説明

インク組成物、インクセット、画像記録装置及び画像記録方法

【課題】 様々な記録媒体において高い画像濃度と良好な印字品位を与えることができ、且つ優れた耐擦過性・耐ラインマーカー性を実現し、更には、印字ヘッドの吐出口形成面の少なくとも吐出口周辺の領域が撥水性領域として形成されているヘッドにおいてインクジェット吐出特性が優れたインク組成物、反応液とインク組成物のインクセット、及び画像記録装置、画像記録方法を提供すること。
【解決手段】 インク組成物を凝集せしめる反応液と共に用いるインク組成物であって、該インク組成物は、表面にアニオン性基が化学的に結合している自己分散型顔料、アクリル系ポリマーを含有し、該アクリル系ポリマーの酸価が250以下であり、該アクリル系ポリマーが特定の構造を有するインク組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性ボールペン、万年筆、水性サインペン等の筆記具や、インクジェットプリンタ用に好適なインク組成物、インクセット、画像記録方法及び、画像記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
安価な装置で高解像度且つ高品位な画像を、高速で印刷可能であるという特徴を有するインクジェット記録は、インク組成物の小滴を飛翔させ、紙等の記録媒体に付着させて印刷を行う印刷方法である。高品位のカラー画像を形成する手段として、塩との作用により増粘又は凝集するブラックインクとその塩を含有するカラーインクとを組み合わせて使用することにより、画像濃度が高く且つカラーブリードがない高品位のカラー画像が得られるという技術手段も開示されている(例えば、特許文献1参照)。即ち、塩を含有する第1の液と、インク組成物との2液を印字することで、良好な画像を得ることが可能となる。
【0003】
更に、2液を用いる各種の提案がなされている(例えば、特許文献2及び3参照)。更に、分散安定性やインクジェット記録で用いた場合に優れた吐出性能を有する自己分散型顔料とアニオン性ポリマーを含有したインク組成物と反応液からなる記録材料が提案されている(例えば、特許文献4参照)。
【特許文献1】特開平6−106735号公報
【特許文献2】特開平9−207424号公報
【特許文献3】特開2000−37942号公報
【特許文献4】特開平11−349873号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らは、特開平11−349873号公報に記載されているような自己分散型顔料及び、アニオン性ポリマーを含有するインクと反応液を用いて普通紙に記録を行ったところ、高品位な画像形成を実現する上では、有効な手段であることを認識した。
【0005】
しかし、印字ヘッドの吐出口形成面の少なくとも吐出口周辺の領域が撥水性領域として形成されているもので前記インクを用い、長期耐久試験を行ったところ、吐出口周辺部にインク溜まりが発生し、インク飛翔方向がずれる問題を認識するに至った。
【0006】
そこで、本発明の目的の一つは、様々な記録媒体において高い画像濃度と良好な印字品位を与えることができ、且つ耐擦過性・耐ラインマーカー性に優れたインク組成物及び、インクセットを提供することにある。
【0007】
又、本発明の目的の一つは、様々な記録媒体において高い画像濃度と良好な印字品位を与えることができ、耐擦過性・耐ラインマーカー性に優れ、且つ印字ヘッドの吐出口形成面の少なくとも吐出口周辺の領域が撥水性領域として形成されているヘッドにおいてインクジェット吐出特性が優れたインク組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の実施態様としては、インク組成物を凝集せしめる反応液と共に用いるインク組成物であって、該インク組成物は、表面にアニオン性基が化学的に結合している自己分散型顔料、アクリル系ポリマーを含有し、該アクリル系ポリマーの酸価が250以下であり、該アクリル系ポリマーが、親水性モノマーと、(1)、(2)式に示す少なくとも1つ以上の疎水性モノマーを原材料として重合されたものであり、アクリル系ポリマーを重合する際に仕込む(1)式、(2)式のモノマーの重量%をX1、X2とした場合に、式(A)の条件を満たすことを特徴とする。
【0009】
【数1】

【0010】
【数2】

【0011】
(式中R1はHかメチル基を示し、R2はフェニル基かナフチル基を示し、R3はC=1〜20の直鎖、分岐、若しくは脂環式のアルキル基・アルケニル基、ベンジル基かポリジアルキルシロキサン基を示す)
この実施態様によれば、様々な記録媒体において高い画像濃度と良好な印字品位を与えることができると同時に、耐擦過性・耐ラインマーカー性に優れ、且つ印字ヘッドの吐出口形成面の少なくとも吐出口周辺の領域が撥水性領域として形成されているヘッドにおいてインクジェット吐出特性が優れたインク組成物を提供することができる。
【0012】
吐出口周辺領域に撥水処理を施しても長期耐久試験における「ヨレ印字」の発生は、インク種に大きく左右される。特にポリマー成分を含有するインクは敏感である。又、「ヨレ印字」の発生はポリマーのみの影響も当然あるが、同時に存在する自己分散型顔料の物性の影響もうけてしまう。これは、自己分散型顔料が単独で「ヨレ印字」を引き起こすことを言っているのではなく、あくまでも複合要因であることを強調したい。本発明者らが鋭意検討した結果、上記実施態様にすれば、撥水ヘッドにおける「ヨレ印字」の発生を効果的に防止できることを見出した。
【発明の効果】
【0013】
本発明のインク組成物及び、インクセットを用いることにより、様々な記録媒体において高い画像濃度と良好な印字品位を与えることができ、且つ優れた耐擦過性・耐ラインマーカー性を実現することが可能となる。
【0014】
又、印字ヘッドの吐出口形成面の少なくとも吐出口周辺の領域が撥水性領域として形成されているヘッドにおいてインクジェット吐出特性が優れたインク組成物を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
次に好ましい実施の態様を挙げて、本発明を詳細に説明する。
【0016】
(インク組成物)
(自己分散型顔料)
本発明で使用できる自己分散型顔料は、少なくとも1つのアニオン性基が直接若しくは他の原子団を介して直接顔料の表面に結合されている自己分散型の顔料である。
【0017】
