説明

インク組成物

【課題】本発明は、色材が有する色相を損なうことなく、良好な耐光性を有する記録画像を実現でき、且つ目詰まり等の弊害を防止し、優れた印字品質を確保できるインク組成物の提供。
【解決手段】特定のアントラピリドン系染料と、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム銅(II)と、ベンゾトリアゾールと、アンモニアと、を含んでなるインク組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インク組成物、特に、色材が有する色相を損なうことなく、良好な耐光性を有する記録画像を実現でき、且つインクとしての信頼性を確保したインク組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、複数のカラーインク組成物を用いたインクジェット記録方法によってカラー画像を形成して記録物を得ることが行われている。一般に、カラー画像の形成は、イエローインク組成物、マゼンタインク組成物、およびシアンインク組成物の三色、さらに所望によりブラックインク組成物を加えた四色によって行われている。また、これらの四色に淡シアンインク組成物および淡マゼンタインク組成物を加えた六色またはそれらにさらにダークイエローインク組成物を加えた七色によってカラー画像形成を行なう場合もある。
【0003】
上述したカラー画像の形成に用いられるインク組成物には、各色のインク組成物自身が良好な発色性を有していることに加え、複数色のインク組成物を組み合わせたときに良好な中間色を発色することができること、および得られる記録物が保存中に変退色しないこと等が求められる。
【0004】
さらに最近、カラーインクジェットプリンターによる"写真画質"印刷においては、ヘッド、インク組成物、記録方法、およびメディアのそれぞれの継続的な改良がなされ、得られる画質は"銀塩写真"と遜色ないレベルとなり、"写真並"となった。この一方で、得られた画像の保存性に関しても、インク組成物及びメディアの改良により、特性向上が図られている。特に耐光性に関しては、実用上問題のないレベルまでの特性改良が行われている(特許文献1、2参照)が、銀塩写真と肩を並べるまでには至っていない。耐光性能力の評価に関しては、Y(イエロー)、M(マゼンタ)、C(シアン)のそれぞれの純色のパターン(光学濃度が1.0近傍)の退色率を指標に判断が行われているのが標準的である。現在市場で市販されているプリンターに搭載されているインク組成物の耐光性能力に関しては、上記評価手法を用いて判断した場合、マゼンタインク組成物の能力が最も低く、インクセットの耐光性寿命の律速となっているケースが多い。よって、マゼンタインク組成物の耐光性を改良することは、写真画像の耐光性向上及びインクセットの耐光性寿命の延長に効果的である。
【0005】
また、上記のようなインク組成物を用いて作成された印刷物は、室内は勿論のこと室外にも設置され、室内光だけでなく太陽光に晒される場合もあるため、優れた耐光性を有するインク組成物の開発が希求されている。
【0006】
例えば、耐光性に優れた着色剤としては、特許文献3に記載の化合物(アゾ系色素)および特許文献4に記載の化合物(アントラピリドン系色素)が提案されている。また、2種類の着色剤を組み合わせて使用した耐光性に優れたマゼンタインク組成物も提案されている(特許文献5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000‐290559号公報
【特許文献2】特開2001‐288392号公報
【特許文献3】特開2002‐371079号公報
【特許文献4】特開2002‐332419号公報
【特許文献5】特開2005‐105136号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、保存安定性に優れ、良好な耐光性を有する記録画像を実現できるインク組成物については、本発明者等の知る限り、これまでにまったく知られていない。
したがって、本発明は、保存安定性に優れ、良好な耐光性を有する記録画像を実現できるインク組成物の提供をその目的としている。前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(適用例1)下記式(I)で表されるアントラピリドン系染料と、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム銅(II)と、ベンゾトリアゾールと、アンモニアと、を含んでなるインク組成物。
【0010】
【化1】

