説明

インサイチュで形成する二相骨軟骨栓

【課題】各相の物理的特性を各組織型の生体力学的特性に合うように誂えることによって、ならびにそれぞれの組織型に対する各相の生化学的適合性を、異なる組織の成長および修復を支持するように最適化することによって、特定の組織型のために調整された二相または多相の栓を提供すること。
【解決手段】1つ以上のペンダント反応性官能基を含む固体の第一の足場;および該第一の足場の該1つ以上のペンダント反応性官能基と反応し得る第二の足場、を含む、骨軟骨栓。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、組織欠損部の処置のための方法およびデバイスに関する。より特定すると、本開示は、二相骨軟骨栓、ならびにその形成方法、および骨軟骨欠損部の処置におけるその使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
骨軟骨欠損は、骨および軟骨の組み合わせの病変である。特に、骨軟骨欠損は、関節(例えば、膝、足根関節、肩および肘)に影響を与え、関節軟骨と、その軟骨の下にある骨との両方の病変を含む。処置の選択肢としては、その欠損部を骨充填材または軟骨充填材で充填すること、および細胞/組織の同種移植片移植または自家移植片移植が挙げられる。
【0003】
現在の空隙充填デバイスは、ヒドロゲル、スポンジ、足場、およびセメントを含む。しかし、これらのデバイスに関する限界は、これらのデバイスが単相であることである。単相の空隙充填材は、1つより多くの組織型を有する空隙の要求を満たし得ない。固体の層状栓もまた、空隙を充填するために利用されている。しかし、これらの栓は、移植されたデバイスと組織との間に空隙を残し得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
各相の物理的特性を各組織型の生体力学的特性に合うように誂えることによって、ならびにそれぞれの組織型に対する各相の生化学的適合性を、異なる組織の成長および修復を支持するように最適化することによって、特定の組織型のために調整された二相または多相の栓を提供することが有利である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明は、例えば、以下を提供する:
(項目1A)
1つ以上のペンダント反応性官能基を含む固体の第一の足場;および
該第一の足場の該1つ以上のペンダント反応性官能基と反応し得る第二の足場、
を含む、骨軟骨栓。
(項目2A)
上記第一の足場が多孔性である、上記項目に記載の骨軟骨栓。
(項目3A)
上記第一の足場が発泡体またはスポンジを含む、上記項目のうちのいずれかに記載の骨軟骨栓。
(項目4A)
上記第一の足場が生分解性ポリマーを含む、上記項目のうちのいずれかに記載の骨軟骨栓。
(項目5A)
上記生分解性ポリマーが、ポリラクチド、ポリ(乳酸)、ポリグリコリド、ポリ(グリコール酸)、ポリ(トリメチレンカーボネート)、ポリ(ジオキサノン)、ポリ(ヒドロキシ酪酸)、ポリ(ヒドロキシ吉草酸)、ポリ(ラクチド−co−(ε−カプロラクトン))、ポリ(グリコリド−co−(ε−カプロラクトン))、ポリ(乳酸−co−グリコール酸)、ポリカーボネート、ポリ(偽アミノ酸)、ポリ(アミノ酸)、ポリ(ヒドロキシアルカノエート)、ポリアルキレンオキサレート、ポリオキサエステル、ポリ酸無水物、ポリオルトエステル、およびこれらのコポリマー、ブロックコポリマー、ホモポリマー、ブレンド、ならびに組み合わせからなる群より選択される、上記項目のうちのいずれかに記載の骨軟骨栓。
(項目6A)
上記第一の足場が骨セメントを含む、上記項目のうちのいずれかに記載の骨軟骨栓。
(項目7A)
上記骨セメントがポリ(メタクリル酸メチル)を含む、上記項目のうちのいずれかに記載の骨軟骨栓。
(項目8A)
上記1つ以上のペンダント反応性官能基が、求電子性基を含む、上記項目のうちのいずれかに記載の骨軟骨栓。
(項目9A)
上記求電子性基が、N−ヒドロキシスクシンイミド、スルホスクシンイミド、カルボニルジイミダゾール、塩化スルホニル、アリールハロゲン化物、スルホスクシンイミジルエステル、N−ヒドロキシスクシンイミジルエステル、スクシンイミジルエステル、イソシアネート、チオシアネート、カルボジイミド、ベンゾトリアゾールカーボネート、エポキシド、アルデヒド、マレイミド、イミドエステル、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される、上記項目のうちのいずれかに記載の骨軟骨栓。
(項目10A)
上記1つ以上のペンダント反応性官能基が求核性基を含む、上記項目のうちのいずれかに記載の骨軟骨栓。
(項目11A)
上記求核性基が、−NH、−SH、−OH、−PH、−CO−NH−NH、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される、上記項目のうちのいずれかに記載の骨軟骨栓。
(項目12A)
上記求核性基がアミン基である、上記項目のうちのいずれかに記載の骨軟骨栓。
(項目13A)
上記第二の足場が、上記第一の足場の上記1つ以上のペンダント反応性官能基と結合を形成し得る、1つ以上の相補的反応性官能基を含む、上記項目のうちのいずれかに記載の骨軟骨栓。
(項目14A)
上記1つ以上の相補的反応性官能基が求電子性基を含む、上記項目のうちのいずれかに記載の骨軟骨栓。
(項目15A)
上記求電子性基が、N−ヒドロキシスクシンイミド、スルホスクシンイミド、カルボニルジイミダゾール、塩化スルホニル、アリールハロゲン化物、スルホスクシンイミジルエステル、N−ヒドロキシスクシンイミジルエステル、スクシンイミジルエステル、イソシアネート、チオシアネート、カルボジイミド、ベンゾトリアゾールカーボネート、エポキシド、アルデヒド、マレイミド、イミドエステル、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される、上記項目のうちのいずれかに記載の骨軟骨栓。
(項目16A)
上記1つ以上の相補的反応性官能基が求核性基を含む、上記項目のうちのいずれかに記載の骨軟骨栓。
(項目17A)
上記求核性基が、−NH、−SH、−OH、−PH、−CO−NH−NH、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される、上記項目のうちのいずれかに記載の骨軟骨栓。
(項目18A)
上記求核性基がアミン基である、上記項目のうちのいずれかに記載の骨軟骨栓。
(項目19A)
上記第二の足場が少なくとも1つのヒドロゲル前駆体を含む、上記項目のうちのいずれかに記載の骨軟骨栓。
(項目20A)
上記少なくとも1つの前駆体が、求電子剤、求核剤、およびこれらの組み合わせを含む、上記項目のうちのいずれかに記載の骨軟骨栓。
(項目21A)
上記第一の足場が少なくとも1つのヒドロゲル前駆体を含む、上記項目のうちのいずれかに記載の骨軟骨栓。
(項目22A)
上記少なくとも1つのヒドロゲル前駆体が、求電子剤、求核剤、およびこれらの組み合わせを含む、上記項目のうちのいずれかに記載の骨軟骨栓。
(項目23A)
少なくとも1種の生物活性剤をさらに含む、上記項目のうちのいずれかに記載の骨軟骨栓。
(項目24A)
上記生物活性剤が、アミノ酸、ペプチド、抗体、酵素、薬物、骨成長因子、骨形成タンパク質、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される、上記項目のうちのいずれかに記載の骨軟骨栓。
(項目25A)
1つ以上のペンダント反応性官能基を含む第一の固体足場であって、組織欠損部内に配置されるように構成されている、第一の固体足場;および
該第一の足場の該1つ以上のペンダント反応性官能基と反応し得る第二の足場であって、該第一の足場の少なくとも一部分と接触して該組織欠損部内に配置されるように構成されている、第二の足場、
を含む、骨軟骨欠損部を充填するためのシステム。
(項目26A)
上記第一の足場および上記第二の足場が、上記組織欠損部内に配置される前に送達デバイスに装填されるように構成されており、該送達デバイスが、該第一の足場を収容するための内部チャネルを備える外側シャフトと、必要に応じて中心ボアを備えるプランジャーとを備え、該プランジャーは、該第一の足場を該組織欠損部に入れ込むために該内部チャネルとスライド可能に係合する、上記項目のうちのいずれかに記載のシステム。
(項目27A)
上記第一の足場が上記送達デバイスから排出されるように構成されている、上記項目のうちのいずれかに記載のシステム。
(項目28A)
上記第二の足場が、上記送達デバイスから上記第一の足場の少なくとも一部分の上に排出されるように構成されている、上記項目のうちのいずれかに記載のシステム。
(項目1B)
1つ以上のペンダント反応性官能基を含む固体の第一の足場;および
該第一の足場の該1つ以上のペンダント反応性官能基と反応し得る第二の足場、
を含む、骨軟骨栓。
(項目2B)
上記第一の足場が多孔性である、上記項目に記載の骨軟骨栓。
(項目3B)
上記第一の足場が発泡体またはスポンジを含む、上記項目のうちのいずれかに記載の骨軟骨栓。
(項目4B)
上記第一の足場が生分解性ポリマーを含む、上記項目のうちのいずれかに記載の骨軟骨栓。
(項目5B)
上記生分解性ポリマーが、ポリラクチド、ポリ(乳酸)、ポリグリコリド、ポリ(グリコール酸)、ポリ(トリメチレンカーボネート)、ポリ(ジオキサノン)、ポリ(ヒドロキシ酪酸)、ポリ(ヒドロキシ吉草酸)、ポリ(ラクチド−co−(ε−カプロラクトン))、ポリ(グリコリド−co−(ε−カプロラクトン))、ポリ(乳酸−co−グリコール酸)、ポリカーボネート、ポリ(偽アミノ酸)、ポリ(アミノ酸)、ポリ(ヒドロキシアルカノエート)、ポリアルキレンオキサレート、ポリオキサエステル、ポリ酸無水物、ポリオルトエステル、およびこれらのコポリマー、ブロックコポリマー、ホモポリマー、ブレンド、ならびに組み合わせからなる群より選択される、上記項目のうちのいずれかに記載の骨軟骨栓。
(項目6B)
上記第一の足場が骨セメントを含む、上記項目のうちのいずれかに記載の骨軟骨栓。
(項目7B)
上記骨セメントがポリ(メタクリル酸メチル)を含む、上記項目のうちのいずれかに記載の骨軟骨栓。
(項目8B)
上記1つ以上のペンダント反応性官能基が、求電子性基を含む、上記項目のうちのいずれかに記載の骨軟骨栓。
(項目9B)
上記求電子性基が、N−ヒドロキシスクシンイミド、スルホスクシンイミド、カルボニルジイミダゾール、塩化スルホニル、アリールハロゲン化物、スルホスクシンイミジルエステル、N−ヒドロキシスクシンイミジルエステル、スクシンイミジルエステル、イソシアネート、チオシアネート、カルボジイミド、ベンゾトリアゾールカーボネート、エポキシド、アルデヒド、マレイミド、イミドエステル、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される、上記項目のうちのいずれかに記載の骨軟骨栓。
