説明

インスリン分泌促進性ペプチドの懸濁製剤及び使用

インスリン分泌促進性ペプチド(例えばグルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)又はエクセナチド)の懸濁製剤が記載される。前記懸濁製剤は、(i)1つ以上のポリマー及び1つ以上の溶媒を含み、粘性流体特性を呈する非水性単相ビヒクル、並びに(ii)前記ビヒクル中に分散される、インスリン分泌促進性ペプチドを含む粒子製剤を含む。前記粒子製剤は、例えば糖質、抗酸化剤、アミノ酸、及び緩衝剤等の1つ以上の安定化剤を含む安定化成分を更に含む。また、前記懸濁製剤を送達するための装置及び使用方法も記載される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連する出願の相互参照
本出願は、2007年4月23日に出願された米国仮出願第60/926,005号、及び2008年5月28日に出願された米国仮出願第61/072,202号の利益を主張し、これらの出願は本明細書中で、それらの全てが参照により援用される。
【0002】
技術分野
本発明は、医薬研究開発に応用される、有機化学、製剤化学、及びペプチド化学に関する。本発明の側面は、哺乳類における使用のための、及び疾患又は病態の処置のための、インスリン分泌促進性ペプチドの懸濁製剤を提供する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
グルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)は、重要なホルモンの1つであり、そしてヒトプログルカゴン分子のフラグメントである。GLP-1は、ペプチダーゼ(ジペプチジルペプチダーゼIV又はDPP-IV)により急速に代謝される。GLP-1のフラグメントであるグルカゴン様ペプチド-1(7-36)アミド(グルカゴン様インスリン分泌促進性ペプチド、又はGLIP)は、生理的濃度でインスリンの放出を促進する胃腸ペプチドである(Gutniak M., et al., N Engl J Med. 1992 May 14;326(20):1316-22)。GLP-1及びGLP-1(7-36)アミドは、インクレチンである。インクレチンは、食後にベータ細胞から放出されるインスリンの量の増大を引き起こす胃腸ホルモンである。
【0004】
摂食、並びに交感神経系の刺激は、哺乳類の小腸におけるGLP-1の分泌を刺激する。更に、GLP-1は、インスリンの生産及び分泌、ソマトスタチンの放出、インスリン感受性の増大によるグルコース利用を刺激し、そして哺乳類の研究においては、ベータ細胞の機能及び増殖をも刺激する。
【0005】
GLP-1(7-36)アミド及びGLP-1(7-37)は、2型糖尿病患者において空腹時高血糖を正常化する(Nauck, M.A., et al., Diabet. Med. 15(11):937-45(1998))。
【0006】
エキセンディン-4は、ヘロデルマ・ススペクツム(Heloderma suspectum)毒から精製されたインクレチン模倣体であり(即ち、それはインクレチンの生理的作用を模倣する) (Eng, J., et al., J. Biol. Chem. 267:7402-05 (1992))、そしてインクレチンホルモンGLP-1(7-36)アミドとの構造的関連性を示す。エキセンディン-4及び短縮型エキセンディン-(9-39)アミドは、インスリノーマ由来の細胞上及び肺細胞膜上のGLP-1受容体と特異的に相互作用する(Goke R, et al., J Biol Chem. 268:19650-55 (1993))。エキセンディン-4は、ヒトGLP-1と約53%の相同性を有する(Pohl, M., et al., J Biol Chem. 273:9778-84 (1998))。しかしながら、GLP-1と異なり、エキセンディン-4は、DPP-IVによる分解に耐性である。グリシンは、DPP-IVによる分解に耐性を付与する(Young, A.A., et al., Diabetes 48(5):1026-34(1999))。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
発明の概要
本発明は、粒子製剤及び懸濁ビヒクルを含む懸濁製剤組成物、並びにそのような製剤を含む装置、そのような製剤及び装置を作製する方法、並びにそれらを使用する方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一の側面において、本発明は、インスリン分泌促進性ペプチド、並びに糖質、抗酸化剤、アミノ酸、緩衝剤、及び無機化合物からなる群から選択される1つ以上の安定化剤を含む、懸濁製剤に関する。前記懸濁組成物は、1つ以上のポリマー及び1つ以上の溶媒を含む非水性単相懸濁ビヒクルを更に含む。前記懸濁ビヒクルは粘性流体特性を有し、そして前記粒子製剤は、前記ビヒクル中に分散される。
【0009】
一の態様において、前記懸濁製剤は、インスリン分泌促進ペプチド、二糖(例えばスクロース)、メチオニン、及び緩衝剤(例えばクエン酸塩)を含む粒子製剤、並びに1つ以上のピロリドンポリマー(例えばポリビニルピロリドン)及び1つ以上の溶媒(例えば乳酸ラウリル、ラウリルアルコール、安息香酸ベンジル、又はそれらの混合物)を含む非水性単相懸濁ビヒクルを含む。
【0010】
インスリン分泌促進性ペプチドの例には、限定されないが、グルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)、エクセナチド、及びそれらの誘導体又は類似体が含まれる。本発明の一の態様において、前記インスリン分泌促進性ペプチドはGLP-1(7-36)アミドである。本発明のもう一つの態様において、前記インスリン分泌促進性ペプチドはエクセナチドである。
【0011】
本発明に係る粒子製剤は、例えばクエン酸塩、ヒスチジン、コハク酸塩、及びそれらの混合物からなる群から選択される緩衝剤を更に含み得る。
【0012】
本発明に係る粒子製剤は、例えばクエン酸塩、ヒスチジン、コハク酸塩、及びそれらの混合物、NaCl、Na2SO4、NaHCO3、KCl、KH2PO4、CaCl2、及びMgCl2からなる群から選択される無機化合物を更に含み得る。
【0013】
前記粒子製剤における1つ以上の安定化剤は、例えば、ラクトース、スクロース、トレハロース、マンニトール、セロビオース、及びそれらの混合物からなる群から選択される糖質等を含み得る。
【0014】
前記粒子製剤における1つ以上の安定化剤は、例えばメチオニン、アスコルビン酸、チオ硫酸ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、クエン酸、システイン、チオグリセロール、チオグリコール酸、チオソルビトール、ブチル化ヒドロキシアニソール、及び没食子酸プロピル、並びにそれらの混合物からなる群から選択される抗酸化剤等を含み得る。
【0015】
前記粒子製剤における1つ以上の安定化剤は、アミノ酸を含み得る。
【0016】
一の態様において、本発明に係る懸濁ビヒクルの溶媒は、乳酸ラウリル、ラウリルアルコール、安息香酸ベンジル、及びそれらの混合物からなる群から選択される。前記懸濁ビヒクルを製剤化し得るポリマーの一例は、ピロリドン(例えばポリビニルピロリドン)である。一の好ましい態様において、前記ポリマーはピロリドンであり、そして前記溶媒は安息香酸ベンジルである。
【0017】
前記懸濁製剤は、典型的には約10wt%未満、そして一の好ましい態様においては約5wt%未満の全体含水率を有する。
【0018】
本発明に係る懸濁製剤を収容し、そして送達するために、移植可能な薬物送達装置が使用され得る。一の態様において、前記装置は浸透圧送達装置であり得る。
【0019】
例えばII型糖尿病等の、処置を要する対象における多くの病状又は病態のいずれかを処置するために、本発明に係る懸濁製剤が使用され得る。一の態様において、移植可能な薬物送達装置は、約1ヶ月〜約1年の期間、実質的に均一な速度で本発明に係る懸濁製剤を送達する。前記装置は、例えば、便利な場所に皮下移植され得る。
【0020】
また、本発明は、本明細書に記載される、本発明に係る懸濁製剤、粒子製剤、懸濁ビヒクル、及び装置の製造方法を含む。
【0021】
本発明のこれらの、及び他の態様は、本明細書中の開示を考慮して、当業者が容易に想到し得る。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】インスリン分泌性ペプチドの2つの例示物の配列を示す:図1Aは、グルカゴン様ペプチド1(7-36)アミド(GLP-1(7-36)アミド)(配列番号:1)を示し、そして図1Bは、合成エクセナチドペプチド(配列番号:2)を示す。
【0023】
【図2】DUROS(登録商標)(ALZA Corporation, Mountain View CAが権利者であり、Intarcia Therapeutics, Inc., Hay ward CAにライセンス供与されている)装置からのエクセナチドの持続的な送達により処置された試験動物群の平均体重のデータを示す。本図において、縦軸はグラム単位の平均体重(体重(g))であり、そして横軸は日数(日)である。群1(黒塗り菱形)の肥満動物は、DUROS(登録商標)装置からエクセナチドが1日あたり0mcg投与される、コントロール群であった。群2(黒塗り正方形)の動物は、DUROS(登録商標)装置からエクセナチドが1日あたり20mcg投与される肥満動物であった。群3(黒塗り三角形)の動物は、エクセナチドが1日あたり20mcg投与される痩せた動物であった。
【0024】
【図3】DUROS(登録商標)装置からのエクセナチドの持続的な送達により処置された試験動物群の平均血中グルコース濃度のデータを示す。本図において、縦軸はmg/dL単位の平均血中グルコース(血中グルコース(mg/dL))であり、そして横軸は日数(日)である。ここで、各々の日は3つの関連した血中グルコース値(A、B、C)を有する。第-1日Aは空腹時の血中グルコース値であり、そして第8日Aは空腹時の血中グルコース値である。群1(黒塗り菱形)の肥満動物は、エクセナチドが1日あたり0mcg投与される、コントロール群であった。群2(黒塗り正方形)の動物は、DUROS(登録商標)装置からエクセナチドが1日あたり20mcg投与される肥満動物であった。群3(黒塗り三角形)の動物は、DUROS(登録商標)装置からエクセナチドが1日あたり20mcg投与される痩身動物であった。
【0025】
【図4】DUROS(登録商標)装置からのエクセナチドの持続的な送達により処置された試験動物群の平均HbA1c値のデータを示す。本図において、縦軸は平均パーセントHbA1c(HbA1c(%))であり、そして横軸は日数(日)である。群1(黒塗り菱形)の肥満動物群は、エクセナチドが1日あたり0mcg投与される、コントロール群であった。群2(黒塗り正方形)の動物は、エクセナチドが1日あたり20mcg投与される肥満動物であった。群3(黒塗り三角形)の動物は、DUROS(登録商標)装置からエクセナチドが1日あたり20mcg投与される痩せた動物であった。
