説明

インスリン抵抗性の改善剤、及びそのスクリーニング方法

【課題】 新規作用機序を有する、インスリン抵抗性の改善剤の提供。
【解決手段】 脂肪細胞数の低下を促進する物質を含有してなる、インスリン抵抗性の改善剤;被験物質が脂肪細胞数の低下を促進するか否かを評価することを含む、インスリン抵抗性を改善し得る物質のスクリーニング方法;所定のプリン誘導体を含有する、アポトーシス誘導剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インスリン抵抗性の改善剤、及びそのスクリーニング方法などに関する。
【背景技術】
【0002】
肥満、2型糖尿病の世界的な多発は、健康上の重要な問題である。肥満はまた、インスリン抵抗性を主に伴う2型糖尿病の発症リスクを増加させる。肥満における脂肪組織重量の増加は、エネルギー摂取と消費との間の慢性的な不均衡から生じる。肥満における脂肪組織重量の増加は、しばしば、細胞サイズの増加(脂肪細胞の肥大)、細胞数の増加(脂肪細胞の過形成)を伴うことが知られている。また、脂肪組織は、その多寡により生体の糖代謝維持に重要な役割を果たし、構成する脂肪細胞のサイズにより生体の糖代謝に与える影響が異なること、並びに個々の脂肪細胞には、ヒトを含め哺乳動物において、その大きさには限界があることが知られている。
【0003】
具体的には、現在までに、脂肪細胞と生体の糖代謝との関係について、下記の通り報告がなされている。
例えば、非特許文献1には、非常に多彩な分泌タンパク(アディポサイトカイン)が脂肪組織から産生・分泌されていること、並びに脂肪細胞の肥大化によりその産生・分泌バランスが破綻し、糖尿病などの生活習慣病発症・進展に深く関わっていることが記載されている。
非特許文献2には、内臓脂肪が過剰に蓄積したモデルマウスでは、糖尿病、高脂血症、血圧上昇などの代謝異常を引き起こすことが記載されている。
非特許文献3には、脂肪組織が完全に欠如している脂肪萎縮性糖尿病では、著明なインスリン血症、高遊離脂肪酸血症、インスリン抵抗性を示すことが記載されている。
非特許文献4には、インスリン抵抗性改善薬のチアゾリジン誘導体が、PPARγを介して肥大した脂肪細胞を小型化することが記載されている。
非特許文献5には、p27Kip1又はp21Cip1ノックアウトマウスでは、脂肪細胞数が多いこと、および加齢に伴い肥満し、耐糖能異常を示すこと、並びにp27Kip1及びp21Cip1のダブルノックアウトマウスでは、脂肪細胞数が6倍になり、それぞれのシングルノックアウトマウスより著明な肥満と耐糖能異常を起こすことが記載されている。
特許文献1には、サイクリン依存性キナーゼ(CDK)5阻害剤であるオロモウシン、ロスコビチン、プルバラノールAがインスリン分泌促進作用を有し、糖尿病治療薬として有用であり得ることが記載されている。
【0004】
しかしながら、このような脂肪組織がその総量を増加させる病態(肥満)において、脂肪細胞数が増加すること(増殖)が、生体の糖代謝にどのような影響を与えるかは明らかではない。
【特許文献1】特開2004-339157号公報
【非特許文献1】前田和久 Adiposcience Vol.1 No.1 p.33 (2004)
【非特許文献2】益崎裕章 Molecular Medicine Vol.39 No.4 p.464 (2002)
【非特許文献3】海老原健 Molecular Medicine Vol.39 No.4 p.456 (2002)
【非特許文献4】山内敏正 最新医学 Vol.149 p.1773 (2003)
【非特許文献5】Paul et al., KEYSTONE SYMPOSIA, Molecular Control of Adipogenesis and Obesity (x2)March 4-10, 2004, Abstract Book, p.186, Abstract No.122
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
インスリン抵抗性の発症機序の解明は、糖尿病などに対する新たな作用機序を有する医薬品の開発につながる。本発明は、インスリン抵抗性の改善剤、及びそのスクリーニング方法などを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、ロスコビチン(Roscovitine) をマウスに投与したところ、インスリン抵抗性が顕著に改善することを見出した。そこで、ロスコビチンのどのような性質がインスリン抵抗性の改善に寄与したのかを考察したところ、非特許文献5の知見(上述)より、ロスコビチンが脂肪細胞のサイクリン依存性キナーゼ(CDK)を阻害することで、脂肪細胞の増殖を抑制し、脂肪細胞数の低下をもたらすことにより、インスリン抵抗性が改善する可能性が想定された。そこで、かかる仮説を実験により検証したところ、実際に、脂肪細胞CDKの阻害により、インスリン抵抗性を改善し得ることが明らかとなった。
【0007】
また、ロスコビチンの作用についてさらに詳細に検討したところ、驚くべきことに、ロスコビチンは細胞増殖抑制活性のみならず、脂肪細胞特異的なアポトーシス誘導活性をも有することを見出した。従って、本発明者らが今回確認したインスリン抵抗性の顕著な改善は、ロスコビチンが細胞増殖抑制活性、アポトーシス誘導活性を併有するためであると考えられた。また、ロスコビチンに限らず、ロスコビチンと類似の化合物は、細胞増殖抑制活性および脂肪細胞特異的なアポトーシス誘導活性を有すると考えられるので、かかる化合物は、インスリン抵抗性の改善剤として興味深い。
【0008】
以上より、本発明者らは、脂肪細胞CDKを阻害する物質が、インスリン抵抗性を予防・治療し得る物質であること、並びにインスリン抵抗性を予防・治療し得る物質を開発するためには、脂肪細胞CDKを阻害する物質をスクリーニングすればよいことを着想した。
【0009】
以上の着想に基づき、本発明者らは、本発明を完成するに至った。即ち、本発明は下記の通りである:
(1)脂肪細胞数の低下を促進する物質を含有してなる、インスリン抵抗性の改善剤;
(2)脂肪細胞数の低下を促進する物質が、前駆細胞から脂肪細胞への分化を抑制し得る物質、または脂肪細胞のアポトーシスを誘導し得る物質である、上記(1)の剤;
(3)脂肪細胞数の低下を促進する物質が、CDKの発現又は活性を抑制する物質である、上記(1)の剤;
(4)CDKの発現又は活性を抑制する物質が、以下(i)、(ii)、(iii)のいずれかである、上記(3)の剤:
(i)CDKアンチセンス核酸、CDKリボザイム、CDKデコイ核酸、CDK siR
NA、CDK抗体、およびCDK抗体をコードする核酸からなる群より選ばれるCDKの発現を抑制する物質;
(ii)ドミナントネガティブ変異体、および当該変異体をコードする核酸からなる群より選ばれるCDKの活性を抑制する物質;あるいは
(iii)(i)、(ii)のいずれかの核酸を含む発現ベクター;
(5)CDKが、CDK1、CDK2、CDK5またはCDK7である、上記(3)の剤;
(6)脂肪細胞数の低下を促進する物質が、下記式(I):
【0010】
【化1】

【0011】
〔式中、R1、Rは、各々独立して、水素原子、置換されていてもよいC〜Cアルキル基、置換されていてもよいC〜Cアルケニル基、置換されていてもよいC〜Cアルキニル基、置換されていてもよいC〜Cアシル基、置換されていてもよい芳香族または非芳香族のC〜C14炭化水素環基、あるいは置換されていてもよい芳香族または非芳香族のC〜C14複素環基であり;
は、水素原子、置換されていてもよいC〜Cアルキル基、置換されていてもよいC〜Cアルケニル基、置換されていてもよいC〜Cアルキニル基、置換されていてもよいC〜Cアシル基であり;
環Aは、置換されていてもよい芳香族または非芳香族のC〜C14炭化水素環基、あるいは置換されていてもよい芳香族または非芳香族のC〜C14複素環基であり;
Xは、−O−、−S−または−NR−(式中、Rは、水素原子、置換されていてもよいC1 〜Cアルキル基、置換されていてもよいC〜Cアルケニル基、置換されていてもよいC〜Cアルキニル基、置換されていてもよいC1 〜Cアシル基、置換されていてもよい芳香族または非芳香族のC〜C14炭化水素環基、置換されていてもよい芳香族または非芳香族のC〜C14複素環基である)であり;
Yは、結合手または−(CH−(式中、nは1〜3である)である。〕で表される化合物、あるいはその塩である、上記(1)の剤;
(7)CDKの発現又は活性を抑制する物質が、CDKインヒビター、CDKインヒビターをコードする核酸、あるいは当該核酸を含む発現ベクターである、上記(3)の剤;
(8)CDKインヒビターがp27Kip1またはp21Cip1である、上記(7)の剤;
(9)脂肪細胞数の低下を促進する物質が、サイクリンの発現を抑制する物質である、上記(1)の剤;
(10)インスリン抵抗性が肥満に起因するものである、上記(1)の剤;
(11)被験物質が脂肪細胞数の低下を促進するか否かを評価することを含む、インスリン抵抗性を改善し得る物質のスクリーニング方法;
(12)前駆細胞から脂肪細胞への分化を抑制し得る物質、または脂肪細胞のアポトーシスを誘導し得る物質を探索する、上記(11)の方法;
(13)以下の工程(a)、(b)及び(c)を含むCDKの活性を抑制し得る物質のスクリーニング方法である、上記(11)の方法:
(a)被験物質を、CDK、サイクリンに接触させる工程;
(b)上記(a)の工程に起因して生じるCDKの活性を測定し、該活性を被験物質を接触させない場合のCDKの活性と比較する工程;
(c)上記(b)の比較結果に基づいて、CDKの活性の抑制をもたらす被験物質を選択する工程;
(14)CDKが、CDK1、CDK2、CDK5またはCDK7である、上記(11)の方法;
(15)工程(a)において、被験物質がさらにCDKインヒビターと接触される、上記(11)の方法;
(16)下記の工程(a)、(b)及び(c)を含むCDKの発現を抑制し得る物質のスクリーニング方法である、上記(11)の方法:
(a)被験物質を、CDKの発現を測定可能な細胞に接触させる工程;
(b)被験物質を接触させた細胞におけるCDKの発現量を測定し、該発現量を被験物質を接触させない対照細胞におけるCDKの発現量と比較する工程;
(c)上記(b)の比較結果に基づいて、CDKの発現量を抑制する被験物質を選択する工程;
(17)下記の工程(a)、(b)及び(c)を含むCDKインヒビターの発現を促進し得る物質のスクリーニング方法である、上記(11)の方法:
(a)被験物質を、CDKインヒビターの発現を測定可能な細胞に接触させる工程;
(b)被験物質を接触させた細胞におけるCDKインヒビターの発現量を測定し、該発現量を被験物質を接触させない対照細胞におけるCDKインヒビターの発現量と比較する工程;
(c)上記(b)の比較結果に基づいて、CDKインヒビターの発現量を促進する被験物質を選択する工程;
(18)CDKインヒビターが、p27Kip1またはp21Cip1である、上記(11)の方法;
(19)下記の工程(a)、(b)及び(c)を含むサイクリンの発現を抑制し得る物質のスクリーニング方法である、上記(11)の方法:
(a)被験物質を、サイクリンの発現を測定可能な細胞に接触させる工程;
(b)被験物質を接触させた細胞におけるサイクリンの発現量を測定し、該発現量を被験物質を接触させない対照細胞におけるサイクリンの発現量と比較する工程;
(c)上記(b)の比較結果に基づいて、サイクリンの発現量を抑制する被験物質を選択する工程;
(20)インスリン抵抗性が肥満に起因するものである、上記(11)の方法;
(21)上記(11)〜(20)のいずれかの方法により得られうるインスリン抵抗性を改善し得る物質;
(22)上記式(I)で表される化合物、あるいはその塩を含有するアポトーシス誘導剤;
(23)CDKの阻害活性をさらに有する、上記(22)の剤;
(24)上記式(I)で表される化合物、あるいはその医薬上許容され得る塩(但し、CDK5阻害剤、特にオロモウシン、ロスコビチン、プルバラノールAまたはそれらの類似体を除く)を含有する、糖尿病の予防・治療剤。
【発明の効果】
【0012】
本発明の改善剤は、CDK阻害因子の発現・活性の調節という新規作用機序によりインスリン抵抗性の改善が所望される疾患・状態の予防・治療に有用である。本発明のスクリーニング方法は、インスリン抵抗性を改善し得る物質の開発を可能とするため有用である。本発明の化合物又はその塩は、アポトーシス誘導作用により、あるいはアポトーシス誘導作用とCDKの阻害作用との相乗効果により、糖尿病等の疾患の予防・治療、あるいは研究用試薬などに有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
1.インスリン抵抗性の改善剤
本発明は、脂肪細胞数の低下を促進する物質を含有してなる、インスリン抵抗性の改善剤を提供する。
【0014】
脂肪細胞は、任意の動物の細胞であり得るが、哺乳動物の細胞が好ましい。本明細書中で使用される場合、「哺乳動物」としては、例えば、霊長類、実験用動物、家畜、ペット等が挙げられ特に限定されるものではないが、具体的には、ヒト、サル、ラット、マウス、モルモット、ウサギ、ウマ、ウシ、ヤギ、ヒツジ、イヌ、ネコなどである。
【0015】
本明細書中で使用される場合、「インスリン抵抗性」とは、生体においてインスリンに対する感受性が損なわれている状態をいう。インスリン抵抗性としては、肥満により誘導されるもの、遺伝的素因によるものなどが挙げられる。肥満により誘導されるインスリン抵抗性に限らず、その他の原因によるものも、脂肪細胞数の低下によりその症状が間接的に緩和し得ると考えられるためである。勿論、より直接的に病因を攻略するという観点からは、肥満により誘導されるインスリン抵抗性が好ましい。
