説明

インバータ回路の故障検知装置

【課題】
インバータ回路の故障を検知する前に、インバータ回路に流れる電流を検出する電流検出手段の故障を検知することができると共に、容易かつ安価に製造することができるインバータ回路の故障検知装置を提供する。
【解決手段】
インバータ回路2に接続されたシャント抵抗11と、シャント抵抗11に並列に接続された増幅回路12とを備え、インバータ回路2に流れる電流を検出する電流検出手段10と、電流検出手段10に第1試験電圧を印加する試験電圧印加手段20と、第1試験電圧に基づき電流検出手段10の故障を判定し、インバータ回路2に第2試験電圧を印加し、印加された第2試験電圧に基づきインバータ回路2の故障を判定し、インバータ回路2を制御する制御手段30とを含んで構成され、制御手段30は、インバータ回路2の駆動開始信号sig1の入力に応じて、電流検出手段10の故障を判定し、その後インバータ回路2の故障を判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インバータ回路の故障を検知する故障検知装置に関し、詳しくは、インバータ回路の故障を検知する前に、インバータ回路に流れる電流を検出する電流検出手段の故障を検知することができると共に、容易かつ安価に製造することができるインバータ回路の故障検知装置に係るものである。
【背景技術】
【0002】
従来のインバータ回路の故障検知装置は、モータを駆動するインバータ回路の電流を検出する電流検出手段と、電流検出手段の出力信号より過電流を判定する過電流判定回路と、過電流判定回路の出力信号により前記インバータ駆動回路の出力を制御するインバータ出力制御回路とを備え、インバータ回路によりモータを回転駆動する前に少なくともモータコイルの1相に所定時間強制的に通電し、その電流を電流検出手段により検出し、電流検出手段の出力信号により過電流判定回路が過電流か否かを判定し、過電流判定回路の出力信号より異常の判定を行っていた(例えば特許文献1参照)。
【0003】
この場合、インバータ回路の故障を検知する際、電流検出手段が故障するとインバータ回路の電流を検出できなくなり、結果としてインバータ回路の故障を検知することができなくなることから、電流検出手段の故障を検知することが重要であった。これに対処して、他のインバータ回路の故障検知装置として、電流検出手段の故障を検知するために複数の電流検出手段を備え、それぞれの電流検出手段が検出した電流を比較することにより、電流検出手段の故障を相互に監視するものもあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−320894号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、前記従来のインバータ回路の故障検知装置においては、電流検出手段の故障を検知するための複数の電流検出手段が必要となることから回路が複雑になり、製造が困難であった。また、部品数が多くなるため、製造コストが高くなるものであった。特に、電流検出手段にシャント抵抗を使用した場合、シャント抵抗における微小な電圧降下により電流を検出するためには精度の高い高価な増幅回路が必要となり、製造コストが高くなるものであった。
【0006】
そこで、このような問題点に対処し、本発明が解決しようとする課題は、インバータ回路の故障を検知する前に、インバータ回路に流れる電流を検出する電流検出手段の故障を検知することができると共に、容易かつ安価に製造することができるインバータ回路の故障検知装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、本発明によるインバータ回路の故障検知装置は、インバータ回路に直列に接続されたシャント抵抗と、前記シャント抵抗に並列に接続された増幅回路とを備え、前記インバータ回路に流れる電流を検出する電流検出手段と、前記電流検出手段に予め定められた第1試験電圧を印加する試験電圧印加手段と、前記試験電圧印加手段により前記電流検出手段に印加された前記第1試験電圧に基づき前記電流検出手段の故障を判定し、前記インバータ回路に予め定められた第2試験電圧を印加し、印加された前記第2試験電圧に基づき前記インバータ回路の故障を判定し、前記インバータ回路を制御する制御手段と、を含んで構成されるインバータ回路の故障検知装置であって、前記制御手段は、前記インバータ回路の駆動開始信号の入力に応じて、前記電流検出手段の故障を判定し、その後前記インバータ回路の故障を判定するものである。
【0008】