【発明を実施するための形態】
【0026】
発明の詳細な記載
本明細書中に引用される全ての特許、刊行物、及び特許出願は、各々個別の特許、刊行物、又は特許出願が、本明細書の全てにおいてあらゆる目的で参照により援用されることを特異的にかつ個別に示したが如く、本明細書中で参照により援用される。
【0027】
1.0.0 定義
本明細書中で使用される専門用語は唯特定の態様を記載することのみを目的とし、そして限定を意図するものではないことが理解されるべきである。本明細書及び添付された特許請求の範囲において使用されるとき、単数形の「ある(a)」、「ある(an)」及び「その(the)」は、文脈中に明確な別段の指示が無い限り、複数の対象を含む。故に、例えば、「ある溶媒」の参照は、2つ以上のそのような溶媒の組合せを含み、「あるペプチド」の参照は、1つ以上のペプチド、複数のペプチドの混合物等を含む。
【0028】
別段定義されていない限り、本明細書中で使用される技術及び科学用語は、本発明が関連する分野の当業者により通常理解されるものと同じ意味を有する。本明細書に記載されるものと類似の、又は等価の他の方法及び材料が本発明の実施において使用され得るが、本明細書中には好ましい材料及び方法が記載される。
【0029】
本発明を記載及び言及するとき、以下の専門用語は、以下に設定された定義に従って使用され得る。
【0030】
「ペプチド」、「ポリペプチド」、及び「タンパク質」という用語は、本明細書中では置換可能なものとして使用され、そして典型的には2つ以上のアミノ酸((例えば、最も典型的にはL-アミノ酸であるが、例えばD-アミノ酸、修飾アミノ酸、アミノ酸類似体、及び/又はアミノ酸模倣体も含む)の鎖を含む分子を指す。また、ペプチドは、例えば翻訳後修飾を経て追加される官能基等の、前記アミノ酸の鎖を修飾する追加的な基を含み得る。本訳語修飾の例には、限定されないが、アセチル化、アルキル化(メチル化を含む)、ビオチン化、グルタミル化、グリシル化、グリコシル化、イソプレニル化、リポイル化、ホスホパンテテイニル化、リン酸化、セレノ化(selenation)、及びC末端アミド化が含まれる。また、ペプチドという用語には、アミノ末端及び/又はカルボキシ末端の修飾を含むペプチドも含まれる。末端アミノ基の修飾には、限定されないが、des-アミノ、N-低級アルキル、N-ジ-低級アルキル、及びN-アシル修飾が含まれる。末端カルボキシル基の修飾には、限定されないが、アミド、低級アルキルアミド、ジアルキルアミド、及び低級アルキルエステル修飾(例えば、低級アルキルとしては、C1〜C4アルキル)が含まれる。
【0031】
ペプチド鎖の一方の末端アミノ酸は、典型的には、遊離アミノ基を有する(即ち、アミノ末端)。前記鎖のもう一方の末端アミノ酸は、典型的には、遊離カルボキシル基を有する(即ち、カルボキシ末端)。典型的には、ペプチドを形成するアミノ酸は、そのペプチドのアミノ末端から始まってカルボキシ末端の方に向かって数字が大きくなるように番号が振られる。
【0032】
本明細書中で使用されるとき、「アミノ酸残基」という言葉は、アミド結合又はアミド結合模倣(amide bond mimetic)によりペプチド中に組み込まれるアミノ酸を指す。
【0033】
本明細書中で使用されるとき、「インスリン分泌促進」という言葉は、インスリンの生産及び/又は活性を刺激又は影響する例えばペプチド等の化合物(例えば、インスリン分泌促進性ホルモン)の能力を指す。そのような化合物は、典型的には、対象中のインスリンの分泌又は生合成を刺激する。
【0034】
本明細書中で使用されるとき、「インスリン分泌促進性ペプチド」という言葉は、限定されないが、グルカゴン様ペプチド1(GLP-1)又はそれらの誘導体及び類似体、並びにエクセナチド又はそれらの誘導体及び類似体を含む。
【0035】
本明細書中で使用されるとき、「ビヒクル」という用語は、化合物を担持するために使用される媒体を指す。本発明に係るビヒクルは、典型的には、ポリマー及び溶媒等の化合物を含む。本発明に係る懸濁ビヒクルは、典型的には、ポリペプチド粒子の懸濁製剤を調製するために使用される溶媒及びポリマーを含む。
【0036】
本明細書中で使用されるとき、「相分離」という言葉は、前記懸濁ビヒクルが水性環境と接触しているときのような、前記懸濁ビヒクル中における複数の相(例えば液体又はゲル相)の形成を指す。本発明の幾つかの態様において、前記懸濁ビヒクルは、約10%未満の水を有する水性環境との接触に応じて相分離を呈するように製剤化される。
【0037】
本明細書中で使用されるとき、「単相」という言葉は、全体が物理的に及び化学的に均一である、固体、半固体、又液体の均一系を指す。
【0038】
本明細書中で使用されるとき、「分散された」という用語は、化合物、例えばペプチドが、懸濁ビヒクル中で溶解している、分散している、懸濁している、さもなくは分配している(distributing)ことを指す。
【0039】
本明細書中で使用されるとき、「化学的に安定な」という言葉は、ある製剤において、脱アミド化(通常、加水分解による)、凝集、又は酸化等の化学的経路により一定の時間内に生産される分解産物の形成が、許容されるパーセンテージにあることを指す。
【0040】
本明細書中で使用されるとき、「物理的に安定な」という言葉は、ある製剤において、凝集体(例えば、二量体及び他の高分子量産物)の形成が、許容されるパーセンテージにあることを指す。更に、物理的に安定な製剤は、例えば液体から固体、又はアモルファスから結晶形態等のように、その物理的状態を変化させない。
【0041】
本明細書中で使用されるとき、「粘性」という用語は、せん断応力に対するせん断速度の比率から判定される値(例えば、Considine, D.M. & Considine, G.D., Encyclopedia of Chemistry, 4th Edition, Van Nostrand, Reinhold, NY, 1984を参照されたい)を指し、本質的には、以下のように求められる:
【0042】
F/A=μ*V/L (等式1)
[式中、
F/A=せん断応力(単位面積当たりの力)
μ=比例定数(粘性)
V/L=層の厚さあたりの速度(せん断速度)]
【0043】
この関係から、せん断応力に対するせん断速度の比率は、粘性を規定する。せん断応力及びせん断速度の測定は、典型的には、選択された条件(例えば温度37℃)下で実行される平行板レオメトリー(parallel plate rheometery)を使用して決定される。粘性を決定するための他の方法には、例えばキャノン-フェンスケ不透明溶液のためのキャノン-フェンスケ粘度計(Cannon-Fenske viscometer)、又はオストワルト粘度計等の粘度計を使用する動粘性率の測定が含まれる。一般に、本発明に係る懸濁ビヒクルは、保存、又は例えば移植式薬物送達装置による送達の方法における使用の間に、懸濁されている粒子製剤が沈殿するのを防止するのに十分な粘性を有する。
【0044】
本明細書中で使用されるとき、「非水性」という用語は、例えば懸濁製剤等の全体含水率が、典型的には約10wt%以下、好ましくは5wt%以下、そしてより好ましくは4wt%未満であることを指す。
【0045】
本明細書中で使用されるとき、「対象」という用語は任意の脊索動物亜門のメンバーを指し、限定されないが、ヒト、並びにアカゲザル、チンパンジー及び他の類人猿及び猿類等のヒト以外の霊長類を含む他の霊長類;ウシ、ヒツジ、ブタ、ヤギ及びウマ等の家畜;イヌ及びネコ等のペット;マウス、ラット及びモルモット等のげっ歯類を含む実験動物;ニワトリ、シチメンチョウ及び他の家禽、アヒル、ガチョウ等の家禽、野鳥、及び狩猟鳥を含む。本用語は、特定の齢を示すものではない。成体及び新生個体のいずれにも及ぶことが意図される。
【0046】
「薬物」、「治療剤」、及び「有益な薬剤」という用語は、所望の有益な効果をもたらすように対象に送達される任意の治療的に活性な化合物を指すものとして同じ意味で使用される。本発明の一の態様において、前記薬物は、例えばGLP-1、エクセナチド、及びそれらの誘導体又は類似体等のインスリン分泌促進ペプチドである。本発明に係る装置及び方法は、ポリペプチド及び小分子、並びにそれらの組合せの送達に好適なものである。
【0047】
本明細書中で使用されるとき、「浸透圧送達装置」は、対象に1つ以上の有益な薬剤(例えばインスリン分泌促進ペプチド)を送達するための装置を指し、その装置は、例えば懸濁製剤(例えばインスリン分泌促進ペプチドを含む)及び浸透物質製剤を含む管腔を有する容器(例えばチタン合金製)等を含む。前記管腔内に位置するピストン部品は、前記浸透物質性剤から前記懸濁製剤を隔離する。前記浸透物質性剤に隣接する前記容器の第一遠位端に半透膜が位置し、及び前記懸濁製剤に隣接する容器の第二遠位端に流量変調器(前記懸濁製剤が前記装置を脱出するときに通る送達開口部(delivery orifice)を規定する)が位置する。典型的には、前記浸透圧送達装置は対象体内、例えば皮下(例えば上腕内側、外側若しくは背側に;又は腹部)に移植される。
【0048】
2.0.0 発明の総括
本発明を詳細に記載する前に、本発明は、特定の種類の薬物送達、特定の種類の薬物送達装置、特定のペプチドの供給源、特定の溶媒、特定のポリマー等に限定されないことを理解されたい。なぜなら、そのような特定の物の使用は、本発明の教示を考慮して選択され得るからである。また、本明細書中で使用される技術は、本発明の特定の態様を記載することのみを目的とし、限定を意図しないことも理解されたい。
【0049】
一の態様において、本発明は、粒子製剤及び懸濁ビヒクルを含む懸濁組成物に関する。前記粒子製剤は、限定されないが、インスリン分泌促進性ペプチド及び1つ以上の安定化剤を含む。前記1つ以上の安定化剤は、典型的には、糖質、抗酸化剤、アミノ酸、及び緩衝剤からなる群から選択される。前記懸濁ビヒクルは、典型的には、1つ以上のポリマー及び1つ以上の溶媒を含む非水性単相懸濁ビヒクルである。前記懸濁ビヒクルは、粘性流体特性を呈する。前記粒子製剤は、前記ビヒクル中に均一に分散している。
【0050】
本発明の一の態様において、前記インスリン分泌促進性ペプチドは、グルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)、GLP-1の誘導体(例えばGLP-1(7-36)アミド)、又はGLP-1の類似体である。
【0051】
本発明のもう一の態様において、インスリン分泌促進性ペプチドは、エクセナチド、エクセナチドの誘導体、又はエクセナチドの類似体である。
【0052】
