説明

インヒビタスイッチ

【課題】マグネットにおける磁極反転箇所の磁束密度の変化勾配を大きくして選択レンジの検出精度を高める。
【解決手段】マグネット4にはスライド方向に沿う第1〜第4磁気トラックS1〜S4が設けられており、各磁気トラックには、スライド方向の途中に「S極からN極」または「N極からS極」の少なくとも一方へ磁極が変化する磁極反転箇所が設けられている。「複数のうちの一部の磁極反転箇所」または「全部の磁極反転箇所」には、磁極反転箇所のy方向の両側を「S極のみ」または「N極のみ」で挟む逆極囲部αが設けられる。この逆極囲部αを設けたことにより、磁極反転箇所における磁束密度の変化勾配を大きくすることができる。その結果、ホールICにおけるON−OFFのヒステリシス幅を小さくすることができ、選択レンジの検出精度を高めることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動変速機の内部において選択レンジ(シフトポジション)の検出を行なうインヒビタスイッチ(自動変速機用レンジ検出装置)に関する。
【背景技術】
【0002】
〔従来技術〕
磁極の変化によって選択レンジの検出を行なうインヒビタスイッチが知られている(例えば、特許文献1参照)。
インヒビタスイッチの具体例を、図1(a)を参照して説明する。なお、後述する[発明を実施するための形態]および[実施例]と同一機能物に対して同一符号を付すものである。
【0003】
インヒビタスイッチは、
・基板18に支持された状態で固定部材に搭載される第1〜第4ホールIC(磁気検出手段に相当)H1〜H4と、
・第1〜第4ホールICH1〜H4に対して磁束を付与する第1〜第4磁気トラック(図中一点鎖線に沿う磁気列)S1〜S4がスライド方向(x方向)に沿って設けられるマグネット4と、
を具備する。
【0004】
マグネット4はマニュアルスプール弁とともに変位する可動部材3に設けられる。
また、第1〜第4磁気トラックS1〜S4には、S極からN極へ、あるいはN極からS極へ磁極変化を与える磁極反転箇所が設けられている。
第1〜第4磁気トラックS1〜S4は、図示上から下方へ向けて順次並んで設けられる。
一方、第1〜第4ホールICH1〜H4は、第1〜第4磁気トラックS1〜S4に対応配置されるものであり、図示上から下方へ向けて順次並んで配置される。
【0005】
第1〜第4ホールICH1〜H4は、図2に示すように、マグネット4からS極の磁束が付与されるとON信号を発生するものであり、下記表1に示すように、
・Pレンジにおいて第1ホールICH1のみがONし、
・PレンジとRレンジの間の中間レンジ(P−Rレンジ)において第1ホールICH1と第2ホールICH2の2つが同時にONし、
・Rレンジにおいて第2ホールICH2のみがONし、
・RレンジとNレンジの間の中間レンジ(R−Nレンジ)において第2ホールICH2と第3ホールICH3の2つが同時にONし、
・Nレンジにおいて第3ホールICH3のみがONし、
・NレンジとDレンジの間の中間レンジ(N−Dレンジ)において第3ホールICH3と第4ホールICH4の2つが同時にONし、
・Dレンジにおいて第4ホールICH4のみがONするものである。
【0006】
【表1】

【0007】
〔従来技術の問題点〕
ここで、第1〜第4磁気トラックS1〜S4には、第1〜第4ホールICH1〜H4に「S極からN極」、あるいは「N極からS極」へ磁極変化を与える磁極反転箇所が設けられる。
インヒビタスイッチの検出精度を高めるには、ホールIC(第1〜第4ホールICH1〜H4)のON−OFFの切替え精度を高めることが要求される。
この切替え精度を高めるには、「可動部材3の変位に伴ってホールICに与えられる磁束密度の変化勾配」を向上させることが要求される。即ち、磁極反転箇所における磁束密度の変化勾配を大きくすることが要求される。
【0008】
しかるに、従来技術の第1〜第4磁気トラックS1〜S4および第1〜第4ホールICH1〜H4は、上記表1に対応する並び順で配置されていた。
その結果、従来技術では、図1(a)に示すように、磁気トラックのS極が、隣接する磁気トラックのS極と斜め方向に繋がっていた。
【0009】
このため、固定部材に対する可動部材3のスライド方向をx方向、
マグネット4においてスライド方向xに対して直交する方向をy方向とした場合、