このような構成により、前記制御手段は、前記インバータ回路の駆動開始信号の入力に応じて前記試験電圧印加手段により前記電流検出手段に印加された前記第1試験電圧に基づき、前記電流検出手段の故障を判定した後、前記インバータ回路に予め定められた第2試験電圧を印加し、印加された前記第2試験電圧に基づき前記インバータ回路の故障を判定する。
【0009】
また、前記制御手段は、前記電流検出手段に備えられた増幅回路により増幅された前記第1試験電圧が、第1試験電圧に基づき予め定められた電圧の範囲の上限値よりも大きいか或いは下限値よりも小さい場合に、前記電流検出手段の故障と判定するものである。
【0010】
さらに、前記制御手段は、前記電流検出手段に備えられた増幅回路により増幅された前記第2試験電圧が、第2試験電圧に基づき予め定められた電圧の範囲の上限値よりも大きいか或いは下限値よりも小さい場合に、前記インバータ回路の故障と判定するものである。
【0011】
またさらに、前記制御手段は、前記第2試験電圧の印加開始から予め定められた時間を経過した時に、インバータ回路の故障を判定するものである。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に係る発明によれば、前記制御手段は、前記インバータ回路の駆動開始信号の入力に応じて、前記試験電圧印加手段により前記電流検出手段に印加された前記第1試験電圧に基づき、前記電流検出手段の故障を判定した後、前記インバータ回路の故障を判定することができる。従って、インバータ回路の故障を検知する前に、電流検出手段の故障を検知することができる。また、電流検出手段が1つであるため、回路が単純になり容易に製造することができる。さらに、部品数が少ないため、安価に製造することができる。特に、電流検出手段にシャント抵抗を使用した場合には、シャント抵抗における微小な電圧降下により電流を検出するための精度の高い高価な増幅回路が1つですむので、安価に製造することができる。
【0013】
請求項2に係る発明によれば、前記制御手段は、前記電流検出手段に備えられた増幅回路により増幅された前記第1試験電圧が、予め定められた電圧の範囲の上限値よりも大きい場合でも、下限値よりも小さい場合でも、前記電流検出手段の故障を判定することができる。従って、前記電流検出手段の故障を確実に検知することができる。
【0014】
請求項3に係る発明によれば、前記制御手段は、前記電流検出手段に備えられた増幅回路により増幅された前記第2試験電圧が、予め定められた電圧の範囲の上限値よりも大きい場合でも、下限値よりも小さい場合でも、前記インバータ回路の故障を判定することができる。従って、前記インバータ回路の故障を確実に検知することができる。
【0015】
請求項4に係る発明によれば、前記制御手段は、前記第2試験電圧の印加開始から予め定められた時間を経過した時に、インバータ回路の故障を判定することができる。従って、前記インバータ回路の故障を正確に判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明によるインバータ回路の故障検知装置の実施形態を示すブロック図である。
【図2】前記インバータ回路の故障検知装置の動作を説明するフローチャートである。
【図3】前記インバータ回路の故障検知装置が接続されたモータ駆動用インバータ回路の概略図である。
【図4】図3におけるインバータ回路の短絡を検知する際の、通電するIGBT、各IGBT毎の電流の判定結果及び短絡の検知結果をまとめた表である。
【図5】図3におけるインバータ回路及びモータコイルの短絡を検知する際の、通電するIGBT間、各IGBT間毎の電流の判定結果及び短絡の検知結果をまとめた表である。
【図6】図3におけるインバータ回路及びモータコイルの断線を検知する際の、通電するIGBT間、各IGBT間毎の通電の判定結果及び断線の検知結果をまとめた表である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。
図1は本発明によるインバータ回路の故障検知装置の実施形態を示すブロック図である。図1にブロック図として示した回路は、本発明によるインバータ回路の故障検知装置(以下、「故障検知装置」と略称する)1を故障検知の対象としてのインバータ回路に接続した使用状態を示すもので、インバータ回路2と、電源3と、駆動開始スイッチ4と、が接続されている。インバータ回路2は、モータ等の制御に用いられるものであり、電源3から供給される直流電力を交流電力に変換する回路である。電源3は、インバータ回路2を駆動するための直流電源である。駆動開始スイッチ4は、インバータ回路2の駆動制御を開始するためのスイッチであり、駆動開始スイッチ4をオンにすることにより、インバータ回路2の駆動開始信号Sig1が出力される。駆動開始スイッチ4は、手動のスイッチでも電子制御のスイッチでもよい。
