説明

インビトロ細胞培養物を保存および/または輸送する方法

【課題】インビトロの二次元細胞培養物を保存および/または輸送する方法の提供。
【解決手段】a)非対称支持体に固定された細胞培養物を培地中1〜5%の濃度でゼラチン溶液で被覆し、b)支持体へ加えられたゼラチンを15〜25℃の温度で固化させ、およびc)15〜25℃の温度で96時間以内の期間で細胞培養物を保存および/または輸送することからなる。上記方法に従いインビトロの二次元細胞培養物を保存および/または輸送するために用いられるキットに関し、該キットは(i)非対称支持体、および(ii)培地中濃度1〜5%のゼラチン溶液を含んでなる。

【発明の詳細な説明】
【発明の背景】
【0001】
発明の分野
本発明は、インビトロ二次元細胞培養物を保存および/または輸送する方法、並びに該培養物を保存および/または輸送するためのキットを得ることに関する。
【0002】
背景技術
細胞培養物は、均一でもまたはそうでなくても(同時培養物)、生体内で生じるある遺伝、生化学、代謝または生理学的プロセスに有用なモデルとなりうる。それらの使用が容易であれば、動物で最終実験またはヒトで臨床試験を行う前に、多数の条件を分析しうるのである。インビトロモデルは、新たな治療標的を検証し、高性能系で種を選択し、新規分子の作用メカニズムを解明し、一般的に、生物医学、生物工学または化粧品の研究を行うための手段である。
【0003】
一般的に、細胞培養物に基づくすべてのモデルは限られた有効寿命を有している。培養細胞は様々な分化段階を経由し、それらを適切なモデルにしうる性質を維持する上で継続操作を要する。例えば、Caco‐2細胞の集密培養物に基づく胃腸バリアモデルは、腸粘膜の性質の多くを再現しうる分化の状態に到達するまで21日かかり(Le Ferrec et al.,ATLA 29:649-668,1999)、その使用のためには約3〜5日の期間が残されるにすぎない。肝細胞のモデルとして用いられるBC2細胞は、それらが良いモデルになれる性質を獲得するまでに、3〜4週間の分化を要し、肝細胞と同様にそれらが実験処理に応答する上でその後の培養条件が重要となる(MJ Gomez Lechon et al.,Eur.J.Biochem.268:1448-2001)。集密化するまで増殖されたHuvec臍帯細胞は、血管に相当する構造を形成するように適切な実験条件下で誘導できるため、それらは血管形成の良いモデルとなるが(Vailhe et al.,Lab.Invest.81:439-452,2001)、それにもかかわらず実験前の細胞分裂回数および用いられる刺激は適切な応答を得る上で重要である。
【0004】
様々なインビトロ細胞モデルの操作および作製におけるこれらの制限は、時折使うユーザーのそれら実施を難しくさせ、一般的にそれらの最終フォーマットでのモデルのマーケティングを制限してしまう。複合モデルであって、細胞が生物の自然バリアを模造しなければならず(Rubas et al.,J.Pharma.Sci.,85:165-169,1996;Walter et al.,J.Pharma.Sci.,85:1070-1076;Irvine et al.,J.Pharma.Sci.,88:28:28-33,1999;Gaillard et al.,Eur.J.of Pharma.Sci.,12:215-222,2001)または2区画に分けたもしくは系成分の分極化に強く依存した非対称支持体で培養が行われねばならない複合モデルでは、その問題はより悪化する。これらの場合に、モデルの複雑さおよびその時間制限に、我々は機械的な問題を加えることができ、これは衝撃または振盪が系を無効にすることを意味している。研究者らは様々なモデル成分(支持体、培地、添加物および細胞系)にアクセスし、その後多少なりとも面倒なプロセスを用いて研究所でそれらを組み合わせねばならない。最善策として、最終研究者はすぐに使える細胞を受け取ってもよいが、制限が加わり、それらの受領後2日以内に実験を行うことが強制されることをこれは事実上意味する。そして、それらは、例えばIn Vitro Technologiesのような、マーケティング会社によるモデルの流通に大きな制限を課している。文献EP702081は三次元組織の保存および輸送方法を開示しており、これは2タイプのスポンジに固定された該三次元組織をゼラチン溶液に入れることからなり、これを冷却してゲルとし、輸送および保存を容易にしている。
