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インフルエンザウイルスに対する抗体の産生方法
説明

インフルエンザウイルスに対する抗体の産生方法

【課題】抗インフルエンザウイルス抗体を、大量に且つ短期間で製造する。
【解決手段】H1型、H3型およびB型の各型1種以上を含むインフルエンザウイルス由来のHAを同時に雌性鳥類に免疫し、該鳥類が産卵した卵の卵黄からIgYを回収することにより、抗インフルエンザウイルス抗体を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインフルエンザウイルスに対する抗体の産生方法に関する。より詳しくは鳥類好ましくは、ダチョウを用いその卵からインフルエンザウイルスに対する抗体を産生する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
インフルエンザウイルスにはA、BおよびCの3つの型がある。世界的な流行を起こし、多くの死者が出るのは主にA型である。A型インフルエンザウイルスは更にウイルス表面のタンパク質であるヘマグルチニン(haemagglutinin:以下HAと略す)およびノイラミニダーゼ(以下、NAと略す)の抗原性により多くの亜型に分類される。これまでに少なくともHAに16種類、NAに9種類の変異が見つかっており、その組み合わせの数の亜型が存在し得る。これら亜型の違いはH1N1〜H16N9といった略称で表現されている。
【0003】
インフルエンザウイルスは、ヒトを含む哺乳類および鳥類に感染する。従来は種の壁があるためヒトにはヒトインフルエンザ、鳥類にはトリインフルエンザのみが感染すると考えられてきたが、近年ヒトおよびトリの両方に感染するインフルエンザウイルスが出現している。これらの中で、特にH5N1は高病原性トリインフルエンザウイルスと呼ばれ(日本では家畜伝染病予防法で規定されている)、これに感染した場合は、ヒトおよびトリの両者で極めて致死率が高い。
【0004】
インフルエンザウイルスの検出、治療、予防、防疫には、抗体が有用である。抗体の製造方法としては、マウス、ラット、ウサギ、ヤギのような哺乳動物を使用する方法の他、鳥類を使用する方法がある。
【0005】
哺乳類と比べ鳥類は大変高い免疫能力を持つことが知られている。これは鳥類が哺乳類とは全く異なった進化の過程を経てきているからといわれている。また鳥類の雌が有する抗体は卵となって体外に排出されるので、抗体の作製にも利用されている。例えば、ニワトリに抗原を接種し、抗原に特異的な抗体をニワトリ体内に形成させる。抗体が形成された後、このニワトリが産卵した卵の全卵、卵黄または卵白より特異的抗体を含有する材料を大量に得る方法が開示されている(特許文献1参照)。
【0006】
この抗原にはインフルエンザウイルスを用いた場合も検討されており、鶏卵から得られた抗体をスプレーで粘膜に噴霧する技術の開示がある(特許文献2参照)。また、鶏卵から得られた抗体を担持するマスクといった技術もある(特許文献3参照)。
【0007】
また、鶏卵から得られる抗体を含有する卵黄には、鶏卵特有の色や臭いがあるため、使いづらいという課題に対してニワトリへの飼料からカロチノイドを抜き、鶏卵特有の色や臭いのない白色化卵黄を得る技術の開示もある(特許文献4参照)。
【特許文献1】特開昭62−215534号公報
【特許文献2】特開昭62−175426号公報
【特許文献3】特開2005−169105号公報
【特許文献4】特開平4−103539号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年、ヒトおよびトリにおいて、インフルエンザの爆発的な流行が懸念されている。インフルエンザウイルスに感染した動物の治療、二次感染の予防、防疫等に用いる手段として、抗体は重要である。したがって、抗インフルエンザウイルス抗体を、大量且つ短期間で製造できるシステムの確立が待望されている。
【0009】
抗体の製造方法としては、マウスやウサギに抗原を免疫し、その血清よりポリクローナル抗体を製造する方法が一般的であるが、1個体より得られる抗体の量は少量である。また、マウス等を使用してモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを作製し、これを培養することで抗体を製造する方法もあるが、ハイブリドーマの作成に長期間を要し、さらに大量製造には大規模設備を要する。
【0010】
比較的大量に抗体を製造する方法としては、鶏卵を利用する方法がある。しかしながら、鶏卵は1つの卵が小さく、大量に抗体を産生する場合は多くのニワトリを用いる必要がある。ニワトリは個体が違えば免疫力も異なり、産生される抗体もそれぞれ異なる。従って同じ抗原を用いても免疫した個体が異なれば、全くの同一物ではない。それゆえ、得られた抗体は、個体の違いによるロット差が発生してしまうという課題がある。抗体を利用する場合はできるだけ、均一な品質でロット間による違いのないものが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は鋭意検討の結果、H1型、H3型およびB型の各型1種以上を含むインフルエンザウイルス由来のHAを雌性鳥類、好ましくはダチョウ(Struthio camelus)に免疫し、その卵から抗体を回収することで、インフルエンザウイルスに結合する抗インフルエンザウイルス抗体を大量に且つ比較的短期間に製造する方法を見出し、本発明を完成させた。
【0012】
すなわち、本発明は、H1型、H3型およびB型の各型1種以上を含むインフルエンザウイルス由来のHAを同時に雌性鳥類に免疫する工程および該鳥類が産卵した卵の卵黄からIgYを回収する工程を含む、抗インフルエンザウイルス抗体を製造する方法に関する。好ましくは、上記方法において、H1型がA/ニューカレドニア/20/99(H1N1)であり、H3型がA/広島/52/2005(H3N2)であり、およびB型がB/マレーシア/2506/2004である。好ましくは、上記方法において、鳥類はニワトリまたはダチョウであり、より好ましくは、ダチョウである。
【0013】
さらに好ましくは、本発明は、A/ニューカレドニア/20/99(H1N1)、A/広島/52/2005(H3N2)およびB/マレーシア/2506/2004由来のHAを同時に雌性ダチョウに免疫する工程および該ダチョウが産卵した卵の卵黄からIgYを回収する工程を含む、抗インフルエンザウイルス抗体を製造する方法に関する。