アニオン性基の具体的な例としては以下に示すようなものである。−COO(M2)、−SO2(M2)2、−PO3H(M2)、−PO3(M2)2(M2は水素原子、アルカリ金属、アンモニウム又は有機アンモニウムを表わす)。これらのアニオン性基は顔料表面に直製結合させるか、又は炭素原子数1〜12のアルキル基、置換もしくは未置換のフェニル基、又は置換もしくは未置換のナフチル基を介して結合されても良い。前記アニオン性基の中で特に−COO(M2)や−SO3(M2)を顔料表面に結合してアニオン性に帯電せしめた顔料はインク中の分散性が良好なため本実施態様に特に好適に用い得るものである。ところで上記親水性基中「M2」として表したもののうち、アルカリ金属の具体例としては例えばLi、Na、K、Rb及びCs等が挙げられ、又有機アンモニウムの具体例としては例えばメチルアンモニウム、ジメチルアンモニウム、トリメチルアンモニウム、エチルアンモニウム、ジエチルアンモニウム、トリエチルアンモニウム、メタノールアンモニウム、ジメタノールアンモニウム、トリメタノールアンモニウム等が挙げられる。
【0018】
上記したアニオン性基の他に、水酸基やケトン基が意図的もしくは製法による付随的産物として存在していても、クレーム中に示した要件を満足するものであれば、問題なく用いることができる。
【0019】
アニオン性に帯電している自己分散型顔料の製造方法としては、例えば顔料を次亜塩素酸ソーダで酸化処理する方法(特開平8−3498号公報)、水中オゾン処理でカーボンを酸価する方法(特開平10−212426号公報)、オゾン処理を施した後に酸化剤により湿式参加し、顔料表面を改質する方法(特開平11−148027号公報)、アゾカップリング法によりフェニレンを挟んでイオン性官能基をカーボンに導入する方法(特表平10−510862号公報)が挙げられる。本発明では、前記製造方法や、それ以外の方法でもクレーム中に示した要件を満足するものであれば好適に用いることができる。
【0020】
ところで本実施態様において上記した自己分散型顔料の中から2種若しくはそれ以上を適宜選択したインクの色材に用いてもよい。又インク中の自己分散型顔料の添加量としてはインク全重量に対して、1〜10重量%の範囲とすることが好ましい。この範囲とすることで自己分散型顔料はインク中で十分な分散状態を維持することができる。更にインクの色調の調製等を目的として、自己分散型顔料に加えて染料を色材として添加してもよい。
【0021】
(顔料)
用いる顔料としては、例えば、カーボンブラックや有機顔料等が挙げられる。
【0022】
(カーボンブラック)
カーボンブラックとしては、例えば、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等のカーボンブラック顔料で、例えば、レイヴァン(Raven)7000、レイヴァン5750、レイヴァン5250、レイヴァン5000、レイヴァン3500、レイヴァン2000、レイヴァン1500、レイヴァン1250、レイヴァン1200、レイヴァン1190ULTRA−II、レイヴァン1170、レイヴァン1255(以上コロンビア製)、ブラックパールズ(Black Pearls)L、リーガル(Regal)400R、リーガル330R、リーガル660R、モウグル(Mogul)L、モナク(Monarch)700、モナク800、モナク880、モナク900、モナク1000、モナク1100、モナク1300、モナク1400、ヴァルカン(Valcan)XC−72R(以上キャボット製)、カラーブラック(Color Black)FW1、カラーブラックFW2、カラーブラックFW2V、カラーブラックFW18、カラーブラックFW200、カラーブラックS150、カラーブラックS160、カラーブラックS170、プリンテックス(Printex)35、プリンテックスU、プリンテックスV、プリンテックス140U、プリンテックス140V、スペシャルブラック(SpecialBlack)6、スペシャルブラック5、スペシャルブラック4A、スペシャルブラック4(以上デグッサ製)、No.25、No.33、No.40、No.47、No.52、No.900、No.2300、MCF−88、MA600、MA7、MA8、MA100(以上三菱化学製)等を使用することができるが、これらに限定されるものではなく、従来公知のカーボンブラックを使用することが可能である。又、マグネタイト、フェライト等の磁性体微粒子やチタンブラック等を黒色顔料として用いてもよい。
【0023】
(有機顔料)
有機顔料として具体的には、トルイジンレッド、トルイジンマルーン、ハンザイエロー、ベンジジンイエロー、ピラゾロンレッド等の不溶性アゾ顔料、リトールレッド、ヘリオボルドー、ピグメントスカーレット、パーマネントレッド2B等の溶性アゾ顔料、アリザリン、インダントロン、チオインジゴマルーン等の建染染料からの誘導体、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン等のフタロシアニン系顔料、キナクリドンレッド、キナクリドンマゼンタ等のキナクリドン系顔料、ペリレンレッド、ペリレンスカーレット等のペリレン系顔料、イソインドリノンイエロー、イソインドリノンオレンジ等のイソインドリノン系顔料、ベンズイミダゾロンイエロー、ベンズイミダゾロンオレンジ、ベンズイミダゾロンレッド等のイミダゾロン系顔料、ピランスロンレッド、ピランスロンオレンジ等のピランスロン系顔料、チオインジゴ系顔料、縮合アゾ系顔料、チオインジゴ系顔料、フラバンスロンイエロー、アシルアミドイエロー、キノフタロンイエロー、ニッケルアゾイエロー、銅アゾメチンイエロー、ペリノンオレンジ、アンスロンオレンジ、ジアンスラキノニルレッド、ジオキサジンバイオレット等のその他の顔料が例示できる。
【0024】
又、有機顔料をカラーインデックス(C.I.)ナンバーにて示すと、以下のものが例示できる。勿論、以下のもの以外でも従来公知の有機顔料が使用可能である。
【0025】
C.I.ピグメントイエロー:12、13、14、17、20、24、74、83、86、93、109、110、117、120、125、128、137、138、147、148、151、153、154、166、168等
C.I.ピグメントオレンジ:16、36、43、51、55、59、61等
C.I.ピグメントレッド:9、48、49、52、53、57、97、122、123、149、168、175、176、177、180、192、215、216、217、220、223、224、226、227、228、238、240等
C.I.ピグメントバイオレット:19、23、29、30、37、40、50等
C.I.ピグメントブルー:15、15:3、15:1、15:4、15:6、22、60、64等
