説明

インフルエンザウイルスの救済(rescue)

本発明はインフルエンザワクチン産生の分野に関する。インフルエンザワクチンは50年以上にわたり発育鶏卵中で産生されてきたが、近年、ワクチン産生のための細胞培養系を開発する著しい努力がなされてきた。本発明はインフルエンザ遺伝子断片及びバクアテリオファージポリメラーゼプロモーターを含んでなる核酸又は該核酸の相補鎖並びに所望のインフルエンザウイルスを産生することができるそのような核酸を含んでなる細胞を提供する。更に、本発明は本発明に従う細胞から誘導される細胞又は物質及び本発明に従うウイルス粒子から誘導されるウイルス又は物質を含んでなる組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインフルエンザウイルスワクチン産生の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
インフルエンザウイルス(オルトミキソリウイルス(Orthomyxoviridae))は断片ゲノムを伴う、エンベロープをもつマイナス鎖のRNAウイルスである(特許文献1参照)。それらはそれらの核タンパク質及びマトリックスタンパク質間の著しい抗原の相異に基づいて、2種の分類:1つはインフルエンザA及びBを包含し、他方はインフルエンザCからなるものに分類される。3種の型のウイルスはまた、病原性及びゲノム組織が異なる。A型は広範な温血動物に認められるがB型及びC型は主としてヒトの病原体である。インフルエンザAウイルスは更に血液凝集素(HA)及び、ビリオン(virion)の表面から突き出すNA表面の糖タンパク質の抗原特性により準分割される。現在15種のHA及び9種のNAサブタイプが存在する。インフルエンザAウイルスはトリ、ブタ、ウマ、ヒト及び他の哺乳動物を包含する広範な動物に感染する。水鳥はインフルエンザAのすべての知られたサブタイプの天然のレザボアとしての役目をもち、恐らくヒトの流行性インフルエンザ株の遺伝物質の発生源である。
【0003】
インフルエンザウイルスは関連するパラミクソ・ウイルスと異なり、断片RNAゲノムを有する。インフルエンザA及びBウイルスは同様な構造をもち、他方インフルエンザCはより異なる。A型及びB型のウイルスはそれぞれ、それぞれ少なくとも1個のタンパク質をコードする8個の別々の遺伝子断片を含有するが、C型はA型及びB型の断片4及び6を併せて7個の別々の断片を含有する。インフルエンザA及びBウイルスは3種のタンパク質:HA、NA及びマトリックス2(M2)の突起物(projection)で覆われている。インフルエンザCウイルスは唯一の表面糖タンパク質を有する。各インフルエンザRNA断片は核タンパク質(NP)によりキャプシドを包まれて(encapsidaated)リボヌクレオチド核タンパク質(RNP)複合体を形成する。3種のポリメラーゼタンパク質はRNP複合体の一方の端と結合されている。RNPは不可欠な部分としてマトリックスタンパク質(マトリックス1)を含む膜で囲まれている。エンベロープのリン脂質部分は細胞の宿主の膜から誘導される。ウイルス粒子内には非構造的タンパク質2(NS2)も認められる。
【0004】
インフルエンザウイルス命名のための世界保健機構(WHO)指針は以下である。第1に、ウイルスの型(A、B又はC)を指定し、次に宿主(ヒト以外の場合)、単離場所、単離数及び単離の年(斜線により分割)。インフルエンザAに対しては、HA及びNAサブタイプが括弧内に記載される。例えば、2000年〜2001年のシーズンに対する最近の3価ワクチンに包含された株は:A/Panama/2007/99(H3Ns)、A/New Caledonia/20/99(H1N1)及びB/Yamanashi/16/98である。1977年以来、ヒトには2種のインフルエンザAサブタイプ:H1N1及びH3N2が流行してきた。
【0005】
インフルエンザウイルスはそれらのRNAポリメラーゼ複合体がプルーフリーディング作用をもたないので、複製中に点突然変異(point mutation)を蓄積する。表面糖タンパク質の抗原部分のアミノ酸を変化させる突然変異がそれを既存の免疫から巧みに逃げさせることにより、ウイルス株に選択的な利益を与えることができる。HA分子は特定の宿主細胞上の受容体に結合することにより感染を開始する。HAタンパク質に対する抗体が受容体結合を妨げ、同一株による再感染予防に非常に有効である。HAは、近年流行しているHA遺伝子の突然変異体が抗体結合を破壊する抗原ドリフト又は、ウイルスが新サブタイプのHAを獲得する抗原シフトのいずれかにより、以前獲得した免疫を逃れることができる。抗原ドリフトの影響(pressures)は、主としてHAタンパク質の球状ヘッド上に存在するプラスに選択される変化を伴って、HA分子全体に不均一である。これらの変化はまた、NAよりHAにおいてより激しく蓄積する。他のインフルエンザタンパク質中の変化はより緩徐に起る。同様に、抗原ドリフトの影響もヒトに適応されたインフルエンザ株において最大で、ブタ−及びウマ−に適応された株で中程度、そしてトリ−に適応された株でもっとも弱い。
【0006】
インフルエンザウイルスは断片ゲノムを有するので、同一宿主における2種の異なる株による同時感染は親遺伝子断片の異なる組み合わせを含有する新規の再仕分けされたインフルエンザ株の産生をもたらす可能性がある。野生のトリには15種のHAサブタイプが存在することが知られており、ヒトに対して新規のHA源を提供する。抗原シフトによる新規サブタイプをもつインフルエンザ株のヒトの流行における出現が1957年及び1968年の最近の2回のインフルエンザ流行の原因であり、おそらく1918年のインフルエンザ流行の原因であるらしい。流行するインフルエンザウイルスの出現について知られているすべてと一致するためには、流行株は1つの近年優勢なものと抗原の異なるHAをもたなければならない;このHAは60〜70年間ヒトに流行した可能性がなく;そして該ウイルスはヒトからヒトに感染可能でなければならない。1957年及び1968年双方において、流行はHAのシフトからもたらされ、双方の場合に流行株のHAはトリの株に密接に関連していた。流行の絶対条件の1つは、HAが変化しなければならないことであり、残りのウイルスが変化することができる又は変化するにちがいない程度は不明である。1957及び1968年流行のウイルスのみが直接的研究に利用可能であり、1918年流行のインフルエンザウイルスは分子考古学を使用して特徴を研究されている。1957年に、3種の遺伝子がトリ−様遺伝子:HA、NA及びポリメラーゼ複合体(PB1)の1サブユニットにより置き換えられた。1968年には、HA及びPB1のみが置き換えられた。
【0007】
インフルエンザ感染症の特別の診断はウイルス単離、血球凝集抑制(HI)試験、免疫アッセイによる抗原検出、血清学的試験、分泌物中のNA活性の表示又は分子に基づくアッセイ、により実施することができる。試料は唾液、鼻咽頭塗抹標本又は、バッファー生理食塩水溶液でうがいすることにより得られる鼻咽頭洗浄物として収集することができる。インフルエンザ診断の基準は培養後の免疫学的特徴付けであった。血清学的分析は急性及び回復期の血清双方の収集を必要とするので、インフルエンザ感染症の正確なしかし懐古的診断法を提供する。
【0008】
インフルエンザウイルスは発育鶏卵又は多数の組織培養系中で増殖させることができる。トリプシン(HAの分割活性化のため)の添加はMadin−Darby犬腎(MDCK)細胞及び他の株中でのインフルエンザウイルス増殖を許す。ワクチン産生の主要な方法はいまだに卵中でのインフルエンザウイルスの培養である。ヒトインフルエンザウイルス(A型及びB型の双方)の主要な単離のためには細胞株中での培養が一般に使用される。多数のヒトインフルエンザウイルスは発育鶏卵の尿膜腔中で直接培養することができる。幾つかのインフルエンザA及びBウイルスは最初に羊膜腔中で培養し、次に尿膜腔への適用を必要とする。培養物単離後、大部分のインフルエンザ単離物は免疫アッセイ又は免疫蛍光染色法を使用して確実に同定される。インフルエンザウイルスのHA分子はウイルスが侵入するための呼吸器細胞の表面上のシアル酸残基に結合する。
【0009】
インフルエンザ株はインフルエンザウイルスがインビトロで赤血球を凝集する能力を利用して抗原学的に特徴を示すことができる。抗−HA抗体は凝集を妨げることができる。従って、血液凝集抑制(HI)アッセイがインフルエンザ株を特徴付けるために使用される標準法の1つである。HIアッセイは試料の株が最近のワクチン株と免疫学的に関連す
る(すなわち、交差反応性である)かどうかを決定するために使用される。一般にフェレットで生産される分類血清を一連の2倍希釈物でウェルに添加し、実験室作業員は凝結赤血球細胞に対する懸濁赤血球細胞を検出することによりアッセイウェルを評価する。大部分の状況において、ワクチンに対する試料株と対照株を一致させるために血清のパネルを使用し、任意の特定のインフルエンザ流行期間中は、大部分の試料株がHIアッセイによりうまく一致される。WHOは指針を提供し、WHO協力センターは個々のウイルス株の抗原特徴の識別に対する指針を提供し、それらを入手希望の人々にこれらの株を提供することができる。試料株はA/Moscow/10/99(H3N2)−様ウイルス、A/New Caledonia/20/99(H1N1)−様ウイルス、及びB/Beijing/184/93−様ウイルスのような免疫学的系図に従って分類される。HIアッセイで特徴を調べることができない試料株に対しては、実験室作業員はそれらをフェレット中に接種して、株特異的抗血清を製造しなければならない。新規抗血清が準備されると、HIアッセイを前記のように再度実施する。新規の血清が交差反応において有意な差異(通常、試料とワクチン株間の4倍の差異と定義される)を示す場合は、定常実験室パネルに取り込まれて、新規の流行株を探索するために使用される。従って、HIアッセイはワクチン株選択のためのインフルエンザウイルス監視努力において極めて重要であり、抗原ドリフトを測定するためのもっとも一般に使用される方法である。
