説明

インターフェロンとの相乗作用で細胞死を誘発する新規な薬品の使用

【課題】細胞死を誘発する新規な薬品の使用法を提供する。
【解決手段】好ましくない細胞の死を誘発し免疫反応を刺激するためにインターフェロンと併用して核体上でPMLタンパク質を過剰に発現させる薬品の使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞死を誘発する新規な薬品の使用、具体的には好ましくない細胞の死を誘発するためにインターフェロンと併用して核体上でPMLタンパク質を過剰に発現させる薬品の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
核体は、機能が知られていない、またPML、Sp100、ISG20、PIC−1/SUMO−1、lysp100、PLZF、Int−6、CBP、Rb、RFP、およびリボソームのpタンパク質を含む幾つかのタンパク質を含有する、核マトリックスと組み合わされた構造体である(Lamond等、1998)。PML(すなわち「ProMyelocytic Leukemia(前骨髄細肪性白血病)」)タンパク質をコードする遺伝子は、それと急性の前骨髄細胞性白血病(APL)に罹った患者に見出されるt(15;17)転位のRARα(レチノイン酸核受容体)遺伝子との融合により同定された。このPML遺伝子はインターフェロンの標的遺伝子であり、その過剰な発現は或る細胞系の増殖を停止させる(Koken等、1995)。悪性のAPL細胞中では、PMLタンパク質はPML−RARαの発現のために核体上に位置せず、正規の場所から離れて位置する。酸化ヒ素はPMLのその正常な位置への復帰ならびに細胞死を誘発する。PMLの位置が正常である正常な非APL細胞においては、ヒ素はPMLを大きな変性体になるように凝集を誘導するが、その現象は細胞死を伴わない(Zhu等、1997)。
【発明の概要】
【0003】
さて本発明者等は、核体上に位置したPMLタンパク質の過剰な発現が、カスパーゼにより誘発されたアポトーシスの機構とは異なる新規な機構により細胞死を引き起こすことを発見した。
この発見の主要な帰結は、PMLタンパク質を細胞体に向けることおよび/またはその安定化を促進する物質が、好ましくない細胞の死を誘発するために特に有用であるということである。
【0004】
PMLタンパク質を細胞体に向けることおよび/またはその安定化を誘発する前記物質は当業技術者には既知の標準試験法により同定され、細胞質および核質の部分と、核体に関連した部分との間の細胞内移行、およびPMLタンパク質の安定化の測定を、特にウェスタンブロット法により行なうことが可能である。
前記の好ましくない細胞は、特に腫瘍細胞、ウィルス感染細胞、寄生体または細菌、不適当な免疫反応に関係する免疫細胞、遺伝的に修飾された細胞、老衰または過形成細胞である。
【0005】
「腫瘍」という表現は、特に充実性の癌と、白血病およびリンパ腫を含む任意の好ましくない良性または悪性腫瘍の細胞増殖を意味するものと解釈される。悪性腫瘍の中では、特に慢性の骨髄性白血病と成人Tリンパ様白血病(ATL)、および黒色腫のことを云う。
したがって、本発明の主題は、好ましくない細胞の死を誘発することを意図する薬物を製造するための、PMLタンパク質を細胞体に向けることおよび/またはその安定化を促進する少なくとも1種類の物質の使用である。
【0006】
PMLタンパク質の発現はインターフェロンにより誘発されるので、インターフェロンの存在が、たとえ内因性起源のものであろうと、患者に同時または逐次的に投与されたものであろうと想像される治療の有効性にとって必要である。
より具体的には本発明者等は、驚くべきことにzVAD(ベンジルオキシカルボニル−Val−Ala−Asp(O−メチル)フルオロメチルケトン)が一方でPMLタンパク質を安定化し、他方でインターフェロンにより誘発される細胞死を加速するということを発見した。
【0007】
しかしながら、zVADはアポトーシス過程に含まれるプロテアーゼであるカスパーゼの阻害剤として初めのうちは知られていた(Salvesen等、1997)。これに加えて研究(McCarthy等、1997)の結果は、zVADが細胞死を妨げ、または非常に遅らせることを示した。したがって、インターフェロンにより誘発される細胞死を阻止するのではなく、これとは対照的に細胞死を加速するという本発明者等による発見は、当業者により予期されたであろう結果とは一致しない。
【0008】