(式中、M1は、水素原子、NH4、またはNaを表し、R1は、水素原子、置換されてもよいアルキル基、置換されてもよいアリール基、または置換されてもよいベンゾイル基を表し、R2は、水素原子または置換されてもよいアルキル基を表し、R3は、水素原子、ハロゲン原子、または置換されてもよいアルキル基を表し、R4は、水素原子、置換されてもよいNH4、または置換されてもよいスルホン酸基を表し、R5はアシル基または下記式(II)を表す。)
【0011】
【化2】

(式中、XおよびYは、それぞれ独立して、塩素原子、水酸基、アミノ基、モノエタノールアミノ基、ジエタノールアミノ基、モルホリノ基、アニリノ基、フェノール基を表し、これらの基は、各々水素原子の部分が一種または二種以上の置換基により置換されていてもよい。)
【0012】
(適用例2)前記アントラピリドン系染料が下記式(III)で表される化合物である、適用例1に記載のインク組成物。
【0013】
【化3】

(式中、M2は、水素原子、NH4、またはNaを表し、R6は、水素原子、置換されてもよいアルキル基、置換されてもよいアリール基、または置換されてもよいベンゾイル基を表し、R7は、水素原子または置換されてもよいアルキル基を表し、R8は、水素原子、ハロゲン原子、または置換されてもよいアルキル基を表し、R9は、水素原子、置換されてもよいNH4、または置換されてもよいスルホン酸基を表す。さらにAは、アルキレン基、フェニレン基を含有するアルキレン基、または下記式(IV)で表される基を表す。さらにZは、塩素原子、水酸基、アミノ基、モノエタノールアミノ基、ジエタノールアミノ基、モルホリノ基、アニリノ基、フェノール基を表し、これらの基は、各々水素原子の部分が一種または二種以上の置換基により置換されていてもよい。)
【0014】
【化4】

(式中、R10は水素原子またはアルキル基を表す。)
【0015】
(適用例3)前記アントラピリドン系染料が下記式(V)で表される化合物である、適用例1または2に記載のインク組成物。
【0016】
【化5】

(式中、M3は、水素原子、NH4、またはNaを表し、Bはアルキレン基を表し、nは1または2を表す。)
【0017】
(適用例4)前記アンモニアの含有量と、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム銅(II)の含有量とのモル比が、55:1〜550:1の範囲内であり、かつ、前記アンモニアの含有量と、前記ベンゾトリアゾールの含有量とのモル比が、700:1〜7000:1の範囲内である、請求項1〜3のいずれか一例に記載のインク組成物。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明によるインク組成物は、上記式(I)で表されるアントラピリドン系染料と、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム銅(II)と、ベンゾトリアゾールと、アンモニアを含んでなるインク組成物である。以下、本発明によるインク組成物および該インク組成物に含まれる各成分について説明する。
【0019】
<アントラピリドン系染料>
本発明のインク組成物には、上記式(I)で表されるアントラピリドン系染料が含まれる。
【0020】
本発明の好ましいアントラピリドン系染料の化合物群としては、M1がNH4またはNaを表し、R1が置換されてもよいベンゾイル基(好ましくは、スルホン酸基(このスルホン酸基はNH4またはNaで置換されていてもよい)で置換されたベンゾイル基)を表し、R2が置換されてもよいアルキル基(好ましくは、炭素数1〜3のアルキル基、さらに好ましくはメチル基)を表し、R3が水素原子を表し、R4が置換されてもよいスルホン酸基(好ましくは、NH4またはNaで置換されたスルホン酸基)を表し、R5が上記式(II)(好ましくは、式(II)中、XおよびYが、それぞれ独立して、アミノ基、アニリノ基、フェノール基(さらに好しくは、カルボキシル基(このカルボキシル基はNH4またはNaで置換されていてもよい)で置換されたフェノール基)を表し、これらの基は、各々水素原子の部分が一種または二種以上の置換基により置換されていてもよい)を表す化合物群が挙げられる。
【0021】
本発明の好ましい態様によれば、上記式(I)中、M1がNH4である化合物と、M1がNaである化合物とを混合したアントラピリドン系染料を含むインク組成物であることが好ましく、上記式(I)中、(M1がNH4である化合物):(M1がNaである化合物)=6:4〜8:2の含有量比(モル比)で混合されたアントラピリドン系染料を含むインク組成物であることがより好ましく、上記式(I)中、(M1がNH4である化合物):(M1がNaである化合物)=7:3の含有量比(モル比)で混合されたアントラピリドン系染料を含むインク組成物であることがさらにより好ましい。
【0022】
上記式(I)で表されるアントラピリドン系染料の好ましい態様として、下記式(III)で表される化合物が挙げられる。
【0023】
【化6】