本発明の特定の態様は、典型的には1つ以上の以下の安定化剤:1つ以上の糖質(例えば、ラクトース、スクロース、トレハロース、セロビオース、及びそれらの混合物等の二糖等);1つ以上の抗酸化剤(例えば、メチオニン、アスコルビン酸、チオ硫酸ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、クエン酸、ブチルヒドロキシトルエン、及びそれらの混合物);並びに1つ以上の緩衝剤(例えば、クエン酸塩、ヒスチジン、コハク酸遠、及びそれらの組合せ)を含む。一の好ましい態様において、前記粒子製剤は、インスリン分泌促進ペプチド、スクロース、メチオニン、及びクエン酸緩衝剤を含む。インスリン分泌促進ペプチドとスクロース+メチオニンの比率は、典型的には、約1/20, 、約1/10、約1/5、約1/2、約5/1、約10/1、又は約20/1であり、好ましくは約1/5〜5/1の間、より好ましくは約1/3〜3/1の間である。前記粒子製剤は、好ましくは噴霧乾燥により調製された粒子製剤であり、含水率が低く、好ましくは10wt%以下であり、より好ましくは5wt%以下である。もう一の態様において、前記粒子製剤は凍結乾燥(lyophilization)され得る。
【0053】
本発明に係る懸濁ビヒクルは、1つ以上の溶媒及び1つ以上のポリマーを含む。好ましくは、前記溶媒は、乳酸ラウリル、ラウリルアルコール、安息香酸ベンジル、及びそれらの混合物からなる群から選択される。より好ましくは、前記溶媒は、乳酸ラウリル、又は安息香酸ベンジルである。好ましくは、前記ポリマーはピロリドンである。幾つかの態様において、前記ポリマーはポリビニルピロリドン(例えば、典型的に概ね7,900〜10,800の範囲の平均分子量を有するポリビニルピロリドンK-17)である。本発明の一の態様において、前記溶媒は、本質的に安息香酸ベンジル及びポリビニルピロリドンからなる。
【0054】
前記懸濁製剤は、典型的には全体含水率が低く、例えば約10wt%以下であり、そして一の好ましい態様においては、約5wt%以下である。
【0055】
もう一の側面において、本発明は、本発明に係る懸濁製剤を含む移植可能な薬物送達装置に関する。好ましい態様において、前記薬物送達装置は浸透圧送達装置である。
【0056】
本発明は、本発明に係る懸濁製剤、及び本発明に係る懸濁製剤が充填された浸透圧送達装置を製造する方法を更に含む。一の態様において、本発明は、懸濁製剤を前記浸透圧送達装置内部の容器に充填することを含む、浸透圧送達装置を製造する方法を含む。
【0057】
もう一の側面において、本発明は、浸透圧送達装置から実質的に均一な速度で本発明に係る懸濁製剤を送達することを含む、そのような処置を要する対象において糖尿病(例えば、2型糖尿病又は妊娠性糖尿病)を処置する方法に関する。典型的には、前記懸濁製剤は、約1ヶ月〜約1年、好ましくは約3ヶ月〜約1年の期間送達される。前記方法は、本発明に係る懸濁製剤が充填された浸透圧送達装置を対象に皮下移植することを更に含み得る。
【0058】
更なる側面において、本発明は、インスリン分泌の刺激、グルカゴン分泌の抑制、胃内容排出の遅延、糖尿病関連傷害の処置、高血糖の処置、肥満の処置、食欲の調節、体重の減少、及び胃腸運動性の制御の方法に関する。
【0059】
2.1.0 製剤及び組成物
2.1.1 粒子製剤
一の態様において、本発明は、例えばGLP-1又はエクセナチド等のインスリン分泌促進ペプチドの懸濁製剤を含む医薬組成物を提供する。上記懸濁組成物は、少なくとも1つのポリマー及び少なくとも1つの溶媒を含む、非水性単相ビヒクルを含む。前記ビヒクルは、好ましくは、粘性流体特性を呈する。前記ペプチド成分は、前記ビヒクル中に分散した粒子製剤中に前記インスリン分泌促進ペプチドを含む。典型的には、前記粒子製剤は、糖質、抗酸化剤、アミノ酸、緩衝剤、及び無機化合物からなる群から選択される1つ以上の安定化剤成分を含む安定化成分を含む。
【0060】
本発明の実施に有用なインスリン分泌促進ペプチドには、限定されないは、GLP-1及びエクセナチドが含まれる。
【0061】
Bell, G. I.らは、プログルカゴン(Lund, et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 79:345-349 (1982); Patzelt, et al., Nature, 282:260-266 (1979))が、グルカゴン、グルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)及びグルカゴン様ペプチド-2(GLP-2)と称される、別個の、相同性が高い3つのペプチド部位を含むことを発見した(Nature 302:716-718 (1983))。Lopezらは、前記GLP-1のペプチド配列が37アミノ酸の配列であり、そして前記GLP-2のペプチド配列が34アミノ酸の配列であることを示した(Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 80:5485-5489 (1983))。
【0062】
ラットプレプログルカゴンの構造の研究により、グルカゴン、GLP-1、及びGLP-2の形成を引き起こすタンパク質分解開裂の類似したパターンが明らかになった(Heinrich, G., et al., Endocrinol., 115:2176-2181 (1984))。ヒト、ラット、ウシ、及びハムスターのGLP-1配列は同一であることが見出されたGhiglione, M., et al., Diabetologia, 27:599-600 (1984))。
【0063】
プレプログルカゴンの開裂は、インスリン分泌促進活性が乏しい37アミノ酸のペプチドであるGLP-1を最初に産出する。続いてのアミノ酸残基6と7との間のペプチド結合の開裂により、GLP-1(7-37)と称される、生物学的に活性なGLP-1が生産される(慣習的に、GLP-1(7-37)のアミノ末端には7番が振られ、そしてカルボキシ末端には37番が振られる)。哺乳類により生産されるGLP-1(7-37)の約80%は、L-細胞において、末端のグリシン残基が除去された後C-末端がアミド化され、GLP-1(7-36)アミドを生じる。遊離酸であるGLP-1(7-37)、及びアミドであるGLP-1(7-36)アミドの生物学的影響及び代謝循環は、本質的に同一である。GLP-1(7-36)アミドの配列は、図IAにおいて示される。
【0064】
GLP-1(GLP-1(1-37)、GLP-1(7-37)及びGLP-1(7-36)アミドの3つのペプチドの形態、並びにGLP-1の類似体を含む)は、細胞によるグルコースの汲み上げを誘起し、そして血清グルコースレベルの低下を引き起こすインスリンの分泌を刺激する(即ちインスリン分泌促進性)ことが示されている(例えば、Mojsov, S., Int. J. Peptide Protein Research, 40:333-343 (1992)を参照されたい)。もう一つのGLP-1類似体はリラグルチドであり、これは長期活性DPP-4耐性GLP-1受容体アゴニストである。リラグルチドは、GLP-1(7-37)と97%の相同性を有する。また、リラグルチドは、NN-2211、及び(Arg34, Lys26)-(N-イプシロン-(ガンマ-Glu(N-アルファ-ヘキサデカノイル))-GLP-1(7-37)とも称される(例えば、米国特許第6,969,702号を参照されたい)。
【0065】
インスリン分泌促進作用を示す多くのGLP-1誘導体及び類似体が、本技術分野で知られている(例えば、米国特許第5,118,666号、第5,120,712号、第5,512,549号、第5,545,618号、第5,574,008号、第5,574,008号、第5,614,492号、第5,958,909号、第6,191,102号、第6,268,343号、第6,329,336号、第6,451,974号、第6,458,924号、第6,514,500号、第6,593,295号、第6,703,359号、第6,706,689号、第6,720,407号、第6,821,949号、第6,849,708号、第6,849,714号、第6,887,470号、第6,887,849号、第6,903,186号、第7,022,674号、第7,041,646号、第7,084,243号、第7,101,843号、第7,138,486号、第7,141,547号、第7,144,863号、及び第7,199,217号を参照されたい)。故に、本明細書中の考察の便宜のため、インスリン分泌促進作用を示すGLP-1誘導体及び類似体のファミリーは、まとめてGLP-1と称することとする。
【0066】
胃抑制ペプチド(GIP)も、インスリン分泌促進性ペプチドである(Efendic, S., et al., Horm Metab Res. 36:742-6 (2004))。GIPは、膵臓のインスリン分泌を刺激する脂肪及び糖質の吸収に応じて十二指腸及び空腸の粘膜から分泌されるホルモンである。また、GIPは、グルコース依存性インスリン分泌促進性ポリペプチドとしても知られる。GIPは、グルコース存在下における膵臓ベータ細胞からのインスリンの分泌を刺激する、42アミノ酸の胃腸制御性ペプチドである(Tseng, C, et al., PNAS 90:1992-1996 (1993))。
【0067】
エキセンディンは、アメリカドクトカゲの毒から単離されたペプチドである(Eng, J., et al., J. Biol. Chem., 265:20259-62 (1990); Eng., J., et al., J. Biol. Chem., 267:7402-05 (1992); 米国特許第5,424,286号)。前記エキセンディンは、グルカゴン様ペプチドファミリーの幾つかのメンバーと一定の相同性(最高でGLP-1(7-36)アミドと53%の相同性)がある配列を有する(Goke, et al., J. Biol. Chem., 268:19650-55 (1993))。
【0068】
エキセンディン-4は、ベータ-TC1細胞、モルモット膵臓の分散した腺房細胞、及び胃の胃壁細胞上のGLP-1細胞において作用する。また、前記エキセンディン-4ペプチドは、単離された胃においてソマトスタチン放出を刺激し、そしてガストリン放出を阻害する(Goke, et al., J. Biol. Chem. 268:19650-55 (1993); Schepp, et al., Eur. J. Pharmacol., 69:183-91 (1994); Eissele, et al., Life Sci., 55:629-34 (1994))。それらのインスリン分泌促進活性に基づき、糖尿病の処置及び高血糖の予防のためのエキセンディン-3及びエキセンディン-4の使用が提案されている(米国特許第5,424,286号)。
【0069】
