説明

インジェクタの制御方法

【課題】尿素結晶の固着による一時的なインジェクタの作動不良を速やかに回復し得るようにする。
【解決手段】排気ガス中に尿素水12を添加するインジェクタ8の尿素結晶の固着による一時的な作動不良を回復させるための制御方法に関し、尿素水12を供給する経路(サクションライン14)がインジェクタ8より上方から下降して該インジェクタ8に接続するように配管レイアウトを構成し、インジェクタ8の作動不良が判定された時に、経路(サクションライン14)内の尿素水12を一旦吸い戻す操作を介在させてからポンプ13を停止し、所定時間後にポンプ13を再駆動してインジェクタ8の作動不良の判定を再び行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インジェクタの制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、排気管の途中に排気ガス中のパティキュレートを捕集するパティキュレートフィルタを備えると共に、該パティキュレートフィルタの下流側に酸素共存下でも選択的にNOxをアンモニアと反応させ得る選択還元型触媒を備え、該選択還元型触媒と前記パティキュレートフィルタとの間に還元剤として尿素水を添加してパティキュレートとNOxの同時低減を図ることが考えられている。
【0003】
このようにする場合、選択還元型触媒への尿素水の添加がパティキュレートフィルタと選択還元型触媒との間で行われることになるため、排気ガス中に添加された尿素水がアンモニアと炭酸ガスに熱分解されるまでの十分な反応時間を確保しようとすれば、尿素水の添加位置から選択還元型触媒までの距離を長くする必要があるが、パティキュレートフィルタと選択還元型触媒とを十分な距離を隔てて離間配置させてしまうと、車両への搭載性が著しく損なわれるという不具合がある。
【0004】
そこで、図5に示す如く、エンジンからの排気ガス1が流通する排気管2の途中に、排気ガス1中のパティキュレートを捕集するパティキュレートフィルタ3と、該パティキュレートフィルタ3の下流側に酸素共存下でも選択的にNOxをアンモニアと反応させ得る性質を備えた選択還元型触媒4とをケーシング5,6により夫々抱持して並列に配置し、パティキュレートフィルタ3の出側端部と選択還元型触媒4の入側端部との間をS字構造の連絡流路7により接続し、パティキュレートフィルタ3の出側端部から排出された排気ガス1が逆向きに折り返されて隣の選択還元型触媒4の入側端部に導入されるようにした排気浄化装置が創案されている。
【0005】
ここで、前記連絡流路7は、パティキュレートフィルタ3の出側端部を包囲し且つ該出側端部から出た直後の排気ガス1を略直角な向きに方向転換させつつ集合せしめるガス集合室7Aと、該ガス集合室7Aで集められた排気ガス1をパティキュレートフィルタ3の排気流れと逆向きに抜き出すミキシングパイプ7Bと、該ミキシングパイプ7Bにより導かれた排気ガス1を略直角な向きに方向転換させつつ分散せしめ且つその分散された排気ガス1を選択還元型触媒4の入側端部に導入し得るよう該入側端部を包囲するガス分散室7CとによりS字構造を成すように構成されており、前記ミキシングパイプ7Bの入側端部の中心位置には、該ミキシングパイプ7B内に尿素水を添加するためのインジェクタ8が前記ミキシングパイプ7Bの出側端部側へ向けて装備されている。
【0006】
尚、ここに図示している例では、パティキュレートフィルタ3が抱持されているケーシング5内の前段に、排気ガス1中の未燃燃料分を酸化処理する酸化触媒9が装備されており、また、選択還元型触媒4が抱持されているケーシング6内の後段には、余剰のアンモニアを酸化処理するアンモニア低減触媒10が装備されている。
【0007】
そして、このような構成を採用すれば、パティキュレートフィルタ3により排気ガス1中のパティキュレートが捕集されると共に、その下流側のミキシングパイプ7Bの途中でインジェクタ8から尿素水が排気ガス1中に添加されてアンモニアと炭酸ガスに熱分解され、選択還元型触媒4上で排気ガス1中のNOxがアンモニアにより良好に還元浄化される結果、排気ガス1中のパティキュレートとNOxの同時低減が図られることになる。
【0008】
この際、パティキュレートフィルタ3の出側端部から排出された排気ガス1が連絡流路7により逆向きに折り返されてから隣の選択還元型触媒4の入側端部に導入されるようになっているので、尿素水の添加位置から選択還元型触媒4までの距離が長く確保され、尿素水からアンモニアが生成されるのに十分な反応時間が確保される。
【0009】