(式中、M2は、水素原子、NH4、またはNaを表し、R6は、水素原子、置換されてもよいアルキル基、置換されてもよいアリール基、または置換されてもよいベンゾイル基を表し、R7は、水素原子または置換されてもよいアルキル基を表し、R8は、水素原子、ハロゲン原子、または置換されてもよいアルキル基を表し、R9は、水素原子、置換されてもよいNH4、または置換されてもよいスルホン酸基を表し、さらにAは、アルキレン基、フェニレン基を含有するアルキレン基、または下記式(IV)で表される基を表す。さらにZは、塩素原子、水酸基、アミノ基、モノエタノールアミノ基、ジエタノールアミノ基、モルホリノ基、アニリノ基、フェノール基を表し、これらの基は、各々水素原子の部分が一種または二種以上の置換基により置換されていてもよい。)
【0024】
【化7】

(R10は水素原子またはアルキル基を表す。)
【0025】
本発明の好ましいアントラピリドン系染料の化合物群としては、M2がNH4またはNaを表し、R6が置換されてもよいベンゾイル基(好ましくは、スルホン酸基(このスルホン酸基はNH4またはNaで置換されていてもよい)で置換されたベンゾイル基)を表し、R7が置換されてもよいアルキル基(好ましくは、炭素数1〜3のアルキル基、さらに好ましくはメチル基)を表し、R8が水素原子を表し、R9が置換されてもよいスルホン酸基(好ましくは、NH4またはNaで置換されたスルホン酸基)をAがアルキレン基または上記式(IV)(好ましくは、R10が水素原子を表す)表し、Zがアミノ基またはフェノール基(さらに好しくは、カルボキシル基(このカルボキシル基はNH4またはNaで置換されていてもよい)で置換されたフェノール基)を表す化合物群が挙げられる。
【0026】
本発明の好ましい態様によれば、上記式(III)中、M2がNH4である化合物と、M2がNaである化合物を混合したアントラピリドン系染料を含むインク組成物であることが好ましく、上記式(III)中、(M2がNH4である化合物):(M2がNaである化合物)=6:4〜8:2の含有量比(モル比)で混合されたアントラピリドン系染料を含むインク組成物であることがより好ましく、上記式(III)中、(M2がNH4である化合物):(M2がNaである化合物)=7:3の含有量比(モル比)で混合されたアントラピリドン系染料を含むインク組成物であることがさらに一層好ましい。
【0027】
上記式(I)または(III)で表されるアントラピリドン系染料のより好ましい態様として、下記式(V)で表される化合物が挙げられる。
【0028】
【化8】

(式中、M3は、水素原子、NH4、またはNaを表し、Bはアルキレン基を表し、nは1または2を表す。)
【0029】
本発明の好ましいアントラピリドン系染料の化合物群としては、M3がNH4またはNaを表し、Bがアルキレン基(好ましくは、エチレン基)を表し、n=2である化合物群が挙げられる。
【0030】
本発明の好ましい態様によれば、上記式(V)中、M3がNH4である化合物と、M3がNaである化合物を混合したアントラピリドン系染料を含むインク組成物であることが好ましく、上記式(V)中、(M3がNH4である化合物):(M3がNaである化合物)=6:4〜8:2の含有量比(モル比)で混合されたアントラピリドン系染料を含むインク組成物であることがより好ましく、上記式(V)中、(M3がNH4である化合物):(M3がNaである化合物)=7:3の含有量比(モル比)で混合されたアントラピリドン系染料を含むインク組成物であることがさらに一層好ましい。
【0031】
また、上記式(III)で表されるアントラピリドン系染料のより一層好ましい態様として、下記式(VI)で表される化合物が挙げられる。
【0032】
【化9】

