説明

インフルエンザウイルスの検知方法およびインフルエンザウイルスの検知装置

【課題】居室空間R等の空気中に浮遊するインフルエンザウイルスを簡便に検出する技術を提供すること。
【解決手段】インフルエンザウイルスをエアフィルタにより捕集し、エアフィルタをノイラミニダーゼ抽出液に接触させ、エアフィルタに接触したノイラミニダーゼ抽出液を、インフルエンザウイルスノイラミニダーゼにより分解されて発色するノイラミニダーゼ発色基質に反応させ、そのノイラミニダーゼ発色基質の発色により雰囲気中に含まれるインフルエンザウイルスを検知する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インフルエンザウイルスを検知する技術に関し、特に、居室空間等の空気中に浮遊するインフルエンザウイルスを検出するインフルエンザウイルスの検知方法およびインフルエンザウイルスの検知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、インフルエンザウイルスは、ウイルス感染の疑われる人などからインフルエンザウイルスの多く含まれる鼻汁、痰等の試料を採取し、その試料をもとに培養、分離、同定するという手順で確認することが行われている。しかし、このような手法を用いると、結果を得るまでに数日を要するために、近年、イムノクロマトグラフィを用いた簡易的な検査キットが開発されている(たとえば、特許文献1)。これは、ウイルスを抗原とした抗原抗体反応により、特異的に発色する抗体や、インフルエンザウイルスに特異の酵素ノイラミニダーゼとの反応により発色する発色基質を用い、試料と抗体や発色基質との接触により発色を観察することによってウイルスの存在を知るものである。この方法によれば、数分から数十分の間にインフルエンザウイルスを検出し、感染患者の治療等に有効活用できるものとなってきている。
【0003】
しかし、イムノクロマトグラフィによっても、試料は鼻汁、痰等の比較的ウイルスが大量に存在する部位から採取する必要があり、また、感度も信頼性70%程度のものであるといわれている。
【0004】
また、さらに、MEMS(MicroElectroMechanicalSystem)を用いた簡易検知システムも提案されているが(非特許文献1)、このような検知システムであっても、基本的には、検出対象は高濃度のウイルスを含有する溶液であることが前提であり、希薄な状態で浮遊するウイルスの調製から検出方法までのインフルエンザウイルスの分析を簡便、迅速に行えるものではなく、インフルエンザウイルスによる感染拡大の防御のために必要である、空気中に浮遊するウイルスを検出する場合において、適切な採取方法、および検出方法となっておらず、簡便に活用できない現状にある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−275511号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Fernando Patolsky, Analytical Chemistry 78, 23, 4260−4269(2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そのため、居室空間等の空気中に浮遊するインフルエンザウイルスを検出する場合に、採取した居室空間内の空気よりウイルスを濃縮して簡便に液状の試料としうる、ウイルスモニタに適した試料調製方法の開発が必要であり、上述の従来の検知技術を適用しようとすると、その場で簡便かつ迅速に分析できないうえに、長期的にウイルスの状況をモニタするというような用途では使用することができなかった。
そこで、本発明は、上記実情に鑑み、居室空間等の空気中に浮遊するインフルエンザウイルスを簡便に検出する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
〔構成〕
上記技術課題を解決するための本発明のインフルエンザウイルス検知方法の特徴構成は、
インフルエンザウイルスをエアフィルタにより捕集し、
前記エアフィルタをノイラミニダーゼ抽出液(以後、単に抽出液ともいう)に接触させ、
前記エアフィルタに接触した抽出液を、インフルエンザウイルスノイラミニダーゼにより分解されて発色するノイラミニダーゼ発色基質(以後、単に発色基質ともいう)に反応させ、
その発色基質の発色により雰囲気中に含まれるインフルエンザウイルスを検知する点にある。
〔作用効果〕
つまり、本発明のインフルエンザウイルスの検知方法は、インフルエンザウイルスをエアフィルタにより捕集するから、簡便に居室空間等の空気中に浮遊するインフルエンザウイルスの試料を採取することができる。この前記エアフィルタを抽出液に接触させ、採取された試料にインフルエンザウイルスが含まれていると、インフルエンザウイルスの表面に存在するノイラミニダーゼは抽出液に抽出される。そのため、前記エアフィルタに接触した抽出液には、インフルエンザウイルスの量に応じたノイラミニダーゼが含まれていることになる。このノイラミニダーゼを含む抽出液を、インフルエンザウイルスノイラミニダーゼにより分解されて発色する発色基質に反応させると、そのノイラミニダーゼの量に応じて発色するから、インフルエンザウイルスの検出が行えるのである。
【0009】
したがって、空気中に浮遊するインフルエンザウイルスを簡便に採取して、その場で発色させる操作を行うことができる簡便な検出方法を行うことにより、きわめて容易にインフルエンザウイルスを検知することができるようになった。
【0010】
〔構成〕
なお、前記エアフィルタが、ゼラチン、ニトロセルロースからなる群より選ばれる少なくとも一種の材質であれば好ましく、
前記エアフィルタが、ポリカーボネート、銀、セラミクスからなる群より選ばれる少なくとも一種の材質であってもよい。
【0011】
〔作用効果〕
エアフィルタとしては、インフルエンザウイルスを捕捉可能な0.01〜数μm程度の孔径のものが良好に用いられるが、ゼラチンのように、抽出液に接触させたときに溶解して消失する水溶性の材質のものであれば、簡易的に用いることが出来るとともに、ウイルス付着のフィルタを後処理(無害化)する上で好ましい。
【0012】
また、焼却処分容易なニトロセルロース等の材質のものも用いることが出来、オートクレーブや洗浄処理により再生可能なポリカーボネート等、洗浄処理のみならず燃焼処理によっても再生できる銀、セラミクス等の材質であっても衛生面、くり返し使用による効率化の面から好適であるといえる。
【0013】
〔構成〕
また、前記抽出液が界面活性剤を含有するものであれば好ましい。
【0014】
〔作用効果〕
ここで、抽出液とは、通常、水が好適に用いられるが、インフルエンザウイルスと接触して、その表面のノイラミニダーゼを溶出させる効果のある液体であれば適用することができる。
【0015】
また、このような抽出液を用いると、先述のゼラチン等の水溶性のエアフィルタを溶解して処理することが出来るので好適であるとともに、インフルエンザウイルスを容易に均一分散させることができるので、ノイラミニダーゼを抽出して後続の発色反応を精度良く行うことが出来る。
【0016】