インスリン分泌促進作用を示す多くのエキセンディン-4の誘導体及び類似体が、本技術分野で知られている(例えば、米国特許第5,424,286号、第6,268,343号、第6,329,336号、第6,506,724号、第6,514,500号、第6,528,486号、第6,593,295号、第6,703,359号、第6,706,689号、第6,767,887号、第6,821,949号、第6,849,714号、第6,858,576号、第6,872,700号、第6,887,470号、第6,887,849号、第6,924,264号、第6,956,026号、第6,989,366号、第7,022,674号、第7,041,646号、第7,115,569号、第7,138,375号、第7,141,547号、第7,153,825号、第7,157,555号を参照されたい)。エクセナチドは、エキセンディン-4と39アミノ酸配列が同一である合成ペプチドである。エクセナチドは、哺乳類インクレチンホルモンのグルカゴン様ペプチド1(GLP-1)と類似の糖調節活性を呈する、インクレチン模倣体ペプチドである。インクレチンホルモンは、グルコースレベルが正常であるときに、又は特に上昇したときに放出されるインスリンの量の増大を引き起こすホルモンである。インクレチンホルモンはインスリン分泌により規定される他の活性に影響を与え、例えばそれらはグルカゴン生産を低下させ、そして胃内容排出を遅延させる。更に、インクレチンホルモンは、インスリン感受性を向上させ得て、場合によっては膵島細胞の新生を増大させ得る。
【0070】
本明細書中の考察の便宜のため、インスリン分泌促進作用を有する合成バージョン(例えばエクセナチド)、誘導体及び類似体を含むエキセンディン-4ペプチドは、まとめてエキセンディンと称することとする。
【0071】
一の側面において、本発明は、懸濁製剤を調製するために使用され得るインスリン分泌促進性ペプチドの粒子製剤を提供する。本発明に係るインスリン分泌促進性ペプチドは、合成又は製造の方法により限定されるべきではなく、また天然資源から得られたもの、又は組換え(cDNA又はゲノムDNAのいずれかから生産される)、合成、遺伝子改変、及び遺伝子活性化法により合成若しくは製造されたものを含むべきである。本発明の好ましい態様において、前記インスリン分泌促進性ペプチドはGLP-1ペプチド又はエキセンディンペプチド(本明細書において上述)であり、例えばGLP-1(7-36)アミド又はエクセナチドである。また、本発明は、2つ以上のインスリン分泌促進ペプチドの組合せ、例えばGLP-1(7-36)アミド及びGIPの組合せを含む。
【0072】
本発明に係る粒子製剤は、送達温度において、少なくとも1ヶ月、好ましくは少なくとも3ヶ月、より好ましくは少なくとも6ヶ月、より好ましくは少なくとも12ヶ月、好ましくは化学的及び物理的に安定である。前記送達温度は、典型的には正常なヒトの体温であり、例えば約37%、又は僅かに高く、例えば約40%である。更に、本発明に係る粒子製剤は、保存温度、少なくとも1ヶ月、好ましくは少なくとも3ヶ月、好ましくは少なくとも6ヶ月、より好ましくは少なくとも12ヶ月、好ましくは化学的及び物理的に安定である。保存温度の例は、例えば約5℃の冷蔵温度、又は例えば約25℃の室温を含む。
【0073】
約3ヶ月後、好ましくは約6ヶ月後、好ましくは約12ヶ月後に送達温度で、及び約6ヶ月後、約12ヶ月後、そして好ましくは約24ヶ月後に保存温度で、ペプチド粒子の約25%未満、好ましくは約20%未満、より好ましくは約15%未満、より好ましくは約10%未満、そしてより好ましくは約5%未満が分解産物を形成するとき、粒子製剤は化学的に安定であるとみなされ得る。
【0074】
ペプチド粒子が形成された約3ヶ月後、好ましくは約6ヶ月後に送達温度で、及び約6ヶ月後、好ましくは約12ヶ月後に保存温度で、ペプチド粒子の約10%未満、好ましくは約5%未満、より好ましくは約3%未満、より好ましくは約1%未満が凝集体を形成するとき、粒子製剤は物理的に安定であるとみなされ得る。
【0075】
タンパク質の安定性を失わないようにするため、一般にインスリン分泌促進性ペプチド溶液は、冷凍条件で保存され、及び凍結乾燥又は噴霧乾燥され固体状態で保存される。Tg(ガラス転移温度)は、ペプチドの安定な組成物を考える上で1つの要素であり得る。何らかの特定の理論に制約されることを意図しないが、ペプチド、ポリペプチド、又はタンパク質を安定化させる高いTgのアモルファス固形物を形成する理論は、医薬産業において活用されている。一般に、アモルファス固形物が100℃等の高いTgを有するとき、ペプチド産物は、室温又は40℃で保存されても流動性を有し得ない。なぜなら、保存温度がTgを下回っているからである。分子情報を使用した計算により、ガラス転移温度が上記であるとき、保管温度が50℃であっても分子の流動性は0であることが示されている。分子が流動性を有しないことは、不安定性の問題を有しないことに対応する。また、Tgは生産物の製剤中の含水レベルにも依存する。一般に、含水率が多くなるほど、その組成物のTgは低下する。
【0076】
故に、本発明の幾つかの側面において、安定性を改善するために、例えばスクロース(Tg=75℃)及びトレハロース(Tg=110℃)等の、高いTgの賦形剤がタンパク質製剤中に含まれる。好ましくは、粒子製剤は、噴霧乾燥、凍結乾燥(lyophilization)、乾燥(desiccation)、凍結乾燥(freeze-drying)、製粉、顆粒化、超音波液滴生成(ultrasonic drop creation)、結晶化、沈殿、又は複数の成分の混合物から粒子を形成するために当該技術分野において利用可能な他の技術等のプロセスを使用して、粒子状に形成され得る。前記粒子は、好ましくは形状及び大きさにおいて実質的に均一である。
【0077】
典型的な噴霧乾燥プロセスは、例えば、インスリン分泌促進ペプチド(例えばGLP-1(7-36)アミド又はエクセナチド)等のペプチドを含む噴霧溶液の充填、及び試料チャンバー中の賦形剤の安定化を含み得る。前記試料チャンバーは、典型的には所望の温度、例えば冷凍〜室温に維持される。冷凍は、一般にタンパク質の安定性を促進する。溶液、乳液、又は懸濁液は、それらの流体を液滴状に霧化する噴霧乾燥器に導入される。回転式噴霧機、圧力ノズル、空気圧ノズル、又は音速ノズルの使用により、液滴が形成され得る。液滴の霧は乾燥チャンバー内で乾燥ガスと直ちに接触する。前記乾燥ガスは液滴から溶媒を除去し、そして粒子を回収チャンバーに運ぶ。噴霧乾燥において、収量に影響する要素は、限定されないが、粒子上の電荷局在(粒子の噴霧乾燥機への結合を助長し得る)、及び粒子の空気力学(粒子の回収を困難にし得る)を含む。一般に、噴霧乾燥プロセスの収量は、部分的に粒子製剤に依存する。
【0078】
本発明の一の態様において、前記粒子は、それらが薬物送達装置を介して送達され得るように大きさが定められる。前記粒子の形状及び大きさが均一であることは、典型的には、一貫した、及び均一な速度の送達装置等からの放出を提供する助けとなる。しかしながら、不均一な粒径分布を有する粒子調製物も使用され得る。例えば、送達開口部を有する典型的な移植可能な浸透圧送達装置において、前記粒子の大きさは、送達開口部の直径の約30%未満、好ましくは20%未満、より好ましくは10%未満である。前記移植物の送達オフィリスの口径が例えば約0.1〜0.5mmの範囲にある浸透圧送達システムにおいて使用される粒子製剤の一の態様において、粒径は、好ましくは約50ミクロン未満、より好ましくは約10ミクロン未満、より好ましくは約3〜約7ミクロンの範囲にあり得る。一の態様において、前記開口部は約0.25mm(250μm)であり、そして前記粒径は約3〜5μmである。
【0079】
好ましい一の態様において、前記粒子が懸濁ビヒクル内に包摂されるとき、それらの沈降(settle)期間は送達温度で約3ヶ月未満とならない。一般に、小さな粒子は大きな粒子よりも粘性懸濁ビヒクル中の沈降速度(settling rate)が低い傾向があるといわれている。故に、マイクロ〜ナノサイズの粒子が典型的に望ましい。前記移植物の送達オフィリスの口径が例えば約0.1〜0.5mmの範囲にある移植可能な浸透圧送達システムにおいて使用される本発明に係る粒子製剤の一の態様において、粒径は、好ましくは約50ミクロン未満、より好ましくは約10ミクロン未満、より好ましくは約3〜約7ミクロンの範囲にあり得る。
【0080】
一の態様において、本発明に係る粒子製剤は、上記の如き1つ以上のインスリン分泌促進性ペプチド、1つ以上の安定化剤、及び任意的に緩衝剤を含む。前記安定化剤は、例えば、糖質、抗酸化剤、アミノ酸、緩衝剤、又は無機化合物であり得る。前記粒子製剤中の安定化剤及び緩衝剤の量は、前記安定化剤及び緩衝剤の活性並びに前記製剤の所望の特性に基づいて実験的に決定され得る。典型的には、前記製剤中の糖質の量は、凝集との関係で決定される。一般的に、糖質レベルは、インスリン分泌促進性ペプチドと結合していない過剰な糖質により、水の存在下で結晶成長が促進されるのを回避するために、あまり高くするべきではない。典型的には、前記製剤中の抗酸化剤の量は、酸化との関係で決定されるが、前記製剤中のアミノ酸の量は、酸化との関係で、及び/又は噴霧乾燥の過程での粒子形成能との関係で決定される。典型的には、前記製剤中の緩衝剤の量は、前処理(pre-processing)との関係で、安定性との関係で、及び噴霧乾燥の過程での粒子形成能との関係で決定される。緩衝剤は、全ての賦形剤が可溶化されているとき、例えば溶液調製及び噴霧乾燥等の処理の過程でインスリン分泌促進性ペプチドを安定化させるために必要であり得る。
【0081】
前記粒子製剤中に含まれ得る糖質の例には、限定されないが、単糖(例えば、フルクトース、マルトース、ガラクトース、グルコース、D-マンノース、及びソルボース)、二糖(例えば、ラクトース、スクロース、トレハロース、及びセロビオース)、多糖(例えば、ラフィノース、メレジトース、マルトデキストリン、デキストラン、及びデンプン)、並びにアルジトール(鎖状ポリオール;例えば、マンニトール、キシリトール、マルチオール、ラクチトール、キシリトール、ソルビトール、ピラノシル、ソルビトール、及びミオインシトール)が含まれる。好ましい糖質は、スクロース、トレハロース、及びラフィノース等の非還元性糖である。
【0082】
前記粒子製剤中に含まれ得る抗酸化剤の例は、限定されないが、メチオニン、アスコルビン酸、チオ硫酸ナトリウム、カタラーゼ、プラチナ、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、クエン酸、システイン、チオグリセロール、チオグリコール酸、チオソルビトール、ブチルヒドロキシアニソール、ブチルヒドロキシトルエン、及び没食子酸プロピルが含まれる。
【0083】
前記粒子製剤中に含まれ得るアミノ酸の例には、限定されないが、アルギニン、メチオニン、グリシン、ヒスチジン、アラニン、L-ロイシン、グルタミン酸、イソロイシン、L-スレオニン、2−フェニルアラニン、バリン、ノルバリン、プラリン、フェニルアラニン、トリプトファン、セリン、アスパラギン、システイン、チロシン、リシン、及びノルロイシンが含まれる。好ましいアミノ酸には、システイン、メチオニン、及びトリプトファン等の容易に酸化されるものが含まれる。
