説明

インスリン抵抗性の評価方法

【課題】インスリン抵抗性を簡便に且つ高い信頼性で評価する方法を提供する。
【解決手段】インスリン抵抗性の評価方法であって、血液中の空腹時インスリンパラメータ、空腹時血糖パラメータ及びアディポネクチンパラメータを測定し、下記式(I)の計算値を指標としてインスリン抵抗性を評価する方法:

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インスリン抵抗性の評価方法に関し、詳しくは、グルコースクランプ法と相関性の高い新たな指標により、インスリン抵抗性を評価する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
我が国の平均寿命は、生活環境の改善や医学の進歩により、世界有数の水準に達している。しかしながら、人口の急速な高齢化とともに、疾病全体に占めるがん、心臓病、脳卒中、糖尿病等の生活習慣病の割合は増加しており、これに伴って、要介護者等の増加も深刻な社会問題となっている。
【0003】
厚生労働省が平成15年に発表した平成14年度糖尿病実態調査結果速報によると、「糖尿病が強く疑われる人」は740万人、「糖尿病の可能性を否定できない人」は880万人であり、平成9年に実施した同調査よりそれぞれ50万人(平成9年690万人)、200万人(平成9年680万人)増加している。糖尿病は心臓病、脳卒中の危険因子の一つであり、その予備群の増加は、今後糖尿病が多発する可能性が高く、さらには心臓病、脳卒中を招く危険性が高いことを示している。
【0004】
糖尿病、高トリグリセリド血症、低HDLコレステロール血症及び高血圧等のメタボリックシンドロームの構成因子は、インスリン抵抗性が共通の基盤として認められており、その上流には、過食や運動不足による内臓脂肪の蓄積が存在している。すなわち、内臓脂肪の蓄積やインスリン抵抗性を測定することは、早期発見のために非常に重要である。内臓脂肪の蓄積の測定は腹部CT検査が、またインスリン抵抗性の測定はグルコースクランプ法が最も信頼性のある測定方法とされている。しかしながらこれらはいずれも、測定が煩雑であることから一般開業医や人間ドック等の健診施設での使用には限界がある。
【0005】
インスリン抵抗性の指標としてHOMA(Homeostasis model assessment)が一般的に使用されている。HOMAは、肥満を有する2型糖尿病患者ではグルコースクランプ法の結果とよく相関するが、非肥満糖尿病患者では、グルコースクランプ法との相関性は認められないことが指摘されている(非特許文献1参照)
HOMAによるインスリン抵抗性の評価の信頼性は、肥満の程度(内臓肥満も関係する)により変動するので、実際の臨床の現場において、HOMAによりインスリン抵抗性を正しく評価することは困難であり、全ての糖尿病患者に対して一律に適用可能である、信頼性の高い方法が求められていた。
【非特許文献1】「糖尿病」42巻12号、1005〜1010、1999年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、インスリン抵抗性を簡便に且つ高い信頼性で評価する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
近年、インスリン抵抗性改善薬の登場により臨床で使用可能なインスリン抵抗性の簡便な指標が望まれており、その簡便性からHOMA‐IRはしばしば用いられている。しかしながら、HOMA‐IRは血糖値140〜170 mg/dL以上BMI 25未満ではグルコースクランプ法との相関は低下するとの報告があり(小野 利夫,志賀 伯弘,種田 嘉信,梅村 周香.HOMA指数の適用範囲について−インスリン抵抗性と空腹時血糖の関係からの考察−.糖尿病 1999;42:1005-11;山内 敏正,門脇 孝.インスリン抵抗性発現の分子機構とその評価法.日本臨床 2004;62:1016-9.)HOMA‐IRの適用範囲には注意を要する。
【0008】
本発明者は、インスリン抵抗性のより適用範囲の広い指標を見出すべく検討を重ねた結果、血液中の空腹時インスリン測定値と空腹時血糖測定値の積(すなわちHOMA)を血中のアディポネクチン測定値で除することで、患者の肥満の程度及び空腹時血糖値のレベルにかかわらず、グルコースクランプ法と高い相関性を示す指標が得られることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明は、以下のインスリン抵抗性の評価方法を提供するものである。
【0010】
インスリン抵抗性の評価方法であって、血液中の空腹時インスリン値、空腹時血糖値及びアディポネクチン値を測定し、下記式(I)の計算値を指標としてインスリン抵抗性を評価する方法:
【0011】
【数1】

