説明

インスリン化合物の調製方法

本発明は、無作為の非所望副産物を回避する制御された様式で指向反応に相乗的に作用する最適量のトリプシン及びカルボキシペプチダーゼBの組合せ又は同時使用を含むワンステップ酵素反応により、その類似体又は誘導体を含むインスリン化合物を対応する前駆体型から調製することに関する。特に、本発明の酵素的転換反応は、操作工程数の削減、所望最終生成物の高い収率及び純度の点で利点を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無作為の非所望副産物の生成を回避する方式で指向反応に相乗的に作用する最適量のトリプシン及びカルボキシペプチダーゼBの組合せ又は同時使用を伴うワンステップ酵素反応により、類似体や誘導体を含むインスリン化合物を対応の前駆体型から調製することに関する。特に、本発明の酵素的転換反応は、操作工程数の削減、所望最終生成物の高い収率及び純度という長所を提供する。
【背景技術】
【0002】
遺伝子工学方法は、インスリンの前駆体型が微生物内で発現するのをますます可能にする(EP−A−347781,EP−A−367163)。プレプロ配列は、通常、化学的及び/又は酵素的に切除される(DE−P−3440988,EP−A−0264250)。公知の酵素的転換方法は、トリプシン及びカルボキシペプチダーゼBを用いた切断に基づいている(Kemmler W.ら,J.Biol.Chem.,246(1971)6786−6791;EP−A−195691;EP−B−89007)。インスリン前駆体分子の対応分子への典型的な転換工程では、A及びB鎖間のリンカーペプチドが除去される。トリプシンを用いる酵素反応は、その切断がヒトインスリンや所望の最終生成物を生成するペプチド結合を切断するだけでなく、競争的反応において他の影響されやすい部位での切断が多くの非所望副産物を生成する酵素的複合反応である。
【0003】
従来技術の方法は、トリプシン及び第二酵素のカルボキシペプチダーゼの使用を含み、必要な中間体が反応で形成される際に第二酵素のカルボキシペプチダーゼが添加されるにする。これらの方法の欠点は、反応溶液からかろうじて除去可能である不純副産物の大量形成である。ヒト前駆体型からヒトインスリン(HI)への転換という特定のケースでは、des−Thr(B30)−ヒトインスリン(des−Thr(B30)−HI)が大量に形成される。
【0004】
上記のことから、起こり得る高分子性不純物の形成をできる限り完全に除去し、そして同時に、所望のインスリン最終生成物をできる限り多く増やす極めて簡便な工程を介して、インスリン化合物前駆体、その類似体及び誘導体のインスリンへの切断のために酵素反応のより簡便なプロセスに従うことが有利であろうことは明白である。さらなる条件は、操作の容易さ、所望の最終生成物の量と質を全体に高める全体の高収率を確保する要望である。
【0005】
本発明で行う酵素反応により既知のプロセスの欠点は救済されており、そして、非所望の副産物を作らない収率増大が伝導(conducive)反応条件で使用したトリプシン及びカルボキシペプチダーゼの最適濃度と関連することが判明している。発明者らは、操作容易、最終生成物の純度及び収率を高めた所望最終生成物を提供するために、相乗的に働く最適量のトリプシン及びカルボキシペプチダーゼBを組合せ又は同時使用を伴うワンステップ酵素反応の改良を開発するために努力してきた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の主目的は、所望の最終生成物を提供するために相乗的に最適量の働くトリプシン及びカルボキシペプチダーゼBの組合せ又は同時使用を伴うワンステップ酵素反応により可能とし、非所望副産物の形成を最小限にし、類似体や誘導体を含むインスリン化合物を対応前駆体型から調製する方法を取得することである。
【0007】
本発明の別の主な目的は、出発材料として使用可能な配列番号1、2、3、4、5、6、7、8及び9により表されるインスリン類似体前駆体を提供することである。前記前駆体は、液体又は結晶形態のいずれでもよい。
【0008】
本発明のさらに別の目的は、前駆体分子をコードする前記の各DNA配列を含むプロインスリン若しくはその類似体又は誘導体を発現する発現ベクターを提供することである。
【0009】
本発明のさらに別の目的は、前記発現ベクターで形質転換するのに適した微生物/宿主を提供することであり、その結果、前駆体インスリン形態を生成するために適当な発酵培地と発酵条件で前記形質転換された微生物を培養することを含む、各インスリン化合物の調製方法を提供することである。
【0010】
本発明のさらに別の目的は、インスリン化合物前駆体型をそれぞれの活性型へワンステップ酵素反応で転換する方法を含み、ここでは、非所望最終生成物の生成を最小限にする相乗的で調整された反応を可能にする最適量のトリプシン及びカルボキシペプチダーゼが一緒に添加される。
【0011】
本発明のさらに別の目的は、前記工程を順々に連続して実行することを含む、インスリン若しくはその類似体又は誘導体をそれぞれの前駆体対応物から得る方法を提供することである。
【0012】
本発明のさらに別の目的は、インスリン分子を得ることである。
【0013】
本発明のさらに別の目的は、インスリン、リスプロ、アスパルト、グルリジン又はIN−105からなる群から選ばれるインスリン分子を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
したがって、本発明は、インスリン化合物及びその類似体又は誘導体を対応する前駆体から調製する方法であって、組合せ又は同時使用のトリプシン及びカルボキシペプチダーゼで前記前駆体を処理することを含み、ただし、トリプシンとカルボキシペプチダーゼの相対濃度比が約5:1〜約50:1である、前記インスリン化合物及びその類似体又は誘導体の調製方法;インスリン化合物若しくはその類似体又は誘導体をその前駆体対応物から得る方法であって、以下の工程を以下の順序:(a)インスリン又はインスリン誘導体の前駆体の適量を緩衝溶液に溶解し、(b)前駆体溶液のさまざまなアリコットを約7.0〜9.0のpHの範囲で調製し、(c)酵素トリプシン及びカルボキシペプチダーゼを同時に、工程(b)で調製したさまざまなアリコットに導入し、そして、混合物を約4〜10時間インキュベートし、(d)クエン酸緩衝液及び塩化亜鉛の添加により所望のインスリン生成物を沈殿させる、で順々に実行することを含む、前記方法;調製されたインスリン分子、並びに、インスリン、リスプロ、アスパルト、グルリジン又はIN−105からなる群から選ばれるインスリン分子に関する。
【0015】
添付した配列表の詳細な説明
配列番号1:アスパルト前駆体分子のアミノ酸配列。
配列番号2:アスパルト前駆体分子のアミノ酸配列。
配列番号3:アスパルト前駆体分子のアミノ酸配列。
配列番号4:リスプロ前駆体分子のアミノ酸配列。
配列番号5:リスプロ前駆体分子のアミノ酸配列。
配列番号6:リスプロ前駆体分子のアミノ酸配列。