【0084】
前記粒子製剤中に含まれる緩衝剤の例には、限定されないが、クエン酸塩、ヒスチジン、コハク酸遠、リン酸塩、マレイン酸塩、トリス、酢酸塩、糖質、及びgly-glyが含まれる。好ましい緩衝剤には、クエン酸塩、ヒスチジン、コハク酸塩、及びトリスが含まれる。
【0085】
前記粒子製剤中に含まれる無機化合物の例には、限定されないが、NaCl、Na2SO4、NaHCO3、KCl、KH2PO4、CaCl2、及びMgCl2が含まれる。
【0086】
加えて、前記粒子製剤には、界面活性剤、充填剤、及び塩等の、他の賦形剤が含まれ得る。界面活性剤の例には、限定されないが、ポリソルベート20、ポリソルベート80、PLURONIC(登録商標)( BASF Corporation, Mount Olive, NJ)F68、及びドデシル硫酸ナトリウム(SDS)が含まれる。充填剤の例には、限定されないが、マンニトール及びグリシンが含まれる。塩の例には、限定されないが、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、及び塩化マグネシウムが含まれる。
【0087】
典型的には、前記粒子製剤中に含まれる全ての化合物は、哺乳類、特にヒトにおける使用における医薬としての使用に許容される。
【0088】
下記の表1は、エクセナチドを含む粒子における粒子製剤成分範囲の例を表す。
【0089】
【表1】

【0090】
一の態様において、前記エクセナチド粒子製剤は、エクセナチドペプチド、スクロース(糖質)、メチオニン(抗酸化剤)およびクエン酸ナトリウム/クエン酸(クエン酸緩衝剤)を含む。
【0091】
下記の表2は、GLP-1を含む粒子における粒子製剤成分範囲の例を表す。
【0092】
【表2】

【0093】
前記粒子製剤の成分におけるこれらの重量パーセントの範囲内で、幾つかの好ましい成分比は、以下:インスリン分泌促進性ペプチド(例えばエクセナチド又はGLP-1)と抗酸化剤(例えばメチオニン)−1/10、1/5、1/2.5、1/1、2.5/1、5/1、10/1、好ましくは約1/3〜3/1(これらと同じ成分比が、インスリン分泌促進性ペプチドとアミノ酸との比率に適用される);インスリン分泌促進性ペプチド(例えばエクセナチド又はGLP-1)と糖質(例えばスクロース)−1/20、1/10、1/5、1/2、5/1、10/1、20/1、好ましくは、約1/5〜5/1、より好ましくは、約1/3〜3/1;及び/又はインスリン分泌促進性ペプチド(例えばエクセナチド又はGLP-1)と抗酸化剤+糖質(例えばメチオニン+スクロース)- 1/20、1/10、1/5、1/2、5/1、10/1、20/1、好ましくは約1/5〜5/1、より好ましくは約1/3〜3/1(これらと同じ成分比が、インスリン分泌促進性ペプチドとアミノ酸+糖質との比率に適用される)のようになる。また、本発明は、例えば約1/20〜約20/1、約1/10〜約10/1、約1/5〜約5/1、及びその他に例えば約1/5〜約3/1等の、全てのこれらの比率に対応する範囲を含む。
【0094】
まとめると、インスリン分泌促進性ペプチドは固体状態で乾燥粉末中に製剤化され、それによりタンパク質又はペプチドにおける最高の化学的及び生物学的安定性を保持する。前記粒子製剤は、高い温度で長期の保存安定性を提示し、故に長期間に渡り安定且つ生物学的に効果的なペプチドを対象に送達することが可能となる。
【0095】
前記乾燥粒子粉末の粒度分布は、例えば噴霧乾燥法又は凍結乾燥法を用いて前記製剤を調製することにより、よく調整され得る(0.1ミクロン〜20ミクロン)。前記乾燥粉末の調製のための処理パラメーターは、所望の粒度分布、密度、及び表面積となる粒子を生産するように最適化される。
【0096】
前記粒子製剤中の選択された賦形剤及び緩衝剤は、例えば、以下:前乾燥粉末の密度を修正し;前記ペプチドの物理的安定性(例えば高いガラス転移温度、及び相転移の回避)を維持し;充填剤の使用により懸濁液中の均一な分散をもたらし;疎水性及び/又は親水性の変更により、選択された溶媒中の乾燥粉末の溶解度を加工し;及び、前記生産物においてpHの調整及び維持をする間にpHを調整(可溶性及び安定性のため)する機能を提供し得る。
【0097】
本発明に係る粒子製剤は、典型的なインスリン分泌促進性ペプチドとして、エクセナチド及びGLP-1(7−36)アミドに関して本明細書中で例示される(実施例1及び実施例2を参照されたい)。これらの実施例は、限定を意図しない。
【0098】
2.1.2 ビヒクル及び懸濁製剤
本発明の一の側面において、前記懸濁ビヒクルは、インスリン分泌促進性ペプチド粒子製剤がその中で分散する安定な環境を提供する。前記粒子製剤は、前記懸濁ビヒクル中で化学的及び物理的に安定(上記と同じ)である。前記懸濁ビヒクルは、インスリン分泌促進性ペプチドを含む粒子が均一に懸濁するのに十分な粘性を有する溶液を形成する1つ以上のポリマー及び1つ以上のビヒクルを典型的に含む。
【0099】
前記懸濁ビヒクルの粘性は、典型的には、前記粒子製剤が保管中に沈殿するのを防止し、そして例えば移植可能な薬物送達装置等の送達方法において使用されるのに十分である。前記懸濁ビヒクルは、生物学的環境に対応する一定期間で崩壊又は分解するという点において生分解性である。前記懸濁ビヒクルの崩壊は、酵素活性、酸化、還元、加水分解(例えばタンパク質分解)、置換(例えばイオン交換)、又は可溶化による溶解、エマルジョン若しくはミセルの形成等の、1つ以上の物理的又は化学的な分解プロセスにより引き起こされ得る。前記懸濁ビヒクルの崩壊後、その懸濁ビヒクルの成分は、患者の身体及び周囲の組織により吸収、さもなければ分散される。
【0100】
前記ポリマーが溶解している溶媒は、保管中の前記インスリン分泌促進性ペプチド粒子製剤の挙動等の、前記懸濁製剤の特性に影響を与え得る。溶媒は、得られる懸濁ビヒクルが水性環境との接触に応じて相分離を呈するようにポリマーと組み合わせられて選択される。本発明の幾つかの態様において、前記溶媒は、得られる懸濁ビヒクルが、少なくとも約10%の水を有する水性環境との接触に応じて相分離を呈するようにポリマーと組み合わせられて選択される。
【0101】
前記溶媒は、水に混ざらない許容される溶媒であり得る。また、前記溶媒は、前記ポリマーがその溶媒中に、約30%を超えるポリマー濃度等の高い濃度で溶解するように選択され得る。しかし、典型的には、前記インスリン分泌促進性ペプチドは溶媒に実質的に溶解しない。本発明の実施に有用な溶媒の例には、限定されないが、ラウリルアルコール、安息香酸ベンジル、ベンジルアルコール、乳酸ラウリル、デカノール(デシルアルコールとも称される)、乳酸エチルヘキシル、及び長鎖(C8〜C24)脂肪族アルコール、エステル、又はそれらの混合物が含まれる。前記懸濁ビヒクルに使用される溶媒は、含水率が低いという点において「ドライ」であり得る。前記懸濁ビヒクルの製剤における使用に好ましい溶媒には、乳酸ラウリル、ラウリルアルコール、安息香酸ベンジル、及びそれらの組み合わせが含まれる。
【0102】
本発明に係る懸濁ビヒクルの製剤のためのポリマーの例には、限定されないが、ポリエステル(例えば、ポリ乳酸若しくはポリ乳酸ポリグリコール酸(polylacticpolyglycolic acid))、ピロリドン(例えば、約2,000〜約1,000,000の範囲の分子量を有するポリビニルピロリドン(PVP))、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマー、又はそれらの混合物が含まれる。一の態様において、前記ポリマーは、2,000〜1,000,000の分子量を有するPVPである。好ましい態様において、前記ポリマーは、ポリビニルピロリドンK-17(典型的には、約7,900〜10,800の平均分子量を有する)である。ポリビニルピロリドンは、粘性の指標であるK-値により特徴付けられ得る(例えばK-17)。前記懸濁ビヒクルに使用されるポリマーは、1つ以上の異なるポリマーを含み、又は級が異なる単一のポリマーを含み得る。また、前記懸濁ビヒクルに使用されるポリマーは、ドライであるか、又は含水率が低いものであり得る。
【0103】
一般的に言って、本発明に係る懸濁ビヒクルは、所望されるパフォーマンス特性に基づいて組成物が変化し得る。一の対応において、前記懸濁ビヒクルは、約40%〜約80%(w/w)のポリマー(単数又は複数)及び約20%〜約60%(w/w)の溶媒(単数又は複数)を含み得る。懸濁ビヒクルの好ましい態様には、以下:溶媒が約25%、及びポリマーが約75%;溶媒が約50%、及びポリマーが約50%;溶媒が約75%、及びポリマーが約25%の比率で組み合わせられたポリマー(単数又は複数)及び溶媒(単数又は複数)で構成されるビヒクルを含む。
【0104】
前記懸濁ビヒクルは、ニュートン挙動を呈し得る。前記懸濁ビヒクルは、典型的には、所定の期間中前記粒子製剤の均一な分散を維持する粘性を提供するように製剤化される。これは、所望の速度で前記インスリン分泌促進性ペプチドの調整送達を提供するように仕立てられた懸濁製剤の生産の促進を助ける。前記懸濁ビヒクルの粘性は、所望のアプリケーション、粒子製剤の大きさ及び種類、並びにその懸濁ビヒクルへの粒子製剤の充填に依存して変化し得る。前記懸濁ビヒクルの粘性は、使用される溶媒又はポリマーの種類又は相対量を変化させることにより変化し得る。
【0105】
前記懸濁ビヒクルは、約100ポアズ〜約1,000,000ポアズ、好ましくは約1000ポアズ〜約100,000ポアズの範囲の粘性を有し得る。前記粘性は、37℃で、10-4/secのせん断速度で、平行板レオメーターを使用して測定され得る。幾つかの態様において、前記懸濁ビヒクルの粘性は、約5,000ポアズ〜約50,000ポアズの範囲であり得る。幾つかの好ましい態様において、粘性の範囲は、33℃で約12,000〜約18,000ポアズの間であり得る。
【0106】
前記懸濁ビヒクルは、水性環境と接触したとき相分離を呈し得るが;典型的には、その懸濁ビヒクルは、温度に応じて実質的に相分離を呈しない。例えば、約0℃〜約70℃の範囲において、及び4℃-37℃-4℃のサイクルのような温度サイクルにおいて、前記懸濁ビヒクルは、典型的には相分離を呈しない。
【0107】
前記懸濁ビヒクルは、乾燥ボックス中等の乾燥条件下で、ポリマーと溶媒とを組み合わせることにより調製され得る。前記ポリマー及び溶媒は、約40℃〜約70℃等の高温で組み合わされ得て、液化及び単一の相の形成を可能とする。それらの材料は、それらから生じる気泡を除去するために、真空中で混合され得る。前記材料は、二重螺旋ブレード等の通常のミキサー又はそれに類するミキサーを、約40rpmの速度に設定して使用することにより組み合され得る。しかしながら、それらの材料を混合するために、より高い速度も使用され得る。前記材料の液体溶液形成が達成された時点で、その懸濁ビヒクルは室温まで冷却される。前記懸濁ビヒクルが単一の相であることを検証するために、示差走査熱量測定法(DSC)が使用され得る。更に、前記ビヒクルの成分(例えば、前記溶媒及び/又は前記ポリマー)は、過酸化物を実質的に減少、又は実質的に除去するように処理され得る(例えば、メチオニンによる処理;例えば米国特許公開公報第2007-0027105号を参照されたい)。
