説明

インク組成物

【課題】容器または袋内の内容物の劣化に大きく関与する酸素の存在を検知し、変色という手段を用いて一目で容器または袋内の酸素ガス把握することができるインク組成物を提供する。
【解決手段】酸化還元色素、揮発性還元剤、不揮発性還元剤、アルカリ物質、バインダー及び溶媒からなるインク組成物を用いる。酸化還元色素としては、チアジン系色素、オキザリン系色素、ラクトン系色素、サルトン系色素、アゾ系色素、インジゴイド系色素、アントラキノン系色素、トリフェニルメタン系色素等が、また、酸化還元色素としては、メチレンブルー、チオニン、ブリリアントブルー、ファーストグリーン、インジゴカルミン、アミノブラック等を用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環境変化を検知し、変色という手段を用いて一目で容器または袋内の環境変化を把握することができるインク組成物に関する。特に酸素の存在を検知し、変色という手段を用いて一目で容器または袋内の酸素ガスの有無を把握することができる酸素検知のインク組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
スーパーマーケットなどで食材を購入し、各家庭でその購入した食材を調理して食べるという従来の形態に加え、最近では共働きのため調理の時間がない、自分の趣味の時間を多く取りたい等の理由により、家事を簡便に行いたいという意向から、調理に関してはスーパーマーケット等のバックヤードやセントラルキッチンなどで調理された調理済み食品等を購入し、家庭で食す形態が増えてきている。
【0003】
一方、スーパーマーケットやコンビニエンスストアの調理済食品においては、調理済食品の利便性を売りに個々の食品の味、量等、好みに合わせた商品開発が活発になされ、多種類の食品が市場に投入されている。また、スーパーマーケットやコンビニエンスストア等の惣菜販売者は、消費者の強いニーズである素材そのもののおいしさの提供および安心・安全・健康志向に応えるため、食品保存料等を削減した惣菜等の提供を模索している。しかし、食品保存料を削減すると食品の腐敗開始が早くなるため、食品の安全対策が必須となっている。食品の腐敗を防止する方法として、食品の腐敗には空気中の酸素の影響が重要であることから、包装体内を無酸素状態で包装する種々の方法が検討されている。
【0004】
食品の腐敗を防止する目的で、包装体内を無酸素状態に保つ包装方法として、包装体内を真空状態にする真空包装、包装体内を脱酸素剤を用いて無酸素状態にする無酸素包装、包装体内を所望のガスにて密封するガス置換包装などが挙げられる。
【0005】
例えば、真空包装の場合、包装体内を真空状態にするため、酸素による食品の酸化等の腐敗を防止でき、さらに、包装体内が真空で保たれているかを判別する際は、包装体内に空気の流入があるかどうかを目視確認することで、比較的容易に判別できる。また、保管、陳列スペースの点において有利であり、比較的長期の保存が必要な場合に多用されている。しかしながら、包装体内を真空にするため、大気圧によって包装体を包装しているフィルム等が食品に密着した包装形態になり、ボリューム感を与えることができない他、食品の形態がいびつになってしまうため美粧性の観点で問題が残る。
【0006】
一方、包装体内に脱酸素剤を用いたり、酸素吸収層を有する包装材で包装する無酸素包装や包装体内を所望のガスにて密封するガス置換包装は、食品を大気圧によって押しつぶすこと無く、食品を作ったままの形状でディスプレイできるため、商品をおいしく見せられる等のいわゆるディスプレイ効果による商品差別化が図れる点で優れている。そのため、賞味期限が数日から1ヶ月以内の比較的短期間の商品については酸素吸収剤による無酸素包装やガス置換包装の検討が主として行われている。
しかしながら、包装体内に脱酸素剤を用いた無酸素包装や、包装体内を所望のガスにて密封するガス置換包装では、目視して包装体内が適したガス雰囲気下で保存されているかどうかの判断をすることは難しく、包装体内のガス雰囲気が適性であるかどうかを判別する方法が模索されている。特に食品腐敗に大きな影響を与える酸素の有無を検知する酸素検知の開発およびこのような酸素検知を具備した包装容器・袋が望まれている。
【0007】
このような、酸素検知機能として、酸素検知機能付きの脱酸素剤が開示されている。例えば、特許文献1にはメチレンブルー、糖類、アルカリ性物質、水分およびアスコルビン酸からなる酸素検知付き脱酸素剤が開示されている。この脱酸素剤はアスコルビン酸による脱酸素であるが、本来の機能である脱酸素機能に加え、メチレンブルーを指示色素として用い、メチレンブルーが酸素がある場合は青色、酸素のない場合は無色を示す酸素検知機能を付け加えているため、一目で酸素の有無を確認できる点で優れている。
【0008】
しかしながら、特許文献1に開示されている酸素検知成分は耐光性、耐熱性等の耐久性が乏しい。更に、酸素検知成分の保存は冷暗所であることが必要であり、たいていの場合、冷蔵庫等の温度管理が必要である。また、冷暗所に保管してあった場合でも、酸素検知成分の商品寿命は最大2〜3ヶ月であり、長期の酸素検知機能の継続は困難であり、酸素検知成分そのものの商品管理はもとより、それを付与した商品管理に手間がかかるのである。また、特許文献1に開示されている酸素検知成分は、耐光性、耐熱性等の耐久性が乏しいため、該酸素検知組成物をフィルム等に塗布して、酸素検知機能を有する基材を作成した場合も、上記の冷暗所での管理や酸素検知機能の保持期間が短いため、商品として使いにくい問題の他、耐熱性が乏しいため、ラミネート加工や、製袋加工等の基材としての使用が困難である問題がある。
【0009】
【特許文献1】特開昭54−138489号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、可逆的に環境変化を検知でき、さらに耐光性、耐熱性を有するインク組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を達成するために鋭意検討した結果、本発明をなすに至った。
すなわち、本発明は下記の通りである。
(1)酸化還元色素、揮発性還元剤、不揮発性還元剤、アルカリ物質、バインダー及び溶媒からなるインク組成物。
(2)バインダーが、シクロヘキサノン系ケトン樹脂またはアセトフェノン系ケトン樹脂を含むことを特徴とする(1)に記載のインク組成物。
【0012】
(3)酸化還元色素が、チアジン系色素、オキザリン系色素、ラクトン系色素、サルトン系色素、アゾ系色素、インジゴイド系色素、アントラキノン系色素、トリフェニルメタン系色素からなる群から選ばれた少なくとも1つの色素であることを特徴とする(1)に記載のインク組成物。