C.I.ピグメントグリーン:7、36等
C.I.ピグメントブラウン:23、25、26等
(アクリル系ポリマーについて)
本発明で使用できるアクリル系ポリマーは、以下の条件を満たす必要がある。
【0026】
アクリル系ポリマーの酸価が250以下であること。
【0027】
アクリル系ポリマーが、親水性モノマーと、(1)、(2)式に示す少なくとも1つ以上の疎水性モノマーを原材料として重合されたものであり、アクリル系ポリマーを重合する際に仕込む(1)式、(2)式のモノマーの重量%をX1、X2とした場合に、式(A)の条件を満たす。
【0028】
【数3】

【0029】
【数4】

【0030】
(式中R1はHかメチル基を示し、R2はフェニル基かナフチル基を示し、R3はC=1〜20の直鎖、分岐、若しくは脂環式のアルキル基・アルケニル基、ベンジル基かポリジアルキルシロキサン基誘導体を示す)
アクリル系のポリマーを重合する方法としては、ラジカル開始剤による溶液重合・懸濁重合・乳化重合や、リビングアニオン重合、リビングラジカル重合などが挙げられるが、これらに限定されない。又、重合形態もランダム・グラフト・ブロックなどが挙げられる。
【0031】
酸価が250を上回ると、共に用いる自己分散型顔料の分散安定性を損なう場合がある。この現象は特に自己分散型顔料のアニオン性の官能基密度が0.1〜0.6mmol/gのものを用いた際に顕著に見られる。又、式(A)の値が35を上回ると、印字ヘッドの吐出口形成面の少なくとも吐出口周辺の領域が撥水性領域として形成されているヘッドを用いた場合においても、「ヨレ印字」が発生する場合がある。
【0032】
アクリル系ポリマーのインク中の添加量としては、インク組成物中で自己分散型顔料との比率(自己分散型顔料:アクリル系ポリマー)が10:1〜1:1の範囲となることが好ましい。アクリル系ポリマーの含有量がこの範囲を下回る場合、耐擦過性の効果が発現せず、又、上回る場合、反応液中の多価金属の添加量を増加させる必要があり、保存安定性等の信頼性に弊害をもたらす場合がある。
【0033】
(水性媒体)
上記したような色材を分散させる水性媒体は、特に限定されるものでない。又、該インクをインクジェット法(例えば、バブルジェット(登録商標)法等)で記録媒体に付着せしめる場合には、前述したように優れたインクジェット吐出特性を有するようにインク所望の粘度、表面張力を有するように調製する事が好ましい。
【0034】
本発明に係るインク組成物に用いられる水性媒体の例としては、例えば、水、或いは水と水溶性有機溶剤との混合溶媒が挙げられる。水溶性有機溶媒としては、反応液の乾燥防止効果を有するものが特に好ましい。具体的には、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール等の炭素数1〜4のアルキルアルコール類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類;アセトン、ジアセトンアルコール等のケトン又はケトアルコール類;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール類;エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2,6−ヘキサントリオール、チオジグリコール、ヘキシレングリコール、ジエチレングリコール等のアルキレン基が2〜6個の炭素原子を含むアルキレングリコール類;ポリエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート等の低級アルキルエーテルアセテート;グリセリン;エチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、ジエチレングリコールメチル(又はエチル)エーテル、トリエチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル等の多価アルコールの低級アルキルエーテル類;トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン等の多価アルコール;N−メチル−2−ピロリドン、2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等が挙げられる。上記の如き水溶性有機溶剤は、単独でも或いは混合物としても使用することができる。又、水としては脱イオン水を使用することが望ましい。
【0035】
本発明に関わるインク組成物中に含有される水溶性有機溶剤の含有量は特に限定されないが、インク組成物全質量に対して、好ましくは3〜50質量%の範囲が好適である。又、インク組成物に含有される水の含有量は反応液全質量に対して好ましくは50〜95質量%の範囲である。更に上記の成分のほかに必要に応じて保湿剤を添加することは勿論、所望の物性値を持つインクとするために、界面活性剤、消泡剤、防腐剤、防黴剤等を添加しても構わない。
【0036】
(反応液)
本発明で使用する反応液は、水性媒体中にイオン性基の作用によって水性媒体に分散又は溶解させられている色材の分散安定性を記録媒体上で破壊及び凝集することができる成分としては、金属塩及び水性媒体を含んでいることが好ましい。又、本発明では、印字物の耐擦過能等を考慮して、反応液中に樹脂を添加しても構わない。
【0037】
反応液を記録媒体に付着せしめる方法としては、インクが付着する画像形成領域及び画像形成領域の近傍にのみ選択的且つ均一に付着せしめることが可能なインクジェット方式が挙げられる。インクジェットに適性がない反応液に関しては、ローラー塗布等による記録媒体の全面塗布が挙げられる。
【0038】
(金属塩について)
上記反応液に用いることができる金属塩とは、一価の金属イオン及び二価以上の多価金属イオンとこれら多価金属イオンに結合する陰イオンとから構成され、水に可溶なものである。多価金属イオンの具体例としては、例えば、Ca2+、Cu2+、Ni2+、Mg2+、Zn2+、及びBa2+等の二価の金属イオンや、Al3+、Fe3+、Cr3+、及びY3+等の三価の金属イオンが挙げられるがこれに限定されるものではない。又、反応液中の上記塩の含有量は、本発明にかかる効果を考慮すると0.01〜20質量%が好ましい。又、反応液は、必ずしも可視域に吸収を示さないものである必要はない。可視域に吸収を示すとしても実質上画像に影響を与えない範囲であれば可視域に吸収を示すものであってもかまわない。
【0039】
(樹脂)