磁極反転箇所のy方向に「切り替わり前の同極」と「切り替わり後の逆極」の両方が存在してしまう(y方向の一方が無極の場合もある)。
【0010】
その結果、磁極反転箇所では、y方向に存在する同極と逆極の磁束の影響をホールICが受けてしまい、図2の破線Jに示すように、ホールICに付与される磁束の変化幅が小さくなり、磁極反転箇所における磁束密度の変化勾配が小さくなってしまう。
そのため、ホールICにおけるON−OFFのヒステリシス幅ΔSが大きくなり、選択レンジの検出精度の低下の要因になっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】独国特許発明第DE20320742U1明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、磁極反転箇所における磁束密度の変化勾配を大きくして検出精度を高めることのできるインヒビタスイッチの提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
〔請求項1の手段〕
請求項1のマグネットは、磁極反転箇所のy方向の両側を「S極のみ」または「N極のみ」で挟む逆極囲部を備える。
これにより、磁極反転箇所により磁極が切り替わる際、y方向の両側に存在する逆極の磁束の影響を磁気検出手段が受けるため、磁気検出素子に付与される磁束の変化幅を大きくでき、磁極反転箇所における磁束密度の変化勾配を大きくすることができる。
その結果、磁気検出素子におけるON−OFFのヒステリシス幅を小さくでき、選択レンジの検出精度を高めることができる。
【0014】
〔請求項2の手段〕
請求項2のインヒビタスイッチは、選択レンジから隣接する選択レンジに切り替わる際に、複数の磁気検出手段のうちの1つのみが切り替わるグレーコード(交番2進符号)に設けられている。
このように複数の磁気検出手段のON−OFFパターンにグレーコードを採用することにより、磁気検出手段のいずれかが故障した際に、選択レンジが誤認識される不具合を回避することができる。
【0015】
〔請求項3の手段〕
請求項3のインヒビタスイッチは、選択レンジと隣接する選択レンジとの間に中間レンジ(切替中間帯)を設けており、中間レンジにおいて2つの磁気検出手段を同時にONするものである。
このように中間レンジにおいて2つの磁気検出手段を同時にONさせることにより、磁気検出手段の故障判定を容易に実施することが可能になる。
【0016】
〔請求項4の手段〕
請求項4のインヒビタスイッチは、逆極囲部の数が最大になるように複数の磁気トラックが配置されるものである。
逆極囲部の数が多く設けられることで、検出精度が高められる箇所が増え、結果的に選択レンジの検出精度を高めることができる。
【0017】
〔請求項5の手段〕
請求項5のインヒビタスイッチは、x方向が直線方向である。
【0018】
〔請求項6の手段〕
請求項6のインヒビタスイッチは、x方向が円弧方向である。
【0019】
〔請求項7の手段〕
請求項7の可動部材は、マグネットとは別に、非磁性材料よりなるスライダーを備え、マグネットとスライダーが結合して設けられる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】各ホールICに対する各磁気トラックの着磁状態を示す説明図である。
【図2】磁極反転箇所における磁束密度の変化勾配の説明図である。
【図3】インヒビタスイッチに関わる自動変速機の要部分解斜視図である。
【図4】各選択レンジに対応した固定部材と可動部材の位置関係を示す説明図である。
【図5】各ホールICの出力に基づくレンジ判定回路の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図面を参照して[発明を実施するための形態]を説明する。
インヒビタスイッチ1は、
・固定支持される固定部材2と、
・この固定部材2に設けられ、磁極変化によってONとOFFが切り替わる第1〜第4磁気検出手段H1〜H4と、
・固定部材2に対してスライド移動する可動部材3と、
・この可動部材3に設けられ、第1〜第4磁気検出手段H1〜H4に磁束を付与するマグネット4とを具備する。
【0022】
マグネット4には、第1〜第4磁気検出手段H1〜H4のそれぞれに対応した第1〜第4磁気トラックS1〜S4が設けられている。第1〜第4磁気トラックS1〜S4には、第1〜第4磁気検出手段H1〜H4に「S極からN極」へ、あるいは「N極からS極」へ磁極変化を与える磁極反転箇所が設けられている。
