説明

インク組成物および印刷物

【課題】 物品上に印刷しても物品の外観を損ねることがなく、しかも印刷されたマークを下地色の影響を受けずに高感度で検出でき、さらに印刷性や保存安定性の高い紫外線励起型のインク組成物を提供する。
【解決手段】 可視光領域で実質的に不可視であり、かつ紫外線で励起されて可視光領域で発光する有機蛍光色素と、非着色顔料と、ビヒクルとを含有してなるインク組成物において、上記のビヒクルが沸点200℃以上の難揮発性ビヒクルであることを特徴とするインク組成物。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、ドットインパクト式プリンタ、スタンプ式プリンタ、スタンプなどの印刷方式に適した紫外線励起型のインク組成物と、このインク組成物を用いて作製した印刷物とに関するものである。
【0002】
【従来の技術】近年、物品に関する製造業者や商品名などの情報をバーコードや一定の文字、数字、記号で表示し、その模様や情報をバーコードリーダやOCR(Optical Character Reader)などの光学的検出法で読み取り、商品の売り上げ集計や流通の分析に利用することがよく行われている。最近では、このようなバーコードシステムやOCRシステムを利用した商品が見受けられるだけでなく、ファイル管理への応用が行われている。たとえば、郵便物の自動区分ではコード管理により物品を分配するシステムが利用され、銀行では帳票類に文字や数値の情報を印刷し、これを利用して仕分け、管理するシステムも導入されている。
【0003】従来、バーコードシステムでは、インクジェット式プリンタやインパクト式プリンタ、熱転写式プリンタ、オフセット印刷、グラビア印刷、スクリーン印刷などの印刷方式を用いて、白地に黒色などのバーコードを印刷する方法が利用されている。しかしながら、この方法はバーコードと下地との反射率の違いを利用して情報を読み取るものであるため、物品などに汚れが生じた場合、読み取りが極端に困難になるという欠点がある。また、可視光領域の反射光を利用するため、必然的に物品の外観を損ねてしまう欠点もある。さらに、OCRシステムにおいても文字や数字、記号などの情報を青色や黒色などで印刷するため、情報の読み取り率の低下や物品の外観を損ねるといった問題をかかえている。
【0004】このようなバーコードシステムやOCRシステムにおける情報の読み取り率の低下や物品の外観を損ねるといった問題を解決するため、蛍光色素を含有するインク組成物を用いる方法が利用または提案されている。とくに、紫外線で励起して可視光領域で発光する蛍光色素を含有するインク組成物を用いて印刷物を作製した場合、可視光領域において実質的に不可視であるため、物品の外観を損ねることなく印刷できる利点がある。また、機械による読み取りが可能であると同時に、発光領域が可視光領域のため、印刷物の存在を目視により認識できる利点もあり、白黒などのバーコードに代わるものとして、注目されている。
【0005】たとえば、特開昭58−49764号公報においては、紫外線吸収色素を含有するインクジェット式プリンタ用不可視インクを使用して、機械用の情報を出力する方法が提案されている。また、特公平4−64517号公報においては、青紫および青色以外の蛍光を発する蛍光色素を含有するインク組成物を用いてインクジェット式プリンタにより情報の付与を行い、このインクで記録した情報を紫外線照射下で読み取るにあたり、青紫および青色光をカットするフィルタを通して情報を読み取る方法が提案されている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記のような蛍光色素を含有するインク組成物を用いて作製した印刷物は、紫外線照射時の蛍光発光強度が不十分であるため、情報の読み取りができないという実用上の問題があった。とくに、物品の下地色が黒や青、緑、赤などの濃色である場合や、物品に蛍光増白剤が添加されている場合、物品の表面状態が荒い場合には、読み取り信号の出力が小さくなるという欠点があった。また、物品の下地色が黒色の罫線や文字、数字、記号を有する場合、部分的に読み取り出力がばらつくため、認識できない箇所があった。
【0007】そこで、蛍光発光強度を向上させるための有効な方法として、インク組成物中の蛍光色素の添加量を増加したり、下地を隠蔽するための非着色顔料を添加する方法が提案されている。たとえば、特開平1−245072号公報においては、白色顔料と蛍光色素との混合物、バインダ、有機溶剤および導電性付与剤を含むインクジェット用蛍光インキ組成物が提案されている。また、特開平9−174966号公報においては、蛍光染料および1μm以下の粒径の透明固体微粒子を含有する水性蛍光インクを用いてインクジェット式プリンタにより被印刷体表面に印刷し、その印刷表面上に励起エネルギを照射して蛍光発光させることを特徴とした蛍光発光マーキング方法が提案されている。