【0108】
インスリン分泌促進性ペプチドを含む粒子製剤は、前記懸濁ビヒクルに添加され、懸濁製剤を形成する。その懸濁製剤は、前記懸濁ビヒクル中に前記粒子製剤を分散させることにより調製され得る。前記懸濁ビヒクルは加熱され得て、そして前記粒子製剤は乾燥条件下で前記懸濁ビヒクル中に添加される。それらの材料は、真空中で、約40℃〜70℃等の高温で混合され得る。それらの材料は、前記懸濁ビヒクル中で前記粒子製剤が均一な分散を達成するために、約40rpm〜約120rpm等の十分な速度で、そして約15分等の十分な時間混合され得る。ミキサーは、二重螺旋ブレード又は他の適切なミキサーであり得る。得られた混合物は前記ミキサーから取り出され、乾燥用期中に密封され、水分による前記懸濁製剤の汚染を防止し、そして、例えば移植可能な薬物送達装置、一回投与包装(unit dose container)、又は複数回投与包装(multiple-dose container)への充填等の更なる使用に先立ち、室温まで冷却させる。
【0109】
前記懸濁ビヒクルは、典型的には、約10wt%未満、好ましくは約5wt%未満、及びより好ましくは約4wt%未満の全体含水率を有する。
【0110】
本発明に係る懸濁製剤は、典型的なインスリン分泌促進性ペプチドとして、エクセナチド及びGLP-1(7-36)アミドに関して本明細書の下記で例証される。これらの例証は、限定を意図しない。
【0111】
まとめると、前記懸濁ビヒクルの成分は、生体適合性を提供する。前記懸濁ビヒクルの成分は、例えば乾燥粉末粒子製剤等の安定な懸濁物の形成に適した物理化学的性質を提供する。これらの性質には、限定されないが、以下:懸濁物の粘性;ビヒクルの純度;ビヒクルの残留水分;ビヒクルの密度;乾燥粉末との適合性;移植装置との適合性;ポリマーの分子量;ビヒクルの安定性;並びにビヒクルの疎水性及び親水性が含まれる。これらの性質は、例えば、ビヒクル組成物を変化させることにより、及び懸濁ビヒクルにおいて使用される成分の比率を操作すること等により、操作され、そして調整され得る。
【0112】
3.0.0 懸濁製剤の送達
本明細書中に記載される懸濁製剤は、数週、数ヶ月、又は約1年に渡る長期間、化合物の持続的な送達を提供するために、移植可能な薬物送達装置に使用され得る。そのような移植可能な薬物送達装置は、典型的には、所望の期間にかけて所望の流量で化合物の送達を可能とする。前記懸濁製剤は、通常の技術により、その移植可能な薬物送達装置に充填される。
【0113】
前記懸濁製剤は、例えば、浸透圧により、機械的に、電気機械的に、又は化学的に駆動する薬物送達装置等を使用して送達され得る。前記インスリン分泌促進性ペプチドは、そのインスリン分泌促進性ペプチドによる処置を要する対象に、治療的に有効な流量で送達される。
【0114】
前記インスリン分泌促進性ペプチドは、約1週間〜約1年以上、好ましくは約1ヶ月〜約1年以上、より好ましくは約3ヶ月〜約1年以上の範囲の期間にかけて送達され得る。前記移植可能な薬物送達装置は、前記インスリン分泌促進性ペプチドがそれを通じて送達される少なくとも1つの開口部を有する容器を含み得る。前記懸濁製剤は、前記容器内に貯蔵される。一の態様において、前記移植可能な薬物送達装置は、浸透圧送達装置であり、薬物の送達は浸透圧により駆動される。幾つかの浸透圧送達装置及びそれらの構成部分は、例えば、DUROS(登録商標)送達装置又はそれに類する装置等において記載されている(例えば、米国特許第5,609,885号、第5,728,396号、第5,985,305号、第5,997,527号、第6,1 13,938号、第6,132,420号、第6,156,331号、第6,217,906号、第6,261,584号、第6,270,787号、第6,287,295号、第6,375,978号、第6,395,292号、第6,508,808号、第6,544,252号、第6,635,268号、第6,682,522号、第6,923,800号、第6,939,556号、第6,976,981号、第6,997,922号、第7,014,636号、第7,207,982号、第7,112,335号、第7,163,688号、米国特許公開公報第2005-0175701号、第2007-0281024号、及び第2008-0091176号を参照されたい)。
【0115】
DUROS(登録商標)送達装置は、典型的には浸透圧エンジン(osmotic engine)を含む円筒形の容器、ピストン、及び薬物製剤で構成される。前記容器は、一方の端が速度制御式透水性膜(controlled-rate water-permeable membrane)で封じられ、もう一方の端が拡散調節膜(diffusion moderator)により封じられ、薬物製剤は前記薬物容器からそれを通じて放出される。前記ピストンは、前記製剤を前記浸透圧エンジンから隔離し、そしてシール剤を利用して、前記薬物容器から前記浸透圧エンジン区画内に水が浸入するのを防止する。前記拡散調節膜は、前記薬物製剤と併せて、体液が前記開口部を通じて前記薬物容器に浸入するのを防止するように設計されている。
【0116】
DUROS(登録商標)装置は、浸透圧の原理に基づいて所定の速度で治療剤を放出する。細胞外液は、半透膜を通じて、DUROS(登録商標)装置内にあって、前記ピストンを緩慢な、及び穏やかな送達速度でピストンを駆動するように膨張する塩エンジン(salt engine)中に直接浸入する。前記ピストンの運動は、前記薬物製剤を、所定の透過速度(sheer rate)で、開口部又は出口部(exit port)を通じて放出させる。本発明の一の態様において、前記DUROS(登録商標)装置の容器は、例えばGLP-1(7-36)アミド又はエクセナチド等を含む本発明に係る懸濁製剤が充填され、その装置は、その懸濁製剤を、対象に長期間(例えば約3、約6、又は約12ヶ月)に渡り、所定の、治療的に有効な送達速度で送達することが可能である。
【0117】
例えば DUROS(登録商標)装置のような移植可能な装置は、有益な薬剤性剤の投与において、以下:有益な薬剤の薬物動態的な実ゼロ次(true zero-order)放出;長期間放出(例えば、約12ヶ月に渡る);及び有益な薬剤の安定した送達及び投薬という長所を提供する。
【0118】
Codman & Shurtleff, Inc. (Raynham, MA)、Medtronic, Inc. (Minneapolis, MN)、及びTricumed Medinzintechnik GmbH (Germany)から入手可能な、定流出、調節流出、又はプログラム可能な流出を提供する、通常の型の移植可能なポンプを含み得る、他の移植可能な薬物送達装置が、本発明の実施において使用され得る。
【0119】
例えば DUROS(登録商標)装置のような移植可能な装置は、本発明に係る懸濁製剤の投与において、以下:インスリン分泌促進性ペプチドの薬物動態的な実ゼロ次(true zero-order)放出;長期間放出(例えば、約12ヶ月に渡る);及びインスリン分泌促進性ペプチドの安定した送達及び投薬という長所を提供する。
【0120】
本発明に係る送達装置において採用される有益な薬剤の量は、所望の治療結果を達成するために治療的に有効な薬剤の量を送達するのに必要な量を意味する。実際に、これは例えば特定の薬剤、送達部位、病態の進行度、及び所望の治療効果等の相違に依存して変化し得る。典型的には、浸透圧送達装置において、有益な薬剤製剤を含む有益な薬剤チャンバーの容積は、約100μl〜約1000μlの間、より好ましくは約120μl〜約500μlの間、より好ましくは約150μl〜約200μlの間である。
【0121】
典型的には、前記浸透圧送達装置は、対象内に、例えば皮下的に移植される。前記装置(単数又は複数)は、一方又は両方の腕(例えば上腕内側、外側若しくは背側)、又は腹部に挿入され得る。腹部において好ましい場所は、肋骨の下とベルトラインの上との間に広がる領域の腹部の皮膚の下である。腹部に1つ以上の浸透圧送達装置を挿入するための複数の部位を提供するために、腹膜が、以下:右肋骨から5〜8センチメートル下までで中央線から5〜8センチメートル右までの右上部分、ベルトラインから5〜8センチメートル上までで中央線から5〜8センチメートル右までの右下部分、左肋骨から5〜8センチメートル下までで中央線から約5〜8センチメートル左までの左上部分、及びベルトラインから5〜8センチメートル上までで中央線から5〜8センチメートル左までの左下部分のように4分の1に区分される。これにより、1つ以上の場面において1つ以上の装置を移植するために、複数の利用可能な部位が提供される。
【0122】
また、前記懸濁製剤は、例えば病院内で皮下送達に使用されるペリスタポンプのような外部ポンプ等の、移植出来ない、又は移植されていない薬物送達装置からも送達され得る。
【0123】
また、本発明に係る懸濁製剤は、例えば、実験動物の継続的投薬用の小型の輸液ポンプであるALZET(登録商標)(DURECT Corporation, Cupertino CA)浸透圧ポンプ等の輸液ポンプにおいても使用され得る。
【0124】
また、本発明に係る懸濁製剤は、生物学的に活性なインスリン分泌促進性ペプチドの高濃度のボーラス投与を提供するために、注射の形態でも使用され得る。
【0125】
本発明の一の態様において、移植可能な装置からの、例えばヒト体内に注入後の半減期が短いGLP-1の誘導体及び類似体等(例えば、GLP-1(7-36)アミド又はエクセナチド)の持続的な送達は、特に有益である。更に、インスリン分泌促進性ペプチドの送達のために、DUROS(登録商標)装置等の移植可能な装置を使用することにより、注入の関連する副作用を減少させることが可能であり、そして投与の利便性を向上させながら、処置のコンプライアンスの向上がもたらされる。1つの移植物からの薬物送達の持続期間は、数週間又は1年に及ぶ場合もある。
【0126】
