説明

インピーダンス計測センサおよびインピーダンス計測装置

【課題】 ロッド状部材間および周囲に存在する媒体を測定対象とする場合に適用してロッド状部材の表面における前記媒体の状態とともに、前記ロッド状部材間および周囲に存在する媒体の状態を容易且つ的確に計測し得るインピーダンス計測センサおよびインピーダンス計測装置を提供する。
【解決手段】 複数のロッド状部材2の間および周囲に存在する媒体を測定対象とするインピーダンス計測センサであって、励起電極4および計測電極5からなる第1の電極対3の複数個と、励起電極4の基準電位と同じ電位に保持されたグランド電極6と、励起電極4、計測電極5およびグランド電極6間を電気的に絶縁する絶縁部7とを有して励起電極4と計測電極5間に接触される媒体のインピーダンスを計測するための多点電極センサ1と、計測電極5との間の媒体のインピーダンスを計測するよう計測電極5と第2の電極対を形成して励起電極として機能させる他の電極である第1のワイヤ電極9とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインピーダンス計測センサおよびインピーダンス計測装置に関し、特にロッド状部材を有する、例えば原子炉内の燃料棒被覆管の表面に形成される流体の液膜厚等、前記表面における前記流体の状態と同時に、各燃料棒被覆管の間の2点間を流通する流体の状態を把握する場合に適用して有用なものである。
【背景技術】
【0002】
例えば原子炉の燃料棒被覆管や復水器、蒸気発生器等の熱交換器では、伝熱量を定める上で、伝熱面に形成される液膜厚さを把握することが重要である。従来は一点や線分における液膜厚さ変動が計測されてきたが、気相からの剪断を受ける液膜は多次元流動であるため、対象面の液膜厚さ分布を時系列で捉えることが望ましい。これらの構造体の表面に付着している導電性の液膜厚さの時間分布および空間分布を計測する手法として、一対の電極間における導電性流体のインピーダンス変化に基づき液膜厚を計測する液膜厚計測方法が知られている。かかる液膜厚計測を実現するため、電極対を多数形成した多点電極方式の液膜厚計測センサが提案されている(例えば非特許文献1参照)。
【0003】
一方、前記燃料棒被覆管等を含む熱交換器の管路の間を流れる冷却水の状況を把握することは機器の熱設計上肝要であり、かかる熱設計を最適に行うためには前記冷却水の状態(気液の存在率等)や挙動(流速、流れ方向)を的確に把握することが必要になる。前記冷却水の状態(気液の存在率等)や挙動(流速、流れ方向)を的確に把握するには、冷却水の流れ方向(燃料棒被覆間の軸方向)に直交する断面内のなるべく多くの点における情報を収集する必要がある。
【0004】
そこで、原子炉の燃料棒被覆管等の表面に形成される冷却水の膜厚等、その状態と同時に前記燃料棒被覆管等の管路の間を流れる冷却水の状態を把握することで機器の熱設計上の有用な情報が得られると考えられる。さらに一般化すれば、流体に限らず管路の表面方向の媒体の状態と同時に、管路間の媒体の状態を多点で把握することは、管路を構成要素とする機器の熱設計等を考慮した場合、種々の有用な情報が得られると考えられる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Novel fluid dynamic instrumentation for mixing studies developed at ETH Zurich and PSI(The 13th International Topical Meeting on Nuclear Reactor Thermal Hydraulics Kanazawa City Isikawa Prefecture,Japan, September 27 October 2.2009