【0008】しかし、インクジェット式プリンタに使用するインク組成物において、蛍光発光強度の向上を目的として、蛍光色素や、白色顔料、透明固体微粒子などの固形物質を増やしたり、粒子径の大きな固形物質を含有させると、ノズルの目詰まりを引き起こしインクの吐出が安定しないといった問題や、固形物質が沈降しインクの保存性が悪いといった問題が発生する。このため、固形物質の増加や粒径の増大により蛍光発光強度を向上させることは困難であった。そこで、印刷性、保存安定性が高いインク組成物と、バーコードシステムやOCRシステムによる情報の読み取り信号の出力が高い印刷物の開発が希求されている。
【0009】本発明は、このような事情に照らし、可視光領域で実質的に不可視であって、物品上に印刷しても物品の外観を損ねることがなく、しかも印刷されたマークを下地色の影響を受けずに高感度で検出でき、さらに印刷性(印刷には当然印字も含まれる)や保存安定性の高い紫外線励起型のインク組成物を提供することを目的としている。また、本発明は、バーコードシステムやOCRシステムによる情報の読み取り信号の出力が高い印刷物を提供することを目的としている。
【0010】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記の目的を達成するために、鋭意検討した結果、紫外線で励起されて可視光を発光する有機蛍光色素と非着色顔料とを、沸点200℃以上の難揮発性ビヒクル中に溶解および/または分散したインク組成物によると、印刷性や保存安定性が高く、かつこれを物品上に印刷して得られた印刷物は物品の外観を損ねることがなく、しかも紫外線照射時の蛍光発光強度、読み取り出力が向上することを知り、本発明を完成するに至った。
【0011】すなわち、本発明は、可視光領域で実質的に不可視であり、かつ紫外線で励起されて可視光領域で発光する有機蛍光色素と、非着色顔料と、ビヒクルとを含有してなるインク組成物において、上記のビヒクルが沸点200℃以上の難揮発性ビヒクルであることを特徴とするインク組成物に係るものである。なお、上記の非着色顔料とは、白色顔料と透明顔料とを総称したものである。
【0012】また、本発明は、上記構成のインク組成物として、とくに、上記の有機蛍光色素が紫外線で励起されて615±20nmに発光中心波長を有するユウロピウム化合物であるインク組成物、上記の有機蛍光色素の含有率が0.1〜50重量%であるインク組成物、上記の有機蛍光色素が平均粒子径10〜10,000nmの粒状物として存在するインク組成物、上記の非着色顔料と有機蛍光色素との重量比(非着色顔料の重量/有機蛍光色素の重量)が1/10〜50/10であるインク組成物、上記の非着色顔料が、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、カルシウムマグネシウム炭酸塩、ケイ酸塩、シリカ、アルミナ、水酸化アルミニウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、二酸化チタン、亜鉛顔料および非着色樹脂粒子の中から選ばれる少なくとも1種であるインク組成物を、それぞれ、提供することができる。さらに、本発明は、物品上に上記各構成のインク組成物からなる印刷層を有することを特徴とする印刷物に係るものである。
【0013】本発明においては、上記のように、紫外線で励起されて可視光領域で発光する有機蛍光色素と非着色顔料とを沸点200℃以上の難揮発性ビヒクルに溶解および/または分散させるようにしたものであり、このように構成される本発明のインク組成物は、ビヒクルの沸点が高く蒸発しないので、人体に悪影響を与えず、オフィス環境で使用でき、しかも溶媒の揮発や固形分の沈降が抑制されるため、インクの保存安定性にすぐれ、また印刷性にもすぐれている。
【0014】本発明のインク組成物は、このように吐出安定性や保存安定性にすぐれているため、インクジェット式プリンタによる印刷方式に適用可能であるが、より好適な印刷方式は、ドットインパクト式プリンタ、スタンプ式プリンタ、スタンプなどである。銀行ではドットインパクト式プリンタで帳票類に文字や数値の情報を印刷し、この情報を利用して仕分け、管理するシステムに好ましく使用できる。また、その印刷物は実質的に不可視で物品の外観を損ねず、かつ物品の下地色によらず読み取り信号は高い出力を示し、バーコードシステムやOCRシステムによるファイル管理用としてすぐれている。さらに、郵便物の自動区分ではコード管理により物品を分配するシステムに利用することができる。