さらには、本発明は、A/ニューカレドニア/20/99(H1N1)、A/広島/52/2005(H3N2)およびB/マレーシア/2506/2004由来のHAを同時に雌性ダチョウに免疫する工程、高病原性鳥インフルエンザウイルスH5N1由来のH5蛋白質を追加免疫する工程および該ダチョウが産卵した卵の卵黄からIgYを回収する工程を含む、抗インフルエンザウイルス抗体を製造する方法に関する。
【0014】
また、本発明に係る抗インフルエンザウイルス抗体の製造方法は、製造された抗体が、インフルエンザウイルスに結合し、好ましくはA型インフルエンザウイルスに結合し、より好ましくは高病原性鳥インフルエンザウイルスH5N1由来のH5蛋白質に結合する抗体である方法を含む。
【0015】
また、本発明は、インフルエンザウイルス、A/ニューカレドニア/20/99(H1N1)、A/広島/52/2005(H3N2)およびB/マレーシア/2506/2004由来のHAを抗原とする、ダチョウ由来のIgY抗体であって、A型インフルエンザウイルスH5蛋白質に結合するIgY抗体に関する。
【0016】
本発明の別の態様においては、雌性ダチョウを高病原性鳥インフルエンザウイルスH5N1由来のH5蛋白質にて免疫する工程、および該ダチョウが産卵した卵の卵黄からIgYを回収する工程を含む、抗インフルエンザウイルス抗体を製造する方法、並びに該方法にて得られるIgY抗体に関する。本発明のこの態様により、高病原性鳥インフルエンザウイルスを中和しうる抗体を効率よく得ることができる。
【0017】
さらに、本発明は、上記ダチョウ抗インフルエンザウイルス抗体を含む鳥類抗インフルエンザウイルス抗体を利用した医薬、インフルエンザウイルスを診断、検出する手段(例えば、検出キット)、または防疫する手段(例えば、該抗体を付着させたマスクおよびフィルター)に関する。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る抗インフルエンザ抗体の製造方法は、ダチョウを含む鳥類の卵1個から大量の抗体を得ることができる。また、本発明に係る製造方法により製造された抗インフルエンザ抗体は、インフルエンザウイルスに結合することができ、インフルエンザウイルスの検出に有用である。さらに、本発明に係る抗体は、インフルエンザウイルスHAに対する抗体であり、HAが宿主細胞へのインフルエンザウイルスの吸着および浸潤に関与することから、中和抗体として利用可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
(A)本発明に係る抗インフルエンザウイルス抗体の製造方法
本発明は、少なくとも1種のインフルエンザウイルスのHAを同時に雌性鳥類に免疫する工程、該鳥類が産卵した卵の卵黄からIgYを回収する工程を含む抗インフルエンザウイルス抗体の製造方法を提供する。ここで、鳥類は、好ましくはダチョウである。
【0020】
本発明に係る抗インフルエンザウイルス抗体の製造方法に使用される免疫抗原は、存在するA型およびB型のインフルエンザウイルスから選択される少なくとも1つのインフルエンザウイルスが有するHAである。
【0021】
本明細書で「HA」とは、インフルエンザウイルスのウイルス表面タンパク質であるヘマグルチニンを意味する。A型インフルエンザウイルスは、HAの抗原性の相違によりH1型〜H16型までの16種の亜型に分類され、それぞれは、他の1つのウイルス表面タンパク質であるNA(ノイラミニダーゼ)の抗原性の相違により、N1型〜N9型までの9種の亜型に分類される。したがって、A型インフルエンザはH1N1〜H16N9までの144通りの亜型に分類される。
【0022】
本発明に係る抗インフルエンザウイルス抗体の製造方法に使用される免疫抗原は、好ましくは、H1型、H3型およびB型のインフルエンザウイルスから選択される少なくとも1つのインフルエンザウイルスが有するHAである。H1型インフルエンザウイルスとしては、H1N1〜H1N9のどの亜型でもよく、好ましくは、H1N1またはH1N2である。H3型インフルエンザウイルスとしては、H3N1〜H3N9のどの亜型でもよく、好ましくはH3N2である。
【0023】
本発明に係る抗インフルエンザウイルス抗体の製造方法に使用される免疫抗原は、より好ましくは、H1型、H3型およびB型の各型1種以上を含むインフルエンザウイルス由来のHAである。
【0024】
国際的に、インフルエンザウイルスは、血清型、宿主名、分離(検出)された場所、分離番号、分離年、血清亜型で特定される。例えば、「A/duck/鳥取/5/77(H3N8)」と表記されたインフルエンザウイルスは、
1)血清型が「A」型であり、
2)宿主が「duck」(アヒル)であり、
3)分離(検出)地が「鳥取」であり、
4)分離番号が「5」であり、
5)分離年が「77」、つまり1977年であり、
6)HAとNAの亜型が、H3N8である、
インフルエンザウイルス株であることを意味する。ただし、宿主がヒトの場合は、その表示は省略される(例えば、A/ニューカレドニア/20/99(H1N1))。
【0025】
本発明に係る抗インフルエンザウイルス抗体の製造方法に使用される免疫抗原は、いずれのインフルエンザウイルス株由来のHAを使用してもよい。例えば、A/ニューカレドニア/20/99(北里研究所保存株)、A/Bangkok/10/83、A/Yamagata/120/86、A/Osaka /930/88、A/Suita/1/89(以上、大阪大学微生物病研究所保存株)、A/PR/8/34〔インフルエンザ(H1N1)、ATCCVR−95〕、A1/FM/1/47〔インフルエンザA(H1N1)、ATCC VR−97〕、A/New Jersey/8/76〔インフルエンザA(H1N1)、ATCC VR−897〕、A/NWS/33〔インフルエンザA(H1N1)、ATCC VR−219〕、A/Weiss /43〔インフルエンザA(H1N1)、ATCC VR−96〕、A/WS/33〔インフルエンザA(H1N1)、ATCC VR−825〕等から選択されるH1N1亜型由来のHAを使用してもよい。
【0026】
また、A/Okuda/57、A/Adachi/2/57、A/Kumamoto/1 /65、A/Kaizuka /2/65、A/Izumi /5/65(以上、大阪大学微生物病研究所保存株)、A2/Japan /305/57〔インフルエンザA(H2N2)、ATCC VR−100〕等から選択されるH2N2亜型由来のHAを使用してもよい。
【0027】