(4)酸化還元色素の酸化還元電位が+0.1V以上、+1.5V以下であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載のインク組成物。
(5)酸化還元色素が、メチレンブルー、チオニン、ブリリアントブルー、ファーストグリーン、インジゴカルミン、アミノブラックからなる群から選ばれた少なくとも1つの色素であることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載のインク組成物。
【0013】
(6)揮発性還元剤が、アンモニア、チオール類、アルデヒド類、低分子アミン類からなる群から選ばれた少なくとも1つの還元剤であることを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載のインク組成物。
(7)不揮発性還元剤が、還元糖、アスコルビン酸、システイン、アルデヒド類からなる群から選ばれた少なくとも1つの還元剤であることを特徴とする(1)〜(6)のいずれかに記載のインク組成物。
(8)アルカリ物質が、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸水素ナトリウムからなる群から選ばれた少なくとも1つの化合物からなることを特徴とする(1)〜(7)のいずれかに記載のインク組成物。
【0014】
(9)(1)〜(8)のいずれかに記載のインク組成物を塗布した検知基材。
(10)(9)に記載の検知基材を含むことを特徴とする原反。
(11)(9)に記載の検知基材または(10)に記載の原反を用いて作製されたことを特徴とする容器。
(12)(9)に記載の検知基材または(10)に記載の原反を用いて作製されたことを特徴とする袋。
【発明の効果】
【0015】
本発明のインク組成物は、耐光性、耐熱性等の耐久性に優れるため、本発明のインク組成物を酸素検知インクとして使用した場合、インク組成物を塗布した基材は検知基材として使用でき、該検知基材はラミネート加工や製袋加工等の原反として、包装容器および包装フィルムや袋等を作製できる。また、本発明の検知基材に使用されるインク組成物は上記記載の耐光性、耐熱性等の耐久性の他、耐アルコール性があり、アルコール等の静菌および殺菌ガスを用いたガス置換包装およびアルコールを含有する内容物においても使用できる。さらに、本発明の検知基材を脱酸素剤の外装袋に用いた場合、該検知基材を使用した脱酸素剤は耐光性、耐熱性等の耐久性が優れるため、従来技術で開示されるような特別な環境で保管・管理する必要がない他、そのため酸素検知機能をあらかじめ脱酸素剤と一体化することができる。さらにまた、従来技術では耐久性がないため脱酸素剤を包装体内に入れるときに粘着加工を施した酸素検知部材を張り合わす必要があり、この工程でのトラブルや手間を省くことができるのである。よって、従来技術では不可能であった脱酸素剤のすべてに酸素検知機能を具備する可能性を見出すことができ、該酸素検知機能付きの脱酸素剤を入れる容器または袋、さらには検知基材を容器および袋に使用した場合、容器および袋自身に酸素検知機能を具備することができ、商品を全品酸素リーク検査することができるのである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本願発明について具体的に説明する。
本発明のインク組成物は、酸化還元色素、揮発性還元剤、不揮発性還元剤、アルカリ物質、バインダー、溶媒からなり、酸化還元色素が還元状態と酸化状態の各々の環境状態で変化することで環境の変化を検知することができるのである。例えば、可視光領域で色として変化を検出できる酸化還元色素として、メチレンブルー等が挙げられ、メチレンブルーの場合、還元状態では無色、酸化状態では青を示し、無色−青の色による変色で環境の変化を検知をすることができるのである。
【0017】
本発明のインク組成物について詳細に説明する。
本発明に用いられるバインダーは、主として酸化還元色素をバインダー中に分散状態で包括し、被付着面に固定する役割をはたす。バインダーに用いられる物質は公知に使用されるバインダーであれば単独またはその混合物のいずれを使用しても良い。また、本発明のインク組成物におけるバインダー含有量は、グラビア印刷の場合、インク組成物の粘度および印刷物の塗膜形成性の観点より、インク組成物全体に対して10〜60重量%含むことが好ましく、より好ましくは15〜55重量%である。被付着面はコロナ処理等の公知の表面処理を行って結着性を改善してもよい。
【0018】
また、プラスチック表面へのインクジェットの場合、被付着面であるプラスチックへの結着性の観点およびプリントヘッドからのインク組成物の吐出性能やノズル穴の詰まりの観点より、インク組成物全体に対して10〜60重量%含むことが好ましく、より好ましくは15〜55重量%である。被付着面はコロナ処理等の公知の表面処理を行って結着性を改善してもよい。インクジェット技術での印刷においてインク組成物の粘度は、30℃における粘度で3〜150mPa・sであることが好ましく、鮮明な印刷をする観点より、より好ましくは10〜40mPa・sである。この溶液粘度を実現するために、バインダーの重量平均分子量(Mw)は小さいほうが好ましいが、バインダー成分の溶出を鑑み重量平均分子量が1000〜8000であることが好ましく、より好ましくは重量平均分子量が1500〜7000、さらに好ましくは重量平均分子量が2000〜6000である。
また、グラビア印刷において好ましいインク組成物の粘度は、30℃における粘度で20〜600mPa・sであることが好ましく、鮮明な印刷をする観点より、より好ましくは30〜400mPa・sであり、バインダーの平均分子量やバインダー濃度で調整することができる。
【0019】
本発明に用いられるバインダーとして、例えば、ケトン樹脂の他、セルロース誘導体(ニトロセルロース等のセルロースエステル類、ハイドロキシエチルセルロース等のセルロースエーテル類、オキシセルロース等の修飾セルロース類)、ポリビニルアルコール、ポリオール類、ポリビニルピロリドン、ポリアミド系、ポリアセタール系、その他天然樹脂系バインダーとその変性物が挙げられ、被印刷物や被塗布物の表面素材に合わせて、これらバインダーを単独またはその混合物を使用できる。好ましいバインダーは、色素の還元補助機能の観点より、ケトン樹脂が良く、また、色素の色変化反応性の観点より、セルロース誘導体や天然樹脂等が良く、また、安全性の観点より、天然樹脂等が良く、これらの総合的組み合わせとして、ケトン樹脂と天然樹脂が良い。また、被印刷面がプラスチックの場合、印刷部が均一な表面を形成するにはバインダーの濃度が10重量%以上である方が好ましいが、ケトン樹脂を含むバインダーを用いることは、上記の低粘度とバインダー濃度を両立することができ、より好ましい。さらに、ケトン樹脂を含むバインダーを用いる場合、少量の不揮発性還元剤で色素をロイコ状態に還元することが可能であり、インク溶液のpHを10以下に設定できるため、インク組成物の保存安定性および印刷物の耐光性に優れるのである。