【0015】
【発明の実施の形態】本発明で用いる有機蛍光色素は、可視光領域(波長400〜700nm)で実質的に不可視な色素であり、かつ紫外線(波長400nm未満)により励起されて可視光領域(波長400〜700nm)に発光中心波長を有する色素である。その発光色はとくに限定されないが、赤色(好ましくは波長615±20nm)の可視光を発光するものが検出性にすぐれており、好ましい。
【0016】赤色発光の有機蛍光色素がすぐれているのは、発光の検出に安価で入手が容易なシリコーンフォトダイオードを使用できるためである。すなわち、このダイオードは、可視光の受光感度が短波長側より長波長側で高いので、長波長の赤色の可視光に対する検出感度が高くなるためである。また、一般に使用される白紙には蛍光増白剤が添加されており、紫外線を照射すると青く発光する場合がある。赤色で発光する有機蛍光色素を使用したものは、赤色の発光波長が蛍光増白剤からの青色の発光波長と離れているため、蛍光増白剤が添加された白紙上に印刷した場合にも、上記色素の発光を高感度に検出できる。
【0017】このように、本発明における有機蛍光色素としては、可視光領域に吸収を持たず、紫外線により励起されて600nm付近の長波長域に発光中心波長を有する赤色発光の有機蛍光色素が好ましく用いられるが、その代表的なものとしては、ユウロピウム、サマリウムなどの希土類元素を発光中心とし、これにπ電子を多数有する配位子を対イオンとした金属錯体が挙げられる。これらの中でも、とくに、発光量の大きなユウロピウム化合物が好ましい。
【0018】具体的には、400〜700nmの可視光領域に吸収を持たず、したがって、可視光領域で実質的に不可視であり、かつ紫外線により励起されて615±20nmに発光中心波長を有するユウロピウムを含み、これにテノイルトリフルオロアセトン、ナフトイルトリフルオロアセトン、ベンゾイルトリフルオロアセトン、メチルベンゾイルトリフルオロアセトン、フロイルトリフルオロアセトン、ピバロイルトリフルオロアセトン、ヘキサフルオロアセチルアセトン、トリフルオロアセチルアセトン、フルオロアセチルアセトン、ヘプタフルオロブタノイルピバロイルメタンなどを配位子とした金属錯体が挙げられる。これらの中でも、発光量の大きなテノイルトリフルオロアセトン、ナフトイルトリフルオロアセトン、メチルベンゾイルトリフルオロアセトンを配位子としたユウロピウム化合物が最も好ましい。
【0019】このような有機蛍光色素は、たとえば、J.Am.Chem.Soc.第186巻、第5117頁、1964年(メルビーなど)や特公平6−15269号公報に記載の方法で合成することができる。また、このような有機蛍光色素の市販品としては、たとえば、リーデルデハーン社製の「ルミルックスCD335」、「同CD331」、「同CD332」、三井化学(株)製の「ER−120」、「ER−122」などを挙げることができる。
【0020】本発明において、このような有機蛍光色素は、インク組成物の全量に対して、0.1〜50重量%の含有率であるのが好ましい。つまり、好適な蛍光発光強度を確保するため、0.1重量%以上の含有率であるのがよく、また好適なインク保存性を得るため、50重量%以下の含有率であるのがよい。
【0021】本発明においては、照射した紫外線や蛍光色素から発光した蛍光が下地に吸収されるのを低減するため、非着色顔料を使用する。非着色顔料としては、非着色無機顔料や非着色樹脂粒子を使用できる。これらの非着色無機顔料や非着色樹脂粒子は、中空粒子、非中空粒子のいずれでもよい。また、これらは、その1種を単独で使用しても、2種以上を混合して使用してもよい。
【0022】非着色無機顔料には、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、カルシウムマグネシウム炭酸塩、ケイ酸塩(カオリンやクレー、ゼオライト、タルク、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸カルシウムなど)、シリカ、アルミナ、水酸化アルミニウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、二酸化チタン、亜鉛顔料(リトポン、硫化亜鉛、酸化亜鉛など)がある。また、非着色樹脂粒子には、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルなどのアクリル系重合体、ポリスチレンなどのビニル芳香族炭化水素系重合体、スチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリアミド、ポリアセタール、ベンゾグアナミン樹脂、アルキド樹脂、メラミン樹脂、芳香族スルホンアミド樹脂などがある。