(式中、M4が、水素原子、NH4、またはNaを表す。)
【0033】
また、上記式(VI)で表されるアントラピリドン系染料の好ましい態様によれば、上記式(VI)中、M4がNH4である化合物と、M4がNaである化合物を混合したアントラピリドン系染料を含むインク組成物であることが好ましく、上記式(VI)中、(M4がNH4である化合物):(M4がNaである化合物)=6:4〜8:2の含有量比(モル比)で混合されたアントラピリドン系染料を含むインク組成物であることがより好ましく、上記式(VI)中、(M4がNH4である化合物):(M4がNaである化合物)=7:3の含有量比(モル比)で混合されたアントラピリドン系染料を含むインク組成物であることがさらに一層好ましい。
【0034】
また、上記式(V)で表されるアントラピリドン系染料のより一層好ましい態様として、下記式(VII)で表される化合物が挙げられる。
【0035】
【化10】

(式中、M5が、水素原子、NH4、またはNaを表す。)
【0036】
さらに、上記式(VII)で表されるアントラピリドン系染料の好ましい態様によれば、上記式(VII)中、M5がNH4である化合物と、M5がNaである化合物を混合したアントラピリドン系染料を含むインク組成物であることが好ましく、上記式(VII)中、(M5がNH4である化合物):(M5がNaである化合物)=6:4〜8:2の含有量比(モル比)で混合されたアントラピリドン系染料を含むインク組成物であることがより好ましく、上記式(VI)中、(M5がNH4である化合物):(M5がNaである化合物)=7:3の含有量比(モル比)で混合されたアントラピリドン系染料を含むインク組成物であることがさらに一層好ましい。
【0037】
上記アントラピリドン系染料の含有量は、色材が有する色相を損なうことなく、良好な耐光性を有する記録画像を実現できる限り特に限定されないが、インク組成物に対して、好ましくは1〜10質量%、さらに好ましくは5〜8質量%の範囲内である。この範囲とすることにより、発色性と耐光性とが両立した記録画像を実現できる。
【0038】
本発明のインク組成物中に含まれる上記のアントラピリドン系染料の含有量は、色材が有する色相を損なうことなく、良好な耐光性を有する記録画像を実現できる限り特に限定されないが、好ましくは、上記アントラピリドン系染料の含有量と、下記の水に可溶な銅化合物の含有量との比が、1:1〜100:1の範囲内であり、より好ましくは、2:1〜80:1の範囲内であり、さらに好ましくは、3:1〜32:1の範囲内である。この範囲とすることにより、色材が有する色相を損なうことなく、良好な耐光性を有する記録画像を実現できる。
【0039】
<エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム銅II)>
本発明のインク組成物には、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム銅(II)が含まれる。この化合物は、銅のキレート能力が他の銅化合物に比べて極めて高いため、銅由来の異物を最小限に抑えることができ、目詰まり等の弊害を防止し、優れた印字品質を確保できる。この化合物を本発明のインク組成物に含めることにより、色材が有する色相を損なうことなく、良好な耐光性を有する記録画像を実現でき、且つ目詰まり等の弊害を防止し、優れた印字品質を確保できる。
【0040】
本発明において、インク組成物中に含まれるエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム銅(II)の含有量は、インク組成物中に対して、0.05〜5質量%含まれることが好ましく、0.1〜4質量%含まれることがさらに好ましい。この範囲とすることにより、色材が有する色相を損なうことなく、良好な耐光性を有する記録画像を実現できる。
【0041】
<アンモニア>
本発明のインク組成物には、異物抑制剤としてアンモニアが含まれる。アンモニアは、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム銅(II)と防錆剤のベンゾとリアゾールとの反応を阻害し、異物の発生を抑えることができ、目詰まり等の弊害を防止し、優れた印字品質を確保できる。
【0042】
本発明において、インク組成物中に含まれるアンモニアの含有量と、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム銅(II)の含有量とのモル比が、55:1〜550:1の範囲内であり、かつ、前記アンモニアと、前記ベンゾトリアゾールの含有量とのモル比が、700:1〜7000:1の範囲内である。この範囲とすることにより、異物の発生を抑えることができ、目詰まり等の弊害を防止し、優れた印字品質を確保できる。
【0043】
<水、水溶性有機溶剤、およびその他の任意の成分>
本発明によるインク組成物は、水のみ、または水と水溶性有機溶剤とからなる水性媒体中に、上記式(I)で表されるアントラピリドン系染料を含有し、必要に応じ、保湿剤、界面活性剤、浸透促進剤、粘度調整剤、pH調整剤、およびその他の添加剤を含有させたものとすることができる。
