説明

インサート成形用加飾シート及びインサート加飾成形品

【課題】真空成形により凸部と該凸部に続く鍔状部とを形成した加飾シートの不要部分である鍔状部のトリミングによってインサート加飾成形品の表面にバッカー層を露出させることがなく、美感に優れるインサート加飾成形品を簡便に製造する方法を提供する。
【解決手段】加飾層とバッカー層とを有するインサート成形用加飾シートであり、該成形用加飾シートは凸部と該凸部に続く鍔状部を有し、かつ該鍔状部の長さが、該加飾シートの厚さの1〜3倍である、インサート成形用加飾シートである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用、住宅用や家具用等の各種の加飾成形品を製造するためのインサート加飾成形品の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のインサート加飾成形品の製造方法としては、種々の方法が知られている。
例えば、特許文献1には、基材シート上に少なくとも絵柄層と接着層が形成されているインサートシートを、所望の立体成形品を成形するための凹部を有する雌型と雄型とから成る射出成形金型に装着し、型締め後、金型間に成形樹脂を射出することにより、立体成形品を形成すると同時にその表面にインサートシートを形成したインサート成形品の製造方法に関し、雌型と雄型との間にインサートシートを装着する前に、前記インサートシートを前記雌型の凹部の内面形状に合致するようにプレフォームし、且つ前記所望の立体成形品の表面の周縁よりはみ出さないようにトリミングしておくことが提案されている。
【0003】
また、特許文献2には、射出成形金型の雄型あるいは雌型のキャビティ形成面形状にほぼ合致するようにインサート材をプレフォームするとともに、所望の立体成形品の表面の周縁よりはみ出ないようにインサート材の不要部分をトリミングし、つぎに、プレフォーム及びトリミングされたインサート材を射出成形金型まで搬送し、射出成形金型の雄型あるいは雌型のキャビティ形成面に装着し、つぎに、雌型と雄型とを型閉めしてキャビティを形成し、キャビティに成形樹脂を射出し、成形樹脂の冷却固化を待ってインサート成形品を射出成形金型内から取り出すことを特徴とするインサート成形品の製造方法が提案されている。
【0004】
更に、特許文献3には、予め加飾シートを真空成形型で真空成形後、不要部分はトリミングして成形シートとし、そして、この成形シートを、射出成形型に挿入して樹脂を射出するインサート成形法による加飾成形品の成形方法が開示されている。
これらの発明は、いずれも加飾シートの不要部分をトリミングするものであり、インサート加飾成形品の外観性向上のために、トリミング方法を工夫したものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−106562号公報
【特許文献2】特開平6−270199号公報
【特許文献3】特開2004−322501号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図1は、本発明のインサート加飾成形品の製造方法に用いられる、真空成形された加飾シートの部分断面を示す模式図である。
加飾シート10は、加飾層11とバッカー層12とからなり、真空成形工程により凸部101と凸部101に続く鍔状部102とを形成する。
図2は、従来の方法によりトリミングされた加飾シートの部分断面を示す模式図である。真空成形工程において、図2に示すように、従来の方法である鍔状部102の略直角方向から(即ち、加飾シート10の上側又は下側から)鍔状部102をなくすように加飾シート10を切断すると、加飾シート10のバッカー層12が露出し、バッカー層12の色と射出された成形樹脂の色とが異なる場合は、インサート加飾成形品の表面の一部にバッカー層の色が目立つことになり、インサート加飾成形品の美感を損ね、商品価値を著しく低下させることがあった。
一方、図3は、比較例となる方法によりトリミングされた加飾シートの部分断面を示す模式図である。図3に示すように、鍔状部102の略平行方向から(即ち、加飾シートの水平方向から)加飾シート10の鍔状部102をなくすように加飾シート10を切断するのは、切断方法が複雑となり、トリム型等の高価なトリミング装置が必要となるばかりか、トリミングの調整に時間もかかり、トリミング工程の生産性が著しく低下することとなる。
従って、本発明の課題は、真空成形により凸部と該凸部に続く鍔状部とを形成した加飾シートの不要部分である鍔状部のトリミングによって、インサート加飾成形品の表面にバッカー層を露出させることがなく、美感に優れるインサート加飾成形品を簡便に製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、前記課題を達成するために鋭意研究を重ねた結果、加飾シートのトリミング方法に改良を加えることにより、前記課題を解決し得ることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
