説明

インパクトビームを備えたサイドドアを有する自動車

【課題】車体の側部に開閉可能に支持されたサイドドアを具備し、そのサイドドアは、ドアアウタパネルとドアインナパネルとこれらのパネルの間に配置されてドアインナパネルに固着されたインパクトビームとを有する自動車において、サイドドアに対して車幅方向外方から衝撃力が加えられたとき、サイドドアが車室内側に大きく侵入することを阻止すると共に、サイドドアの重量とコストを低減することを目的とする。
【解決手段】インパクトビーム14にラッチ23を一体に成形し、そのインパクトビーム14に対向した車体1のロッカ22に係合孔25を形成し、サイドドア10に衝撃力Pが加えられたとき、サイドドア10が変形して、そのサイドドア10のラッチ23がロッカ22の係合孔25に突入して係合するようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体の側部に形成されたドア開口を閉鎖する閉位置と該ドア開口を開放する開位置との間を作動可能に車体に支持されたサイドドアを具備し、該サイドドアは、当該サイドドアが閉位置を占めた状態で車外側に位置するドアアウタパネルと、同じくサイドドアが閉位置を占めた状態で前記ドアアウタパネルよりも車内側に位置し、かつ該ドアアウタパネルに固定されたドアインナパネルと、該ドアインナパネルと前記ドアアウタパネルとの間に配置され、長手方向各端部が前記ドアインナパネルにそれぞれ固着されているインパクトビームとを有する自動車に関する。
【背景技術】
【0002】
上述した形式の自動車において、そのサイドドアに対して車幅方向外方から衝撃力が加えられる所謂側面衝突時に、サイドドアが車体から外れて車内側に大きく侵入することを阻止するため、サイドドアにラッチを設け、側面衝突時にラッチを車体に係合させて、サイドドアが車内側に大きく侵入することを阻止することは従来より公知である(特許文献1参照)。
【0003】
従来のこの種の自動車においては、サイドドアにインパクトビーム以外のリインホースメントを設け、そのリインホースメントにラッチを溶接によって固着していた。かかる構成によって、側面衝突時に、サイドドアが車内側に大きく侵入することを効果的に防止することができる。ところが、インパクトビームのほかにリインホースメントをサイドドアに設ける必要があるため、その分だけサイドドアの重量が増大し、コストが上昇する欠点を免れない。また、リインホースメントにラッチを溶接によって固着し、しかも、そのリインホースメントをドアインナパネルに溶接によって固着してサイドドアを製造するので、その製造工程が複雑化し、これによってもサイドドアのコストが上昇する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−105506号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、側面衝突時にサイドドアが車内側に大きく侵入することを効果的に防止できると共に、サイドドアの重量とコストの上昇を抑えることのできる自動車を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記目的を達成するため、冒頭に記載した形式の自動車において、前記インパクトビームには、前記ドアインナパネルに向けて突出したラッチが一体に成形されていて、該ラッチに対向するドアインナパネルの部分には貫通孔が形成され、前記サイドドアが閉位置を占めた状態で前記ラッチに対向する車体部分には係合孔が形成されていて、閉位置を占めたサイドドアに対して車幅方向外方から衝撃力が加えられたとき、前記ラッチは、前記貫通孔を通り、かつ前記係合孔に突入して該係合孔に係合することができるように形成されていることを特徴とする自動車を提案する(請求項1)。
【0007】
また、上記請求項1に記載の自動車において、前記サイドドアが閉位置を占めた状態で、前記インパクトビームの長手方向における一方の端部は、車体の前側の柱であるフロントピラーに対向し、インパクトビームの長手方向における他方の端部は、車体の前後方向における中央の柱であるセンタピラーに対向し、前記係合孔は、車体側部の下部を構成するロッカに形成されていると有利である(請求項2)。
【発明の効果】
【0008】
請求項1に記載の構成によれば、閉位置を占めたサイドドアに対して車幅方向外方から衝撃力が加えられたとき、サイドドアのラッチが車体に形成された係合孔に突入して係合するので、従来の自動車と同様に、サイドドアが車内側に大きく侵入する不具合を阻止できる。しかも、ラッチが直にインパクトビームに付設されているので、インパクトビーム以外にリインホースメントを設ける必要はなく、これによってサイドドアの重量とコストの上昇を抑えることができる。さらに、ラッチはインパクトビームに一体に成形されているので、インパクトビームを成形して製造する際に、ラッチも同時に成形できる。このため、ラッチをインパクトビームに溶接によって固着する必要はない。これにより、サイドドアの製造工程を減少させ、その製造コストを低減できる。
