説明

インビボイメージング剤としてのフルマゼニルの[18F]標識類似体

本発明は、GABAA受容体のインビボイメージングのために有用な放射性フッ素化化合物を提供する。本発明によればまた、本発明の放射性フッ素化化合物の合成方法、特に自動化合成方法も提供される。本発明のさらに別の態様は、本発明の自動化合成方法を実施するのに適したカセットである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インビボイメージング、特に中枢神経系(CNS)のγ−アミノ酪酸(GABA)受容体のインビボイメージングに関する。本発明は、ベンゾジアゼピンアンタゴニストであるフルマゼニルに基づく新規な放射性フッ素化化合物を提供する。
【背景技術】
【0002】
γ−アミノ酪酸(GABA)は、ヒトの脳における最も重要な抑制性神経伝達物質である。GABA受容体は膜貫通受容体であり、2つの主なタイプ、即ちGABAA受容体及びGABAB受容体に分けられる。GABAA受容体は、これまで薬理学的開発の主要な対象となってきた。多くのGABAA受容体サブタイプが発見され、これらのサブタイプに対して選択的な新規化学構造が開発されている。GABAA受容体が正常に活性化されれば、塩化物イオンがその細孔を選択的に通過する。この塩化物イオンチャンネルゲーティングは、膜電位を静止レベル付近に安定化することにより、ニューロンに対して一般に抑制的である。
【0003】
GABAA受容体神経伝達の欠陥は、GABAA受容体の減少或いは例えばGABAA受容体遺伝子の遺伝的突然変異、外傷性脳損傷又は薬学的傷害に原因するGABAA受容体の機能欠陥によって引き起こされることがあり、てんかん、不安障害、パーキンソン病及び慢性疼痛をはじめとする若干の神経学的及び精神医学的障害に関係している。したがって、GABAA受容体に対して選択的な放射性リガンドの開発は、生きているヒト患者、特にGABAA受容体神経伝達の欠陥に関連する障害に罹患している患者における脳イメージング検査に関して価値がある。
【0004】
(フルマゼピルとしても知られる)フルマゼニル(コード名Ro 15−1788、商品名Anexate、Lanexat、Mazicon、Romazicon)はイミダゾ[1,5−a][1,4]ベンゾジアゼピンであって、これはCNSにおけるGABAA受容体の中和性アロステリックモジュレーターである(Johnston 1996 Pharmacol Ther;69(3):173−198)。フルマゼニルの化学構造は次の通りである。
【0005】
【化1】

【0006】
これまで、フルマゼニルの最も普通の用途は、ベンゾジアゼピンの過量に対する解毒剤としてのものであった。これは、フルマゼニルがGABAA受容体のベンゾジアゼピン結合部位における競合阻害によってベンゾジアゼピンの効果を逆転させるからである。その上、フルマゼニルはアゴニスト活性をほとんど又は全く有しないので、その放射性標識バージョンが陽電子放出断層撮影(PET)ラジオトレーサーとして開発されてきた。
【0007】
当技術分野で知られているフルマゼニルの放射性フッ素化誘導体は、[18F]フルマゼニル([18F]FMZ)、[18F]フルオロフルマゼニル([18F]FFMZ)及び[18F]フルオロエチルフルマゼニル([18F]FEFMZ)である。
【0008】
18F]FMZは、ニトロ前駆体化合物の直接放射性フッ素化によって18Fが導入されている点を除き、フルマゼニルと同じ化学式を有している。
【0009】
【化2】

【0010】
18F]FMZは、高い親和性(Ki=約0.5nM)及び選択性をもってGABAA受容体に結合する。Ryzhikov et al(2005 Nuc Med Biol;32:109−116)は、ニトロ前駆体化合物からの[18F]FMZの製法を記載している。しかし、本発明者らによれば、この合成法は2.7〜7.7%という最適と言えない合成終了時(EOS)収率を有することがわかった(本明細書中に比較例として記載されている)。さらに、Ryzhikov et alによって記載された合成法は、すべての放射合成プラットホーム上における自動化にはなじまない高い反応温度を使用する。これらのEOS収率は、Odano et al(Neuroimage 2009 45(3)891−902)によって報告されたものと同等である。
【0011】
18F]FFMZは、カルボン酸前駆体化合物のフルオロエチル化によって18Fが導入されているフルマゼニルの18F標識誘導体である(Mitterhauser et al 2004 Nuc Med Biol;31:291−295)。
【0012】
【化3】

【0013】
18F]FFMZは、高い脳取込み及びGABAA受容体に対する高い選択的結合を有するものとして報告されている。しかし、[18F]FFMZの合成法は低いEOS収率を与える。
【0014】
18F]FEFMZは、ワンポット合成において、[18F]フルオロエチルトシレートを用いたデスメチル前駆体化合物のN−アルキル化によって得ることができる(Moerlein and Perlmutter 1992 Eur J Pharmacol;218:109−115)。
【0015】
【化4】

【0016】
この[18F]FEFMZ合成法は、高い収率を与えるものとして報告されている。しかし、インビボ投与後におけるこの化合物のクリアランスは、インビボイメージングを可能にするには速すぎる。
【0017】
本発明は、インビボでGABAA受容体を検査するのに適した代わりの放射性フッ素化化合物であって、先行技術で知られたものに比べて改善された性質を有する放射性フッ素化化合物を提供しようとするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
米国特許第4,316,839号明細書
【発明の概要】
【0019】
本発明は、GABAA受容体のインビボイメージングのために有用な新規放射性フッ素化化合物を提供する。本発明の放射性フッ素化化合物の合成は高い収率を与える。本発明によればまた、本発明の放射性フッ素化化合物の合成方法、特に自動化合成方法も提供される。本発明のさらに別の態様は、本発明の自動化合成方法を実施するのに適したカセットである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
一態様では、本発明は次の式Iの放射性フッ素化化合物に関する。
【0021】
【化5】

【0022】
式中、
1及びR2の一方はC1-418F]フルオロアルキル又はC1-418F]フルオロアルコキシであって、他方は水素であり、
3はC(=O)−O−R4(式中、R4は水素又は直鎖若しくは枝分れC1-4アルキルであるか、或いはR4はC3-5複素環である。)である。
【0023】
放射性フッ素化化合物」という用語は、その分子式が18Fを含む化合物をいう。18Fの容易な入手可能性及び物理的性質の点で、それはPETラジオトレーサーの開発において特に好まれる放射性同位体である(Snyder and Kilbourn“Chemistry of Fluorine−18 Radiopharmaceuticals”pp 195−227;“Handbook of Radiopharmaceuticals”2003:Welch and Redvanly,Eds)。
【0024】
本発明に係る好適な塩には、(i)鉱酸(例えば、塩酸、臭化水素酸、リン酸、メタリン酸、硝酸及び硫酸)から導かれるもの並びに有機酸(例えば、酒石酸、トリフルオロ酢酸、クエン酸、リンゴ酸、乳酸、フマル酸、安息香酸、グリコール酸、グルコン酸、コハク酸、メタンスルホン酸及びp−トルエンスルホン酸)から導かれるもののような生理学的に許容される酸付加塩、並びに(ii)アンモニウム塩、アルカリ金属塩(例えば、ナトリウム塩及びカリウム塩)、アルカリ土類金属塩(例えば、カルシウム塩及びマグネシウム塩)、有機塩基(例えば、トリエタノールアミン、N−メチル−D−グルカミン、ピペリジン、ピリジン、ピペラジン及びモルホリン)との塩、及びアミノ酸(例えば、アルギニン及びリシン)との塩のような生理学的に許容される塩基塩がある。
【0025】
本発明に係る好適な溶媒和物には、エタノール、水、食塩水、生理的緩衝液及びグリコールと共に生成されるものがある。
【0026】
アルキル」という用語は、好ましくは1〜4の炭素原子を含む直鎖又は枝分れアルキル基を意味する。かかる基の例には、メチル、エチル及びプロピルがある。
【0027】
アルコキシ」という用語はアルキルエーテル基を意味し、ここでアルキルという用語は上記に定義した通りである。好適なアルコキシ基の例には、メトキシ、エトキシ及びプロポキシがある。
【0028】
18F]フルオロアルキル」及び「18F]フルオロアルコキシ」という用語は、それぞれ、上記に定義したようなアルキル基及びアルコキシ基を18Fで置換したものをいう。好適には、18Fは置換基の遠位端にある水素の1つと置き換わる。即ち、C1-418F]フルオロアルキルは−(CH2n18Fであり、C1-418F]フルオロアルコキシは−O−(CH2n18Fであり、式中のnはいずれの場合にも1〜4である。
【0029】
複素環」という用語は、本明細書中では、芳香族又は脂肪族環式基であって、環が窒素、酸素及び硫黄から選択される1以上のヘテロ原子を含むものをいう。
【0030】
式Iの放射性フッ素化化合物の好ましい実施形態では、R1及びR2の一方がC1-418F]フルオロアルキルであり、最も好ましくはR1である。好ましいC1-418F]フルオロアルキル基は[18F]フルオロメチル及び[18F]2−フルオロエチルである。
【0031】
式Iの放射性フッ素化化合物のさらに好ましい実施形態では、R1及びR2の一方がC1-418F]フルオロアルコキシであり、最も好ましくはR1である。好ましいC1-418F]フルオロアルコキシ基は[18F]フルオロメトキシ及び[18F]2−フルオロエトキシであり、最も好ましくは[18F]2−フルオロエトキシである。
る。
【0032】
式Iの好ましいR3基は、C(=O)−O−R4(式中、R4は直鎖又は枝分れC1-4アルキルであり、最も好ましくはメチル、エチル又はtert−ブチルである。)である。
【0033】
別の態様では、本発明は、式Iの放射性フッ素化化合物の合成方法であって、次の式Iaの前駆体化合物を適当な18F供給源と反応させる段階を含んでなる方法を提供する。
【0034】
【化6】