【0044】
本発明におけるインク組成物は、上述したアントラピリドン系染料を適当な溶媒に溶解して得ることができる。上記インク組成物おいて色材を溶解するための溶媒としては、水、または水と水溶性有機溶剤との混合液を主溶媒として用いることが好ましい。水としては、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、蒸留水等を用いることができる。また、長期保存の観点から、紫外線照射や過酸化水素添加などの各種化学滅菌処理を施した水を用いることが好ましい。本発明のインク組成物における水の含有量は、インク組成物の40〜90質量%であることが好ましく、50〜80質量%であることがさらに好ましい。
【0045】
本発明におけるインク組成物は、上述のとおり、溶媒として水とともに水溶性有機溶剤を用いることができる。この水溶性有機溶剤としては、染料を溶解する能力を有するものが好ましく、かつ蒸気圧が純水よりも小さいものが好ましい。
【0046】
本発明において用いる水溶性有機溶剤としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、2−ブテン−1,4−ジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、グリセリン、1,2,6−ヘキサントリオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール等の多価アルコール類、アセトニルアセトン等のケトン類、γ−ブチロラクトン、リン酸トリエチル等のエステル類、フルフリルアルコール、テトラヒドロフルフリルアルコール、チオジグリコール等が好ましいが、これらに限定されるものではない。水とともに水溶性有機溶剤をインク組成物の溶媒として用いることによって、インクヘッドからのインク組成物の吐出安定性を向上させること、および他の特性をほとんど変化させずにインク組成物の粘度を下げる等の調節を容易に行うことができる。
【0047】
また、糖質を保湿剤として、本発明のインク組成物に含有させることができる。インク組成物に糖質を含有させることにより、インクを保湿することができる。本発明に用いる糖類としては、マルチトール、ソルビトール、グルコノラクトン、マルトース等が好ましい。なお、上述した水溶性有機溶剤も保湿剤として働く場合がある。
【0048】
上記水溶性有機溶剤および/または保湿剤は合計で、インク組成物中に5〜50質量%、さらに好ましくは5〜30質量%、特に好ましくは5〜20質量%含有させることができる。これらの含有量を5質量%以上にすることによって良好なインクの保湿性が得られ、かつ50質量%以下にすることによって、インク組成物の粘度をインクジェット記録方法に用いるための好ましい粘度に調製することができる。
【0049】
本発明のインク組成物に含まれる界面活性剤としては、特に限定されないが、ノニオン系界面活性剤が好ましい。ノニオン系界面活性剤をインク組成物に添加することによって、インク組成物の記録媒体への浸透性が優れたものになり、印刷時にインク組成物が記録媒体上に速やかに定着されうる。さらに、記録媒体上にインク組成物によって記録された一つのドットができるだけ真円に近いことが好ましいが、ノニオン系界面活性剤をインク組成物中に含有させることにより、1ドットによって形成される像の真円度を高めることができ、得られる画像の画質を向上できるという効果が得られる。
【0050】
本発明に用いることのできるノニオン系界面活性剤としては、例えば、アセチレングリコール系界面活性剤が挙げられる。アセチレングリコール系界面活性剤として、具体的には、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、3,6−ジメチル−4−オクチン−3,6−ジオール、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3オール、2,4−ジメチル−5−ヘキシン−3−オール等が挙げられる。その添加量は好ましくは0.1〜5質量%、更に好ましくは0.5〜3質量%である。添加量を0.1質量%以上とすることで、十分な浸透性を得ることができ、また、5質量%以下とすることで、画像のにじみの発生を防止し易い。
なお、上記の界面活性剤は市販品を用いることが可能であり、例えば、アセチレングリコール系界面活性剤として、サーフィノール61、82、104、440、465、485(何れも商品名、エア・プロダクツ・アンド・ケミカルズ社製)、オルフィンE1010、オルフィンPD001、オルフィンSTG(以上、日信化学工業(株)製、商品名)等を用いることが可能である。
【0051】
さらに、ノニオン系界面活性剤に加えて、浸透促進剤として、グリコールエーテル類をインク組成物に添加することにより、記録媒体に対するインク組成物の浸透性が向上するとともに、カラー印刷を行った場合に隣り合うカラーインク同士の境界において、インクのブリード(ブリーディング)が減少し、非常に鮮明な画像を得ることができる。したがって、本発明のインク組成物には浸透促進剤を添加することが好ましい。
