インピーダンス測定に基づく多重検体システムおよび方法
本発明は、試料における複数種の検体の同時検出および/または定量化のための、または、複数種の試料における検体の同時検出および/または定量化のための、システムを開示するものであり、微小電極(11a,11b,11c,11d)の配列を備える多電極チップ(10)と、多電極チップ(10)を収容する溝(21)と、前記溝(21)に挿入された後の多電極チップ(10)における微小電極(11a,11b,11c,11d)の各々に流体試料を通過させることを可能とする単一流路(22)と、を備える単一流路セル(20)と、多電極チップ(10)を囲う溝(31)と、多電極チップ(10)における電極(11a,11b,11c,11d)の各々に、いくつかの試料を独立して通過させることを可能とするいくつかの独立した流路(32a,32b,32c,32d)と、を備える多流路セル(30)と、を備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単一の試料における複数種の検体を同時検出および/または定量化するための、または、複数種の試料における単一の検体を同時検出および/または定量化するための、システムおよび方法に関する。
【背景技術】
【0002】
それらの中間だけでなくそれらの表面の測定を行うことにより、電極の特性および化学成分における極めて小さな変動の検出を可能とする、インピーダンス測定が知られている。これにより、電極表面における抗体-抗原複合体の形成というような現象を記録することが可能となった(Bataillard, P. et al., Anal. Chem, 1988, 60, 2374)。第1のシステムでは、小化合物を検出することができず、分析される試料におけるトレースレベルではさらに低い。測定の感度の増加および装置の小型化のため、互いにかみ合う電極に基づく変換器が開発されている(P. van Gerwen et al., Sens. Actua. B, 1998, 49, 73)。このような型の電極の、インピーダンス測定を用いての化学センサとしての使用は、様々な概念を使用する特許(WO2004044570)において取り組まれており、電極の表面における受容体の役割を担う化合物を固定化すること、および分析される試料を電極の表面に接触させることを含んでいる。もし補間的な化合物が存在する場合、それは受容体に束縛され、変換器の表層の性質、及び、そのインピーダンスを変化させる。その変化の大きさは、変換器に束縛された化合物の総量、すなわち、試料に存在するその量に比例する。その相関は、1つまたはいくつかの測定周波数におけるインピーダンス値によって、または、等価回路への周波数による反応を調整すると共に1または複数の成分の値と検体濃度とを関連付けることによってなされる。
【0003】
上記改良にも関わらず、上記システムは未だにトレースレベルでの化合物の検出および定量化のための必要な感度を有しておらず、低分子量(1000ダルトン未満)の化合物に対しては更に低い。変換器の設計における大きな改良は、電極を分離可能な高さを有する、導体素子の間の誘電体壁を伴う、互いにかみ合う電極の開発であることが、特許ES2307430に記載されている。この変換器は、同じ免疫試薬の組を使用するELISA型分析と同様の感度で、低分子量化合物を検出することができる。
【0004】
インピーダンスセンサー技術における先例とともに、多重解析型免疫化学的解析技術における先例が加えられなければならない。たいていの多重解析方法は、各検体免疫測定システムの中で分離して行われる。そのような多重解析システムは、異なるn個の検体のためのn個の分析物のシステムに過ぎない。このシステムは、(自身に向かう酵素のそれと同様に)それらの基板に向う抗体によって示される極度な選択を活用しない。従来システム、および、どのように免疫システムが働くかに類似することの改善は、異なる検体を認識する抗体の混合体の使用によりなされる。これは、それらの間の交差反応が存在しないためである。この方策は、牛乳内の抗生物質の異なる族の検出のための多重解析ELISA分析での作業において取り組まれている(Adrian J. et al, Anal and Bioanal Chem, 2008, 391, 1703)。それは低分子量分子を含んでいるため、これは、各々の検体に適した競合体が良好な支持板において分離して固定化された競合型の分析物を必要とする。それにより、試料に抗体の混合物を使用しているにも関わらず、各自の信号を単独で得ることが可能となる。この研究は、個々の分析物内で非特異信号がより大きくなることなく、また、異なる検体のための応答間の障害が生じることなく、抗体の混合物を用いて作業を行うことの可能性を示している。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の目的は、複数種の試料における単一の検体の存在の同時検出、または単一の試料における複数種の検体の同時検出が可能な、解析システムにある。したがって、高感度多重解析または多重試料バイオセンサーシステムが、互いにかみ合わされた電極配列および障壁、2つの型(多重セルおよび単一セル)の試料容室を備えたフローシステム、および、特定の免疫体を混合することによる多重解析免疫測定基づいて、開示される。
【0006】
本発明における理解として用語“検体”は、試料において検出および/または定量化され得る成分を意味する。これに関し、検体は、元素、化合物、またはイオン、すなわち、検出および/または定量化され得る化学種がなり得る。化合物は、周期表の2つ以上の元素が所定の比で結合することによって形成された物質である。化合物は、安定な結合を有する分子またはイオンよりなる。
【0007】
同様に、試料において対象とする検体は、無機的、有機的、または生化学的であり得る。検体は、事実上、生物学的なものであり、それゆえ、どんな生物学的分子または細胞型も、細胞小器官またはそのどの部分も、含み得る。その意味では用語“生物学的分子”は、制限されず、生物元素(生物に現れる化学物質)、核酸、ペプチド、蛋白質、酵素、炭水化物、脂質、ビタミン、抗体、または、ホルモンを含む。
【0008】
本発明の検体は、その検体を明確に認識することが可能な検体の検出または定量化を介して、間接的に検出または定量化され得る。有機体から試料が得られた場合に免疫系は上記抗原を認識する特定の抗体を生成することができる。
【0009】
本発明の検体は、食品試料(動物性食品における獣医学医薬品残留物、植物性食品における農薬残留物、微生物汚染)、生体起源(具体的には臨床起源)の試料、いずれかの環境区分からの試料(人類発生起源の有機化合物、医薬品、農薬、または工業製品の残留物)、に存在し得る。
【0010】
本発明の第1の側面は、多電極チップ、単一流路セル、および2番目の多流路セルを備えている多重インピーダンス解析システムを開示する。以下に、これら要素の各々を説明する。
【0011】
a) 多電極チップ
このチップは、特定の検体が存在する試料に接触したときにインピーダンスが変化する、微小電極の配列を備える。このように、微小電極のインピーダンスの変化に基づいて、試料に存在する検体量が算出される。
【0012】
