説明

インピーダンス呼吸測定装置及び呼吸状態測定システム

【課題】体動アーチファクトに対して強く、高精度な呼吸状態測定を可能とする。
【解決手段】定電流を印加するための入力ペア電極と電位差を検出するための出力ペア電極とを含む生体の表面の所定の位置を囲繞するように貼着された複数の電極11−1〜11−8と、第1の入力電極ペアから電流を与えた場合に、第1の出力電極ペアの電位差を検出し、第2の入力電極ペアから電流を与えた場合に、第2の出力電極ペアの電位差を検出する電位差検出手段である測定手段22と、前記第1の出力電極ペアと前記第2の出力電極ペアとのそれぞれから得られた電位差に基づき平均インピーダンスを算出する算出手段54とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はインピーダンス呼吸測定装置に関するものであり、また、上記インピーダンス呼吸測定装置及び電気的インピーダンス断層像測定装置を用いて構成した呼吸状態測定システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のインピーダンス呼吸測定装置においては、複数の電極を胸部などに配置し、電流を供給する2電極と電位差を検出する2電極を定めて電位差測定をすることにより電気インピーダンスを求めるものである。このようなインピーダンス呼吸測定装置においては、体動アーチファクトの発生が問題とされており、このアーチファクトを除去する各種の手法が開発されている。
【0003】
例えば、通常のインピーダンス呼吸測定を行う第1のチャネル以外に体動による体動アーチファクト観測用の第2のチャネルを設け、第1のチャネルにより得られた信号と第2のチャネルにより得られた信号との比較に基づき純粋な呼吸情報を求めるように構成した装置が知られている(特許文献1参照)。
【0004】
また、複数の周波数によって測定を行い、これらの差信号を計算し、1つ以上の周波数におけるインピーダンス測定値自体を表す信号に関して、差信号を正規化することにより、運動アーチファクトのように、周波数に依存する変化がインピーダンス信号値に実質的に比例するインピーダンス信号成分の影響を抑制するものも知られている(特許文献2参照)。
【0005】
従来のインピーダンス呼吸測定装置の別の問題は、事前にフローセンサなどによる校正を行うことで換気量を測定することは可能であるものの、体位(座位、立位、仰臥位等)毎に校正データが必要であり、事前に体位毎に校正するとしても、体位が変わる毎に測定にするとしても、いずれも時間を要し煩わしいものであった。
【0006】
上記に対し、電気的インピーダンス断層像測定装置ではフローセンサなどによる校正を行うことなく換気量を測定することが可能であり、これによれば経時的に換気量を測定することが可能である。しかしながら、この電気的インピーダンス断層像測定装置は体動の影響を受けやすく体動中は、各画素の最適な電気的特性値で表示する断層像も換気量も精度が著しく低下してしまう、という問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公平03−47095号公報
【特許文献2】特表2000−517199号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記のような呼吸測定の現状に鑑みてなされたもので、その目的は、体動による影響を受けにくく、体動があったとしても高精度な測定が可能なインピーダンス呼吸測定装置及び呼吸状態測定システムを提供することである。更に、本発明は、電気的インピーダンス断層像測定装置により、時々刻々の換気量変化を推定できるため、体位の変化を検出すると、フローセンサなどを用いることなく、直ちに換気量を再校正し、常時、精度の高い換気量を得ることが可能な呼吸状態測定システムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るインピーダンス呼吸測定装置は、定電流を印加するための入力ペア電極と電位差を検出するための出力ペア電極とを含む生体の表面の所定の位置を囲繞するように貼着された複数の電極と、第1の入力電極ペアから電流を与えた場合に、第1の出力電極ペアの電位差を検出し、第2の入力電極ペアから電流を与えた場合に、第2の出力電極ペアの電位差を検出する電位差検出手段と、前記第1の出力電極ペアと前記第2の出力電極ペアとのそれぞれから得られた電位差に基づき平均インピーダンスを算出する算出手段と、を具備する。
【0010】
本発明に係るインピーダンス呼吸測定装置では、前記算出手段は、算出された平均インピーダンスに基づき、生体の呼吸状態情報を得ることを特徴とする。
【0011】
本発明に係るインピーダンス呼吸測定装置は、更に、複数電極から選択する入力電極ペアと出力電極ペアとを変更して、算出手段により算出された平均インピーダンスを比較し、最適入力電極ペアと出力電極ペアとを決定する電極位置決定部を備えることを特徴とする。
【0012】
本発明に係るインピーダンス呼吸測定装置は、更に、前記平均インピーダンスの算出と同時に換気量を測定可能な換気量測定手段と、平均インピーダンスを換気量に変換する校正式を複数算出して保存する校正手段を備え、前記校正手段が供する校正式から適切な校正式を選択し、前記算出手段により算出された平均インピーダンスから換気量を推定することを特徴とする。
【0013】
本発明に係るインピーダンス呼吸測定装置では、前記インピーダンス呼吸測定装置は、体位変化の有無を検出する体位変化検出手段を具備し、体位変化検出手段により体位の変化を検出した場合には、前記校正手段が供する校正式を切り替え、あるいは新たな校正式を算出し、前記算出手段により算出された平均インピーダンスから換気量を推定することを特徴とする
【0014】