【0020】
ケトン樹脂は、ケトン基を有する化合物とアルデヒドの縮合反応により得られる物質であり、メチルエチルケトン系、メチルイソブチルケトン系、メチルシクロヘキサノン系、シクロヘキサノン系、アセトフェノン系等の樹脂があり、適宜、選択して用いることができる。好ましくは、シクロヘキサノン系、アセトフェノン系の樹脂であり、シクロヘキサノン系ケトン樹脂として、例えば、シクロヘキサンノンとホルムアルデヒドからなるケトン樹脂が挙げられ、アセトフェノン系ケトン樹脂として、アセトフェノンとホルムアルデヒドからなるケトン樹脂が挙げられる。また、これらの物質を単独または2種以上の混合物として使用しても良い。
ケトン樹脂のインク組成物に対する添加量としては、バインダー機能および酸化還元色素の還元機能の観点より10重量%以上が好ましく、より好ましくは15重量%以上である。
【0021】
バインダーとしてケトン樹脂のような酸素透過性の緩やかな樹脂を用いる場合、酸化還元色素の発色速度を制御する観点より既存の酸素透過性の良いバインダーを混合しても良い。通常、ケトン樹脂は分子内および分子間の水素結合により、酸素透過性が緩やかである。本発明のインク組成物が酸素検知に用いられる場合、酸化還元色素の発色はバインダー中を拡散してくる酸素との反応によるものであり、包装体内の環境の変化を即座に検知するため、バインダー内の酸素拡散性を改善する目的で酸素透過性の優れるバインダーもしくは樹脂を混合して使用するのは好ましい。混合するバインダーとしては、例えば、バインダー機能性およびバインダー内の酸素拡散性改善の観点より、前記に挙げたセルロース誘導体や天然樹脂系バインダーとその変性物が挙げられ、その他、ポリ乳酸、ポリエチレン樹脂等が挙げられる。特に溶媒との相溶性、インク粘度、食品安全の観点より、天然樹脂系のシェラック樹脂が好ましい。シェラック樹脂は樹脂酸およびアルコールのエステル化合物であるが、より好ましくは樹脂酸がアレウリチン酸、ジャラール酸、ラクシジャラール酸を含むエステル化合物である。
【0022】
本発明のインク組成物においては、バインダーを10重量%以上含む場合、酸素透過性の高い基材にも塗布することができる。本来、基材フィルムとして酸素透過性の低いフィルムは、フィルムを構成する高分子鎖中に水酸化基やケトン基等の極性の官能基を有する構造をしており、その官能基同士が、水素結合等の分子間のパッキングをよくすることで、酸素透過性が低くなるのであるが、印刷やコーティング等の塗布においても、この極性の官能基がインク中の色素、バインダー等の化学物質の官能基と相互作用することで、安定した結合を形成しやすく、いわゆるインク印刷適性が高い傾向にある。本発明のインク組成物は、特にバインダーとしてケトン樹脂を用い、そのバインダー濃度が10重量%以上である場合、本来インク印刷適性が低い傾向にある酸素透過性の高い基材にも安定した塗布面を形成し、基材より剥離しにくい塗布を行うことができる。通常、酸素透過性の高いフィルムに印刷やコーティング等を施す場合、コロナ処理等の表面処理をする必要があり、一般的に表面エネルギーが38mN/m以上を必要とする。
本明細書においては、便宜上、基材の厚さが100μm以上の厚さのものをシートと示し、基材の厚さが100μm未満のものをフィルムと示す。
本発明の酸素検知インクは酸素透過性の高い、比較的に極性の官能基の少ない基材(フィルム又はシート)においても安定した印刷やコーティング等の皮膜を形成することができる。本発明のインク組成物を基材に塗布する場合、必要によってはコロナ処理等を施しても良い。基材(フィルムまたはシート)の表面エネルギーは高いことが、インク組成物の塗工のしやすさの観点より、好ましいが、コロナ処理等の後加工の表面処理技術には限界があり、通常は44mN/mまでである。好ましくは32mN/m以上、より好ましくは34mN/m、さらに好ましくは36mN/mである。
【0023】
次に本発明で用いる酸化還元色素について説明する。
本発明でいう変色とは、酸化還元色素の光吸収波長変化反応であり、酸化還元色素自体の構造変化あるいは酸化還元色素が酸素検知部に含有する他の化合物と反応に起因して光吸収波長が変化することをいう。また、本発明で使用する酸化還元色素を種々に選択することによって、所望の色、所望の酸素濃度を閾値として酸素の有無を検知することができ、さらに検知する酸素濃度の設定や変色速度等を所望の設定にすることができる。さらに、酸化還元色素による変色が可視光域(400nm〜600nm)であれば波長を測定する機械を用いることなく、一目で目視確認できるため好ましい。さらにまた、数種の酸化還元色素を混合しても化学的に安定であり、かつ、反応が独立である場合、例えば、酸化還元色素の反応に必要な酸素濃度、反応速度および反応時の色彩の全く違う酸化還元色素を数種混合して用いると、ある酸素濃度ではオレンジ色、さらに酸素濃度が高い場合は青色等酸素濃度によって色を段階的に変化することが可能であったり、酸素濃度の暴露時間が少ない場合は褐色、酸素濃度の暴露時間が長い場合は赤色等酸素暴露時間によって色を段階的に変化することが可能である。
【0024】
本発明でいう酸化還元色素とは、pH、温度、水素および電子の授受または酸素による直接酸化等による酸化還元等の環境変化により変色をするものを示す。酸化還元色素とは物質の酸化または還元によって光吸収波長が変化すればいずれの物質でも良い。このように変化した光吸収波長を検出することによって酸素の有無を判断することができるのである。利用できる光吸収波長の波長域は、変化した波長を測定あるいは検出できればどのような波長でも利用できる。
【0025】