【0023】
そして、固定部材2に対する可動部材3のスライド方向をx方向、マグネット4においてスライド方向xに対して直交する方向をy方向とした場合、
「複数存在する磁極反転箇所のうちの一部の磁極反転箇所」あるいは「全部の磁極反転箇所」が、磁極反転箇所のy方向の両側が「S極のみ」または「N極のみ」で挟まれるように設けられている。
即ち、マグネット4は、磁極反転箇所のy方向の両側を「S極のみ」または「N極のみ」で挟む逆極囲部αを備えるものである。
【0024】
また、インヒビタスイッチ1は、選択レンジと隣接する選択レンジとの各間に中間レンジを備える。
そして、
(i)各選択レンジでは、第1〜第4磁気検出手段H1〜H4のいずれか1つのみがONし、
(ii)各中間レンジでは、第1〜第4磁気検出手段H1〜H4のうちの2つが同時にONするように、
第1〜第4磁気トラックS1〜S4が設けられるとともに、逆極囲部αの数が最大になるように第1〜第4磁気トラックS1〜S4の並び順(配置)が設けられている。
【実施例】
【0025】
以下において本発明の具体的な一例(実施例)を、図面を参照して説明する。以下の実施例は、具体的な一例を開示するものであって、本発明が実施例に限定されないことは言うまでもない。
なお、以下の実施例において、上記[発明を実施するための形態]と同一符号は、同一機能物を示すものである。
【0026】
(インヒビタスイッチ1に関わる自動変速機の要部の説明)
車両用の自動変速機は、変速機ケース(変速用の遊星歯車等を収容するケース)の内部に変速制御用の油圧制御ユニットを搭載している。この油圧制御ユニットは、内部に油圧サーキット(多数の油路)が形成されたバルブボディ5を備え、このバルブボディ5には、選択レンジに応じた油路の切り替えを実施するマニュアルスプール弁6が組み付けられている。
【0027】
このマニュアルスプール弁6は、バルブボディ5に形成された挿入穴の内部に組入れられて軸方向(マニュアルスプール弁6の長手方向)に操作されるものであり、マニュアルスプール弁6にはバルブボディ5に組入れられた状態であっても、端部がバルブボディ5の外部に露出するバルブ頭部6aが設けられている。そして、このバルブ頭部6aに対してマニュアルスプール弁6の変位力(マニュアルスプール弁6を軸方向へ駆動する力)が付与される。
【0028】
具体的に、自動変速機の内部には、乗員によって選択される選択レンジに応じて回動変位する略扇形状を呈したディテントプレート7が設けられている。
このディテントプレート7は、マニュアルスプール弁6の移動方向に対して直交するコントロールロッド8(操作軸)を介して所定範囲内で回動自在に支持される。なお、ディテントプレート7の半径方向の先端(略扇形状の円弧部)には、複数の凹部7aが設けられており、この複数の凹部7aのうちのいずれかが図示しない係合部(バネ部材を介して支持される係合部)と嵌まり合うことで、切り替えられた選択レンジが保持されるようになっている。
【0029】
ここで、図3に示すコントロールロッド8は、ワイヤーやロッド等の機械的連結手段9を介して車室内のシフトレバーに連結するものであり、乗員によるシフトレバーの操作によってディテントプレート7が回動するものである。
【0030】
ディテントプレート7には、マニュアルスプール弁6を駆動するための駆動ピン11が設けられている。この駆動ピン11は、ディテントプレート7の板面に対して垂直に突出する円柱体であり、マニュアルスプール弁6の端部(バルブ頭部6a)に設けられた駆動溝12(マニュアルスプール弁6の移動方向に直交する溝)に係合する。
そして、ディテントプレート7がコントロールロッド8によって回動操作されると、駆動ピン11が円弧駆動されて、駆動ピン11に係合するマニュアルスプール弁6がx方向に沿って直線運動を行うものである。
【0031】
コントロールロッド8を図3の矢印A方向から見て反時計回り方向へ回動させると、ディテントプレート7を介して駆動ピン11がマニュアルスプール弁6をバルブボディ5の内部から引き出し、バルブボディ5内の油路がP→R→N→Dの順に切り替えられる。つまり、自動変速機の選択レンジがP→R→N→Dの順に切り替えられる。
逆方向にコントロールロッド8を回動させると、駆動ピン11がマニュアルスプール弁6をバルブボディ5の内部に押し入れ、バルブボディ5内の油路がD→N→R→Pの順に切り替えられる。つまり、自動変速機の選択レンジがD→N→R→Pの順に切り替えられる。