本発明の多電極チップを説明するため、微小電極が設けられた端部であって、対応するセルの溝に挿入された端部を“遠方端部”とする。多電極チップの“近接端部”は上記溝の外側となる反対側の端部である。
【0013】
本発明の好適な実施形態において、多電極チップの微小電極の遠方端部は、導通路を介して、近接端部におけるコネクタに電気的に接続されている。上記微小電極および上記導通路は、高導電性素材(好ましくは、TaSi2)を用いて製造されている。さらに、上記微小電極間の誘電性壁は、上記微小電極間の短絡を防止する。上記導電路は、順に、誘電保護素材によって覆われている。本発明の好適な実施形態において、上記誘電性壁および上記導通路の被覆は、SiO2製である。
【0014】
本発明の好適な実施形態において、多電極チップは、その近接端部におけるコネクタを通して、励起・処理装置へ接続されている。励起・処理装置の第1の機能は、大概、その端子間の電圧差を生じさせることにより、微小電極を通過する電流を生じさせる。したがって、各々の微小電極に適用された電圧差を知ることによって、それを通過した上記電流はインピーダンスの比率となり、すなわち、上記電流は、微小電極の化学変化によって生じ、試料に存在する検体量に依存する。それゆえ、励起・処理装置の第2の機能は、各々の電極のインピーダンスの測定のために得られた強度信号を処理することであり、本書において後に記載された手順によって、この値の変化から、試料に存在する検体量を推測する。
【0015】
b) 単一流路セル
このセルは、多電極チップに適応する溝、および、上記溝に挿入された多電極チップの各々の微小電極を流体試料順次通過することが可能な単一流路を備える。好ましくは、循環路の吸入口および排出口は、単一流路セルの上側表面に設けられていることである。要するに、このセルは、多電極チップの全ての電極への試料の流路を形成する。
【0016】
用語“溝”は、本発明の多電極チップが挿入される開口を説明するために使用されており、特定の実施形態では、上記多電極チップは、平坦且つ細長い形状を有している。しかしながら、本発明は、多電極チップの形状を制限することを意図してなく、溝の形状についてもそうである。これは、多電極チップを収容できればどのような形状であってもよい。
【0017】
c) 多流路セル
このセルは、多電極チップに適応する溝、および、多電極チップの微小電極の各々を液体試料が独立して通過することが可能ないくつかの流路を備える。単一流路セルの場合のように、上記流路の吸入口および排出口は、このましくは上記多流路セルの上側表面に設けられていることである。要するに、多流路セルは、異なる試料が混ぜ合わさることなく微小電極の各々を通過することが可能となっている。
【0018】
本発明の好適な実施形態において、上記セルの各々は、2つの支持板の間に固定され、サンドイッチ構造を形成する。上記支持板および上記セルは、ネジまたは液室からの液漏れおよび意図しない混合を防止する何らかの他の方法によって結合されている。
【0019】
この発明の第2の側面によれば、これもまた、上記多重インピーダンス解析システムを使用する、単一の試料における複数種の検体の同時検出および/または定量化のための方法を開示する。当該方法は、以下の工程を含んでいる。
【0020】
1)多流路セルの溝に多電極チップを挿入する。
【0021】
2)各々の検体を検出するための選択的な受容体または競合体を、各々の微小電極に固着させるため、適当な化合物を流路の各々に通過させる。
【0022】
3)多電極チップを上記多流路セルから取り除き、そして、単一流路セルへ挿入する。取り除いた後、多電極チップは、一定の時間好ましい状態で保存され、または直ちに使用され得る。
【0023】
4)単一流路セルの流路に試料(測定される検体の各々に適切な免疫試薬の混合物と混ぜ合わされた)を通過させることにより、所望の検体(または特定の抗体)の各々を、適切な微小電極に固着させる。
【0024】
本発明の好適な実施形態において、試料が通過する前後の各々の微小電極のインピーダンスの差は、検体濃度の算出に利用される。したがって、試料が微小電極を通過する前には、その導電率の第1測定が行われる。
【0025】
一度、試料が電極を順次通過すると、各微小電極に検体(またはその抗体)が固着されるので、単一流路セルの流路を洗浄液が通過された後、微小電極の導電率の次の測定が行われる。検出された導電率における上記差は、試料における各々の検体の濃度を決定するため、励起・処理装置において処理される。
【0026】
最後に、本発明の第3の側面は、多重インピーダンス解析システムを使用することにより、複数種の試料における単一の検体の検出および/または定量化を同時に行うための方法を開示する。このプロセスは、以下の工程を含む。
【0027】
1)単一流路セルの溝に多電極チップを挿入する。
【0028】
2)検体を検出するための選択的な受容体または競合体を各々の検出電極に固着させるため、適当な化合物を単一流路に通過させる。
【0029】
3)多電極チップを上記単一流路セルから取り除き、そして、多流路セルへ挿入する。取り除いた後、多電極チップは、一定の時間好ましい状態で保存され、または直ちに使用され得る。
【0030】
4)多流路セルの各々の流路に試料(必要に応じて関連する免疫試薬と混ぜ合わされた)を通過させることにより、所望の検体(または相補的な抗体)を各々の微小電極に固着させる。
【0031】
本発明の好適な実施形態において、試料が通過する前後の、各々の電極のインピーダンスの変化は、各々の試料における検体濃度の算出に使用される。
【0032】
したがって、試料が微小電極を通過する前に、そのインピーダンスの第1の測定が行われる。
【0033】
一度、試料が電極を順次通過すると、各微小電極に検体(またはその抗体)が固着されるので、多流路セルの流路を洗浄液が通過された後、微小電極のインピーダンスの次の測定が行われる。検出されたインピーダンスにおける上記差は、各々の試料における検体の検出のため、処理される。
【0034】
上記説明を補足するため、及び、本発明の特徴の良好な理解を目的とするため、その好適な実施形態によれば、一式の図面が上記説明になくてなならないものとして添付され、図面は、実例として添付され、以下のとおり表す本発明の範囲を限定しない。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】図1は、本発明による多電極チップの平面図である。
【図2】図2aおよび図2bは、単一流路セルの溝に挿入された本発明の多電極チップの平面図および正面図を示す。
【図3】図3aおよび図3bは、多流路セルの溝に挿入された本発明の多電極チップ(すなわち、4電極型)の平面図および正面図を示す。
【図4】図4は、インピーダンスの実験値の調整に用いられる等価回路を示す。
【図5】図5は、各々の検体に対応する免疫試薬および全ての抗体を含んでいる混合液を用いて、本発明の例において使用された検体の各々から生成された校正曲線を示す。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下の説明は、添付の図面を参照するものであり、本発明による多重インピーダンス解析システムの一例である。特に、この解析システムは、同一の試料における4つの異なる化合物、または、4つの異なる試料における同一の化合物を測定する、4つの平行検査を行うのに適している。