【0023】本発明において、非着色顔料の使用量は、非着色顔料と有機蛍光色素との重量比(非着色顔料の重量/有機蛍光色素の重量)で1/10〜50/10となるようにするのがよい。上記重量比が1/10より小さいと、下地の隠蔽による蛍光発光強度の向上効果が低下し、50/10より大きいと逆に非着色顔料が蛍光色素自体を隠蔽して、十分な蛍光発光強度が得られない。
【0024】本発明においては、上記の有機蛍光色素と非着色顔料とを溶解および/または分散させるためのビヒクルとして、沸点200℃以上の難揮発性ビヒクルを使用する。このような難揮発性ビヒクルを使用すると、(1)上記ビヒクルが揮発しにくいため、インクをオフィス環境で使用することができる、(2)上記ビヒクルの粘度が高いので、蛍光色素や非着色顔料などの固形物質の沈降を防止でき、インクの保存安定性が良くなる、(3)蛍光色素濃度を高く設定できるので、蛍光発光強度が高くなる、といつた効果が奏される。
【0025】上記ビヒクルには、常温で液状の高級脂肪酸(オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、イソステアリン酸など)、動植物油(アマニ油、ヒマシ油、ナタネ油、大豆油、牛脂油など)、流動パラフィン、マシン油、ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレン、アルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセリン、ソルビタン酸エステル、ベンジルアルコール、フェニルセロソルブ、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンなどがある。
【0026】これらのビヒクルは、その1種を単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。使用するビヒクルの粘度(25℃)は、10mPa・s〜1kPa・sが好ましく、20mPa・s〜100Pa・sがより好ましく、20mPa・s〜5Pa・sがさらに好ましい。上記粘度が10mPa・s未満となると、非着色顔料などの固形物質が沈殿しやすく、保存安定性が悪くなり、1kPa・sを超えると、非着色顔料などの固形物質が分散しにくくなる。
【0027】本発明では、有機蛍光色素を上記のビヒクル中に溶解または分散させて使用する。とくにインク組成物やその印刷物に良好な耐光性や耐候性を付与するには、上記ビヒクル中に有機蛍光色素を平均粒子径10〜10,000nmの粒状物として存在させるのが望ましい。平均粒子径が10nmより小さいと、発光強度が経時的に劣化しやすく、10,000nmより大きいと、インク組成物中で上記色素が沈降したり、印刷物から色素が脱落するなどの問題が起こりやすい。
【0028】上記粒状物からなる有機蛍光色素は、インク組成物の調製における分散工程後の平均粒子径が10〜10,000nmの範囲にあればよく、粒状物のすべてが均一な粒径を有している必要はない。上記の平均粒子径とは、インク組成物を同比率の溶媒で約1,000倍に希釈し調製したサンプルを、直径12mmのセルに入れ、動的光散乱法により、室温中、5mWのHe−Neレーザを用いて、測定角度90度、積算回数100回の条件で測定したときの値である。
【0029】本発明のインク組成物は、必須成分として、上記の有機蛍光色素、非着色顔料および沸点200℃以上の難揮発性ビヒクルを含有し、必要により、任意成分として、種々の添加剤を適宜選択して配合できる。たとえば有機蛍光色素や非着色顔料を物品(被印刷物)に固着させるため、種々のバインダ樹脂を使用できる。また、表面調整剤、消泡剤、分散剤、粘性調整剤、架橋剤、防黴剤、防腐剤、防錆剤、帯電防止剤、潤滑剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、電荷調整剤、pH調整剤などの公知の各種の添加剤を配合することができる。