【0005】
したがって、一方で研究者がその使用に際して操作に余裕を持ち、他方で供給会社が国際流通上妥当なロジスティック範囲内で配送時間を考えられるように、すぐに使用できる組織化された二次元細胞培養物に基づくモデルを、それらの機能性を保ったままで供給しうる方法を提供する必要性が、現状では存在しているのである。
【0006】
本発明の目的は、現状の前記必要性を解決する、インビトロの組織化された二次元細胞培養物(organized two-dimensional cell culture)を保存および輸送する方法を提供することからなる。
【発明の概要】
【0007】
その主態様によれば、本発明は、インビトロの組織化された細胞培養物を保存および/または輸送する方法であって、
a)非対称支持体(asymmetric support)に固定された、組織化された細胞培養物を培地中1〜5%の濃度のゼラチン溶液で被覆し、該細胞培養物が細胞を適切な機能状態で含んでなり、
b)支持体へ加えられたゼラチンを15〜25℃の温度で固化させ、および
c)15〜25℃の温度で96時間以内の期間で細胞培養物を保存および/または輸送すること
を含んでなる方法を提供する。
【0008】
第2の態様によれば、本出願はまた、本発明の方法によるインビトロの組織化された二次元細胞培養物を保存および/または輸送するために用いられるキットであって、
(i)非対称支持体、および
(ii)培地中濃度1〜5%のゼラチン溶液
を含んでなる、キットを提供する。
【発明の具体的説明】
【0009】
その主態様によれば、本発明は、インビトロの組織化された二次元細胞培養物を保存および/または輸送する方法であって、
a)非対称支持体に固定された、組織化された細胞培養物を培地中1〜5%の濃度のゼラチン溶液で被覆し、該細胞培養物が細胞を適切な機能状態で含んでなり、
b)支持体へ加えられたゼラチンを15〜25℃の温度で固化させ、および
c)15〜25℃の温度で96時間以内の期間で細胞培養物を保存および/または輸送すること
を含んでなる方法を提供する。
【0010】
特別な態様によれば、本発明による方法は、
d)ゼラチンを液化し、
e)ゼラチンを除去し、かつ培地によってその入れ替えをし、および
f)培養物をインキュベートすること
をさらに含んでなる。
【0011】
本発明による方法によれば、細胞培養物またはモデルの保存および/または輸送に際して、細胞の生理学的性質を維持することができ、さらに細胞モデルの本質的機械的性質が保護される。
【0012】
本発明に関し、非対称支持体(asymmetric support)とは半透過性膜で物理的に分けられた2つの区画を含有する容器のことである、と理解されており、そこに培養細胞が入れられる。好ましい非対称支持体として、本発明ではトランスウェルタイプ(transwell-type)支持体を用いる。
【0013】
本発明による二次元細胞培養物は、例えば、コラーゲン支持体上で集密化するまで増殖されたHuvec細胞、分化Caco‐2細胞の集密培養物、または線維芽細胞、腫瘍細胞、肝臓細胞、内皮細胞などのような、単層で増殖しうるいずれか他のタイプの細胞のような、組織化された培養物である。したがって、腫瘍由来腸上皮系の例としてはCaco‐2、TC7、HT29 M6である。腎上皮系の例としてはMDCKである。一次ヒト皮膚角化細胞の例としてはHEKである。最後に、一次内皮系または培養物の例はHUVEC、HMEC‐1、BBEC、HAECおよびBAECである。好ましくは、本発明の組織化された二次元細胞培養物は分化し、分極化し、かつ機能的に活性である。
【0014】
本発明によれば、ゼラチン溶液は、溶媒として作用する同培地にゼラチンを溶解することにより調製される。溶媒としての培地の使用のおかげで、本発明による方法に従って培地保存および/または輸送された培養物は、培養物の機能性が保存されることおよび即時に使用できることを、ユーザーに保証している。好ましくは、用いられるゼラチン溶液は2.5重量%である。
【0015】
本発明による方法では、例えばA型豚皮ゼラチンのような市販ゼラチンが用いうる。同様に、例えばDMEM(1g/Lグルコース)のような市販培地が用いうる。ゼラチン溶液を培養物へ適用する最長で7日前に、それを調製しておくことが“勧められ”、もしそうでなければ、本発明の正確な機能にとって必要な、その“保存”性の一部を失うことになる。
【0016】