【0010】
インフルエンザ株は個々の遺伝子断片の配列の比較により遺伝子学的に特徴を調べることができ、再度WHOが指針を与え、そしてWHO協力センターがインフルエンザゲノムを含んでなるRNA断片の個々の物体;核タンパク質(NP)、塩基性(basic)ポリメラーゼ1(PB1)、塩基性ポリメラーゼ2(PB2)、酸ポリメラーゼ(PA)、ヘマグルチニン(HA)、ノイラミニダーゼ(NA)、マトリックスタンパク質(M1及びM2)並びに非構造的タンパク質(NS1及びNS2)をコードするインフルエンザA及びBウイルスの核酸断片並びに核タンパク質(NP)、塩基性ポリメラーゼ1(PB1)、塩基性ポリメラーゼ2(PB2)、血球凝集素−ノイラミニダーゼ様糖タンパク質(HN)、マトリックスタンパク質(M1及びM2)及び非構造タンパク質(NS1及びNS2)をコードするインフルエンザCウイルス核酸断片、の識別に対する指針を提供する。
【0011】
例えば抗原分析のため、核酸配列比較のため、そしてワクチンウイルス同定のための参照株の要請は、WHO Collaborating Centre for Reference and Research on Influenza(インフルエンザにおける参照及び研究のためのWHO協力センター),45 Poplar Road,Parkville,Victoria 3052,Australia(fax:+61
3 9389 1881,web site:http//www.influenza centre,org)、WHO Collaboratin Centre for Reference and Research on Influenza, National Institute of Infectious Diseases(国立感染症研究所),Gakuen 4−7−1,Musashi−Murayama,Tokyo 208−0011,Japan(fax:+81 425610812又は+81 42 5652498)、WHO Collaborating Centre for Surveillance, Epidemiology and Control of Influenza,Centers for Dissease Control and Prevention,1600 Clifton Road,Mail stop G16, Atlanta,GA 30333,United States of America(fax:+1 404 639 23 34)あるいはWHO Collaborating Centre for Reference and Research on Influenza, National Institute for Medical Research,The Ridgeway, Mill Hill,London NW7 1AA,England(fax:+44 208 906 4477)宛てに照会することができる。最近の伝染病学的情報はWHOのhttp://www.who.int/influenzaのウェブサイト及びhttp://www.who.int/flunetの地理的情報システム、FluNet,で利用可能である。
【0012】
インフルエンザの影響並びにその予防の健康及び経済的利益の認識は増加しつつあり、過去10年間はワクチン接種の使用及び利益が認められ、多数の抗インフルエンザ薬が著しく増加している。多数の国における、より長い寿命の結果として、新製品の紹介が該疾患の予防及び処置のための選択肢を増加したにもかかわらず、より多数の人々が合併症の危険にさらされ、インフルエンザ流行中の保健システムに対する負担がより広範に認識され、そしてより頻繁な海外旅行がウイルスの散逸の機会を作り出してきた。およそ50カ国が政府基金の国家インフルエンザ予防接種プログラムを有し、多数の他国においてワクチンが利用可能である。ワクチンの使用に対する特別の推奨事項は変動するが、一般に、既存の慢性の医学的状態のために重篤な疾患の危険の高い高齢者及び6カ月以上の人々に対する毎年の接種を伴う。幾つかの国では、ワクチンは医学的危険の高い人々に対するインフルエンザの蔓延を減少するために使用される。メンバー国はそれらの全公衆の健康優先の観点でインフルエンザ予防活動の利益を考慮する必要がある。
【0013】
不活性化ワクチンはそれが全ウイルス粒子、一部破壊されたウイルス粒子(分離ワクチン)又は精製エンベロープ抗原(サブユニットワクチン)を含有するかに応じて幾つかのタイプに分類される。幾つかのサブユニットワクチンは補助剤又は送達系と組み合わされてきた。
【0014】
幾つかの国は特定の標的群に対する生の弱毒化インフルエンザワクチンを許可してきた。ロシア連邦においては1ワクチンの2種の異なる調合物が健康な成人及び幼児に使用されて来、もう1つの生ワクチンが集中して試験されてきたが、まだ許可に至っていない。生の弱毒化ワクチンが更に広範に利用可能になるまで、それらはインフルエンザの予防のためには一般にまだ推奨されない。
【0015】
2群の抗ウイルス剤がインフルエンザの予防及び処置に開発されてきた。M2インヒビターのアマンタジン及びリマンタジンはインフルエンザAウイルスの処置に限定され、感染予防にも有効であることが報告されている。両製品は幾らかの副作用を引き起こすが、アマンタジンにより有意な神経学的副作用がより一般的である。ザナミビル及びオセルタミビルのようなノイラミニダーゼインヒビターが、最近多数の国でA型及びB型インフルエンザの処置のために許可され、予防に有効であることが報告されている。両群の抗ウイルス剤を摂取している患者に抵抗性突然変異体が検出された。現在のところ、これは重要な公衆保健の問題とは考えられないが、これらの薬剤が非常に大規模に使用される場合は状況は変化するかも知れない。
【0016】
82カ国に設置された110の国立インフルエンザセンター及び、アトランタ(米国)、ロンドン(英国)、メルボルン(オーストラリア)及び東京(日本)に設置された、4つのインフルエンザ参照及び研究のためのWHO協力センター、の協力により運営される大掛かりな国際監視プログラムを維持する。これらのセンターは流行の可能性をもつ株の出現に対する早期の警告システムを提供する。インフルエンザワクチンの効果は、それらが現在流行している株を含有しない場合に減少するために、このシステムは重要である。WHOは、北半球で使用されるワクチンのために2月に、そして南半球で使用されるワクチンのために9月に、世界保健機構により刊行される、Weekly Epidemiological Record(例えば、第9刊、2004、79、ページ88又はhttp:/www.who.int/werを参照)に認めることができるようなワクチン組成物のための推奨事項を発行している。インフルエンザは赤道下地域では明確な季節パターンをもたないので、赤道下の国における使用のためのワクチンに対してこれらの推奨事項(2月又は9月)のうちで適当な伝染病学的考慮が影響を与えるであろう。
【0017】
協力センターは国立センターにより提出されるインフルエンザ単離物の抗原及び遺伝学的分析を実施する。抗原の抗原の変異の証明が認められると、伝染病学的データと相関させて、変異体の伝染病学的有意性を算定する。代表的単離物を接種前後に収集されたヒト血清のパネルを使用して現在のワクチン株と比較して、現在のワクチンがこれらのウイルスを防御することが期待できるかどうかを算定する。WHOの年間ワクチン推奨事項の発行後、高い増殖株を開発して、ワクチン生産のための種ウイルスの生成を補助するための参照ウイルスとして業者に提供される。インフルエンザワクチンの安全性及び効力の試験はウイルス不活性化、微生物の殺菌性(sterility)、ウイルスを崩壊するために使用される化学薬品の測定及び推奨抗原濃度の確認を包含する。ワクチンはWHO条件を準拠しなければならないが、国家の監督機関が各国で使用される特定のワクチンウイルスを承認しなければならないことが推奨される。国立公衆保健監督局はワクチンの使用に関する推奨事項に責任をもつ。更にWHOはインフルエンザウイルス感染症の予防に関する推奨事項を刊行した(WER No.35,2002,pp.281−288を参照)。
【0018】
インフルエンザワクチンは50年以上にわたり発育鶏卵で製造されてきたが、近年、ワクチン産生のための細胞培養系を開発する多大の努力がなされてきた。発育鶏卵における従来の標準法は極めて面倒で、幾つかの主要な欠点有する:何百万もの卵が必要であり、米国では、1季節当たり100百万超の卵を接種し、個別に収穫しなければならず、アレルギーの危険を最少にするために卵タンパク質を確実に除去するために集中的な精製が多数の濾過及び遠心分離工程を要し、時間の浪費及び汚染にさらされることは言わずもがな、自動化が困難で労力を要する多数の生産工程が必要である。
【0019】
従って、既存のワクチン製造法に置き換えるための、すなわちインフルエンザウイルスの増殖を支持することができる細胞の特別の株を利用して、自動化生物反応容器中、生物担体上又は他の細胞培養システム中で増殖させるようになっている製造プロトコールを開発することにより、近年のワクチン産生法より利点を示すワクチン産生法を開発するための長期にわたる需要が当該産業に存在してきた。
【0020】