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来技術に鑑み、ロッド状部材間および周囲に存在する媒体を測定対象とする場合に適用してロッド状部材の表面における前記媒体の状態とともに、前記ロッド状部材間および周囲に存在する媒体の状態を容易且つ的確に計測し得るインピーダンス計測センサおよびインピーダンス計測装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成する本発明の第1の態様は、複数のロッド状部材の間および周囲に存在する媒体を測定対象とするインピーダンス計測センサであって、励起電極および計測電極からなる第1の電極対の複数個と、前記励起電極および計測電極間を電気的に絶縁する絶縁部とを有して前記励起電極と前記計測電極間に接触される前記媒体のインピーダンスを計測するための多点電極センサと、前記励起電極または計測電極との間の前記媒体のインピーダンスを計測するよう前記励起電極または計測電極の一方と第2の電極対を形成して計測電極または励起電極として機能させる他の電極とを有することを特徴とするインピーダンス計測センサにある。
【0008】
本態様によれば、第1の電極を有する多点電極センサにより励起電極および計測電極の間の媒体のインピーダンスを計測して多点電極センサの表面方向の媒体の状態を検出することができ、同時に第2の電極対を形成する多点電極センサと他の電極との間の媒体のインピーダンスを計測することにより多点電極センサと他の電極との間の媒体の状態を計測することができる。ここで、多点電極センサの励起電極または計測電極は第2の電極対の一方の電極として機能させることができる。
【0009】
本発明の第2の態様は、複数のロッド状部材の間および周囲に存在する媒体を測定対象とするインピーダンス計測センサであって、励起電極および計測電極からなる第1の電極対の複数個と、前記励起電極および計測電極間を電気的に絶縁する絶縁部とを有して前記励起電極と前記計測電極間に接触される前記媒体のインピーダンスを計測するための多点電極センサと、前記多点電極センサに前記励起電極および計測電極と独立させて設けた励起電極または計測電極として機能させる個別電極と、前記個別電極との間の前記媒体のインピーダンスを計測するよう前記個別電極とともに第2の電極対を形成する計測電極または励起電極として機能させる他の電極とを有することを特徴とするインピーダンス計測センサにある。
【0010】
本態様によれば、多点電極センサの個別電極を第2の電極対の一方の電極として機能さ
せることで、第1の態様に記載したインピーダンス計測センサと同様の作用を得ることができる。
【0011】
本発明の第3の態様は、第1または第2の態様に記載するインピーダンス計測センサにおいて、前記励起電極の基準電位と同じ電位に保持されるとともに前記励起電極及び計測電極との間が前記絶縁部で絶縁されているグランド電極をさらに有することを特徴とするインピーダンス計測センサにある。
【0012】
本態様によれば、外乱の影響を可及的に除去することができる。この結果、所定のインピーダンス計測の精度を向上させることができる。
【0013】
本発明の第4の態様は、第1〜第3の態様の何れか1つに記載するインピーダンス計測センサにおいて、前記多点電極センサは前記ロッド状部材の外周面に配設されていることを特徴とするインピーダンス計測センサにある。
【0014】
本態様によればロッド状部材の外周面の媒体の状態を良好に計測し得る。
【0015】
本発明の第5の態様は、第1〜第3の態様の何れか1つに記載するインピーダンス計測センサにおいて、前記多点電極センサは前記ロッド状部材の周囲を取り囲む壁面に配設されていることを特徴とするインピーダンス計測センサにある。
【0016】
本態様によれば、前記壁面の媒体の状態を良好に計測し得る。
【0017】
本発明の第6の態様は、第1〜第5の態様の何れか1つに記載するインピーダンス計測センサにおいて、前記他の電極は他のロッド状部材で形成したことを特徴とするインピーダンス計測センサにある。
【0018】
本態様によれば、他のロッド状部材を第2の電極対の一方の電極とすることができる。
【0019】
本発明の第7の態様は、第1〜第5の態様の何れか1つに記載するインピーダンス計測センサにおいて、前記他の電極は他のロッド状部材に配設した他の多点電極センサの計測電極、励起電極または個別電極で形成したことを特徴とするインピーダンス計測センサにある。
【0020】
本態様によれば、他の多点電極センサの計測電極、励起電極または個別電極を第2の電極対の一方の電極とすることができる。
【0021】