【0009】
また、請求項2に記載の構成によれば、閉位置を占めたサイドドアに対して車幅方向外方から衝撃力が加えられて、該サイドドアが変形したとき、インパクトビームは、車体を構成するフロントピラーと、センタピラーと、ロッカの3個所において受け止められる。このように、インパクトビームが3個所という多くの個所で車体に支えられ、衝撃力が3個所に分散されて車体に伝えられるので、サイドドアが車内側に大きく侵入することをより確実に防止することができる。サイドドアの部品点数の低減とサイドドアの軽量化を達成できるほかに、サイドドアに対して外方から衝撃力が加えられたときに、その衝撃力を車体に分散して伝達する効果を高めることができるのである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係る自動車の一例を示す側面図である。
【図2】図1のII−II線拡大断面図である。
【図3】インパクトビームの斜視図である。
【図4】図3に示したインパクトビームの一部と、そのインパクトビームに一体に形成されたラッチを示す斜視図であって、図3とは逆の方向からインパクトビームを見たときの図である。
【図5】サイドドアに対して、車幅方向該方から衝撃力が加えられたときのサイドドアの変形状態と、ラッチが車体に形成された係合孔に突入する状態を示した、図2と同様な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を図面に従って詳細に説明する。
【0012】
図1は自動車の側面図であり、図2は図1のII−II線拡大断面図である。各図における矢印Frは自動車の前進方向を示し、矢印Wは前進方向Frに対して直交する車幅方向を示している。
【0013】
図1及び図2に示すように、自動車の車体1、すなわちそのメインボデイは、車幅方向Wの側部を構成するサイドメンバ2や、そのサイドメンバ2に固着されていて、車体1の前後方向に延びるロッカリインホースメント3や、そのロッカリインホースメント3に固着された図示していないフロアパネルなどの各種のパネルによって構成されている。これらのパネルは鋼板を成形した板材より成る。
【0014】
図2に示すように、ロッカリインホースメント3は、車外側OSに位置するロッカアウタパネル5と、車内側ISに位置するロッカインナパネル6より成り、これらのパネル5,6とサイドメンバ2との合わせフランジ部7がスポット溶接によって固着されている。ロッカリインホースメント3と、その車外側に位置するサイドパネル2の部分とによって、車体1の下部においてその前後方向に延びる骨格部であるロッカ22が構成されている。また、図示していないフロアパネルは、その車幅方向端部が、ロッカインナパネル6にスポット溶接によって固着されている。
【0015】
上述の如く構成された車体1の車幅方向側部には、図1に示すように、ドア開口9が形成され、そのドア開口9は、サイドドア10によって開閉される。より具体的に示すと、サイドドア10は、図示していないヒンジを介して車体1に回動開閉可能に支持されていて、ドア開口9を閉鎖する閉位置と、ドア開口9を開放する開位置との間を回動することができる。図1及び図2は、サイドドア10が閉位置を占めたときの様子を示している。サイドドアを車体に対して前後方向にスライド可能に支持した自動車にも本発明を適用できる。
【0016】
図1及び図2に示すように、サイドドア10は、そのドア10が閉位置を占めた状態で、車外側OSに位置するドアアウタパネル12と、同じ状態でドアアウタパネル12よりも車内側ISに位置するドアインナパネル13と、そのドアインナパネル13とドアアウタパネル12の間に配置されたインパクトビーム14とを有している。図2に示すようにドアアウタパネル12とドアインナパネル13は、その周辺部15がヘミング加工によって一体に固定され、インパクトビーム14は、図1に示すように、その長手方向各端部16,17がドアインナパネル13にスポット溶接によって固着されている。図3は、このインパクトビーム14の詳細を示しており、その長手方向各端部16,17にはフランジ18,19が形成され、その各フランジ18,19がドアインナパネル13にスポット溶接されている。
【0017】
図1に示すように、サイドドア10が閉位置を占めた状態で、インパクトビーム14の長手方向における一方の端部16は、車体1の前側の柱であるフロントピラー20に対向し、インパクトビーム14の長手方向における他方の端部17は、車体1の前後方向における中央の柱であるセンタピラー21に対向している。
