説明

インダイレクトマトリクスコンバータ

【課題】 サージ電圧によってインダイレクトマトリクスコンバータのインバータのスイッチ素子が破壊されることを防止する。
【解決手段】 インダイレクトマトリクスコンバータは、コンバータ2を正極性母線4pと負極性母線4nとを介してインバータ6に接続してある。正極性母線4pにクランプダイオード28uのアノードを接続し、カソードをコンデンサ30の一端に接続し、コンデンサ30の他端をクランプダイオード28dのアノードに接続し、カソードを負極性母線4nに接続してある。インバータ6のスイッチ素子16uu乃至16uwに上側放電阻止形スナバ回路20uを設け、インバータ6のスイッチ素子16du乃至16dwに下側放電阻止形スナバ回路20dに設け、上側放電阻止形スナバ回路20uの放電抵抗器26uが、ダイオード28dアノードに接続され、下側放電阻止形スナバ回路20dの放電抵抗器26dが、ダイオード26uのアノードに接続されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インダイレクトマトリクスコンバータに関し、特に、スナバ回路を設けたものに関する。
【背景技術】
【0002】
インダイレクトマトリクスコンバータは、例えば非特許文献1に開示されているように、コンバータと、直流中間リンクと、インバータとを備えるものである。コンバータは、双方向スイッチを上側及び下側アームとして直列に接続した3つの直列回路を、1対の直流中間リンク間に接続し、各直列回路の上側及び下側アームの接続点に、LCフィルタを介して三相交流電源が接続される。LCフィルタは、三相交流電源の各相に直列に接続した直列リアクトルと、各相間に接続された並列コンデンサとからなる。1対の直流中間リンクには、一般的なインバータと同様な構成のインバータが接続されている。インダイレクトマトリクスコンバータでは、インバータの零ベクトル出力期間(環流モード期間)に、コンバータの双方向スイッチの切換をコンバータの電流が零のときに行う零電流スイッチングを採用している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】電気学会論文誌D 126巻9号 第1161頁乃至1170頁 直流形交流電力変換回路の技術動向
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したように、コンバータの電流が零のときにコンバータの双方向スイッチの切換を行う。三相交流電源とコンバータとの間には、LCフィルタが接続されており、このLCフィルタのコンデンサの電位が三相交流電源に依存して変化するので、その電位差が大きいとき、即ち、三相電源の電圧がクロスしている部分以外で切換が行われると、切り換えられる前にコンバータに接続されている並列コンデンサの電位と、切換後にコンバータに接続される並列コンデンサの電位とが異なり、電位差が生じ、この電位差に基づいて、インバータのスイッチ素子の寄生容量や、スナバ回路に高速のパルス電流が流れ、スイッチ素子の両端にサージ電圧を発生し、スイッチ素子の破壊に至ることがある。また、ゲート回路にパルス電流が流れ込んで誤点弧を起こす可能性もある。
【0005】
本発明は、サージ電圧によってインダイレクトマトリクスコンバータのインバータのスイッチ素子が破壊されることを防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様のインダイレクトマトリクスコンバータは、コンバータと、直流母線と、インバータとを、備えている。コンバータでは、双方向スイッチ手段を、上側及び下側アームとして直列に接続した3つの直列回路を互いに並列に接続してある。前記3つの直列回路における前記上側及び下側アームの双方向スイッチ手段の接続点に、直列リアクトルと並列コンデンサとを含む入力フィルタを介して三相交流電源が接続される。双方向スイッチ手段としては、単方向のスイッチ素子、例えばIGBTやMOSFETを互いに逆方向に接続したものを使用することができる。直流母線は、このコンバータの前記3つの直列回路からなる並列回路の前記上側アーム側の端部を正極性母線とし、前記下側アーム側の端部を負極性母線としたものである。