配列番号7:グルリジン前駆体分子のアミノ酸配列。
配列番号8:グルリジン前駆体分子のアミノ酸配列。
配列番号9:グルリジン前駆体分子のアミノ酸配列。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、式:
【化1】

〔Rは、水素、若しくは化学的又は酵素的に切断可能なアミノ酸残基又は少なくとも二個のアミノ酸残基を含む化学的又は酵素的に切断可能なペプチドであり、
は、OH、若しくはアミノ酸残基又はY−Y(Yはアミノ酸残基)であり、
A1〜A21部分はインスリンA鎖に対応し、そしてB1〜B27部分はインスリンB鎖に対応し、そのアミノ酸置換、欠失及び/又は付加を含み、
はZ−Z(ZはPro、Lys、Aspから選択され、そしてZはLys又はPro又はGluから選択される)若しくはZ−Z−Z(ZはPro、Lys、Aspから選択され、そしてZはLys又はPro又はGluから選択され、そしてZはスレオニン又はB30に対応するアミノ酸がスレオニンである条件で少なくとも3個のアミノ酸残基からなるペプチド部分)であり、
Xは、A鎖をB鎖に結合し、A鎖とB鎖のいずれも分裂させることなく酵素的に切断可能であり、少なくとも2個のアミノ酸(最初と最後のアミノ酸はリジン又はアルギニンである)を持つポリペプチドである〕
により表される対応の前駆体からインスリン化合物及びその類似体又は誘導体の調製方法である。
【0017】
これは、組合せ又は同時使用されるトリプシン及びカルボキシペプチダーゼで前記前駆体を処理することを含み、ただし、トリプシンとカルボキシペプチダーゼの相対濃度比は約5:1〜約50:1である。
【0018】
本発明の別の実施態様では、各前駆体分子は配列番号1、2、3、4、5、6、7、8及び9に示されるアミノ酸配列に対して少なくとも85%相同であるアミノ酸配列を含む。
【0019】
本発明の別の実施態様では、トリプシンの相対量とインスリン前駆体の相対量が約1:10〜約1:500の範囲にある。
【0020】
本発明の別の実施態様では、トリプシンの相対量とインスリン前駆体の相対量が、約1:100である。
【0021】
本発明のさらに別の実施態様では、カルボキシペプチダーゼの相対量とインスリン前駆体の相対量が、約1:500である。
【0022】
本発明のさらに別の実施態様では、トリプシンとカルボキシペプチダーゼとの相対濃度比が、約5:1〜約50:1である。
【0023】
本発明のさらに別の実施態様では、トリプシンとカルボキシペプチダーゼの相対濃度比が、約5:1である。
【0024】
本発明のさらに別の実施態様では、転換反応に使用するトリプシンの濃度が、少なくとも0.01mg/mlである。
【0025】
本発明のさらに別の実施態様では、転換反応のために使用するカルボキシペプチダーゼの濃度が、少なくとも0.001mg/mlである。
【0026】
本発明のさらに別の実施態様では、前駆体は液体又は結晶形態のいずれかである。
【0027】
本発明のさらに別の実施態様では、転換反応をpH6.5〜10で行う。
【0028】
本発明のさらに別の実施態様では、転換反応をpH7〜9で行う。
【0029】
本発明のさらに別の実施態様では、転換反応を約2℃〜40℃の範囲の温度で行う。
【0030】
本発明のさらに別の実施態様では、酵素的転換反応の期間は約2〜24時間である。
【0031】
本発明のさらに別の実施態様では、反応培地は、少なくとも30%の水又は水混和性溶媒を含む。
【0032】
本発明のさらに別の実施態様では、水混和性溶媒は、メタノール、エタノール、アセトン又はN,N−ジメチルホルムアミドからなる群から選ばれる。
【0033】
本発明のさらに別の実施態様では、反応培地は、緩衝剤として作用する塩をさらに含む。
【0034】
本発明のさらに別の実施態様では、塩は、TRIS、エチレンジアミン、トリエタノールアミン、グリシン、HEPES(N−2−ヒドロキシ−エチルピペラジン−N’−2−エタンスルホン酸)からなる群から選ばれる。
【0035】
本発明のさらに別の実施態様では、反応培地中で使用する塩の濃度は、約10mM〜1Mである。
【0036】
本発明のさらに別の実施態様では、反応培地中でしようする塩の濃度は、約0.6Mである。
【0037】
本発明は、インスリン化合物若しくはその類似体又は誘導体をその前駆体対応物から得る方法であって、以下の工程を以下の順序:
(a)インスリン又はインスリン誘導体の前駆体の適量を緩衝溶液に溶解し、
(b)前駆体溶液のさまざまなアリコットを約7.0〜9.0のpHの範囲で調製し、
(c)酵素トリプシン及びカルボキシペプチダーゼを同時に、工程(b)で調製したさまざまなアリコットに導入し、そして、混合物を約4〜10時間インキュベートし、
(d)クエン酸緩衝液及び塩化亜鉛の添加により所望のインスリン生成物を沈殿させる、
で順々に実行することを含む、前記方法に関する。
【0038】
本発明は、上項のいずれかにより調製されるインスリン分子に関する。
【0039】
本発明は、上項のいずれかにより調製され、インスリン、リスプロ、アスパルト、グルリジン又はIN−105からなる群から選ばれるインスリン分子に関する。
【0040】
本発明の原則を説明するのに役立つ以下の実施例とともに、本発明の好適な実施態様を詳細に説明する。
【0041】
本発明の説明及び請求項において、以下の用語法を、本明細書に示した定義に従って使用する。
【0042】
本明細書で他に定義しない限り、本発明に関連して使用される化学的及び技術的用語は、当業者によって通常理解される意味を有する。さらに、別に文脈によって要求されない限り、単数の用語は複数を含み、そして複数の用語は単数を含む。本発明の方法及び技術は、一般に、当業分野で周知の汎用方法にしたがって実行される。一般に、本明細書に関連して使用される専門用語及び本明細書に記載される技術は、当業分野で周知かつ通常使用されるものである。本発明の方法及び技術は、一般に当業分野で知られた汎用方法に従って実行される。
【0043】
本明細書で使用する「アミノ酸」は、ペプチド又はタンパク質配列若しくはその部分を意味する。用語「タンパク質」、「ペプチド」及び「ポリペプチド」は、交換可能に使用される。
【0044】
本明細書では、用語「インスリン」は、ブタインスリン、ウシインスリン及びヒトインスリン等のすべての種に由来するインスリン、並びに、亜鉛錯体のようなを含むこれらのダイマー及びオリゴマー(例えばそのヘキサマー)錯体を包含する。さらに、用語「インスリン」は、本明細書では、いわゆる「インスリン類似体」を包含する。インスリン類似体は、天然のヒトインスリン分子に対してA及び/又はBアミノ酸鎖の一以上の変異、置換欠失及び/又は付加を有するインスリン分子である。さらに特定的には、前記インスリン類似体は、十分なインスリン活性を有する条件で、一以上のアミノ酸残基が別のアミノ酸残基と交換していてもよく、及び/又は、一以上のアミノ酸残基が除去されていてもよく、及び/又は、一以上のアミノ酸残基が付加していてもよい。インスリン類似体は、好ましくは、自然に発生する一以上のアミノ酸残基、それらの一、二又は三個が別のコード可能なアミノ酸残基によって置換されているものである。インスリン類似体の例は、以下の特許及びその等価物:US5,618,913、EP254,516、EP280,534、US5,750,497及びUS6,011,007に記載されている。特別なインスリン類似体の例は、インスリンアスパルト(すなわち、AspB28ヒトインスリン)及びインスリンリスプロ(すなわち、LysB28、ProB29ヒトインスリン)及び「インスリングルリジン」(LysB(3)、GIuB(29)ヒトインスリン)である。