なお、Pはパーキングレンジ、Rはリバースレンジ、Nはニュートラルレンジ、Dはドライブレンジを示すものである。
【0032】
(インヒビタスイッチ1の説明)
自動変速機内に搭載される油圧制御ユニットには、マニュアルスプール弁6の変位から選択レンジの検出を行なうインヒビタスイッチ1が設けられている。
インヒビタスイッチ1は、バルブボディ5に固定された固定部材2と、マニュアルスプール弁6と一体に移動する可動部材3とを備えて構成される。
【0033】
具体的に、可動部材3は、着磁されて永久磁石として機能するマグネット4と、このマグネット4に結合されたスライダー13とから構成される。
マグネット4は、磁性体粉末(フェライト粉末等)が混入された矩形板状の樹脂マグネットであり、板厚方向に着磁されることで板面に直交する方向へ着磁極に応じた磁束を発生する。
【0034】
スライダー13は、マグネット4をモールド保持する耐油性に優れた非磁性の樹脂部材であり、マグネット4に結合された状態で矩形形状を呈する。
また、スライダー13は、マグネット4とは異なる面に、マニュアルスプール弁6と係合するための係合ピン14が設けられている。
この係合ピン14は、スライダー13の移動方向に対して直交する突出体(スライダー13の板面に対して垂直であるとは限らない)であり、マニュアルスプール弁6の端部(バルブ頭部6a)に設けられた係合溝15(マニュアルスプール弁6の移動方向に直交する溝)に係合する。
【0035】
固定部材2は、例えば耐油性に優れた非磁性の樹脂成形部品であり、x方向へ長手に伸びる長方形状を呈する矩形ベース板16と、この矩形ベース板16のx方向(矩形ベース板16の長手方向)に延びて配置される両辺(図3中の上辺と下辺)に設けられた一対のガイドレール17とを一体に設けたものである。
このガイドレール17は、可動部材3の平板面(主に着磁面)を、矩形ベース板16の平板面に対向させた状態で、可動部材3をx方向のみにスライド自在に支持するスライドガイドである。
【0036】
このように設けられることで、マニュアルスプール弁6が直線運動を行うことにより、可動部材3が固定部材2に対してx方向にスライド変位する。
具体的に、
マニュアルスプール弁6がPレンジの時、固定部材2に対する可動部材3の位置が図4(a)に示すPレンジ検出位置に配置され、
マニュアルスプール弁6がRレンジの時、固定部材2に対する可動部材3の位置が図4(b)に示すRレンジ検出位置に配置され、
マニュアルスプール弁6がNレンジの時、固定部材2に対する可動部材3の位置が図4(c)に示すNレンジ検出位置に配置され、
マニュアルスプール弁6がDレンジの時、固定部材2に対する可動部材3の位置が図4(d)に示すDレンジ検出位置に配置されるものである。
【0037】
マグネット4において固定部材2に対向する面(着磁面)には、可動部材3のスライド方向(x方向)に沿って並列に並ぶ4列の磁気トラック(図1中の一点鎖線に沿う磁気列:第1〜第4磁気トラックS1〜S4)が、マグネット4の全面(マグネット4における矩形ベース板16との対向面)において着磁されている。
一方、固定部材2の矩形ベース板16には、マグネット4から付与される磁極変化によってONとOFFが切り替わる4つのホールIC(第1〜第4ホールICH1〜H4:磁気検出手段に相当)が設けられている。
【0038】
ここで、この実施例に使用するホールIC(第1〜第4ホールICH1〜H4)は、付与される磁極と磁束密度に応じた信号を出力するホール素子(磁気検出素子)と、このホール素子の出力を増幅する増幅部と、この増幅部の出力を基準値と比較し、増幅部の出力が基準値を超えた際にONする比較部(コンパレータ)とで構成される周知なものである。
そして、この実施例に使用するホールIC(第1〜第4ホールICH1〜H4)は、図2に示すように、マグネット4側からS極の磁束が付与されることでONし、逆にマグネット4側からN極の磁束が付与されることでOFFするものである。
【0039】
4つのホールIC(第1〜第4ホールICH1〜H4)は、4つの磁気トラック(第1〜第4磁気トラックS1〜S4)のそれぞれに対応して固定部材2に配置されている。
即ち、第1磁気トラックS1の磁極を第1ホールICH1で検出し、第2磁気トラックS2の磁極を第2ホールICH2で検出し、第3磁気トラックS3の磁極を第3ホールICH3で検出し、第4磁気トラックS4の磁極を第4ホールICH4で検出するように固定部材2に配置されている。