インバータは、スイッチ素子、例えば単方向スイッチ素子を、電流が同一方向に流れるように上側及び下側アームとして直列接続した3つの直列回路を、直流母線間に並列に接続し、これら3つの直列回路における前記上側及び下側アームの接続点に、三相負荷が接続されたものである。コンバータの双方向スイッチ手段は、三相交流電源の周波数よりも高い周波数の交流を正極性母線と負極性母線との間に生成するように、スイッチングされ、インバータのスイッチ素子は、正極性母線と負極性母線との間の交流を、三相交流電源の周波数よりも高い周波数の交流に変換するようにスイッチされる。このインダイレクトマトリクスコンバータでは、正極性母線と負極性母線との間に平滑された直流を生成することはない。また、インバータの環流モード期間に、即ち、上側アームのスイッチ素子全てがオンのとき、下側アームのスイッチ素子は全てオフ状態で、上側アームのスイッチ素子全てがオフのとき、下側アームのスイッチ素子が全てオン状態である期間に、コンバータの双方向スイッチの切換が行われる。前記正極性母線に正極性電圧降下手段の一端が接続され、負極性電圧降下手段の一端が前記負極性母線に接続されている。前記正極性電圧降下手段の他端と、前記負極性電圧降下手段の他端との間にコンデンサが接続されている。正極性及び負極性電圧降下手段としては、例えばダイオードや抵抗器を使用することができる。ダイオードを使用する場合、正極性母線側から負極性母線側に電流が流れる方向性にアノードとカソードが接続される。前記インバータの上側アームのスイッチ素子それぞれに上側放電阻止形スナバ回路が設けられ、前記インバータの下側アームのスイッチ素子それぞれに下側放電阻止形スナバ回路が設けられる。上側及び下側放電阻止形スナバ回路は、ダイオードとコンデンサと放電抵抗器とを有している。例えば上側放電阻止形スナバ回路では、コンデンサとダイオードとの直列回路が、上側アームのスイッチ素子に並列に接続され、特にコンデンサが正極性母線側に位置している。同様に下側放電阻止形スナバ回路でも、コンデンサとダイオードとの直列回路が、下側アームのスイッチ素子に並列に接続され、コンデンサが負極性母線側に位置している。上側及び下側放電阻止形スナバ回路では、放電抵抗器の一端がコンデンサとダイオードとの接続点に接続され、上側放電阻止形スナバ回路の放電抵抗器の他端が、前記負極性電圧降下手段の他端に接続され、前記下側放電阻止形スナバ回路の放電抵抗器の他端が、前記正極性電圧降下手段の他端に接続されている。
【0007】
このように構成されたインダイレクトマトリクスコンバータでは、正極性直流母線と負極性直流母線との間に正極性及び負極性電圧降下手段とコンデンサとを接続し、正極性及び負極性電圧降下手段とコンデンサとの2つの接続点に、放電阻止形スナバ回路のコンデンサを接続しているので、正極性及び負極性直流母線の電位が変化しても、これらコンデンサの電位は一定に保たれている。従って、コンバータの双方向スイッチ手段が切り換えられ、入力フィルタの並列コンデンサの影響で正極性及び負極性直流母線間の電位が変化しても、インバータのスイッチ手段に過度電流が流れず、サージ電圧が発生することはない。
【0008】
上記の態様のインダイレクトマトリクスコンバータにおいて、前記コンデンサの両端に、別の放電用抵抗器を設けることもできる。このコンデンサと放電用抵抗器との放電時定数は、コンデンサの電位が、三相交流電源の最大電圧程度を維持するように設定することが望ましい。このように構成すると、コンデンサの電圧を三相交流電源の最大電圧程度に維持することによって、インバータのサージ吸収効果の低下を阻止することができる。
【0009】
上記の態様のインダイレクトマトリクスコンバータにおいて、新たにスイッチ素子を設けることもできる。スイッチ素子は、導電路と、制御電極とを有し、制御電極に制御信号が供給されたとき、導電路が導通するものである。このスイッチの導電路が前記コンデンサの両端間に接続される。前記コンデンサの両端間に直列に2つの抵抗器を接続し、これら2つの抵抗器の接続点と前記制御電極との間に、前記コンデンサの両端間電圧が予め定めた値以上になったとき前記制御電極に前記制御信号を供給する制御信号発生手段を設けてある。制御信号発生手段としては、例えばツェナーダイオードを使用することができる。