【0035】
式中、
1a及びR2aの一方は前駆体基であって、他方はHであり、R1aが前駆体基である場合にそれはC1-4アルキル−LG、C1-4アルコキシル−LG及びヒドロキシルから選択され、R2aが前駆体基である場合にそれはC1-4アルキル−LG及びC1-4アルコキシル−LGから選択され、LGはブロミド、メシレート及びトシレートから選択される脱離基であり、
3aは式IのR3に関して定義した通りである。
【0036】
適当な18F供給源」とは、18Fが共有結合して式Iの放射性フッ素化化合物を生じるようにして前駆体化合物中の前駆体基と反応し得る化学形態の18Fを意味する。適当な18F供給源の選択は、それを反応させる予定の前駆体基に依存する。一層詳しい論議を以下に示す。
【0037】
概して言えば、前駆体化合物を適当な18F供給源と「反応させる」段階は、できるだけ高い放射化学収率(RCY)で所望の放射性フッ素化化合物を生成するのに適した反応条件下で2種の反応体を合わせることを含んでいる。若干の詳細な経路を以下に示す。
【0038】
本発明の「前駆体化合物」は、18Fの好都合な化学形態との化学反応が部位特異的に起こるように18Fラベルの所望位置に前駆体基を含む式Iの放射性フッ素化化合物の非放射性誘導体からなる。前駆体基は、放射性フッ素化が最小数の段階(理想的にはただ1つの段階)で実施でき、かつ格別の精製の必要なしに(理想的にはいかなる追加の精製も必要なしに)式Iの所望放射性フッ素化化合物が得られるように設計されている。かかる前駆体化合物は合成品であり、良好な化学純度で簡便に得ることができる。前駆体化合物は、キット中又は自動化合成装置と共に使用するのに適したカセット中に溶液状態で供給することができる。キット及びカセットは本発明の追加の態様をなし、以下に一層詳しく論議される。
【0039】
前駆体基」は、上記に定義した前駆体化合物の置換基であって、18Fが部位特異的に組み込まれて式Iの所望放射性フッ素化化合物を生じるようにして18F供給源と反応するものである。
【0040】
脱離基」は、結合電子を伴って安定な化学種として排除される原子又は原子団である。本発明の文脈中における好適な脱離基には、ブロミド、メシレート及びトシレートがある。
【0041】
Yang et al(2009 Synthesis;6:1036−1040)によって開示された反応スキームを改変することで、R1aが前駆体基である前駆体化合物を得ることができる。スキーム1は、いかにして前駆体化合物が得られるかを示している。
【0042】
【化7】

【0043】
後の段階で所望の脱離基を導入するために必要な化学反応を実行するように準備された適当なアミノ安息香酸化合物()をトリホスゲンと反応させることで、ベンゾキサジン−2,4−ジオン中間体()を得る。DMSO中におけるとサルコシンとの反応はベンゾジアゼピン()を生じる。記載された条件を用いて、一般式の化合物が良好な収率で得られる。をさらに修飾することで、標準的な化学変換を用いて適当な前駆体化合物を得ることができる。
【0044】
下記の実施例2は、R1aがヒドロキシルであり、R2aが水素であり、R3aがC(=O)−O−R4(式中、R4はエチルである。)である「前駆体化合物1」を得るための方法を記載している。下記の実施例4は、R1aがヒドロキシルであり、R2aが水素であり、R3aがC(=O)−O−R4(式中、R4はtert−ブチルである。)である「前駆体化合物2」を得るための方法を記載している。
【0045】
2が前駆体基である場合、前駆体化合物は下記のスキーム2に記載された化学反応を用いて得ることができる。この場合、適当なイソシアネートアセテートは標準的なアルキル化条件を用いて商業的に入手可能な材料から製造される。標準的な化学変換を用いて化合物を適宜に修飾することで、所望の前駆体を生成することができる。
【0046】
【化8】