本発明でいう酸化還元色素として、チアジン系、オキザリン系、ラクトン系、サルトン系、アゾ系、インジゴイド系、アントラキノン系、トリフェニルメタン系、フェナントロリン誘導体およびこれらの混合物等が挙げられ、より好ましくは、チアジン系、オキザリン系、ラクトン系、サルトン系、インジゴイド系、アントラキノン系、トリフェニルメタン系およびこれらの混合物である。具体的には、インジゴテトラスルホン酸、ジフェニルアミン、ジフェニルベンジジン、ジフェニルアミンスルホン酸、フェロイン、ニトロフェロイン、メチルフェロイン、ジメチルフェロイン、メチレンブルー、ガロシアニン、メチルレッド、メチルバイオレッド、チモールブルー、アントシアニン、メチルイエロー、フェノールレッド、チモールフタレイン、アザリンイエロー、アントラキノン、サフラニン、フェノサフラニン、β−カロチン、リコピン、レソルフィン、チオニン、クレシルブルー、トルイジンブルー、メチルオレンジ、リトマス、ブロムチモールブルー、カルミン、フェノールフタレン、ブリリアントブルー、ファーストグリーン、インジゴカルミン、アミノブラック、1,10−フェナントロリン、1,7−フェナントロリン、5−フェニル、1,10−フェナントロリン、4,7−ジメチル−1,10−フェナントロリン、N−フェニルアントラリン酸、ナイルブルー、ナチュラルレッド、ジフェニルアミン−4−スルホン酸、2,2’−ジピリジン、2,6−ジクロロインドフェノール、3,3’−ジメチルナフチジン、N,N−ジメチル−1,4−フェニレン−ジアンモニウム、ジフェニルアミン、ジフェニルベンザジン等が挙げられる。好ましくは、インジゴテトラスルホン酸、ジフェニルアミン、ジフェニルベンジジン、ジフェニルアミンスルホン酸、フェロイン、ニトロフェロイン、メチルフェロイン、ジメチルフェロイン、メチレンブルー、ガロシアニン、メチルレッド、メチルバイオレッド、チモールブルー、アントシアニン、メチルイエロー、フェノールレッド、チモールフタレイン、アザリンイエロー、サフラニン、フェノサフラニン、レソルフィン、チオニン、トルイジンブルー、メチルオレンジ、リトマス、ブロムチモールブルー、ブリリアントブルー、ファーストグリーン、インジゴカルミン、アミノブラック、2,6−ジクロロインドフェノールであり、より好ましくは、インジゴテトラスルホン酸、ジフェニルアミンスルホン酸、フェロイン、ニトロフェロイン、メチルフェロイン、ジメチルフェロイン、メチレンブルー、メチルバイオレッド、チモールブルー、アントシアニン、フェノールレッド、チモールフタレイン、アザリンイエロー、サフラニン、フェノサフラニン、レソルフィン、チオニン、トルイジンブルー、メチルオレンジ、リトマス、ブロムチモールブルー、ブリリアントブルー、ファーストグリーン、インジゴカルミン、アミノブラック、2,6−ジクロロインドフェノールであり、さらに好ましくはインジゴテトラスルホン酸、ジフェニルアミンスルホン酸、フェロイン、ニトロフェロイン、メチルフェロイン、ジメチルフェロイン、メチレンブルー、チモールブルー、チモールフタレイン、サフラニン、フェノサフラニン、チオニン、トルイジンブルー、リトマス、ブロムチモールブルー、ブリリアントブルー、ファーストグリーン、2,6−ジクロロインドフェノールである。さらにより好ましくは食用色素であり、ブリリアントブルー、ファーストグリーン、インジゴカルミン、アミノブラック等が挙げられるのである。
【0026】
酸化還元色素のインク組成物に対する添加量は、通常、溶媒に対する溶解性の観点および色差判別の観点より、好ましくはインク組成物の0.1〜5重量%で、より好ましくは0.3〜4重量%、さらに好ましくは0.3〜3重量%である。
本発明に用いられる酸化還元色素がある特定の酸化還元電位を有する場合、酸化還元電位の異なる酸化還元色素を使用することにより、包装体内の酸素含有量を所望の濃度で検知することができる。本発明でいう酸化還元電位とは後述のサイクリックボルタンメトリーにより測定された値を用いるが、酸化還元電位が+0.1V以上、+0.7V未満の場合は、揮発性還元剤により酸化還元色素を還元状態にした場合、ごく少量の酸素によって即座に酸化状態に変化するため、ごく少量の酸素の有無を検知することが可能である。また、酸化還元電位が+0.1V未満の場合は、酸素暴露による発色前の色を任意に着色できるため、酸素暴露による発色を視覚的に顕著にする効果を奏することができる。さらに、酸化還元電位が+0.7V以上の場合は、脱酸素剤等の酸素捕捉材料が包装体内にないような場合にも酸素検知として使用できる他、酸化還元電位の値によっては、包装体内の酸素含有量を所望の濃度で検知することができ、酸化還元電位の値によって所望の酸素含有量で変色する酸素検知用インク組成物の色素を達成することができる。
酸化還元電位が+0.1V未満である場合は酸素に対しての鋭敏な反応速度が欲しいときに適している。+0.1以上+0.7V未満は、少ない酸素(酸素濃度が0.5%未満)があっても反応せず、それ以上の酸素濃度で色変化するような場合に適している。
+0.7V以上は酸素濃度が0.5%以上のときに適している。好ましい酸化還元電位は+0.1以上、+1.5V以下である。
【0027】
本発明でいう揮発性還元剤とは、インク組成物を基材に塗布する工程やラミネート加工工程や製袋工程等の初期段階での酸化還元色素を還元状態(ロイコ状態)にする役割を果たし、可逆性を示すときに消費される不揮発性還元剤を温存することができるのである。また、酸化還元色素はロイコ状態での保存が安定であり、ロイコ状態への移行を速やかに達成することができる。さらに揮発性還元剤は消費後、残りの揮発性還元剤が飛散することで、酸素検知部分の系外に排除されるため、揮発性還元剤消費後には、本発明の検知基材は通常の可逆性酸素検知剤と同様に扱うことができるのである。さらにまた、酸素検知インク組成物中の揮発性還元剤の含有量を増減する事で、還元状態の酸化還元色素が酸素と触れ合ってから発色するまでの遅れ時間を調整することができる。揮発性還元剤は20℃における蒸気圧が1hPa以上が好ましく、より好ましくは5hPa以上である。本発明で用いられる揮発性還元剤は、具体的には、アンモニア、チオール類、アルデヒド類、低分子アミン類が挙げられ、好ましくはアンモニアである。また、これらの物質を単独または2種以上の混合物として使用しても良い。
【0028】
揮発性還元剤の添加量は、インク組成物における還元能力の観点より、好ましくはインク組成物の0.1〜20重量%で、より好ましくは0.3〜15重量%、さらに好ましくは0.3〜13重量%である。また、揮発性還元剤がアンモニアの場合、バインダーにケトン樹脂を用いる組み合わせが、酸化還元色素をロイコ状態にする無色化反応の反応性の観点より、好ましい。さらに、揮発性還元剤としてのアンモニアとバインダーとしてのケトン樹脂の含有割合を適宜、調整することにより、インク組成物のpHを調整することができ、塗膜形成時にバインダーの相転移機能を駆使することで塗布面を透明もしくは不透明に制御することもできる。さらにまた、揮発性還元剤としてのアンモニアとバインダーとしてのケトン樹脂を使用し、その含有割合を適宜、調整することにより、従来のインク組成物がpH10.5以上で色素の還元をしているのに対し、従来技術の値よりも中性側(pH10程度以下)で色素還元することができ、そのため、耐光性機能を格段に向上することができるのである。
【0029】
