説明

インストルメントパネルの衝撃吸収構造

【課題】衝突事故などの際に人体部位のインストルメントパネルへの衝突による衝撃力を効率よく吸収可能とするインストルメントパネルの衝撃吸収構造を提供する。
【解決手段】車両の衝突事故などにより乗員8の頭部Hや膝K等などの人体部位がインストルメントパネル1に衝突した際に、人体への衝撃力を低減させるものであって、インストルメントパネル1は、運転席または助手席の前方にセンターボックス3と、インストルメントパネル1の表面部を構成しかつセンターボックス3が取り付けられる表面パネル部2と、インストルメントパネル1の内部に固定されかつセンターボックス3の後端部の車両前方側に近接して対向配置された縦壁と、を有して、人体部位の衝突による表面パネル部の変形に伴って収納用ボックスが車両に対して前方に移動する際に該収納用ボックスの後端部を上方または下方に案内する被案内凸部3b’が縦壁5’に設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の衝突事故などにより乗員の人体部位が車両のインストルメントパネルに衝突した際に、この衝突による衝撃力を吸収して人体への衝撃力を低減させるインストルメントパネルの衝撃吸収構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、車両の衝突事故などにより乗員の人体部位が車両のインストルメントパネルに衝突した際に、この衝突による衝撃力を吸収して人体への衝撃力を低減させるインストルメントパネルの衝撃吸収構造が知られている(特許文献1等参照)。
【0003】
図1(a)において、符号1は車両のインストルメントパネルであり、インストルメントパネル1は、主に合成樹脂によって形成されている。
【0004】
インストルメントパネル1は、その表面部を構成する表面パネル部2と、助手席前方に小物収納用のセンターボックス3とを有しており、センターボックス3の表側にはセンターボックス3用のリッド3aが設けられている。
【0005】
図1(b)において、符号4は車室、符号5はインストルメントパネル1の内部に設けられた縦壁、符号6は車体に固定されたステアリングサポートメンバ、符号7は助手席シート、符号8は助手席シート7に座っている乗員である。
【0006】
縦壁5は、センターボックス3の後端部3bの車両前方に近接配置されており、インストルメントパネル1と共に、図示省略の固定具によって、車体に固定されたステアリングサポートメンバ6に取り付けられている。
【0007】
図1(c)に示すように、表面パネル部2には、凹部2aを介してセンターボックス3の前端部が固定されており、凹部2aの開口部には、リッド3aが開閉自在に取り付けられている(図1(c)では図示を省略している)。
【0008】
ところで、車両の衝突事故などの衝撃により、乗員8は頭部Hや膝Kなどの人体の部位をインストルメントパネル1の表面部に衝突することがある。
【0009】
このような人体部位のインストルメントパネル1への衝突の際には、乗員8の受ける衝撃力を低減させるために、インストルメントパネル1の表面パネル部2を積極的に変形させることにより、人体からの衝撃力を吸収することが望まれる。
【0010】
本従来例では、この目的のために、図1(c)に示すように、縦壁5の後端部3bと対応する位置に開口5aを設けている。
【0011】
図2に示すように、車両の衝突事故などにより、乗員8の人体部位がインストルメントパネル1の表面パネル部2に衝突したとすると、表面パネル部2は変形し、この変形に伴ってセンターボックス3が車両に対して前方に移動する。
【0012】
センターボックス3の後端部3bと縦壁5とは近接しているので、仮に縦壁5に開口5aを設けない場合には、図2(a)に示すように、衝突直後にセンターボックス3の後端部3bが縦壁5に突き当たり(図(2)参照)、センターボックス3の車両前方への移動が妨げられ、これに伴い表面パネル部2の変形が制限される。
【0013】
この場合、人体部位の衝突による衝撃力がインストルメントパネル1には十分吸収されないので、助手席の乗員8は大きな衝撃力を受ける可能性がある。
【0014】
本従来例のインストルメントパネルの衝撃吸収構造では、図2(b)に示すように、縦壁5の後端部3bと対応する位置に開口5aが設けられているので、衝突の際に、センターボックス3の後端部3bと縦壁5との干渉が回避されて(図(2)参照)、表面パネル部2の車両前方への変形自由度が大きくなり、開口5aが設けられていない場合に比べて、衝突による衝撃力を効率よく吸収することができる。
【0015】
また、この他に、インストルメントパネルの内部にウレタン製の衝撃吸収用パッドを設けることによって、人体への衝撃力を低減させるインストルメントパネルの衝撃吸収構造が特許文献1に記載されている。