培地中のゼラチン溶液は、牛胎児血清(10%FBS)およびペニシリン/ストレプトマイシン/L‐グルタミン(完全培地)で補充してもよい。
【0017】
細胞培養物は下記手法により調製される。最初に、細胞を接種する前に以下の工程を含む被覆を行う:a)対応サイズのウェルにインサート(insert)またはトランスウェル(transwell)を入れ、2)無血清のDMEM培地(1g/Lグルコース)(または他の市販培地)中の各インサートのフィルター(半透過性膜)の上面にコラーゲン溶液(または細胞タイプに応じた、他の細胞外マトリックス成分)を塗布し、および3)好ましくは、細胞培養器(湿度90%、5%CO)で37℃にする。インサートを用いる前に、過剰の被覆溶液が上面から吸引され、15〜30分間細胞培養器中に置かれ、各細胞タイプおよび各アッセイタイプ毎に決定された密度に応じた細胞が接種される。培養物は系の機能状態の範囲内で必要な時間にわたり維持され、好ましくは必要であれば48〜72時間毎に培地を変える。用いられるインサートまたはトランスウェルの特徴(サイズ、孔径、物質)は、本発明が適用される細胞タイプおよびアッセイにより特に決められる。培養に用いられる細胞タイプおよびアッセイタイプに応じて、何日かが経過した後、細胞系の機能状態を調べるコントロールが行われる。例えば、バリアモデルに用いられる細胞系の場合には、TEER(経上皮電気抵抗)および傍細胞透過測定が用いられる。浸潤/走化性アッセイに用いられる細胞系の場合には、フィルターの下部へ移動した細胞を蛍光色素(例えば、カルセイン)で標識し、次いで蛍光法で定量することにより、走化性/浸潤能が調べられる。
【0018】
本発明によれば、細胞培養物は培地中1〜5%の濃度のゼラチン溶液で被覆される。一般的に、既に機能性の細胞系は固定されており、その系を入手する際ユーザーはアッセイを行う上で時間制限を有しているため、細胞系が適切な機能状態にちょうど達したことがチェックされた正にその瞬間、ゼラチンは適用される。経過した培養時間は“寿命”と称される。即時に使用できる細胞系への本発明の適用について、以下に述べる。細胞培養物の寿命、即ちゼラチンが適用された培養物の寿命は、培養細胞タイプ(線維芽細胞、腫瘍系など)のみならず、その機能面の用途(バリア透過アッセイ、付着アッセイ、走化性アッセイ、浸潤アッセイ)にも依存する。その決定は実験実施上の問題である。そのため、トランスウェルタイプ支持体に接種された線維芽細胞およびHUVEC細胞の場合には、これらの細胞が走化性アッセイで機能的に活性な条件下、寿命は細胞を接種した後30分〜1時間である。浸潤アッセイの場合、寿命は1〜24時間である。対照的に、トランスウェルに接種されたCaco‐2細胞の場合には、細胞を接種し、それらがバリアとして既に機能性になり、ゼラチンが適用されてから、寿命は13日間であり、25日目の増殖までユーザーはバリア透過試験を行える。
【0019】
本発明に関し、適切な機能状態とは、各アッセイにおいて定められた機能を行うことが可能なときに、生細胞培養物が存在している状態である、と理解される。
【0020】
ゼラチンを培養物へ適用するためには、まず、ゼラチン溶液を完全に液化させ、培地温度、通常では37℃に平衡化させることが必要である。次いで、培地を各インサートの2区画から除去し、各インサートの2区画において培養物が培地で洗浄される。次いで、2.5%液体ゼラチンを上部区画および下部区画に塗布し、フローフード(flow hood)中室温(20〜25)℃で2〜3時間かけて固化させる。ゼラチンが固化したら、プレートがパラフィルムで密封され、それらが用いられる(最長4日後)までそれらは室温で保たれる。
【0021】
固定培養物の使用を必要とする場合、ゼラチンの完全液化まで、好ましくは37℃、湿度90%および4%COで3〜4時間かけてゼラチンを完全に液化するまで、セルインキュベーター内で固体ゼラチン状態でプレートをインキュベートする。次いで、培養物を両区画から吸引によって取得し、培養物は37℃で平衡化培地により洗浄される。次いで、問題の細胞用の特定培地を適用し、その使用まで、それらを好ましくは37℃、湿度90%および5%COでインキュベートする。
【0022】
第二の態様によれば、本発明は、本発明による方法に従いインビトロの組織化された二次元細胞培養物を保存および/または輸送するためのキットを提供し、該キットは、
(i)非対称支持体、および
(ii)培地中濃度1〜5%のゼラチン溶液
を含んでなる。