本発明でいう不揮発性還元剤とは、主として検知時の可逆性を示すときに色素を無色化する役割を果たす。また、揮発性還元剤同様、酸化還元色素はロイコ状態での保存が安定であり、ロイコ状態を保持する役割をも果たすのである。本発明で用いられる不揮発性還元剤は、アスコルビン酸、エリソルビン酸やその塩、アスコルビン酸塩、D−アラビノース、D−エリスロース、D−ガラクトース、D−キシロース、D−グルコース、D−マンノース、D−フラクトース、D−ラクトースなどの還元糖、第一スズ塩、第一鉄塩等の金属塩、アルデヒド類、システイン等が使用でき、好ましくは還元糖、アスコルビン酸、システイン、アルデヒド類である。また、これらの物質を単独または2種以上の混合物として使用しても良い。本発明で使用される不揮発性還元剤は溶媒の種類によって溶解量が違うため、例えば、アルコール系の溶媒を用いた場合、還元糖の溶解量に限界があり、アルコールと水等の混合溶媒を使用した方が良い場合がある。不揮発性還元剤の添加量は、還元能力の観点および変色の可逆性のより、好ましくはインク組成物の0.1〜20重量%で、より好ましくは0.3〜15重量%、さらに好ましくは0.5〜10重量%である。
【0030】
本発明でいうアルカリ物質とは、可逆性を発現するアルカリ環境を作成する物質であり、例えば、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩、リン酸塩、ホウ酸塩等の水溶性化合物が挙げられ、含水物でも無水物でもよい。より具体的には、例えば、ホウ酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、水酸化リチウム、リン酸カリウム、水酸化バリウム、水酸化マグネシウム、リン酸カリウム等が挙げられ、好ましくは水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸水素ナトリウムである。また、これらの物質を単独または2種以上の混合物として使用しても良い。アルカリ物質の添加量はインク溶液のアルカリ環境および酸化還元色素の変色環境の観点より、インク組成物のpHが3〜10.5になるように添加するのが好ましい。より好ましくはインク組成物のpHが3.5〜10.3、さらに好ましくはpHが4.5〜10になるように添加するのが良い。
アルカリ物質の塩基性の強弱によって添加する量は変化するが、水酸化ナトリウムの場合、インク溶液の0.3〜15重量%が好ましく、より好ましくは0.5〜12重量%である。
【0031】
本発明でいう溶媒とは、酸素検知インク組成物を均一なものにする役割を果たす。具体的な溶媒としてアルコール類、ケトン類、エステル類、水等が挙げられ、これらの溶媒の単独組成物または混合組成物を溶媒として用いることができる。好ましくは塗布時の乾燥系の観点より、揮発性の溶媒が好ましい。
より好ましくは安全の観点よりアルコール類であり、例えば、エタノール、プロパノール、イソプロパノール(IPA)、ブタノール等が挙げられる。特に揮発性還元剤がアンモニアの場合、アンモニア水で使用されることおよび色素の溶解性の観点より水を使用した溶媒が好ましく、バインダーの溶解性、印刷時の乾燥性の観点より、水およびアルコールの混合物がより好ましい。
溶媒はインク組成物を構成する物質の溶解度、乾燥時間等の条件によって変化するが、イソプロパノール(IPA)の場合、インク組成物の35〜85重量%が好ましく、より好ましくは40〜80重量%である。
【0032】
本発明で用いられるインク組成物には通常用いられるpH緩衝剤、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、ソルビトールおよびエリトリトール等の保湿剤、脱酸素剤、等を含有しても良い。
本発明のインク組成物は、シートやフィルムに塗布することにより、環境変化を検知することができる検知基材を作製できる。該検知基材をラミネート等の加工するための原反として使用して、さらに別の基材と張り合わせをすることができたり、その原反を用いて、容器および袋に加工することができる。
【0033】
本発明でいう酸素検知とは、特定の酸素濃度を閾値として酸素の有無を検知することを示す。酸素検知部は、酸化還元色素、揮発性還元剤、不揮発性還元剤、アルカリ物質、バインダー、溶媒からなるインク組成物をシートやフィルムに塗布することにより形成され、酸素への暴露により色差変化等を起こして酸素の有無を示す機能を有する。塗布方法は公知の技術を用いることができる。例えば、該インク組成物を小さな液滴にして噴霧するスプレー法、メイヤーバー等を用いたバーコート法、グラビア、フレキソ、スクリーン、インクジェット等の印刷などである。塗布形状は基材の片面または両面にベタ印刷、文字印刷、パターン印刷、ドット印刷等を施しても良い。好ましくは後加工で裁断したり、製袋したりするため、パターン印刷やドット印刷がよい。
【0034】
本発明でいう基材とは、樹脂、紙、金属(金属箔を含む)等の枚葉体の面状の平板を示し、該基材に本発明のインク組成物を塗布することで検知基材とすることができる。また、本発明のインク組成物を塗布した検知基材に他の基材を貼合したものを原反と示し、該検知基材をそのまま、成型加工や製袋加工をしたり、他の基材等と貼合した該原反を成型加工や製袋加工をすることにより該検知基材または該原反から容器あるいは袋に加工することができる。
基材は、樹脂、紙、金属(金属箔を含む)より構成される単層または多層構成等が挙げられるが、面状でインク組成物を塗布することができれば支障はない。内容物が惣菜や弁当等の加工食品で、容器または袋をそのまま電子レンジによって加熱する場合には、電子レンジ内で電子の衝突によりスパークしてしまうことを防止する観点より基材の最外層が金属を含まない材質が好ましい。廃棄時の分別の観点より、容器または袋と同素材である樹脂製がより好ましい。また、原反を構成する少なくとも一方の基材はインク組成物の色を確認するため、透明であることが好ましい。本発明の基材の厚さは本発明のインク組成物を塗布することができればよく、安定的な塗布の観点より基材の厚さは2μm〜5mmが好ましく、より好ましくは7μm〜3mm、さらに好ましくは10μm〜1mmである。
【0035】
