説明

インスリン分泌促進用油脂組成物

【課題】安全性が高く、継続的に摂取しても副作用の懸念がない、糖尿病の予防等に有効なインスリン分泌促進用油脂組成物を提供すること。
【解決手段】本発明のインスリン分泌促進用油脂組成物は、トリアシルグリセロールと乳化剤とを有効成分として含有し、前記トリアシルグリセロールは、分子内に中鎖脂肪酸残基を1つ又は2つ有し、且つ、構成脂肪酸として、炭素数6〜12の中鎖脂肪酸と炭素数16〜24の長鎖脂肪酸とを含有し、前記乳化剤は、リン脂質、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、及びグリセリンモノ脂肪酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インスリン分泌を促進するために用いる油脂組成物に関し、詳細には、ある特定のトリアシルグリセロールと、ある特定の乳化剤とを有効成分とするインスリン分泌促進用油脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
糖尿病は、I型糖尿病(インスリン依存型糖尿病)と、II型糖尿病(インスリン非依存型糖尿病)とに大別される。日本の糖尿病罹患者の大部分は、II型糖尿病であり、インスリンの分泌量が低下するインスリン分泌不全や、インスリンの血糖を下げる作用が弱くなるインスリン抵抗性といった症状が進行することで発症する。これらの症状には、遺伝的要因や、偏食、過食、運動不足、ストレス等の環境的要因が大きく関与している。
【0003】
近年、II型糖尿病の患者数が増加しており、境界型と呼ばれる糖尿病予備軍を含めるとすでに2000万人にも及ぶと言われている。したがって、糖尿病患者のケアだけでなく、糖尿病予備軍を糖尿病に移行させない予防も重要な課題となっている。
【0004】
一般に、II型糖尿病の治療は、食事療法及び運動療法を基本とした上で薬物療法を行う。日本におけるII型糖尿病の薬物療法としては、インスリン分泌を促進させるスルホニルウレア剤(SU剤)が多用されている。これは、日本人のインスリン分泌能力が欧米人に比べて低いからである。しかしながら、SU剤には、膵β細胞の疲弊、低血糖、そう痒感、発疹、体重増加等の副作用の問題があった。糖尿病の薬物療法は、長期間継続して行う必要があるため、継続的に服用しても副作用の懸念がないインスリン分泌促進剤の開発が所望されていた。
【0005】
このようなインスリン分泌促進剤としては、例えば、特許文献1において、白甘薯の塊根の皮部分から得られる抽出液を有効成分するものが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3677007号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、安全性が高く、継続的に摂取しても副作用の懸念がない、糖尿病の予防等に有効なインスリン分泌促進用油脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するために研究を重ねたところ、構成脂肪酸としてある特定の炭素数の中鎖脂肪酸と長鎖脂肪酸とを分子内に有するトリアシルグリセロールと、ある特定の乳化剤とを含有する油脂組成物によれば、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
具体的には、本発明では以下のようなものを提供する。
【0010】
(1)トリアシルグリセロールと乳化剤とを有効成分として含有し、上記トリアシルグリセロールは、分子内に中鎖脂肪酸残基を1つ又は2つ有し、且つ、構成脂肪酸として、炭素数6〜12の中鎖脂肪酸と炭素数16〜24の長鎖脂肪酸とを含有し、上記乳化剤は、リン脂質、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、及びグリセリンモノ脂肪酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とするインスリン分泌促進用油脂組成物。
【0011】
(2)上記トリアシルグリセロールの構成脂肪酸は、炭素数6〜12の中鎖脂肪酸と炭素数16〜24の長鎖脂肪酸とからなる(1)に記載のインスリン分泌促進用油脂組成物。
【0012】
(3)上記中鎖脂肪酸が炭素数8及び/又は10の飽和脂肪酸である(1)又は(2)に記載のインスリン分泌促進用油脂組成物。
【0013】
(4)上記乳化剤は、ポリグリセリン脂肪酸エステル及び/又はグリセリンモノ脂肪酸エステルである(1)〜(3)のいずれか1つに記載のインスリン分泌促進用油脂組成物。
【0014】
(5)上記(1)〜(4)のいずれか1つに記載の油脂組成物を含有する飲食品。
【発明の効果】
【0015】
本発明の油脂組成物は、インスリン分泌促進作用に優れるので、特に、II型糖尿病の予防又は治療に有効である。また、本発明の油脂組成物によれば、有効成分が食品として摂取されているトリアシルグリセロール及び乳化剤であるので、安全性が高く、副作用の懸念がないため、安心して継続的に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】MLCT+乳化剤投与試行における血漿インスリン濃度の測定結果を示す図である。
【図2】LCT+乳化剤投与試行における血漿インスリン濃度の測定結果を示す図である。
【図3】MLCT投与試行における血漿インスリン濃度の測定結果を示す図である。
【図4】MCT+LCT投与試行における血漿インスリン濃度の測定結果を示す図である。
【図5】MLCT+乳化剤投与試行における測定結果((A):随時血糖値,(B):血漿インスリン濃度)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の具体的な実施形態について、詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0018】
本発明の油脂組成物は、インスリン分泌促進用として用いるものであり、トリアシルグリセロールと乳化剤とを有効成分として含有する。以下、本発明の油脂組成物に含まれる各成分について、具体的に説明する。