【0045】
本発明の一態様は、式:
【化2】

により表されるインスリン前駆体化合物に関する。
【0046】
ここで、Rは、水素、若しくは化学的又は酵素的に切断可能なアミノ酸残基又は少なくとも二個のアミノ酸残基を含む化学的又は酵素的に切断可能なペプチドである。
【0047】
は、OH、若しくはアミノ酸残基又はY−Yであり、Yはアミノ酸残基である。
【0048】
〜A21部分は、インスリンA鎖に対応し、そしてB〜B27部分はインスリンB鎖に対応し、そのアミノ酸置換、欠失及び/又は付加を含む。
【0049】
は、Z−Zであり、ここで、Zは、Pro、Lys、Aspから選択され、そしてZは、Lys又はPro又はGluから選択され、若しくはZ−Z−Zであり、ここで、Zは、Pro、Lys、Aspから選択され、そしてZは、Lys又はPro又はGluから選択され、そしてZはスレオニン又はB30に対応するアミノ酸がスレオニンである条件で少なくとも3個のアミノ酸残基からなるペプチド部分である。
【0050】
Xは、A鎖をB鎖に結合し、A鎖とB鎖のいずれも分裂させることなく酵素的に切断可能であり、最初と最後のアミノ酸はリジン又はアルギニンである少なくとも2個のアミノ酸を持つポリペプチドである。
【0051】
本発明の一態様は、特に、分子IN−105に関する。IN−105は、インスリンB−鎖のB29位置にイプシロンアミノ酸リジンに構造式CHO−(CO)−CH−CH−COOHの両親媒性オリゴマーが結合したインスリン分子であるこの分子は、A1、B1及びB29でのモノ複合化であってもよく、また、A1、B1及びB29の様々な組み合わせでのジ複合化でもよく、あるいは、A1、B1及びB29の様々な組み合わせでのトリ複合化でもよい。
【0052】
一態様では、単離されたインスリン前駆体分子は、配列番号1、2、3、4、5及び6により表されるポリペプチド分子に対して、少なくとも約80%の核酸配列同一性、その代わりに少なくとも約81%の核酸配列同一性、その代わりに少なくとも約82%の核酸配列同一性、その代わりに少なくとも約83%の核酸配列同一性、その代わりに少なくとも約84%の核酸配列同一性、その代わりに少なくとも約85%の核酸配列同一性、その代わりに少なくとも約86%の核酸配列同一性、その代わりに少なくとも約87%の核酸配列同一性、その代わりに少なくとも約88%の核酸配列同一性、その代わりに少なくとも約89%の核酸配列同一性、その代わりに少なくとも約90%の核酸配列同一性、その代わりに少なくとも約91%の核酸配列同一性、その代わりに少なくとも約92%の核酸配列同一性、その代わりに少なくとも約93%の核酸配列同一性、その代わりに少なくとも約94%の核酸配列同一性、その代わりに少なくとも約95%の核酸配列同一性、その代わりに少なくとも約96%の核酸配列同一性、その代わりに少なくとも約97%の核酸配列同一性、その代わりに少なくとも約98%の核酸配列同一性、及びその代わりに少なくとも約99%の核酸配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0053】
トリプシンは、代表的なセリンプロテアーゼであり、タンパク質又はペプチドを、アルギニン又はリジン残基のカルボキシル末端で加水分解する(Enzymes,pp261−262(1979),ed.Dixon,M.&Webb,E.C.,Longman Group Ltd.,London)。特に、容易な加水分解が、二個の連続したアルギニン又はリジン残基が存在する二塩基部位(dibasic site)で起こり、そして、加水分解は、二塩基部位がβ折り返し構造の中又は近くに局在する場合により容易に生起することが知られている(Rholam,M.ら,FEBS Lett.,207,1−6(1986).The Enzyme Vol.II,3rd Edition,Editor Boyer,Acad.Press NY.pp.249−275)。特に、トリプシンは、C−末端アルギニン(Arg)又はリジン(Lys)残基でペプチド結合を切断する。インスリン前駆体分子のトリプシン切断は、同時に異なる切断部位で起こることが可能である。特定のインスリン前駆体分子では多くの切断部位のために、多くの非所望の副生成物が、トリプシン切断反応中に形成され得る。
【0054】
組換型ブタ膵臓トリプシンは、分子量が約23,000ダルトンであり、そして酵素活性がpH8.0にて最適である。トリプシンは、インスリン及びインスリン類自体の製造の工業プロセスで使用される。これらの生体分子の製造は、文献に記載され、そして数種のアプローチが選択されている。
【0055】
カルボキシペプチダーゼBは、塩基性アミノ酸のリジン、アルギニン及びオルニチンをポリペプチドのC−末端位置から優先的に加水分解する。カルボキシペプチダーゼBは、アルギニン及びリジンのC−末端塩基性アミノ酸残基をペプチド及びタンパク質から加水分解放出するのを触媒するエキソペプチダーゼである。
【0056】
本明細書で使用する用語「C−ペプチド」又は「リンカーペプチド」は、天然又は合成のペプチドを含むすべての形態のインスリンC−ペプチドを含む。そのようなインスリンC−ペプチドは、ヒトペプチドであり得、若しくは、他の動物種及び属、好ましくは哺乳動物由来であり得る。したがって、天然インスリンC−ペプチドの変異体及び改変体は、それらがインスリンC−ペプチド活性を保持する限り含まれる。当業技術では、それらの有用な活性を保持しながらタンパク質やペプチドの配列を改変することが知られ、これは、当業技術で標準の技術を用いて達成でき、文献に広く記載され、例えば、核酸等の無作為の又は部位特異的変異、切断及び連結である。したがって、天然のインスリンC−ペプチド配列の機能的に等価な変異体又は誘導体は、容易に当業技術で周知の技術にしたがって調製され得、天然インスリンC−ペプチドの機能的(例えば生物学的)活性を有するペプチド配列を含む。インスリンC−ペプチドのそのようなすべての類似体、変異体、誘導体又は断片は、特に本発明の範囲に含まれ、用語「インスリンC−ペプチド」で包含される。
【0057】
C−ペプチドの主な要件は、A−及びB−鎖間にジスルフィド結合を形成することを許容するのに十分な長さであり、そして、インスリン形成を導くインスリン前駆体から切断可能なことである。C−ペプチドとして使用する典型的なジ−ペプチドは、−Arg−Arg−である。C−ペプチドは、Arg又はLysで始まり、Arg又はlysで終わるすべての長さであり得る。
【0058】
