説明

インジウムクロロジアルコキシドの製造方法

本発明は、一般式InX(OR)[式中、XはF、Cl、Br、Iであり、かつRはアルキル基、アルキルオキシアルキル基である]のインジウム(III)ハロゲンジアルコキシドを製造するための方法に関し、その際、インジウム三ハロゲン化物InX[式中、XはF、Cl、Brおよび/またはIである]および一般式ROH[式中、Rはアルキル基、アルキルオキシアルキル基である]の少なくとも1種のアルコールを含む化合物(A)を、一般式R’NH[式中、R’がアルキル基である]の少なくとも1種の第2級アミンを含む化合物(B)と反応させる。さらに本発明は、前記方法によって製造されたインジウム(III)ハロゲンジアルコキシドおよびその使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インジウムクロロジアルコキシドの製造方法、当該方法によって製造可能なインジウムクロロジアルコキシドならびにその使用に関する。
【0002】
印刷プロセスおよびその他の液体析出プロセスによるによる半導体の電子素子膜の製造は、数多くの他の方法、例えば化学蒸着法(CVD)と比較して、ずっと低い製造コストを可能にする。なぜなら、この場合、半導体の堆積を連続的な印刷プロセスにおいて行うことができるからである。その上また、低いプロセス温度では、フレキシブルな基材上で作業し、かつ場合により(なかでも、非常に薄い膜の場合と、殊に酸化物半導体の場合に)印刷膜の光学的な透明性を達成するという可能性が開ける。半導体の膜とは、これ以降、ゲート・ソース電圧50V及びソース・ドレイン電圧50Vにて20μmのチャネル長さを有する素子にて1〜50cm2/Vsの電荷担体移動度を有する膜と理解される。
【0003】
印刷法により製造される素子膜の材料は、そのつどの成膜特性を大きく決定づけるものであるので、その選択は、この素子膜を含有する各々の素子に重要な影響を及ぼす。印刷された半導体膜の重要なパラメーターは、該半導体膜のそのつどの電荷担体移動度並びに該半導体膜の製造に際して使用される印刷可能な前駆体の加工性及び加工温度である。材料は、多数の適用及び基材に適しているように、良好な電荷担体移動度を有し、かつ溶液から、そして500℃を明らかに下回る温度で製造可能であることが望ましい。同様に、多くの新しい適用に所望されていることは、作製された半導体膜の光学的な透明性である。
【0004】
酸化インジウム(インジウム(III)オキシド、In)は、3.6〜3.75eVの大きなバンドギャップ(蒸着膜について測定)[H.S.Kim,P.D.Byrne,A.Facchetti,T.J.Marks;J.Am.Chem.Soc.2008,130,12580−12581]に基づき、将来も有望であって、それによりよく使用されている半導体である。その上また、数百ナノメートルの厚みの薄い膜は、550nmにて90%より大きい可視スペクトル領域中での高い透過率を有することができる。極めて高度に規則正しい配列を持った酸化インジウムの単結晶中では、おまけに160cm2/Vsまでの電荷担体移動度を測ることができる。しかしながら、これまで、かかる値を溶液からの処理によって達成することは依然としてできていない(H.Nakazawa,Y.Ito,E.Matsumoto,K.Adachi,N.Aoki,Y.Ochiai;J.Appl.Phys.2006,100,093706及びA.Gupta,H.Cao,Parekh,K.K.V.Rao,A.R.Raju,U.V.Waghmare;J.Appl.Phys.2007,101,09N513)。
【0005】
しばしば、酸化インジウムは、なかでも酸化スズ(IV)(SnO)と一緒に半導体の混合酸化物ITOとして使用される。可視スペクトル領域中での透過性を同時に併せ持つITO膜の比較的高い導電性に基づき、とりわけ液晶表示(LCD;liquid crystal display)の分野での使用、殊に「透明電極」としての使用が見出される。たいていの場合にドープされたこれらの金属酸化物膜は、工業的には、なかでも高い真空中での費用の掛かる蒸着法によって製造される。ITOコーティングされた基材への経済的な大きな関心に基づき、その間に、なかでもゾル・ゲル法に拠った、酸化インジウム含有膜のための幾つかのコーティング法が存在している。
【0006】