本発明でいう基材に使用される樹脂は、食品包装用途に用いられる樹脂であれば支障がない。例えば、ポリエチレン系樹脂(HDPE、LLDPE等)、ポリプロピレン系樹脂(PP)、ポリブテン−1系樹脂(PB)、ポリ−4−メチルペンテン−1系樹脂をはじめとするポリオレフィン系樹脂(PO)、又はエチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂(EVA)、エチレン−メチルメタアクリレート共重合体樹脂(EMA等)、エチレン−ビニルアルコール系共重合体樹脂(EVOH等)をはじめとするポリオレフィン系樹脂変性物(PO変性物)、ポリエチレンテレフタレート系(含変性)樹脂(PET等)、ポリブチレンテレフタレート系(含変性)樹脂(PBT等)をはじめとする芳香族成分を一部含む、又はポリ乳酸系樹脂、ポリグリコール酸系樹脂をはじめとする脂肪族成分のポリエステル系樹脂(PEST)、ポリ塩化ビニリデン系樹脂(PVDC)、ポリ塩化ビニル系樹脂(PVC)をはじめとする塩素系樹脂、αオレフィン−一酸化炭素共重合樹脂(含同水添樹脂)、αオレフィン(エチレン、他)−スチレン共重合樹脂(含同水添樹脂)、エチレン−環状炭化水素系化合物共重合樹脂(含同水添樹脂)、ポリアミド系樹脂(Ny)、カプロラクトン系樹脂等から少なくとも一種を主体として選択される樹脂組成物を単層もしくはこれらの多層またはこの層と異なる樹脂を積層させたもの、もしくはこれらの樹脂からなる延伸もしくは未延伸の基材が挙げられる。さらに、該インク組成物を塗布する観点や基材のブロッキングの観点より基材の表面エネルギーが34〜44mN/mであることが好ましく、より好ましくは36〜42mN/mであり、場合によってはコロナ処理等の表面処理をしてもよい。
【0036】
また、該検知基材と他基材とを張り合わせた原反は、酸素透過性を検知基材もしくは張り合わせする基材で制御し、検知速度や検知開始時間や検知時の発色速度挙動を制御してもよい。この場合、少なくとも一方の基材に特定の機能を有する基材を使用しても良い。特定の機能を有する基材としては、例えば、水蒸気バリアー、酸素バリアー樹脂およびその基材等が挙げられる。酸素検知基材として使用する場合、酸素検知部と空気との接触を制御するため、酸素ガスバリアー樹脂を用いても良い。
【0037】
本発明でいう酸素ガスバリアー性樹脂はガスバリアー性として酸素ガス透過量が1.0〜3948.0ml/m/day/MPaを有するものが好ましく、より好ましくは10.0〜2500.0ml/m/day/MPaを有するものであり、さらに好ましくは20.0〜1300.0ml/m/day/MPaを有するものである。さらにより好ましくは20.0〜300.0ml/m/day/MPa、を有するものである。
【0038】
本発明に用いられる酸素ガスバリアー基材層の厚さは、用いられる樹脂の酸素ガス透過量によって異なり、前述の酸素ガス透過量が1.0〜1974.0ml/m/day/MPaである厚さを確保することが好ましい。例えば、酸素ガス透過量を1000ml/m/day/MPa程度にする場合、12μmのポリエチレンテレフタレートを用いることで達成することができ、所望の酸素透過性を樹脂の種類やその構成厚みを調整することで達成することができる。
【0039】
脱酸素剤の袋に検知基材を導入する場合、例えば、脱酸素剤の酸素吸収が速いことが所望される場合、脱酸素剤の袋の一部を構成する検知基材を構成する基材は酸素透過が良いことが求められ、酸素ガス透過量が1000ml/m/day/MPa以上が好ましい。さらに酸素ガスに触れた時、速やかな色変化を求められる場合は、この基材フィルムに穴をあけても良く、その穴は例えば、電子線を用いて穴をあけたり、針のように機械的に穴をあけたり、いかなる公知の方法を用いても良い。また、例えば脱酸素剤のような基材に耐熱性が求められる場合、耐熱性を有するポリエチレンテレフタレートやナイロン等のフィルムを使用しても良く、酸素透過量が乏しい場合、上記のような方法で穴を開けて用いてもよい。さらに基材フィルムは商品性差別のため、公知の印刷方法でロゴ、メッセージ、製造年月日等の情報などを印刷しても良く、そのため、基材フィルムは視認性を確保できる程度の透明性を有することが好ましい。本発明のインク組成物以外の印刷は基材のどちらの面であっても良いが、好ましくは本発明のインク組成物の塗布面と同一面のほうが1回の多色印刷機械により印刷ができることやコスト面の観点より良い。さらに脱酸素剤の袋に検知基材を使用する場合、酸素透過性を改善して酸素検知速度を加速する方法として、上記のような基材フィルムに穴を開ける以外に、通気性フィルム、不織布または紙をシーラントポリエチレンの多層フィルムと貼合することで、脱酸素剤中に含有される物質の流失を防止、かつ、速い酸素検知反応性を確保することができる。さらにシーラントポリエチレンによってヒートシールも実現できる。
【0040】
本発明でいう検知基材もしくは張り合わせられる基材のどちらか一方が透明で、検知時の発色挙動および色調を確認できることが好ましい。検知時の変色を確認する時、他の商品との差別化するため、通常使用されるインクにて印刷等でデザインや検知時の色見本を印刷付与しても良いが、検知時の変色を確認するため、検知部は印刷を施さないもしくは変色を確認できる程度の可視性を持つ方が好ましい。例えば、ヘイズ(ASTM−D−1003に準拠)では10以下が好ましい。より好ましくは8以下、さらに好ましくは6以下である。
【0041】
本発明でいう貼合においては、公知の接着技術により検知基材と他の基材を張り合わせても良く、例えば、ドライまたはウェットのラミネーション方法、熱ラミネーション方法、樹脂溶融ラミネーション方法等が利用できる。
本発明の検知基材には、樹脂、紙、不織布等の他のいかなる基材を貼合しても良い。他の機能を有する基材を貼合することにより、遮光性を付与したり、UVカット性を付与することもできる。
本発明の酸素検知基材フィルムは粘着剤を塗布して、接着ラベル加工や帯状に裁断して接着テープ加工しても良い。このような接着加工することによって、包装体への導入がしやすくなる利点を有する。
【0042】
本発明の検知基材は、上記記載の食品包装関係(生鮮3品と呼ばれる鮮魚、生肉、生野菜)の他、例えば、スーパーマーケットやコンビニエンスストア等で販売される惣菜(煮物、焼き物、蒸し物、炒め物、弁当)以外にも密封空間内の酸素濃度の有無を確認する必要のあるところであればいずれの用途に使用しても良く、例えば、精密機械部品包装やネジ等の金属部品包装や電子基板等の電機部品包装の他、医薬品、化粧品等への使用が挙げられる。
【0043】
本発明のインク組成物を塗布した基材およびそのラミネート用基材を食品の腐敗を防止する目的で、包装体内を無気状態に保存したり、不活性ガス等を包装体内に置換する方法(ガス置換方法)に使用しても良い。
本発明でいうガス置換について説明する。本発明でいうガス置換とは密封容器内の空気を所望のガスに置換することを意味し、内容物の保存性向上や商品の色等に関する外観性等の効果が挙げられ、例えば、食品等を不活性ガス中に保持することによって、(ア)油脂成分の酸化防止、(イ)ビタミン等の有効成分の保存、(ウ)かびや菌類や酵母の繁殖による腐敗防止、(エ)色素の変色・退色防止、(オ)香気の飛散防止等に効果が得られる。また、更に炭酸ガス等の静菌作用を有するガスにて置換することで内容物の保存性をさらに向上することもできる場合がある。
【0044】
