説明

インターフェロンに対する感受性又は応答性を予測する方法、キット及びマーカー遺伝子

【課題】IFN投与を必要としている患者及び被検細胞のIFNに対する感受性又は応答性を予測する方法を提供すること。
【解決手段】本発明は、被検細胞のIFNに対する感受性又は応答性を予測する方法であって、HepG2細胞、SK−HEP−1細胞、HLE細胞及びHep3B細胞からなる群から選択されるいずれかの対照細胞と上記被検細胞とにおけるKLF4遺伝子、HSF2BP遺伝子及びANKRD12遺伝子からなる群から選択されるマーカー遺伝子又はその翻訳産物の発現量を測定する測定ステップと、上記被検細胞における上記マーカー遺伝子又はその翻訳産物の発現量と上記対照細胞における上記マーカー遺伝子又はその翻訳産物の発現量とをそれぞれ比較する比較ステップと、上記被検細胞が、IFN非感受性若しくはIFN非応答性の細胞、又は、IFN感受性若しくはIFN応答性の細胞、であると予測する予測ステップと、を備える方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インターフェロンに対する感受性又は応答性を予測する方法、キット及びマーカー遺伝子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、患者の個人差を考慮した医療、すなわち個別化医療が重要視されており、患者に対する薬剤の効果を予測する方法が積極的に探索されている。患者の薬剤に対する感受性又は応答性を薬剤の投与前や投与初期に予測してから薬剤を投与していくことは、薬剤の有効性や有用性を高めるだけでなく、無意味な薬剤投与を控えて治療費用を節減し、さらには副作用を回避する面からも重要である。
【0003】
肝癌とは、肝内に発生する悪性腫瘍をいい、肝臓で原発性に発生する肝細胞癌と、肝外臓器で発生して肝内に転移した肝転移肝癌とに大別される。肝癌患者の90%以上は肝炎ウィルスの感染者であり、肝癌の発症リスクを有するウィルス性肝炎患者の数は、日本全国で300万人ともいわれている。
【0004】
インターフェロン(以下、IFN)は、C型慢性肝炎や肝硬変に対するウィルス駆除剤として使用されている。IFN投与によるウィルス駆除療法は、ウィルス駆除又は肝機能改善効果を示すばかりか、結果的にC型慢性肝炎・肝硬変から肝癌への移行を抑制することが明らかとなっているため、C型慢性肝炎及び肝硬変に対してIFNを積極的に使用することが推奨されている。このIFN投与による肝癌発生の抑制メカニズムとしては、極初期の不顕性な段階にある肝癌細胞に対してIFNが直接的に増殖抑制作用を示すことが寄与すると考えられている。実際に、in vitro試験において、IFNは肝癌細胞の増殖を抑制することが知られており、肝癌の発生又は進行を抑える治療剤としての効果も認められつつある。
【0005】
IFNの投与前に患者のIFNに対する感受性又は応答性を予測する方法としては、C型肝炎患者から採取した肝細胞におけるJAK結合タンパク質遺伝子又はCIS3遺伝子の発現量を測定する方法(特許文献1)が報告され、肝癌におけるIFN及び5−FUの併用療法に対する感受性又は応答性を予測する方法としては、IFNAR2遺伝子の発現を解析対象とする方法(非特許文献1)が報告されている。
【0006】
一方、Kruppel−like factor 4(KLF4と略される。)は、Kruppel−like factor(KLFと略される。)ファミリーに属する転写因子であり、Endothelial Kruppel−like Zinc Finger Protein(EZFと略される。)やGut−enriched Kruppel−like Factor(GKLFと略される。)とも呼ばれるタンパク質である。KLF4は、細胞の成長、増殖、分化及び胚発生において様々な制御を行っていることが知られ(非特許文献2)、消化管癌及び白血病では腫瘍抑制因子として働くことを示唆する報告(非特許文献3〜5)、乳癌(非特許文献6)及び口腔扁平上皮細胞癌(非特許文献7)では癌の進行期に発現量が増加することを示す報告、早期浸潤乳管癌においては悪性表現型のマーカー遺伝子であるとする報告(非特許文献8)がなされているが、その機能の詳細や癌の増殖における役割については未だ明らかになっていない。
【0007】
Heat shock transcription factor 2−binding protein(HSF2BPと略される。)は、熱ショックタンパク質(Heat shock protein)の発現を制御する転写因子であるHeat shock transcription factor 2に結合して相互作用をするタンパク質であるが、その機能の詳細については明らかになっていない(非特許文献9)。
【0008】
Ankyrin repeat domein 12(ANKRD12と略される。)は、Ankyrin repeat−containing cofactor 2(ANCO2と略される。)又はKIAA0874とも呼ばれるタンパク質であるが、その機能についてはほとんど明らかになっていない(非特許文献10)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2002−125683号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Naganoら、Cancer、2007年、第110巻、p.2493−2501
【非特許文献2】Ghalebら、Cell Res.、2005年、第15巻、第2号、p.92−96
【非特許文献3】Dangら、Oncogene、2003年、第22巻、第22号、p.3424−3430
【非特許文献4】Weiら、Cancer Res.、2005年、第65巻、第7号、p.2746−2754