【0019】
<トリアシルグリセロール>
本発明のインスリン分泌促進用油脂組成物(以下、油脂組成物という。)の有効成分の1つであるトリアシルグリセロールは、分子内に中鎖脂肪酸残基を1つ又は2つ有し、且つ、構成脂肪酸として、炭素数6〜12の中鎖脂肪酸と炭素数16〜24の長鎖脂肪酸とを含有する。すなわち、トリアシルグリセロールの形態としては、1分子のトリアシルグリセロール中に構成脂肪酸として中鎖脂肪酸のみが存在する中鎖脂肪酸トリアシルグリセロール(以下、MCTという。)、長鎖脂肪酸のみが存在する長鎖脂肪酸トリアシルグリセロール(以下、LCTという。)、及び中鎖脂肪酸と長鎖脂肪酸とが混在する中・長鎖脂肪酸トリアシルグリセロール(以下、M・LCTという。)があるが、本発明の油脂組成物は、1分子のトリアシルグリセロール中に炭素数6〜12の中鎖脂肪酸と炭素数16〜24の長鎖脂肪酸とを構成脂肪酸として含有するM・LCTを有効成分の1つとして含有する。
【0020】
本発明の油脂組成物では、有効成分である上記M・LCT以外に、上記MCT及び/又はLCTを含有してもよい。なお、本明細書では、このようなトリアシルグリセロールを中長鎖脂肪酸トリアシルグリセロール(以下、MLCTという。)ということとし、分子内に中鎖脂肪酸残基を1つ又は2つ有し、構成脂肪酸として中鎖脂肪酸と長鎖脂肪酸とが混在するトリアシルグリセロールのM・LCTとは区別して表現する。
【0021】
有効成分のトリアシルグリセロールは、炭素数6〜12の中鎖脂肪酸と炭素数16〜24の長鎖脂肪酸とを含有し、炭素数6〜12の中鎖脂肪酸と炭素数16〜24の長鎖脂肪酸とからなることが好ましい。炭素数6〜12の中鎖脂肪酸としては、n−ヘキサン酸、n−ヘプタン酸、n−オクタン酸、n−ノナン酸、n−デカン酸、及びラウリン酸が挙げられるが、炭素数が偶数の飽和脂肪酸が好ましく、炭素数が8及び/又は10の飽和脂肪酸(n−オクタン酸及び/又はn−デカン酸)がより好ましい。中鎖脂肪酸は、ヤシ油やパーム核油等を加水分解することにより得ることができる。
【0022】
炭素数16〜24の長鎖脂肪酸としては、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸等の長鎖飽和脂肪酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、γ−リノレン酸、アラキドン酸、イコサペンタエン酸等の長鎖不飽和脂肪酸が挙げられる。長鎖脂肪酸は、搾油原料を搾油し、精製した大豆油、菜種油、コーン油、米油、ゴマ油、綿実油、ひまわり油、紅花油、亜麻仁油、シソ油、オリーブ油等を加水分解することにより得ることができる。
【0023】
本発明の油脂組成物の有効成分であるトリアシルグリセロールは、構成脂肪酸として上記中鎖脂肪酸と上記長鎖脂肪酸とを含有するが、これらの脂肪酸の結合位置は、特に限定されない。
【0024】
トリアシルグリセロールの製造方法は、特に限定されるものではないが、例えば、従来公知のエステル交換反応又はエステル化反応が挙げられる。エステル交換反応としては、例えば、ナトリウムメトキシド等の無機触媒を用いた化学的なエステル交換反応、リパーゼ等を用いた酵素によるエステル化反応が挙げられる。本発明では、どちらの反応によるかは特に問わない。また、エステル交換反応は、選択的エステル交換反応又は非選択的エステル交換反応のいずれであってもよく、特に限定されない。
【0025】
エステル化反応としては、例えば、グリセリンと脂肪酸を用いたエステル化反応、グリセリンと脂肪酸エステルを用いたエステル化反応、グリセリンと油脂を用いたエステル化反応等が挙げられる。本発明では、いずれの反応によるかは特に問わない。
【0026】
本発明の油脂組成物では、有効成分であるトリアシルグリセロールの全構成脂肪酸における上記中鎖脂肪酸の占める割合は、15〜40質量%であることが好ましく、20〜35質量%であることがより好ましい。上記範囲であれば、インスリン分泌促進作用をより効果的に発揮することができる。なお、上記中鎖脂肪酸の占める割合を確認する方法としては、例えば、本発明の油脂組成物から上記トリアシルグリセロールを分子蒸留、カラムクロマトグラフィー等により単離した後、構成脂肪酸をメチルエステル化し、ガスクロマトグラフィーにより分析する方法が挙げられる。
【0027】
上記トリアシルグリセロールやその構成脂肪酸である中鎖脂肪酸及び長鎖脂肪酸は、天然に広く存在するものであり、また、食用となる天然物にも含まれており、安全性が高く、問題となるような副作用は知られていない。本発明の油脂組成物では、有効成分として上記トリアシルグリセロールを選択することで、継続摂取による副作用を避けることができる。
【0028】
<乳化剤>
本発明の油脂組成物の有効成分の1つである乳化剤は、リン脂質、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、及びグリセリンモノ脂肪酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも1種であり、ポリグリセリン脂肪酸エステル及び/又はグリセリンモノ脂肪酸エステルであることが好ましく、ポリグリセリン脂肪酸エステルであることがより好ましい。ポリグリセリン脂肪酸エステルは、上記トリアシルグリセロールとの併用によるインスリン分泌促進作用が上記乳化剤の中で最も優れるからである。
【0029】
(リン脂質)
本発明の油脂組成物では、有効成分である乳化剤としてリン脂質を含有してもよい。本発明の油脂組成物において、リン脂質は、特に限定されるものではなく、例えば、動植物由来のリン脂質、酵素合成や化学合成により得られたリン脂質等が挙げられ、好ましくは動植物由来のリン脂質である。リン脂質の種類は、特に限定されるものではなく、例えば、ホスファチジルコリン(PC)、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、ホスファチジルイノシトール(PI)、ホスファチジルセリン(PS)、ホスファチジン酸(PA)等のグリセロリン脂質、リゾホスファチジルコリン(LPC)等のグリセロリゾリン脂質、スフィンゴリン脂質等のリン脂質が挙げられ、これらの1種又は2種以上の混合物を用いてもよい。