具体的に、第1〜第4ホールICH1〜H4は、共通の基板18に搭載され、基板18を固定部材2に装着することで第1〜第4ホールICH1〜H4がy方向に並んだ状態で固定部材2に組み付けられる。
【0040】
一方、第1〜第4磁気トラックS1〜S4は、マグネット4がスライダー13にモールドされた後に着磁されたものであり、それぞれに対応する第1〜第4ホールICH1〜H4に対してS極またはN極の磁束を与える。
また、第1〜第4磁気トラックS1〜S4には、x方向の途中に、「S極からN極」または「N極からS極」の少なくとも一方へ磁極が変化する磁極反転箇所が設けられている。
【0041】
第1〜第4磁気トラックS1〜S4の着磁パターンは、上述した表1と同様、
・Pレンジにおいて第1ホールICH1のみをONさせ、
・PレンジとRレンジの間の中間レンジ(P−Rレンジ)において第1ホールICH1と第2ホールICH2の2つを同時にONさせ、
・Rレンジにおいて第2ホールICH2のみをONさせ、
・RレンジとNレンジの間の中間レンジ(R−Nレンジ)において第2ホールICH2と第3ホールICH3の2つを同時にONさせ、
・Nレンジにおいて第3ホールICH3のみをONさせ、
・NレンジとDレンジの間の中間レンジ(N−Dレンジ)において第3ホールICH3と第4ホールICH4の2つを同時にONさせ、
・Dレンジにおいて第4ホールICH4のみをONさせるものである。
【0042】
第1〜第4ホールICH1〜H4の出力信号(ON−OFF信号)は、図5に示すように、レンジ判定回路21に出力される。
レンジ判定回路21は、第1〜第4ホールICH1〜H4の出力信号に基づいて、マニュアルスプール弁6の選択レンジの判定を行なう手段であり、
・第1〜第4ホールICH1〜H4からON−OFF信号を受ける信号受け回路22と、
・第1〜第4ホールICH1〜H4のいずれがONしているかのパターンを認識するパターン認識23と、
・第1〜第4ホールICH1〜H4におけるONパターンからマニュアルスプール弁6の選択レンジの判定を行なうレンジ判定24と、
で構成される。
【0043】
具体的にレンジ判定24は、
・第1ホールICH1のみがONする時にPレンジと判定し、
・第1ホールICH1と第2ホールICH2の2つが同時にONする時にPレンジとRレンジの間の中間レンジ(P−Rレンジ)と判定し、
・第2ホールICH2のみがONする時にRレンジと判定し、
・第2ホールICH2と第3ホールICH3の2つが同時にONする時にRレンジとNレンジの間の中間レンジ(R−Nレンジ)と判定し、
・第3ホールICH3のみがONする時にNレンジと判定し、
・第3ホールICH3と第4ホールICH4の2つが同時にONする時にNレンジとDレンジの間の中間レンジ(N−Dレンジ)と判定し、
・第4ホールICH4のみがONする時にDレンジと判定するものである。
【0044】
ここで、第1〜第4磁気トラックS1〜S4には、上述したように、x方向において「S極からN極」、あるいは「N極からS極」へ磁極が反転する磁極反転箇所が設けられている。
インヒビタスイッチ1の検出精度を高めるには、各ホールIC(第1〜第4ホールICH1〜H4)のON−OFFの切替え精度を高めることが要求される。
この切替え精度を高めるには、磁極反転箇所における磁束密度の変化勾配を大きくすることが要求される。
【0045】
この要求に応えるために、この実施例のマグネット4には、磁極反転箇所のy方向の両側を「S極のみ」または「N極のみ」で挟む逆極囲部αを設けている。
具体的に、この実施例では、複数存在する磁極反転箇所のうち、逆極囲部αが設けられる磁極反転箇所の数が最大となるように、第1〜第4磁気トラックS1〜S4の配置順序を決定している。
【0046】
即ち、この実施例では、第1〜第4磁気トラックS1〜S4の配置パターンを、図1(b)の図示上から下方へ向かって、第3磁気トラックS3、第1磁気トラックS1、第4磁気トラックS4、第2磁気トラックS2の順に設けている。
また、第1〜第4ホールICH1〜H4の配置状態は、第1〜第4磁気トラックS1〜S4の配置パターンに対応している。即ち、第1〜第4ホールICH1〜H4は、図1(b)の図示上から下方へ向かって、第3ホールICH3、第1ホールICH1、第4ホールICH4、第2ホールICH2の順に配置されている。