本発明に係る呼吸状態測定システムは、定電流を印加するための入力ペア電極と電位差を検出するための出力ペア電極とを含む生体の表面の所定の位置を囲繞するように貼着された複数の電極と、生体の臓器と組織の位置およびその電気的特性に基づき、前記生体断面を多数のメッシュに分割し、各メッシュの電気的特性値を複数(n)に変化させて演算可能な3次元以上の数学モデルを作成し、この数学モデルを用いて出力ペア電極にそれぞれ発生する複数(n)の第一の電位差(Dmodel)を算出すると共に、前記入力ペア電極に定電流を印加した場合に、前記出力ペア電極に発生する第二の電位差(Dmean)を測定し、前記第一の電位差(Dmodel)と第二の電位差(Dmean)を用いて各画素に対応した複数(n)の電気的特性値を算出して該電気的特性値から各画素における最適な電気的特性値を推定して断層画像を得る電気的インピーダンス断層像測定装置と、第1の入力電極ペアから電流を与えた場合に、第1の出力電極ペアの電位差を検出し、第2の入力電極ペアから電流を与えた場合に、第2の出力電極ペアの電位差を検出する電位差検出手段と、前記第1の出力電極ペアと前記第2の出力電極ペアとのそれぞれから得られたから電位差に基づき平均インピーダンスを算出する算出手段と、を有するインピーダンス呼吸測定装置と、前記電気的インピーダンス断層像測定装置と前記インピーダンス呼吸測定装置とから生体の呼吸状態情報を得る中央制御部とを具備することを特徴とする。
【0015】
本発明に係る呼吸状態測定システムでは、インピーダンス呼吸測定装置には、複数電極から選択する入力電極ペアと出力電極ペアとを変更して、算出手段による算出を行い、最適入力電極ペアと出力電極ペアとを決定する電極位置決定部が備えられていることを特徴とする。
【0016】
本発明に係る呼吸状態測定システムでは、電気的インピーダンス断層像測定装置は、各画素における最適な電気的特性値に基づき、生体の換気量を求める換気量算出手段を具備することを特徴とする。
【0017】
本発明に係る呼吸状態測定システムでは、前記インピーダンス呼吸測定装置は、更に、前記算出手段により算出された平均インピーダンスと、電気的インピーダンス断層像測定装置の換気量算出手段から供される換気量から、平均インピーダンスを換気量に変換する校正式を算出して保存する校正手段を備え、前記校正手段が供する校正式から適切な校正式を選択し、前記算出手段により算出された平均インピーダンスから換気量を推定することを特徴とする。
【0018】
本発明に係る呼吸状態測定システムでは、前記インピーダンス呼吸測定装置は、体位変化の有無を検出する体位変化検出手段を具備し、体位変化検出手段により体位の変化を検出した場合には、前記校正手段が供する校正式を切り替え、あるいは新たな校正式を算出し、前記算出手段により算出された平均インピーダンスから換気量を推定することを特徴とする。
【0019】
本発明に係る呼吸状態測定システムでは、インピーダンス呼吸測定装置は、体動を検出する体動検出手段を具備し、中央制御部は、体動検出手段により体動中であることを検出した場合には、前記インピーダンス呼吸測定装置から得られる換気量情報のみを有効として処理することを特徴とする。
【0020】
本発明に係る呼吸状態測定システムでは、インピーダンス呼吸測定装置は、体位変化の有無を検出する体位変化検出手段を具備し、中央制御部は、体位変化検出手段により体位の変化を検出した場合には、前記インピーダンス呼吸測定装置から得られる換気量情報を再校正することを特徴とする。
【0021】
本発明に係る呼吸状態測定システムにおいては、中央制御部は、一定期間の前記電気的インピーダンス断層像測定装置により得られる各画素における最適な電気的特性値を加算平均することを特徴とする。
【0022】
本発明に係る呼吸状態測定システムにおいては、加算平均では、前記インピーダンス呼吸測定装置から得られる換気量が所定範囲内のときの前記電気的インピーダンス断層像測定装置により得られる各画素における最適な電気的特性値を用いて演算を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係るインピーダンス呼吸測定装置によれば、第1の出力電極ペアと第2の出力電極ペア、それぞれから得た電位差を平均して体動の影響を除去したインピーダンス呼吸を測定したり、それぞれから得た電位差の差分を処理して体動の有無を識別し、電気的インピーダンス断層像測定装置による断層像や換気量の測定が有効なタイミングを検出したり、することが可能である。
【0024】
本発明に係るインピーダンス呼吸測定装置によれば、複数電極から選択する入力電極ペアと出力電極ペアとを変更して、算出手段による算出を行い、最適入力電極ペアと出力電極ペアとを決定する電極位置決定部を備えるので、体動の影響を効果的にキャンセルあるいは低減したインピーダンス呼吸測定が可能である。
【0025】
本発明に係るインピーダンス呼吸測定装置は、更に、生体の換気量を測定する換気量測定手段を備え、ある体位において、平均インピーダンスの算出と同時に換気量を測定し、校正手段により、測定した換気量と平均インピーダンスの校正式を一度算出しておけば、以降は、その体位については、体動が発生しているときであっても、平均インピーダンスから即座に換気量を推定することが可能となる。
【0026】
本発明に係る呼吸状態測定システムによれば、インピーダンス呼吸測定装置と電気的インピーダンス断層像測定装置とから中央制御部において生体の呼吸状態情報を得るので、体動のある場合には、インピーダンス呼吸測定装置の情報のみを使用し、体動が無い場合には、インピーダンス呼吸測定装置と電気的インピーダンス断層像測定装置の両方の情報を使用することができる。例えば、体位変化が生じた際、体位変化中は体動が発生するため、インピーダンス呼吸測定装置からの呼吸状態情報のみを使用し、体位変化が完了し、体動が収束次第、即座に電気的インピーダンス断層像測定装置から算出される換気量とインピーダンス測定装置の平均インピーダンスの関係式を求めることで、以降の同じ体位における換気量算出の変換式として使用することが可能であり、体動が発生しているときであっても、平均インピーダンスから即座に換気量を算出することが可能となる。
【0027】
本発明に係る呼吸状態測定システムでは、さらに、電極、定電流印加手段、測定手段については、電気的インピーダンス断層像測定装置に備えられるものをインピーダンス呼吸測定装置で共用できるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明に係る呼吸状態測定システムの実施形態を示す構成図。
【図2】本発明に係る呼吸状態測定システムを構成するインピーダンス呼吸測定装置の第1の実施形態によるインピーダンス測定を説明するための胸部における電極等の配置構成図。