本発明の第8の態様は、第1〜第5の態様の何れか1つに記載するインピーダンス計測センサにおいて、前記他の電極は前記ロッド状部材の間に配設したワイヤで形成したことを特徴とするインピーダンス計測センサにある。
【0022】
本態様によれば、ワイヤを第2の電極対の一方の電極とすることができる。
【0023】
本発明の第9の態様は、第8の態様に記載するインピーダンス計測センサにおいて、前記ワイヤは、相互に平行に配設された複数本のワイヤからなることを特徴とするインピーダンス計測センサにある。
【0024】
本態様によれば、第2の電極対の励起電極および計測電極間の距離を縮小することができる。すなわち、例えば2本のワイヤを配設することにより各ワイヤを一方の電極とする場合よりも、ロッド状部材のより表面近傍の局所インピーダンスを高精度に計測することができる。
【0025】
本発明の第10の態様は、第8または第9の態様に記載するインピーダンス計測センサにおいて、前記ワイヤは、相互に所定の距離離隔させるとともに、相互に交叉する第1のワイヤおよび第2のワイヤで構成したことを特徴とするインピーダンス計測センサにある。
【0026】
本態様によれば、第1のワイヤと第2のワイヤとの間、第1のワイヤと多点電極センサとの間または第2のワイヤと多点電極との間のいずれをも第2の電極対による計測点とすることができる。
【0027】
本発明の第11の態様は、第8〜第10の態様の何れか1つに記載するインピーダンス計測センサにおいて、前記ワイヤはロッド状部材の軸方向に関して複数個所に配設されて多段となっていることを特徴とするインピーダンス計測センサにある。
【0028】
本態様によれば、ロッド状部材間に存在する媒体のインピーダンスを、前記ロッド状部材の軸方向に関する複数個所においてそれぞれ計測することができる。
【0029】
本発明の第12の態様は、第11の態様に記載するインピーダンス計測センサにおいて、前記ロッド状部材にはそれぞれの軸方向に関する途中に絶縁部が形成されていることを特徴とするインピーダンス計測センサにある。
【0030】
本態様によれば、前記ロッド状部材の軸方向に関して複数個所においてそれぞれ形成されるインピーダンス計測センサの相互干渉を防止することができる。
【0031】
本発明の第13の態様は、第1〜第12の態様の何れか1つに記載するインピーダンス計測センサにおいて、前記多点電極センサは、前記絶縁部が、周囲を前記グランド電極に囲まれてそれぞれ独立した絶縁領域を形成しており、前記各電極対のうち同一電極対における前記励起電極と前記計測電極との間には前記絶縁領域のみが形成されていることを特徴とするインピーダンス計測センサにある。
【0032】
本態様によれば、第1の電極対を形成する多点電極センサの励起電極および計測電極はそれぞれの周囲をグランド領域に囲まれることにより独立させた絶縁領域内で電極対を形成しており、しかも各励起電極および計測電極の間にはグランド領域が存在しないので、他の電極対の励起電極からの影響を排除して各電極対毎に固有の独立した電気力線が励起電極から計測電極へ向けて形成される。すなわち、各電極対の感度はどの電極対でも同じであり、隣接する電極対の影響を受けないようにすることができる。
【0033】
本発明の第14の態様は、第1〜第13の態様の何れか1つに記載するインピーダンス計測センサと、前記第1の電極対の表面に存在する前記媒体による前記第1の電極対における励起電極及び計測電極間のインピーダンスに基づき、第1の計測位置に存在するインピーダンスが異なる前記媒体中の複数の物質の存在量を演算するとともに、前記第2の電極対で計測される前記媒体を介したインピーダンスに基づき、第2の計測位置に存在するインピーダンスが異なる前記媒体中の複数の物質の存在量を演算する演算処理部とを有することを特徴とするインピーダンス計測装置にある。
【0034】
本態様によれば、第1の電極対で多点電極センサの表面方向の媒体の状態を、また第2の電極対で多点電極センサと他の点との間に存在する媒体の状態を同時に計測することができる。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、多点電極センサにより励起電極および計測電極の間の媒体のインピーダンスを計測することにより、多点電極の表面方向の媒体の状態を検出することができ、同時に多点電極センサと他の電極との間の媒体のインピーダンスを計測することにより、多点電極センサと他の電極との間の媒体の状態を計測することができる。
