説明

インバータモータ装置

【課題】小型で長寿命のインバータモータ装置を提供する。
【解決手段】複数スロットに巻装された三相のステータ巻線をモータの周方向に複数組並べて配置されたステータと外周に永久磁石を有する回転子とを備えたモータと、前記複数の三相のステータ巻線を駆動する複数の三相インバータとを備えたインバータモータ装置において、上記三相のステータ巻線を構成する各相巻線は、複数の丸線の素線からなり、複数のスロットに納められた各組のステータ巻線を対応する三相インバータに直接接続するとともに、複数のステータ巻線の巻線間のわたり部で、複数のスロット間に収納されたステータ巻線間のわたり部には絶縁強度の高い絶縁物を設け、隣のスロット間に収納されたステータ巻線間のわたり部には上記絶縁物より絶縁強度の低い絶縁物を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インバータモータ装置にかかわり、特に、小型で長寿命のインバータモータ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インバータモータ装置は、低価格、小型軽量、低トルクリプルであることのほか、振動の多い環境においても、耐震性を備えて長寿命であることなどが要求される。
【0003】
これらの要求を一部実現できるモータとして、下記の開示技術がある。
【0004】
第一の開示例として、1台のモータに2組の3相ステータ巻線を有し、その2組の3相ステータ巻線をそれぞれ2組のインバータ装置で駆動するインバータモータ装置が特許文献1(特開2000−175420号)に開示されている。
【0005】
第二の開示例として、高トルクで、トルクリプルを低減できる永久磁石モータ構造が、特許文献2(特許第2765764号公報)に開示されている。ここでは、永久磁石回転子として8極、固定子スロットとして36スロットのモータ構造のいわゆる毎極毎相あたりのスロット数が分数(整数で割りきれない)となる分数スロットモータ構造が示されている。特に、一般に使用されている整数スロットのモータと異なり、1極を構成する巻線が極毎に異なる構成を開示している。
【0006】
第三の開示例として、生産性の向上やスロット内の巻線の占積率等を向上できるモータ構造例が特許文献3(特開2009−195006号)に開示されている。ここでは、平角巻線を用いて、特に同極間の接続を連続的に巻回してコイル間の接続作業を省略した構成について開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−175420号公報
【特許文献2】特許第2765764号公報
【特許文献3】特開2009−195006号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記特許文献1によれば、ひとつの大きなインバータによってモータの多相ステータ巻線を駆動せずに、分割されたより小さなインバータを複数台用いることでより汎用性のある、生産性の高いインバータが使用でき、コストの低減を行うことができる。
【0009】
上記特許文献2の分数スロットモータ構成では、同相として接続される複数のステータ巻線が、永久磁石磁極に対してそれぞれ異なった位相を有することで、毎極毎相あたりのスロット数を整数倍に選択した永久磁石モータに比較して、トルクリプルを相対的に低減できることを開示している。
【0010】
上記特許文献3の構成では、平角線を用いることによるスロット内の巻線占積率の向上と、同極のコイル間を連続接続したことによる接続作業の省略とによって生産性の向上とコイルエンド部の占める空間を少なくできることを開示している。
【0011】
しかしながら、コイルエンド部に対する小型化と長寿命化については、上記のいずれの開示例も配慮がなされておらず、特に、小型化と長寿命化とを同時に実現できるモータの絶縁構成が課題であった。
【0012】
本発明は、分数スロット構成モータの固定子巻線構成に対してコイルエンド部の絶縁を効果的に実施することで、小型で、長寿命のモータを備えたインバータモータ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、複数スロットに巻装された三相のステータ巻線をモータの周方向に複数組並べて配置されたステータと外周に永久磁石を有する回転子とを備えたモータと、前記複数の三相のステータ巻線を駆動する複数の三相インバータとを備えたインバータモータ装置において、
上記三相のステータ巻線を構成する各相巻線は、複数の丸線の素線からなり、複数のスロットに納められた各組のステータ巻線を対応する三相インバータに直接接続するとともに、複数のステータ巻線の巻線間のわたり部で、他の相のステータ巻線に接触するわたり部には絶縁強度の高い絶縁物を設け、それ以外の巻線間のわたり部には上記絶縁物より絶縁強度の低い絶縁物を設けたことを特徴とする。