【特許文献1】特開2003−327066号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかしながら、図2(c)に示すように、人体部位の衝突位置によっては、センターボックス3の後端部3bが縦壁5の開口5aを挿通せずに縦壁5の開口5a周囲の部分と干渉する可能性があり、この場合には、インストルメントパネル1は、人体部位の衝突による衝撃力を十分に吸収できない。
【0017】
そこで、センターボックス3の後端部3bと縦壁5の開口5a周囲の部分との干渉を回避すべく、縦壁5の開口5aを大きくすると、インストルメントパネル1の強度が低下してしまうおそれがあった。
【0018】
そこで、本発明では、インストルメントパネルの強度を損なうことなく、衝突事故などの際に人体部位のインストルメントパネルへの衝突による衝撃力を効率よく吸収可能とするインストルメントパネルの衝撃吸収構造を提供することを目的にしている。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記目的を達成するための請求項1の発明は、車両の衝突事故などにより乗員の人体部位が前記車両のインストルメントパネルに衝突した際に、該衝突による衝撃力を吸収して前記人体への衝撃力を低減させるインストルメントパネルの衝撃吸収構造であって、前記インストルメントパネルは、運転席または助手席の前方に収納用ボックスと、前記インストルメントパネルの表面部を構成しかつ前記収納用ボックスが取り付けられる表面パネル部と、前記インストルメントパネルの内部に設けられかつ前記収納用ボックス後端部の車両前方側に近接して対向配置された縦壁と、を有して、前記人体部位の衝突による前記表面パネル部の変形に伴って前記収納用ボックスが前記車両に対して前方に移動する際に該収納用ボックスの後端部を上方または下方に案内する案内部が前記縦壁に設けられているインストルメントパネルの衝撃吸収構造を特徴としている。
【発明の効果】
【0020】
このように構成された請求項1のインストルメントパネルの衝撃吸収構造では、人体部位の表面パネル部への衝突時に、収納用ボックス全体が車両前方に移動しつつ収納用ボックスの後端部は案内部により上方または下方に案内されるため、収納用ボックスは車両前方の縦壁に係止されることなく運動し、この収納用ボックスの運動に伴い表面パネル部が十分に変形するので、衝突による衝撃力を効率よく吸収することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明に係る実施の形態の実施例に基づいて本発明を説明する。
【実施例】
【0022】
〈構成〉
図3(a)において、符号1は車両のインストルメントパネルであり、インストルメントパネル1は、主に合成樹脂によって形成されている。
【0023】
インストルメントパネル1は、その表面部を構成する表面パネル部2と、助手席前方に小物収納用のセンターボックス3’とを有しており、センターボックス3’の表側にはセンターボックス3’用のリッド3aが設けられている。
【0024】
図3(b)において、符号4は車室、符号5’はインストルメントパネル1の内部に設けられた縦壁、符号6は車体に固定されたステアリングサポートメンバ、符号7は助手席シート、符号8は助手席シート7に座っている乗員である。
【0025】
縦壁5’は、センターボックス3’の後端部の車両前方に近接配置されており、インストルメントパネル1と共に、図示省略の固定具によって、車体に固定されたステアリングサポートメンバ6に取り付けられている。
【0026】
図4(a)または図4(b)に示すように、本実施例のインストルメントパネルの衝撃吸収構造では、センターボックス3’の後端部に半円筒状の被案内凸部3b’が膨出形成されており、縦壁5’には被案内凸部3b’と対向する位置に案内凸部5a’が形成されている。なお、案内凸部5a’は、被案内凸部3b’より大きな半円筒状または大きな湾曲面で形成されている。
【0027】
被案内凸部3b’の表面および案内凸部5a’の表面は滑らかに形成されており、これらが当接した際に滑らかに摺動するようになっている。
【0028】
〈作用効果〉
図5(a)の図(1)に示すように、例えば、乗員8の頭部Hが表面パネル部2の凹部2a開口部上部に衝突して、センターボックス3’の被案内凸部3b’が縦壁5’の案内凸部5a’の中央よりやや下方に突き当たった場合には、図5(a)の図(2)に矢印で示すように、センターボックス3’の被案内凸部3b’が縦壁5’の案内凸部5a’により下方に案内される。
【0029】
そして、センターボックス3’全体が車両前方に移動しつつセンターボックス3’の被案内凸部3b’が案内部5a’により下方に案内されるため、センターボックス3’は車両前方の縦壁5’に係止されることなく運動し、このセンターボックス3’の運動に伴い表面パネル部2が十分に変形するので、衝突による衝撃力を効率よく吸収することができる。