より具体的には本発明の主題は、好ましくない細胞の死を誘発することを意図する薬物を製造するためのzVADなどのカスパーゼ阻害剤および/または基質の使用である。認められる細胞死の加速はPMLの安定化の結果である可能性があるが、また本発明の枠組みの中にある別の機構を含む可能性もある。
「カスパーゼ基質」という表現は、カスパーゼと結合することができる任意の化合物を意味するものと解釈される。
【0009】
また本発明者等はヒ素、より具体的には三酸化ヒ素が、一方でPMLタンパク質を細胞体に向け、他方でインターフェロンにより誘発される細胞死を加速することを発見した。
より具体的には本発明の主題は、少なくとも1種類のインターフェロンと共同して好ましくない細胞の死を誘発することを意図する薬物を製造するためのヒ素化合物またはヒ素と同じ生物学的特性を有する化合物の使用である。
【0010】
認められるこの細胞死の誘発は、PMLタンパク質を細胞体に向ける結果である可能性があるが、また本発明の枠組みの中にある別の機構を含む可能性もある。
ヒ素化合物の中では特に三酸化ヒ素またはメルアルソプロール(melarsoprol)を言及する。
【0011】
「ヒ素と同じ生物学的特性を有する化合物」という表現は、ヒ素のように、ホスファターゼの阻害剤および/またはジチオール基と結合して共有結合アダクトを作ることができる任意の化合物を意味するものと解釈される。
好ましくはカスパーゼ阻害剤および/または基質、あるいはヒ素化合物、あるいはヒ素と同じ生物学的特性を有する化合物は、好ましくない細胞の死を誘発するためにPMLタンパク質と組み合わせて、および/またはPMLタンパク質の過剰な発現を誘発する薬品と組み合わせて用いられる。PMLタンパク質の過剰な発現を誘発する薬品の中では、好ましくはα、β、またはγインターフェロンなどのインターフェロンが用いられる。
【0012】
より具体的には本発明者等は、実はヒ素、特に三酸化ヒ素だけでなく、カスパーゼ基質、特にzVADもまた細胞死を誘発し、加速するためにインターフェロンと相乗作用で働くということを発見した。
PML、またはPMLタンパク質の過剰な発現を誘発する薬品、たとえば、インターフェロンの同時または逐次的な投与は、PML、または内因性起源のPMLタンパク質、たとえば、インターフェロンの過剰な発現を誘発する薬品の量が十分である場合には必要ではないかも知れない。それにもかかわらず本発明の好ましい実施形態によれば、ヒ素、ヒ素と同じ生物学的特性を有する化合物並びにカスパーゼ阻害剤および/または基質から選択された物質の投与は、PMLタンパク質、および/またはPMLタンパク質の過剰な発現を誘発する薬品、たとえば、インターフェロンの同時または逐次的な投与と組み合わされる。
【0013】
本発明の構成部分は、好ましくない細胞の死を誘発するためにインターフェロンと組み合わせた、たとえそれが前記インターフェロンにより誘発されたPMLタンパク質が仲介しようと、また前記インターフェロンにより誘発された別の機構が仲介しようと、ヒ素化合物、ヒ素と同じ生物学的特性を有する化合物並びにカスパーゼ阻害剤および/または基質から選択された物質の使用である。
【0014】
また本発明の主題は、ヒ素化合物、ヒ素と同じ生物学的特性を有する化合物並びにカスパーゼ阻害剤および/または基質から選択された少なくとも1種類の物質の治療に有効な量を、医薬として許容されるビヒクルと組み合わせて処置などを必要とする患者に投与する治療的処置の方法である。
また、好ましくは、治療に有効な量のPMLタンパク質、および/またはPMLタンパク質、たとえば、インターフェロンの過剰な発現を誘発する薬品を前記患者に同時または逐次的に投与する。
【0015】
また、本発明の主題は、
1)医薬として許容されるビヒクルの存在下で、少なくとも1種類のヒ素化合物またはヒ素と同じ生物学的特性を有する化合物、および/またはPMLタンパク質、および/またはPMLタンパク質の過剰な発現を誘発する少なくとも1種類の薬品、たとえば、インターフェロン、と併用した少なくとも1種類のカスパーゼ阻害剤および/または基質;あるいは
2)医薬として許容されるビヒクルの存在下で、PMLタンパク質、および/またはPMLタンパク質の過剰な発現を誘発する少なくとも1種類の薬品、たとえば、インターフェロンと組み合わせた少なくとも1種類のヒ素化合物またはヒ素と同じ生物学的特性を有する化合物、
のいずれかを含む医薬組成物である。
【0016】
また、本発明の主題は、