【0036】
この結果、多点電極の表面方向の媒体の状態を表す情報と、多点電極センサと他の電極との間の媒体の状態を表す情報を同時に得ることができる。
【0037】
また、このとき、多点電極センサの励起電極または計測電極を第2の電極対の一方の電極として機能させているので、その分装置構成を簡略化し得る。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係るインピーダンス計測センサを示す模式図で、(a)は平面的に見た図、(b)は(a)を側面から見た図、(c)は第2の電極対の一方の電極となる多点電極センサの計測電極部分を拡大して示す図である。
【図2】図1に示すインピーダンス計測センサを有するインピーダンス計測装置を示す模式図である。
【図3】図2の各部の波形を示す波形図である。
【図4】本発明の第2の実施の形態に係るインピーダンス計測センサを示す模式図で、(a)は側面から見た図、(b)は第2の電極対の一方の電極となる多点電極センサの個別電極部分を拡大して示す図である。
【図5】本発明の第3の実施の形態に係るインピーダンス計測センサを示す模式図で、(a)は平面的に見た図、(b)は(a)を側面から見た図である。
【図6】本発明の他の実施の形態に係るインピーダンス計測センサを示す模式図で、(a)は平面的に見た図、(b)は(a)を側面から見た図である。
【図7】本発明の他の実施の形態に係るインピーダンス計測センサを示す模式図で、(a)は平面的に見た図、(b)は(a)を側面から見た図である。
【図8】本発明の他の実施の形態に係るインピーダンス計測センサを示す模式図で、(a)は平面的に見た図、(b)は(a)を側面から見た図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき詳細に説明する。なお、各実施の形態において同一部分には同一番号を付し、重複する説明は省略する。
【0040】
<第1の実施の形態>
図1は本発明の第1の実施の形態に係るインピーダンス計測センサを示す模式図で、(a)は平面的に見た図、(b)は(a)を側面から見た図である。両図に示すように、本形態における多点電極センサ1は、ロッド状部材2の一つの外周面に配設されており、励起電極4および計測電極5からなる第1の電極対3の複数個と、励起電極4の基準電位と同じ電位に保持されたグランド電極6と、励起電極4、計測電極5およびグランド電極6間を電気的に絶縁する絶縁部7とを有している。かくして、励起電極4と計測電極5間に接触される媒体である流体のインピーダンスを計測するように構成してある。すなわち、本形態は第1の電極対3でロッド状部材2の表面に形成される膜状の流体を構成する複数種類の流体の存在率等、前記流体に関する情報を検出するインピーダンス計測センサである。
【0041】
本形態における他の電極は第1のワイヤ電極9で形成してある。すなわち、第1のワイヤ電極9は励起電極4または計測電極5(本形態では図1(c)に示すように計測電極5;以下同じ)との間の流体のインピーダンスを計測するよう、計測電極5との間で第2の電極対8を形成している。
【0042】
ロッド状部材2は、その多数が軸方向を同一方向に揃えられて集合させた既存の構造であり、各ロッド状部材2の間をそれぞれの軸方向に沿い流体が流通するようになっている。本形態では各ロッド状部材2は、励起電極、計測電極または励起電極の基準電位と同じ電位に保持されたグランド電極として機能させるように導電材料で構成してある。原子炉における燃料棒被覆管がこの種のロッド状部材2の好適な一例である。
【0043】
本形態においては、第1のワイヤ電極9の他に第2のワイヤ電極10も有している。ここで、第2のワイヤ電極10は、ロッド状部材2の軸方向に関し第1のワイヤ電極9から所定の距離離隔させるとともに、第1のワイヤ電極9に交差するように正方格子状にロッド状部材2の間に配設してある。したがって、本形態では、第1のワイヤ電極9と第2のワイヤ電極10との交点、第1のワイヤ電極9とロッド状部材2との間、第2のワイヤ電極10とロッド状部材2との間等も流体に基づくインピーダンスの計測点として選定し得る。