また、エアフィルタによらず、連続供給するシステムに組み込みやすく、取り扱い容易である。
〔構成〕
また、前記発色基質がシアル酸を結合した発色団であり、シアル酸としては、例えば、N-アセチルノイラミン酸など、発色団としては、例えば、4−メチルウンベリフェロン誘導体、5−ブロモインドール酸誘導体などが挙げられる。
【0017】
〔作用効果〕
ノイラミニダーゼにより、例えば、4−メチルウンベリフェロン誘導体と末端シアル酸の複合体である4−メチルウンベリフェリル−α−D−ノイラミン酸アンモニウム(4−Methylumbelliferyl−N−acetyl−α−D−neuraminic acid,Ammonium salt:4MU−NANA)が分解されると、蛍光物質4−メチルウンベリフェロンを生じる。この時の4−メチルウンベリフェロンの生成量に基づき、酵素活性を算出することが出来、その酵素活性からインフルエンザウイルス濃度を推定することが出来る。
【0018】
但し、発色基質としては、4MU−NANA以外にも種々の誘導体を利用することが出来、ノイラミニダーゼとの反応により発生する物質を光学的に検知できる物質であれば、基質として用いることが出来ることが明らかである。本発明では、これら物質を総称して発色基質と呼ぶものとする。
【0019】
〔構成〕
また、ノイラミニダーゼと発色基質とを反応させる場合には、前記発色基質をシート基材に固定化しておき、前記エアフィルタにより捕集された捕集物を前記抽出液により前記シート基材に転写して前記発色基質を発色させることができる。
あるいは、前記発色基質を前記抽出液に含有させておき、前記エアフィルタにより捕集された捕集物に、前記抽出液を供給して前記発色基質を発色させる、または、別途、基質槽を設け、基質槽より前期発色基質溶液を供給して前期抽出液と接触させることにより前期発色基質を発色することもできる。
【0020】
〔作用効果〕
つまり、前記発色基質をシート基材に固定化しておくと、発色基質は乾燥状態で保管することが出来、安定に長期保管が容易にできるものとなるので、簡易に検査を継続して行いたいような場合に好適である。このようにして固定化された発色基質は、ノイラミニダーゼを含む溶液を塗布することによって、発色反応させることが出来る。つまり、前記エアフィルタにより捕集された捕集物を前記抽出液により前記シート基材に転写して前記発色基質を発色させると、簡便な操作により発色反応を行わせることが出来る。この発色したシート基材は、常法により発色検知ユニットで分析され、インフルエンザウイルスの検知が行えるものとなる。
【0021】
尚、発色基質をシート基材に固定しておくと、無水状態で安定的に保存することが出来、溶液状態で保管するのに比べて長期的に安定に使用することができるので、本願の目的とする居室空間内のインフルエンザウイルスを継続的にモニタするような場合に好適に用いることが出来る。
【0022】
また、前記発色基質を前記抽出液に含有させておき、前記エアフィルタにより捕集された捕集物に、前記抽出液を供給すると、前記捕集物にインフルエンザウイルスが含まれていた場合に、そのウイルスから溶離されるノイラミニダーゼが前記発色基質と接触することになるので、他の媒体を使用することなく直接発色反応を行うことが出来るので、さらに簡単な操作で前記発色基質を発色させることが出来る。この前記発色基質の発色は、常法により発色検知ユニットで検知され、インフルエンザウイルスの検知が行えるものとなる。
【0023】
〔構成〕
また、本発明のインフルエンザウイルス検知装置の特徴構成は、インフルエンザウイルスを捕集可能なエアフィルタを着脱可能なフィルタ部を備え、前記フィルタ部を介して空気を流通させるエア流通部を備えたサンプリングユニットを設け、
発色基質をシート基材に固定化した発色用シートに対し、前記エアフィルタにより捕集された捕集物を抽出液により転写する転写部を備えるとともに、前記転写部で転写された前記捕集物と発色基質との反応による発色を検出する検出部を備えた発色検知ユニットを設けた点にある。
【0024】
〔作用効果〕
つまり、サンプリングユニットには、インフルエンザウイルスを捕集可能なエアフィルタを着脱可能なフィルタ部を備えるから、フィルタ部にエアフィルタを装着するだけでそのエアフィルタにインフルエンザウイルスを捕集することが出来るとともに、そのエアフィルタは着脱自在であるから、インフルエンザウイルスを捕集したエアフィルタは、容易に交換除去することが出来る。尚、前記フィルタ部には、空気を流通させるエア流通部を備えるだけで、簡単に前記フィルタ部に空気を流通させることが出来るので、低濃度のインフルエンザウイルスであったとしても、捕集時間を長くとることによって、インフルエンザウイルス濃度を効率良く検出できる高濃度に濃縮することが出来るようになる。
【0025】
そして、前記発色検知ユニットは、発色基質をシート基材に固定化した発色用シートに対し、前記エアフィルタにより捕集された捕集物を前記抽出液により転写する転写部を備えるから、捕集されたインフルエンザウイルスから、ノイラミニダーゼを溶離させ、転写して、前記発色用シートに供給することが出来る。その結果、前記発色用シート上では、ノイラミニダーゼと発色基質との反応を行うことが出来る。この反応により、前記発色基質は発色するからその発色を、検出部において検出することによって、インフルエンザウイルス由来のノイラミニダーゼを検出することが出来る。つまり、そのノイラミニダーゼを提供するインフルエンザウイルスを検知することができる。
【0026】
したがって、居室空間内の空気をエアフィルタに通過させ、エアフィルタに抽出液を供給して転写することによって発色した発色を検出部によって検出するという一連の操作を簡便に行うことが出来、容易に居室空間内のインフルエンザウイルスを検知することが出来、インフルエンザウイルスを前培養する必要がなく簡便にインフルエンザウイルスの検出が行えるとともに継続的に使用することが出来るようになった。
【0027】
〔構成〕
また、本発明のインフルエンザウイルス検知装置の別の特徴構成は、インフルエンザウイルスを捕集可能なエアフィルタを着脱可能なフィルタ部を備え、前記フィルタ部を介して空気を流通させるエア流通部を備えたサンプリングユニットを設け、
発色基質を抽出液に含有させておき、前記エアフィルタにより捕集された捕集物に、前記抽出液を供給して、得られた反応液を受ける抽出部を設け、前記抽出部における前記捕集物と発色基質との反応による発色を検出する検出部を備えた発色検知ユニットを設けた点にある。
【0028】
〔作用効果〕
つまり、サンプリングユニットには、インフルエンザウイルスを捕集可能なエアフィルタを着脱可能なフィルタ部を備えるから、フィルタ部にエアフィルタを装着するだけでそのエアフィルタにインフルエンザウイルスを捕集することが出来るとともに、そのエアフィルタは着脱自在であるから、インフルエンザウイルスを捕集したエアフィルタは、容易に交換除去することが出来る。尚、前記フィルタ部には、空気を流通させるエア流通部を備えるだけで、簡単に前記フィルタ部に空気を流通させることが出来るので、低濃度のインフルエンザウイルスであったとしても、捕集時間を長くとることによって、インフルエンザウイルス濃度を効率良く検出できる高濃度に濃縮することが出来るようになる。