【0047】
3aが複素環を含む式Iaの前駆体化合物は、Watjen et al(J Med Chem 1989;32(10):2282−2291)によって記載された方法で得ることができる。
【0048】
18Fの導入は、脱離基(LG)(即ち、ブロミド、メシレート又はトシレート、好ましくはトシレート)を含む前駆体化合物と、好適な18F供給源である18F−フッ化物イオンとの反応を含む直接標識によって達成できる。放射性フッ素化反応用の[18F]フッ化物イオン(18-)は、通常は核反応18O(p,n)18Fから水溶液として得られ、次いでカチオン性対イオンの添加及びそれに続く水の除去によって反応性にされる。好適なカチオン性対イオンは、無水反応溶媒中において、18-の溶解性を維持するのに十分な溶解度を有するべきである。したがって、使用されてきた対イオンには、ルビジウム又はセシウムのような大きいが軟らかい金属イオン、Kryptofix(商標)のようなクリプタンドと錯体化したカリウム、或いはテトラアルキルアンモニウム塩がある。好ましい対イオンは、無水溶媒中での溶解性が良く、18-の反応性を向上させることから、Kryptofix(商標)のようなクリプタンドと錯体化したカリウムである。このようにして反応性になった18-を、C1-4アルキル−LG又はC1-4アルコキシ−LGを含む式Iaの前駆体化合物と反応させることで、C1-418F]フルオロアルキル又はC1-418F]フルオロアルコキシを含む式Iの放射性フッ素化化合物が得られる。C1-4アルキル−LG又はC1-4アルコキシ−LG中のアルキル又はアルコキシは、C1-418F]フルオロアルキル又はC1-418F]フルオロアルコキシ中のアルキル又はアルコキシにそれぞれ対応している。ここで、C1-418F]フルオロアルキル又はC1-418F]フルオロアルコキシは式Iに関して上記に好適なもの及び好ましいものとして定義した通りである。脱離基LGの好適なもの及び好ましいものは上記に定義した通りである。
【0049】
18Fはまた、18Fを含むシントン(例えば、[18F]フルオロアルキルブロミド、[18F]フルオロアルキルメシレート又は[18F]フルオロアルキルトシレート)で前駆体化合物中のヒドロキシル基をO−アルキル化することによっても導入できる。したがって、R1aの前駆体基がヒドロキシルである式Iaの前駆体化合物を、好適な18F供給源としてのC1-418F]フルオロアルキル−LGと反応させることで、C1-418F]フルオロアルコキシを含む式Iの放射性フッ素化化合物が得られる。
【0050】
実施例2(iii)は、ヒドロキシル前駆体基を含む前駆体化合物1を[18F]フルオロエチルトシレートで放射性フッ素化して[18F]−化合物1を得る場合を記載している。非放射性化合物1のKiは2.4nMであることがわかった(実施例5参照)。インビボモデルにおける[18F]−化合物1の体内分布は、良好な領域差別化、即ち脳のGABAリッチ領域とGABAプア領域との差別化を示した(実施例6参照)。
【0051】
実施例4(v)は、やはりヒドロキシル前駆体基を含む前駆体化合物2を[18F]フルオロエチルトシレートで放射性フッ素化して[18F]−化合物2を得る場合を記載している。非放射性化合物2のKiは0.53nMであることがわかった(実施例5参照)。インビボモデルにおける[18F]−化合物2の体内分布は、良好な領域差別化、即ち脳のGABAリッチ領域とGABAプア領域との差別化を示した(実施例7参照)。
【0052】
本発明の方法の好ましい実施形態では、式Iaの前駆体化合物のR1aが前駆体基である。R1aが前駆体基である場合、それは好ましくはC1-4アルコキシ−LG又はヒドロキシルであり、特に好ましくはメトキシ−LG、エトキシ−LG又はヒドロキシルであり、最も好ましくはヒドロキシルである。
【0053】
現在、特にPETトレーサーとして使用するための18F標識化合物の合成は、例えばTracerlab(商標)及びFastlab(商標)(いずれもGE Healthcare社製)のような自動化放射合成装置によって最も簡便に実施されている。Fastlab(商標)は自動化PETラジオトレーサー合成プラットホームに関する技術の現状を表すものである結果、新しいPETラジオトレーサーの開発に当たっては、その合成がFastlab(商標)に適合していることが望ましい。本発明の放射性フッ素化化合物は、その合成がFastlab(商標)に適合しているので、この点で先行技術のものに比べて有利である。放射化学は、「カセット」を装置に取り付けることにより、自動化合成装置上で実施される。通常、かかるカセットは流体通路、反応器、及び試薬バイアル並びに放射合成後の清掃段階で使用される任意の固相抽出カートリッジを受け入れるためのポートを含んでいる。
【0054】
本発明のさらに別の態様では、本発明の自動化方法を実施するためのカセットであって、
(i)本発明の方法に関して上記に定義された前駆体化合物を含む容器、及び
(ii)本発明の方法に関して上記に定義された適当な18F供給源を用いて容器を溶出するための手段
を含んでなるカセットが提供される。
【0055】
かかるカセットはまた、過剰の18Fを除去するためのイオン交換カートリッジも含み得る。自動化合成のために必要な試薬、溶媒及び他の消耗品もまた、濃度、容量、送出時間などに関する最終ユーザーの要求条件を満たすように自動化合成装置を運転させるソフトウェアを保持したコンパクトディスクのようなデータ媒体と共に含めることができる。
【0056】
本発明によればまた、本明細書中に定義される放射性フッ素化化合物を、哺乳動物への投与に適した形態の生体適合性キャリヤーと共に含んでなる「放射性医薬組成物」も提供される。
【0057】
生体適合性キャリヤー」は、放射性医薬組成物が生理学的に認容され得るようにして(即ち、毒性又は過度の不快感なしに哺乳動物体に投与できるようにして)放射性フッ素化化合物を懸濁又は溶解するための流体(特に液体)である。生体適合性キャリヤーは、好適には、無菌のパイロジェンフリー注射用水、(有利には注射用の最終生成物が等張性又は非低張性になるように平衡させ得る)食塩水のような水溶液、或いは1種以上の張度調整物質(例えば、血漿陽イオンと生体適合性対イオンとの塩)、糖(例えば、グルコース又はスクロース)、糖アルコール(例えば、ソルビトール又はマンニトール)、グリコール(例えば、グリセロール)又は他の非イオン性ポリオール物質(例えば、ポリエチレングリコール、プロピレングリコールなど)の水溶液のような注射可能なキャリヤー液体である。生体適合性キャリヤーはまた、エタノールのような生体適合性有機溶媒を含んでいてもよい。かかる有機溶媒は、親油性の高い化合物又は配合物を可溶化するために有用である。好ましくは、生体適合性キャリヤーはパイロジェンフリー注射用水、等張食塩水又はエタノール水溶液である。静脈内注射用生体適合性キャリヤーのpHは、好適には4.0〜10.5の範囲内にある。
【0058】
本発明の放射性医薬組成物中に含まれる場合における放射性フッ素化化合物の好適な実施形態及び好ましい実施形態は、本明細書中に既に記載した通りである。
【0059】
かかる放射性医薬組成物は非経口的に(即ち、注射によって)投与でき、最も好ましくは水溶液である。かかる組成物は、緩衝剤、薬学的に許容される可溶化剤(例えば、シクロデキストリン或いはPluronic、Tween又はリン脂質のような界面活性剤)、薬学的に許容される安定剤又は酸化防止剤(例えば、アスコルビン酸、ゲンチジン酸又はp−アミノ安息香酸)のような追加成分を任意に含み得る。本発明の放射性フッ素化化合物が放射性医薬組成物として提供される場合、前記放射性フッ素化化合物の製造方法はさらに、放射性医薬組成物を得るために必要な段階(例えば、有機溶媒の除去、生体適合性緩衝剤及び任意の追加成分の添加)を含むことができる。非経口的投与のためには、放射性医薬組成物が無菌性かつ無発熱原性であることを保証するための手段を講じることも必要である。
【0060】
本発明は、さらに別の態様において、本明細書中に好適なもの及び好ましいものとして定義した放射性フッ素化化合物であって、インビボイメージング方法で使用するためのものを提供する。最も好ましくは、インビボイメージング方法で使用するための放射性フッ素化化合物は、本明細書中に好適なもの及び好ましいものとして定義した放射性医薬組成物として提供される。
【0061】
さらに別の態様では、本発明は、被験体の中枢神経系(CNS)におけるGABAA受容体の分布を決定するための陽電子放出断層撮影(PET)方法であって、
(i)本明細書中に好適なもの及び好ましいものとして定義した放射性フッ素化化合物を前記被験体に投与する段階、
(ii)段階(i)で投与した前記放射性フッ素化化合物を前記被験体のCNS内のGABAA受容体に結合させる段階、
(iii)段階(ii)で結合させた前記放射性フッ素化化合物中に存在する18Fの陽電子放出崩壊から導かれる信号を検出する段階、並びに
(iv)前記信号の位置及び量の画像を形成する段階であって、前記信号が前記被験体におけるGABAA受容体の分布を表す段階
を含んでなるPET方法を提供する。。
【0062】
本発明のPET方法に関しては、放射性フッ素化化合物の好適な実施形態及び好ましい実施形態は本明細書中に前述した通りである。
【0063】
放射性フッ素化化合物を「投与する」段階は、好ましくは非経口的に実施され、最も好ましくは静脈内に実施される。静脈内経路は、放射性フッ素化化合物を被験体の身体全域に送達するための、したがって血液脳関門(BBB)を横切って前記被験体のCNS内で発現されたGABAA受容体に接触させるための最も効率的な方法である。本発明の放射性フッ素化化合物は、好ましくは本明細書中に定義した本発明の医薬組成物として投与される。
【0064】
投与段階後かつ検出段階前に、放射性フッ素化化合物をGABAA受容体に結合させる。放射性フッ素化化合物は哺乳動物の身体を通って動的に移動し、体内の様々な組織に接触する。ひとたび放射性フッ素化化合物がGABAA受容体に接触すれば、特異的な相互作用が起こる結果、GABAA受容体をもった組織からの放射性フッ素化化合物のクリアランスは、GABAA受容体をもたない組織又はGABAA受容体の少ない組織よりも長い時間がかかる。一定の時点に達すれば、GABAA受容体をもった組織に結合した放射性フッ素化化合物とGABAA受容体をもたない組織又はGABAA受容体の少ない組織に結合した放射性フッ素化化合物との比の結果として、GABAA受容体に特異的に結合した放射性フッ素化化合物の検出が可能となる。理想的には、この比は2:1以上である。
【0065】
本発明の方法の「検出」段階は、18Fの陽電子放出崩壊から導かれる信号を、前記信号に対して感受性を有する検出器(PETスキャナー中に存在するシンチレーター)によって検出することを含んでいる。陽性β崩壊としても知られる陽電子放出崩壊では、陽電子が放出され、次いで最大数ミリメートルまで飛行して電子と遭遇する。陽電子と電子との遭遇は1対の消滅(γ線)光子を生成し、これらは互いに約180度の角をなして放出される。これらの消滅光子が「陽電子放出崩壊から導かれる信号」である。
【0066】
本発明の方法の「形成」段階は、取得された信号データに再構築アルゴリズムを適用してデータセットを得るコンピューターによって実施される。次いで、このデータセットを操作することで、18Fから放出される信号の位置及び/又は量を示す画像が形成される。
【0067】
本発明の「被験体」は、任意のヒト又は動物被験体であり得る。好ましくは、本発明の被験体は哺乳動物である。最も好ましくは、前記被験体はインタクトな哺乳動物生体である。特に好ましい実施形態では、本発明の被験体はヒトである。
【0068】
本PET方法は、健常被験体或いはGABAA受容体の異常発現に関連する病的状態(「GABAA状態」)を有することが知られ又は疑われる被験体においてGABAA受容体を検査するために使用できる。本発明のPET方法が役に立つかかるGABAA状態の例には、てんかん、不安障害、パーキンソン病及び慢性疼痛がある。本発明の放射性フッ素化化合物は、中枢神経系(CNS)におけるGABAA受容体発現のPETイメージングに特に適している。
【0069】
別の実施形態では、本発明のPET方法は前記被験体に関する治療計画の進行中に繰り返して実施することができ、前記治療計画はGABAA状態と戦うための薬物の投与を含んでいる。例えば、本明細書中に好適なもの及び好ましいものとして定義したPET方法は、GABAA状態と戦うための薬物による治療前、治療中及び治療後に実施できる。このようにすれば、前記治療の効果を経時的にモニターすることができる。PETは優れた感度及び分解能を有する結果、病変部における比較的小さい変化でも経時的に観察でき、これは治療モニタリングのために有利である。PETスキャナーは、日常的にピコモル範囲内の放射能濃度を測定している。現在、マイクロPETスキャナーは約1mmの空間分解能に接近しているが、臨床スキャナーは約4〜5mmである。
【0070】
さらに別の態様では、本発明はGABAA状態の診断方法を提供する。本発明の診断方法は、上記に好適なもの及び好ましいものとして定義したPET方法を、GABAA受容体発現の分布を特定の臨床像に帰因させる追加段階(v)(即ち、演繹的な医学的決断段階)と共に含んでいる。
【0071】
別の態様では、本発明は、本明細書中で定義した診断方法で使用するための、本明細書中に好適なもの及び好ましいものとして定義した放射性フッ素化化合物を提供する。
【0072】
さらに別の態様では、本発明は、本明細書中で定義した診断方法で使用するための本明細書中で定義した放射性医薬組成物の製造で使用するための、本明細書中で定義したインビボイメージング剤を提供する。
【実施例】
【0073】
以下、一連の非限定的な実施例によって本発明を例示する。
【0074】
実施例の簡単な説明
実施例1は、非放射性化合物1の合成法を記載している。
【0075】
実施例2は、前駆体化合物1からの放射性フッ素化化合物1の合成法を記載している。
【0076】
実施例3は、非放射性化合物2の合成法を記載している。
【0077】
実施例4は、前駆体化合物2からの放射性フッ素化化合物2の合成法を記載している。
【0078】
実施例5は、GABAA受容体に対する非放射性化合物1及び化合物2の親和性を評価するために使用したインビトロアッセイを記載している。
【0079】
実施例6及び実施例7は、それぞれ[18F]−化合物1及び[18F]−化合物2のインビボ体内分布を記載している。
【0080】
比較例8は、[18F]フルマゼニルを得るための既知方法を記載している。
【0081】
実施例中で使用される略語のリスト
%id パーセント注射量
%id/g 1グラム当たりのパーセント注射量
DCM ジクロロメタン
DMSO ジメチルスルホキシド
FFMZ フルオロフルマゼニル
FEFMZ フルオロエチルフルマゼニル
FMZ フルマゼニル
MBq メガベクレル
OTs トシレート
pi 注射後
SD 標準偏差
THF テトラヒドロフラン
実施例1:非放射性化合物1の合成法
【0082】
【化9】