【0010】
或いは、上記2つの抵抗器に代えて、前記コンデンサの両端間電圧の検出手段を設け、この検出手段が予め定めた値以上の電圧を検出したとき、スイッチ手段の制御電極に制御信号を供給する制御信号発生手段を設けることもできる。
【0011】
これらのように構成することによって、コンデンサ30の電圧を所定値に維持することができ、より確実に、インバータのサージ吸収効果の低下を阻止することができる。
【0012】
上記の一態様及びその変形例のいずれかのインダイレクトマトリクスコンバータにおいて、前記正極性電圧降下手段と、前記負極性母線に一端を接続した負極性電圧降下手段と、前記コンデンサと、前記上側及び下側放電阻止形スナバ回路とを、前記前記上側及び下側放電阻止形スナバ回路の放電抵抗器を除いて1つのパッケージに収容することもできる。或いは、前記正極性電圧降下手段と、前記負極性電圧降下手段と、前記コンデンサとを、モジュール化することもできる。
【0013】
このように構成することによって、インバータのスイッチ手段のモジュールへの取付が容易になる。
【発明の効果】
【0014】
以上のように、この発明によれば、サージ電圧によってインダイレクトマトリクスコンバータのインバータのスイッチ素子が破壊されることを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第1の実施形態のインダイレクトマトリクスコンバータの参考例のブロック図である。
【図2】図1のインダイレクトマトリクスコンバータでコンバータからパルス電流が流れる機構の説明用の第1のブロック図である。
【図3】図1のインダイレクトマトリクスコンバータでのコンバータからパルス電流が流れる機構の説明用の第1の波形図である。
【図4】図1のインダイレクトマトリクスコンバータでコンバータからパルス電流が流れる機構の説明用の第2のブロック図である。
【図5】図1のインダイレクトマトリクスコンバータからパルス電流が流れる説明用の第3のブロック図である。
【図6】図1のインダイレクトマトリクスコンバータでのコンバータからパルス電流が流れる機構の説明用の第2の波形図である。
【図7】本発明の第1の実施形態のインダイレクトマトリクスコンバータのブロック図である。
【図8】本発明の第2の実施形態のインダイレクトマトリクスコンバータの要部のブロック図である。
【図9】本発明の第3の実施形態のインダイレクトマトリクスコンバータの要部のブロック図である。
【図10】本発明の第4の実施形態のインダイレクトマトリクスコンバータの要部のブロック図である。
【図11】本発明の第5の実施形態のインダイレクトマトリクスコンバータの要部のブロック図である。
【図12】図11のインダイレクトマトリクスコンバータの要部の平面図及び側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施形態の説明の前に、本発明のインダイレクトマトリクスコンバータの基本形態について図1を参照して説明する。このインダイレクトマトリクスコンバータは、コンバータ2と、正極側直流中間リンク4p、負極側直流中間リンク4nと、インバータ6とを有している。
【0017】
コンバータ2は、上側アームとして上側双方向スイッチ回路8ur、8us、8utと、下側アームとして下側双方向スイッチ回路8dr、8ds、8dtとを有し、上側双方向スイッチ回路8urと下側双方向スイッチ回路8drとが直列に接続され、側双方向スイッチ回路8usと下側双方向スイッチ回路8dsとが直列に接続され、側双方向スイッチ回路8utと下側双方向スイッチ回路8dtとが直列に接続されている。これら3つの直列回路が互いに並列に接続されている。上側及び下側双方向スイッチ回路8ur、8drは、共に単方向スイッチ素子、例えばIGBT10a、10bを有し、これらのエミッタ同士が接続され、それぞれのコレクタ−エミッタ間に逆並列にダイオード12a、12bが接続されている。各上側双方向スイッチ回路8urのIGBT10aが、正極性直流中間リンク4pに接続されている。各上側双方向スイッチ回路8urのIGBT10bが、各下側双方向スイッチ回路8drのIGBT10aのコレクタに接続されている。各下側双方向スイッチ回路8dのIGBT10bが、負極性直流中間リンク4nに接続されている。他の上側双方向スイッチ回路8us、8ut、下側双方向スイッチ回路8ds、8dtも同様である。