【0030】
また、図5(b)の図(1)に示すように、例えば、乗員8の膝Kが表面パネル部2の凹部2a開口部下部に衝突して、センターボックス3’の被案内凸部3b’が縦壁5’の案内凸部5a’の中央よりやや上方に突き当たった場合には、図5(b)の図(2)に矢印で示すように、センターボックス3’の被案内凸部3b’が縦壁5’の案内凸部5a’により上方に案内される。
【0031】
そして、センターボックス3’全体が車両前方に移動しつつセンターボックス3’の被案内凸部3b’は案内部5a’により上方に案内されるため、センターボックス3’は車両前方の縦壁5’に係止されることなく運動し、このセンターボックス3’の移動に伴い表面パネル部2が十分に変形するので、衝突による衝撃力を効率よく吸収することができる。
【0032】
このように、本実施例のインストルメントパネルの衝撃吸収構造では、車両の衝突時に乗員8の頭部Hや膝Kなどの人体部位が車両のインストルメントパネル1に衝突した際に、衝突による衝撃力を吸収して前記乗員8の人体への衝撃力を低減させる。
【0033】
以上、図面を参照して、本発明に係る実施の形態の実施例を詳述してきたが、具体的な構成は、この実施の形態に限らず、本発明の要旨を逸脱しない程度の設計的変更は、本発明に含まれるものである。
【0034】
なお、本実施例では、センターボックス3’の後端部に半円筒状の被案内凸部3b’と、縦壁5’の被案内凸部3b’と対向する位置に案内凸部5a’とを設けたが、これらの形状は滑らかな凸形状であって、互いに滑らかに摺動可能であれば、どのような形状であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】図(a)は車両のインストルメントパネルの正面図、図(b)は車両の車室部分の断面構成図、図(c)は車両のインストルメントパネルのセンターボックス部分を背面側から見た斜視図であり、図(c)はセンターボックスのインストルメントパネルへの取付状態とセンターボックスの縦壁との位置関係を示している。
【図2】図1(b)のD1部分の拡大図であり、従来例のインストルメントパネルの問題点を示している。
【図3】図(a)は車両のインストルメントパネルの正面図、図(b)は車両の車室部分の断面構成図である。
【図4】図(a)は車両のインストルメントパネルのセンターボックス部分を背面側から見た斜視図であり、センターボックスのインストルメントパネルへの取付状態とセンターボックスの縦壁との位置関係を示している。また、図(b)は車両のインストルメントパネルのセンターボックス部分の側面図である。
【図5】図3(b)のD2部分の部分図であり、図(a)は乗員の頭部が表面パネル部の凹部開口部上部に衝突した場合のセンターボックスの運動を示しており、図(b)は乗員の膝が表面パネル部の凹部開口部下部に衝突した場合のセンターボックスの運動を示している。
【符号の説明】
【0036】
1 インストルメントパネル
2 表面パネル部
3 センターボックス(収納用ボックス)
3b’ 被案内凸部(後端部)
5’ 縦壁
5a’ 案内凸部(案内部)
8 乗員
H 頭部(人体部位)
K 膝(人体部位)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の衝突事故などにより乗員の人体部位が前記車両のインストルメントパネルに衝突した際に、該衝突による衝撃力を吸収して前記人体への衝撃力を低減させるインストルメントパネルの衝撃吸収構造であって、
前記インストルメントパネルは、運転席または助手席の前方に収納用ボックスと、
前記インストルメントパネルの表面部を構成しかつ前記収納用ボックスが取り付けられる表面パネル部と、
前記インストルメントパネルの内部に設けられかつ前記収納用ボックス後端部の車両前方側に近接して対向配置された縦壁と、
を有して、
前記人体部位の衝突による前記表面パネル部の変形に伴って前記収納用ボックスが前記車両に対して前方に移動する際に該収納用ボックスの後端部を上方または下方に案内する案内部が前記縦壁に設けられていることを特徴とするインストルメントパネルの衝撃吸収構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−286162(P2009−286162A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−137690(P2008−137690)
【出願日】平成20年5月27日(2008.5.27)
【出願人】(000004765)カルソニックカンセイ株式会社 (3,404)
【Fターム(参考)】