説明

インジェクタ及び燃料電池システム

【課題】過酷な使用環境に耐えることができ、なおかつ部品点数を増やさずに、弁体の左右のずれを防止できるインジェクタを提供する。
【解決手段】ガスの噴出孔51aが開口した弁座51と、当該弁座51に対して進退し当該弁座51の噴出孔51aを開閉する弁体52とを有する、インジェクタ35において、弁座51の弁体52側の面の噴出孔51aの周辺には、凹部51bが形成される。弁体52の弁座51側の面には、凹部51bに嵌合される凸部52fが形成される。弁体52が弁座51に対し進退する際に、凸部52fが凹部51b内を移動し、凸部52fが凹部51bに嵌合された状態が維持されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス等の流体を噴射するインジェクタと、当該インジェクタを用いた燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車などに搭載された燃料電池システムには、燃料ガス等の反応ガスを燃料電池に供給するためのガス供給系が設けられている。このようなガス供給系には、通常、ガス流量を制御しながらガスを供給できるインジェクタが用いられている。
【0003】
上記インジェクタは、例えば油圧や電磁力などの外力を用いて、弁座に対して弁体を進退させ、弁座の噴出孔を開閉している(特許文献1、2参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2000−161174号公報
【特許文献2】特開2003−148300号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、単に弁座に対し弁体を進退させた場合、弁体がその進退方向の移動軸から左右にずれる恐れがある。弁体が左右にずれると、例えば弁体と弁座との接触位置がずれて、噴出孔からのガスの供給や停止、流量制御等が適正に行われなく恐れがある。
【0006】
そこで、例えば往復移動する弁体の左右に、当該弁体の側面とインジェクタボディの内壁面との間に板ばねを取り付け、弁体の左右の動きを拘束することが提案できる。
【0007】
しかしながら、このような場合、インジェクタを過酷な環境で使用すると、板ばねが破損することが考えられる。また、板ばねを弁体やインジェクタボディの内壁面に固定する必要があるため、インジェクタの構造が複雑になり、部品点数が増加してしまう。これは、例えば組立性の低下やコストの上昇を招く。
【0008】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、過酷な使用環境に耐えることができ、なおかつ部品点数を増やさずに、弁体の左右のずれを防止できるインジェクタと、当該インジェクタを用いた燃料電池システムを提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するための本発明は、流体の噴出孔が開口した弁座と、当該弁座に対して進退し当該弁座の噴出孔を開閉する弁体とを有する、インジェクタであって、弁座の弁体側の面の前記噴出孔の周辺には、凹部が形成され、弁体の弁座側の面には、前記凹部に嵌合される凸部が形成され、前記弁体が前記弁座に対し進退する際に、前記凸部が前記凹部に嵌合された状態が維持されていることを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、弁体の凸部と弁座の凹部の嵌め合わせにより常時弁体がガイドされるので、弁体の左右のずれが防止される。したがって、弁体の弁座に対する動作が安定し、弁座の噴出孔からの流体の噴出が常に適正に行われる。また、例えば板ばねによって弁体の左右のずれを防止した場合に比べて、過酷な使用環境に耐えることができ、なおかつ部品点数を増やさずに、弁体の左右のずれを防止できる。したがって、インジェクタの使用環境の自由度が上がり、また組立性等が向上しコストの低減が図られる。
【0011】
上記インジェクタにおける凸部及び凹部は、それぞれ複数個所に形成され、前記噴出孔を中心とする同一円周上に等間隔で形成されていてもよい。
【0012】
前記弁体と前記弁座の互いの対向面には、それぞれ平坦面が形成され、前記弁体の凸部と前記弁座の凹部は、各々の平坦面に形成されていてもよい。
【0013】