【0044】
本形態によれば、第1の電極対3を有する多点電極センサ1により励起電極4および計測電極5の間の流体のインピーダンスを計測して多点電極センサ1の表面方向の流体の状態(例えば膜厚や波速等)を検出することができる。同時に第2の電極対8を形成する多点電極センサ1の計測電極5と他の電極である第1のワイヤ電極9との間の流体のインピーダンスを計測することで流れ方向に交差する断面の多点での流体の状態(例えば流体中における気液の存在比等)を検出することができる。
【0045】
ここで、第2の電極対8の多点電極センサ1側の電極を励起電極4で形成することも、また第2の電極対8の他の電極を第2のワイヤ電極10で形成することも勿論可能であり、これらの各場合においても本形態と同様の作用・効果を得る。さらに、第2の電極対8の他の電極を第1および第2のワイヤ電極9、10で形成することも可能である。この場合には、第1および第2のワイヤ電極9、10と多点電極センサ1との間のインピーダンスをそれぞれ計測することができる。
【0046】
なお、本形態に係るインピーダンス計測センサは多点電極センサ1の他に第1および第2のワイヤ電極9、10とロッド状部材2とを有しているので、インピーダンス計測装置のセンサとして次のような3種類のモードの使用態様も考えられる。第1のワイヤ電極9を励起電極、第2のワイヤ電極10を計測電極、ロッド状部材12をグランド電極として機能させる第1のモード、ロッド状部材12を励起電極、第1および第2のワイヤ電極9,10を計測電極として機能させる第2のモード、第1の場合と第2の場合とを選択的に切替えて使用する第3のモードの3種類である。
【0047】
図2は本形態に係るインピーダンス計測センサの主に第1の電極対に関する模式図、図3は図2の各部の波形を示す波形図である。なお、図2中、図1と同一部分には同一番号を付し、重複する説明は省略する。
【0048】
図2に示すように、励起電極4および計測電極5で形成される多数の第1の電極対3は図中の垂直方向に伸びる信号線26(右側の数字は各列に対応する番号である。)と図中の水平方向に伸びる信号線27(上側の数字は各行に対応する番号である。)とが交差する部分に配設してある。ここで、各励起電極4が信号線26に、また各計測電極5が信号線27にそれぞれ接続されている。また、本形態においては特定の行(図では第4行)に属する励起電極4が第2の電極対8の一方の電極として構成してある。したがって、第2の電極対8を構成する励起電極4は第1のワイヤ電極9を計測電極とする信号を検出する。ここで、励起電極4を第2の電極対8の一方の電極として機能させる場合には、計測電極5は電極としての機能を停止させておく。なお、図2に示す場合は、4行目に属する第1の電極対3における計測電極5は使用しないので、図中の表示を省略しているが、4行目の第1の電極対3も他の行の第1の電極対3と同様に構成してある。したがって、信号線27に励起信号、信号線26に出力信号が入出力されるように外部回路(スイッチ、電源、A/D変喚器、PC等)を入れ替え、第1のワイヤ電極9を励起電極として機能させることも可能である。
【0049】
かくして、多点電極センサ1の表面に導電性の流体(例えば水)の液膜が形成された状態または多点電極センサ1と第1のワイヤ電極9との間を液体が流通している状態で、図3に示すパルス信号でオン・オフされるスイッチS1,S2,S3,S4により一列目から順次信号線26の何れかが選択されると、選択された列に接続されている励起電極4に、電源25から所定の励起信号SIが供給される。この励起信号SIは本形態の場合、スイッチSPの切換で極性が反転するバイポーラパルス信号である。
【0050】