【0016】
脂肪細胞数の低下を促進する物質は、脂肪細胞数を減少させる物質である限り特に限定されない。脂肪細胞数の低下を促進する物質としては、例えば、脂肪細胞分化を抑制する物質、脂肪細胞にアポトーシスを誘導する物質、脂肪細胞の脱分化を促進する物質などが挙げられるが、なかでも脂肪細胞分化を抑制する物質、脂肪細胞にアポトーシスを誘導する物質が好ましい。
【0017】
脂肪細胞分化を抑制する物質は、脂肪細胞の前駆細胞から脂肪細胞への分化を阻害するものである限り特に限定されない。脂肪細胞分化を抑制する物質としては、例えば、サイクリン依存性キナーゼ(CDK)の発現又は活性を抑制する物質、サイクリンの発現又は活性を抑制する物質などが挙げられる。
【0018】
本明細書中で使用される場合、「発現」とは、蛋白質が産生され且つ機能的な状態でその作用部位に局在することをいう。従って、「発現を抑制する物質」は、遺伝子の転写、転写後調節、蛋白質への翻訳、翻訳後修飾、局在化(即ち、核内移行)及び蛋白質フォールディング等の、いかなる段階で作用するものであってもよい。一方、「活性を抑制する物質」とは、核内に移行した蛋白質に作用して、当該蛋白質の作用を妨げる物質をいう。
【0019】
(CDKの発現を抑制する物質)
脂肪細胞分化を抑制する物質は、CDKの発現を抑制する物質であり得る。
【0020】
サイクリン依存性キナーゼ(CDK)は、サイクリンと結合して活性化される酵素である。CDKとしてはCDK1〜CDK11が挙げられるが、なかでもロスコビチンにより活性が阻害されるCDK1、CDK2、CDK5、CDK7(J. Virol. 78(6): 2853 (2004)) が好ましい。
【0021】
具体的には、CDKの発現を抑制する物質としては、転写抑制因子、RNAポリメラーゼ阻害剤、RNA分解酵素、蛋白質合成阻害剤、核内移行阻害剤、蛋白質分解酵素、蛋白質変性剤等が例示されるが、細胞内で発現する他の遺伝子・蛋白質に及ぼす悪影響を最小限にするためには、標的分子に特異的に作用し得る物質であることが重要である。
【0022】
CDKの発現を抑制する物質の好ましい一態様は、CDKのmRNAもしくは初期転写産物のアンチセンス核酸である。「アンチセンス核酸」とは、標的mRNA(初期転写産物)を発現する細胞の生理的条件下で該標的mRNA(初期転写産物)とハイブリダイズし得る塩基配列からなり、且つハイブリダイズした状態で該標的mRNA(初期転写産物)にコードされるポリペプチドの翻訳を阻害し得る核酸をいう。アンチセンス核酸の種類はDNAであってもRNAであってもよいし、あるいはDNA/RNAキメラであってもよい。また、天然型のアンチセンス核酸は、細胞中に存在する核酸分解酵素によってそのリン酸ジエステル結合が容易に分解されるので、本発明のアンチセンス核酸は、分解酵素に安定なチオリン酸型(リン酸結合のP=OをP=Sに置換)や2’-O-メチル型等の修飾ヌクレオチドを用いて合成もできる。アンチセンス核酸の設計に重要な他の要素として、水溶性及び細胞膜透過性を高めること等が挙げられるが、これらはリポソームやマイクロスフェアを使用するなどの剤形の工夫によっても克服できる。
【0023】
アンチセンス核酸の長さは、CDKのmRNAもしくは初期転写産物と特異的にハイブリダイズし得る限り特に制限はなく、短いもので約15塩基程度、長いものでmRNA(初期転写産物)の全配列に相補的な配列を含むような配列であってもよい。合成の容易さや抗原性の問題等から、例えば約15塩基以上、好ましくは約15〜約30塩基からなるオリゴヌクレオチドが例示される。
【0024】
アンチセンス核酸の標的配列は、アンチセンス核酸がハイブリダイズすることにより、CDKもしくはその機能的断片の翻訳が阻害される配列であれば特に制限はなく、CDKのmRNAの全配列であっても部分配列であってもよいし、あるいは初期転写産物のイントロン部分であってもよいが、アンチセンス核酸としてオリゴヌクレオチドを使用する場合は、標的配列はCDKのmRNAの5’末端からコード領域のC末端までに位置することが望ましい。
【0025】
さらに、アンチセンス核酸は、CDKのmRNAもしくは初期転写産物とハイブリダイズして翻訳を阻害するだけでなく、二本鎖DNAであるCDK遺伝子と結合して三重鎖(トリプレックス)を形成し、mRNAへの転写を阻害し得るものであってもよい。
【0026】
CDKの発現を抑制する物質の別の好ましい一態様は、CDKのmRNAもしくは初期転写産物を、コード領域の内部(初期転写産物の場合はイントロン部分を含む)で特異的に切断し得るリボザイムである。「リボザイム」とは核酸を切断する酵素活性を有するRNAをいうが、最近では当該酵素活性部位の塩基配列を有するオリゴDNAも同様に核酸切断活性を有することが明らかになっているので、本発明では配列特異的な核酸切断活性を有する限りDNAをも包含する概念として用いるものとする。リボザイムとして最も汎用性の高いものとしては、ウイロイドやウイルソイド等の感染性RNAに見られるセルフスプライシングRNAがあり、ハンマーヘッド型やヘアピン型等が知られている。また、リボザイムを、それをコードするDNAを含む発現ベクターの形態で使用する場合には、細胞質への移行を促進するために、tRNAを改変した配列をさらに連結したハイブリッドリボザイムとすることもできる[Nucleic Acids Res., 29(13): 2780-2788 (2001)]。
【0027】
CDKの発現を抑制する物質のさらに別の態様は、デコイ核酸である。デコイ核酸とは、転写調節因子が結合する領域を模倣する核酸分子をいい、CDKの発現を抑制する物質としてのデコイ核酸は、CDKに対する転写活性化因子が結合する領域を模倣する核酸分子であり得る。CDKに対する転写活性化因子としては、例えば、p53、Sp1(J. Biol. Chem. 271(21): 12199 (1996))が挙げられる。
【0028】
デコイ核酸としては、例えば、リン酸ジエステル結合部分の酸素原子を硫黄原子で置換したチオリン酸ジエステル結合を有するオリゴヌクレオチド(S−オリゴ)、又はリン酸ジエステル結合を電荷を持たないメチルホスフェート基で置換したオリゴヌクレオチドなど、生体内でオリゴヌクレオチドが分解を受けにくくするために改変したオリゴヌクレオチドなどが挙げられる。デコイ核酸は転写活性化因子が結合する領域と完全に一致していてもよいが、CDKに対する転写活性化因子が結合し得る程度の同一性を保持していればよい。デコイ核酸の長さは転写活性化因子が結合する限り特に制限されない。また、デコイ核酸は、同一領域を反復して含んでいてもよい。
【0029】
CDKの発現を抑制する物質のさらに別の一態様は、CDKのmRNAもしくは初期転写産物のコード領域内の部分配列(初期転写産物の場合はイントロン部分を含む)に相補的な二本鎖オリゴRNA、いわゆるsiRNAである。短い二本鎖RNAを細胞内に導入するとそのRNAに相補的なmRNAが分解される、いわゆるRNA干渉(RNAi)と呼ばれる現象は、以前から線虫、昆虫、植物等で知られていたが、最近、この現象が動物細胞でも起こることが確認されたことから[Nature, 411(6836): 494-498 (2001)]、リボザイムの代替技術として注目されている。siRNAとしては、後述の通り自ら合成したものを使用できるが、市販のものを用いてもよい。siRNAとしては、例えば、CDK2に対するものが報告されている(J Exp Ther Oncol., 3(4), 194-204 (2003))。
【0030】
アンチセンスオリゴヌクレオチド及びリボザイムは、CDKのcDNA配列もしくはゲノミックDNA配列に基づいてmRNAもしくは初期転写産物の標的配列を決定し、市販のDNA/RNA自動合成機(アプライド・バイオシステムズ社、ベックマン社等)を用いて、これに相補的な配列を合成することにより調製できる。デコイ核酸、siRNAは、センス鎖及びアンチセンス鎖をDNA/RNA自動合成機でそれぞれ合成し、適当なアニーリング緩衝液中、約90〜約95℃で約1分程度変性させた後、約30〜約70℃で約1〜約8時間アニーリングさせることにより調製できる。また、相補的なオリゴヌクレオチド鎖を交互にオーバーラップするように合成して、これらをアニーリングさせた後リガーゼでライゲーションすることにより、より長い二本鎖ポリヌクレオチドを調製できる。
【0031】
CDKの発現を抑制する物質の他の好ましい態様は、CDK抗体である。CDK抗体は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体のいずれであってもよく、周知の免疫学的手法により作製できる。また、CDK抗体は、抗体のフラグメント(例えば、Fab、F(ab’)2)、組換え抗体(例えば、単鎖抗体)であってもよい。さらに、CDK抗体をコードする核酸もまた、CDKの発現を抑制する物質として好ましい。
【0032】
例えば、ポリクローナル抗体は、CDKあるいはそのフラグメント(必要に応じて、ウシ血清アルブミン、KLH(Keyhole Limpet Hemocyanin)等のキャリア蛋白質に架橋した複合体とすることもできる)を抗原として、市販のアジュバント(例えば、完全または不完全フロイントアジュバント)とともに、動物の皮下あるいは腹腔内に2〜3週間おきに2〜4回程度投与し(部分採血した血清の抗体価を公知の抗原抗体反応により測定し、その上昇を確認しておく)、最終免疫から約3〜約10日後に全血を採取して抗血清を精製することにより取得できる。抗原を投与する動物としては、ラット、マウス、ウサギ、ヤギ、モルモット、ハムスターなどの哺乳動物が挙げられる。
【0033】
また、モノクローナル抗体は、細胞融合法(例えば、渡邊武、細胞融合法の原理とモノクローナル抗体の作成、谷内昭、高橋利忠編、「モノクローナル抗体とがん―基礎と臨床―」、第2-14頁、サイエンスフォーラム出版、1985年)により作成することができる。例えば、マウスに該因子を市販のアジュバントと共に2〜4回皮下あるいは腹腔内に投与し、最終投与の約3日後に脾臓あるいはリンパ節を採取し、白血球を採取する。この白血球と骨髄腫細胞(例えば、NS-1,P3X63Ag8など)を細胞融合して該因子に対するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを得る。細胞融合はPEG法[J. Immunol.Methods,81(2): 223-228 (1985)]でも電圧パルス法[Hybridoma, 7(6): 627-633 (1988)]であってもよい。所望のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマは、周知のEIAまたはRIA法等を用いて抗原と特異的に結合する抗体を、培養上清中から検出することにより選択できる。モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマの培養は、インビトロ、またはマウスもしくはラット、このましくはマウス腹水中等のインビボで行うことができ、抗体はそれぞれハイブリドーマの培養上清および動物の腹水から取得できる。
【0034】
しかしながら、ヒトにおける治療効果と安全性を考慮すると、本発明の抗体は、キメラ抗体、ヒト化又はヒト型抗体であってもよい。キメラ抗体は、例えば「実験医学(臨時増刊号), Vol.6, No.10, 1988」、特公平3-73280号公報等を、ヒト化抗体は、例えば特表平4-506458号公報、特開昭62-296890号公報等を、ヒト抗体は、例えば「Nature Genetics,Vol.15, p.146-156, 1997」、「Nature Genetics, Vol.7, p.13-21, 1994」、特表平4-504365号公報、国際出願公開WO94/25585号公報、「日経サイエンス、6月号、第40〜第50頁、1995年」、「Nature, Vol.368, p.856-859, 1994」、特表平6-500233号公報等を参考にそれぞれ作製することができる。
【0035】
CDKの発現を抑制する物質が、アンチセンス核酸等の核酸分子(以下、必要に応じて有効核酸分子ともいう)である場合、本発明の改善剤は、該有効核酸分子をコードする発現ベクターを有効成分とすることもできる。当該発現ベクターは、上記の核酸分子をコードするオリゴヌクレオチドもしくはポリヌクレオチドが、投与対象である哺乳動物の脂肪細胞(例えば、白色脂肪細胞)内でプロモーター活性を発揮し得るプロモーターに機能的に連結されているか、あるいは投与された動物の脂肪細胞内で、一定の条件下に機能的に連結された形態に変化し得るような位置に配置されていなければならない。使用されるプロモーターは、投与対象である哺乳動物の脂肪細胞内で機能し得るものであれば特に制限はないが、例えば、SV40由来初期プロモーター、サイトメガロウイルスLTR、ラウス肉腫ウイルスLTR、MoMuLV由来LTR、アデノウイルス由来初期プロモーター等のウイルスプロモーター、並びにβ−アクチン遺伝子プロモーター、PGK遺伝子プロモーター、トランスフェリン遺伝子プロモーター等の哺乳動物の構成蛋白質遺伝子プロモーターなどが挙げられる。「一定の条件下に機能的に連結された形態に変化し得るような位置に配置される」とは、例えば、以下でさらに詳述するように、プロモーターと有効核酸分子をコードするオリゴ(ポリ)ヌクレオチドが、該プロモーターからの有効核酸分子の発現を妨げるのに十分な長さを有するスペーサー配列により隔てられた、同方向に配置される2つのリコンビナーゼ認識配列によって分断された構造を有し、該認識配列を特異的に認識するリコンビナーゼの存在下に該スペーサー配列が切り出されて、有効核酸分子をコードするポリヌクレオチドがプロモーターに機能的に連結されるように配置されることをいう。
