説明

インフルエンザウイルス免疫賦活剤、および抗インフルエンザウイルス剤

【課題】抗インフルエンザウイルス剤(抗IFV剤)として有効な新規の医薬組成物を提供する。また、ノイラミニダーゼ(NA)阻害剤の抗IFV作用を増強するとともに、その副作用、特にIFVの薬剤耐性化を抑制することのできる抗IFV剤を提供する。
【解決手段】本発明の医薬組成物は、アークチゲニン、その配糖体およびそれらの塩の少なくとも1種を有効成分とすることを特徴とする。また本発明の抗IFV剤は、NA阻害剤と併用して用いることもできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗インフルエンザウイルス剤に関する。より詳細には、インフルエンザウイルスに対する免疫を賦活化する作用を有する抗インフルエンザウイルス剤に関する。また、本発明は、タミフル(商品名)(一般名称:リン酸オセルタミビル)に代表されるノイラミニダーゼ阻害剤の効果を増強するとともに、その副作用、特にインフルエンザウイルスの薬剤耐性化を抑制するために有効な抗インフルエンザウイルス剤に関する。
【背景技術】
【0002】
インフルエンザウイルスに罹患すると、1〜3日の潜伏期間を経て、38〜40度の高熱が出る。このため、ウイルス性肺炎、心筋炎、ライ症候群、またはインフルエンザ脳症を併発する危険もある。特に、免疫力や体力の低下した高齢者や乳幼児の死亡率は非常に高く、かねてよりその特効薬が切望されていた。こうした背景のもと、近年、抗インフルエンザウイルス剤として、タミフル(商品名、ロシュ社)(一般名称:リン酸オセルタミビル)が開発された。タミフルは、インフルエンザウイルス(A型とB型)のエンベロープ上に存在するスパイクの一つであるノイラミニダーゼの働きを阻害するノイラミニダーゼ阻害剤であり、斯くしてウイルスが感染細胞から外へ遊離することを抑制することによって、抗インフルエンザウイルス活性を発揮する(非特許文献1)。このタミフルは、経口投与可能な抗インフルエンザウイルス剤であり、その簡便さと高い有効性が評価されて、現在ではインフルエンザの治療や予防に多用されるようになっている。とくにインフルエンザの世界的な流行に伴い、2004年、厚生労働省(日本)は、タミフルを毎年200万人分国家備蓄し、5年後に1000万人分を確保する方針を固めた。
【0003】
しかしながら、最近になって、タミフルに対する耐性ウイルスの出現が報告され、問題視されるようになっている(非特許文献2)。ノイラミニダーゼ阻害剤に対する耐性ウイルスの出現率は、大人で0.4〜1%、子供で4%、乳幼児に限るとなんと約3割にまでおよび、現在では、タミフルにのみ依存する治療では、インフルエンザ対策として万全ではないとみなされるに至っている。また、タミフルを服用した患者が異常行動を起こして死亡する事故も複数報告されており、タミフル服用による精神・神経症状(意識障害、異常行動、譫妄、幻覚、妄想、痙攣など)も問題となっている。
【0004】
近年、毒性の強いH5N1型鳥インフルエンザが世界的規模で発生しているが、タミフルに対する耐性ウイルスの出現により、今後、こうした新型インフルエンザウイルスが流行したときに、タミフルが効かない耐性ウイルスが世界規模で蔓延する可能性が危惧される。現に、2005年2月ベトナムの少女が感染したH5N1型鳥インフルエンザは、タミフルに耐性を示すことがわかり、この危惧はいよいよ現実的なものになってきている(非特許文献3)。
【0005】
エイズウイルスの例が示すように、難病を引き起こし、変異しやすいウイルスには単剤処方は危険であり、2種以上の複数の薬物による併用治療が施される。インフルエンザウイルスにおいても、その感染の成立や拡大に関与するヘムアグルチニン(HA)やノイラミニダーゼの遺伝子はきわめて変異しやすいことが知られている。
【0006】
そこで、タミフルによるインフルエンザウイルスの耐性化を最小限に食い止めて、インフルエンザ治療薬および予防薬としての寿命を少しでも延ばすためには、安全性の高い併用薬を見出すことが急務となっている。
【0007】
一方、アークチゲニン(arctigenin)やその配糖体のアークチン(arctiin)は、漢方薬として長年感冒時の咽頭の消炎や解熱に使用されている牛蒡子に含まれている成分である。当該牛蒡子は、銀翹散や銀翹解毒丸の成分としてインフルエンザの感染時に服用されている。また、最近、アークチゲニンに抗インフルエンザウイルス作用があるという報告もされている(非特許文献4)。しかしながら、インフルエンザウイルスに対する免疫を賦活化する作用があること、並びにノイラミニダーゼ阻害剤と併用することによって、抗インフルエンザウイルス作用を相乗的に増強し、しかもノイラミニダーゼ阻害剤投与による薬剤耐性ウイルスの出現を抑えることができることについては知られていない。
【非特許文献1】Von Itzstein M., et al., Nature, 363, 418-423 (1993)
【非特許文献2】Yang G., et al., Zhongcaoyao, 33, 724-726 (2002)
【非特許文献3】Y. Kawaoka, et al., Nature, 437, 1108 (2005)
【非特許文献4】Yang Zifeng, et al., Journal of Chinese medicinal materials (2005), 28(11), 1012-1014
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、インフルエンザウイルスに対する免疫力を賦活化する作用を有し、インフルエンザ発症の予防、並びに発症した場合でも症状を軽減し、また、重篤化を阻止するために有効に用いられるインフルエンザウイルス免疫賦活剤を提供することを目的とする。
【0009】
また、本発明は、抗インフルエンザウイルス剤として使用されているノイラミニダーゼ阻害剤とともに用いられ、その抗インフルエンザウイルス作用を増強するとともに、その副作用、特にノイラミニダーゼ阻害剤投与によるインフルエンザウイルスの薬剤耐性化を抑制するために有効に用いられる抗インフルエンザウイルス剤を提供することを目的とする。さらに、本発明は、ノイラミニダーゼ阻害剤の抗インフルエンザウイルス作用が増強されるとともに、その副作用、特にインフルエンザウイルスの薬剤耐性化が抑制されてなる抗インフルエンザウイルス剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、牛蒡子に含まれているアークチゲニン(arctigenin)およびその配糖体(アークチン(arctiin))に、インフルエンザウイルスの増殖を抑制する作用があるとともに、インフルエンザウイルスに対する免疫力を賦活化する作用があることを見出し、これにより、アークチゲニンまたはその配糖体によれば、インフルエンザウイルス感染による発症を有効に予防でき、発症した場合でも症状を軽減し、また、重篤化を阻止するのに有効な、インフルエンザウイルスに対する免疫賦活剤を提供することができることを確認した。
【0011】