【0047】
このように設けられることで、図1(b)に示すように、各磁気トラックのS極は、隣接する磁気トラックのN極に囲まれて配置される。即ち、各磁気トラックのS極は、隣接する磁気トラックのS極と接することなく分離して配置される。
これにより、この実施例のマグネット4には、複数存在する磁極反転箇所のうち、2つの磁極反転箇所において逆極囲部αが設けられる。
具体的に、第1磁気トラックS1の磁極反転箇所に逆極囲部αが設けられるとともに、第4磁気トラックS4の磁極反転箇所に逆極囲部αが設けられる。
【0048】
このことを詳細に説明する。
第1磁気トラックS1の磁極反転箇所は、マニュアルスプール弁6がP−Rレンジ(中間レンジ)からRレンジに変位する際にS極からN極の磁束を切り替えて第1ホールICH1に与えて、第1ホールICH1をONからOFFに切り替える箇所である。そして、第1〜第4磁気トラックS1〜S4を上記の順に配置したことにより、この第1磁気トラックS1においてS極からN極に磁極が反転する磁極反転箇所が、y方向においてN極で挟まれる。
【0049】
同様に、第4磁気トラックS4の磁極反転箇所は、マニュアルスプール弁6がN−Dレンジ(中間レンジ)からNレンジに変位する際にS極からN極の磁束を切り替えて第4ホールICH4に与えて、第4ホールICH4をONからOFFに切り替える箇所である。そして、第1〜第4磁気トラックS1〜S4を上記の順に配置したことにより、この第4磁気トラックS4においてS極からN極に磁極が反転する磁極反転箇所が、y方向においてN極で挟まれる。
【0050】
(実施例の効果1)
この実施例に示すインヒビタスイッチ1は、上述したように、磁極反転箇所に逆極囲部αを設けたことにより、図2の実線Aに示すように、ホールICに付与される磁束の変化幅を大きくすることができる。即ち、可動部材3のスライドに伴う磁極反転箇所の変位によってホールICに与えられる磁極が切り替わる際、y方向の両側に存在する逆極の磁束の影響をホールICが受けて、ホールICに付与される磁束の変化幅を大きくできる。
このように、磁極反転箇所の磁束の変化幅を大きくしたことで、磁極反転箇所における磁束密度の変化勾配を大きくすることができる。その結果、ホールICにおけるON−OFFのヒステリシス幅ΔS’を小さくすることができ、選択レンジの検出精度を高めることができる。
【0051】
(実施例の効果2)
この実施例に示すインヒビタスイッチ1は、選択レンジから隣接する選択レンジに切り替わる際に、第1〜第4ホールICH1〜H4のうちの1つのみが切り替わるグレーコード(交番2進符号)を採用している。
このようにグレーコードを採用することにより、第1〜第4ホールICH1〜H4のいずれかが故障しても、インヒビタスイッチ1によって選択レンジが誤認識される不具合を回避することができる。
【0052】
(実施例の効果3)
この実施例に示すインヒビタスイッチ1は、選択レンジ(P、R、N、Dのいずれかのレンジ)と隣接する選択レンジとの間に中間レンジ(P−R、R−N、N−Dのいずれかのレンジ)を設け、各選択レンジでは1つのホールICのみがONし、各中間レンジでは2つのホールICが同時にONするように設けている。
このように選択レンジから隣接する選択レンジに切り替わる途中(中間レンジ)で2つのホールICが同時にONするか否かで、第1〜第4ホールICH1〜H4の故障判定を実施することが可能になる。
【0053】
(実施例の効果4)
この実施例に示すインヒビタスイッチ1は、上述したように、逆極囲部αの数が最大になるように第1〜第4磁気トラックS1〜S4を配置している。
逆極囲部αが多く設けられることで、検出精度が高められる箇所が増えることになり、結果的に選択レンジの検出精度を高めることができる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
上記の実施例では、マニュアルスプール弁6の位置をインヒビタスイッチ1で検出する例を示した。即ち、上記の実施例におけるx方向は、マニュアルスプール弁6の移動方向であり、直線方向であった。
これに対し、本発明は、x方向が直線方向に限定されるものではなく、x方向が円弧方向であっても良い。具体的な一例として、ディテントプレート7にマグネット4を設けて、ディテントプレート7の回動変位から選択レンジを検出するように設けても良い。