具体的態様によれば、本発明によるキットは非対称支持体としてトランスウェルタイプ支持体を用いる。
下記例は本発明を説明するためにある。
【実施例】
【0023】
例1:インビトロCaco‐2腸バリアモデルを保存および/または輸送する方法
1‐ゼラチン調製
使用濃度(溶解しうる最大濃度:10%)で直接的に、50℃でDMEM培地(1g/Lグルコース)に溶解された、A型豚皮ゼラチンを用いる。本例では、粉末ゼラチン2.5gを秤量し、DMEM培地(1g/Lグルコース)100mLで溶解させる。0.22μm孔フィルター濾過で直ちに(“加熱”しながら)滅菌する。次いで、それを牛胎児血清(10%FBS)およびペニシリン/ストレプトマイシン/L‐グルタミン(完全培地)で補充する。最後に、それをその使用まで4℃で保存する。
【0024】
2‐分極Caco‐2培養物の調製
被覆:細胞を接種する12時間前、インサート(6.5mm径トランスウェル)を対応サイズのウェルへ入れ、各インサートのポリカーボネートフィルター(0.4μm孔径半透膜)の上面に無血清のI型ラット尾コラーゲン溶液(1g/Lグルコース)を塗布し、それを細胞培養器(湿度90%、5%CO)中で37℃にする。その使用前に、過剰の被覆溶液を上面から吸引し、それを培養器に15〜30分間入れ、Caco‐2細胞を5×10細胞/cmの密度で接種する。培養物を13日間維持し、48〜72時間毎に培地を変え、上部区画に完全培地300μLおよび下部区画に900μLを入れる。13日目に、TEER(経上皮電気抵抗)および傍細胞透過測定により、Caco‐2単層のバリア状態コントロール(分極化)を行う。これらのコントロールから、ゼラチンで被覆前に、バリアとしての細胞系の機能状態を調べられる。
3‐ゼラチン適用
完全に液化し、培養温度(37℃)で平衡化するまで、それを37℃で培養浴に入れる。次いで、培地を各インサートの2区画から除去し、培養物を各インサートの2区画において培地で洗浄する。次いで、2.5%液体ゼラチン300μLを上部区画におよび900μLを下部区画に適用し、それをフローフード中室温(20〜25)℃で2〜3時間かけて固化させる。ゼラチンが固化したら、プレートをパラフィルムで密封し、それらが用いられる(最長4日後)までそれらを室温で保つ。
【0025】
4‐ゼラチン除去
固定培養物の使用を必要とするときには、好ましくは37℃、湿度90%および5%COで3〜4時間かけてゼラチンが完全に液化するまで、セルインキュベーター内で固体ゼラチン状態でプレートをインキュベートする。次いで、それを両区画から吸引により除去し、培養物を37℃で平衡化培地により洗浄する。次いで、Caco‐2細胞用の特定培地を適用し、その使用(最短24時間;最長9日後)まで、細胞を好ましくは37℃、湿度90%/5%COでインキュベートし、48〜72時間毎に培地を変える。
【0026】
【表1】

【0027】
表1で示されるように、ゼラチン中で5および7日間の固定後に得られたTEER値には、それを適用する前に得られたコントロール値と比較して、有意の低下が観察される。この結果は、本発明で開示されたゼラチン中の保存方法が:1)機能バリア状態に影響を与えることなく、室温にて4日以内はCaco‐2系を固定すること、および2)ゼラチンが除去されたら、バリア透過アッセイを行うために機能状態とした後9日以内は維持しうることを示している。
【0028】
例2:ゼラチン適用前における培養物の特徴付けおよび培養物寿命の測定
表IIは、単層を形成するトランスウェルタイプ支持体で培養でき、ゼラチン中バリア状態で保存および輸送しうる、一部の細胞タイプ、ひいては本輸送方法が適用しうる培養物のいくつかを示している。
‐Caco‐2、TC7、HT29 M6:腫瘍由来の腸上皮系
‐MDCK:腎上皮系
‐HEK:一次ヒト皮膚角化細胞
‐HUVEC、HMEC‐1、BBEC、HAEC、BAEC:一次内皮細胞培養物または系
【0029】
【表2】

【0030】
表IIで示される培養時間は、分極単層を得る上で最良の時間間隔に関し、それを超えると、それは細胞バリアとして最良の機能性を失ってしまう。
【0031】
機能バリア状態を保存して、アッセイを行う時間をユーザーに残せる、これら細胞系の寿命(ゼラチンが適用される培養物のモーメント)の測定が、TEERおよび傍細胞透過測定を用いて実験的に行われた。
【0032】