すなわち、本発明は、加飾層とバッカー層とを有するインサート成形用加飾シートであり、該成形用加飾シートは凸部と該凸部に続く鍔状部を有し、かつ該鍔状部の長さが、該加飾シートの厚さの1〜3倍である、インサート成形用加飾シートである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、真空成形により凸部と該凸部に続く鍔状部とを形成した加飾シートの不要部分である鍔状部のトリミングによって、インサート加飾成形品の表面にバッカー層を露出させることのないインサート成形用加飾シートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明のインサート加飾成形品の製造方法に用いられる、真空成形された加飾シートの部分断面を示す模式図である。
【図2】従来の方法によりトリミングされた加飾シートの部分断面を示す模式図である。
【図3】比較例となる方法によりトリミングされた加飾シートの部分断面を示す模式図である。
【図4】本発明のインサート加飾成形品の製造方法によりトリミングされた加飾シートの部分断面を示す模式図である。
【図5】本発明のインサート加飾成形品の製造方法の真空成形工程において、真空成形前の加熱段階を示す工程模式図である。
【図6】本発明のインサート加飾成形品の製造方法の真空成形工程において、加熱段階終了後の真空成形準備段階を示す工程模式図である。
【図7】本発明のインサート加飾成形品の製造方法の真空成形工程において、真空成形を示す工程模式図である。
【図8】本発明のインサート加飾成形品の製造方法において、トリミングされた加飾シートの断面を示す模式図である。
【図9】本発明のインサート加飾成形品の製造方法において、射出成形の準備段階を示す工程模式図である。
【図10】本発明のインサート加飾成形品の製造方法において、射出成形直後を示す工程模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を、図面を参照しながら説明する。図4は、本発明のインサート加飾成形品の製造方法によりトリミングされた加飾シートの部分断面を示す模式図である。
本発明のインサート加飾成形品の製造方法は、真空成形工程により凸部101と凸部101に続く鍔状部102とを形成した加飾シート10を、図4に示すように、鍔状部102の略直角方向から(即ち、加飾シート10の上側又は下側から)加飾シート10の厚さの1〜3倍の長さの鍔状部102を残すようにトリミングすることを特徴とする。ここで、残された鍔状部102aの長さは、加飾シート10の凸部101の外側の加飾層11表面の延長線(図4において、点線で表示されている)と鍔状部102aの加飾層11表面の延長線(図4において、一点鎖線で表示されている)との交点Aから鍔状部102aの端部(即ち、一点鎖線と切断面との交点B)までの長さをいう。なお、図4では、交点Aを通る鉛直線を二点鎖線で表示している。
残された鍔状部102aの長さが、加飾シート10の厚さの1倍未満であると、加飾シート10のバッカー層12がインサート加飾成形品の表面に露出する恐れが高くなり、加飾シート10の厚さの3倍を超えると、後述するように射出工程において射出圧に押されても残された鍔状部102aが金型に沿って十分整形されないので、インサート加飾成形品の美感が低下する恐れが高くなる。
【0011】
次に、本発明のインサート加飾成形品の製造方法の実施態様を工程順に詳細に説明する。
図5は、本発明のインサート加飾成形品の製造方法の真空成形工程において、真空成形前の加熱段階を示す工程模式図であり、図6は、本発明のインサート加飾成形品の製造方法の真空成形工程において、加熱段階終了後の真空成形準備段階を示す工程模式図であり、図7は、本発明のインサート加飾成形品の製造方法の真空成形工程において、真空成形を示す工程模式図である。
真空成形工程において、図5に示すように、本発明製造方法に用いられる加飾シート10は、真空成形に先立ち、ヒーター22、22'により通常140〜180℃に加熱される。加熱され軟化した加飾シート10は、図6及び7に示すように、真空成形金型21に装着され、真空吸引により凸部101と凸部101に続く鍔状部102とを形成するように真空成形される。
【0012】
次に、トリミング工程において、上述のように所定長さの鍔状部を残してトリミングする。但し、トリミング工程は真空成形工程内で、真空成形された直後に設けられてもよい。