(項目10B)
上記1つ以上のペンダント反応性官能基が求核性基を含む、上記項目のうちのいずれかに記載の骨軟骨栓。
(項目11B)
上記求核性基が、−NH、−SH、−OH、−PH、−CO−NH−NH、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される、上記項目のうちのいずれかに記載の骨軟骨栓。
(項目12B)
上記求核性基がアミン基である、上記項目のうちのいずれかに記載の骨軟骨栓。
(項目13B)
上記第二の足場が、上記第一の足場の上記1つ以上のペンダント反応性官能基と結合を形成し得る、1つ以上の相補的反応性官能基を含む、上記項目のうちのいずれかに記載の骨軟骨栓。
(項目14B)
上記1つ以上の相補的反応性官能基が求電子性基を含む、上記項目のうちのいずれかに記載の骨軟骨栓。
(項目15B)
上記求電子性基が、N−ヒドロキシスクシンイミド、スルホスクシンイミド、カルボニルジイミダゾール、塩化スルホニル、アリールハロゲン化物、スルホスクシンイミジルエステル、N−ヒドロキシスクシンイミジルエステル、スクシンイミジルエステル、イソシアネート、チオシアネート、カルボジイミド、ベンゾトリアゾールカーボネート、エポキシド、アルデヒド、マレイミド、イミドエステル、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される、上記項目のうちのいずれかに記載の骨軟骨栓。
(項目16B)
上記1つ以上の相補的反応性官能基が求核性基を含む、上記項目のうちのいずれかに記載の骨軟骨栓。
(項目17B)
上記求核性基が、−NH、−SH、−OH、−PH、−CO−NH−NH、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される、上記項目のうちのいずれかに記載の骨軟骨栓。
(項目18B)
上記求核性基がアミン基である、上記項目のうちのいずれかに記載の骨軟骨栓。
(項目19B)
上記第二の足場が少なくとも1つのヒドロゲル前駆体を含む、上記項目のうちのいずれかに記載の骨軟骨栓。
(項目20B)
上記少なくとも1つの前駆体が、求電子剤、求核剤、およびこれらの組み合わせを含む、上記項目のうちのいずれかに記載の骨軟骨栓。
(項目21B)
上記第一の足場が少なくとも1つのヒドロゲル前駆体を含む、上記項目のうちのいずれかに記載の骨軟骨栓。
(項目22B)
上記少なくとも1つのヒドロゲル前駆体が、求電子剤、求核剤、およびこれらの組み合わせを含む、上記項目のうちのいずれかに記載の骨軟骨栓。
(項目23B)
少なくとも1種の生物活性剤をさらに含む、上記項目のうちのいずれかに記載の骨軟骨栓。
(項目24B)
上記生物活性剤が、アミノ酸、ペプチド、抗体、酵素、薬物、骨成長因子、骨形成タンパク質、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される、上記項目のうちのいずれかに記載の骨軟骨栓。
(項目25B)
1つ以上のペンダント反応性官能基を含む第一の固体足場を、組織欠損部内に配置する工程;および
該第一の足場の該1つ以上のペンダント反応性官能基と反応し得る第二の足場を、該第一の足場の少なくとも一部分と接触させて、該組織欠損部内に配置する工程、
を包含する、骨軟骨欠損部を充填する方法。
(項目26B)
上記第一の足場および上記第二の足場を上記組織欠損部内に配置する前に、該第一の足場および該第二の足場を送達デバイスに装填する工程であって、該送達デバイスが、該第一の足場を収容するための内部チャネルを備える外側シャフト、および必要に応じて中心ボアを備えるプランジャーを備え、該プランジャーは、該第一の足場を該組織欠損部に入れ込むために該内部チャネルとスライド可能に係合する、工程、
をさらに包含する、上記項目に記載の方法。
(項目27B)
上記第一の足場を上記組織欠損部内に配置する工程が、該第一の足場を上記送達デバイスから排出する工程を包含する、上記項目のうちのいずれかに記載の方法。
(項目28B)
上記第二の足場を上記組織欠損部内に配置する工程が、該第二の足場を上記送達デバイスから、上記第一の足場の少なくとも一部分の上に排出する工程を包含する、上記項目のうちのいずれかに記載の方法。
【0006】
(摘要)
骨軟骨栓は、第一の足場および第二の足場を含む。この第一の足場は、1つ以上のペンダント反応性官能基を含む固体足場であり得る。この第二の足場は、この第一の足場の1つ以上のペンダント反応性官能基と反応し得る。
【0007】
(要旨)
本発明の骨軟骨栓は、第一の足場および第二の足場を含む。この第一の足場は、ペンダント反応性官能基を含む固体足場である。この第二の足場は、この第一の足場のペンダント反応性基と反応し得るヒドロゲルを含む。この第一の足場は、多孔性であり得る。ある実施形態において、この第一の足場は、スポンジまたは発泡体であり得る。
【0008】
この第二の足場は、少なくとも1つのヒドロゲル前駆体を含む。ある実施形態において、この少なくとも1つの前駆体は、求電子剤または求核剤である。他の実施形態において、この第二の足場は、少なくとも2つの前駆体を含む。これらの少なくとも2つの前駆体は、求電子剤および求核剤を含み得る。ある実施形態において、この求核剤は、天然成分である。ある実施形態において、これらの少なくとも2つの前駆体は、PEGスターおよびコラーゲンを含む。他の実施形態において、これらの2つの前駆体は、PEGスターおよびNHSを含む。用語「PEGスター」とは、ポリエチレングリコールセグメントを含む多岐分子を含むことを意味する。
【0009】
この第一の足場およびこの第二の足場は、互いに相互作用して共有結合を形成するように設計され得る。さらに、この第一の足場およびこの第二の足場は、組織と相互作用して、この栓とこの組織との間にもまた共有結合を形成するように設計され得る。
【0010】
骨軟骨欠損部を本開示の骨軟骨栓で充填する方法もまた提供される。本発明の方法の1つの実施形態によれば、骨性の足場が組織欠損部内に配置され得、そしてヒドロゲルがこの組織欠損部内に、この骨性の足場を覆って注入され得る。この骨性の足場は、この骨性の足場を組織欠損部内に配置する前に、送達デバイスに装填され得る。この送達デバイスは、この骨性の足場を収容するための内部チャネルを有する、外側シャフトを備える。必要に応じて中心ボアを備えるプランジャーが、この骨性の足場を組織欠損部内に入れ込むために、この内部チャネルとのスライド可能な係合のために適合させられる。次いで、この骨性の足場は、この送達デバイスから排出され得る。上記ヒドロゲルは、このヒドロゲルをこの送達デバイスのプランジャーの中心ボアを通して組織欠損部内に導入することによって、組織欠損部内に注入され得る。
【0011】
添付の図面は、本明細書に組み込まれ、本明細書の一部を構成し、本開示の実施形態を図示し、そして上に与えられた本開示の一般的な説明および以下に与えられる実施形態の詳細な説明と一緒になって、本開示の原理を説明する役に立つ。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、各相の物理的特性が各組織型の生体力学的特性に合うように誂えられることによって、ならびにそれぞれの組織型に対する各相の生化学的適合性が、異なる組織の成長および修復を支持するように最適化されることによって、特定の組織型のために調整された二相または多相の栓が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、本開示の1つの実施形態に従う、骨軟骨欠損部内に配置された骨軟骨栓を概略的に示す。
【図2】図2は、本開示の別の実施形態に従う、骨軟骨欠損部内に配置された骨軟骨栓を概略的に示す。
【図3】図3は、本開示のなお別の実施形態に従う、骨軟骨欠損部内に配置された骨軟骨栓を概略的に示す。
【図4】図4は、本開示のなお別の実施形態に従う、骨軟骨欠損部内に配置された骨軟骨栓を概略的に示す。
【図5】図5A〜図5Dは、本開示の1つの実施形態に従って骨軟骨欠損部内に骨軟骨栓を挿入する方法を概略的に図示する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本開示に従う骨軟骨栓は、少なくとも二相であり、そして第一の骨性の相と、第二の軟骨性の相を含む。移植の際に、この第一の相は、骨形成原細胞型の増殖を支持すること、および骨の機械的特性と類似の機械的特性を提供することにより、骨修復を促進する。この第二の相は、軟骨形成細胞型の増殖を支持すること、および軟骨の機械的特性と類似の機械的特性を提供することにより、軟骨修復を促進する。
【0015】
この第一の骨性の相は、第一の足場を含み得、この第一の足場のうちの少なくとも一部分は、1つ以上のペンダント反応性基を含む。ペンダントによって、1つ以上の反応性基が、組織および/または栓の第二の軟骨性の相との相互作用を誘導する様式で、足場の表面またはその近くに位置し得る。
【0016】
第二の軟骨性の相は、第二の足場を含み得、この足場の少なくとも一部分は、1つ以上の相補的なペンダント反応性基を含む。この第二の足場の1つ以上の相補的なペンダント反応性基は、第一の足場の1つ以上のペンダント反応性基および/または組織と共有結合して、多相骨軟骨栓を形成し得る。
【0017】
この多相骨軟骨栓は、2つ以上の組織型の欠損が関与する、種々の外科手術用途および創傷用途において使用され得る。本明細書中で使用される場合、「組織欠損」とは、正常な健常な状態からの何らかの組織の破損を含み得る。この破損は、内部要因(例えば、変性疾患)に起因しても、外部要因(例えば、損傷)に起因してもよい。組織の正常な構造からの任意の変化が「組織欠損」であり得る。従って、本開示の骨軟骨栓は、組織充填材、骨充填材、または軟/硬組織界面の充填材として空隙を充填するため;組織足場として組織増殖を促進するため;ならびに/あるいは組織欠損または病変に生物活性剤および/または細胞を送達するために、使用され得る。
【0018】
(骨性の相)
本開示の骨軟骨栓の骨性の相は、第一の足場または構造体を備え、この表面または内部に、所望の組織を再生する目的で、所望の骨形成原細胞が成長し得る。この第一の足場の少なくとも一部分は、1つ以上のペンダント反応性官能基を含み得、このペンダント反応性官能基は、組織および/または本明細書中に記載される栓の軟骨性の相との相互作用に適している。この骨性の相は、棒、円柱、スポンジ、発泡体、ゲル、または欠損を支持するために必要な強度を有する構造体と、表面もしくは内部に所望の細胞が成長し得る構造体との両方を提供する、他の任意の所望の構成の形態であり得る。この骨性の相は、液体形態の組成物として提供され得、これは、硬化して固体足場を形成する。この組成物は、インビボまたはインビトロで、組織内への移植前または移植後に硬化し得る。