【0037】
図1は四電極チップ(10)を示している。この四電極チップ(10)において、遠方の端部(D)に設けられた4つの微小電極(11a,11b,11c,11d)は、4つの導通路(12a,12b,12c,12d)によって近方の端部(P)に設けられた金属コネクタ(13a,13b,13c,13d,13e)へ電気的に接続されている。この例では、微小電極(11a,11b,11c,11d)は、ケイ化タンタル(TaSi2)製であり、そして、誘電性壁(図示されない)は、短絡のリスクを最小限とするためにこれらの間に設けられている。
【0038】
さらに、微小電極(11a,11b,11c,11d)が、各自のインピーダンスの測定のために必要な電圧を加えるときの参照電圧としての役割を有する、コネクタ(13e)に連結された共有端子(12e)をどのように有しているかを見ることができる。
【0039】
図2aおよび2bは、単一流路セル(20)の溝(21)に挿入された四電極チップ(10)を示す。この例では、流路(22)は、セル(20)の上側表面に設けられた吸入口を有しており、微小電極(11a)へ下方に垂直に引き伸ばされている。そして、矢印で示された方向に、微小電極(11b)、微小電極(11c)、および微小電極(11d)を順次通過する。
【0040】
最後に、流路(22)は、排出口へ上方に再び垂直に引き伸ばされる。このように、単一の工程において、同一の液体が4つの微小電極(11a,11b,11c,11c)の通過を循環して行い得る。
【0041】
図2bもまた、単一流路セル(20)が2つの支持板(23,24)の間でどのように囲まれているか、および、単一流路セル(20)がそれらの間でネジ(25)およびナット(26)によってどのように固定されているかを示す。
【0042】
図3aおよび3bは、第2の多流路セル(30)の溝(31)に挿入された四電極チップ(10)を示す。この例では、4つの独立した流路(32a,32b,32c,32d)のそれぞれが、各々の吸入口から各々の微小電極(11a,11b,11c,11d)へ垂直に降下し、その後、それぞれの排出口へ上昇していることを見ることができる。このように、4つの異なる液体が同時に循環でき、各自、微小電極(11a,11b,11c,11d)のいずれかを通過することができる。
【0043】
第2のセル(30)もまた、ネジ(35)およびナット(36)によって2つの支持板(33,34)の間で固定される。
【0044】
<例>
第1の例では、本発明のシステムを使用する、単一の試料における複数の検体の同時検出および量子化が表される。特に、食品試料が問題物として呼ぶべき、アトラジン(ATRZ)、アジンホス(AZM)、トリクロロフェノール(TCP)、または、ブロモプロピレン(BP)農薬によって汚染されているかを探知する。
【0045】
これを行うため、初めに、4電極チップ(10)が多流路セル(30)の溝(31)に導入され(ステップ1)そして、電極表面を洗浄および活性化するための溶液が、各々の流路(32a,32b,32c,32d)を通過させられる。それから、各々の微小電極(11a,11b,11c,11d)の表面にそれらを選択的に固定化する(ステップ2)ため、各々の検体(AT1,AT2,AT3,AT4)のための特定の抗原の通過を伴う、不溶性支持体における固定化の段階へ進める。
【0046】
例えば本発明の微小電極(11a,11b,11c,11d)の一つである支持体の表面における化合物の固定化は、その表面の化学反応によって導かれる。多くの要素の存在は、化合物の固定化の能力を変化させ得る。その培養時間および温度はとても重要である。大概、温度が高いほど、必要な培養時間は短くなるが、好ましくは、支持体表面における化合物の固定化のため、3〜6°Cによって、10〜20時間とすることが好ましい。
【0047】
抗原固定化工程は、抗原によって占有されない支持体の間隔の遮断を伴う最終工程を含む。これは、そこへの束縛が選択的でないため、およびもし遮断されなかった場合他の非特異分子を束縛し得るためである。遮断は蛋白質または洗浄剤(好ましくは非イオン洗浄剤)の使用により行われる。PBSTの使用がより好ましい。
【0048】
PBSは、0.8%の食塩水を含んだ10mMのリン酸緩衝液であり、もし、定められていなければpHは7.5である。PBSTは、0.05%のTween20を含んだPBSである。コーティングバッファは、0.05Mの炭酸塩-重炭酸塩であり、pH9.6である。
【0049】
PBST洗浄液は、それから、微小電極(11a,11b,11c,11d)に付着されなかったそれらの抗原を除去するため、各々の流路(32a,32b,32c,32d)を通過させられる。
【0050】
多電極チップ(10)は、それから多流路セル(30)の溝(31)から引き抜かれる。この活性化および機能化された電極は、後の使用のため、冷却状態および不活性雰囲気に保存される。この時点までに、センサ構造および準備段階として考えられ得る。
【0051】
測定工程のため、対応する活性化および機能化されたチップは、単一流路セル(20)の溝(21)に挿入される(ステップ3)。試料と、4つの検体を検出するための抗-抗原抗体(Ac1,Ac2,Ac3,Ac4)との混合体は、一定の時間、前培養され、単一流路セル(20)の流路(22)を通過させられる(ステップ4)。試料に存在する検体と反応しなかった抗体の一部は、対応する抗原(11a,11b,11c,11d)とともに機能化された微小電極へ束縛されるだろう。
【0052】
前培養は、試料および抗-抗原抗体の一定時間(好ましくは15°C〜30°Cにおいて30分未満)の混合からなる。前培養された混合体は、微小電極(11a,11b,11c,11d)上に固定化された抗原を通過させられ、そして、上記前培養と同一条件のもと、5分から15分の間、培養される。これにより、上記支持体において、試料に存在していたであろう自由な抗体の、固定化された抗原への束縛が生じる。
【0053】
次の工程は、上述したように固定化された抗原に束縛されなかったそれらの物質を除去するための微小電極(11a,11b,11c,11d)の洗浄である。
【0054】
それから、微小電極(11a,11b,11c,11d)が浸されるように、測定液が各々の流路(32a,32b,32c,32d)を通過させられる。この測定液は、導電率が1.6μScm-1であり、KCl 1 × 10-6Mの溶液である。インピーダンス測定は、100kHzと10Hzとの間の周波数範囲で行われる。得られたインピーダンスデータは、商用ソフトウェア:Zplot / Zview(Scribner Associates Inc.)の使用により、図4に示された等価回路に順応される。
【0055】
インピーダンス測定値は、試料における検体の濃度を決定するためのインピーダンス測定対照と比較された。
【0056】
この対照群は、既知の濃度において、本発明において検出および量子化される検体を含んでいる溶液の集合であり、インピーダンス値および濃度値は、校正または線形回帰曲線(図5a、5b、5c、および5d)を生成することを可能とする一定の範囲において、既知の比を維持する。試料に存在する化合物の濃度は、校正曲線または線形回帰線の線形領域における測定において得られた値を補間することによって、定量化される。