また本発明者らは、アークチゲニンまたはその配糖体をノイラミニダーゼ阻害剤と併用することによって、抗インフルエンザウイルス作用が相乗的に増強されることを見出した。さらに本発明者らは、免疫力が低下したインフルエンザウイルス感染動物に対しては、特にアークチンの投与が有効であり、しかも耐性インフルエンザウイルスの出現がないことを確認した。一方、タミフルを免疫力の低下した患者に投与すると、中和抗体価が低下し、かつ高頻度で耐性ウイルスが出現することが知られている。これらのことから、本発明者らは、アークチゲニンまたはその配糖体を、ノイラミニダーゼ阻害剤と併用することによって、優れた抗インフルエンザウイルス作用を確保しながら、ノイラミニダーゼ阻害剤の重大な問題である、耐性インフルエンザウイルスの出現という問題を解消することが可能であると確信した。
【0012】
本発明はかかる知見に基づいて完成したものであり、下記の態様が含まれる:
(I)インフルエンザウイルスに対する免疫賦活剤
(I-1)アークチゲニン、その配糖体およびそれらの塩からなる群から選択される少なくとも1種を有効成分とする、インフルエンザウイルスに対する免疫賦活剤。
(I-2)インフルエンザに対する予防剤として用いられる、(I-1)記載の免疫賦活剤。
(I-3)インフルエンザウイルスの流行期または感染後に投与されることを特徴とする、(I-1)または(I-2)に記載する免疫賦活剤。
(I-4)免疫低下した被験者に対して投与されるものである、(I-1)乃至(I-3)のいずれかに記載する免疫賦活剤。
【0013】
(II)ノイラミニダーゼ阻害剤と併用される抗インフルエンザウイルス剤
(II-1)ノイラミニダーゼ阻害剤と組み合わせて用いられる、アークチゲニン、その配糖体およびそれらの塩からなる群から選択される少なくとも1種を有効成分とする抗インフルエンザウイルス剤。
(II-2)抗インフルエンザウイルス作用を増強するとともにノイラミニダーゼ阻害剤の副作用を低減するためにノイラミニダーゼ阻害剤と組み合わせて用いられる、(II-1)記載の抗インフルエンザウイルス剤。
(II-3)上記ノイラミニダーゼ阻害剤の副作用が、インフルエンザウイルスの薬剤耐性化である、(II-2)に記載する抗インフルエンザウイルス剤。
(II-4)アークチゲニン、その配糖体およびそれらの塩からなる群から選択される少なくとも1種と組み合わせて用いられるノイラミニダーゼ阻害剤の投与量が、ノイラミニダーゼ阻害剤の単独有効投与量より少ないことを特徴とする、(II-1)乃至(II-3)のいずれかに記載する抗インフルエンザウイルス剤。
(II-5)免疫低下した患者に対して投与される、(II-1)乃至(II-4)のいずれかに記載する抗インフルエンザウイルス剤。
(II-6)経口投与形態を有する薬剤である(II-1)乃至(II-5)のいずれかに記載する抗インフルエンザウイルス剤。
(II-7)ノイラミニダーゼ阻害剤が、オセルタミビル、ザナタビルまたはそれらの薬学的に許容される塩である、(II-1)乃至(II-6)のいずれかに記載する抗インフルエンザウイルス剤。
【0014】
(III)ノイラミニダーゼ阻害剤を含む抗インフルエンザウイルス剤
(III-1)ノイラミニダーゼ阻害剤とアークチゲニン、その配糖体およびそれらの塩からなる群から選択される少なくとも1種を組み合わせてなる、抗インフルエンザウイルス剤。
(III-2)ノイラミニダーゼ阻害剤の投与量が、ノイラミニダーゼ阻害剤の単独有効投与量より少なくなるように製剤化されてなる(III-1)に記載する抗インフルエンザウイルス剤。
(III-3)免疫低下した患者に対して投与される薬剤である、(III-1)または(III-2)に記載する抗インフルエンザウイルス剤。
(III-4)ノイラミニダーゼ阻害剤と、アークチゲニン、その配糖体およびそれらの塩からなる群から選択される少なくとも1種とからなるキットである、(III-1)乃至(III-3)のいずれかに記載する抗インフルエンザウイルス剤。
(III-5)ノイラミニダーゼ阻害剤が、オセルタミビル、ザナタビルまたはそれらの薬学的に許容される塩である、(III-1)乃至(III-4)のいずれかに記載する抗インフルエンザウイルス剤。
(III-6)経口投与形態を有する、(III-1)乃至(III-5)のいずれかに記載する抗インフルエンザウイルス剤。
【0015】
(IV)耐性インフルエンザウイルス出現の抑制方法
(IV-1)ノイラミニダーゼ阻害剤に、アークチゲニン、その配糖体およびそれらの塩からなる群から選択される少なくとも1種を組み合わせることを特徴とする、ノイラミニダーゼ阻害剤に対する耐性インフルエンザウイルス出現の抑制方法。
(IV-2)ノイラミニダーゼ阻害剤の投与量がその単独有効投与量より少なくなるように、ノイラミニダーゼ阻害剤とアークチゲニン、その配糖体およびそれらの塩からなる群から選択される少なくとも1種とを組み合わせることを特徴とする(IV-1)に記載する方法。
(IV-3)ノイラミニダーゼ阻害剤が、オセルタミビルまたはその薬学的に許容される塩若しくは溶媒和物である、(IV-1)または(IV-2)に記載する方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明の免疫賦活剤によれば、インフルエンザウイルスに対する自然免疫力を向上させ、更に獲得免疫力を強化させるため、インフルエンザ発症の予防、並びに発症した場合でも症状を軽減し、また、重篤化を阻止するのに有効に使用することができる。
【0017】
また本発明においてノイラミニダーゼ阻害剤とアークチゲニン、その配糖体またはそれらの塩を組み合わせて、インフルエンザウイルス(A型、B型)感染患者に投薬することにより、両剤の相乗効果より、より高い抗インフルエンザウイルス作用を発揮することができる。このため、ノイラミニダーゼ阻害剤の単独有効量よりもより少ない量でインフルエンザに対する予防または治療効果を得ることができ、ノイラミニダーゼ阻害剤の副作用、特に中枢神経系の異常や胃腸管系の障害発生の頻度を低下することができる。また、本発明のアークチゲニン、その配糖体またはそれらの塩を有効成分とする抗インフルエンザウイルス剤は、免疫が低下したインフルエンザウイルス感染動物に投与した場合に、高い中和抗体価を誘導し、しかも薬剤耐性ウイルスの発生がない。このことから、これをノイラミニダーゼ阻害剤と併用することによって、ノイラミニダーゼ阻害剤の短所である免疫低下患者に対する中和抗体価誘導効果の低さが補なわれ、また薬剤耐性ウイルスの発生という問題が解消もしくは低減するものと期待される。斯くして、本発明によれば、タミフルに代表されるノイラミニダーゼ阻害剤に対する耐性ウイルスの出現とその蔓延を予防し、当該ノイラミニダーゼ阻害剤の抗インフルエンザウイルス剤としての寿命を延ばすことができると考えられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
(I)インフルエンザウイルスに対する免疫賦活剤
本発明の免疫賦活剤は、アークチゲニン、その配糖体およびそれらの塩の少なくとも1種を有効成分とすることを特徴とする。
【0019】
アークチゲニン(arctigenin)は、下式で示す構造を有するリグナン誘導体であり、古くから漢方薬として使用されている牛蒡子(ゴボウシ)(基原:キク科(Compositae)のゴボウArctium Lappa L.の果実)の主要成分である。
【0020】
【化1】

【0021】