【0018】
上側双方向スイッチ回路8urと下側双方向スイッチ回路8drとの接続点Rinには、三相交流電源(図示せず)のR相が直流リアクトル(図示せず)を介して接続され、上側双方向スイッチ回路8usと下側双方向スイッチ回路8dsとの接続点Sinには、三相交流電源のS相が直流リアクトル(図示せず)を介して接続され、上側双方向スイッチ回路8utと下側双方向スイッチ回路8dtとの接続点Tinには、三相交流電源(図示せず)のT相が直流リアクトル(図示せず)を介して接続されている。接続点Rin、Sin間にはコンデンサ14rsが、接続点Sin、Tin間にはコンデンサ14stが、接続点Tin、Rin間にはコンデンサ14trが接続されている。これらコンデンサ14rs、14st、14trと各直流リアクトルとによって入力フィルタが構成されている。
【0019】
インバータ6は、上側アームとして単方向スイッチ素子、例えばIGBT16uu、16uv,16uwを、下側アームとして単方向スイッチ素子、例えばIGBT16du、16dv、16dwを有している。IGBT16uuのコレクタが正極性直流中間リンク4pに接続され、IGBT16uuのエミッタがIGBT16duのコレクタに接続され、IGBT16duのエミッタが負極性直流中間リンク4nに接続されている。他のIGBT16uv、16uw、16dv、16dwも同様に接続されている。IGBT16uu、16uv、16uwのコレクタ−エミッタ間には逆並列にダイオード18uが接続され、IGBT16du、16dv、16dwのコレクタ−エミッタ間にも逆並列にダイオード18dが接続されている。IGBT16uu、16duとの接続点u、IGBT16uv、16dvの接続点v、IGBT16uw、16dwの接続点wには、負荷、例えば電動アクチュエータ(図示せず)が接続されている。
【0020】
各IGBT16uu、16uv、16uwには、放電阻止形スナバ回路20uが接続され、IGBT16du、16dv、16dwには、放電阻止スナバ回路20dが接続されている。放電阻止形スナバ回路20uでは、IGBT16uu、16uv、16uwのコレクタ−エミッタ間に、スナバコンデンサ22uとスナバダイオード24uとの直列回路が並列に接続されている。スナバコンデンサ22uの一端がIGBT16uu、16uv、16uwのコレクタに接続され、その他端がスナバダイオード24uのアノードに接続され、カソードがIGBT16uu、16uv、16uwのエミッタに接続されている。各スナバコンデンサ22uと各スナバダイオード24uとの接続点に各スナバ放電抵抗器26uの一端が接続され、他端が負極性直流リンク4nに接続されている。
【0021】
放電阻止形スナバ回路20dでは、IGBT16du、16dv、16dwのコレクタ−エミッタ間に、スナバコンデンサ22dとスナバダイオード24dとの直列回路が並列に接続されている。スナバダイオード24dのアノードがIGBT16du、16dv、16dwのコレクタに接続され、カソードがスナバコンデンサ22dの一端に接続され、他端がIGBT16du、16dv、16dwのエミッタに接続されている。各スナバコンデンサ22dと各スナバダイオード24dとの接続点に各スナバ放電抵抗器26dの一端が接続され、他端が正極性直流リンク4pに接続されている。
【0022】
コンバータ2の上側及び下側双方向スイッチ回路8ur、8us、8ut、8dr、8ds、8dt及びインバータ6のIGBT16uu、16uv、16uw、16du、16dv、16dwは、図示していない制御回路によってオンオフ制御される。特に、各上側及び下側双方向スイッチ回路8ur、8us、8ut、8dr、8ds、8dtの切換は、インバータ6の環流期間、即ち、インバータ6のIGBT16uu、16uv、16uwがオンで、IGBT16du、16dv、16dwがオフの状態、またはンバータ6のIGBT16uu、16uv、16uwがオフで、IGBT16du、16dv、16dwがオンの状態で、切換ようとしている線間電圧が零の時点で行われる。