【0029】
そして、前記発色検知ユニットは、前記発色基質を前記抽出液に含有させておき、前記エアフィルタにより捕集された捕集物に、前記抽出液を供給すると、前記捕集物にインフルエンザウイルスが含まれていた場合に、そのウイルスから溶離されるノイラミニダーゼが前記発色基質と接触することになるので、他の媒体を使用することなく直接発色反応を行うことが出来る。
または、別途、基質槽を設け、基質槽より前期発色基質溶液を供給して前期捕集物と接触させると、前記捕集物にインフルエンザウイルスが含まれていた場合に、そのウイルスから溶離されるノイラミニダーゼが前期発色基質を発色させることになり、その結果、簡単な操作で前記発色基質を発色させることが出来る。
この反応により、前記発色基質は発色するからその発色を、検出部において検出することによって、インフルエンザウイルス由来のノイラミニダーゼを検出することが出来る。つまり、そのノイラミニダーゼを提供するインフルエンザウイルスを検知することができる。
【0030】
したがって、居室空間内の空気をエアフィルタに通過させ、エアフィルタに抽出液を供給して転写することによって発色した発色を検出部によって検出するという一連の操作を簡便に行うことが出来、容易に居室空間内のインフルエンザウイルスを検知することが出来、インフルエンザウイルスを前培養する必要がなく簡便にインフルエンザウイルスの検出が行えるとともに継続的に使用することが出来るようになった。
【0031】
〔構成〕
また、前記インフルエンザウイルス検知装置は、前記エアフィルタが、ポリカーボネート、銀、セラミクス、からなる群より選ばれる少なくとも一種の材質からなり、前記エアフィルタを再生する再生ユニットを設けてあることが好ましい。
【0032】
〔作用効果〕
つまり、エアフィルタが、ポリカーボネート、銀、セラミクス、からなる群より選ばれる少なくとも一種の材質からなる場合、このフィルタは、洗浄処理、オートクレーブ、燃焼処理等によって再生することが出来る。そこで、このエアフィルタを再生する再生ユニットを設けてあると、エアフィルタは再生により再利用することが出来、くり返し利用によりインフルエンザウイルス検知装置を経済的に運転できるようになるとともに、継続的に運転を行う場合に、エアフィルタを有効利用することが出来る。
【0033】
また、インフルエンザウイルスの付着したエアフィルタは汚染されているため、無害化して廃棄等する必要があるが、再生ユニットにより再生する際に、前記エアフィルタが無害化される構成となるので、エアフィルタの管理運用がより簡便かつ安全になる。
【0034】
〔構成〕
また、前記再生ユニットが、前記エアフィルタを再生するとともに、前記検出部における発色基質の発色廃液を無害化するオートクレーブ処理または燃焼処理を行うことが好ましい。
【0035】
〔作用効果〕
つまり、フィルタの再生を行う際にオートクレーブ処理または燃焼処理が選択できる場合に、その処理中にインフルエンザウイルスに汚染された前記検出部における発色基質の発色廃液を同時に処理することが出来るので、インフルエンザウイルス検知装置に導入されたインフルエンザウイルスがインフルエンザウイルス検知装置外に排出されるのを防止することが出来る。
【0036】
〔構成〕
また、再生ユニットを設けたインフルエンザウイルス検知装置においては、前記エアフィルタがサンプリングユニット、発色検知ユニット、再生ユニットの順に稼動する機構であって、1つのユニットでサンプリング、発色検知、および再生の動作が成されても良く、より好ましくは、動作ごとに個別ユニットを持ち、各ユニットを移動可能にする移動機構を設ける構造を取る。
【0037】
〔作用効果〕
つまり、エアフィルタはインフルエンザウイルス検知の過程で、サンプリングユニット、発色検知ユニット、再生ユニットを順に移動させられるから、動作の待機時間を抑え、継続的にインフルエンザウイルスを検知することが容易になるとともに自動化も可能になり、操作ミス等による誤検知、装置外部の汚染等を極力防止するのに役立つ。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】実施例1におけるインフルエンザウイルス検知方法の各工程を示す概念図
【図2】実施例1におけるインフルエンザウイルス検知装置の概略図
【図3】実施例2におけるインフルエンザウイルス検知方法の各工程を示す概念図
【図4】実施例2におけるインフルエンザウイルス検知装置の概略図
【図5】インフルエンザウイルスの概略図
【図6】Arthrobacter ureafaciens 由来ノイラミニダーゼの反応性を示すグラフ
【図7】Infulenza A H1N1ノイラミニダーゼの反応性を示すグラフ
【図8】ノイラミニダーゼと発色基質との反応に対するゼラチンの影響を示すグラフ
【図9】発色基質シートとNAとの反応性を示すグラフ
【図10】発色基質シートとフィルタ捕集インフルエンザウイルス由来のイラミニダーゼとの反応性を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下に、本発明のインフルエンザウイルス検知装置および方法を説明する。尚、以下に好適な実施例を記すが、これら実施例はそれぞれ、本発明をより具体的に例示するために記載されたものであって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々変更が可能であり、本発明は、以下の記載に限定されるものではない。
【0040】
本発明のインフルエンザウイルス検知方法は、図1、3に示すように、
<a>インフルエンザウイルスVをエアフィルタ11aにより捕集する。
<b>前記エアフィルタ11aを抽出液23aに接触させる。
<c>前記エアフィルタ11aに接触した抽出液23aを、ノイラミニダーゼNAにより分解されて発色する発色基質Lに反応させる。
<d>その発色基質Lの発色により雰囲気中に含まれるインフルエンザウイルスVを検知する。
の工程を順に行う。
【0041】
前記<a>の工程(工程aと記載する。以下同様。)は、インフルエンザウイルス検知装置のサンプリングユニット1で行い、前記工程b〜dは発色検知ユニット2において行う。
【0042】
前記工程aでは、エアフィルタ11aに居室空間R内の空気を流通させて、前記居室空間R内の浮遊インフルエンザウイルスVを捕集する。図1に示すように居室空間R内のインフルエンザウイルスVは、エアフィルタ11aを通過する空気の流れによりエアフィルタ11aに捕捉される。この空気の流通を所定時間継続して行えば、前記エアフィルタ11a上には、居室空間R内に存在するインフルエンザウイルスVが乾式で濃縮される。
【0043】
前記工程bでは、エアフィルタ11aを抽出液23aに浸漬したり、浸潤させたりすることによってエアフィルタ11aの捕集された捕集物を抽出液23aに接触させる。すると、エアフィルタ11a上のインフルエンザウイルスV表面からノイラミダーゼNAが溶離し、前記抽出液23aにノイラミダーゼNAが含まれた状態になる。
【0044】
尚、インフルエンザウイルスVは、ヘマグルチニンHAや、ノイラミニダーゼNAを有する表皮を備え、界面活剤含有水溶液等の抽出液23aに浸漬されると、その抽出液23a中にノイラミニダーゼNAを容易に放出する性質を持つことが知られている(図5参照)。