【0012】
上記式(I)の計算値は、後述するようにグルコースクランプ法により測定されるM値と高い相関性を有するので、上記測定値とM値を各々対応させ、対応するM値を基準として、インスリン抵抗性無し(正常)、弱いインスリン抵抗性有り、強いインスリン抵抗性有り等を評価することができる。式(I)の計算値は、数値が高い程インスリン抵抗性が大きくなる。また、式(I)の計算値は、M値と負の相関性を有し、M値が小さいほど、式(I)の計算値は大きくなる。
【0013】
例えば、一例としてM値6.6付近が正常とインスリン抵抗性の境界(カットオフ値)、M値4.4付近を弱いインスリン抵抗性と強いインスリン抵抗性の境界とすると、対応する本発明の式(I)の値を定めることで、M値と同様な信頼性でインスリン抵抗性を評価することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の式(I)で得られた指標は、患者の肥満の程度及び空腹時血糖値等のパラメータ砥は無関係にグルコースクランプ法の結果と相関性を示し、その相関性は、肥満度の大きい糖尿病患者であってもHOMAよりも優れている。
【0015】
従って、今後は患者の肥満度等を考慮することなく一律にインスリン抵抗性を評価することができ、糖尿病の予防ないし治療をより容易に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の計算式に使用する空腹時インスリン値、空腹時血糖値及びアディポネクチン値は、酵素、抗体等を使用する生物学的方法(特に免疫学的方法)、血糖値の測定に使用可能な光学的方法などの公知の方法に基づき、各々血液(血清ないし血漿)サンプルから、常法に従って測定することができる。各測定法の例を以下に列挙するが、これらの測定法に限定されないことはいうまでもない。
*インスリン濃度の測定法:EIA法(酵素免疫測定法Enzyme Immuno Assay)、IRMA法(免疫放射定量法 Immuno Radio Metric Assay)などが挙げられる。一般に病院内部で検査する場合はEIA法、外部の検査センターへ外注の場合はIRMA法が多い。
*血糖値の測定法:ヘキソキナーゼ・G−6−PDH法、電極法、グルコースデヒドロゲナーゼ法等が挙げられる。
*アディポネクチンの測定法:現在ELISA法(酵素免疫測定法 Enzyme −Linked Immuno Sorbent Assay)が主に用いられ、他にRIA法(放射性免疫測定法 Radio Immuno Assay)も使用されている。また、ラテックス凝集法を原理とするヒトアディポネクチン測定キットについても現在治験中であり、使用可能である。
【0017】
以下、空腹時インスリン値、空腹時血糖値及びアディポネクチン値により導くことができる本発明の新指標を、グルコースクランプ法(M値)、HOMA等の公知の指標と対比して以下に説明する。
1.試験の要約
グルコースクランプ法施行者を対象にし、血中アディポネクチン濃度とグルコースクランプ法より求められるM値との相関を求めたところ、相関係数0.462(P<0.001)の良好な相関を示した。インスリン抵抗性の簡便な指標となっているHOMA‐IRは血糖値140 mg/dL以上またはBMI 25未満の症例ではM値との相関が低下するとの指摘があるが、本試験でもそれが確認された。アディポネクチンとM値との相関は、HOMA‐IRとM値との相関係数が−0.287(P=0.138)まで低下したBMI 22未満の症例においても相関係数0.639(P<0.001)の良好な相関を示した。更に今回新たに考案した“空腹時血糖値を空腹時インスリン濃度で乗じた値をアディポネクチン濃度で補正(除)した値”(以下、血糖*IRI/ADN)とM値との相関を検討した結果、HOMA‐IRの相関が低下する領域の症例において良好な相関を示し、HOMA‐IRが高い相関を示す血糖値140 mg/dL以上、BMI 25以上及びBMI 22以上の症例においてもHOMA‐IRの相関を上回ることが分かった。また、全症例を対象とした血糖*IRI/ADN とM値の相関係数は、−0.696(P<0.001)とHOMA‐IRとM値との相関係数−0.596(P<0.001)を上回る相関を示した。
【0018】
更に、M値(対数変換)を従属変数として血糖値140mg/dL未満、140mg/dL以上、BMI 25未満及びBMI 25以上の各条件で関連している検査項目を重回帰分析(ステップワイズ法)より求めたところ、血糖*IRI/ADNのみが共通の説明因子として認められた。
【0019】
以上の成績より、血中アディポネクチン濃度及び“空腹時血糖値を空腹時インスリン濃度で乗じた値をアディポネクチン濃度で補正(除)した値”はインスリン抵抗性の新しい指標となることが実証された。