【0083】
実施例1(i):6−メトキシ−1H−ベンゾ[d][1,3]オキサジン−2,4−ジオン(2)の合成
【0084】
【化10】

【0085】
商業的に入手可能な2−アミノ−5−メトキシ安息香酸(20g、120mmol)をジオキサン(200mL)に溶解した。冷却しながらトリホスゲン(15g、50.6mmol)を添加した(添加中に濃厚な沈殿が生じた)。流動性を高めるためにジオキサン(50mL)を添加した。混合物を1時間加熱還流し、次いで放冷した。得られた沈殿を濾過によって集めることで、中間体をベージュ色の粉末(20.8g、90%)として得た。
【0086】
1H NMR(D6−DMSO):δ 3.81(3H,s,C3)、7.11(1H,d,J=9Hz,NHCCCHCOCH3)、7.34(1H,d,J=3Hz,CH3OCCCCO)、7.39(1H,dd,J=9 and 3Hz,CCOCH3CH)、11.6(1H,br s,N)。
【0087】
実施例1(ii):7−メトキシ−4−メチル−3,4−ジヒドロ−1H−ベンゾ[e][1,4]ジアゼピン−2,5−ジオン(3)の合成
【0088】
【化11】

【0089】
中間体(20.8g、108mmol)をDMSO(55mL)中に懸濁した。次いで、混合物を予熱したマントル(157℃)上に配置した。混合物を撹拌した。ほとんどすべての出発原料が溶解した後、サルコシン(32.0g、108mmol)を少しずつ添加した。ほとんど直ぐに、発泡が認められた。混合物を2時間加熱した後、約70℃まで放冷し、次いで水(300mL)中に注ぎ込んだ。小さな白色のボーブル(baubles)の形成が見られ、次いでこれらが拡大して白色の粉末を生じた。これを濾過によって集め、次いで真空オーブン内において50℃で一晩乾燥した(13.9g、59%)。
【0090】
1H NMR(D6−DMSO)δ 3.14(3H,s,NC3)、3.75(3H,s,OC3)、3.82(2H,s,NC2)、7.03(1H,d,J=9Hz,CCHCOCH3)、7.12(1H,dd,J=9 and 3Hz,CHCCOCH3)、7.22(1H,d,J=3Hz,COCCCOCH3)、10.3(1H,br s,N)。
【0091】
実施例1(iii):7−ヒドロキシ−4−メチル−3,4−ジヒドロ−1H−ベンゾ[e][1,4]ジアゼピン−2,5−ジオン(4)の合成
【0092】
【化12】

【0093】
無水DCM(10mL)中における中間体(0.5g、2.27mmol)の撹拌懸濁液に、三臭化ホウ素(DCM中1M)(6.8mL、6.81mmol)を(窒素流下及び−78℃で)滴下した。滴下の完了後、混合物を窒素下室温で16時間撹拌し続けた。次いで、溶媒を真空中で除去し、残留物中に氷水を注意深く注ぎ込んだ。次いで、不溶物を濾過によって集めたところ、所望の生成物(0.2g、43%)であることがわかった。
【0094】
1H NMR(D6−DMSO)δ 3.08(3H,s,NC3)、3.70−3.80(2H,m,NC2)、6.91(2H,s,ArC×2)、7.10(1H,s,ArCH)、10.2(1H,br s,N)。
【0095】
実施例1(iv):7−(2−フルオロエトキシ)−4−メチル−3,4−ジヒドロ−1H−ベンゾ[e][1,4]ジアゼピン−2,5−ジオン(5)の合成
【0096】
【化13】

【0097】
DMF(100mL)中の中間体(3.4g、16.4mmol)及びフルオロエチルトシレート(5.4g、24.6mmol)に、炭酸セシウム(8.0g、24.6mmol)を添加した。混合物を60℃で2時間加熱した(その間に混合物は暗褐色になった)。TLC(90%DCM、10%MeOH)は反応が完了したことを示した。溶媒を減圧下で除去し、次いで残留物を水で洗浄し、有機物を酢酸エチルで抽出した。次いで、有機層をMgSO4上で乾燥し、濾過し、蒸発乾固して粗生成物を得た。次いで、これをフラッシュクロマトグラフィー(100%DCM→95%DCM、5%MeOH)で精製して所望の生成物(0.8g、20%)を得た。
【0098】
1H NMR(D6−DMSO)δ 3.11(3H,s,NC3)、3.82(2H,s,NC2)、4.25(2H,dt,JHF=30Hz,JHH=4Hz,C2O)、4.74(2H,dt,JHF=48Hz,JHH=4Hz,C2F)、7.04(1H,d,J=9Hz,CCHCOCH2CH2F)、7.16(1H,dd,J=9 and 3Hz,CHCCOCH2CH2F)、7.24(1H,d,J=3Hz,COCCCOCH2CH2F)、10.30(1H,br s,N)。
【0099】
実施例1(v):非放射性化合物1の合成
【0100】
【化14】