原則、印刷法による酸化インジウム半導体の製造には2つの可能性がある:1)(ナノ)粒子が印刷可能な分散液中に存在し、かつ印刷プロセス後に焼結プロセスによって所望の半導体膜に転化する粒子構想、ならびに2)少なくとも1種の可溶性のまたは分散可能な前駆生成物を、相当する組成物の印刷後に酸化インジウム含有膜へと変換する前駆体構想。粒子構想は、前駆体の使用に比べて2つの重大な欠点を有している:1つ目は、粒子の分散液がコロイド不安定性を有し、これは(後の成膜特性に関して不利な)分散添加剤の使用を必要としていることであり、2つ目は、使用可能な粒子の多くが(例えば不動態膜に基づき)焼結によって不完全な膜しか形成せず、その結果、該膜中で部分的になお粒状の構造が発生することである。これらの粒子境界では、電荷担体の移動度を抑制し、かつ一般的な膜抵抗を高める、顕著な粒子−粒子−抵抗が生じる。
【0007】
酸化インジウム膜を製造するために種々の前駆体が存在する。したがって、インジウム塩以外に、インジウムアルコキシド(ホモレプティック化合物、すなわち、インジウムおよびアルコキシド残基のみを有する化合物)を、インジウム含有層の製造のための前駆体として使用することができる。
【0008】
例えば、Marksらは、塩であるInCl、ならびにメトキシエタノール中に溶解された塩基であるモノエタノールアミン(MEA)を含む前駆体含有組成物を製造に際して使用した素子を記載している。当該組成物のスピンコーティングによって、相当する酸化インジウム膜は、400℃の熱処理によって生じる(M.S.Kirn,P.D.Byrne,A.Facchetti,T.J.Marks;J.Am.Chem.Soc.2008,130,12580−12581および付録)。
【0009】
インジウム塩含有組成物と比べて、インジウムアルコキシド含有組成物は、該組成物が、より低い温度で酸化インジウム含有コーティングへと変換できるという利点を提供する。さらに、従来は、ハロゲン含有前駆体は、潜在的に、低い品質を有するハロゲン含有膜を招くといった欠点を有すると仮定されていた。この理由から、過去に、インジウムアルコキシドを有する膜形成のための試みがされていた。
【0010】
インジウムアルコキシドとその合成は、すでに前世紀の70年代から記載されている。
【0011】
したがって、たとえばCarmaltらは、評論記事においてこの時点において公知の、特にインジウム(III)アルコキシドおよびインジウム(III)アルキルアルコキシドの合成、構造および反応性に関するデータをまとめている(Carmaltら、Coord Chem Rev 250(2006)、682−709)。
【0012】
以前から知られているインジウムアルコキシの合成は、Chatterjeeらが記載している。彼らは、インジウム(III)クロリド(InCl)から、ナトリウムアルコキシドNa−OR[式中、Rは−メチル、−エチル、イソプロピル、n−、s−、t−ブチルおよび−ペンチル基を示す]による、インジウムトリスアルコキシドIn(OR)の製造を記載している(S.Chatterjee,S.R.Bindal,R.C.Mehrotra;J.Indian Chem.Soc.1976,53,867)。
【0013】
Bradleyらは、Chatterjeeらと似た反応を報告しており、そして、ほぼ同一の出発材料(InCl、イソプロピルナトリウム)及び反応条件にて中心原子として酸素を有するインジウムオキソクラスターを得ている(D.C.Bradley,H.Chudzynska,D.M.Frigo,M.E.Hammond,M.B.Hursthouse,M.A.Mazid;Polyhedron 1990,9,719)。
【0014】
この方法の特に好ましい変法は、生成物中の塩素についての特に低い汚染を導くものであって、US2009−0112012A1に記載されている。したがって、生成物中の塩素不純物の可能な限り低い程度を達成するといった努力は、従来、塩素不純物が、電子素子の性能または寿命の低下に寄与するといわれてきたことに起因するものである(たとえばUS6426425B2参照)。
【0015】
同様にインジウムハロゲン化物に基づく、しかしながら他の塩基に基づく、US5237081Aに記載された純粋なインジウムアルコキシドを製造するための方法は、インジウム(III)ハロゲン化物を、塩基性媒体中でアルコールを用いて変換する。塩基は、低い求核性を有する強塩基でなければならない。例として挙げられる塩基は、例証された錯体以外には、環式の、ヘテロ環式の第3級アミンである。
【0016】