【0030】
また、本発明の油脂組成物では、これらの1種又は2種以上を含む動植物由来のレシチンを用いることもできる。例えば、卵黄、乳等の動物由来のレシチン、大豆、菜種、小麦、米、コーン、綿実、紅花、アマニ、ゴマ、ひまわり種子等の植物由来のレシチン、これらの分画レシチン、水素添加レシチン等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、植物由来のレシチンが好ましく、大豆由来のレシチンが、価格及び入手性という観点において好ましい。
【0031】
なお、本発明の油脂組成物では、市販のリン脂質を用いてもよいし、市販のレシチンを用いてもよい。また、市販のレシチンを精製することにより得られたPC,PE、PIを用いてもよいし、得られたPCから酵素合成により得られたLPCを用いてもよい。さらに、酵素合成法や化学合成法を用いて合成されたレシチンの高純度品も用いることができる。
【0032】
レシチンの市販品としては、例えば、レシチンDX(日清オイリオグループ社製)、大豆レシチン(和光純薬社製)、サンレシチンA(太陽化学社製)、レシオンP(理研ビタミン社製)、レシオンLP−1(理研ビタミン社製)、卵黄レシチンLPL−10P(キューピー社製)、SLP−ペースト(辻製油社製)、SLP−ホワイト(辻製油社製)、SLP−ペーストリゾ(辻製油社製)等が挙げられる。
【0033】
本発明の油脂組成物において、リン脂質としてレシチンを用いた場合、該レシチンの性状は、特に限定されるものではなく、例えば、油状、ペースト状、粉末状、顆粒状等が挙げられる。
【0034】
上記リン脂質は、種々の動植物から抽出される天然由来の成分である。そして、上記リン脂質を多く含むレシチンは、従来から乳化剤として食品や医薬品に用いられており、安全性が高く、問題となるような副作用は知られていない。本発明の油脂組成物では、有効成分としてリン脂質を選択することで、継続摂取による副作用を避けることができる。
【0035】
(ショ糖脂肪酸エステル)
本発明の油脂組成物では、有効成分である乳化剤としてショ糖脂肪酸エステルを含有してもよい。ショ糖脂肪酸エステルは、親水性部分としてのショ糖と、親油性部分としての1つ以上の脂肪酸とをエステル結合してなる。ショ糖には8個の水酸基があるため、ショ糖脂肪酸エステルにはモノエステルからオクタエステルまで種々のものが存在し得るが、本発明では、ショ糖脂肪酸エステルの平均置換度(ショ糖の水酸基に結合している脂肪酸の数の平均値)は、特に限定されるものではない。また、ショ糖脂肪酸エステルのHLB値についても、特に限定されるものではないが、インスリン分泌促進効果が顕著であるという点において、4〜16であることが好ましく、8〜14であることがより好ましく、10〜12であることが更により好ましい。なお、本発明の油脂組成物において、異なるHLBのショ糖脂肪酸エステルを2種以上含有する場合には、それらのHLBの平均値を意味する。ここで、HLB値は、界面活性剤における親水性と疎水性のバランスを表す数値であり、例えば、「食品用乳化剤−基礎と応用−」(戸田義郎ら、(株)光琳)p.13に記載の方法により求めることができる。
【0036】
本発明の油脂組成物では、ショ糖脂肪酸エステルを構成する脂肪酸は、その炭素数が通常6〜24、好ましくは14〜22、より好ましくは16〜20の飽和及び/又は不飽和脂肪酸である。具体的には、カプロン酸(n−ヘキサン酸)、カプリル酸(n−オクタン酸)、カプリン酸(n−デカン酸)、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキジン酸、アラキドン酸、ベヘン酸、エルカ酸、リグノセリン酸等が挙げられる。これらの中でも炭素数18のステアリン酸が好ましい。なお、ショ糖脂肪酸エステルがジエステルないしオクタエステルの場合、構成脂肪酸は、同一種であってもよいし、異なる種類であってもよい。好ましくは、同一種である。
【0037】
本発明の油脂組成物では、市販のショ糖脂肪酸エステルを用いてもよいし、従来公知の方法により製造したショ糖脂肪酸エステルを用いてもよい。また、2種以上の混合物を用いてもよい。ショ糖脂肪酸エステルの製造方法は、特に限定されるものではなく、例えば、アルカリ触媒の存在下、DMSOを反応溶媒として、ショ糖と脂肪酸アルキルエステルとを反応させる方法が挙げられる。なお、ショ糖脂肪酸エステルのHLB値は、常法により調整することができる。
【0038】
上記ショ糖脂肪酸エステルの市販品としては、例えば、三菱化学フーズ社製の「リョートーシュガーエステル S−570」、「リョートーシュガーエステル S−770」、「リョートーシュガーエステル S−970」、「リョートーシュガーエステル S−1170S」、「リョートーシュガーエステル S−1570」、「リョートーシュガーエステル S−1670」、「リョートーシュガーエステル P−1570」、「リョートーシュガーエステル P−1670」、「リョートーシュガーエステル M−1695」、「リョートーシュガーエステル O−1570」、「リョートーシュガーエステル L−595」、「リョートーシュガーエステル L−1695」等のリョートーシュガーエステルシリーズ、第一工業製薬社製の「DKエステル F−50」、「DKエステル F−110」、「DKエステル F−140」、「DKエステル F−160」等のDKエステルシリーズ等が挙げられる。
【0039】
本発明の油脂組成物では、ショ糖脂肪酸エステルの性状は、特に限定されるものではなく、例えば、油状、ペースト状、粉末状、顆粒状等が挙げられる。
【0040】
上記ショ糖脂肪酸エステルは、ショ糖と、天然植物油脂由来の脂肪酸とから得られる非イオン界面活性剤であり、従来から食品用乳化剤として使用されている。食品添加物として古くから認められており、安全性が高く、問題となるような副作用は知られていない。本発明の油脂組成物では、有効成分としてショ糖脂肪酸エステルを選択することで、継続摂取による副作用を避けることができる。