【0045】
前記工程cでは、ノイラミダーゼNAを含む前記抽出液23aを発色基質Lと接触させ、反応させる。このとき、前記工程2において前記エアフィルタ11aを、表面に発色基質Lをシート基材21sに塗布してある発色基質シート21aに重ねあわせた状態で抽出液23aを供給していれば、少量の抽出液23aで即座に工程3の反応が行える。また、前記エアフィルタ11aが前記抽出液23aに溶解するものであれば、前記抽出液23aは、インフルエンザウイルスV、ノイラミニダーゼNA、エアフィルタ11aを溶解した状態で、そのまま反応に供給される。また、前記抽出液23a自体に発色基質Lが含まれているような場合には、抽出液23aをエアフィルタ11aに供給した時点で、別に設ける基質槽より発色基質Lを供給する場合は、前期ノイラミニダーゼを含む抽出液23aが発色基質Lと接触した時点で、前記ノイラミニダーゼNAと発色基質Lとの反応が行える。
【0046】
また、発色基質Lとしては、たとえば、化1に示す4−メチルウンベリフェリル−α−D−ノイラミン酸アンモニウム(4−Methylumbelliferyl−N−acetyl−α−D−neuraminic acid, Ammonium salt:4MU−NANA)等のシアル酸を結合した発色団を用いることが出来、他に、5−ブロモインドキシル−4,7,−ジメトキシーN−アセチルノイラミン酸α―ケトシド(5−Bromoindoxyl−4,7−dimethoxy−N−acetylneraminic acidα−ketoside)等を用いられる。この発色基質Lは、通常、ノイラミニダーゼNAによりノイラミン酸部分L1と、発色生成物L2とに分解され、前記発色生成物L2が発色(蛍光物質の場合発光)することにより、発色基質Lの分解量がわかる。つまり、その発色基質Lの分解量からノイラミニダーゼNAの量が求められ、インフルエンザウイルスV量が推定される。
【0047】
【化1】

【0048】
前記発色基質シート21aのシート基材21sは、例えば、後述のニトロセルロース膜等を用いることが出来、例えば、4MU−NANA等の発色基質LをノイラミニダーゼNAと反応可能なように固定化できるものであれば良く、ニトロセルロース膜の他にポリテトラフルオロエチレン膜、ポリビニリデンフルオライド膜、ポリエチレン膜、ポリカーボネート膜、ポリプロピレン膜等が用いられる。
【0049】
前記工程dでは、抽出液23aの反応による発色(発光)を検出する。通常発色は、発色基質Lに対して励起光を照射するとともに、その発色基質Lからの発色光の強度を測定することにより確認することが出来る。この発色光の強度からインフルエンザイルスV濃度を知ることが出来る。
【0050】
以下の実施例では、上述のインフルエンザウイルス検知方法を行うためのインフルエンザウイルス検知装置について詳述する。
【0051】
〔実施例1〕
ここでは、図2に示すように、エアフィルタ11aとして、抽出液23aに溶解消失可能なものが好適に用いられる例を示す。
【0052】
<1−1:サンプリングユニット>
前記サンプリングユニット1は、エアフィルタ11aを着脱可能なフィルタ部11を備え、前記フィルタ部11を介して空気を流通させるエアポンプ12aを有するエア流通部12を備える。これにより、サンプリングユニット1におけるエアポンプ12aを駆動すると、居室空間R内の空気が前記フィルタ部11を介して導入され、排気口13から居室空間Rに戻される循環流が形成される。
【0053】
前記エアフィルタ11aとしては、この実施例では、好ましくは後述のゼラチンフィルタ等の抽出液23aに溶解消失可能なものが好適に用いられるが、例えばニトロセルロースフィルタ、銀メンブレンフィルタ、ポリカーボネートフィルタ、セラミクスフィルタ等抽出液23aに溶解しないものであっても同様に用いることが出来る。これらのエアフィルタ11aは、インフルエンザウイルスVを捕集するのに適した孔径を有し、居室空間R内の空気中に含まれるインフルエンザウイルスVをろ過して捕集することが出来るものであればよい。
【0054】
したがって、前記居室空間R内にインフルエンザウイルスVが存在すると、前記インフルエンザウイルスVがフィルタ部11に装着されたエアフィルタ11aに捕集されることになる。
【0055】
<1−2:発色検知ユニット>
前記発色検知ユニット2は、ロール状の発色基質シート21aを巻き戻して供給するシート供給部21を設けるとともに、前記シート供給部21から供給される発色基質シート21aに対して、前記エアフィルタ11aのろ過面を対向させて配置して転写する転写部22を設け、前記転写部22に配置されたエアフィルタ11aに抽出液23aを供給する抽出液供給部23を設けてある。
【0056】
これにより、前記転写部22に、前記エアフィルタ11aのろ過面を発色基質シート21aに対向させて配置した状態で、前記抽出液供給部23から抽出液23aを転写部22に供給すると、前記転写部22において前記エアフィルタ11aに収集されたインフルエンザウイルスVからノイラミニダーゼNAが溶離され、前記発色基質シート21a上に転写される。ここで、前記エアフィルタ11aが抽出液23aに溶解するものであれば、前記エアフィルタ11aは、そのまま発色基質シート21aに転写されて消失する。また、消失しないものであれば、前記エアフィルタ11aは、発色基質シート21aを前記転写部から搬出する際に、発色基質シート21aから再度分離され、除去される。
【0057】
前記ノイラミニダーゼNAが転写されて、ノイラミニダーゼNAと発色基質Lとの反応が起きる発色基質シート21aは、次いで検知部24に搬送される。検知部24には、発色基質Lから生じた発色生成物L2の発色(蛍光物質の場合発光)を測定するための発光素子24aと、受光素子24bとを備え、発色生成物L2の透過光、蛍光等を光学的に測定し、定量可能に設けてある。
【0058】
前記検知部24で光学測定の終わった発色基質シート21aは、インフルエンザウイルスVに汚染されているので、抽出液23aの適用された範囲で切断され、廃棄される。その後、さらに発色基質シート21aが供給可能な状態になり、次に居室空間R内の空気を流通させたエアフィルタ11aを用いてインフルエンザウイルスVの検知を行うことができる。
【0059】
〔実施例2〕
ここでは、図4に示すように、エアフィルタ11aとして、加熱再生容易なものを用いる場合に好適な例を示す。
【0060】
<2−1:サンプリングユニット>
前記サンプリングユニット1は、実施例1のものと同様に、フィルタ部11及びエア流通部12を備え、エアポンプ12aにより、居室空間R内の空気が前記フィルタ部11を介して導入され、排気口13から居室空間Rに戻される循環流が形成される。したがって、前記居室空間R内にインフルエンザウイルスVが存在すると、前記インフルエンザウイルスVがフィルタ部11に装着されたエアフィルタ11aに捕集されることになる。
【0061】
ここでは、エアフィルタ11aとして、銀メンブレンフィルタ、ポリカーボネートフィルタ、セラミクスフィルタ等の加熱再生可能な材質のもの、特に、セラミクスフィルタ等、燃焼再生可能なものが好適に用いられる。