2.選択基準
20歳以上70歳未満の糖尿病患者であって、グルコースクランプ法施行者
3.試験の方法
1回の空腹時静脈血採血(13 mL)を行った。また、被験者の性別、身長、体重、血圧、使用薬剤及びM値を調査した。
【0020】
血液生化学的検査項目として表1に示した14項目及び血中アディポネクチン濃度を測定した。アディポネクチンは株式会社三菱化学ヤトロン製のラテックス凝集法を原理とするアディポネクチン測定キットを使用し、その他の測定値は、試験実施施設の測定値を採用した。
【0021】
【表1】

【0022】
4.解析対象症例の選定
グルコースクランプ法施行の128例を解析対象症例(以下、グルコースクランプ法施 行症例)とした。
5.解析方法
血中アディポネクチン濃度がインスリン抵抗性の指標となりグルコースクランプ法のM値との相関があるとの報告から(Hotta K, Funahashi T, Bodkin NL, Ortmeyer HK, Arita Y, Hansen BC, et al. Circulating concentrations of the adipocyte protein adiponectin are decreased in parallel with reduced insulin sensitivity during the progression to type2 diabetes in rhesus monkeys. Diabetes 2001; 50: 1126-33.)、本試験ではグルコースクランプ法施行者129例でのM値、血中アディポネクチン濃度及びHOMA‐IRの比較を行った。また、HOMA‐IRの適用範囲の問題からM値とHOMA‐IR及び血中アディポネクチン濃度との相関を血糖値及びBMIとの関連で検討した。なおM値及びHOMA‐IR計算法を以下に示す。
・M値:一定のインスリン注入率で血糖値を目標濃度に保つように調整されるグルコース注入率GIR(Glucose infusion rate)をM値とする。(単位:mg/kg/min)
・HOMA‐IR計算法:空腹時血糖(mg/dL)×空腹時インスリン((U/mL)÷405を用いて算出した。(単位:なし)

HOMA‐IR値の血中アディポネクチン濃度による補正(本発明の新指標)
Yamauchiらのアディポネクチンとインスリン抵抗性の関係を証明した報告をはじめとし、アディポネクチンが筋肉への糖の取り込みを促進する酵素すなわちAMPキナーゼの活性を上昇させる機構に関与していること、またアディポネクチンが脂肪の燃焼調節にかかわる転写因子(PPAR()を活性化し臓器内トリグリセリド含量を低下させることによりインスリン感受性を増加させる機構に関与していることが報告されている。
【0023】
本発明者は、HOMA‐IRの計算式を血中アディポネクチン濃度で補正(除算)することにより診断精度を上げられるのではないかと考えた。
【0024】
そこで、HOMA‐IRの計算に用いる空腹時血糖値と空腹時インスリン濃度を乗じた値を血中アディポネクチン濃度で除すことによって補正し、その値(以下、血糖*IRI/ADN)が、インスリン抵抗性の新しい指標となりうるか否かを検討した。
4.結果
M値、血中アディポネクチン濃度及びHOMA‐IRの統計量と分布
グルコースクランプ法施行症例のM値、血中アディポネクチン濃度及びHOMA‐IRの各統計量を表2に、各項目の分布をヒストグラムにして図1に示した。HOMA‐IRの算出に必要な空腹時インスリンの結果が1例不足のためHOMA‐IRは128例となった。また、図1のごとくM値、血中アディポネクチン濃度及びHOMA‐IRの分布は非正規性を示した。
【0025】
【表2】