一般的にガス置換方法はチャンバー式、ガスフラッシュ式等が挙げられる。チャンバー式のガス置換方法とはチャンバー内部全体を一旦、真空状態に脱気し、そのままの状態で置換ガスを送り込みガス置換を行う方法であり、一般的にチャンバー式のガス置換はガス置換率が高く、確実にガス置換をすることができる特徴を有する。一方、ガスフラッシュ式のガス置換方法とは内容物を入れた容器内に置換ガスを直接フラッシュして、容器内の空気を置換ガスによって追い出すことによってガス置換を行う方法であり、その代表例としてガスパックシュリンクピロー包装がある。一般的にガスフラッシュ式はチャンバー式よりもガス置換率が低いといわれているがガスフラッシュ時間を調節することで所望のガス置換率が得られる。ガスフラッシュ式はチャンバー式に比べ設備的に安価であり、業者の設備投資コストを抑えることが可能である。本発明でいうガス置換方法は上記に挙げられたガス置換方法やその他の方法から、容器内の内容物(種類や形状)、包装スピード、設置スペース、ガス置換率等に応じて適宜選択すれば良い。また、包装体内に脱酸素剤を用いて無酸素包装したり、包装体内を所望のガスにて密封してガス置換包装する方法もあり、適宜選択すれば良い。
【0045】
本発明のインク組成物およびその塗布した物は従来技術にない耐アルコール性を有するため、食品の腐敗を防止するために包装体内に殺菌作用を有するアルコール類を使用しても良い。成分比率は、殺菌作用の効果から0.5%以上が好ましく、飽和蒸気状態まで含有していても良い。ここでいうアルコール類とは炭化水素の水素原子を水酸基で置換した形の化合物を示し、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール(IPA)、ブタノール等を示す。本発明のアルコール類は、食品安全の観点より、好ましくはエタノール、プロパノール、イソプロパノール(IPA)であり、より好ましくはエタノール、プロパノール、さらに好ましくはエタノールである。
本発明のインク組成物はアルコールを含有するショーミックスA5(商品名:昭和炭酸製)での使用も可能である。ショーミックスA5はアルコールを5%含有する炭酸ガスで、通常、窒素ガスと混合してガス置換包装に使用されるものである。
【実施例】
【0046】
<インク組成物の評価>
(1)インク組成物の作製
表1〜5に記載してある酸化還元色素、不揮発性還元剤、アルカリ物質、バインダー、溶媒をアンプル容器にて溶媒中に溶解させた。その後、アンプル容器を密封し、揮発性還元剤を注射器を使って前記の密封したアンプル容器にいれ、撹拌した。数時間後には色素の色は完全に消失し、無色のインク組成物となった。
【0047】
表中に記載の組成物は具体的には以下の通りである。
ケトン樹脂:Lawter社製ケトン樹脂(シクロヘキサノンとホルムアルデヒド縮合物)クランバール1717(商品名)
シェラック樹脂:岐阜シェラック社製天然樹脂(シェラック樹脂は樹脂酸およびアルコールのエステル化合物、Mw=7000)白シェラックGBN−D(商品名)
ニトロセルロース:akzo Nobel社製ニトロセルロース樹脂
還元糖:関東化学社製試薬D(+)−グルコース
ドライラミ接着剤:三井武田ケミカル社製ドライラミ接着剤A315(主剤)/A10(硬化剤)をメーカー推奨条件である固形分25%にて使用した。
その他化学物質は関東化学社製の化学物質を使用した。
【0048】
(2)印刷サンプルの作成
インク組成物の基材への印刷加工
前記(1)により調製したインク組成物を12μmの透明ポリエチレンテレフタレート樹脂フィルムに1cm間隔にドット(ドット大きさ直径3mmφ)柄でグラビア印刷機械を使用して印刷加工を行った。グラビア印刷機械は松尾産業株式会社製K303マルチコーターのグラビア印刷仕様にて使用した。
【0049】
(3)ガス置換密封包装体の作成
前記(2)により作成した印刷サンプルを脱酸素剤(ワンダーキープ社製脱酸素剤RP−200)とともにガスバリアー袋(旭化成パックス社製飛竜N−9)に入れ、乾燥窒素を充填し、ヒートシールにて密封した。なお、可逆性の確認実験では、空気中開放と上記密封を繰り返して行い、その印刷サンプルの変色挙動を目視で観察した。
1週間後のガス置換密封包装体内のガス組成はほぼ、窒素100%であった。
【0050】
(4)ガス置換密封包装体内空間の酸素、二酸化炭素組成比率測定
PBI Dansensor社製コンビチェック(商品名)酸素、二酸化炭素測定器を用いて20℃におけるガス置換密封包装体内空間の酸素および二酸化炭素組成比率(重量%)を測定した。また、窒素濃度は100重量%より酸素濃度および二酸化炭素濃度を差し引いて算出した。
【0051】
(5)耐光性評価1
20℃に調整した暗室で殺菌灯(ナショナル社製GL−20)を用い、30cmはなれたところよりサンプルに照射し、1日1回写真撮影し、各写真の色を比較して色があせてきたところを測定した。
(6)耐熱性評価1(インク組成物の耐熱性評価)
密封状態のインク組成物を50℃に調整した乾燥オーブン内に2週間放置し、その後、空気中に開放し、開放前後のインク組成物の変色を目視確認した。
(7)耐熱性評価2(インク組成物塗布品の耐熱性評価)
前記(3)で作成したガス置換密封包装体を50℃に調整した乾燥オーブン内に2週間放置し、その後、空気中に開放し、開放前後のインク組成物塗布品の発色状態を目視確認した。
【0052】
(8)酸化還元電位測定
北斗電工株式会社製サイクリックボルタンメトリーHX−105(商品名)を用いて、各色素1重量%水溶液での酸化還元電位を測定した。測定は20℃環境下で銀/塩化銀電極を用いた。挿引速度は50mV/sで−0.5Vから1.5Vまで挿引した。酸化還元電位はピーク値を用い、数ヶ所に酸化還元電位があるものは低電流側の値を用いた。
【0053】
[実施例1〜9]
インク組成物を12μmの透明ポリエチレンテレフタレート樹脂フィルムに1cm間隔にドット(ドット大きさ直径3mmφ)柄でグラビア印刷機械を使用して作成した。作成時に用いたインク組成物の組成について表1及び表2に示す。作成した印刷サンプルは酸素状態において良好な可逆性を示した他、従来品(比較例4)に比べ、耐熱性および耐光性において格段な機能向上が認められた。
【0054】
[比較例1〜4]
実施例にならって、表3に示した組成にてインク組成物および印刷サンプルの作製を行い、機能評価を行った。比較例1〜3は色変化の可逆性を発揮すると思われる重要物質に関わる実験であるが、これらの物質のうち1つでも添加しないものは色素の色変化を示さず、青のままであった。また、比較例4は従来の可逆性を示す組成であるが、可逆性を示すためにはインク組成物のpHが10.4とする必要があった。また、耐熱性および耐光性の機能が乏しく本発明の実施例とは格段に差があるものであった。
【0055】
<原反の評価>