【0019】
ある実施形態において、この骨性の相は、多孔性足場を含み得る。用語「多孔性」とは、本明細書中で使用される場合、この足場または構造体が、表面特性またはバルク材料特性として存在する、この足場に部分的にかまたは完全に貫入する規定された開口部および/または空間を有し得ることを意味する。細孔は、当業者の知識の範囲内である任意の方法(焼結、凍結乾燥、塩、糖またはデンプン結晶の浸出、あるいは気体形成剤(すなわち、重炭酸ナトリウム)の添加、または気体で満たされた微小気泡の添加などのプロセスが挙げられるが、これらに限定されない)を使用して作製され得る。多孔性の足場は、連続気泡構造を有し得、この構造において、これらの細孔は互いに接続されて、相互接続された網目構造を形成し得る。逆に、これらの多孔性の足場は、相互接続されていない細孔を含んでもよい。
【0020】
いくつかの実施形態において、これらの細孔は、移植後にインサイチュで形成され得る。このインサイチュでの細孔形成は、任意の適切な方法を使用して実施され得る。いくつかの非限定的な例としては、接触リソグラフィー、リビングラジカルフォトポリマー(LRPP)系、および塩浸出の使用が挙げられる。本開示を読む当業者は、骨性の相についての他の細孔分布パターンおよび構成を予測する。
【0021】
いくつかの実施形態において、この第一の足場は、この足場の表面の少なくとも一部分にわたって開口部または細孔を含む、発泡体またはスポンジであり得、この発泡体またはスポンジの表面または内部に、所望の細胞が成長し得る。この発泡体またはスポンジは、任意の適切な方法(組成物の凍結乾燥またはフリーズドライが挙げられるが、これらに限定されない)を使用して形成され得る。この発泡体またはスポンジは、架橋していても架橋していなくてもよく、そして共有結合またはイオン結合を含み得る。
【0022】
この骨性の相の第一の足場は、外科手術手順において使用され得る、任意の生分解性ポリマーまたは非生分解性ポリマーから製造され得る。用語「生分解性」は、本明細書中で使用される場合、生体吸収性材料と生体再吸収性材料との両方を包含するように定義される。生分解性とは、その物質が身体条件下で分解するかまたは構造的一体性を失うか(例えば、酵素分解、加水分解)あるいは身体内の生理学的条件下で(物理的もしくは化学的に)分解し、その結果、その分解生成物が身体により排出可能または吸収可能になることを意味する。本開示の骨性の相を形成するために、このような材料としては、天然材料、合成材料、生体吸収性材料、および/または非吸収性材料、ならびにこれらの組み合わせが挙げられることが理解されるべきである。
【0023】
代表的な天然生分解性ポリマーとしては、多糖類(例えば、アルギネート、デキストラン、キチン、キトサン、ヒアルロン酸(HA)、セルロース、フカン、グリコサミノグリカン、およびその化学誘導体(化学基(例えば、アルキル、アルキレン)の置換および/または付加、ヒドロキシル化、酸化、ならびに当業者により慣用的になされる他の修飾));ならびにポリ(アミノ酸)(アルブミン、カゼイン、ゼイン、絹、コラーゲン(I、IIおよびIII)、エラスチン、フィブリン、フィブリノゲン、ゼラチン、ならびにこれらのコポリマーおよびブレンドなどのタンパク質が挙げられる)が挙げられ、単独であるか、または合成生分解性ポリマーとの組み合わせである。
【0024】
合成により修飾された天然ポリマーとしては、セルロース誘導体(例えば、アルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、セルロースエーテル、セルロースエステル、ニトロセルロース、およびキトサン)が挙げられる。適切なセルロース誘導体の例としては、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシブチルメチルセルロース、酢酸セルロース、プロピオン酸セルロース、酢酸酪酸セルロース、酢酸フタル酸セルロース、カルボキシメチルセルロース、三酢酸セルロース、および硫酸セルロースナトリウム塩が挙げられる。これらは、本明細書中でまとめて、ある実施形態において、「セルロース」と称され得る。
【0025】
代表的な合成生分解性ポリマーとしては、ラクトンモノマー(例えば、グリコリド、ラクチド、カプロラクトン、ε−カプロラクトン、バレロラクトン、およびδ−バレロラクトン)から調製されたポリヒドロキシ酸、ならびにカーボネート(例えば、トリメチレンカーボネート、テトラメチレンカーボネートなど)、ジオキサノン(例えば、1,4−ジオキサノンおよびp−ジオキサノン)、1,ジオキセパノン(例えば、1,4−ジオキセパン−2−オンおよび1,5−ジオキセパン−2−オン)、ならびにこれらの組み合わせが挙げられる。これらから形成されるポリマーとしては、ポリラクチド;ポリ(乳酸);ポリグリコリド;ポリ(グリコール酸);ポリ(トリメチレンカーボネート);ポリ(ジオキサノン);ポリ(ヒドロキシ酪酸);ポリ(ヒドロキシ吉草酸);ポリ(ラクチド−co−(ε−カプロラクトン));ポリ(グリコリド−co−(ε−カプロラクトン));ポリ(乳酸−co−グリコール酸);ポリカーボネート;ポリ(偽アミノ酸);ポリ(アミノ酸);ポリ(ヒドロキシアルカノエート);ポリアルキレンオキサレート;ポリオキサエステル;ポリ酸無水物;ポリオルトエステル;ならびにこれらのコポリマー、ブロックコポリマー、ホモポリマー、ブレンド、および組み合わせが挙げられる。
【0026】
骨性の相が作製され得る生分解性材料の他の非限定的な例としては、ポリ(ホスファジン);脂肪族ポリエステル;ポリエチレングリコール;グリセロール;コポリ(エーテル−エステル);ポリアルキレンオキサレート;ポリアミド;ポリ(イミノカーボネート);ポリアルキレンオキサレート;ポリオキサエステル;ポリホスファゼン;ならびにこれらのコポリマー、ブロックコポリマー、ホモポリマー、ブレンド、および組み合わせが挙げられる。
【0027】
生体で迅速に腐食可能なポリマー(例えば、ポリマーの表面が腐食する際に外部表面に露出するカルボン酸基を有する、ポリ(ラクチド−co−グリコリド)、ポリ酸無水物、およびポリオルトエステル)もまた使用され得る。
【0028】
骨性の相が作製され得る適切な非分解性材料のいくつかの非限定的な例としては、ポリオレフィン(例えば、ポリエチレンおよびポリプロピレン(アタクチック、アイソタクチック、シンジオタクチック、およびこれらのブレンドが挙げられる);ポリエチレングリコール;ポリエチレンオキシド;超高分子量ポリエチレン;ポリエチレンとポリプロピレンとのコポリマー);およびポリイソブチレンとエチレン−αオレフィンとのコポリマー;フッ素化ポリオレフィン(例えば、ポリテトラフルオロエチレン);ポリアミド(例えば、ナイロンおよびポリカプロラクタム);ポリアミン;ポリイミン;ポリエステル(例えば、ポリエチレンテレフタレートおよびポリブチレンテレフタレート);脂肪族ポリエステル;ポリテトラフルオロエチレン;ポリエーテル;ポリエーテル−エステル(例えば、ポリブタエステル)、ポリテトラメチレンエーテルグリコール;1,4−ブタンジオール;ポリウレタン;アクリルポリマーおよびアクリルコポリマー;モダクリリック;ハロゲン化ビニルポリマーおよびコポリマー(例えば、ポリ塩化ビニル);ポリビニルアルコール;ポリビニルエーテル(例えば、ポリビニルメチルエーテル);ポリハロゲン化ビニリデン(例えば、ポリフッ化ビニリデンおよびポリ塩化ビニリデン);ポリアクリロニトリル;ポリビニルケトン;ポリビニル芳香族(例えば、ポリスチレン);ポリビニルエステル(例えば、ポリ酢酸ビニル);ビニルモノマー同士のコポリマーおよびビニルモノマーとオレフィンとのコポリマー(例えば、エチレン−メタクリル酸メチルコポリマー);アクリロニトリル−スチレンコポリマー;ABS樹脂;およびエチレン−酢酸ビニルコポリマー;アルキド樹脂;ポリカーボネート;ポリオキシメチレン;ポリホスファジン;ポリイミド;エポキシ樹脂;アラミド;ならびにこれらのコポリマーおよび組み合わせが挙げられる。
【0029】
これらの生分解性材料は、架橋剤で架橋させられて、骨性の相の機械的強度を増強し得る。架橋剤は、当業者の知識の範囲内であり、そして例えば、カルシウム塩(例えば、ヒドロキシアパタイト);アルデヒド架橋剤(例えば、グルタルアルデヒド);イソシアネート架橋剤(例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート);カルボジイミド架橋剤(例えば、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩);ポリエポキシ架橋剤(例えば、エチレングリコールジグリシジルエーテル);トランスグルタミナーゼが挙げられる。
【0030】
第一の足場の少なくとも一部分は、1つ以上のペンダント反応性官能基を含み得、この官能基は、組織および/または本明細書中に記載される栓の軟骨性の相と相互作用するのに適切である。用語「反応性官能基」とは、本明細書中で使用される場合、互いに反応して結合を形成し得る求電子性基または求核性基をいう。求電子性官能基としては、例えば、N−ヒドロキシスクシンイミド(「NHS」)、スルホスクシンイミド、カルボニルジイミダゾール、塩化スルホニル、アリールハロゲン化物、スルホスクシンイミジルエステル、N−ヒドロキシスクシンイミジルエステル、スクシンイミジルエステル(例えば、コハク酸スクシンイミジルおよび/またはプロピオン酸スクシンイミジル)、イソシアネート、チオシアネート、カルボジイミド、ベンゾトリアゾールカーボネート、エポキシド、アルデヒド、マレイミド、イミドエステル、これらの組み合わせなどが挙げられる。特定の実施形態において、この求電子性官能基は、スクシンイミジルエステルである。
【0031】
第一の足場の表面の少なくとも一部分に存在し得る適切な求核性基としては、−NH、−SH、−OH、−PH、−CO−NH−NH、およびこれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0032】
これらの官能基は、各存在において同じであっても異なっていてもよいことが、本開示により想定される。従って、第一の足場は、2つの異なる求電子性基を有しても、2つの異なる求核性基を有してもよい。
【0033】