しかも、パティキュレートフィルタ3と選択還元型触媒4とが並列に配置され、これらパティキュレートフィルタ3と選択還元型触媒4との間に沿うように連絡流路7が配置されているので、その全体構成がコンパクトなものとなって車両への搭載性が大幅に向上されることになる。
【0010】
前述の如き排気浄化装置に備えられる尿素水添加用のインジェクタ8では、排気温度の高い運転状態からエンジンを急停止した場合等の特別な条件下でノズル内部に尿素結晶を析出してしまうことがあり、その析出した尿素結晶が固着することで尿素水の噴射ができなくなる一時的な作動不良を起こすことがある。
【0011】
即ち、エンジンの停止時には、キーオフと同時に尿素水が尿素水タンク側へパージされ、寒冷地等におけるエンジン停止中の尿素水の凍結を防止する措置が採られるようになっているため(例えば下記の特許文献1等を参照)、次にエンジンを始動する際には、インジェクタ8を空打ちして経路内の空気を抜きながら尿素水を送り込んでいくことになる。
【0012】
この際、インジェクタ8のノズルが尿素結晶で詰まっていると、空打ちによる空気抜きが行われないため、ポンプにより送り込まれる尿素水が空気を圧縮しながら進むもののインジェクタ8までは到らず、該インジェクタ8のノズルまで尿素水を送り込んで尿素結晶を溶かすことができないという事態に陥ることがある。
【0013】
このような事態に陥った場合、従来においては、尿素水を送り出すポンプを一旦停止して尿素水の経路を減圧し、所定時間経過後にポンプを再度駆動して試験噴射を実施するという操作を繰り返し、減圧と加圧を交互に繰り返すことで尿素結晶の詰まりを解消してインジェクタ8の回復を図るようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2008−101564号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、インジェクタ8のノズル内における尿素結晶の固着の程度が強い場合、ポンプを間欠的に運転して減圧と加圧を繰り返すだけでは十分な回復が図れないことがあり、本来ならば尿素水に触れることで簡単に尿素結晶が溶けてインジェクタ8を正常な作動状態に戻せるはずの一時的な不具合であるのに、インジェクタ8の作動不良が繰り返されることで車両の自己診断機能にインジェクタ8の異常として診断されてしまうという問題があった。
【0016】
本発明は上述の実情に鑑みてなしたもので、尿素結晶の固着による一時的なインジェクタの作動不良を速やかに回復し得るようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、排気ガス中に尿素水を添加するインジェクタの尿素結晶の固着による一時的な作動不良を回復させるための制御方法であって、尿素水を供給する経路がインジェクタより上方から下降して該インジェクタに接続するように配管レイアウトを構成し、インジェクタの作動不良が判定された時に、経路内の尿素水を一旦吸い戻す操作を介在させてからポンプを停止し、所定時間後にポンプを再駆動してインジェクタの作動不良の判定を再び行うことを特徴とするものである。
【0018】
而して、排気温度の高い運転状態からエンジンを急停止した場合等にインジェクタのノズル内部に尿素結晶が析出し、その尿素結晶が固着して尿素水の噴射ができなくなる一時的な作動不良が起きてしまうと、次にエンジンを始動する際にインジェクタを空打ちして経路内の空気を抜きながら尿素水を送り込もうとしても、経路内の空気が抜けないためにポンプにより送り込まれる尿素水がインジェクタまで到達できない事態に陥るが、該インジェクタの作動不良が判定された時に、経路内の尿素水を一旦吸い戻す操作を介在させてからポンプを停止し、所定時間後にポンプを再駆動してインジェクタの作動不良の判定を再び行うようにしているので、経路内で尿素水と空気との界面が大きく揺り動かされて尿素水と空気の置換が起こり易くなる。
【0019】
即ち、相対的に比重の小さい空気が経路内を浮上し易くなる一方、これと入れ替わりに尿素水が経路内を流下してインジェクタまで到達し易くなるので、該インジェクタのノズル内まで尿素水が到達する機会が大幅に増加されることになり、該尿素水がインジェクタのノズル内まで到達しさえすれば、該ノズル内に固着した尿素結晶が溶かされてインジェクタが正常な作動状態に回復することになる。
【0020】
また、本発明においては、ポンプで尿素水を所定圧力まで昇圧した後に尿素水の試験噴射を実施し、その試験噴射時に圧力低下が無い場合にインジェクタの作動不良を判定することが好ましく、更には、インジェクタの作動不良の判定が所定回数繰り返された時にインジェクタの異常を判定することが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