【0023】
放電形スナバ回路20uは、それに対応する例えばIGBT16uvがターンオンしていたのが、ターンオフする際、IGBT16uvに流れていた電流が、スナバコンデンサ22u、ダイオード24uを介して流れ、配線インダクタンスとターンオフ時の電流とによって決まるエネルギーがスナバコンデンサ22uに吸収され、スナバコンデンサ22uの電圧を上昇させ、IGBT16uvの寄生容量によるサージ電圧の発生を防止する。スナバコンデンサ22uの電圧は、正極性直流リンク4pの電圧よりも高いとき、正極性直流リンク4p、コンバータ2、負極性直流リンク4n、スナバ放電抵抗器26uの経路で、次にIGBT16uvがターンオフするまでに放電される。放電形スナバ回路20dにおいても、電流の流れる方向は、放電形スナバ回路20uと逆であるが、同様にしてサージの発生が防止される。このように放電形スナバ回路20u、20dは、インバータ6でのスイッチング動作時に発生するサージを防止している。
【0024】
ところが、この構成では、インバータ2でのスイッチング動作によって、インバータ6のIGBT16uu、16uv、16uwにおいてサージが発生することがある。以下、これについて説明する。
【0025】
例えば図2に示すように、コンバータ2の上側双方向スイッチ回路8utと下側双方向スイッチ回路8drがオン、他の上側双方向スイッチ回路8ur、8us、8ds、8dtがオフで、インバータ6のIGBT16du、16dv、16dwがオン、IGBT16uu、16uv、16uwがオフである時点をt=0とする。この時点では、コンデンサ14rs、14st、14trは、三相交流電源の線間電圧にほぼ等しく充電され、コンバータ2には接続点Tin、Rin間の電圧、即ちコンデンサ14trの両端間電位である線間電圧Vtrが印加されている。また、接続点Rin、Sin間には、コンデンサ14rsの両端間電位と同じ線間電圧Vrsが印加されている。これを図3(a)に示す。
【0026】
t=Δtにおいて、コンバータ2において、図4に示すように、上側双方向スイッチ回路8usがオン、下側双方向スイッチ回路8drがオンで、上側双方向スイッチ回路8ur、8utがオフ、下側双方向スイッチ回路8ds、8dtがオフで、インバータ6において、IGBT16uu、16dv、16dwがオン、IGBT16uv、16uw、16duがオフに切り替わったとすると、コンバータ2の入力電圧は、接続点Rin、Sin間に接続されているコンデンサ14rsの両端間電圧に変化する。この電圧は線間電圧Vrsにほぼ等しく、t=0のときと比較して、Vtr−Vrsの電位差がコンバータ2の入力電圧に生じる。コンバータ2への入力電圧が変化する状態を図3(b)に示す。その結果、図5に1相のみを略図で示すように入力電圧の変化に基づく過渡現象によって正極性直流中間リンク4p、負極性直流中間リンク4nにパルス電流が流入する。なお、コンデンサCは、インバータ6のIGBTの寄生容量を示す。
【0027】
図6は、コンデンサ14rs、14st、14trの電圧Vrs、Vst、Vtrに、正極性及び負極性直流中間リンク4p、4n間の電圧波形を重ねて描いたもので、上述したようなt=Δtでの電位変動が生じたとき、直流中間電位がキャリア周波数の裁断で−Vstの電圧波形上の電位に低下して、放電阻止形スナバ回路のコンデンサが、この−Vstの電位まで放電し、電位低下していると、図5に示したように放電阻止形スナバ回路のコンデンサやIGBTの寄生容量にパルス電流が流れて、IGBTのコレクタ−エミッタ間に、その容量をC、電位変化をdv/dtとすると、Cdv/dtのサージが発生する。これは、放電阻止形スナバ回路20uが、対応するIGBTが次にターンオフするまでに、スナバコンデンサ20uの電荷をスナバ放電抵抗器26uによって放電させる構成であり、スナバ放電抵抗器26uが負極性直流中間リンク4p、スナバ放電抵抗器26dが正極性直流中間リンク4nに接続されているので、スナバコンデンサ20u、スナバ放電抵抗器26uの放電時定数が、コンバータ2のスイッチング周期に対して充分に小さい場合、スナバコンデンサ22uが直流中間電位まで放電するからである。