これらの反応性基は、任意の適切な様式を使用して、第一の足場の表面またはその近くに位置し得る。例えば、第一の足場は、反応性基をその足場の外側表面に向けて自然に配置する材料から形成され得る。他の例において、第一の足場は、反応性基と共有結合するように表面修飾され得る。なお他の例において、第一の足場は、組織および/または本明細書中に記載される栓の第二の相と相互作用するために必要なペンダント反応性基を含む材料のさらなる層でコーティングされ得る。
【0034】
いくつかの実施形態において、コーティングプロセスは、骨性の相の表面へのこのコーティングの接着を促進する目的で、この骨性の相の表面処理を包含する。この骨性の相の表面は、プラズマ、物理蒸着または化学蒸着、パルスレーザー切除析出、表面修飾、あるいは当業者の知識の範囲内である他の任意の手段を使用して処理されて、アミン官能基化コーティングを有する骨性の相の表面を活性化し得る。他の実施形態において、処理は、架橋性化合物などのプライマーの使用を包含し得る。なお他の実施形態において、1つ以上の析出処理が、単独でか、またはプライマーと組み合わせて使用されて、アミン官能基化コーティングと骨性の相との所望の会合を達成し得る。
【0035】
ある実施形態において、この骨性の相は、骨セメントから作製された第一の足場を含む。例えば、この第一の足場は、ポリ(メタクリル酸メチル)から作製され得る。特定の実施形態において、この第一の足場は、液体メタクリル酸メチルモノマーと混合され得るアミン化ポリ(メタクリル酸メチル)粉末を含む、2成分材料から作製され得る。促進剤(例えば、N,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−p−トルイジン、および有機銅(II)塩)が、モノマーのフリーラジカル重合を開始させるために使用され得る。この2成分材料は、組織欠損部に嵌るように成形され得、そして骨の機械的特性に一致するように硬化させられ得る。いくつかの実施形態において、この2部分材料は、組織欠損部内で硬化させられ得る。他の実施形態において、この2部分材料は、移植前に硬化させられ得る。
【0036】
(軟骨性の相)
本開示の骨軟骨栓の軟骨性の相は、第二の足場または構造体を含み、この表面または内部に、所望の組織を再生する目的で、所望の軟骨細胞が成長し得る。この第二の足場は、第一の足場の1つ以上のペンダント反応性基と反応して、結合を形成し得る。ある実施形態において、この第二の足場は、多孔性であり得る。
【0037】
この第二の足場は、ヒドロゲル材料を形成するのに適した少なくともヒドロゲル前駆体を含み得る。この軟骨性の相のヒドロゲル前駆体の内の少なくとも1つは、骨性の相のペンダント反応性基と反応可能であり得る。このヒドロゲル前駆体は、例えば、モノマーまたはマクロマーであり得る。このヒドロゲル前駆体は、固体であっても液体であってもよい。前駆体の1つの型は、求電子性基または求核性基である反応性官能基を有し得る。求電子性基は、求核性基と反応して共有結合を形成する。共有結合性の架橋または共有結合性の結合は、異なる材料を互いに共有結合させるように働く、これらの異なる材料上の官能基の反応により形成される化学基をいう。特定の実施形態において、第一の前駆体上の第一のセットの求電子性官能基は、第二の前駆体上の第二のセットの求核性官能基と反応し得る。これらの前駆体が、(例えば、pHまたは溶媒に関して)反応を可能にする環境において混合される場合、これらの官能基は、互いに反応して共有結合を形成する。これらの前駆体は、これらの前駆体のうちの少なくともいくつかが1つより多くの他の前駆体と反応し得る場合に、架橋する。例えば、第一の型の官能基を2つ以上有する前駆体は、この第一の型の官能基と反応し得る第二の型の官能基を2つ以上有する架橋性前駆体と反応し得る。
【0038】
ヒドロゲルは、1つの前駆体から形成されても複数の前駆体から形成されてもよい。例えば、ヒドロゲルが複数の前駆体(例えば、2つの前駆体)から形成される場合、これらの前駆体は、第一のヒドロゲル前駆体および第二のヒドロゲル前駆体と称され得る。用語「第一のヒドロゲル前駆体」および「第二のヒドロゲル前駆体」の各々は、架橋分子(例えば、ヒドロゲル)の網目構造を形成するための反応に関与し得る、ポリマー、機能性ポリマー、高分子、低分子、または架橋剤のうちのいずれかを含むことを意味する。
【0039】
用語「反応性官能基」とは、本明細書中で使用される場合、互いに反応して結合を形成し得る求電子性基または求核性基をいう。求電子性官能基としては、例えば、N−ヒドロキシスクシンイミド(「NHS」)、スルホスクシンイミド、カルボニルジイミダゾール、塩化スルホニル、アリールハロゲン化物、スルホスクシンイミジルエステル、N−ヒドロキシスクシンイミジルエステル、スクシンイミジルエステル(例えば、コハク酸スクシンイミジルおよび/またはプロピオン酸スクシンイミジル)、イソシアネート、チオシアネート、カルボジイミド、ベンゾトリアゾールカーボネート、エポキシド、アルデヒド、マレイミド、イミドエステル、これらの組み合わせなどが挙げられる。ある実施形態において、この求電子性官能基は、スクシンイミジルエステルである。
【0040】
上記のように、本開示は、求電子性前駆体(本明細書中で時々、求電子性架橋剤と称される)および求核性成分を含有するヒドロゲルを提供する。ある実施形態において、この求核性成分は、天然成分であり、この天然成分は、求電子性架橋剤により架橋させられて、ヒドロゲルを形成し得る。ある実施形態において、このヒドロゲルは、生分解性であり得る。
【0041】
このヒドロゲルは、移植前に形成され得るか、または移植の時点でインサイチュで形成され得る。ヒドロゲルを組織の表面または内側で形成するための成分としては、例えば、インサイチュ形成材料が挙げられ得る。インサイチュで形成される場合、これらのヒドロゲルは、骨性の相の表面幾何学形状に一致し得、この骨性の相と機械的に噛み合う。このインサイチュ形成材料は、「インサイチュ」で形成する1つの前駆体または複数の前駆体を含み得、「インサイチュ」とは、形成が、生存している動物または人体の組織において起こることを意味する。一般に、このことは、塗布の時点で活性化されて、ある実施形態においてはヒドロゲルを作製し得る、前駆体を有することによって達成され得る。活性化は、種々の方法(pH、イオン性、温度、紫外線(UV)などの環境変化が挙げられるが、これらに限定されない)を介し得る。他の実施形態において、ヒドロゲルを形成するための成分は、体外で接触させられ得、次いで、患者に移植物(例えば、(予め形成された)組織足場)として導入され得る。
【0042】
いくつかの実施形態において、以下でさらに議論されるように、ヒドロゲル自体は、天然成分(例えば、コラーゲン、ゼラチン、ヒアルロン酸、これらの組み合わせなど)を含み得る。特定の実施形態において、この天然成分は、このヒドロゲルが分解するにつれて、移植の部位で放出され得る。用語「天然成分」とは、本明細書中で使用される場合、天然に見出され得るか、または天然に見出される組成物/生物に由来し得る、ポリマー、組成物、物質、これらの組み合わせなどを包含する。天然成分はまた、天然に見出されるが人によって(例えば、天然材料/合成材料/生物学的組換え材料を作製するための方法、ならびに天然に見出される配列と同じ配列を有するタンパク質を産生し得る方法、ならびに/または天然材料と同じ構造および組成を有する材料を生成し得る方法を使用して)合成され得る組成物(例えば、合成ヒアルロン酸(これは例えば、Sigma Aldrichから市販されている))を包含し得る。
【0043】
ヒドロゲル前駆体(例えば、求電子性ヒドロゲル前駆体)は、生物学的に不活性かつ水溶性のコアを有し得る。このコアが水溶性であるポリマー領域である場合、使用され得る適切なポリマーとしては、ポリエーテル(例えば、ポリアルキレンオキシド(例えば、ポリエチレングリコール(「PEG」)、ポリエチレンオキシド(「PEO」)、ポリエチレンオキシド−co−ポリプロピレンオキシド(「PPO」)、コポリエチレンオキシドのブロックコポリマーもしくはランダムコポリマー、およびポリビニルアルコール(「PVA」)));ポリ(ビニルピロリジノン)(「PVP」);ポリ(アミノ酸);多糖類(例えば、デキストラン、キトサン、アルギネート、キチン、カルボキシメチルセルロース、酸化セルロース、ヒドロキシエチルセルロース、およびヒドロキシメチルセルロース);ヒアルロン酸(HA);ならびにポリ(アミノ酸)(アルブミン、コラーゲン(I、IIおよびIII)、エラスチン、フィブリン、フィブリノゲン、カゼイン、およびゼラチンなどのタンパク質が挙げられる)が挙げられる。他の適切なヒドロゲルは、メタクリル酸、アクリルアミド、メタクリル酸メチル、メタクリル酸ヒドロキシエチル、これらの組み合わせなどの成分を含み得る。ある実施形態において、上記ポリマーの組み合わせおよび成分が利用され得る。
【0044】
ポリエーテル、特に、ポリ(オキシアルキレン)またはポリ(エチレングリコール)すなわちポリエチレングリコールが、いくつかの実施形態において利用され得る。分子的性質としてコアが小さい場合、種々の親水性官能基の任意のものが、第一のヒドロゲル前駆体および第二のヒドロゲル前駆体を水溶性にするために使用され得る。例えば、ヒドロキシル、アミン、スルホネートおよびカルボキシレートなどの官能基(これらは、水溶性である)が、この前駆体を水溶性にするために使用され得る。例えば、スベリン酸のN−ヒドロキシスクシンイミド(「NHS」)エステルは、水に不溶性であるが、スクシンイミド環にスルホネート基を付加させることによって、スベリン酸のNHSエステルは、アミン基に対する反応性に影響を与えることなく、水溶性にされ得る。ある実施形態において、求電子性官能基を有する前駆体は、PEGエステルであり得る。
【0045】
上記のように、第一のヒドロゲル前駆体および第二のヒドロゲル前駆体の各々は、多官能性であり得る。このことは、2つ以上の求電子性官能基または求電子性官能基を含み得、その結果、例えば、第一のヒドロゲル前駆体上の求核性官能基が第二のヒドロゲル前駆体上の求電子性官能基と反応して、共有結合を形成し得ることを意味する。第一のヒドロゲル前駆体または第二のヒドロゲル前駆体のうちの少なくとも一方は、2つより多くの官能基を含み、これによって、求電子性基−求核性基反応の結果として、これらの前駆体が化合して、架橋したポリマー生成物を形成する。
【0046】
求電子性官能基を有する高分子は、マルチアームであり得る。例えば、この高分子は、コアから延びる4つ、6つ、8つ、またはより多くのアームを有する、マルチアームPEGであり得る。このコアは、これらのアームを形成する高分子と同じであっても異なっていてもよい。例えば、このコアはPEGであり得、そしてこれらの複数のアームもまたPEGであり得る。ある実施形態において、このコアは、天然ポリマーであり得る。