本発明は、本明細書が記載した遺伝子をエンコードするDNAを含むベクターを提供する。そのようなベクターのいずれかを含む宿主細胞もまた提供する。例によれば、宿主細胞は、細菌性、真菌性又は哺乳動物であり得る。
【0059】
本発明は、組換型宿主細胞を採用し、これはインスリン生成物前駆体を発現する核酸配列の少なくとも一部を産生する。組換体の発現系は、原核細胞性及び真核細胞性の宿主から選択される。真核細胞性宿主は、酵母細胞(例えばSaccharomyces cerevisiae又はPichia pastoris)、哺乳動物細胞又は植物細胞を含む。細菌性及び真核細胞性細胞は、数多くの異なる出所から入手することができ、それは、当業者に対して市販業者、例えばAmerican Type Culture Collection(ATCC;Rockville,Md.)を含む。組換型タンパク質発現のために使用する細胞の市販業者は、また、細胞の使用の指針を提供する。発現系の選択は、発現されるポリペプチドに望む特徴に依存する。
【0060】
本発明の最も好ましい側面では、最適な宿主細胞は、メチロトローフ酵母である。本発明を使用して改変可能なメチロトローフ酵母株は、限定されるわけでないが、メタノール上で生育可能なイースト菌、例えば、Pichia、Candida、Hansenula又はTorulopsis属の酵母である。好適なメチロトローフ酵母は、Pichia属のものである。本発明の方法を用いて改変可能なメチロトローフイースト菌は、また、関心の一以上の非相同タンパク質を発現するために操作されているメチロトローフイースト菌のものを含む。本発明の態様にしたがう最適な宿主細胞は、Pichia pastoris、GS115である。
【0061】
宿主細胞又は微生物は、標準技術を使用して、組換型タンパク質又はペプチドを発現するために操作され得る。例えば、組換型タンパク質は、ベクターからあるいは宿主のゲノム内に挿入された外因性遺伝子から発現することができる。
【0062】
外因性タンパク質を発現するために使用可能なベクターは、当業技術には周知であり、以下に記載する。インスリン前駆体分子を持つ本発明の好適なベクターは、限定されるわけではないが、pPIC9Kを含む。
【0063】
本発明の最も有意な態様は、式:
【化3】

により表される対応の前駆体からインスリン化合物及びその類似体又は誘導体へ転換する方法に関する。
【0064】
ここで、Rは、水素、若しくは化学的又は酵素的に切断可能なアミノ酸残基又は少なくとも二個のアミノ酸残基を含む化学的又は酵素的に切断可能なペプチドである。
【0065】
は、OH、若しくはアミノ酸残基又はY−Y(Yはアミノ酸残基)である。
【0066】
A1〜A21部分はインスリンA鎖に対応し、そしてB1〜B27部分はインスリンB鎖に対応し、そのアミノ酸置換、欠失及び/又は付加を含む。
【0067】
は、Z−Z(ZはPro、Lys、Aspから選択され、そしてZはLys又はPro又はGluから選択される)若しくはZ−Z−Z(ZはPro、Lys、Aspから選択され、そしてZはLys又はPro又はGluから選択され、そしてZはスレオニン又はB30に対応するアミノ酸がスレオニンである条件で少なくとも3個のアミノ酸残基からなるペプチド部分)である。
【0068】
Xは、A鎖をB鎖に結合し、A鎖とB鎖のいずれも分裂させることなく酵素的に切断可能であり、少なくとも2個のアミノ酸(最初と最後のアミノ酸はリジン又はアルギニンである)を持つポリペプチドである。
【0069】
上記方法は、組合せ又は同時使用のトリプシン及びカルボキシペプチダーゼで前記前駆体を処理することを含み、ただし、トリプシンとカルボキシペプチダーゼの相対濃度比は約5:1〜約50:1である。
【0070】
前駆体分子は、液体又は結晶形態のいずれでもよい。
【0071】
インスリン前駆体分子の対応するインスリン分子への転換工程は、少なくとも約40%の水を含む水性媒体中で行うが、しかし、少なくとも約30%、又は約50%又は約60%又は約70%又は約80%の水の存在を排除するものではなく、そして、また、メタノール、エタノール、アセトン、N,N−ジメチルホルムアミド等のような水混和性溶媒の存在を排除しない。
【0072】
反応培地は、特性を緩衝するすべての塩を付加的に含む。好ましくは、反応培地は、塩としてのTrisを10mM〜1Mの範囲の濃度で含む。最も好ましくは、反応培地内で使用されるTrisの濃度は、0.6Mである。
【0073】
転換は、一般に約0℃〜40℃の広範囲の温度のいずれかで行う。反応は、好ましくは、約10℃〜約30C、よし好ましくは約15℃〜約25℃の温度にて行う。
【0074】
反応混合物のpHは、約2〜約12のいずれかの範囲にある。しかし、最良の結果は、反応が約6.5〜10のpHで進行するような注意深いpHコントロールによって得られる。好ましくは、反応は、7〜9.5のpH、より好ましくは約8〜9にて生起し、詳細にはpH8.5に調整される。
【0075】
pHコントロールは、緩衝剤の使用により調整される。使用される広範囲の適当な緩衝液は、TRIS、エチレンジアミン、トリエタノールアミン、グリシン、HEPES(N−2−ヒドロキシ−エチルピペラジン−N’−2−エタンスルホン酸)等を含む。
【0076】
トリプシン及びカルボキシペプチダーゼBの使用量は、一般に、二つの酵素間、及びインスリン前駆体の量の両方に関連する。酵素は、反応混合物内か溶液内のいずれかに導入され、あるいは、固定化(immobilization)のような認識されている技術を適当な支持体上に用いてこれにより反応培地内に使用可能にする。
【0077】
重量:重量比で、トリプシンは、インスリン前駆体の重量に対して、一般に、約1:10〜約1:500、好ましくは約1:10〜約1:200、より好ましくは約1:10〜約1:100、若しくは1:10〜約1:50、若しくは約1:10〜約1:25の範囲の相対比で存在する。最適なトリプシン濃度と採用されるインスリン濃度との比は、1:100である。転換反応のために使用するトリプシン濃度は、少なくとも0.01mg/mlである。
【0078】
重量:重量比で、カルボキシペプチダーゼBは、インスリン前駆体の重量に対して、一般に、約1:500若しくは約3:500である。インスリン濃度に対して最適なカルボキシペプチダーゼ濃度は、1:500である。転換反応のために使用するカルボキシペプチダーゼは少なくとも0.001mg/mlである。
【0079】
本発明の別の有意なパラメータは、反応混合物中のトリプシンとカルボキシペプチダーゼとの比率である。トリプシンとカルボキシペプチダーゼBとの比率は、重量基準で、一般に、5:1〜50:1の範囲にある。トリプシンとカルボキシペプチダーゼBとの比率は、重量基準で、好ましくは、約50:3〜約5:3である。トリプシンとカルボキシペプチダーゼBとの最適な比率は約5:1である。
【0080】
反応期間は約2〜48時間にわたり得、好ましくは、反応期間は約2〜24時間にわたる。
【0081】