【0041】
(ポリグリセリン脂肪酸エステル)
本発明の油脂組成物では、有効成分である乳化剤としてポリグリセリン脂肪酸エステルを含有してもよい。本発明の油脂組成物において、ポリグリセリン脂肪酸エステルは、特に限定されるものではないが、インスリン分泌促進効果が顕著であるという点において、好ましくはHLBが4〜15であり、より好ましくは4〜9である。なお、本発明の油脂組成物において、異なるHLBのポリグリセリン脂肪酸エステルを2種以上含有する場合には、それらの平均HLB値を意味する。
【0042】
本発明の油脂組成物では、ポリグリセリン脂肪酸エステルを構成する脂肪酸は、特に限定されるものではなく、その炭素数が通常6〜24、好ましくは14〜20、より好ましくは16〜20の飽和及び/又は不飽和脂肪酸である。具体的には、カプロン酸(n−ヘキサン酸)、カプリル酸(n−オクタン酸)、カプリン酸(n−デカン酸)、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキジン酸、アラキドン酸、ベヘン酸、エルカ酸、リグノセリン酸等が挙げられる。
【0043】
本発明の油脂組成物では、市販のポリグリセリン脂肪酸エステルを用いてもよいし、従来公知の方法により製造したポリグリセリン脂肪酸エステルを用いてもよい。また、2種以上の混合物を用いてもよい。ポリグリセリン脂肪酸エステルの製造方法は、特に限定されるものではなく、例えば、グリセリンと脂肪酸とのエステル化やグリセリンと油脂とのエステル交換といった従来公知の方法が挙げられる。以下に、ポリグリセリン脂肪酸エステルの製造方法の一例を示すが、これに限定されるものではない。まず、グリセリンと、水酸化ナトリウム(触媒)とを混合し、90℃以上で減圧しながら乾燥させた後、200〜270℃にて重合反応させて、ポリグリセリンを得る。得られたポリグリセリンと、脂肪酸とを、適当な比率で反応容器に仕込み、触媒として水酸化ナトリウム溶液を添加する。次いで、窒素気流下で、200℃以上の温度に加熱し、1〜3時間程度反応させた後、さらに内温を250℃以上とし、3〜5時間反応させる。その後、常温まで冷却し、常法により精製し、ポリグリセリン脂肪酸エステルを得ることができる。なお、ポリグリセリン脂肪酸エステルのHLB値は、常法により調整することができる。
【0044】
上記ポリグリセリン脂肪酸エステルの市販品としては、例えば、太陽化学社製の「サンソフトA−186E」、「サンソフトQ−175S」、「サンソフトQ−185S」、「サンソフトQ−17B」、「サンソフトQ−18B」、「サンソフトQ−18D」、「サンソフトA−173E」、「サンソフトQ−182S」、「サンソフトQ−17S」、「サンソフトA−171E」、「サンソフトA−121E」、「サンソフトQ−14S」等が挙げられる。
【0045】
本発明の油脂組成物では、上記ポリグリセリン脂肪酸エステルの性状は、特に限定されるものではなく、例えば、油状、ペースト状、粉末状、顆粒状等が挙げられる。
【0046】
上記ポリグリセリン脂肪酸エステルは、ポリグリセリンと、天然植物油脂由来の脂肪酸とから得られるエステルであり、従来から食品用乳化剤として使用されている。食品添加物として古くから認められており、安全性が高く、問題となるような副作用は知られていない。本発明の油脂組成物では、有効成分としてポリグリセリン脂肪酸エステルを選択することで、継続摂取による副作用を避けることができる。
【0047】
(グリセリンモノ脂肪酸エステル)
本発明の油脂組成物では、有効成分である乳化剤としてグリセリンモノ脂肪酸エステルを含有してもよい。グリセリン1分子と脂肪酸1分子とがエステル結合したものである。本発明の油脂組成物では、グリセリンモノ脂肪酸エステルを構成する脂肪酸は、特に限定されるものではなく、その炭素数が通常6〜24、好ましくは8〜12、より好ましくは8〜10の飽和又は不飽和脂肪酸である。具体的には、カプロン酸(n−ヘキサン酸)、カプリル酸(n−オクタン酸)、カプリン酸(n−デカン酸)、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキジン酸、アラキドン酸、ベヘン酸、エルカ酸、リグノセリン酸等が挙げられる。これらの中でも、炭素数8のn−オクタン酸が好ましい。
【0048】
また、本発明の油脂組成物において、グリセリンモノ脂肪酸エステルのHLBは、特に限定されるものではないが、好ましくは4〜8である。なお、本発明の油脂組成物において、異なるHLBのグリセリンモノ脂肪酸エステルを2種以上含有する場合には、それらのHLBの平均値を意味する。
【0049】
本発明の油脂組成物では、市販のグリセリンモノ脂肪酸エステルを用いてもよいし、従来公知の方法により製造したグリセリンモノ脂肪酸エステルを用いてもよい。また、2種以上の混合物を用いてもよい。グリセリンモノ脂肪酸エステルの製造方法は、特に限定されるものではなく、例えば、グリセリンと脂肪酸とのエステル化やグリセリンと油脂とのエステル交換といった従来公知の方法が挙げられる。以下に、グリセリンモノ脂肪酸エステルの製造方法の一例を示すが、これに限定されるものではない。まず、グリセリンと、脂肪酸とを、適当な比率で反応容器に仕込み、触媒として水酸化ナトリウム溶液を添加する。次いで、窒素気流下で、200℃以上の温度に加熱し、1〜3時間程度反応させた後、さらに内温を250℃以上とし、3〜5時間反応させる。その後、常温まで冷却し、常法により精製し、グリセリンモノ脂肪酸エステルを得ることができる。なお、グリセリンモノ脂肪酸エステルのHLBは、常法により調整することができる。
【0050】
上記グリセリンモノ脂肪酸エステルの市販品としては、例えば、太陽化学社製の「サンソフトNo.700P−2」、「サンソフトNo.750」、「サンソフトNo.760」、「サンソフトNo.8000V」、「サンソフトNo.8070V」等、理研ビタミン社製の「ポエム M−100」、「ポエム M−200」、「ポエム M−300」、「エマルジーMS」等、花王社製の「カオーホモテックスPT」等が挙げられる。