【0062】
また、図4に記載のサンプリングユニット1には、フィルタ搬送機構4が連設してあり、前記フィルタ搬送機構4により、前記サンプリングユニット1で居室空間R内の空気中からインフルエンザウイルスVを収集したエアフィルタ11aは、後述の発色検知ユニット2に搬送される構成としてある。
【0063】
<2−2:発色検知ユニット>
前記発色検知ユニット2は、フィルタ搬送機構4により搬送されたエアフィルタ11aを取り付ける抽出液供給部23を設け、その抽出液供給部23に取り付けたエアフィルタ11aに発色基質Lを含有する抽出液23aを供給して、前記エアフィルタ11aに捕集されたインフルエンザウイルスVと前記抽出液23aとを接触させ、抽出部25において反応液23bを得ることができるように構成してある。
【0064】
得られた反応液23bは、抽出部25に流入してさらに反応が持続される。ここでは、ノイラミニダーゼNAと発色基質Lとの反応により発色しているので、前記抽出部25に発色基質Lから生じた発色生成物L2の発色(蛍光物質の場合発光)を測定するための発光素子24aと、受光素子24bとを備え、発色生成物L2の透過光、蛍光等を光学的に測定し、定量可能に設けてある。
【0065】
前記発色検知ユニット2で発色を検出した後のエアフィルタ11aは、前記搬送機構4により搬送され、再生ユニット3に搬送されて加熱再生される。
【0066】
<2−3:再生ユニット>
前記再生ユニット3は、前記発色検知ユニット2から搬送されるエアフィルタ11aを受けて燃焼加熱滅菌可能な再生部31および燃焼部32を備える。燃焼部32では、前記エアフィルタ11aをバーナ32aで加熱し、前記エアフィルタ11aに捕集された捕集物を燃焼消失させる。他に燃焼再生不能なエアフィルタ11aを用いる場合、オートクレーブにより加熱再生可能なものであれば、前記燃焼部に代えて加圧過熱可能な再生部を設けることによって、エアフィルタ11aの再生が可能となる。
【0067】
前記エアフィルタ11aが再生されると、そのエアフィルタ11aは前記搬送機構4により、サンプリングユニット1に搬送され、再度居室空間R内の空気のサンプリングに利用される。ここでは、エアフィルタ11aは、3枚を1セットとして用い、前記サンプリングユニット1、前記発色検知ユニット2、前記再生ユニットが順次並行して行われるように構成してある。このような構成によると、居室空間R内のインフルエンザウイルスVの検知を常時継続して行うことが出来る利点がある。
【0068】
また、前記発色検知ユニット2で発色を測定した後の反応液23bは、インフルエンザウイルスVに汚染されているので、廃棄に際して無害化する必要があるが、前記再生ユニット3が燃焼加熱を行うものであれば、前記抽出部25の反応液23bを前記再生部31に搬送供給する排出ポンプ41を設けて、前記反応液23aを前記再生部31において焼却処理可能に構成することによって、前記エアフィルタ11aの再生と同時に、前記反応液23bの焼却除去も行えるという利点がある。
【0069】
以下に上記インフルエンザウイルス検知装置および方法のインフルエンザウイルスVの検知能力を検証した検証実験を以下に示す。
【0070】
〔検証実験〕
<3−1:サンプリングユニット>
(インフルエンザウイルス捕集能力)
インフルエンザウイルスを用いた実証実験には、相当の設備が必要となり、現実的ではないので、通常の発塵実験室で用いることの出来るモデルウイルスとして、ファージφX174を散布し、サンプリングユニットに装着した各種エアフィルタにてファージφX174の回収の有無を確認してインフルエンザウイルス捕集能力を検討した。
【0071】
=材料等=
○モデルウイルス
a.宿主大腸菌:
NBRC 13898:独立行政法人製品評価技術基盤機構(NBRC)より入手
【0072】
b.ファージφX174,:
NBRC 103405:NBRCより入手
【0073】
c.復水液702:
ポリペプトン :10g
イーストエクストラクト:2g
MgSO4・7H2O・7H2O :1g
上記材料に適当量の水を加えて溶解したのち、pH7.0に調製し、水を加えて1Lにする。これを、オートクレーブ滅菌する。
【0074】
d.寒天平板培地(medium 802)
ポリペプトン 10g
イーストエクストラクト 2g
MgSO4・7H2O 1g
上記材料に適当量の水を加えて溶解したのち、pH7.0に調製し、水を加えて1Lにする。これにAgar15gを添加し、オートクレーブ滅菌を行ったのち、無菌的に浅型シャーレに10mlずつ分注、液がシャーレ内に均一に行き渡るようにし、固化させる。
【0075】
○エアフィルタ
エアフィルタとしては、e〜iのものを用いた。
e.ゼラチンフィルタ
ザルトリウス社製,直径:9cm,ポアサイズ:3μm
【0076】
f.ニトロセルロースフィルタ
ザルトリウス社製,直径:9cm,ポアサイズ:0.45μm
【0077】
g.銀メンブレンフィルタ
アイシス社製,直径:4.5cm,ポアサイズ:0.1μm
【0078】
h.ポリカーボネートフィルタ
ミリポア社製,ニュークリポアー・メンブレンフィルタ,直径:4.5cm,ポアサイズ:0.1μm,0.05μm
【0079】
i.オブラートフィルタ
市販のオブラート,直径:9cm,ポアサイズ:不明
【0080】
j.サンプリングユニット:
MD8エアポート ザルトリウス社製
【0081】
=測定法=
○宿主大腸菌とファージ液の調製
宿主大腸菌およびファージφX174は共に、NBRC(http://www.nbrc.nite.go.jp/)より入手した。NBRC添付のマニュアルに従い、宿主大腸菌のアンプルを開封し、200μlの復水液702を添加した。数分静置ののち、アンプル底部をタッピングして混和し、数μlを複数の寒天平板培地(medium 802)に塗布した。また、数十μlを、予め、培養試験管に分注した復水液702,4mlに加えて軽く混和した。30℃に設定したインキュベータ中に置き、平板寒天プレートは静置、培養試験管は150rpmで振とうし、終夜培養した。寒天平板培地、培養試験管ともに大腸菌の増殖が確認されたことから、寒天平板培地よりコロニーを単離し、フレッシュな復水液702を分注した培養試験管に移し、30℃下に振とう培養を行った。十分な増殖を確認したのち、滅菌済みdimethylformamide(DMSO)を終濃度10%、あるいは、20%になるように大腸菌液に加えたのち、−80℃下に保存した。
【0082】
ファージφX174は宿主大腸菌と同様にアンプルを開封、200μlの復水液702を添加して数分静置した。アンプル底部をタッピングして混和したのち、50μlを取り、対数増殖期にあると思われる宿主大腸菌液250μlに添加、タッピングにより十分混和したのち、37℃で15分間振とう培養(150rpm)した。予め調製し、45℃下にインキュベートしておいたソフトアガー(0.6%w/v溶液)7mlと混和したのち、寒天平板培地に撒き、ソフトアガーが固化したのち、37℃下、終夜培養した。ソフトアガー表面のプラーク形成を確認したのち、寒天平板培地1枚に対し復水液10mlを加えてピペッティングし、上層の液を回収した。遠心分離(3000rpm×15分)後、上清を回収した(ファージ液)。この操作を複数回行うことによって、十分な感染価を持つファージ液を調製し、モデルウイルスとした。