【0036】
本発明の発現ベクターは、好ましくは有効核酸分子をコードするオリゴ(ポリ)ヌクレオチドの下流に転写終結シグナル、すなわちターミネーター領域を含有する。さらに、形質転換細胞選択のための選択マーカー遺伝子(テトラサイクリン、アンピシリン、カナマイシン、ハイグロマイシン、ホスフィノスリシン等の薬剤に対する抵抗性を付与する遺伝子、栄養要求性変異を相補する遺伝子等)をさらに含有することもできる。発現ベクターが上述のようにリコンビナーゼ認識配列に挟まれたスペーサー配列を有する場合、該選択マーカー遺伝子は当該スペーサー配列内に配置することもできる。
【0037】
本発明において発現ベクターに使用されるベクターは特に制限されないが、ヒト等の哺乳動物への投与に好適なベクターとしては、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルス、ポックスウイルス、ポリオウイルス、シンドビスウイルス、センダイウイルス等のウイルスベクターが挙げられる。アデノウイルスは、遺伝子導入効率が極めて高く、非分裂細胞にも導入可能である等の利点を有する。但し、導入遺伝子の宿主染色体への組込みは極めて稀であるので、遺伝子発現は一過性で通常約4週間程度しか持続しない。治療効果の持続性を考慮すれば、比較的遺伝子導入効率が高く、非分裂細胞にも導入可能で、且つ逆位末端繰り返し配列(ITR)を介して染色体に組み込まれ得るアデノ随伴ウイルスの使用もまた好ましい。
【0038】
アンチセンス核酸やリボザイム等の有効核酸分子は本来異物であり、これらの構成的且つ過剰な発現は、当該遺伝子を導入された宿主動物にとって毒性が強く、副作用を引き起こす場合も考えられる。従って、本発明の好ましい態様においては、発現ベクターは、不要な時期及び/又は不要な部位での有効核酸分子の過剰発現による悪影響を防ぐために、有効核酸分子を時期特異的及び/又は脂肪細胞(例えば、白色脂肪細胞)特異的に発現させることができる。このようなベクターの第一の実施態様としては、投与対象となる動物の脂肪細胞において特異的に発現する遺伝子由来のプロモーターに機能的に連結した有効核酸分子をコードするオリゴ(ポリ)ヌクレオチドを含むベクターが挙げられる。脂肪細胞において特異的に発現する遺伝子由来のプロモーターとしては、例えば、aP2プロモーター等の脂肪細胞特異的遺伝子のプロモーターが挙げられる。
【0039】
本発明の時期特異的且つ脂肪細胞特異的発現ベクターの第二の実施態様として、外因性の物質によってトランスに発現が制御される誘導プロモーターに機能的に連結した有効核酸分子をコードするオリゴ(ポリ)ヌクレオチドを含むベクターが挙げられる。誘導プロモーターとして、例えば、メタロチオネイン−1遺伝子プロモーターを用いた場合、金、亜鉛、カドミウム等の重金属、デキサメサゾン等のステロイド、アルキル化剤、キレート剤またはサイトカインなどの誘導物質を、所望の時期に脂肪細胞(例えば、白色脂肪細胞)を含む組織に局所投与することにより、任意の時期に脂肪細胞特異的に有効核酸分子の発現を誘導することができる。
【0040】
本発明の時期特異的且つ脂肪細胞特異的発現ベクターの別の好ましい態様は、プロモーターと有効核酸分子をコードするオリゴ(ポリ)ヌクレオチドとが、該プロモーターからの有効核酸分子の発現を妨げるのに十分な長さを有するスペーサー配列により隔てられた、同方向に配置される2つのリコンビナーゼ認識配列によって分断された構造を有するベクターである。該ベクターが脂肪細胞内に導入されただけではプロモーターは有効核酸分子の転写を指示することができない。しかしながら、所望の時期に脂肪細胞(例えば、白色脂肪細胞)に該認識配列を特異的に認識するリコンビナーゼを局所投与するか、あるいは該リコンビナーゼをコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクターを局所投与して該リコンビナーゼを脂肪細胞内で発現させると、該認識配列間で該リコンビナーゼを介した相同組換えが起こり、その結果、該スペーサー配列が切り出され、有効核酸分子をコードするオリゴ(ポリ)ヌクレオチドがプロモーターに機能的に連結されて、所望の時期に脂肪細胞特異的に有効核酸分子が発現される。
【0041】
上記ベクターに使用されるリコンビナーゼ認識配列は、投与対象に内在のリコンビナーゼによる組換えを防ぐために、内在のリコンビナーゼによっては認識されない異種リコンビナーゼ認識配列であることが望ましい。したがって、該ベクターにトランスに作用するリコンビナーゼもまた異種リコンビナーゼであることが望ましい。このような異種リコンビナーゼと該リコンビナーゼ認識配列の組み合わせとしては、大腸菌のバクテリオファージP1由来のCreリコンビナーゼとlox P配列、あるいは酵母由来のFlpリコンビナーゼとfrt配列が好ましく例示されるが、それらに限定されるものではない。
【0042】
有効核酸分子をコードする発現ベクターを有効成分とする本発明の改善剤の投与は、投与対象の体内に直接ベクターを投与して導入を行うin vivo法で行われる。この場合、ウイルスベクターは、注射剤等の形態で静脈内、動脈内、皮下、皮内、筋肉内、腹腔内等に投与される。あるいは、静脈内注射などによりベクターを投与すると、ウイルスベクターに対する中和抗体の産生が問題となるが、脂肪細胞付近に局所的にベクターを注入すれば(in situ法)、抗体の存在による悪影響を軽減することができる。
【0043】
(CDKの活性を抑制する物質)
脂肪細胞分化を抑制する物質はまた、CDKの活性を抑制する物質であり得る。
【0044】
CDKの活性を抑制する物質としては、CDKの活性を低減させ得る物質である限り特に限定されないが、他の遺伝子・蛋白質に及ぼす悪影響を最小限にするためには、標的分子に特異的に作用し得る物質であることが重要である。CDKの活性を特異的に抑制する物質としては、CDKドミナントネガティブ変異体、サイクリン依存性キナーゼインヒビター(CDKインヒビター)、CDK−サイクリン(例えば、CDK2−サイクリンA)と安定な複合体を形成し、かつそのキナーゼ活性を阻害するペプチド(例えば、実施例参照)、これらをコードする核酸、当該核酸を含む発現ベクター、低分子有機化合物等が例示される。ここで、発現ベクターは上記と同様である。
【0045】
CDKのドミナントネガティブ変異体とは、CDKに対する変異の導入によりその活性が低減したものをいう。CDKのドミナントネガティブ変異体は、天然のCDKと競合することで間接的にその活性を阻害することができる。CDKのドミナントネガティブ変異体は、CDKに変異を導入することによって作製することができる。変異としては、例えば、ATP結合部位、触媒部位、サイクリン結合部位、CDKインヒビター結合部位等の部位における、活性の低下をもたらすようなアミノ酸の変異(例えば、1以上のアミノ酸の欠失、置換、付加)が挙げられる。アミノ酸変異は、PCRや公知のキットを用いる自体公知の方法により導入できる。
【0046】
(CDKインヒビター)
CDKの活性を抑制する物質は、CDKインヒビターの発現を促進する物質であり得る。ここで、CDKインヒビターの発現を促進するとは、CDKインヒビター自体を補充することを含む。
【0047】
サイクリン依存性キナーゼインヒビター(CDKインヒビター)は、サイクリン−CDK複合体に結合することにより、又はサイクリン−CDK複合体の形成を妨害することにより、CDK活性を抑制するタンパク質をいう。CDKインヒビターとしては、Ink4ファミリーに属するタンパク質(例えば、p15Ink4b、p16Ink4a、p18Ink4c、p19Ink4d)、Cip/Kipファミリーに属するタンパク質(例えば、p21Cip1、p27Kip1、p57Kip2)が挙げられるが、なかでもp27kip1、p21Cip1が好ましい。なお、p27kip1、p21Cip1は、例えば、CDK2、CDK5又はCDK7と相互作用することが知られている。
【0048】
CDKインヒビターの発現を促進する物質としては、例えば、CDKインヒビター遺伝子からのRNA転写を促進し得るトランス活性化因子、スプライシングやmRNAの細胞質移行を促進し得る因子、mRNAの分解を抑制する因子、リボソームのmRNAへの結合を促進し得る因子、CDKインヒビターの分解を抑制する因子、CDKインヒビターの核内への移行を促進する因子等が挙げられるが、より直接的且つ特異的な物質として、CDKインヒビターが好ましく例示される。
【0049】
CDKインヒビターは、例えばヒト又はマウス、ウシ、ブタ、サル、ラット等の他の哺乳動物の血液から、CDKインヒビター抗体を用いたアフィニティークロマトグラフィーにより単離することができる。あるいは、当該組織由来のcDNAライブラリーもしくはゲノミックライブラリーから、CDKインヒビターのcDNAクローンをプローブとして単離されるDNAクローンを適当な発現ベクター中にクローニングし、宿主細胞に導入して発現させ、細胞培養物の培養上清からCDKインヒビター抗体や、His-tag、GST-tag等を用いたアフィニティークロマトグラフィーにより精製することもできる。
【0050】
CDKインヒビターを有効成分とする改善剤は、上記したように、ポリL−リジン、アビジン、コレステロール又はリン脂質成分等の付属基を結合させることによって、細胞膜透過性を向上させることができる。あるいは、本発明の改善剤は、CDKインヒビターをカチオン性リポソームに被包して製剤化することもできる。蛋白質はポリアニオン性であるので、カチオン性リポソームと混合することにより容易に複合体を形成する。また、リポソーム膜に脂肪細胞(例えば、白色脂肪細胞)で特異的に発現する細胞表面分子に対する抗体もしくはリガンドを組み込むことにより、細胞特異的なターゲッティングを行うこともできる。
【0051】
また、CDKインヒビターの発現を促進する物質は、CDKインヒビターをコードする核酸、当該核酸を含む発現ベクターであり得る。ここで、発現ベクターは上記と同様である。
【0052】
(CDKの活性を抑制する低分子有機化合物)
また、CDKの活性を抑制する物質は、低分子有機化合物であり得る。CDKの活性を抑制する低分子有機化合物としては、実に様々なものが知られている。例えば、かかる低分子有機化合物としては、種々のプリン誘導体が知られている(例えば、WO97/16452、WO97/20842、WO99/02162、WO99/07705、WO99/43676、WO99/43675、WO01/070231参照)。また、CDKの活性を抑制する低分子有機化合物として、種々の非プリン誘導体も知られている(例えば、WO99/24416、WO99/30710、WO99/50251、WO01/012189、WO01/049688参照)。
【0053】
一実施形態では、CDKの活性を抑制する低分子有機化合物は、下記式(I)
【0054】
【化2】

【0055】
〔式中、R1、Rは、各々独立して、水素原子、置換されていてもよいC〜Cアルキル基、置換されていてもよいC〜Cアルケニル基、置換されていてもよいC〜Cアルキニル基、置換されていてもよいC〜Cアシル基、置換されていてもよい芳香族または非芳香族のC〜C14炭化水素環基、あるいは置換されていてもよい芳香族または非芳香族のC〜C14複素環基であり;
は、水素原子、置換されていてもよいC〜Cアルキル基、置換されていてもよいC〜Cアルケニル基、置換されていてもよいC〜Cアルキニル基、置換されていてもよいC〜Cアシル基であり;
環Aは、置換されていてもよい芳香族または非芳香族のC〜C14炭化水素環基、あるいは置換されていてもよい芳香族または非芳香族のC〜C14複素環基であり;
Xは、−O−、−S−または−NR−(式中、Rは、水素原子、置換されていてもよいC1 〜Cアルキル基、置換されていてもよいC〜Cアルケニル基、置換されていてもよいC〜Cアルキニル基、置換されていてもよいC1 〜Cアシル基、置換されていてもよい芳香族または非芳香族のC〜C14炭化水素環基、置換されていてもよい芳香族または非芳香族のC〜C14複素環基である)であり;
Yは、結合手または−(CH−(式中、nは1〜3である)である。〕で表される化合物、あるいはその塩である。
【0056】
「置換されていてもよいC1 〜Cアルキル基」の「C1 〜Cアルキル基」としては、直鎖または分岐鎖のいずれでもよく、好ましくは炭素数1〜6であり、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル等が挙げられる。
【0057】
「置換されていてもよいC〜Cアルケニル基」の「C〜Cアルケニル基」としては、直鎖または分岐鎖のいずれでもよく、好ましくは炭素数2〜6であり、例えば、エテニル、1−プロペニル、2−プロペニル、2−メチル−1−プロペニル、1−ブテニル、2−ブテニル、3−ブテニル等が挙げられる。
【0058】
「置換されていてもよいC〜Cアルキニル基」の「C〜Cアルキニル基」としては、直鎖または分岐鎖のいずれでもよく、好ましくは炭素数2〜6であり、例えば、エチニル、1−プロピニル、2−プロピニル、1−ブチニル、2−ブチニル、3−ブチニル等が挙げられる。
【0059】
「置換されていてもよいC〜Cアシル基」の「C〜Cアシル基」としては、直鎖または分岐鎖のいずれでもよく、好ましくは炭素数2〜6であり、例えば、ホルミル、アセチル、プロピノイル、ブタノイル、2−メチルプロピノイル等が挙げられる。