a)(1)少なくとも1種類のカスパーゼ阻害剤および/または基質を、医薬として許容されるビヒクルと組み合わせて含有する医薬組成物、
および/または(2)少なくとも1種類のヒ素化合物またはヒ素と同じ生物学的特性を有する化合物を、薬剤として許容されるビヒクルと組み合わせて含有する医薬組成物;ならびに
b)(3)PMLタンパク質を医薬として許容されるビヒクルと組み合わせて含有する医薬組成物、
および/または(4)PMLタンパク質の過剰な発現を誘発する少なくとも1種類の薬品、たとえば、インターフェロンを、医薬として許容されるビヒクルと組み合わせて含有する医薬組成物;
を含むキットであって、前記医薬組成物が同時または逐次的な投与を意図されているキットである。
【0017】
投与の仕方および投薬量は、患者の体重、年齢、および性別だけでなく処置すべき条件およびその進行状態に左右される。
本発明によれば本発明の薬物の処方は、具体的に経口、経肛門、経鼻、筋肉内、皮内、皮下、または静脈内の経路による投与を可能にする。
予想される投与量は、例えばヒ素化合物の場合、好ましくは静脈内の経路による1日当たり1〜50mg、カスパーゼ基質、たとえば、zVADを体重1kg当たり1〜250mg、またインターフェロンの場合、好ましくは筋肉内または皮下の経路による毎日または2日に1回、1百万〜20百万国際単位(MIU)、好ましくは3〜5MIUである。
【0018】
加えて本発明者等は、核体上に位置したPMLタンパク質の過剰な発現により誘発される細胞死がカスパーゼにより誘発されるアポトーシスとは異なる特性を有することを発見した。PMLにより誘発される細胞死の場合、クロマチンの凝縮または核のフラグメンテーションなどのアポトーシスに特有な核の形態学的特徴は特に認められない。
【0019】
さらに、インターフェロンのみにより誘発される細胞死はアポトーシスの特徴を示すが、本発明者等はインターフェロンとzVADの相乗作用的組み合わせがこのアポトーシス表現型を消滅させ、次いで細胞死がアポトーシスとは異なる特徴を示すことを認めた。
この発見の主要な帰結の一つは、PMLにより誘発される機構により殺された好ましくない細胞の力が、PMLタンパク質により媒介された死を免れた類似の好ましくない細胞に対する免疫反応を引き起こすことである。
【0020】
この特性は、好ましくない細胞の死を誘発するためにおよび/または免疫反応を誘発するために、ヒ素化合物、ヒ素と同じ生物学的特性を有する化合物並びにカスパーゼ阻害剤および/または基質から選択された物質を、好ましくはインターフェロンと組み合わせて使用することを特に有利にする。
したがって、これらの薬物の投与は、生き残っている好ましくない細胞を除去する免疫系の反応を引き起こすことにより、たとえ、それらが癌細胞、感染細胞、または疾病の進展に関係する他の好ましくない細胞であろうと免疫治療または「予防接種」の形態を可能にすることになる。
【0021】
この特性は、これらの薬物、特にインターフェロンとzVADの組み合わせまたは単独のzVADが、好ましくない細胞において細胞の自殺で最もよくある生理的表現型であるアポトーシスの全特徴を示さない死の現象を引き起こすという事実と関連している。
特にカスパーゼ阻害剤zVADは、死にかかっている細胞において、ある種のカスパーゼの活性化に左右されるほとんどのアポトーシスの兆候が出現するのを妨げる。事実、カスパーゼは細胞の自殺の遂行に不可欠ではないが、他方でそれらはアポトーシス死の表現型の遂行の場合、細胞の自殺現象の間中不可欠であるらしい(Xiang J.等の論文、PNAS 1996,93:14559;Quignon F.等の論文、Nature Genetics 1998,20:259;Vercammen D.等の論文、J.Exp.Med.1998,187:1477)。
【0022】
幾つかの結果は、細胞の死に方が同様の特徴(例えば、それらを癌にかからせる異常性、またはそれらが含有する病原体の性質が含まれる)を持つ生き残っている細胞に向けられた免疫反応の誘発または別の形で重要な役割を演じることを示唆している。
細胞においてアポトーシス死現象の開始は、同様の特徴を持つ生き残っている細胞に対する免疫反応の誘発を制限する作用、あるいは免疫寛容の形態の誘発、すなわち同様の特徴を持つ生き残っている細胞に向けられた免疫応答の誘発の選択的阻害を促進する作用さえ有するであろう。幾つかの特定のモデル(インビトロまたはマウスの眼の前房によるインビボ)で得られた結果は、細胞のアポトーシス死が、一般にCD4+ Tリンパ球により仲介される遅延性過敏症型細胞依存性免疫反応(Th1と呼ばれる)(Griffith T.等の論文、Immunity 1996,5:7;Voll R.等の論文、Nature 1997,390:350;Gao Y.等の論文、J.Exp.Med.1998,188:887)、すなわち好ましくない細胞に対する有効な免疫反応の本質的な兆候の一つを代表する反応の誘発を制限または阻害した可能性があることを示唆している。