【非特許文献5】Yasunagaら、Cancer Res.、2004年、第64巻、第17号、p.6002−6009
【非特許文献6】Fosterら、Cancer Res.、2000年、第60巻、第22号、p.6488−6495
【非特許文献7】Fosterら、Cell Growth Differ.、1999年、第10巻、第6号、p.423−434
【非特許文献8】Pandyaら、Clin Cancer Res.、2004年、第10巻、第8号、p.2709−2719
【非特許文献9】Yoshimaら、Gene、1998年、第214巻、p.139−146
【非特許文献10】Nagaseら、DNA Res.、1998年、第5巻、p.355−364
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、IFNの投与はすべてのC型慢性肝炎患者、肝硬変患者及び肝癌患者に対してその効果を示すわけではなく、重篤な副作用を伴う可能性もあることから、IFNに対する感受性又は応答性の低い患者、すなわちINF非感受性又は非応答性の患者に対するIFNの投与は慎重にすべきであると考えられる。
【0012】
また、現在、IFNに対する感受性又は応答性を予測する方法で明確な判定基準のある方法はないため、臨床の現場において、患者へのIFNの投与前に適用可能な新たな方法の開発が必要であると考えられる。
【0013】
そこで本発明は、IFNの投与を必要としている患者及び被検細胞のIFNに対する感受性又は応答性を予測する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、肝癌細胞におけるKruppel−like factor 4、Heat shock transcription factor 2−binding protein又はAnkyrin repeat domein 12の発現量と、IFNによる肝癌細胞の増殖抑制効果に相関があることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0015】
すなわち、本発明は、以下の(1)〜(7)に記載した、被検細胞のIFNに対する感受性又は応答性を予測する方法を提供する。
(1) 被検細胞のIFNに対する感受性又は応答性を予測する方法であって、HepG2細胞、SK−HEP−1細胞、HLE細胞及びHep3B細胞からなる群から選択されるいずれかの対照細胞と上記被検細胞とにおける、Kruppel−like factor 4(以下、KLF4)遺伝子、Heat shock transcription factor 2−binding protein(以下、HSF2BP)遺伝子及びAnkyrin repeat domein 12(以下、ANKRD12)遺伝子からなる群から選択されるマーカー遺伝子又はその翻訳産物の発現量を測定する測定ステップと、上記被検細胞における上記マーカー遺伝子又はその翻訳産物の発現量と、上記対照細胞における上記マーカー遺伝子又はその翻訳産物の発現量とをそれぞれ比較する比較ステップと、下記の(a)〜(c)のいずれかである場合に、上記被検細胞はIFN非感受性又はIFN非応答性の細胞であると予測し、下記の(d)〜(f)のいずれかである場合に、上記被検細胞はIFN感受性又はIFN応答性の細胞であると予測する予測ステップと、を備える方法。
(a) 上記被検細胞におけるKLF4遺伝子又はその翻訳産物の発現量が、上記対照細胞における発現量と比較して0.5倍以下である場合
(b) 上記被検細胞におけるHSF2BP遺伝子又はその翻訳産物の発現量が、上記対照細胞における発現量と比較して0.5倍以下である場合
(c) 上記被検細胞におけるANKRD12遺伝子又はその翻訳産物の発現量が、上記対照細胞における発現量と比較して0.5倍以下である場合
(d) 上記被検細胞におけるKLF4遺伝子又はその翻訳産物の発現量が、上記対照細胞における発現量と比較して4倍以上である場合
(e) 上記被検細胞におけるHSF2BP遺伝子又はその翻訳産物の発現量が、上記対照細胞における発現量と比較して2倍以上である場合
(f) 上記被検細胞におけるANKRD12遺伝子又はその翻訳産物の発現量が、上記対照細胞における発現量と比較して2倍以上である場合
(2) 上記被検細胞は、ヒト由来の癌細胞である、上記(1)に記載の方法。
(3) 上記癌細胞は、肝癌細胞である、上記(2)に記載の方法。
(4) 上記IFNは、I型IFNである、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の方法。
(5) 上記I型IFNは、IFNβ又はIFNαである、上記(4)に記載の方法。
(6) 下記の(g)〜(j)のいずれかを含む、被検細胞のIFNに対する感受性又は応答性を予測するキット。
(g) KLF4遺伝子、HSF2BP遺伝子及び/又はANKRD12遺伝子をPCRで増幅するためのPCRプライマーセット
(h) KLF4遺伝子、HSF2BP遺伝子及び/又はANKRD12遺伝子にハイブリダイズするポリヌクレオチドプローブ
(i) 上記ポリヌクレオチドプローブが固定された固相化試料
(j) KLF4遺伝子、HSF2BP遺伝子及び/又はANKRD12遺伝子の翻訳産物に特異的に結合する抗体
(7) KLF4遺伝子、HSF2BP遺伝子及びANKRD12遺伝子からなる群から選択され、被検細胞のIFNに対する感受性又は応答性を予測するマーカー遺伝子。
【発明の効果】
【0016】