【0083】
○ファージφX174の捕集
前記モデルウイルスを使用し、容量24m3の実験空間内にモデルウイルスを散布し、各種エアフィルタによるモデルウイルス捕集実験を行った。
【0084】
宿主大腸菌に感染させコピー数を増やしたモデルウイルスの一定量(約1×108〜1×1010個/ml×0.9ml)を、密閉状態にした発塵実験室内で散布(35Kg/cm、5分間散布)する。次に、前記モデルウイルスを、各エアフィルタを装着したサンプリングユニットで捕集した(2m3/hr×30分間)。
【0085】
なお、サンプリング試験を実施した際の発塵実験室内の環境は、26〜30℃、20〜40%RHの範囲であった。
【0086】
(エアフィルタからのインフルエンザウイルス回収)
捕集終了後に各エアフィルタを取り外し、抽出液としての復水液702に、溶解、あるいは洗浄によりフィルタ上に捕集された捕集物を回収した。さらに捕集物に含まれるモデルウイルスを宿主大腸菌に感染させ、一定時間経過後、モデルウイルスによるプラークの形成(プラークアッセイ)を観察した。
【0087】
○収集したモデルウイルスの定量
モデルウイルスを復水液702で10倍希釈(50μlのファージφX174に復水液702を450μl加える)し、10-1〜10-8までの希釈系列を調整した。対数増殖期にあると思われる宿主大腸菌培養液を、培養試験管に250μlずつ分注し、ついで、モデルウイルス希釈系列を50μlずつ添加し、タッピングして十分混和した。37℃下に15分間振とう培養を行った。培養後の各試験管に、45℃下にインキュベートしておいた0.6%ソフトアガー溶液7mlを加え、泡立たせないよう素早くピペッティングにより攪拌した。予め、37℃下にインキュベートした寒天平板培地に播き込み、ソフトアガーが全面に行き渡るよう均し、室温で固化させた。37℃に設定したインキュベータ中に静置し8時間培養後(その後4℃保存)、形成されたプラーク数を計測した。
【0088】
=結果=
モデルウイルスの回収状況について表1にまとめた。一部のエアフィルタは、使用したエアーサンプラーと規格が合わず、サンプリング操作が困難であったため、ファージ回収の有無を評価できなかったが、ゼラチンフィルタ、およびニトロセルロースフィルタについては、ファージの回収を確認する事ができた。
また、表2にファージの回収が可能であったフィルタについてその回収率をまとめた。表2より、インフルエンザウイルスと同等の大きさのモデルウイルス(コントロールファージ)が捕集されたプラークが検出されていることから、前記ゼラチンフィルタ、ニトロセルロースフィルタと同等の孔径を有する材質のものであれば、エアフィルタとして用いることができることがわかった。
【0089】
【表1】

【0090】
【表2】

【0091】
<3−2:発色検知ユニット>
発色基質をニトロセルロース膜に固定化してシート状にしたものを作成して、発色基質シートとし、エアフィルタに捕集されたインフルエンザウイルスに基づくノイラミニダーゼをモデル化して、種々材質のエアフィルタ用材料にノイラミニダーゼを固定化したものを作製した。この固定化ノイラミニダーゼを微量の水の存在下に接触させることにより、上記実施例1,2の転写部、抽出部における反応を再現し、その光学的検出を検討した。
【0092】
(3−2−1:発色基質とノイラミニダーゼとの反応)
まず、ノイラミニダーゼと発色基質との反応性について検討した。
【0093】
=材料等=
a.発色基質:
4−Methylumbelliferyl−N−acetyl−α−D−neuraminic acid, Ammonium salt(4MU−NANA),ナカライテスク,cat No.23229−04
(蛍光測定のための推奨波長は λex(励起光波長):365nm, λem(蛍光波長):445nm)
【0094】
b. Arthrobacter ureafaciens 由来ノイラミニダーゼ:
ナカライテスク, cat No.24229−61,80U/mg or more
【0095】
c.Infulenza A H1N1ノイラミニダーゼ:
R & D systems, cat No.484−NM, recombinant
【0096】
d.assay buffer:
50mM Tris, 5mM CaCl2, 200mM NaCl, pH7.5
【0097】
e.ゼラチンフィルタ
ザルトリウス社製,直径:9cm,ポアサイズ:3μm
【0098】
f.使用機器:
Labsystems,蛍光プレートリーダー,Acent FL
(λex:355nm, λem:460nm)
【0099】
=測定法=
前記発色基質をDMSOにて溶解し10mM溶液を調製する(これを基質原液とする)。基質原液をassay bufferにて400μMになるように希釈し基質溶液とする。(基質溶液中のDMSO終濃度は4%である)これを、assay bufferに溶解させて50μlとした溶液を用意する(即ち、アッセイ系当りのDMSO濃度は終濃度として2%である)。
【0100】
この溶液に、前記ノイラミニダーゼ,あるいは前記assay bufferを50μl加えて、撹拌混合し、蛍光強度の経時変化を測定した。尚、これらの溶液は、反応開始まで氷上に静置した。
【0101】
=結果=
検討したノイラミニダーゼ2種は、4MU−NANAと反応することが観察され、本アッセイ系にて酵素活性を確認する事ができた(図6、図7)。したがって、観測対象のインフルエンザウイルスの持つノイラミニダーゼと反応する発色基質を選択すると、少量のインフルエンザウイルスであっても発色基質の発色によって検知できることがわかる。この結果に基づき、以下、実験系としては、より入手容易な、 Arthrobacter ureafaciens由来ノイラミニダーゼを用いる。
【0102】
(3−2−2:発色基質とエアフィルタ上のノイラミニダーゼとの反応性)
次に、エアフィルタに捕集されたインフルエンザウイルスから溶離させたノイラミニダーゼと、発色基質との反応について検討した。ゼラチンフィルタの場合、ファージ捕集後のフィルタを溶解し、その溶液をノイラミニダーゼ活性測定系に持ち込む事となるため、ゼラチンフィルタ溶解液がノイラミニダーゼ活性測定系に与える影響を検討した。
【0103】
=材料等=
a.発色基質:
4−Methylumbelliferyl−N−acetyl−α−D−neuraminic acid, Ammonium salt(4MU−NANA),ナカライテスク,cat No.23229−04
(蛍光測定のための推奨波長は λex(励起光波長):365nm, λem(蛍光波長):445nm)
【0104】
b. Arthrobacter ureafaciens 由来ノイラミニダーゼ:
ナカライテスク, cat No.24229−61,80U/mg or more
【0105】
c.assay buffer:
50mM Tris, 5mM CaCl2, 200mM NaCl, pH7.5
【0106】
d.ゼラチンフィルタ
ザルトリウス,直径:9cm,ポアサイズ:3μm
【0107】
e.使用機器:
Labsystems,蛍光プレートリーダー,Acent FL
(λex:355nm, λem:460nm)
【0108】
=測定法=
ゼラチンフィルタを2mlの超純水(milliQ水)を加え、37℃、5分静置し均一な溶液とした(ゼラチンフィルタ溶解液)。また、ノイラミニダーゼはA. ureafaciens 由来ノイラミニダーゼをassay bufferで初濃度0.022U/mlになるように調製し、検討に用いた。
【0109】
前記発色基質をDMSOにて溶解し10mM溶液を調製する(これを基質原液とする)。基質原液をassay bufferにて800μMになるように希釈し基質溶液とする。(基質溶液中のDMSO終濃度は8%である)これを、assay bufferに溶解させて25μlとした溶液を用意する(即ち、アッセイ系当りのDMSO濃度は終濃度として2%である)。
【0110】
この溶液に、前記ゼラチンフィルタ溶解液50μl及び、前記ノイラミニダーゼ(0.022U/ml)あるいは前記assay bufferを25μl加えて、撹拌混合し、蛍光強度の経時変化を測定した。また、ゼラチンフィルタを用いることなく、発色基質濃度をこれと同じ濃度に調製したコントロル溶液についても同様に蛍光強度の経時変化を測定した。尚、これらの溶液は、反応開始まで氷上に静置した。
【0111】
=結果=
インフルエンザウイルス捕集能力の試験で用いたゼラチンフィルタは、10mlの培地溶液に溶解し、試験系に持ち込まれたのに対し、実際のインフルエンザウイルス検知装置では、2mlの超純水に溶解させていることから、セラチンフィルター溶解液は、上記条件の約5倍濃度でノイラミニダーゼ活性測定系に混合されている。しかし、結果は図8のようになり、この場合においても、ゼラチンフィルタ溶解液(○印)と、培地のみの系(△印)を比較しても蛍光強度に大きな差はなく、ノイラミニダーゼ活性への影響はほとんど無いことがわかる。
【0112】
つまり、一旦フィルタ上に捕集されたインフルエンザウイルスであっても、良好に発色基質との反応が行えることがわかった。したがって、ゼラチンフィルタを用いても、前記インフルエンザウイルスの検知が行えることがわかった。
【0113】
(3−2−3:発色基質シートとノイラミニダーゼとの反応性)
次に前記発色基質を、シート基材に固定した発色基質シートのノイラミニダーゼとの反応性を調べた。
【0114】
=材料等=
a.ニトロセルロース膜:
アドバンテック社製
【0115】
b.ノイラミニダーゼ:
Arthrobacter ureafaciens 由来ノイラミニダーゼ:
ナカライテスク, cat No.24229−61,80U/mg or more
【0116】
c.発色基質:
4−Methylumbelliferyl−N−acetyl−α−D−neuraminic acid, Ammonium salt(4MU−NANA),ナカライテスク,cat No.23229−04
【0117】
c.assay buffer:
50mM Tris, 5mM CaCl2, 200mM NaCl, pH7.5
【0118】
=発色基質シートの調製=
前記発色基質4MU−NANAを10%DMSO含有assay bufferにて、200, 400, 800μMに調製した。3.5cm角に裁断したニトロセルロース膜に対し、上記溶液1mlを付着させ、遮光下、室温1〜2時間反応させ固定した。ニトロセルロース膜をassay bufferで十分に洗浄後、37℃,30分間インキュベートして完全に乾燥させ、発色基質シートを得た。
【0119】
=測定法=
前記蛍光測定器の分析面積に合わせて、上記発色基質シートを直径約1.5cmの円形に切り出し、前記蛍光測定器の測定部に装着した。前記発色基質シートに、assay buffer、あるいは、ノイラミニダーゼ(0.0831U/ml),0.1mlを添加して基質固定化膜を湿潤させ、ノイラミニダーゼ反応による発色基質シート上の蛍光強度の変化を測定した。
【0120】
=結果=
その結果、発色基質シートに対し、膜表面が濡れる程度の少量のノイラミニダーゼ溶液を添加することにより、直ちに酵素反応が開始し、ニトロセルロース膜ではノイラミニダーゼ溶液の添加と共に反応が開始される(図9)ことがわかった。
つまり、発色基質シート上の発色基質であってもノイラミニダーゼと反応して良好に発色反応を行えるため、発色基質を膜に固定しても、インフルエンザウイルス検知に用いることができることがわかった。
【0121】
尚、ニトロセルロース膜を用いた実験結果から、固定化に用いる基質濃度は400μMが適当と考えられた。
【0122】
(3−2−4:発色基質シートとエアフィルタ上のノイラミニダーゼとの反応性)
さらに、発色基質シートとエアフィルタ上のノイラミニダーゼ(ノイラミニダーゼ固定化膜)との反応性について調べた。この系が、本発明のインフルエンザウイルス検知方法及び装置の発色検知ユニットの構成を再現するものとなる。
【0123】
=材料等=
a.ニトロセルロース膜:
アドバンテック社製
【0124】
b.HFフィルタ:
イムノクロマト用Hi Flow(HF)メンブレン:
ミリポア社製
【0125】
c.ノイラミニダーゼ:
Arthrobacter ureafaciens 由来ノイラミニダーゼ:
ナカライテスク, cat No.24229−61,80U/mg or more
【0126】
d.発色基質:
4−Methylumbelliferyl−N−acetyl−α−D−neuraminic acid, Ammonium salt(4MU−NANA),ナカライテスク,cat No.23229−04
【0127】
e.assay buffer:
50mM Tris, 5mM CaCl2, 200mM NaCl, pH7.5
【0128】
f.使用機器:
Labsystems,蛍光プレートリーダー,Acent FL
【0129】
=測定法=
(3−2−3)の=発色基質シートの調製=の項と同一操作にて、発色基質(4MU−NANA,10%DMSO含有水溶液)をHFメンブレンに固定化し、発色基質シートを得た。一方、ノイラミニダーゼについては、シート基材としてニトロセルロース膜を使用し、ノイラミニダーゼ(メンブレンへの作用量:0.0110U)をニトロセルロース膜にマウントし、室温1時間静置したのち、assay bufferで十分に洗浄後、37℃,30分間インキュベートして完全に乾燥させて、ノイラミニダーゼ固定化膜を得た。それぞれ、蛍光測定器の分析面積に合わせ、直径約1.5cmの円形部分を切り出し、以下の3条件にて室温下に静置させた。10分経過後に接触させたノイラミニダーゼ固定化膜を除去し、各八色基質シート上の蛍光強度を経時的に測定した。
【0130】
(1)発色基質シート単独(単独)、
(2)発色基質シート+ノイラミニダーゼ固定化膜(両者接触、基質+酵素(水なし))、
(3)発色基質シート+50μlのassay bufferと接触させたノイラミニダーゼ固定化膜(両者接触、基質+酵素(水あり))
【0131】
=結果=
ノイラミニダーゼ固定化膜除去後10分経過した基質固定化膜上の蛍光強度を、図10に示した。20分経過後も蛍光強度に変化は見られず、反応はプラトーに達しているものと考えられた。assay bufferで表面を湿潤されたノイラミニダーゼ固定化膜の場合(両者接触、基質+酵素(水あり))のみ、基質固定化膜上での基質の分解による蛍光物質の生成が観察された。