さらに、A/広島/52/2005(北里研究所保存株)、A/Fukuoka /C29/85、A/Sichuan /2/87、A/Ibaraki /1/90、A/Suita /1/90(以上、大阪大学微生物病研究所保存株)、A/Port Chalmers /1/73〔インフルエンザA(H3N2)、ATCC VR−810〕、A2/Aichi /2/68〔インフルエンザA、ATCC VR−547〕等から選択されるH3N2亜型由来のHAを使用してもよい。
【0028】
また、さらに、B/マレーシア/2506/2004(北里研究所保存株)、B/Nagasaki/1/87(大阪大学微生物病研究所保存株)、B/Allen /45〔インフルエンザB、ATCC VR−102〕等から選択されるB型インフルエンザウイルス由来のHAを使用してもよい。
【0029】
また、その他のインフルエンザウイルス、例えば、A/duck/Czechoslovakia/1/56(H4N6)、A/chiken/Germany “N”/49(H10N7)(以上、大阪大学微生物病研究所保存株)、A/whistling swan/Shimane /476/83(H5N3)、A/whistling swan/Shimane /37/80(H6N6)、A/tufted duck /Shimane /124R/80(H7N7)、A/turkey/Ontario /6118/68(H8N4)、A/turkey/Wisconsin /66(H9N2)、A/duck/England /56(H11N6)(以上、大阪大学微生物病研究所保存株)等から選択される株由来のHAを使用することも可能である。
【0030】
さらに好ましくは、本発明に係る抗インフルエンザウイルス抗体の製造方法に使用される免疫抗原は、H1型、H3型およびB型の各型1種以上を含むインフルエンザウイルス由来のHAであり、H1型としてA/ニューカレドニア/20/99(H1N1)を、H3型としてA/広島/52/2005(H3N2)およびB型としてB/マレーシア/2506/2004由来のHAを含むものである。
【0031】
さらにより好ましくは、本発明に係る抗インフルエンザウイルス抗体の製造方法に使用される免疫抗原は、A/ニューカレドニア/20/99(H1N1)、A/広島/52/2005(H3N2)およびB/マレーシア/2506/2004由来のHAである。
【0032】
免疫は本分野で一般的な方法により行われ、例えば、上記免疫抗原を所望により通常のアジュバントと併用して、動物に2〜14日毎、好ましくは隔週で、静脈内、皮内、皮下、腹腔内注射等で数回、好ましくは2または3回、投与することにより行うことができる。本発明に係る抗インフルエンザウイルス抗体の製造方法においては、複数免疫抗原を同時に(一度に)免疫してもよいし、順次免疫してもよい。
【0033】
また、本発明に係る抗インフルエンザウイルス抗体の製造方法は、免疫後産卵された卵よりIgY抗体を回収する工程を含み得る。免疫後産卵された卵よりIgY抗体を回収する工程は、例えば、塩析、ゲルろ過法、アフィニティークロマトグラフィー等の通常の精製手段を用いることができ、例えば、以下の方法を採用できる。
1)卵黄に5倍量のTBS(20mMTris−HCl、0.15M NaCl,0.5%NaN)と卵黄と1.5倍量の10%デキストラン硫酸/TBSを加え20分攪拌する。
2)1MCaCl/TBSを卵黄と同量加え攪拌し、12時間静置する。その後、15000rpmで20分遠心し上清を回収する。
3)最終濃度40%になるように硫酸アンモニウムを加え4℃で12時間静置する。
4)15000rpmで20分遠心し、沈殿物を回収する。
5)卵黄と同量のTBSに再懸濁し、TBSにて透析する。
【0034】
回収された抗インフルエンザウイルス抗体の精製の程度は、使用目的に応じて適宜設定でき、保存は、いずれの形態でも可能で、例えば、溶液状態または、凍結乾燥状態で保存することができる。
【0035】
鳥類としてダチョウを用いる場合、通常上記方法にて、1個の免疫ダチョウ卵より2〜4gのIgYを回収することができる。初回免疫からIgYの大量回収までに要した時間は、約4週間である。ウサギを用いて血清からポリクローナル抗体を作製した場合、通常、1個体当たりの免疫グロブリンの回収量は、10mg以下であり、免疫から抗体の回収までの期間が2〜3ヶ月であることを考慮すれば、本発明に係る抗インフルエンザウイルス抗体の製造方法は、短期間で大量の抗インフルエンザ抗体を製造できる方法である。
【0036】
また、ニワトリを免疫し、鶏卵よりIgYを回収する場合、通常、1個の免疫鶏卵から回収されるIgYの量は100mg程度であり、免疫から抗体の回収までの期間は1〜2ヶ月である。
【0037】
回収されたIgY抗体は、インフルエンザウイルスに結合し、より好ましくはA型インフルエンザウイルスに結合し、さらに好ましくは、高病原性鳥インフルエンザウイルスH5N1由来のH5蛋白質に結合する。ここで、A型インフルエンザウイルスH5蛋白質は、インフルエンザウイルスHAの一種である。また、回収されたIgY抗体は、インフルエンザウイルス、より好ましくはA型インフルエンザウイルス、特に高病原性鳥インフルエンザウイルスH5N1による感染を中和する。
【0038】
本発明に係る抗インフルエンザウイルス抗体の製造方法によれば、抗体を大量に得ることができ、それを診断・検査薬や治療薬として利用できる。一個の卵黄から2〜4gのIgYの精製が可能であり、1羽のダチョウから年間400gの抗体を得ることが可能である。つまり1羽で約4000万人分以上のロット差の少ない診断キットの作製が可能になる。多数のダチョウを使用すれば莫大な量の抗体の生産も可能であり、工業用としての利用価値がある。
【0039】
回収されたIgY抗体が、A型インフルエンザウイルスH5蛋白質に結合および/またはH5型インフルエンザウイルスを中和すれば、ヒトおよびトリで致死率の高いインフルエンザウイルスH5N1による感染症の治療、予防、診断および防疫に対し極めて有用な手段を提供することができる。
【0040】
(B)本発明に係る抗インフルエンザウイルス抗体
本発明に係る抗インフルエンザウイルス抗体は、上記(A)で記載された方法により製造できる。したがって、本発明に係る抗インフルエンザウイルス抗体は、ダチョウを含む鳥類由来のIgYを含む。また、本発明に係るインフルエンザウイルス抗体は、上記(A)で記載された方法以外の方法、例えば、ダチョウを含む鳥類を免疫し、その血清から抗体を回収する方法によっても製造できる。したがって、本発明に係る抗インフルエンザ抗体は、IgG等、IgY以外の他のクラスを含み得る。
【0041】