【0057】
表1.校正曲線に使用された濃度範囲
分析物 校正曲線間隔(μgL-1)
アトラジン 500-1.6 × 10-3
TCP 200-3 × 10-3
ブロモプロピレン 250-4 × 10-3
アジンホス 300-3.84 × 10-3
なお、微小電極(11a,11b,11c,11d)の第1の導電率測定は、検出用バッファのみを使用して、試料の上記微小電極(11a,11b,11c,11d)の通過に先行して実行される。この測定値は、検体の存在に起因するインピーダンスのばらつきを事実上測定する第2の測定において得られた計測値から差し引かれるための参照測定値である。微小電極(11a,11b,11c,11d)の第2の導電率測定は、試料が上記微小電極(11a,11b,11c,11d)を通過した後、および、前述の後続する洗浄段階の後、行われる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、単一の試料における複数種の検体を同時検出および/または定量化するための、または、複数種の試料における単一の検体を同時検出および/または定量化するための、システムおよび方法に関する。
【背景技術】
【0002】
それらの中間だけでなくそれらの表面の測定を行うことにより、電極の特性および化学成分における極めて小さな変動の検出を可能とする、インピーダンス測定が知られている。これにより、電極表面における抗体-抗原複合体の形成というような現象を記録することが可能となった(Bataillard, P. et al., Anal. Chem, 1988, 60, 2374)。第1のシステムでは、小化合物を検出することができず、分析される試料におけるトレースレベルではさらに低い。測定の感度の増加および装置の小型化のため、互いにかみ合う電極に基づく変換器が開発されている(P. van Gerwen et al., Sens. Actua. B, 1998, 49, 73)。このような型の電極の、インピーダンス測定を用いての化学センサとしての使用は、様々な概念を使用する特許(WO2004044570)において取り組まれており、電極の表面における受容体の役割を担う化合物を固定化すること、および分析される試料を電極の表面に接触させることを含んでいる。もし補間的な化合物が存在する場合、それは受容体に束縛され、変換器の表層の性質、及び、そのインピーダンスを変化させる。その変化の大きさは、変換器に束縛された化合物の総量、すなわち、試料に存在するその量に比例する。その相関は、1つまたはいくつかの測定周波数におけるインピーダンス値によって、または、等価回路への周波数による反応を調整すると共に1または複数の成分の値と検体濃度とを関連付けることによってなされる。
【0003】
上記改良にも関わらず、上記システムは未だにトレースレベルでの化合物の検出および定量化のための必要な感度を有しておらず、低分子量(1000ダルトン未満)の化合物に対しては更に低い。変換器の設計における大きな改良は、電極を分離可能な高さを有する、導体素子の間の誘電体壁を伴う、互いにかみ合う電極の開発であることが、特許ES2307430に記載されている。この変換器は、同じ免疫試薬の組を使用するELISA型分析と同様の感度で、低分子量化合物を検出することができる。
【0004】
インピーダンスセンサー技術における先例とともに、多重解析型免疫化学的解析技術における先例が加えられなければならない。たいていの多重解析方法は、各検体免疫測定システムの中で分離して行われる。そのような多重解析システムは、異なるn個の検体のためのn個の分析物のシステムに過ぎない。このシステムは、(自身に向かう酵素のそれと同様に)それらの基板に向う抗体によって示される極度な選択を活用しない。従来システム、および、どのように免疫システムが働くかに類似することの改善は、異なる検体を認識する抗体の混合体の使用によりなされる。これは、それらの間の交差反応が存在しないためである。この方策は、牛乳内の抗生物質の異なる族の検出のための多重解析ELISA分析での作業において取り組まれている(Adrian J. et al, Anal and Bioanal Chem, 2008, 391, 1703)。それは低分子量分子を含んでいるため、これは、各々の検体に適した競合体が良好な支持板において分離して固定化された競合型の分析物を必要とする。それにより、試料に抗体の混合物を使用しているにも関わらず、各自の信号を単独で得ることが可能となる。この研究は、個々の分析物内で非特異信号がより大きくなることなく、また、異なる検体のための応答間の障害が生じることなく、抗体の混合物を用いて作業を行うことの可能性を示している。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の目的は、複数種の試料における単一の検体の存在の同時検出、または単一の試料における複数種の検体の同時検出が可能な、解析システムにある。したがって、高感度多重解析または多重試料バイオセンサーシステムが、互いにかみ合わされた電極配列および障壁、2つの型(多重セルおよび単一セル)の試料容室を備えたフローシステム、および、特定の免疫体を混合することによる多重解析免疫測定基づいて、開示される。
【0006】
本発明における理解として用語“検体”は、試料において検出および/または定量化され得る成分を意味する。これに関し、検体は、元素、化合物、またはイオン、すなわち、検出および/または定量化され得る化学種がなり得る。化合物は、周期表の2つ以上の元素が所定の比で結合することによって形成された物質である。化合物は、安定な結合を有する分子またはイオンよりなる。
【0007】
同様に、試料において対象とする検体は、無機的、有機的、または生化学的であり得る。検体は、事実上、生物学的なものであり、それゆえ、どんな生物学的分子または細胞型も、細胞小器官またはそのどの部分も、含み得る。その意味では用語“生物学的分子”は、制限されず、生物元素(生物に現れる化学物質)、核酸、ペプチド、蛋白質、酵素、炭水化物、脂質、ビタミン、抗体、または、ホルモンを含む。
【0008】
本発明の検体は、その検体を明確に認識することが可能な検体の検出または定量化を介して、間接的に検出または定量化され得る。有機体から試料が得られた場合に免疫系は上記抗原を認識する特定の抗体を生成することができる。
【0009】
本発明の検体は、食品試料(動物性食品における獣医学医薬品残留物、植物性食品における農薬残留物、微生物汚染)、生体起源(具体的には臨床起源)の試料、いずれかの環境区分からの試料(人類発生起源の有機化合物、医薬品、農薬、または工業製品の残留物)、に存在し得る。
【0010】
本発明の第1の側面は、多電極チップ、単一流路セル、および2番目の多流路セルを備えている多重インピーダンス解析システムを開示する。以下に、これら要素の各々を説明する。
【0011】
a) 多電極チップ
このチップは、特定の検体が存在する試料に接触したときにインピーダンスが変化する、微小電極の配列を備える。このように、微小電極のインピーダンスの変化に基づいて、試料に存在する検体量が算出される。
【0012】
本発明の多電極チップを説明するため、微小電極が設けられた端部であって、対応するセルの溝に挿入された端部を“遠方端部”とする。多電極チップの“近接端部”は上記溝の外側となる反対側の端部である。
