説明

インジウム及び錫の回収法

【課題】 酸化インジウム及び酸化錫を含有する塊状物から容易に高純度インジウムと酸化錫を回収することを特徴とするインジウム及び錫の回収方法。
【解決手段】酸化インジウム、酸化錫を含有物を塩酸で浸出する浸出工程と、
得られた浸出液にアルカリを加えて、pH=14以上になるように調整し、インジウムは水酸化物として析出させて回収し、錫はアルカリ中和後液として粗分離する工程と、
水酸化インジウムを塩酸浸出した後、インジウム板置換にて錫浄液を行う工程と、から成る高純度のインジウム、及び高純度錫の回収方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インジウム及び錫の回収方法に関し、特に、酸化インジウムを含有する物質、特に酸化インジウム−酸化錫(以下、ITOと略称)ターゲットスクラップなどのインジウム及び錫含有物から、金属インジウム及び錫を回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の液晶技術の急速な進展により、液晶の透明導電膜やガスセンサー等として使用されるITO膜の需要は著しく増加しており、このITOの膜の製造原料として使用されるITOターゲット材の需要は増大している。これに伴い、ITO用のスパッタリングターゲットを用いて透明導電性薄膜を製造する際には、ターゲットの消耗は均一に進行するわけではないため、消耗の激しい部分がパッキングプレートに達する前にスパッタリングを停止しなければならない。このため、ターゲット全量を使いきることは出来ず、かなりの部分がスクラップとなる。
【0003】
ITOターゲットスクラップ材には高純度材が使用されており、価格も高いので、一般にこのようなスクラップ材からインジウムを回収することが行われている。
従来、ITOターゲットスクラップなどのインジウム含有物からインジウムを回収する方法としては、従来酸溶解法、溶媒抽出法、イオン交換法などの湿式精錬技術を組み合わせた方法が用いられている。
例えば、特許文献1(特開平8−91838号)に記載された溶媒抽出法を利用した方法があるが、この方法は、ITOターゲット屑を硝酸に溶解して硝酸インジウムとし、これからアルキルエステル系抽出剤を用いてインジウムイオンを溶媒抽出し、抽出剤を代えて抽出および逆抽出を繰り返すため工程が煩雑になり、処理時間が長引く欠点がある。
【0004】
別の方法としては、例えばITOスクラップの研磨粉を洗浄及び粉砕後、硝酸に溶解し、溶解液に硫化水素を通じて、亜鉛、錫、鉛、銅など不純物を硫化して沈殿除去した後、これらにアンモニアを加えて中和し、水酸化インジウムとして回収する方法である。
しかし、この方法によって得られた水酸化インジウムは濾過性が悪く操作に長時間を要し、Si、Al等の不純物が多く、また生成する水酸化インジウムはその中和条件及び熟成条件等により、粒度や粒度分布が変動するため、その後ITOターゲットを製造する際に、ITOターゲットの特性を安定して維持できないという問題があった。
更に、いずれの方法もITOターゲット屑からインジウムの回収を主眼においているため、有価物である錫は回収されず、産業廃棄物として委託処理するため、コストを要していた。
その他にも、上記の方法はいずれも工程が多く、また、操作も複雑であるという問題があった。本発明の目的は、酸化インジウムと酸化錫を含有する物質から容易にかつ高純度のインジウム、及び錫を回収する方法を開発することである。
【特許文献1】特開平8−91838号 同和ケミカル株式会社 同和鉱業株式会社
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、インジウム、スズを含有する物質から高品位のインジウム、すずを容易に回収することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、上記の課題を解決したものであり、
(1)酸化インジウム、酸化錫を含有物を塩酸で浸出する浸出工程と、
得られた浸出液にアルカリを加えて、pH=14以上になるように調整し、インジウムは水酸化物として析出させて回収し、錫はアルカリ中和後液として粗分離する工程と、
水酸化インジウムを塩酸浸出した後、インジウム板置換にて錫浄液を行う工程と、から成る高純度のインジウム、及び高純度錫の回収方法。
(2)上記(1)において、その後、亜鉛板置換にてインジウムをスポンジとして回収する工程と、
スポンジを脱水後、アノードに鋳造した後、電解精製する電解精製工程と、
を含む高純度のインジウム、及び高純度錫の回収方法。
(3)上記(1)或は(2)の何れかに記載のアルカリ中和後液を中和して水酸化錫を回収し、溶融還元して錫アノードを鋳造して、錫の電解精製する錫電解精製工程から成る高純度のインジウム、及び高純度錫の回収方法。
を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)酸化インジウム、酸化錫を含有物から、高純度インジウム、及び錫を回収することができる。
(2)廃ITOから有価物を、簡易な方法により容易に回収できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の一態様である処理フローシートを示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明にする原料の酸化インジウムを含有する物質として、特に限定するものはないが、例えば、ITOターゲットスクラップなどのような、酸化錫を7〜20%程度含んだ酸化インジウム−酸化錫が用いられる。
本発明による高純度インジウム及び錫の回収方法の実態の形態では、ITOターゲット屑などの酸化インジウム及び酸化錫含有する物を粒径50μm以下になるまで粉砕、篩別したものを6mol/L以上の塩酸溶液に装入して、温度60℃以上の温度で浸出後、濾過する。このとき、塩酸溶液は好ましくは6〜8mol/Lである。塩酸濃度が6moL/L以下の場合、インジウムの浸出率が低下し、8mol/Lを超えると、塩酸、及び次工程の中和処理に要する薬剤コストが高くなる。