US4681959Aは、金属アルコキシド(特にテトラアルコキシ化合物、たとえばテトラメチルチタネート)を製造するための一般に二段階の方法を記載しており、その際、少なくとも2価の金属のハロゲン化物を、アルコールを用いて、場合によっては芳香族溶剤の存在下で、先ず中間生成物(金属のハロゲンアルコキシ化合物)に変換する。引き続いてこの中間生成物を、水素ハロゲン化物−受容体(特に第3級アミン)の存在下にアルコールと反応させて、金属アルコキシドを形成する。
【0017】
ホモレプティックインジウムアルコキシド錯体のための代替的な合成経路は、Seigi Suhらにより、J.Am.Chem.Soc.2000,122,9396−9404に記載されている。しかしながら、ここで記載された方法は、極めて消費的であるか、および/または非商業的に得られる出発材料に基づくものである(それゆえ、予備工程において前もって合成しなければならないという欠点を有する)。
【0018】
驚くべきことに、塩素含有前駆体が必然的に不利な膜を導くといった従来の考えは、必ずしも正しくないことをつきとめた。それどころか、液体の前駆体組成物を基板に施与し、かつコーティングフィルムを、熱変換前に先ずUV照射によって処理する前駆体をベースとする方法にて、インジウムアルコキシドに代えてインジウムクロロジアルコキシドを使用する場合には、改善された膜を生じ、それというのも、この膜は、改善された電気的性質、特に高い電解効果移動度μFETを示すためである。したがって、インジウムクロロジアルコキシド合成のための方法は極めて重要である。
【0019】
ハロゲン−アルコキシ−金属−化合物を製造するための一般的な方法は、US4681959Aに記載されている。US4681959Aは、金属アルコキシド(特にテトラアルコキシ化合物、たとえばテトラメチルチタネート)を製造するための一般的に二段階の方法を記載しており、その際、少なくとも2価の金属のハロゲン化物は、場合によっては芳香族溶剤の存在下で、アルコールと一緒に、先ず中間生成物(金属のハロゲンアルコキシ化合物)に変換される。これに関して好ましくは、生じたハロゲン水素を不活性ガス、たとえば窒素で搬出する。しかしながらここで記載された方法は、インジウムハロゲン化物を出発材料として使用する場合には、アルコールとの反応は極めてゆっくりと進行するか、あるいは、InCl(ROH)型のアダクトの形成により終了する。
【0020】
インジウムハロゲンアルコキシドおよびその合成は、JP02−113033AおよびJP02−145459Aに記載されている。すなわち、JP02−113033Aは、インジウムの塩素含有アルコキシドを、組み込まれるアルコキシド基に相当するアルコール中に塩化インジウムを溶解後、アルカリ金属又はアルカリ金属オキシドの定められた量を引き続いて添加することによって製造することを開示している。さらに相当する方法はJP02−145459Aにも記載されている。しかしながらこの方法における欠点は、生じるインジウムクロロアルコキシドのナトリウムによる考えられる汚染である。
【0021】
したがって本発明の課題は、従来技術における欠点、特に遅い反応速度および合成の際に生じる不純物を回避する、インジウムクロロジアルコキシドの合成方法を提供することである。
【0022】
驚くべきことにこの課題は、本発明による一般式InX(OR)[式中、XはF、Cl、Br、Iであり、かつRはアルキル基、アルキルオキシアルキル基である]のインジウム(III)ハロゲンジアルコキシドを製造する方法によって解決され、この場合、この方法は、インジウム三ハロゲン化物InX[式中、XはF、Cl、Brおよび/またはIである]および一般式ROH[式中、Rはアルキル基、オキシアルキル基である]の少なくとも1種のアルコールを含む組成物(A)と、一般式R’NH[式中、R’はアルキル基である]の少なくとも1種の第2級アミンを含む組成物(B)を反応させることによる。
【0023】
これに関して、アルキル基またはアルコキシアルキル基Rとは、好ましくはC〜C15−アルキル基またはC〜C15−アルキルオキシアルキル基、すなわち、全部で1〜15個の炭素原子を有するアルキル基又はアルキルオキシアルキル基であると理解される。好ましくは、アルキル基またはアルキルオキシアルキル基Rは、−CH、−CHCH、−CHCHOCH、−CH(CHまたは−C(CHから選択される。
【0024】