本発明に係る抗インフルエンザウイルス抗体は、H1型、H3型およびB型の各型1種以上を含むインフルエンザウイルス由来のHAを抗原とする。好ましくは、本発明に係る抗インフルエンザウイルス抗体は、A/ニューカレドニア/20/99(H1N1)、A/広島/52/2005(H3N2)およびB/マレーシア/2506/2004由来のHAを抗原とする。
【0042】
本発明に係る抗インフルエンザウイルス抗体は、インフルエンザウイルス、好ましくはA型インフルエンザウイルスに結合する。より好ましくは、本発明に係る抗インフルエンザウイルス抗体は、インフルエンザウイルスHAの1種である、高病原性鳥インフルエンザウイルスH5N1由来のH5蛋白質に結合する。
【0043】
本発明はまた、雌性ダチョウにA型インフルエンザウイルスH5蛋白質を免疫する工程、および該ダチョウが産卵した卵の卵黄からIgYを回収する工程を含む、抗インフルエンザウイルス抗体を製造する方法を提供する。本発明のこの態様において、A型インフルエンザウイルスH5蛋白質としては高病原性鳥インフルエンザウイルスH5N1由来のH5蛋白質が例示される。
【0044】
本発明に係る抗インフルエンザウイルス抗体は、インフルエンザウイルスのHAを抗原としたものであるから、本発明に係る抗インフルエンザウイルス抗体とインフルエンザウイルスとの結合は、インフルエンザウイルス由来のHAとの結合を検出することにより確認できる。検出手段としては、従来この分野でよく知られた免疫測定法、例えば、ELISA等のエンザイムイムノアッセイ法、ラジオイムノアッセイ法、フローサイトメトリーによる解析、ウエスタンブロッティング法等を採用できる。
【0045】
例えば、ELISAによる検出は、下記のように行うことができる。
1)ELISA用プレートに、いずれかのインフルエンザ由来のHAを固定化し、適切な緩衝液で洗浄する。
2)これに予めビオチン化した本発明に係る抗インフルエンザウイルス抗体を添加し、適切な緩衝液で洗浄する。
3)西洋ワサビペルオキシダーゼが結合したアビジンを添加し、適切な緩衝液で洗浄する。
4)西洋ワサビペルオキシダーゼの酵素反応を利用した発色試薬を添加し、発色させる。
上記ELISAにおいては、発色の有無により、本発明に係る抗インフルエンザウイルス抗体とHAとの結合の有無を決定できる。
【0046】
また、本発明に係る抗インフルエンザ抗体がインフルエンザウイルスと結合できれば、インフルエンザウイルスによる赤血球凝集反応および細胞死が阻害されることから、それら阻害を検出することにより、上記結合を確認できる。
【0047】
なお、本発明に係る抗インフルエンザウイルス抗体は、上記(A)で記載された方法により製造される抗インフルエンザ抗体から、公知の抗体工学技術により作製できるFab、scFv、sdFv、F(ab)’2等を含む。
【0048】
さらに、本発明に係る抗インフルエンザ抗体は、上記(A)で記載された方法により製造される抗インフルエンザ抗体を修飾して標識物質を結合させた抗体を含む。これら標識物質には、例えば西洋ワサビペルオキシダーゼ,アルカリホスファターゼ,β−D−ガラクトシダーゼ,グルコースオキシダーゼ,グルコース−6−ホスフェートデヒドロゲナーゼ,アルコール脱水素酵素,リンゴ酸脱水素酵素,ペニシリナーゼ,カタラーゼ,アポグルコースオキシダーゼ,ウレアーゼ,ルシフェラーゼ若しくはアセチルコリンエステラーゼ等の酵素、フルオレスセインイソチオシアネート,フィコビリタンパク,希土類金属キレート,ダンシルクロライド若しくはテトラメチルローダミンイソチオシアネート等の蛍光物質、125I,14C,3H等の放射性同位体、ビオチン,アビジン若しくはジゴケシゲニン等の化学物質、又は化学発光物質等を挙げることができる。
【0049】
本発明に係る抗インフルエンザウイルス抗体は、インフルエンザウイルスと結合するので、インフルエンザウイルスの検出に有用である。よって、本発明の実施態様の1つは、本発明の抗インフルエンザ抗体を含む、インフルエンザウイルス検出キットである。キットは、本発明に係る抗インフルエンザウイルス抗体の抗原抗体反応を利用したものであれば、限定されないが、好ましくは、本発明に係る抗インフルエンザウイルス抗体を含むELISAを含むキットである。
【0050】
上記検出キットを用い、ヒトおよびトリを含む動物由来の体液または糞便を直接試験することもできる。また、一度MDCK細胞で動物体液または糞便由来のウイルスを培養し、その培養ウイルス含有液を上記検出キットで試験することも可能である。したがって、キットには、MDCK細胞の培養に必要な試薬、器材が含まれ得る。その他、キットには、キットの操作、検出データの解釈等を記載した指示書も含み得る。
【0051】
また、本発明に係る抗インフルエンザウイルス抗体は、単独で、または、インフルエンザウイルス感染、複製、増殖を抑制する薬剤、または、感染による合併症を予防または軽減する薬剤と組み合わせて、インフルエンザ診断用、検査用、処置用または予防用の医薬組成物とすることができる。本発明に係る抗インフルエンザウイルス抗体と組み合わされる薬剤の例には、アマンタジン、リマンチジン、ザナミビル、オセルタミビル、アセトアミノフェノン等を挙げることができるが、これらに限定はされない。本発明に係る医薬組成物は、さらに医薬上許容可能な担体、賦形剤等を含み得る。
【0052】
本発明に係る医薬組成物は、ヒトおよびトリを含む動物に投与される際に、投与経路に応じて各種の薬学的形態とすることができる。好適な投与経路は、例えば、経口、静脈内、経粘膜、皮下、腹腔内、動脈内、筋肉内、脳室内等を含む。
【0053】
より好適には、本発明に係る医薬組成物は、スプレー剤として、鼻腔または咽喉の呼吸気道内に投与される。投与に適したスプレー剤としては、特に制限されないが、エアロゾルとして噴霧する吸入エアロゾル型が好ましい。エアロゾルの形成自体は情報によることができる、粒子の大きさは3〜50μm程度が一般的であるが、10〜30μm程度とするのが、呼吸気道への沈着効率の点から好ましい。抗体は、通常、蒸留水、生理的食塩水等を用いて溶解するのが一般的である。また、必要に応じ、各種の安定剤を添加することもできる。投与量は、気道に吸着した病原体を中和する量であればよく、例えば、ヒトの場合、外出前に本抗体の量が1〜10mg程度となるように投与する。
【0054】
本発明に係る抗インフルエンザ抗体は、また、インフルエンザウイルスの防疫に有用な器材にも適用できる。このような器材は、限定されないが、例えば、本発明に係る抗インフルエンザ抗体を含む、インフルエンザウイルス除去用マスクまたはフィルターがある。
【0055】
本発明に係る抗インフルエンザ抗体を含むインフルエンザウイルス除去用マスクは、従来知られている方法により製造できる。
【0056】