【0101】
中間体(0.80g、3.17mmol)をDMF(6mL)及びTHF(10mL)中に懸濁した。次に、窒素下で冷却しながら水素化ナトリウム(鉱油中60%分散液0.15g、3.79mmol)を添加した。水素発生がやんだ後、冷却しながらジエチルホスホロクロリデート(0.67mL、4.75mmol)を滴下した(溶液は鮮黄色になった)。直後に、イソシアノ酢酸エチル(0.41mL、3.80mmol)をDMF(3mL)に溶解した溶液をN2下で調製した。次いで、冷却しながら水素化ナトリウム(鉱油中60%分散液0.11g、4.58mmol)を添加した。水素発生がやんだ後、冷却しながらこの混合物を中間体に滴下した。混合物を0℃で30分間撹拌し、室温で18時間撹拌し続けた。次いで、酢酸(0.17mL、6.14mmol)を反応物に添加した。次いで、混合物を氷水中に注ぎ込み、有機物を酢酸エチルで抽出し、MgSO4上で乾燥し、濾過し、蒸発乾固した。次いで、得られた褐色の油状物を、100%DCM→95%DCM、5%MeOHを用いるフラッシュクロマトグラフィーに2回付した。次いで、得られた鮮黄色の固体をエーテルで洗浄し、エーテルが無色になるまで続けた。淡黄色の固体を濾過によって集めた(0.6g、55%)。
【0102】
1H NMR(CDCl3)δ 1.44(3H,s,C3)、3.24(3H,s,NC3)、4.19−4.45(5H,m,OC2,NC,OC2)、4.78(2H,dt,JHF=47Hz,JHH=4Hz,C2F)、5.20(1H,br s,NC’)、7.21(1H,dd,J=9 and 3Hz,CHCCOCH2CH2F)、7.36(1H,d,J=8Hz,CCHCOCH2CH2F)、7.54(1H,d,J=3Hz,COCCCOCH2CH2F)、7.84(1H,s,NCN)。
【0103】
実施例2:放射性フッ素化化合物1の合成法
実施例2(i):8−メトキシ−5−メチル−6−オキソ−5,6−ジヒドロ−4H−2,5,10b−トリアザ−ベンゾ[e]アズレン−3−カルボン酸エチルエステル(6)の合成
【0104】
【化15】

【0105】
中間体(1.0g、4.54mmol、合成法は実施例1(ii)に記載)をDMF(9mL)及びTHF(14mL)中に懸濁した。次に、窒素下で冷却しながら水素化ナトリウム(鉱油中60%分散液0.13g、5.41mmol)を添加した。水素発生がやんだ後、冷却しながらジエチルホスホロクロリデート(1.18g、0.99mL、6.81mmol)を滴下した(溶液は鮮黄色になった)。直後に、イソシアノ酢酸エチル(0.62g、0.60mL、5.48mmol)をDMF(4.5mL)に溶解した溶液をN2下で調製した。次いで、冷却しながら水素化ナトリウム(鉱油中60%分散液0.15g、6.25mmol)を添加した。水素発生がやんだ後、冷却しながらこの混合物を中間体に滴下した。混合物は橙色の懸濁液であった。混合物を室温で18時間撹拌し続けた。次いで、酢酸(1mL)を反応物に添加した。次いで、混合物を氷水中に注ぎ込んだ。沈殿が認められた。これを濾過によって集め、水で洗浄し、乾燥し、次いでジエチルエーテルで洗浄した。固体は純粋な生成物(0.58g)であることがわかった。水性濾液を酢酸エチルで洗浄し、MgSO4上で乾燥し、濾過し、蒸発乾固した。次いで、得られた橙色の固体をエーテルで洗浄した。次いで、淡黄色の固体を濾過によって集めた(0.2g+0.58g=57%)。
【0106】
1H NMR(CDCl3)δ 1.45(3H,s,C3)、3.25(3H,s,NC3)、3.91(3H,s,OC3)、4.25−4.49(3H,m,OC2,NC)、5.16−5.21(1H,m,NC’)、7.13(1H,dd,J=9 and 3Hz,CHCCOCH3)、7.35(1H,d,J=9Hz,CCHCOCH3)、7.55(1H,d,J=3Hz,COCCCOCH3)、7.84(1H,s,NCN)。
【0107】
実施例2(ii):前駆体化合物1の合成
【0108】
【化16】

【0109】
中間体(0.55g、1.74mmol)をDCM(5mL)に溶解し、次いで三臭化ホウ素(ジクロロメタン中1M溶液1.75mL、1.75mmol)を−70℃で滴下した。1時間後、混合物から試料を採取し、メタノールで希釈した。TLC(95%DCM、5%MeOH)は、基線上に出発原料及び新しいスポットの存在を示した。この試料のNMRは、それがイミダゾールのH塩であり、脱メチル化はまだ起こっていないことを示した。反応物をフリーザー内に一晩放置した。翌日、さらに同等量の三臭化ホウ素を−70℃で滴下した。1時間後、TLCは出発原料、基線物質、及び出発原料直下の新しいスポットの存在を示した。混合物を室温で3時間撹拌し続けた。TLCは出発原料の大部分が消失したことを示し、LCMSは生成物の存在を示した。メタノールで希釈し、蒸発させ、重水素化メタノールに再溶解することで、別のNMR試料を採取した。NMRは4種の化合物の存在を示したが、そのうちの2種はメチルエステルであった。これは、BBr3反応中にエステルの加水分解が起こってカルボン酸を生じ、次いでそれがメタノール処理中にメチル化されることを示している。したがって、インサイチュでの再エステル化によって一層多くの生成物を得ることができよう。そこで、バルク反応混合物をエタノールで(注意しながらゆっくりと)希釈した。この添加後に反応混合物はわずかに温かく、次いで終末中RTで撹拌し続けた。次いで、混合物を蒸発させ、水に溶解し、中和した。次に、水性相を酢酸エチルで洗浄し、次いで有機相を合わせ、MgSO4上で乾燥し、濾過し、蒸発乾固して橙色の固体を得た。これをエーテルで洗浄し、エーテルが無色になるまで続けた。次いで固体を、99%DCM、1%MeOH→3%MeOHを用いるカラムクロマトグラフィーに付した。生成物は30CVで溶出した。不純物は5CV(1%MeOH)で除去された。固体をシリカ4gのカラム上に装填した。所望の生成物は白色の固体(20mg、4%)として得られた。
【0110】
1H NMR(D3−Methanol)δ 1.41(3H,s,C3)、3.20(3H,s,NC3)、4.32−4.55(3H,m,NC,OC2)、5.12(1H,br d,J=15Hz,NC’)、7.11(1H,dd,J=9Hz and 3Hz,CHCCOH)、7.34(1H,d,J=3Hz,OCCCCOH)、7.51(1H,d,J=9Hz,CHHCOHCH)、8.18(1H,s,NCN)。
【0111】
実施例2(iii):[18F]−化合物1を得るための放射性フッ素化
【0112】
【化17】

【0113】
18F]フッ化物を吸引によってP6バイアルから3mLのVバイアルに移した。P6バイアルに、Kryptofix 222(4mg)をMeCN(0.5mL)及びKHCO3(100μL、0.1M)に溶解した予備調製溶液を添加した。バイアルをかきまぜ、溶液を吸引によってVバイアルに移した。バイアルを窒素流(0.2L/分)下において110℃で20分間加熱し、次いで室温に冷却した。乾燥した[18F]フッ化物及びKryptofix 222の混合物に、MeCN(1mL)中のエタンジオール−p−トルエンスルホネート(5mg)を添加した。得られた黄色の溶液を80℃で10分間加熱し、次いで室温に冷却した。反応バイアルに水(1.5mL)を添加し、精製用の分取HPLC(Hichrom ACE C5 10x100mmカラム、溶媒A=50mM酢酸アンモニウム,溶媒B=MeCN、流量4ml/分、UV 254nm)上に装填した。単離されたHPLC画分を水(20mL)中に希釈し、次いでWaters tC18−light Sep Pakカートリッジ上に装填した。次いで、カートリッジを高圧窒素ライン上で15分間乾燥した。
【0114】
1mLのホイートンバイアル中に前駆体化合物1(2mg)及び炭酸セシウム(10mg)を注意深く秤取し、次いでDMF(0.1mL)を撹拌棒と共に添加した。懸濁液を室温で10分間撹拌した。乾燥した[18F]フルオロエチルトシレートをDMF(0.5mL)でSPEからホイートンバイアル中に溶出し、得られた反応混合物を130℃で10分間撹拌した。反応混合物を冷却し、50mM酢酸アンモニウム(3.5mM)中に希釈し、次いでHPLC(Hichrom ACE C5 10x100mmカラム、溶媒A=50mM酢酸アンモニウム,溶媒B=MeCN、流量4ml/分、UV 254nm)によって精製した。
【0115】
単離されたHPLC画分を水(20mL)中に希釈し、tC18 light Sep Pak上に捕捉し、次いでPBS(0.5mL)を含む予備秤量バイアル中にエタノール(0.5mL)で溶出した。元の塊状体が得られるまで、エタノールを真空中で除去した。下記実施例6に記載されるインビボ体内分布アッセイで使用するため、[18F]−化合物1のアリコート(50MBq)を5MBq/mLでPBS中に製剤化した。
【0116】
分析HPLC(Phenomenex Luna C18(2)50x2mmカラム、溶媒A=0.01Mリン酸,溶媒B=MeCN、0.4mL/分、UV 254nm)により、[18F]−化合物1が23%の合成終了時収率と共に95%の放射化学純度で得られたことが確認された。
【0117】
実施例3:非放射性化合物2の合成法
実施例3(i):7−ブロモ−4−メチル−3,4−ジヒドロ−1H−ベンゾ[e][1,4]ジアゼピン−2,5−ジオン(7)の合成
【0118】
【化18】