【0051】
本発明の油脂組成物では、グリセリンモノ脂肪酸エステルの性状は、特に限定されるものではなく、例えば、油状、ペースト状、粉末状、顆粒状等が挙げられる。
【0052】
上記グリセリンモノ脂肪酸エステルは、グリセリンと、天然植物油脂由来の脂肪酸とから得られるエステルであり、従来から食品用乳化剤として使用されている。食品添加物として古くから認められており、安全性が高く、問題となるような副作用は知られていない。本発明の油脂組成物では、有効成分としてグリセリンモノ脂肪酸エステルを選択することで、継続摂取による副作用を避けることができる。
【0053】
[油脂組成物]
上記トリアシルグリセロールは、糖(グルコース)を摂取する際に、単独摂取することで、血漿のインスリン濃度を上昇させることができる。また、上記乳化剤は、糖を摂取する際に、LCTと併用することで、血漿のインスリン濃度を上昇させることができる。これに対して、上記トリアシルグリセロールと上記乳化剤とを有効成分として含有する本発明の油脂組成物によれば、上記トリアシルグリセロールと上記乳化剤との相乗効果により、血漿のインスリン濃度を顕著に上昇させることができる。このような本発明の油脂組成物は、インスリンの分泌量を高める必要がある糖尿病又はその予備軍に該当するヒトを含む動物に対して有効に作用する。特に、インスリン分泌量が低下するインスリン分泌不全を伴うII型糖尿病の予防又は治療に好適である。ここで、予防とは、例えば、発症の抑制、遅延等を意味し、治療とは、例えば、進行の遅延、症状の緩和、軽減、改善等を意味する。
【0054】
本発明の油脂組成物における上記トリアシルグリセロールと、上記乳化剤との割合(質量比)は、99.5:0.5〜98:2であることが好ましい。上記範囲内であれば、糖尿病の予防等に有効なインスリン分泌促進作用を発揮させることができる。なお、2種以上の乳化剤を含有する場合には、これらの合計量が上記割合であることを意味する。
【0055】
本発明の油脂組成物では、本発明の目的を損なわない範囲で必要に応じて、各種添加剤を含有してもよい。例えば、酸化防止剤、消泡剤等が挙げられる。酸化防止剤としては、例えば、トコフェロール類、トコトリエノール類、カロテン、フラボン誘導体、没食子酸誘導体、カテキン及びそのエステル、セサモール、テルペン類等が挙げられる。消泡剤としては、例えば、微粉末シリカ、シリコーン等が挙げられる。
【0056】
糖尿病の薬物療法は長期間継続して行う必要があるため、医薬品に用いられる成分には、継続的に服用したとしても副作用の懸念がないことが求められる。本発明の油脂組成物は、安全性が高く、副作用の懸念がない、上記トリアシルグリセロールと上記乳化剤とを有効成分として含有するので、医薬品に用いた場合であっても、安心して継続的に服用することができる。また、本発明の油脂組成物は、服用のコントロールが容易であるので、II型糖尿病の治療において行われる食事療法と運動療法とを組み合わせた薬物療法に好適である。
【0057】
本発明では、上記トリアシルグリセロールと上記乳化剤とを組み合わせて用いることにより、相乗的なインスリン分泌効果が奏されることを見出した。したがって、本発明の油脂組成物を医薬品として用いる場合には、上記トリアシルグリセロールと上記乳化剤とが混合された配合剤の状態で、また、上記トリアシルグリセロールと上記乳化剤とを混合しないキットの状態で用いることが可能である。
【0058】
本発明の油脂組成物を医薬品として用いる場合の投与経路としては、経口投与が好ましい。本発明の油脂組成物の有効成分である上記トリアシルグリセロールと、上記乳化剤とは、その大部分が腸管(小腸)の粘膜を通して体内に吸収されるからである。経口投与に適する製剤としては、例えば、カプセル剤、錠剤、丸剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、液剤、シロップ剤等が挙げられる。本発明の油脂組成物は、有効成分である上記トリアシルグリセロールと、上記乳化剤と、薬理上及び製剤上許容しうる添加物と、を含む医薬品組成物の形態の製剤とすることが好ましい。薬理上及び製剤上許容しうる添加物としては、例えば、ブドウ糖、乳糖、結晶セルロース、デンプン等の賦形剤、崩壊剤、結合剤、コーティング剤、色素、希釈剤等が挙げられ、通常、製剤分野において常用され、且つ有効成分である上記トリアシルグリセロール及び上記乳化剤と反応しない物質が用いられる。
【0059】
上記したように、本発明の油脂組成物は、安全性が高く、継続的な服用による副作用の懸念がないので、既存薬と組み合わせて用いることにより、該既存薬の用量を下げて、これらが有する副作用を低減することができる。他の薬との組み合わせは、配合剤のように同一の医薬組成物中に含むものであってもよいし、別々の医薬組成物中に含むものであってもよい。
【0060】
本発明の油脂組成物を用いた医薬品の投与量は、患者の症状、予防又は治療、年齢、体重、投与方法、投与期間等の諸条件に応じて、適宜選択可能である。例えば、ヒト(成人60kg)の糖尿病の治療を目的とする場合には、有効量は、通常、上記トリアシルグリセロールとして200〜1000mg/kg体重/日、及び上記乳化剤として1〜20mg/kg体重/日となる量であり、この量を一回又は数回に分けて投与すればよく、投与のタイミング等に応じて、この範囲で適宜調整すればよい。なお、本発明の油脂組成物は、食前又は食事中に投与すると効果的である。
【0061】
本発明の油脂組成物は、ソフトカプセルに充填・加工することにより、例えば、健康食品、栄養補助食品等の飲食品として摂取することができる。また、本発明の油脂組成物は、そのままで、又は粉末油脂や液状乳化油脂等に加工することにより、直接摂取したり、これらを更に一般食品に利用し、加工することにより、間接的に摂取したりすることもできる。
【0062】