DUROS(登録商標)装置等の浸透圧送達装置を介して送達される本発明に係る懸濁製剤の幾つかの長所及び利益は、限定されないが、以下を含む。処置のコンプライアンスの向上は有効性の改善をもたらし、そしてそのようなコンプライアンスの向上は、移植される浸透圧送達装置を使用して達成され得る。DUROS(登録商標)装置等の移植可能な浸透圧装置が1日に24時間薬物(例えばGLP-1又はエクセナチド)を持続的かつ構成的に提供することにより、血中グルコース濃度が一日中より良好に調整され、処置の有効性は改善され得る。更に、インクレチン及びインクレチン模倣体が、膵臓中のベータ細胞を保護し、そして2型糖尿病の進行を鈍化させ得る。故に、前記DUROS(登録商標)装置によるインクレチン又はインクレチン模倣体の24時間の持続的かつ構成的な薬物送達は、ベータ細胞のなおも著しい保護をもたらし、そして疾患進行の好転をももたらし得る。また、前記DUROS(登録商標)装置からのインスリン分泌促進性ペプチド(例えば、GLP-1又はエクセナチド)の持続的な送達は、処置を受けた対象に食事計画の完全な柔軟性を許容するので、例えば一日の主要な食事に関連して時間を要するボーラス注射による処置等と比較して、生活の質を向上させる。また、他の徐放性製剤及びデポー注射と異なり、DUROS(登録商標)装置を使用したときの薬物投与は、例えば特定の対象において安全性の問題が発生した場合等に、その装置を除去することにより即座に停止され得る。
【0127】
インスリン分泌促進作用を示すGLP-1誘導体及び類似体に加え、GLP-1の他の誘導体(例えば(GLP-1(9-36)アミド)が、インスリン分泌を含まない機構により血中グルコースを減少させることが示されている(Deacon, C. F., et al., Am. J. Physiol. Endocrinol. Metab. 282:E873-E879 (2002))。更に、GLP-1(9-36)アミドは、胃内容排出及びインスリン分泌から独立して食後の血糖を減少させることが示されている(Meier, J. J., et al., Am. J. Physiol. Endocrinol. Metab. 290:E1118-E1123 (2006))。故に、もう一の側面において、本発明は、本明細書において上述したようなインスリン分泌促進作用を示すGLP-1誘導体及び類似体の場合と本質的に同じく、そのようなGLP-1の誘導体の粒子製剤、ビヒクル中のそれらの粒子の懸濁物、並びに血糖を減少するための及び/又は食後血糖を減少するための対象に対するこれらの懸濁製剤の送達を含む。加えて、GIP(3-42)は、インスリンに関連する糖制御に作用しない微弱なGIP受容体アンタゴニストと考えられている。そのようなGIP誘導体も、本明細書中で後述するガイダンスにおいて製剤化され得る(単独又は他のペプチドと組み合わせて)。
【0128】
また、本発明は、本明細書中で上述した粒子製剤、懸濁ビヒクル、及び懸濁製剤を含む、本発明に係る製剤を製造する方法を含む。
【0129】
4.0.0 懸濁製剤の使用
本明細書中に記載される懸濁製剤は、糖尿病の対象におけるインスリン療法の有望な代替手段を提供する。糖尿病タイプ2又は2型糖尿病(インスリン非依存性糖尿病(NIDDM))は、インスリン耐性、相対的なインスリン欠乏、及び高血糖により原始的に特徴付けられる代謝疾患である。インスリン分泌促進性ペプチドを含む本発明に係る懸濁製剤は、インスリン分泌の刺激、グルカゴン分泌の抑制、胃内容排出の遅延、及び場合によっては筋及び脂肪等の末梢組織におけるインスリン感受性の亢進において有用である。
【0130】
本発明に係る懸濁製剤は、糖尿病系疾患(例えば、真性糖尿病及び妊娠性糖尿病)、及び糖尿病関連疾患(例えば糖尿病性心筋症、インスリン耐性、糖尿病性神経症、糖尿病性腎症、糖尿病性網膜症、白内障、高血糖、高コレステロール血症、高血圧、高インスリン血症、高脂血症、アテローム性動脈硬化、及び特に心筋虚血である組織虚血)、あるいは高血糖(例えば、ベータブロッカー、チアジド系利尿薬、コルチコステロイド、ナイアシン、ペンタミジンプロテアーゼ阻害剤、L-アスパラギナーゼ、及び幾つかの抗精神病薬を含む、高血糖のリスクを高める医薬による処置に関連する)、摂食の減少(例えば肥満治療、食欲調節、又は体重減少)、卒中、血漿内脂質の減少、急性冠動脈症候群、冬眠心筋、消化管運動の制御、並びに尿流量の増大の処置において有用であり得る。
【0131】
加えて、本発明に係る懸濁製剤は、それらの製剤で処置される対象において食欲の潜在的な制御剤であり得る。
【0132】
一の態様において、懸濁製剤は、上記のような浸透圧送達装置を使用して投与される。インスリン分泌促進性ペプチドを含む本発明に係る懸濁製剤の送達の目標速度(target rate)の例は、限定されないが:GLP-1(例えばGLP-1(7-36)アミド)を含む粒子製剤を含む懸濁製剤の場合、約20μg/日〜約900μg/日の間、好ましくは約100μg/日〜約600μg/日の間、例えば約480μg/日;及びエクセナチドを含む粒子製剤を含む懸濁製剤の場合、約5μg/日〜約320μg/日の間、好ましくは約5μg/日〜約160μg/日の間、例えば約10μg/日〜約20μg/日を含む。前記浸透圧送達装置からの前記懸濁製剤の放出透過速度(exit sheer rate)は、インスリン分泌促進性ペプチドの標的への目標送達速度が、その浸透圧送達装置からのその懸濁製剤の持続的かつ均一な送達により合理的に達成されるように決定される。放出透過速度の例は、限定されないが、約1〜約1×10-7レシプロカル秒、好ましくは約4×10-2約6×10-4レシプロカル秒、より好ましくは約5×10-3約1×10-3レシプロカル秒が含まれる。
【0133】
本発明に係る懸濁製剤で処置される対象は、他の薬剤(例えばスルホニル尿素、メグリチニド(例えば、レパグリニド、及びナテグリニド)、メトホルミン、及びそのような薬剤の組み合わせ)、アルファグルコシダーゼ阻害剤、アミリン(あるいはプラムリンチド等の合成類似体)、ジペプチジルペプチダーゼIV(DPP-IV)阻害剤(例えば、シタグリプチン及びビルダグリプチン)、並びに長時間作用性/即効性インスリンと共に処置されることによっても利益を受け得る。
【0134】
GLP-1の開裂を防止するための経口ジペプチジルペプチダーゼ-IV(DPP-IV又はDPP-4)阻害剤の経口的な使用は、本発明に係る懸濁製剤がジペプチジルペプチダーゼ-IVにより開裂するGLP-1変異体を含むときに顕著に有用である(例えば、米国特許第7,205,409号を参照されたい)。
【0135】
実施例5は、DUROS(登録商標)装置を使用したエクセナチドを含む製剤の送達がグルコースレベルの低下及び体重の減少を引き起こしたことを示すデータを表す。
【0136】
他の目的は、当業者が以下の明細書及び特許請求の範囲を概観することにより明確となり得る。
【0137】
実験
以下の実施例は、当業者に対し、本発明に係る装置、方法、及び製剤を製造及び使用する方法の完全な開示及び記載を提供するように提示されるものであり、発明者が発明とみなすものの範囲を限定することを意図しない。使用される数値(例えば量、温度等)に関しては正確を期するよう努めているが、ある程度の実験的錯誤及び偏差が含まれ得る。示唆されていない限り、部とは重量部であり、分子量は平均分子量であり、温度はセルシウス度であり、そして圧力は大気圧又はその付近である。
【0138】
本発明により生産される組成物は、医薬生産物であるために必要な構成及び純度の規格に適合する。
【実施例】
【0139】
実施例1
エクセナチド粒子製剤
この実施例は、エクセナチド粒子製剤の作製を記載する。
【0140】
A. 製剤1
エクセナチド(0.25g)は、pH6.04の50mMクエン酸ナトリウム緩衝液中に溶解された。前記溶液は、クエン酸ナトリウム、スクロース、及びメチオニンを含む製剤溶液で透析された。そして前記製剤化溶液は、0.7mmノズルを備え、出口温度が75℃であり、気化圧力が100Psiであり、固体含有率が2%であり、そして流速が2.8mL/minであるBuchi290を使用して噴霧乾燥された。前記乾燥粉末は、21.5%のエクセナチドと4.7%の残留水分を含み、密度は0.228g/mlであった。
【0141】
B. 製剤2及び3
2つの追加的なエクセナチドの製剤が、本質的に先述の方法により調製された。以下の表3において、前記製剤1、2、及び3の構成成分の重量パーセント(wt%)がまとめられている。
【0142】
【表3】

【0143】
実施例2
GLP-1乾燥粉末
この実施例は、GLP-1(7-36)アミド粒子製剤の作製を記載する。
GLP-1(7-36)アミド(1.5g)は、pH4の5mMクエン酸ナトリウム緩衝液中に溶解された。前記溶液は、クエン酸ナトリウム緩衝剤及びメチオニンを含む製剤溶液で透析された。そして前記製剤化溶液は、0.7mmノズルを備え、出口温度が70℃であり、気化圧力が100Psiであり、固体含有率が1.5%であり、そして流速が5mL/minであるBuchi290を使用して噴霧乾燥された。前記乾燥粉末は、90%のGLP-1(7-36)アミドを含んでいた。
【0144】
実施例3
エクセナチド懸濁製剤
この実施例は、懸濁ビヒクル及びエクセナチド粒子製剤を含む懸濁製剤の作製を記載する。
【0145】
A. 20wt%エクセナチド粒子の懸濁製剤
エクセナチド粒子製剤は噴霧乾燥により製造され、そして20wt%のエクセナチド、32wt%のスクロース、16wt%のメチオニン、及び32wt%のクエン酸緩衝剤を含んでいた。
【0146】
懸濁ビヒクルは、ポリビニルピロリドンポリマーを安息香酸ベンジル溶媒中に約50/50の重量比率で溶解することにより形成された。前記ビヒクルの粘性は、33℃で測定されたとき、約12,000〜18,000ポアズであった。ペプチドのエクセナチドを含む粒子は、10重量%の濃度で前記ビヒクル全体に分散した。
【0147】
B. 粒子製剤1、2、及び3の懸濁製剤
懸濁ビヒクルは、乾燥大気中で、及び減圧下で、ポリビニルピロリドンK-17(典型的には、平均分子量が約7,900〜10,800の範囲にある)ポリマーを、約65℃まで加熱した安息香酸ベンジル溶媒中に、約50/50の重量比率で溶解することにより形成された。前記ビヒクルの粘性は、33℃で測定されたとき、約12,000〜18,000ポアズであった。実施例1に記載の粒子製剤1〜3は、表4に示される濃度(重量パーセント)で、前記ビヒクル全体に分散した。
【0148】
【表4】

【0149】
実施例4
GLP-1(7-36)アミド製剤
この実施例は、懸濁ビヒクル及びGLP-1(7-36)アミド粒子製剤を含む懸濁製剤の作製を記載する。GLP-1(7-36)アミド粒子製剤は、噴霧乾燥により製造され、そして90wt%のGLP-1、5wt%のメチオニン、及び5wt%のクエン酸緩衝液を含んでいた。
【0150】
前記ポリビニルピロリドンポリマーを含む懸濁ビヒクルは、安息香酸ベンジル溶媒中に約50/50の重量比率で溶解した。前記ビヒクルの粘性は、33℃で測定されたとき、約12,000〜18,000ポアズであった。ペプチドのGLP-1(7-36)アミドを含む粒子は、33重量%の濃度で前記ビヒクル全体に分散した。
【0151】
実施例5
DUROS(登録商標)装置を使用したエクセナチドの持続的送達による処置動物におけるグルコースレベルの低下及び体重減少