適切な機能状態に達した時点で、ゼラチンを培養物に適用する。Caco‐2細胞バリア透過試験の場合は、ゼラチンを好ましくは13日目(細胞が機能性分極単層またはバリアを形成し始めるほぼ最短の時間)に適用する。それらは室温で約17日目までゼラチン中で保存でき、それらの機能バリア性を失うことなく、約25日目まで用いられる。
【0033】
各種細胞タイプ(線維芽細胞、腫瘍系)の寿命、または表IIで記載されているが、バリア透過アッセイ(付着アッセイ、走化性アッセイ、浸潤アッセイ)の異なる機能面で規定されるものは、異なるゼラチン適用時間を示す。トランスウェルタイプ支持体に接種された線維芽細胞およびHUVEC細胞の場合には、これらの細胞が走化性アッセイで機能的に活性な条件下において、寿命は細胞の接種後30分〜1時間である。浸潤アッセイの場合、寿命は1〜24時間である。
【0034】
例3:走化性/浸潤アッセイ用に即時に使用できる細胞系を保存および輸送する方法
1‐ゼラチン調製
使用濃度(溶解しうる最大濃度:10%)で直接的に、用いられる細胞タイプに対応した培地(例えば、線維芽細胞の場合DMEM(1g/Lグルコース)またはHUVEC内皮細胞の場合EBM培地)に50℃で溶解した、A型豚皮ゼラチンを用いる。本例では、粉末ゼラチン2.5gを秤量し、それをDMEM培地(1g/Lグルコース)100mLで溶解させる。保存および輸送中の細胞生存率を高めるために、25mM HEPESをコンディショニング培地へ加える。それを0.22μm孔フィルター濾過で直ちに(“加熱”しながら)滅菌する。次いで、それを牛胎児血清(細胞タイプに応じたパーセンテージ)およびペニシリン/ストレプトマイシン/L‐グルタミン(完全培地)で補充する。最後に、それをその使用まで4℃で保存する。
【0035】
2‐非対称支持体における細胞培養物の調製
被覆に際して、細胞を接種する12時間前、インサート(3または8μm径のFluoroblock系)を対応サイズのウェルへ入れ、PBSで希釈された対応マトリックス(コラーゲン、フィブロネクチン、ビトロネクチン)の溶液を各インサートの繊維の上面および下面へ入れ、それを細胞培養器(湿度90%、5%CO)中で37℃にする。その使用前に、過剰の被覆溶液を上面から吸引し、それを培養器に15〜30分間入れ、細胞を培養タイプに応じた密度(5×10〜1×10細胞/cm)で接種する。非対称支持体をマトリックスで被覆しないならば、細胞をフィルターに直接接種する。このタイプのアッセイでは、細胞接種および付着時間(30分〜1時間)中に、Fluoroblock系の下部区画に培地を入れる必要はない。対応試験を接種細胞の一部で行い、室温でそれらを維持するために残部へゼラチンを適用する。これらのコントロールから細胞系の機能状態を調べられる。
【0036】
3‐ゼラチン適用
ゼラチン溶液を完全に液化し、培養温度(37℃)で平衡化するまで、37℃で培養浴に入れる。次いで、培地を各インサートの上部区画から除去し、それを(本例では無血清)培地で洗浄する。次いで、2.5%液体ゼラチン300μLを上部区画に適用し、それをフローフード中で2〜3時間かけて固化させる。次いで、700μLを下部区画に適用し、フローフード中で固化したら、それを室温(20〜25)℃で保存する。ゼラチンが固化したら、プレートをパラフィルムで密封し、それらが用いられる(最長4日後)まで室温で保つ。
【0037】
4‐ゼラチン除去
固定培養物の使用が必要なときは、ゼラチンを完全に液化するまで、セルインキュベーター内37℃、湿度90%および5%COで3〜4時間かけて、固体ゼラチン状態でプレートをインキュベートする。次いで、それを両区画から吸引により除去し、培養物を37℃で平衡化した無血清培地で洗浄する。この時点で、走化性/浸潤アッセイを行うための培地を調製する。
【0038】
走化性アッセイ(24h走化性)では、コンディショニング培地中で保持されなかった(無コンディショニング培地)HUVEC細胞の応答を、コンディショニング培地で72時間保たれたHUVEC細胞の応答と比較する。両ケースとも、細胞を完全EBM培地(成長因子および10%牛胎児血清含有)で刺激した(コントロール+)。無刺激細胞(コントロール−)は下部での補充なしにEBMで維持した。
【0039】