本発明の油脂組成物を利用することができる一般食品としては、油脂を使用する加工食品であれば、特に限定されるものではなく、例えば、パン、ケーキ、クッキー、ビスケット、ドーナツ、マフィン、スコーン、チョコレート、グミ、スナック菓子、ホイップクリーム、アイスクリーム等のパン・菓子類、果汁飲料、栄養ドリンク、スポーツドリンク等の飲料類、スープ類、ドレッシング、ソース、マヨネーズ、バター、マーガリン、調製マーガリン等の調味加工食品、ファットスプレッド、ショートニング、ベーカリーミックス、炒め油、フライ油、フライ食品、加工肉製品、冷凍食品、麺、レトルト食品、流動食、嚥下食等が挙げられる。
【0063】
本発明の油脂組成物を、糖尿病患者又はその予備軍を対象とするインスリン分泌促進用飲食品の製造のために使用する場合には、例えば、成人(体重60kg)であれば、配合する飲食品の種類、その他に摂取する飲食品に含まれる成分等を考慮し、上記トリアシルグリセロールが200〜1000mg/kg体重/日、及び上記乳化剤が1〜20mg/kg体重/日となるように配合するとよく、摂取のタイミング等に応じて、この範囲で適宜調整すればよい。
【実施例】
【0064】
以下、実施例により、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの記載に何ら制限を受けるものではない。
【0065】
[試験例1]インスリン分泌促進効果の検討(1)
糖負荷を与えたラットを用いて、LCTを対照に、本発明の油脂組成物(MLCT+乳化剤)の血漿インスリン分泌促進効果を検討した。
【0066】
<製造例1>試料1の製造方法
40%グルコース(D(+)−Glucose,和光純薬社製)溶液10mlに、LCT(商品名:日清キャノーラ油,日清オイリオグループ社製)2gと、牛血清アルブミン(SIGMA社製)200mgとを添加し、得られた溶液を氷上で冷却しながら超音波処理(5分間を2セット、合計10分間)し、試料1を得た。対照として用いたLCT(商品名:日清キャノーラ油,日清オイリオグループ社製)の脂肪酸組成を表1に示す。
【0067】
【表1】

【0068】
<製造例2>試料2の製造方法
MCT(商品名:O.D.O,構成脂肪酸:n−オクタン酸/n−デカン酸=3/1,日清オイリオグループ社製)と、LCT(商品名:日清キャノーラ油,日清オイリオグループ社製)と、を14:86(質量比)の割合で混合し、混合油を得た。得られた混合油に、リパーゼ粉末を上記混合油に対して0.1質量%添加した後、60℃で15時間撹拌し、エステル交換反応させた。次いで、反応生成物からリパーゼ粉末を濾別し、濾液を水洗、乾燥後、脱色、脱臭して、MCTとLCTとのエステル交換油(MLCT)を得た。そして、40%グルコース(D(+)−Glucose,和光純薬社製)溶液10mlに、上記MLCT2gと、乳化剤(トリオレイン酸ペンタグリセリン,商品名:サンソフトA−173E,HLB:7,太陽化学社製)20mgと、牛血清アルブミン(SIGMA社製)200mgとを添加し、得られた溶液を氷上で冷却しながら超音波処理(5分間を2セット、合計10分間)し、試料2を得た。
【0069】
製造例2にて得たMLCTのトリアシルグリセロール組成及び脂肪酸組成を、それぞれ表2及び表3に示す。なお、トリアシルグリセロール組成は、カラムにジーエルサイエンス社製のSilicone GS−1を用いたガスクロマトグラフィーにより測定し、脂肪酸組成は、「基準油脂分析試験法(1996)」に準じて測定した。
【0070】
【表2】

【0071】
【表3】

【0072】
試験には、7週齢のSD系雄性ラット(日本SLC社より購入)を用いた。該ラット(17匹)を1週間馴化飼育した後、8週齢及び9週齢に、試料1及び試料2の投与を行う糖負荷試験をクロスオーバー法にて行った。すなわち、MLCT及び乳化剤の効果を同一個体で比較できるように、最初の糖負荷試験後、1週間のWash−Out期間を設けて2回目の糖負荷試験を行う、クロスオーバー法を採用した。飼育期間中は、温度23±1℃、湿度50±10%、12時間明暗サイクル(8:00〜20:00照明)の環境下でステンレス製メッシュケージにて個別飼育した。水及び固形飼料(商品名:PicoLab Rodent Diet 20 5053,日本SLC社製)は自由摂取とした。試験前日は17:00から絶食を行い、試験当日は10:00から投与を開始した。
【0073】
試験は、糖負荷と同時にLCTの投与を行う「LCT投与試行(試料1投与試行)」と、糖負荷と同時にMLCT及び乳化剤の投与を行う「MLCT+乳化剤投与試行(試料2投与試行)」との2試行にて行った。試料1及び2は、ゾンデを用いてラットに経口投与した。投与量は、ラットの体重1g当たり6μlとした。なお、最終的投与量は、ラットの体重1kg当たり、糖質が2g、脂質が1g、及び乳化剤が0.01gであった。
【0074】
そして、投与前及び投与20分後に尾静脈から採血を行い、血漿インスリン濃度(ng/ml)を測定した。なお、血漿インスリン濃度の測定は、市販のキット(商品名:Rat Insulin ELISA kit,Mercodia社製)を用いてELISA法により行った。試験結果を図1に示す。なお、MLCT+乳化剤投与試行における血漿インスリン濃度増加量は、LCT投与試行における血漿インスリン濃度増加量の平均値を100とした相対値(%)とし、相対値の平均値±標準誤差で表した。試行間の有意差検定には、Student t−test検定を用い、危険率5%未満を持って有意差ありと判断した。
【0075】
図1に示すように、MLCT+乳化剤投与試行の血漿インスリン濃度増加量は、LCT投与試行と比較して有意に(P<0.001)高値を示した。このことから、MCTとLCTとのエステル交換油(MLCT)及び乳化剤によれば、インスリンの分泌が促進されることが明らかとなった。なお、LCT投与試行の血漿インスリン濃度増加量の平均値(絶対値)は1.13±0.13ng/mlであり、MLCT+乳化剤投与試行の血漿インスリン濃度増加量の平均値(絶対値)は2.28±0.21ng/mlであった。
【0076】
[試験例2]インスリン分泌促進効果の検討(2)
糖負荷を与えたラットを用いて、LCTを対照に、LCT+乳化剤の血漿インスリン分泌促進効果を検討した。