パルス信号で選択された列に励起信号SIが供給された場合、計測電極5との間の状態または第1のワイヤ電極9との間の状態に応じた計測信号SOが各行の信号線27から得られ、各A/D変換器30を介して演算処理部として機能するパーソナルコンピュータ(パソコン;以下同じ)31に供給される。ここで、計測電極5との間の状態とは、多点電極センサ1の表面に形成された流体の膜等の状態であり、この状態は液膜厚等で変化する。また、第1のワイヤ電極9との間の状態とは、第1のワイヤ電極9と多点電極センサ1との間の流体中の気液二相流等の状態であり、この状態は気液二相流中の気体と液体の存在比で変化する。すなわち、本形態によれば、第1の電極対3で多点電極センサ1の表面方向の流体の情報を、また第2の電極対8で多点電極センサ1と第1のワイヤ電極9との間の流体の情報を検出することができる。なお、図3に各部の波形を示す。
【0051】
<第2の実施の形態>
図4は本発明の第2の実施の形態に係るインピーダンス計測センサを示す模式図で、(a)は側面から見た図、(b)は第2の電極対の一方の電極となる多点電極センサの個別電極部分を拡大して示す図である。両図中、図1と同一部分には同一番号を付し、重複する説明は省略する。
【0052】
図4に示すように、本形態では第2の電極対18の一方を構成する多点電極センサ11側の電極を励起電極4および計測電極5とは別に設けた個別電極16で構成したものである。個別電極16は絶縁部17を介して設けてある。すなわち、本形態は、第1の実施の形態における励起電極4または計測電極5を個別電極16で代替させたものであり、第2の電極対18を形成する一方の電極を個別電極16とした点のみが異なる。本形態を用いたインピーダンス計測装置を含め、その機能、作用・効果等は第1の実施の形態と全く同様に考えることができる。
【0053】
ただ、本形態によれば、第1の電極対3で構成する測定系と第2の電極対18で構成する測定系とを完全に二系統に分けることができる。
【0054】
<第3の実施の形態>
図5は本発明の第3の実施の形態に係るインピーダンス計測センサを示す模式図で、(a)は平面的に見た図、(b)は(a)を側面から見た図である。両図中、図1と同一部分には同一番号を付し、重複する説明は省略する。
【0055】
図5に示すように、本形態における多点電極センサ31は複数のロッド状部材2を取り囲んで配設されている。本形態の場合は、第2の電極対の一方の電極はロッド状部材2、第1および/または第2のワイヤ電極9,10の何れでも良い。また、多点電極センサ31自体は、多点電極センサ1または個別電極16を有する多点電極センサ11と同構成のもののいずれでも良い。すなわち、前者の場合は多点電極センサ1の励起電極4または計測電極5の何れか一方が、また後者の場合は多点電極センサ11の個別電極16が第2の電極対の他方の電極となる。したがって、本形態を用いたインピーダンス計測装置を含め、基本的な作用・効果においては第1および第2の実施の形態と全く同様に考えることができる。
【0056】
本形態によれば、多点電極センサ31で形成する壁面の表面方向の流体の情報を計測するとともに、第2の電極対で多点電極センサ31と一方の電極の間の流体の状態を良好に計測することができる。
【0057】
<他の実施の形態>
上述の如く各実施の形態とともに本発明を具体的に説明したが、本発明は上記第1〜第3の実施の形態に限る必要は勿論ない。複数の第1の電極対を有する多点電極センサと、この多点電極センサの励起電極、計測電極または個別電極を一方の電極として対となる他方の電極とで第2の電極対が形成され、第1の電極対で多点電極センサの表面方向の媒体のインピーダンスを計測するとともに、第2の電極対で多点電極センサと他の電極との間の媒体のインピーダンスを計測するように構成してあれば、本発明の技術思想の範囲内に含まれる。
【0058】
具体的には次のような他の実施の形態が考えられる。図1、図4に示す第1〜第3の実施の形態における多点電極センサ1,11,31は何れもグランド電極6を有するが、これは必ずしも必要ではない。ただ、グランド電極6を有する場合には、外乱の影響を可及的に除去することができ、高精度のインピーダンス計測を行うことが可能になるという効果は得られる。
【0059】
また、第1のワイヤ電極9と第2のワイヤ電極10との2本のワイヤ電極を設けたが、これは何れか一本でも構わない。さらに、第1のワイヤ電極9と第2のワイヤ電極10とをロッド状部材2の軸方向に関して複数段(図では3段)配設したが、少なくとも一段設ければ良い。
【0060】