インフルエンザウイルス除去用マスクは、抗インフルエンザウイルス抗体とそれを担持する担体を含む。担体は、該抗体の活性が発揮されるものであればよく、例えば、綿、絹、ウール、レーヨン等の繊維を挙げることができる。これらは、織布、不織布などの形態で担体を構成することができる。
【0057】
担体に抗体を固定する方法としては、担体をγ-アミノプロピルトリエトキシシランなどを用いてシラン化した後、グルタールアルデヒドなどで担体表面にアルデヒド基を導入し、アルデヒド基と抗体とを共有結合させる方法、未処理の担体を抗体の水溶液中に浸漬してイオン結合により抗体を担体に固定する方法、特定の官能基を有する担体にアルデヒド基を導入し、アルデヒド基と抗体とを共有結合させる方法、特定の官能基を有する担体に抗体をイオン結合させる方法、特定の官能基を有するポリマーで担体をコーティングしたのちにアルデヒド基を導入し、アルデヒド基と抗体とを共有結合させる方法を挙げることができる。ここで、上記の特定の官能基としては、NHR基(RはH以外のメチル、エチル、プロピル、ブチルのうちいずれかのアルキル基)、NH2基、C65NH2基、CHO基、COOH基、OH基を挙げることができる。
【0058】
また、担体表面の官能基を、BMPA(N-β-Maleimidopropionic acid)などを用いて他の官能基に変換した後、その官能基と抗体とを共有結合させる方法もある(BMPAではSH基がCOOH基に変換される)。
【0059】
さらに、抗体のFc(12b)の部分に選択的に結合する分子(Fcレセプター、プロテインA/Gなど)を担体表面に導入し、それに抗体のFc(12b)を結合させる方法もある。この場合、インフルエンザウイルスを捕捉するFab(12a)が担体に対して外向きとなり、Fab(12a)へのインフルエンザウイルスの接触確率が高くなるので、効率よくインフルエンザウイルスを捕捉することができる。
【0060】
抗体は、リンカーを介して担体に担持されていてもよい。この場合、担体上での抗体の自由度が高くなり、インフルエンザウイルスへの接近が容易となるので、高い除去性能を得ることができる。リンカーとしては、二価以上ののクロスリンク試薬を挙げることができ、具体的には、マレイミド、NHS(N-Hydroxysuccinimidyl)エステル、イミドエステル、EDC(1-Etyl-3-[3-dimetylaminopropyl]carbodiimido)、PMPI(N-[p-Maleimidophenyl]isocyanete)があり、標的官能基(SH基、NH2基、COOH基、OH基)に選択的なものと非選択的なものとがある。また、クロスリンク間の距離(スペーサーアーム)もクロスリンク試薬ごとに異なっており、目的の抗体に応じて0.1nm〜3.5nm程度の範囲で選択することができる。インフルエンザウイルスを効率的に捕捉するという観点からは、リンカーとして抗体のFc(12b)に結合するものが好ましい。
【0061】
リンカーを導入する方法としては、抗体にリンカーを結合させておき、それをさらに担体に結合させる方法、担体にリンカーを結合させておき、担体上のリンカーに抗体を結合させる方法のいずれも可能である。
【0062】
担体には、抗体の活性度を検知して、それが所定の活性度よりも低くなったときに信号を呈するインジケータが担持されていてもよい。そのようなインジケータが担持されていれば、インフルエンザウイルス除去用マスクの使用の可否や交換の要否を知ることができる。特に、インジケータが抗体の活性度が所定の活性度よりも低くなったときに色調変化するものであれば、一目でその判断をすることができる。そのようなインジケータとしては、例えば、pH、温度上昇、力学的ストレス等の作用により色調変化を生じるポリジアセチレン膜を挙げることができる。
【0063】
また、本発明に係る抗インフルエンザ抗体を含む、インフルエンザウイルス除去用フィルターは、従来知られている方法により製造できる。
【0064】
インフルエンザウイルス除去用フィルターは、抗インフルエンザウイルス抗体とそれを担持する担体を含む。担体は、該抗体の活性が発揮されるものであればよく、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、エチレングリコール、ジエチレングリコールを含有する非晶性共重合ポリエステル成分とポリアルキレンテレフタレート系ポリエステル成分の複合繊維である。
【0065】
かかる担体への抗体の結合は、いずれの方法によってもよいが、例えば、抗体を含む溶液に当該複合繊維を含浸させることにより達成される。
【0066】
(C)本発明に係るインフルエンザワクチン
本発明に係る抗インフルエンザ抗体の抗原を含む組成物は、ヒトおよびトリを含む動物用のインフルエンザワクチンとして利用できる。
【0067】
本発明に係るインフルエンザワクチンは、存在するA型およびB型のインフルエンザウイルスから選択される少なくとも1つのインフルエンザウイルスが有するHAを含む。好ましくは、本発明に係るインフルエンザワクチンは、H1型、H3型およびB型のインフルエンザウイルスから選択される少なくとも1つのインフルエンザウイルスが有するHAを含む。より好ましくは、本発明に係るインフルエンザワクチンは、H1型、H3型およびB型の各型1種以上を含むインフルエンザウイルス由来のHAを含む。さらに好ましくは、本発明に係るインフルエンザワクチンは、A/ニューカレドニア/20/99(H1N1)、A/広島/52/2005(H3N2)およびB/マレーシア/2506/2004由来のHAを含む。
【0068】
本発明に係るインフルエンザワクチンは、さらに、例えば、サポニン、水酸化アルミニウム等の慣用されるアジュバントを含み得る。
本発明に係るインフルエンザワクチンは、従来より知られている方法により、製造され、ヒトおよびトリを含む動物に投与でき、インフルエンザウイルスの感染を予防する。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明に係る抗インフルエンザウイルス抗体の製造方法は、インフルエンザウイルスに結合する抗体を大量に、且つ比較的短期間で製造するものである。製造された抗インフルエンザウイルス抗体は、インフルエンザの診断、検査に使用できる検出キットだけでなく、マスク、フィルター等の防疫用の器材にも利用でき、インフルエンザウイルスによる被害の阻止に有用である。
【実施例】
【0070】
以下に本発明を実施例により説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0071】
実施例1
ダチョウ抗インフルエンザ抗体の作成1