図1で示されるように、ゼラチン中で維持された細胞は走化性刺激に応答しうる(図中コントロール+)。この結果は、本発明で開示されたゼラチン中の保存方法が:1)その機能状態に影響を与えることなく、室温で3日までHUVEC系を固定できること、および2)ゼラチンが除去されると、走化性試験が行えることを示している。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】蛍光単位で測定された、無コンディショニング培地(ゼラチン含有培地で保持されなかった細胞)およびコンディショニング培地(ゼラチン含有培地で維持されてから72時間後)における、刺激されたまたはされなかった、HUVEC内皮細胞走化性アッセイにおける応答。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インビトロの組織化された二次元細胞培養物を保存および/または輸送する方法であって、
a)非対称支持体に固定された、組織化された細胞培養物を培地中1〜5%の濃度のゼラチン溶液で被覆し、前記細胞培養物が細胞を適切な機能状態で含んでなり、
b)前記支持体へ加えられたゼラチンを15〜25℃の温度で固化させ、および
c)15〜25℃の温度で96時間以内の期間で細胞培養物を保存および/または輸送すること
を含んでなる、方法。
【請求項2】
a)前記ゼラチンを液化し、
b)該ゼラチンを除去し、かつ培地によってその入れ替えをし、および
c)培養物をインキュベートすること
をさらに含んでなる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記組織化された二次元細胞培養物が、分化し、分極化し、かつ機能的に活性であることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記細胞培養物が、コラーゲン支持体上で集密化するまで増殖したHuvec細胞および分化Caco‐2細胞、または線維芽細胞、腫瘍細胞、肝臓細胞、内皮細胞などのような、単層で増殖しうるいずれか他のタイプの細胞から選択されることを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
2.5%ゼラチン溶液が用いられることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記ゼラチンを、15〜25℃の温度で30分〜12時間かけて固化させることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
非対称支持体がトランスウェルタイプ支持体であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記ゼラチンの液化を、35〜40℃で1〜4時間かけて行うことを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記ゼラチンの液化を37℃で行うことを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記後続の培養物のインキュベートを、35〜40℃で1時間〜8日間にわたり行うことを特徴とする、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記後続の培養物のインキュベートを37℃で行うことを特徴とする、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか一項のインビトロの組織化された二次元細胞培養物を保存および/または輸送するためのキットであって、
(i)非対称支持体、および
(ii)培地中濃度1〜5%のゼラチン溶液
を含んでなる、キット。
【請求項13】
前記非対称支持体がトランスウェルタイプ支持体であることを特徴とする、請求項12に記載のキット。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2011−120600(P2011−120600A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−22733(P2011−22733)
【出願日】平成23年2月4日(2011.2.4)
【分割の表示】特願2006−518239(P2006−518239)の分割
【原出願日】平成16年3月29日(2004.3.29)
【出願人】(504355789)アドバンスド、イン、ビートロウ、セル、テクノロジーズ、ソシエダッド、リミターダ (9)
【氏名又は名称原語表記】ADVANCED IN VITRO CELL TECHNOLOGIES, S.L.
【Fターム(参考)】