【0028】
本発明の第1の実施形態のインダイレクトマトリクスコンバータは、上述したサージの発生を防止するもので、図7に示すように、正極性直流中間リンク4pに上側電圧降下手段、例えばクランプダイオード28uのアノードを接続し、そのカソードにコンデンサ28の一端を接続し、コンデンサ28の他端に、下側電圧降下手段、例えばクランプダイオード28dのアノードを接続し、そのカソードを負極側直流中間リンク4nに接続してある。
【0029】
そして、上側の放電阻止形スナバ回路20uのスナバ放電抵抗器26uの他端を、負極側直流中間リンク4nに接続し、下側の放電阻止形スナバ回路20dのスナバ抵抗器26dの他端を、正極側直流中間リンク4pに接続してある。他の構成は、上述した基本形態と同一であるので、同一部分には同一符号を付して、その説明を省略する。
【0030】
このインダイレクトマトリクスコンバータでは、コンデンサ30と上側のクランプダイオード28uのカソードとの接続点の電位は、Vrs、Vst、Vtsの絶対値のピーク電位からクランプダイオード28uでの電圧降下分を差し引いた電位にクランプされ、コンデンサ30と下側のクランプダイオード28dのアノードとの接続点の電位は、Vrs、Vst、Vtsの絶対値のクロス電位にクランプダイオード28dの電圧降下分を加算した電位にクランプされ、変動しない。このように電位が変動しないコンデンサ30と上側のクランプダイオード28uのカソードとの接続点に、下側の放電阻止形スナバ回路20dのスナバ放電抵抗器26dの他端が接続され、電位が変動しないコンデンサ30と下側のクランプダイオード28dのアノードとの接続点に、上側の放電阻止形スナバ回路20uのスナバ放電抵抗器26uの他端が接続されている。従って、直流中間電位がコンバータ2でのスイッチングによって変動しても、スナバコンデンサ22uは、コンデンサ30とクランプダイオード28dのアノードとの接続点の電位までしか放電せず、スナバコンデンサ22dは、コンデンサ30とクランプダイオード28uのカソードとの接続点の電位までしか放電しない。そのため、コンバータ2でスイッチングしても、スナバコンデンサ22uの電位が、コンデンサ14rs、14st、14trの電位よりも低くなることはなく、これらコンデンサ14rs、14st、14trからスナバコンデンサ22uに電流が流れず、サージが発生することはない。
【0031】
第2の実施形態のインダイレクトマトリクスコンバータの一部を図8に示す。このインダイレクトマトリクスコンバータでは、コンデンサ30に並列に放電抵抗器32を接続したものである。他の構成は、第1の実施形態のインダイレクトマトリクスコンバータと同一であるので、同一部分には同一符号を付して、その説明を省略する。放電抵抗器32の抵抗値は、コンデンサ30との放電時定数が、コンデンサ30の電位が三相交流電源の最大電圧程度を維持するように設定してある。
【0032】
第1の実施形態のインダイレクトマトリクスコンバータでは、コンデンサ30の充電電圧が、クランプダイオード28u、28dの漏れ電流とサージ電圧のバランスによって上昇することがある。充電電圧が上昇すると、スナバコンデンサ22u、22dの電位が高くなり、インバータ6でのサージ吸収効果が低くなり、インバータ6でのスイッチングの際にサージ電圧が上昇する。そこで、第2の実施形態のインダイレクトマトリクスコンバータでは、放電抵抗器32を設けて、コンデンサ30を電源電圧の最大電位程度まで放電するように構成して、コンバータ2からのパルス電流を防止しながら、インバータ6でのサージの抑制しろを確保している。
【0033】