【0077】
<製造例3>試料3の製造方法
40%グルコース(D(+)−Glucose,和光純薬社製)溶液10mlに、LCT(商品名:日清キャノーラ油,日清オイリオグループ社製)2gと、乳化剤(トリオレイン酸ペンタグリセリン,商品名:サンソフトA−173E,HLB:7,太陽化学社製)20mgと、牛血清アルブミン(SIGMA社製)200mgとを添加し、得られた溶液を氷上で冷却しながら超音波処理(5分間を2セット、合計10分間)し、試料3を得た。
【0078】
試験には、7週齢のSD系雄性ラット(日本SLC社より購入)を用いた。該ラット(17匹)を1週間馴化飼育した後、8週齢及び9週齢に、試料1及び試料3の投与を行う糖負荷試験をクロスオーバー法にて行った。飼育条件は、試験例1と同様とした。
【0079】
試験は、糖負荷と同時にLCTの投与を行う「LCT投与試行(試料1投与試行)」と、糖負荷と同時にLCT及び乳化剤の投与を行う「LCT+乳化剤投与試行(試料3投与試行)」との2試行にて行った。試料1及び3は、ゾンデを用いてラットに経口投与した。投与量は、ラットの体重1g当たり6μlとした。なお、最終的投与量は、ラットの体重1kg当たり、糖質が2g、脂質が1g、及び乳化剤が0.01gであった。
【0080】
そして、投与前及び投与20分後に尾静脈から採血を行い、試験例1と同様の方法にて血漿インスリン濃度(ng/ml)を測定した。試験結果を図2に示す。なお、LCT+乳化剤投与試行における血漿インスリン濃度増加量は、LCT投与試行における血漿インスリン濃度増加量の平均値を100とした相対値(%)とし、相対値の平均値±標準誤差で表した。試行間の有意差検定には、Student t−test検定を用い、危険率5%未満を持って有意差ありと判断した。
【0081】
図2に示すように、LCT+乳化剤投与試行の血漿インスリン濃度増加量は、LCT投与試行と比較して有意に(P<0.01)高値を示した。しかしながら、MLCT+乳化剤投与試行と比較すると、有意に(P<0.05)に低い値であった。なお、LCT投与試行の血漿インスリン濃度増加量の平均値(絶対値)は1.32±0.14ng/mlであり、LCT+乳化剤投与試行の血漿インスリン濃度増加量の平均値(絶対値)は2.02±0.20ng/mlであった。
【0082】
[試験例3]インスリン分泌促進効果の検討(3)
糖負荷を与えたラットを用いて、LCTを対照に、MLCTの血漿インスリン分泌促進効果を検討した。
【0083】
<製造例4>試料4の製造方法
40%グルコース(D(+)−Glucose,和光純薬社製)溶液10mlに、上記製造例2にて得たMLCT2gと、牛血清アルブミン(SIGMA社製)200mgとを添加し、得られた溶液を氷上で冷却しながら超音波処理(5分間を2セット、合計10分間)し、試料4を得た。
【0084】
試験には、7週齢のSD系雄性ラット(日本SLC社より購入)を用いた。該ラット(19匹)を1週間馴化飼育した後、8週齢及び9週齢に、試料1及び試料4の投与を行う糖負荷試験をクロスオーバー法にて行った。飼育条件は、試験例1と同様とした。
【0085】
試験は、糖負荷と同時にLCTの投与を行う「LCT投与試行(試料1投与試行)」と、糖負荷と同時にMLCTの投与を行う「MLCT投与試行(試料4投与試行)」との2試行にて行った。試料1及び4は、ゾンデを用いてラットに経口投与した。投与量は、ラットの体重1g当たり6μlとした。なお、最終的投与量は、ラットの体重1kg当たり、糖質及び脂質がそれぞれ2g及び1gであった。
【0086】
そして、投与前及び投与20分後に尾静脈から採血を行い、試験例1と同様の方法にて血漿インスリン濃度(ng/ml)を測定した。試験結果を図3に示す。なお、MLCT投与試行における血漿インスリン濃度増加量は、LCT投与試行における血漿インスリン濃度増加量の平均値を100とした相対値(%)とし、相対値の平均値±標準誤差で表した。試行間の有意差検定には、Student t−test検定を用い、危険率5%未満を持って有意差ありと判断した。
【0087】
図3に示すように、MLCT投与試行の血漿インスリン濃度増加量は、LCT投与試行と比較して有意に(P<0.01)高値を示した。しかしながら、MLCT+乳化剤投与試行と比較すると、有意に(P<0.01)に低い値であった。なお、LCT投与試行の血漿インスリン濃度増加量の平均値(絶対値)は0.86±0.10ng/mlであり、MLCT投与試行の血漿インスリン濃度増加量の平均値(絶対値)は1.15±0.10ng/mlであった。
【0088】
[試験例4]インスリン分泌促進効果の検討(4)
糖負荷を与えたラットを用いて、LCTを対照に、MCTとLCTとの混合油(MCT+LCT)の血漿インスリン分泌促進効果を検討した。
【0089】
<製造例5>試料5の製造方法
MCT(商品名:O.D.O,構成脂肪酸:n−オクタン酸/n−デカン酸=3/1,日清オイリオグループ社製)と、LCT(商品名:日清キャノーラ油,日清オイリオグループ社製)と、を14:86(質量比)の割合で混合し、MCTとLCTの混合油(MCT+LCT)を得た。そして、40%グルコース(D(+)−Glucose,和光純薬社製)溶液10mlに、上記MCT+LCT2gと、牛血清アルブミン(SIGMA社製)200mgとを添加し、得られた溶液を氷上で冷却しながら超音波処理(5分間を2セット、合計10分間)し、試料5を得た。
【0090】
試験には、7週齢のSD系雄性ラット(日本SLC社より購入)を用いた。該ラット(14匹)を1週間馴化飼育した後、8週齢及び9週齢に、試料1及び試料5の投与を行う糖負荷試験をクロスオーバー法にて行った。飼育条件は、試験例1と同様とした。
【0091】
試験は、糖負荷と同時にLCTの投与を行う「LCT投与試行(試料1投与試行)」と、糖負荷と同時にMCTとLCTとの混合油の投与を行う「MCT+LCT投与試行(試料5投与試行)」との2試行にて行った。試料1及び5は、ゾンデを用いてラットに経口投与した。投与量は、ラットの体重1g当たり6μlとした。なお、最終的投与量は、ラットの体重1kg当たり、糖質及び脂質がそれぞれ2g及び1gであった。