【図3】本発明に係る呼吸状態測定システムを構成するインピーダンス呼吸測定装置の第1の実施形態によるインピーダンス測定を説明するための胸部における電極等の配置構成図。
【図4】本発明に係る呼吸状態測定システムを構成するインピーダンス呼吸測定装置の第2の実施形態によるインピーダンス測定を説明するための胸部における電極等の配置構成図。
【図5】本発明に係る呼吸状態測定システムを構成するインピーダンス呼吸測定装置の第2の実施形態によるインピーダンス測定を説明するための胸部における電極等の配置構成図。
【図6】本発明に係る呼吸状態測定システムを構成するインピーダンス呼吸測定装置の第2の実施形態によるインピーダンス測定を説明するための胸部における電極等の配置構成図。
【図7】本発明に係る呼吸状態測定システムを構成する電気的インピーダンス断層像測定装置のEIT画像の加算平均により代表的EIT画像を生成する例を示す図。
【図8】本発明に係る呼吸状態測定システムを構成する電気的インピーダンス断層像測定装置の代表的EIT画像を表示する例を示す図。
【図9】本発明に係る呼吸状態測定システムを構成するインピーダンス呼吸測定装置で測定されるインピーダンス波形から体動情報を抽出する方法を説明する図。
【図10】本発明に係る呼吸状態測定システムを構成する電気的インピーダンス断層像測定装置の電極配置を、インピーダンス呼吸測定装置と共用したときの利点を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下添付図面を参照して、本発明に係るインピーダンス呼吸測定装置及び呼吸状態測定システムの実施形態を説明する。各図において同一の構成要素には、同一の符号を付して重複する説明を省略する。図1に実施形態に係る呼吸状態測定システムの構成図を示す。このシステムでは、生体10に複数の電極11(11−1、11−2、・・・、11−8など)が生体を囲繞するように貼着される。ここでは、1断面に8個を等間隔に配置した例であるが16個などでもよく、異なる断面に異なる個数を配置してもよい。
【0030】
以上のように構成された電極11は、図1に示す電極制御部20、コンピュータシステム50を有するインピーダンス呼吸測定装置、コンピュータシステム30を有する電気的インピーダンス断層像測定装置に適用される。コンピュータシステム30、50には、電極制御部20が接続されている。
【0031】
電極11−1〜11−8を含む各電極は、リード線を介して電極制御部20に接続されている。電極制御部20はリード線を介さず各電極上に直接配置してもよい。電極制御部20は、定電流印加手段21と測定手段22とを含み、印加される定電流は細胞壁を直進する高い周波数(例えば数MHz以上)が望ましいが、数十kHz〜数百kHz程度であってもよい。定電流印加手段21と測定手段22とは、同じクロックを与えられて同期して動作する。
【0032】
以下、本発明に係るインピーダンス呼吸測定装置の実施形態を説明する。本発明に係るインピーダンス呼吸測定装置の実施形態は、呼吸状態測定システムの一部を構成している。この装置は、図1に示すように電極制御部20がコンピュータシステム50に接続された構成を有している。
【0033】
図1に示すコンピュータシステム50は、CPUや主記憶部及び外部記憶部などを含む本体部51と、本体部51に接続されたLEDなどにより構成される表示部52とキーボードやマウスなどにより構成される入力部53とを備えている。本体部51には、第1の出力電極ペアと第2の出力電極ペアとのそれぞれから得られたから電位差に基づき平均インピーダンスを算出する算出手段54、体位変化の有無を検出する体位変化検出手段56,第1の出力電極ペアと第2の出力電極ペアとのそれぞれから得られたから電位差に基づき体動の有無を検出する体動検出手段56、平均インピーダンスと体動の有無と体位変化の有無、を呼吸情報として出力する呼吸情報出力手段55が備えられている。
【0034】
以下の説明では、出力電極ペアの一方の電極は胸部中央に貼着されたものに固定する。第1の実施形態として、電極4個(11−1〜11−4)を、電極11−1は、胸部中央に、電極11−3は電極11−1と同じ高さの背側中央に、電極11−2は電極11−3の右側、電極11−4は電極11−3の左側に、それぞれ例えば4〜5cmの間隔を持たせて貼着した場合の例を図2、図3に示す。
【0035】
図2、図3における22Aは測定手段22内のアンプを示す。また、図2、図3の円は生体の胸郭を示し、円内の線は電気力線であり、隣接する電気力線の間隔は、0.1Vを示す。ここでは、図2の生体の電気的特性が左右対称であり、かつ電極配置が完全に左右対称であるとする。
【0036】
まず、図2(a)に示すように、接続切替器が制御されて、電極11−1と電極11−2を測定手段22に接続される。また、コンピュータシステム50は接続切替器を制御して、電極11−3と電極11−4を定電流印加手段21に接続する。この図2(a)に示す状態において定電流印加手段21から1mAの電流を流して測定を行う(Aモード)。このとき、アンプ22Aの出力から0.6Vの電位差が得られたとすると、インピーダンスZA は、0.6Vを1mAにより除して600Ωとなる。
【0037】
次に図2(b)に示すように、接続切替器が制御されて、電極11−1と電極11−4が測定手段22に接続される。また、接続切替器が制御されて、電極11−3と電極11−2が定電流印加手段21に接続される。この状態において定電流印加手段21から1mAの電流を流して測定を行う(Bモード)。このとき、アンプ22Aの出力から0.6Vの電位差が得られたとすると、インピーダンスZB は、0.6Vを1mAにより除して600Ωとなる。このように、測定手段22は、第1の出力電極ペアの電位差を検出し、第2の入力電極ペアから電流を与えた場合に、第2の出力電極ペアの電位差を検出する電位差検出手段として機能する。
【0038】
ここで、第1の出力電極ペア(11−1と11−2)の一方の電極11−1と第2の出力電極ペア(11−1と11−4)の一方の電極11−1は固定された同一の電極である。また、第1の入力電極ペア(11−3と11−4)の一方の電極11−3と第2の入力電極ペア(11−3と11−2)の一方の電極11−3は固定された同一の電極である。