【0014】
また、本発明は、複数スロットに巻装された三相のステータ巻線をモータの周方向に複数組並べて配置されたステータと外周に永久磁石を有する回転子とを備えたモータと、前記複数の三相のステータ巻線を駆動する複数の三相インバータとを備えたインバータモータ装置において、
上記三相のステータ巻線を構成する各相巻線は、複数の丸線の素線からなり、複数のスロットに納められた各組のステータ巻線を対応する三相インバータに直接接続するとともに、複数のステータ巻線の巻線間のわたり部で、複数のスロット間に収納されたステータ巻線間のわたり部には絶縁強度の高い絶縁物を設け、隣のスロット間に収納されたステータ巻線間のわたり部には上記絶縁物より絶縁強度の低い絶縁物を設けたことを特徴とする。
【0015】
また、上記に記載のインバータモータ装置において、同極間のステータ巻線のわたり部の長さを短く、他極へのステータ巻線のわたり部の長さを長くしたことを特徴とする。
【0016】
また、上記に記載のインバータモータ装置において、中性点の引き出しをスロットの中心部より引き出したことを特徴とする。
【0017】
また、上記に記載のインバータモータ装置において、多相ステータ巻線の組数が少なくとも4組以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、複数のステータ巻線間のわたり部の絶縁を一部省略できることにより、コイルエンド部の小型化、長寿命のモータが提供できる。
【0019】
また、上記の効果に加え、同極間のわたり部の長さを短くできることにより、コイルエンド部の小型化ができる。さらに、上記効果に加え、巻線作業が容易になる、
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施例のモータの要部拡大断面図を示す。
【図2】同じくインバータモータ装置のモータ断面図を示す。
【図3】同じくインバータモータ装置のモータの軸方向断面図を示す。
【図4】同じくモータのステータコアとステータ巻線の周方向の展開図とその結線図を示す。
【図5】同じくモータの一つの相に属するステータ巻線の構成を示す。
【図6】同じく図5(a)のステータ巻線の構成の斜視図を示す。
【図7】同じくインバータモータ装置の構成を示す。
【図8】他の実施例のインバータモータ装置のモータ断面図を示す。
【図9】同じくモータのステータコアとステータ巻線の周方向の展開図とその結線図を示す。
【図10】同じくモータの一つの相に属するステータ巻線の構成を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施例を図により説明する。図2に本発明の一実施例に基づくインバータモータ装置のモータ断面図を、図1にその一部拡大断面図を示す。図3に本発明のインバータモータ装置のモータの軸方向断面図を示す。
【0022】
図において、モータ1は、ステータ2とロータ3とから構成される。ステータ2は、ステータコア4、ステータコア4の内周に多数設けられたスロット4A(S1、S2、…)、スロット4Aに収納されるステータ巻線5(5A1…)とから構成されている。また、ステータ2は、固定子ピン11、エンドブラケット12によって、エンドプレート13に固定された構成とする。
【0023】
一方、ロータ3は、永久磁石6、ロータコア7、シャフト8、永久磁石6の軸方向の移動を抑えるロータプレート9、永久磁石6にかかる半径方向の力を支える磁石保持部材10とから構成される。ロータ3は、ベアリング15を介してエンドプレート13に回転可能に支持されている。また、ロータ3の位置を検出する位置検出器のステータ14Aがエンドプレート13に、位置検出器のロータ14Bがシャフト8の軸上に固定され、位置検出器14を構成している。ここでは、位置検出器14として、レゾルバの例で示した。
【0024】
位置検出器としては、レゾルバたけでなく、エンコーダでも可能であり。また、位置検出器はモータ内部に設置するのではなく、エンドプレートの外側、あるいはロータの回転位置が検出できる適切なところに設置できる。
【0025】
ステータコア4は、例えば0.5mm厚の電磁鋼板を積層して構成され、図示のような外周形状で、固定子ピン11用の孔や、ステータ巻線5を収納するスロット4A、ロータ3の永久磁石6の磁気回路を構成するステータティース4B、外周部のステータコアバック4Cで構成される。その他、外周部には必要によっては、冷却用のフィンを一体に成型することも可能である。ステータコア4は積層部材であるが、その外周部を必要に応じて溶接し、機械強度を上げることができる。また、固定子ピン11によってさらに一体にすることができる。