本実施例では、ヒト(あるいはニワトリ)のインフルエンザ感染の診断薬として使われている抗インフルエンザウイルスに対する抗体をダチョウの卵黄にて生産した。市販のインフルエンザウイルスHA抗原(hemaggretinin)ワクチン(北里研究所製)0.5mlを産卵ダチョウに隔週免疫し、初回免疫より3または4週目の卵黄を採取した。卵黄の精製は以下のように行った。
【0072】
まず、卵黄に5倍量のTBS(20mMTris−HCl、0.15M NaCl,0.5%NaN)と同量の10%デキストラン硫酸/TBSを加え20分攪拌する。
【0073】
そして1MCaCl/TBSを卵黄と同量加え攪拌し、12時間静置する。その後、15000rpmで20分遠心し上清を回収する。
【0074】
次に、最終濃度40%になるように硫酸アンモニウムを加え4℃で12時間静置する。その後、15000rpmで20分遠心し、沈殿物を回収する。最後に、卵黄と同量のTBSに再懸濁し、TBSにて透析する。
【0075】
この課程により90%以上の純度のIgYの回収が可能となった。1個の卵黄より2〜4gのIgYを精製することができた。
【0076】
図1は、インフルエンザHA抗原免疫前と免疫後のダチョウ(免疫3週目)(3羽)の卵黄抽出液について、寒天ゲル内沈降反応を用いて抗体の存在を検討したものである。写真中央(1)に抗原として用いたインフルエンザウイルスHA抗原を添加し、写真2−4に、免疫前のダチョウ各個体由来の卵黄抽出液(IgY含有)を添加し、写真5−7に、免疫後3週目のダチョウ各個体由来の卵黄抽出液(IgY含有)を添加した。どのダチョウ個体由来の卵黄抽出液も、免疫前のものには反応が認められないが、免疫後3週目のものには抗原との沈降線が認められる。
【0077】
よって、HA抗原免疫前のダチョウ卵黄には抗体は存在しないが、免疫後のダチョウ卵黄すべてには抗体の存在が確認できた。免疫後4週目のダチョウ全個体由来の卵黄抽出液にも、同様にHA抗原反応性の抗体の存在が確認できた。
【0078】
1羽のダチョウメスから4月から9月までの産卵期に約100個の卵が得られることより、最大約400gの抗体(IgY)が得られることになる。つまり、6ヶ月で1羽のダチョウから約400〜4000万検体分のインフルエンザ診断検査キット等に適応可能な抗体量が回収可能となる。
【0079】
また、マスクやエアコンフィルターに適応すればインフルエンザウイルス除去用の工業用抗体としても応用可能である。ダチョウ卵黄は臭気が少ないので、マスクに適応させても不快感が少ない。
【0080】
実施例2
ダチョウ抗インフルエンザ抗体の作成2
1.ダチョウへの免疫
産卵中の雌性ダチョウに3種のHA(A/ニューカレドニア・20/99(H1N1)由来HA 30μg A/広島/52/2005(H3N2)由来HA 30μg B/マレーシア/2506/2004由来HA 30μg)の混合液を隔週免疫した。初回はフロントの完全アジュバント、2回目以降はフロントの不完全アジュバントを用いた。
免疫前、および免疫後に産卵された卵より卵黄を回収し、上記実施例1と同様の方法によりIgYを精製した。
【0081】
また、他の産卵中の雌性ダチョウに、上記と同様に3種のHAの混合液を免疫し、4週目より50μgのH5N1ベトナム株由来H5リコンビナント抗原(市販品:プロテインサイエンス社)を隔週追加免疫した。
【0082】
2.ニワトリへの免疫
ダチョウの抗原量の30分の1量を、上記と同様の方法で免疫し(ただし、アジュバントも30分の1量)、抗体を精製した。
【0083】
3.ELISA法による測定
以下のELISAにより、得られた抗体の抗原反応性を測定した。
2μg/mLのHA抗原をELISA用96穴マイクロプレートの各wellに100μl入れ、室温で2時間放置した。その後、PBSで3回洗浄したのち、市販のブロッキング溶液(ブロックエース:大日本住友製薬)を各wellに100μl入れ2時間放置した。その後、PBSで3回洗浄したのち、免疫前および免疫後(1〜8週)のダチョウの卵黄より抽出したIgY抗体の段階希釈液(5μg /mLを原液として100倍、200倍〜と2倍段階希釈)を各well に50μl入れ室温で1時間放置した。その後、PBSで3回洗浄したのちペルオキシダーゼ標識抗ダチョウIgY・ウサギポリクローナル抗体(自作)を各wellに100μl入れ45分間放置した。PBSで3回洗浄したのち市販のペルオキシダーゼ用発色キット(住友ベークライト)により30分間発色し、ELISA用プレートリーダーにより吸光度(450nm)を測定した。
得られた結果を、免疫前のIgYの吸光度値の2倍以上となる最高希釈倍率で示した。
ニワトリより得られた抗体についても、同様のELISAにより、抗原反応性を測定した。
【0084】
4.中和試験
ダチョウIgY抗体またはニワトリIgY抗体(各希釈倍率)と高病原性鳥インフルエンザウイルスH5N1(104.3EID50)を 30分間反応させ、10日齢の発育鶏卵に接種した。その後、36℃で発育鶏卵を3日間孵卵し、胚子の死亡が抑制された抗体の最高希釈倍率を示した。
【0085】
5.得られた抗体の特性
(1)SDS−PAGEによる解析
ダチョウに3種のHA混合抗原(A/ニューカレドニア・20/99(H1N1)由来HA 30μg A/広島/52/2005(H3N2)由来HA 30μg B/マレーシア/2506/2004由来HA 30μg)を免疫し、免疫開始後8週目のIgYにつきSDS−PAGE電気泳動を実施した。
精製したIgY液を8.5%SDS―PAGEし、ゲルをCBB染色したところ、得られたIgY(インフルエンザHAを免疫してえられたIgY)は重鎖が80kDaおよび軽鎖が30kDaであった(図2)。
【0086】
(2)3種のHA混合抗原に対する、ダチョウIgY抗体価の経時変化(5羽の平均)
3種のHA(A/ニューカレドニア・20/99(H1N1)由来HA 30μg A/広島/52/2005(H3N2)由来HA 30μg B/マレーシア/2506/2004由来HA 30μg)の混合液を雌性ダチョウまたはメスニワトリに隔週免疫し、産卵された卵よりIgYを精製し、ELISAによりELISAプレートに固相化した上記3種のHA混合抗原との反応性を検討した。
ダチョウについては、免疫2週目より抗体価の上昇が認められ、3週以降で最高値を維持した(図3)。ニワトリについては、免疫3週目より抗体価の上昇が認められた(図4)。ダチョウは、ニワトリより早期に抗体価の上昇が認められた。
【0087】
(3)3種のHA抗原のそれぞれに対する、ダチョウIgY抗体価の経時変化(5羽の平均)