VERO細胞又は霊長類が発生源の他の細胞のような十分に特徴を知られた連続的細胞株がしばしば、インフルエンザウイルスワクチン産生における使用に示唆されている。しかし、登録当局(registration authority)は今日、ヒトにおける使用を意図される霊長類細胞で産生されたワクチンを敬遠する。このような当局はますます、霊長類の細胞から誘導されるすべての生成物(Veroのような)が残留するインタクト細胞を含まないことを推奨し、これらの細胞中で製造される製品中に霊長類細胞のDNAのような残留物質の濃度について連続した心配を表わしている。世界保健機構(WHO)は近年、非経口投与される時のウイルスワクチンに対し、1回10ngの連続的細胞株からの残留DNAの限界を許容しているが、登録当局はウイルスワクチンに対する各症例に基づくDNAのような残留霊長類細胞物質によりもたらされる危険の程度を考慮し続けている。
【0021】
長い間、インフルエンザAウイルスの基礎研究は有効な逆遺伝学的系の利用可能性欠如により妨げられてきた。マイナス鎖のRNAウイルスに対するもっとも初期の逆遺伝学法は事実、インフルエンザAウイルスに対し開発されたが、組換えDNAのみからのこのウイルスのレスキューはごく近年に達成された。
【0022】
組換えインフルエンザウイルスは、それからゲノムのウイルスRNA(vRNA)の各断片がRNAポリメラーゼ1により転写される、1組の8種のプラスミド並びに核タンパク質(NP)及びポリメラーゼタンパク質PB1、PB2及びPAを発現する1組の4種の更なるプラスミドによる真核細胞のトランスフェクション時に産生された。これらの12−プラスミド系を使用するウイルス産生の報告された有効性は比較的低かった。血球凝集素(HA)、ノイラミニダーゼ(NA)、マトリックスタンパク質1及び2(M1及びM2)並びに非構造タンパク質2(NS2)をコードする5種の更なるプラスミドの同時発現時に、上澄み液中のウイルス滴定濃度は増加することができた。これらの12及び17−プラスミド系の的確な修飾が、トランスフェクションされたプラスミドの数を8に減少するように双方向性ベクトルの実行である。この系により、マイナス鎖vRNA及びプラス鎖mRNAを同一プラスミドから合成することができる。
【0023】
組換えインフルエンザAウイルスを産生する能力は将来のインフルエンザウイルス研究を容易にはするが、しかし、全部ではないにしろ、ワクチン生産に使用される大部分の細胞系が、逆遺伝学的系に関与するポリメラーゼと、もっとも頻繁に使用される細胞種間の非適合性のために前記の組換えウイルスの複製を許さないか又はほとんど許さないという事実を与えられるので、ワクチン産生において十分に高い滴定濃度まで逆遺伝学的方法により得られる組換えインフルエンザAウイルスを使用するための実際的解決はまだ見いだされていない。
【0024】
インフルエンザAウイルスはマイナス鎖RNAウイルスである。これは1つの複製周期で3種のRNA:マイナスのセンスvRNA、プラスのセンスcRNA及びプラスのセンスmRNA、が産生されることを意味する。ウイルスのRNA(vRNA)と異なり、mRNAはキャップをもち、ポリ(A)尾部を有する。mRNAのポリ(A)尾部の第1のA残基は転写停止/ポリアデニル化シグナルとみなされるゲノム中のU残基の短いストレッチと合致する。ポリメラーゼは、それがU残基のこのストレッチに到達する時に後方への滑動の反復周期を受け、この方法でmRNAの全ポリ(A)尾部を形成すると考えられる。
【非特許文献1】Traubenberger and Layne,Molecular Diagnosis Vol.6 No.4 2001
【発明の開示】
【0025】
本発明は異なる種の細胞型に適用することができるインフルエンザウイルスの逆遺伝学的系を提供する。ポリメラーゼIはリボゾームのRNAを転写する核の酵素であり、増殖している細胞中に豊富に発現される。rRNAはvRNAのようにキャップもポリ(A)尾部ももたず、従ってポリメラーゼIはcDNAからのvRNAの産生のために使用することができる。ポリメラーゼIによるウイルスのcDNAの転写は正確な5’及び3’末端を有するRNAのようなウイルスの産生を許す。しかし、ポリメラーゼIIの転写機構はしばしば、異なる種からの遺伝子と適合性であるが、ポリメラーゼIの転写は絶対的ではないが、厳格な種特異性を示す。この種特異性はプロモーターと転写因子の相互作用により、そして程度は少ないが、因子間のタンパク質−タンパク質相互作用において与えられる。1つは、イヌ又はトリのポリメラーゼIプロモーターのようなヒト以外の細胞種に対するポリメラーゼIプロモーターがいまだ記載されておらず、そこでは当該産業では、十分に規定されたイヌ(すなわちMadin Darby犬の腎臓(MDCK)又はトリ細胞(発育鶏卵繊維芽細胞(CEF)がインフルエンザウイルスワクチン産生に頻繁に使用されるために、ポリメラーゼIに基づく逆遺伝学的系の種特異性は、ワクチン開発に対して主要な欠点である。
【0026】
本発明はインフルエンザ遺伝子断片及びバクアテリオファージポリメラーゼプロモーターを含んでなる核酸又は該核酸の相補鎖を提供する。非断片ウイルスに比較して、T7ポリメラーゼが作用しないと考えられた明白な例外はインフルエンザウイルスであり、その作製はポリメラーゼ及びクローンしたcDNAからの核タンパク質に加えて8種のウイルスのRNAの合成の付加的複雑さを伴うことを示すNeumann及びKawaoka(Virology 287,243−240,2001)の所見と反対に、本発明はこのバクアテリオファージ−ポリメラーゼ−に基づく逆遺伝学的方法のためのプラスミドベクトル及びそれらが含有する要素に関して著しい自由度を提供する。例えば、vRNA又はcRNA−様RNA分子を産生するために我々はバクアテリオファージT7のRNAポリメラーゼを使用したが、バクアテリオファージSP6RNAポリメラーゼのような種々の他のRNAポリメラーゼを使用することができる。好ましい態様において、本発明はインフルエンザ遺伝子断片及びT7プロモーターを含んでなる核酸又は該核酸の相補鎖を提供して、T7プロモーターの制御下のインフルエンザウイルスの遺伝子断片の発現時に本発明の系を基礎にさせる。1つの態様において、ポリメラーゼターミネーターが欠如している。該核酸はプロモーターの隣に1又は2個の更なるグアニン残基を提供されていることが好ましい。ワクチンの目的のためには、ワクチンの目的のためにWHOにより推奨されるインフルエンザウイルスから誘導される遺伝子断片を含んでなる本発明に従う核酸が提供される。好ましい態様において、本発明はインフルエンザA遺伝子断片及びT7プロモーターを含んでなる核酸又は該核酸の相補鎖を提供する。双方向性の系においては特に、本発明に従う核酸はT7ターミネーターを含まないことが好ましい。ポリメラーゼは好ましくは、ウイルスを発現するプラスミドと一緒にトランスフェクションされる核外遺伝子から発現されるので、本明細書に提供される系は特定の種に限定はされない。T7ポリメラーゼに基づく逆遺伝学的系は時々、非断片マイナス鎖ウイルスの救済のために使用されるが、バクアテリオファージポリメラーゼ法に基づく断片インフルエンザウイルスに対する逆遺伝学的系はこれまで成功に使用されたことはなかった。cDNAを転写するためにT7ポリメラーゼを使用する逆遺伝学的系における1つの制約因子は時々、T7−ポリメラーゼ駆動転写を高めるために転写開始部位にG残基を導入することにより克服すること追求されている。このアプローチは例えば、RV、VSV及びSVの救済に使用されたが、しかしZobel当等(Virology,1994 Jul;202(1):477−9;Nucleic Acids Res.1993 Aug 11;21(16):3607−14)は、ウイルスポリメラーゼが適当に機能するためには、インフルエンザA遺伝学断片の5’及び3’の両方が正確に規定される必要があり、従って、転写部位における更なるヌクレオチド付加のための空間を明らかに残さず、転写開始部位にG残基の導入を妨げることを教示していることを明記している。
【0027】
しかし驚くべきことには、本発明の好ましい態様において、T7プロモーターの隣に少なくとも1個の更なるグアニン残基を提供された本発明に従う核酸が提供され、T7プロモーターの隣に2個の更なるグアニン残基が提供されることは更に好ましい。更に、本発明はT7ポリメラーゼを提供されたMadin Darby犬の腎臓(MDCK)又は発育鶏卵繊維芽細胞(CEF)を提供する。とりわけ、本発明は本発明に従う少なくとも1種の核酸を提供された細胞を提供する。本発明は17−プラスミド又は12−プラスミド又は8−プラスミド系のような多−プラスミド系の使用を容易にし、そして本発明が、更に、好ましくは、本発明に従うインフルエンザ遺伝子断片を発現することができる1個又は複数のプラスミドと一緒にトランスフェクションされるプラスミドから発現されるT7ポリメラーゼを提供された、本発明に従う核酸をもつ細胞を提供するために、該系は特定の種に限定されない。本明細書には更にT7ポリメラーゼが核局在化シグナルを含んでなる、本発明に従う細胞を使用することが提供される。好ましい態様において、本明細書に提供されるような細胞は霊長類以外の細胞であるので、それにより、本発明に従う核酸又は細胞から誘導される細胞物質又はワクチン中への霊長類DNAの導入を回避する。好ましくは、MDCK細胞又はCEF細胞が使用される。逆遺伝学的系のためにヘルパーウイルスが不要であり、トランスフェクションにより提供されるすべてのウイルス粒子が所望の核酸を含んでなり、そしてその後のワクチン産生系において面倒なクローン形成法を伴