【0030】バインダ樹脂は、有機蛍光色素との反応性が低く、プリンタなどによる印刷適性や印刷層の耐久性を向上させるものが好ましい。通常は、前記のビヒクルに安定に溶解するものが用いられるが、乳化分散するタイプのものを用いてもよい。具体的には、ロジン樹脂、フェノール樹脂、石油樹脂、ケトン樹脂、アルキド樹脂、マレイン酸樹脂、ブチラール樹脂、ポリアミド樹脂、セラックなどがあり、その1種または2種以上が用いられる。これらのバインダ樹脂は、有機蛍光色素1重量部に対し、通常0.1〜50重量部となる割合で使用するのが望ましい。0.1重量部以上とすることにより、好適な結着力を確保でき、50重量部以下とすることにより、印刷物の好適な発光強度を維持できる。
【0031】本発明のインク組成物は、従来公知の方法に準じ、目的に応じた公知の各種の攪拌装置、分散機、遠心分離機、ろ過機などを使用することにより、容易に調製することができる。とくに、有機蛍光色素および非着色顔料をビヒクル中に分散させるには、ボールミル、サンドミル、ビーズミル、ロールミルなどの分散機を用いて、均一に混合分散する方法が採用される。
【0032】本発明では、上記のインク組成物を、ドットインパクト式プリンタ、スタンプ式プリンタ、スタンプなどの印刷方式により、帳票類、葉書などの郵便物をはじめとする各種物品の表面に印刷して、バーコードや一定の文字、数字、記号などの所望のマークからなる印刷層を形成し、印刷物とする。
【0033】このように作製される印刷物は、印刷層中の有機蛍光色素が可視光領域で発光および吸光成分を持たないため、不可視な印刷層として物品の外観を損なうことがない。しかも、この印刷物に紫外線を照射した場合、印刷層中の上記蛍光色素が励起されて可視光領域で発光するため、これを目視にて認識でき、また光電変換素子としてシリコーンフォトダイオードなどを使用した読み取りリーダで発光を検出すれば、所望のマーク情報を高感度で読み取ることができる。
【0034】
【実施例】つぎに、本発明の実施例を記載して、より具体的に説明する。ただし、本発明は、以下の実施例にのみ、限定されるものではない。なお、以下において、部とあるのは重量部を意味するものとする。
【0035】実施例1ヒマシ油(沸点200℃以上)60部に、石油樹脂〔日本ゼオン(株)製の「クイントン1500」〕20部を加え、加熱溶解して樹脂溶液とした。これに、有機蛍光色素〔リーデルデハーン社製の「ルミルックスCD335」(可視光領域で実質的に不可視でかつ紫外線によって励起されて赤色に発光するユウロピウム化合物、励起波長:365nm、発光波長:615nm)〕15部と、酸化チタン〔チタン工業(株)製の「クロノスKA−10」〕5部とを加え、遊星ボールミルにより4時間分散処理して、上記の有機蛍光色素が平均粒子径800nmの粒状物として存在する紫外線励起型のインク組成物を調製した。
【0036】実施例2オレイン酸(沸点360℃)50部、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン(沸点226℃)17部に、ロジン樹脂〔荒川化学(株)製の「エステルガムAAL」〕20部を加え、加熱溶解して樹脂溶液とした。これに、有機蛍光色素(実施例1と同じリーデルデハーン社製の「ルミルックスCD335」)10部を加えて溶解し、さらに非着色樹脂粒子としてベンゾグアナミン樹脂〔(株)日本触媒製の「エポスターM30」〕3部を加え、遊星ボールミルにより4時間分散処理して、上記の有機蛍光色素が溶解状態で存在する紫外線励起型のインク組成物を調製した。
【0037】比較例1酸化チタン5部を使用しなかった以外は、実施例1と同様にして、紫外線励起型のインク組成物を調製した。
【0038】比較例2ヒマシ油60部に代えて、メチルエチルケトン(沸点80℃)60部を使用した以外は、実施例1と同様にして、紫外線励起型のインク組成物を調製した。
【0039】上記の実施例1,2および比較例1,2で調製した各インク組成物について、以下の方法で、インクの保存性、印刷物の蛍光発光強度、印刷物の耐光性、プリンタの印刷適性を評価した。結果は、表1に示されるとおりであった。
【0040】<インクの保存性>ガラス製のビンに、インク組成物50ccを入れ、60℃の恒温槽に24時間放置したのち、インク組成物の状態を観察し、下記の判定基準で評価した。
〇:沈降物がみられない△:有機蛍光色素や非着色顔料の沈降がややみられる×:有機蛍光色素や非着色顔料が明らかに沈降している
【0041】<印刷物の蛍光発光強度>隠蔽率試験紙(JIS K5400)に、インク組成物を、#4のバーコータを使用して塗布し、乾燥したのち、蛍光分光光度計〔日本分光(株)製の「FP750」〕により、発光強度を測定した。測定は、白地部と黒地部の2箇所で行つた。この数値が大きいほど、蛍光発光強度が高いことを示している。