【0052】
浸透促進剤として本発明に用いる上記グリコールエーテル類としては、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル等が好ましいが、これらに限定されるものではない。これらのグリコールエーテル類は、インク組成物中に3〜30質量%、さらに好ましくは5〜15質量%含まれることが好ましい。グリコールエーテル類の添加量を3質量%以上にすることにより、カラー印刷時の隣り合うインク間のブリード(ブリーディング)を有効に防止でき、さらにこの添加量を30質量%以下にすることにより、画像のにじみが発生することを防止しやすくなり、かつインクの保存安定性を高めることができる。
【0053】
さらに、本発明におけるインク組成物には、トリエタノールアミンやアルカリ金属水酸化物等のpH調整剤、アルギン酸ナトリウム等の水溶性ポリマー、水溶性樹脂、フッ素系界面活性剤、防腐剤、防カビ剤、防錆剤、溶解助剤、酸化防止剤、および紫外線吸収剤等から選ばれる材料を所望により添加することができる。これらの成分は、各種別に一種または二種以上を混合して用いることができる。また、添加する必要がなければ添加しなくてもよい。当業者は本発明の効果を損なわない範囲で、選択された好ましい添加剤を好ましい量で用いることができる。なお、上記溶解助剤とは、インク組成物から不溶物が析出する場合に、その不溶物を溶解し、インク組成物を均一な溶液に保つための添加剤である。
【0054】
上記溶解助剤としては、N−メチル−2−ピロリドン、2−ピロリドンなどのピロリドン類、尿素、チオ尿素、テトラメチル尿素などの尿素類、アロハネート、メチルアロハネート等のアロハネート類、ビウレット、ジメチルビウレット、テトラメチルビウレットなどのビウレット類などを挙げることができるが、これらに限定されない。また、上記酸化防止剤の例としては、L−アスコルビン酸およびその塩類等が例示できるが、これらに限定されない。
【0055】
上記防腐剤または防カビ剤としては、例えば、安息香酸ナトリウム、ペンタクロロフェノールナトリウム、2−ピリジンチオール−1−オキサイドナトリウム、ソルビン酸ナトリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、および1,2−ジベンジソチアゾリン−3−オン(AVECIA社のプロキセルCRL、プロキセルBDN、プロキセルGXL、プロキセルXL−2、およびプロキセルTN(以上、商品名)等を例示できるが、これらに限定されない。
【0056】
上記pH調整剤しては、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、プロパノールアミン、モルホリン等のアミン類およびそれらの変性物、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウムなどの金属水酸化物、水酸化アンモニウム、四級アンモニウム水酸化物(テトラメチルアンモニウム等)等のアンモニウム塩、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸リチウムなどの炭酸塩類その他燐酸塩類などが例示できるがこれらに限定されない。
【0057】
本発明のインク組成物は、上述した成分から適宜選ばれた成分を含んで調製されるが、得られるインク組成物の粘度が20℃において10mPa・s未満であることが好ましい。さらに、本発明においてはインク組成物の表面張力を20℃において45mN/m以下にすることが好ましく、25〜45mN/mの範囲にすることが特に好ましい。粘度および表面張力をこのように調整することによって、インクジェット記録方法に用いるために好ましい特性を有するインク組成物を得ることができる。この粘度および表面張力の調整は、インク組成物に含有させる溶剤および各種添加剤の添加量、並びにそれらの種類等を適宜調節および選択することによって行うことができる。
【0058】
本発明におけるインク組成物の調製方法としては、例えば、インク組成物に含有される各種成分を充分に混合してできるだけ均一に溶解した後、孔径0.8μmのメンブランフィルターで加圧濾過し、さらに得られた溶液を、真空ポンプを用いて脱気処理して調製する方法が例示できるが、これに限定されない。
【実施例】
【0059】
以下、実施例によって本発明をより詳細に説明するが、これら実施例により本発明が限定されるものではない。
【0060】
<インク組成物の調製>
下記表1の組成からなるインク組成物を常温にて1時間攪拌した後、0.8μmのメンブランフィルターで濾過して、各インク組成物を得た。なお、下記表1中の数値はインク中の含有量(質量%)を表す。また、表1中の化合物A、B、およびCは、それぞれ、下記式により表される化合物であり、下記式中、M=NH4である化合物と、M=Naである化合物とを7:3の割合(モル比)で混合したものである。
【0061】
【化11】