わずに使用することができることが本発明の利点である。本発明はまた、初めて、本発明に従う核酸を含んでなる複製型ウイルス粒子を提供する。米国特許第5,166,057号明細書においては、複製可能なこのようなウイルス粒子は提供されておらず、断片インフルエンザウイルスにT7系を使用する他の試みは本発明まで成功しなかった。本明細書に提供されるような〜10のウイルス粒子のウイルス滴定濃度を含む細胞培養物の組成物は、ウイルスが複製を許される時は、>10まで強化することができるトランスフェクション細胞培養物中でウイルス複製せずに容易に得ることができる。本発明に従う粒子の複製はヘルパーウイルスなしに実施されることが特に有用である。本発明に従う細胞から誘導される細胞又は物質あるいは本発明に従うウイルス粒子から誘導されるウイルス又は物質を含んでなる、このような細胞培養物組成物は有利には、インフルエンザウイルスによる被験体の感染に対する免疫学的防御をもたらすことを目的とした製薬学的組成物の生産のために使用することができる。確かに、本明細書に提供されたような細胞は米国特許第5,166,057号明細書には提供されていなかった。従って本発明はまた、本発明に従う少なくとも1種の核酸を含む細胞を培養する工程を含んでなる、複製型インフルエンザウイルス粒子の産生法を提供する。該方法に使用される少なくとも1種の核酸は少なくとも1種の、しかし好ましくは、7種又は8種のインフルエンザ遺伝子断片及びバクアテリオファージポリメラーゼプロモーター又は1種又は複数の該核酸の相補鎖を含んでなることが好ましい。更に、該断片はバクアテリオファージポリメラーゼターミネーターを含まず、それにより有利にはこのような断片がプロモーターの隣に少なくとも1個の更なるグアニン残基を提供されているか又はプロモーターの隣に2個の更なるグアニン残基を提供されていることが好ましい。該断片は好ましくは、ワクチンの目的のためにWHOにより推奨されるインフルエンザウイルス、例えば、インフルエンザA遺伝子断片から誘導される。最後に本発明は前記に開示の方法により得ることができる複製型インフルエンザウイルス粒子を提供する。それにより本発明はまた、本明細書に提供されるような組成物をそれを要する被験体に提供する方法を含んでなる、インフルエンザウイルスによる被験体の感染に対する免疫学的遮蔽をもたらすための方法を提供する。このような組成物は好ましくは、ワクチンとして、すなわちウイルス粒子又はこのような粒子から誘導されるウイルスタンパク質(サブユニット−ワクチン)を塩溶液又は補助剤(例えば、アルミニウム塩又は他の一般に使用される補助剤(例えば、http:/www.cdc.gov/nip/publications/pink/Appendices/A/Excipient.pdf.参照))のような適当な製薬学的担体と混合することにより調合される。
詳細な説明
【実施例1】
【0028】
T7RNAポリメラーゼに基づく逆遺伝学的系を使用する組換えインフルエンザAウイルスの生成
序文
長い間、インフルエンザAウイルスの基礎的研究は有効な逆遺伝学的系の利用可能性の欠如により妨げられてきた。マイナス鎖RNAウイルスのもっとも初期の逆遺伝学法は事実、インフルエンザAウイルスに対して開発されたが(7、18)、組換えDNAから独占的のこのウイルスの救済はごく最近達成された(9、20)。
【0029】
インフルエンザAウイルスはマイナス鎖RNAウイルスである。ウイルス複製周期中に、3種のRNA:マイナスのセンスゲノムウイルスRNA(vRNA)、ゲノムRNAに相補的なプラスのセンスRNA(cRNA)及び、プラスのセンスメッセンジャーRNA(mRNA)、が生産される。vRNA及びcRNAは本質的に非修飾末端を含有するが、mRNAはキャップを有し、ポリ(A)尾部を有する(16)。
【0030】
RNAポリメラーゼI(PolI)はリボゾームのRNA(rRNA)を転写する核の
酵素であり、増殖細胞中で豊富に発現される。vRNAのように、rRNAはキャップをもたず、ポリ(A)尾部ももたない(23)。Hobom等(19、21、29)はPolIを使用して正確な5’及び3’末端をもつ人工的インフルエンザウイルスvRNA−様断片を生成するのに成功した。PolIプロモーター−ターミネーターカセットの環境でクローン化されたcDNAの転写は正確な5’及び3’末端をもつvRNA−様分子の生成を可能にした(29)。ヘルパーインフルエンザウイルスに関与したその後の研究により、これらのゲノムvRNA分子を認めることができ、インフルエンザウイルスのポリメラーゼ複合体により複製され、そして子孫のインフルエンザウイルス中にパッケージされることができることが示された。このシステムがウイルス遺伝子断片又は更なる遺伝子断片の1つに突然変異体を含有するインフルエンザウイルスの生成を許し、従ってウイルス遺伝子及びそれらの製品の研究を可能にした。ヘルパーウイルスの使用の結果として、トランスフェクタントウイルスの選択を必要とし、これがむしろ面倒である。
【0031】
Neumann等は専らクローン化したcDNAからのインフルエンザAウイルスの回収のためのPolI系を考案した。インフルエンザAウイルスの全長のvRNAをコードするcDNAはヒトのPolIプロモーターとマウスのPolIターミネーター間でクローンされた。原則として、これらの8種のプラスミドの真核細胞へのトランスフェクションは8種すべてのインフルエンザvRNAの合成をもたらすにちがいない。ヒトの胚腎細胞(293T)をこれらの8種のvRNA発現プラスミド及び、ウイルスの核タンパク質を発現するプラスミド及びRNAポリメラーゼII(PolII)プロモーターからのポリメラーゼタンパク質PB2、PB1及びPAで同時トランスフェクションした。細胞のPolIにより合成されたvRNAはRNP中にパッケージされ、上澄み液1ml当り1×10を超える量のプラーク−形成単位の感染性ウイルス(pfu/ml)を回収した。残りのウイルス構築物タンパク質を発現するプラスミドによる同時トランスフェクションがウイルス産生の実質的増加、すなわち3×10〜5×10pfu/mlをもたらした(20)。Fodor等はインフルエンザAウイルスの回収のための同様な系を報告した(9)。この系はヒトのPolIプロモーターを隣にもつが、PolIターミネーター配列よりむしろ肝炎δウイルスリボザイム(HδVrib)配列を含有した、すべての8種のvRNAのcDNAをコードする8種のプラスミドに依存した。これらのプラスミドはアデノウイルス2型の主要な最近のプロモーターからPB1、PB2、PA及びNPタンパク質を発現する4種のプラスミドでVero細胞中に同時トランスフェクションされた。等量のそれぞれの発現プラスミドを使用して、Fodor等は10のトランスフェクション細胞から1〜2個の感染ウイルス粒子の救済率を報告した(9)。我々は組換えインフルエンザウイルスA/PR/8/34を産生するための同様な逆遺伝学的系を考案した。我々は、トランスフェクション細胞培養物中で、ウイルス複製なしに〜10のウイルス滴定濃度を得ることができ、それはウイルスが複製を許される時に、>10まで高めることができると結論を出した。これらのPolI駆動系は12〜16種のプラスミドの同時トランスフェクションを要したので、高効率でトランスフェクション可能な細胞株の使用が組換えウイルスの効率的な産生のために必要であった。
【0032】
その後、Hoffmann等は8種のみのプラスミドからのインフルエンザAウイルスの生成のための双方向性PolI−PolII転写系を開発した(12)。この双方向性の系において、vRNAのcDNAをヒトPolIプロモーターと最少のマウスPolIターミネーター配列間に挿入した。この全カセットをPolIIプロモーターとポリアデニル化サイト間に挿入した。これが単一の構築物からのPolI及びPolIIプロモーターそれぞれからのvRNA及びmRNAの転写を許した。Madin Darby犬腎(MDCK)細胞とともに同時培養された293T細胞中で、それぞれインフルエンザAウイルス遺伝子断片の1つをコードする8種のPolI−PolIIプラスミドの同時トランスフェクションが2×10pfu/上澄み液1mlまでの収率で感染性インフルエンザAウイルスの回収をもたらした(12)。mRNA及びvRNA双方の合成のための
1個の鋳型の使用はウイルス生成に要するプラスミド数を減少させた。この系中のウイルス生成の効率は単方向性(12〜16プラスミド)PolI系のものと同様であることが報告された。
【0033】
PolIIプロモーターはしばしば、異種からの転写機構と適合性であるが、PolIプロモーターからの転写は絶対ではなくとも厳格な種特異性を示す。この種特異性はプロモーターとの転写因子の相互作用によりそして、程度は少ないが、これらの因子間のタンパク質−タンパク質相互作用において与えられる(23)。
【0034】
PolI−に基づく逆遺伝学的系の種特異性は主要な欠点を形成する。前記の逆遺伝学的系はヒトPolIプロモーターを使用して、組換えウイルスの産生を293T細胞又はVero細胞のような霊長類発生源の細胞に限定した。PolIプロモーターはヒト、マウス、ラット及びブタを包含する幾つかの種に対して特徴を示されたが(8、14、17)、それらは多数の他の動物に対しては未知のままである。イヌ及びトリ細胞はインフルエンザAウイルスの研究及びワクチン産生に定常的に使用されるが、イヌ及びトリのPolIプロモーターはまだ記載されていない。インフルエンザウイルスの逆遺伝学法の自由度を改善するために、我々は普遍的な逆遺伝学的系を開発することを追求した。我々はバクアテリオファージT7RNAポリメラーゼプロモーター(pT7)の制御下のインフルエンザAウイルスの遺伝子断片の発現に基づく系を考案することを選択した。バクアテリオファージT7RNAポリメラーゼ(T7pol)は転写により、又は安定に修飾された細胞株の使用により細胞に供給することができるために、この系は特定の種からの細胞に限定されない。
