説明

インサイダー無落融雪建築工法

【課題】無落雪屋根に関する建築工法において、スノーダクトが建物内部上層に存在することにより、結氷や「すが洩れ」から生ずる溢水による建物内部に対する浸水被害から家屋内装・調度品の損傷を防ぐと共に、入所者の心理的な不安・圧迫感を取り除くこと。
【解決手段】建物の外画線の外側にスノーダクトを装備し、屋根裏空間もしくは屋内空間またはその双方とスノーダクト周辺空間とを連通一体とすることにより、課題の解決が可能となるインサイダー無落融雪の建築工法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積雪寒冷地域における住宅等建築物の屋根上の積雪を減少させるとともに、いわゆる無落雪屋根構造を採用する建物内における家財の安全や居住者の安心を図ることが出来る建築工法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、積雪寒冷地域における住宅等建築物の屋根上の積雪を減少させる方策として、無落雪屋根の構造があり、安全安心な建築物を供給する目的として、工場生産により施工精度のバラツキを回避する考え方のユニット住宅という建築工法がある。
【特許文献1】特開平7−102826号公報
【0003】
また、屋根上の積雪を減少させる他の工法として、屋根を水平にすることによりパラペットの高さを抑え込み、屋根上の積雪と因果関係にある乱気流の発生に工夫した考案が存在する。
【特許文献2】特開2004−36238号公報
【0004】
また、無落雪屋根の安全安心を図るため、スノーダクトに接続される排水ダクトにオーバーフロー管を追装する考案や、いわゆる「すが洩れ」現象を防ぐためスノーダクトの樋底部に全長に渡って均一に加熱する手段が講じられた考案が存在する。
【特許文献3】特開2003−138700号公報
【特許文献4】特開平8−284343号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のような特開平7−102826号公報による工場生産により施工精度のバラツキを回避するユニット住宅という建築工法は、現代における多種多様な建築のニーズに応えるあり方とはいえず、抜本的な課題解決には至らなかった。
【0006】
次に、屋根を水平にする特開2004−36238号公報による建築工法は、水平な板状構造体と防水シートとの組み合わせであることから、屋内に対する漏水の不安除去は完全なものではなく、さらには排水パイプの一部又は全部が建物の内部を通過する関係で万一の漏水による家財の安全や心理的な不安を取り除く建築工法とは言えなかった。
【0007】
更に、特開2003−138700号公報による、オーバーフロー管を追装する考案は、その管自体が凍結する事態が発生する危険があり、特開平8−284343号公報によるスノーダクトの樋底部に全長に渡って均一に加熱して「すが洩れ」現象を防ぐ工法は、エネルギーやコストの課題が存在するなど、一応の対策としては有効であるが、ともに抜本的な課題解決には至らなかった。
【0008】
本発明は、上記の種々な問題点に鑑み、無落雪屋根に必要なスノーダクト及び排水パイプを建物外画線(建物の内外を区分するライン)の外側に配置しながら、本来の無落雪屋根のもつ非積雪の効用と家屋自体が持つ自働熱による自然融雪を同時に実現することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題は、建物の外画線外側にスノーダクトを装備し、屋根裏空間もしくは屋内空間またはその双方とスノーダクト周辺空間を連通一体に構成して施工する建築工法を提供することにより解決される。
【発明の効果】
【0010】
上記の発明を実施することにより、当然ながらスノーダクトは建物の外部に存在することになり、屋根から流れ落ちる融雪による流水や降雨時の雨水は、天井上部や建物内上部に集水もしくは貯水されることはないので、万が一の溢水や、すが洩れが発生しても天井裏や屋内に浸水することはなく、内装や家具調度品の安全が確保できるとともに、建物上部に流水経路が存在することによる無落雪建築の導入不安や入所者の精神的な圧迫を払拭することが可能となる。ゆえに、これまで無落雪屋根の有用性は認められながらも普及がさほど進展しなかった要因が取り除かれることになり、その普及に弾みがかかり経済的波及効果は大きい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
次に、本発明の一実施例を図面に基づいて説明する。
【実施例】
【0012】