【0023】
マウスの腫瘍の特定のモデルでは、死にかかっている癌細胞中でアポトーシス表現型の部分の開始を妨げる遺伝子をこれら癌細胞中に人為的に導入することが、同様の特徴を示す生きている癌細胞に向けられた有効な免疫反応の誘発を可能にするのに対し、癌細胞におけるアポトーシス死現象の開始は、同様の特徴を示す生きている癌細胞に向けられた有効な免疫反応の誘発を起こさないことを示したが、この遺伝子を癌細胞中に人為的には導入しなかった(Melcher等の論文、1998,Nature Med.,vol.4,No.5,pp581〜587)。
【0024】
したがって、本出願に記載の薬物が死にかかっている細胞中でアポトーシス表現型の開始を引き起こさずに(または妨げながら)好ましくない細胞の死を引き起こすという発見は重要である。それは、これらの薬物が好ましくない細胞の死を引き起こす効果のみならず、薬物により誘発される死を免れた好ましくない細胞の同時に起こるまたは引き続いて起こる排除を可能にする、有効な免疫反応の付随する誘発を可能にする効果も有することを意味する。
【0025】
この特性はまた、例えばわずかに残留する悪性腫瘍細胞を通常含有する製剤など、白血病患者の移植体を意図した骨髄製剤を患者に投与する前に、好ましくない細胞を含有しそうな細胞の組合わせを生体外で処理するために利用することができる。このような処理は、製剤に含有される好ましくない細胞の死を誘発することを可能にするのみならず、処理された細胞製剤が投与される患者の体の中に存在する好ましくない細胞に向けて免疫反応を引き起こすことを可能にする。
【0026】
したがってまた本発明の主題は、好ましくない細胞をヒ素化合物、ヒ素と同じ生物学的特性を有する化合物並びにカスパーゼ阻害剤および/または基質から選択された物質と接触させることを含む、好ましくない細胞の死を誘発するためのインビトロの方法であって、前記物質を好ましくはPMLタンパク質と、および/またはPMLタンパク質の過剰な発現を誘発する薬品、好ましくはインターフェロンと組み合わせることができる。
【0027】
下記の実施例および図は本発明を例示するものであって、その範囲を制限するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1A】いろいろな濃度のZnCl2に4時間暴露した後のクローンREF(T)PML中における90kDのPMLタンパク質の誘発を示す図である。
【図1B】150μMのZnCl2に4時間30分暴露した後のREF(T)PML細胞または対照細胞のFACS分析を示す図である。左側のパネルは細胞の大きさに対するDNA含有量を示す。右側のパネルは蛍光の関数としてDNA含有量を示す(TUNEL法)。
【図1C】ZnCl2、エトポシド、またはカスパーゼ阻害剤zVADで処理した、または処理しないREF(T)PML細胞のサイトメトリー分析を示す図である。標識はアネキシンV−FITC(左側のパネル)またはローダミン123(右側のパネル)で行なう。アポトーシス細胞の百分率を示す。
【図2A】PMLにより誘発された細胞死の間PARPの開裂がないことを示す図である。細胞は150μM ZnCl2、エトポシド、またはzVADで処理した。
【図2B】対照REF(T)細胞またはREF(T)PML細胞中のDEVD−pNAの開裂により決定されるカスパーゼCPP32の活性を示す図である。3回の独立の測定に対する相対的吸光度の値を示す。
【図3A】1000U/mlのINFαで処理した単核細胞の生存率を示す図である。5つのうちの1つの代表的な実験を示す。TUNEL試験は細胞数の減少がアポトーシスによることを示している。
【図3B】zVAD(100μM)添加24時間後の効果を示すヒストグラムを表す図である。11回の実験の平均値±標準偏差を示す。
【図4A】zVADがREF(T)細胞中のPMLタンパク質を安定化させることを示す図である。
【図4B】αインターフェロン(1000U/ml)がREF(T)PML細胞中のラットのPMLを誘発させることを示す図である。矢印はPMLの特異なイソ型タンパク質を示す。
【実施例】