原則、すべてのインジウム三ハロゲン化物InXを使用することができる。この場合において、Xはそれぞれ互いに独立してF、Cl、Brおよび/またはIであってもよい。しかしながら好ましくは、インジウム三ハロゲン化物は、1種のハロゲン化物のみ、すなわち、インジウム三ハロゲン化物InF、InCl、InBr、またはInIを使用する。その容易な入手可能性に基づいて、インジウム三ハロゲン化物InClおよびInBrの使用が特に好ましい。
【0025】
インジウム三ハロゲン化物InXは、好ましくは、組成物(A)の全質量に対して、0.1〜50質量%、特に好ましくは1〜25質量%、とりわけ好ましくは2〜10質量%の量で使用する。
【0026】
インジウム三ハロゲン化物を含む組成物(A)は、インジウム三ハロゲン化物を溶解して、すなわち、解離して、あるいは分子レベルで溶剤分子/アルコール分子と錯化して、あるいは液相中に分散して有していてもよい。
【0027】
さらに組成物(A)は、一般式ROH[式中、Rはアルキル基またはアルキルオキシアルキル基である]の少なくとも1種のアルコールを有する。それゆえ、この組成物もまた2種またはそれ以上のアルコールを有するものであってもよい。しかしながら、好ましくは、インジウム(III)ハロゲンジアルコキシドを特別なアルコキシド種類から製造するために、1種のアルコールのみが組成物(A)中に存在すべきである。
【0028】
好ましくは使用可能なアルコールは、C〜C15−アルキル基またはC〜C15−アルキルオキシアルキル基、すなわち、全部で1〜15個の炭素原子を有するアルキル基またはアルキルオキシアルキル基から選択された基Rを示す。好ましくは、−CH、−CHCH、−CHCHOCH、−CH(CHまたは−C(CHから選択されるアルキル基又はアルキルオキシアルキル基Rを有するアルコールを使用する。
【0029】
アルコールROHは、組成物(A)の全質量に対して好ましくは50〜99.9質量%、特に好ましくは75〜99質量%、とりわけ好ましくは80〜96質量%の量で使用する。
【0030】
さらに組成物(A)は、反応について不活性の液体溶剤又は分散媒体少なくとも1種を有していてもよく、すなわち、反応条件下でInXと反応しない溶剤/分散媒体であるか、あるいは異なる溶剤/分散媒体の混合物を有していてもよい。好ましくは、非プロトン性溶剤、特に非プロトン性の非極性溶剤の群から選択されるもの、すなわち、アルカン、置換アルカン、アルケン、アルキン、脂肪族置換基若しくは芳香族置換基を有するかまたは有さない芳香族化合物、ハロゲン化炭化水素およびテトラメチルシラン、および非プロトン性の極性溶剤の群から選択されるもの、すなわち、エーテル、芳香族エーテル、置換エーテル、エステル又は酸無水物、ケトン、第三級アミン、ニトロメタン、DMF(ジメチルホルムアミド)、DMSO(ジメチルスルホキシド)またはプロピレンカーボネート、を使用可能である。
【0031】
反応について不活性のこのような液体溶剤または分散媒体の少なくとも1種が、組成物(A)中に存在する場合には、この組成物についての液体溶剤または分散媒体の量は、組成物の全質量に対して好ましくは1〜50質量%、特に好ましくは1〜25質量%、とりわけ好ましくは1〜10質量%である。
【0032】
本発明によれば、インジウム(III)ハロゲンジアルコキシドの合成のためのInXを含む組成物(A)は、一般式R’NH[式中、R’はアルキル基である]の第2級アミン少なくとも1種を含む組成物(B)と反応させる。好ましくは、一般式R’NHの第2級アミンの少なくとも1種は、互いに独立してC〜C10−アルキル基から成る群から選択される基R’を有する第2級アミンである。好ましくは、第2級アミンのみを使用する。さらに好ましくは、基R’として同一のアルキル基を示す第2級アミンである。特に好ましい基R’は、直鎖のC〜C10−アルキル基である。特に良好な結果は、メチル、エチル及びn−プロピルである基R’により達成される。一般式R’NH[式中、Rはメチルである]の第2級アミンを使用する場合に特に良好な結果が得られ、それというのも好ましくは使用される溶剤又は分散媒体が、特に良好に溶解され、かつそれによって特に良好な収率を生じるためである。
【0033】
少なくとも1種の第2級アミンは、特に良好な収率を達成するために、本質的に、インジウム三ハロゲン化物InXに対して少なくとも2倍の化学量論量で添加する。特に好ましくは、第2級アミンは、InXの4〜6倍のモル量に相当する量で使用する。
【0034】