図9に第3の実施形態のインダイレクトマトリクスコンバータの要部を示す。このインダイレクトマトリクスコンバータでは、コンデンサ30の両端に、スイッチ素子、例えばIGBT34のコレクターエミッタ導電路と放電抵抗器36との直列回路が接続されている。また、コンデンサ30の両端には、抵抗器38、40の直列回路が接続されている。これら抵抗器38、40の接続点とIGBT34の制御電極、例えばゲート電極との間に、制御信号発生手段、例えばツェナーダイオード42と抵抗器44との直列回路が接続されている。他の構成は、第1の実施形態のインダイレクトマトリクスコンバータと同一であるので、同一部分には同一符号を付して、その説明を省略する。
【0034】
第2の実施形態のインダイレクトマトリクスコンバータでは、放電抵抗器30は、上側及び下側のクランプダイオード28u、28dを介して正極性及び負極性直流中間リンク4p、4n間に接続されているので、コンデンサ30の容量を大きく設定し、放電抵抗器30の値を小さく設定せざるを得なくなると、放電抵抗器30のワット数が大きくなる問題がある。その点を、第3の実施形態のインダイレクトマトリクスコンバータは解決するもので、抵抗器38、40の値を大きく設定しておいて、これら抵抗器38、40によってコンデンサ30の電圧を監視し、抵抗器40の両端間電圧がツェナーダイオード42のツェナー電圧を超えたとき、IGBT34をターンオンして、コンデンサ30の電荷を放電抵抗器36によって放電させる。
【0035】
図10に第4の実施形態のインダイレクトマトリクスコンバータの要部を示す。このインダイレクトマトリクスコンバータは、第3の実施形態のインダイレクトマトリクスコンバータの変形で、コンデンサ30の両端に、コンデンサ30の電圧を検出する電圧センサ46を設け、この電圧センサ46が、コンデンサ30の電圧が予め定めた電圧を超えたとき、IGBT34にターンオン信号を供給する制御信号発生手段、例えばターンオン信号発生器48を設けたものである。他の構成は、第3の実施形態のインダイレクトマトリクスコンバータと同一であるので、同一部分には同一符号を付して、その説明を省略する。
【0036】
図11及び図12に第5の実施形態のインダイレクトマトリクスコンバータの要部を示す。このインダイレクトマトリクスコンバータの回路構成は、第1乃至第4の実施形態のインダイレクトマトリクスコンバータのいずれかのもので、一点鎖線で囲って示す放電阻止型スナバ回路20u、20dのスナバコンデンサ22u、22d、スナバダイオード24u、24d、クランプ用ダイオード28u、28d、コンデンサ30を、図12(b)に示すように1つのパッケージ49に収容してある。なお、図11に符号50で示すのは、このパッケージ49に設けた端子台である。IGBT16uu乃至16dwは、図12(b)に示すように1つのモジュール51に構成されており、符号52は、このモジュール51の端子台である。パッケージ49内では、図12(a)に示すようにスナバコンデンサ22U、スナバダイオード24uが1相分ずつ、合計三つのスナバ部54にまとめられ、これらの上部または下部に、クランプ用ダイオード28u、28d、コンデンサ30のクランプスナバ部56が配置されている。このパッケージ49は、取付具58によってモジュール51に取り付けられている。このように1つのパッケージ49に収容することにより、モジュールへの取付が容易になる。
【0037】
上記の各実施形態では、スイッチ素子として、IGBTを使用したが、これに限ったものではなく、他の自己消弧型半導体スイッチ素子、例えばMOSFETを使用することもできる。また、上記の各実施形態では、電圧降下素子としてダイオード28u、28dを使用したが、これに限ったものではなく、例えば抵抗器を使用することもできる。また、第5の実施形態において、クランプ用ダイオード28u、28d、コンデンサ30のみで1つのパッケージを構成することもできる。
【符号の説明】
【0038】
2 コンバータ
4p 正極性直流中間リンク
4n 負極性直流中間リンク
6 インバータ
8ur乃至8ut 8dr乃至8dt 双方向スイッチ回路(双方向スイッチ手段)
16uu乃至16uw 16du乃至16dw IGBT(スイッチ素子)
20u 上側放電阻止形スナバ回路
20d 下側放電阻止形スナバ回路
22u 22d スナバコンデンサ