【0047】
求電子性架橋剤の分子量(MW)は、約2,000〜約100,000;ある実施形態においては約10,000〜約40,000であり得る。マルチアーム前駆体は、アームの数に依存して変わる分子量を有し得る。例えば、1000MWのPEGを有するアームは、合計少なくとも1000MWになるために充分なCHCHO基を有する。個々のアームの合わせた分子量は、約250〜約5,000;ある実施形態においては約1,000〜約3,000;ある実施形態においては約1,250〜約2,500であり得る。ある実施形態において、この求電子性架橋剤は、複数のNHS基で官能基化され、そして例えば、4つ、6つまたは8つのアームを有し、そして分子量約5,000〜約25,000を有する、マルチアームPEGであり得る。適切な前駆体の他の例は、米国特許第6,152,943号;同第6,165,201号;同第6,179,862号;同第6,514,534号;同第6,566,406号;同第6,605,294号;同第6,673,093号;同第6,703,047号;同第6,818,018号;同第7,009,034号;および同第7,347,850号に記載されており、これらの各々の全開示は、本明細書中に参考として援用される。
【0048】
求電子性前駆体は、別の成分(ある実施形態においては、天然成分)上の求核性基と結合し得る、求電子性官能基を提供する架橋剤であり得る。この天然成分は、この求電子性架橋剤が与えられる患者に対して外因的であり得るか、または内因的に与えられ得る。
【0049】
ある実施形態において、前駆体のうちの1つは、求核性基を有する天然成分であり得る。存在し得る求核性基としては、例えば、−NH、−SH、−OH、−PH、および−CO−NH−NHが挙げられる。求電子性前駆体を形成する際に使用するのに適切であると上に記載された、任意のモノマー、マクロマー、ポリマー、またはコアが、求核性基で官能基化されて、求核性前駆体を形成し得る。他の実施形態において、求核性基を有する天然成分が、求核性前駆体として利用され得る。
【0050】
天然成分は、例えば、コラーゲン、ゼラチン、血液(血清が挙げられ、これは、全血清であってもその抽出物であってもよい)、ヒアルロン酸、タンパク質、アルブミン、他の血清タンパク質、血清濃縮物、血小板に富む血漿(prp)、コンドロイチン硫酸、これらの組み合わせなどであり得る。利用され得るかまたは別の天然成分に添加され得るさらなる適切な天然成分(本明細書中で時々、生物活性剤と称される)としては、例えば、幹細胞、DNA、RNA、酵素、増殖因子、成長因子、ペプチド、ポリペプチド、抗体、他の窒素性天然分子、これらの組み合わせなどが挙げられる。他の天然成分としては、上記のものの誘導体(例えば、修飾されたヒアルロン酸、デキストラン、他の多糖類、ポリマーおよび/またはポリペプチド(天然に誘導され得るか、合成物であり得るか、もしくは生物学的に誘導され得るアミノ化多糖類が挙げられる))が挙げられ得る。例えば、ある実施形態において、ヒアルロン酸は、求核性にされるように修飾され得る。
【0051】
ある実施形態において、上記天然成分のうちの任意のものが、当業者の知識の範囲内である方法を利用して、合成により調製され得る(例えば、合成ヒアルロン酸)。同様に、ある実施形態において、天然成分は、天然または合成の長鎖アミノ化ポリマーであり得る。天然成分はまた、求核性ポリマーを作製するために修飾(すなわち、アミノ化)され得る。
【0052】
天然成分は、この天然成分がインサイチュで接触する組織に、細胞構築ブロックまたは細胞栄養を提供し得る。例えば、血清は、組織の形成または再生において有用であり得る、タンパク質、グルコース、凝固因子、鉱物イオン、およびホルモンを含有する。
【0053】
ある実施形態において、天然成分は、全血清を含む。ある実施形態において、天然成分は、ヒドロゲルが形成される(または形成されるべき)身体から自己由来である(すなわち、コラーゲン、血清、血液など)。この様式で、このヒドロゲルが使用されるべきヒトまたは動物は、ヒドロゲルの形成において使用するための天然成分を提供し得る。このような実施形態において、得られるヒドロゲルは、半自己由来であり、合成求電子性前駆体と、自己由来/内因性の求核性前駆体とを含む。
【0054】
ある実施形態において、多官能性求核性ポリマー(例えば、複数のアミン基を有する天然成分)が、第一のヒドロゲル前駆体として使用され得、そして多官能性求電子性ポリマー(例えば、複数のNHS基で官能基化されたマルチアームPEG)が、第二のヒドロゲル前駆体として使用され得る。ある実施形態において、これらの前駆体は、溶液中にあり得、これらの溶液が合わせられて、ヒドロゲルの形成を可能にし得る。インサイチュ形成材料系の一部として利用されるあらゆる溶液は、有害な溶媒も毒性の溶媒も含むべきではない。ある実施形態において、こ(れら)の前駆体は、水などの溶媒に実質的に可溶性であり、生理学的に適合性の溶液(例えば、緩衝化等張生理食塩水)中での利用を可能にし得る。
【0055】
ある実施形態において、ヒドロゲルは、多官能性PEGを架橋剤として利用して、天然成分としてコラーゲンから、またはコラーゲンおよび/もしくはゼラチンの組み合わせから形成され得る。ある実施形態において、このコラーゲンおよび/またはゼラチンは、適切な溶媒を利用して、溶液に入れられ得る。この溶液に、ヒアルロン酸が、高pHバッファと一緒に添加され得る。このようなバッファは、約8〜約12、ある実施形態においては、約8.2〜約9のpHを有し得る。このようなバッファの例としては、ホウ酸バッファなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0056】
第二の溶液中に、求電子性架橋剤(ある実施形態においては、N−ヒドロキシスクシンイミドなどの求電子性基で官能基化されたマルチアームPEG)が、ハンクス平衡塩類溶液、ダルベッコ改変イーグル培地、リン酸緩衝化生理食塩水、水、リン酸バッファ、これらの組み合わせなどのバッファ中に調製され得る。この求電子性架橋剤(ある実施形態においては、N−ヒドロキシスクシンイミド基で官能基化されたマルチアームPEG)は、上記バッファを含有する溶液中に、約0.02グラム/ml〜約0.5グラム/ml、ある実施形態においては、約0.05グラム/ml〜約0.3グラム/mlの濃度で存在し得る。
【0057】
これらの2つの成分は、いくつかの実施形態においてはインサイチュでの導入の際に合わせられ得、ここでマルチアームPEG上の求電子性基が、コラーゲンおよび/またはゼラチンのアミン求核性成分と架橋する。天然成分対求電子性成分の比(すなわち、コラーゲン:PEG)は、約0.1:1〜約100:1、ある実施形態においては、約1:1〜約10:1であり得る。
【0058】
求核性成分(ある実施形態においては、天然成分(例えば、コラーゲン、ゼラチン、および/またはヒアルロン酸))は、一緒になって、ヒドロゲルの少なくとも約1.5重量%、ある実施形態においては、ヒドロゲルの約1.5重量%〜約20重量%、他の実施形態においては、ヒドロゲルの約2重量%〜約10重量%の濃度で存在し得る。特定の実施形態において、コラーゲンは、ヒドロゲルの約0.5重量%〜約7重量%、さらなる実施形態においては、ヒドロゲルの約1重量%〜約4重量%で存在し得る。別の実施形態において、ゼラチンは、ヒドロゲルの約1重量%〜約15重量%、さらなる実施形態においては、ヒドロゲルの約2重量%〜約15重量%で存在し得る。なお別の実施形態において、天然成分として組み合わせられたヒアルロン酸およびコラーゲンは、ヒドロゲルの約0.5重量%〜約8重量%、さらなる実施形態においては、ヒドロゲルの約1重量%〜約5重量%で存在し得る。ヒアルロン酸は、「構造」成分として存在しないかもしれず、むしろ生物活性剤の多くとして存在し得ることもまた、想定される。例えば、ヒアルロン酸は、溶液/ゲルの0.001重量%程度の低濃度でこの溶液/ゲルに存在し得、そして生物学的活性を有し得る。
【0059】
求電子性架橋剤は、ヒドロゲルの約0.5重量%〜約20重量%、ある実施形態においては、ヒドロゲルの約1.5重量%〜約15重量%の量で存在し得る。
【0060】
ヒドロゲル材料は、共有結合、イオン結合または疎水性結合のいずれかを介して形成され得る。物理的(非共有結合性)架橋は、複合体化、水素結合、脱溶媒和、ファンデルワールス相互作用、イオン結合、これらの組み合わせなどからもたらされ得、そしてインサイチュで組み合わせられるまで物理的に離された2つの前駆体を混合することによってか、または生理学的環境中に存在する条件(温度、pH、イオン強度、これらの組み合わせなどが挙げられる)の結果として、開始され得る。化学的(共有結合性)架橋は、多数の機構(フリーラジカル重合、縮合重合、陰イオン重合または陽イオン重合、段階成長重合、求電子剤−求核剤反応、これらの組み合わせなどが挙げられる)のいずれかによって達成され得る。
【0061】
いくつかの実施形態において、ヒドロゲル系は、前駆体が混合されると自発的に架橋する生体適合性多前駆体系を含み得るが、ここで2つ以上の前駆体は、堆積プロセスの持続時間にわたって個別に安定である。他の実施形態において、インサイチュ形成材料は、内因性の材料および/または組織と架橋する1つの前駆体を含み得る。
【0062】
得られる生体適合性架橋ポリマーの架橋密度は、架橋剤および天然成分の全体の分子量、ならびに1分子あたりで利用可能な官能基の数によって、制御され得る。架橋剤間での低い分子量(例えば、600ダルトン(Da))は、より高い分子量(例えば、10,000Da)と比較して、かなりより高い架橋密度を与える。3,000Daより大きい分子量を有する天然成分を用いて、弾性ゲルが得られ得る。
【0063】
架橋密度はまた、架橋剤と天然成分との溶液の全体的な固形分%によって制御され得る。固形分%が増加すると、加水分解による不活性化の前に求電子性基が求核性基と化合する可能性が増大する。架橋密度を制御するなお別の方法は、求核性基対求電子性基の化学量論を調節することによる。1:1の比が最高の架橋密度をもたらし得るが、反応性官能基の他の比(例えば、求電子剤:求核剤)が、所望の処方物に合うことが想定される。
【0064】
このように生成されたヒドロゲルは、生体吸収性であり得るので、身体から回収される必要がない。吸収性材料は、生物学的組織により吸収され、そして所定の期間の終了時にインビボで消失する。この所定の期間は、材料の化学的性質に依存して、例えば、1日〜数ヶ月まで変わり得る。吸収性材料としては、天然生分解性ポリマーと合成生分解性ポリマーとの両方、ならびに生体腐食性ポリマーが挙げられる。
【0065】