【0119】
DMSO(100mL)中における5−ブロモイサト酸無水物(40.0g、165mmol)及びサルコシン(14.7g、165mmol)の混合物を、148〜150℃に予熱された加熱マントル内に配置した。間もなく、濃い橙色の溶液は淡い橙色に変わり、発泡が認められた。混合物を150℃で約30分間加熱し、次いで水(600mL)中に注ぎ込んだ。得られた淡黄色の沈殿を濾過によって集めることで、33.4g(75%)のを得た。
【0120】
1H NMR(300MHz,DMSO−d6):δH 3.11(3H,s,NC3)、3.89(2H,s,C2)、7.06(1H,d,J=9.0Hz,NHCCCH)、7.69(1H,dd,J=9.0 and 2.0Hz,BrCCH)、7.82(1H,d,J=2.0Hz,OCCC)、and 10.6(1H,br s,N)。
【0121】
実施例3(ii):非放射性化合物2の合成
【0122】
【化19】

【0123】
THF(52mL)中の(0.65g、2.58mmol)に、0℃でカリウムtert−ブトキシド(0.32g、2.83mmol)を添加した。次に、混合物を0℃で20分間撹拌し(その間に鮮黄色の沈殿が認められた)、次いで−35℃に冷却した。ジエチルクロロホスフェート(0.58g、3.35mmol、0.49mL)をゆっくりと添加した。反応物を0℃で30分間撹拌し、その間に混合物は鮮黄色になった。反応フラスコを−35℃に冷却し、tert−ブチルイソシアノアセテートの溶液(0.4g、2.83mmol、0.41mL)を添加し、次いでカリウムtert−ブトキシド(0.32g、2.83mmol)を添加した。次いで、懸濁液を室温で一晩撹拌し続けた。反応物をNaHCO3水溶液(70mL)で奪活し、EtOAc(3×70mL)で抽出した。有機層を合わせ、MgSO4上で乾燥し、濃縮して橙色のシロップを得た。粗物質を、DCM(A):MeOH(B)(1〜5%B、9CV、120g、40mL/分)で溶出するシリカゲルクロマトグラフィーによって精製した。非放射性化合物2を淡黄色の固体(0.53g(55%))として得た。
【0124】
1H NMR(300MHz,CDCl3):δH 1.65(9H,s,C(C33)、3.25(3H,s,NC3)、4.23−4.41(5H,m,OC2,CONCH3CHab)、4.80(2H,dt,JHF=47.0 and J=4.0Hz,C2F)、5.15(1H,br d,J=14.0Hz,CONCH3ab)、7.21(1H,dd,J=9.0And3.0Hz,CHCCOCH2CH2F)、7.36(1H,d,J=9.0Hz,NCCCH)、7.55(1H,d,J=3.0Hz,OC−CC)、and 7.84(1H,s,NCN)。
【0125】
実施例4:放射性フッ素化化合物2の合成法
実施例4(i):7−ベンジルオキシ−4−メチル−3,4−ジヒドロ−1H−ベンゾ[e][1,4]ジアゼピン−2,5−ジオン(8)の合成
【0126】
【化20】

【0127】
DMF(50mL)中の(4.13g、20mmol、実施例1(iii)に従って製造した)及び臭化ベンジル(3.42g、20mmol、2.38mL)に、炭酸セシウム(6.53g、20mmol)を添加した。混合物を60℃で2時間加熱した。その後、TLC(90%DCM、10%MeOH)は反応が完了していないことを示した。さらに同等量の臭化ベンジルを添加したところ、1時間後のTLCは反応が完了したことを示した。溶媒を減圧下で除去し、次いで残留物を水及び酢酸エチルで洗浄した。溶媒界面間に白色の沈殿が認められ、これを濾過によって集めた。これを少量の酢酸エチルでトリチュレートし、濾過によって集めることで、を白色の固体(2.77g(47%))として得た。
【0128】
1H NMR(300MHz,DMSO−d6):δH 3.11(3H,s,NC3)、3.82(2H,s,NC2)、5.12(2H,s,OC2)、7.04(1H,d,J=9.0Hz,HNCCCH)、7.19(1H,dd,J=9.0 and 3.0Hz,BnOCCab)、7.31(1H,d,J=3.0Hz,O=CCC)、7.33−7.47(5H,m,C×5)、and 10.30(1H,br s,N)。
【0129】
実施例4(ii):8−ベンジルオキシ−5−メチル−6−オキソ−5,6−ジヒドロ−4H−2,5,10b−トリアザ−ベンゾ[e]アズレン−3−カルボン酸tert−ブチルエステル(9)の合成
【0130】
【化21】

【0131】
(2.7g、9.11mmol)をDMF(24mL)及びTHF(38mL)中に懸濁した。次に、窒素下で冷却しながら水素化ナトリウム(鉱油中60%分散液0.43g、10.8mmol)を添加した。水素発生がやんだ後、冷却しながらジエチルクロロホスフェート(2.36g、13.7mmol、1.98mL)を滴下した(溶液は黄色になった)。直後に、イソシアノ酢酸tert−ブチル(1.54g、10.9mmol、1.59mL)をDMF(12mL)に溶解した溶液をN2下で調製した。次いで、冷却しながら水素化ナトリウム(鉱油中60%分散液0.51g、12.9mmol)を添加した。水素発生がやんだ後、冷却しながらこの混合物をの混合物に滴下した。混合物は橙色の懸濁液であった。混合物を室温で18時間撹拌し続けた。次いで、酢酸(1mL)を反応物に添加した。次いで、混合物を氷水中に注ぎ込み、有機物を酢酸エチルで抽出し、MgSO4上で乾燥し、濾過し、蒸発乾固した。粗物質を、DCM(A):MeOH(B)(0〜5%B、10CV、50g、40mL/分)で溶出するシリカゲルクロマトグラフィーによって精製した。生成物を最少の酢酸エチルに溶解し、次いで混合物が不透明になるまで石油スピリットを滴下した。数滴の酢酸エチルを添加すると、溶液は透明になった。次いで、混合物を2時間静置することで、を白色の固体(0.18g(5%))として得た。
【0132】
1H NMR(300MHz,CDCl3):δH 1.69(3H,s,3×C3)、3.24(3H,s,NC3)、4.36(1H,br s,CONCH3CHab)、5.05−5.16(3H,m,OCH2,CONCH3ab)、7.20(1H,dd,J=9.0 and 3.0Hz,CHCCOBn)、7.32(1H,d,J=9.0Hz,NCCCH)、7.35−7.46(5H,m,ArC×5)、7.63(1H,d,J=3.0Hz,OCCH)、and 7.81(1H,s,NCN)。
【0133】
実施例4(iii):8−ヒドロキシ−5−メチル−6−オキソ−5,6−ジヒドロ−4H−2,5,10b−トリアザ−ベンゾ[e]アズレン−3−カルボン酸tert−ブチルエステル(前駆体化合物2)の合成
【0134】
【化22】

【0135】
(50mg、0.36mmol)をメタノール(10mL)に溶解した。次いで、混合物を(1mL/分の流量で)パラジウムカートリッジに通し、60℃で水素流フルH2モードに付した。TLCは反応が完了したことを示した。溶液を蒸発乾固することで、前駆体化合物2を白色の固体(30mg、77%)として得た。
【0136】
1H NMR(300MHz,DMSO−d6):δH 1.56(3H,s,C(C33)、3.09(3H,s,NC3)、4.42(1H,br s,CONCH3CHab)、4.85(1H,br s,CONCH3ab)、7.09(1H,dd,J=9.0 and 3.0Hz,CHCCOH)、7.25(1H,d,J=3.0Hz,OC−CCCOH)、7.53(1H,d,J=9.0Hz,NCCCH)、and 8.22(1H,s,NCN)。
【0137】
実施例4(v):[18F]−化合物2を得るための放射性フッ素化
【0138】
【化23】