図8は、本発明のインサート加飾成形品の製造方法において、トリミングされた加飾シート10の断面を示す模式図である。加飾シート10の厚さは、通常200〜800μmであり、その内、バッカー層の厚さは通常100〜500μmである。従って、残された鍔状部102aの長さは、200〜2,000μm程度であることが好ましく、200〜1,500μm程度であることが更に好ましく、300〜1,000μm程度であることが特に好ましい。
【0013】
図9は本発明のインサート加飾成形品の製造方法において、射出成形の準備段階を示す工程模式図であり、図10は本発明のインサート加飾成形品の製造方法において、射出成形直後を示す工程模式図である。
上述のようにトリミングされた加飾シート10は、その後、射出成形工程において、図9に示すように鍔状部102を有したままで射出成形金型31に装着されるが、成形樹脂40が射出されるとその射出圧により、図10に示すように鍔状部102も射出成形金型31に密着し、バッカー層12が露出しないインサート加飾成形品が得られる。
成形樹脂40は通常200〜260℃の温度で、通常20〜300MPaの射出圧で射出される。
【0014】
本発明のインサート加飾成形品の製造方法に用いられる加飾シート10の加飾層11は、通常、基材シートの上に絵柄層及び/又は隠蔽層がその順に積層され、所望により更に接着剤層が積層される。
【0015】
基材シートとしては、真空成形適性を考慮して選定され、代表的には熱可塑性樹脂からなる樹脂シートが使用される。該熱可塑性樹脂としては、一般的には、アクリル樹脂(二種以上のアクリル樹脂の混合物も含む)、あるいは、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン系樹脂、あるいは、ポリカーボネート樹脂、ABS樹脂等が使用される。そして、基材シートは、これら樹脂の単層シート、あるいは同種又は異種樹脂による複層シートとして使用される。
アクリル樹脂としては、例えば、ポリメチル(メタ)アクリレート、ポリエチル(メタ)アクリレート、ポリブチル(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート−ブチル(メタ)アクリレート共重合体、メチル(メタ)アクリレート−スチレン共重合体等が挙げられる。但し、(メタ)アクリレートとは、アクリレート又はメタクリレートをいう。
基材シートの厚みは、用途に応じて選定されるが、通常、20〜500μm程度であるが、コスト、印刷適性、表面平滑性等を考慮すると50〜300μm程度が好ましい。
【0016】
絵柄層の絵柄は、例えば、木目模様、石目模様、砂目模様、タイル貼調模様、煉瓦積調模様、布目模様、皮絞模様、文字、記号、図形、幾何学模様等である。
絵柄層等のインキには、用途に合わせて公知のインキを使用すれば良い。バインダー樹脂には、アクリル樹脂、アクリル樹脂と塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体との混合物、ウレタン樹脂、セルロース系樹脂等が使用され、着色剤には、チタン白、カーボンブラック、弁柄、コバルトブルー等の無機顔料、フタロシアニンブルー、イソインドリノン、キナクリドン等の有機顔料、アルミニウム粉末等の金属顔料、二酸化チタン被覆雲母粉末等の真珠光沢(パール)顔料、或いは、染料等が使用される。
隠蔽層は、全面ベタ層であり、絵柄層と同様なバインダー樹脂や顔料、染料等が使用される。
絵柄層又は隠蔽層の印刷は、グラビア印刷、オフセット印刷、活版印刷、スクリーン印刷、インクジェット印刷等、従来公知の適宜方法が採用される。隠蔽層は、グラビア塗工、ロールコート等の塗工法により形成することが好ましい。
絵柄層の厚さは、絵柄模様に応じて適宜選択すればよい。また、隠蔽層の厚さは1〜10μm程度であり、通常グラビア印刷では1〜5μm 程度である。
【0017】
所望により積層される接着剤層は、バッカー層に応じて、熱可塑性樹脂、硬化性樹脂、ゴム系樹脂が、具体的には例えば、ウレタン樹脂(例えば、2液硬化型ウレタン樹脂)、塩素化ポリプロピレン等の塩素化ポリオレフィン、アクリル樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂等が用いられる。接着剤層の厚みは要求物性等に応じて適宜厚さとすれば良いが、通常1〜20μm程度である。また、接着剤層の形成方法は特に限定は無いが、通常は、上記樹脂を希釈溶剤で希釈した樹脂液からなるインキ又は塗液として、グラビア印刷、ロールコート等の公知の印刷又は塗工手段により形成する。接着剤層はバッカー層12に塗工してもよい。
【0018】