ある実施形態において、官能基の間に存在する生分解性結合を有する1つ以上の前駆体が、ヒドロゲルを生分解性または吸収性にするために含まれ得る。いくつかの実施形態において、これらの結合は、例えば、エステルであり得、これらの結合は、生理学的溶液中で加水分解により分解され得る。このような結合の使用は、タンパク質分解作用によって分解され得るタンパク質結合とは対照的である。生分解性結合はまた、必要に応じて、前駆体のうちの1つ以上の水溶性コアの一部を形成し得る。あるいは、またはさらに、前駆体の官能基は、これらの官能基間の反応生成物が生分解性結合をもたらすように選択され得る。各アプローチについて、生分解性結合は、得られる生分解性の生体適合性架橋ポリマーが所望の期間で分解するかまたは吸収されるように、選択され得る。一般に、ヒドロゲルを生理学的条件下で非毒性または低毒性の生成物に分解する、生分解性結合が選択され得る。
【0066】
本開示において利用される生分解性ゲルは、生分解性領域(天然成分の一部分であれ、合成求電子性架橋剤に導入されたものであれ)の加水分解または酵素分解に起因して、分解し得る。合成ペプチド配列を含むゲルの分解は、特定の酵素およびその濃度に依存する。いくつかの場合において、特定の酵素は、架橋反応中に添加されて、この分解プロセスを加速し得る。いかなる分解性酵素も存在しない場合、その架橋ポリマーは専ら、生分解性セグメントの加水分解により分解し得る。ポリグリコレートが生分解性セグメントとして使用される実施形態において、その架橋ポリマーは、その網目構造の架橋密度に依存して、約1日〜約30日で分解し得る。同様に、ポリカプロラクトンベースの架橋網目構造が使用される実施形態において、分解は、約1ヶ月〜約8ヶ月の期間にわたって起こり得る。分解時間は、一般に、使用される分解性セグメントの型によって、ポリグリコレート<ポリラクテート<ポリトリメチレンカーボネート<ポリカプロラクトンの順序で変わる。従って、適切な分解性セグメントを使用して、所望の分解プロフィール(数日〜数ヶ月)を有するヒドロゲルを構築することが可能である。
【0067】
利用される場合、生分解性ブロック(例えば、オリゴヒドロキシ酸ブロック)により生じる疎水性、または求電子性架橋剤を形成するために利用されるPLURONICTMもしくはTETRONICTMポリマーにおけるPPOブロックの疎水性は、小さい有機薬物分子を溶解させる際に役立ち得る。生分解性ブロックまたは疎水性ブロックの組み込みにより影響を受ける他の特性としては、水吸収性、機械的特性および感熱性が挙げられる。
【0068】
ヒドロゲル材料の特定の特性(種々の組織への接着、外科医がヒドロゲル材料を正確かつ好都合に配置することを可能にするために望ましい硬化時間、生体適合性のための高い含水量、移植物において使用するための機械的強度、および/または配置後の崩壊に抵抗するための頑丈さが挙げられる)は、有用であり得る。従って、容易に滅菌されて天然材料の使用に関与する疾患伝染の危険性を回避する合成材料が、使用され得る。実際に、合成前駆体を使用して作製される特定のインサイチュ重合性ヒドロゲルは、当業者の知識の範囲内であり、例えば、市販の製品(例えば、FOCALSEAL(登録商標)(Genzyme,Inc.)、COSEAL(登録商標)(Angiotech Pharmaceuticals)、およびDURASEAL(登録商標)(Confluent Surgical,Inc))において使用されるものなどである。他の公知のヒドロゲルとしては、例えば、米国特許第6,656,200号;同第5,874,500号;同第5,543,441号;同第5,514,379号;同第5,410,016号;同第5,162,430号;同第5,324,775号;同第5,752,974号;および同第5,550,187号に開示されるものが挙げられる。
【0069】
上記のように、ある実施形態において、分岐マルチアームPEG(本明細書中で時々、PEGスターと称される)が、本開示のヒドロゲルを形成するために含まれ得る。PEGスターは、そのアームが生物学的シグナル伝達および/または分子結合のためのペンダント反応性生物官能基(例えば、アミノ酸、ペプチド、抗体、酵素、薬物、親和性結合剤、チオール、これらの組み合わせ)を含むように、あるいは他の部分(例えば、生物活性剤)をそのコア、そのアーム、またはそのアームの端部に含むように、官能基化され得る。生物官能基はまた、PEGの骨格に組み込まれ得るか、またはPEG骨格内に含まれる反応性基に付着し得る。結合は、共有結合であっても非共有結合であってもよく、静電結合、チオール媒介結合、ペプチド媒介結合、または公知の反応性化学(例えば、ビオチンとアビジン)の使用が挙げられる。
【0070】
PEGスターに組み込まれるアミノ酸は、天然物であっても合成物であってもよく、そして単独で使用されても、ペプチドの一部として使用されてもよい。配列は、細胞接着、細胞分化、これらの組み合わせなどのために利用され得、そして他の生物学的分子(例えば、増殖因子、成長因子、薬物、サイトカイン、DNA、抗体、酵素、これらの組み合わせなど)を結合するのに有用であり得る。このようなアミノ酸は、PEGスターの酵素分解の際に放出され得る。
【0071】
これらのPEGスターはまた、ヒドロゲルへの組み込みを可能にするために、上記のような官能基を含み得る。このPEGスターは、求電子性架橋剤として利用され得るか、またはある実施形態においては、上記求電子性架橋剤に加えて、別の成分として利用され得る。ある実施形態において、PEGスターは、求核性基と結合する求電子性基を含み得る。上記のように、これらの求核性基は、本開示のヒドロゲルを形成するために利用される天然成分の一部分であり得る。
【0072】
いくつかの実施形態において、生物官能基が、分解性結合(PEGカルボン酸または活性化PEGカルボン酸と、生物官能基上のアルコール基との反応により形成される、エステル結合が挙げられる)によって、PEGスターに含まれ得る。この場合、これらのエステル結合は、生理学的条件下で加水分解して、この生物官能基を放出し得る。
【0073】
(任意の生物活性剤)
生物活性剤が、本開示の骨軟骨栓に添加されて、特定の生物学的特性または治療特性を提供し得る。組織修復を増強し得る製品、敗血症の危険性を制限し得る製品、および骨軟骨栓またはその特定の相部分の機械的特性を調節し得る製品が、このデバイスの調製中に添加され得るか、またはこのデバイスにコーティングされ得る。ある実施形態において、この骨軟骨栓に添加され得る剤としては、防腐特性のためのフカン;分解時間のためのキトサンおよびグルタルアルデヒド架橋コラーゲン;ならびに組織特性のための増殖因子、成長因子、ペプチド、タンパク質、薬物、およびDNAが挙げられる。
【0074】
さらに、この骨軟骨栓はまた、1つ以上の生物活性剤の送達のために使用され得る。これらの生物活性剤は、骨軟骨栓の相のうちの一方または両方に、このデバイスの形成中に、例えば、自由懸濁、リポソーム送達、マイクロスフィア、マイクロバブルなどによって、またはポリマーコーティング、乾燥コーティング、フリーズドライ、メッシュ表面への塗布、イオン結合、共有結合、もしくは親和性結合などによって、この栓の表面もしくはその一部分をコーティングすることによって組み込まれて、この栓の生分解性成分を官能基化し得る。従って、いくつかの実施形態において、少なくとも1つの生物活性剤が、この骨軟骨栓の相(すなわち、骨性の相および/または軟骨性の相)と、形成中に合わせられて、この栓の分解中に生物活性剤の放出を提供し得る。この栓がインサイチュで分解または加水分解するにつれて、これらの生物活性剤が放出される。他の実施形態において、生物活性剤は、この生物活性剤の迅速な放出のために、この栓の骨性の相もしくは軟骨性の相の表面またはこの表面の一部分に、コーティングされ得る。
【0075】
生物活性剤は、本明細書中で使用される場合、その最も広い意味で使用され、そして 臨床用途を有する任意の物質または物質混合物を包含する。従って、生物活性剤は、それ自体で薬理学的活性を有しても有さなくてもよい(例えば、色素)。あるいは、生物活性剤は、治療効果もしくは予防効果を提供する任意の剤であり得るか、組織成長、細胞増殖、および/もしくは細胞分化に影響を与えるかまたは関与する化合物であり得るか、接着防止化合物であり得るか、生物学的作用(例えば、免疫応答)を引き起こし得る化合物であり得るか、あるいは1つ以上の生物学的プロセスにおいて他の任意の役割を果たし得る。種々の生物活性剤が、栓に組み込まれ得る。
【0076】
本開示により利用され得る生物活性剤のクラスの例としては、例えば、接着防止剤、抗菌薬、鎮痛薬、解熱薬、麻酔薬、鎮痙薬、抗ヒスタミン薬、抗炎症薬、心臓血管剤、診断剤、交感神経様作用薬、コリン様作用薬、抗ムスカリン薬、鎮痙薬、ホルモン、増殖因子、成長因子、筋弛緩薬、アドレナリン作用性ニューロン遮断薬、抗腫瘍薬、免疫原性剤、免疫抑制薬、胃腸薬、利尿薬、ステロイド、脂質、リポ多糖類、多糖類、血小板活性化薬、凝固因子、および酵素が挙げられる。生物活性剤の組み合わせが使用され得ることもまた意図される。
【0077】
生物活性剤として含有され得る他の生物活性剤としては、局所麻酔薬;非ステロイド性抗受精剤;副交感神経様作用剤;精神療法剤;トランキライザ;うっ血除去薬;鎮静催眠薬;ステロイド;スルホンアミド;交感神経様作用剤;ワクチン;ビタミン;抗マラリア薬;抗片頭痛薬;抗パーキンソン剤(例えば、L−ドパ);鎮痙薬;抗コリン作用性剤(例えば、オキシブチニン);鎮咳薬;気管支拡張薬;心臓血管剤(例えば、冠状血管拡張薬およびニトログリセリン);アルカロイド;鎮痛薬;麻酔薬(例えば、コデイン、ジヒドロコデイノン、メペリジン、モルヒネなど);非麻酔薬(例えば、サリチレート、アスピリン、アセトアミノフェン、d−プロポキシフェンなど);オピオイドレセプターアンタゴニスト(例えば、ナルトレキソンおよびナロキソン);抗癌剤;鎮痙薬;制吐薬;抗ヒスタミン薬;抗炎症剤(例えば、ホルモン剤、ヒドロコルチゾン、プレドニゾロン、プレドニゾン、非ホルモン剤、アロプリノール、インドメタシン、フェニルブタゾンなど);プロスタグランジンおよび細胞傷害性剤;化学療法剤;エストロゲン;抗菌剤;抗生物質;抗真菌剤;抗ウイルス剤;抗凝固薬;鎮痙薬;抗うつ薬;抗ヒスタミン薬;ならびに免疫学的剤が挙げられる。
【0078】