また、アークチゲニンの配糖体としては、好適にはアークチゲニンのグルコース配糖体である下式で示すアークチン(arctiin)を挙げることができる。かかるアークチンも牛蒡子(ゴボウシ)に含まれる天然成分である。
【0022】
【化2】

【0023】
これらのリグナン誘導体は、後述する調製例で示すように牛蒡子(ゴボウシ)から精製単離することもできるし、また商業的に入手することもできる(例えば、BioService Halle GmbH社など)。
【0024】
本発明の免疫賦活剤の調製に用いるアークチゲニンまたはその配糖体は遊離形態のものであってもよいが、それに限らず、例えば、塩の形態や溶媒和(例えば水和物)の形態を有していてもよい。また、必ずしも精製されている必要はなく、例えばアークチゲニンまたはその配糖体(アークチン)を含む牛蒡子の粗精製物であってもよい。なお、塩としては薬学的に許容される塩であればよく、例えばナトリウムやカリウムなどのアルカリ金属塩、マグネシウムやカリウム等のアルカリ土類金属、または有機窒素含有塩基から誘導されるアンモニウム塩を挙げることができる。ここで有機窒素含有塩基としては、低級アルキルアミン(例えばトリエチルアミン)、ヒドロキシ低級アルキルアミン〔例えば2−ヒドロキシエチルアミン、ジ−(2−ヒドロキシエチル)−アミン、トリ−(2−ヒドロキシエチル)−アミン)、シクロアルキルアミン(例えば、ジシクロヘキシルアミン)、またはベンジルアミン(例えば、ベンジルアミン、N,N’-ジベンジルエチレンジアミド);窒素含有ヘテロ環式化合物、例えば芳香族ヘテロ環式化合物(例えば、キノリン、ピリミジン)、または少なくとも部分的に飽和されたヘテロ環式環を有する化合物(例えば、N-エチルピペリジン、モルホリン、ピペラジン、またはN,N’-ジメチルピペラジン)などを例示することができる。
【0025】
本発明の免疫賦活剤は、経口的または非経口的(例えば、経肺投与、経鼻投与、直腸投入または注射や点滴などの局所投与)に用いることができ、各投与形態に応じた製剤(例えば、粉末、顆粒、錠剤、ピル剤、カプセル剤、注射剤、シロップ剤、エマルジョン剤、エリキシル剤、懸濁剤、溶液剤など)に調製することができる。好ましくは経口投与形態である。こうした各形態を有する製剤の調製には、アークチゲニン、その配糖体またはそれらの塩を、単独であるいは医薬または食品成分として許容される担体(アジュバント剤、賦形剤、補形剤及び/又は希釈剤など)と混合して、当業界の慣用の方法に従って行うことができる。
【0026】
なお、本明細書において、非経口とは、皮下注射、静脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射あるいは点滴法などを含むものである。注射用調剤、例えば無菌注射用水性懸濁物あるいは油性懸濁物は、適当な分散化剤または湿化剤及び懸濁化剤を用いて当該分野で知られた方法で調製されうる。その無菌注射用調剤は、また、例えば水溶液などの製剤上許容される非経口投与可能な希釈剤あるいは溶剤中の無菌の注射用溶液または懸濁液であってもよい。使用することのできるベヒクルあるいは溶剤として許されるものとしては、水、リンゲル液、等張食塩液などが挙げられる。さらに、通常溶剤または懸濁化溶媒として無菌の不揮発性油も用いられうる。このためには、いかなる不揮発性油も脂肪酸も使用でき、天然あるいは合成あるいは半合成の脂肪油または脂肪酸、そして天然あるいは合成あるいは半合成のモノあるいはジあるいはトリグリセリド類も包含される。
【0027】
直腸投与用の坐剤は、その薬物と適当な低刺激性の補形剤、例えばココアバターやポリエチレングリコール類といった常温では固体であるが腸管の温度では液体で、直腸内で融解し、薬物を放出するものなどと混合して製造できる。
【0028】
経口投与用の固形投与剤型としては、上記した粉剤、顆粒剤、錠剤、ピル剤、カプセル剤などが挙げられる。そのような剤型において、活性成分化合物は、少なくとも一つの添加物、例えばショ糖、乳糖、セルロース糖、マンニトール、マルチトール、デキストラン、デンプン類、寒天、アルギネート類、キチン類、キトサン類、ペクチン類、トラガントガム類、アラビアゴム類、ゼラチン類、コラーゲン類、カゼイン、アルブミン、合成または半合成のポリマー類またはグリセリド類と混合することができる。そのような剤型物は、通常の剤型のようにさらに別の添加物を含んでもよい。別の添加物としては、例えば不活性希釈剤、マグネシウムステアレートなどの滑沢剤、パラベン類、ソルビン酸などの保存剤、アスコルビン酸、α−トコフェロール、システインなどの抗酸化剤、崩壊剤、結合化剤、増粘剤、緩衝化剤、甘味付与剤、フレーバー付与剤、パフューム剤などが挙げられる。錠剤およびピル剤は、さらにエンテリックコーティングすることもできる。
【0029】
経口投与用の液剤としては、医薬として許容されるシロップ剤、エマルジョン剤、エリキシル剤、懸濁剤、溶液剤などが挙げられる。これらは、当該分野で普通用いられる不活性希釈剤、例えば水を含んでいてもよい。
【0030】
本発明の免疫賦活剤は、インフルエンザウイルスに感染した患者の治療や、インフルエンザウイルスによる感染または発症の予防に有効に用いることができる。好ましくは、インフルエンザウイルスによる発症または感染症重症化の予防である。このため、本発明の免疫賦活剤は、インフルエンザ流行期、または感染後に投与されることが好ましい。また、本発明の免疫賦活剤は、インフルエンザを発症した場合でも、その症状を軽減するか、または症状の重篤化の予防に有効に用いることができる。特に、アークチゲニンまたはその配糖体は、後述する実験例で示すように、免疫が低下した哺乳動物に対して投与した場合でも中和抗体価を高く誘導し、また耐性ウイルスの出現を誘発しない。
【0031】
一方、従来公知の抗インフルエンザウイルス剤であるオセルタミビルは、免疫が低下した患者に投与した場合に中和抗体価が低下し、かつ耐性ウイルスの出現を誘発することが知られている。このため、本発明の免疫賦活剤の上記性質は、従来の抗インフルエンザウイルス剤と区別し得る特徴的且つ有効な作用である。この性質ゆえ、本発明の免疫賦活剤は、免疫力が低下しているヒトに対して好適に投与される。具体的には、免疫力が低下しているインフルエンザウイルス未感染者または感染者に対してインフルエンザの予防(感染予防、発症予防、重篤化予防)または治療を目的として投与され、また免疫力が低下しているヒト(例えばワクチンの接種不能なヒト)に対してインフルエンザウイルスの予防(発症予防、重篤化予防)を目的として投与される。ここで免疫力が低下しているヒトとしては、0歳〜3歳の乳幼児、65歳以上の高齢者、臓器移植者、抗癌剤投与による化学療法や放射線照射を受けている癌患者、AIDS(後天性免疫不全症候群)患者を挙げることができる。
【0032】
本発明の免疫賦活剤の被験者への投与量は、年齢、体重、症状、性別、投与方法、および排泄速度などに応じて、またその他の要因を考慮して決められる。通常、アークチゲニン、その配糖体またはそれらの塩の1日の投与量は、患者の状態や体重、投与経路などによって異なるが、例えば、経口投与では、アークチゲニンの量に換算して、一日量約0.1〜70 mgを1回または2回ないし3回に分けて投与するのが好ましい。
【0033】