【0039】
図2に示す生体の電気的特性が左右対称であり、かつ電極配置も完全に左右対称であるとすると、第1の出力電極ペア(図2(a)の11−1と11−2)から得られるZAと第2の出力電極ペア(図2(b)の11−1と11−4)から得られるZBは等しくなるため、平均する必要はない。しかし、実際の生体では、電極を完全に左右対称に配置することは難しく、また、生体の電気的特性も左右対称ではないため、ZAとZBには多少なりとも差異が発生してしまう。コンピュータシステム50はこの差異を低減させるために、算出手段54により、ZAとZBを平均したインピーダンス(610+590)÷2=600Ωを算出し、インピーダンス呼吸測定装置の第1の実施形態で得られる平均インピーダンスとして扱う。算出手段54は、第1の出力電極ペアと第2の出力電極ペアとのそれぞれから得られたから電位差に基づき平均インピーダンスを算出するものである。
【0040】
次に、このような測定を行う場合に、身体を捩じらせるような体動により電極が移動することがある。図3の例では電極11−2が、安静時にはP1にあったものが、体動中のあるタイミングにP2に移動したことを示す。
【0041】
上記の場合にも、図2において説明したようにして測定を行う。まず、図3(a)に示すように接続切替器が制御されて、電極11−1と電極11−2が測定手段22に接続される。また、接続切替器が制御されて、電極11−3と電極11−4が定電流印加手段21に接続される。この図3(a)に示す状態において定電流印加手段21から1mAの電流を流して測定を行う。このとき、アンプ22Aの出力から0.5Vの電位差が得られたとすると、インピーダンスZA は、0.5Vを1mAにより除して500Ωとなる。
【0042】
次に図3(b)に示すように、接続切替器を制御して、電極11−1と電極11−4が測定手段22に接続される。また、接続切替器が制御されて、電極11−3と電極11−2が定電流印加手段21に接続される。この状態において定電流印加手段21から1mAの電流を流して測定を行う。このとき、アンプ22Aの出力から0.7Vの電位差が得られたとすると、インピーダンスZB は、0.7Vを1mAにより除して700Ωとなる。
【0043】
このとき、第1の出力電極ペア(図3(a)の11−1と11−2)から得られるZA、および第2の出力電極ペア(図3(b)の11−1と11−4)から得られるZBは、それぞれ単独では、電極11−2の位置が移動していない図2のときの平均インピーダンス600Ωからの乖離が大きくなってしまうが、算出手段54により、ZAとZBを平均したインピーダンス(500+700)÷2=600Ωを求めることにより、体動で電極位置が移動して発生するインピーダンス測定値の誤差の影響をキャンセル、あるいは軽減することができる。
【0044】
次に、平均インピーダンスから、呼吸情報としての換気量を算出する手順について説明する。まず、本実施形態のインピーダンス呼吸測定装置は、測定開始時、体位が変わった時、および任意のタイミングにおいて、平均インピーダンスの算出と同時に、換気量測定手段により生体の換気量を測定する。次に、校正手段により、平均インピーダンスと換気量を対応付けた校正式を算出する。呼吸情報出力手段55はこの関係式を用いて時々刻々と変化する平均インピーダンスからリアルタイムで換気量を推定することが可能となる。なお、インピーダンス呼吸測定装置の換気量測定手段としては、後述する電気的インピーダンス断層像測定装置から提供される換気量情報を用いることも可能である。
【0045】
ところで、インピーダンス呼吸測定装置で算出される平均インピーダンスと換気量の関係は、体位によって大きく変化する。そこで本実施形態のインピーダンス呼吸測定装置には、加速度センサなどにより構成される体位変化検出手段56が設けられており、体位変化の有無を呼吸情報出力手段55に通知する。呼吸情報出力手段55は、体位変化に応じて校正式を切り替え、必要であれば換気量を測定し直して校正式を新たに算出し、平均インピーダンスを換気量に変換する。なお、校正式の切り替えは、本呼吸状態測定システムによる測定開始時に、呼吸流量センサなどで測定した換気量と平均インピーダンスの関係を、あらかじめ想定される異なる体位で測定してデータベース化しておき、測定開始後、体位変化検出手段56で体位変化が検出された場合に、検出された体位に最も近い体位の校正式を選択する、というような方法が可能である。また、データベースに保存する校正式は、当該被験者について換気量を測定して算出するかわりに、複数人の被験者のデータを平均してデータベース化したものであっても良い。
【0046】
インピーダンス呼吸測定装置の本体部51には、体動検出手段57が備えられている。この体動検出手段57について、図9の例で説明する。図9はベッド上で安静呼吸中に寝返り動作が複数回行われたとき(実線の丸で囲った部分)及びその他の体動動作が複数回行われたとき(破線の丸で囲った部分)を含むインピーダンス波形であり、1段目がAモード、2段目がBモードの測定を示したものである。これに対し、AモードとBモードの差分をとり(3段目のグラフ)、ハイパスフィルタをかけてオフセットを除去(4段目のグラフ)した後に積分処理を行ったものが5段目のグラフである。体動の有無に係る体動情報を判断し出力する体動検出手段57は、5段目のグラフに示す情報を得て、このグラフの情報があらかじめ設定した閾値以上となったときについて、体動が発生している、と判断する。このように、体動検出手段57は、寝返り動作やその他の体動動作が行われたことを的確に検出することができる。
【0047】
呼吸情報出力手段55は、例えば、上記のようにして算出手段54が算出したインピーダンスを校正式に基づき換気量に変換した値、および体動検出手段57によって検出された体動の有無、について、中央制御部60に出力し、表示部61に表示する。
【0048】
ところで、身体を捩じらせるような体動が大きくなり、電極が大きく移動した場合、第1の実施形態ではその影響を十分にキャンセルあるいは低減できない場合がある。このような状況に対応するために、第2の実施形態では、さらに、図1に示すように、生体の胸部表面の所定の位置を囲繞するように貼着された複数の電極(図1では11−1〜11−8の8個)から最適な入力電極ペアと出力電極ペアをコンピュータシステム50により決定した後、その入力および出力電極ペアで測定されたインピーダンスを平均する、という手順により、第1の実施形態よりもさらに強力に、体動の影響をキャンセルあるいは軽減する。