したがって、本発明は、インスリン化合物若しくはその類似体又は誘導体をその前駆体対応物から得る方法であって、以下に提供されるような工程を以下の順序で順々に実行することを含む方法に関する。
(a)インスリン又はインスリン誘導体の前駆体の適量を緩衝溶液に溶解する。
(b)前駆体溶液のさまざまなアリコットを約7.0〜9.0のpHの範囲で調製する。
(c)酵素トリプシン及びカルボキシペプチダーゼを同時に、工程(b)で調製したさまざまなアリコットに導入し、そして、混合物を約4〜10時間インキュベートする。
(d)クエン酸緩衝液及び塩化亜鉛の添加により所望のインスリン生成物を沈殿させる。
【0082】
本発明の好適な実施態様を以下に図面と好適な実施態様の記載で説明する。
これらの説明は、直接、上記実施態様を記載するけれども、当業者は、本明細書に示されそして記載された特定の実施態様に対する改変及び/又は変更の修正を発想し得ると理解される。この説明の範囲に入るそのようなすべての改変又は変更は、本明細書にも含まれると意図される。特に言及しない限り、明細書及び請求項内の単語及びフレーズは、適用分野の通常の技術を有する者に対して通常かつ慣用の意味を与えることが発明者の意図である。本願出願時に出願人が知る本発明の好適な実施態様及び最良の形態の説明が表されており、かつ説明及び記載のみの目的が意図される。開示された詳細な形態に本発明を徹底し又は限定する意図はなく、多くの改変及び変更が上記教示に照らして可能である。実施態様は、本発明の原則及びその実用を最もよく説明し、そして、当業者に本発明をさまざまな実施態様において、さらに期待される特定の用途に適するようなさまざまな改変をもって最もよく活用できるようにするために選択及び記載された。
【0083】
さらに、本発明を以下の実施例の助けを借りて詳しく述べる。しかし、これらの実施例を、本発明の範囲を限定するものと解釈してはならない。
【実施例】
【0084】
実施例1A:
アスパルト前駆体(配列番号1、2及び3)
式X−[アスパルトB鎖(B1−B30)]−Y−[アスパルトA鎖(A1−A21)](式中、Xはリーダーペプチド配列であり、B鎖はB1−B30のアスパルトB鎖配列であり、YはB鎖とA鎖との間のリンカーペプチド配列であり、A鎖はアスパルトのA−鎖である)のアスパルト前駆体。この配列は、リーダー又は他のリーダーペプチド(例えばEEAEAEAEPRやGAVR)が欠落していてもよい。リンカーペプチドは、例えばR及びRDADDRに由来するいずれでもあり得る。
(コメント:リンカーペプチド中の“RR”は除去されている。もし、間違って失っているなら、他の場所で除かれたい。)
【0085】
前駆体配列は、配列番号1及び2で表される。前駆体は、すべての適当な発現系、例えばEscherichia coli、Pichia pastoris、Saccharomyces cerevisiae、CHO細胞等によって産生され得る。
【0086】
アスパルト前駆体を、Pichia発現ベクターpPIC9K中のMat−alfaシグナルペプチドを持ったフレーム内でクローン化した。アスパルト前駆体を発現するクローンを得るために、組換型プラスミドでPichia pastoris宿主株GS115を形質転換した。
【0087】
Pichia pastorisによってアスパルト前駆体を培養培地内に分泌させる。ブロスを遠心処理して、細胞を上澄から分離する。前駆体を捕獲するのに使用可能なイオン交換クロマトグラフィや疎水クロマトグラフィを含む多数の選択枝が存在する。本発明のために、陽イオン交換クロマトグラフィ及びHICを使用して特定の前駆体を捕獲した。
【0088】
実施例1B:
リスプロ前駆体(配列番号3、4及び5)
式X−[リスプロB鎖(B1−B30)]−Y−[リスプロA鎖(A1−A21)]〔式中、Xはリーダーペプチド配列であり、B鎖はB1−B30のリスプロB鎖配列であり、YはB鎖とA鎖との間のリンカーペプチド配列であり、A鎖はリスプロのA−鎖である〕のリスプロ前駆体。この配列は、リーダー又は他のリーダーペプチドが欠落していてもよい。リンカーペプチドYは、例えばR及びRDADDRに由来するいずれでもあり得る。前駆体配列は、配列番号3及び4により表される。前駆体は、すべての適当な発現系、例えばEscherichia coli、Pichia pastoris、Saccharomyces cerevisiae、CHO細胞等により産生され得る。
【0089】
リスプロ前駆体を、Pichia発現ベクターpPIC9K中のMat−alfaシグナルペプチドを持ったフレーム内でクローン化した。リスプロ前駆体を発現するクローンを得るために、組換型プラスミドでPichia pastoris宿主株GS115を形質転換した。
【0090】
Pichia pastorisによってリスプロ前駆体を培養培地内に分泌させる。ロスを遠心処理して、細胞を上澄から分離する。前駆体を捕獲するのに使用可能なイオン交換クロマトグラフィや疎水クロマトグラフィを含む多数の選択枝が存在する。本発明のために、陽イオン交換クロマトグラフィ及びHICを使用して特定の前駆体を捕獲した。
【0091】
実施例1C:
グルリジン前駆体(配列番号5、6及び7)
式X−[グルリジンB鎖(B1−B30)]−Y−[グルリジンA 鎖(A1−A21)]〔式中、Xはリーダーペプチド配列であり、B鎖はB1−B30のグルリジン鎖配列であり、YはB鎖とA鎖との間のリンカーペプチド配列であり、A鎖はグルリジンのA−鎖である〕のグルリジン前駆体。この配列は、リーダー又は他のリーダーペプチドが欠落していてもよい。リンカーペプチドYは、例えばR及びRDADDRに由来するいずれでもあり得る。前駆体配列は、配列番号5及び6により表される。前駆体は、前駆体は、すべての適当な発現系、例えばEscherichia coli、Pichia pastoris、Saccharomyces cerevisiae、CHO細胞等によって産生され得る。グルリジン前駆体を、Pichia発現ベクターpPIC9K中のMat−alfaシグナルペプチドを持ったフレーム内でクローン化した。グルリジン前駆体を発現するクローンを得るために、組換型プラスミドでPichia pastoris宿主株GS115を形質転換した。
【0092】
Pichia pastorisによってグルリジン前駆体を培養培地内に分泌させる。ブロスを遠心処理して、細胞を上澄から分離する。前駆体を捕獲するのに使用可能なイオン交換クロマトグラフィや疎水クロマトグラフィを含む多数の選択枝が存在する。本発明のために、陽イオン交換クロマトグラフィ及びHICを使用して特定の前駆体を捕獲した。
【0093】
前駆体結晶化
陽イオン交換クロマトグラフィ工程を用いて発酵ブロスから捕獲した異なるインスリン化合物前駆体を、着色除去と保存の目的で結晶化した。結晶化は、結晶化初期の前駆体濃度が約2〜20g/L、好ましくは8〜14g/Lになるように行った。結晶化は、塩化亜鉛及びフェノールを添加することにより行い、それから、pHを3.0〜8.0、好ましくは3.5〜5.5の間に微調整した。フェノールは、CIEX溶出プール容積の0.1〜0.5%にて添加することができる。4%塩化亜鉛溶液は、CIEX溶出プール容積の3〜15%にて添加することができる。pHは、すべてのアルカリ、好ましくはNaOHやTRISを使用することにより微調整可能である。結晶化プロセスは、2〜30℃の温度にて行うことができ、そして、結晶が完全に形成されるようにスラリーをある時間保持する。前駆体結晶を遠心分離又はデカンテーションのいずれかで上澄から分離し得る