24u 24d スナバダイオード
26u 26d 放電抵抗器
28u 28d クランプダイオード(正極性及び負極性電圧降下手段)
30 コンデンサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
双方向スイッチ手段を、上側及び下側アームとして直列に接続した3つの直列回路を互いに並列に接続し、前記3つの直列回路における前記上側及び下側アームの双方向スイッチ手段の接続点に、直列リアクトルと並列コンデンサとを含む入力フィルタを介して三相交流電源が接続されるコンバータと、
このコンバータの前記3つの直列回路からなる並列回路の前記上側アーム側の端部を正極性母線とし、前記下側アーム側の端部を負極性母線とした直流母線と、
スイッチ素子を電流が同一方向に流れるように上側及び下側アームとして直列接続した3つの直列回路を、前記直流母線間に並列に接続し、これら3つの直列回路における前記上側及び下側アームの接続点に、三相負荷が接続されるインバータとを、
具備するインダイレクトマトリクスコンバータにおいて、
前記正極性母線に一端を接続した正極性電圧降下手段と、
前記負極性母線に一端を接続した負極性電圧降下手段と、
前記正極性電圧降下手段の他端と、前記負極性電圧降下手段の他端との間に接続されたコンデンサと、
前記インバータの上側アームのスイッチ素子それぞれに設けられ、ダイオードとコンデンサと放電抵抗器とを有する上側放電阻止形スナバ回路と、
前記インバータの下側アームのスイッチ素子それぞれに設けられ、ダイオードとコンデンサと放電抵抗器とを有する下側放電阻止形スナバ回路とを、
具備し、前記上側放電阻止形スナバ回路の放電抵抗器が、前記負極性電圧降下手段の他端に接続され、前記下側放電阻止形スナバ回路の放電抵抗器が、前記正極性電圧降下手段の他端に接続されているインダイレクトマトリクスコンバータ。
【請求項2】
請求項1記載のインダイレクトマトリクスコンバータにおいて、前記コンデンサの両端に、別の放電用抵抗器を設けたインダイレクトマトリクスコンバータ。
【請求項3】
請求項1記載のインダイレクトマトリクスコンバータにおいて、前記コンデンサの両端間に導電路を接続し、制御電極に制御信号が供給されたとき前記導電路を導通させるスイッチ素子を設け、前記コンデンサの両端間に直列に2つの抵抗器を接続し、これら2つの抵抗器の接続点と前記制御電極との間に、前記コンデンサの両端間電圧が予め定めた値以上になったとき前記制御電極に前記制御信号を供給する制御信号発生手段を設けたインダイレクトマトリクスコンバータ。
【請求項4】
請求項1記載のインダイレクトマトリクスコンバータにおいて、前記記コンデンサの両端間に導電路を接続し、制御電極に制御信号が供給されたとき前記導電路を導通させるスイッチ素子を設け、前記コンデンサの両端間電圧の検出手段を設け、この検出手段が予め定めた値以上の電圧を検出したとき、前記制御電極に制御信号を供給する制御信号発生手段を設けたインダイレクトマトリクスコンバータ。
【請求項5】
請求項1乃至4いずれか記載のインダイレクトマトリクスコンバータにおいて、前記正極性電圧降下手段と、前記負極性母線に一端を接続した負極性電圧降下手段と、前記コンデンサと、前記上側及び下側放電阻止形スナバ回路とを、前記前記上側及び下側放電阻止形スナバ回路の放電抵抗器を除いて1つのパッケージに収容したインダイレクトマトリクスコンバータ。
【請求項6】
請求項1乃至4いずれか記載のインダイレクトマトリクスコンバータにおいて、前記正極性電圧降下手段と、前記負極性電圧降下手段と、前記コンデンサとを、モジュール化したインダイレクトマトリクスコンバータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−39810(P2012−39810A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−179370(P2010−179370)
【出願日】平成22年8月10日(2010.8.10)
【出願人】(503405689)ナブテスコ株式会社 (737)
【Fターム(参考)】