【0018】
本発明による故障検知装置1は、インバータ回路2の故障を検知するものであって、インバータ回路2に接続されており、電流検出手段10と、試験電圧印加手段20と、制御手段30とを含んで構成される。
【0019】
前記電流検出手段10は、インバータ回路2のグランド(ground)側、すなわち、インバータ回路2とグランドの間に接続され、インバータ回路2に流れる電流を検出するものであり、シャント抵抗11と、増幅回路12とを備える。なお、電流検出手段10は、インバータ回路2の電源供給側、すなわち、インバータ回路2と電源3との間に接続されていてもよい。
【0020】
シャント抵抗11は、インバータ回路2のグランド側に直列に接続されており、インバータ回路2に電流が流れた際、電圧降下を生じさせる。シャント抵抗11の抵抗値は、インバータ回路2を流れる電流や回路の設計に応じて決定される。
【0021】
増幅回路12は、シャント抵抗11前後の電圧の差を所定の増幅率で増幅する差動増幅回路であって、シャント抵抗11と並列に接続されており、シャント抵抗11前後の電圧の差を所定の増幅率で増幅した後、増幅した電圧を後述する制御手段30へ出力するようになっている。なお、前記増幅率は、インバータ回路2を流れる電流や回路の設計に応じて決定される。また、増幅回路12として、オペアンプを使用することもできる。
【0022】
前記試験電圧印加手段20は、電流検出手段10に予め定められた第1試験電圧を印加するものであって、バッテリ21とスイッチ22とを備える。バッテリ21は、電流検出手段10に直流の第1試験電圧を供給する電源であり、スイッチ22を介して電流検出手段10と接続されている。バッテリ21は、インバータ回路2を駆動する電源3とは別に設けてもよいし、電源3を用いてもよい。スイッチ22は、後述の制御手段30により制御されるスイッチであり、このスイッチがオンの間のみ電流検出手段に第1試験電圧が印加される。スイッチ22としては、リレーやトランジスタ等を使用することができる。
【0023】
前記制御手段30は、インバータ回路2を制御し、試験電圧印加手段20により電流検出手段10に印加された第1試験電圧に基づき電流検出手段10の故障を判定し、インバータ回路2に予め定められた第2試験電圧を印加し、印加された第2試験電圧に基づきインバータ回路2の故障を判定するものである。制御手段30として、マイクロコンピュータを使用することができる。また、インバータ回路2の制御と、インバータ回路2の故障の判定とを、別々のマイクロコンピュータによって行う構成としてもよい。
【0024】
次に、このように構成された故障検知装置1の動作について説明する。まず、本発明による故障検知装置1がインバータ回路2に流れる電流を検出する電流検出手段10の故障を検知するまでの動作について、図1,2を参照して説明する。
【0025】
まず、図1において、手動または電子制御により駆動開始スイッチ4がオンにされると、駆動開始スイッチ4より駆動開始信号Sig1が出力され、この駆動開始信号Sig1が制御手段30に入力される(ステップS1)。制御手段30は、駆動開始信号Sig1が入力されると、スイッチ22に制御信号Sig2を出力し、スイッチ22をオンにする。スイッチ22がオンにされると、バッテリ21より電流検出手段10に第1試験電圧が印加される(ステップS2)。そして、電流検出手段10に電流が流れることにより、シャント抵抗11において電圧降下が生じ、シャント抵抗11の前後の電圧の差が増幅回路12によって増幅され、増幅された第1試験電圧(以下、「第1入力電圧」という)が出力され、制御手段30に入力される(ステップS3)。
【0026】
制御手段30は、第1入力電圧が入力されると、この第1入力電圧と第1試験電圧に基づき予め定められた電圧の範囲(以下、「第1電圧範囲」という)とを比較する(ステップS4)。第1入力電圧が第1電圧範囲外である場合、すなわち第1入力電圧がこの範囲の上限値よりも大きいか或いは下限値よりも小さい場合には、図2のフローチャートにおける“No”側に進み、制御手段30は、電流検出手段10を故障と判定する(ステップS5)。そして、制御手段30は、制御信号Sig3を出力してスイッチ22をオフにし、第1試験電圧の印加をやめ、インバータ回路2の駆動開始制御を停止する(ステップS6)。
【0027】
これとは逆に、前記ステップS4において、前記第1入力電圧が前記第1電圧範囲内である場合、すなわち第1入力電圧がこの範囲の上限値以下か或いは下限値以上である場合には、図2のフローチャートにおける“Yes”側に進み、制御手段30は電流検出手段10を正常と判定する(ステップS7)。そして、制御手段30は、制御信号Sig3を出力してスイッチ22オフにし、第1試験電圧の印加をやめる。なお、前記第1電圧範囲は、制御手段30の内部もしくは外部に設けられた記憶手段に記憶されている。
【0028】
以上のような構成と動作により、制御手段30は、試験電圧印加手段20により電流検出手段10に印加された第1試験電圧に基づき、電流検出手段10の故障を判定することができる。従って、インバータ回路2の故障を検知する前に、電流検出手段10の故障を検知することができる。また、電流検出手段10が1つであるため、回路が単純になり、容易に製造することができると共に、部品数が少なくなり、安価に製造することができる。特に、シャント抵抗11における微小な電圧降下を検出するための高価な増幅回路12が1つですむため、安価に製造することができる。さらに、前記制御手段30は、第1入力電圧が、第1電圧範囲の上限値よりも大きい場合でも、下限値よりも小さい場合でも、電流検出手段10の故障を判定することができることにより、電流検出手段10の故障を確実に検知することができる。
【0029】
次に、本発明による故障検知装置1がインバータ回路2の故障を検知するまでの動作について、図1,2を参照して説明する。
【0030】
ステップS7において、制御手段30が電流検出手段10を正常と判定した場合、制御手段30は、インバータ回路2に制御信号Sig4を出力し、インバータ回路2に第2試験電圧を印加する(ステップS8)。すると、シャント抵抗11において電圧降下が生じ、シャント抵抗11前後の電圧の差が増幅回路12によって増幅され、増幅された第2試験電圧(以下、「第2入力電圧」という)が出力され、制御手段30に入力される(ステップS9)。
【0031】
制御手段30は、第2試験電圧の印加開始から予め定められた時間(以下、「通電時間」という)を経過したか否かを判定し(ステップS10)、経過していない場合、図2のフローチャートにおける“No”側に進む。そして、前記通電時間を経過した場合は、“Yes”側に進んで、通電時間経過時に入力された第2入力電圧と、第2試験電圧に基づき予め定められた電圧の範囲(以下、「第2電圧範囲」という)とを比較する(ステップS11)。第2入力電圧が第2電圧範囲外である場合、すなわち第2入力電圧がこの範囲の上限値よりも大きいか或いは下限値よりも小さい場合には、図2のフローチャートにおける“No”側に進み、制御手段30は、インバータ回路2を故障と判定する(ステップS12)。そして、制御手段30は、制御信号Sig5を出力して第2試験電圧の印加をやめ、インバータ回路2の駆動開始制御を停止する(ステップS6)。
【0032】
これとは逆に、前記ステップS11において、前記第2入力電圧が第2電圧範囲内である場合、すなわち第2入力電圧がこの範囲の上限値以下か或いは下限値以上である場合には、図2のフローチャートにおける“Yes”側に進み、制御手段30はインバータ回路2を正常と判定する(ステップS13)。その後、制御手段30は、制御信号Sig6を出力し、インバータ回路2の駆動を開始する(ステップS14)。なお、前記第2電圧範囲及び通電時間は、制御手段30の内部もしくは外部に設けられた記憶手段に記憶されている。
【0033】
このような構成と動作により、前記制御手段30は、第2入力電圧が、第2電圧範囲の上限値よりも大きい場合でも、下限値よりも小さい場合でも、インバータ回路2の故障を判定することができる。従って、インバータ回路2の故障を確実に検知することができる。また、前記制御手段30は、第2試験電圧の通電時間を経過した時に、インバータ回路2の故障を判定することができるため、予め通電時間を定めておくことにより、第2電圧範囲を適切に定めることができるので、インバータ回路2の故障を正確に判定することができる。
【0034】
さらに、以上のように構成された故障検知装置1を、モータ駆動用のインバータ回路2に使用した場合の動作について、図3〜6を参照して説明する。
【0035】
図3は、図1に示す故障検知装置1に接続されたモータ駆動用のインバータ回路2の概略図である。図3においてインバータ回路2により駆動するモータ5は3相のブラシレスDCモータであり、インバータ回路2は6つの絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(Insulated Gate Bipolar Transistor:以下、「IGBT」という)からなる3相インバータ回路である。図3に示すように、上下に接続された2つのIGBTからなる回路部分を、以下では図3の左側からそれぞれU相、V相及びW相といい、それぞれの相により駆動されるモータ5のコイルをそれぞれU相コイル、V相コイル及びW相コイル(図示省略)という。
【0036】
前記故障検知装置1の動作は既に説明したとおりであるが、インバータ回路2によりモータ5を駆動する場合においては、インバータ回路2の故障を検知する際の第2試験電圧に基づく電圧の範囲は、第2試験電圧の通電時間に基づき以下のように定めることができる。
【0037】
インバータ回路2に流れる電流をI、第2試験電圧をV、コイルのインダクタンスをL、インバータ回路2に通電を開始してからの経過時間をtとすると、インバータ回路2にはI=∫V/Ldtの式に従い電流が流れる。例えば、第2試験電圧を100V、コイルのインダクタンスを1mH(コイルの巻き線抵抗は小さいものとする)とし、インバータ回路2のU相上側とV相下側の間に電流を流した場合、インバータ回路2に通電開始してから100μsec経過した時に、インバータ回路2には10Aの電流が流れることとなる。よって、この10Aと、シャント抵抗11の抵抗値と、増幅回路12の増幅率と、から第2電圧範囲を定めることができる。
【0038】
〔インバータ回路2の短絡検知〕
図1に示す電流検出手段10が正常と判定された後、インバータ回路2の故障を検知する際には、6つのIGBTに順番に通電することにより、どのIGBTに短絡があるのかを検知することができる。図4は、図3におけるインバータ回路2の短絡を検知する際の通電するIGBTと、制御手段30による各IGBT毎の電流の判定結果と、判定結果に対応する短絡の検知結果とをまとめた表である。
【0039】
図4において、図1に示す制御手段30によってU相下側のIGBTに通電(第2試験電圧を印加)し、電流検出手段10によってこのIGBTに流れた電流を検出する。ここで検出された電流が制御手段30により過電流と判定された場合、U相上側の短絡を検知することができる。また、検出された前記電流が予め定められた電流の範囲内(第2入力電圧が第2電圧範囲の範囲内)と判定された場合には、制御手段30はU相上側のIGBTを正常と判定し、通電を停止する。
【0040】
U相上側のIGBTが正常と判定された場合には、制御手段30はV相下側のIGBTに通電(第2試験電圧を印加)する。そして、電流検出手段10によってこのIGBTに流れた電流を検出し、制御手段30がここで検出された電流が過電流か否かを判定する。この電流が過電流と判定された場合には、V相上側の短絡が検知され、予め定められた電流の範囲内(第2入力電圧が第2電圧範囲の範囲内)と判定された場合には、制御手段30はV相上側のIGBTを正常と判定し、通電を停止する。
【0041】
この動作を6個のIGBT全てに順番に行うことで、インバータ回路2における各IGBTの短絡を検知することができる。図4においては、U相下側、V相下側、W相下側、U相上側、V相上側、W相上側の順で各IGBTへ通電を行っているが、この順番は任意であり、インバータ回路2の各相の上側のIGBTに通電した場合は、その相の下側のIGBTの短絡を検知することができ、インバータ回路2の各相の下側のIGBTに通電した場合は、その相の上側のIGBTの短絡を検知することができる。
【0042】
〔インバータ回路2及びコイル5の短絡検知〕
次に、図1に示す電流検出手段10が正常と判定された後、インバータ回路2の故障を検知する際には、6つのIGBT間に順番に通電することにより、各IGBTにおける短絡、各IGBT間における短絡及び各相のコイルの短絡を検知することができる。図5は、図3におけるインバータ回路2及びモータコイルの短絡を検知する際の、通電するIGBT間と、制御手段30による各IGBT間毎の電流の判定結果と、判定結果に対応する短絡の検知結果とをまとめた表である。
【0043】
図5において、制御手段30によって、例えばインバータ回路2のU相上側とV相下側間、U相上側とW相下側間、V相上側とU相下側間、V相上側とW相下側間、W相上側とU相下側間及びW相上側とV相下側間に順次通電(第2試験電圧の印加)を行い、電流検出手段10によってそれぞれの場合にインバータ回路2に流れた電流を検出し、制御手段30によって判定した結果、U相上側とV相下側間、U相上側とW相下側間、V相上側とU相下側間及びW相上側とU相下側間に流れた電流が、予め定められた電流の略2倍(第2入力電圧が第2電圧範囲の略2倍)と判定され、V相上側とW相下側間及びW相上側とV相下側間に流れた電流が予め定められた電流の範囲内(第2入力電圧が第2電圧範囲内)と判定された場合、U相モータのコイルの短絡を検知することができる。なお、上記の通電の順番は任意である。また、図5の通電結果における「正常」は、各IGBT間に流れた電流が予め定められた電流の範囲内(第2入力電圧が第2電圧範囲内)であったことを意味する。
【0044】
〔インバータ回路2及びコイル5の断線検知〕
次に、図1に示す電流検出手段10が正常と判定された後、インバータ回路2の故障を検知する際には、6つのIGBT間に順番に通電することにより、各IGBTにおける断線及び各相のコイルの断線を検知することができる。図6は、図3におけるインバータ回路2及びモータコイルの断線を検知する際の、通電するIGBT間と、制御手段30による各IGBT間毎の通電の判定結果と、判定結果に対応する断線の検知結果とをまとめた表である。
【0045】
図6において、制御手段30によって、例えばインバータ回路2のU相上側とV相下側間、U相上側とW相下側間、V相上側とU相下側間、V相上側とW相下側間、W相上側とU相下側間及びW相上側とV相下側間に順次通電(第2試験電圧の印加)を行い、電流検出手段10によってそれぞれの場合にインバータ回路2に流れた電流を検出し、制御手段30によって判定した結果、U相上側とV相下側間、U相上側とW相下側間、V相上側とU相下側間及びW相上側とU相下側間が非通電(第2入力電圧=0V)と判定され、V相上側とW相下側間及びW相上側とV相下側間が通電(第2入力電圧>0V)と判定された場合、U相モータのコイルの断線を検知することができる。また、上記の通電の順番は任意である。なお、図6の通電結果における「通電」は各IGBT間に電流が流れたことを意味するものであり、過電流か否かは問わない。
【0046】
上記の検知方法は、それぞれ単独で使用することもできるし、いずれか2つ以上を組み合わせて使用することもできる。
【符号の説明】
【0047】
1 …故障検知装置
2 …インバータ回路
3 …電源
4 …駆動開始スイッチ
5 …モータ
10…電流検出手段
11…シャント抵抗
12…増幅回路
20…試験電圧印加手段
21…バッテリ
22…スイッチ
30…制御手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インバータ回路に直列に接続されたシャント抵抗と、前記シャント抵抗に並列に接続された増幅回路とを備え、前記インバータ回路に流れる電流を検出する電流検出手段と、
前記電流検出手段に予め定められた第1試験電圧を印加する試験電圧印加手段と、
前記試験電圧印加手段により前記電流検出手段に印加された前記第1試験電圧に基づき前記電流検出手段の故障を判定し、前記インバータ回路に予め定められた第2試験電圧を印加し、印加された前記第2試験電圧に基づき前記インバータ回路の故障を判定し、前記インバータ回路を制御する制御手段と、
を含んで構成されるインバータ回路の故障検知装置であって、
前記制御手段は、前記インバータ回路の駆動開始信号の入力に応じて、前記電流検出手段の故障を判定し、その後前記インバータ回路の故障を判定することを特徴とするインバータ回路の故障検知装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記電流検出手段に備えられた増幅回路により増幅された前記第1試験電圧が、第1試験電圧に基づき予め定められた電圧の範囲の上限値よりも大きいか或いは下限値よりも小さい場合に、前記電流検出手段の故障と判定することを特徴とする請求項1に記載のインバータ回路の故障検知装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記電流検出手段に備えられた増幅回路により増幅された前記第2試験電圧が、第2試験電圧に基づき予め定められた電圧の範囲の上限値よりも大きいか或いは下限値よりも小さい場合に、前記インバータ回路の故障と判定することを特徴とする請求項1又は2に記載のインバータ回路の故障検知装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記第2試験電圧の印加開始から予め定められた時間を経過した時に、インバータ回路の故障を判定することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のインバータ回路の故障検知装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2013−110855(P2013−110855A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−254024(P2011−254024)
【出願日】平成23年11月21日(2011.11.21)
【出願人】(000001845)サンデン株式会社 (1,791)
【Fターム(参考)】