【0060】
「置換されていてもよい芳香族C〜C14炭化水素環基」の「芳香族C〜C14炭化水素環基」としては、単環式、二環式または三環式のいずれでもよく、好ましくは炭素数3〜12であり、例えば、フェニル、ナフチルが挙げられる。
【0061】
「置換されていてもよい非芳香族C〜C14炭化水素環基」の「非芳香族C〜C14炭化水素環基」としては、飽和または不飽和の単環式、二環式または三環式のいずれでもよく、好ましくは炭素数3〜12であり、例えば、シクロアルキル基(例えば、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル)、シクロアルケニル基(例えば、2−シクロペンテン−1−イル、3−シクロペンテン−1−イル、2−シクロヘキセン−1−イル、3−シクロヘキセン−1−イル)、シクロアルカジエニル基(例えば、2,4−シクロペンタジエン−1−イル、2,4−シクロヘキサジエン−1−イル、2,5−シクロヘキサジエン−1−イル)等が挙げられる。
【0062】
「置換されていてもよい芳香族C〜C14複素環基」の「芳香族C〜C14複素環基」としては、環構成原子として炭素原子以外に酸素原子、硫黄原子および窒素原子から選ばれるヘテロ原子を1〜5個含有する単環式、二環式または三環式の芳香族複素環基であり、好ましくは炭素数3〜12である。単環式芳香族C〜C14複素環基の例としては、フリル、チエニル、ピロリル、オキサゾリル、イソオキサゾリル、チアゾリル、イソチアゾリル、イミダゾリル、ピラゾリル、オキサジアゾリル、フラザニル、チアジアゾリル、トリアゾリル、テトラゾリル、ピリジル、ピリミジニル、ピリダジニル、ピラジニル、トリアジニルなどが挙げられる。また、2環式または3環式の芳香族複素環基の例としては、ベンゾフラニル、イソベンゾフラニル、ベンゾ[b]チエニル、インドリル、イソインドリル、1H−インダゾリル、ベンズイミダゾリル、ベンゾオキサゾリル、ベンゾチアゾリル、1H−ベンゾトリアゾリル、キノリル、イソキノリル、シンノリル、キナゾリル、キノキサリニル、フタラジニル、ナフチリジニル、プリニル、プテリジニル、カルバゾリル、α−カルボニリル、β−カルボニリル、γ−カルボニリル、アクリジニル、フェノキサジニル、フェノチアジニル、フェナジニル、フェノキサチイニル、チアントレニル、インドリジニル、ピロロ[1,2−b]ピリダジニル、ピラゾロ[1,5−a]ピリジル、イミダゾ[1,2−a]ピリジル、イミダゾ[1,5−a]ピリジル、イミダゾ[1,2−b]ピリダジニル、イミダゾ[1,2−a]ピリミジニル、1,2,4−トリアゾロ[4,3−a]ピリジル、1,2,4−トリアゾロ[4,3−b]ピリダジニルなどが挙げられる。
【0063】
「置換されていてもよい非芳香族C〜C14複素環基」の「非芳香族C〜C14複素環基」としては、環構成原子として炭素原子以外に酸素原子、硫黄原子および窒素原子から選ばれるヘテロ原子を1〜5個含有する単環式、二環式または三環式の飽和又は不飽和の複素環基であり、好ましくは炭素数3〜12であり、例えば、オキシラニル、アゼチジニル、オキセタニル、チエタニル、ピロリジニル、テトラヒドロフリル、テトラヒドロピラニル、モルホリニル、チオモルホリニル、ピペラジニル、ピロリジニル、ピペリジノ、モルホリノ、チオモルホリノなどが挙げられる。
【0064】
置換されていてもよい任意の基における置換基としては、例えば1〜3個のハロゲン原子(例、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素など)で置換されていてもよい炭素数1〜6のアルキル基、1〜3個のハロゲン原子(例、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素など)で置換されていてもよい炭素数2〜6のアルケニル基、炭素数3〜10のシクロアルキル基、炭素数6〜14の芳香族炭化水素基(即ち、アリール基)(例、フェニル、ナフチルなど)、芳香族複素環基(例、チエニル、フリル、ピリジル、オキサゾリル、チアゾリルなど)、非芳香族複素環基(例、テトラヒドロフリル、モルホリノ、チオモルホリノ、ピペリジノ、ピロリジニル、ピペラジニルなど)、炭素数7〜9のアラルキル基、アミノ基、炭素数1〜4のアルキル基あるいは炭素数2〜8のアシル基(例、アルカノイル基など)でモノあるいはジ置換されたアミノ基、アミジノ基、炭素数2〜8のアシル基(例、アルカノイル基など)、カルバモイル基、炭素数1〜4のアルキル基でモノあるいはジ置換されたカルバモイル基、スルファモイル基、炭素数1〜4のアルキル基でモノあるいはジ置換されたスルファモイル基、カルボキシル基、炭素数2〜8のアルコキシカルボニル基、ヒドロキシ基、1〜3個のハロゲン原子(例、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素など)で置換されていてもよい炭素数1〜6のアルコキシ基、1〜3個のハロゲン原子(例、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素など)で置換されていてもよい炭素数2〜5のアルケニルオキシ基、炭素数3〜7のシクロアルキルオキシ基、炭素数7〜9のアラルキルオキシ基、炭素数6〜14のアリールオキシ基(例、フェニルオキシ、ナフチルオキシなど)、チオール基、1〜3個のハロゲン原子(例、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素など)で置換されていてもよい炭素数1〜6のアルキルチオ基、炭素数7〜9のアラルキルチオ基、炭素数6〜14のアリールチオ基(例、フェニルチオ、ナフチルチオなど)、スルホ基、シアノ基、アジド基、ニトロ基、ニトロソ基、ハロゲン原子(例、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素)などが挙げられる。置換基の数は、例えば1〜3個である。
【0065】
好ましくは、置換基は、アミノ基、炭素数1〜4のアルキル基あるいは炭素数2〜8のアシル基(例、アルカノイル基など)でモノあるいはジ置換されたアミノ基、アミジノ基、炭素数2〜8のアシル基(例、アルカノイル基など)、カルバモイル基、炭素数1〜4のアルキル基でモノあるいはジ置換されたカルバモイル基、スルファモイル基、炭素数1〜4のアルキル基でモノあるいはジ置換されたスルファモイル基、カルボキシル基、炭素数2〜8のアルコキシカルボニル基、ヒドロキシ基、1〜3個のハロゲン原子(例、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素など)で置換されていてもよい炭素数1〜6のアルコキシ基、1〜3個のハロゲン原子(例、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素など)で置換されていてもよい炭素数2〜5のアルケニルオキシ基、炭素数3〜7のシクロアルキルオキシ基、炭素数7〜9のアラルキルオキシ基、炭素数6〜14のアリールオキシ基(例、フェニルオキシ、ナフチルオキシなど)、チオール基、1〜3個のハロゲン原子(例、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素など)で置換されていてもよい炭素数1〜6のアルキルチオ基、炭素数7〜9のアラルキルチオ基、炭素数6〜14のアリールチオ基(例、フェニルチオ、ナフチルチオなど)、スルホ基、シアノ基、アジド基、ニトロ基、ニトロソ基、ハロゲン原子(例、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素)であり得る。置換基の数は、例えば1〜3個である。
【0066】
以下、式(I)で表される化合物の好ましい実施形態を説明する。
【0067】
式(I)中、R、Rは、上述した通りであるが、なかでも、水素原子、置換されていてもよいC〜Cアルキル基、置換されていてもよいC〜Cアルケニル基、置換されていてもよいC〜Cアルキニル基、置換されていてもよい非芳香族のC〜C14炭化水素環基が好ましく、水素原子、置換されていてもよいC〜Cアルキル基、置換されていてもよい非芳香族のC〜C14炭化水素環基がより好ましく、水素原子、置換されていてもよいC〜Cアルキル基がさらにより好ましい。
【0068】
式(I)中、Rは、上述した通りであるが、なかでも、水素原子、置換されていてもよいC〜Cアルキル基が好ましく、置換されていてもよいC〜Cアルキル基がより好ましい。
【0069】
式(I)中、環Aは、上述した通りであるが、なかでも、置換されていてもよい芳香族または非芳香族のC〜C14炭化水素環基が好ましく、置換されていてもよい芳香族のC〜C14炭化水素環基がより好ましい。
【0070】
式(I)中、Xは、上述した通りであるが、なかでも、−O−または−NR−が好ましく、−NR−がより好ましい。
【0071】
式(I)中、Rは、上述した通りであるが、なかでも、水素原子、置換されていてもよいC1 〜Cアルキル基、置換されていてもよいC〜Cアルケニル基、置換され
ていてもよいC〜Cアルキニル基、置換されていてもよいC1 〜Cアシル基が好ましく、水素原子、置換されていてもよいC1 〜Cアルキル基がより好ましく、水素原子がさらにより好ましい。
【0072】
式(I)中、Yは、上述した通りであるが、なかでも、結合手または−CH−(即ち、n=1)が好ましく、−CH−がより好ましい。
【0073】
式(I)で表される化合物の代表例は、下記の表1に示される通りである。
【0074】
【表1】

【0075】
式(I)で表される化合物の塩としては、特に限定されないが、医薬上許容され得る塩が好ましく、例えば無機塩基(例えば、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属;カルシウム、マグネシウムなどのアルカリ土類金属;アルミニウム、アンモニウム)、有機塩基(例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン、ピコリン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジシクロヘキシルアミン、N,N−ジベンジルエチレンジアミン)、無機酸(例えば、塩酸、臭化水素酸、硝酸、硫酸、リン酸)、有機酸(例えば、ギ酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、フマル酸、シュウ酸、酒石酸、マレイン酸、クエン酸、コハク酸、リンゴ酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸)、塩基性アミノ酸(例えば、アルギニン、リジン、オルニチン)または酸性アミノ酸(例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸)との塩などが挙げられる。
【0076】
上記式(I)の化合物は、プリン誘導体に関して言及した箇所で挙げた文献に記載の方法により製造できる。
【0077】
(サイクリンの発現又は活性を抑制する物質)
脂肪細胞分化を抑制する物質はまた、サイクリンの発現又は活性を抑制する物質であり得る。
【0078】
サイクリンは、CDKと結合し、そのタンパク質リン酸化酵素活性を発揮させるタンパク質である。サイクリンとしては、サイクリンA〜K、サイクリンM、サイクリンT、サイクリンVが挙げられるが、なかでもCDK1、CDK2、CDK5、CDK7(これら分子は、ロスコビチンにより活性が阻害される)との相互作用が知られているサイクリンA、サイクリンB、サイクリンE、サイクリンG、サイクリンH、サイクリンJ、サイクリンM、あるいはp27kip1およびp21Cip1との相互作用が知られているサイクリンD、サイクリンEが好ましい。より好ましくは、サイクリンは、ロスコビチンにより阻害され、且つp27kip1およびp21Cip1との相互作用が知られているサイクリンEである。
【0079】
具体的には、サイクリンの発現を抑制する物質としては、転写抑制因子、RNAポリメラーゼ阻害剤、RNA分解酵素、蛋白質合成阻害剤、核内移行阻害剤、蛋白質分解酵素、蛋白質変性剤等が例示されるが、細胞内で発現する他の遺伝子・蛋白質に及ぼす悪影響を最小限にするためには、標的分子に特異的に作用し得る物質であることが重要である。
【0080】
サイクリンの発現を抑制する物質としては、例えば、アンチセンス核酸、リボザイム、デコイ核酸、siRNA、サイクリン抗体、およびサイクリン抗体をコードする核酸などが挙げられる。また、サイクリンの活性を抑制する物質としては、例えば、ドミナントネガティブ変異体、および当該変異体をコードする核酸などが挙げられる。さらに、これらを含む発現ベクター、当該発現ベクターを含む宿主細胞もまた、サイクリンの発現又は活性を抑制する物質として提供される。サイクリンの発現又は活性を抑制する物質は、CDKの発現又は活性を抑制する物質と同様に作製できる。
【0081】
本発明の改善剤は、上記のような脂肪細胞数の低下を促進する物質に加え、任意の担体、例えば医薬上許容される担体を含むことができる。
【0082】