本発明の方法によれば、患者から採取した被検細胞におけるマーカー遺伝子であるKLF4遺伝子、HSF2BP遺伝子若しくはANKRD12遺伝子又はそれらのいずれかの翻訳産物の発現量を測定し、対照細胞におけるそれらの発現量と比較することによって、被検細胞のIFNに対する感受性又は応答性を予測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】ヒト肝癌細胞におけるKLF4のmRNA発現量とIFNによる肝癌細胞増殖抑制効果(IC30値)の相関を表すグラフである。
【図2】ヒト肝癌細胞におけるHSF2BPのmRNA発現量とIFNによる肝癌細胞増殖抑制効果(IC30値)の相関を表すグラフである。
【図3】ヒト肝癌細胞におけるANKRD12のmRNA発現量とIFNによる肝癌細胞増殖抑制効果(IC30値)の相関を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の被検細胞のIFNに対する感受性又は応答性を予測する方法は、HepG2細胞、SK−HEP−1細胞、HLE細胞及びHep3B細胞からなる群から選択されるいずれかの対照細胞と上記被検細胞とにおける、KLF4遺伝子、HSF2BP遺伝子及びANKRD12遺伝子からなる群から選択されるマーカー遺伝子又はその翻訳産物の発現量を測定する測定ステップと、上記被検細胞における上記マーカー遺伝子又はその翻訳産物の発現量と、上記対照細胞における上記マーカー遺伝子又はその翻訳産物の発現量とをそれぞれ比較する比較ステップと、下記の(a)〜(c)のいずれかである場合に、上記被検細胞はIFN非感受性又はIFN非応答性の細胞であると予測し、下記の(d)〜(f)のいずれかである場合に、上記被検細胞はIFN感受性又はIFN応答性の細胞であると予測する予測ステップと、を備えることを特徴としている。
(a) 上記被検細胞におけるKLF4遺伝子又はその翻訳産物の発現量が、上記対照細胞における発現量と比較して0.5倍以下である場合
(b) 上記被検細胞におけるHSF2BP遺伝子又はその翻訳産物の発現量が、上記対照細胞における発現量と比較して0.5倍以下である場合
(c) 上記被検細胞におけるANKRD12遺伝子又はその翻訳産物の発現量が、上記対照細胞における発現量と比較して0.5倍以下である場合
(d) 上記被検細胞におけるKLF4遺伝子又はその翻訳産物の発現量が、上記対照細胞における発現量と比較して4倍以上である場合
(e) 上記被検細胞におけるHSF2BP遺伝子又はその翻訳産物の発現量が、上記対照細胞における発現量と比較して2倍以上である場合
(f) 上記被検細胞におけるANKRD12遺伝子又はその翻訳産物の発現量が、上記対照細胞における発現量と比較して2倍以上である場合
【0019】
「IFNに対する感受性又は応答性」とは、細胞においてIFNの刺激又は作用により反応又は効果が誘発され得る性質や、細胞のIFN受容性をいう。IFN感受性又はIFN応答性の細胞とは、IFN受容性が高く、IFNにより反応又は効果が誘発される細胞のことをいい、IFN非感受性又はIFN非応答性の細胞とは、IFN受容性がないか又は低く、IFNにより反応又は効果が誘発されない又は誘発されても十分ではない細胞のことをいう。
【0020】
IFNの刺激又は作用により誘発される反応又は効果としては、例えば、抗ウィルス効果や癌細胞の増殖抑制効果が挙げられる。
【0021】
「被検細胞」とは、患者の罹患部位から採取した細胞をいうが、癌患者から採取した癌細胞、すなわちヒト由来の癌細胞であることが好ましく、肝癌患者から採取した肝癌細胞であることがより好ましい。
【0022】
被検細胞としては、例えば癌細胞のような病巣となる細胞が、正常細胞の一部に含まれる状態のものであってもよいが、できるだけ正常細胞を除去した細胞であることが好ましい。
【0023】
「対照細胞」とは、KLF4遺伝子、HSF2BP遺伝子若しくはANKRD12遺伝子又はそれらのいずれかの翻訳産物の発現量と、IFNに対する感受性又は応答性の関係が既知である細胞をいい、IFN非感受性又はIFN非応答性の細胞であるヒト肝癌細胞株のHepG2細胞、SK−HEP−1細胞、HLE細胞又はHep3B細胞から選択されるのが好ましい。
【0024】
一方で、IFN感受性又はIFN応答性の細胞を対照細胞とするのであれば、ヒト肝癌細胞株であるPLC/PRF/5細胞が好ましい。
【0025】
被検細胞におけるKLF4遺伝子、HSF2BP遺伝子若しくはANKRD12遺伝子又はそれらのいずれかの翻訳産物の発現量の測定としては、被検細胞における該mRNA又はタンパク質の発現量を測定すればよいが、該mRNAの発現量を測定することが好ましい。
【0026】
細胞におけるmRNAの発現量の測定は、RT−PCR(Reverse Transcriptase Polymerase Chain Reaction)法やポリヌクレオチドプローブとハイブリダイズさせる方法等、公知の方法(例えば、Sambrookら、Molecular Cloning、第2版、Cold Spring Harbor Lab.Press、1989年)で測定することができるが、RT−PCR法で測定することが好ましい。
【0027】
RT−PCR法とは、細胞からRNA(total RNA又はmRNA)を抽出し、RNAからcDNAを合成後、PCR(Polymerase Chain Reaction)する方法をいうが、PCRとしてはリアルタイムPCRが好ましい。また、KLF4、HSF2BP及びANKRD12のDNA塩基配列は既に公知であるため、PCRする場合は、該DNA塩基配列に基づいてプライマーを適宜設定することができる。このプライマーとしては、該DNA塩基配列に特異的な配列を増幅するものが好ましい。
【0028】
PCRについては、PCR増幅産物の収率及び特異性が最適化された反応条件を選択可能であるが、重要な反応パラメータとしては、例えば、プライマーの長さ及び塩基配列、アニーリング及び伸長工程の温度並びに反応時間、Mgイオン濃度又は塩濃度が挙げられる。