上記した本発明のインジェクタの制御方法によれば、経路内の尿素水を一旦吸い戻す操作を介在させてからポンプを停止して所定時間後にポンプを再駆動することにより、経路内で尿素水と空気との界面を大きく揺り動かして尿素水と空気の置換を起こり易くすることができるので、経路内を浮上する空気と入れ替わりに尿素水を経路内で流下せしめることによりインジェクタまで到達させて尿素結晶を溶かし、該尿素結晶の固着による一時的なインジェクタの作動不良を速やかに回復することができ、車両の自己診断機能にインジェクタの異常として診断される頻度を大幅に低減することができる等種々の優れた効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明を実施する形態の一例を示す系統図である。
【図2】図1のポンプにより尿素水を吸い戻す操作を説明する系統図である。
【図3】インジェクタの作動不良の判定方法について説明するグラフである。
【図4】図1の制御装置における具体的な制御手順を示すフローチャートである。
【図5】従来の排気浄化装置の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下本発明の実施の形態を図面を参照しつつ説明する。
【0024】
図1〜図4は本発明を実施する形態の一例を示すもので、図1中における符号の11は尿素水12を貯留している尿素水タンク、13は該尿素水タンク11からサクションライン14を介し尿素水12を吸い上げ且つその尿素水12をプレッシャーライン15を介しインジェクタ8へ送り出すポンプを示している。
【0025】
ここで、尿素水12をインジェクタ8へ供給する経路を成しているプレッシャーライン15は、インジェクタ8より上方から下降して該インジェクタ8に接続するような配管レイアウトで構成されている。
【0026】
また、尿素水12をインジェクタ8へ供給するポンプ13は、正逆二つのポジションを切り替え可能に備えた流路切替バルブ16と、尿素水12の吸排を実質的に担うポンプ本体17とを備えており、前記流路切替バルブ16のポジションを図1の状態から図2の状態に切り替えることにより、プレッシャーライン15の尿素水12をポンプ本体17で吸い戻すこともできるようになっている。
【0027】
即ち、エンジンの停止時には、キーオフと同時に流路切替バルブ16が逆向きのポジション(図2のポジション)に切り替えられ、尿素水12がポンプ本体17の駆動により尿素水タンク11側へパージされ、寒冷地等におけるエンジン停止中の尿素水の凍結を防止する措置が採られるようになっている。
【0028】
また、前記ポンプ13内には、プレッシャーライン15の尿素水12の圧力を検出する圧力センサ18も備えられており、該圧力センサ18の検出信号18aが、インジェクタ8、流路切替バルブ16、ポンプ本体17の操作を制御信号8a,16a,17aにより制御している制御装置19に入力され、前記圧力センサ18による検出値に基づいてインジェクタ8の作動不良の判定が行われるようになっている。
【0029】
即ち、図3のグラフに実線の曲線で示す如く、サクションライン14の尿素水12をポンプ13により所定圧(図3の例では900kPa)まで昇圧してからインジェクタ8のノズルを全開にして試験噴射を行い、その噴射後の適宜な検出タイミングで所定以上の圧力降下(図3中の閾値以下の圧力降下)が認められない場合にインジェクタ8の作動不良が判定されるようになっている。
【0030】
尚、インジェクタ8の作動が正常である場合には、図3のグラフに鎖線で示す如く、尿素水12が噴射されることで所定以上の圧力降下(図3中の閾値以下の圧力降下)が起こり、噴射後の適宜な検出タイミングで図3中の閾値以下となるような圧力降下が確認できることになる。
【0031】
また、制御装置19においては、インジェクタ8の尿素結晶の固着による一時的な作動不良が判定された時に、図4に示す如きフローチャートに従い尿素結晶の固着による一時的なインジェクタ8の作動不良を速やかに回復する措置が採られるようになっている。
【0032】
前記制御装置19における具体的な制御手順は以下に詳述する通りであり、先ずステップS1で異常カウンタの判定回数が「0」となり、次いで、ステップS2でポンプ13が駆動されてサクションライン14の尿素水12が所定圧(図3の例では900kPa)まで昇圧された後、次のステップS3でインジェクタ8の試験噴射が行われて前述の如き圧力の落ち方に基づきインジェクタ8の作動不良の有無が判定され、インジェクタ8の作動が正常と判定されたならば判定終了となる。
【0033】