別の観点による本発明によれば、上記インジェクタを用いて燃料電池に反応ガスを供給する燃料電池システムが提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、過酷な使用環境に耐えることができ、なおかつ部品点数を増やさずに、弁体の左右のずれを防止できる。この結果、インジェクタの使用環境の自由度が上がり、また組立性等が向上しコストの低減が図られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面を参照して、本発明の好ましい実施の形態について説明する。図1は、本実施の形態に係るインジェクタが用いられる燃料電池システム1の構成の概略を示す説明図である。本実施形態における燃料電池システム1は、燃料電池車両(移動体)の車載発電システムに適用した場合を例に採って説明する。
【0016】
燃料電池システム1は、図1に示すように、反応ガス(酸素ガス及び燃料ガス)の供給を受けて電力を発生する燃料電池10と、燃料電池10に酸素ガスとしての空気を供給する酸素ガス配管系11と、燃料電池10に燃料ガスとしての水素ガスを供給する水素ガス配管系12と、システム全体を統合制御する制御装置13等を備えている。
【0017】
燃料電池10は、反応ガスの供給を受けて発電する単電池を所要数積層して構成したスタック構造を有している。燃料電池10には、発電中の電流を検出する電流センサ10aが取り付けられている。
【0018】
酸素ガス配管系11は、加湿器20と、加湿器20により加湿された酸素ガスを燃料電池10に供給する供給流路21と、燃料電池10から排出された酸素オフガスを加湿器20に送る排出流路22と、加湿器20の酸素オフガスを外部に排出する排気流路23を備えている。供給流路21には、大気中の酸素ガスを取り込んで加湿器20に圧送するエアコンプレッサ24が設けられている。
【0019】
水素ガス配管系12は、高圧(例えば70MPa)の水素ガスを貯留した燃料供給源としての水素タンク30と、水素タンク30の水素ガスを燃料電池10に供給するための供給流路31と、燃料電池10から排出された水素オフガスを供給流路31に戻すための循環流路32を備えている。
【0020】
なお、水素タンク30に代えて、炭化水素系の燃料から水素リッチな改質ガスを生成する改質器と、この改質器で生成した改質ガスを高圧状態にして蓄圧する高圧ガスタンクと、を燃料供給源として採用することもできる。また、水素吸蔵合金を有するタンクを燃料供給源として採用してもよい。
【0021】
供給流路31には、水素タンク30の元弁として機能し、水素タンク30から燃料電池10側への水素ガスの供給を遮断又は許容する遮断弁33と、水素ガスの圧力を予め設定した二次圧に減圧するレギュレータ34と、燃料電池10側に供給する水素ガスの流量やガス圧を高精度に調整する、本実施の形態に係るインジェクタ35が設けられている。このインジェクタ35の構成については後述する。
【0022】
循環流路32には、水素オフガスから水分を回収する気液分離器36と、循環流路32内の水素オフガスを加圧して供給流路31側へ圧送する水素ポンプ37が設けられている。気液分離器36には、気液分離器36により分離された水分や水素オフガスの一部を外部に排出する排出流路38が接続されている。当該排出流路38には、気液分離器36からの水分や水素オフガスの排出を制御する排出制御弁39が設けられている。
【0023】
制御装置13は、内部にCPU,ROM,RAMを備えたマイクロコンピュータとして構成される。CPUは、制御プログラムに従って所望の演算を実行して、後述するインジェクタ35の開閉制御など、種々の処理や制御を行う。ROMは、CPUで処理する制御プログラムや制御データを記憶する。RAMは、主として制御処理のための各種作業領域として使用される。
【0024】
制御装置13は、車両に設けられた加速操作装置(アクセルペダル等)の操作量を検出し、加速要求値(例えばトラクションモータ等の電力を消費する負荷装置からの要求発電量)等の制御情報を受けて、システム1内の各種機器の動作を制御する。なお、負荷装置は、トラクションモータのほかに、燃料電池10を作動させるために必要なコンプレッサ24、水素ポンプ37、及び図示しない冷媒循環用のポンプ等の補機装置のモータ、並びに、車両の走行に関与する各種装置(車輪制御部、操舵装置、懸架装置等)で使用されるアクチュエータ、空調装置、照明及びオーディオ等を含む。
【0025】
制御装置13には、燃料電池10の発電量を検出する電流センサ10aの検出情報が入力される。また、各配管系を流れる流体の圧力、温度、流量等を検出するセンサの検出情報や、外気温を検出するセンサの検出情報等が入力される。制御装置13は、要求発電量及び各センサの検出情報に基づき、コンプレッサ24、遮断弁33、及びインジェクタ35等を駆動制御して、燃料電池10に要求発電量に応じた流量及び圧力の反応ガスを供給する。
【0026】
次に、インジェクタ35について説明する。図2は、インジェクタ35の構成の概略を示す縦断面の説明図である。
【0027】