【0094】
実施例2A:
リスプロ前駆体の結晶化例
463mlの溶出プール(前駆体濃度13.8g/L)を取り出し、ほどよい流動化後、2.315mlのフェノール(EP容積の0.5%)を添加した。これに続いて、57.875mlの4%塩化亜鉛溶液(EP容積の12.5%)を添加した。この段階で、pHは4.08であり、420mlの2.5N NaOHを添加することによりpH4.8に微調整した。母液を低速撹拌条件下に15分間維持した後、低温室(2〜8℃)に移し、そこで、一晩維持した。その後、全混合物をBeckman Coulter Avanti J−26 XP遠心機内で、5000rpmで20分間遠心処理した。上澄内のロスは、1.55%であった。
【0095】
実施例2B:
アスパルト前駆体の結晶化例
500mlの溶出プール(前駆体濃度2.9g/L)を取り出し、ほどよい流動化後、0.625mlのフェノール(EP容積の0.125%)を添加した。これに続いて、15.625mlの4%塩化亜鉛溶液(EP容積の3.125%)を添加した。この段階で、pHは4.08であり、315mlの2.5N NaOHを添加することによりpH4.8に微調整した。母液を低速撹拌条件下に15分間維持した後、低温室(2〜8℃)に移し、そこで、5時間維持した。その後、上澄を遠心分離により分離した。上澄内のロスは、4%であった。
コメント:番号の変更(アスパルトを2A、そしてリスプロを2B)は可能か?他の場所では、A:アスパルト、B:リスプロ、そしてC:グルリジンの配列を維持することによって実施例を提供する。
【0096】
実施例2C:
グルリジン前駆体の結晶化例
グルリジン前駆体のSpセファロース展開から250mlの溶出プール(前駆体濃度3.8g/L)を取り出し、ほどよい流動化後、0.31mlのフェノール(EP容積の0.125%)を添加した。これに続いて、7mlの4%塩化亜鉛溶液(EP容積の3%)を添加した。この段階で、pHは4.13であり、2.5N NaOHを添加することによりpH4.9に微調整した。母液を低速撹拌条件下に30分間維持した後、低温室(2〜8℃)に移し、そこで、5時間維持した。その後、その後、上澄を遠心分離により分離した。上澄内のロスは7%であった。
【0097】
実施例3A:
酵素反応
異なるインスリン化合物を、対応の前駆体を酵素的転換から調製することが可能である。前駆体から最終生成物への直接転換は、二種のプロテアーゼ酵素の存在により得ることができる。酵素反応を二種の異なる方法で行った。第一は、前駆体を、植物、動物又は微生物起源のトリプシン又はトリプシン様酵素で処理せねばならない。トリプシン反応が終わるとき、同じ反応混合物内の中間体を、植物、動物又は微生物起源の第二のプロテアーゼ酵素カルボキシペプチダーゼB又は同様の酵素で処理した。カルボキシペプチダーゼBは、C−末端の先端で塩基性アミノ酸に作用することができる。別法として、のトリプシン及びカルボキシペプチダーゼ酵素を反応混合物にカクテル(一緒)で添加し、そして最適な対応生成物の形成が生起するまで、反応を継続させた。
【0098】
実施例4A:
個々の前駆体反応混合物にトリプシンのみを添加した場合
2gの個々のアスパルト、リスプロ及びグルリジン前駆体結晶を、5mlの6M TRIS溶液で溶解させた。生成物濃度個々の反応混合物を、3〜5mg/mlに保持した。反応混合物のpHを8.5に微調整した。トリプシンを、個々の反応混合物へ濃度50μg/mlにて添加した。反応は、4±0.5℃と室温(24±0.5℃)の両方で行った。反応混合物の終末のクロマトグラフィプロファイルは、反応温度に関して変化がなかったが、反応が完了するための時間は温度の増大とともに減少したことが観測された。反応温度を24±0.5℃に維持した。反応を8時間継続し、そして8時間の終わりに、試料を分析した。
【0099】
同様に、アスパルト、リスプロ及びグルリジンの個々の前駆体を、Tris溶液及び50%のジメチルホルムアルデヒド溶媒に濃度3〜5mg/mlで溶解させた。反応混合物のpHを8.5に微調整し、そして、反応混合物の温度を24±0.5℃に維持した。トリプシンを、個々の反応混合物に濃度50μg/mlにて添加した。
【0100】
観察:
アスパルト前駆体は、B−30 Des−スレオニンアスパルト及びDesオクタペプチドインスリンに転換されている。Desスレオニンアスパルトの比率は45%であり、desオクタペプチドインスリンは36%であった。必要とする中間体であるB31位に余分のアルギニン残基を持ったアスパルトの形成は、およそ10〜14%である。したがって、第二酵素のカルボキシペプチダーゼBを反応混合物に添加しても、最終生成物を作製するための全体収率は、<10〜15%である。
【0101】
反応を50%溶媒で行ったとき、同様の生成物プロファイルが見られた。しかし、反応速度は、溶媒の存在下で非常の遅い。同様形式のプロファイルを達成するために、反応は、およそ18時間継続しなければならない。
【0102】
したがって、継続的なプロテアーゼ反応を介した対応前駆体からのアスパルトの産生は可能でない。よって、アスパルトのB−29Lysが、トリプシン切断及び反応が継続する最も有力な部位であり、B−22Arg部位もまた、トリプシン切断されやすく、そして、反応の終期に、個々の前駆体のそれぞれの中にB−30desスレオニン及びDes−オクタペプチドの混合集団を得たと理解された。B−31アルギニンでの切断生成物は、前駆体生成物のすべての中で極めて低い。
【0103】
リスプロ前駆体は、同様の条件下で、B31位に余分のアルギニン残基を持ったリスプロ生成物に、高量のDes−オクタペプチドインスリンとともに転換された。グルリジン前駆体をトリプシンで、同一条件で処理した際に、同様の形式の観測が見られた。しかし、反応混合物のクロマトグラフィプロファイルは、リスプロ及びグルリジン前駆体の場合は全くきれいでなかった。これは、あり得る最終生成物のリスプロ及びグルリジンが、2ndプロテアーゼカルボキシペプチダーゼBを用いた継続的反応を介して作られても、全体収率は、極めて貧弱であることを示唆する。
【0104】
50%ジメチルホルムアルデヒドの存在のみが、グルリジン前駆体と同様にリスプロの場合の反応速度をスローダウンさせる。
【0105】