添加される樹脂としては、インク及び反応液のイオン性にもよるが、基本的には反応に関与しないノニオン性の水溶性高分子が好ましい。例としては、ポリアクリルアマイド、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等の水溶性セルロース、ポリビニルメチルエーテル、ポリビニルアセタール、ポリビニルアルコール等が挙げられるが、これらに限定されないのは言うまでもない。反応液のそれぞれの基本性能が維持できる範囲で、これらのノニオン性高分子にアニオンユニット若しくはカチオンユニットを加えた樹脂を用いても構わない。更に、上述した樹脂は水溶性であれば申し分ないが、ラテックスやエマルジョンのような分散体であってもかまわない。
【0040】
(水性媒体)
本発明に係る反応液に用いられる水性媒体の例としては、例えば、水、或いは水と水溶性有機溶剤との混合溶媒が挙げられる。水溶性有機溶媒としては、反応液の乾燥防止効果を有するものが特に好ましい。具体的には、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール等の炭素数1〜4のアルキルアルコール類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類;アセトン、ジアセトンアルコール等のケトン又はケトアルコール類;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール類;エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2,6−ヘキサントリオール、チオジグリコール、ヘキシレングリコール、ジエチレングリコール等のアルキレン基が2〜6個の炭素原子を含むアルキレングリコール類;ポリエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート等の低級アルキルエーテルアセテート;グリセリン;エチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、ジエチレングリコールメチル(又はエチル)エーテル、トリエチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル等の多価アルコールの低級アルキルエーテル類;トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン等の多価アルコール;N−メチル−2−ピロリドン、2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等が挙げられる。上記の如き水溶性有機溶剤は、単独でも或いは混合物としても使用することができる。又、水としては脱イオン水を使用することが望ましい。
【0041】
本発明に関わる反応液中に含有される水溶性有機溶剤の含有量は特に限定されないが、反応液全質量に対して、好ましくは3〜50質量%の範囲が好適である。又、反応液に含有される水の含有量は反応液全質量に対して好ましくは50〜95質量%の範囲である。更に上記の成分のほかに必要に応じて所望の物性値を持つ反応液とするために、界面活性剤、消泡剤、防腐剤、防黴剤等を添加することができる。
【0042】
(インクセット)
前記反応液と組み合わせてインクセットを構成するインクの色調は特に限定されず、例えば、イエロー、マゼンタ、シアン、レッド、グリーン、ブルー及びブラックから選ばれる少なくとも1つの色調を示すインクとすればよい。具体的には、所望の色調のインクとなるように前記した色材のなかから適宜選択して用いることができる。
【0043】
又、反応液と組み合わせるインクは、1種類に限定されるものでなく、異なる色調のインクを2つ以上組み合わせて多色画像の形成に適したインクセットとすることがより好ましい。この場合2つ以上のインクのうち、少なくとも1つのインクが反応液と反応すればよい。
【0044】
水性媒体中に色材がイオン性基の作用によって分散させられているインクであれば、他のインクが染料を色材として含むインクとしてもよく、勿論、全てのインクを水性媒体に色材がイオン性基の作用によって分散させられているインクとしてもよい。このようなインクセットによれば、多色画像をインクジェット装置で形成する場合に問題とされる、異なる色調のインクが記録媒体上で隣接して付与されたときのブリーディングを抑えることができる。
【0045】
より具体的には、インクジェット多色画像において問題とされるブリーディングは、黒色インクと他のカラーインク(例えば、イエローインク、マゼンタインク、シアンインク、レッドインク、グリーンインク及びブルーインクから選ばれる少なくとも1つのインク)との間が特に顕著になり易いため、本発明においても反応液と相互作用するように水性媒体にイオン性基の作用によって色材を分散させた構成とするインクとしては、黒色インクを組み合わせることが好ましい。そして他のカラーインクについては、染料を水性媒体に溶解したインクとしてもよく、勿論、黒色インクと同様に色材をイオン性基の作用によって水性媒体に分散させたインクとしてもよい。
【0046】
(記録方法)
前記反応液は、色材がイオン性基の作用によって水性媒体に分散させられているインクと組み合わせて、(i)前記ンクを記録媒体に付与する工程;及び(ii)該反応液を該記録媒体の少なくとも該インクが付与される領域に付与する工程、を有する記録方法を採用することによって、極端に反応液とインク組成物の反応性を高めることなく、輪郭部の不明瞭性の改善及びカラーブリードを生じることがなく、優れた高品位の画像を形成することが可能となるインクセット、インクジェット記録方法並びにその記録物を提供することができる。
【0047】
上記インクと反応液とのインクセットをインクジェット等で用いた場合、
a:反応液を印字した後にインクを印字する場合、
b:インクを印字した後に反応液を印字する場合、
c:インクを印字した後に反応液を印字させ、更にインクを印字させる場合、
d:反応液を印字した後にインクを印字させ、更に反応液を印字させる場合等、様々な記録方法が考えられる。
【0048】
そしてインクと反応液とによる記録方法は適宜選択すればよい。しかし、本発明の目的を鑑みれば、反応液をインクに先だって記録媒体に記録する工程を少なくとも含む上記(a)又は(d)が好ましい。
【0049】