なお、本発明の免疫賦活剤は、インフルエンザの予防または治療を目的として用いることができ、その限りにおいてヒトに限定されることはない。例えば、ヒト以外の哺乳類(牛、豚、馬、ラット、マウス、サル、ウサギ、犬、猫など)や鳥類(鶏など)のインフルエンザの予防または治療に対しても使用することができる。
【0034】
(II)ノイラミニダーゼ阻害剤と併用される抗インフルエンザウイルス剤
本発明の抗インフルエンザウイルス剤は、前述するアークチゲニン、その配糖体およびそれらの塩からなる群から選択される少なくとも1種を有効成分とするものであって、ノイラミニダーゼ阻害剤と組み合わせて用いられることを特徴とする。
【0035】
本発明の抗インフルエンザウイルス剤は、経口的または非経口的(例えば、経肺投与、経鼻投与、直腸投入または注射や点滴などの局所投与)に用いることができ、各投与形態に応じた製剤(例えば、粉末、顆粒、錠剤、ピル剤、カプセル剤、注射剤、シロップ剤、エマルジョン剤、エリキシル剤、懸濁剤、溶液剤など)に調製することができる。好ましくは経口投与形態である。こうした各形態を有する製剤の調製には、アークチゲニン、その配糖体またはそれらの塩を、単独であるいは医薬として許容される担体(アジュバント剤、賦形剤、補形剤及び/又は希釈剤など)と混合して、当業界の慣用の方法に従って行うことができる。
【0036】
なお、本明細書において、非経口とは、皮下注射、静脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射あるいは点滴法などを含むものである。注射用調剤、例えば無菌注射用水性懸濁物あるいは油性懸濁物は、適当な分散化剤または湿化剤及び懸濁化剤を用いて当該分野で知られた方法で調製されうる。その無菌注射用調剤は、また、例えば水溶液などの製剤上許容される非経口投与可能な希釈剤あるいは溶剤中の無菌の注射用溶液または懸濁液であってもよい。使用することのできるベヒクルあるいは溶剤として許されるものとしては、水、リンゲル液、等張食塩液などが挙げられる。さらに、通常溶剤または懸濁化溶媒として無菌の不揮発性油も用いられうる。このためには、いかなる不揮発性油も脂肪酸も使用でき、天然あるいは合成あるいは半合成の脂肪油または脂肪酸、そして天然あるいは合成あるいは半合成のモノあるいはジあるいはトリグリセリド類も包含される。
【0037】
直腸投与用の坐剤は、その薬物と適当な低刺激性の補形剤、例えばココアバターやポリエチレングリコール類といった常温では固体であるが腸管の温度では液体で、直腸内で融解し、薬物を放出するものなどと混合して製造できる。
【0038】
経口投与用の固形投与剤型としては、上記した粉剤、顆粒剤、錠剤、ピル剤、カプセル剤などが挙げられる。そのような剤型において、活性成分化合物は、少なくとも一つの添加物、例えばショ糖、乳糖、セルロース糖、マンニトール、マルチトール、デキストラン、デンプン類、寒天、アルギネート類、キチン類、キトサン類、ペクチン類、トラガントガム類、アラビアゴム類、ゼラチン類、コラーゲン類、カゼイン、アルブミン、合成または半合成のポリマー類またはグリセリド類と混合することができる。そのような剤型物は、通常の剤型のようにさらに別の添加物を含んでもよい。別の添加物としては、例えば不活性希釈剤、マグネシウムステアレートなどの滑沢剤、パラベン類、ソルビン酸などの保存剤、アスコルビン酸、α−トコフェロール、システインなどの抗酸化剤、崩壊剤、結合化剤、増粘剤、緩衝化剤、甘味付与剤、フレーバー付与剤、パフューム剤などが挙げられる。錠剤およびピル剤は、さらにエンテリックコーティングすることもできる。
【0039】
経口投与用の液剤としては、医薬として許容されるシロップ剤、エマルジョン剤、エリキシル剤、懸濁剤、溶液剤などが挙げられる。これらは、当該分野で普通用いられる不活性希釈剤、例えば水を含んでいてもよい。
【0040】
本発明の抗インフルエンザウイルス剤は、ノイラミニダーゼ阻害剤を有効成分とする抗インフルエンザウイルス剤と組み合わせて、インフルエンザウイルスに罹患した患者の治療または予防のために用いられる。
【0041】
ここで対象とするノイラミニダーゼ阻害剤は、ノイラミニダーゼによってインフルエンザウイルスが感染細胞表面から遊離することを阻害する作用を有する物質である。かかる作用を有するものであれば特に制限されないが、現在、抗インフルエンザウイルス剤の有効成分として使用されているノイラミニダーゼ阻害剤としては、オセルタミビル(Oseltamivir)、ザナミビル(zanamivir)を挙げることができる。
【0042】
これらの化合物は遊離形態であってもよいが、薬学的に許容される塩の形態または溶媒和(例えば、水和物)の形態であってもよい。このような塩を形成する方法は特に制限されないが、例えば、適当な溶媒中で、適当な酸と処理する方法を例示することができる。具体的には、溶媒(例えば、水、メタノール、エタノール、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン等)中で、エプレレノンを酸(例えば、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸、酢酸、マレイン酸、フマル酸、安息香酸、クエン酸、シュウ酸、コハク酸、酒石酸、リンゴ酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、10−カンファースルホン酸等)と処理することにより、薬学的に許容される塩の形態に調製することができる。
【0043】
例えばオセルタミビルは、リン酸オセルタミビルの形態で、ロッシュ社(スイス)または中外製薬(日本)により商品名「タミフル(Tamiflu)(登録商標)」(カプセル、ドライシロップ)として、またザナミビルは、ザナミビル水和物の形態で、グラクソスミスクライン社により商品名「リレンザ(Relenza)(登録商標)」(吸入・鼻腔内噴霧)として販売されている。
【0044】
本発明が対象とするインフルエンザウイルスは、ノイラミニダーゼ阻害剤が有効に奏効するA型およびB型のインフルエンザウイルスである。なお、A型インフルエンザウイルスにおいてヘマグルチニンは15種類(H1〜H15)、ノイラミニダーゼは9種類(N1〜N9)の抗原性の異なる亜型が知られているが、ノイラミニダーゼ阻害剤がターゲットとするノイラミニダーゼの重要な部分はB型を含めて全て共通している。このため、本発明は、A型およびB型のインフルエンザウイルスをいずれも対象にすることができる。ノイラミニダーゼ阻害剤のうち、ザナミビルの特徴はインフルエンザウイルスのA型、B型およびA型の亜型(ソ連型、香港型など)に関わらず有効なことである。さらにインフルエンザウイルスは毎年その表現の特徴が少しずつ変化するが、この変異に影響されず有効である(ノイラミニダーゼの共通構造部分に変異は起こらないため)。またオセルタミビルの特徴は、新型のインフルエンザウイルス(鳥インフルエンザウイルス)にも有効とされていることである。
【0045】