【0026】
ロータ3は、永久磁石6とロータコア7とで磁気回路を構成し、一般には永久磁石6は小型化のためにネオジム磁石を使用する。ロータコア7は、鉄(磁性体)の鋳物等により製作される。ここでは、軽量化と冷却のため、図示のように、内周円筒部7Aと外周円筒部7Bの二つの円筒部を持ち、その間をロータリブ7Cで連結する構成とした。従って、ロータリブ7C間には、通風孔7Dを備えた構成としている。これによって、永久磁石6やロータコア7内に発生するうず電流による発熱を効果的に除去することができる。
【0027】
ここでは、ステータコア4のスロット数Nは108で、ロータ3の極数Pは24極の例を示す。また、モータ1のステータ巻線5は三相巻線であり、毎極毎相のスロット数Nspp=N/P/M(ここでMは相数)は3/2で、整数ではなく、分数スロットである。なお、ステータ2のスロット数108とロータの極数24はいわゆるスロット数9とロータの極数2のスロットコンビネーションが12回の繰り返される構造である。構成の基本単位であるスロット数9とロータの極数2スロットコンビネーションは開示例2と同じである。
【0028】
上記、分数スロットの利点は、スロット数を極数と相数で割った値Nsppが整数となるいわゆる整数スロットに比較して次の点で優れている。
(1)一つの相に属する各ステータ巻線の回転子の極に対する位相がそれぞれ異なっているために基本波に対する巻線係数の値をあまり下げずに、しかも高調波の影響を効果的に小さくすることができる利点がある。このことは、モータでいえばトルク脈動の少ないモータを提供できる。また、トルク脈動を下げるためのスキュー等の構造をとる必要がなく、製作工数を少なくできる。また、整数スロットで、スキューを施したモータに比較してトルクを増加することができる。
(2)高調波の影響を同一とすれば、相対的にスロットの数を減らすことができる。これは1個のスロットの面積が増えるので、占積率を向上できる。また、スロット数の減少はステータの巻線5とステータコア4との接触面積を少なくすることができるので、インバータ運転時におけるステータの巻線5からステータコア4への漏洩電流が少なくでき、使用した絶縁材の寿命を長くすることが可能になる。また、ステータ巻線のコイル数を減らすことができるので製作工数を低減し、安価なモータとすることができる。
【0029】
特に、電動サーボプレス等の駆動装置として使用する場合に、モータは、長期間使われること、また、インバータでの運転となること等で分数スロットの選択は重要である。
【0030】
本実施例においては、ステータ2のスロット数が108、ロータ3の極数は24極を選択した。このステータ2のスロット数108とロータの極数24はいわゆるスロット数9とロータの極数2の12回の繰り返し構造である。この12回の繰り返し数は非常に重要な選択である。例えば、同一の構成で同一の相に属するモータ1のステータ巻線5が12組存在するので、使用するインバータの数を変えることで、インバータ1台に対して接続できるステータ巻線の数を大きく変えることができる。
【0031】
すなわち、同じ素線、ターン数で構成されたステータ巻線で、インバータ1台に対して、ステータ巻線を12組直列接続して使用する(つまり全体でインバータ1台を使用する)選択や、インバータ1台に対して、ステータ巻線を6組、直列接続して使用する(つまり全体でインバータ2台を使用する)選択や、インバータ1台に対して、ステータ巻線を3組、直列接続して使用する(つまり全体でインバータ4台を使用する)選択や、インバータ1台に対して、ステータ巻線を4組、直列接続して使用する(つまり全体でインバータ3台を使用する)選択、インバータ1台に対して、ステータ巻線を2組、直列接続して使用する(つまり全体でインバータ6台を使用する)選択、インバータ1台に対して、ステータ巻線を1組、接続して使用する(つまり全体でインバータ12台を使用する)選択などができる。上記で、12台のインバータを使用することによって1台のインバータを使用した場合に比較して、12倍の速度まで回転させることができる。これによって、同じ構造のモータでも用途に応じて異なった特性が選択でき、多種類のトルク−速度特性を持ったインバータモータ装置として対応できる。
【0032】
図1、2、4、5は、インバータ1台に対して、ステータ巻線5を2組(1組のU相のステータ巻線のコイルは9スロット/3相で3である)直列接続して使用する場合、つまり全体でインバータ6台を使用する例について示した。
【0033】
インバータ6台の使用は、1台当たりのステータ巻線は全体の約60度の範囲を占めるステータ巻線となるので、内転型のモータでは、巻線作業時にインバータ1台当たりのステータ巻線の量が少なく、占める固定子内部の作業空間を大きく取ることができ、巻線作業がしやすくなり、したがって占積率を向上できる等の利点がある。
【0034】
従来例で示したインバータ2台の構成の場合には、1台のインバータに接続するステータ巻線が180度の範囲を占めるために、巻線作業時のステータ巻線の量が増加する。これによって、ステータ内部の作業空間が相対的に少なくなって、巻線がしにくくなる。これによって、モータの占積率が低下し、モータ効率を落とすことになる。インバータ4台以上の構成は従来例に対して、作業性、モータ特性の点で有効である。
【0035】
以下、本実施例の巻線構成法について説明する。図1、図2において、ステータ巻線5を収納するスロット4Aに順に番号が付加されている。図4には、本実施例のモータ(図1、図2で示された)のステータコア4と、ステータ巻線5の周方向の展開図とその結線図を示す。
【0036】
ここでは、二組の3相のスター結線が構成できる範囲を示した。ステータ巻線5のコイル数は、スロットの数と同じで108である。1つのステータ巻線のコイル5Aで、スロットの外周部であるステータ巻線の導体5BをBとし、スロットの内周部であるステータ巻線の導体5BをAと呼称する。ここでは、一つのステータ巻線の導体5Bは、数十本に達する複数の丸線のエナメル線(例えばΦ1のAIW)により構成されるものとする。また、ステータ巻線のコイル5Aは複数組のスロットの内外周に配置されるステータ巻線の導体5Bを有する、つまり複数ターンの巻回数を有するものとする。
【0037】
図5には、本実施例のモータのW1相に属するステータ巻線5の構成を示す。108個のステータ巻線5を3相のインバータ6台で駆動するので、1相当たりのステータ巻線5のコイルの数は6となる。
【0038】
2極9スロットのいわゆる毎極、毎相あたりのスロット数が分数となる分数スロットの巻線構成については、例えば、執行岩根著「電気機械設計論」に記述されているが、2極9スロット構成では、隣のスロットに収納されるステータ巻線5との電気的な位相差は180×2極/9スロットで40度となる。したがって、スロットS1からスロットS18の外周側に配置される導体を有する18組のステータ巻線5の中で、それぞれ位相の最も近い電気角60度(3相モータの相帯で逆相も含む)の中に入るステータ巻線5は例えば、W相については((S1,S2,S6),(S10、S11、S15))のスロット4Aの外周部に配置されるステータ巻線のコイル5Aが組になるものである。
【0039】
また、例えばスロットS1の外周部であるステータ巻線の導体5B(S1B)が1ターンのステータ巻線のコイル5Aを形成すべきスロットの内周部であるステータ巻線の導体5Bとしては、スロット間隔が電気角で180度に最も近いスロットS5(電気角で160度)か、スロットS6(電気角で200度)のステータ巻線5の導体5Bが選択される。電気的な位相差は逆相である180度に対して両方とも20度ずつの間隔があり、同じである。しかし、ステータ巻線5のコイルエンド部を短くできるスロットS5の内周部であるステータ巻線の導体5B(S5A)が、図示のように選択される(一般に、短節巻と称される)。
【0040】
従って、順次S2の外周部であるステータ巻線の導体5B(S2B)が1ターンのステータ巻線のコイル5Aを形成すべきスロットの内周部であるステータ巻線の導体5Bとしては、スロットS6の内周部であるステータ巻線の導体5B(S6A)が図示のように選択され、順次S3の外周部であるステータ巻線の導体5B(S3B)が1ターンを形成すべきスロットの内周部であるステータ巻線の導体5BとしてはスロットS7の内周部であるステータ巻線の導体5A(S7A)が図示のように選択される。
【0041】
したがって、一つのインバータのW相に属するステータ巻線5は、図1、2、4、5で示すように、スロットS1の外周のステータ巻線の導体5BからスロットS5の内周のステータ巻線の導体5Bへ(ステータ巻線のコイル5A1)、さらにスロットS2の外周のステータ巻線の導体5BからスロットS6の内周のステータ巻線の導体5Bへ(ステータ巻線のコイル5A2)、スロットS10の内周のステータ巻線の導体5BからスロットS6の外周のステータ巻線の導体5Bへ(ステータ巻線のコイル5A3)接続される。
【0042】
さらに、スロットS10の外周のステータ巻線の導体5BからスロットS14の内周のステータ巻線の導体5Bへ(ステータ巻線のコイル5A4)、さらにスロットS11の外周のステータ巻線の導体5BからスロットS15の内周のステータ巻線の導体5B(ステータ巻線のコイル5A5)へ、スロットS19の内周のステータ巻線の導体5BからスロットS15の外周のステータ巻線の導体5Bへ(ステータ巻線のコイル5A6)接続する。
【0043】
ここで、スロットS1の外周のステータ巻線の導体5Bは外部への引き出し線W1とし、スロットS15の外周のステータ巻線の導体5Bは中性点の接続WN1として、他のV、U相の中性点と接続される。中性点と外部への引き出しは逆であっても良い。分数スロットの巻線構成の特徴は図4に示すように、極を構成するコイルの数が2となる場合と1となる場合とがあり、全て同じではない点に特徴がある。
【0044】
図5にモータの一つの相に属する6個のステータ巻線5の構成を示す。図5(a)に構成を、図5(b)に断面を示す。図6は、図5(a)の巻線構成を斜めから見た斜視図である。各コイル5(5A1〜5A6)は同じ巻型によって巻回される。図では各巻線が3ターンの例を示すが、4ターンでも良くモータ仕様により適切なターン数が決定される。
【0045】
1相を構成するステータ巻線は、6個のステータ巻線5のコイル5A(5A1、5A2、5A3、5A4、5A5、5A6)とわたり部5C(5C1,5C2,5C3,5C4,5C5,)、中性点への引き出し線WN1、および外部への引き出し線W1からなり、複数の円形の素線によって構成される。つまり、途中に接続部を設けない構成としたことを特徴とする。
【0046】
ステータ巻線5のコイル5Aのわたり部5Cのうち、5C2,5C3,5C5には、巻線時にステータ巻線の導体5Bを構成する数十本単位の導体素線を、例えば管状の絶縁材5Dを図示のように取り付けて絶縁強度の高い絶縁処理を行う。ここで、ステータ巻線の導体5Bとして、0.55mmのエナメル線を55本で構成され、絶縁材5Dとして、シリコンワニスガラスチューブを用いる。こうすることによって、電位差の大きい他の相のステータ巻線5と接触するコイルエンド部での、わたり部の絶縁処理を、追加工程で行う必要がない。巻線後のコイルエンド部は、導体素線が複雑に入り組んでいるため、作業性が悪く、絶縁物の挿入により膨らみやすい。巻線時での絶縁処理は、作業性が良いと共に、コンパクトに絶縁物を挿入することができ、コイルエンド部もコンパクトな構成とすることができる。
【0047】
このように、複数のステータ巻線の巻線間のわたり部5Cが、複数のスロット間に収納されたステータ巻線間(図1、図2における外周部のコイルのS2とS6の間、S6とS10の間、S10とS14の間)のわたり部には、電気的絶縁強度の高い絶縁材5Dを備えている。複数のスロットには他の相のステータ巻線が収納されており、上記わたり部はこの他の相のステータ巻線に接触する。
【0048】
また、隣のスロット間(スロットS1とS2間、S10とS11間)に収納されたステータ巻線間のわたり部には、新たな絶縁をなくした構成としている。すなわち、導体素線はエナメル等の絶縁物が被覆されているので、その絶縁を利用することで前記絶縁材5Dより電気的絶縁強度の低い絶縁物で構成しているものである。
【0049】
このように、本実施例では、隣のスロット間(スロットS1とS2間、スロットS10とS11間)に収納されたステータ巻線間のわたり部には、新たな絶縁をなくした構成とすることによって、コイルエンド部全体をコンパクトにでき、モータ全体を小型化することができる。また、複数のスロット間に収納されたステータ巻線間のわたり部に電気的絶縁強度の高い絶縁材5Dを備えているので、絶縁材の無いモータと比較して、高電圧に耐え、長寿命のモータとすることができる。特に、振動の多い電動サーボプレス装置用モータインバータ装置の適した構成である。以上の構成により、小型で長寿命のインバータモータ装置及びこれを搭載した電動サーボプレス装置を提供できる。
【0050】
さらに、図4で示すように、同極に属するステータ巻線のコイル5A間(5A1,5A2及び5A4,5A5)を接続するわたり部5C(5C1、5C4)の長さを異極に属するステータ巻線のコイル5A間(5A2,5A3間、5A3,5A4間、5A5,5A6間)接続するわたり部5C(5C2,5C3,5C5)の長さよりも短くすることによって、ステータ巻線5の全長を短くでき、効率の良いモータとできるとともに、コイル5A間を接続するわたり部5Cの冗長部分をなくすことができるので、コイルエンド空間を少なくでき、モータを小型化できる。
【0051】
前記開示例2(特許文献2)で示した平角巻線を有する従来方式では、スロット内の巻線占積率は向上できるが、巻線内の渦電流によって、回転数の高い、高周波領域において、かえって抵抗が大きくなり、銅損を大きくしてしまう欠点がある。また、平角線のコイルエンド部の変形の困難さで亀甲状のコイル形状にするために、コイルエンド部の空間が大きくなってしまい、小型化には難がある。
【0052】
本実施例の構成では、図示のように円形素線でかつ略長方形とすることによって、エンド部の変形が容易になるとともに、わたり線の新たな絶縁を行う部分と行わない部分を設けることによりコイルエンドをコンパクトにでき、モータも小型化できる。さらに、渦電流も小さくでき、高速域での効率を向上させることができる。また、効果的にコイルエンド部に絶縁を配置することで、高圧に耐え、長寿命のモータを提供できる。
【0053】
また、上記の巻線においてW相の引き出し線の位置W1は、スロットの外周部から、中点の位置WN1も外周部より引き出す構成とした。しかしステータ巻線のコイル5A6の中性点の引き出しをスロットに収納する以前に、図示反接続線側のコイルエンド部直線部にかけて内周側に移動させてからステータ巻線のコイル5Aをスロット内に収納することにより、外周部からではなく、ステータ巻線の内外周中心から出すことが可能になる。これによって、巻線作業中、作業後の中性点の引き出し線を安定的に固定することができ、中性点の接続作業等がしやすくなる。
【0054】
なお、以上の構成は1台のインバータに接続されるステータ巻線が、全周の約1/6の範囲内に収納される構成であるために、連続巻されたW1,V1,U1相のコイルをステータスロットに収納後、以下、W2,V2,U2相からW6,V6,U6相へいたるまで順次収めてゆく巻線スペースを設けることが可能である。これは、対象とするモータが外周径で数百mmから1000mm、トルクで数kNmの大型のモータで有効である。ステータの内側に大きな空間があるとともに、1組のスター巻線の占める空間が相対的に小さいから、巻線作業を容易に行うことができる。
【0055】
以上、W相について説明したが、V相については電気角で120度位相の異なるS4からスタートし、W相と同様に6個のステータ巻線のコイルを、それぞれ順次W相と120度異なるスロットに収納することで、U相についてはW相から240度位相の異なるスロットS7からスタートし、順次スロットに収納することで完成できる。
【0056】
図7に本発明の一実施例に基づくインバータモータ装置の構成を示す。図4で示したように、ロータ3の4極と、それに対応するステータ2の固定子スロット18個分に対応するステータ巻線5のステータ巻線のコイル5Aが1セットになり、各相6個ずつ組としてその間接続部なしで、一方はインバータ17のW,V,Uの端子に、一方は中性点で接続した構成とする。すなわち、ステータ巻線のコイル群E−1は、U1を始点としてUN1を終点とする中性点、V1を始点としてVN1を終点とする中性点、W1を始点としてWN1を終点とする中性点の3コイルで構成される1つの巻線軸を構成する。コイルE−2、E−3、E−4、E−5、E−6も同様である。
【0057】
従って、インバータ17は本実施例では6台の構成となる。ロータ3は全周24極で、その軸端には位置検出器のロータ14Bを同軸上に配置し、そこからの位置情報θを、図示しない位置検出器の固定子を介して固定子側に取り込む。インバータ17は同じ構造のインバータ要素を6台備えた構成である。
【0058】
インバータ17は図示のように3相構成で、例えばスィッチング素子18としてIGBT等から構成されるものとする。このインバータ17の電源としては交流電源19から整流器20を介して直流に変換し、直流端には比較的容量の大きいコンデンサ21を接続した構成である。電動サーボプレス等の用途では、モータ1は一定の角度範囲での繰り返し運動となることが多い。この場合に、モータ1の加減速のエネルギーをコンデンサ21で充放電させることで電源容量、整流器容量を小さく抑える構成にできる。
【0059】
個々のインバータ17の制御は、一般のACサーボ等に使用されている制御とほぼ同じであるが、この場合には同一の電流(トルク)指令Isを6台のインバータ17に同じに与えることによって、6倍のトルクを発生させることができる。位置検出器14Bからの回転角度情報θから、正弦、余弦波発生回路22を介してその出力を2相―3相変換回路23に出力して、それによってU,V,W相に各層に応じた電流指定Isu,Isv,Iswを出力する。上記の電流指令Isu,Isv,Iswと、電流検出器CTからのフィードバック信号Ifu,Ifv,Ifwとで、各相の電流制御系24(ACRU,ACRV,ACRW)を構成する。電流検出器CTは3個の例で示したが、2個でもよい。
【0060】
インバータの制御系として、上記外にd/q軸の制御系で行う方法もある。この方法は本願発明には直接関係がないので詳述は省略する。
【0061】
以上の構成では、大きなインバータ1台で行うよりも、汎用性のある小型のインバータ17を6台使用することで、価格的に安価で、生産性、拡張性に富んだシステムにできる。また、故障時や装置のメンテナンス等も容易にできる利点がある。ここで、1相を形成するステータ巻線5のコイル6個は、本実施例では前述のように接続部を含まず一本の線として構成しているので振動の多い、電動サーボプレス等の駆動装置として使用する場合、信頼性の向上、長寿命化することができる利点がある。さらに、分数スロットであるために先に示した特徴がある。
【0062】
以上は、表面磁石の永久磁石回転子で示したが、ロータコア内に埋め込んだいわゆる埋め込み型の回転子構成の永久磁石回転電機でもよい。この場合、磁石はより堅固に回転子内に保持できる。
【0063】
次に本発明の他の実施例に基づくインバータモータ装置を説明する。図8に本発明の他の実施例に基づくインバータモータ装置のモータ断面図を示す。図9に本発明の他の実施例に基づくモータのステータコアとステータ巻線の周方向の展開図とその結線図を示す。図10に本発明の他の実施例に基づくモータの一つの相に属するステータ巻線の構成を示す。
【0064】
ここでは、ステータコアのスロット数Nとして60とし、ロータ3の極数Pを16極とし、モータ1のステータ巻線5の相数Mは一般的な3相とする。つまり、毎極毎相のスロット数NSPP=N/P/Mは5/4となり、スロット数15とロータの極数4のスロットコンビネーションが4回の繰り返される構造である。
【0065】
以下、他の実施例の巻線構成法について説明する。図8において、ステータ巻線5の収納するスロット4Aに順に番号が付加している。図9には、他の実施例のモータ(図8で示された)のステータコア4とステータ巻線5の周方向の展開図とその結線図を示す。図10には、モータのV1相に属するステータ巻線5の構成を示す。60のステータ巻線5を3相のインバータ4台で駆動するので、1相当たりのステータ巻線5のコイル数は5となる。
【0066】
4極15スロット構成では、隣のスロットに収納されるステータ巻線5との電気的な位相差は、180×4極/15スロットで48度となる。したがって、スロットS1からスロットS15の外周側に配置される導体を有する15組のステータ巻線5の中で、それぞれ位相の最も近い電気角60度(3相モータの相帯で逆相も含む)の中に入るステータ巻線5は、例えば、V相については(S1、S2、S5、S9、S13)のスロット4Aの外周部に配置されるステータ巻線のコイル5A、5本が組になるものである。
【0067】
また、例えばスロットS1の外周部であるステータ巻線の導体5Bが1ターンを形成すべきスロットの内周部であるステータ巻線の導体5Aとしては、スロット間隔が電気角で180度に最も近いスロットS5(電気角で48×4=192度)のステータ巻線5の導体5Bが選択される。従って、順次S2の外周部であるステータ巻線の導体5Bが、1ターンを形成すべきスロットの内周部であるステータ巻線の導体5Bとしては、スロットS6の内周部であるステータ巻線の導体5Bが図示のように選択され、順次、選択される。
【0068】
したがって、一つのインバータのV相に属するステータ巻線5は、図8、9,10で示すように、スロットS1の外周のステータ巻線の導体5Bから、スロットS5の内周のステータ巻線の導体5Bへ、さらにスロットS2の外周のステータ巻線の導体5BからスロットS6の内周のステータ巻線の導体5Bへ、スロットS9の内周のステータ巻線の導体5Bから、スロットS5の外周のステータ巻線の導体5Bへ接続される。
【0069】
さらに、スロットS9の外周のステータ巻線の導体5Bから、スロットS13の内周のステータ巻線の導体5Bへ、さらにスロットS17の内周のステータ巻線の導体5Bから、スロットS13の外周のステータ巻線の導体5Bへ接続する。ここで、スロットS1の外周のステータ巻線5は外部への引き出し線V1とし、一方スロットS13の外周のステータ巻線5は中性点の接続用VN1として他のV、U相の中性点と接続される。中性点と外部への引き出しは逆であっても良い。さらに、巻線組を4組以上とすれば、大容量化が容易に実現できる。
【0070】
本発明の他の実施例では、図10に示した5個のステータ巻線の各コイル5Aは、同じ巻型によって巻回される。また、1相を構成するステータ巻線は、5個のステータ巻線5のコイル5A(5A1、5A2、5A3、5A4、5A5)を、わたり部5C(5C1,5C2,5C3,5C4)、中性点への引き出し線VN1、および外部への引き出し線V1とからなり、複数の導体素線によって構成される。つまり、途中に接続部を設けない構成としたことを特徴とする。
【0071】
また、ステータ巻線5のコイル5Aのわたり部5Cのうち、5C2,5C3,5C4にはステータ巻線の導体5Bを構成する導体素線を例えば、管状の絶縁材5Dを図示のように取り付けておくことによって、電位差のある他の相のステータ巻線5と接触するコイルエンド部の絶縁を後の追加工程で行うことなく、効果的に対応することができる。さらに、図10で示すように、同極に属するステータ巻線のコイル5A間を接続するわたり部5C1の長さを異極に属するステータ巻線のコイル5A間を接続するわたり部5C2,5C3,5C4の長さよりも短くすることによって、ステータ巻線5の全長を短くでき、効率の良いモータとできるとともに、コイル5A間を接続するわたり部5Cの冗長部分をなくすことができるので、コイルエンド空間を少なくでき、モータを小型化できる。
【0072】
本発明の他の実施例の構成では、図示のように円形素線でかつ略長方形とすることによって、エンド部の変形が容易になる点、わたり線の絶縁を行う部分と行わない部分を設けることによりコイルエンドをコンパクトにでき、モータも小型化できる。さらに、渦電流も小さくでき、高速域での効率を向上させることができる。また、効果的にエンド部に絶縁を配置することで、高圧に耐え、長寿命のモータインバータ装置及びそれを搭載した電動サーボプレス装置を提供できる。
【符号の説明】
【0073】
1:モータ、2:ステータ、3:ロータ、4:ステータコア、4A(S1、S2、…):スロット、4B:ステータティース、4C:ステータコアバック、5:ステータ巻線、5A:ステータ巻線のコイル、5B:ステータ巻線の導体、5C:ステータ巻線のわたり部、5D:管状の絶縁材、E1〜E6:ステータ巻線のコイル群、6:永久磁石、7:ロータコア、7A:内周円筒部、7B:外周円筒部、7C:ロータリブ、7D:通風孔、8:シャフト、9:ロータプレート、10:磁石保持部材、11:固定子ピン、12:エンドブラケット、13:エンドプレート、14:位置検出器、14A:位置検出器のステータ、14B:位置検出器のロータ、15:ベアリング、16A:スロット絶縁、16B:層間絶縁、17:インバータ、18:スィッチング素子、CT:電流検出器、19:交流電源、20:整流器、21:コンデンサ、22:正弦、余弦波発生回路、23:2相―3相変換回路、24:電流制御系。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数スロットに巻装された三相のステータ巻線をモータの周方向に複数組並べて配置されたステータと外周に永久磁石を有する回転子とを備えたモータと、前記複数の三相のステータ巻線を駆動する複数の三相インバータとを備えたインバータモータ装置において、
上記三相のステータ巻線を構成する各相巻線は、複数の丸線の素線からなり、
複数のスロットに納められた各組のステータ巻線を対応する三相インバータに直接接続するとともに、複数のステータ巻線の巻線間のわたり部で、他の相のステータ巻線に接触するわたり部には絶縁強度の高い絶縁物を設け、それ以外の巻線間のわたり部には上記絶縁物より絶縁強度の低い絶縁物を設けたことを特徴とするインバータモータ装置。
【請求項2】
複数スロットに巻装された三相のステータ巻線をモータの周方向に複数組並べて配置されたステータと外周に永久磁石を有する回転子とを備えたモータと、前記複数の三相のステータ巻線を駆動する複数の三相インバータとを備えたインバータモータ装置において、
上記三相のステータ巻線を構成する各相巻線は、複数の丸線の素線からなり、
複数のスロットに納められた各組のステータ巻線を対応する三相インバータに直接接続するとともに、複数のステータ巻線の巻線間のわたり部で、複数のスロット間に収納されたステータ巻線間のわたり部には絶縁強度の高い絶縁物を設け、隣のスロット間に収納されたステータ巻線間のわたり部には上記絶縁物より絶縁強度の低い絶縁物を設けたことを特徴とするインバータモータ装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のインバータモータ装置において、同極間のステータ巻線のわたり部の長さを短く、他極へのステータ巻線のわたり部の長さを長くしたことを特徴とするインバータモータ装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のインバータモータ装置において、中性点の引き出しをスロットの中心部より引き出したことを特徴とするインバータモータ装置。
【請求項5】
請求項1または2に記載のインバータモータ装置において、多相ステータ巻線の組数が少なくとも4組以上であることを特徴とするインバータモータ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−62897(P2013−62897A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−197923(P2011−197923)
【出願日】平成23年9月12日(2011.9.12)
【出願人】(000100861)アイダエンジニアリング株式会社 (153)
【出願人】(502129933)株式会社日立産機システム (1,140)
【Fターム(参考)】