本発明のインサート加飾成形品の製造方法に用いられる加飾シート10のバッカー層12としては、ABS樹脂、ポリオレフィン樹脂、スチレン樹脂、アクリル樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリカーボネート樹脂等が好ましい。ポリオレフィン樹脂としては、ポリプロピレン樹脂が好ましい。これらの樹脂の内、ABS樹脂及びポリプロピレン樹脂が特に好ましい。成形樹脂40がABS樹脂である場合はABS樹脂が、ポリプロピレン樹脂である場合はポリプロピレン樹脂が賞用される。
本発明に用いられる加飾シート10は、通常、加飾層11とバッカー層12とを接着剤層を介してドライラミネーション等により接着し一体化して製造される。
【実施例】
【0019】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
なお、インサート加飾成形品の外観は目視により評価した。
【0020】
実施例1〜2及び比較例1〜2
ポリメチルメタクリレート樹脂からなる基材シート(厚さ75μm)に、ポリメチルメタクリレート/塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体(質量比:2/1)からなる絵柄層(厚さ1μm)、ポリメチルメタクリレート及びポリブチルメタクリレートの混合物及び無機顔料からなる隠蔽層(厚さ2μm)及び2液硬化型ウレタン樹脂系接着剤からなる接着剤層(厚さ10μm)を順次積層して得た加飾層11と、赤色のABS樹脂からなるバッカー層12とをドライラミネーションにより接着し一体化して、厚さ400μmの4枚の加飾シート10を調製した。
その後、4枚の加飾シート10をそれぞれ加飾シート10の温度が約160℃になるまで約300℃のヒーターで加熱した。加熱され軟化した加飾シート10を真空成形金型21に装着し、真空吸引により凸部101と凸部101に続く鍔状部102とを形成するように真空成形した。
次に、真空成形された4枚の加飾シート10をそれぞれ表1に示すように鍔状部102をトリミングして実施例1〜2及び比較例1〜2の4種類の加飾シート10を得た。
これら4種類の加飾シート10をそれぞれ図9に示すように鍔状部102aを有した状態で射出成形金型31に装着し、黒色のABS樹脂からなる成形樹脂40を射出温度240℃、射出圧100MPaで射出し、4種類のインサート加飾成形品を得た。
【0021】
【表1】

【0022】
実施例1及び2により得られたインサート加飾成形品は、いずれも、バッカー層12のABS樹脂の赤色が表面に露出せず、且つ鍔状部102aが金型に沿って十分整形されており、美感に優れ、外観性が良好であった。
一方、比較例1により得られたインサート加飾成形品は、鍔状部102aの長さが短すぎるので、バッカー層12のABS樹脂の赤色が表面に露出し、美感を損ねた。また、比較例2により得られたインサート加飾成形品は、鍔状部102aの長さが長すぎるので、残された鍔状部102aが金型に沿って整形されない部分が成形品に表出し、美感を損ねた。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明の製造方法は、各種の自動車用内装品や外装品、ビルディング・家屋等の内装品や家具、高級日用雑貨品等の各種のインサート加飾成形品の製造方法として好適に用いられる。
【符号の説明】
【0024】
10 加飾シート
11 加飾層
12 バッカー層
101 凸部(加飾シートの凸部)
102 鍔状部(加飾シートの鍔状部)
102a 残された鍔状部
102b トリミングされた鍔状部
21 真空成形金型
22、22' ヒーター
31 射出成形金型

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加飾層とバッカー層とを有するインサート成形用加飾シートであり、該成形用加飾シートは凸部と該凸部に続く鍔状部を有し、かつ該鍔状部の長さが、該加飾シートの厚さの1〜3倍である、インサート成形用加飾シート。
【請求項2】
請求項1に記載のインサート成形用加飾シートを用い、前記バッカー層側に成形樹脂を射出してなり、前記鍔状部のバッカー層が露出しない、インサート加飾成形品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−78957(P2013−78957A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2013−19686(P2013−19686)
【出願日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【分割の表示】特願2007−173071(P2007−173071)の分割
【原出願日】平成19年6月29日(2007.6.29)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】