この実施例におけるデータは、DUROS(登録商標)装置からのエクセナチド製剤の持続的かつ構成的な送達の、2型糖尿病のZucker Diabetic Fatty(ZDF)ラットモデルにおけるグルコースレベル及び体重に対する影響を示した。
【0152】
前記ZDFラットモデルは、インスリン耐性をもたらす遺伝的肥満遺伝子突然変異により引き起こされる異常なグルコース耐性に基づく2型糖尿病の正確なモデルとして以前記載されている(例えば、Clark, J., et al., Proc. Soc. Exp. Biol. Med. 173: 68-75 (1983); Peterson, R. G., et al., ILAR News 32: 16-19 (1990); Peterson, R. G., In Frontiers in Diabetes Research. Lessons from Animal Diabetes III , edited by E. Shafrir, pp. 456-458. London: Smith-Gordon (1990); Vrabec, J. T., Otolaryngol. Head Neck Surg 118: 304-308 (1998); Sparks, J. D., et al., Metabolism 47: 1315-1324 (1998) 等を参照されたい)。
【0153】
表5に表される研究デザインが使用された。
【0154】
【表5】

【0155】
処理群中のラット(群2(肥満)、及び群3(痩身)、n=6/群)は、24時間で7周期、DUROS(登録商標)装置(ここで、その装置は1日目に挿入され8日目に除去される)を使用して持続的に送達される20mcg/日のエクセナチド(懸濁製剤2:実施例3、表4)に曝露され、一方、コントロール群中のラット(群1;n=6)には、偽薬装置が挿入された。前記DUROS(登録商標)装置は、各動物に皮下的に挿入された。
【0156】
処理期間中、以下のエンドポイントが評価された。臨床的兆候/死亡率は、少なくとも1日に1回評価された。体重は、移植前、観察期間中毎日、及び終了時において判定された。血中グルコースは、以下のように判定された:-1日目及び8日目に空腹時の血液サンプルが回収され;そして毎日3回(4〜6時間間隔で)(但し、-1日目及び8日目は2回)非空腹時の血液サンプルが採取された。血中グルコースは、OneTouch Ultra(登録商標)(Johnson & Johnson, New Brunswick N.J.)血中グルコース測定装置を使用して判定された。グルコースレベルは、1日に3回測定された。定量的HbA1cは、DCA 2000 Plus Analyzer (GMI, Inc., Ramsey Minn.)を使用して、-1日目及び8日目に回収された空腹時の血液サンプルにおいて判定された。移植前(0)、12、24、36、48、72時間、並びに移植の5日後及び7日後に、連続的な血液サンプルが収得された。これらのサンプルは、遠心分離され、血漿が回収され、そして-70℃で保存された。剖検を含む顕微鏡試験が、観察期間の8日目に実行された。
【0157】
図2は、群の平均体重(グラム)において得られたデータを表す。エクセナチドで処理された肥満(図2:黒塗り正方形)及び痩身(図2:黒塗り三角形)ラットのいずれにおいても、4日目までには体重の減少が観察された(肥満:1日目=329±15.2gに対し4日目=296.2±14.2g(p<0.01);及び、痩身:1日目=265.4±9.1gに対し4日目=237.6±7.8g(p<0.01))。全体で、6日目までには、処理された肥満ラットでは10.7%の体重減少、及び処理された痩身ラットでは15.1%の体重減少が認められた。対照的に、偽薬装置(図2:黒塗り菱形)で処理された肥満ラットは、6日目までに僅かに体重が増加(1.8%)した。
【0158】
図3は、群の平均血中グルコース濃度(mg/dL)において得られたデータを表す。DUROS(登録商標)装置の挿入後1日以内で、処理された肥満ラット(図3;黒塗り正方形)において、肥満コントロール(図3;黒塗り菱形)と比較して、血中グルコースレベルの低下が明らかである。3日目の最初の処理された肥満ラットにおける平均グルコースレベルは163±92 mg/dLであったのに対し、肥満コントロールラットは481±47mg/dLであった(p<0.05)。3日〜7日の間に、20mcg/日のエクセナチドで処理された肥満ラットの血中グルコースレベルは、痩身動物における数値に迫って減少していったが、偽薬で処理された肥満ラットのグルコースレベルは平均で502mg/dLであった。痩身動物(図3:黒塗り三角形)のグルコースレベルは、常に100mg/dL付近であった。グルコースレベルが100mg/dLである場合、正常とみなされる。
【0159】
図4は、群の平均血中HbA1c値において得られたデータを表す。研究期間にかけて、処理された肥満ラット(図4;黒塗り正方形)は、5.8%のHbA1cレベルの全体的な増大を示したが、肥満コントロールラット(図4;黒塗り菱形)は6.7%の増大を示した。処理された肥満ラットにおいて、平均血中グルコース濃度が期間中に減少していたものがあったが、これらの動物において対応するHbA1cの減少は認められなかった。この結果は、HbA1cレベルが平均血中グルコース濃度に比例するのに1〜2ヶ月以上の期間が必要であるのに対して、前記研究の期間が十分な長さではなかったためであると考えられる。
【0160】
これらのデータは、エクセナチドの持続的かつ均一な送達が、処理された動物において、体重に対する強力な作用を伴い、グルコース低下をもたらすことを示す。これらの結果は、ヒト糖尿病の処置において、例えばエクセナチドを含む懸濁製剤等のインクレチン模倣体を長期間定常状態で投与するために、前記DUROS(登録商標)装置を使用すること支持する。
【0161】
当業者において明白であるように、本発明の精神及び範囲から逸脱すること無く、上記態様の様々な変更及び変化がなされ得る。そのような変更及び変化は、本発明の範囲内にある。
【図1A】

【図1B】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
インスリン分泌促進性ペプチド、二糖、メチオニン、及び緩衝剤を含む粒子製剤;並びに
1つ以上のピロリドンポリマーと、乳酸ラウリル、ラウリルアルコール、安息香酸ベンジル、及びそれらの混合物からなる群から選択される1つ以上の溶媒とを含む非水性単相懸濁ビヒクル
を含み、前記懸濁ビヒクルが粘性流体特性を呈し、そして前記粒子製剤が前記ビヒクル中に分散される懸濁製剤。
【請求項2】
前記インスリン分泌促進性ペプチドが、グルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)、GLP-1の誘導体、又はGLP-1の類似体である、請求項1に記載の製剤。
【請求項3】
前記インスリン分泌促進性ペプチドがGLP(7-36)アミドである、請求項2に記載の製剤。
【請求項4】
前記インスリン分泌促進性ペプチドが、エクセナチド、エクセナチドの誘導体、又はエクセナチドの類似体である、請求項1に記載の製剤。
【請求項5】
前記インスリン分泌促進性ペプチドが合成エクセナチドペプチドである、請求項4に記載の製剤。
【請求項6】
前記緩衝剤が、クエン酸塩、ヒスチジン、コハク酸塩、及びそれらの混合物からなる群から選択される、請求項1〜5のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項7】
前記緩衝剤がクエン酸塩である、請求項6に記載の製剤。
【請求項8】
前記二糖が、ラクトース、スクロース、トレハロース、セロビオース、及びそれらの混合物からなる群から選択される、請求項1〜7のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項9】
前記粒子製剤が、粒子の噴霧乾燥調製物である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項10】
前記溶媒が、乳酸ラウリル、安息香酸ベンジル、及びそれらの混合物からなる群から選択される、請求項1〜9のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項11】
前記溶媒が、本質的に安息香酸ベンジルからなる、請求項10に記載の製剤。
【請求項12】
前記ポリマーが、本質的にポリビニルピロリドンからなる、請求項1〜11のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項13】
前記ビヒクルが、本質的にピロリドン及び安息香酸ベンジルからなる、請求項1〜12のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項14】
前記ビヒクルが、約50%の溶媒と約50%のポリマーである、請求項13に記載の製剤。
【請求項15】
前記懸濁製剤が、約10wt%以下の全体含水率を有する、請求項1〜14のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項16】
請求項1〜15のいずれか1項に記載の懸濁製剤を含む浸透圧送達装置。
【請求項17】
約1ヶ月〜約1年の期間、浸透圧送達装置から実質的に均一な速度で請求項1〜15のいずれか1項に記載の懸濁製剤を送達することを含む、処置を要する対象においてII型糖尿病を処置する方法。
【請求項18】
前記インスリン分泌促進性ペプチドがGLP-1(7-36)アミドであり、前記懸濁製剤の送達が、約100μg/日〜約600μg/日の実質的に均一な速度で行われる、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記インスリン分泌促進ペプチドがエクセナチドであり、前記懸濁製剤の送達が、約5μg/日〜約160μg/日の実質的に均一な速度で行われる、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
前記浸透圧送達装置の容器に、請求項1〜15のいずれか1項に記載の懸濁製剤を充填することを含む、浸透圧送達装置を製造する方法。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2010−526775(P2010−526775A)
【公表日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−506245(P2010−506245)
【出願日】平成20年4月22日(2008.4.22)
【国際出願番号】PCT/US2008/005235
【国際公開番号】WO2008/133908
【国際公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【出願人】(508346561)インターシア セラピューティクス,インコーポレイティド (5)
【Fターム(参考)】