これまでの発明者らの検討によれば以下のように考えられる。前記(a又は(d)の記録方法においては、先ず、反応液91が記録媒体25に付与され(図1(a)参照)、次いで反応液が付与された部位にインク92が付与される(図1(b)参照)。そのためインク中の色材は、記録媒体25に付与された直後から記録媒体表面に存在する反応液との反応することにより、インク中の色材をより多く記録媒体25の表面に留めることができる結果、輪郭部の不明瞭性の改善及びカラーブリードを生じることのなく、優れた高品位の画像を形成することが可能になると考えられるからである。
【0050】
又、上記反応液とインク組成物とのインクセットを複数、若しくは上記反応液とインク組成物とのインクセットと他のインク組成物を組み合わせることによってカラー画像の形成に好適に用い得るインクセットを提供することができる。そしてこのようなインクセットを用いて、例えば、ブラックインクに上記インクセットを用いて黒色画像部及びカラー画像部と隣接するような記録を行った場合、ブリーディングの発生を極めて有効に抑えることができる。
【0051】
又、反応液の付与方法に関しては、インクと同様にインクジェット方式を用いても構わない。勿論、バーコート、ローラーコート、スプレーコート等の従来公知の如何なる方法を用いても本発明の技術思想を逸脱するものではない。
【0052】
(インク特性;インクジェット吐出特性、記録媒体への浸透性について)
上記本発明にかかるインクセットは、インクジェット記録用のインクセットとして好適に用いることができる。インクジェット記録方法としては、インクに力学的エネルギーを作用させ、液滴を吐出する記録方法、及びインクに熱エネルギーを加えてインクの発泡により液滴を吐出する記録方法があり、それらの記録方法に本発明の反応液及びインクは特に好適である。
【0053】
ところで、上記本発明にかかる反応液及びインクをインクジェット記録用に用いる場合には、該反応液及びインクはインクジェットヘッドから吐出可能である特性を有することが好ましい。インクジェットヘッドからの吐出性という観点からは、該液体の特性としては、例えば、その粘度を1〜15cps、表面張力が25mN/m(dyne/cm)以上、特には粘度を1〜5cps、表面張力が25〜50mN/m(dyne/cm)とすることが好ましい。更に該反応液は、紙面上で特定のインク組成物のみと反応させる必要がある。そのため、特定のインク組成物による記録部とは別の箇所に該反応液が滲まないように、該反応液の表面張力をインクジェットヘッドから吐出可能な範囲内で、該インク組成物のそれよりも大きくすることが好ましい。
【0054】
(インクジェット記録方法)
次に本発明の各々の反応液及びインクを好適に用い得るインクジェット記録方法について説明する。図2は、インク流路に沿ったヘッド13の断面図であり、図3は図2のA−B線での切断面図である。ヘッド13はインクを通す流路(ノズル)14を有するガラス、セラミック、シリコン又はプラスチック板等と発熱素子基板15とを接着して得られる。
【0055】
発熱素子基板15は酸化シリコン、窒化シリコン、炭化シリコン等で形成される保護層16、アルミニウム、金、アルミニウム−銅合金等で形成される電極17−1、17−2、HfB2、TaN、TaAl等の高融点材料から形成される発熱抵抗体層18、熱酸化シリコン、酸化アルミニウム等で形成される畜熱層19、シリコン、アルミニウム、窒化アルミニウム等の放熱性の良い材料で形成される基板20より成り立っている。
【0056】
上記ヘッドの電極17−1及び17−2にパルス状の電気信号が印加されると、発熱素子基板15のnで示される領域が急速に発熱し、この表面に接しているインクに気泡が発生し、その発生する圧力でメニスカス23が突出し、インクがヘッドのノズル14を通して吐出し、吐出オリフィス22よりインク小滴24となり、記録媒体25に向かって飛翔する。
【0057】
図4には、図2に示したヘッドを多数並べたマルチヘッドの外観図を示す。このマルチヘッドはマルチノズル26を有するガラス板27と、図2に説明したものと同じような発熱ヘッド28を接着して作られている。
【0058】
(インクジェット記録装置)
図5に、このヘッドを組み込んだインクジェット記録装置の一例を示す。図5において、61はワイピング部材としてのブレードであり、その一端はブレード保持部材によって保持固定されており、カンチレバーの形態をなす。ブレード61は記録ヘッド65による記録領域に隣接した位置に配置され、又、本例の場合、記録ヘッド65の移動経路中に突出した形態で保持される。
【0059】
62は記録ヘッド65の突出口面のキャップであり、ブレード61に隣接するホームポジションに配置され、記録ヘッド65の移動方向と垂直な方向に移動して、インク吐出口面と当接し、キャッピングを行う構成を備える。更に、63はブレード61に隣接して設けられるインク吸収体であり、ブレード61と同様、記録ヘッド65の移動経路中に突出した形態で保持される。
【0060】
上記ブレード61、キャップ62及びインク吸収体63によって吐出回復部64が構成され、ブレード61及びインク吸収体63によって吐出口面の水分や塵埃等の除去が行われる。又、キヤップを介して不図示のポンプによって記録へッドの各インク、更には反応液の吐出口の位置しているインク等を吸引して、記録ヘッド本来のインク、或いはインク及び反応液の本来の吐出性能を回復させる回復系ユニットを構成している。
【0061】
65は、吐出エネルギー発生手段を有し、吐出口を配した吐出口面に対向する記録媒体にインクを吐出して記録を行う記録ヘッド、66は記録ヘッド65を搭載して記録ヘッド65の移動を行うためのキャリッジである。キャリッジ66はガイド軸67と摺動可能に係合し、キャリッジ66の一部はモーター68によって駆動されるベルト69と接続(不図示)している。これによりキャリッジ66はガイド軸67に沿った移動が可能となり、記録ヘッド65による記録領域及びその隣接した領域の移動が可能となる。51は記録媒体を挿入するための紙給部、52は不図示のモーターにより駆動される紙送りローラーである。
【0062】
これらの構成により記録ヘッドの65の吐出口面と対向する位置へ記録媒体が給紙され、記録が進行につれて排紙ローラー53を配した排紙部へ排紙される。以上の構成において記録ヘッド65が記録終了してホームポジションへ戻る際、吐出回復部64のキャップ62は記録ヘッド65の移動経路から退避しているが、ブレード61は移動経路中に突出している。その結果、記録ヘッド65の吐出口がワイピングされる。
【0063】