【0035】
T7polに基づく逆遺伝学的系は非断片のマイナス鎖ウイルスの救済のために使用される。Schnell等は最初に、クローン化cDNA単独からの非断片のマイナス鎖ウイルスを救済した。cDNAクローンは狂犬病ウイルス(RV)の全長の抗ゲノムRNAをコードすることにより作製された。このcDNAはT7polターミネーター配列(tT7)の隣にpT7及びHδVrib配列を有した。T7polによる転写後、ゲノムの正確な3’末端が3’末端におけるHδVrib配列の自己消化開裂(autolytic cleavage)により生成される。このプラスミドは、T7polを発現する細胞に、pT7の制御下でウイルスのNタンパク質及びポリメラーゼタンパク質L及びPをコードする発現プラスミドで同時トランスフェクションされた。この方法は組換えRVの救済をもたらしたが、2×10トランスフェクション細胞のうちの約1個からのみであった(27)。それ以来、非断片NSVのパラミキソウイルス(Paramyxoviridae)、ラブドウイルス(Rhabdoviridae)及びフィロウイルス(Filoviridae)科について同様な系が記載された(10)。
【0036】
cDNAからの非断片のマイナス鎖ウイルスの有効な回収のためには、マイナスセンスvRNAでなく、むしろプラスセンス抗ゲノムRNA(cRNA)が非常にしばしば産生される。裸のマイナスセンスvRNA及びウイルスタンパク質をコードするプラスセンスのmRNAの同時の存在がハイブリッド形成をもたらして、リボ核タンパク質複合体(RNP)へのゲノムの集合を妨げるであろうと考えられる(27)。マイナス鎖のウイルスは通常、それらが常に、ハイブリッド形成を妨げるRNP型にそれらのゲノムを維持するためにこの問題に遭遇しない。Sendaiウイルス(15)、ヒトパラインフルエンザウイルス3型(6)及びヒトメタニューモウイルス(11)の回収がマイナスセンスのゲノムRNAをコードするcDNAにより報告されているが、効率はプラスセンスRNAによる結果より有意に低かった。この原理はまた、組換えインフルエンザウイルスの救済についても適用された。Hoffmann等(13)はまた、抗ゲノムのプラスセンスRNAからの組換えインフルエンザウイルス産生の効率を決定した。細胞質中でのみ複製する非断片及び断片のマイナス鎖のウイルスに比較して、インフルエンザAウイルスは同様な
効率で、ゲノム及び抗ゲノムベクトル双方から救済することができた。
【0037】
pT7を使用するウイルス救済系における1つの限定因子は、+1〜+3位の残基が転写に影響を与える可能性があることである。cDNAの転写がpT7の直接下流の2又は3G残基の導入により増加させることができることが認められた(22)。この観察が例えば組換えRV(27)、水疱性口内炎ウイルス(28)、呼吸器合胞体ウイルス(3)及びヒトメタニューモウイルス(11)の救済のために適用されてきた。これらのウイルスに対しては、明らかに、ゲノム末端の一方における更なるG残基はウイルス複製に影響を与えなかったが、T7pol駆動の転写に陽性の効果を有した。
【0038】
T7polに基づく系はインフルエンザウイルス逆遺伝学研究(18)に集中的に使用されてきたが、組換えインフルエンザウイルスのプラスミドに基づく産生は今日まで記載されていない。ここで我々は初めて、組換えインフルエンザウイルスの産生のためのそのようなT7polに基づく逆遺伝学的系を記載する。
【0039】
物質及び方法
細胞及びウイルス
Madin−Darby犬腎(MDCK)細胞を10%FCS、100IU/mlのペニシリン、100μg/mlのストレプトマイシン、2mMのグルタミン、1.5mg/mlの重炭酸ナトリウム、10mMのHepes及び非必須アミノ酸を補給されたEMEM(BioWhittaker)中で培養した。293T細胞を10%FCS、100IU/mlのペニシリン、10μg/mlのストレプトマイシン、2mMのグルタミン、1mMのピルビン酸ナトリウム及び非必須アミノ酸を補給されたDMEM(BioWhittaker)中で培養した。BSR−T7細胞はT7RNAポリメラーゼを安定に発現する新生児ハムスター腎臓細胞株である。BSR−T7細胞を10%FCS、100IU/mlのペニシリン、100μg/mlのストレプトマイシン、2mMのグルタミン、1mMのピルビン酸ナトリウム及び0.5mg/mlのG418(Life Technologies,Breda,オランダ)を補給されたDMEM中で増殖させた。発育鶏卵中で複製するようになっており、哺乳動物細胞培養液中では好ましくは、複製することができないインフルエンザウイルスA/PR/8/34を、10IU/mlのペニシリン及び10μg/mlのストレプトマイシンを補給されたEpiserf培地(Gibco BRL)中で増殖されたMDCK細胞中で感染の低い多重度において7回通過させた。7回目の通過後、10のTCID50/mlのウイルス滴定濃度を定常的に得た。
【0040】
293T細胞のトランスフェクション
293T細胞の一過性のリン酸カルシウム−媒介トランスフェクションを本質的に記載の通りに実施した(24)。50パーセントの密集単層を得るために、トランスフェクションの前日に、細胞をゼラチン状にした100mmの直径の培養皿中に入れた。1晩のトランスフェクション後、トランスフェクション培地を、ウイルス産生に対しては2%FCS又はすべての他のトランスフェクションに対しては10%FCSを補給された新鮮培地で置き換えた。細胞を30〜72時間インキュベートし、その後上澄みを回収し、適当な場合には細胞を蛍光染色分析した。プラスミドpEGFP−N1(Clontech,BDBiosciences,Amsterdam,オランダ)をすべての実験において平行にトランスフェクションし、蛍光染色細胞の百分率をFACSCalibur(Becton Dickinson)フロー・サイトメーターで測定して、トランスフェクション効率が95〜100パーセントの範囲にあることを確認した。ウイルス含有上澄みを300×gで10分間の遠心分離により透明にした。上澄み中のウイルス滴定濃度を直接又は1週間未満に対しては4℃で保存時に、又は1週間を超える時は−80℃で決定した。
【0041】
MDCK細胞のトランスフェクション
MDCK細胞の一時的トランスフェクションを本質的に前記の通りに実施した(1)。端的には、240μlのOptimemI培地(GibcoBRL)を10μlのLipofectamin2000に添加し、室温で5分間インキュベートした。この混合物に、Optimem I培地を使用して50μlの容量に調整された、意図された量のDNAを添加した。この混合物を室温で20分間インキュベートした。インキュベート後、ペニシリン及びストレプトマイシンを含まない200μlのMDCK培養培地(前記参照)を添加し、この混合物を6−ウェルプレート中の懸濁物中の1×10MDCK細胞に添加した。5時間のインキュベート後、細胞をPBSで2回洗浄し、ペニシリン及びストレプトマイシンを含まない2mlのMDCK培養培地中で培養した。1晩のインキュベート後にこの培地を2%FCS含有MDCK培養培地と置き換えた。
【0042】
BSR−T7細胞のトランスフェクション
BSR−T7細胞の一時的トランスフェクションのために、トランスフェクションの前日に6−ウェル培養皿中に400.000細胞を入れて、50〜70%の密集単層を得た。血清を含まないDMEM(240μl)を10μlのLipofectamin2000に添加し、室温で4分間インキュベートした。この混合物に血清を含まないDMEMで50μlに調整したDNAを添加し、室温で20分間インキュベートした。トランスフェクション前に、培地を2mlの血清を含まないDMEMで置き換えた。インキュベート後、トランスフェクション混合物を細胞に滴下し、37℃で5時間インキュベートした。トランスフェクション後、細胞をPBSで1回洗浄し、ウイルス産生のためには2%FCS又はFACS分析のためには10%FCSを補給された2mlのDMEMを添加した。
【0043】
プラスミド
T7polをコードする真核細胞発現ベクトル(pAR3126及びpAR3132)を使用した。プラスミドpAR3126は野生型T7polをコードするが、プラスミドpAR3132はT7polを細胞核に有効に命中にさせる核局在化シグナル(NLS)を含有するT7polを発現する。それからインフルエンザAウイルスのポリメラーゼタンパク質が発現される真核細胞発現プラスミドはマウスのヒドロキシ−メチルグルタリル−補酵素A還元酵素プロモーターのpHMG−PB1、pHMG−PB2、pHMG−PA及びpHMG−NPを使用する(25)。
【0044】
pPolI−CAT−RTのHδVrib(25)はPCRにより増力され(amplified)、pSO72のXbal−BamHIサイトでクローン化された。BamHI−EcoRVにより消化されたtT7配列はpSP72−HδVribのBamHI−Hpalサイトにおいてクローン化されて、pSP72−HδVrib−tT7(MS24)をもたらした。pT7をコードするオリゴヌクレオチドを、導入されたBbslサイトに適当な条件でpSP72−HδVrib−tT7のNdel−Xbalサイトで連結反応させると、ベクトルpSP72−pT7−HδVrib−tT7(MS25、図1)をもたらした。インフルエンザウイルスA/PR/8/34の断片5からの、NCRを隣にもつ緑の蛍光タンパク質(GFP)のオープンリーディングフレームを、鋳型としてpSP−Hu−GFP−Mu(4)を使用してpSP72−pT7−HδVrib−tT7のBbslサイトでクローン化した。このGFPミニゲノムをセンス及びアンチセンス配置双方でクローン化し、pT7のすぐ下流に0/2/3個のいずれかの更なるG残基を含有した(図1)。