【0013】
本発明の好適な実施形態において、多電極チップの微小電極の遠方端部は、導通路を介して、近接端部におけるコネクタに電気的に接続されている。上記微小電極および上記導通路は、高導電性素材(好ましくは、TaSi2)を用いて製造されている。さらに、上記微小電極間の誘電性壁は、上記微小電極間の短絡を防止する。上記導電路は、順に、誘電保護素材によって覆われている。本発明の好適な実施形態において、上記誘電性壁および上記導通路の被覆は、SiO2製である。
【0014】
本発明の好適な実施形態において、多電極チップは、その近接端部におけるコネクタを通して、励起・処理装置へ接続されている。励起・処理装置の第1の機能は、大概、その端子間の電圧差を生じさせることにより、微小電極を通過する電流を生じさせる。したがって、各々の微小電極に適用された電圧差を知ることによって、それを通過した上記電流はインピーダンスの比率となり、すなわち、上記電流は、微小電極の化学変化によって生じ、試料に存在する検体量に依存する。それゆえ、励起・処理装置の第2の機能は、各々の電極のインピーダンスの測定のために得られた強度信号を処理することであり、本書において後に記載された手順によって、この値の変化から、試料に存在する検体量を推測する。
【0015】
b) 単一流路セル
このセルは、多電極チップに適応する溝、および、上記溝に挿入された多電極チップの各々の微小電極を流体試料順次通過することが可能な単一流路を備える。好ましくは、循環路の吸入口および排出口は、単一流路セルの上側表面に設けられていることである。要するに、このセルは、多電極チップの全ての電極への試料の流路を形成する。
【0016】
用語“溝”は、本発明の多電極チップが挿入される開口を説明するために使用されており、特定の実施形態では、上記多電極チップは、平坦且つ細長い形状を有している。しかしながら、本発明は、多電極チップの形状を制限することを意図してなく、溝の形状についてもそうである。これは、多電極チップを収容できればどのような形状であってもよい。
【0017】
c) 多流路セル
このセルは、多電極チップに適応する溝、および、多電極チップの微小電極の各々を液体試料が独立して通過することが可能ないくつかの流路を備える。単一流路セルの場合のように、上記流路の吸入口および排出口は、このましくは上記多流路セルの上側表面に設けられていることである。要するに、多流路セルは、異なる試料が混ぜ合わさることなく微小電極の各々を通過することが可能となっている。
【0018】
本発明の好適な実施形態において、上記セルの各々は、2つの支持板の間に固定され、サンドイッチ構造を形成する。上記支持板および上記セルは、ネジまたは液室からの液漏れおよび意図しない混合を防止する何らかの他の方法によって結合されている。
【0019】
この発明の第2の側面によれば、これもまた、上記多重インピーダンス解析システムを使用する、単一の試料における複数種の検体の同時検出および/または定量化のための方法を開示する。当該方法は、以下の工程を含んでいる。
【0020】
1)多流路セルの溝に多電極チップを挿入する。
【0021】
2)各々の検体を検出するための選択的な受容体または競合体を、各々の微小電極に固着させるため、適当な化合物を流路の各々に通過させる。
【0022】
3)多電極チップを上記多流路セルから取り除き、そして、単一流路セルへ挿入する。取り除いた後、多電極チップは、一定の時間好ましい状態で保存され、または直ちに使用され得る。
【0023】
4)単一流路セルの流路に試料(測定される検体の各々に適切な免疫試薬の混合物と混ぜ合わされた)を通過させることにより、所望の検体(または特定の抗体)の各々を、適切な微小電極に固着させる。
【0024】
本発明の好適な実施形態において、試料が通過する前後の各々の微小電極のインピーダンスの差は、検体濃度の算出に利用される。したがって、試料が微小電極を通過する前には、その導電率の第1測定が行われる。
【0025】
一度、試料が電極を順次通過すると、各微小電極に検体(またはその抗体)が固着されるので、単一流路セルの流路を洗浄液が通過された後、微小電極の導電率の次の測定が行われる。検出された導電率における上記差は、試料における各々の検体の濃度を決定するため、励起・処理装置において処理される。
【0026】
最後に、本発明の第3の側面は、多重インピーダンス解析システムを使用することにより、複数種の試料における単一の検体の検出および/または定量化を同時に行うための方法を開示する。このプロセスは、以下の工程を含む。
【0027】
1)単一流路セルの溝に多電極チップを挿入する。
【0028】
2)検体を検出するための選択的な受容体または競合体を各々の検出電極に固着させるため、適当な化合物を単一流路に通過させる。
【0029】
3)多電極チップを上記単一流路セルから取り除き、そして、多流路セルへ挿入する。取り除いた後、多電極チップは、一定の時間好ましい状態で保存され、または直ちに使用され得る。
【0030】
4)多流路セルの各々の流路に試料(必要に応じて関連する免疫試薬と混ぜ合わされた)を通過させることにより、所望の検体(または相補的な抗体)を各々の微小電極に固着させる。
【0031】
本発明の好適な実施形態において、試料が通過する前後の、各々の電極のインピーダンスの変化は、各々の試料における検体濃度の算出に使用される。
【0032】
したがって、試料が微小電極を通過する前に、そのインピーダンスの第1の測定が行われる。
【0033】
一度、試料が電極を順次通過すると、各微小電極に検体(またはその抗体)が固着されるので、多流路セルの流路を洗浄液が通過された後、微小電極のインピーダンスの次の測定が行われる。検出されたインピーダンスにおける上記差は、各々の試料における検体の検出のため、処理される。
【0034】
上記説明を補足するため、及び、本発明の特徴の良好な理解を目的とするため、その好適な実施形態によれば、一式の図面が上記説明になくてなならないものとして添付され、図面は、実例として添付され、以下のとおり表す本発明の範囲を限定しない。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】図1は、本発明による多電極チップの平面図である。
【図2】図2aおよび図2bは、単一流路セルの溝に挿入された本発明の多電極チップの平面図および正面図を示す。
【図3】図3aおよび図3bは、多流路セルの溝に挿入された本発明の多電極チップ(すなわち、4電極型)の平面図および正面図を示す。
【図4】図4は、インピーダンスの実験値の調整に用いられる等価回路を示す。
【図5】図5は、各々の検体に対応する免疫試薬および全ての抗体を含んでいる混合液を用いて、本発明の例において使用された検体の各々から生成された校正曲線を示す。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下の説明は、添付の図面を参照するものであり、本発明による多重インピーダンス解析システムの一例である。特に、この解析システムは、同一の試料における4つの異なる化合物、または、4つの異なる試料における同一の化合物を測定する、4つの平行検査を行うのに適している。
【0037】