本実施の形態におけるインジェクタ35は、例えば弁体を電磁駆動力で直接的に所定の駆動周期で駆動して弁座から離隔させることによりガス流量やガス圧等のガス状態を調整することが可能な電磁駆動式の開閉弁である。
【0028】
インジェクタ35は、例えば図2に示すように略円筒状のインジェクタボディ(ノズルボディ)50を有している。インジェクタボディ50は、その軸方向(図2の上下方向)の両側が供給流路31に接続され、供給流路31の一部を構成している。インジェクタボディ50内には、弁座51と、弁体52と、流路形成ボディ53と、ソレノイド54等が設けられている。
【0029】
流路形成ボディ53は、例えば略円筒状に形成され、インジェクタボディ50内の上流部に設けられている。流路形成ボディ53の中心軸には、供給流路31のガスが流入して流れるガス流路53aが形成されている。流路形成ボディ53は、例えばインジェクタボディ50に対して固定されている。
【0030】
ソレノイド54は、例えば流路形成ボディ53とインジェクタボディ50との間に設けられている。このソレノイド54によって、弁体52を軸方向(図2中の矢印方向)に移動させ、弁座51に対して進退させることができる。
【0031】
弁体52は、流路形成ボディ53の下流側に設けられている。弁体52は、例えば略円柱状に形成され、流路形成ボディ53と同軸上に配置されている。弁体52は、例えば比較的径の小さい流路形成ボディ53側の上流部52aと、比較的径の大きい弁座51側の下流部52bを有している。
【0032】
弁体52の上流部52a側の中心軸には、ガス流路52cが形成されている。ガス流路52cは、上流部52aの流路形成ボディ53側の端部から弁体52の内部の途中まで形成されている。ガス流路52cは、流路形成ボディ53のガス流路53aと同軸上に形成されている。また、弁体52の下流部52b側の内部には、ガス流路52cの終端から下流部52bの側面に連通するガス流路52dが形成されている。
【0033】
弁体52のガス流路52b内には、螺旋状のスプリング67が設けられている。このスプリング67の上流側(図2の上側)の端部は、流路形成ボディ53のガス流路53a内に設けられた係止部68に当接している。スプリング67は、常に下流側に反発力が働くように係止部68に当接されている。これによって、弁体52は、常に弁座51側に付勢されている。
【0034】
また、例えば弁体52の上流部52a側の外周面とインジェクタボディ50の内周面との間には、シール部材69が介在されている。弁体52の中央付近には、径の大きい段部52eが形成され、弁体52がソレノイド54によって上流側に所定距離移動したときに、段部52eがインジェクタボディ50のストッパ部50aに当接し、弁体52の移動を止めることができる。
【0035】
弁体52の下流部52b側の弁座52に対向する面は、平坦面を有し、その平坦面には、円柱状の複数例えば2つの凸部52fが形成されている。凸部52fは、後述する凹部に対応する位置に形成されている。
【0036】
弁座51の弁体52に対向する面は、例えば平坦に形成され、その平坦面の中央部には、ガスを噴出する噴出孔51aが開口している。噴出孔51aの周囲には、弁体52の凸部52fと僅かに遊びをもった状態で嵌合する凹部51bが形成されている。凹部51bは、例えば図3に示すように噴出孔51aを中心とした同一円周上に等間隔で形成されている。本実施の形態では、凹部51bが2個所に形成されているので、凹部51bは、噴出孔51aを挟んだ両側に、噴出孔51aから等距離の位置に形成されている。
【0037】
凸部52f及び凹部51bの径や長さは、例えば弁体52が軸方向に移動した際に常に凸部52fが凹部51b内にあり、凸部52fが凹部51bに沿って移動できるように設定されている。つまり、弁体52の凸部52fが弁座51の凹部51bに常にガイドされている状態になっている。
【0038】
以上のように構成されたインジェクタ35が、燃料電池10に所定流量の水素ガスを供給する際には、ソレノイド54によって図4に示すように弁体52が弁座51に対し軸方向に後退し、弁体52と弁座51との間に隙間が形成される。これによって、水素ガスタンク30から供給流路31を通じて供給された水素ガスが、インジェクタボディ50内の流路形成ボディ53のガス流路53a、弁体52のガス流路52c、52dを通り、さらに弁体52と弁座51の隙間を通って噴出孔51aから噴出される。このとき、弁体52の凸部52fは、弁座51の凹部51bに挿入された状態が維持され、凹部51bに沿って移動する。
【0039】
また、インジェクタ35が水素ガスの噴出を停止する際には、弁体52が弁座52側に進行し、弁体52によって弁座51の噴出孔51aが閉鎖される。このときも当然、弁体52の凸部52fが弁座51の凹部51bに挿入された状態が維持される。