医薬上許容される担体としては、例えば、ショ糖、デンプン、マンニット、ソルビット、乳糖、グルコース、セルロース、タルク、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム等の賦形剤、セルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリプロピルピロリドン、ゼラチン、アラビアゴム、ポリエチレングリコール、ショ糖、デンプン等の結合剤、デンプン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルスターチ、ナトリウム−グリコール−スターチ、炭酸水素ナトリウム、リン酸カルシウム、クエン酸カルシウム等の崩壊剤、ステアリン酸マグネシウム、エアロジル、タルク、ラウリル硫酸ナトリウム等の滑剤、クエン酸、メントール、グリシルリシン・アンモニウム塩、グリシン、オレンジ粉等の芳香剤、安息香酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、メチルパラベン、プロピルパラベン等の保存剤、クエン酸、クエン酸ナトリウム、酢酸等の安定剤、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ステアリン酸アルミニウム等の懸濁剤、界面活性剤等の分散剤、水、生理食塩水、オレンジジュース等の希釈剤、カカオ脂、ポリエチレングリコール、白灯油等のベースワックスなどが挙げられるが、それらに限定されるものではない。
【0083】
経口投与に好適な製剤は、水、生理食塩水、オレンジジュースのような希釈液に有効量の物質を溶解させた液剤、有効量の物質を固体や顆粒として含んでいるカプセル剤、サッシェ剤または錠剤、適当な分散媒中に有効量の物質を懸濁させた懸濁液剤、有効量の物質を溶解させた溶液を適当な分散媒中に分散させ乳化させた乳剤等である。
【0084】
非経口的な投与(例えば、皮下注射、筋肉注射、局所注入、腹腔内投与など)に好適な製剤としては、水性および非水性の等張な無菌の注射液剤があり、これには抗酸化剤、緩衝液、制菌剤、等張化剤等が含まれていてもよい。また、水性および非水性の無菌の懸濁液剤が挙げられ、これには懸濁剤、可溶化剤、増粘剤、安定化剤、防腐剤等が含まれていてもよい。当該製剤は、アンプルやバイアルのように単位投与量あるいは複数回投与量ずつ容器に封入することができる。また、有効成分および医薬上許容される担体を凍結乾燥し、使用直前に適当な無菌のビヒクルに溶解または懸濁すればよい状態で保存することもできる。
【0085】
また、本発明の改善剤が非経口的投与される場合には、脂肪細胞(例えば、白色脂肪細胞)への局所投与もまた好ましいので、かかる局所投与に適当な製剤化処理が行われる。
【0086】
本発明の製剤の投与量は、有効成分の活性や種類、病気の重篤度、投与対象となる動物種、投与対象の薬物受容性、体重、年齢等によって異なり一概に云えないが、通常、成人1日あたり有効成分量として約0.001〜約500mg/kgである。
【0087】
本発明の改善剤は、インスリン抵抗性の改善が所望される疾患・状態、例えば糖尿病(例えば、2型糖尿病)、高脂血症、高血圧、動脈硬化、高尿酸血症・痛風、冠動脈疾患・心筋梗塞・狭心症、脳梗塞・脳血栓・一過性脳虚血発作、肥満・肥満症、なかでも糖尿病(例えば、2型糖尿病)の予防・治療に有用である。
【0088】
2.インスリン抵抗性を改善し得る物質のスクリーニング方法
本発明はまた、被験物質が脂肪細胞数の低下を促進するか否かを評価することを含む、インスリン抵抗性を改善し得る物質のスクリーニング方法、並びに当該方法により得られうる物質を提供する。
【0089】
本発明のスクリーニング方法に供される被験物質は、いかなる公知化合物及び新規化合物であってもよく、例えば、核酸、糖質、脂質、蛋白質、ペプチド、有機低分子化合物、コンビナトリアルケミストリー技術を用いて作製された化合物ライブラリー、固相合成やファージディスプレイ法により作製されたランダムペプチドライブラリー、あるいは微生物、動植物、海洋生物等由来の天然成分等が挙げられる。
【0090】
本発明のスクリーニング方法は、脂肪細胞数の低下を促進する物質を選択可能である限り特に限定されない。例えば、本発明のスクリーニング方法は、脂肪細胞にアポトーシスを誘導する物質、脂肪細胞分化を抑制する物質、脂肪細胞の脱分化を促進する物質などを選択可能なものであるが、なかでも脂肪細胞にアポトーシスを誘導する物質、脂肪細胞分化を抑制する物質を選択可能なものが好ましい。
【0091】
被験物質が脂肪細胞にアポトーシスを誘導するか否かは、自体公知の方法、例えば、脂肪細胞におけるDNAラダー化の測定、TUNEL染色(例えば、実施例記載の方法)により解析できる。
【0092】
被験物質が脂肪細胞分化を抑制するか否かは、例えば、被験物質が、前駆細胞から脂肪細胞への分化を抑制するか否か、あるいはCDK又はサイクリンの発現又は活性を抑制するか否かの評価により解析できる。
【0093】
(前駆細胞から脂肪細胞への分化を抑制する物質のスクリーニング)
具体的には、被験物質が、前駆細胞から脂肪細胞への分化を抑制するか否かを評価するスクリーニング方法は、以下の工程(a)、(b)及び(c)を含む:
(a)被験物質を、脂肪細胞への分化誘導条件下にある脂肪細胞の前駆細胞に接触させる工程;
(b)上記(a)の工程により分化誘導された脂肪細胞数を評価し、該活性を被験物質を接触させない場合に分化誘導された脂肪細胞数と比較する工程;
(c)上記(b)の比較結果に基づいて、脂肪細胞への分化を抑制する被験物質を選択する工程。
【0094】
脂肪細胞の前駆細胞は、脂肪細胞に分化し得るものである限り特に限定されないが、例えば、線維芽細胞(例えば、胎児性線維芽細胞)、3T3-L1細胞、Ob1771細胞、3T3-F442A細胞、OP-9細胞、C3H10T1/2細胞などが挙げられる。
【0095】
脂肪細胞の前駆細胞を脂肪細胞に分化誘導する条件は、公知の条件を使用できる。例えば、分化誘導条件としては、インスリン、デキサメサゾン、イソブチルメチルキサンチン、トログリタゾン活性を有する物質等の分化誘導物質が一種以上添加された培地にて培養するような処理条件下等を意味する。具体的には、Wu Z. et al., Genes & Dev. 9, 2350-2363(1992)等に記載された方法に準じて行えばよい。
【0096】
被験物質と脂肪細胞の前駆細胞との接触は、培養培地中で行われる。培養培地は、例えば、約5〜20%のウシ胎仔血清を含む最少必須培地(MEM)、ダルベッコ改変最少必須培地(DMEM)、RPMI1640培地、199培地などである。培養条件も同様に適宜決定されるが、例えば、培地のpHは約6〜約8であり、培養温度は通常約30〜約40℃である。詳細については、例えば、H. Sakaue et al., Mol. Endocrinol. 11, 1552 (2004); Miki et al., Mol. Cell. Biol. 21, 2521 (2001); H. Sakaue et al., Genes & Dev. 16,908 (2002) を参照のこと。
【0097】
脂肪細胞の前駆細胞からの脂肪細胞への分化は、自体公知の方法により確認できる。例えば、かかる分化は、細胞質脂質蓄積の測定(例えば、オイルレッドOによる染色)、公知の脂肪細胞分化マーカー(例えばaP2等)の発現量、や脂肪細胞分化マーカー遺伝子の発現調節領域を機能可能な形で連結されてなるレポーター遺伝子の発現量等を測定するにより確認できる。
【0098】
脂肪細胞数の比較は、好ましくは、有意差の有無に基づいて行なわれ得る。なお、被験物質を接触させない場合に分化誘導された脂肪細胞数は、被験物質を接触させた場合の分化誘導に対し、事前に測定したものであっても、同時に測定した発現量であってもよいが、実験の精度、再現性の観点から同時に測定した脂肪細胞数であることが好ましい。
【0099】
(CDKの発現を抑制する物質のスクリーニング)
被験物質がCDKの発現を抑制するか否かを評価するスクリーニング方法は、例えば、以下の工程(a)、(b)及び(c)を含む:
(a)被験物質を、CDKの発現を測定可能な細胞に接触させる工程;
(b)被験物質を接触させた細胞におけるCDKの発現量を測定し、該発現量を被験物質を接触させない対照細胞におけるCDKの発現量と比較する工程;
(c)上記(b)の比較結果に基づいて、CDKの発現量を抑制する被験物質を選択する工程。
【0100】
「発現を測定可能な細胞」とは、測定対象のmRNA又は蛋白質の発現レベルを直接的又は間接的に評価可能な細胞をいう。測定対象のmRNA又は蛋白質の発現レベルを直接的に評価可能な細胞としては、測定対象を天然で発現可能な細胞が挙げられ、一方、測定対象のmRNA又は蛋白質の発現レベルを間接的に評価可能な細胞としては、測定対象の転写調節領域についてレポーターアッセイを可能とする細胞が挙げられる。
【0101】
測定対象、例えばCDKを天然で発現可能な細胞は、CDKmRNAを潜在的に発現するものである限り特に限定されず、CDKを恒常的に発現している細胞、CDKを誘導条件下(例えば、薬物での処理)で発現する細胞などであり得る。また、当該細胞として、初代培養細胞、当該初代培養細胞から誘導された細胞株、市販の細胞株、セルバンクより入手可能な細胞株などを用いることができる。
【0102】
測定対象、例えばCDKの転写調節領域についてレポーターアッセイを可能とする細胞は、CDKの転写調節領域、当該領域に機能可能に連結されたレポーター遺伝子を含む細胞である。CDKの転写調節領域、レポーター遺伝子は、好ましくは、複製可能なベクター中に挿入されている。
【0103】
CDKの転写調節領域は、CDKの発現を制御している領域である限り特に限定されないが、例えば、転写開始点から上流約2kbpの塩基配列からなるDNA等のDNA、あるいは当該DNAの塩基配列において1以上の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなり、CDKの転写を制御する能力を有するDNAなどを挙げることができる。
【0104】
レポーター遺伝子は、検出可能なタンパク又は酵素をコードする遺伝子であればよく、例えばGFP(緑色蛍光タンパク質)遺伝子、GUS(β−グルクロニダーゼ)遺伝子、LUS(ルシフェラーゼ)遺伝子、CAT(クロラムフェニコルアセチルトランスフェラーゼ)遺伝子等が挙げられる。
【0105】
CDKの転写調節領域、当該領域に機能可能に連結されたレポーター遺伝子が導入される細胞は、CDKの転写調節機能を評価できる限り、即ち、該レポーター遺伝子の発現量が定量的に解析可能である限り特に限定されない。しかしながら、CDKに対する生理的な転写調節因子を発現し、CDKの発現調節の評価により適切であると考えられることから、該導入される細胞としては、脂肪細胞(例えば、白色脂肪細胞)が好ましい。
【0106】
被験物質と脂肪細胞の前駆細胞との接触は、培養培地中で行われる。培養培地は、CDKの発現を測定可能な細胞に応じて適宜選択されるが、例えば、約5〜20%のウシ胎仔血清を含む最少必須培地(MEM)、ダルベッコ改変最少必須培地(DMEM)、RPMI1640培地、199培地などである。培養条件も同様に適宜決定されるが、例えば、培地のpHは約6〜約8であり、培養温度は通常約30〜約40℃であり、培養時間は約12〜約72時間である。
【0107】
CDKを発現可能な細胞を用いた場合、発現量の測定は、mRNA又は蛋白質を対象として行なわれる。mRNAの発現量は、例えば、細胞からtotal RNAを調製し、RT−PCR、ノザンブロッティング等により測定される。蛋白質の発現量は、例えば、細胞から抽出液を調製し、免疫学的手法により測定することができる。免疫学的手法としては、放射性同位元素免疫測定法(RIA法)、ELISA法(Methods in Enzymol. 70: 419-439 (1980))、蛍光抗体法などを用いることができる。また、レポーター遺伝子を含む細胞が用いられた場合、発現量は、レポーター遺伝子のシグナル強度に基づき測定される。
【0108】
また、CDKを発現可能な細胞を用いた場合、核内CDKの発現量(即ち、細胞質から核内に移行したCDK量)を測定、評価してもよい。細胞内局在は、自体公知の方法により測定できる。例えば、レポーター遺伝子と融合させたCDK遺伝子を適切な細胞に導入し、培養培地において被験物質の存在下で培養する。次いで、共焦点顕微鏡により細胞内、核内における蛍光シグナルを観察し、被験物質の非存在下での共焦点顕微鏡像と比較すればよい。また、CDK抗体を用いる免疫染色によっても、CDKの細胞内局在を測定できる。
【0109】
発現量の比較は、好ましくは、有意差の有無に基づいて行なわれ得る。なお、被験物質を接触させない対照細胞におけるCDKの発現量は、被験物質を接触させた細胞におけるCDKの発現量の測定に対し、事前に測定した発現量であっても、同時に測定した発現量であってもよいが、実験の精度、再現性の観点から同時に測定した発現量であることが好ましい。
【0110】
(CDKの活性を抑制する物質のスクリーニング)
被験物質がCDKの活性を抑制するか否かを評価するスクリーニング方法は、例えば、以下の工程(a)、(b)及び(c)を含む:
(a)被験物質を、CDK、サイクリンに接触させる工程;
(b)上記(a)の工程に起因して生じるCDKの活性を測定し、該活性を被験物質を接触させない場合のCDKの活性と比較する工程;
(c)上記(b)の比較結果に基づいて、CDKの活性の抑制をもたらす被験物質を選択する工程。
【0111】
CDKの活性は、測定又は評価が可能なものである限り特に限定されないが、例えば、サイクリンとCDKとの結合活性、サイクリン−CDK複合体とCDKインヒビターとの結合活性、あるいはCDKインヒビター存在下、非存在下におけるCDKのキナーゼ活性などに基づき測定、評価される。従って、工程(a)において、被験物質は、さらにCDKインヒビターと接触されてもよい。
【0112】