尚、キャップ62が記録ヘッド65の吐出面に当接してキャッピングを行う場合、キャップ62は記録ヘッドの移動経路中に突出するように移動する。記録ヘッド65がホームポジションから記録開始位置へ移動する場合、キャップ62及びブレード61は上記したワイピングの時の位置と同一の位置にある。この結果、この移動においても記録ヘッド65の吐出口面はワイピングされる。
【0064】
上述の記録ヘッドのホームポジションへの移動は、記録終了時や吐出回復時ばかりでなく、記録ヘッドが記録のために記録領域を移動する間に所定の間隔で記録領域に隣接したホームポジションへ移動し、この移動に伴って上記ワイピングが行われる。
【0065】
(インクカートリッジ)
図6は、記録ヘッドにインク若しくは反応液を供給する部材、例えば、チューブを介して供給されるインク若しくは該反応液を収容したカートリッジ45の一例を示す図である。ここで40は供給用のインク又は反応液を収納した収容部、例えば、袋であり、その先端にはゴム製の栓42が設けられている。この栓42に針(不図示)を挿入することにより、袋40中のインク又は反応液をヘッドに供給可能にする。
【0066】
44は廃インク又は廃反応液を受容する吸収体である。収容部40としてはインク又は反応液との接液面がポリオレフィン、特にポリエチレンで形成されているものが好ましい。このようなカートリッジは、例えば、図7に示したようにインク又は反応液を吐出せしめる記録ヘッド901に着脱可能に構成されてなるとともに、該カートリッジ45を記録ヘッドに装着した状態ではインク又は反応液が記録ヘッド901に供給されるように構成されている。
【0067】
又、本発明にかかるカートリッジの他の態様として、反応液とインクとを各々個別に収容した2つの収容部を有し、インク及び反応液を吐出させるためのヘッドに対して着脱可能に構成され、且つインク及び反応液が記録ヘッドに供給可能に構成されているカートリッジを挙げることができる。
【0068】
図8はそのようなカートリッジ1001の一例を示すものであり、1003は反応液の収容部、1005がインクの収容部であり、カートリッジは図9に示すようにインク及び反応液の各々を吐出せしめる記録ヘッド1101に着脱可能に構成されてなるとともに、カートリッジ1001を記録ヘッド1101に装着した状態では反応液及びインクが記録ヘッド1101に供給されるように構成されているものである。
【0069】
又、本発明のインクセットは、図8に示したように反応液とインクとが物理的に一体化されているものばかりでなく、例えば、図10に示すように、反応液を収納したカートリッジ1201とインクを収納したカートリッジ1203とを反応液及びインクの各々を吐出させる共通の記録ヘッド1205に装着し、反応液及びインクとを用いてインクジェット画像の記録を行うことのできるように構成されているものも又本発明の範囲内のものである。
【0070】
(記録ユニット)
本発明で使用されるインクジェット装置としては、上述のようにヘッドとカートリッジとが別体となったものに限らず、図11に示すようなそれらが一体になったものにも好適に用いられる。図11において、70は記録ユニットであり、この中にはインク又は反応液を収容した収容部である。例えば、インクを収容する場合には、インク吸収体を収納し、かかるインク吸収体中のインクが複数オリフィスを有するヘッド部71からインク滴として吐出される構成になっている。インク吸収体の材料としてはポリウレタン又はポリプロピレンを用いることが本発明にとって好ましい。
【0071】
又、吸収体を用いず、収容部が内部にバネ等を仕込んだ袋であるような構造でもよい。72はカートリッジ内部を大気に連通させるための大気連通口である。この記録ユニット70は図5に示す記録ヘッド65に代えて用いられるものであって、キャリッジ66に対して着脱自在になっている。
【0072】
更に本発明にかかる記録ユニットの他の実施態様として、反応液と黒、イエロー、マゼンタ、シアン、レッド、グリーン、ブルー及びブラックの色相を有するカラーインクから選ばれる少なくとも1つのインクとを、1個のインクタンク内の各々のインク収納部に収納し、且つ各々のインクを吐出させるための記録ヘッドを一体的に備えた記録ユニット、具体的には、例えば、図12に示すように反応液を収容部1301Lに、イオン性基によって水性媒体に分散させられている黒インクを収納部1301Bkに、又、イエロー、シアン及びマゼンタのカラーインクを各々カラーインク収納部1301Y、1301C及び1301Mに収納し、更に反応液と他の4つの色調の異なるインクを各々個別に吐出させることができるようにインク流路を分けて構成した記録ヘッド1303を備えているような記録ユニット1301が挙げられる。
【0073】
次に、第二の力学的エネルギーを利用したインクジェット記録装置の形態として、複数のノズルを有するノズル形成基板と、ノズルに対向して配置される圧電材料と導電材料からなる圧力発生素子と、この圧力発生素子の周囲を満たすインクを備え、印加電圧により圧力発生素子を変位させ、インクの小液滴をノズルから吐出させるオンデマンドインクジェット記録ヘッドを挙げることができる。その記録装置の主要部である記録ヘッドの構成例を図13に示す。
【0074】
ヘッドは、インク室(不図示)に連通したインク流路80と、所望の体積のインク滴を吐出するためのオリフィスプレート81と、インクに直接圧力を作用させる振動板82と、この振動板82に接合され、電気信号により変位する圧電素子83と、オリフィスプレート81、振動板等を指示固定するための基板84とから構成されている。
【0075】
図13において、インク流路80は、感光性樹脂等で形成され、オリフィスプレート81は、ステンレス、ニッケル等の金属を電鋳やプレス加工による穴あけ等により吐出口85が形成され、振動板82はステンレス、ニッケル、チタン等の金属フィルム及び高弾性樹脂フィルム等で形成され、圧電素子83は、チタン酸バリウム、PZT等の誘電体材料で形成される。
【0076】
以上のような構成の記録ヘッドは、圧電素子83にパルス状の電圧を与え、ひずみ応力を発生させ、そのエネルギーが圧電素子83に接合された振動板を変形させ、インク流路80内のインクを垂直に加圧しインク滴(不図示)をオリフィスプレートの吐出口85より吐出して記録を行うように動作する。このような記録ヘッドは図5に示したものと同様な記録装置に組み込んで使用される。記録装置の細部の動作は先述と同様に行うもので差しつかえない。
【0077】
(インクセットを用いた記録装置及び記録方法)