【0018】
サイドドア10を構成するドアアウタパネル12、ドアインナパネル13及びインパクトビーム14は、鋼板を成形した板材により構成されている。
【0019】
上述のように、本例の自動車は、車体1の側部に形成されたドア開口9を閉鎖する閉位置と該ドア開口9を開放する開位置との間を作動可能に車体1に支持されたサイドドア10を具備し、そのサイドドア10は、該サイドドア10が閉位置を占めた状態で車外側OSに位置するドアアウタパネル12と、同じくサイドドア10が閉位置を占めた状態でドアアウタパネル12よりも車内側ISに位置し、かつ該ドアアウタパネル12に固定されたドアインナパネル13と、該ドアインナパネル13と前記ドアアウタパネル12との間に配置され、長手方向各端部16,17がドアインナパネル13にそれぞれ固着されているインパクトビーム14とを有している。
【0020】
図1乃至図4に示すように、鋼板により構成されたインパクトビーム14には、ドアインナパネル13に向けて突出したラッチ23が一体に成形されている。鋼板をプレス成型法によって成形してインパクトビームを製造する際に、ラッチ23も同時に成形することができるのである。かかるラッチ23に対向するドアインナパネル13の部分には、図2に示すように貫通孔24が形成されている。さらに、サイドドア10が図1及び図2に示したように閉位置を占めた状態でラッチ23に対向する車体部分、すなわち車体側部の下部を構成するロッカ22には係合孔25が貫通形成されている。本例の自動車においては、ロッカリインホースメント3と、これに対向するサイドメンバ2の部分とによってロッカ22が構成されているので、図2に示したように、ラッチ23に対向したサイドメンバ2の部分とロッカリインホースメント3のロッカアウタパネル5の部分とに、これらを貫通する係合孔25が形成されている。
【0021】
図2に示した例では、上記係合孔25に、カップ状に形成された樹脂製のキャップ26が嵌合し、そのキャップ26の口部の外周フランジ部27が接着剤によって係合孔25の周辺のサイドメンバ2の部分に固定されている。このキャップ26は、係合孔25を通して、雨水等がロッカリインホースメント3の内部に侵入することを阻止する部材であるが、かかるキャップ26を省くこともできる。また、図4に示すように、ラッチ23は、その幅方向各端部にフランジ23Aを有しているが、図2及び図5においては、そのフランジの図示を省略してある。
【0022】
ここで、例えば相手の自動車のバンパがサイドドア10に対して衝突し、図2に示すように閉位置を占めたサイドドア10に対して車幅方向外方から衝撃力Pが加えられると、図5の(a)及び(b)に示すように、サイドドア10のドアアウタパネル12とドアインナパネル13が車内側ISに向けて変形する。これによって、ラッチ23は、ドアインナパネル13に形成された貫通孔24を通り、次いで車体1を構成するロッカ22に形成された係合孔25に突入して、該係合孔25に係合する。このように、サイドドア10のラッチ23と車体1に形成された係合孔25とが係合するので、サイドドア10が、衝撃力Pによって、大きく車内側ISに侵入する不具合を阻止できる。
【0023】
上述のように、ラッチ23は、閉位置を占めたサイドドア10に対して車幅方向外方から衝撃力Pが加えられたとき、ドアインナパネル13が形成された貫通孔24を通り、かつ車体1に形成された係合孔25に突入して、その係合孔25に係合することができるように形成されている。このように、本例の自動車によると、閉位置を占めたサイドドア10に対して車幅方向外方から衝撃力Pが加えられたとき、サイドドア10のラッチ23が車体1に形成された係合孔25に突入して係合するので、従来の自動車と同様に、サイドドア10が車内側ISに大きく侵入する不具合を阻止できる。しかも、ラッチ23が直にインパクトビーム14に付設されているので、インパクトビーム14以外にリインホースメントを設ける必要はなく、これによってサイドドア10の重量とコストの上昇を抑えることができる。さらに、ラッチ23はインパクトビームに14一体に成形されているので、インパクトビーム14を成形して製造する際に、ラッチ23も同時に成形できる。このため、ラッチをインパクトビームに溶接によって固着する必要はない。このようにして、サイドドア10の製造工程を減少させ、その製造コストを低減できる。
【0024】