3種のHA(A/ニューカレドニア・20/99(H1N1)由来HA 30μg A/広島/52/2005(H3N2)由来HA 30μg B/マレーシア/2506/2004由来HA 30μg)の混合液を雌性ダチョウに隔週免疫し、産卵された卵よりIgYを精製し、固相化した各HA抗原(H1N1型インフルエンザウイルス由来HA、H3N2型インフルエンザウイルス由来HA、またはB型インフルエンザウイルス由来HA)に対する反応性を検討した。
すべてのHA抗原に対して、免疫2週目より抗体価の上昇が認められ、4週以降でほぼ最高値に達しその後もわずかに増加した(図5、6および7)。つまり、3種のHAの混合液を注射することによりそれぞれの抗原に対する抗体が産生されている。
【0088】
(4)高病原性鳥インフルエンザウイルスH5N1由来H5リコンビナント蛋白質に対するIgY抗体価(ELISAにより測定)(各5羽の平均)
3種のHA(A/ニューカレドニア・20/99(H1N1)由来HA 30μg A/広島/52/2005(H3N2)由来HA 30μg B/マレーシア/2506/2004由来HA 30μg)の混合液をメスのダチョウ10羽およびニワトリ5羽に隔週毎に免疫した。なお、初回免疫より4,6週目に5羽のダチョウにはH5リコンビナント蛋白質を追加で免疫した。
上記3種のHAの免疫により、H5型インフルエンザウイルス(高病原性鳥インフルエンザウイルスH5N1)が有するHAであるH5蛋白質にも反応するダチョウIgYが産生されていた。ニワトリと比べても著しく抗体価が高かった(4週目以降はニワトリIgYと比べて有意差あり(*)(student-t検定、P<0.01)(図8)。また、H5リコンビナント蛋白質の追加免疫によりさらにH5蛋白質に対する抗体価が増強した(5週目以降、3種のHA免疫のみのダチョウとくらべて有意差あり(#)(student-t検定、P<0.01))(図8)。
高病原性鳥インフルエンザウイルスH5N1由来のH5蛋白質に反応性のあるダチョウ抗体は、免疫後4〜5週の間に急激に産生される。H1N1型、H3N2型またはB型インフルエンザウイルスに由来するHAに反応性のあるダチョウ抗体が免疫後3週目までに急激に産生されること(図5、6および7)から、H5蛋白質に反応性のあるダチョウ抗体は、免疫後3週目までに産生されるH1N1型、H3N2型またはB型インフルエンザウイルスに由来するHAに反応性のあるダチョウ抗体と異なる分子である。また、免疫後4週目、5週目または4〜5週目の間に得られるダチョウ抗体は、抗原とした3種のHAよりもH5蛋白質に反応性が高かった(図5、6、7および8)。
また、初回免疫より4,6週目に5羽のダチョウにH5リコンビナント蛋白質を追加免疫したところ、H5蛋白質に対する抗体価の更なる上昇が認められたことから、このような追加免疫が、ダチョウ抗H5蛋白質抗体の製造に有効であることが確認できた。とりわけ、H5リコンビナント蛋白質が、高価であり、入手量が限られることを考慮すれば、3種のHA(H1N1型、H3N2型およびB型インフルエンザウイルス由来HA)免疫後、4、6週でH5リコンビナント蛋白質をダチョウに追加免疫する方法は、ダチョウ抗H5蛋白質抗体の製造法として有用である。また、製造されたダチョウ抗H5蛋白質抗体は、H5蛋白質を有する高病原性鳥インフルエンザウイルスの検出に有用である。
【0089】
(5)高病原性鳥インフルエンザウイルスH5N1の不活化効果(中和試験)(各5羽)
3種のHA(A/ニューカレドニア・20/99(H1N1)由来HA 30μg A/広島/52/2005(H3N2)由来HA 30μg B/マレーシア/2506/2004由来HA 30μg)の混合液をメスのダチョウ10羽およびニワトリ5羽に隔週毎に免疫した。なお、初回免疫より4,6週目に5羽のダチョウにはH5リコンビナント蛋白を追加で免疫した。
3種のHAの免疫後の卵黄から精製したIgYは、H5N1ウイルスの不活化作用(中和活性)を持っており、4週目以降でその中和活性化が著しく増強された。同週のニワトリIgGと比べても著しく抗体価が高かった(4週目以降はニワトリIgYと比べて有意差あり(*)(student-t検定、P<0.01)。また、H5リコンビナント蛋白の追加免疫によりさらにH5N1にたいする中和活性価が増強した(5週目以降、3種のみのダチョウとくらべて有意差あり(#)(student-t検定、P<0.01))。
高病原性鳥インフルエンザウイルスは、非常に致死率が高く、またヒトへの感染も報告されており、近年その爆発的な流行が懸念されている。上記実施例に記載した製造方法で得られた抗体は、上記のように高病原性鳥インフルエンザウイルスの検出、中和に非常に有効であり、高病原性鳥インフルエンザウイルスの治療、感染予防、防疫に有用性の高いものである。
【0090】
実施例3
ダチョウ抗インフルエンザ抗体の作成
1.ダチョウへの免疫
産卵中の雌性ダチョウに3種のHA(A/ニューカレドニア・20/99(H1N1)由来HA 30μg A/広島/52/2005(H3N2)由来HA 30μg B/マレーシア/2506/2004由来HA 30μg)の混合液を隔週免疫した。初回はフロントの完全アジュバント、2回目以降はフロントの不完全アジュバントを用いた。免疫前、および免疫後に産卵された卵より卵黄を回収し、上記実施例1と同様の方法によりIgYを精製した。
【0091】
2.ヒトインフルエンザ臨床株に対する中和試験
ヒトインフルエンザ臨床株としては、大阪府下で発症したインフルエンザ患者より分離したヒトインフルエンザ臨床株を用いた。A型H1N1、同A型H3N2、同B型それぞれ20株(20名の患者よりそれぞれ分離)を用いた。
培養容器にてMDCK細胞を培養し、ここへ上記の各ヒトインフルエンザ臨床株100TCID50力価を接種した。ウイルス接種と同時に上記で得られた3種混合HA抗原を免疫したダチョウのIgYを添加様々な濃度で添加し、ウイルス感染による細胞変性が50%の細胞において抑制される抗体量を50%感染抑制価として算出した。試験は各株4連で行った。表1はH1N1、H3N2、B型それぞれ20株の平均値で表す。
【表1】

【0092】
表1より明らかなように、本願発明の方法で得られたダチョウIgYは変異の多いヒトのインフルエンザウイルス臨床株に対して感染抑制効果(中和活性)を有する事が判明した。特にA型ウイルスに対しては、少量の抗体でも抑制出来ることから、A型への中和活性化能力が高いと判明できる。
【0093】
実施例4
ダチョウ抗インフルエンザウイルス抗体の高病原性鳥インフルエンザ感染に対する治療効果
1.ダチョウへの免疫