サイクリン、CDK、CDKインヒビターには、それぞれ、機能性複合体を形成可能な組合せが存在する。従って、サイクリン、CDK、CDKインヒビターは、それぞれ適切な組合せで用いられる。これら適切な組合せは当該分野で公知であり、また、当業者であれば容易に決定できる。例えば、p27Kip1はサイクリンD及びサイクリンEと結合することが知られている。また、サイクリンDはCDK4/6と、サイクリンEはCDK2と結合することが知られている。従って、例えば、サイクリン、CDK、CDKインヒビターを用いる場合には、サイクリンE、CDK2、p27Kip1の組合せを使用できる。
【0113】
CDK、サイクリン、CDKインヒビターの各タンパク質は、自体方法により入手できる。例えば、これらのタンパク質は、それぞれ、哺乳動物においてこれらを発現している任意の組織より、又はこれらを発現している哺乳動物由来の細胞株より入手できる。また、これらのタンパク質は、当該タンパク質をコードする核酸分子を用いて細胞系・無細胞系にて合成できる。また、市販されている場合には、市販のタンパク質を使用できる。なお、これらタンパク質は、必ずしも精製される必要はなく、CDK活性を測定することができる限り、他のタンパク質等の共雑物を含んでいてもよい。
【0114】
結合活性は、当該分野で公知の相互作用解析法、例えば、免疫学的手法、表面プラズモン共鳴、バインディングアッセイ(binding assay)等によって測定、評価できる。例えば、CDK、サイクリンのいずれか一方をチップ上に固定し、他方のタンパク質及び被験物質を含有する溶液を該チップ上にロードし、CDK、サイクリン、被験物質を接触させる。次いで、表面プラズモン共鳴法により、被験物質の存在下でサイクリンとCDKの結合及び解離を測定し、上記2種の蛋白質を含有するが、被験物質を含有しない溶液をチップ上にロードした場合の結合及び解離と比較する。そして、結合及び解離の速度あるいは結合量についての比較結果に基づいて、サイクリンとCDKとの結合を抑制する被験物質が選択される。
【0115】
CDKのキナーゼ活性は、自体公知の方法により測定、評価できる。例えば、キナーゼ活性は、放射性同位体を用いて測定、評価される。具体的には、CDK存在下において、基質蛋白質(例えば、ヒストンH1)のセリンまたはスレオニン残基に、32P標識したATPを作用させ、標識モノリン酸基を導入し、基質蛋白質に取り込まれた32P量をオートラジオグラフィーまたはシンチレーションカウンターで検出することによりリン酸化された基質蛋白質の量が測定され、その基質蛋白質の量からCDKの活性が算出される。
【0116】
また、CDKのキナーゼ活性は、放射性同位体を用いずに測定、評価できる(例えば、特開2002−335997参照)。また、他の方法としては、サイクリン/CDK複合体の、RBタンパク質またはその部分ペプチドに対するリン酸化酵素活性の測定(例えば、WO01/011367参照)、リン酸化RBを特異的に認識する抗RB抗体を用いる方法(例えば、特開2002−350438参照)などが挙げられる。
【0117】
活性の比較は、好ましくは、有意差の有無に基づいて行なわれ得る。なお、被験物質を接触させない場合におけるCDKの活性は、被験物質を接触させた場合におけるCDKの活性の測定に対し、事前に測定した活性であっても、同時に測定した活性であってもよいが、実験の精度、再現性の観点から同時に測定した活性であることが好ましい。
【0118】
(CDKインヒビターの発現を促進する物質のスクリーニング方法)
また、CDKの活性を抑制する物質のスクリーニング方法は、CDKインヒビターの発現を促進する物質のスクリーニング方法であり得る。
【0119】
被験物質がCDKインヒビターの発現を促進するか否かを評価するスクリーニング方法は、例えば、以下の工程(a)、(b)及び(c)を含む:
(a)被験物質を、CDKインヒビターの発現を測定可能な細胞に接触させる工程;
(b)被験物質を接触させた細胞におけるCDKインヒビターの発現量を測定し、該発現量を被験物質を接触させない対照細胞におけるCDKインヒビターの発現量と比較する工程;
(c)上記(b)の比較結果に基づいて、CDKインヒビターの発現量を促進する被験物質を選択する工程。
【0120】
CDKインヒビターの発現を測定可能な細胞とは、測定対象としてCDKインヒビターmRNA又は蛋白質の発現レベルを直接的又は間接的に評価可能な細胞である。
【0121】
本スクリーニング方法は、CDKの発現を抑制する物質のスクリーニング方法(上述)に準じて行うことができる。例えば、発現量の測定は、mRNA又は蛋白質を対象として行なわれる。また、核内CDKインヒビターの発現量(即ち、細胞質から核内に移行したCDKインヒビター量)を測定、評価してもよい。
【0122】
(サイクリンの発現を抑制する物質のスクリーニング方法)
被験物質がサイクリンの発現を抑制するか否かを評価するスクリーニング方法は、例えば、以下の工程(a)、(b)及び(c)を含む:
(a)被験物質を、サイクリンの発現を測定可能な細胞に接触させる工程;
(b)被験物質を接触させた細胞におけるサイクリンの発現量を測定し、該発現量を被験物質を接触させない対照細胞におけるサイクリンの発現量と比較する工程;
(c)上記(b)の比較結果に基づいて、サイクリンの発現量を抑制する被験物質を選択する工程。
【0123】
サイクリンの発現を測定可能な細胞とは、測定対象としてサイクリンmRNA又は蛋白質の発現レベルを直接的又は間接的に評価可能な細胞である。
【0124】
本スクリーニング方法は、CDKの発現を抑制する物質のスクリーニング方法(上述)に準じて行うことができる。例えば、発現量の測定は、mRNA又は蛋白質を対象として行なわれる。また、核内サイクリンの発現量(即ち、細胞質から核内に移行したサイクリン量)を測定、評価してもよい。
【0125】
本発明のスクリーニング方法は、インスリン抵抗性の改善が所望される疾患・状態、例えば糖尿病(例えば、2型糖尿病)、高脂血症、高血圧、動脈硬化、高尿酸血症・痛風、冠動脈疾患・心筋梗塞・狭心症、脳梗塞・脳血栓・一過性脳虚血発作、肥満・肥満症、なかでも糖尿病(例えば、2型糖尿病)の予防・治療剤の有効成分として有用である。
【0126】
3.アポトーシス誘導剤
本発明は、上述した式(I)で表される化合物またはその塩を含有するアポトーシス誘導剤を提供する。
【0127】
本発明のアポトーシス誘導剤は、脂肪細胞(例えば、白色脂肪細胞)に対するアポトーシスを誘導できる。また、アポトーシス誘導は、脂肪細胞特異的であり得る。例えば、本発明のアポトーシス誘導剤は、膵臓細胞、肝細胞に対するアポトーシスを実質的に誘導しない。
【0128】
上記式(I)で表される化合物またはその塩は、さらに細胞増殖抑制活性(例えば、CDK阻害活性)をさらに有し得る。従って、本発明のアポトーシス誘導剤は、細胞(特に、脂肪細胞)数の低下作用に優れる。
【0129】
本発明のアポトーシス誘導剤は、糖尿病(例えば、2型糖尿病)、肥満・肥満症等の疾患の予防・治療において、あるいは研究用試薬として有用である。また、本発明のアポトーシス誘導剤は、インスリン抵抗性を示す癌患者、例えば癌と糖尿病とを併発した患者に対して特に有用である。
【0130】
本明細書中で挙げられた特許および特許出願明細書を含む全ての刊行物に記載された内容は、本明細書での引用により、その全てが明示されたと同程度に本明細書に組み込まれるものである。
【0131】
以下に実施例を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記実施例等に何ら制約されるものではない。
【実施例】
【0132】
(材料及び方法)
抗体、試薬、ペプチド
PCNAに対するマウスモノクローナル抗体は、Santa-Cruz Biotechnologyから購入した。ロスコビチンは、Sigma-Aldrichcorporation (St. Louis, Missouri) から入手した。活性型カスパーゼ3、CDK2に対するポリクローナル抗体は、それぞれCell Signaling Technology、Santa-Cruz Biotechnologyから購入した。プルバラノールA はCalbiochemから入手した。HIV-TAT蛋白より同定された蛋白導入ペプチド(RRRQRRKKRG:配列番号1)を有するCDK2阻害ペプチド(TYTKKQVLRMAHLVLKVLTFDLCRRRQRRKKRG:配列番号2)は、既報[C. Gondeau et al., J. Biol. Chem. 280(14):13793-800 (2005)]に従い、Sigma Aldrich Japanにて合成し入手した。
【0133】
細胞培養
3T3-L1細胞は、既報〔H. Sakaue et al., Mol. Endocrinol. 11, 1552 (2004)〕記載の通り維持し、5μg/mlインスリン、1μM デキサメタゾン、0.5 mM イソブチルメチルキサンチン、及び10μM トログリタゾンでの刺激により脂肪細胞への分化を誘導した。p27Kip1発現3T3-L1細胞は、既報〔J.Yamamoto et al., J. Biol. Chem. 279(17): 16954-62 (2004)〕に従い、組換えレトロウイルスベクターを使用して作製した。オイルレッドOでの細胞染色は、既報〔E.Hu et al., Science. 274, 2100 (1996)〕に従い行った。
【0134】
組織学
脂肪組織は、各動物から取り出し、緩衝化10%ホルムアルデヒド中で一晩固定し、パラフィンに包埋した。
白色脂肪組織(WAT)をおよそ5μmの切片に切断し、シラン化スライドに載せた。脂肪組織はH&Eで染色した。無作為に選択した少なくとも300個の脂肪細胞の平均直径は、画像解析ソフトMacSCOPE (Mitani Corporation, Fukui, Japan) を用いて解析、計算した。脂肪細胞のアポトーシスは、DNAラダー化及び市販のキットDeadEnd(登録商標) Colorimetric TUNEL System (Promega) により検出した。
【0135】
TUNEL法
TUNEL法によるアポトーシスの測定は、DeadEnd TM Colorimetric TUNEL System(Promega)を用いて行った。具体的には、まず、切片を脱パラフィンしたあと20μg/ml のproteinase Kで抗原の賦活化を行い、その後、アポトーシスの生化学的指標となる核DNA断片の3’-OH末端を、TDT(terminal deoxynucleotidyl transferase) を用いてビオチン化ヌクレオチドで標識した。その後、ホースラディシュペルオキシダーゼ標識ストレプトアビジンを、ビオチン化DNA断片に結合させて、ペルオキシダーゼの基質である過酸化水素と安定化色素diaminobenzidine(DAB) により、発色させ、アポトーシス細胞の核を検出した。
【0136】
CDK2活性測定法
各動物から取りだした脂肪組織を、既報[O. Tetsu et al., Cancer Cell. 3:233-45 (2003)]に従い、抗CDK2特異抗体を用いて免疫沈降した後、ヒストンH1を用いて、ヒストンH1のリン酸化能によってCDK2活性を測定した。
【0137】
統計学的解析
データは、平均±SEMとして示した。2群間の有意差は、Student’s unpaired two-tailed t検定で評価した。解析は、StatViewソフトウェアプログラムを用いて行った。
【0138】
実施例1:脂肪細胞数が低下すると、インスリン抵抗性が改善する
1.1.ロスコビチンの投与により、インスリン抵抗性が改善される
糖代謝に対するロスコビチンの影響を検討するため、ロスコビチン投与時、非投与時における普通食(NC:normal content)給餌C57BL/6マウス、db/db肥満マウス、高脂肪食(HF:high fat)給餌C57BL/6マウスの空腹時、食後血糖値、インスリンレベルを解析した。
その結果、7週齢db/db肥満マウスへのロスコビチンの腹腔内投与は、9週齢又は10週齢マウスの食後血糖値を劇的に低下 (P<0.05) させた(図1)。対照的に、7-10週齢のC57BL/6マウスでは、食後血糖値に全く差異はなかった(図1)。db/db肥満マウスへのロスコビチン投与はまた、空腹時血糖値、血漿インスリンレベルの低下(それぞれ、261.20±22.42 vs. 138.66±17.71; P<0.05、2442.55±729.47 vs. 1551.70±161.00;P<0.05) を引き起こした(図2)。ロスコビチン処置C57BL/6マウスにおける空腹時グルコース及びインスリンレベルは、緩衝液処置C57BL/6マウスのそれと同様であった。グルコース経口投与後のグルコース消失率は、緩衝液処置db/db肥満マウスよりもロスコビチン処置db/dbマウスで高かった(データ示さず)。ロスコビチン投与肝臓中のトリグリセリド(TG)含量は、緩衝液投与のものよりも低かった(図3)。摂食量もまた、ロスコチビン処置db/dbマウスと緩衝液処置db/dbマウスとの間で非常に類似していた(表2)。これらの知見は、ロスコビチンが遺伝性肥満に伴うインスリン抵抗性を顕著に改善することを示す。
ロスコビチン処置したHF給餌マウスの食後及び空腹時グルコース濃度は、緩衝液処置したHF給餌マウスのそれと同様であった(図4(A))。しかしながら、ロスコビチン処置HF給餌マウスの食後インスリンレベルは、緩衝液処置HF給餌マウスのそれよりも低かった(1463.35±191.19 vs.2568.52±306.90: P<0.05)(図4(B))。経口糖負荷は、ロスコビチン処置HF給餌マウスで僅かに改善されたが(図5(A))、これは、30分に、2-3倍低いインスリン濃度を必要とした(図5(B))。このことは、ロスコビチンがHF食によるインスリン抵抗性を顕著に改善することを示す。
