である場合を除く。R〜Rは置換基を有していてもよい。m及びnは、それぞれ独立に0〜30の平均付加モル数を示し、AOはアルキレンオキシ基を示す。)
【請求項2】
前記水不溶性ポリマーが、塩生成基含有モノマー(a)由来の構成単位と、スチレン系マクロマー(b)及び疎水性モノマー(c)の少なくとも一方に由来する構成単位とを有するポリマーである請求項1に記載のインク組成物。
【請求項3】
前記水不溶性ポリマー粒子が、塩生成基含有モノマー(a)由来の構成単位とスチレン系マクロマー(b)及び疎水性モノマー(c)の少なくとも一方に由来する構成単位とを有するポリマーと、架橋剤とを混合し、前記ポリマーを架橋させて得られるポリマー粒子である請求項1又は請求項2に記載のインク組成物。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のインク組成物を有するインクセット。
【請求項5】
複数の吐出口が2次元マトリックス状に配設され、前記吐出口から請求項1〜請求項3の何れか1項に記載のインク組成物、又は請求項4に記載のインクセットのインク組成物を吐出して画像を形成する画像形成方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−52174(P2011−52174A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−204658(P2009−204658)
【出願日】平成21年9月4日(2009.9.4)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】