産卵中の雌性ダチョウに、50μgのH5N1ベトナム株由来H5リコンビナント抗原(市販品:プロテインサイエンス社)を隔週免疫した。初回はフロントの完全アジュバント、2回目以降はフロントの不完全アジュバントを用いた。免疫前、および免疫後に産卵された卵より卵黄を回収し、上記実施例1と同様の方法によりIgYを精製した。
2.高病原性鳥インフルエンザ感染に対する治療効果
鶏の雛(10日齢)に10EID50の高病原性鳥インフルエンザウイルス(H5N1)を鼻腔内接種した。接種1時間後にPBS、免疫前ダチョウIgY(0.1mg/kg)、H5リコンビナント蛋白免疫ダチョウIgY(0.1mg/kg)を筋肉内投与(注射)した。それぞれ8羽の雛鳥を用いた。
3.結果
図10に結果を示す。グラフはウイルス接種3日後の死亡率を示す。A:PBS,B:免疫前IgY,C:H5リコンビナント蛋白免疫ダチョウIgY。
図10より高病原性鳥インフルエンザウイルス(H5N1)に感染させ、PBSあるいは免疫前のIgYを投与した雛鳥は100%死亡したが、H5リコンビナント蛋白を免疫して作製したダチョウIgYは死亡率を著しく低下させた。即ち、本発明の方法で得られるIgYは高病原性鳥インフルエンザ感染の治療能を有することが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】寒天ゲル内沈降反応を用いて抗体の存在を確認した写真である。
【図2】ダチョウ卵黄抽出液のSDS−PAGE電気泳動の写真である。
【図3】3種のHA混合抗原に対する、ダチョウIgY抗体価の経時変化を示すグラフである。
【図4】3種のHA混合抗原に対する、ニワトリIgY抗体価の経時変化を示すグラフである。
【図5】H1N1型インフルエンザウイルス由来のHA抗原に対する、ダチョウIgY抗体価の経時変化を示すグラフである。
【図6】H3N2型インフルエンザウイルス由来のHA抗原に対する、ダチョウIgY抗体価の経時変化を示すグラフである。
【図7】B/マレーシア/2506/2004由来のHA抗原に対する、ダチョウIgY抗体価の経時変化を示すグラフである。
【図8】高病原性鳥インフルエンザウイルスH5N1由来H5リコンビナント蛋白質に対するIgY抗体価を示すグラフである。
【図9】高病原性鳥インフルエンザウイルスH5N1の不活化効果(中和試験)を示すグラフである。
【図10】高病原性鳥インフルエンザウイルスH5N1感染に対する治療効果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
H1型、H3型およびB型の各型1種以上を含むインフルエンザウイルス由来のHAを同時に雌性鳥類に免疫する工程、および該鳥類が産卵した卵の卵黄からIgYを回収する工程を含む、抗インフルエンザウイルス抗体を製造する方法。
【請求項2】
H1型がA/ニューカレドニア/20/99(H1N1)であり、H3型がA/広島/52/2005(H3N2)であり、およびB型がB/マレーシア/2506/2004である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
該鳥類がダチョウである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
A/ニューカレドニア/20/99(H1N1)、A/広島/52/2005(H3N2)およびB/マレーシア/2506/2004由来のHAを同時に雌性ダチョウに免疫する工程、および該ダチョウが産卵した卵の卵黄からIgYを回収する工程を含む、抗インフルエンザウイルス抗体を製造する方法。
【請求項5】
さらに、高病原性鳥インフルエンザウイルスH5N1由来のH5蛋白質を追加免疫する工程を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
抗インフルエンザウイルス抗体が高病原性鳥インフルエンザウイルスH5N1由来のH5蛋白質に結合する抗体である、請求項1−5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
インフルエンザウイルス、A/ニューカレドニア/20/99(H1N1)、A/広島/52/2005(H3N2)およびB/マレーシア/2506/2004由来のHAを抗原とする、ダチョウ由来のIgY抗体であって、高病原性鳥インフルエンザウイルスH5N1由来のH5蛋白質に結合するIgY抗体。
【請求項8】
雌性ダチョウにA型インフルエンザウイルスH5蛋白質を免疫する工程、および該ダチョウが産卵した卵の卵黄からIgYを回収する工程を含む、抗インフルエンザウイルス抗体を製造する方法。
【請求項9】
インフルエンザウイルスH5N1由来のHAを抗原とする、ダチョウ由来のIgY抗体であって、高病原性鳥インフルエンザウイルスH5N1由来のH5蛋白質に結合するIgY抗体。
【請求項10】
請求項1−6および8のいずれかに記載の方法で生産された抗体、または請求項7もしくは9に記載の抗体を含む、インフルエンザウイルスの検出キット。
【請求項11】
検出キットがELISAを含む、請求項10に記載のキット。
【請求項12】
請求項1−6および8のいずれかに記載の方法で生産された抗体、または請求項7もしくは9に記載の抗体を有効成分とする、鼻腔または咽喉の呼吸気道内に投与されるスプレー剤。
【請求項13】
請求項1−6および8のいずれかに記載の方法で生産された抗体、または請求項7もしくは9に記載の抗体を担持する、インフルエンザウイルス除去用マスク。
【請求項14】
請求項1−6および8のいずれかに記載の方法で生産された抗体、または請求項7もしくは9に記載の抗体を担持する、インフルエンザウイルス除去用フィルター。
【請求項15】
請求項1−6および8のいずれかに記載の方法で生産された抗体、または請求項7もしくは9に記載の抗体、またはそのフラグメントを含む、インフルエンザウイルス感染の予防または処置用医薬組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−23985(P2009−23985A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−273341(P2007−273341)
【出願日】平成19年10月22日(2007.10.22)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年10月1日 第55回日本ウイルス学会学術集会 会長 上田 一郎 発行の「第55回日本ウイルス学会学術集会プログラム・抄録集」に発表
【出願人】(505127721)公立大学法人大阪府立大学 (688)
【Fターム(参考)】