【0029】
ポリヌクレオチドプローブとハイブリダイズさせる方法としては、例えば、サザンブロット法、ポリヌクレオチドプローブが固定された固相化試料を用いるDNAマイクロアレイ法、又は、細胞からRNAを抽出し、該mRNAをポリヌクレオチドプローブとハイブリダイズさせるノーザンブロット法若しくはRNaseプロテクションアッセイが挙げられるが、KLF4、HSF2BP又はANKRD12のDNA塩基配列に特異的な配列をポリヌクレオチドプローブとして設計する必要がある。ここで、該DNA塩基配列に特異的な配列かどうかは、BLAST解析により確認することができる。
【0030】
また、mRNAの発現量の測定において標準化のために用いるハウスキーピング遺伝子としては、例えば、Glyceraldehyde−3−phosphate dehydrogenase(GAPDH又はG3PDHと略される。)、β−アクチン又はβ2−マイクログロブリンあるいはこれらの組み合わせが挙げられる。
【0031】
タンパク質の発現量の測定は、細胞をLysis Bufferで溶解後、抗体を用いたELISA(Enzyme−Linked Immunosorbent Assay)、RIA(Radioimmunoassay)又はウェスタンブロッティング等、公知の方法で測定することが出来る。
【0032】
タンパク質の発現量の測定には特異的抗体が必要であるが、特異的抗体は、ポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体のいずれでも構わない。KLF4、HSF2BP及びANKRD12のDNA塩基配列は既に公知であるため、これらのタンパク質の特異的抗体は、これらのタンパク質を抗原として用い、公知の抗体又は抗血清の製造方法で製造することができる。以下に、これらの製造方法を例示する。
【0033】
モノクローナル抗体産生細胞の製造においては、まず、抗原で免疫された温血動物を準備する。抗原で免疫された温血動物は、抗原となるタンパク質を、温血動物の抗体産生が可能な部位に投与することで得られる。抗原となるタンパク質は単独で投与してもよいし、担体又は希釈剤とともに投与しても構わない。また、抗体産生能を高めるため、完全フロイントアジュバントや不完全フロイントアジュバント等のアジュバントを同時に投与してもよい。
【0034】
抗原となるタンパク質は、通常、2〜6週毎に1回ずつの頻度で、計2〜10回程度投与する。抗原となるタンパク質を投与する温血動物としては、例えば、サル、ウサギ、イヌ、モルモット、マウス、ラット、ヒツジ、ヤギ又はニワトリが挙げられるが、マウス又はラットが好ましい。
【0035】
モノクローナル抗体産生ハイブリドーマ、すなわちモノクローナル抗体産生細胞は、抗原で免疫された温血動物、すなわち抗体価の認められた温血動物から、抗原となるタンパク質の最終投与より2〜5日後に脾臓又はリンパ節を採取し、それらに含まれる抗体産生細胞を同種又は異種動物の骨髄腫細胞と融合させることによって製造することができる。なお、温血動物の抗血清中の抗体価の測定方法としては、例えば、標識化ペプチドと抗血清とを反応させた後、抗体に結合した標識化ペプチドの活性を測定する方法が挙げられる。
【0036】
抗体産生細胞と骨髄腫細胞とは、公知の方法(ケーラーら、Nature、1975年、p.256−495)で融合させることができる。融合に用いる融合促進剤としては、例えば、ポリエチレングリコール(以下、PEG)又はセンダイウィルスなどが挙げられるが、PEGが好ましく、PEG1000又はPEG6000がより好ましい。また、融合促進剤は10〜80%の濃度で添加されることが好ましい。
【0037】
異種動物の骨髄腫細胞としては、例えば、NS−1細胞、P3U1細胞、SP2/0細胞、AP−1細胞が挙げられるが、P3U1細胞が好ましい。融合に用いる抗体産生細胞の数と骨髄腫細胞の数の比率は、1:1〜20:1が好ましい。インキュベート温度は、20〜40℃が好ましく、30〜37℃がより好ましい。また、インキュベート時間は、1〜10分間が好ましい。
【0038】
モノクローナル抗体産生ハイブリドーマのスクリーニング方法としては、例えば、ペプチド抗原を吸着させたマイクロプレートにハイブリドーマ培養上清を添加し、さらに放射性物質や酵素などで標識した抗免疫グロブリン抗体又はプロテインAを加えて、マイクロプレートに結合したモノクローナル抗体を検出する方法、又は、抗免疫グロブリン抗体又はプロテインAを吸着させたマイクロプレートにハイブリドーマ培養上清を添加し、さらに放射性物質や酵素などで標識したタンパク質を加え、マイクロプレートに結合したモノクローナル抗体を検出する方法が挙げられる。
【0039】
モノクローナル抗体は、自体公知又はそれに準じる方法で選別できるが、通常、HAT(ヒポキサンチン、アミノプテリン及びチミジン)を添加した動物細胞用培地が用いられる。動物細胞用培地としては、モノクローナル抗体産生ハイブリドーマが生育できれば特に限定はないが、例えば、牛胎児血清を含むRPMI 1640培地又はハイブリドーマ培養用無血清培地(SFM−101;日水製薬(株))が挙げられる。RPMI 1640培地に含まれる牛胎児血清は、1〜20%が好ましく、10〜20%がより好ましい。
【0040】
モノクローナル抗体産生ハイブリドーマの培養は、通常、5%炭酸ガス下で行われるが、その培養温度は、20〜40℃が好ましく、約37℃がより好ましい。モノクローナル抗体産生ハイブリドーマの培養期間は、5日〜3週間が好ましく、1〜2週間がより好ましい。また、ハイブリドーマ培養上清の抗体価は、上記の抗血清中の抗体価と同様に測定できる。
【0041】