本発明の抗インフルエンザウイルス剤は、インフルエンザウイルスに感染した患者の治療や、インフルエンザウイルス感染の予防に、ノイラミニダーゼ阻害剤と組み合わせて有効に用いることができる。特に、アークチゲニンまたはその配糖体は、後述する実験例で示すように、免疫が低下した哺乳動物に対して投与した場合でも中和抗体価を高く誘導し、また耐性ウイルスの出現を誘発しない。このため、免疫が低下した患者に投与した場合に中和抗体価が低下し、かつ耐性ウイルスの出現を誘発することが知られているオセルタミビルと組み合わせて用いることによって、このオセルタミビル投与の弊害(副作用)を解消または低減することが可能となる。従って、本発明の医薬組成物は、この効果をより高く享受できるという観点から、好適には免疫力が低下しているヒトに対して投与される。具体的には、免疫力が低下しているインフルエンザウイルス感染患者に対してインフルエンザの治療を目的として投与され、また免疫力が低下しているヒト(例えばワクチンの接種不能なヒト)に対してインフルエンザウイルス感染の予防を目的として投与される。ここで免疫力が低下しているヒトとしては、0歳〜3歳の乳幼児、65歳以上の高齢者、臓器移植者、抗癌剤投与による化学療法や放射線照射を受けている癌患者、AIDS(後天性免疫不全症候群)患者を挙げることができる。
【0046】
本発明の抗インフルエンザウイルス剤とノイラミニダーゼ阻害剤(またはノイラミニダーゼ阻害剤を有効成分とする抗インフルエンザウイルス剤)とを組み合わせて、被験者に投与する態様は、特に制限されない。例えば、投与経路(経口投与、非経口投与の別)は両者とも同一であってもよいし、また同一でなくてもよい。また、投与時期も制限されず、両者を同時に投与してもいいし、また本発明の抗インフルエンザウイルス剤を投与した後にノイラミニダーゼ阻害剤を投与する場合やその逆など、必ずしも同時に投与しなくてもよい。
【0047】
本発明の抗インフルエンザウイルス剤の被験者への投与量は、年齢、体重、症状、性別、投与方法、排泄速度、組み合わせるノイラミニダーゼ阻害剤の種類などに応じて、またその他の要因を考慮して決められる。通常、アークチゲニンまたはその配糖体の1日の投与量は、患者の状態や体重、投与経路などによって異なるが、例えば経口投与では、アークチゲニンの量に換算して、一日量約0.01〜10 mgを1回または2回ないし3回に分けて投与するのが好ましい。
【0048】
後述する実験例9に示すように、アークチゲニンまたはその配糖体とノイラミニダーゼ阻害剤とを組み合わせて用いることにより、抗インフルエンザウイルス作用を相乗的に増強させることができる。このため、本発明の抗インフルエンザウイルス剤と組み合わせて用いるノイラミニダーゼ阻害剤の投与量は、ノイラミニダーゼ阻害剤を単独で投与する場合の有効量よりも少なくすることができる。
【0049】
例えば、ノイラミニダーゼ阻害剤であるオセルタミビルおよびザナミビルを単独で投与する場合の有効量(用量)は、それぞれタミフル(登録商標)およびザナミビル(登録商標)の添付文書によると下記のように規定されている。よってこれを基準として、これより少ない量で投与することが好ましい。
【0050】
<タミフル(登録商標)>
(1)カプセル剤
(1-1)治療に用いる場合、通常、成人および体重37.5kg以上の小児はオセルタミビルとして1回75mgを1日2回、5日間経口服用する。
(1-2)予防に用いる場合、通常、成人および13歳以上の小児はオセルタミビルとして1回75mgを1日1回、7〜10日間経口服用する。
【0051】
(2)ドライシロップ剤(治療のみ)
(2-1)通常、成人はオセルタミビルとして1回75mgを1日2回、5日間、用時懸濁して経口服用する。
(2-2)通常、幼小児はオセルタミビルとして1回2mg/kgを1日2回、5日間、用時懸濁して経口服用する。
【0052】
<ザナミビル(登録商標)>
(1)治療
通常、成人および小児には、ザナミビルとして1回10mgを1日2回、5日間、専用の吸入器を用いて吸入する。
(2)予防
通常、成人および小児には、ザナミビルとして1回10mgを1日2回、10日間、専用の吸入器を用いて吸入する。
【0053】
本発明の抗インフルエンザウイルス剤はノイラミニダーゼ阻害剤の抗インフルエンザウイルス作用を相乗的に増強する作用を有するため、結果として、前述するようにノイラミニダーゼ阻害剤の投与量を低減させることが可能となる。このため、本発明の抗インフルエンザウイルス剤によればノイラミニダーゼ阻害剤の副作用(ノイラミニダーゼ阻害剤投与による弊害を含む)を低減しまた解消することができる。例えば、オセルタミビルの副作用としては、吐き気、嘔吐、腹痛、下痢などの胃腸症状;肝障害;皮膚障害;出血性大腸炎;幻覚、妄想、意識障害(意識低下や異常行動)などの精神・神経症状などが、またザナミビルの副作用としては、アナフィラキシー様症状や喘息発作の誘発などが知られている。また、オセルタミビルの副作用(ノイラミニダーゼ阻害剤投与による弊害)として薬剤耐性インフルエンザウイルスの出現を挙げることができる。本発明の有効成分であるアークチゲニンまたはその配糖体は、薬剤耐性インフルエンザウイルスを誘導しないため、オセルタミビルを本発明の抗インフルエンザウイルス剤と併用することにより、有効な抗インフルエンザウイルス作用を確保しながらも、ウイルスの薬剤耐性化を最小限に食い止めることが可能になる。
【0054】
なお、本発明の抗インフルエンザウイルス剤は、インフルエンザの治療または予防にノイラミニダーゼ阻害剤が適用される被験者に対して用いることができ、その限りにおいてヒトに限定されることはない。例えば、ヒト以外の哺乳類(牛、豚、馬、ラット、マウス、サル、ウサギ、犬、猫など)や鳥類(鶏など)のインフルエンザの治療または予防にノイラミニダーゼ阻害剤が適用される場合は、これらの哺乳類や鳥類を広く対象とすることができる。
【0055】
(III)ノイラミニダーゼ阻害剤を含む抗インフルエンザウイルス剤
本発明の抗インフルエンザウイルス剤は、前述するアークチゲニン、その配糖体およびそれらの塩からなる群から選択される少なくとも1種とノイラミニダーゼ阻害剤とが組み合わされてなることを特徴とする。
【0056】
後述する実験例9で示すように、アークチゲニンまたはその配糖体とノイラミニダーゼ阻害剤とを組み合わせて用いることで、抗インフルエンザウイルス作用が相乗的に増強される。かかる相乗的な抗インフルエンザウイルス効果は、被験者に、アークチゲニンまたはその配糖体とノイラミニダーゼ阻害剤との両方が作用することによって得られる効果である。ゆえに本発明において「組み合わされてなる」とは、単に抗インフルエンザウイルス剤の形状のみならず、その使用形態をも含む意味である。具体的には、(1)本発明の抗インフルエンザウイルス剤には、アークチゲニンおよびその配糖体の少なくとも1種とノイラミニダーゼ阻害剤とが混合された配合剤の状態にあるもの、(2)両者が混合されることなく、アークチゲニンおよびその配糖体の少なくとも1種を有効成分とする製剤とノイラミニダーゼ阻害剤を有効成分とする製剤とのキット(組み合わせ製剤)の形態を有するもの、ならびに(3)アークチゲニンおよびその配糖体の少なくとも1種を有効成分とする製剤とノイラミニダーゼ阻害剤を有効成分とする製剤とが、おのおの別個の包装形態で且つ別個に流通されながらも使用時に組み合わせて使用されるものが含まれる。
【0057】