【0132】
つまり、発色基質シート上の発色基質と、一旦フィルタ上に捕集されたインフルエンザウイルスであっても前記発色基質と、前記インフルエンザウイルス由来のノイラミニダーゼとの反応が行え、インフルエンザウイルスの検知に用いることが出来ることがわかり、本発明の構成によって、インフルエンザウイルスの検知が可能であることが確認できた。
【0133】
〔別実施形態〕
先の実施の形態においては、インフルエンザウイルスとして居室空間R内の空気中に含まれるものを対象に捕集する場合を例示して説明したが、実施例3に示すように発色基質とインフルエンザウイルス由来のノイラミニダーゼが反応して発色する現象に基づきインフルエンザウイルスを検知するものであるから、検知対象箇所としては居室空間Rに限るものではない。
【0134】
また、発色の検出は4MU−NANAを用いた場合蛍光発光として測定したが、これに限らず、発色基質の物性に併せて、発色反応を検出可能な手段であれば種々汎用の手段を用いることが出来る。尚、本発明では、可視光の発色、蛍光の発色等を総称して単に発色と称するものとする。
【符号の説明】
【0135】
R 居室空間
V インフルエンザウイルス
L 発色基質
L1 ノイラミン酸部分
L2 発色生成物
NA ノイラミニダーゼ
1 サンプリングユニット
11 フィルタ部
11a エアフィルタ
12a エアポンプ
12 エア流通部
13 排気口
2 発色検知ユニット
21 シート供給部
21a 発色基質シート
21s シート基材
22 転写部
23 抽出液供給部
23a 抽出液
23b 反応液
24 検知部
24a 発光素子
24b 受光素子
25 抽出部
3 再生ユニット
31 再生部
32 燃焼部
32a バーナ
4 フィルタ搬送機構
41 排出ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インフルエンザウイルスをエアフィルタにより捕集し、前記エアフィルタをノイラミニダーゼ抽出液に接触させ、前記エアフィルタに接触したノイラミニダーゼ抽出液を、インフルエンザウイルスノイラミニダーゼにより分解されて発色するノイラミニダーゼ発色基質に反応させ、そのノイラミニダーゼ発色基質の発色により雰囲気中に含まれるインフルエンザウイルスを検知するインフルエンザウイルス検知方法。
【請求項2】
前記エアフィルタが、ゼラチンからなる請求項1に記載のインフルエンザウイルス検知方法。
【請求項3】
前記エアフィルタが、ニトロセルロース、ポリカーボネート、銀、セラミクスからなる群より選ばれる少なくとも一種の材質からなる請求項1に記載のインフルエンザウイルス検知方法。
【請求項4】
前記ノイラミニダーゼ抽出液が界面活性剤成分を含有する請求項1〜3のいずれか1項に記載のインフルエンザウイルス検知方法。
【請求項5】
前記ノイラミニダーゼ発色基質がシアル酸を結合した発色団である請求項1〜4のいずれか1項に記載のインフルエンザウイルス検知方法。
【請求項6】
前記ノイラミニダーゼ発色基質をシート基材に固定化しておき、前記エアフィルタにより捕集された捕集物を前記ノイラミニダーゼ抽出液により前記シート基材に転写して前記ノイラミニダーゼ発色基質を発色させる請求項1〜5のいずれか1項に記載のインフルエンザウイルス検知方法。
【請求項7】
前記ノイラミニダーゼ発色基質を前記ノイラミニダーゼ抽出液に含有させておき、前記エアフィルタにより捕集された捕集物に、前記ノイラミニダーゼ抽出液を供給して前記ノイラミニダーゼ発色基質を発色させる請求項1〜5のいずれか1項に記載のインフルエンザウイルス検知方法。
【請求項8】
前記エアフィルタにより捕集された捕集物に、前記ノイラミニダーゼ抽出液を接触させて得られた抽出物に、前記ノイラミニダーゼ発色基質を供給し前記ノイラミニダーゼ発色基質を発色させる請求項1〜5のいずれか1項に記載のインフルエンザウイルス検知方法。
【請求項9】
インフルエンザウイルスを捕集可能なエアフィルタを着脱可能なフィルタ部を備え、前記フィルタ部を介して空気を流通させるエア流通部を備えたサンプリングユニットを設け、ノイラミニダーゼ発色基質をシート基材に固定化した発色用シートに対し、前記エアフィルタにより捕集された捕集物をノイラミニダーゼ抽出液により転写する転写部を備えるとともに、前記転写部で転写された前記捕集物とノイラミニダーゼ発色基質との反応による発色を検出する検出部を備えた発色検知ユニットを設けたインフルエンザウイルス検知装置。
【請求項10】
インフルエンザウイルスを捕集可能なエアフィルタを着脱可能なフィルタ部を備え、前記フィルタ部を介して空気を流通させるエア流通部を備えたサンプリングユニットを設け、ノイラミニダーゼ発色基質をノイラミニダーゼ抽出液に含有させておき、前記エアフィルタにより捕集された捕集物に、前記ノイラミニダーゼ抽出液を供給して、得られた反応液を受ける抽出部を設け、前記抽出部における前記捕集物とノイラミニダーゼ発色基質との反応による発色を検出する検出部を備えた発色検知ユニットを設けたインフルエンザウイルス検知装置。
【請求項11】
インフルエンザウイルスを捕集可能なエアフィルタを着脱可能なフィルタ部を備え、前記フィルタ部を介して空気を流通させるエア流通部を備えたサンプリングユニットを設け、前記エアフィルタにより捕集された捕集物に、ノイラミニダーゼ抽出液を接触させて得られた抽出物を受ける抽出部を設け、ノイラミニダーゼ発色基質を供給して、前記抽出物とノイラミニダーゼ発色基質との反応による発色を検出する検出部を備えた発色検知ユニットを設けたインフルエンザウイルス検知装置。
【請求項12】
前記エアフィルタが、ポリカーボネート、銀、セラミクス、からなる群より選ばれる少なくとも一種の材質からなり、前記エアフィルタを再生する再生ユニットを設けた請求項9〜11のいずれか1項に記載のインフルエンザウイルス検知装置。
【請求項13】
前記再生ユニットが、前記エアフィルタを洗浄処理、オートクレーブ処理または燃焼処理により再生するとともに、前記検出部におけるノイラミニダーゼ発色基質の発色廃液を無害化するオートクレーブ処理または燃焼処理を行う請求項12に記載のインフルエンザウイルス検知装置。
【請求項14】
前記エアフィルタがサンプリングユニット、発色検知ユニット、再生ユニットの順に稼動する一体型ユニットである請求項12または13に記載のインフルエンザウイルス検知装置。
【請求項15】
前記エアフィルタがサンプリングユニット、発色検知ユニット、再生ユニットの順に移動可能にする移動機構を設けてある請求項12または13に記載のインフルエンザウイルス検知装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−139656(P2011−139656A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−1382(P2010−1382)
【出願日】平成22年1月6日(2010.1.6)
【出願人】(000000284)大阪瓦斯株式会社 (2,453)
【Fターム(参考)】