以上より、ロスコビチンの投与によりインスリン抵抗性が顕著に改善されることが示された。
【0139】
1.2.ロスコビチンの投与により、脂肪細胞数が低下する
実施例1の結果を踏まえ、ロスコビチンのどのような性質がインスリン抵抗性の改善に寄与したのかを考察したところ、非特許文献5の知見(上述)より、脂肪細胞数の低下がインスリン抵抗性を改善し得る可能性が考えられた。即ち、ロスコビチンが脂肪細胞のサイクリン依存性キナーゼ(CDK) を阻害することで脂肪細胞の増殖を抑制し、脂肪細胞数の低下をもたらすことにより、インスリン抵抗性が改善される可能性が想定された。そこで、上記仮説を検証するため、ロスコビチンの投与により脂肪細胞数が低下するか否かを評価した。なお、脂肪細胞数の評価は、白色脂肪組織(WAT) における脂肪細胞を対象とした。
その結果、ロスコビチン100mg/kgを1日間、1日2回、7週齢のNC給餌C57BL/6マウス、HF給餌C57BL/6マウス、db/db肥満マウスに腹腔内投与したところ、DNA合成マーカーである増殖細胞核抗原(PCNA) の発現が急速に低下した(データ示さず)。興味深いことに、ロスコビチン100mg/kgを5日間、1日2回、7週齢のNC給餌マウスではなく、HF給餌C57BL/6マウス、db/db肥満マウスに腹腔内投与したところ、試験した全てのWAT重量が13週齢で有意に減少した(図6、表2)。ロスコビチン処置マウスと緩衝液処置マウスとの間で、BAT、肝臓、筋肉の重量に差異はなかった(表2)。組織学的解析(図7)に示される通り、ロスコビチン処置db/dbマウス、HF給餌マウスの精巣上体WATの脂肪細胞サイズは、緩衝液処置マウスのものと同様であった。脂肪細胞直径の測定は、平均脂肪細胞サイズもまた同様であることを示した(図8、9)。同じ結果がまた、皮下WATで観察された(データ示さず)。
以上より、ロスコビチンの投与によりWATにおける脂肪細胞数が低下することが示された。
また、1.1.及び1.2.より、脂肪細胞数を低下させると、インスリン抵抗性が改善することが示唆された。
【0140】
1.3.プルバラノールAの投与により、脂肪細胞数が低下し、インスリン抵抗性が改善される
1.1.並びに1.2.と同様にプルバラノールAの影響を検討した。7週齢db/db肥満マウスへのプルバラノールAの腹腔内投与は、9週齢または10週齢の食後血糖を低下させた(図10(A)、(B))。またdb/db肥満マウスへのプルバラノールAの投与はまた、食後血漿インスリンレベルの低下(4445.84±995.18 vs. 3075.00±496.23)を引き起こした(図10(C))。さらにdb/db肥満マウスへのプルバラノールAの投与は、11週齢のWAT重量の減少を誘導したが(図11(A))、脂肪細胞直径の測定では、脂肪細胞サイズに変化は与えなかった(図11(B))。
以上より、ロスコビチンと同様に、プルバラノールAは、脂肪細胞数が低下させることで、インスリン抵抗性を改善させることが示された。
【0141】
【表2】

【0142】
実施例2:CDKインヒビターの過剰発現により、前駆細胞からの脂肪細胞の分化が抑制される
次いで、本発明者らは、ロスコビチン以外の、脂肪細胞数の低下を促進する物質を探索するため、CDKインヒビターが脂肪細胞数の低下を引き起こすか否かを3T3-L1細胞(白色脂肪細胞分化の研究用に十分に特徴付けられたモデル)を用いて検討した。
その結果、3T3-L1細胞におけるp27Kip1過剰発現は、細胞質脂質蓄積により確認したところ、コントロールに比し、インスリン、デキサメタゾン、及びイソブチルメチルキサンチン(MDI) +トログリタゾン処理による脂肪細胞への分化を阻害し(データ示さず)、そして、誘導8日後の脂肪細胞マーカーの発現を阻害した(図12)。
以上より、CDKインヒビターは、前駆細胞からの脂肪細胞の分化を抑制することにより脂肪細胞数を低下させ得ることが示された。従って、CDKインヒビターの投与によりインスリン抵抗性が改善し得ると考えられる。
【0143】
実施例3:ロスコビチン、プラバラノールAは活性型カスパーゼ3およびアポトーシスの誘導能を有する
3.1.ロスコビチンはアポトーシス誘導能を有する
ロスコビチンによるインスリン抵抗性の顕著な改善は、CDKの阻害に基づく脂肪細胞増殖抑制作用のみならず、その他の作用との相乗効果に起因する可能性が考えられた。インスリン抵抗性の改善に寄与する脂肪細胞増殖抑制作用以外の作用としては、脂肪細胞に対するアポトーシス誘導能、脂肪細胞の脱分化作用等が考えられたため、先ず、ロスコビチンがアポトーシス誘導能を有するか否かについて検討した。
その結果、緩衝液処置C57BL/6マウス、および緩衝液処置HF給餌マウスの精巣上体WATでは、ほとんどアポトーシスが検出されなかったのに対し(それぞれ2.92% 1.92%)、ロスコビチン処置C57BL/6マウス、およびロスコビチン処置HF給餌マウスでは、3割前後(それぞれ26.52% 30.29%)の脂肪細胞がアポトーシス陽性細胞であった(図13、14)。また、緩衝液またはロスコビチン処置HF給餌マウスの肝臓、膵臓では、アポトーシスはほとんど検出されなかった(図15)。
以上より、ロスコビチン処置により、脂肪細胞においてアポトーシスが亢進することが明らかとなった。また、ロスコビチンによるインスリン抵抗性の顕著な改善は、脂肪細胞増殖抑制作用と脂肪細胞特異的アポトーシス誘導作用の相乗効果に起因し得ることが示された。さらに、ロスコビチンによるアポトーシス誘導能は脂肪細胞に高い選択性を有することから、ロスコビチンはインスリン抵抗性の改善剤として極めて有用であることが明らかとなった。
【0144】
3.2.ロスコビチン、プルバラノールAは、活性型カスパーゼ3を誘導する
次いで、ロスコビチン、プルバラノールAが活性型カスパーゼ3を誘導するか否かについて検討した。
その結果、緩衝液処置db/db肥満マウスに比べ、ロスコビチンのdb/db肥満マウスへの投与は、精巣上体WATでの活性型カスパーゼ3の著明な誘導を引き起こした(図16(A))。同様にプルバラノールAの投与も、精巣上体WATでの活性型カスパーゼ3の著明な誘導を引き起こした(図16(B))。またロスコビチンと同様に、プルバラノールAの投与のdb/db肥満マウスへの投与は、DNA合成マーカーである増殖細胞核抗原(PCNA)の発現を急速に低下させた(データ示さず)。
以上より、プルバラノールAのインスリン抵抗性の顕著な改善は、ロスコビチンと同様に、脂肪細胞増殖抑制作用と脂肪細胞特異的アポトーシス誘導作用の相乗効果に起因し得ることが示された。
【0145】
実施例4:肥満によりWATでのCDK2活性が誘導され、CDK2特異的阻害ペプチドは血糖を改善する
4.1.肥満によりWATでのCDK2活性が誘導される
肥満によるWATでのCDK2活性が誘導されるか検討するため、NC給餌C57BL/6マウス(15週齢)、HF給餌C57BL/6マウス(15週齢)、db/db肥満マウス(10週齢)の精巣上体WATにおけるCDK2活性を測定した。
その結果、HF給餌C57BL/6マウス、db/db肥満マウスにおいて、著明なCDK2活性が検出された(図17)。これは肥満における脂肪細胞増殖を示すものである。
4.2.CDK2阻害ペプチドは血糖を改善する
7週齢db/db肥満マウスへのCDK2阻害ペプチドの腹腔内投与(30mg/kg)は、9週齢または10週齢の食後血糖を低下させた(図18(A))。また3mg/kgでの投与では、9週齢の食後血糖を低下させた(図18(B))。
以上より、CDK2の阻害により、血糖が改善し得ることが示された。
【0146】
実施例5:脂肪細胞分化を評価する、インスリン抵抗性を改善し得る物質のスクリーニング
脂肪細胞の前駆細胞として3T3-L1細胞を用いる。脂肪細胞の前駆細胞を、インスリン、デキサメタゾン、及びイソブチルメチルキサンチン (MDI)+トログリタゾンで48時間処理し、被験物質の存在下、非存在下37℃で7日培養する。培養後、細胞質脂質量をオイルレッドOでの染色により測定する。被験物質の存在下で培養された細胞における細胞質脂質量を、被験物質の非存在下で培養された細胞における細胞質脂質量と比較し、被験物質が前駆細胞から脂肪細胞への分化を抑制したか否かを評価する。
【0147】
実施例6:サイクリンとCDKとの結合活性を測定する、インスリン抵抗性を改善し得る物質のスクリーニング
6.1.組換えp27kip1の調製
ヒトp27kip1をコードするcDNAを、pET21a (Novagen製) にサブクローニングし、C末端にヘキサヒスチジン配列が付加されたp27kip1をコードするコンストラクトを作製する。p27kip1をBL21(DE3) 細胞で発現させ、8 M尿素、50 mM Tris-HCL (pH 7.4)、20 mMイミダゾールを含有する溶液中で該細胞をソニケーションする。次いで、遠心分離により清澄化し、Ni2+-NTAアガロースに4℃で1時間結合させる。カラムを、0.5M塩化ナトリウム、50mMTris (pH 7.4)、20% グリセロール中、6 M - 0.75 M尿素の逆勾配により洗浄し、200 mMイミダゾール、20mM HEPES (pH7.4)、1 M KCl、100 mM EDTAで溶出させる。溶出液をHBB緩衝液 (25 mM HEPES-KOH (pH 7.7),25 mM NaCl, 5 mM MgCl2, 0.05% NP-40, 1 mM DTT)に対して一晩透析することにより組換えp27kip1を精製し、使用時まで-80℃で保存する。
【0148】
6.2.BIACORE(登録商標)によるスクリーニング
既報[Anal Biochem. 1998; 265 (2):340-50.]に従う一般的な方法によりBIACORE(登録商標)を用いる。組換えサイクリンE(例えば1〜10μg)を10mMの酢酸バッファー(pH4)に溶解し、BIACORE(登録商標)のセンサーチップCM5の表面のマトリックスにカルボキシル基を介して固定化する。HBSバッファー(アマシャムファルマシア バイオテク株式会社製)をセンサーチップに20μl/分の流速で流し、バックグラウンドの値を記録する。途中から10nM〜10μMの被験物質、実施例4.1.で調製したp27kip1、既報に従い調製したCDK2を含有するHBSバッファーに切り替えて1分間流し、被験物質の結合に伴う値の変化を記録する。次いで、被験物質を含有しないがp27kip1、CDK2を含有するHBSバッファーに切り替え、被験物質の不在下での値の変化を記録する。結合と解離の速度、あるいは最大結合量から、サイクリンE- CDK2複合体に対するp27kip1の結合を調節する被験物質を選択する。
【産業上の利用可能性】
【0149】
本発明の改善剤は、CDK阻害因子の発現・活性の調節という新規作用機序によりインスリン抵抗性の改善が所望される疾患・状態を予防・治療し得る。本発明のスクリーニング方法は、インスリン抵抗性を改善し得る物質の開発を可能とする。本発明の化合物又はその塩は、アポトーシス誘導作用、およびアポトーシス誘導作用とCDKの阻害作用との相乗効果により、糖尿病等の疾患の予防・治療し得、あるいは研究用試薬として使用し得る。
【図面の簡単な説明】
【0150】
【図1】緩衝液又はロスコビチン処置した7-10週齢のC57BL/6マウス、db/db肥満マウスの食後グルコース濃度を示す図である。□:緩衝液処置C57BL/6マウス;■:ロスコビチン処置C57BL/6マウス;○:緩衝液処置db/db肥満マウス;●:ロスコビチン処置db/db肥満マウス。
【図2】(A)緩衝液 (B)、又はロスコビチン (R) 処置したC57BL/6マウス (Cont)、db/db肥満マウス (db/db) における空腹時グルコース濃度を示す図である。 (B)緩衝液 (B)、又はロスコビチン (R) 処置したC57BL/6マウス (Cont)、db/db肥満マウス (db/db) における空腹時インスリン濃度を示す図である。
【図3】(A)緩衝液 (B)、又はロスコビチン (R) 処置したdb/db肥満マウス肝臓の組織学的切片の拡大図である。 (B)緩衝液 (B)、又はロスコビチン (R) 処置したdb/db肥満マウスの肝トリグリセリド (TG) 含量を示す図である。
【図4】(A)緩衝液 (B)、又はロスコビチン (R) 処置したHF給餌肥満マウスの空腹時、食後グルコース濃度を示す図である。 (B)緩衝液 (B)、又はロスコビチン (R) 処置したHF給餌肥満マウスの空腹時、食後インスリン濃度を示す図である。
【図5】(A)緩衝液 (●)、又はロスコビチン (○) 処置したHF給餌肥満マウスの経口糖負荷試験の結果を示す図である。 (B)緩衝液 (B)、又はロスコビチン (R) 処置したHF給餌肥満マウスの経口糖負荷試験におけるインスリン濃度の経時的変化を示す図である。
【図6】NC食給餌C57BL/6マウス (Cont)、HF給餌C57BL/6マウス (HF)、db/db肥満マウス (db/db) の精巣上体WAT重量/体重(BW) を示す図である。
【図7】緩衝液 (B)、又はロスコビチン (R) 処置したdb/db肥満マウス (db/db)、HF給餌C57BL/6マウス (HF) の精巣上体WATの組織学的切片の拡大図である。
【図8】緩衝液 (B)、又はロスコビチン (R) 処置したHF給餌C57BL/6マウス (HF)、db/db肥満マウス (db/db) の脂肪細胞について平均細胞サイズを示す図である。