ここで上記の(2)と(3)の場合に使用されるアークチゲニンおよびその配糖体の少なくとも1種を有効成分とする製剤としては、前述(II)にて説明するアークチゲニンおよびその配糖体の少なくとも1種を有効成分とする抗インフルエンザウイルス剤を同様に挙げることができる。またノイラミニダーゼ阻害剤を有効成分とする製剤としては、前述(II)にて説明するノイラミニダーゼ阻害剤を有効成分とする抗インフルエンザウイルス剤を同様に挙げることができる。また両者を組み合わせて用いる場合の各製剤の使用量(投与量)も、上記の通りである。具体的には、アークチゲニンおよびその配糖体の少なくとも1種を有効成分とする製剤の投与量としては、経口投与の場合、アークチゲニンの量に換算して、一日量約0.01〜10 mgを挙げることができ、この量を1回または2回ないし3回に分けて投与する。また、これと組み合わせて用いるノイラミニダーゼ阻害剤の投与量は、ノイラミニダーゼ阻害剤を単独で投与する場合の有効量(前述)よりも少ない量を挙げることができる。なお、アークチゲニンおよびその配糖体の少なくとも1種を有効成分とする製剤、およびノイラミニダーゼ阻害剤を有効成分とする製剤は、同時または順不同に投与することができ、また経口または非経口的に投与することができる。ノイラミニダーゼ阻害剤がオセルタミビルまたはその塩である場合は経口投与が好ましく、ザナミビルまたはその塩である場合は吸入または経鼻投与であることが好ましい。アークチゲニンおよびその配糖体の少なくとも1種を有効成分とする製剤の投与形態は特に問わないが、好ましくは経口投与である。
【0058】
(1)の場合、本発明の抗インフルエンザウイルス剤(配合剤)は、通常、アークチゲニンおよびその配糖体の少なくとも1種とノイラミニダーゼ阻害剤に加えて、医薬として許容される担体(アジュバント剤、賦形剤、補形剤及び/又は希釈剤など)や添加剤と混合して、通常の方法に従って製剤化して用いられる。なお、ここでアークチゲニンまたはその配糖体、ならびにノイラミニダーゼ阻害剤は、いずれも遊離形態を有するものであってもいいし、また薬理学的に許容される塩の形態、または溶媒和物(例えば水和物)の形態を有していてもよい。
【0059】
製剤化は、本発明の抗インフルエンザウイルス剤の投与形態(経口投与、非経口投与)に応じて、例えば、粉末、顆粒、錠剤、ピル剤、カプセル剤、注射剤、シロップ剤、エマルジョン剤、エリキシル剤、懸濁剤、溶液剤などの形態に調製される。これらの製剤化には、製剤形態に応じて(I)に記載する各種の担体を使用することができる(前記参照のこと)。
【0060】
かかる配合剤に配合されるノイラミニダーゼ阻害剤およびアークチゲニンまたはその配糖体の割合は、各成分の1日あたりの投与量に基づいて定めることができる。例えば、アークチゲニンまたはその配糖体の1日の投与量としては、経口投与の場合、アークチゲニンの量に換算して、一日量約0.01〜10 mgを挙げることができる。また、ノイラミニダーゼ阻害剤の1日の投与量は、市販のノイラミニダーゼ阻害剤(タミフル、ザナミビル)を単独で投与する場合の有効量よりも少ない量を挙げることができ、下記の単独有効量を参考に定めることができる。
【0061】
<タミフル(登録商標)>
(1)カプセル剤
(1-1)治療に用いる場合、通常、成人および体重37.5kg以上の小児はオセルタミビルとして1回75mgを1日2回経口服用する(1日投与量150mg)。
(1-2)予防に用いる場合、通常、成人および13歳以上の小児はオセルタミビルとして1回75mgを1日1回経口服用する(1日投与量75mg)。
【0062】
(2)ドライシロップ剤(治療のみ)
(2-1)通常、成人はオセルタミビルとして1回75mgを1日2回経口服用する(1日投与量150mg)。
【0063】
(2-2)通常、幼小児はオセルタミビルとして1回2mg/kgを1日2回経口服用する(1日投与量2mg/kg)。
【0064】
<ザナミビル(登録商標)>
(1)治療・予防
通常、成人および小児には、ザナミビルとして1回10mgを1日2回、専用の吸入器を用いて吸入する(1日20mg)。
【0065】
本発明の抗インフルエンザウイルス剤は、アークチゲニンまたはその配糖体をノイラミニダーゼ阻害剤と組み合わせて用いることによって抗インフルエンザウイルス作用の相乗的増強を可能にしたものである。このため、本発明の抗インフルエンザウイルス剤は、前述するように少ないノイラミニダーゼ阻害剤の量で有効に抗インフルエンザウイルス作用を発揮することができる。このため、本発明の抗インフルエンザウイルス剤は、従来問題となっていたノイラミニダーゼ阻害剤の副作用(ノイラミニダーゼ阻害剤投与による弊害を含む)が低減また解消された医薬組成物として用いることができる。例えば、オセルタミビルの副作用としては、吐き気、嘔吐、腹痛、下痢などの胃腸症状;肝障害;皮膚障害;出血性大腸炎;幻覚、妄想、意識障害(意識低下や異常行動)などの精神・神経症状などが、またザナミビルの副作用としては、アナフィラキシー様症状や喘息発作の誘発などが知られている。また、オセルタミビルの副作用(ノイラミニダーゼ阻害剤投与による弊害)として薬剤耐性インフルエンザウイルスの出現を挙げることができる。また本発明の抗インフルエンザウイルス剤の有効成分として用いるアークチゲニンまたはその配糖体は、薬剤耐性インフルエンザウイルスを誘導しないため、ノイラミニダーゼ阻害剤であるオセルタミビルと併用することにより、有効な抗インフルエンザウイルス作用を確保しながらも、ウイルスの薬剤耐性化を最小限に食い止めることが可能になる。
【0066】
なお、本発明の抗インフルエンザウイルス剤は、インフルエンザの治療または予防にノイラミニダーゼ阻害剤が適用される被験者に対して広く用いることができ、その限りにおいてヒトに限定されることはない。例えば、ヒト以外の哺乳類(牛、豚、馬、ラット、マウス、サル、ウサギ、犬、猫など)や鳥類(鶏など)のインフルエンザの治療または予防にノイラミニダーゼ阻害剤が適用される場合は、これらの哺乳類や鳥類を広く対象とすることができる。
【実施例】
【0067】
以下に、調製例および実験例によって本発明の効果を明らかにするが、これらは単なる例示であり、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。
調製例1 アークチンの調製
牛蒡子500gをブレンダー(GRINDOMIX GM200、Retsch社) (5,000 rpm, 0.5 min)で微細粉末にした。これをn-ヘキサン500mlに加えて1日間攪拌し脱脂した。n-ヘキサンを吸引濾過にて取り除いた後、牛蒡子粉末にジエチルエーテルを500ml加え、更に1日間攪拌し、ジエチルエーテルを吸引濾過にて取り除いた。その後、牛蒡子粉末にクロロホルム500mlを加え、1日間攪拌抽出を行った。この操作を2度くり返し、クロロホルム抽出エキスを合わせた。得られたクロロホルム抽出エキスからクロロホルムを減圧留去し、得られた残渣を、クロロホルム-メタノール(95:5)を展開溶媒として、シリカゲルカラムクロマトグラフィーに付し、アークチン9.9g(収率約2%)を得た。
【0068】
アークチンの物性値を下記に示す:
mp. 110℃
IR: νmax 3643.3,2929.7,2858.3,1764.7,1514.0, 1454.2, 1415.7, 1074.3, 970.1, 804.3, 457.1.
