説明

インバータ制御装置

【課題】過電流から下アーム側スイッチを保護しつつ、電圧形インバータから直流母線への回生を回避する技術を提供する。
【解決手段】コンバータが転流するタイミングはキャリアC1が値drtを採る時点である。キャリアC3はキャリアC1と同形で逆相である。よってコンバータが転流するタイミングはキャリアC3が値dst(=1−drt)を採る時点と一致する。インバータのスイッチングはキャリアC3が、信号波dst+drt(d7+d6+d4),dst+drt(1−d4),dst+drt・(1−d4−d6),dst(1−d7−d6−d4),dst・d4,dst(d4+d6)を採る時点で行われる。当該信号波を適切に設定することにより、当該スイッチングが行われても上アーム側スイッチのいずれか一つが導通する。よってどの時点で下アーム側スイッチの全てがオフしても、インバータでは環流動作が発生し、回生が回避される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はインバータを、特に電圧形インバータを制御する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
図1は電圧形インバータ4を採用する電力変換装置の構成を例示する回路図である。電圧形インバータ4は、直流電圧Vdcが印加される直流母線LH,LLの間で相互に並列に接続される3つの電流経路を備える。なお直流母線LHは直流母線LLよりも高電位である。
【0003】
第1の電流経路は接続点Puと、上アーム側スイッチQupと、下アーム側スイッチQunとを有している。第2の電流経路は接続点Pvと、上アーム側スイッチQvpと、下アーム側スイッチQvnとを有している。第3の電流経路は接続点Pwと、上アーム側スイッチQwpと、下アーム側スイッチQwnとを有している。
【0004】
上アーム側スイッチQup,Qvp,Qwpは導通時には直流母線LHからそれぞれ接続点Pu,Pv,Pwに電流を流す。下アーム側スイッチQun,Qvn,Qwnは導通時にはそれぞれ接続点Pu,Pv,Pwから直流母線LLに電流を流す。接続点Pu,Pv,Pwからは三相負荷5に三相電圧Vu,Vv,Vwが引加される。
【0005】
上アーム側スイッチQup,Qvp,Qwpに対して、それぞれ上アーム側ダイオードDup,Dvp,Dwpが逆並列に接続される。下アーム側スイッチQun,Qvn,Qwnに対してそれぞれ下アーム側ダイオードDun,Dvn,Dwnが逆並列に接続される。なお、「逆並列」とは、二つの素子が並列に接続されており、かつ二つの素子の導通方向が相互に反対である態様を示す。
【0006】
電圧形インバータ4は、その保護のために、電圧インバータ4に流れる電流が閾値を越えることによって特定の動作(以下「過電流保護動作」と称す)をする。具体的には当該電流は直流母線LH及び直流母線LLに流れるリンク電流Idcである。ここではリンク電流Idcは、直流母線LLに設けられたシャント抵抗3における電圧降下CINとして検出される。電圧降下CINが閾値を超えると電圧形インバータ4に流れる電流を過電流として検出し、過電流保護動作が実行される。具体的には過電流保護動作では、下アーム側スイッチQun,Qvn,Qwnを全てオフし、これらを過電流から保護する。しかし過電流が検出されて、下アーム側スイッチQun,Qvn,Qwnが全てオフされても、上アーム側スイッチQup,Qvp,Qwpの動作は変更されない。
【0007】
このような過電流保護動作は、例えば後掲する非特許文献2に紹介されている。図1では非特許文献2に倣って、電圧降下CINとしては、シャント抵抗3における電圧降下そのものではなく、当該電圧降下に対してフィルタ9によって低域透過濾波を行っている。かかる濾波は、電圧降下CINが極端に短い期間で閾値を越えても過電流保護を発生させない点で有利である。
【0008】
なお、本願に関係する技術を開示する特許文献及び非特許文献を下記に挙げる。非特許文献1や特許文献1ではキャリアとして変形三角波が採用されており、特許文献2、特許文献3では対称三角波が採用されている。特許文献2ではキャリアの周期を変化させることによってインバータの制御をコンバータの制御と同期させている。特許文献3では信号波の振幅を可変としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004−222337号公報
【特許文献2】特開2004−266972号公報
【特許文献3】特許第4135026号明細書
【特許文献4】特開2009−213252号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】L.wei, T.A.Lipo, "A Novel Matrix converter Topology with Simple Commutation", IEEE ISA2001, vol3, pp1749-1754, 2001
【非特許文献2】三菱電機株式会社「DIPIPM Ver.3 アプリケーションノート」(2009年8月)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
電圧形インバータ4が出力する三相電圧Vu,Vv,Vwにおける瞬時の振幅を制御するため、上アーム側スイッチQup,Qvp,Qwp及び下アーム側スイッチQun,Qvn,Qwnは種々のパターンでスイッチングされる。当該パターンはいわゆる単位電圧ベクトルVj(j=0,1,2,3,4,5,6,7)で決定され、これらのパターンの組み合わせによって三相電圧Vu,Vv,Vwの振幅及び位相が制御される。
【0012】
特に実質的に三相電圧Vu,Vv,Vwを相互に一致させるパターンは零電圧ベクトルと通称される電圧ベクトルが採用される。
【0013】
非特許文献1や特許文献1で紹介されるように、当該零電圧ベクトルとして、全ての下アーム側スイッチQun,Qvn,Qwnが導通する零電圧ベクトルV0が必ず採用されていた。このとき、直流母線LH,LL同士の間で、三相負荷5を経由しない短絡を避けるため、上アーム側スイッチQup,Qvp,Qwpは全て非導通となる。
【0014】
零電圧ベクトルV0が採用されて下アーム側スイッチQun,Qvn,Qwnが導通している状態においては、接続点Pu,Pv,Pwから直流母線LLへと向かって電流が流れ得るし、下アーム側ダイオードDun,Dvn,Dwnを介して直流母線LLから接続点Pu,Pv,Pwへと向かっても電流が流れ得る。よってこの状態においては三相負荷5と電圧形インバータ4との間に流れる電流は、下アーム側スイッチQun,Qvn,Qwn、下アーム側ダイオードDun,Dvn,Dwnを介して還流しており、電圧降下CINによって過電流が検出されることはない。
【0015】
しかし、上述のように、過電流保護動作は下アーム側スイッチQun,Qvn,Qwnのみを強制的にオフするものの、上アーム側スイッチQup,Qvp,Qwpの動作を変更するものではない。よって過電流保護動作中に、下アーム側スイッチQun,Qvn,Qwnが非導通となる零電圧ベクトルV0に基づいて電圧形インバータ4が動作すると、電圧形インバータ4が有する全てのスイッチが非導通となる。このときには電圧形インバータ4がダイオードブリッジとして機能するので、三相負荷5が発生する逆起電力が直流母線に回生する。かかる回生エネルギーに対処するためには直流母線LH,LL間に設けるクランプ回路8の容量が大きくなるという問題を招来する。
【0016】
よってこの発明は、電圧形インバータにおいて過電流から下アーム側スイッチを保護しつつ、電圧形インバータから直流母線への回生を回避する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
この発明にかかるインバータ制御装置は、直流電圧(Vdc)を三相交流電圧(Vu,Vv,Vw)に変換する電圧形インバータ(4)を制御する装置である。
【0018】
前記電圧形インバータ(4)は、前記直流電圧が印加される第1及び第2の直流母線(LH、LL)の間で相互に並列に接続される3つの電流経路を備える。
【0019】
前記第1の直流母線(LH)は前記第2の直流母線(LL)よりも高電位である。
【0020】
前記電流経路の各々は、接続点(Pu,Pv,Pw)と、上アーム側スイッチ(Qup,Qvp,Qwp)と、下アーム側スイッチ(Qun,Qvn,Qwn)と、上アーム側ダイオード(Dup,Dvp,Dwp)と、下アーム側ダイオード(Dun,Dvn,Dwn)とを有する。
【0021】
前記上アーム側スイッチは、前記第1の直流母線と前記接続点との間に接続され、上アーム側スイッチング信号(Sup,Svp,Swp)に従って導通/非導通し、導通時には前記第1の直流母線から前記接続点に電流を流す。
【0022】
前記下アーム側スイッチは、前記接続点と前記第2の直流母線との間に接続され、下アーム側スイッチング信号(Sun,Svn,Swn)に従って導通/非導通し、導通時には前記接続点から前記第2の直流母線に電流を流す。
【0023】
前記上アーム側ダイオードは、前記上アーム側スイッチの各々に対して逆並列に接続される。前記下アーム側ダイオードは、前記下アーム側スイッチの各々に対して逆並列に接続される。
【0024】
この発明にかかるインバータ制御装置の第1の態様は、上アーム側スイッチング信号生成部(30)と、保護信号生成装置(11)と、下アーム側スイッチング信号生成部(12)とを備える。
【0025】
前記上アーム側スイッチング信号生成部は、インバータ用信号波とインバータ用キャリア(C2,C3)との比較に基づいて前記上アーム側スイッチング信号(Sup,Svp,Swp)を生成する。
【0026】
前記保護信号生成装置は、前記一対の直流母線に流れる電流が閾値を超えたときに保護信号(M)を活性化する。
【0027】
前記下アーム側スイッチング信号生成部は、前記保護信号が非活性のときには前記下アーム側スイッチング信号として前記上アーム側スイッチング信号と相補的な信号を採用し、前記保護信号が活性のときには前記上アーム側スイッチング信号に依存せずに前記下アーム側スイッチング信号を不活性とする。
【0028】
前記上アーム側スイッチング信号生成部は、前記電圧形インバータの駆動時には、前記上アーム側スイッチング信号のうちいずれか一つを必ず活性化させる。
【0029】
この発明にかかるインバータ制御装置の第2の態様は、その第1の態様であって、前記接続点(Pu,Pv,Pw)の全てを、前記電圧形インバータ(4)によって互いに接続する場合には、全ての前記上アーム側スイッチング信号(Sup,Svp,Swp)が活性化され、全ての下アーム側スイッチング信号(Sun,Svn,Swn)が非活性化される。
【0030】
この発明にかかるインバータ制御装置の第3の態様は、その第1の態様であって、前記第1の直流母線(LH)と前記第2の直流母線(LL)との間には、多相交流電圧(Vr,Vs,Vt)を前記直流電圧(Vdc)に変換する電流形コンバータ(2)が接続される。
【0031】
そして少なくとも前記電流コンバータにおいて転流のためのスイッチングが発生する時点では、全ての前記上アーム側スイッチング信号(Sup,Svp,Swp)が活性化され、全ての前記下アーム側スイッチング信号(Sun,Svn,Swn)が非活性化される。
【0032】
この発明にかかるインバータ制御装置の第4の態様は、その第3の態様であって、前記電流形コンバータ(2)において前記転流は、コンバータ用キャリア(C1)の一周期(T0)を第1期間(dst・T0)と第2期間(drt・T0)とに区分するタイミングで発生する。
【0033】
前記三相交流電圧の最大相(Vu)に対応する第1の前記電流経路に設けられた前記上アーム側スイッチ(Qup)に対応する前記上アーム側スイッチング信号(Sup)は、前記インバータ用キャリアが第1の前記インバータ用信号波と第2の前記インバータ用信号波との間の値を採るときに活性化する。
【0034】
前記三相交流電圧の中間相(Vv)に対応する第2の前記電流経路に設けられた前記上アーム側スイッチ(Qvp)に対応する前記上アーム側スイッチング信号(Svp)は、前記インバータ用キャリアが第3の前記インバータ用信号波と第4の前記インバータ用信号波との間の値を採るときに活性化する。
【0035】
前記三相交流電圧の最小相(Vw)に対応する第3の前記電流経路に設けられた前記上アーム側スイッチ(Qwp)に対応する前記上アーム側スイッチング信号(Swp)は、前記インバータ用キャリアが第5の前記インバータ用信号波と第6の前記インバータ用信号波との間の値を採るときに活性化する。
【0036】
前記第2のインバータ用信号波は値1を採る。
【0037】
前記第4のインバータ用信号波は値dbc+dac(1−dg1)を採る。
【0038】
前記第6のインバータ用信号波は値dbc+dac(1−dg1−dg2)]を採る。
【0039】
前記第1のインバータ用信号波は値0を採る。
【0040】
前記第3のインバータ用信号波は値dbc・dg1を採る。
【0041】
前記第5のインバータ用信号波は値dbc(dg1+dg2)を採る。
【0042】
但し、前記第1期間と前記第2期間の長さの比をdac:dbc(但しdbc=1−dac)とし、前記第1の前記電流経路に設けられた前記上アーム側スイッチ(Qup)のみが導通する第1区間(V4)と、前記第1及び前記第2の前記電流経路に設けられた二つの前記上アーム側スイッチ(Qup,Qvp)のみが導通する第2区間(V6)と、全ての前記電流経路に設けられた三つの前記上アーム側スイッチ(Qup,Qvp,Qwp)が導通する第3区間(V7)との長さの比をdg1:dg2:dg3(但しdg1+dg2+dg3=1)とし、前記インバータ用キャリアは三角波を呈し、その最小値及び最大値をそれぞれ0,1とした。前記インバータ用キャリアは前記タイミングにおいて値dbcを採る。
【発明の効果】
【0043】
この発明にかかるインバータ制御装置の第1の態様によれば、電流が閾値を超えたときに下アーム側スイッチを非導通にして過電流保護動作を行う際、上アーム側スイッチングのうちいずれか一つが必ず導通するので、電圧形インバータから直流母線への回生が回避される。
【0044】
この発明にかかるインバータ制御装置の第2の態様によれば、電圧形インバータがいわゆる零電圧ベクトルに基づいて動作している状態ですら、上アーム側スイッチングのうちいずれか一つが必ず導通しているので、この状態で過電流保護動作が発生しても、回生が回避される。
【0045】
この発明にかかるインバータ制御装置の第3の態様によれば、コンバータの転流時のためのスイッチングにおいて直流母線には電流が流れないので、コンバータにおける損失が低減される。
【0046】
この発明にかかるインバータ制御装置の第4の態様によれば、電流形コンバータにおいて転流のためのスイッチングが発生するときには、全ての上アーム側スイッチが導通する。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】直接形交流電力変換装置の概念的な構成の一例を示す回路図である。
【図2】電流形コンバータにおける動作を説明するグラフである。
【図3】直接形交流電力変換装置の従来の動作を示すグラフである。
【図4】従来の動作における、電圧形インバータ用のキャリアについての信号波の波形を示すグラフである。
【図5】直接形交流電力変換装置の本実施の形態の第1例における動作を示すグラフである。
【図6】本実施の形態の第1例にかかる動作における、電圧形インバータ用のキャリアについての信号波の波形を示すグラフである。
【図7】直接形交流電力変換装置の本実施の形態の第2例における動作を示すグラフである。
【図8】本実施の形態にかかる動作を制御する構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0048】
図1は直接形交流電力変換装置の概念的な構成の一例を示す回路図である。当該構成については既に説明された部分もあり、部分的に重複するが、下記にも説明を行う。下記に説明がなされていなくても、当該構成について既に説明された内容は以下の説明においても妥当する。但し、この実施の形態に関する動作を行う制御装置6については後に詳細を説明する。
【0049】
ここで例示される直接形交流電力変換装置はインダイレクトマトリックスコンバータであり、AC/DC変換を行う電流形コンバータ2と、DC/AC変換を行う電圧形インバータ4とを備えている。電流形コンバータ2と電圧形インバータ4とは、直流母線LH,LLによって接続される。
【0050】
電流形コンバータ2は三個の入力端Pr,Ps,Ptを有する。入力端Pr,Ps,Ptは例えば三相交流電源1に接続され、三相交流電圧Vr,Vs,Vtを相毎に入力する。電流形コンバータ2は、入力端Pr,Ps,Ptから供給される線電流ir,is,itを第1期間と第2期間とに区分される周期で転流して、直流母線LH,LL間にリンク電流Idcを印加する。以下では、線電流ir,is,itは入力端Pr,Ps,Ptから電圧形インバータ4へ向かう方向を正方向として説明する。
【0051】
第1期間は、入力端Pr,Ps,Ptの内、最大相を呈する交流電圧と最小相を呈する交流電圧とが印加される一対に流れる電流が、直流母線LH,LL間にリンク電流Idcとして供給される期間である。また第2期間は、入力端Pr,Ps,Ptの内、中間相を呈する交流電圧と最小相を呈する交流電圧とが印加される一対に流れる電流が、直流母線LH,LL間にリンク電流Idcとして供給される期間である。
【0052】
直流電圧たるリンク電圧Vdcの差で直流母線LHは直流母線LLよりも高電位となる。
【0053】
電圧形インバータ4は接続点Pu,Pv,Pwを有する。電圧形インバータ4は、リンク電圧Vdcに対してパルス幅変調に基づくスイッチングパターンでスイッチングを行って、接続点Pu,Pv,Pwに多相交流を出力する。
【0054】
電流形コンバータ2はスイッチング素子Qxp,Qxn(但し、xはr,s,tを代表する。以下同様)を備えている。スイッチング素子Qxpは入力端Pxと直流母線LHとの間に設けられている。スイッチング素子Qxnは入力端Pxと直流母線LLとの間にそれぞれ設けられている。
【0055】
スイッチング素子Qxp,Qxnはいずれも逆阻止能力を有しており、図1ではこれらがRB−IGBT(Reverse Blocking IGBT)として例示されている。あるいはこれらのスイッチング素子は、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)とダイオードとの直列接続で実現することもできる。
【0056】
スイッチング素子Qxp,Qxnにはそれぞれスイッチング信号Sxp,Sxnが入力される。スイッチング信号Sxpの活性/非活性に応じてスイッチング素子Qxpがそれぞれ導通/非導通し、スイッチング信号Sxnの活性/非活性に応じてスイッチング素子Qxnがそれぞれ導通/非導通する。
【0057】
スイッチング素子Qyp,Qynにはそれぞれスイッチング信号Syp,Synが入力される(但し、yはu,v,wを代表する。以下同様)。スイッチング信号Sypの活性/非活性に応じてスイッチング素子Qypがそれぞれ導通/非導通し、スイッチング信号Synの活性/非活性に応じてスイッチング素子Qynがそれぞれ導通/非導通する。
【0058】
直流母線LH,LLの間にはクランプ回路8が設けられる。クランプ回路8はインバータ4からの回生エネルギーによって生じる直流母線LH,LL間の電圧上昇を抑制する。
【0059】
図2は電流形コンバータ2における動作を説明するグラフである。上段のグラフには三相交流電圧Vr,Vs,Vtが、下段のグラフには通流比dr,ds,dtが、それぞれ示されている。
【0060】
図2において上段のグラフの上方には、時間的な領域R1〜R6が付記されている。領域R1〜R6は三相交流電圧Vr,Vs,Vtのうち、絶対値が最も大きいものが切り替わるタイミングで相互に時間的に区分される。この切り替わりのタイミングは、三相交流電圧Vr,Vs,Vtのいずれかが零を採るタイミングでもある。領域R1〜R6はこのように区分されるので、いずれもが、三相交流電圧Vr,Vs,Vtの一周期を六等分したπ/3の長さを有する。例えば領域R1は交流電圧Vtの絶対値が交流電圧Vr,Vsのいずれの絶対値よりも大きな領域であり、交流電圧Vsが負から正に切り替わる時点を始期とし、交流電圧Vrが正から負に切り替わる時点を終期とする。
【0061】
三相交流電圧Vr,Vs,Vtは、線間電圧の最大値に対する比で表されており、よって三相交流電圧Vr,Vs,Vtの絶対値の最大値は1/√3となっている。ここでは三相交流電圧の位相角の基準(0°)として、三相交流電圧Vrが最大値を採る時点が採用されている。
【0062】
通流比dxはスイッチング素子Qxp,Qxnのスイッチングによって線電流ixが流れる時比率を示す。通流比dxが正であればスイッチング素子Qxpが導通して入力端Pxへと電流形コンバータ2に電流が流れ込む時比率を、負であればスイッチング素子Qxnが導通して入力端Pxから三相交流電源1へと電流が流れ出す時比率を、それぞれ示す。具体的には、例えば領域R1において、交流電圧Vtが最も小さいので、スイッチング素子Qtnは導通し続けることになり、dt=−1と表される。この場合、スイッチング素子Qrp,Qspは交互に導通することになり、それぞれが導通する時比率が通流比dr,dsで示される。スイッチング素子Qrp,Qspは三相交流電圧Vr,Vs,Vtの一周期に対して短い周期で交互に導通することになり、パルス幅変調を行うことになる。
【0063】
図2から理解されるように、領域R1において交流電圧Vrが交流電圧Vsよりも大きければ通流比drが通流比dsよりも大きく、交流電圧Vrが交流電圧Vsよりも小さければ通流比drが通流比dsよりも小さい。このように、最大相となる交流電圧に対応する線電流の通流比を、中間相となる線電流の通流比よりも大きくすることは、線電流ixを正弦波に近づける点で望ましい。線電流ixを正弦波状とすべく通流比dxを決定する技術は周知であるので(例えば非特許文献1、特許文献3,4等)、当該技術の具体的な内容はここでは省略する。
【0064】
以下、領域R1を例に採って説明を続ける。領域R1において通流比dtは値−1に固定されるので、領域R1における通流比dr,dsをそれぞれ通流比drt,dstとして表記する。他の領域R2〜R6についても、相電圧波形の対称性から、相順の読替、及びスイッチング素子Qxp,Qxnの相互の読替により、下記の説明が妥当することは自明である。
【0065】
図3は直接形交流電力変換装置の従来の動作を示すグラフである。上記通流比drt,dstに則って電流形コンバータ2をスイッチングするために、ここでは最小値0と最大値1との間で遷移する三角波を呈するキャリアC1を採用する。dst+drt=1となるので、電流形コンバータ2が転流するタイミングとしてはキャリアC1が通流比drtと等しくなる時点を採用することができる。
【0066】
キャリアC1の一周期T0を導入すると、キャリアC1の波形が三角波であることから、キャリアC1が値0から通流比drtの間にある期間の長さはdrt・T0(以下、当該期間を「期間drt・T0」とも称す)で、キャリアC1が通流比drtから値1の間にある期間の長さはdst・T0(以下、当該期間を「期間dst・T0」とも称す)で表される。以下の各図ではdst>drtとなる場合、即ち領域R1のうち位相角が大きい後半(図2の位相角60〜90°)における場合が例示されている。この場合、交流電圧Vr,Vs,Vtがそれぞれ、中間相、最大相、最小相となる。期間dst・T0,drt・T0は、それぞれ上述の第1期間及び第2期間として把握することができる。
【0067】
期間dst・T0においては、電流形コンバータ2の入力端Pr,Ps,Ptのうち、最大相を呈する交流電圧Vsと最小相を呈する交流電圧Vtとが印加される入力端Ps,Ptの対に流れる電流が、直流母線LHに供給される。
【0068】
期間drt・T0においては、入力端Pr,Ps,Ptのうち、中間相を呈する交流電圧Vrと最小相を呈する交流電圧Vtとが印加される入力端Pr,Ptの対に流れる電流が、直流母線LHに対して供給される。このような転流を実現するスイッチング信号Sxp,Sxnの生成は、例えば特許文献3において公知であるので説明は省略する。
【0069】
電圧形インバータ4の瞬時空間電圧ベクトル変調を行うため、キャリアC2と信号波との比較を行い、当該比較結果に基づいてスイッチング信号Syp,Synを生成する。キャリアC2としてキャリアC1と同形かつ同相の波形を採用する。以下では説明を簡単にするためにキャリアC1,C2は、いずれも最小値が0であり、最大値が1である場合を例に採る。但し、信号波について適宜に線形変換を行うことにより、これらの最小値、最大値は任意の値を選定できる。
【0070】
電圧形インバータ4が採用すべき電圧ベクトルがベクトル演算を用いてd4・V4+d6・V6で表されるとする(d4+d6≦1)。ここで「単位電圧ベクトルVg」を導入した。但し当該表記において、値gは、U相、V相、W相にそれぞれ値4,2,1を割り当て、それぞれに対応する上アームが導通するときに、割り当てられた値を合計した値であって、0〜7の整数を採る。
【0071】
例えば単位電圧ベクトルV4はスイッチング素子Qup,Qvn,Qwnが導通し、スイッチング素子Qun,Qvp,Qwpが非導通となるスイッチングパターンを表す。また単位電圧ベクトルV6はスイッチング素子Qup,Qvp,Qwnが導通し、スイッチング素子Qun,Qvn,Qwpが非導通となるスイッチングパターンを表す。
【0072】
図3では電圧形インバータ4が採用すべきスイッチングパターンを表す電圧ベクトルが、ベクトル演算を用いてd4・V4+d6・V6で表され、d0+d7=1−(d4+d6)>0、d0>0、d7>0が成立する場合を例示している。このような場合、単位電圧ベクトルV0,V4,V6,V7をd0:d4:d6:(1−d0−d4−d6)の比の長さで採用する。この場合、キャリアC2の一周期T0内において、単位電圧ベクトルV0,V4,V6,V7をそれぞれd0:d4:d6:(1−d0−d4−d6)の比で採用したスイッチングを行うことになる。後述する図4,図6で示される二相変調の場合とは異なって、図3ではd0>0,d7>0であるので三相変調の場合が例示されている。
【0073】
このように、各単位電圧ベクトルが採用される長さの、キャリア一周期分に対する比も時比率と称することにする。ここではd0+d4+d6+d7=1となっている。
【0074】
単位電圧ベクトルV0、V7を採用する場合には、電圧形インバータ4には電流が流れないので、リンク電流Idcは零となる。よって単位電圧ベクトルV0に対応したスイッチングパターンが採用される期間において電流形コンバータ2が転流するためのスイッチングを行えば、当該スイッチングにいてスイッチング素子に電流が流れない、いわゆる零電流スイッチングが実現される。零電流スイッチングは電流形コンバータ2の損失を低減する観点で望ましい。
【0075】
上述のような観点に基づいて、電圧形インバータ4におけるスイッチングパターンとして、単位電圧ベクトルV0,V4,V6,V7を採用する期間をどのように設定するかについては公知であるので(例えば特許文献3等)、当該技術の具体的な内容はここでは省略する。
【0076】
具体的な例示として、図3においてはキャリアC2が信号波drt(1−d0)以下若しくは信号波(drt+dst・d0)以上を採るときにスイッチング信号Supが活性化し、キャリアC2が信号波drt(1−d0−d4)以下若しくは信号波(drt+dst(d0+d4))以上を採るときにスイッチング信号Svpが活性化し、キャリアC2が信号波drt(1−d0−d4−d6)以下若しくは信号波(drt+dst(d0+d4+d6))以上を採るときにスイッチング信号Swpが活性化する場合が例示される。なお、電圧形インバータ4の制御の特性上、デッドタイムを考慮しなければスイッチング信号Sun,Svn,Swnは、それぞれスイッチング信号Sup,Svp,Swpと相補的に活性化する。
【0077】
キャリアC2はキャリアC1と同形で同位相であるので、キャリアC2が値drtを採るタイミングは、キャリアC1が値drtを採るタイミングと一致する。キャリアC2についての各信号波を上述のように設定することにより、キャリアC2が値drtを採るタイミングではスイッチング信号Sup,Svp,Swpが全て非活性となる。
【0078】
このように、従来は零電圧ベクトルV7を採用するか否かに関わらず、電流形コンバータ2の転流が零電流スイッチングを実現するように、キャリアC1が通流比drtを採る近傍で零電圧ベクトルV0が採用されていた。
【0079】
図4はキャリアC2についての信号波Vu*,Vv*,Vw*の波形を示すグラフである。但し横軸は図2のそれとは異なり、出力電圧についての位相角を採用している。また零電圧ベクトルV7が採用されない場合(d7=0)を例示しており、位相角0〜120°においてはVw*=0であり、位相角120〜240°においてはVu*=0であり、位相角240〜360°においてはVv*=0である。位相角0〜120°において、信号波Vu*,Vv*,Vw*は、それぞれ上述の信号波drt(1−d0),drt(1−d0−d4),drt(1−d0−d4−d6)を採用する。
【0080】
位相角0〜60°では相電圧Vu,Vv,Vwがそれぞれ最大相、中間相、最小相となる。この位相角の範囲において信号波の差S41=Vu*−Vv*=drt・d4、S61=Vv*−Vw*=drt・d6は、それぞれ期間drt・T0において電圧ベクトルV4,V6が採用される期間の長さに対応する。同様に、期間dst・T0において電圧ベクトルV4,V6が採用される期間の長さは、それぞれdst・d4=(dst/drt)S41.dst・d6=(dst/drt)S61となる。よって位相角0〜60°において、キャリアC2の一周期(これはキャリアC1の一周期でもある)において電圧ベクトルV4,V6が採用される期間の長さは、零電圧ベクトルV0、V7の存否によらず、信号波の差S41,S61で決定されることになる。
【0081】
換言すれば、信号波の差S41,S61を維持さえすれば、相電圧Vu,Vv,Vwは零電圧ベクトルが採用される期間の位置、長さには依存しない。そこで、本実施の形態では下記のようにして、電流形コンバータ2の転流のためのスイッチングが零電流スイッチングを実現するように、キャリアC1が通流比drtを採る近傍で零電圧ベクトルV7を採用する。
【0082】
図5は直接形交流電力変換装置の本実施の形態の第1例における動作を示すグラフである。図3で示された状況と同様に、電流形コンバータ2が転流するタイミングとしてキャリアC1が通流比drtと等しくなる時点を採用する。
【0083】
電圧形インバータ4の瞬時空間電圧ベクトル変調を行うため、キャリアC3と信号波との比較を行い、当該比較結果に基づいてスイッチング信号Syp,Synを生成する。キャリアC3としてキャリアC1と同形かつ逆相の波形を採用する。
【0084】
つまり電流コンバータ2用のキャリアC1が極大値を採るときにはインバータ用のキャリアC3が極小値を採り、キャリアC1が極小値を採るときにはキャリアC3が極大値を採る。
【0085】
以下では説明を簡単にするためにキャリアC1,C3は、いずれも最小値が0であり、最大値が1である場合を例に採る。但し、信号波について適宜に線形変換を行うことにより、これらの最小値、最大値は任意の値を選定できる。
【0086】
図5でも電圧形インバータ4が採用すべきスイッチングパターンを表す電圧ベクトルは、ベクトル演算を用いてd4・V4+d6・V6で表され、d0+d7=1−(d4+d6)>0が成立する場合を例示している。但し本実施の形態における動作ではd0=0である。
【0087】
零電圧ベクトルV7を採用する場合には、接続点Pu,Pv,Pwの全てが、上アーム側スイッチQup,Qvp,Qwp及び上アーム側ダイオードDup,Dvp,Dwpによって短絡される。
【0088】
よって、リンク電流Idcは零となる。よって零電圧ベクトルV7に対応したスイッチングパターンが採用される期間において電流形コンバータ2が転流するためのスイッチングにおいて、いわゆる零電流スイッチングが実現される。
【0089】
上述のような観点に基づいて、電圧形インバータ4におけるスイッチングパターンとして、単位電圧ベクトルV4,V6,V7を採用する期間を以下のように設定する。図5においてはキャリアC3が信号波dst+drt(d7+d6+d4)と信号波dst(1−d7−d6−d4)との間の値を採るときにスイッチング信号Supが活性化する。ここでd4+d6+d7=1に設定されるので、期間dst・T0、drt・T0のいずれにおいてもスイッチング信号Supが活性化している。
【0090】
キャリアC3が信号波(dst+drt(1−d4))と信号波dst・d4との間の値を採るときにスイッチング信号Svpが活性化し、キャリアC3が信号波(dst+drt(1−d4−d6)と信号波dst(d4+d6)との間の値を採るときにスイッチング信号Swpが活性化する場合が例示される。
【0091】
キャリアC3はキャリアC1と同形で逆相であるので、キャリアC3が値dstを採るタイミングは、キャリアC1が値drtを採るタイミングと一致する。キャリアC3についての各信号波を上述のように設定することにより、キャリアC3が値dstを採るタイミングではスイッチング信号Sup,Svp,Swpが全て活性となる。よって、零電流スイッチングが実現できる。
【0092】
このような零電流スイッチングが実現されなくても、電圧形インバータ4の駆動時には、スイッチング信号Sup,Svp,Swpのいずれか一つを必ず活性化させることができる。よって電圧形インバータ4の駆動時には、必ず上アーム側スイッチQup,Qvp,QwpのいずれV7かが必ず導通しているので、過電流保護動作が発生して下アーム側スイッチQun,Qvn,Qwnの全てがオフされても、電圧形インバータ4はダイオードブリッジとして動作することはない。よって過電流保護動作時は電圧形インバータ4において電流が還流し、電圧形インバータから直流母線への回生が回避される。
【0093】
図6はキャリアC3についての信号波Vu**,Vv**,Vw**の波形を示すグラフである。零電圧ベクトルV0が採用されない(d0=0)ので、位相角0〜60°及び300〜360°においてはVu**=0であり、位相角60〜180°においてはVv**=0であり、位相角180〜300°においてはVw**=0である。位相角0〜60°及び300〜360°において、信号波Vu**,Vv**,Vw**は、それぞれ上述の信号波dst+drt(d7+d6+d4),dst+drt(1−d4),dst+drt・(1−d4−d6)を採用する。
【0094】
位相角0〜60°では、図4に示された波形と同様に、相電圧Vu,Vv,Vwがそれぞれ最大相、中間相、最小相となる。この位相角の範囲において信号波の差S42=Vu**−Vv**=drt・d4、S62=Vv**−Vw**=drt・d6は、それぞれ期間drt・T0において電圧ベクトルV4,V6が採用される期間の長さに対応する。同様に、期間dst・T0において電圧ベクトルV4,V6が採用される期間の長さは、それぞれdst・d4=(dst/drt)S42、dst・d6=(dst/drt)S62となる。よって位相角0〜60°において、キャリアC3の一周期(これはキャリアC1の一周期でもある)において電圧ベクトルV4,V6が採用される期間の長さは、零電圧ベクトルV0、V7の存否によらず、信号波の差S42,S62で決定されることになる。
【0095】
さて、信号波Vu**,Vv**,Vw**を上述のように設定したので、キャリアC3の一周期において、信号波の差S42,S62に基づいて得られる電圧ベクトルの長さdrt・d4+dst・d4,drt・d6+dst・d6は、キャリアC2の一周期において信号波の差S41,S61に基づいて得られる電圧ベクトルの長さdst・d4+drt・d4,dst・d6+drt・d6等しいことが分かる。換言すれば、時比率d4,d6が与えられれば、図3に示された従来の技術と同様に、d4・V4+d6・V6で表される電圧ベクトルを得るために電圧形インバータ4に採用させるスイッチングパターンが得られると言える。
【0096】
そして電流形コンバータ2において転流のためのスイッチングが実行されするときには、全ての上アーム側スイッチが導通するので、零電流スイッチングが実現される。
【0097】
図7は直接形交流電力変換装置の本実施の形態の第2例における動作を示すグラフである。第1例と比較すると電圧形インバータ4についてはキャリアC2を採用している点で相違する。また当該相違に起因して、用いる信号波も相違する。
【0098】
即ち、第2例において、キャリアC2が信号波drt+dst(d7+d6+d4)と信号波drt(1−d7−d6−d4)との間の値を採るときにスイッチング信号Supが活性化する。ここでd4+d6+d7=1に設定されるので、期間dst・T0、drt・T0のいずれにおいてもスイッチング信号Supが活性化している。キャリアC2が信号波(drt+dst(1−d4))と信号波drt・d4との間の値を採るときにスイッチング信号Svpが活性化し、キャリアC2が信号波(drt+dst(1−d4−d6)と信号波drt(d4+d6)との間の値を採るときにスイッチング信号Swpが活性化する場合が例示される。
【0099】
キャリアC2はキャリアC1と同形で同位相であるので、キャリアC2が値drtを採るタイミングは、キャリアC1が値drtを採るタイミングと一致する。キャリアC2についての各信号波を上述のように設定することにより、キャリアC2が値drtを採るタイミングではスイッチング信号Sup,Svp,Swpが全て非活性となる。
【0100】
このように第2例で採用される信号波は第1例で採用される信号波と、通流比drt、dstを互いに入れ替えて得られる。よって第2例においても第1例と同様に、時比率d4,d6が与えられれば、図3に示された従来の技術と同様に、d4・V4+d6・V6で表される電圧ベクトルを得るために電圧形インバータ4に採用させるスイッチングパターンが得られると言える。
【0101】
第1例と第2例とを纏めると、下記のことが言える。第1期間と第2期間の長さの比はdrt:dst(但しdst=1−drt)である。単位電圧ベクトルV4,V6,V7が採用される長さの比をd4:d6:(1−d4−d6)とする。インバータ用キャリアC2,C3は三角波を呈してその最小値及び最大値をそれぞれ0,1とする。そして電流形コンバータ2が転流するタイミング、即ち三角波であるキャリアC1が通流比drtを採るタイミングにおいて、インバータ用キャリアC2,C3は値dbcを採る。但し、値dbcは通流比drt、dstのいずれかである。インバータ用キャリアは三角波であるので、値dbcが通流比drt、dstを採用するのに対応して、インバータ用キャリアC3,C2が採用されることが一意に決定される。
【0102】
そして上記信号波Vu**,Vv**,Vw**は、それぞれ値1,dbc+dac(1−d4)、dbc(1−d4−d6)を採る。また信号波Vu**,Vv**,Vw**に対応して、それぞれ信号波0,dbc・d4、dbc(d4+d6)が設定される。
【0103】
図8は、上述した制御を行う制御部100の具体的な内部構成の概念的な一例を示すブロック図である。制御部100を図1における制御装置6として採用することができる。制御部100は、過電流保護部10と、コンバータ制御部20と、インバータ制御部30と、変調率算出部40と、センサレスベクトル制御部50とを備えている。三相負荷5(図1参照)としては三相モータを想定している。
【0104】
コンバータ制御部20は、電源位相検出部21と、通流比生成部22と、比較器23と、電流形ゲート論理変換部24、キャリア発生部25とを有する。
【0105】
電源位相検出部21は例えば線間電圧Vrsを検出して、入力端Pr,Ps,Ptに印加される三相交流電圧の位相角θを検出し、通流比生成部22に出力する。
【0106】
通流比生成部22は受け取った位相角θと、図2にグラフで示された線電流通流比に基づいて(例えば所定のテーブルに基づいて)、通流比dac,dbcを生成する。上述の例でいえば通流比dac,dbcはそれぞれ通流比dst,drtに相当する。
【0107】
キャリア生成部25はキャリアC1を生成する。比較器23は、キャリアC1と通流比dac,dbcとを比較した結果を出力し、これに基づいて電流形ゲート論理変換部24がスイッチング信号Srp,Ssp,Stp,Srn,Ssn,Stnを生成する。
【0108】
インバータ制御部30は、時比率生成部32と、信号波生成部34と、キャリア生成部35と、比較器36と、論理演算部38とを有する。
【0109】
時比率生成部32は、変調率算出部40から受け取った変調率ksと、制御位相角φと、センサレスベクトル制御部50から受け取った指令位相角φ’とに基づいて、電圧形インバータ4の時比率dg1,dg2を生成する。上述の例でいえば時比率dg1,dg2はそれぞれ時比率d4,d6に相当する。
【0110】
信号波生成部34は、時比率dg1,dg2と通流比dac,dbcから信号波を生成する。上述の第1例で言えば信号波dst+drt(d7+d6+d4),dst+drt(1−d4),dst+drt・(1−d4−d6),dst(1−d7−d6−d4),dst・d4,dst(d4+d6)を生成する。これらの生成は従来の信号波を生成する技術と同水準の技術で実現できるので、詳細は省略する。
【0111】
キャリア生成部35はキャリアC3を生成する。信号波は比較器36においてキャリアC3と比較され、その結果が論理演算部38によって演算される。当該演算により、論理演算部38は上アーム側スイッチング信号Sup,Svp,Swpを生成する。
【0112】
以上のことから、インバータ制御部30は、電圧形インバータ4用の信号波と、電圧形インバータ4用のキャリアC3との比較に基づいて上アーム側スイッチング信号Sup,Svp,Swpを生成する、上アーム側スイッチング信号生成部として把握することができる。
【0113】
変調率算出部40は、d軸電圧指令Vd*及びq軸電圧指令Vq*をセンサレスベクトル制御部50から受け取って、変調率ksと、制御位相角φとを算出し、これらを時比率生成部32に出力する。
【0114】
センサレスベクトル制御部50は、接続点Pu,Pv,Pwから三相負荷5へと流れる線電流iu,iv,iwに基づいてモータの回転角速度ωや指令位相角φ’を算出し、これらと外部から入力される回転角速度指令ω*とデューティDとに基づいてd軸電圧指令Vd*とq軸電圧指令Vq*とを生成する。
【0115】
過電流保護部10は、保護信号生成装置11と、下アーム側スイッチング信号生成部12とを有する。
【0116】
保護信号生成装置11は、直流母線LH,LLに流れる電流Idcが閾値を超えたときに活性化する保護信号Mを生成する。電流Idcが閾値を超えたことは、シャント抵抗3、あるいはシャント抵抗3及びフィルタ9から得られる電圧降下CINに基づいて検知される。
【0117】
非特許文献2に示された技術に即して言えば、保護信号Mは一旦活性化したら改めて保護信号生成装置11がリセットされるまで非活性化しない。あるいは電流Idcが閾値を超えなくなった時点で非活性としてもよい。
【0118】
下アーム側スイッチング信号生成部12は、保護信号Mと上アーム側スイッチング信号Sup,Svp,Swpとに基づいて、下アーム側スイッチング信号Sun,Svn,Swnを生成する。保護信号Mが非活性のときには下アーム側スイッチング信号Sun,Svn,Qwnとしてそれぞれ上アーム側スイッチング信号Sup,Svp,Swpと相補的な信号を採用する。保護信号Mが活性のときには下アーム側スイッチング信号Sun,Svn,Swnは、上アーム側スイッチング信号Sup,Svp,Swpに依存せずに不活性とされる。
【0119】
下アーム側スイッチング信号生成部12は、具体的には例えば3つのNORゲートによって実現できる。即ち、活性/非活性を論理値“H”/“L”に対応づけて、下アーム側スイッチング信号Sunの論理値は上アーム側スイッチング信号Supと保護信号Mとの論理和の否定として得られ、下アーム側スイッチング信号Svnの論理値は上アーム側スイッチング信号Svpと保護信号Mとの論理和の否定として得られ、下アーム側スイッチング信号Swnの論理値は上アーム側スイッチング信号Swpと保護信号Mとの論理和の否定として得られる。
【0120】
以上のことから、インバータ制御部30は、保護信号生成装置11及び下アーム側スイッチング信号生成部12と相まって、上アーム側スイッチング信号Sup,Svp,Swp及び下アーム側スイッチング信号Sun,Svn,Swnを出力するインバータ制御装置、として把握することができる。
【0121】
もちろん、零電圧ベクトルV7が採用される場合には、保護信号Mに依存せず、全ての上アーム側スイッチング信号Sup,Svp,Swpが活性化され、全ての下アーム側スイッチング信号Sun,Svn,Swnが非活性化される。
【0122】
また、上アーム側スイッチング信号生成部30,下アーム側スイッチング信号生成部12において、デッドタイムを考慮したスイッチング信号Syp,Synを生成してもよい。
【符号の説明】
【0123】
100 制御部
11 保護信号生成装置
12 下アーム側スイッチング信号生成部
2 電流形コンバータ
30 上アーム側スイッチング信号生成部
4 電圧形インバータ
6 制御装置
LL,LH 直流母線
d0,d4,d6,d7,dg1,dg2 時定数
dst,drt,dac,dbc 通流比
Dup,Dvp,Dwp 上アーム側ダイオード
Dun,Dvn,Dwn 下アーム側ダイオード
Sup,Svp,Swp 上アーム側スイッチング信号
Sun,Svn,Swn 下アーム側スイッチング信号
Pr,Ps,Pt 入力端
Qup,Qvp,Qwp 上アーム側スイッチ
Qun,Qvn,Qwn 下アーム側スイッチ
T0 周期

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電圧(Vdc)を三相交流電圧(Vu,Vv,Vw)に変換する電圧形インバータ(4)を制御する装置であって、
前記電圧形インバータ(4)は、
前記直流電圧が印加される第1及び第2の直流母線(LH、LL)の間で相互に並列に接続される3つの電流経路を備え、
前記第1の直流母線(LH)は前記第2の直流母線(LL)よりも高電位であり、
前記電流経路の各々が、
接続点(Pu,Pv,Pw)と、
前記第1の直流母線と前記接続点との間に接続され、上アーム側スイッチング信号(Sup,Svp,Swp)に従って導通/非導通し、導通時には前記第1の直流母線から前記接続点に電流を流す上アーム側スイッチ(Qup,Qvp,Qwp)と、
前記接続点と前記第2の直流母線との間に接続され、下アーム側スイッチング信号(Sun,Svn,Swn)に従って導通/非導通し、導通時には前記接続点から前記第2の直流母線に電流を流す下アーム側スイッチ(Qun,Qvn,Qwn)と、
前記上アーム側スイッチの各々に対して逆並列に接続された上アーム側ダイオード(Dup,Dvp,Dwp)と、
前記下アーム側スイッチの各々に対して逆並列に接続された下アーム側ダイオード(Dun,Dvn,Dwn)と
を有し、
前記装置は、
インバータ用信号波とインバータ用キャリア(C2,C3)との比較に基づいて上アーム側スイッチング信号(Sup,Svp,Swp)を生成する上アーム側スイッチング信号生成部(30)と、
前記一対の直流母線に流れる電流が閾値を超えたときに保護信号(M)を活性化する保護信号生成装置(11)と、
前記保護信号が非活性のときには前記下アーム側スイッチング信号として前記上アーム側スイッチング信号と相補的な信号を採用し、前記保護信号が活性のときには前記上アーム側スイッチング信号に依存せずに前記下アーム側スイッチング信号を不活性とする下アーム側スイッチング信号生成部(12)と
を備え、
前記上アーム側スイッチング信号生成部は、前記電圧形インバータの駆動時には、前記上アーム側スイッチング信号のうちいずれか一つを必ず活性化させる、インバータ制御装置。
【請求項2】
前記接続点(Pu,Pv,Pw)の全てを、前記電圧形インバータ(4)によって互いに接続させる場合には、全ての前記上アーム側スイッチング信号(Sup,Svp,Swp)が活性化され、全ての下アーム側スイッチング信号(Sun,Svn,Swn)が非活性化される、請求項1記載のインバータ制御装置。
【請求項3】
前記第1の直流母線(LH)と前記第2の直流母線(LL)との間には、多相交流電圧(Vr,Vs,Vt)を前記直流電圧(Vdc)に変換する電流形コンバータ(2)が接続され、
少なくとも前記電流コンバータにおいて転流が発生する時点では、全ての前記上アーム側スイッチング信号(Sup,Svp,Swp)が活性化され、全ての前記下アーム側スイッチング信号(Sun,Svn,Swn)が非活性化される、請求項2記載のインバータ制御装置。
【請求項4】
前記電流形コンバータ(2)において前記転流は、コンバータ用キャリア(C1)の一周期(T0)を第1期間(dst・T0)と第2期間(drt・T0)とに区分するタイミングで発生し、
前記三相交流電圧の最大相(Vu)に対応する第1の前記電流経路に設けられた前記上アーム側スイッチ(Qup)に対応する前記上アーム側スイッチング信号(Sup)は、前記インバータ用キャリアが第1の前記インバータ用信号波と第2の前記インバータ用信号波)との間の値を採るときに活性化し、
前記三相交流電圧の中間相(Vv)に対応する第2の前記電流経路に設けられた前記上アーム側スイッチ(Qvp)に対応する前記上アーム側スイッチング信号(Svp)は、前記インバータ用キャリアが第3の前記インバータ用信号波と第4の前記インバータ用信号波との間の値を採るときに活性化し、
前記三相交流電圧の最小相(Vw)に対応する第3の前記電流経路に設けられた前記上アーム側スイッチ(Qwp)に対応する前記上アーム側スイッチング信号(Swp)は、前記インバータ用キャリアが第5の前記インバータ用信号波と第6の前記インバータ用信号波との間の値を採るときに活性化し、
前記第1期間と前記第2期間の長さの比をdac:dbc(但しdbc=1−dac)とし、
前記第1の前記電流経路に設けられた前記上アーム側スイッチ(Qup)のみが導通する第1区間(V4)と、前記第1及び前記第2の前記電流経路に設けられた二つの前記上アーム側スイッチ(Qup,Qvp)のみが導通する第2区間(V6)と、全ての前記電流経路に設けられた三つの前記上アーム側スイッチ(Qup,Qvp,Qwp)が導通する第3区間(V7)との長さの比をdg1:dg2:dg3(但しdg1+dg2+dg3=1)とし、
前記インバータ用キャリアの最小値及び最大値をそれぞれ0,1とすると、
前記インバータ用キャリアは前記タイミングにおいて値dbcを採る三角波を呈し、
前記第2のインバータ用信号波は値1を採り、
前記第4のインバータ用信号波は値dbc+dac(1−dg1)を採り、
前記第6のインバータ用信号波は値dbc+dac(1−dg1−dg2)を採り、
前記第1のインバータ用信号波は値0を採り、
前記第3のインバータ用信号波は値dbc・dg1を採り、
前記第5のインバータ用信号波は値dbc(dg1+dg2)を採る、請求項3記載のインバータ制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−93992(P2013−93992A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−234970(P2011−234970)
【出願日】平成23年10月26日(2011.10.26)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】