【0029】
材料および方法
プラスミド構築物;マウスのメタロチオネインプロモーターのSacI−BglII断片(−69、+55塩基対)をプラスミドpKSに挿入し、PMLcDNAのBglII−BamHI断片と融合してプラスミドpKSmMT−PMLとした。GFP−PMLの融合のため、同一のPML断片をベクターpEGFP−1(Clontech)のBglII部位に挿入した。またPMLを発現するレトロウィルスのベクターも、SRαtkneo(Muller等、1991)のEcoRI部位にPML用の完全長さのcDNA(de The等、1991)を挿入することにより構築した。
【0030】
細胞の培養
REF(T)およびMEF(T)細胞は、SV40T発現ベクターにより不死化したラットおよびマウスの胎児性繊維芽細胞である。REF(K1)細胞はRbを結合しないSV40T変異体により不死化され、F111細胞は自然に不死化した3T3ラットの繊維芽細胞である。クローン生成性試験のために、直径10cmの培養皿で細胞に10μgのSRαtkneo−PMLまたはSRαtkneoをトランスフェクトし、ネオマイシン(500μg/ml)により選択した。誘導クローンを得るために、REF(T)細胞のプールにプラスミドpKSmMT−PMLおよびヒグロマイシン耐性ベクター(DSP−Hygro)を共トランスフェクトした。耐性コロニーをZnCl2(150μM)で4時間処理した後、PMLの発現を試験し、限界希釈によりクローニングの第二周期を受けさせた。誘導CHOクローンを同様の方法で構築した。単核細胞はEstaquier等(1997)の方法に従って調製した。エトポシド(100μMで16〜24時間用いた)はBiomol Research Laboratoriesから調達し、zVAD(ベンジルオキシカルボニル−Val−Ala−Aspフルオロメチルケトン、250μg/mlで用いた)はBachemから販売されており、またラットIFNαはAccess BioMedicalから販売されている。ヒトのαインターフェロンはSchering−Ploughにより提供された。ヒトのPMLタンパク質に対する抗体についてはDaniel等(1993)による記事の中に記載されている。ラットの内因性PMLタンパク質のウェスタンブロット実験は、ラットのPMLとヒトのPMLの両方を検出するモノクローナル抗体5E10により行なった。
【0031】
細胞死の評価
細胞は、熱で不活性化したウシ胎児血清の存在下または不存在下で150μM ZnCl2で2時間処理(別に指定されない限り)し、次いで細胞を洗浄し、ZnCl2を含まない培地でインキュベートした。TUNEL試験は、固定化のステップ(リン酸塩PBS緩衝液に溶かした4%ホルムアルデヒドで10分間)を除いては製造元の手引き書(Boehringer Mannheim、生体内原位置で細胞死を検出するためのキット)に従って行なった。細胞DNAの含有量は4℃のRNアーゼA 100μg/mlの存在下、ヨウ化プロピジウム50μg/ml中で10分間インキュベートすることにより求めた。細胞膜の外側シート上のホスファチジルセリンの発現分析は、アネキシン−V−フルオスによる標識化(Boehringer Mannheim)およびローダミン123(分子プローブ)によるミトコンドリアの極性の喪失を用いて、製造元の手引き書に従って行なった。
【0032】
試料はFACScanアナライザー(LysisIIソフトウェア、Becton Dickinson)で分析した。カスパーゼの基質の開裂には、5×106個の細胞をPBS緩衝液で洗浄し、4℃の溶解緩衝液(10mM HEPES(pH7.4)、2mM EDTA、2mM DTT、CHAPS 0.1%)200μl中で1時間インキュベートした。遠心分離した後、上澄み液20μlと、反応緩衝液(100mM HEPES(pH7.4)、グリセロール 2%、5mM DTT、0.5mM EDTA、50μM DEVD−pNA(Biomol Research Laboratories))180μlとを混合し、37℃で4時間インキュベートした後、405nmで吸光度を測定した。抗PARPポリクローナル抗体SA−252はBiomol Research Laboratoriesにより販売されている。
【0033】
実施例1
PMLはzVADと無関係に細胞死を誘発する:
様々な繊維芽細胞系へのPML発現ベクター(pSG5−PML)のトランスフェクションは、細胞増殖巣の形成を実質的に低下させた。PMLはPMLをトランスフェクトされた細胞から得られたクローン中には検出されないので、これらの結果はPMLが細胞周期または細胞の生存のいずれかに主要な阻害効果を発揮することを意味する。この効果の基礎を形成する機構を理解するために、SV40Tで形質転換したラットの胚の繊維芽細胞(REF)のプールにプラスミドpKSmMT−PMLをトランスフェクトした。そのPMLの発現はマウスのメタロチオネインプロモーターの制御下にある。続いて、得られた3つのREF(T)PMLクローンを試験し、一方空のベクターを持つ3つのREF(T)クローンを対照として試験した。PMLタンパク質はZnCl2に2時間暴露した後、ウェスタンブロット法により検出した(発現は50μM以上のZnCl2から検出され、150μMのZnCl2で平衡状態を示す)(図1A)。
【0034】
PMLの発現は、50μMのZnCl2に対する48時間から、150μMに対する6時間まで変化する反応速度を有する全細胞集団の同調した細胞死を誘発した。150μMのZnCl2による3時間の誘発の結果、3つのREF(T)PMLクローンには形態学的変化が観察された。細胞は細胞質の明らかな収縮により集まり(図1B)、TUNEL試験で陽性になり(図1B)、次いで皿から徐々に離れた。それにもかかわらず、これらはトリパンブルーを排除する能力を維持した。これらの変化は、適度のサブG1 DNA含有量(図1B)、膜ホスファチジルセリンの外面化(図1C)、およびミトコンドリアのトランスメンブレンポテンシャルの低下(図1C)と関連している。類似の変化は遺伝子毒性物質のエトポシドにより誘発されたアポトーシスに観察されたが、ZnCl2で処理した対照のREF(T)細胞には全く見られなかった(図1BおよびC)。エトポシドによる処理とは異なり、PMLにより誘発された細胞死は、細胞死の過程の後期でさえクロマチンの凝縮または核の断片化などのアポトーシスに特有な核の形態学的特徴とは関連がない。DNAの開裂(陽性サブG1(図1B)およびDNA粘度の低下)にもかかわらず、PMLにより誘発された細胞死はインターヌクレオソームのDNA規模とは関連がなく、弱い正のTUNEL信号と一致する(図1B)。
【0035】
対照
REF(T)細胞はSV40Tにより形質転換された細胞系であるので、PMLにより誘発された細胞死に対するSV40ウィルスの「大型T」癌遺伝子の寄与を排除するために幾つかの実験を行なった。最初に、PMLの発現はREF(T)PML細胞中のSV40Tの発現または位置決めに悪影響を及ぼさず、p53、またはSV40ウィルスの「大型T」癌遺伝子からのp53の放出物も分解させなかった。第二に、融合タンパク質GFP−PMLまたはGFP単独のいずれかを一時的にトランスフェクトされたHeLaまたはCHO細胞において、全てのGFP−PML陽性細胞は、対照のGFP陽性細胞とは異なり次第に皿から離れるようになり死ぬ。第三に、プラスミドpKSmMT−PMLを安定的にトランスフェクトされたCHO細胞において、ZnCl2による誘発はここで再びPMLタンパク質を発現するクローンの死に繋がった。最後に、熱に敏感なSV40T変異体を発現するREF細胞では、SV40Tの39.5℃における分解はPMLにより引き起こされる細胞死に影響しなかった。
【0036】
細胞死の誘発は新たに転写を必要としてもよく、あるいは先在する経路の引金をひくことを考慮してもよい。REF(T)PML細胞を最初にZnCl2およびシクロヘキシミドと共に2時間インキュベートし、こうして翻訳ではなくPML用のmRNAの合成を可能にする。次いで細胞を洗浄し、mRNAの新合成ではなくPML用のmRNAの翻訳を可能にするために、単独のアクチノマイシンDと共にインキュベートした。この実験において阻害剤なしで細胞死が認められ、これは新たに転写を必要としないことを示している。PMLにより誘発される死は細胞周期のS期に向けて転位を必要とせず、また誘発しない。事実、PMLはアフィジコリンで処理することによりG1/S段階で阻止されてきたREF(T)PML細胞の死の常に引金になる。さらに、ZnCl2で誘発した後、BrdUに様々な回数暴露した結果、DNAの複製は2時間までは変更されなかったが3時間後に停止したこと、および細胞死は細胞周期の全ての期に存在したことが示された(図1B)。
【0037】
実施例2
ヒ素はPMLにより引き起こされた細胞死を促進する:
REF(T)PML細胞をZnCl2および10-6M As23で処理した場合、細胞死と関連した形態学的変化が激しく加速されることが認められた。同様の方法でTUNEL試験により判定されるDNAの開裂を増大させた(ZnCl2単独の場合の45%に対して、ZnCl2およびAs23で共処理した場合の陽性細胞は117%、一方As23単独では基底水準に対して少しの増加も誘発しなかった)。ヒ素が核体上のPMLの位置決めと同時に細胞死の誘発を増大させるという事実は、核体の近くにPMLを位置決めすることが細胞死にとって重要であることを示唆している。
【0038】
実施例3
PMLにより引き起こされる死はカスパーゼの活性化とは関連がない:
プログラム化された細胞死の実行は、核および細胞質のタンパク質の開裂によるアポトーシスの表現型変化を誘発するカスパーゼのタンパク質加水分解の活性化を伴うことが知られている(Salvesen等、1997)。エトポシドにより誘発されるアポトーシスを阻止するカスパーゼ阻害剤zVADは、PMLにより誘発される細胞死を阻害せず(図1C)、逆説的にそれを加速しさえする(正のTUNEL信号はZnCl2単独では45%に対して、zVADとZnCl2では71%)。これらの観察は、zVADに敏感な執行薬品はPMLにより誘発される細胞死にとって必要ではないことを意味する。さらに、CPP32(カスパーゼ3)すなわちアポトーシスに関わる最も重要なカスパーゼは、その基質の一つであるPARP(ポリ(ADPリボース)ポリメラーゼ)が非開裂性のまま残るので、PMLにより誘発される細胞死の間ずっと活性化されないように見える(図2A)。エトポシドとは異なり、比色カスパーゼ基質、YVAD−pNa(カスパーゼクラス1、Boehringer Mannheim)、およびDEVD−pNa(カスパーゼクラス3、Boehringer Mannheim)はPMLによる誘発後、著しい開裂を検出することができなかった(図2B)。
【0039】
実施例4
ヒ素およびzVADは、PMLおよびインターフェロンにより誘発される細胞死を増大させる:
αインターフェロンに曝された一次単核細胞には段階的な細胞死がもたらされ、7日後に細胞培養物は完全に消滅した(図3Aおよび3B)。αインターフェロンと共にzVADを添加している間中、インターフェロン単独の場合に認められた核の断片化およびクロマチンの凝縮なしに細胞集団全体の死が24時間以内に認められた(図3Aおよび3B)。zVAD単独の場合、細胞死は20日間ほとんどの一次培養物(8/11)においてほとんどまたは全く認められなかった(図3Aおよび3B)。zVAD単独の場合、11のうち3つの培養物で7日後に一部の培養物の死を誘発したが、この結果は多分インターフェロンの内因性分泌を反映している。同様の結果はDEVDなどの他のカスパーゼ阻害剤でも得られた。
【0040】
下記の表は、TUNEL法により求めたIFNα 1000U/mlと、10-6MのAs23またはzVADとで2日間処理したREF(T)PML細胞の細胞死を表す。
【0041】
【表1】

【0042】
REF(T)細胞において、αインターフェロンとzVAD、またはαインターフェロンとAs23のいずれかの間でかなりの相乗作用が見られた(正のTUNEL信号はαインターフェロン単独では42%、zVADおよびヒ素ではそれぞれ60%および63%)。
zVADはPMLの発現レベルを増大させ(図4A)、またヒ素はその核体との結合を増大させ、一方PMLの総量は低下した。zVADおよびヒ素の相乗作用と、PMLおよびインターフェロンにより引き起こされた細胞死との類似性は、PMLがインターフェロンにより誘発される細胞死に関わっていることを示唆している。さらにαインターフェロンは50μM ZnCl2と同様の反応速度をもつ細胞死を誘発し、この2つは同様な量のPMLタンパク質を誘発した(図4B)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
好ましくない細胞の死を誘発することおよび/または免疫反応を刺激することを意図する薬物を製造するために、PMLタンパク質および/またはPMLタンパク質の過剰な発現を誘発する薬品と組み合わせた、PMLタンパク質を核体に向けることおよび/またはその安定化を促進する物質、および/またはヒ素化合物と、ヒ素と同じ生物学的特性を有する化合物と、カスパーゼ阻害剤および/または基質とから選択される物質の、少なくとも1種類の物質の使用であって、前記物質の投与、および/またはPMLタンパク質および/またはPMLタンパク質の過剰な発現を誘発する前記薬品の投与が同時または逐次的である、前記使用。
【請求項2】
