説明

インナナットの緩み及び損傷の検知方法とその装置

【課題】 熟練作業者を必要とせず、簡便で個人差の少ないインナナットの緩み及び損傷の判定ができるインナナットの緩み及び損傷の検知装置を提供する。
【解決手段】 自動車のダブルホイールをハブ1に固定するインナナット4の緩み及び損傷の検知装置であって、インナナット4の側面を打撃するハンマー7と、このハンマー7に取り付けられ、ハンマー7のインナナット4に対する打撃で生じた力又は加速度を検出する力センサ8と、この力センサ8が検出した信号を処理する周波数分析部10と、この周波数分析部10によって得られた周波数特性によりインナナット4の緩み及び損傷の状態を判定する判定部11を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のダブルホイール構造に用いられるインナナットの緩み及び損傷を検知する方法とその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車のダブルホイール構造に用いられるインナナットやホイールボルトの緩み及び損傷の有無を検知する方法としては、作業者がハンマーでインナナットの側面を打撃し、この時の打撃音や振動により作業者が緩み及び損傷の有無を判断する方法が知られている。
【0003】
また、一般のボルトとナットの緩みを検知する方法としては、力センサを取り付けたハンマーで加速度センサを取り付けたナットを打撃し、この打撃により得られた加速度センサの出力信号と力センサの出力信号との比と、ボルトが所定の締結状態にある時の加速度センサの出力信号と力センサの出力信号との比とを比較してボルトの締結状態を判定する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特公平05−70003号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、作業者がハンマーでインナナットの側面を打撃する方法においては、作業者の「勘」に頼ることから、個人差が大きく、熟練者でなければ正確な判定ができないという問題がある。
【0005】
また、力センサと加速度センサを用いてボルトの締結状態を判定する方法においては、点検対象となる各ナットに加速度センサを点検毎に取り付ける必要があるため、加速度センサの取付作業に労力を要するだけでなく、ナット側面への加速度センサの取付け具合が判定結果に影響を与えるという問題がある。
【0006】
本発明は、従来の技術が有するこのような問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、熟練作業者を必要とせず、簡便で個人差の少ないインナナットの緩み及び損傷の判定ができるインナナットの緩み及び損傷の検知方法とその装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決すべく請求項1に係る発明は、自動車のダブルホイールをハブに固定するインナナットの緩み及び損傷の検知方法であって、力センサ又は加速度センサを取り付けたハンマーによりインナナットの側面を打撃し、この打撃による力又は加速度を力センサ又は加速度センサにより検出し、この検出した信号の周波数特性によりインナナットの緩み及び損傷を検知するものである。
【0008】
請求項2に係る発明は、自動車のダブルホイールをハブに固定するインナナットの緩み及び損傷の検知装置であって、インナナットの側面を打撃するハンマーと、このハンマーに取り付けられ、ハンマーのインナナットに対する打撃で生じた力又は加速度を検出する力センサ又は加速度センサと、この力センサ又は加速度センサが検出した信号の周波数特性を算出する周波数分析部と、この周波数分析部によって得られた周波数特性によりインナナットの緩み及び損傷の状態を判定する判定部を備えたものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、熟練作業者を必要とせず、個人差の少ないインナナットの緩み及び損傷の判定ができる。また、加速度センサなどを点検対象となるインナナットに取り付ける必要がなく、インナナットの緩み及び損傷を短時間で効率的に検知することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。ここで、図1は本発明を適用するダブルホイール取付構造の断面図、図2は本発明に係るインナナットの緩み及び損傷の検知装置の構成図、図3は同じく動作説明図、図4と図5は力センサの出力波形図、図6は本発明による周波数特性図である。
【0011】
本発明を適用するダブルホイール取付構造(ダブルタイヤのJIS方式)は、図1に示すように、自動車のハブ1に設けたホイールボルト2に装着した内側タイヤホイール3と、ホイールボルト2に螺合して内側タイヤホイール3をハブ1に固定するインナナット4と、インナナット4に装着した外側タイヤホイール5と、インナナット4に螺合して外側タイヤホイール5を内側タイヤホイール3に固定するアウタナット6からなる。ホイールボルト2は、例えばハブ1の中心軸の周りに等間隔で6本設けられている。なお、3aは内側タイヤホイール3に形成されたホイールボルト2のボルト穴、5aは外側タイヤホイール5に形成されたインナナット4のボルト穴である。
【0012】
そして、本発明に係るインナナットの緩み及び損傷の検知装置は、図2に示すように、インナナット4の側面を打撃するハンマー7と、ハンマー7の打撃面に取り付けた力センサ8と、力センサ8が出力するアナログ信号をデジタル信号に変換するAD変換部9と、AD変換部9が出力するデジタル信号から周波数特性を得る周波数分析部10と、周波数分析部10により得られた周波数特性からインナナット4やホイールボルト2の緩みや損傷の状態を判定する判定部11からなる。金属片12はハンマー7の打撃面となると共に力センサ8を挟持する。ハンマー7は、金属片12を介してインナナット4の側面を打撃することになる。
【0013】