図1は四電極チップ(10)を示している。この四電極チップ(10)において、遠方の端部(D)に設けられた4つの微小電極(11a,11b,11c,11d)は、4つの導通路(12a,12b,12c,12d)によって近方の端部(P)に設けられた金属コネクタ(13a,13b,13c,13d,13e)へ電気的に接続されている。この例では、微小電極(11a,11b,11c,11d)は、ケイ化タンタル(TaSi2)製であり、そして、誘電性壁(図示されない)は、短絡のリスクを最小限とするためにこれらの間に設けられている。
【0038】
さらに、微小電極(11a,11b,11c,11d)が、各自のインピーダンスの測定のために必要な電圧を加えるときの参照電圧としての役割を有する、コネクタ(13e)に連結された共有端子(12e)をどのように有しているかを見ることができる。
【0039】
図2aおよび2bは、単一流路セル(20)の溝(21)に挿入された四電極チップ(10)を示す。この例では、流路(22)は、セル(20)の上側表面に設けられた吸入口を有しており、微小電極(11a)へ下方に垂直に引き伸ばされている。そして、矢印で示された方向に、微小電極(11b)、微小電極(11c)、および微小電極(11d)を順次通過する。
【0040】
最後に、流路(22)は、排出口へ上方に再び垂直に引き伸ばされる。このように、単一の工程において、同一の液体が4つの微小電極(11a,11b,11c,11c)の通過を循環して行い得る。
【0041】
図2bもまた、単一流路セル(20)が2つの支持板(23,24)の間でどのように囲まれているか、および、単一流路セル(20)がそれらの間でネジ(25)およびナット(26)によってどのように固定されているかを示す。
【0042】
図3aおよび3bは、第2の多流路セル(30)の溝(31)に挿入された四電極チップ(10)を示す。この例では、4つの独立した流路(32a,32b,32c,32d)のそれぞれが、各々の吸入口から各々の微小電極(11a,11b,11c,11d)へ垂直に降下し、その後、それぞれの排出口へ上昇していることを見ることができる。このように、4つの異なる液体が同時に循環でき、各自、微小電極(11a,11b,11c,11d)のいずれかを通過することができる。
【0043】
第2のセル(30)もまた、ネジ(35)およびナット(36)によって2つの支持板(33,34)の間で固定される。
【0044】
<例>
第1の例では、本発明のシステムを使用する、単一の試料における複数の検体の同時検出および量子化が表される。特に、食品試料が問題物として呼ぶべき、アトラジン(ATRZ)、アジンホス(AZM)、トリクロロフェノール(TCP)、または、ブロモプロピレン(BP)農薬によって汚染されているかを探知する。
【0045】
これを行うため、初めに、4電極チップ(10)が多流路セル(30)の溝(31)に導入され(ステップ1)そして、電極表面を洗浄および活性化するための溶液が、各々の流路(32a,32b,32c,32d)を通過させられる。それから、各々の微小電極(11a,11b,11c,11d)の表面にそれらを選択的に固定化する(ステップ2)ため、各々の検体(AT1,AT2,AT3,AT4)のための特定の抗原の通過を伴う、不溶性支持体における固定化の段階へ進める。
【0046】
例えば本発明の微小電極(11a,11b,11c,11d)の一つである支持体の表面における化合物の固定化は、その表面の化学反応によって導かれる。多くの要素の存在は、化合物の固定化の能力を変化させ得る。その培養時間および温度はとても重要である。大概、温度が高いほど、必要な培養時間は短くなるが、好ましくは、支持体表面における化合物の固定化のため、3〜6°Cによって、10〜20時間とすることが好ましい。
【0047】
抗原固定化工程は、抗原によって占有されない支持体の間隔の遮断を伴う最終工程を含む。これは、そこへの束縛が選択的でないため、およびもし遮断されなかった場合他の非特異分子を束縛し得るためである。遮断は蛋白質または洗浄剤(好ましくは非イオン洗浄剤)の使用により行われる。PBSTの使用がより好ましい。
【0048】
PBSは、0.8%の食塩水を含んだ10mMのリン酸緩衝液であり、もし、定められていなければpHは7.5である。PBSTは、0.05%のTween20を含んだPBSである。コーティングバッファは、0.05Mの炭酸塩-重炭酸塩であり、pH9.6である。
【0049】
PBST洗浄液は、それから、微小電極(11a,11b,11c,11d)に付着されなかったそれらの抗原を除去するため、各々の流路(32a,32b,32c,32d)を通過させられる。
【0050】
多電極チップ(10)は、それから多流路セル(30)の溝(31)から引き抜かれる。この活性化および機能化された電極は、後の使用のため、冷却状態および不活性雰囲気に保存される。この時点までに、センサ構造および準備段階として考えられ得る。
【0051】
測定工程のため、対応する活性化および機能化されたチップは、単一流路セル(20)の溝(21)に挿入される(ステップ3)。試料と、4つの検体を検出するための抗-抗原抗体(Ac1,Ac2,Ac3,Ac4)との混合体は、一定の時間、前培養され、単一流路セル(20)の流路(22)を通過させられる(ステップ4)。試料に存在する検体と反応しなかった抗体の一部は、対応する抗原(11a,11b,11c,11d)とともに機能化された微小電極へ束縛されるだろう。
【0052】
前培養は、試料および抗-抗原抗体の一定時間(好ましくは15°C〜30°Cにおいて30分未満)の混合からなる。前培養された混合体は、微小電極(11a,11b,11c,11d)上に固定化された抗原を通過させられ、そして、上記前培養と同一条件のもと、5分から15分の間、培養される。これにより、上記支持体において、試料に存在していたであろう自由な抗体の、固定化された抗原への束縛が生じる。
【0053】
次の工程は、上述したように固定化された抗原に束縛されなかったそれらの物質を除去するための微小電極(11a,11b,11c,11d)の洗浄である。
【0054】
それから、微小電極(11a,11b,11c,11d)が浸されるように、測定液が各々の流路(32a,32b,32c,32d)を通過させられる。この測定液は、導電率が1.6μScm-1であり、KCl 1 × 10-6Mの溶液である。インピーダンス測定は、100kHzと10Hzとの間の周波数範囲で行われる。得られたインピーダンスデータは、商用ソフトウェア:Zplot / Zview(Scribner Associates Inc.)の使用により、図4に示された等価回路に順応される。
【0055】
インピーダンス測定値は、試料における検体の濃度を決定するためのインピーダンス測定対照と比較された。
【0056】
この対照群は、既知の濃度において、本発明において検出および量子化される検体を含んでいる溶液の集合であり、インピーダンス値および濃度値は、校正または線形回帰曲線(図5a、5b、5c、および5d)を生成することを可能とする一定の範囲において、既知の比を維持する。試料に存在する化合物の濃度は、校正曲線または線形回帰線の線形領域における測定において得られた値を補間することによって、定量化される。
【0057】
表1.校正曲線に使用された濃度範囲