【0049】
これについて、8個の電極を図4、図5、図6のように配置した場合を参照して説明する。図4、図5、図6のいずれでも、電極11−1は、胸部中央に、電極11−5は電極11−1と同じ高さの背側中央に、それぞれ配置されている。さらに電極11−5から時計回りに4〜5cmの間隔を持たせて電極11−4、11−3、11−2が、電極11−5から反時計回りに4〜5cmの間隔を持たせて電極11−6、11−7、11−8が、それぞれ貼着されている。ここでは、電極11−5から左右に3個ずつとしたが、それぞれ1以上であれば良い。また、電極貼着位置を、脇腹方向に移動させても良い。
【0050】
図4(a)において、出力電極ペアの固定電極を電極11−1、第1の出力電極ペアの他方の電極を電極11−3とする。入力電極ペアの固定電極を電極11−5とすると、第1の入力電極ペアの他方の電極は、電極11−5を中心に第1の出力電極ペアの固定電極ではないほうの電極と対称な位置にある電極11−7となる。このとき、まず、図4(a)に示すように接続切替器が制御されて、電極11−1と電極11−3が測定手段22に接続される。また、接続切替器が制御されて、電極11−5と電極11−7が定電流印加手段21に接続される。この状態において定電流印加手段21から1mAの電流を流して測定を行う(Aモード)。このとき、アンプ22Aの出力から0.9Vの電位差が得られたとすると、インピーダンスZA は、0.9Vを1mAにより除して900Ωとなる。
【0051】
次に、図4(b)に示すように、第1の出力および入力電極ペアの固定電極以外の電極を逆にし、すなわち、第2の出力電極ペアを電極11−1と電極11−7、第2の入力電極ペアを電極11−5と電極11−3、とする。このとき、接続切替器が制御されて、電極11−1と電極11−7が測定手段22に接続される。また、接続切替器が制御されて、電極11−5と電極11−3が定電流印加手段21に接続される。この状態において定電流印加手段21から1mAの電流を流して測定を行う(Bモード)。このとき、アンプ22Aの出力から0.6Vの電位差が得られたとすると、インピーダンスZB は、0.6Vを1mAにより除して600Ωとなる。以上より、AモードとBモードのインピーダンスの差はΔZ1=ZA−ZB=900−600=300Ωとなる。
【0052】
選択する第1の出力電極ペアと第2の出力電極ペア及び第1の入力電極ペアと第2の入力電極ペアを変更した例の一つを、図5を用いて説明する。このときにも、まず、図5(a)に示すように接続切替器が制御されて、電極11−1と電極11−4が測定手段22に接続される。また、接続切替器が制御されて、電極11−6と電極11−8が定電流印加手段21に接続される。この状態において定電流印加手段21から1mAの電流を流して測定を行う(Aモード)。このとき、アンプ22Aの出力から1.1Vの電位差が得られたとすると、インピーダンスZA は、1.1Vを1mAにより除して1100Ωとなる。
【0053】
次に図5(b)に示すように、第1の出力および入力電極ペアの固定電極以外の電極を逆にし、すなわち、第2の出力電極ペアを電極11−1と電極11−8、第2の入力電極ペアを電極11−6と電極11−4、とする。このとき、接続切替器が制御されて、電極11−1と電極11−8が測定手段22に接続される。また、接続切替器が制御されて、電極11−6と電極11−4が定電流印加手段21に接続される。この状態において定電流印加手段21から1mAの電流を流して測定を行う(Bモード)。このとき、アンプ22Aの出力から0.5Vの電位差が得られたとすると、インピーダンスZB は、0.5Vを1mAにより除して500Ωとなる。以上より、AモードとBモードのインピーダンスの差はΔZ2=ZA−ZB=1100−500=600Ωとなる。
【0054】
選択する第1の出力電極ペアと第2の出力電極ペア及び第1の入力電極ペアと第2の入力電極ペアを変更した別の例を、図6を用いて説明する。このときにも、まず、図6(a)に示すように接続切替器が制御されて、電極11−1と電極11−2が測定手段22に接続される。また、接続切替器が制御されて、電極11−4と電極11−6が定電流印加手段21に接続される。この状態において定電流印加手段21から1mAの電流を流して測定を行う(Aモード)。このとき、アンプ22Aの出力から0.8Vの電位差が得られたとすると、インピーダンスZA は、0.8Vを1mAにより除して800Ωとなる。
【0055】
次に図6(b)に示すように、第1の出力および入力電極ペアの固定電極以外の電極を逆にし、すなわち、第2の出力電極ペアを電極11−1と電極11−6、第2の入力電極ペアを電極11−4と電極11−2、とする。このとき、接続切替器が制御されて、電極11−1と電極11−6が測定手段22に接続される。また、接続切替器が制御されて、電極11−4と電極11−2が定電流印加手段21に接続される。この状態において定電流印加手段21から1mAの電流を流して測定を行う(Bモード)。このとき、アンプ22Aの出力から0.8Vの電位差が得られたとすると、インピーダンスZB は、0.8Vを1mAにより除して800Ωとなる。以上より、AモードとBモードのインピーダンスの差はΔZ3=ZA−ZB=800−800=0Ωとなる。
【0056】
図4、5、6、それぞれで選択した入力および出力電極ペアについて、AモードとBモードの差分を比較すると、ΔZ1=300Ω(図4のとき)、ΔZ2=600Ω(図5のとき)、ΔZ3=0Ω(図6のとき)である。本実施形態では、AモードとBモードの乖離が最も小さくなる、図6の入力および出力電極ペアによる測定値を採用し、算出手段54により、ZAとZBを平均した平均インピーダンス(800+800)÷2=800Ω を求めることにより、体動で電極位置が移動して発生するインピーダンス測定値の誤差の影響をキャンセル、あるいは軽減する。
【0057】