骨軟骨栓に含有され得る適切な生物活性剤の他の例としては、例えば、ウイルスおよび細胞、ペプチド、ポリペプチドおよびタンパク質、ならびにそのアナログ、ムテイン、および活性フラグメント、免疫グロブリン、抗体、サイトカイン(例えば、リンホカイン、モノカイン、ケモカイン)、血液凝固因子、造血因子、インターロイキン(IL−2、IL−3、IL−4、IL−6)、インターフェロン(β−IFN、α−IFNおよびγ−IFN)、エリスロポイエチン、ヌクレアーゼ、腫瘍壊死因子、コロニー刺激因子(例えば、GCSF、GM−CSF、MCSF)、インスリン、抗腫瘍剤および癌抑制因子、血液タンパク質(例えば、フィブリン、トロンビン、フィブリノゲン、合成トロンビン、合成フィブリン、合成フィブリノゲン)、性腺刺激ホルモン(例えば、FSH、LH、CGなど)、ホルモンおよびホルモンアナログ(例えば、成長ホルモン)、ワクチン(例えば、腫瘍性抗原、細菌性抗原およびウイルス性抗原);ソマトスタチン;抗原;血液凝固因子;増殖因子または成長因子(例えば、神経発育因子、インスリン様成長因子);骨形成タンパク質;TGF−β;タンパク質インヒビター;タンパク質アンタゴニスト;タンパク質アゴニスト;核酸(例えば、アンチセンス分子、DNA、RNA、RNAi);オリゴヌクレオチド;ポリヌクレオチド;ならびにリボザイムが挙げられる。いくつかの実施形態において、ペプチドまたは抗体が、増殖因子または成長因子をこの栓に結合させるために使用され得る。
【0079】
創傷治癒および/または組織成長を促進する生物活性剤(コロニー刺激因子、血液タンパク質、フィブリン、トロンビン、フィブリノゲン、ホルモンおよびホルモンアナログ、血液凝固因子、増殖因子、成長因子、骨形成タンパク質、TGF−β、IGF、これらの組み合わせなどが挙げられる)を含むことが望ましくあり得る。ある実施形態において、骨性の相および軟骨性の相のうちのいずれかまたは両方の足場は、生物学的因子/分子および/または細胞を、移植の部位で送達および/または放出し得る。従って、この足場は、周囲の組織に必要な栄養および生物活性剤を提供することによって、自然な組織の再増殖を補助し得る。
【0080】
上記のように、マルチアームPEGすなわちPEGスターを含む実施形態において、生物活性剤は、PEGのコアに組み込まれても、PEGのアームに組み込まれても、これらの組み合わせであってもよい。ある実施形態において、生物活性剤は、PEG鎖の反応性基に付着し得る。生物活性剤は、共有結合しても非共有結合してもよい(すなわち、静電結合によってか、チオール媒介結合もしくはペプチド媒介結合によってか、またはビオチン−アビジン化学を使用して)。
【0081】
ある実施形態において、生物活性剤は、ヒドロゲルにより封入され得る。例えば、このヒドロゲルは、生物活性剤の周囲にポリマーマイクロスフィアを形成し得る。このヒドロゲルがインサイチュで加水分解するにつれて、生物活性成分および任意の添加された生物活性剤が放出される。これは、天然成分からの栄養および生物活性剤を、周囲の組織に提供し得、これによって、組織の成長および/または再生を促進し得る。
【0082】
(骨性の相と軟骨性の相とを合わせること)
骨性の相と軟骨性の相との種々の組み合わせが、本開示による骨軟骨栓を製造するために使用され得る。例えば、上に記載されたような骨性の相の材料および構成の任意のものが、処置されるべき欠損の型および骨軟骨栓から望まれる特性に依存して、同様に上に記載されたような軟骨性の相のヒドロゲルの任意のものと組み合わせられ得る。
【0083】
骨性の相は、一定の硬化時間後に固体になり得る、固体またはセメント様の足場であり得る。あるいは、骨性の相は、移植前またはインサイチュで形成され得るヒドロゲルであり得る。骨性の相は、骨の生物機械的特性を模倣するべきである。ある実施形態において、骨性の相は、内因性の増殖因子、成長因子、タンパク質、および/または細胞を漸増させ、そして/または送達するように適合させられる。ある実施形態において、骨性の相の材料は、軟骨性の相と架橋し得る反応性基を含む。
【0084】
軟骨性の相は、一成分ヒドロゲルであっても、少なくとも1つの成分として水溶性バイオポリマーを含む多成分ヒドロゲルであってもよい。このヒドロゲルの前駆体は、使用前に溶解させて溶液を形成し得、この溶液が、骨軟骨欠損部に送達される。本明細書中で使用される場合、溶液は、均質であっても、不均質であっても、相分離していても、その他であってもよい。他の実施形態において、この前駆体は、エマルジョンであり得る。2つの溶液が使用される場合、各溶液が、接触すると形成するヒドロゲル形成材料の前駆体を1つずつ含み得る。これらの溶液は、別々に保存され得、そして組織に送達されるときに混合され得る。
【0085】
一成分系において、前駆体(すなわち、求電子剤)は、組織環境の天然成分と反応して、架橋したポリマー網目構造を生成する。多成分系において、これらの前駆体は互いに反応してヒドロゲルを形成する。ある実施形態において、これらの前駆体は、求核性/求電子性反応性成分(例えば、スクシンイミドおよび第一級アミン)であり得る。一成分ヒドロゲル系と多成分ヒドロゲル系との両方において、このヒドロゲルは、骨性の相と架橋し得る。ある実施形態において、このヒドロゲルのバイオポリマー成分は、細胞の付着および分化を促進し得る。いくつかの実施形態において、このヒドロゲルは、軟骨形成を促進するためのタンパク質、ペプチド、増殖因子、および/または成長因子を含み得る。
【0086】
前駆体の架橋反応をインサイチュで起こすのに適した処方物が調製され得る。一般に、このことは、組織への塗布の時点で活性化されて架橋ヒドロゲルを形成し得る前駆体を有することによって、達成され得る。活性化は、組織への前駆体の塗布前、塗布中または塗布後に行われ得る。ただし、この前駆体は、架橋および付随するゲル化が別の状況で進行し過ぎる前に、組織の形状に適合させてもよい。活性化は、例えば、互いに反応する官能基を有する前駆体を混合することを包含する。従って、インサイチュ重合は、共有結合するための化学部分を活性化させて、不溶性材料(例えば、ヒドロゲル)を、この材料が患者の表面もしくは内部、または表面と内部との両方で配置される位置に生成することを包含する。インサイチュ重合性ポリマーは、患者内でポリマーを形成するように反応し得る前駆体から調製され得る。従って、求電子性官能基を有する前駆体は、求核性官能基を有する前駆体の存在下で混合され得るか、または他の様式で活性化され得る。
【0087】
他の実施形態において、求電子性前駆体が使用される場合、このような前駆体は、組織内の遊離アミンと反応し得、これによって、ヒドロゲルを組織に付着させるための手段として働き得る。
【0088】
ゲル化をもたらす架橋反応は、いくつかの実施形態において、約1秒〜約5分、ある実施形態においては約3秒〜約1分の時間以内で起こり得る。当業者は、これらの明示的に記載される範囲内の全ての範囲および値が想定されることを、即座に理解する。例えば、ある実施形態において、本開示によるヒドロゲルのインサイチュゲル化時間は、約20秒より短く、そしていくつかの実施形態において、約10秒より短く、そしてなお他の実施形態において、約5秒より短い。
【0089】
本開示の骨軟骨栓は、病巣の空隙を、それぞれの組織再生を促進する組織特異的な足場で満たすことによって、骨軟骨欠損部の組織修復を促進する。骨軟骨欠損部はまた、この欠損部に嵌まる形状による組織空隙との一体化を促進する。
【0090】
本開示の実施形態が、例のみとして、添付の図面を参照しながらここで記載される。
【0091】
図1を参照すると、骨軟骨栓10は、骨性の相12および軟骨性の相14を含む。骨性の相12は、骨成長因子を組み込むように修飾されたポリ(乳酸−co−グリコール酸)スポンジから形成された、固体の足場であり、この骨成長因子が、骨「b」に放出される。骨性の相12はまた、軟骨性の相14との結合のための、遊離アミンを含む。この骨性の相は、組織の一体化を増強するために、骨「b」ともまた結合し得ることが想定される。軟骨性の相14は、PEGスターおよびコラーゲン前駆体から形成されたヒドロゲルである。軟骨性の相14は、軟骨成長因子を含み、これらの軟骨成長因子が、軟骨「c」に放出される。ある実施形態において、軟骨性の相14は、インサイチュで形成され得、従って、骨性の相12を収容する組織空隙に液体として添加され得る。この液体は、インサイチュでゲル化し、これによって、骨「b」と、骨軟骨栓10の骨性の層12との間に形成され得る任意の間隙を充填する。
【0092】
ここで図2を参照すると、骨軟骨栓20は、骨性の相22および軟骨性の相24を含む。骨性の相22は、骨「b」との共有結合のため、および軟骨性の相24との結合のための遊離アミンで修飾された、柔軟な、自己硬化性の多孔性骨セメントであり、この骨の中に、この多孔性骨セメントが配置される。軟骨性の相24は、PEGスターおよびコラーゲン前駆体から形成されたヒドロゲルである。ある実施形態において、この骨セメントは、インサイチュでの硬化のためにスラリーとして形成され、そして骨「b」に添加される。軟骨性の相24は、上で図1に記載されたように、液体の形態で組織間隙に添加され得るか、または予め形成されて軟骨「c」内に配置され得る。
【0093】
図3は、骨性の相32および軟骨性の相34を含む、骨軟骨栓30を図示する。骨性の相32と軟骨性の相34との両方が、それぞれ、NHSで官能基化されたPEGスターおよびコラーゲン前駆体を含有するヒドロゲルから形成される。骨性の相32および軟骨性の相34のPEGスターのアーキテクチャ、ならびにPEGスターの濃度が異なり、これによって、各相の機械的特性およびゲル化速度論を変更する。上記のように、バイオポリマーの分子量および化学の変化もまた、ヒドロゲルの機械的特性およびゲル化速度論を制御し得る。さらに、これらのパラメータは、細孔体積、生物学的材料(例えば、増殖因子、成長因子、DNAなど)の放出速度論、および細胞応答(例えば、移動)を制御し得る。骨性の相32のヒドロゲルは、堅いゲルの形態であり、そして骨成長因子を含み、これらの骨成長因子は、骨「b」に放出される。骨性の相32のヒドロゲルは、液体として骨「b」に導入され得、そして固化させられ得、その後、軟骨性の相34のヒドロゲルが導入される。軟骨性の相34のヒドロゲルもまた、液体の形態で導入され得、そして軟骨成長因子を含み得、これらの軟骨成長因子が、軟骨「c」に放出される。
【0094】
図4は、固体の骨性の相42および固体の軟骨性の相34を含む、骨軟骨栓40を図示する。骨性の相42は、骨成長因子を含むように修飾されたポリ(乳酸−co−グリコール酸)スポンジから形成された、固体の足場であり、これらの骨成長因子が、骨「b」に放出される。骨性の相42はまた、この骨性の相が配置される骨「b」との共有結合のため、および軟骨性の相44との結合のための、遊離アミンを含む。軟骨性の相44は、固体の足場(例えば、乾燥PEGスター前駆体が内部および表面に配置されたコラーゲンスポンジ)である。生物活性剤(例えば、軟骨成長因子)がまた、このコラーゲンスポンジに添加され得る。固体の軟骨性の相44を軟骨「c」内に配置すると、この足場は、体液(例えば、血液)との接触により加水分解し、そしてPEGスター前駆体が反応してゲルを形成する。このゲルは、組織間隙内のあらゆる間隙を封止し得、そしてこの足場を、軟骨「c」および栓40の骨性の相42と共有結合させ得る。