【0042】<印刷物の耐光性>上記の「印刷物の蛍光発光強度」の測定で使用した試験試料を用い、これに、アトラス社製の「キセノンウェザオメーターCi65」により、光を1時間照射したのち、蛍光分光光度計〔日本分光(株)製の「FP750」〕により、発光強度を測定した。測定は、白地部について行い、照射前後の比較による維持率、つまり〔(照射後発光強度/照射前発光強度)×100(%)〕を算出した。この数値が大きいほど、耐光性にすぐれていることを示している。
【0043】<プリンタの印刷適性>ナイロン製で幅8mmのファブリックインクリボンに、インク組成物を、14g/m2の割合で含浸させ、カセットに装着し、セイコーエプソン(株)製の「ドットインパクト式プリンタSP−80」により、上質紙に印刷したのち、ブラックライトを照射して、印刷物の状態を観察し、下記の判定基準で評価した。
〇:印刷物は良好である×:印刷物の発光強度が低く、ヌケやカスレがみられる
【0044】


【0045】上記の表1の結果から明らかなように、実施例1,2の両インク組成物は、インクの保存性が良好であつて、プリンタの印刷適性にもすぐれているとともに、印刷物(とくに黒地部)の蛍光発光強度が良好であり、とくに有機蛍光色素をバルク状態の粒状物として存在させた実施例1のインク組成物は、上記の蛍光発光強度が大きく、印刷物の耐光性にもすぐれていることがわかる。
【0046】これに対して、非着色顔料を含んでいない比較例1のインク組成物は、黒地部の蛍光発光強度が低くなつており、また沸点200℃以上の難揮発性ビヒクルを使用していない比較例2のインク組成物は、有機蛍光色素や非着色顔料の沈降が著しく、インクの保存性およびプリンタの印刷適性に劣り、印刷物(とくに黒地部)の蛍光発光強度が低く、耐光性も著しく劣っている。
【0047】
【発明の効果】以上のように、本発明においては、可視光領域で実質的に不可視であり、かつ紫外線で励起されて可視光領域で発光する有機蛍光色素と、非着色顔料を、沸点200℃以上の難揮発性ビヒクル中に溶解および/または分散して存在させる構成としたことにより、保存安定性が高く、また印刷性にすぐれて、物品上にその外観を損ねることなく所望のマークを印刷できるとともに、印刷されたマークを下地色の影響を受けずに高感度で検出できる、実用価値の極めて高い紫外線励起型のインク組成物とその印刷物を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 可視光領域で実質的に不可視であり、かつ紫外線で励起されて可視光領域で発光する有機蛍光色素と、非着色顔料と、ビヒクルとを含有してなるインク組成物において、上記のビヒクルが沸点200℃以上の難揮発性ビヒクルであることを特徴とするインク組成物。
【請求項2】 有機蛍光色素が紫外線で励起されて615±20nmに発光中心波長を有するユウロピウム化合物である請求項1に記載のインク組成物。
【請求項3】 有機蛍光色素の含有率が0.1〜50重量%である請求項1または2に記載のインク組成物。
【請求項4】 有機蛍光色素が平均粒子径10〜10,000nmの粒状物として存在する請求項1〜3のいずれかに記載のインク組成物。
【請求項5】 非着色顔料と有機蛍光色素との重量比(非着色顔料の重量/有機蛍光色素の重量)が1/10〜50/10である請求項1〜4のいずれかに記載のインク組成物。
【請求項6】 非着色顔料が、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、カルシウムマグネシウム炭酸塩、ケイ酸塩、シリカ、アルミナ、水酸化アルミニウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、二酸化チタン、亜鉛顔料および非着色樹脂粒子の中から選ばれる少なくとも1種である請求項1〜5のいずれかに記載のインク組成物。
【請求項7】 物品上に請求項1〜6のいずれかに記載のインク組成物からなる印刷層を有することを特徴とする印刷物。

【公開番号】特開2002−88292(P2002−88292A)
【公開日】平成14年3月27日(2002.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2000−278179(P2000−278179)
【出願日】平成12年9月13日(2000.9.13)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】