分析物 校正曲線間隔(μgL-1)
アトラジン 500-1.6 × 10-3
TCP 200-3 × 10-3
ブロモプロピレン 250-4 × 10-3
アジンホス 300-3.84 × 10-3
なお、微小電極(11a,11b,11c,11d)の第1の導電率測定は、検出用バッファのみを使用して、試料の上記微小電極(11a,11b,11c,11d)の通過に先行して実行される。この測定値は、検体の存在に起因するインピーダンスのばらつきを事実上測定する第2の測定において得られた計測値から差し引かれるための参照測定値である。微小電極(11a,11b,11c,11d)の第2の導電率測定は、試料が上記微小電極(11a,11b,11c,11d)を通過した後、および、前述の後続する洗浄段階の後、行われる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
単一の試料における複数種の検体の同時検出および/または定量化のための、または、複数種の試料における検体の同時検出のための、インピーダンス測定に基づいた多重的多重検体システムであって、
一組の微小電極(11a,11b,11c,11d)を備える多電極チップ(10)と、
多電極チップ(10)の収容に適した溝(21)と、前記溝(21)に挿入されたときに多電極チップ(10)における微小電極(11a,11b,11c,11d)の各々に順次流体試料を通過させることを可能とする単一流路(22)と、を備える単一流路セル(20)と、
多電極チップ(10)の収容に適した溝(31)と、多電極チップ(10)における電極(11a,11b,11c,11d)の各々に、様々な流体試料を独立して通過させることを可能とするいくつかの独立した流路(32a,32b,32c,32d)と、を備える第2の多流路セル(30)と、
を備えることを特徴とする多重的多重検体システム。
【請求項2】
前記多電極チップ(10)に接続された励起・処理装置
をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の多重インピーダンス解析システム。
【請求項3】
多電極チップ(10)の遠方の端部(D)に設けられた電極(11a,11b,11c,11d)は、導通路(12a,12b,12c,12d,12e)によって、前記多電極チップ(10)の前記励起・処理装置への接続を可能とする近方の端部(P)に設けられたコネクタ(13a,13b,13c,13d,13e)へ、電気的に接続されている。
ことを特徴とする請求項2に記載の多重インピーダンス解析システム。
【請求項4】
微小電極(11a,11b,11c,11d)および導通路(12a,12b,12c,12d,12e)は、TaSi2製である
ことを特徴とする請求項3に記載の多重インピーダンス解析システム。
【請求項5】
前記電極(11a,11b,11c,11d)を互いに分離する誘電性壁をさらに備える
ことを特徴とする請求項3または4に記載の多重インピーダンス解析システム。
【請求項6】
導通路(12a,12b,12c,12d,12e)を保護するための誘電性被覆をさらに備える
ことを特徴とする請求項3〜5のいずれか一項に記載の多重インピーダンス解析システム。
【請求項7】
前記誘電性壁および前記誘電性被覆は、SiO2製である
ことを特徴とする請求項6に記載の多重インピーダンス解析システム。
【請求項8】
それぞれのセル(20,30)は、2つの支持板(23,24,33,34)に固定されており、サンドイッチ構造を形成している
ことを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の多重インピーダンス解析システム。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項に記載の多重インピーダンス解析システムを使用して、単一の試料における複数種の検体を同時検出および/または定量化するための方法であって、
多流路セル(30)の溝(31)に多電極チップ(10)を挿入する工程、
検出される各々の検体のための選択的な受容体または競合体を、各々の微小電極(11a,11b,11c,11d)に固着させるため、適当な化合物を流路(32a,32b,32c,32d)の各々に通過させる工程、
多電極チップ(10)を多流路セル(30)から取り除き、単一流路セル(20)の溝(21)へ挿入する工程、および、
単一流路セル(20)の流路(22)に、各々の検体に適した免疫反応性混合物と混ぜ合わされた単一の試料を通過させることにより、所望の検体の各々を対応する微小電極(11a,11b,11c,11d)に固着させる工程
を含むことを特徴とする方法。
【請求項10】
試料が微小電極(11a,11b,11c,11d)を通過する前の、微小電極(11a,11b,11c,11d)の導電率の第1の測定を行う工程、
試料の微小電極(11a,11b,11c,11d)の通過、および、後続する洗浄段階の後の、微小電極(11a,11b,11c,11d)の導電率の第2の測定を行う工程、および、
上記2つの測定に基づいて、それぞれの微小電極(11a,11b,11c,11d)におけるそれぞれの検体量を決定する工程
をさらに含むことを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項11】
請求項1から8のいずれか一項に記載の多重インピーダンス解析システムを使用し、複数種の試料における単一の検体を同時検出および/または定量化するための方法であって、
単一流路セル(20)の溝(21)に多電極チップ(10)を挿入する工程、
検出される検体のための選択的な受容体または競合体を、各々の微小電極(11a,11b,11c,11d)に固着させるため、適当な化合物を流路(22)に通過させる工程、
多電極チップ(10)を単一流路セル(20)から取り除き、そして、流路セル(30)の溝(31)へ挿入する工程、および、
多流路セル(30)の各々の流路(32a,32b,32c,32d)に試料を通過させることにより、所望の検体を各々の微小電極(11a,11b,11c,11d)へ固着させる工程
を含むことを特徴とする方法。
【請求項12】
試料が微小電極(11a,11b,11c,11d)を通過する前の、微小電極(11a,11b,11c,11d)の導電率の第1の測定を行う工程、
試料の微小電極(11a,11b,11c,11d)の通過、および、後続する洗浄段階の後の、微小電極(11a,11b,11c,11d)の導電率の第2の測定を行う工程、および、
上記2つの測定に基づいて、微小電極(11a,11b,11c,11d)のそれぞれにおける検体量を決定する工程
をさらに含むことを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項1】
単一の試料における複数種の検体の同時検出および/または定量化のための、または、複数種の試料における検体の同時検出のための、インピーダンス測定に基づいた多重的多重検体システムであって、
一組の微小電極(11a,11b,11c,11d)を備える多電極チップ(10)と、
多電極チップ(10)の収容に適した溝(21)と、前記溝(21)に挿入されたときに多電極チップ(10)における微小電極(11a,11b,11c,11d)の各々に順次流体試料を通過させることを可能とする単一流路(22)と、を備える単一流路セル(20)と、