【0040】
以上の実施の形態によれば、弁座51の弁体52側の面の噴出孔51aの周辺に、凹部51bが形成され、弁体52の弁座51側の面に、凹部51bに嵌合される凸部52fが形成され、弁体52が弁座52に対し進退する際に、凸部52fが凹部51b内を移動し、凸部52fが凹部51bに嵌合された状態が維持されている。これによって、弁体52が、常にガイドされ、移動時及び停止時において常に左右にずれることが防止される。この結果、弁体52の弁座51に対する動作が安定し、インジェクタ35の噴出孔51aからの水素ガスの噴出が常に適正に行われる。また、例えば板ばねによって弁体52の左右のずれを防止した場合に比べて、過酷な使用環境に耐えることができ、なおかつ部品点数を増やさずに、弁体52の左右のずれを防止できる。したがって、インジェクタ35の使用環境の自由度が上がり、また組立性等が向上しコストの低減が図られる。
【0041】
また、以上の実施の形態では、凸部52fと凹部51bが、それぞれ2個所に形成され、噴出孔51aを中心とする同一円周上に等間隔で形成されているので、弁体52の中心軸に対する横方向のずれをより確実に防止できる。
【0042】
さらに、弁体52の凸部52fと弁座52の凹部51bが平坦面に形成されているので、例えば加工性に優れている。
【0043】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に相到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0044】
例えば以上の実施の形態では、凸部52f、凹部51bが2個所に形成されていたが、3個所以上の複数個所に形成されていてもよい。また、インジェクタ35の各部材の形状、配置等は、本実施の形態の例に限られず、他のものであってもよい。さらに本発明にかかるインジェクタは、ガスを噴出するもののみならず、液体を噴出するものにも適用できる。
【0045】
以上の実施形態では、燃料電池システム1において供給流路31に設けられるインジェクタ35を例に採って説明したが、燃料電池システムに設けられる他のインジェクタに、本発明を適用してもよい。また、以上の実施の形態では、燃料電池車両に搭載する燃料電池システムについて説明したが、燃料電池システムは、燃料電池車両以外の各種移動体(ロボット、船舶、航空機等)に搭載するものであってもよい。また、燃料電池システムは、建物(住宅、ビル等)用の発電設備として用いられる定置用発電システムに適用したものであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】燃料電池システムの構成の概略を示す説明図である。
【図2】インジェクタの断面図の説明図である。
【図3】弁座の噴出孔に対する凹部の位置を示す説明図である。
【図4】噴出孔が開放されたときの弁体と弁座とその周辺部を示す拡大図である。
【符号の説明】
【0047】
1 燃料電池システム
10 燃料電池
35 インジェクタ
51 弁座
51a 噴出孔
51b 凹部
52 弁体
52f 凸部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体の噴出孔が開口した弁座と、当該弁座に対して進退し当該弁座の噴出孔を開閉する弁体とを有する、インジェクタであって、
弁座の弁体側の面の前記噴出孔の周辺には、凹部が形成され、
弁体の弁座側の面には、前記凹部に嵌合される凸部が形成され、
前記弁体が前記弁座に対し進退する際に、前記凸部が前記凹部に嵌合された状態が維持されていることを特徴とする、インジェクタ。
【請求項2】
前記凸部及び凹部は、それぞれ複数個所に形成され、前記噴出孔を中心とする同一円周上に等間隔で形成されていることを特徴とする、請求請1に記載のインジェクタ。
【請求項3】
前記弁体と前記弁座の互いの対向面には、それぞれ平坦面が形成され、
前記弁体の凸部と前記弁座の凹部は、各々の平坦面に形成されていることを特徴とする、請求項1又は2に記載のインジェクタ。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のインジェクタを用いて燃料電池に反応ガスを供給する燃料電池システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−101316(P2009−101316A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−276856(P2007−276856)
【出願日】平成19年10月24日(2007.10.24)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】