より高い生成物収率を達成するために、第2級アミンは、溶液のみにかぎらず、好ましくは分散媒体中に分散して使用することができる。しかしながら、組成物(B)は、特に簡単な反応の実施のために、専ら第2級アミンのみからなっていてもよい。
【0035】
好ましくは、反応は25℃〜250℃の範囲の温度で実施する。特に好ましくは、反応は25℃から、使用されたアルコールの沸点に相当する温度の範囲の温度までの範囲の温度で使用する。したがって、温度は特に好ましくは25℃〜125℃の範囲である。
【0036】
合成は、原則、常圧で、あるいは高められた圧力で実施することができる。しかしながら好ましくは、常圧(1013mbar)で実施する。
【0037】
好ましくは、合成はさらに水不含で、すなわち最大200ppmのHOの存在下で実施する。特に良好な収率を達成するために、反応はさらに不活性ガス雰囲気中で、好ましくはAr、HeまたはN雰囲気中で、とりわけ好ましくはN雰囲気中で実施することができる。
【0038】
特に高い収率を達成するために、反応混合物はさらに後処理前に、10〜20℃の範囲の温度に冷却する。
【0039】
好ましくは、この精製は、反応混合物の蒸発濃縮、使用されたアルコール中での残留物の回収、濾過および洗浄によって実施することができる。引き続いて、この生成物は好ましくは高い真空下で乾燥することができる。
【0040】
さらに本発明の対象は、本発明による方法を介して製造可能なインジウム(III)ハロゲンジアルコキシドである。しかしながらこのインジウム(III)ハロゲンジアルコキシド、一般式InX(OR)を示す場合には、さらに結晶または水相の形で、この合成由来のアルコールROHまたは第2級アミンR’NHと配位するか、あるいは溶媒和することができる。
【0041】
本発明による方法により製造可能なインジウム(III)ハロゲンジアルコキシドは、酸化インジウム含有コーティングの製造のために、特に湿式化学的方法を介しての製造のために有利に適している。酸化インジウム含有コーティングとは、この場合、酸化インジウム膜と同様に、さらに本質的に酸化インジウムおよび他の金属および/または金属酸化物を含む膜であるとも理解される。したがって、本発明の意味における酸化インジウム膜とは、言及した酸化インジウムから製造可能な金属含有膜と理解され、該金属含有膜は本質的にインジウム原子もしくはインジウムイオンを有し、その際、インジウム原子もしくはインジウムイオンは本質的に酸化物の形で存在する。場合により、酸化インジウム膜は、完全ではない転化からのハロゲン、カルベンもしくはアルコキシドの量もなお有していてよい。これは、本質的にインジウムオキシドおよび他の金属および/または金属酸化物を含む層にもあてはまるが、但し、これはさらに他の金属および/または金属酸化物を示す。
【0042】
本発明による方法によって製造可能なインジウム(III)ハロゲンジアルコキシドは、さらに驚くべき利点を有するものであって、この場合、これは、半導体酸化インジウム含有コーティングの製造に特に良好に使用することができるというものである。本発明による方法を介して製造可能なインジウム(III)ハロゲンジアルコキシドは、さらに有利には、電子素子のための半導体膜又は導体膜の製造のために適しており、特に(薄膜)トランジスタ、ダイオードまたは太陽電池の製造のために適している。
【0043】
以下の例は、本発明による対象をこれに限定することなしに説明するものである。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】生成物および使用された出発材料InClのIR−スペクトルを示す図
【実施例】
【0045】

500mlのガラス丸底フラスコの残留湿分中で、5.0gの塩化インジウム(III)(InCl、22.5mmol)を、保護ガス雰囲気下で、250mlの乾燥メタノール中で攪拌することにより溶解し、その際、InClの残留物は<10質量%(正味質量に関する)残る。塩基であるジメチルアミン(5.0g、111mmolに相当する)の計量供給は、質量流調整器により保証され、かつInClに関する化学量論量で、室温で5時間に亘って添加し、その際、当初わずかな発熱反応が観察された。引き続いてこの溶液を完全に蒸発させ、残留する固体を250mlの乾燥メタノールを用いて取り上げ、保護ガスN下で濾過し、乾燥メタノールで数回に亘って(>10パス)洗浄し、かつ真空下(<10mbar)で、室温で12時間に亘って乾燥させた。生成物収率は、インジウム(III)クロロジメトキシドについて>80モル%であった(ICP−OESを介して測定されたインジウム含量、塩素含量は銀測定により、炭素および水素含量は、燃焼分析を介して測定する)。図1は、生成物および使用された出発材料InClのIR−スペクトルを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式