【0092】
そして、投与前及び投与20分後に尾静脈から採血を行い、試験例1と同様の方法にて血漿インスリン濃度(ng/ml)を測定した。試験結果を図4に示す。なお、MCT+LCT投与試行における血漿インスリン濃度増加量は、LCT投与試行における血漿インスリン濃度増加量の平均値を100とした相対値(%)とし、相対値の平均値±標準誤差で表した。試行間の有意差検定には、Student t−test検定を用い、危険率5%未満を持って有意差ありと判断した。
【0093】
図4に示すように、MCT+LCT投与試行の血漿インスリン濃度増加量と、LCT投与試行の血漿インスリン濃度増加量との間には、有意な差は認められなかった。なお、LCT投与試行の血漿インスリン濃度増加量の平均値(絶対値)は1.28±0.18ng/mlであり、MCT+LCT投与試行の血漿インスリン濃度増加量の平均値(絶対値)は1.25±0.18ng/mlであった。
【0094】
以上の試験例1の結果より、MLCT及び乳化剤によれば、インスリン分泌が促進されることが明らかとなった。また、試験例3及び4の結果より、MLCTに認められたインスリン分泌促進効果は、MLCTに含まれるトリアシルグリセロールのうち、分子内に中鎖脂肪酸残基を1つ又は2つ有するトリアシルグリセロールに起因することが明らかとなった。さらに、試験例1、2、3、及び4の結果によれば、MLCT、乳化剤ともにインスリン分泌促進作用を有するが、MLCTと乳化剤とを組み合わせて用いることにより、相乗的なインスリン分泌促進効果が奏されることが明らかとなった。
【0095】
[試験例5]インスリン分泌促進効果の検討(5)
糖尿病モデル動物を用いて、LCTを対照に、本発明の油脂組成物(MLCT+乳化剤)の血漿インスリン分泌促進効果を検討した。
【0096】
試験には、5週齢の雄性ob/obマウス(日本SLC社より購入)を用いた。該マウス(10匹)を1週間馴化飼育した後、朝9:00から採血を行い、血糖値を測定した。血糖値の測定には、グルコースC2テストワコー(和光純薬工業社製)を用いた。血糖値が均等になるように2群(各5匹)に分け、それぞれLCTを配合した飼料を摂取させる「LCT食摂取群(対照群)」と、MLCT及び乳化剤を配合した飼料を摂取させる「MLCT+乳化剤食摂取群」とした。試験飼料であるLCT食及びMLCT+乳化剤食の組成を表4に示す。なお、飼育期間中は、温度23±1℃、湿度50±10%、12時間明暗サイクル(8:00〜20:00照明)の環境下でステンレス製メッシュケージにて個別飼育した。水及び飼料は自由摂取とした。
【0097】
【表4】

【0098】
試験食による飼育は3週間とし、毎週1回、朝9:00から尾静脈より採血を行い、血糖値及び血漿インスリン濃度を測定した。血漿インスリン濃度の測定には、Mouse Insulin ELISAキット(Mercodia社製)を用いた。各群の測定値について平均値と標準誤差を算出し、有意差検定には飼育期間と飼育飼料とを説明変数とした二元配置の分散分析を用いた。多重比較検定には、Turkey−Kramer法を用いた。検定は、危険率5%未満をもって有意差ありと判断した。結果を図5((A):随時血糖値、(B):血漿インスリン濃度)に示す。
【0099】
図5(A)に示すように、LCT食摂取群では、飼育期間中、血糖値が漸増したのに対して、MLCT+乳化剤食摂取群では、血糖値の上昇が抑制され、LCT食摂取群と比較して血糖値は有意に(P<0.05)低い値を示した。また、図5(B)に示すように、MLCT+乳化剤食摂取群の血漿インスリン濃度は、LCT食摂取群と比較して有意に(P<0.01)高い値を示した。
【0100】
以上の試験例5の結果より、糖尿病モデル動物であるob/obマウスでは、MLCTと乳化剤とを含む飼料を摂取することで、血漿インスリン濃度が上昇し、その結果、血糖値の上昇が抑制されることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明の油脂組成物は、糖尿病患者にみられるインスリン分泌不全といった症状の改善に有効であり、糖尿病用の医療や食品の分野において利用が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トリアシルグリセロールと乳化剤とを有効成分として含有し、
前記トリアシルグリセロールは、分子内に中鎖脂肪酸残基を1つ又は2つ有し、且つ、構成脂肪酸として、炭素数6〜12の中鎖脂肪酸と炭素数16〜24の長鎖脂肪酸とを含有し、
前記乳化剤は、リン脂質、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、及びグリセリンモノ脂肪酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とするインスリン分泌促進用油脂組成物。
【請求項2】
前記トリアシルグリセロールの構成脂肪酸は、炭素数6〜12の中鎖脂肪酸と炭素数16〜24の長鎖脂肪酸とからなる請求項1に記載のインスリン分泌促進用油脂組成物。
【請求項3】
前記中鎖脂肪酸が炭素数8及び/又は10の飽和脂肪酸である請求項1又は2に記載のインスリン分泌促進用油脂組成物。
【請求項4】
前記乳化剤は、ポリグリセリン脂肪酸エステル及び/又はグリセリンモノ脂肪酸エステルである請求項1〜3のいずれか1項に記載のインスリン分泌促進用油脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の油脂組成物を含有する飲食品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−158544(P2012−158544A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−18534(P2011−18534)
【出願日】平成23年1月31日(2011.1.31)
【出願人】(000227009)日清オイリオグループ株式会社 (251)
【Fターム(参考)】