モノクローナル抗体の分離精製方法としては、例えば、免疫グロブリンの分離精製方法が挙げられる。ここで、免疫グロブリンの分離精製方法としては、例えば、塩析法、アルコール沈殿法、等電点沈殿法、電気泳動法、DEAE等のイオン交換体による吸脱着法、超遠心法、ゲルろ過法、抗原結合固相又はプロテインA若しくはプロテインGなどの活性吸着剤により抗体のみを採取する特異的精製法が挙げられる。
【0042】
ポリクローナル抗体は、例えば、免疫抗原となるタンパク質又は免疫抗原となるタンパク質とキャリアータンパク質との複合体を、上記のモノクローナル抗体産生細胞の製造と同様に温血動物に投与し、免疫された温血動物から抗体含有物を採取して製造することができる。
【0043】
キャリアータンパク質との複合体を形成して免疫抗原となるタンパク質、すなわちハプテンの種類としては、ハプテンがキャリアータンパク質と結合することによりポリクローナル抗体が効率良く産生されるものであれば、特に限定はない。一方、キャリアータンパク質としては、例えば、ウシ血清アルブミン、ウシサイログロブリン又はヘモシアニンが挙げられる。
【0044】
複合体形成におけるハプテンとキャリアータンパク質との重量比としては、ハプテン1に対し、キャリアータンパク質が0.1〜20が好ましく、1〜5がより好ましい。また、ハプテンとキャリアータンパク質との結合に用いる縮合剤としては、例えば、グルタルアルデヒド、カルボジイミド、マレイミド活性エステル又はチオール基若しくはジチオビリジル基を含有する活性エステル試薬が挙げられる。
【0045】
ポリクローナル抗体は、上記の方法で免疫された温血動物の血液、腹水等から採取することができるが、血液から採取することが好ましい。
【0046】
ポリクローナル抗体は、モノクローナル抗体と同様に分離精製することができる。
【0047】
「発現量」とは、絶対量である必要はなく、相対量であってもよい。また、必ずしも数値的に表現される必要はなく、例えば、色素や蛍光標識等の可視的な標識を用い、目視により判定する場合も、発現量の測定に含まれる。
【0048】
対照細胞におけるKLF4遺伝子、HSF2BP遺伝子若しくはANKRD12遺遺伝子又はそれらのいずれかの翻訳産物の発現量は、被検細胞におけるそれらの発現量と同時に測定してもよいし、事前に測定しておいてもよい。事前の測定をしておく場合には、予め対照細胞における該mRNA若しくはタンパク質の絶対量又はある標準物質に換算した相対量を求めておき、それを被検細胞における発現量と比較してもよいし、対照細胞における絶対量に相当する量の該DNA又はタンパク質を対照として、被検細胞における発現量と同時に測定してもよい。
【0049】
被検細胞及び対照細胞におけるKLF4遺伝子、HSF2BP遺伝子若しくはANKRD12遺伝子又はそれらのいずれかの翻訳産物の発現量の比較は、被検細胞におけるKLF4遺伝子、HSF2BP遺伝子若しくはANKRD12遺伝子又はそれらのいずれかの翻訳産物の発現量が、対照細胞におけるそれと比較して何倍であるかを指標にすることもできる。
【0050】
対照細胞がIFN非感受性又はIFN非応答性の細胞であるHepG2細胞、SK−HEP−1細胞、HLE細胞又はHep3B細胞の場合には、被検細胞におけるKLF4遺伝子、HSF2BP遺伝子若しくはANKRD12遺伝子又はそれらのいずれかの翻訳産物の発現量のうち、1以上が対照細胞における発現量と比較して0.5倍以下であることを指標として、被検細胞がIFN非感受性又はIFN非応答性の細胞であると予測することが好ましい。また、被検細胞におけるKLF4遺伝子又はその翻訳産物の発現量が、対照細胞における発現量と比較して4倍以上であることを指標として、被検細胞がIFN感受性又はIFN応答性の細胞であると予測することも好ましい。さらには、被検細胞におけるHSF2BP遺伝子若しくはANKRD12遺伝子又はそれらのいずれかの翻訳産物の発現量が、対照細胞における発現量と比較して2倍以上であることを指標として、被検細胞がIFN感受性又はIFN応答性の細胞であると予測することも好ましい。
【0051】
上記の指標以外にも、対照細胞としてIFN感受性又はIFN応答性の細胞及びIFN非感受性又はIFN非応答性の細胞の両方を用い、被検細胞におけるKLF4遺伝子、HSF2BP遺伝子若しくはANKRD12遺伝子又はそれらのいずれかの翻訳産物の発現量がIFN感受性若しくはIFN応答性の細胞又はIFN非感受性若しくはIFN非応答性の細胞のどちらに近いかを指標とすることも可能である。
【0052】
被検細胞の感受性又は応答性を予測するIFNは、α型、β型、γ型、τ型、ω型、λ型、コンセンサス型又はハイブリット型のいずれでもよく、また由来も天然型、遺伝子組換え型又は化学合成型のいずれでもよいが、I型IFNが好ましく、α型IFN又はβ型IFNすなわちIFN−α又はIFN−βがより好ましく、IFN−βがさらに好ましい。なお、IFNは高分子等により修飾されていてもよく、例えば、PEGと結合したPEG−IFNであってもよい。
【0053】
患者にIFNを投与する方法としては、例えば、製剤化したIFNを投与する方法又はIFN遺伝子を直接患部に投与する方法が挙げられる。
【0054】
また、本発明の被検細胞のIFNに対する感受性又は応答性を予測するキットは、下記の(g)〜(j)のいずれかを含むことを特徴としている。
(g) KLF4遺伝子、HSF2BP遺伝子及び/又はANKRD12遺伝子をPCRで増幅するためのPCRプライマーセット
(h) KLF4遺伝子、HSF2BP遺伝子及び/又はANKRD12遺伝子にハイブリダイズするポリヌクレオチドプローブ
(i) 上記ポリヌクレオチドプローブが固定された固相化試料
(j) KLF4遺伝子、HSF2BP遺伝子及び/又はANKRD12遺伝子の翻訳産物に特異的に結合する抗体
【0055】