【0045】
pSP72−pT7−HδVrib−tT7中でインフルエンザウイルスA/PR/8/34の遺伝子断片をクローンするためには、de Wit等に記載された(4)双方向性インフルエンザウイルスA/PR/8/34構築物をPCRの鋳型として使用した(第4の3’ヌクレオチドは国立インフルエンザ配列データベースで報告されたインフルエンザウイルスA/PR/8/34配列と対応していた)。Aarl制限サイトを含有するプ
ライマーがクローン断片1、2、3、4、6、7、8に対して使用され、断片5に対しては率直な(blunt)末端連結反応が使用され、遺伝子断片は、pT7後に2個の更なるG残基を含有するアンチセンス配置のBbslサイトでクローンされた。
【0046】
双方向性ベクトルpSP72−pT7−HδVrib−tT7−pCMV(MS65、図1)はtT7の下流でCMVプロモーター(pCMV)をクローン化して対応する遺伝子断片からmRNAの産生を可能にすることにより産生された。pCMVはAsel制限サイトを含有するプライマーを使用してPCRにより増力された。pSP72−pT7−HδVrib−tT7は一部Aselで消化され、pCMVは遺伝子断片からのmRNAの産生のために適当な方向のtT7からの下流で連結反応された。
【0047】
再度インフルエンザウイルスA/PR/8/34断片をクローン化して各双方向性T7pol駆動インフルエンザウイルスA/PR/8/34構築物を得た。
【0048】
我々は更に、tT7がそれから消去された1組の双方向性ベクトルを生成した。これを、知られた酵素による処理のBamHI−BpeEIによるpSP72−pT7−HδVrib−tT7−pCMVの消化及び連結反応により実施して、pSP72−pT7−HδVrib−pCMV(MS90、図1)を生成した。再度、インフルエンザウイルスA/PR/8/34断片をクローン化して各双方向性T7pol駆動インフルエンザウイルスA/PR/8/34構築物を得た。
【0049】
すべてのプラスミドを製造会社の指示に従って、Big Dye Terminator v3.1 Cycle Sequencingキット(Applied Biosystems)及び3100Genetic Analyser(Applied Biosystems)を使用して配列した。
【0050】
T7polに基づく系による組換えウイルスの産生
293T細胞を、前記のように、PR/8/34の遺伝子断片を含有する単方向性プラスミドそれぞれから5μg、それぞれ5μgの発現プラスミドHMG−PB2、HMG−PB1、HMG−PA、HMG−NP及び15μgのpAR3132によりトランスフェクションした。あるいはまた、我々はPR/8/34の遺伝子断片を含有する双方向性プラスミドそれぞれから5μg及び15μgのpAR3132をトランスフェクションした。トランスフェクションの72時間後に上澄みを回収し、1mlを使用してMDCK細胞の密集単層を感染させた。
【0051】
ウイルス感染及び濃度滴定
播種の前に、MDCK細胞をPBSで2回洗浄し、1mlの293T上澄みを使用して6−ウェルのプレート中のMDCK細胞の密集単層を播種し、感染中に40μgのトリプシン(2.5%、Bio Whittaker)を添加した。プレートを37℃で1時間保存し、PBSで2回洗浄し、その後、4%BSA、100IU/mlのペニシリン、100μg/mlのストレプトマイシン、2mMのグルタミン、1.5mg/mlの重炭酸ナトリウム、10mMのHepes、非必須アミノ酸及び20μg/mlのトリプシン((感染媒質)を補給された2mlのEMEM(BioWhittaker)を添加した。感染3日後に、培養物の上澄みを回収し、細胞の感染の指標としてのHA活性を試験した。前記のようにウイルス滴定を実施した(26)。端的には、トランスフェクション細胞の上澄みの10倍連続希釈物を感染媒質中に調製した。播種の前に、細胞をPBSで2回洗浄した。100μlの希釈培養物上澄みを使用して96ウェルプレート中のMDCK細胞の密集単層に播種した。37℃で1時間後に、細胞を再度PBSで洗浄し、200μlの新鮮な感染媒質を各ウェルに添加した。感染3日後に、培養物の上澄みを個々のウェル中の細胞の感染の指標としてのHA活性を試験した。感染滴定濃度はSpearman−Karberの方法に従って10回の反復から計算した(26)。
【0052】
結果
単方向性のT7polに基づく逆遺伝学的系によるGFPミニゲノムアッセイ
pT7、HδVrib及びtT7を含有する単方向性ベクトルを構成した。インフルエンザウイルスA/PR/8/34の断片5の非コード領域(NCR)を隣にもつGFPオープンリーディングフレームを0、2又は3個の更なるG残基をもつセンス(S)及びアンチセンス(AS)配置のpSP72−pT7−HδVrib−tT7中でクローンさせた(図1及び別図2及び3)。これらの構築物はそれぞれS−0G、S−2G、S−3G、AS−0G、AS−2G及びAS−3Gと名付けた。我々はこれらの選択肢のどれが最良の効果をもたらしたかを試験した。
【0053】
我々はGFPミニゲノム(S−0G、S−2G、S−3G、AS−0G、AS−2G,AS−3G)の1つ、T7pol発現プラスミド(pAR3132)及びPB2、PB1、PA及びNPタンパク質を発現する4種のプラスミド(pHMG−PB2、pHMG−PB1、pHMG−PA、pHMG−NP)で293T細胞をトランスフェクションした。対照として、我々は、GFPミニゲノムの複製の欠乏をもたらすにちがいない、pHMG−NPを省いた、同様なトランスフェクションを実施した。トランスフェクションの30時間後に、FACSCalibur中の蛍光につき細胞を分析した。結果は図2に示される。左側のパネルから、2個の更なるG残基を伴う、アンチセンス配置のGFPミニゲノムのトランスフェクション時に最高の割合のGFPプラス細胞を認めたことを見ることができる。
【0054】
その他のGFPミニゲノム構築物もまた、ある割合のGFPのプラス細胞をもたらしたが、幾らか少なかった。GFPプラス細胞の平均蛍光を比較すると(図2、右側パネル)、再度、2個の更なるG残基をもつアンチセンス配置のGFPミニゲノムが最大の効力を示した。この実験において、2個の更なるG残基をもつセンス配置のGFPミニゲノムがもっとも低い効力を示し、その他の構築物は中間であった。
【0055】
実験から実験にわたり異なるGFPミニゲノムプラスミド間のGFP−発現細胞の割合及びGFP発現のレベルに関しては幾らかの変動を認めたが(データは示されていない)、概括的に、2個の更なるG残基を伴うアンチセンス配置のGFPミニゲノムが最大の効力を示したので、この構築物を次の実験のために選択した。
【0056】
核のT7pol発現対細胞質のT7pol発現
我々が解決する必要がある可能性がある1つの問題はT7polの発現であった。パラミキソウイルスの逆遺伝学に対しては、パラミキソウイルスの複製はまた細胞質内で起るために、望ましい、主として細胞質内で発現されたT7polが使用される。インフルエンザウイルスは細胞核内で複製し、従って細胞質内のT7polの発現は最良の選択ではないかも知れない。従って我々は、T7polの細胞質バージョン(プラスミドAR3126)又は、核局在化シグナルを含有するT7pol(NLS、プラスミドpAR3132)のいずれかが使用された時のGFP発現レベルを比較することを所望した。
【0057】
この実験の結果は図3に示される。野生型T7pol発現プラスミドが使用された時は、プラス細胞中の平均GFP蛍光は521であった。GFP発現レベルは核局在化シグナルを含有したT7polを使用することにより有意に高めることができた(平均蛍光1106)。核局在化シグナルをもつT7pol構築物及びそれをもたないT7pol構築物双方を合わせると(1:1比、トランスフェクションされたプラスミドの総量を不変に維持)、GFP発現の中程度のレベルを認めた(平均蛍光775)。広範なGFPミニゲノムプラスミドを使用する多数の独立した実験において、これらの結果は再現可能であり、T7polの核バージョンを使用すると、GFP発現の2〜10−倍の増加を認めた(データは示されていない)。従って次の実験において、我々は核局在化シグナルを含有するT7polを使用した。
【0058】
一時的T7pol発現対安定なT7pol発現
幾つかのパラミキソウイルスの逆遺伝学的系に対して、T7polはプラスミドトランスフェクションにより供給されず、T7polの安定な発現を許す細胞株の使用によって供給された。この目的のために、新生児ハムスターの腎臓細胞(BSR−T7)が利用できる。我々はBSR−T7細胞が、次にインフルエンザウイルスポリメラーゼ複合体により複製されて、GFP発現をもたらすことができる、インフルエンザウイルスGFPミニゲノムの転写のために使用することができるかを試験した(図4)。
【0059】
図4から見ることができるように、293T細胞中の高いGFP蛍光はT7polの発現に強度に依存する。BSR−T7細胞において、pHMG−NPプラスミドが省かれたトランスフェクションに比較して、インフルエンザウイルスのポリメラーゼ複合体によるGFPミニゲノムの同時トランスフェクション時には、比較的高いレベルのGFP発現を認めた。T7polの核バージョンを発現するプラスミドを添加すると、GFP発現は更に高いことを認めた。BSR−T7細胞中のGFP発現の比較的高いレベルは、T7polの安定な発現がトランスフェクションによる一時的発現よりもより効果的であることを示唆する。しかし、核のT7polがトランスフェクションにより提供される実験は、インフルエンザウイルスの逆遺伝学に対しては野生型T7polよりむしろ核のT7polを発現する安定な細胞株が更により効率的であろうことを示唆する。