この概念をチェックするために、In−105前駆体内の前駆体を短鎖PEG分子と非複合型前駆体分子でブロックした際に、同様の形式のトリプシン反応をIN−105前駆体B−29Lys残基に対して試みた。複合型IN−105前駆体の場合、トリプシンは、より優先的に31番目のアミノ酸のアルギニン残基のc−末端を開裂して、B−鎖のC−末端に余分のアルギニン残基を持ったIN−105を生成させることが観測された。B−31アルギニンとともにIN−105Desオクタインスリンもまたこの反応混合物内に生成する。しかし、非複合型IN−105前駆体をトリプシンで処理した時は、プロテアーゼが、C−末端B−29リジン残基を優先的に開裂して、Des−スレオニンインスリンを生成させる。反応終期のクロマトグラフィプロファイルは、反応混合物内にいかなる溶媒の存在又は不存在の両方で同じであった。溶媒の存在は、また、反応速度をスローダウンすることが観測された。
【0106】
実施例4B:
実験条件の次のフェーズでは、個々の前駆体混合物内にトリプシン及びカルボキシペプチダーゼBを一緒に添加することにより反応を行った。
【0107】
前駆体の濃度は、一般に、約5〜50g/Lであった。反応は、約5〜12、好ましくは約8〜12のpHにて行った。反応温度は、約0〜40℃、好ましくは約2〜25℃であった。トリスヒドロキシルメチルアミノメタン(TRIS)又は他の緩衝系を異なるイオン強度で使用して所望のpHを維持した。反応時間は、可変であり、そして、他の反応条件によって影響された。生成物の純度が、生成物の加水分解のせいで減少し始めるまで、反応を継続した。一般に、約30分間〜24時間、そして、たいていの場合約4〜10時間かかる。
【0108】
酵素濃度は、基質(substrate)の濃度と酵素活性に応じて決めた。例えば、市販の結晶トリプシンを好ましくは濃度約10〜100mg/Lで使用した。
【0109】
実施例:4B(I)
4gのアスパルト前駆体結晶を、20mlの1M TRIS溶液に溶解させた。溶液の生成物濃度を5mg/mlに維持し、そして、TRIS濃度を添加により0.6Mに維持した。2.5N NaOH又は2N氷酢酸によって反応混合物のpHを微調整することにより一定量のアリコットを取った。pH7.0、7.5、8.0、8.5、9.0にて反応混合物のアリコットを調製した。異なる条件の個々の反応混合物として、この反応混合物1mlをそれぞれ各チューブに入れた。すべての試料に異なる濃度のトリプシン及びカルボキシペプチダーゼBを一緒に添加することにより、反応を行った。変更した異なるパラメータを表にする。
【0110】
定常パラメータ:
・生成物濃度5g/L
・TRIS緩衝液濃度0.6M
可変パラメータ:
・トリプシン濃度:25〜500mg/L
・カルボキシペプチダーゼ濃度:10〜30mg/L
・pH:7.0〜9.0
【0111】
【表1】

【0112】
結果:
トリプシン及びカルボキシペプチダーゼを一緒に反応混合物に添加したときは、Desオクタペプチド形態及びdes−スレオニン形態の両方とも観測されなかった。反応終期には、アスパルトが反応の主生成物である。生成したアスパルトの純度及び収率は、個々の反応条件で変わる。アスパルト最高収率75%は、トリプシン濃度50mg/L、カルボキシペプチダーゼ濃度10mg/L及びpH8.5で観測された。
【0113】
実施例4B(II):
5gのリスプロ前駆体結晶を、25mlの1M TRIS溶液に溶解させた。溶液の生成物濃度を5mg/mlに維持し、そして、TRIS濃度を添加により0.6Mに維持した。2.5N NaOH又は2N氷酢酸によって反応混合物のpHを微調整することにより一定量のアリコットを取った。pH7.0、7.5、8.0、8.5、9.0にて反応混合物のアリコットを調製した。この反応混合物のそれぞれ1mlを各チューブに入れ、試料A、B、C等とラベルした。すべての試料に異なる濃度のトリプシン及びカルボキシペプチダーゼBを一緒に添加することにより、反応を行った。変更した異なるパラメータを表にする。
【0114】
定常パラメータ:
・生成物濃度5g/L
・TRIS緩衝液濃度 0.6M
可変パラメータ:
・トリプシン濃度:25〜200mg/L
・カルボキシペプチダーゼ濃度:10〜30mg/L
・pH:7.0〜9.0
【0115】
【表2】

【0116】
結果:
トリプシン及びカルボキシペプチダーゼを一緒に反応混合物に添加したときは、Desオクタペプチド形態及びdes−スレオニン形態の両方とも観測されなかった。リスプロ最高収率78%は、トリプシン濃度50mg/L、カルボキシペプチダーゼ濃度10mg/L及びpH8.5で観測された。
【0117】
実施例4B(III):
5gのグルリジン前駆体結晶を、25mlの1M TRIS溶液に溶解させた。溶液の生成物濃度を5mg/mlに維持し、そして、TRIS濃度を添加により0.6Mに維持した。2.5N NaOH又は2N氷酢酸によって反応混合物のpHを微調整することにより一定量のアリコットを取った。pH7.0、7.5、8.0、8.5、9.0にて反応混合物のアリコットを調製した。この反応混合物のそれぞれ1mlを各チューブに入れ、試料A、B、C等とラベルした。すべての試料に異なる濃度のトリプシン及びカルボキシペプチダーゼBを一緒に添加することにより、反応を行った。変更した異なるパラメータを表にする。
【0118】
定常パラメータ:
・生成物濃度5g/L
・TRIS緩衝液濃度0.6M
可変パラメータ:
・トリプシン濃度:25〜200mg/L
・カルボキシペプチダーゼ濃度:10〜30mg/L
・pH:7.0〜9.0
【0119】
【表3】

【0120】
結果:
グルリジン最高収率78%は、トリプシン濃度50mg/L、カルボキシペプチダーゼ濃度10mg/L及びpH8.5で観測された。
【0121】
実施例5:
最終沈殿
リスプロ、アスパルト及びグルリジンに対応する前駆体の酵素反応について上記で説明した最高条件を実行した。
【0122】
クエン酸緩衝液及び塩化亜鉛を添加し、そしてpHを微調整することにより溶液個々の最終酵素反応混合物を沈殿させた。(クエン酸緩衝液は、15.4g/Lクエン酸(無水)、90g/L二ナトリウムオルトリンホスフェイト(無水)緩衝液を含み、pHは、o−リン酸で6.3.+0.1に微調整した)。4.0〜10.0、好ましくは6.0〜8.0の範囲のpHにて沈殿を行った。生成物濃度は、好ましくは1〜10g/Lであった。沈殿後、定着した沈殿物を阻害することなく上澄の遠心分離又はデカンテーションのどちらかにより生成物をクリアーな上澄から分離した。こうして得られた沈殿物を冷水で洗浄した存在する未結合イオンを除去した。
【0123】
沈殿工程の収率は、85〜90%である。
【0124】
上記説明及び実施例は、理解の容易にためだけに供与されている。改変は、本発明が添付された請求項の精神内で改変及び変更をもって本発明を実行可能であることを理解する当業者には自明であるので、そこから不必要な限定を理解すべきではない。
【0125】
本明細書で報告した役立つ手段は、生成物のロスを回避し、そして他の公知の方法に対して簡便な反応方法を提供することによって上記に概説した問題を解消し、そして、当業技術を進歩させる。この系は、記載された方法論を使用してすべての公知のプロセスに対して高められた転換効率を与えることによりコストを減じ、したがって、この領域分野で知られる主な欠点を解消する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式:
【化4】

〔Rは、水素、若しくは化学的又は酵素的に切断可能なアミノ酸残基又は少なくとも二個のアミノ酸残基を含む化学的又は酵素的に切断可能なペプチドであり、
は、OH、若しくはアミノ酸残基又はY−Y(Yはアミノ酸残基)であり、
A1〜A21部分はインスリンA鎖に対応し、そしてB1〜B27部分はインスリンB鎖に対応し、そのアミノ酸置換、欠失及び/又は付加を含み、
はZ−Z(ZはPro、Lys、Aspから選択され、そしてZはLys又はPro又はGluから選択される)若しくはZ−Z−Z(ZはPro、Lys、Aspから選択され、そしてZはLys又はPro又はGluから選択され、そしてZはスレオニン又はB30に対応するアミノ酸がスレオニンである条件で少なくとも3個のアミノ酸残基からなるペプチド部分)であり、
Xは、A鎖をB鎖に結合し、A鎖とB鎖のいずれも分裂させることなく酵素的に切断可能であり、少なくとも2個のアミノ酸(最初と最後のアミノ酸はリジン又はアルギニンである)を持つポリペプチドである〕
により表される対応の前駆体からインスリン化合物及びその類似体又は誘導体の調製方法であって、
組合せ又は同時使用されるトリプシン及びカルボキシペプチダーゼで前記前駆体を処理することを含み、ただし、トリプシンとカルボキシペプチダーゼの相対濃度比は約5:1〜約50:1である、前記インスリン化合物及びその類似体又は誘導体の調製方法。
【請求項2】
各前駆体分子は、配列番号1、2、3、4、5、6、7、8及び9に示されるアミノ酸配列に対して少なくとも85%相同であるアミノ酸配列を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
トリプシンとの相対量とインスリン前駆体の相対量が約1:10〜約1:500の範囲にある、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
トリプシンとの相対量とインスリン前駆体の相対量が、約1:100である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
カルボキシペプチダーゼの相対量とインスリン前駆体の相対量が、約1:500である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
トリプシンとカルボキシペプチダーゼとの相対濃度比が、約5:1〜約50:1である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
トリプシンとカルボキシペプチダーゼの相対濃度比が、約5:1である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
転換反応のために使用するトリプシンの濃度が、少なくとも0.01mg/mlである、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
転換反応のために使用するカルボキシペプチダーゼの濃度が、少なくとも0.001mg/mlである、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前駆体は液体又は結晶形態のいずれかである、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
転換反応をpH6.5〜10で行う、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
転換反応をpH7〜9で行う、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
転換反応を約2℃〜40℃の範囲の温度で行う、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
酵素的転換反応の期間は約2〜24時間である、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
反応培地は、少なくとも30%の水又は水混和性溶媒を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
水混和性溶媒は、メタノール、エタノール、アセトン又はN,N−ジメチルホルムアミドからなる群から選ばれる、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
反応培地は、緩衝剤として作用する塩をさらに含む、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
塩は、TRIS、エチレンジアミン、トリエタノールアミン、グリシン、HEPES(N−2−ヒドロキシ−エチルピペラジン−N’−2−エタンスルホン酸)からなる群から選ばれる、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
反応培地中で使用する塩の濃度は、約10mM〜1Mである、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
反応培地中でしようする塩の濃度は、約0.6Mである、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
インスリン化合物若しくはその類似体又は誘導体をその前駆体対応物から得る方法であって、以下の工程を以下の順序:
(a)インスリン又はインスリン誘導体の前駆体の適量を緩衝溶液に溶解し、
(b)前駆体溶液のさまざまなアリコットを約7.0〜9.0のpHの範囲で調製し、
(c)酵素トリプシン及びカルボキシペプチダーゼを同時に、工程(b)で調製したさまざまなアリコットに導入し、そして、混合物を約4〜10時間インキュベートし、
(d)クエン酸緩衝液及び塩化亜鉛の添加により所望のインスリン生成物を沈殿させる、
で順々に実行することを含む、前記方法。
【請求項22】
請求項1〜21のいずれかにより調製されるインスリン分子。
【請求項23】
請求項1〜22のいずれかにより調製され、インスリン、リスプロ、アスパルト、グルリジン又はIN−105からなる群から選ばれるインスリン分子。

【公表番号】特表2011−530501(P2011−530501A)
【公表日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−521688(P2011−521688)
【出願日】平成20年9月19日(2008.9.19)
【国際出願番号】PCT/IN2008/000598
【国際公開番号】WO2010/016069
【国際公開日】平成22年2月11日(2010.2.11)
【出願人】(509129222)バイオコン リミテッド (5)
【氏名又は名称原語表記】BIOCON LIMITED
【住所又は居所原語表記】20th KM,Hosur Road, Electronics City, Bangalore, Karnataka 560 100 India
【Fターム(参考)】