また、体動検出手段57は、AモードとBモードの乖離が最も小さくなる、図6の入力および出力電極ペアによる測定値について、既に図9を用いて説明した手順と同様の手順により、AモードとBモードの差分をとり、ハイパスフィルタをかけてオフセットを除去した後、積分処理を行い、あらかじめ設定した閾値以上となったときについて、体動が発生している、と判断する。
【0058】
呼吸情報出力手段55は、例えば、上記のようにして算出手段54が算出したインピーダンスを換気量に変換した値、および体動の有無について、中央制御部60に出力し、表示部61に表示する。
【0059】
上記の例では、3通りの入力および出力電極ペアの組合せから最適なものを選択したが、実際には他の全ての電極ペアについても同様に測定を実施し、最適な入力および出力電極ペアについて、平均インピーダンスを算出する。また、インピーダンス呼吸測定装置は、サンプリング毎に最適な入力および出力電極ペアの選択と平均インピーダンスの算出を実施する。
【0060】
本実施形態によれば、使用する電極数が増加することにより、体動による捩れが大きくなったときにも、測定に使用する入力および出力電極ペアを適切に変更することで、効果的に体動アーチファクトの影響を除去することができる。また、インピーダンス呼吸測定装置で使用する電極は、胸部を囲繞するように等間隔に配置することも可能で、この場合、本発明に係る電気的インピーダンス断層像測定装置と電極を共用できる、という利点がある。
【0061】
次に、本発明に係る電気的インピーダンス断層像測定装置の実施形態を説明する。電気的インピーダンス断層像測定装置は、呼吸状態測定システムの一部を構成している。この装置は、図1に示すように電極制御部20がコンピュータシステム30に接続された構成を有している。
【0062】
定電流印加手段21は、図1の例に示した電極11−1〜11−8を含むスライス面を例にすると、電極11−1〜11−8のいずれかの入力ペア電極(例えば、11−1&11−2)に電流を印加する。
【0063】
測定手段22は、このとき各電極11−1〜11−8のいずれかの出力ペア電極(電極11−1〜11−8の組み合わせ)から出力される電位差を順次取り込み、ディジタル化してコンピュータシステム30へ送る。このとき出力ペア電極は8通りあるが、入力ペア電極の片方あるいは両方が含まれる出力ペア電極(11−1&11−2、11−1&11−8、11−2&11−3)による検出は不正確となるので、電気的インピーダンス断層像測定装置では採用しない。
【0064】
次に、入力ペア電極を異なるペア(例えば、11−2&11−3)に変えて同様に電位差を求める。以下同様に、電極11−1〜11−8のうち、あらかじめ設定されたペアを入力ペア電極とし、前述の手順で出力ペア電極の電位差を測定する。このようにして得られた実測の電位差マトリックスをDmeanとする。電極11−1〜11−8以外の電極により測定されるスライスについても同様に電位差測定を行う。
【0065】
ところで、インピーダンス呼吸測定装置と電気的インピーダンス断層像測定装置で電極を共用する利点としては、電極数を低減できることに加え、電気的インピーダンス断層像測定装置で測定される電位差から、インピーダンス呼吸測定装置のAモードおよびBモードとして測定される電位差(およびインピーダンス)を算出できる、ということが挙げられる。一例として、電気的インピーダンス断層像を測定するために、図10(a)に示すように胸部を囲繞するように等間隔に貼着された8個の電極のうち、図10(b)に示す4個の電極をインピーダンス呼吸測定装置で共用する場合について説明する。Aモードの入力電極ペアを電極5−6、出力電極ペアを電極1−4、またBモードの入力電極ペアを電極4−5、出力電極ペアを電極1−6、としたとき、Aモードの測定は、図10(a)において、電極5−6を入力電極ペアとして測定した3種類の出力電極ペア、A1(電極1−2)、A2(電極2−3)、A3(電極3−4)、を合算したものに等しく、Bモードの測定は、図10(a)において、電極4−5を入力電極ペアとして測定した3種類の出力電極ペア、B1(電極8−1)、B2(電極7−8)、B3(電極6−7)、を合算したものに等しい。すなわち、電極を共用することにより、インピーダンス呼吸測定装置の測定を実施することなく、電気的インピーダンス断層像測定装置の測定結果を演算処理するだけで必要な測定結果を得ることができるため、呼吸状態測定システム全体での測定時間を短縮することが可能となる。
【0066】
コンピュータシステム30は、CPUや主記憶部及び外部記憶部などを含む本体部31と、本体部31に接続されたLEDなどにより構成された表示部32とキーボードやマウスなどにより構成される入力部33とを備えている。本体部31には、FEM(有限要素法)などの3次元以上の数学モデルを作成する数学モデル作成手段34としてのソフトウエアが備えられている。数学モデル作成手段34については、本願発明者らが発明して出願された特願2010−205988号(前提発明という。)に記載の数学モデル作成手段34と同じ処理動作を行うものであり、生体の臓器と組織の位置およびその電気的特性に基づき、生体断面を多数のメッシュに分割して、各メッシュの電気的特性値を複数(n)に変化させて演算可能な3次元以上の数学モデルを作成する。ここに、電気的特性値としては、抵抗率、導電率、誘電率、透磁率、のいずれか一つを採用することが可能である
【0067】
本体部31には、数学モデル作成手段34以外に、第一の算出手段35、第二の算出手段37、決定手段38、断層画像表示制御手段39を備え、データベース36を備えることができる。第一の算出手段35、データベース36、第二の算出手段37、決定手段38、断層画像表示制御手段39は、前提発明における第一の算出手段35、データベース36、第二の算出手段37、決定手段38、断層画像表示制御手段39と同一の構成である。
【0068】
即ち、第一の算出手段35は、上記数学モデル作成手段34により得られた数学モデルを用いて任意のメッシュの電気的特性値を複数(n)に変化させ、入力ペア電極に定電流を印加した場合に、電極中のいずれか2個の出力ペア電極にそれぞれ発生する複数(n)の第一の電位差(Dmodel)を算出するものである。データベース36は、前提発明に示した電極間の抵抗率マトリクスを抵抗率毎(例では8段階)に算出し、第一の算出手段35により対象組織に対して設定された抵抗率と出力ペア電極から検出される電位差との対応関係のデータベース36として構成することができる。