1H NMR (399.65 MHz,chloroform-d): δH 6.91(1H, d, J=8.0 Hz, 5’), 6.75(1H, d, J=8.0 Hz, 5), 6.63(1H, d, J=1.6 Hz, 2’), 6.57(1H, dd, J=1.8, 8.8Hz, 6’), 6.49(1H, dd, J=1.8, 8.2 Hz, 6), 6.46(1H, d, J=1.6 Hz, 2), 5.19(1H, s, ‐OH), 5.06 (1H, s, ‐OH), 5.00(1H, s, ‐OH), 4.85 (1H, s, ‐OH), 4.09(1H, dd, J=6.8,9.2 Hz, 9),3.81(1H, dd, J=7.4, 9.20Hz, 9), 3.68(3H, s, OMe), 3.65(3H, s, OMe), 3.64(3H, s, OMe), 3.17 - 3.46(7H, m, Glc‐1, Glc‐2, Glc‐3, Glc‐4, Glc‐5, Glc‐6), 2.72 - 2.83(2H, m, 7’), 2.47 - 2.55(4H, m, 7, 8,8’)。
13C NMR (100.40 MHz, chloroform-d): δC178.41(C‐9’), 148.67(C‐3), 148.67(C‐3’),147.32(C‐4), 145.30(C‐4’), 131.78(C‐1), 138.19(C‐1’), 121.31(C‐6’),120.41(C‐6), 115.11(C‐5’), 113.82(C‐2’), 112.39(C‐2), 111.86(C‐5), 100.19(Glc‐1), 76.99(Glc‐3), 76.87(Glc‐5), 73.21(Glc‐2), 70.68(C‐9), 55.63(OMe), 55.46(OMe), 55.39(OMe), 45.54(C‐8’), 40.75(C‐8), 36.85(C‐7), 33.51(C‐7’)。
MS (ESI, positive mode): 557 [M+Na]+ , 553 [M+H3O]+
【0069】
調製例2 アークチゲニンの調製
調製例1で得られたアークチン100mgを、0.2N H2SO4水溶液15mlに加え、外浴80℃で1時間加熱しながら攪拌した。反応液を減圧濃縮し、得られた残渣を、クロロホルム-メタノール(95:5)を展開溶媒としてカラムクロマトグラフィー(PLC)に付し、アークチゲニン31mg(収率31%)を得た。
【0070】
アークチゲニンの物性値を下記に示す:
mp. 102℃
IR: nmax 3438.8, 3018.4, 2918.1, 2839.0, 1759.0, 1591.2, 1514.0, 1433.0, 334.6, 1028.0.
1H NMR (399.65 MHz, chloroform-d): δH 6.82(1H, d, J=8.0 Hz, 5’), 6.75(1H, d, J=8.0
Hz, 5), 6.64(1H, d, J=1.6 Hz, 2’), 6.61(1H, dd, J=1.8, 8.2 Hz, 6’), 6.54(1H, dd, J=1.8, 8.2 Hz, 6), 6.46(1H, d, J=1.6 Hz, 2), 5.65 (1H, brs, ‐OH), 4.14(1H, dd, J=6.8, 9.2 Hz, 9), 3.88(1H, dd, J=7.4, 9.20Hz, 9), 3.85(3H, s, OMe), 3.817(3H, s, OMe), 3.813(3H, s, OMe)2.87 - 2.98(2H, m, 7’), 2.45 - 2.66(4H, m, 7, 8, 8’).
13C NMR(100.40 MHz,chloroform-d): δC178.82(C‐9’), 149.05(C‐3), 147.86(C‐3’), 146.76(C‐4), 144.58(C‐4’), 130.49(C‐1), 129.51(C‐1’), 122.12(C‐6’), 120.62(C‐6), 114.18(C‐5’), 111.82(C‐2’), 111.58(C‐2), 111.32(C‐5), 71.34(C‐9), 55.92(OMe), 55.87(OMe), 55.83(OMe), 46.61(C‐8’), 40.94(C‐8), 38.20(C‐7), 34.54(C‐7’).