多電極チップ(10)の収容に適した溝(31)と、多電極チップ(10)における電極(11a,11b,11c,11d)の各々に、様々な流体試料を独立して通過させることを可能とするいくつかの独立した流路(32a,32b,32c,32d)と、を備える第2の多流路セル(30)と、
を備えることを特徴とする多重的多重検体システム。
【請求項2】
前記多電極チップ(10)に接続された励起・処理装置
をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の多重インピーダンス解析システム。
【請求項3】
多電極チップ(10)の遠方の端部(D)に設けられた電極(11a,11b,11c,11d)は、導通路(12a,12b,12c,12d,12e)によって、前記多電極チップ(10)の前記励起・処理装置への接続を可能とする近方の端部(P)に設けられたコネクタ(13a,13b,13c,13d,13e)へ、電気的に接続されている。
ことを特徴とする請求項2に記載の多重インピーダンス解析システム。
【請求項4】
微小電極(11a,11b,11c,11d)および導通路(12a,12b,12c,12d,12e)は、TaSi2製である
ことを特徴とする請求項3に記載の多重インピーダンス解析システム。
【請求項5】
前記電極(11a,11b,11c,11d)を互いに分離する誘電性壁をさらに備える
ことを特徴とする請求項3または4に記載の多重インピーダンス解析システム。
【請求項6】
導通路(12a,12b,12c,12d,12e)を保護するための誘電性被覆をさらに備える
ことを特徴とする請求項3〜5のいずれか一項に記載の多重インピーダンス解析システム。
【請求項7】
前記誘電性壁および前記誘電性被覆は、SiO2製である
ことを特徴とする請求項6に記載の多重インピーダンス解析システム。
【請求項8】
それぞれのセル(20,30)は、2つの支持板(23,24,33,34)に固定されており、サンドイッチ構造を形成している
ことを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の多重インピーダンス解析システム。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項に記載の多重インピーダンス解析システムを使用して、単一の試料における複数種の検体を同時検出および/または定量化するための方法であって、
多流路セル(30)の溝(31)に多電極チップ(10)を挿入する工程、
検出される各々の検体のための選択的な受容体または競合体を、各々の微小電極(11a,11b,11c,11d)に固着させるため、適当な化合物を流路(32a,32b,32c,32d)の各々に通過させる工程、
多電極チップ(10)を多流路セル(30)から取り除き、単一流路セル(20)の溝(21)へ挿入する工程、および、
単一流路セル(20)の流路(22)に、各々の検体に適した免疫反応性混合物と混ぜ合わされた単一の試料を通過させることにより、所望の検体の各々を対応する微小電極(11a,11b,11c,11d)に固着させる工程
を含むことを特徴とする方法。
【請求項10】
試料が微小電極(11a,11b,11c,11d)を通過する前の、微小電極(11a,11b,11c,11d)の導電率の第1の測定を行う工程、
試料の微小電極(11a,11b,11c,11d)の通過、および、後続する洗浄段階の後の、微小電極(11a,11b,11c,11d)の導電率の第2の測定を行う工程、および、
上記2つの測定に基づいて、それぞれの微小電極(11a,11b,11c,11d)におけるそれぞれの検体量を決定する工程
をさらに含むことを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項11】
請求項1から8のいずれか一項に記載の多重インピーダンス解析システムを使用し、複数種の試料における単一の検体を同時検出および/または定量化するための方法であって、
単一流路セル(20)の溝(21)に多電極チップ(10)を挿入する工程、
検出される検体のための選択的な受容体または競合体を、各々の微小電極(11a,11b,11c,11d)に固着させるため、適当な化合物を流路(22)に通過させる工程、
多電極チップ(10)を単一流路セル(20)から取り除き、そして、流路セル(30)の溝(31)へ挿入する工程、および、
多流路セル(30)の各々の流路(32a,32b,32c,32d)に試料を通過させることにより、所望の検体を各々の微小電極(11a,11b,11c,11d)へ固着させる工程
を含むことを特徴とする方法。
【請求項12】
試料が微小電極(11a,11b,11c,11d)を通過する前の、微小電極(11a,11b,11c,11d)の導電率の第1の測定を行う工程、
試料の微小電極(11a,11b,11c,11d)の通過、および、後続する洗浄段階の後の、微小電極(11a,11b,11c,11d)の導電率の第2の測定を行う工程、および、
上記2つの測定に基づいて、微小電極(11a,11b,11c,11d)のそれぞれにおける検体量を決定する工程
をさらに含むことを特徴とする請求項11に記載の方法。
【図1】
【図2a】
【図2b】
【図3a】
【図3b】
【図4】
【図5a】
【図5b】
【図5c】
【図5d】
【図2a】
【図2b】
【図3a】
【図3b】
【図4】
【図5a】
【図5b】
【図5c】
【図5d】
【公表番号】特表2013−513811(P2013−513811A)
【公表日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−543850(P2012−543850)
【出願日】平成22年12月14日(2010.12.14)
【国際出願番号】PCT/ES2010/070824
【国際公開番号】WO2011/073481
【国際公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【出願人】(511000083)
【氏名又は名称原語表記】CONSEJO SUPERIOR DE INVESTIGACIONES CIENTIFICAS(CSIC)
【住所又は居所原語表記】C/Serrano,117,E−28006 Madrid,Spain
【Fターム(参考)】
【公表日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年12月14日(2010.12.14)
【国際出願番号】PCT/ES2010/070824
【国際公開番号】WO2011/073481
【国際公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【出願人】(511000083)
【氏名又は名称原語表記】CONSEJO SUPERIOR DE INVESTIGACIONES CIENTIFICAS(CSIC)
【住所又は居所原語表記】C/Serrano,117,E−28006 Madrid,Spain
【Fターム(参考)】
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