【0069】
第二の算出手段37は、複数(n)の第一の電位差と上記第二の電位差を用いて、各画素に対応した複数(n)の電気的特性値を算出するものである。具体的には、第二の算出手段37は、測定した電位差からDmeanと、データベース36に記憶されているシミュレート結果である複数(n)の抵抗率に対する電位差マトリックスDmodel(n)と、感度理論の基づく感度マトリックス(sensitivity matrix)あるいはヤコビアン(Jacobian matrix)として知られる重み付けの補正係数を用い、各画素に対する抵抗率等の電気的特性値を複数(n)算出する。ここで、感度マトリックス等の補正係数は公知の手法により算出し、データベース36として記憶しておくことができる。また、nは、設定した肺抵抗率の数であり、本例では8種としたが、0.2Ωm刻みで300種、などを事前に計算しておき、データベース36としてもよい。
【0070】
上記のように近年EITで広く採用されている感度マトリクスを用い、Dmeanの各要素とDmodelの各要素で除算により比較し、さらに各要素の重み付けをするために感度マトリクスを乗算して補正した値EIT(n)を画素毎に算出することができる。
【0071】
決定手段38は、上記複数(n)の電気的特性値から各画素における最適な電気的特性値を推定し決定するものである。断層画像表示制御手段39は、各画素における最適な電気的特性値に基づき断層画像を表示部32へ表示するものである。
【0072】
具体的には、各画素について、DmeanとDmodel(n)に差がない状態のn、すなわち変化率がゼロとなるnのときが最終的に求めたい抵抗率であるので、理想的には感度マトリクスを乗算して補正したEIT(n)がゼロとなるnのときが最終的に求めたい抵抗率である。これについては、決定手段38は反復計算によりEIT(n)がゼロに収束するときを最終的に求めたい抵抗率に決定することもできるし、nを離散的に設定し、EIT(n)の絶対値、あるいは[ EIT(n)]2が最小となるnのときを最終的に求めたい抵抗率に決定することもできる。他のスライスがある場合は他のスライスについても同様の処理を行う。ここまで説明した第二の算出手段37と決定手段38により、最適な電気的特性値としての抵抗率を求めるために実行された処理を最適電気的特性値の決定処理と呼ぶことができる。
【0073】
換気量算出手段41は、上記のようにして求められた各画素における最適な電気的特性値に基づき生体の換気量を算出するものである。例えば、フローセンサにより被験者の換気量を求めると共に、このときの各画素における最適な電気的特性値のパターン(配列)や平均値などを求めてデータベース化しておき、決定手段38が決定した各画素における最適な電気的特性値を用いてデータベースを検索し、最も近いパターンや平均値のときの換気量を求める。
【0074】
中央制御部60は例えばコンピュータから構成されており、中央制御部60には、キーボードやタッチパネル或いはマウスなどの情報入力手段62が接続され、またLCDやLEDなどの画面を有したディスプレイ装置などの情報出力手段61が接続されている。
【0075】
中央制御部60は、インピーダンス呼吸測定装置を構成するコンピュータシステム50の本体部51と接続され、また、電気的インピーダンス断層像測定装置を構成するコンピュータシステム30の本体部31と接続されている。中央制御部60は、インピーダンス呼吸測定装置の本体部51から換気量情報と体動情報を受け取り、また、電気的インピーダンス断層像測定装置の本体部31からEIT画像情報と換気量情報を受け取り、処理を行い、有効な情報のみを出力手段61へ出力する。また、電気的インピーダンス断層像測定装置の換気量情報は、インピーダンス呼吸測定装置の呼吸情報出力手段55にも供され、呼吸情報出力手段55は、体位変化が生じたときなど、必要に応じて電気的インピーダンス断層像測定装置の換気量情報を用い、校正手段により平均インピーダンスと換気量の校正式の再計算を行う。
【0076】
ところで、電気的インピーダンス断層像測定装置の本体部31から提供されるEIT画像情報および換気量情報の精度は、体動により著しく低下する可能性が高い。そのため、中央制御部60は、インピーダンス呼吸測定装置の本体部51から体動が発生していることを示す体動情報を受け取った場合、電気的インピーダンス断層像測定装置から受け取るEIT画像情報と換気量情報については出力手段61への出力は行わず、インピーダンス呼吸測定装置の本体部51から提供される換気量情報のみを出力する。
【0077】
中央制御部60は、電気的インピーダンス断層像測定装置の本体部31から得られる時々刻々のEIT画像について1呼吸毎にEITデータとして切り出し、インピーダンス呼吸測定装置の本体部51から得られた換気量情報および呼吸波形と対応付けしてデータベースに保存しておき、要求があったときに、図7の例の通り、指定の時間幅の中で、換気量が所定の範囲内にあるEITデータのみを加算平均する(図7において×で示されているような、換気量が所定範囲を超えたEITデータを除外して加算平均する)ことで、所定の時間内における代表的な1呼吸分のEITを精度良く表示する。例えば、図8は9時から16時までの1時間毎の代表的なEITを1画面で一望できるように表示した例であり、数時間単位で大きく症状が変化する疾患の状況把握などに有効である。
【符号の説明】
【0078】
20 電極制御部
21 定電流印加手段
22 測定手段
22 測定手段
30 コンピュータシステム
31 本体部
32 表示部
33 入力部
34 数学モデル作成手段
35 算出手段
36 データベース
37 算出手段
38 決定手段
39 断層画像表示制御手段
41 換気量算出手段
50 コンピュータシステム
51 本体部
52 表示部
53 入力部
54 算出手段
55 呼吸情報出力手段
56 体位変化検出手段
57 体動検出手段
60 中央制御部
61 情報出力手段
62 情報入力手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