InX(OR)
[式中、XはF、Cl、Br、Iであり、かつRはアルキル基、アルキルオキシアルキル基である]のインジウム(III)ハロゲンジアルコキシドの製造方法において、インジウム三ハロゲン化物InX[式中、XはFl、Cl、Brおよび/またはIである]および一般式ROH[式中、Rはアルキル基、アルキルオキシアルキル基である]の少なくとも1種のアルコールを含む組成物(A)と、一般式R’NH[式中、R’はアルキル基である]の少なくとも1種の第2級アミンを含む組成物(B)を反応させる、前記製造方法。
【請求項2】
インジウム三ハロゲン化物を、InF、InCl、InBrおよびInIからなる群から選択する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
インジウム三ハロゲン化物InXを、組成物(A)の全質量に対して0.1〜50質量%の割合で使用する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
アルコールROHが、C〜C15−アルキル基またはC〜C15−アルキルオキシアルキル基から選択された基Rを有する、請求項1から3までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
アルコールROHを、組成物(A)の全質量に対して50〜99.9質量%の割合で使用する、請求項1から4までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
組成物(A)が、反応について不活性の液体溶剤または分散媒体を更に少なくとも1種有する、請求項1から5までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
一般式R’NHの第2級アミンが、C〜C10−アルキル基から成る基から選択された基R’を有する第2級アミンである、請求項1から6までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
一般式R’NHの第2級アミンを、インジウム三ハロゲン化物に対して少なくとも2倍の化学量論量で使用する、請求項1から6までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
請求項1から8までのいずれか1項に記載の方法によって製造可能な、一般式InX(OR)のインジウム(III)ハロゲンジアルコキシド。
【請求項10】
酸化インジウム含有コーティングを製造するための、請求項9に記載の一般式InX(OR)の少なくとも1種のインジウム(III)ハロゲンジアルコキシドの使用。
【請求項11】
電子素子のための半導体膜または導体膜を製造するため、特に(薄膜)トランジスタ、ダイオードまたは太陽電池を製造するための、請求項9に記載の一般式InX(OR)の少なくとも1種のインジウム(III)ハロゲンジアルコキシドの使用。

【図1】
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【公表番号】特表2013−514290(P2013−514290A)
【公表日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−543537(P2012−543537)
【出願日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際出願番号】PCT/EP2010/059376
【国際公開番号】WO2011/072887
【国際公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【出願人】(501073862)エボニック デグサ ゲーエムベーハー (837)
【氏名又は名称原語表記】Evonik Degussa GmbH
【住所又は居所原語表記】Rellinghauser Strasse 1−11, D−45128 Essen, Germany
【Fターム(参考)】