さらに、第1および第2のワイヤ電極9、10はそれぞれ1本で形成したが、図6に示すように、これらをそれぞれ2本の第1および第2のワイヤ電極(9A,9B)、(10A,10B)で形成することもできる。この場合には第2の電極対8等の励起電極および計測電極間の距離を縮小することができるので、ロッド状部材2のより表面近傍の局所インピーダンスを高精度に計測することができる。
【0061】
さらに、第1〜第3の実施の形態では、第1および第2のワイヤ電極9,10をロッド状部材2の横断面内において正方格子状に配設したが、これに限るものでもない。ロッド状部材2の配設状態によっては千鳥配置等、他の配置形態でも良く、また場合によってはロッド状部材2の軸方向に配設しても良い。
【0062】
以上、要は必要なインピーダンス情報を得ようとする位置を考慮してワイヤ電極の数、配設位置、配設態様および段数を適宜決定すれば良い。
【0063】
第1および第2のワイヤ電極9,10を多段に配設した場合において、ロッド状部材2の軸方向に関する途中であって、各段の境界を規定する部分に絶縁部を形成しても良い。この場合には、ロッド状部材2の軸方向に関して複数個所においてそれぞれ形成されるインピーダンス計測センサの相互干渉を防止することができる。
【0064】
第1および第2の実施の形態において、第2の電極対8、18の他の電極はワイヤ電極9、10だけでなく、ロッド状部材2とすることもできる。また、図7に示すように、隣接するロッド状部材2の外周面にも多点電極センサ1(多点電極センサ11でも良い。以下同じ。)を配設し、この多点電極センサ1の励起電極4または計測電極5を用いて第2の電極対8の他の電極としても良い。
【0065】
第3の実施の形態において、図8に示すように、多点電極センサ31に相対向するロッド状部材2の外周面に多点電極センサ1を配設し、この多点電極センサ1の励起電極4、計測電極5等を第2の電極対の他の電極とすることもできる。
【0066】
さらに、上記実施の形態では測定対象として流体を例に採り説明したが、測定対象を流体に限る必要もない。ゼリー状の物質等の固体であっても測定対象とすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明は、多数のロッド状部材を集合させたロッド状部材集合体である前記各ロッド状部材の間を流通する流体に起因するインピーダンスを計測する、たとえば原子力の燃料集合体を取り扱う産業分野で有効に利用することができる。
【符号の説明】
【0068】
1、11、31 多点電極センサ
2 ロッド状部材
3 第1の電極対
4 励起電極
5 計測電極
6 グランド電極
7 絶縁部
8、18 第2の電極対
9 第1のワイヤ電極
10 第2のワイヤ電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のロッド状部材の間および周囲に存在する媒体を測定対象とするインピーダンス計測センサであって、
励起電極および計測電極からなる第1の電極対の複数個と、前記励起電極および計測電極間を電気的に絶縁する絶縁部とを有して前記励起電極と前記計測電極間に接触される前記媒体のインピーダンスを計測するための多点電極センサと、
前記励起電極または計測電極との間の前記媒体のインピーダンスを計測するよう前記励起電極または計測電極の一方と第2の電極対を形成して計測電極または励起電極として機能させる他の電極とを有することを特徴とするインピーダンス計測センサ。
【請求項2】
複数のロッド状部材の間および周囲に存在する媒体を測定対象とするインピーダンス計測センサであって、
励起電極および計測電極からなる第1の電極対の複数個と、前記励起電極および計測電極間を電気的に絶縁する絶縁部とを有して前記励起電極と前記計測電極間に接触される前記媒体のインピーダンスを計測するための多点電極センサと、
前記多点電極センサに前記励起電極および計測電極と独立させて設けた励起電極または計測電極として機能させる個別電極と、
前記個別電極との間の前記媒体のインピーダンスを計測するよう前記個別電極とともに第2の電極対を形成する計測電極または励起電極として機能させる他の電極とを有することを特徴とするインピーダンス計測センサ。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載するインピーダンス計測センサにおいて、