(9)印刷サンプルの作成
(9−1)酸素検知インクのシートおよびフィルムへの印刷加工
表4及び表5に示すインク組成物を「(1)インク組成物の作製」と同様な方法で作製し、基材フィルムに1cm間隔にドット(ドット大きさ直径3mmφ)柄でグラビア印刷機械を使用して作成した。グラビア印刷機械は松尾産業株式会社製K303マルチコーターのグラビア印刷仕様にて使用した。
(9−2)検知シートおよびフィルムへのドライラミネート加工
前記(9−1)で作製した酸素検知インクが塗布されている基材フィルムを用い、ドライラミ剤をあらかじめ塗布・乾燥した表記載のフィルムおよび紙を酸素検知インクが塗布された面がフィルム間にはさまれるように重ね、ラミネーターの圧着ロールにて張り合わせた。ラミネート機械は松尾産業株式会社製K303マルチコーターのラミネーター仕様にて使用した。ラミネート時の温度は常温(23〜26℃)で行った。
【0056】
(10)消色時間測定
20℃に調整した部屋にサンプルを置き、30分毎に写真撮影し、写真の色を目視で確認しサンプルが透明になった時間を消色時間とした。
(11)発色時間測定
20℃に調整した部屋にサンプルを置き、30分毎に写真撮影し、各写真の色を目視で比較してサンプルの色変化がなくなったところを発色時間とした。
【0057】
(12)耐光性評価2
20℃に調整した部屋で蛍光灯を用いて600ルクスの状態にてサンプルを放置し、1日1回写真撮影し、各写真の色を比較して色があせてきたところを測定した。
(13)耐熱性評価3
作成した印刷加工した検知フィルムをポリプロピレンシート(厚さ120μm)にドライラミ加工し、その検知シートを100℃に調整した乾燥オーブン内に5分放置した(成形時の熱履歴相当)。その後、該ポリプロピレンシートをガス置換密封包装体を作成し、3日後にガス置換包装体内の該ポリプロピレンシートを目視で観察し、その後、空気中に開放し、色素が発色状態を再度、目視確認した。
【0058】
[実施例10〜18]
酸素検知インクを塗布した基材フィルムに表4及び5に記載のフィルムをドライラミネートし、そのドライラミネート加工した酸素検知基材シートを乾燥窒素ガスでガス置換包装し、その物性を確認した。結果は表4および5に示す。実施例10〜18はいずれも良好であった。
【0059】
[実施例19]
また、実施例18記載の酸素検知基材フィルムとシーラント層を有するサクラクラフト紙を表5記載のドライラミネート剤にて貼合し、脱酸素剤小袋用多層フィルムを作成した。その多層フィルムを用いて5cm×4cmの小袋をヒートシールにて作製し、その小袋内に実施例に使用したワンダーキープ高萩社製ワンダーキープRP200(商品名)に使用されている脱酸素剤組成物を移し変え、ヒートシールにて封緘した。作成した脱酸素剤の酸素検知インクの色は青であった。作成した脱酸素剤を実施例で用いたガスバリアー袋内に乾燥窒素とともに密封して、3日後の脱酸素剤の酸素検知インクの色を観察した。3日後の脱酸素剤の酸素検知インクの色は透明であった。その後、ガスバリアー袋を破袋し、空気中に暴露すると青色に変色して、酸素暴露を変色によって示すことができた。
【0060】
【表1】

【0061】
【表2】

【0062】
【表3】

【0063】
【表4】

【0064】
【表5】

【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明は、インク組成物であり、特に酸素の有無により可逆的に変化することができ、従来に比べ、格段に耐久性に優れるものである。また、本発明のインク組成物を基材に塗布することで検知基材をなし、その検知基材を含む容器、袋を作成することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化還元色素、揮発性還元剤、不揮発性還元剤、アルカリ物質、バインダー及び溶媒からなるインク組成物。
【請求項2】
バインダーが、シクロヘキサノン系ケトン樹脂またはアセトフェノン系ケトン樹脂を含むことを特徴とする請求項1に記載のインク組成物。
【請求項3】
酸化還元色素が、チアジン系色素、オキザリン系色素、ラクトン系色素、サルトン系色素、アゾ系色素、インジゴイド系色素、アントラキノン系色素、トリフェニルメタン系色素からなる群から選ばれた少なくとも1つの色素であることを特徴とする請求項1に記載のインク組成物。
【請求項4】
酸化還元色素の酸化還元電位が+0.1V以上、+1.5V以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のインク組成物。
【請求項5】
酸化還元色素が、メチレンブルー、チオニン、ブリリアントブルー、ファーストグリーン、インジゴカルミン、アミノブラックからなる群から選ばれた少なくとも1つの色素であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のインク組成物。
【請求項6】
揮発性還元剤が、アンモニア、チオール類、アルデヒド類、低分子アミン類からなる群から選ばれた少なくとも1つの還元剤であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のインク組成物。
【請求項7】
不揮発性還元剤が、還元糖、アスコルビン酸、システイン、アルデヒド類からなる群から選ばれた少なくとも1つの還元剤であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のインク組成物。
【請求項8】
アルカリ物質が、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸水素ナトリウムからなる群から選ばれた少なくとも1つの化合物からなることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のインク組成物。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載のインク組成物を塗布した検知基材。
【請求項10】
請求項9に記載の検知基材を含むことを特徴とする原反。
【請求項11】
請求項9に記載の検知基材または請求項10に記載の原反を用いて作製されたことを特徴とする容器。
【請求項12】
請求項9に記載の検知基材または請求項10に記載の原反を用いて作製されたことを特徴とする袋。

【公開番号】特開2008−69278(P2008−69278A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−249598(P2006−249598)
【出願日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】