【0026】
(イ)各項目の相関
HOMA‐IRの算出可能症例が127例であることから、M値と各項目との相関は127例での検討とした。HOMA‐IRと血中アディポネクチン濃度の分布は非正規性が認められたためSpearmanの順位相関係数(無相関検定は両側、有意確率P<0.05)を用いて相関を求めた。M値とHOMA‐IRの相関係数は−0.596(P<0.001)で負の相関、M値と血中アディポネクチン濃度が0.463(P<0.001)で正の相関、またM値と血糖*IRI/ADNは−0.696(P<0.001)で負の相関を示した。いずれの組み合わせにおいても有意な相関が得られたが血糖*IRI/ADNとの組み合わせが最も高い相関を示した。
【0027】
(ロ)血糖値との関連における検討
M値とHOMA‐IRの相関は空腹時血糖が一定以上高くなると低下することが知られている。すなわち空腹時血糖上昇空腹時インスリン上昇関係が血糖値140〜170 mg/dL以上になると低下するためである。これはインスリン値が逆に低下に傾くことによる。そこで、今回のグルコースクランプ法施行症例を血糖値140 mg/dL以上と140 mg/dL未満に分けて、M値とHOMA‐IR、アディポネクチン及び血糖*IRI/ADNとの相関を検討した。
【0028】
表3に示すようにHOMA‐IRとの相関係数は血糖値140 mg/dL以上の症例では−0.539(P=0.002)、血糖値140 mg/dL未満の症例では−0.613(P<0.001)となり報告どおり血糖値140 mg/dL以上ではM値とHOMA‐IRとの相関係数は低下した。アディポネクチンも血糖値140 mg/dL以上の症例では、症例全体を対象とした場合に比べ相関係数はやや低下した。血糖*IRI/ANDについても血糖値140 mg/dL以上の症例では相関係数が低下したが、−0.584(P=0.001)と3項目の中では最も高い相関係数を示した。また、血糖*IRI/ADNは血糖値140 mg/dL未満の症例で−0.734(P<0.001)と高い相関係数を示した。
【0029】
【表3】

【0030】
(ハ)BMIとの関連における検討
空腹時血糖と空腹時インスリンとの比例関係は血糖値140〜170 mg/dL以上になると低下するが、この関係は肥満では非肥満と比べて血糖値の高い方にすることが知られている。また、BMI 25未満ではM値とHOMA‐IRの相関が低下することも知られている。
【0031】
そこで症例をBMI 25未満とBMI 25以上、更に日本肥満学会の標準体重の基準であるBMI 22未満とBMI 22以上に分けてM値とHOMA‐IR、アディポネクチン及び血糖*IRI/ADNとの相関を検討した。表4にBMI 25で分けた結果を示す。HOMA‐IRは報告どおりBMI 25未満の症例ではBMI 25以上の症例より低い相関係数を示したが、血中アディポネクチン濃度及び血糖*IRI/ADNではそうではなかった。また、血糖*IRI/ADNとM値との相関係数はBMI 25未満が−0.607(P<0.001)、BMI 25以上が−0.558(P<0.001)となり3項目の中で最も高い相関係数を示した。
【0032】
次にBMI 22未満とBMI 22以上で症例を分けた結果を表5に示す。HOMA‐IRではBMI 22未満の症例では相関係数が−0.287(P=0.138)となりやはり全症例のそれより低下したが、血中アディポネクチン濃度はBMI 22未満の症例では0.639(P<0.001)と全症例のそれより良好な相関を示した。しかしBMI 22以上の症例では0.303(P=0.002)と低い値であった。一方血糖*IRI/ADNはBMI 22未満の症例での相関係数−0.584(P=0.001)は全症例での相関係数−0.696(P<0.001)より低い値であったが、BMI 22以上の症例では−0.650(P<0.001)でありいずれの値もHOMA‐IRのそれらより高い値を示した。
【0033】
【表4】

【0034】
【表5】

【0035】
(ニ)その他の評価項目のM値との相関
表6に本試験で得られたその他の評価項目についてM値との相関(Spearman)を示す。
空腹時インスリンに−0.509(P<0.001)の最も高い負の相関係数を認めた。BMI −0.499、ALT −0.421、AST −0.413、トリグリセリド −0.394、空腹時血糖 −0.318及び (-GTP −0.287に有意な負の相関を認めた。また、HDLコレステロールに0.207の有意な正の相関を認めた。
【0036】
【表6】