次にインクセットを用いてカラー画像を記録する場合には、例えば、前記図4に示した記録ヘッドを5つキャリッジ1401上に並べた記録装置を用いることができる。図14はその一実施例であり、1401L、1401Bk、1401Y、1401M及び1401Cはそれぞれ、該反応液、イオン性基の作用によって水性媒体に分散させられてなるカーボンブラックを含む黒色インク、及びシアン、マゼンタ、イエロー各色のインクを吐出するための記録ユニットである。記録ユニットは前記した記録装置のキャリッジ上に配置され、記録信号に応じて各色のインクを吐出する。又、反応液は、各色の或いは各色の中の少なくとも1色の記録インクが記録媒体に付着する部分に、先立って或いはインク付着後に付着させる。
【0078】
又、図14では記録ユニットを5つ使用した例を示したが、これに限定されず、例えば、図15に示したように1つの記録ヘッドで上記の反応液、イオン性基の作用によって水性媒体に分散させられてなるカーボンブラックを含む黒色インク及びYMCの3色のインクを各々含むインクカートリッジ1501L、1501Bk、1501Y、1501M及び1501Cから供給される各色のインクを、各々個別に吐出させることができるように、インク流路を分けて構成した記録ヘッド1501に取り付けて記録を行う態様も挙げられる。
【0079】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、その要旨を越えない限り、下記実施例により限定されるものではない。尚、以下の記載で、「部」又は「%」とあるものは特に断らない限り質量基準である。
【0080】
(顔料分散液Bk1)
5.3gの蒸留水に5gの濃塩酸を溶かした溶液に、5℃においてアントラニル酸1.58gを加えた。アイスバスを用いて攪拌することで、常に10℃以下に保たれた状態として、上記の溶液に、5℃の8.7gの蒸留水に、1.78gの亜硝酸ナトリウムを溶解した溶液を加えた。15分攪拌後、これに更に、比表面積が220m2/gでDBP吸油量が105mL/100gのカーボンブラック7gを、溶液を攪拌した状態のままで加えた。その後、更に15分攪拌した。得られたスラリーを東洋濾紙No.2(アドバンテック製)で濾過し、顔料粒子を十分に水洗し、110℃のオーブンで乾燥させ、更に、この顔料に蒸留水を足して、顔料濃度10質量%の顔料分散液を作製した。
【0081】
尚、上記で作製した自己分散型カーボンブラックの親水性基密度を下記のようにして測定したところ、2.6μmol/m2であった。測定方法としては、イオンメーター(DKK製)を用いナトリウムイオン濃度を測定し、その値から親水性基密度を換算した。そして、イオン交換法を用いてナトリウムイオンをアンモニウムイオンに置換することによって、カーボンブラックの表面に、親水性基である−Ph−COONH4基が導入された、自己分散型のカーボンブラックが分散された顔料分散液Bk1を得た。得られた顔料分散液Bk1の固形分は10%であった。
【0082】
(顔料分散液C1、顔料分散液M1、顔料分散液Y1)
顔料分散液Bk3と同様な手順で、シアン、マゼンタ、イエローにおいても、自己分散型の顔料が分散された顔料分散液を得た。シアン顔料としては、C.I.ピグメントブルー15:3(製品名:ファストゲンブルーFGF、大日本インキ化学製))、マゼンタ顔料としては、C.I.ピグメントレッド122(製品名:TONER MAGENTA E02(クラリアント製))、イエロー顔料としては、C.I.ピグメントイエロー74(製品名:HANSA BRILLIANT YELLOW 5GX 03(クラリアント製))を用いた。得られた顔料分散液をそれぞれ顔料分散液C1、顔料分散液M1、顔料分散液Y1とする。固形分はそれぞれ10%であった。
【0083】
(水溶性ポリマー水溶液1)
ベンジルメタクリレート/メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート(商品名:M−230G(中村化学製))/メタクリル酸共重合体(共重合比:41/30/29(重量比)、酸価:121、分子量:5000)を水酸化カリウム水溶液で中和し、固形分10%の水溶性ポリマー水溶液1を得た。
【0084】
(水溶性ポリマー水溶液2)
ブチルアクリレート/メタクリル酸共重合体(酸価:230、分子量:8000)を水酸化カリウム水溶液で中和し、固形分10%の水溶性ポリマー水溶液2を得た。
【0085】
(水溶性ポリマー水溶液3)
ベンジルメタクリレート/メタクリル酸共重合体(酸価:220、分子量:10000)を水酸化カリウム水溶液で中和し、固形分10%の水溶性ポリマー水溶液3を得た。
【0086】
(水溶性ポリマー水溶液4)
スチレン/アクリル酸共重合体(酸価:290、分子量:5000)を水酸化カリウム水溶液で中和し、固形分10%の水溶性ポリマー水溶液4を得た。
【0087】
上記手順で作成した顔料分散液を使用して、表1に示す組成でBk、C、M、Yインクをそれぞれ作成した。
【0088】
各インクは、十分攪拌して溶解或いは分散した後、ポアサイズ3.0μmのミクロフィルター(富士フィルム製)にて加圧ろ過した。
【0089】
作成した各インク及び以下示した組成で作成した反応液を表1のように組合せ、インクセット1、2を作成した。それぞれを実施例1、比較例1とする。
【0090】
【表1】

【0091】
(反応液)
以下の成分を混合し、反応液を調製した。
・硝酸カルシウム(4水和物) 10部
・トリメチロールプロパン 10部
・グリセリン 5部
・アセチレングリコールエチレンオキサイド付加物 1部
(商品名:アセチレノールEH)
・水 74部
上記に示したインクセット1、2及び、反応液を用いて、記録信号に応じた熱エネルギーをインクに付与することによりインクを吐出させるオンデマンド型マルチ記録ヘッドを有するインクジェット記録装置BJ F900(キヤノン製)の改造機により記録を行った。
【0092】
評価項目を以下に示す。被プリント材としては、コピー用紙(PBペーパー)を用いた。
【0093】
尚、コピー用紙全面に反応液を600dpi辺りの付与量を10ngとなるよう付与したものに記録を行った。
【0094】
普通紙の画像品位
ブラックとシアン、マゼンタ、イエローの各色のベタが隣接するようなパターン及び、フォント数12ポイントの文字を印字し、文字品位と各色ベタ境界部のにじみの評価を行った。
【0095】
(評価結果)
実施例1のインクセットの各インクは、文字のにじみもなく、又ベタ境界部のにじみの目立たなかった。しかし、比較例1のインクセットのインクにおいては、シアン及び、マゼンタの文字にややにじみが目立った。
【0096】
フェイス面試験