【0095】
二相の実施形態が上に示されたが、本開示の骨軟骨栓は、2つより多くの相を有し得、各相が、上記のような種々の材料のいずれかから形成され得、そして同様に上記のような生物活性剤のいずれかを含み得る。
【0096】
本開示の骨軟骨栓を移植するための方法が、図5A〜図5Dに図示されている。骨軟骨栓の移植は、観血外科手術によっても、最小侵襲性外科手術によってもよい。骨軟骨欠損部が同定されてきれいにされた後に、送達デバイス100(骨軟骨栓の少なくとも骨性の相112を装填されている)が、図5Aに図示されるように、欠損部「d」の上に配置され得る。この送達デバイスは、内部チャネルまたは管腔104を含む外側シャフト102を備え、この内部チャネルまたは管腔は、骨軟骨栓の骨性の相112を収容する。内部シャフトまたはプランジャー106が、外側シャフト102の内部チャネル104内に配置された材料を欠損部「d」内に入れ込むために、この内部チャネル内にスライド可能に係合する。図5Bに図示されるように、表面ガイド108が展開されて、デバイス100を組織に対して安定化させ、そしてこのデバイスを欠損部「d」と整列させる。プランジャー106を欠損部「d」の方向に前進させることによって、骨性の相112が送達デバイス100の外側シャフト102から排出される。上記のように、骨性の相112は、固体であっても粘性の形態であってもよい。ここで図5Cを参照すると、骨性の相112は、軟骨の下の骨の表面「b」の位置まで、欠損部「d」を充填する。骨性の相112の配置後、プランジャー106は、送達デバイス100の外側シャフト102の内部チャネル106内に、軟骨表面「c」と実質的に整列し得るレベルで引き戻される。次に図5Dに図示されるように、プランジャー106は、中心ボア107を備え得、この中心ボアを通して、軟骨性の相114の材料が通されて、欠損部の残りの部分(すなわち、軟骨「c」)を満たし得る。従って、ヒドロゲル組成物(軟骨性の相)が、プランジャー106の中心ボア107を通して、欠損部「d」に導入され得る。次いで、この骨軟骨栓は、硬化させられ、そして送達デバイス100は、取り除かれ得る。あるいは、プランジャー106は、骨性の相112の配置後に外側シャフト102から取り除かれ得、そして使用前に溶液に入れられ得る前駆体が、注射器(図示せず)を介してこの欠損部に送達され得る。1つの前駆体(すなわち、求電子性架橋剤)の送達のために1つの注射器を使用しても、1つより多くの前駆体溶液を塗布するために、二重注射器または類似のデバイス(例えば、米国特許第4,874,368号;同第4,631,055号;同第4,735,616号;同第4,359,049号;同第4,978,336号;同第5,116,315号;同第4,902,281号;同第4,932,942号;同第6,179,862号;同第6,673,093号;および同第6,152,943号に記載されるもの)を使用してもよい。
【0097】
本開示の数個の実施形態が記載されたが、本開示はこれらの実施形態に限定されることは意図されない。なぜなら、本開示は、当該分野が許容するのと同程度まで範囲が広く、そして本明細書も同様に読まれることが意図されるからである。従って、上記説明は、限定であると解釈されるべきではなく、単に、本開示の実施形態の例示であると理解されるべきである。骨軟骨栓、骨性の相および軟骨性の相の所望の特性、ならびにこのデバイスの骨性の相および軟骨性の相を形成する方法およびこれらの構成要素を一緒に取り付ける方法の様々な改変および変更は、上記詳細な説明から、当業者に明らかである。このような改変および変更は、添付の特許請求の範囲の趣旨および範囲内であることが意図される。
【符号の説明】
【0098】
10、20、30、40 骨軟骨栓
12、22、32、42、112 骨性の相
14、24、34、44、114 軟骨性の相
100 送達デバイス
102 外側シャフト
104 内部チャネル
106 プランジャー
107 中心ボア
108 表面ガイド
b 骨
c 軟骨
d 欠損部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つ以上のペンダント反応性官能基を含む固体の第一の足場;および
該第一の足場の該1つ以上のペンダント反応性官能基と反応し得る第二の足場、
を含む、骨軟骨栓。
【請求項2】
前記第一の足場が多孔性である、請求項1に記載の骨軟骨栓。
【請求項3】
前記第一の足場が発泡体またはスポンジを含む、請求項1に記載の骨軟骨栓。
【請求項4】
前記第一の足場が生分解性ポリマーを含む、請求項1に記載の骨軟骨栓。
【請求項5】
前記生分解性ポリマーが、ポリラクチド、ポリ(乳酸)、ポリグリコリド、ポリ(グリコール酸)、ポリ(トリメチレンカーボネート)、ポリ(ジオキサノン)、ポリ(ヒドロキシ酪酸)、ポリ(ヒドロキシ吉草酸)、ポリ(ラクチド−co−(ε−カプロラクトン))、ポリ(グリコリド−co−(ε−カプロラクトン))、ポリ(乳酸−co−グリコール酸)、ポリカーボネート、ポリ(偽アミノ酸)、ポリ(アミノ酸)、ポリ(ヒドロキシアルカノエート)、ポリアルキレンオキサレート、ポリオキサエステル、ポリ酸無水物、ポリオルトエステル、およびこれらのコポリマー、ブロックコポリマー、ホモポリマー、ブレンド、ならびに組み合わせからなる群より選択される、請求項4に記載の骨軟骨栓。
【請求項6】
前記第一の足場が骨セメントを含む、請求項1に記載の骨軟骨栓。
【請求項7】
前記骨セメントがポリ(メタクリル酸メチル)を含む、請求項6に記載の骨軟骨栓。
【請求項8】
前記1つ以上のペンダント反応性官能基が、求電子性基を含む、請求項1に記載の骨軟骨栓。
【請求項9】
前記求電子性基が、N−ヒドロキシスクシンイミド、スルホスクシンイミド、カルボニルジイミダゾール、塩化スルホニル、アリールハロゲン化物、スルホスクシンイミジルエステル、N−ヒドロキシスクシンイミジルエステル、スクシンイミジルエステル、イソシアネート、チオシアネート、カルボジイミド、ベンゾトリアゾールカーボネート、エポキシド、アルデヒド、マレイミド、イミドエステル、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項8に記載の骨軟骨栓。
【請求項10】
前記1つ以上のペンダント反応性官能基が求核性基を含む、請求項1に記載の骨軟骨栓。
【請求項11】
前記求核性基が、−NH、−SH、−OH、−PH、−CO−NH−NH、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項10に記載の骨軟骨栓。
【請求項12】
前記求核性基がアミン基である、請求項10に記載の骨軟骨栓。
【請求項13】
前記第二の足場が、前記第一の足場の前記1つ以上のペンダント反応性官能基と結合を形成し得る、1つ以上の相補的反応性官能基を含む、請求項1に記載の骨軟骨栓。
【請求項14】
前記1つ以上の相補的反応性官能基が求電子性基を含む、請求項13に記載の骨軟骨栓。
【請求項15】
前記求電子性基が、N−ヒドロキシスクシンイミド、スルホスクシンイミド、カルボニルジイミダゾール、塩化スルホニル、アリールハロゲン化物、スルホスクシンイミジルエステル、N−ヒドロキシスクシンイミジルエステル、スクシンイミジルエステル、イソシアネート、チオシアネート、カルボジイミド、ベンゾトリアゾールカーボネート、エポキシド、アルデヒド、マレイミド、イミドエステル、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項14に記載の骨軟骨栓。
【請求項16】
前記1つ以上の相補的反応性官能基が求核性基を含む、請求項13に記載の骨軟骨栓。
【請求項17】
前記求核性基が、−NH、−SH、−OH、−PH、−CO−NH−NH、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項16に記載の骨軟骨栓。
【請求項18】
前記求核性基がアミン基である、請求項16に記載の骨軟骨栓。
【請求項19】
前記第二の足場が少なくとも1つのヒドロゲル前駆体を含む、請求項1に記載の骨軟骨栓。
【請求項20】
前記少なくとも1つの前駆体が、求電子剤、求核剤、およびこれらの組み合わせを含む、請求項19に記載の骨軟骨栓。
【請求項21】
前記第一の足場が少なくとも1つのヒドロゲル前駆体を含む、請求項1に記載の骨軟骨栓。
【請求項22】
前記少なくとも1つのヒドロゲル前駆体が、求電子剤、求核剤、およびこれらの組み合わせを含む、請求項21に記載の骨軟骨栓。
【請求項23】
少なくとも1種の生物活性剤をさらに含む、請求項1に記載の骨軟骨栓。
【請求項24】
前記生物活性剤が、アミノ酸、ペプチド、抗体、酵素、薬物、骨成長因子、骨形成タンパク質、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項23に記載の骨軟骨栓。
【請求項25】
1つ以上のペンダント反応性官能基を含む第一の固体足場であって、組織欠損部内に配置されるように構成されている、第一の固体足場;および
該第一の足場の該1つ以上のペンダント反応性官能基と反応し得る第二の足場であって、該第一の足場の少なくとも一部分と接触して該組織欠損部内に配置されるように構成されている、第二の足場、
を含む、骨軟骨欠損部を充填するためのシステム。
【請求項26】
前記第一の足場および前記第二の足場が、前記組織欠損部内に配置される前に送達デバイスに装填されるように構成されており、該送達デバイスが、該第一の足場を収容するための内部チャネルを備える外側シャフトと、必要に応じて中心ボアを備えるプランジャーとを備え、該プランジャーは、該第一の足場を該組織欠損部に入れ込むために該内部チャネルとスライド可能に係合する、請求項25に記載のシステム。
【請求項27】
前記第一の足場が前記送達デバイスから排出されるように構成されている、請求項26に記載のシステム。
【請求項28】
前記第二の足場が、前記送達デバイスから前記第一の足場の少なくとも一部分の上に排出されるように構成されている、請求項26に記載のシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−235095(P2011−235095A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−98764(P2011−98764)
【出願日】平成23年4月26日(2011.4.26)
【出願人】(507362281)タイコ ヘルスケア グループ リミテッド パートナーシップ (666)
【Fターム(参考)】