【0139】
FASTlabの反応器内に[18F]フッ化物イオンを吸引し、次いで浸漬管入口を通してアセトニトリル(500μl)及びKHCO3(0.1mol dm-3、50μl)中のKryptofix 2.2.2(2mg)を添加した。第1の窒素ガスラインを第2の短い入口に連結し、第2の窒素ガスラインを閉鎖浸漬管弁に連結した。窒素ガス流量は0.2〜0.4L/分に設定した。ヒーターコントローラーは100℃に設定した。これに到達した後、18-を5分間乾燥した。5分後、窒素ガス流量を0.1〜0.2L/分未満に減少させ、浸漬弁を開放し、さらに4分間加熱した。4分後、窒素ガス流量を0.2〜0.4L/分に増加させ、さらに11〜16分間乾燥した。
【0140】
浸漬管弁を通してアセトニトリル(1000μl)中のTsO−Et−OTs(5mg)を添加した。反応器を密封し、コントローラーを100℃に設定し、10分間加熱した。反応物を冷却し、浸漬管を通して抜き取り、反応器を水(1500μl)ですすぎ、主たる粗反応物を含むガラスバイアルに加えた。全反応物を半分取HPLCループに装填し、精製を開始した(条件については下記参照)。[18F]F(CH22OTsカットピーク(保持時間8分)を水で約20mlの体積に希釈し、コンディショニング済みのライトt−C18 sep pak上に装填し、H2O(1×2ml)でフラッシュした。sep pakを高圧窒素ガスライン上で20分間乾燥した。
【0141】
撹拌機を含むホイートンバイアル内で、DMF(100μl)中の前駆体化合物(5mg)及びCs2CO3(10mg)を室温で1〜2時間撹拌した。[18F]F(CH22OTsをCH3CN(0.5ml)でホイートンバイアル中に溶出した。反応物を120〜130℃の油浴中で15分間加熱撹拌した。その後、反応物を冷却し、水(500μl)で奪活した。全反応物をHPLCシステム上に装填し、下記に記載する条件を用いて生成物を精製した(保持時間11分)。
【0142】
カットピークを水(10mL)で希釈し、真空ポンプを用いてプレコンディショニング済みのsep pak t−C18 light上に捕捉した。捕捉した物質を水(2mL)で洗浄し、エタノール(0.7mL)及びリン酸緩衝食塩水(6.3mL)で溶出した。
【0143】
18.4%の合成終了時収率。2.2μgのコールドリガンド総量。>99%の放射化学純度。
【0144】
分取HPLCシステムの詳細:HPLCカラム−HICHROM ACE 5 C18カラム,5μ,100x10mm、溶媒A=水,B=MeOH、流量3ml/分、UV 254nm、ループ5mL。
【0145】
18F]FEtOTsカットに関するHPLC条件:0−1分 50%(B)、1−25分 50−95%(B)、25−30分 95%、30−31分 95−50%(B)、31−33分 50%(B)。
【0146】
18F]−化合物2に関するHPLC条件:0−1分 30%(B)、1−20分 30−95%(B)、20−25分 95%(B)、25−26分 95−30%(B)、26−28分 30%(B)。
【0147】
分析HPLC:HPLCカラム−Luna C8(2) 150x4.6mm、溶媒A=水,B=MeCN、流量1mL/分、UV 254nm、ループ100μL。
【0148】
実施例5:インビトロ親和性アッセイ
本発明の化合物の親和性を評価するため、トリチウム化FMZを競合剤として利用する競合放射性リガンド結合アッセイを実施した。トリチウム化フルマゼニルは、1mCi/mLの濃度でMEN Perkin Elmer社(Cat.NET757250UC)から購入した。簡単に述べれば、10μlの試験化合物を(40nMに希釈した)2nMトリチウム化FMZの存在下でラット小脳の粗ホモジネートと共にインキュベートした。ホモジネートは、Dounceホモジナイザーを用いて、10×容量のホモジナイゼーション緩衝液(10mM KH2PO4緩衝液、pH7.4)中で小脳をホモジナイズすることで調製した。ホモジネートを48000g(SW40Tiローターを用いて1956RPM)で4℃で30分間遠心した。ホモジネートは常に氷上に保った。90分後、アッセイ物をガラス繊維マットで濾過し、それによってホモジネート及びそれに結合したリガンドを濾別した。次いで、液体シンチレーションを用いてフィルターマット上の放射能の量を測定した。化合物1及び化合物2に関する親和性データを、商業的に入手可能な先行技術の化合物であるフルマゼニルと共に、下記表1に示す。
【0149】
【表1】

【0150】
実施例6:[18F]−化合物1のインビボ体内分布
成体雄Sprague−Dawleyラット(体重202±37g、平均±SD)に、側尾静脈を通して1〜5MBqの[18F]−化合物1を注射した。いずれの動物も意識があったが、注射中は軽く拘束し、次いで短期代謝ケージ内に収容した。特定の時点、即ち注射後(pi)30秒、2分、10分、30分及び60分(各時点についてn=3)に、動物を頸部脱臼によって屠殺した。剖検後、脳及び末梢の組織又は体液を試料採取した。Wallacガンマカウンターを用いて脳試料中の放射能を測定した。アッセイ後、放射性崩壊に関する自動補正を含む双晶ガンマカウンターシステム(BASIL社)を用いて脳組織を残りの器官又は組織試料と共にアッセイした。下記表2は、脳領域において得られたデータを示している。
【0151】
【表2】

【0152】
18F]−化合物1の全脳取込みは注射後10分で0.9%のピークに達し、次いで(プラトーに向かって)減少する速度でゆっくりと排出された。(脳のGABAリッチ領域とGABAプア領域との間には)良好な領域差別化が存在し、これは注射後30分でも明らかに保たれた。
【0153】
実施例7:[18F]−化合物2のインビボ体内分布
化合物1に関して実施例6に記載した体内分布プロトコルを用いて化合物2を評価した。下記表3は、脳領域において得られたデータを示している。
【0154】
【表3】

【0155】
18F]−化合物2の全脳取込みは注射後2分で0.82%のピークに達し、次いで(プラトーに向かって)減少する速度でゆっくりと排出された。(脳のGABAリッチ領域とGABAプア領域との間には)良好な領域差別化が存在し、これは注射後10分でも明らかに保たれた。
【0156】
比較例8:[18F]フルマゼニル([18F]FMZ)の合成法
比較例8(i):4−メチル−7−ニトロ−3,4−ジヒドロ−1H−ベンゾ[e][1,4]ジアゼピン−2,5−ジオン(10)の合成
【0157】
【化24】

【0158】
フラスコを撹拌しながらゆっくりと140℃に加熱することで、商業的に入手可能な5−ニトロイサト酸無水物(40g、0.192mol)をDMSO(50mL)に溶解した。溶液にサルコシン(17.1g、0.192mol)を少しずつゆっくりと添加した。添加後、140℃で溶液は泡立ち始めた(CO2の生成)。混合物を2.5時間撹拌し続けた。混合物を放冷し、ビーカー内の氷冷水中にゆっくりと注ぎ込んだ。溶液をガラス棒で撹拌したところ、黄色の固体が析出した。固体を濾過によって分離し、水で数回洗浄し、次いで40℃の真空オーブン内で一晩乾燥した。単離された黄色の固体は、収率78%の所望生成物10であることが確認された。
【0159】
1H NMR(D6−DMSO):δ 3.14(3H,s,NC3)、3.97(2H,s,NC2CO)、7.30(1H,d,J=9Hz,HNCCCH)、8.33(1H,dd,J=9 and 3Hz,CHCCNO2CH)、8.33(1H,d,J=3Hz,OC−CC)、11.05(1H,s,N)。
【0160】
比較例8(ii):ニトロマゼニル(11)の製造
【0161】
【化25】