【0062】
【化12】

【0063】
【化13】

【0064】
【表1】

【0065】
これらのインク組成物について以下の評価を行った。結果を表2に示す。
【0066】
(保存安定性評価)
インク組成物(例1〜12のインク組成物)を真空ポンプで減圧脱気した後、インクパックに詰め、70℃の環境下で6日間放置した。例1〜6、7及び8の「アンモニアを添加したインク組成物」は、減圧脱気によりインク組成物中のアンモニア含有量が減少しないように、減圧脱気後に添加を行った。高温放置後、パック内のインク組成物10mlを10μmの金属フィルターにて濾過した。金属フィルター上に濾集された異物量と濾過の状況により、保存安定性を下記の判定基準で評価した。
A:異物が全く濾集されない。
B:若干の異物が濾集されるが、10mlのインクの濾過が可能であった。
C:多少の異物が濾集されるが、10mlのインクの濾過が可能であった。
D:かなりの異物が濾集されるが、10mlのインクの濾過が可能であった。
E:異物が山積みされ目詰まりを起こし、10mlのインクを濾過することができなかった。
【0067】
(耐光性評価)
(1)評価サンプルの作成
上記の様にして得られたインク組成物をインクジェットプリンター(商品名「PM−A700」、セイコーエプソン株式会社製)の専用カートリッジのインク室にそれぞれ充填した。そして、インクカートリッジを当該プリンターに装着し、写真用紙クリスピア(登録商標)(商品名、型番「KA450SCKR」、セイコーエプソン株式会社製)に対してベタパターン画像の記録を行い、評価サンプルを得た。ベタパターン画像の記録は、得られた画像のOD(Optical Density)が1.0となるようにDutyを調整して行った。
【0068】
(2)耐光性の評価試験
上記のようにして得られた評価サンプルを室温下で暗所に1日静置した。その後、評価サンプルをXenon耐光性試験機XL−75s(商品名:(株)スガ試験機製)に設置して、23℃相対湿度50%RH、照度75000luxの条件で、14日間の曝露試験を行った。
【0069】
そして、分光測光器Spectrolino(商品名、GretagMacbeth社製)を使用して、サンプルに記録された画像の光照射前後のOD値を測定した。OD値の測定は、光源がD50、光源フィルターなし、絶対白を白色標準として、視野角2°で行った。
【0070】
なお、耐光性の評価は、得られた測定値(OD値)から、光照射後の各記録物の画像の光学濃度残存率(Relict Optical Density:ROD)求めることにより行った。RODの算出方法は、「ROD(%)=(Dn/Do)×100(式中、Dnは光照射試験終了後の画像のOD値、Doは光照射試験開始前の画像のOD値)」である。RODの値が高いほど、光照射による画像の劣化が少ないことを示す。
【0071】
耐光性の評価基準は、以下の通りである。評価基準のうち「A」および「B」であると、実用上使用できる程度の耐光性を有すると判断できる。評価結果を表30に併せて示す。
【0072】
「A」:RODが90%以上。
「B」:RODが75%以上90%未満。
「C」:RODが60%以上75%未満。
「D」:RODが60%未満。
【0073】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)で表されるアントラピリドン系染料と、
エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム銅(II)と、
ベンゾトリアゾールと、
アンモニアと、を含んでなるインク組成物。
【化1】