次に、浸出液中のインジウムと錫とを粗分離するため、水酸化ナトリウムを加えて、温度60℃以上にて、インジウムは水酸化インジウムとし、錫はアルカリ溶液に再浸出して、インジウムと錫とを粗分離する。このとき、反応温度を60℃以下で行うと、水酸化インジウムの濾過性が悪化するため、60℃以上を維持する必要がある。
【0010】
次に、インジウム濃度が100g/L以上になるように、水酸化インジウムを水にリパルプした後、塩酸にて、pH1以下になるように調整して、インジウム浸出液を得る。その浸出液中の錫濃度は500〜1000mg/L含有するため、インジウム板を用いて、インジウム浸出液中錫が検出されなくなるまで、置換浄液する。
【0011】
錫を置換浄液した後液に、亜鉛板を装入して、亜鉛板置換を行って、インジウムをスポンジインジウムとして回収する。スポンジインジウムは洗浄、脱水後、溶融して、インジウムアノードを鋳造する。このインジウムアノードと、カソード板として、例えば、チタン板、またはインジウム板を用いて、アノードに隔膜を付けて、インジウム電解精製を行うことで高純度インジウムを得ることができる。
【0012】
上述の0009段落に記載した、インジウムと粗分離した錫含有のアルカリ溶液に硫酸を添加して中和し、濾過を行い、水酸化錫を得る。この水酸化錫を乾燥後、コークスとともに、900〜1000℃にて加熱して、還元溶融後、得た粗錫メタルをアノードに鋳造する。この錫アノードと、カソードとして、例えば、鉄板、ステンレス板、チタン板、又は錫板のいずれかを用いて、電解精製を行うことで、高純度錫を得ることができる。
【0013】
この錫アノードと、カソード板として、例えば、ステンレス板、チタン板、鉄板、または錫板を用いて、電流密度10〜100A/m2、電解液としては、錫濃度25〜35g/L、水酸化ナトリウム濃度80〜120g/Lの溶液にて、電解液温度60〜80℃の温度にて錫電解精製を行うことで高純度錫を得ることができる。
【実施例】
【0014】
以下、実施例について、説明する。
未粉砕のITOターゲット屑を解砕した後に、粉砕して50μm以下に粉砕して粉末を得た。この粉末、75kgを塩酸6mol/Lの溶液700Lに装入して、60℃に加温して、5時間攪拌した後、固液分離して、インジウム濃度82g/L、錫濃度6.8g/Lの浸出液670Lと、未浸出残渣3kg−wetを回収した。
【0015】
この浸出液中のインジウムは水酸化インジウムとして回収、錫は90%以上が液に再浸出するまで、水酸化ナトリウムを添加して60〜80℃の温度範囲内でアルカリ中和した。その後、濾過を行い、水酸化インジウム92kg−wetと、錫濃度4g/Lのアルカリ中和濾液1050L回収した。
【0016】
次に、水400Lに水酸化インジウム92kg−wetをリパルプした後、塩酸を150L添加して、インジウム濃度が101g/L、錫980mg/Lの溶液を550L回収した。この溶液にインジウム板を装入して、液中の錫濃度が検出下限以下になるまで、インジウム板置換を行った。
その後、インジウム板を引揚げて、亜鉛板置換を行い、スポンジインジウム55kg回収し、洗浄、脱水後、350〜400℃の温度範囲にて溶解後、インジウムアノードを鋳造した。
【0017】
このインジウムアノードに隔膜を取り付けて、Ti板をカソード板として、インジウム濃度50g/L、pH2、電流密度75A/m2、電解液温度40℃にて電解精製した。電解液は硫酸インジウム溶液に塩化ナトリウム95g/L添加した。その結果、電着インジウムはSn18massppmの高純度インジウムを回収した。
【0018】
0015段落記載のアルカリ中和濾液1050Lに、硫酸を添加してpH9〜6の範囲になるように中和後、洗浄、脱水後、水酸化錫13.5kgを得た。このスポンジ錫850〜1000℃を溶融後、錫アノードを鋳造した。
この錫アノードに、ステンレス板をカソードとして、錫濃度30g/L、水酸化ナトリウム濃度100g/L溶液にて、電流密度70A/m2、電解液温度70℃にて電解精製した。その結果、In10massppm、電着錫99.95mass%以上の高純度錫を回収した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化インジウム、酸化錫を含有物を塩酸で浸出する浸出工程と、
得られた浸出液にアルカリを加えて、pH=14以上になるように調整し、インジウムは水酸化物として析出させて回収し、錫はアルカリ中和後液として粗分離する工程と、
水酸化インジウムを塩酸浸出した後、インジウム板置換にて錫浄液を行う工程と、から成ることを特徴とする高純度のインジウム、及び高純度錫の回収方法。
【請求項2】
請求項1において、その後、亜鉛板置換にてインジウムをスポンジとして回収する工程と、
スポンジを脱水後、アノードに鋳造した後、電解精製する電解精製工程と、
を含むことを特徴とする高純度のインジウム、及び高純度錫の回収方法。
【請求項3】
請求項1或は2の何れかに記載のアルカリ中和後液を中和して水酸化錫を回収し、溶融還元して錫アノードを鋳造して、錫の電解精製する錫電解精製工程から成ることを特徴とする高純度のインジウム、及び高純度錫の回収方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−72479(P2012−72479A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−230955(P2010−230955)
【出願日】平成22年9月27日(2010.9.27)
【出願人】(502362758)JX日鉱日石金属株式会社 (482)
【Fターム(参考)】