【図9】(A)緩衝液 (○)、又はロスコビチン (●) 処置したHF給餌C57BL/6マウス精巣上体WATに存在する脂肪細胞のサイズ分布を示す図である。 (B)緩衝液 (○)、又はロスコビチン (●) 処置したdb/db肥満マウス精巣上体WATに存在する脂肪細胞のサイズ分布を示す図である。
【図10】(A)、(B)緩衝液、又はプルバラノールA(30mg/kgと10mg/kg)処置したdb/db肥満マウスの食後グルコース濃度を示す図である。○:緩衝液処置db/db肥満マウス;●プルバラノールA処置db/db肥満マウス。(C)緩衝液(B)、又はプルバラノールA(P)を10mg/kgにて投与開始後3週間目(10週齢)における食後インスリン濃度を示す図である。
【図11】(A)緩衝液(B)、又はプルバラノールA(P)処置したdb/db肥満マウスの精巣上体WAT/体重を示す図である。P-10、P-30はそれぞれ10mg/kg、30mg/kg投与を示す。 (B)緩衝液(○)、又はプルバラノールA(●)処置したdb/db肥満マウスの精巣上体WATに存在する脂肪細胞のサイズ分布を示す図である。
【図12】p27Kip1過剰発現3T3-L1細胞における脂肪細胞マーカーmRNAの、正常3T3-L1細胞のそれに対する相対的発現(RT-PCRにより解析) を示す図である。
【図13】緩衝液 (B)、又はロスコビチン (R) 処置した普通食 (NC) 又は高脂肪食 (HF) を与えたC57BL/6マウスの精巣上体白色脂肪組織についてTUNEL法の結果を示す図である。
【図14】(A)緩衝液 (B)、又はロスコビチン (R) 処置した普通食 (NC) を与えたC57BL/6マウス精巣上体の白色脂肪組織におけるアポトーシス頻度を示す図である。 (B)緩衝液 (B)、又はロスコビチン (R) 処置した高脂肪食 (HF) を与えたC57BL/6マウスの精巣上体白色脂肪組織におけるアポトーシス頻度を示す図である。
【図15】(A)緩衝液 (B)、又はロスコビチン (R) 処置した高脂肪食 (HF) を与えたC57BL/6マウスの膵臓についてTUNEL法の結果を示す図である。 (B)緩衝液 (B)、又はロスコビチン (R) 処置した高脂肪食 (HF) を与えたC57BL/6マウスの肝臓についてTUNEL法の結果を示す図である。
【図16】(A)緩衝液、又はロスコビチン処置(3回投与直後)したdb/db肥満マウスの精巣上体における活性型カスパーゼ3の発現を、特異抗体でウエスタンブロットにより確認した結果を示す図である。 (B)(A)と同様の検討をプルバラノールA(30mg/kg)にて実施した図である。
【図17】NC給餌C57BL/6マウス(15週齢)、HF給餌C57BL/6マウス(15週齢)、db/db肥満マウス(10週齢)の精巣上体WATにおけるCDK2活性を示す図である。
【図18】(A)緩衝液、又はCDK2阻害ペプチド(30mg/kg)処置したdb/db肥満マウスの食後グルコース濃度を示す図である。○:緩衝液処置db/db肥満マウス;●CDK2阻害ペプチド処置db/db肥満マウス。 (B)(A)と同様の検討をCDK2阻害ペプチド(3mg/kg)にて実施した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪細胞数の低下を促進する物質を含有してなる、インスリン抵抗性の改善剤。
【請求項2】
脂肪細胞数の低下を促進する物質が、前駆細胞から脂肪細胞への分化を抑制し得る物質、または脂肪細胞のアポトーシスを誘導し得る物質である、請求項1記載の剤。
【請求項3】
脂肪細胞数の低下を促進する物質が、CDKの発現又は活性を抑制する物質である、請求項1記載の剤。
【請求項4】
CDKの発現又は活性を抑制する物質が、以下(i)、(ii)、(iii)のいずれかである、請求項3記載の剤:
(i)CDKアンチセンス核酸、CDKリボザイム、CDKデコイ核酸、CDKsiRNA、CDK抗体、およびCDK抗体をコードする核酸からなる群より選ばれるCDKの発現を抑制する物質;
(ii)ドミナントネガティブ変異体、および当該変異体をコードする核酸からなる群より選ばれるCDKの活性を抑制する物質;あるいは
(iii)(i)、(ii)のいずれかの核酸を含む発現ベクター。
【請求項5】
CDKが、CDK1、CDK2、CDK5またはCDK7である、請求項3記載の剤。
【請求項6】
脂肪細胞数の低下を促進する物質が、下記式(I):
【化1】

〔式中、R1、Rは、各々独立して、水素原子、置換されていてもよいC〜Cアルキル基、置換されていてもよいC〜Cアルケニル基、置換されていてもよいC〜Cアルキニル基、置換されていてもよいC〜Cアシル基、置換されていてもよい芳香族または非芳香族のC〜C14炭化水素環基、あるいは置換されていてもよい芳香族または非芳香族のC〜C14複素環基であり;
は、水素原子、置換されていてもよいC〜Cアルキル基、置換されていてもよいC〜Cアルケニル基、置換されていてもよいC〜Cアルキニル基、置換されていてもよいC〜Cアシル基であり;
環Aは、置換されていてもよい芳香族または非芳香族のC〜C14炭化水素環基、あるいは置換されていてもよい芳香族または非芳香族のC〜C14複素環基であり;
Xは、−O−、−S−または−NR−(式中、Rは、水素原子、置換されていてもよいC1 〜Cアルキル基、置換されていてもよいC〜Cアルケニル基、置換されていてもよいC〜Cアルキニル基、置換されていてもよいC1 〜Cアシル基、置換されていてもよい芳香族または非芳香族のC〜C14炭化水素環基、置換されていてもよい芳香族または非芳香族のC〜C14複素環基である)であり;
Yは、結合手または−(CH−(式中、nは1〜3である)である。〕で表される化合物、あるいはその塩である、請求項1記載の剤。
【請求項7】
CDKの発現又は活性を抑制する物質が、CDKインヒビター、CDKインヒビターをコードする核酸、あるいは当該核酸を含む発現ベクターである、請求項3記載の剤。
【請求項8】
CDKインヒビターがp27Kip1またはp21Cip1である、請求項7記載の剤。
【請求項9】
脂肪細胞数の低下を促進する物質が、サイクリンの発現を抑制する物質である、請求項1記載の剤。
【請求項10】
インスリン抵抗性が肥満に起因するものである、請求項1記載の剤。
【請求項11】
被験物質が脂肪細胞数の低下を促進するか否かを評価することを含む、インスリン抵抗性を改善し得る物質のスクリーニング方法。
【請求項12】
前駆細胞から脂肪細胞への分化を抑制し得る物質、または脂肪細胞のアポトーシスを誘導し得る物質を探索する、請求項11記載の方法。
【請求項13】
以下の工程(a)、(b)及び(c)を含むCDKの活性を抑制し得る物質のスクリーニング方法である、請求項11記載の方法:
(a)被験物質を、CDK、サイクリンに接触させる工程;
(b)上記(a)の工程に起因して生じるCDKの活性を測定し、該活性を被験物質を接触させない場合のCDKの活性と比較する工程;
(c)上記(b)の比較結果に基づいて、CDKの活性の抑制をもたらす被験物質を選択する工程。
【請求項14】
CDKが、CDK1、CDK2、CDK5またはCDK7である、請求項11記載の方法。
【請求項15】
工程(a)において、被験物質がさらにCDKインヒビターと接触される、請求項11記載の方法。
【請求項16】
下記の工程(a)、(b)及び(c)を含むCDKの発現を抑制し得る物質のスクリーニング方法である、請求項11記載の方法:
(a)被験物質を、CDKの発現を測定可能な細胞に接触させる工程;
(b)被験物質を接触させた細胞におけるCDKの発現量を測定し、該発現量を被験物質を接触させない対照細胞におけるCDKの発現量と比較する工程;
(c)上記(b)の比較結果に基づいて、CDKの発現量を抑制する被験物質を選択する工程。
【請求項17】
下記の工程(a)、(b)及び(c)を含むCDKインヒビターの発現を促進し得る物質のスクリーニング方法である、請求項11記載の方法:
(a)被験物質を、CDKインヒビターの発現を測定可能な細胞に接触させる工程;
(b)被験物質を接触させた細胞におけるCDKインヒビターの発現量を測定し、該発現量を被験物質を接触させない対照細胞におけるCDKインヒビターの発現量と比較する工程;
(c)上記(b)の比較結果に基づいて、CDKインヒビターの発現量を促進する被験物質を選択する工程。
【請求項18】
CDKインヒビターが、p27Kip1またはp21Cip1である、請求項11記載の方法。
【請求項19】
下記の工程(a)、(b)及び(c)を含むサイクリンの発現を抑制し得る物質のスクリーニング方法である、請求項11記載の方法:
(a)被験物質を、サイクリンの発現を測定可能な細胞に接触させる工程;
(b)被験物質を接触させた細胞におけるサイクリンの発現量を測定し、該発現量を被験物質を接触させない対照細胞におけるサイクリンの発現量と比較する工程;
(c)上記(b)の比較結果に基づいて、サイクリンの発現量を抑制する被験物質を選択する工程。
【請求項20】
インスリン抵抗性が肥満に起因するものである、請求項11記載の方法。
【請求項21】
請求項11〜20のいずれか1項記載の方法により得られうるインスリン抵抗性を改善し得る物質。
【請求項22】
下記式(I):
【化2】

〔式中、R1、Rは、各々独立して、水素原子、置換されていてもよいC〜Cアルキル基、置換されていてもよいC〜Cアルケニル基、置換されていてもよいC〜Cアルキニル基、置換されていてもよいC〜Cアシル基、置換されていてもよい芳香族または非芳香族のC〜C14炭化水素環基、あるいは置換されていてもよい芳香族または非芳香族のC〜C14複素環基であり;
は、水素原子、置換されていてもよいC〜Cアルキル基、置換されていてもよいC〜Cアルケニル基、置換されていてもよいC〜Cアルキニル基、置換されていてもよいC〜Cアシル基であり;
環Aは、置換されていてもよい芳香族または非芳香族のC〜C14炭化水素環基、あるいは置換されていてもよい芳香族または非芳香族のC〜C14複素環基であり;
Xは、−O−、−S−または−NR−(式中、Rは、水素原子、置換されていてもよいC1 〜Cアルキル基、置換されていてもよいC〜Cアルケニル基、置換されていてもよいC〜Cアルキニル基、置換されていてもよいC1 〜Cアシル基、置換されていてもよい芳香族または非芳香族のC〜C14炭化水素環基、置換されていてもよい芳香族または非芳香族のC〜C14複素環基である)であり;
Yは、結合手または−(CH−(式中、nは1〜3である)である。〕で表される化合物、あるいはその塩を含有するアポトーシス誘導剤。
【請求項23】
CDKの阻害活性をさらに有する、請求項22記載の剤。
【請求項24】
下記式(I):
【化3】

〔式中、R1、Rは、各々独立して、水素原子、置換されていてもよいC〜Cアルキル基、置換されていてもよいC〜Cアルケニル基、置換されていてもよいC〜Cアルキニル基、置換されていてもよいC〜Cアシル基、置換されていてもよい芳香族または非芳香族のC〜C14炭化水素環基、あるいは置換されていてもよい芳香族または非芳香族のC〜C14複素環基であり;
は、水素原子、置換されていてもよいC〜Cアルキル基、置換されていてもよいC〜Cアルケニル基、置換されていてもよいC〜Cアルキニル基、置換されていてもよいC〜Cアシル基であり;
環Aは、置換されていてもよい芳香族または非芳香族のC〜C14炭化水素環基、あるいは置換されていてもよい芳香族または非芳香族のC〜C14複素環基であり;
Xは、−O−、−S−または−NR−(式中、Rは、水素原子、置換されていてもよいC1 〜Cアルキル基、置換されていてもよいC〜Cアルケニル基、置換されていてもよいC〜Cアルキニル基、置換されていてもよいC1 〜Cアシル基、置換されていてもよい芳香族または非芳香族のC〜C14炭化水素環基、置換されていてもよい芳香族または非芳香族のC〜C14複素環基である)であり;
Yは、結合手または−(CH−(式中、nは1〜3である)である。〕で表される化合物、あるいはその医薬上許容され得る塩(但し、CDK5阻害剤を除く)を含有する、糖尿病の予防・治療剤。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図14】
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【図17】
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【図18】
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【図3】
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【図7】
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【図13】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2006−56879(P2006−56879A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−210265(P2005−210265)
【出願日】平成17年7月20日(2005.7.20)
【出願人】(504150450)国立大学法人神戸大学 (421)
【出願人】(000002912)大日本住友製薬株式会社 (332)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】