力センサ8は、ハンマー7の打撃によりインナナット4に与えられた力に比例したアナログ電気信号を出力する。判定部11は、周波数特性のディップを検出し、そのディップの周波数が所定の周波数より低い場合にインナナット4やホイールボルト2に緩みや損傷があると判定する。また、所定の閾値を設定し、その値から落ち込み周波数を検出し、この落ち込み周波数からインナナット4やホイールボルト2に緩みや損傷があると判定することもできる。判定結果は、モニタなどの表示部に表示してもよいし、単にランプやブザーで報知してもよい。
【0014】
以上のように構成した本発明に係るインナナットの緩み及び損傷の検知装置の動作及び検知方法について説明する。図3に示すように、ハンマー7でインナナット4の側面を打撃する。すると、インナナット4に緩みや損傷などがない正常な場合には、力センサ8により検出されるアナログ電気信号は、図4に示すように、一打撃に対して一つのピークを有する波形aを示す(正常)。このような波形aの周波数特性は、図6に示す曲線Aのようになる。曲線Aでは、約9kHzにディップAdを有する。
【0015】
一方、インナナット4に緩み又は損傷などがある異常な場合には、インナナット4と内側タイヤホイール3の間に僅かな隙間が生じ、インナナット4による締付が弱くなり、力センサ8により検出されるアナログ電気信号は、図5(a)に示すように、一打撃に対して二つのピークを有する波形bを示したり(異常例1)、図5(b)に示すように、一打撃に対して波形aに比べて継続時間の長い波形cを示したりする(異常例2)。
【0016】
これらのような波形b,c(異常例1、異常例2)の周波数特性は、図6(a)に示す曲線Bのようになり、正常の場合の曲線Aに比べてディップ周波数や落ち込み周波数が低くなる。曲線Bでは、約5kHzにディップBdを有する。
【0017】
また、図5(c)に示すように、力センサ8により検出されるアナログ電気信号には、一打撃に対して第一のピーク波形d1と、この波形d1より小さい第二のピーク波形d2のような連続した二つのピークを示す場合がある(異常例3)。これらのような波形d1,d2(異常例3)の周波数特性は、図6(b)に示す曲線Dのようになり、異常例1,2である図6(a)に示す曲線Bと異なる点は、約200Hz〜約2kHzの間で変動している点である。
【0018】
このように、ハンマー7でインナナット4の側面を打撃することによって、力センサ8が出力するアナログ電気信号の周波数特性をもとに、所定の周波数区間(例えば、200Hzから8kHz)を周波数ブロック(例えば、100Hz間隔やオクターブ間隔に分割)ごとに平均値や最大値など代表値を算出し、この代表値から、周波数特性のディップ周波数や落ち込み周波数が所定の周波数より低下していることを検知したり、所定の周波数区間(例えば、200Hz〜1kHz)の変動を周波数ブロック(例えば、100Hz間隔やオクターブ間隔に分割)ごとに標準偏差を算出し、この標準偏差が所定の設定値を超えていることを検知したりすることにより、ダブルホイールを固定しているインナナット4やホイールボルト2の緩み及び損傷の有無を簡便に判定することができる。
【0019】
本発明の実施の形態では、周波数分析部10において、1/Nオクターブバンドフィルタなどを用いることもできる。また、力センサ8をハンマー7の打撃側に取り付けたが、打撃側以外に取り付けてもよい。また、本発明の実施の形態では、力センサ8を用いたが、加速度センサを用いることもできる。また、点検対象となる部材の材質により、ハンマー7の打撃面の材質はステンレスのような金属や硬質プラスチックなどを使い分けるとよい。
【0020】
本発明のような力センサ8が出力するアナログ電気信号の周波数特性からダブルホイール構造に用いられるインナナットの緩み及び損傷を検知する方法は、一般的なボルトとナットの緩み及び損傷の検知にも適用することができる他、建築構造物のコンクリートやタイルなどの表面剥離の検知、金属疲労による内部損傷などの検知にも適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0021】
熟練作業者を必要とせず、個人差の少ないインナナットの緩み及び損傷の判定ができる検知方法とその装置を提供することができる。また、加速度センサなどを点検対象となるインナナットに取り付ける必要がなく、インナナットの緩み及び損傷を短時間で効率的に検知する検知方法とその装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明を適用するダブルホイール取付構造の断面図
【図2】本発明に係るインナナットの緩み及び損傷の検知装置の構成図
【図3】本発明の動作説明図
【図4】正常時の力センサの出力波形図
【図5】力センサの出力波形図で、(a)は異常例1の時、(b)は異常例2の時、(c)は異常例3の時
【図6】本発明による周波数特性図で、(a)は正常時と異常例1の時、(b)は正常時と異常例3の時
【符号の説明】
【0023】
1…ハブ、2…ホイールボルト、3…内側タイヤホイール、4…インナナット、5…外側タイヤホイール、6…アウタナット、7…ハンマー、8…力センサ、9…AD変換部、10…周波数分析部、11…判定部、12…金属片。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車のダブルホイールをハブに固定するインナナットの緩み及び損傷の検知方法であって、力センサ又は加速度センサを取り付けたハンマーによりインナナットの側面を打撃し、この打撃による力又は加速度を力センサ又は加速度センサにより検出し、この検出した信号の周波数特性によりインナナットの緩み及び損傷を検知することを特徴とするインナナットの緩み及び損傷の検知方法。
【請求項2】
自動車のダブルホイールをハブに固定するインナナットの緩み及び損傷の検知装置であって、インナナットの側面を打撃するハンマーと、このハンマーに取り付けられ、ハンマーのインナナットに対する打撃で生じた力又は加速度を検出する力センサ又は加速度センサと、この力センサ又は加速度センサが検出した信号の周波数特性を算出する周波数分析部と、この周波数分析部によって得られた周波数特性によりインナナットの緩み及び損傷の状態を判定する判定部を備えたことを特徴とするインナナットの緩み及び損傷の検知装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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