また、本例の自動車においては、図1を参照して先に説明したように、サイドドア10が閉位置を占めた状態で、インパクトビーム14の長手方向における一方の端部16は、車体1の前側の柱であるフロントピラー20に対向し、インパクトビーム14の長手方向における他方の端部17は、車体1の前後方向における中央の柱であるセンタピラー21に対向し、かつ側面衝突時にラッチ23が突入して係合する係合孔25は、車体側部の下部を構成するロッカ22に形成されているので、サイドドア10に対して車幅方向外方から衝撃力Pが加えられ、サイドドア10が図5の(a),(b)に示したように変形したとき、インパクトビーム14は、フロントピラー26とセンタピラー21とロッカ22の3個所において車体1に受け止められる。このように、インパクトビーム14が3個所という多くの個所で車体1に支えられ、衝撃力Pが3個所に分散されて車体1に伝えられるので、サイドドア10が車内側ISに大きく侵入することをより一層確実に防止することができる。本例の自動車によれば、サイドドア10の部品点数の低減と、サイドドア10の軽量化と、側面衝突時の衝撃力Pの車体1への分散伝達効果の向上を図ることができるのである。
【0025】
以上、車体側部の前部に形成されたドア開口9を開閉するサイドドア10に本発明を適用した例を説明したが、図1に示したように、ドア開口9より後方の車体側部にもドア開口109が形成されている場合には、そのドア開口109を開閉するサイドドア110に対しても、上述した構成を実質的にそのまま採用することができる。図1には、後部のサイドドア110がインパクトビーム114を有し、サイドドア110が閉位置を占めた状態で、そのインパクトビーム114の一方の端部116が車体1を構成するセンタピラー21に対向し、その他方の端部117が車体1を構成するリヤピラー28に対向した様子を示している。かかるインパクトビーム114にも、ラッチ123が一体に形成され、側面衝突時に、そのラッチ123がロッカ22に形成された係合孔(図示せず)に突入して係合する。
【0026】
自動車の前進方向Frにみて、右側に設けられたサイドドア(図示せず)にも、上述した構成をそのまま採用することができる。本発明に係る構成は、少なくとも1つのサイドドアと、これに関連する車体部分とに採用できるものである。
【0027】
以上、本発明の好ましい実施形態を説明したが、本発明はこの構成に限定されず、各種改変して構成できるものである。
【符号の説明】
【0028】
1 車体
9,109 ドア開口
10,110 サイドドア
12 ドアアウタパネル
13 ドアインナパネル
14,114 インパクトビーム
16,17,116,117 端部
20 フロントピラー
21 センタピラー
22 ロッカ
23,123 ラッチ
24 貫通孔
25 係合孔
IS 車内側
OS 車外側
P 衝撃力

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体の側部に形成されたドア開口を閉鎖する閉位置と該ドア開口を開放する開位置との間を作動可能に車体に支持されたサイドドアを具備し、該サイドドアは、当該サイドドアが閉位置を占めた状態で車外側に位置するドアアウタパネルと、同じくサイドドアが閉位置を占めた状態で前記ドアアウタパネルよりも車内側に位置し、かつ該ドアアウタパネルに固定されたドアインナパネルと、該ドアインナパネルと前記ドアアウタパネルとの間に配置され、長手方向各端部が前記ドアインナパネルにそれぞれ固着されているインパクトビームとを有する自動車において、前記インパクトビームには、前記ドアインナパネルに向けて突出したラッチが一体に成形されていて、該ラッチに対向するドアインナパネルの部分には貫通孔が形成され、前記サイドドアが閉位置を占めた状態で前記ラッチに対向する車体部分には係合孔が形成されていて、閉位置を占めたサイドドアに対して車幅方向外方から衝撃力が加えられたとき、前記ラッチは、前記貫通孔を通り、かつ前記係合孔に突入して該係合孔に係合することができるように形成されていることを特徴とする自動車。
【請求項2】
前記サイドドアが閉位置を占めた状態で、前記インパクトビームの長手方向における一方の端部は、車体の前側の柱であるフロントピラーに対向し、インパクトビームの長手方向における他方の端部は、車体の前後方向における中央の柱であるセンタピラーに対向し、前記係合孔は、車体側部の下部を構成するロッカに形成されている請求項1に記載の自動車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−91394(P2013−91394A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−234208(P2011−234208)
【出願日】平成23年10月25日(2011.10.25)
【出願人】(000157083)トヨタ自動車東日本株式会社 (1,164)
【Fターム(参考)】