【0060】
単方向性のT7polに基づく逆遺伝学的系による組換えウイルスの産生
次にインフルエンザウイルスA/PR/8/34の遺伝子断片を組換えインフルエンザウイルスA/PR/8/34の産生のために、ベクトルpSP72−pT7−HδVrib−tT7中でクローン化させた。
【0061】
インフルエンザウイルスA/PR/8/34の遺伝子断片をコードする8種の構築物、pT7POL(pAR3132)、pHMG−PB1、pHMG−PB2、pHMG−PA及びpHMG−NPで293T細胞をトランスフェクションした。トランスフェクション後、産生ウイルスの複製を許すために、培地にトリプシンを添加した。トランスフェクションの72時間後、上澄みを回収し、MDCK細胞播種に使用した。播種の3日後、ウイルス複製の指標として、これらのMDCK細胞の上澄み上でHA−試験を実施した。HA−試験は陽性であった。次に293T及びMDCK上澄みのウイルス滴定濃度を決定した。293T上澄み中のウイルス滴定濃度は1.6×10TCID50/mlであることが示され、MDCK上澄み中のウイルス滴定は2.0×10TCID50/mlであることが示された。トランスフェクション後に293T細胞にトリプシンを添加しなかった時は、293T細胞及びMDCK細胞中に僅かに低いウイルス滴定を得た(データは示されていない)。従って、これは、PolIプロモーターを使用しなかった最初のプラスミドのみの組換えインフルエンザAウイルスの救済を表わす。
【0062】
双方向性T7系
次に我々はpT7の制御下で双方向性逆遺伝学的系を開発することを所望した。pSP72−pT7−HδVrib−tT7中でpCMVをクローン化させることによりプラスミドベクトルを産生して、ベクトルpSP72−pT7−HδVrib−tT7−pCMVをもたらした(図1)。インフルエンザウイルスA/PR/8/34の断片5の非コード領域(NDR)を隣にもつGFPオープンリーディングフレームを2個の更なるG残基をもつアンチセンス配置におけるpSP72−pT7−HδVrib−tT7−pCMV中でクローン化させた。我々はこのプラスミドがインフルエンザウイルスポリメラーゼ複
合体によるミニゲノム複製の必要なしにGFP発現を引き起こすであろうと期待したので(pCMVはミニゲノムに対してセンス配置にある)、我々は更に、pT7に対してセンス配置にある(従ってpCMVに対してアンチセンス)ミニゲノム(0のG残基)を含有する同様な構築物を作製した。ミニゲノムプラスミドを核T7pol及びpHMG−PB1、pHMG−PB2、pHMG−PA及びpHMG−NPを発現するプラスミドと一緒に293T細胞中でトランスフェクションした。30時間後に細胞をFACSにより分析した(図5)。
【0063】
不完全インフルエンザウイルスポリメラーゼ複合体によるセンスGFPミニゲノム(S−0G)のトランスフェクションは非常に低いGFP発現(図5、右側パネル)を伴い、非常に少ないGFPプラス細胞(図5、左側パネル)をもたらした。完全なインフルエンザウイルスポリメラーゼ複合体の存在下では、〜7%の細胞が〜1200の平均蛍光を伴い、GFPプラスであった。アンチセンスGFPミニゲノムプラスミドを使用すると、比較的高い割合の細胞(〜10%)が完全なインフルエンザウイルスポリメラーゼ複合体の不在下でGFPを発現したが、低いレベルのみであった(平均GFP蛍光182)。完全なインフルエンザウイルスポリメラーゼ複合体の同時トランスフェクション時には、GFPを発現する細胞の割合は増加せず、他方細胞1個当りのGFP発現レベルは有意に増加した(平均GFP蛍光1205)。従って、この実験から我々は、双方向性発現ベクトルが有用であると結論することができ、pCMVからのGFPmRNAの産生の結果として、インフルエンザウイルスポリメラーゼ複合体の必要なしに、低いレベルのGFP発現が認められた。注目すべきことには、これは、同様なレベルのGFP発現をもたらした(〜19%の細胞が128の平均蛍光で発現、データは示されない)、AS−2G GFPミニゲノムプラスミド単独による293T細胞のトランスフェクションにより確証された。更に、pT7から転写されたミニゲノムの複製の結果として、インフルエンザウイルスポリメラーゼ複合体の存在下でGFP発現の増加したレベルが認められた。従って、双方向性pT7−pCMV発現プラスミドは有用であった。
【0064】
双方向性のT7polに基づく逆遺伝学的系による組換えウイルスの産生
次にインフルエンザウイルスA/PR/8/34の遺伝子断片を組換えインフルエンザウイルスA/PR/8/34の作製のためにベクトルpSP72−pT7−HδVrib−tT7−pCMV中でクローン化させた。
【0065】
インフルエンザウイルスA/PR/8/34の遺伝子断片をコードする8種の構築物及びpT7pol(pAR3132)で293T細胞をトランスフェクションした。トランスフェクション後、産生されたウイルスの複製を許すために培地にトリプシンを添加した。トランスフェクションの72時間後、上澄みを回収し、MDCK細胞を播種するために使用した。播種の3日後、ウイルス複製の指標としてのHA−試験をこれらのMDCK細胞の上澄み上で実施した。HA−試験は陰性であり、組換えウイルスが回収されなかったことを示した。
【0066】
PB2、PB1、PA及びNP遺伝子を発現するために双方向性ベクトルを使用するミニゲノムリポーターアッセイから、これらのプラスミドからのタンパク質発現は非常に低いという証拠が得られた(データは示されていない)。tT7配列が転写形態pCMVを妨げて、コード遺伝子の低い産生をもたらしたことが仮定された。従って、tT7配列を省いた新規の双方向性プラスミド(pSP72−pT7−HδVrib−pCMV)が作製された。インフルエンザウイルスA/PR/8/34の遺伝子断片を組換えインフルエンザウイルスA/PR/8/34の作製のためにベクトルpSP72−pT7−HδVrib−pCMV中でクローン化させた。最初の試みにおいては、再度組換えウイルスは産生されなかった。しかし、トランスフェクションに使用されるプラスミドの量の何かの最適化により、組換えウイルスの産生に成功した。この実験に使用されたプラスミドの量は
PB2、PB1、PA及びHAをコードする構築物それぞれ10μg及びNP、NA、MA及びNSをコードする構築物、それぞれ5μgであった。293T細胞中の組換えウイルス滴定濃度は検出不可能であったが、MDCK細胞の次の播種は1.3×10TCID50/mlの初期滴定濃度をもつウイルスをもたらした。
【0067】
MDCK細胞中のT7pol系
T7polに基づく逆遺伝学的系の普遍的性状の更なる証拠を提供するために、293T細胞でなくMDCK細胞中のGFPミニゲノムの複製を試験された。BSR−T7細胞による実験はすでに、T7pol逆遺伝学的系が霊長類以外の発生源の細胞中で有効であるという証明を提供したが(図4)、MDCKはインフルエンザウイルスの研究及びワクチンの生産により広範に利用される。
【0068】
図6で見られるように、T7polに基づく逆遺伝学的系はMDCK細胞中で有用であることが見いだされた。BSR−T7細胞中での結果(図4)と併せて、これらの実験は、T7pol逆遺伝学的系が実に、広範な細胞タイプに適用可能な「普遍的」系を表わすことを示す。この実験から、更に、霊長類以外の細胞からの組換えインフルエンザウイルスの産生が今や可能であると結論することができる。
【0069】
ここで、初めて、我々により293T細胞中にT7polに基づく系を使用する組換えインフルエンザAウイルスA/PR/8/34(MDCK−適応NIBSC株)の産生が示された。しかし、これらの方法の使用をインフルエンザAウイルスA/PR/8/34に限定する条件はなく、それらは他の断片型マイナス鎖RNAウイルスのみならずまた、A型、B型及びC型すべてのインフルエンザウイルスに適用することができる。これらの方法の使用を293T細胞、BSR−T7細胞及びMDCK細胞に限定する条件もなく、T7polは例えば、組換えウイルスがそのときに産生され得る広範な細胞株のトランスフェクションにより供給することができる。
【0070】
更に、このT7polに基づく逆遺伝学的方法のためのプラスミドベクトル及びそれらが含有する要素に関して著しい自由度が存在する。ここで、vRNA又はcRNA−様RNA分子を産生するためにバクアテリオファージT7のRNAポリメラーゼが使用されたが、バクアテリオファージSP6 RNAポリメラーゼのような種々のその他のRNAポリメラーゼも使用することができた。本明細書で示された実験において、T7 RNAポリメラーゼはSV40の大型T抗原の核局在化シグナルを含有するように修飾されたが、RNAポリメラーゼは種々の他の核ターゲティングシグナル(例えばhnRNP Kタンパク質のもの)を使用して修飾することができる。ここでは、肝炎のデルタウイルスのリボザイム配列が使用されたが、その代わりに他のリボザイム配列を使用することができることが記載されている。最後に本明細書に記載された系はマウスのヒドロキシ−メチルグルタリル−補酵素A還元酵素プロモーター(pHMG構築物)に基づいたインフルエンザウイルスポリメラーゼタンパク質発現ベクトルの使用に依存せず、広範なインフルエンザウイルスからのポリメラーゼタンパク質を使用することができ、広範な発現ベクトルを使用して発現することができた。
【0071】
引用文献
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【実施例2】