【0055】
上記の実施例では、マグネット4に第1〜第4磁気トラックS1〜S4を設ける例を示したが、磁気トラックの数は限定されるものではなく、磁気トラックの数は3つであっても良いし、5つ以上であっても良い。
【符号の説明】
【0056】
1 インヒビタスイッチ
2 固定部材
3 可動部材
4 マグネット
13 スライダー
α 逆極囲部
H1〜H4 ホールIC(磁気検出手段)
S1〜S4 磁気トラック

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定支持される固定部材(2)と、
この固定部材(2)に設けられ、磁極変化によってオンとオフが切り替わる磁気検出手段(H1〜H4)と、
前記固定部材(2)に対してスライド移動する可動部材(3)と、
この可動部材(3)に設けられ、前記磁気検出手段(H1〜H4)にS極からN極へ、あるいはN極からS極へ磁極変化を与える磁極反転箇所を備えるマグネット(4)とを具備し、
前記固定部材(2)に対する前記可動部材(3)のスライド方向をx方向、
前記マグネット(4)において前記スライド方向xに対して直交する方向をy方向とした場合、
前記マグネット(4)は、前記磁極反転箇所の前記y方向の両側をS極のみまたはN極のみで挟む逆極囲部(α)を備えることを特徴とするインヒビタスイッチ。
【請求項2】
請求項1に記載のインヒビタスイッチ(1)において、
前記マグネット(4)は、前記x方向に沿って並列に並ぶ3列以上の磁気トラック(S1〜S4)を備え、
前記磁気検出手段(H1〜H4)は、3列以上の前記磁気トラック(S1〜S4)に対応して3つ以上設けられ、
3列以上の前記磁気トラック(S1〜S4)は、選択レンジから隣接する選択レンジに切り替わる際に、3つ以上の前記磁気検出手段(H1〜H4)のうちの1つのみを切り替わるグレーコードに設定されることを特徴とするインヒビタスイッチ。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のインヒビタスイッチ(1)において、
このインヒビタスイッチ(1)は、選択レンジと隣接する選択レンジとの間に中間レンジを有し、
前記マグネット(4)は、前記x方向に沿って並列に並ぶ3列以上の磁気トラック(S1〜S4)を備え、
前記磁気検出手段(H1〜H4)は、3列以上の前記磁気トラック(S1〜S4)に対応して3つ以上設けられ、
3列以上の前記磁気トラック(S1〜S4)は、前記中間レンジにおいて3つ以上の前記磁気検出手段(H1〜H4)のうちの2つを同時にオンさせることを特徴とするインヒビタスイッチ。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれかに記載のインヒビタスイッチ(1)において、
前記マグネット(4)は、前記x方向に沿って並列に並ぶ3列以上の磁気トラック(S1〜S4)を備え、
前記磁気検出手段(H1〜H4)は、3列以上の前記磁気トラック(S1〜S4)に対応して3つ以上設けられ、
前記逆極囲部(α)の数が最大になるように前記磁気トラック(S1〜S4)が配置されることを特徴とするインヒビタスイッチ。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれかに記載のインヒビタスイッチ(1)において、
前記x方向は、直線方向であることを特徴とするインヒビタスイッチ。
【請求項6】
請求項1〜請求項4のいずれかに記載のインヒビタスイッチ(1)において、
前記x方向は、円弧方向であることを特徴とするインヒビタスイッチ。
【請求項7】
請求項1〜請求項6のいずれかに記載のインヒビタスイッチ(1)において、
前記可動部材(3)は、前記マグネット(4)とは別に、非磁性材料よりなるスライダー(13)を備え、
前記マグネット(4)と前記スライダー(13)が結合して設けられることを特徴とするインヒビタスイッチ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−241787(P2012−241787A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−111784(P2011−111784)
【出願日】平成23年5月18日(2011.5.18)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】