前記物質が三酸化ヒ素である、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記物質がzVADである、請求項1に記載の使用。
【請求項4】
PMLタンパク質の過剰な発現を誘発する前記薬品が、インターフェロン、たとえば、α、β、またはγインターフェロンである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の使用。
【請求項5】
好ましくない細胞の死を誘発することおよび/または免疫反応を刺激することを意図する薬物を製造するためにインターフェロンと組み合わせた、ヒ素化合物と、ヒ素と同じ生物学的特性を有する化合物と、カスパーゼ阻害剤および/または基質とから選択される少なくとも1種類の物質の使用であって、前記物質の投与、およびインターフェロンの投与が同時または逐次的である、前記使用。
【請求項6】
好ましくない細胞を、ヒ素化合物と、ヒ素と同じ生物学的特性を有する化合物と、カスパーゼ阻害剤および/または基質とから選択される物質に接触させることを含む、好ましくない細胞の死を誘発するためのインビトロの方法であって、前記物質をPMLタンパク質および/またはPMLタンパク質の過剰な発現を誘発する薬品、好ましくはインターフェロンと組み合わせる、前記方法。
【請求項7】
1)医薬として許容されるビヒクルの存在下で、少なくとも1種類のヒ素化合物またはヒ素と同じ生物学的特性を有する化合物、および/またはPMLタンパク質、および/またはPMLタンパク質の過剰な発現を誘発する少なくとも1種類の薬品、たとえば、インターフェロンと併用された、少なくとも1種類のカスパーゼ阻害剤および/または基質、または
2)医薬として許容されるビヒクルの存在下で、PMLタンパク質、および/またはPMLタンパク質の過剰な発現を誘発する少なくとも1種類の薬品、たとえば、インターフェロンと組み合わせた、少なくとも1種類のヒ素化合物またはヒ素と同じ生物学的特性を有する化合物、のいずれかを含有する医薬組成物。
【請求項8】
a)(1)医薬として許容されるビヒクルと組み合わせた、少なくとも1種類のカスパーゼ阻害剤および/または基質を含有する医薬組成物、および/または(2)医薬として許容されるビヒクルと組み合わせた、少なくとも1種類のヒ素化合物またはヒ素と同じ生物学的特性を有する化合物を含有する医薬組成物、ならびに
b)(3)医薬として許容されるビヒクルと組み合わせたPMLタンパク質を含有する医薬組成物、および/または(4)医薬として許容されるビヒクルと組み合わせた、PMLタンパク質の過剰な発現を誘発する少なくとも1種類の薬品、たとえば、インターフェロンを含有する医薬組成物、を含むキットであって、
前記医薬組成物が同時または逐次的に投与されることを意図している、前記キット。
【請求項9】
好ましくない細胞の死を誘発することおよび/または免疫反応を刺激することを意図する薬物を製造するための、PMLタンパク質を核体に向けることおよび/またはその安定化を促進する、ヒ素化合物以外の少なくとも1種類の物質の使用。
【請求項10】
好ましくない細胞の死を誘発することおよび/または免疫反応を刺激することを意図する薬物を製造するための、カスパーゼ阻害剤および/または基質から選択された少なくとも1種類の物質の使用。
【請求項11】
前記物質がzVADである、請求項10に記載の使用。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4A】
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【図4B】
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【公開番号】特開2011−190280(P2011−190280A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−138614(P2011−138614)
【出願日】平成23年6月22日(2011.6.22)
【分割の表示】特願2000−563299(P2000−563299)の分割
【原出願日】平成11年7月30日(1999.7.30)
【出願人】(500248467)アンスティテュ ナシオナル ドゥ ラ サントゥ エ ドゥ ラ ルシェルシェ メディカル(イーエヌエスエーエールエム) (19)
【出願人】(501089863)サントル ナシオナル ドゥ ラ ルシェルシェサイアンティフィク(セエヌエールエス) (173)
【Fターム(参考)】