【0072】
組換えウイルスを関連流行ウイルス(例えばA/Moscow/10/99)のHA及びNA遺伝子を使用して高処理量のウイルス骨格(backbone)に基づいて(例えば、ワクチン株A/PR/8/34から誘導された)前記のように産生した。トランスフェクションによる組換えウイルスの産生後、ウイルスを十分に高い量まで、適当な細胞基質(例えば、卵、MDCK細胞、Vero細胞)中で増力する。発育鶏卵中で増殖時には、尿膜腔液を1000×gで10分間の遠心分離及び0.45マイクロメーターのフィルターを通る濾過により透明にする。今度はウイルスを4℃で150.000×gで1.5時間の遠心分離によりペレットにし、リン酸バッファー生理食塩水(PBS)中に再懸濁する。次にウイルスをPBS中25%の蔗糖の層上に負荷された2%のデカノイル−N−メチルグルカミド(MEGA)で処理し、4℃で250.000×gで1.5時間遠心分離する。次にHA及びNAタンパク質含有の上部層をPBSに対して透析し、タンパク質調製物の純度及び量をクーマシー(coomassie)ブリリアント・ブルーで染めた12.5%のSDS−ポリアクリルアミドゲルを使用して証明した。フェレットを〜10ミクログラムのHA/NAタンパク質の筋肉内投与により免疫性を与える。所望される場合はワクチン接種はその後の複数回の投与又は補助剤(MF59、ISCOM)を使用して実施することができる。ワクチン接種の前後に収集された血清試料中のHA及びNAに対する抗体濃度滴定は赤血球凝集反応抑制アッセイ、ノイルアミニダーゼ抑制アッセイ、ELISA、ウイルス中和アッセイ、等を使用して決定される。ワクチン接種6週間後に、ワクチン投与及び対照動物にインフルエンザウイルスA/Moscow/10/99又は異種のウイルス単離物の1×10E5の50パーセント組織培養物感染量(TCID−50)を使用して試験した。投与後、10日間、毎日、動物から鼻又は咽頭スワブ試料を収集し、感染動物により排泄されたウイルスの量を定量PCR分析又はウイルス滴定により決定する。このようにして得られたワクチン誘導免疫を抗体滴定量及び投与ウイルスによる感染に対する予防のレベルを定量することにより確認することができる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】T7pol−に基づく逆遺伝学的系に使用される構築物。クローン形成法についての詳細は本文を参照されたい。
【図2】GFPミニゲノム(0.6μg)、T7pol(0.6μg)及びインフルエンザAウイルスポリメラーゼ遺伝子(各1μg)をコードする構築物でトランスフェクションされた293T細胞のFACS分析。左側パネル:トランスフェクションの30時間後のGFPプラス細胞の%。右側パネル:GFPプラス画分中のGFP発現レベル(平均蛍光)。X−軸上には記載された数の更なるGヌクレオチドを含む、センス(S)又はアンチセンス(AS)配置いずれかのトランスフェクションされたGFPミニゲノム構築物が示される。黒色棒はインフルエンザAウイルスポリメラーゼ複合体のすべての4成分(PB2、PB1、PA及びNP)同時トランスフェクションを示し、白色棒はpHMG−NP構築物を排除した対照トランスフェクションを示す。
【図3】2個の更なるG残基を伴うアンチセンスGFPミニゲノム0.6μg、4μgのインフルエンザAウイルスポリメラーゼ構築物及び0.6μgの、野生型T7pol(C)、核局在化シグナル(N)を含有するT7pol又は1:1比率(C/N)の双方の構築物、のいずれか、でトランスフェクションされた293T細胞のFACS分析。左側パネル:トランスフェクション30時間後のGFPプラス細胞の%。右側パネル:GFPプラス画分のGFP発現レベル(平均蛍光)。
【図4】2個の更なるG残基をもつアンチセンスGFPミニゲノムをコードする構築物0.6μg及び4μgのインフルエンザAウイルスポリメラーゼ構築物でトランスフェクションされた293T又はBSR−T7のFACS分析。細胞のGFPプラス画分中のGFP発現レベル(平均蛍光)が示される。細胞を核局在化シグナルを含有するT7polを発現するプラスミドを伴って又は伴わずに(293T対293T N又はBSR−T7対BSR−T7 N)トランスフェクションした。黒色棒はインフルエンザAウイルスポリメラーゼ複合体の4種すべての成分(PB2、PB1、PA及びNP)との同時トランスフェクションを示し、白色棒はpHMG−NP構築物を排除した対照トランスフェクションを示す。
【図5】2個の更なるG残基をもつアンチセンスGFPミニゲノム(AS−2G)又はセンスGFPミニゲノム(S−0G)をコードする0.6μgの構築物及び0.6μgの核局在化シグナルによりT7polを発現するプラスミド及び4μgのインフルエンザAウイルスポリメラーゼ遺伝子を発現するプラスミドでトランスフェクションされた293T細胞のFACS分析。左側パネル:トランスフェクション30時間後のGFPプラス細胞の%。右側パネル:GFPプラス画分中のGFP発現レベル(平均蛍光)。黒色棒はインフルエンザAウイルスポリメラーゼ複合体の4種すべての成分(PB2、PB1、PA及びNP)との同時トランスフェクションを示し、白色棒はpHMG−NP構築物を排除した対照トランスフェクションを示す。
【図6】2個の更なるG残基をもつアンチセンスGFP3ミニゲノム(AS−2G)をコードする0.6μgの構築物及び0.6μgの核局在化シグナルによりT7polを発現するプラスミド及び4μgのインフルエンザAウイルスポリメラーゼ遺伝子を発現するプラスミドでトランスフェクションされた293T細胞及びMDCK細胞のFACS分析。左側パネル:トランスフェクション30時間後のGFPプラス細胞の%。右側パネル:GFPプラス画分中のGFP発現レベル(平均蛍光)。黒色棒はインフルエンザAウイルスポリメラーゼ複合体の4種すべての成分(PB2、PB1、PA及びNP)との同時トランスフェクションを示し、白色棒はpHMG−NP構築物を排除した対照トランスフェクションを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インフルエンザ遺伝子断片及びバクアテリオファージポリメラーゼプロモーターを含んでなる核酸又は該核酸の相補鎖。
【請求項2】
請求項1に記載の核酸であるが、バクアテリオファージポリメラーゼターミネーターを含まない核酸。
【請求項3】
プロモーターの隣に少なくとも1個の更なるグアニン残基を提供された請求項1又は2記載の核酸。
【請求項4】
プロモーターの隣に2個の更なるグアニン残基を提供された請求項3記載の核酸。
【請求項5】
ワクチンの目的のためにWHOにより推奨されているインフルエンザウイルスから誘導される遺伝子断片を含んでなる請求項1〜4のいずれかに記載の核酸。
【請求項6】
インフルエンザA遺伝子断片を含んでなる請求項1〜5のいずれかに記載の核酸。
【請求項7】
バクアテリオファージポリメラーゼがT7ポリメラーゼである請求項1〜6のいずれかに記載の核酸。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の少なくとも1種の核酸を備えた細胞。
【請求項9】
バクアテリオファージポリメラーゼを更に備えた請求項8記載の細胞。
【請求項10】
ポリメラーゼが核局在化シグナルを含んでなる請求項9記載の細胞。
【請求項11】
請求項8〜10のいずれかに記載の霊長類以外の細胞。
【請求項12】
MDCK細胞又はCEF細胞である請求項11記載の細胞。
【請求項13】
ヘルパーウイルスを提供されなかった請求項8〜12のいずれかに記載の細胞。
【請求項14】
バクアテリオファージポリメラーゼがT7ポリメラーゼである請求項8〜13のいずれかに記載の細胞。
【請求項15】
請求項1〜7のいずれかに記載の核酸を含んでなるウイルス粒子。
【請求項16】
請求項8〜14のいずれか1項に記載の細胞から誘導される細胞又は物質あるいは請求項15記載のウイルス粒子から誘導されるウイルス又は物質を含んでなる組成物。
【請求項17】
インフルエンザウイルスをもつ被験体の感染に対して免疫学的防御をもたらすことを目的とされる製薬学的組成物の製造のための請求項16記載の組成物の使用。
【請求項18】
請求項16記載の組成物をそれを要する被験体に提供する方法を含んでなる、インフルエンザウイルスをもつ被験体の感染に対して免疫学的防御をもたらす方法。
【請求項19】
バクアテリオファージポリメラーゼ、好ましくはT7ポリメラーゼを提供されたMadin Darby犬の腎(MDCK)又は発育鶏卵繊維芽(CEF)細胞。
【請求項20】
インフルエンザ遺伝子断片及びバクアテリオファージポリメラーゼプロモーターを含んでなる核酸又は該核酸の相補鎖をを提供された請求項19記載の細胞。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2008−525003(P2008−525003A)
【公表日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−547535(P2007−547535)
【出願日】平成17年12月22日(2005.12.22)
【国際出願番号】PCT/EP2005/057092
【国際公開番号】WO2006/067211
【国際公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【出願人】(501439149)ソルベイ・フアーマシユーチカルズ・ベー・ブイ (71)
【出願人】(507154468)エラスムス・ユニバーシテイ・メデイカル・センター・ロツテルダム (4)
【Fターム(参考)】