【0037】
(ホ)M値の関係(重回帰分析)
血中アディポネクチン濃度、HOMA‐IR及び血糖*IRI/ADNに加え、(ニ)項の検討でM値との相関係数が絶対値で0.2以上あり症例数も100例以上あった項目すなわち血糖、インスリン、BMI、トリグリセリド及びHDLコレステロールを説明変数、M値を従属変数として重回帰分析(ステップワイズ法)を行った結果、対象症例全体では血糖*IRI/ADN、血糖及びアディポネクチンがM値の説明因子として認められた(表7)。
【0038】
また、血糖値140mg/dL未満、140mg/dL以上、BMI 25未満及びBMI 25以上の症例で同様の分析を行った結果、共通して血糖*IRI/ADNのみがM値の説明因子として認められた(表7、表8)。
【0039】
【表7】

【0040】
【表8】

【0041】
7.まとめ
インスリン抵抗性の指標としての評価
1)M値とHOMA‐IRの相関が低下するとの報告がある空腹時血糖140 mg/dL以上の症例に ついてその再現性を確認すべく検討した結果、症例全体の相関係数−0.596(P<0.001)に対して空腹時血糖140 mg/dL以上では−0.539(P=0.002)となり相関の低下が確認できた。
【0042】
2)血糖値同様、M値とHOMA‐IRの相関が低下するとの報告があるBMI 25未満の症例についてその再現性を検討した結果、−0.474(P<0.001)の相関係数となり相関の低下が確認された。この傾向はBMI 22未満では更に顕著となり相関係数は−0.287(P=0.138)まで低下した。
【0043】
3)M値とアディポネクチンの相関をM値とHOMA‐IRの相関と比較したところ、症例全体では相関係数0.463(P<0.001)でHOMA‐IRの相関を下回ったがBMI 22未満では0.639(P<0.001)とHOMA‐IRの相関係数を上回った。
【0044】
4)アディポネクチンの作用を考慮し、空腹時血糖値を空腹時インスリン濃度で乗じた値(HOMA‐IR計算式の基盤)をアディポネクチン濃度で補正(除)した値(血糖*IRI/ADN)を求めたところ、症例全体を対象としたM値との相関において絶対値比較でHOMA‐IRを約0.1上回る−0.696(P<0.001)の良好な相関係数を示した。
【0045】
5)M値とHOMA‐IRの相関が低下した血糖値140 mg/dL以上、BMI 25未満及びBMI 22未満 の症例についても血糖*IRI/ADN値の相関係数は、それぞれ−0.584(P=0.001)、−0.607(P<0.001)及び−0.584(P=0.001)の良好な相関を示した。
【0046】
6)M値とHOMA‐IRが良好な相関係数を示した空腹時血糖140 mg/dL未満(−0.613P<0.001)、BMI 25以上(−0.498 P<0.001)及びBMI 22以上(−0.617 P<0.001)の症例においても血糖*IRI/ADN値はそれぞれ−0.734(P<0.001)、−0.558(P<0.001)及び−0.650(P<0.001)とすべてHOMA‐IRを上回る相関係数を示した。
【0047】
7)M値(対数変換)を従属変数として血糖値140未満、140以上、BMI 25未満及びBMI 25以上の各条件で関連している項目を重回帰分析(ステップワイズ法)で求めたとこ ろ、血糖*IRI/ADNのみが共通の説明因子として認められた。

以上の成績より、血中アディポネクチン濃度及び新たに考案した血糖*IRI/ADN値はM値との相関においてHOMA‐IRの適用範囲外で良好な相関を示し、なおかつ血糖*IRI/ADNはHOMA‐IRが良好な相関を示した領域においてもHOMA‐IRを上回る相関を示したことより、血中アディポネクチン濃度及び血糖*IRI/ADN値はインスリン抵抗性の評価のための簡便な指標となることが実証された。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】M値、アディポネクチン濃度及びHOMA−IRの分布(ヒストグラム)を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インスリン抵抗性の評価方法であって、血液中の空腹時インスリン、空腹時血糖及びアディポネクチンを測定し、下記式(I)の計算値を指標としてインスリン抵抗性を評価する方法:
【数1】


【図1】
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【公開番号】特開2006−98100(P2006−98100A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−281680(P2004−281680)
【出願日】平成16年9月28日(2004.9.28)
【出願人】(000206956)大塚製薬株式会社 (230)
【出願人】(000138277)株式会社三菱化学ヤトロン (30)
【Fターム(参考)】