上記キットは、IFN感受性又はIFN応答性の診断をするために必要な試薬や器材を含むものである。これらの試薬の中には、各種酵素類、緩衝液、洗浄液、溶解液なども含まれる。さらに、反応条件を最適化したプロトコルなどを含んでいてもよい。また、多数検体の同時処理ができるマイクロタイタープレートや蛍光/発光強度の測定に必要な器材等の一式を含んでいるとさらに好ましい。
【0056】
例えば、上記(g)のPCRプライマーセットを含むキットの構成品としては、細胞からRNA(total RNA又はmRNA)を抽出する試薬、RNAからcDNAを合成する逆転写酵素や試薬、KLF4遺伝子、HSF2BP遺伝子及び/又はANKRD12遺伝子を増幅するプライマー、ハウスキーピング遺伝子を増幅するプライマー及びPCR関連試薬が挙げられる。PCRを実施するために必要な上記試薬やプライマーは、予めマイクロチューブに添加された状態であってもよく、PCRのアニーリング及び伸長工程の温度及び反応時間を最適化したプロトコルがキットに含まれていればより好ましい。
【0057】
上記(h)のポリヌクレオチドプローブ又は上記(i)のポリヌクレオチドプローブが固定された固相化試料を含むキットの構成品としては、細胞からRNA(total RNA又はmRNA)を抽出する試薬、RNAからcDNAを合成する逆転写酵素や試薬、KLF4遺伝子、HSF2BP遺伝子及び/又はANKRD12遺伝子と特異的にハイブリダイズするポリヌクレオチドプローブ、ハウスキーピング遺伝子と特異的にハイブリダイズするポリヌクレオチドプローブ及びハイブリダイズ関連試薬が挙げられる。ポリヌクレオチドプローブは固相化試料に固定された状態で提供されてもよい。
【0058】
上記(j)の抗体を含むキットの構成品としては、細胞を溶解するLysis Buffer、KLF4、HSF2BP及び/又はANKRD12タンパク質と特異的に結合する抗体及びその関連試薬が挙げられる。ELISAやRIAのより正確な実施のためには、検量線作成のための標準物質がキットに含まれていればより好ましい。
【0059】
また本発明のマーカー遺伝子は、上記の被検細胞のIFNに対する感受性又は応答性を予測する方法やキットで使用され、KLF4遺伝子、HSF2BP遺伝子及びANKRD12遺伝子からなる群から選択され、被検細胞のIFNに対する感受性又は応答性を予測する用途を提供することを特徴としている。
【0060】
KLF4遺伝子は、亜鉛フィンガードメインを有する転写因子をコードするKruppel−like factor 4遺伝子であり、塩基配列及びアミノ酸配列の情報はGenBank(アクセッションNo.BC030811)から入手することができる。
【0061】
HSF2BP遺伝子は、熱ショックタンパク質の発現を制御する転写因子の1つであるHeat shock transcription factor 2に結合して相互作用をするHeat shock transcription factor 2−binding protein遺伝子であり、塩基配列及びアミノ酸配列の情報はGenBank(アクセッションNo.BC000153)から入手することができる。
【0062】
ANKRD12遺伝子は、Ankyrin repeat−containing cofactor 2(ANCO2と略される。)又はKIAA0874とも呼ばれるAnkyrin repeat domein 12遺伝子であり、塩基配列及びアミノ酸配列の情報はGenBank(アクセッションNo.BC057225)から入手することができる。
【0063】
なお、KLF4遺伝子、HSF2BP遺伝子及びANKRD12遺伝子のクローニング及び翻訳産物の調製は、常法、例えば、Molecular cloning(J. Sambrookら、1989年)に記載の分子生物学手法及びそれらを基にした改良法に従って行なうことができる。
【実施例】
【0064】
(実施例1)IFN感受性肝癌細胞及びIFN非感受性肝癌細胞の同定:
ヒト肝癌由来株化細胞として、HuH−7細胞、PLC/PRF/5細胞、SK−HEP−1細胞、HLE細胞、HepG2細胞、Hep3B細胞の6種の細胞を使用した。HuH−7細胞、PLC/PRF/5細胞、HLE細胞及びHepG2細胞はヒューマンサイエンス振興財団から、SK−HEP−1細胞及びHep3B細胞は大日本製薬株式会社から購入した。HuH−7細胞、PLC/PRF/5細胞、HLE細胞及びHepG2細胞は10%FBSを含むD−MEM培地を用いて、SK−HEP−1細胞は10%FBS、1%NEAA(非必須アミノ酸)、1mMピルビン酸ナトリウムを含むMEM培地を用いて、Hep3B細胞は10%FBS、1%NEAAを含むMEM培地を用いて、37℃、5%CO条件下の細胞培養器内で培養した。
【0065】
細胞増殖抑制試験は、以下の手順で実施した。まず、サブコンフルエント状態の細胞をフラスコから剥離し、培養培地で細胞を一定密度となるよう調製した。検量線作成用96穴プレートには、100、300、1000、3000、10000、15000cells/穴となるように、また、評価用96穴プレートには、細胞を3000cells/穴となるように、細胞懸濁液を100μL/穴でそれぞれ播種した。
【0066】
播種した細胞を一晩培養後、評価用プレートの培養培地を除去し、コントロール用に培養培地100μL/穴を、また、IFN処置用に調製したIFN溶液を100μL/穴で添加した。IFN処置後は、評価用プレートを細胞培養器内に入れて培養した。IFN溶液は、天然型IFN−β製剤であるフエロン(登録商標;東レ株式会社)を培養培地にて濃度範囲10−100000国際単位(以下、IU)/mLの10倍希釈系列にて調製した。
【0067】