一方、インジェクタ8の作動不良が判定されると、ステップS4に進んで異常カウンタの判定回数が「+1」となり、次のステップS5で異常カウンタの判定回数が所定の判定回数(例えば10回)を超えていなければステップS6へと進み、流路切替バルブ16を逆向きのポジション(図2のポジション)に切り替え且つポンプ13を駆動することでプレッシャーライン15内の尿素水12を一旦吸い戻す操作が行われる。
【0034】
ただし、この尿素水12を吸い戻す操作では、エンジンの停止時のようにプレッシャーライン15の尿素水12を尿素水タンク11側へパージするところまでは行わず、プレッシャーライン15内で尿素水12を僅かな距離分だけ吸い戻す程度で良い。
【0035】
そして、前記尿素水12を吸い戻す操作を実施した後、ステップS7でポンプ13を停止し、次いで、ステップS8で所定時間待機してからステップS2へ戻り、ポンプ13を再駆動してインジェクタ8の作動不良の判定を再び行う。
【0036】
尚、ステップS5にて異常カウンタの判定回数が所定の判定回数(例えば10回)を超えたことが確認されたならば、車両の自己診断機能によりインジェクタ8の異常として診断が下されることになる。
【0037】
而して、排気温度の高い運転状態からエンジンを急停止した場合等にインジェクタ8のノズル内部に尿素結晶が析出し、その尿素結晶が固着して尿素水12の噴射ができなくなる一時的な作動不良が起きてしまうと、次にエンジンを始動する際にインジェクタ8を空打ちしてプレッシャーライン15内の空気を抜きながら尿素水12を送り込もうとしても、プレッシャーライン15内の空気が抜けないためにポンプ13により送り込まれる尿素水12がインジェクタ8まで到達できない事態に陥るが、該インジェクタ8の作動不良が判定された時に、プレッシャーライン15内の尿素水12を一旦吸い戻す操作を介在させてからポンプ13を停止し、所定時間後にポンプ13を再駆動してインジェクタ8の作動不良の判定を再び行うようにしているので、プレッシャーライン15内で尿素水12と空気との界面が大きく揺り動かされて尿素水12と空気の置換が起こり易くなる。
【0038】
即ち、相対的に比重の小さい空気がプレッシャーライン15内を浮上し易くなる一方、これと入れ替わりに尿素水12がプレッシャーライン15内を流下してインジェクタ8まで到達し易くなるので、該インジェクタ8のノズル内まで尿素水12が到達する機会が大幅に増加されることになり、該尿素水12がインジェクタ8のノズル内まで到達しさえすれば、該ノズル内に固着した尿素結晶が溶かされてインジェクタ8が正常な作動状態に回復することになる。
【0039】
従って、上記形態例によれば、プレッシャーライン15内の尿素水12を一旦吸い戻す操作を介在させてからポンプ13を停止して所定時間後にポンプ13を再駆動することにより、プレッシャーライン15内で尿素水12と空気との界面を大きく揺り動かして尿素水12と空気の置換を起こり易くすることができるので、プレッシャーライン15内を浮上する空気と入れ替わりに尿素水12をプレッシャーライン15内で流下せしめることによりインジェクタ8まで到達させて尿素結晶を溶かし、該尿素結晶の固着による一時的なインジェクタ8の作動不良を速やかに回復することができ、車両の自己診断機能にインジェクタ8の異常として診断される頻度を大幅に低減することができる。
【0040】
尚、本発明のインジェクタの制御方法は、上述の形態例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0041】
1 排気ガス
11 尿素水タンク
12 尿素水
13 ポンプ
14 サクションライン(尿素水をインジェクタへ供給する経路)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排気ガス中に尿素水を添加するインジェクタの尿素結晶の固着による一時的な作動不良を回復させるための制御方法であって、尿素水を供給する経路がインジェクタより上方から下降して該インジェクタに接続するように配管レイアウトを構成し、インジェクタの作動不良が判定された時に、経路内の尿素水を一旦吸い戻す操作を介在させてからポンプを停止し、所定時間後にポンプを再駆動してインジェクタの作動不良の判定を再び行うことを特徴とするインジェクタの制御方法。
【請求項2】
ポンプで尿素水を所定圧力まで昇圧した後に尿素水の試験噴射を実施し、その試験噴射時に圧力低下が無い場合にインジェクタの作動不良を判定することを特徴とする請求項1に記載のインジェクタの制御方法。
【請求項3】
インジェクタの作動不良の判定が所定回数繰り返された時にインジェクタの異常を判定することを特徴とする請求項1又は2に記載のインジェクタの制御方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate