説明

インパクトソケット

【課題】ボルトの締め付け作業を迅速に行えるインパクトソケットを提供する。
【解決手段】ソケット本体12の下端部に開口し、ソケット本体12の上方内部に向かって狭くなるような角錐台状の内面を有する収容凹部16と、ソケット本体12の収容凹部16内に摺動可能に嵌合し、収容凹部16の内面に適合する角錐台状の外形を有する摺動子18と、摺動子18を収容凹部16の下端開口部に向かって付勢する付勢部材32とを備えたインパクトソケット10であって、摺動子18は複数の摺動子片19に分割されており、摺動子18が付勢部材32の付勢力に抗して収容凹部16の奥部に押し込まれて摺動子片19が合体状態にあるときに摺動子18の内部に雌ネジ穴22が形成され、摺動子18が付勢部材32の付勢力によって収容凹部16の開口部側に位置しているときに摺動子片19の合体状態が解かれて雌ネジ穴22が拡径する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主としてスタッドボルトをワークに植え込む際に使用するインパクトソケットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、図16に示すようなインパクトソケット80が知られている。インパクトソケット80は、その上部に、電動または手動のレンチの駆動軸が嵌合連結される連結穴81が形成されている。また、インパクトソケット80には、下端部に開口する雌ネジ穴82が形成されている。雌ネジ穴82の最奥部には、スチールボール83が固定されている。
【0003】
前記構成からなるインパクトソケット80を用いてスタッドボルトSをワークWに植え込む際の動作は、次のとおりである。通常、スタッドボルトSは、ワークWに形成された雌ネジ穴に例えば2〜3回転させてねじ込むことにより仮植え込みされている。
【0004】
この状態で、インパクトソケット80を回転させながらスタッドボルトSの上端部の雄ネジ部にインパクトソケット80の雌ネジ82を螺合させていく。そして、スタッドボルトSの上端部がインパクトソケット80のスチールボール83に当接するまでスタッドボルトSがインパクトソケット80内に進入すると、それ以後のインパクトソケット80の回転力がスタッドボルトSに伝達されて、スタッドボルトSがワークに締め込まれていく。
【0005】
やがて、スタッドボルトSの下端部がワークWの雌ネジ穴の底部に当接すると、スタッドボルトSの締め込みが終了する。それから、インパクトソケット80を逆回転させながら上昇させて、スタッドボルトSの上端部の雄ネジ部からインパクトソケット80を取り外す。これにより、スタッドボルトSの植え込みが完了する。
【0006】
前記のようなインパクトソケット80では、スタッドボルトSの締め込みが開始される前にスタッドボルトSの上端部がスチールボール83に当接するまでスタッドボルトSの雄ネジ部にインパクトソケット82の雌ネジ部82を螺合させるための時間と、スタッドボルトSを締め付け終わった後にインパクトソケット80を逆回転させてスタッドボルトSから取り外すための時間とが不可避的にかかってしまう。このため、スタッドボルトSの植え込みに要するトータル作業時間が長くなることから、例えば自動車のエンジン組立ラインにおいては、スタッドボルトSの植え込み工程のタクトタイムが組立ラインの必要時間に大きく影響し、組立ラインの必要時間の短縮を困難なものにしていた。
【0007】
そこで、特許文献1には、迅速にスタッドボルトを把持し、かつ分離することができるスタッドボルト植込みソケットレンチが開示されている。このソケットレンチでは、一対の把持爪体を開いた状態でそれらの間にスタッドボルトを挿入し、その状態で前記一対の把持爪体を閉じてそれらの間でスタッドボルトを把持し、この把持した状態を保ちつつ前記一対の把持爪体を含むソケットレンチを回転させることによってスタッドボルトのワークへの締め込みを行う。そして、締め込みが完了すると、前記一対の把持爪を開放することによりスタッドボルトからソケットレンチを即時に分離させることができるものである。
【特許文献1】特開2000−52263号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に開示されるソケットレンチでは、それぞれ半円筒状内面を有する一対の把持爪体でスタッドボルトの雄ネジ部を把持して締め付けを行うものであるため、把持爪体による把持力が弱いとスタッドボルトとの間で滑りを生じて締め付け力の伝達ロスが発生し、一方、把持爪体による把持力が強いとスタッドボルトの雄ネジが潰れてしまうという問題がある。
【0009】
そこで、本発明は、スタッドボルトに対して迅速に装着および/または取り外しができることでスタッドボルトの植え込み作業時間を短縮できるとともに、簡単な構成でスタッドボルトに締め付け力を確実に伝達できるインパクトソケットを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するために、本発明の第1態様のインパクトソケットは、
ソケット本体の下端部に開口し、前記ソケット本体の上方内部に向かって狭くなるような角錐台状の内面を有する収容凹部と、
前記ソケット本体の収容凹部内に摺動可能に嵌合し、前記収容凹部の内面に適合する角錐台状の外形を有する摺動子と、
前記摺動子を前記収容凹部の下端開口部に向かって付勢する付勢部材とを備え、
前記摺動子は複数の摺動子片に分割されており、前記摺動子が前記付勢部材の付勢力に抗して前記収容凹部の奥部に押し込まれて前記摺動子片が合体状態にあるときに前記摺動子の内部に雌ネジ穴が形成され、前記摺動子が前記付勢部材の付勢力によって前記収容凹部の開口部側に位置しているときに前記摺動子片の合体状態が解かれて前記雌ネジ穴が拡径することを特徴とするものである。
【0011】
本発明の第1態様のインパクトソケットにおいて、前記複数の摺動子片の上部は前記雌ネジ穴の軸方向における前記摺動子片の高さ位置が揃うように係合部材にそれぞれ係合し、前記摺動子は前記係合部材を介して前記付勢部材によって付勢され、前記各摺動子片と前記係合部材は、前記各摺動子片に合体状態を解く方向に押圧する力を作用させる傾斜面で当接係合していてもよい。
【0012】
また、本発明の第1態様のインパクトソケットにおいて、前記摺動子は略四角錐台状または略六角錐台状の外形をなし、前記摺動子は4つの摺動子片に分割されていてもよい。
【0013】
さらに、本発明の第1態様のインパクトソケットにおいて、前記係合部材は、前記雌ネジ穴に螺合するボルトの先端と当接する略球状面部を有していてもよい。
【0014】
本発明の第2態様のインパクトソケットは、
ソケット本体の下端部に開口し、前記ソケット本体の上方内部に向かって狭くなるような角錐台状の内面を有する収容凹部と、
前記ソケット本体の収容凹部内に摺動可能に嵌合し、前記収容凹部の内面に適合する角錐台状の外形を有する摺動子と、
前記摺動子を前記収容凹部の奥部に向かって付勢する付勢部材とを備え、
前記摺動子は複数の摺動子片に分割されており、前記摺動子が前記付勢部材の付勢力によって前記収容凹部の奥部に押し込まれて前記摺動子片が合体状態にあるときに前記摺動子の内部に雌ネジ穴が形成され、前記摺動子が前記付勢部材の付勢力に抗して前記収容凹部の開口部側に移動したときに前記摺動子片の合体状態が解かれて前記雌ネジ穴が拡径することを特徴とするものである。
【0015】
本発明の第2態様のインパクトソケットにおいて、前記摺動子は略四角錐台状または略六角錐台状の外形をなし、前記摺動子は4つの摺動子片に分割されていてもよい。
【0016】
また、本発明の第2態様のインパクトソケットにおいて、前記摺動子片は、合体状態にあるときに前記雌ネジ穴に螺合するボルトの先端と当接する略球状面部を有していてもよい。
【0017】
また、本発明の第1および第2態様のインパクトソケットにおいて、前記摺動子は略四角錐台状または略六角錐台状の外形をなし、前記摺動子は2つの摺動子片に分割されており、前記2つの摺動子片が合体することによって形成される雌ネジ穴において前記摺動子片の接合部分に対応する位置およびその近傍ではネジ山が形成されていないか低くなっていてもよい。
【0018】
さらに、本発明の第1および第2態様のインパクトソケットにおいて、ボルトを自立保持する保持部材を設けてもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明の第1態様のインパクトソケットでは、前記摺動子が前記付勢部材の付勢力によって前記収容凹部の開口部側に位置していて前記摺動子片の合体状態が解かれて前記雌ネジ穴が拡径した状態で、前記摺動子内にスタッドボルトの雄ネジ部を迅速に受け入れることができる。そして、前記摺動子が前記付勢部材の付勢力に抗して前記収容凹部の奥部に押し込まれて前記摺動子片が合体状態になると前記摺動子の内部に雌ネジ穴が形成されて、該雌ネジがスタッドボルトの雄ネジ部に噛み合う。
【0020】
この状態で、インパクトソケットを回転させると、角錐台状の外形を有する前記摺動子が同じく角錐台状の内面を有する前記収容凹部内に嵌合していることにより、ソケット本体の回転が前記摺動子に確実に伝達され、その結果、スタッドボルトがワークの雌ネジ部に締め込まれる。このとき、スタッドボルトの雄ネジ部は摺動子内の雌ネジに噛み合っているので、スタッドボルトの雄ネジが潰れてしまうことはない。
【0021】
一方、スタッドボルトの締め込みが完了した後、インパクトソケットをスタッドボルトに対して上昇させれば、前記摺動子が前記付勢部材の付勢力によって前記収容凹部の開口部側に移動して前記摺動子片の合体状態が解かれて前記雌ネジ穴が拡径した状態になり、これによりインパクトソケットを逆回転させずともスタッドボルトから迅速に取り外すことができる。
【0022】
このように本発明の第1態様のインパクトソケットによれば、スタッドボルトに対して迅速に装着および取り外しができることでスタッドボルトの植え込み作業時間を短縮できるとともに、角錐台状内面の収容凹部内に嵌合する角錐台状外形の摺動子という簡単な構成でスタッドボルトに締め付け力を確実に伝達することができる。
【0023】
本発明の第2態様のインパクトソケットでは、スタッドボルトの雄ネジ部に装着するときにはインパクトソケットを回転させて前記摺動子内の雌ネジに螺合させる必要があるが、スタッドボルトの締め込みを完了してインパクトソケットをスタッドボルトから取り外す際には、インパクトソケットを上昇させれば前記摺動子が前記付勢部材の付勢力に抗して前記収容凹部の開口部側に移動して前記摺動子片の合体状態が解かれて前記雌ネジ穴が拡径するので、インパクトソケットを逆回転させずともスタッドボルトから取り外すことができる。
【0024】
このように本発明の第2態様のインパクトソケットによれば、スタッドボルトから迅速に取り外しができることでスタッドボルトの植え込み作業時間を短縮できるとともに、角錐台状内面の収容凹部内に嵌合する角錐台状外形の摺動子という簡単な構成でスタッドボルトに締め付け力を確実に伝達することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下に、本発明の実施の形態について添付図面を参照して説明する。
図1は、本発明の第1実施形態であるインパクトソケット10の縦断面図である。インパクトソケット10は、例えば金属または樹脂からなる略円錐台状のソケット本体12を有している。ソケット本体12の上端部には、例えば四角形(または六角形)の横断面を有する連結穴14が形成されている。この連結穴14に電動または手動のレンチの四角柱(または六角柱)をなす駆動軸が嵌合されることにより、インパクトソケット10が回転駆動されるようになっている。
【0026】
また、ソケット本体12の下部には、四角錐台状の内面を有する収容凹部16が形成されている。収容凹部16は、ソケット本体12の下端部に例えば正方形状に開口し、ソケット本体12の上方内部に向かって狭くなるように形成されている。なお、収容凹部16の内面は、四角錐台状に限られず、他の多角錐台状(例えば六角錐台状)に形成されていてもよい。
【0027】
収容凹部16には、摺動子18が摺動可能に嵌合収容されている。摺動子18は、収容凹部16の四角錐台状内面の勾配と適合する略四角錐台状の外形を有している。摺動子18は、図2(a)に示すように、底面の正方形の対角線上に4つに分割された摺動子片19から構成されている。摺動子片19は、合体した状態で上端部に貫通孔20が形成されている。また、摺動子片19は、図2(b)に示すように、合体した状態において摺動子18の内部に一条の雌ネジ穴22が形成されるように、雌ネジがそれぞれ形成されている。雌ネジ穴22の端部は拡径部分24として形成されており、この拡径部分24が前記貫通孔20と連通している。なお、摺動子18の分割数は4つに限るものではなく、2つ以上であればよい。また、摺動子18は、略四角錐台状に限られず、収容凹部16の内面形状に適合する他の多角錐台状(例えば六角錐台状)であってもよい。
【0028】
前記各摺動子片19の角部は、R形状に面取りされている。このように面取りすることで、ソケット本体12の収容凹部16内での摺動子18の摺動が引っ掛かり無く滑らかに行える、面取りすることで摺動子片19ひいては摺動子18の外形寸法が若干小さくなるためにこれを収容するソケット本体12を含むインパクトソケット10全体の小型化に寄与する、各摺動子片19が合体状態になったときに各摺動子片19の内面にそれぞれ形成された雌ネジの連絡部分に僅かなずれが生じても雌ネジ穴22に螺合する雄ネジとの噛み合いが引っ掛かり無く滑らかになる、等のメリットがある。
【0029】
また、図3に示すように、前記摺動子片19に形成された雌ネジのネジ山26の頂部もまた、R形状に面取りしたように形成されている。このように形成することで、各摺動子片19が合体して雄ネジを抱き込むときに摺動子19の雌ネジが雄ネジに確実に噛み合うようにすることができる。
【0030】
さらに、図2(b)に示すように、摺動子片19下部外周には、後述するキャップ部材との当たり部を構成する段部28が形成されている。
【0031】
図1に示すように、摺動子18を構成する各摺動子片19の上部は、係合部材30のくびれ部に引っ掛かるように係合している。これにより、雌ネジ穴22の軸方向における各摺動子片19の高さ位置が揃うようになっている。また、摺動子18は、係合部材30を介してコイルススプリング(付勢部材)32によって収容凹部16の下端開口部に向かって付勢されている。なお、付勢部材は、コイルスプリングに限らず、例えば板ばね、ゴム等の他の弾性部材であっってもよい。
【0032】
図4に示すように、係合部材30は、略つづみ状をなし、くびれ部において対向する第1傾斜面34と第2傾斜面36を有している。各摺動子片19の上部は、前記第1および第2傾斜面34,36にそれぞれ当接係合している。各摺動子片19の上部が係合部材30の第1傾斜面34に当接していることによって、係合部材30がコイルスプリング32によって押圧力Fで付勢されることで、各摺動子片19には合体状態を解く方向(すなわち側方に押し広げられる方向)に押圧する力が作用するようになっている。
【0033】
また、係合部材30は、その下端部に略球状面部38を有している。図5に示すように、摺動子18の雌ネジ穴22にスタッドボルトSが螺合したときに、スタッドボルトSの先端部が係合部材30の略球状面部38に当接するようにしてある。これにより、摺動子18の雌ネジ穴22にスタッドボルトSが螺合して締め付けられたときに、摺動子18の雌ネジ22とスタッドボルトSの雄ネジとのくいつきを緩和するようになっている。さらに、各摺動子片19の上部が係合部材30の第2傾斜面36に当接していることによって、摺動子18の雌ネジ穴22に締め込まれたスタッドボルトSの先端が係合部材30の略球状面部38に圧接することで、その圧接力の分力として各摺動子片19には合体状態を解く方向(すなわち側方に押し広げられる方向)に押圧する力fが作用するようになっている。
【0034】
図1を再び参照すると、ソケット本体12の下端部には、中心に開口部を有するキャップ部材40が固定されている。通常時、ソケット本体12内の摺動子18は、係合部材30を介してコイルスプリング32によって下方に付勢されることで、収容凹部16の開口部側に位置している。このとき、各摺動子片19の段部28がキャップ部材40の開口縁部に係合することで各摺動子片19はその位置に保持されている。摺動子18が収容凹部16の開口部側に位置しているとき、係合部材30の第1傾斜面34によって横方向に押し広げられる力が作用することで合体状態が解かれており、各摺動子片18はその外側面を収容凹部16の内面に密接した状態で分離した状態にあり、このとき雌ネジ穴22の内径DはスタッドボルトSの直径dよりも大きく拡径している。
【0035】
続いて、前記構成からなるインパクトソケット10の操作及び動作について説明する。
図1に示すように、ワークWの雌ネジ穴2には、スタッドボルトSの下端雄ネジ部4が例えば2〜3回転だけねじ込まれることによりスタッドボルトSが仮植え込みされている。この状態で、ソケット本体12の連結穴14に電動または手動のレンチの駆動軸が嵌合された状態のインパクトソケット10の雌ネジ穴22にスタッドボルトSの上端雄ネジ部6を挿入するように、インパクトソケット10を下降させる。このとき、インパクトソケット10の雌ネジ穴22はスタッドボルトSの上端雄ネジ部6よりも大きく拡径しているので、インパクトソケット10にスタッドボルトSを容易かつ迅速に受け入れることができる。
【0036】
インパクトソケット10を下降させてスタッドボルトSに押し付けると、図6に示すように、摺動子18がコイルスプリング32の付勢力に抗して収容凹部16の最奥部に押し込まれる。このとき、摺動子18を構成する各摺動子片19は、収容凹部16の角錐台状内面に沿って摺動することにより互いに接近するように移動して合体した状態になり、これにより摺動子18内に形成される一条の雌ネジ22がスタッドボルトSの上端雄ネジ部6に噛み合う。また、このときスタッドボルトSの上端部は、係合部材30の略球状面部38に当接している。
【0037】
この状態で、レンチを正転駆動してインパクトソケット10を正回転させると、角錐台状の外形を有する摺動子18が同じく角錐台状の内面を有する収容凹部16内に嵌合していることにより、ソケット本体12の回転が摺動子18に確実に伝達され、その結果、スタッドボルトSがワークWの雌ネジ部2に締め込まれる。このとき、スタッドボルトSの上端雄ネジ部6は摺動子18内の雌ネジ22に噛み合っているので、スタッドボルトSの上端雄ネジ部6が潰れてしまうことはない。
【0038】
図7に示すように、スタッドボルトSの下端部8がワークWの雌ネジ穴2に底部に当接するまで、スタッドボルトSはワークWに締め込まれる。スタッドボルトSの締め込みが完了したら、インパクトソケット10のスタッドボルトSに対する押圧力を解除してインパクトソケット10をスタッドボルトSから上昇させる。この上昇開始の際にインパクトソケット10を僅かに逆回転させてもよい。これにより、図8に示すように、摺動子18はコイルスプリング32の付勢力によって収容凹部16の開口部側に移動する。このとき、スタッドボルトSの上端雄ネジ部6およびインパクトソケット10の雌ネジ22の各ネジ山は約60度の頂角をなすテーパ面で互いに接触しているために、固定されたスタッドボルトSから摺動子18を引き抜こうとする際にはスタッドボルトSの上端雄ネジ部6のネジ山のテーパ面によって各摺動子片9を横方向に押し広げようとする力が作用する。また、上述したように、係合部材30の第1および第2傾斜面34,36によっても、各摺動子片9を横方向に押し広げようとする力が作用する。これらの作用によって、摺動子18が収容凹部16の奥部から開口部側へ移動するときには、各摺動子片19は側方に押し広げられることでその外側面が収容凹部16の内側面に密接しつつ互いに分離するように移動し、その結果、各摺動子片19は合体状態が解かれて摺動子18内の雌ネジ穴22が拡径した状態になる。これにより、インパクトソケット10を逆回転させずともスタッドボルトSから迅速に取り外すことができる。
【0039】
このように本実施形態のインパクトソケット10によれば、スタッドボルトSに対して迅速に装着および取り外しができることでスタッドボルトSの植え込み作業時間を短縮できるとともに、角錐台状内面の収容凹部16内に嵌合する角錐台状外形の摺動子18という簡単な構成でスタッドボルトSに締め付け力を確実に伝達することができる。
【0040】
なお、前記第1実施形態においては、スタッドボルトSをワークWに仮植え込みするようにしたが、図9に示すインパクトソケット10aのように、スタッドボルトSの上端雄ネジ部6を摺動子18内に挿入した状態で自立保持できるように、保持部材42を設けてもよい。保持部材42は、キャップ部材41によって支持されており、例えばワッシャ部材の中央開口部の縁部に2〜3つの屈曲した板バネを立設したもので構成することができるが、同様の保持機能を果たすものであればどのようなものでもよい。
【0041】
次に、図10を参照して本発明の第2実施形態のインパクトソケット50について説明するが、本実施形態のインパクトソケット50は前記インパクトソケット10と類似の構成を有するため、主として異なる点を中心に説明する。
【0042】
インパクトソケット50のソケット本体12の下部には、四角錐台状の内面を有する収容凹部16が形成されている。収容凹部16は、ソケット本体12の下端部に例えば正方形状に開口し、ソケット本体12の上方内部に向かって狭くなるように形成されている。
【0043】
収容凹部16には、摺動子52が摺動可能に嵌合収容されている。摺動子52は、収容凹部16の四角錐台状内面の勾配と適合する略四角錐台状の外形を有している。摺動子18は、底面の正方形の対角線上に4つに分割された摺動子片53から構成されている。摺動子片53は、合体した状態において摺動子52の内部に一条の雌ネジ穴22が形成されるように、雌ネジがそれぞれ形成されている。
【0044】
また、摺動子片53は、コイルスプリング54の当たり部となる段部56が形成されている。各摺動子片53は、ソケット本体12の下端部に固定されたキャップ部材58で一端部が支持されたコイルスプリング54によって、収容凹部16の奥部に向かって付勢されている。通常時、各摺動子片53は、コイルスプリング54の付勢力により収容凹部16の最奥部に位置して合体した状態になっている。このように合体した摺動子片53によって構成される摺動子52の雌ネジ穴22の最奥部には、前記雌ネジ穴22に螺合するスタッドボルトSの上端部と当接する略球状面部60が形成されている。他の構成は、前記インパクトソケット10と同様であるため、同一構成に同一符号を付して説明を省略する。
【0045】
続いて、前記構成からなるインパクトソケット50の操作及び動作について説明する。
図10に示すように、ワークWの雌ネジ穴2には、スタッドボルトSの下端雄ネジ部4が例えば2〜3回転だけねじ込まれることによりスタッドボルトSが仮植え込みされている。この状態で、ソケット本体12の連結穴14に電動または手動のレンチの駆動軸が嵌合された状態のインパクトソケット50の摺動子52内にスタッドボルトSの上端雄ネジ部6を挿入するように、インパクトソケット50を下降させる。そして、レンチを正転駆動してインパクトソケット50を回転させ、摺動子52内の雌ネジ部22にスタッドボルトSの上端雄ネジ部6を螺合させる。
【0046】
図11に示すように、インパクトソケット50は、スタッドボルトSの先端が摺動子52の略球状面部60に当接するまで上端雄ネジ部6に締め込まれる。スタッドボルトSの先端が摺動子52の略球状面部60に当接すると、それ以後のインパクトソケット50の回転力はスタッドボルトSに伝達されて、スタッドボルトSがワークWの雌ネジ穴2にねじ込まれていく。
【0047】
図12に示すように、スタッドボルトSの下端部8がワークWの雌ネジ穴2に底部に当接するまで、スタッドボルトSはワークWに締め込まれる。スタッドボルトSの締め込みが完了したら、インパクトソケット50のスタッドボルトSに対する押圧力を解除してインパクトソケット50をスタッドボルトSから上昇させる。この上昇開始の際にインパクトソケット50を僅かに逆回転させてもよい。
【0048】
インパクトソケット50を上昇させると、図13に示すように、摺動子52はコイルスプリング54の付勢力に抗して収容凹部16の下端開口部側へ移動する。このとき、スタッドボルトSの上端雄ネジ部6およびインパクトソケット50の雌ネジ22の各ネジ山は約60度の頂角をなすテーパ面で互いに接触しているために、固定されたスタッドボルトSから摺動子52を引き抜こうとする際にはスタッドボルトSの上端雄ネジ部6のネジ山のテーパ面によって各摺動子片53を横方向に押し広げようとする力が作用する。この作用によって、摺動子52が収容凹部16の奥部から開口部側へ移動するときには、各摺動子片53は側方に押し広げられることでその外側面が収容凹部16の内側面に密接しつつ互いに分離するように移動し、その結果、各摺動子片53は合体状態が解かれて摺動子52内の雌ネジ穴22が拡径した状態になる。これにより、インパクトソケット50を逆回転させずともスタッドボルトSから迅速に取り外すことができる。
【0049】
このように本実施形態のインパクトソケット50によれば、スタッドボルトSに対して迅速に取り外しができることでスタッドボルトSの植え込み作業時間を短縮できるとともに、角錐台状内面の収容凹部16内に嵌合する角錐台状外形の摺動子52という簡単な構成でスタッドボルトSに締め付け力を確実に伝達することができる。
【0050】
なお、本実施形態のインパクトソケット50においても、スタッドボルトSの上端雄ネジ部6を摺動子52内に挿入した状態で自立保持できるように、前記保持部材42を設けてもよい。
【0051】
ところで、前記第1および第2実施形態のインパクトソケット10,50では、摺動子18,52を4分割としたが、図14に示す摺動子70のように2分割された摺動子片72で構成してもよい。この場合、スタッドボルトSの上端雄ネジ部6から摺動子18,52を引き抜く際に、スタッドボルトSの上端雄ネジ6から摺動子片72の雌ネジ22の係合を解除させるためには、摺動子片72の開き量Bを大きくする必要がある。この開き量Bを大きくしようとすると、摺動子72の移動ストローク量を大きく採る必要があり、そうするとインパクトソケット全体としての大型化を招くことになる。
【0052】
そこで、摺動子を2分割とした場合でもインパクトソケットを大型化させないために、図15(a),(b)に示すように、摺動子74を構成する2つの摺動子片76について雌ネジ22のネジ山が、各摺動子片76の接合部分に対応する位置およびその近傍において形成されていないか低くなっているようにする。これにより、スタッドボルトSの上端雄ネジ6から摺動子片76の雌ネジ22の係合を解除させるために必要になる摺動子片72の開き量bを小さくすることができ、ひいてはインパクトソケット全体としての大型化を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】第1実施形態のインパクトソケットの縦断面図。
【図2】摺動子の上面図と縦断面図。
【図3】摺動子の雌ネジのネジ山の頂部形状を示す図。
【図4】摺動子片と係合部材を示す図。
【図5】スタッドボルトを抱き込んだ摺動子片と係合部材を示す図。
【図6】インパクトソケットにスタッドボルトが挿入された状態を示す図。
【図7】インパクトソケットでスタッドボルトを締め込んだ状態を示す図。
【図8】インパクトソケットをスタッドボルトから取り外す際の状態を示す図。
【図9】保持部材を設けたインパクトソケットの縦断面図。
【図10】第2実施形態のインパクトソケットの縦断面図。
【図11】インパクトソケットにスタッドボルトをねじ込んだ状態を示す図。
【図12】インパクトソケットでスタッドボルトを締め込んだ状態を示す図。
【図13】インパクトソケットをスタッドボルトから取り外す際の状態を示す図。
【図14】2分割された摺動子片で構成した摺動子を示す図。
【図15】雌ネジを部分的に形成していない2分割された摺動子の摺動子片の一方を開いた状態を示す図。
【図16】従来のインパクトソケットの一例を示す図。
【符号の説明】
【0054】
10,50…インパクトソケット
12…ソケット本体
16…収容凹部
18,52…摺動子
19,53…摺動子片
22…雌ネジ穴または雌ネジ
30…係合部材
32,54…コイルスプリング(付勢部材)
34…第1傾斜面
36…第2傾斜面
38,60…略球状面部
S…スタッドボルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ソケット本体の下端部に開口し、前記ソケット本体の上方内部に向かって狭くなるような角錐台状の内面を有する収容凹部と、
前記ソケット本体の収容凹部内に摺動可能に嵌合し、前記収容凹部の内面に適合する角錐台状の外形を有する摺動子と、
前記摺動子を前記収容凹部の下端開口部に向かって付勢する付勢部材とを備え、
前記摺動子は複数の摺動子片に分割されており、前記摺動子が前記付勢部材の付勢力に抗して前記収容凹部の奥部に押し込まれて前記摺動子片が合体状態にあるときに前記摺動子の内部に雌ネジ穴が形成され、前記摺動子が前記付勢部材の付勢力によって前記収容凹部の開口部側に位置しているときに前記摺動子片の合体状態が解かれて前記雌ネジ穴が拡径することを特徴とするインパクトソケット。
【請求項2】
前記複数の摺動子片の上部は前記雌ネジ穴の軸方向における前記摺動子片の高さ位置が揃うように係合部材にそれぞれ係合し、前記摺動子は前記係合部材を介して前記付勢部材によって付勢され、前記各摺動子片と前記係合部材は、前記各摺動子片に合体状態を解く方向に押圧する力を作用させる傾斜面で当接係合していることを特徴とする請求項1に記載のインパクトソケット。
【請求項3】
前記摺動子は略四角錐台状または略六角錐台状の外形をなし、前記摺動子は4つの摺動子片に分割されていることを特徴とする請求項1または2に記載のインパクトソケット。
【請求項4】
前記係合部材は、前記雌ネジ穴に螺合するボルトの先端と当接する略球状面部を有することを特徴とする請求項2に記載のインパクトソケット。
【請求項5】
ソケット本体の下端部に開口し、前記ソケット本体の上方内部に向かって狭くなるような角錐台状の内面を有する収容凹部と、
前記ソケット本体の収容凹部内に摺動可能に嵌合し、前記収容凹部の内面に適合する角錐台状の外形を有する摺動子と、
前記摺動子を前記収容凹部の奥部に向かって付勢する付勢部材とを備え、
前記摺動子は複数の摺動子片に分割されており、前記摺動子が前記付勢部材の付勢力によって前記収容凹部の奥部に押し込まれて前記摺動子片が合体状態にあるときに前記摺動子の内部に雌ネジ穴が形成され、前記摺動子が前記付勢部材の付勢力に抗して前記収容凹部の開口部側に移動したときに前記摺動子片の合体状態が解かれて前記雌ネジ穴が拡径することを特徴とするインパクトソケット。
【請求項6】
前記摺動子は略四角錐台状または略六角錐台状の外形をなし、前記摺動子は4つの摺動子片に分割されていることを特徴とする請求項5に記載のインパクトソケット。
【請求項7】
前記摺動子片は、合体状態にあるときに前記雌ネジ穴に螺合するボルトの先端と当接する略球状面部を有することを特徴とする請求項5に記載のインパクトソケット。
【請求項8】
前記摺動子は略四角錐台状または略六角錐台状の外形をなし、前記摺動子は2つの摺動子片に分割されており、前記2つの摺動子片が合体することによって形成される雌ネジ穴において前記摺動子片の接合部分に対応する位置およびその近傍ではネジ山が形成されていないか低くなっていることを特徴とする請求項1または5に記載のインパクトソケット。
【請求項9】
ボルトを自立保持する保持部材を設けたことを特徴とする請求項1または5に記載のインパクトソケット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2006−321036(P2006−321036A)
【公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−148298(P2005−148298)
【出願日】平成17年5月20日(2005.5.20)
【出願人】(593097203)長堀工業株式会社 (8)