検量線作成用プレートに関しては、播種した細胞を一晩培養後、評価用プレートに関してはIFN処置した細胞をさらに3日間培養後、細胞増殖抑制試験を行った。各測定ポイントにおいて、プレートの培養培地を除去し、新しい培地を50μL/穴で添加した。その後、MTS試薬(Cell Titer96(登録商標)AQueous One Solution Reagent;プロメガ株式会社)をプレートの各ウェルに10μL/穴ずつ添加し、37℃、5%CO条件下の細胞培養器内で培養した。各細胞の評価用プレートは1時間後又は3時間後にプレートリーダーで吸光度(490nm)を測定した。検量線から評価用プレートの各穴の細胞数を算出し、コントロールの細胞数を100%とした時の、IFN処理時の細胞増殖率を濃度別に求め、そのIC30値(30%増殖阻害濃度)を算出した。
【0068】
PLC/PRF/5細胞及びHuH−7細胞の増殖は、それぞれ18.7 IU/mL及び291 IU/mLのIFN−β濃度によって30%抑制されたが、HepG2細胞のIC30値はHuH−7細胞の10倍以上高い濃度である3900 IU/mLであった。SK−HEP−1細胞、HLE細胞及びHep3B細胞においては10000 IU/mLのIFN−β濃度でもほとんどIFNによる細胞増殖抑制作用は認められなかった。これらの結果、PLC/PRF/5細胞及びHuH−7細胞はIFN感受性肝癌細胞であり、HepG2細胞、SK−HEP−1細胞、HLE細胞及びHep3B細胞はIFN非感受性肝癌細胞であることが確認された。
【0069】
(実施例2)ヒト肝癌細胞におけるKLF4、HSBP2及びANKRD12の発現量の解析:
通常の培養条件(IFN無刺激)で培養した肝癌細胞からtotal RNAを抽出した。細胞(25cmフラスコ)にTRIzol(登録商標)Reagent(インビトロジェン) 1.0mLを加え、さらにクロロホルム0.2mLを加え混合、室温で3分間静置したのち、12000×g、15分間遠心した。得られた水相に0.5mLのイソプロパノールを加えて混合、室温で10分間静置したのち、さらに12000×g、15分間遠心した。上清を除き、沈渣を70%エタノールで洗浄後、DEPC処理水に溶解し、total RNA溶液を得た。そのRNA溶液について、波長260nmにおける吸光度を測定してtotal RNA量を算出した。続いて、得られたRNAから、常法に従って、cDNA合成を行った。すなわち5μg分のtotal RNAを、1μLのOligo(dT)プライマー:Randomプライマー(5:1)DEPC処理水溶液と混和し、70℃で5分間加温後、氷上で10分間冷却した。その後、Superscript(登録商標)II逆転写酵素(インビトロジェン)を用いて逆転写を行った。逆転写反応条件は、42℃で50分間、70℃で15分間反応後4℃保持とした。このようにして得られたcDNAを用いて各遺伝子の発現量をリアルタイムPCR法にて定量した。
【0070】
リアルタイムPCR法による測定には、LightCycler(登録商標;LightCycler Software Ver.3.5;ロシュ・ダイアグノスティックス社)を用いた。PCR増幅産物の検出には二本鎖DNAに結合することにより蛍光を発する色素であるSYBR(登録商標) Green Iを用いた(インターカレーター法)。測定にはLightCycler(登録商標) FastStart DNA Master SYBR Green Iを用い、常法に従って実施した。なお、上記のPCRにおいて、遺伝子の増幅のために用いたプライマーセットは、表1に示す通りである。また、上記PCRの温度サイクル条件は、95℃で10秒、62℃で10秒、72℃で10秒を1サイクルとし、40サイクルを実施した。なお、PCRプログラムはLightCycler Software Ver.3.5を用い設定した。目的遺伝子のmRNA発現量解析は、ハウスキーピング遺伝子(GADPH)の発現量により標準化し、相対定量した。標準化した発現量比(Expression ratio)は下記式で表される。下記式中の、CtとはCycle thresholdを表す。
Expression ratio=2(Ct(GADPH)−Ct(Target gene)
【0071】
【表1】

【0072】
(実施例3)ヒト肝癌細胞におけるKLF4、HSF2BP及びANKRD12の発現量とIFNによる肝癌細胞増殖抑制効果の相関及び比較:
実施例2の方法で測定したヒト肝癌細胞のKLF4、HSF2BP又はANKRD12のmRNA発現量及び実施例1で測定した肝癌細胞増殖抑制効果(IC30値)との相関を検討した。その結果、KLF4、HSF2BP及びANKRD12のmRNA発現量とIFNによる増殖抑制効果の相関は、図1〜3に示すように、決定係数(R2乗値)でそれぞれ0.91、0.93及び0.76であった。なお、図1〜3の縦軸は、HepG2細胞の該mRNA発現量を1としたときの相対値を表し、横軸はIFNの肝癌細胞増殖抑制効果のIC30値(IU/mL)を表す。
【0073】
SK−HEP−1細胞、HLE細胞及びHep3B細胞をIFN非感受性細胞群として、IFN非感受性細胞群とIFN感受性細胞であるPLC/PRF/5細胞の各遺伝子の発現量の比較を行ったところ、IFN感受性細胞であるPLC/PRF/5細胞のKLF4発現量は3.9〜29.7倍、HSF2BP発現量は2.2〜9.6倍、ANKRD12発現量は2.2〜8.2倍であった。さらに、IFN非感受性細胞群をSK−HEP−1細胞、HLE細胞、Hep3B細胞及びHepG2細胞として、この細胞間で各遺伝子の発現量の比較を行ったところ、最低発現比の平均値は、KLF4、HSF2BP及びANKRD12の遺伝子でそれぞれ0.56倍、0.58倍及び0.58倍であった。
【0074】
(実施例4)ヒト肝癌細胞におけるその他の遺伝子の発現量とIFNによる肝癌細胞増殖抑制効果の相関:
実施例2の方法でリアルタイムPCRにおいて、プライマーセットを変えて、KLF4、HSF2BP及びANKRD12以外の目的遺伝子20種類の遺伝子(HAS2、SDC、TGFBR3などを含む)の発現量をGADPHの発現量で標準化し相対定量した。測定したヒト肝癌細胞における20種類の遺伝子の発現量及び、実施例1で測定した肝癌細胞増殖抑制効果(IC30値)との相関を検討した結果、いずれもmRNA発現量とIFNによる増殖抑制効果の相関は認められなかった。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明は、医薬医療分野において、患者又は被検細胞のIFNに対する感受性又は応答性の予測に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検細胞のインターフェロンに対する感受性又は応答性を予測する方法であって、
HepG2細胞、SK−HEP−1細胞、HLE細胞及びHep3B細胞からなる群から選択されるいずれかの対照細胞と前記被検細胞とにおける、Kruppel−like factor 4遺伝子、Heat shock transcription factor 2−binding protein遺伝子及びAnkyrin repeat domein 12遺伝子からなる群から選択されるマーカー遺伝子又はその翻訳産物の発現量を測定する測定ステップと、
前記被検細胞における前記マーカー遺伝子又はその翻訳産物の発現量と、前記対照細胞における前記マーカー遺伝子又はその翻訳産物の発現量とをそれぞれ比較する比較ステップと、
下記の(a)〜(c)のいずれかである場合に、前記被検細胞はインターフェロン非感受性又はインターフェロン非応答性の細胞であると予測し、下記の(d)〜(f)のいずれかである場合に、前記被検細胞はインターフェロン感受性又はインターフェロン応答性の細胞であると予測する予測ステップと、
を備える、方法。
(a) 前記被検細胞におけるKruppel−like factor 4遺伝子又はその翻訳産物の発現量が、前記対照細胞における発現量と比較して0.5倍以下である場合
(b) 前記被検細胞におけるHeat shock transcription factor 2−binding protein遺伝子又はその翻訳産物の発現量が、前記対照細胞における発現量と比較して0.5倍以下である場合
(c) 前記被検細胞におけるAnkyrin repeat domein 12遺伝子又はその翻訳産物の発現量が、前記対照細胞における発現量と比較して0.5倍以下である場合
(d) 前記被検細胞におけるKruppel−like factor 4遺伝子又はその翻訳産物の発現量が、前記対照細胞における発現量と比較して4倍以上である場合
(e) 前記被検細胞におけるHeat shock transcription factor 2−binding protein遺伝子又はその翻訳産物の発現量が、前記対照細胞における発現量と比較して2倍以上である場合
(f) 前記被検細胞におけるAnkyrin repeat domein 12遺伝子又はその翻訳産物の発現量が、前記対照細胞における発現量と比較して2倍以上である場合
【請求項2】
前記被検細胞は、ヒト由来の癌細胞である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記癌細胞は、肝癌細胞である、請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記インターフェロンは、I型インターフェロンである、請求項1〜3のいずれか一項記載の方法。
【請求項5】
前記I型インターフェロンは、インターフェロン−β又はインターフェロン−αである、請求項4記載の方法。
【請求項6】
下記の(g)〜(j)のいずれかを含む、被検細胞のインターフェロンに対する感受性又は応答性を予測するキット。
(g) Kruppel−like factor 4遺伝子、Heat shock transcription factor 2−binding protein遺伝子及び/又はAnkyrin repeat domein 12遺伝子をPCRで増幅するためのPCRプライマーセット
(h) Kruppel−like factor 4遺伝子、Heat shock transcription factor 2−binding protein遺伝子及び/又はAnkyrin repeat domein 12遺伝子にハイブリダイズするポリヌクレオチドプローブ
(i) 前記ポリヌクレオチドプローブが固定された固相化試料
(j) Kruppel−like factor 4遺伝子、Heat shock transcription factor 2−binding protein遺伝子及び/又はAnkyrin repeat domein 12遺伝子の翻訳産物に特異的に結合する抗体
【請求項7】
Kruppel−like factor 4遺伝子、Heat shock transcription factor 2−binding protein遺伝子及びAnkyrin repeat domein 12遺伝子からなる群から選択され、被検細胞のインターフェロンに対する感受性又は応答性を予測するマーカー遺伝子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−211970(P2011−211970A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−83724(P2010−83724)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】