前記励起電極の基準電位と同じ電位に保持されるとともに前記励起電極及び計測電極との間が前記絶縁部で絶縁されているグランド電極をさらに有することを特徴とするインピーダンス計測センサ。
【請求項4】
請求項1〜請求項3の何れか1項に記載するインピーダンス計測センサにおいて、
前記多点電極センサは前記ロッド状部材の外周面に配設されていることを特徴とするインピーダンス計測センサ。
【請求項5】
請求項1〜請求項3の何れか1項に記載するインピーダンス計測センサにおいて、
前記多点電極センサは前記ロッド状部材を取り囲む壁面に配設されていることを特徴とするインピーダンス計測センサ。
【請求項6】
請求項1〜請求項5の何れか1項に記載するインピーダンス計測センサにおいて、
前記他の電極は他のロッド状部材で形成したことを特徴とするインピーダンス計測センサ。
【請求項7】
請求項1〜請求項5の何れか1項に記載するインピーダンス計測センサにおいて、
前記他の電極は他のロッド状部材に配設した他の多点電極センサの計測電極、励起電極または個別電極で形成したことを特徴とするインピーダンス計測センサ。
【請求項8】
請求項1〜請求項5の何れか1項に記載するインピーダンス計測センサにおいて、
前記他の電極は前記ロッド状部材の間に配設したワイヤで形成したことを特徴とするインピーダンス計測センサ。
【請求項9】
請求項8に記載するインピーダンス計測センサにおいて、
前記ワイヤは、相互に平行に配設された複数本のワイヤからなることを特徴とするインピーダンス計測センサ。
【請求項10】
請求項8または請求項9に記載するインピーダンス計測センサにおいて、
前記ワイヤは、相互に所定の距離離隔させるとともに、相互に交叉する第1のワイヤおよび第2のワイヤで構成したことを特徴とするインピーダンス計測センサ。
【請求項11】
請求項8〜請求項10の何れか1項に記載するインピーダンス計測センサにおいて、
前記ワイヤはロッド状部材の軸方向に関して複数個所に配設されて多段となっていることを特徴とするインピーダンス計測センサ。
【請求項12】
請求項11に記載するインピーダンス計測センサにおいて、
前記ロッド状部材にはそれぞれの軸方向に関する途中に絶縁部が形成されていることを特徴とするインピーダンス計測センサ。
【請求項13】
請求項1〜請求項12の何れか1項に記載するインピーダンス計測センサにおいて、
前記多点電極センサは、前記絶縁部が、周囲を前記グランド電極に囲まれてそれぞれ独立した絶縁領域を形成しており、前記各電極対のうち同一電極対における前記励起電極と前記計測電極との間には前記絶縁領域のみが形成されていることを特徴とするインピーダンス計測センサ。
【請求項14】
請求項1〜請求項13の何れか1項に記載するインピーダンス計測センサと、
前記第1の電極対の表面に存在する前記媒体による前記第1の電極対における励起電極及び計測電極間のインピーダンスに基づき、第1の計測位置に存在するインピーダンスが異なる前記媒体中の複数の物質の存在量を演算するとともに、前記第2の電極対で計測される前記媒体を介したインピーダンスに基づき、第2の計測位置に存在するインピーダンスが異なる前記媒体中の複数の物質の存在量を演算する演算処理部とを有することを特徴とするインピーダンス計測装置。

【図2】
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【図3】
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【図1】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−127875(P2012−127875A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−281028(P2010−281028)
【出願日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【出願人】(000173809)一般財団法人電力中央研究所 (1,040)
【Fターム(参考)】