定電流を印加するための入力ペア電極と電位差を検出するための出力ペア電極とを含む生体の表面の所定の位置を囲繞するように貼着された複数の電極と、
第1の入力電極ペアから電流を与えた場合に、第1の出力電極ペアの電位差を検出し、第2の入力電極ペアから電流を与えた場合に、第2の出力電極ペアの電位差を検出する電位差検出手段と、
前記第1の出力電極ペアと前記第2の出力電極ペアとのそれぞれから得られた電位差に基づき平均インピーダンスを算出する算出手段と、
を具備するインピーダンス呼吸測定装置。
【請求項2】
前記算出手段は、算出された平均インピーダンスに基づき、生体の呼吸状態情報を得ることを特徴とする請求項1に記載のインピーダンス呼吸測定装置。
【請求項3】
前記インピーダンス呼吸測定装置は、更に、
複数電極から選択する入力電極ペアと出力電極ペアとを変更して、算出手段により算出された平均インピーダンスを比較し、最適入力電極ペアと出力電極ペアとを決定する電極位置決定部を備えることを特徴とする請求項1又は2のいずれかに記載のインピーダンス呼吸測定装置。
【請求項4】
前記インピーダンス呼吸測定装置は、更に、
前記平均インピーダンスの算出と同時に換気量を測定可能な換気量測定手段と、平均インピーダンスを換気量に変換する校正式を複数算出して保存する校正手段を備え、
前記校正手段が供する校正式から適切な校正式を選択し、前記算出手段により算出された平均インピーダンスから換気量を推定することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のインピーダンス呼吸測定装置。
【請求項5】
前記インピーダンス呼吸測定装置は、体位変化の有無を検出する体位変化検出手段を具備し、
体位変化検出手段により体位の変化を検出した場合には、前記校正手段が供する校正式を切り替え、あるいは新たな校正式を算出し、前記算出手段により算出された平均インピーダンスから換気量を推定することを特徴とする請求項4に記載のインピーダンス呼吸測定装置。
【請求項6】
定電流を印加するための入力ペア電極と電位差を検出するための出力ペア電極とを含む生体の表面の所定の位置を囲繞するように貼着された複数の電極と、
生体の臓器と組織の位置およびその電気的特性に基づき、前記生体断面を多数のメッシュに分割し、各メッシュの電気的特性値を複数(n)に変化させて演算可能な3次元以上の数学モデルを作成し、この数学モデルを用いて出力ペア電極にそれぞれ発生する複数(n)の第一の電位差(Dmodel)を算出すると共に、前記入力ペア電極に定電流を印加した場合に、前記出力ペア電極に発生する第二の電位差(Dmean)を測定し、前記第一の電位差(Dmodel)と第二の電位差(Dmean)を用いて各画素に対応した複数(n)の電気的特性値を算出して該電気的特性値から各画素における最適な電気的特性値を推定して断層画像を得る電気的インピーダンス断層像測定装置と、
第1の入力電極ペアから電流を与えた場合に、第1の出力電極ペアの電位差を検出し、第2の入力電極ペアから電流を与えた場合に、第2の出力電極ペアの電位差を検出する電位差検出手段と、前記第1の出力電極ペアと前記第2の出力電極ペアとのそれぞれから得られたから電位差に基づき平均インピーダンスを算出する算出手段と、を有するインピーダンス呼吸測定装置と、
前記電気的インピーダンス断層像測定装置と前記インピーダンス呼吸測定装置とから生体の呼吸状態情報を得る中央制御部と、
を具備することを特徴とする呼吸状態測定システム。
【請求項7】
インピーダンス呼吸測定装置には、複数電極から選択する入力電極ペアと出力電極ペアとを変更して、算出手段による算出を行い、最適入力電極ペアと出力電極ペアとを決定する電極位置決定部が備えられていることを特徴とする請求項6に記載の呼吸状態測定システム。
【請求項8】
電気的インピーダンス断層像測定装置は、各画素における最適な電気的特性値に基づき、生体の換気量を求める換気量算出手段を具備することを特徴とする請求項6又は7に記載の呼吸状態測定システム。
【請求項9】
前記インピーダンス呼吸測定装置は、更に、
前記算出手段により算出された平均インピーダンスと、電気的インピーダンス断層像測定装置の換気量算出手段から供される換気量から、平均インピーダンスを換気量に変換する校正式を算出して保存する校正手段を備え、
前記校正手段が供する校正式から適切な校正式を選択し、前記算出手段により算出された平均インピーダンスから換気量を推定することを特徴とする請求項8に記載の呼吸状態測定システム。
【請求項10】
前記インピーダンス呼吸測定装置は、体位変化の有無を検出する体位変化検出手段を具備し、
体位変化検出手段により体位の変化を検出した場合には、前記校正手段が供する校正式を切り替え、あるいは新たな校正式を算出し、前記算出手段により算出された平均インピーダンスから換気量を推定することを特徴とする請求項9に記載の呼吸状態測定システム。
【請求項11】
インピーダンス呼吸測定装置は、体動を検出する体動検出手段を具備し、
中央制御部は、体動検出手段により体動中であることを検出した場合には、前記インピーダンス呼吸測定装置から得られる換気量情報のみを有効として処理することを特徴とする請求項6〜10のいずれかに記載の呼吸状態測定システム。
【請求項12】
インピーダンス呼吸測定装置は、体位変化の有無を検出する体位変化検出手段を具備し、
中央制御部は、体位変化検出手段により体位の変化を検出した場合には、前記インピーダンス呼吸測定装置から得られる換気量情報を再校正することを特徴とする請求項6〜11に記載の呼吸状態測定システム。
【請求項13】
中央制御部は、一定期間の前記電気的インピーダンス断層像測定装置により得られる各画素における最適な電気的特性値を加算平均することを特徴とする請求項6〜12のいずれかに記載の呼吸状態測定システム。
【請求項14】
加算平均では、前記インピーダンス呼吸測定装置から得られる換気量が所定範囲内のときの前記電気的インピーダンス断層像測定装置により得られる各画素における最適な電気的特性値を用いて演算を行うことを特徴とする請求項13に記載の呼吸状態測定システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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