実施例1及び比較例1のブラックインクを使用し、BJS700におけるフェイス試験を以下の基準で行った。BJ S700は吐出口形成面(フェイス面)が撥水処理を施してある。
【0097】
各ノズルあたり1000発で、全吐させ、その後本体付属のワイパーを実行させる。この操作を1000回繰り返した後に、インク付着具合・印字ヨレを評価した。
【0098】
(評価結果)
実施例1のブラックインクは印字のよれもなく、フェイス面へのインクの付着も目立たなかった。一方、比較例1のブラックインクは印字のヨレが発生し、フェイス面へのインクの付着も目立った。
【図面の簡単な説明】
【0099】
【図1】本発明の一実施態様にかかる記録方法の概略説明図である。
【図2】インクジェット記録装置のヘッドの一例を示す縦断面図である。
【図3】インクジェット記録装置のヘッドの一例を示す横断面図である。
【図4】図2に示したヘッドをマルチ化したヘッドの外観斜視図である。
【図5】インクジェット記録装置の一例を示す概略斜視図である。
【図6】インクカートリッジの一例を示す縦断面図である。
【図7】本発明の一実施態様にかかるインクカートリッジが記録ヘッドに装着された状態を示す概略平面図である。
【図8】本発明の一実施態様にかかるインクカートリッジの他の実施態様を示す概略平面図である。
【図9】図8のインクカートリッジが記録ヘッドに装着された状態を示す概略平面図である。
【図10】本発明にかかるインクセットの他の実施態様を示す概略平面図である。
【図11】記録ユニットの一例を示す斜視図である。
【図12】本発明にかかる記録ユニットの他の実施態様を示す概略斜視図である。
【図13】インクジェット記録ヘッドの別の構成例を示す概略断面図である。
【図14】本発明のインクセットの一実施態様にかかる、液体組成物を収納した記録ユニット、イオン性基の作用によって水性媒体に分散されている色材を含む黒色インクを収納した記録ユニット、及びCMYの各カラーインクを収納した記録ユニットが同一キヤリッジ上に装着された状態を示す該略図である。
【図15】図5のインクジェット装置の記録ヘッド部の一態様のオリフィス部の拡大図である。
【符号の説明】
【0100】
13 ヘッド
14 インク溝
15 発熱ヘッド
16 保護膜
17−1、17−2 電極
18 発熱抵抗体層
19 蓄熱層
20 基板
21 インク
22 吐出オリフィス(微細孔)
23 メニスカス
24 インク小滴
25 記録媒体
26 マルチ溝
27 ガラス板
28 発熱ヘッド
40 インク袋
42 栓
44 インク吸収体
45 インクカートリッジ
51 給紙部
52 紙送りローラー
53 排紙ローラー
61 ブレード
62 キャップ
63 インク吸収体
64 吐出回復部
65 記録ヘッド
66 キャリッジ
67 ガイド軸
68 モーター
69 ベルト
70 記録ユニット
71 ヘッド部
72 大気連通口
80 インク流路
81 オリフィスプレート
82 振動板
83 圧電素子
84 基板
85 吐出口
91 液体組成物
92 インク
600 インクジェット記録装置
601 インクジェットヘッドカートリッジ
602 駆動モーター
603、604 駆動力伝達ギア
605 リードスクリュ
606 螺旋溝
607 キャリッジ
607a レバー
608 ガイド
609 プラテンローラ
610 紙押え板
611、612 フォトカプラ
613 支持部材
614 キャップ部材
615 インク吸引手段
616 キャップ内開口部
617 クリーニングブレード
618 移動部材
619 本体支持体
620 (吸引開始)レバー
621 カム
832 吐出口
832a 起部
832b 伏部
901 記録ヘッド
1001 カートリッジ
1003 液体組成物の収容部
1005 インクの収容部
1101 記録ヘッド
1201、1203 カートリッジ
1205 記録ヘッド
1301 記録ユニット
1303 記録ヘッド
1401 キャリッジ
1501 記録ヘッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インク組成物を凝集せしめる反応液と共に用いるインク組成物であって、該インク組成物は、表面にアニオン性基が化学的に結合している自己分散型顔料、アクリル系ポリマーを含有し、該アクリル系ポリマーの酸価が250以下であり、該アクリル系ポリマーが、親水性モノマーと、(1)、(2)式に示す少なくとも1つ以上の疎水性モノマーを原材料として重合されたものであり、アクリル系ポリマーを重合する際に仕込む(1)式、(2)式のモノマーの重量%をX1、X2とした場合に、式(A)の条件を満たすことを特徴とするインク組成物。
【数1】

【数2】

(式中R1はHかメチル基を示し、R2はフェニル基かナフチル基を示し、R3はC=1〜20の直鎖、分岐、若しくは脂環式のアルキル基、アルケニル基、ベンジル基かポリジアルキルシロキサン基を示す)
【請求項2】
該親水性モノマーが、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、C=1〜4のアルコキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート(PEG鎖長1〜50)、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレートからなる群から選ばれたものである請求項1に記載のインク組成物。
【請求項3】
インク組成物を凝集せしめる反応液と少なくとも一種の請求項1又は2に記載のインク組成物からなるインクセット。
【請求項4】
吐出口形成面の少なくとも吐出口周辺の領域が撥水性領域として形成されていることを特徴とする印字ヘッド具備している画像記録装置において、請求項1〜3の何れか1項に記載のインク組成物及び、インクセットを用いる画像記録装置。
【請求項5】
反応液を被記録材上に付与する工程、インク組成物をインクジェット記録方法により被記録材上に付与する工程、を有する画像記録方法において、請求項1〜3の何れか1項に記載の反応液及びインク組成物を用いる画像記録方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2006−160930(P2006−160930A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−356314(P2004−356314)
【出願日】平成16年12月9日(2004.12.9)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】