【0162】
中間体10(1g、4.3mmol)をTHF(10mL)及びDMF(2mL)に溶解した溶液に、窒素下0℃でカリウムtert−ブトキシド(0.6g、5mmol)を添加した。30分後、反応物を0℃に冷却し、ジエチルクロロホスフェート(0.7mL、5mmol)の滴下で処理し、30分間撹拌した。他方、エチルイソシアノアセテート(0.6mL、5mmol)をTHF(10mL)に溶解した撹拌溶液に、窒素下0℃でカリウムtert−ブトキシド(0.6g、5mmol)を添加し、15分間撹拌した。次いで、これを中間体10の混合物に0℃でゆっくりと添加した。これを0℃で0.5時間撹拌し、次いで室温でさらに2時間撹拌した。TLC(酢酸エチル)は、UV及びKMnO4により、出発原料(Rf 0.4)及び新しいスポット(Rf 0.2)を示した。
【0163】
反応物を酢酸で奪活し、一晩撹拌し続けた。反応混合物を氷水中に注ぎ込んだ。これを酢酸エチルで抽出し、有機層を水及びブラインで洗浄し、乾燥し、濃縮して濃暗色の濃厚油状物を得た。これを、下記の条件を用いたクロマトグラフィーによって数回処理した。
1)DCM/酢酸エチルを用いたCompanion(2回)
2)ペトロール/酢酸エチルを用いたCompanion(2回)
50mgの純物質11を無色の固体(収率4%)として得た。
【0164】
1H NMR(CDCl3):δ 1.39(3H,t,J=7Hz,C3)、3.28(3H,s,ArCONC3)、4.37(2H,q,J=7Hz,OC2)、4.40(1H,br s,C2)、5.26(1H,br s,C2)、7.60(1H,d,J=8.9Hz,ArCCHCNO2)、7.94(1H,s,NCN)、8.45(1H,dd,J=8.9 and 2.8Hz,ArCHCCNO2)、8.95(1H,d,J=2.5Hz,ArCCNO2)。
【0165】
比較例8(iii):[18F]フルマゼニル([18F]FMZ)を得るためのニトロマゼニル(11)の放射性フッ素化
【0166】
【化26】

【0167】
TRACERlab自動化合成モジュール(GE Healthcare社)上で18F標識を行った。プレコンディショニング済みのQMAカートリッジ上に[18F]フッ化物イオンを捕捉し、次いでテトラ−n−ブチルアンモニウム重炭酸塩をMeCN/水に溶解した溶液(MeCN 1400μL、水100μL、TBA・HCO3 27mg)を用いてバイアル1から反応器に移した。窒素+真空フローを使用しながら、溶液を100℃で10分間、次いで120℃で20分間乾燥し、次いで50℃に冷却した。
【0168】
乾燥した[18F]フッ化物イオンに、DMF(1mL)中のニトロマゼニル(18.8mg)をバイアル3から添加した。反応混合物を160℃で30分間加熱し、次いで50℃に冷却した。反応混合物をバイアル5からの10mMリン酸(2.5mL)で希釈し、粗生成物管に移した。
【0169】
次いで、粗生成物を分取HPLCループに手動で移した。分取HPLCは17.5分の保持時間を有するピークを与えたが、これを水(12mL)の入ったTRACERlabの丸底フラスコ内にカットした。分取HPLCシステムは液体フローシンチレーションカウンターを備えていた。
【0170】
【表4】

【0171】
丸底フラスコ内の混合物を、(1mLのエタノール、次いで2mLの水でプレコンディショニングを施した)tC18 plus lite SPEカートリッジ上に捕捉した。SPEカートリッジを水(3mL)で洗浄し、EtOH(0.3mL)及び水(4.5mL)を用いて粗生成物をP6バイアル中に溶出した。
【0172】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の式Iの放射性フッ素化化合物。
【化1】

(式中、
1及びR2の一方はC1-418F]フルオロアルキル又はC1-418F]フルオロアルコキシであって、他方は水素であり、
3はC(=O)−O−R4(式中、R4は水素又は直鎖若しくは枝分れC1-4アルキルであるか、或いはR4はC3-5複素環である。)である。)
【請求項2】
1及びR2の一方がC1-418F]フルオロアルキルである、請求項1記載の放射性フッ素化化合物。
【請求項3】
1及びR2の一方が[18F]フルオロメチル又は[18F]2−フルオロエチルである、請求項2記載の放射性フッ素化化合物。
【請求項4】
1及びR2の一方がC1-418F]フルオロアルコキシである、請求項1記載の放射性フッ素化化合物。
【請求項5】
1及びR2の一方が[18F]フルオロメトキシ又は[18F]2−フルオロエトキシである、請求項4記載の放射性フッ素化化合物。
【請求項6】
1が[18F]フルオロメトキシ又は[18F]2−フルオロエトキシである、請求項5記載の放射性フッ素化化合物。
【請求項7】
1が[18F]2−フルオロエトキシである、請求項6記載の放射性フッ素化化合物。
【請求項8】
3がC(=O)−O−R4(式中、R4は直鎖C1-4アルキルである。)である、請求項1乃至請求項7のいずれか1項記載の放射性フッ素化化合物。
【請求項9】
4がメチル又はエチルである、請求項8記載の放射性フッ素化化合物。
【請求項10】
4がエチルである、請求項9記載の放射性フッ素化化合物。
【請求項11】
3がC(=O)−O−R4(式中、R4は枝分れC1-4アルキルである。)である、請求項1乃至請求項7のいずれか1項記載の放射性フッ素化化合物。
【請求項12】
4がtert−ブチルである、請求項11記載の放射性フッ素化化合物。
【請求項13】
請求項1乃至請求項12のいずれか1項記載の放射性フッ素化化合物の合成方法であって、次の式Iaの前駆体化合物を適当な18F供給源と反応させる段階を含んでなる方法。
【化2】

(式中、
1a及びR2aの一方は前駆体基であって、他方はHであり、R1aが前駆体基である場合にそれはC1-4アルキル−LG、C1-4アルコキシル−LG及びヒドロキシルから選択され、R2aが前駆体基である場合にそれはC1-4アルキル−LG及びC1-4アルコキシル−LGから選択され、LGはブロミド、メシレート及びトシレートから選択される脱離基であり、
3aは請求項1及び請求項8乃至請求項12のいずれか1項でR3に関して定義した通りである。)
【請求項14】
1aが前記前駆体基である、請求項13記載の方法。
【請求項15】
1aがアルコキシ−LGであり、前記適当な18F供給源が[18F]フッ化物イオンである、請求項14記載の方法。
【請求項16】
1aがヒドロキシルであり、前記適当な18F供給源がC1-418F]フルオロアルキル−LGである、請求項14記載の方法。
【請求項17】
当該方法が自動化される、請求項13乃至請求項16のいずれか1項記載の方法。
【請求項18】
請求項17記載の方法を実施するためのカセットであって、
(i)請求項13乃至請求項16のいずれか1項記載の方法で定義された式Iaの前駆体化合物を含む容器、及び
(ii)適当な18F供給源を用いて容器を溶出するための手段
を含んでなるカセット。
【請求項19】
さらに、過剰の18Fを除去するためのイオン交換カートリッジを含む、請求項18記載のカセット。
【請求項20】
請求項1乃至請求項12のいずれか1項記載の放射性フッ素化化合物を、哺乳動物への投与に適した形態の生体適合性キャリヤーと共に含んでなる放射性医薬組成物。
【請求項21】
PETイメージング方法で使用するための、請求項1乃至請求項12のいずれか1項記載の放射性フッ素化化合物。
【請求項22】
被験体の中枢神経系(CNS)におけるGABAA受容体の分布を決定するための陽電子放出断層撮影(PET)イメージング方法であって、
(i)請求項1乃至請求項12のいずれか1項記載の放射性フッ素化化合物を前記被験体に投与する段階、
(ii)段階(i)で投与した前記放射性フッ素化化合物を前記被験体のCNS内のGABAA受容体に結合させる段階、
(iii)段階(ii)で結合させた前記放射性フッ素化化合物中に存在する18Fの陽電子放出崩壊から導かれる信号を検出する段階、並びに
(iv)前記信号の位置及び量の画像を形成する段階であって、前記信号が前記被験体におけるGABAA受容体の分布を表す段階
を含んでなるPET方法。
【請求項23】
前記放射性フッ素化化合物が請求項20記載の放射性医薬組成物として投与される、請求項22記載のPET方法。
【請求項24】
前記被験体はGABAA状態を有することが知られ又は疑われている、請求項22又は請求項23記載のPET方法。
【請求項25】
前記被験体に関する治療計画の進行中に繰り返して実施される請求項22又は請求項23記載のPET方法であって、前記治療計画がGABAA状態と戦うための薬物の投与を含むPET方法。
【請求項26】
請求項22記載のPET方法を、GABAA発現の分布を特定の臨床像に帰因させる追加段階(v)と共に含んでなる診断方法。
【請求項27】
請求項25記載のPET方法又は請求項26記載の診断方法で使用するための、請求項1乃至請求項12のいずれか1項記載の放射性フッ素化化合物。

【公表番号】特表2013−507345(P2013−507345A)
【公表日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−532624(P2012−532624)
【出願日】平成22年10月8日(2010.10.8)
【国際出願番号】PCT/EP2010/065126
【国際公開番号】WO2011/042550
【国際公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【出願人】(305040710)ジーイー・ヘルスケア・リミテッド (99)
【Fターム(参考)】