図1は、本発明の一実施例を示す建物の断面図であり、スノーダクト1を建物外画線2の外側つまり外壁3の外側に装備してあり、この実施例では建物から横に突き出した梁4などの強固な横架材に載架したものである。パラペット5、軒天6、屋根9及びスノーダクト1の本体外周面などで構成されるダクト周辺空間7は建物の天井裏空間8と連通一体に構成する事により、建物自体が持つ自働熱と天井裏空間8の持つ摂氏0度以上の熱が屋根9とスノーダクト1に同時に伝わり、屋根9上に積雪した雪10を屋根9の接面から徐々に融かし、融かされた水は屋根勾配によりスノーダクト1に流下する。スノーダクト1に流下した水は排水パイプ11内部を伝って落下し処理されるが、この実施例の場合、パラペット5と出面を同一にし、排水パイプ11と平行に建物から張り出した袖囲い12に囲われており、排水パイプ11の凍結を防ぐよう構成してある。また、軒天6は耐水性の高い塩ビ板等の素材で構成し建物外側に向けて傾斜を設けて施工してある。
【0013】
以上の構成をすることにより、無落雪屋根の心臓部でもあるスノーダクト1は建物外画線2の外側にあるため、結氷や「すが洩れ」現象などによりスノーダクト1から溢水した水が屋内空間14に落ち込む危険性は無くなる一方、万が一溢水した場合でも傾斜を設けた耐水素材の軒天6により、その水はパラペット5側に誘導されるとともに、パラペット5と軒天6の突合部に構成されるV字型の空間を伝わり、自然と袖囲い12の内部に落ち込み落下して地面に浸透するので、屋内内装の汚染や家具調度品の毀損を防止できるとともに、心理的圧迫感から解放される絶大の効果が期待できる。
【0014】
なお、本来、無落雪または融雪屋根を有する建物の形状は殆ど運命的に矩形、サイコロ状にならざるを得なく変哲のないものであるが、本案のインサイダー無落融雪建築工法によれば、構造上から建物四周のうち一周はパラペット5と袖囲い12が張出す形状となり、デザイン上の凹凸としての見た目効用も併せ持つものである。
【0015】
図2は、建物上方から見た鳥瞰図であり、図3は建物の正面図であるが、どちらも本考案の上記実施例を補足説明した図である。
【0016】
以上に本発明の実施形態を示したが、本発明はこれに限られるものではなく、発明思想を逸脱しない範囲で各種の変更が可能である。例えば図面には示さないが、スノーダクト1を梁4などの横架材に載架せず、梁4の下に懸架する方法も容易に考えられ、この場合も天井裏空間8ないしは屋内空間14とダクト周辺空間7との連通一体を図ることにより、上記実施例と同様の効果が得られる。
【0017】
また、先の実施例において極寒冷地においては、ダクト周辺空間7および建物天井裏空間8との連通一体を妨げない範囲で屋根9の内側、軒天6の内側、パラペット5の内部、外壁3の内側などに発泡ウレタンなどの断熱材を吹き付けるなど、断熱仕様に施工することも容易に考えられる。
【0018】
なお、実際にインサイダー無落融雪建築を行うに際しては、図3の正面図に示した建物面を建物中心からみて方位的に南もしくは東に位置することで、冬期間における熾烈な北風や西風を直接受ける事がなくなり、風雪によるパラペット5や袖囲い12部分の温度低下を防ぐ効用が生じ、より安定した確実な効果が得られる。
【0019】
さらに、大型の建物にあっては、スノーダクト1の配置を正面上部に限らず側面や背面に増設することが可能で、正面と背面の2か所設置とすれば、屋根9の形状は断面A型となり、正面と背面のほか両側面の4か所に設置すれば屋根9の形状は四角錐の形状となる。いずれも上記実施例と同様の効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施形態を示す建物の断面図である。
【図2】本発明の一実施形態を示す建物上方から見た鳥瞰図である。
【図3】本発明の一実施形態を示す建物の正面図である
【符号の説明】
【0021】
1 スノーダクト
2 建物の外画線
3 外壁
4 梁(横架材)
5 パラペット
6 軒天
7 ダクト周辺空間
8 天井裏空間
9 屋根
10 雪
11 排水パイプ
12 袖囲い
13 天井
14 屋内空間
15 母屋
16 束(つか)
17 雨返し

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物の外画線の外側にスノーダクトを装備し、屋根裏空間もしくは屋内空間またはその双方とスノーダクト周辺空間を連通一体に構成して施工することを特徴とする住宅建築工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−7438(P2010−7438A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−190300(P2008−190300)
【出願日】平成20年6月25日(2008.6.25)
【出願人】(503184658)株式会社菅野実務研究所 (4)
【Fターム(参考)】