(式中、M1は、水素原子、NH4、またはNaを表し、R1は、水素原子、置換されてもよいアルキル基、置換されてもよいアリール基、または置換されてもよいベンゾイル基を表し、R2は、水素原子または置換されてもよいアルキル基を表し、R3は、水素原子、ハロゲン原子、または置換されてもよいアルキル基を表し、R4は、水素原子、置換されてもよいNH4、または置換されてもよいスルホン酸基を表し、R5はアシル基または下記式(II)を表す。)
【化2】

(式中、XおよびYは、それぞれ独立して、塩素原子、水酸基、アミノ基、モノエタノールアミノ基、ジエタノールアミノ基、モルホリノ基、アニリノ基、フェノール基を表し、これらの基は、各々水素原子の部分が一種または二種以上の置換基により置換されていてもよい。)
【請求項2】
前記アントラピリドン系染料が下記式(III)で表される化合物である、請求項1に記載のインク組成物。
【化3】

(式中、M2は、水素原子、NH4、またはNaを表し、R6は、水素原子、置換されてもよいアルキル基、置換されてもよいアリール基、または置換されてもよいベンゾイル基を表し、R7は、水素原子または置換されてもよいアルキル基を表し、R8は、水素原子、ハロゲン原子、または置換されてもよいアルキル基を表し、R9は、水素原子、置換されてもよいNH4、または置換されてもよいスルホン酸基を表す。さらにAは、アルキレン基、フェニレン基を含有するアルキレン基、または下記式(IV)で表される基を表す。さらにZは、塩素原子、水酸基、アミノ基、モノエタノールアミノ基、ジエタノールアミノ基、モルホリノ基、アニリノ基、フェノール基を表し、これらの基は、各々水素原子の部分が一種または二種以上の置換基により置換されていてもよい。)
【化4】

(式中、R10は水素原子またはアルキル基を表す。)
【請求項3】
前記アントラピリドン系染料が下記式(V)で表される化合物である、請求項1または2に記載のインク組成物:
【化5】

(式中、M3は、水素原子、NH4、またはNaを表し、Bはアルキレン基を表し、nは1または2を表す。)
【請求項4】
前記アンモニアの含有量と、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム銅(II)の含有量とのモル比が、55:1〜550:1の範囲内であり、かつ、前記アンモニアの含有量と、前記ベンゾトリアゾールの含有量とのモル比が、700:1〜7000:1の範囲内である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のインク組成物。

【公開番号】特開2013−112811(P2013−112811A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−263447(P2011−263447)
【出願日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】