MS (ESI, positive mode): 395 [M+Na]+, 391 [M+H30]+, 373 [M+H]+
【0071】
調製例3 牛蒡子微細粉末の調製
牛蒡子100gをブレンダー(GRINDOMIX GM200、Retsch社) (5,000 rpm, 3.5 min)で粉末にした。これを更に乳鉢にて微細粉末にした。
【0072】
調製例4 牛蒡子熱水抽出エキス粉末の調製
(1)調製方法
牛蒡子200gを、ブレンダー(GRINDOMIX GM200、Retsch社) (5,000 rpm, 3.5 min)で粉末にした。これを食用なべに移し、超純水3Lを加えて家庭用コンロで加熱沸騰した。この操作を液量が半分になるまで行った。次いで水を減圧濃縮し、残渣をP2O5上で減圧乾燥した。得られた乾燥粉末を乳鉢で細かく砕いて牛蒡子熱水抽出エキス粉末23g(収率11.5%)を取得した。
【0073】
(2)アークチン及びアークチゲニン含量の定量
上記で得られた牛蒡子熱水抽出エキス粉末100 mg にメタノールを10 ml加え、1分間超音波処理した後、シリンジ用フィルターで不要物を除去し、下記条件の高速液体クロマトグラフィー(HPLC)に供した。
【0074】
<HPLC条件>
カラム:ZORBAX SB-Phenyl 4.6 mm x 75 mm Agilent Technologies
移動相:アセトニトリル(A) -水(B)によるグラジュエント
グラジュエント条件
0−50分: 5%A-95%B − 60%A-40%B
50−60 min: 5%A-95%B
検出:UV254 nm
保持時間(Rt): アークチン21 分、アークチゲニン27分。
【0075】
得られた各アークチンおよびアークチゲニンのピーク面積から、牛蒡子熱水抽出エキス粉末中の各含有量を検量線から求めたところ、アークチンの含有量は0.7重量%、アークチゲニンの含有量は0.3重量%であった。
【0076】
調製例5 牛蒡子熱エタノール抽出エキス粉末の調製
(1)調製方法
牛蒡子200gを、フライパンで弱火にて15分間炒った後(184 g)、ブレンダー(GRINDOMIX GM200、Retsch社) (5,000 rpm, 3.5 min)で粉末にした。油脂成分を除去するため、この粉末に超純水を500ml加えて80℃で1時間加熱した。吸引濾過にて水を除去後、粉末にエタノール500mlを加えて90℃で1時間加熱した。この抽出操作をもう1度くり返した。得られたエタノール抽出液を合わせて減圧濃縮し、得られた残渣をP2O5上で減圧乾燥した。得られた乾燥粉末を乳鉢で細かく砕いて、牛蒡子熱エタノール抽出エキス粉末25g(収率12.5%)を取得した。
【0077】
(2)アークチン及びアークチゲニン含量の定量
調製例4と同様にして、上記牛蒡子熱エタノール抽出エキス粉末中のアークチンおよびアークチゲニンの含有量を求めたところ、アークチンの含有量は2.5重量%、アークチゲニンの含有量は0.5重量%であった。
【0078】
実験例1 抗インフルエンザウイルス作用(in vitro試験)
(1)MDCK細胞の調製
96ウエル培養マイクロプレートを使用し、2ウエルあたりに10%牛胎児血清含有MEM培地100μl中にイヌ正常腎由来株化細胞(MDCK細胞)を2×104個となるように入れ、37℃で5% CO2存在下で16〜24時間培養した。次いで、顕微鏡下でウエル一面に細胞が単層になっていることを確認した。
【0079】
(2)アークチンおよびアークチゲニンの細胞毒性
上記で調製したアークチンおよびアークチゲニンについて、上記MDCK細胞に対する細胞毒性を評価した。具体的には、上記の培養MDCK細胞に、各濃度のアークチンまたはアークチゲニンを添加して、37℃で5% CO2存在下で3日間培養して、細胞の生存率をトリパンブルー染色法で測定し、50%阻害濃度(CC50)を計算した。
【0080】
(3)アークチンおよびアークチゲニンの抗インフルエンザウイルス作用(in vitro試験)
インフルエンザウイルスに対する予防効果をみるために、上記の培養MDCK細胞に、A型インフルエンザウイルス(H1N1)(細胞1個あたり0.1プラーク形成単位のウイルス量)と各濃度のアークチンまたはアークチゲニンをそれぞれ添加して、室温で、1時間静置することで、インフルエンザウイルスをMDCK細胞に感染させた。感染終了後、アークチンまたはアークチゲニンの存在下で24時間、37℃、5% CO2存在下で培養した。その後、培地に放出されたウイルスを測定するために、培地を適宜希釈して、35mmディッシュに培養したMDCK細胞に感染させ、2日後に形成されたプラークをクリスタルバイオレット液で染色して白く抜けたプラークを観察し、プラーク数から50%ウイルス増殖阻害濃度(IC50)を計算した。
【0081】
また、インフルエンザウイルスに対する治療効果をみるために、上記の培養MDCK細胞に、A型インフルエンザウイルス(H1N1)(細胞1個あたり0.1プラーク形成単位のウイルス量)を添加して、室温で、1時間静置することで、インフルエンザウイルスをMDCK細胞に感染させた。感染終了後、アークチンまたはアークチゲニンの存在下で24時間、37℃、5% CO2存在下で培養した。その後、培地に放出されたウイルスを測定するために、培地を適宜希釈して、35mmディッシュに培養したMDCK細胞に感染させ、2日後に形成されたプラークをクリスタルバイオレット液で染色して白く抜けたプラークを観察し、プラーク数から50%ウイルス増殖阻害濃度(IC50)を計算した。
【0082】
抗インフルエンザ効果(有効性)を評価するために、選択指数(CC50/IC50)を計算した。
【0083】
結果を表1に示す。
【0084】
【表1】

【0085】
この結果からわかるように、アークチゲニンをインフルエンザウイルス感染と同時または感染後に投与した場合のいずれにおいても同程度の抗インフルエンザウイルス(H1N1)活性を示した。このことから、アークチゲニンには、インフルエンザウイルスに対して予防と治療作用があることがわかる。また、宿主細胞であるイヌ正常腎由来株化細胞(MDCK細胞)に対するアークチゲニンの細胞毒性(CC50:45μM)から、有効性(CC50/IC50)は16〜12であり、安全性は十分確保されていることがわかった。同様に、アークチゲニンの配糖体であるアークチンにも抗インフルエンザウイルス活性が認められた。しかし、アークチゲニンの抗インフルエンザウイルス活性よりも低いことから、抗インフルエンザウイルス作用の活性本体は、アークチゲニンであり、これが主に宿主細胞への侵入後のインフルエンザウイルスの複製・増殖段階を抑制していると考えられた。
【0086】
実験例2 抗インフルエンザウイルス作用の機序解明(in vitro試験)
(1)作用時期の特定
実験例1で抗インフルエンザウイルス作用の活性本体と考えられたアークチゲニンを用いて、インフルエンザウイルス感染のどの時期で抗ウイルス作用を発揮するかを調べた。
【0087】
<実験方法>
アークチゲニン(5μM、25μM)およびリン酸オセルタミビル(1μM、5μM)を、表2に示すように、下記の培養工程の1)〜3)のいずれかの段階で添加し、最終のインフルエンザウイルス量をプラークアッセイ法で測定した。
【0088】
(培養工程)
1) 実験例1(1)と同様の方法で調製したMDCK細胞(35mmディッシュ)を4℃で3時間冷却する。
2) 上記MDCK細胞に、1ディッシュあたり、100μlのA型インフルエンザウイルス(H1N1)(100 PFU/100 ml)を加えて、室温で1時間静置することで、インフルエンザウイルスをMDCK細胞に感染させる。
3) 感染終了後、冷却したPBSで3回洗浄後、10%牛胎児血清含有MEM培地を入れて、24時間に亘り、37℃、5% CO2存在下で培養する。
【0089】
<実験結果>
結果を表2に併せて示す。結果は、被験薬(アークチゲニン、リン酸オセルタミビル)を添加しないで同様に実験した場合(対照試験)に得られたインフルエンザウイルス量を100%として、それとの相対比(%)を示す。
【0090】
【表2】

【0091】
この結果から、アークチゲニンは感染初期に投与することにより高いウイルス増殖抑制作用(抗インフルエンザウイルス作用)を発揮することが判明した。
【0092】
(2)インフルエンザウイルス吸着阻害作用の評価
アークチゲニンの作用機序を調べる目的で、アークチゲニンにインフルエンザウイルスの細胞吸着を阻害する作用があるかを調べた。
【0093】
<実験方法>
1) 実験例1(1)と同様の方法で調製したMDCK細胞(35mmディッシュ)に、1ディッシュあたり、100μlのA型インフルエンザウイルス(H1N1)(100 PFU/100μl)、および最終濃度が5μM、25μMまたは50μMとなるようにアークチゲニンを添加し、4℃で1時間静置した。なお、MDCK細胞および各試料は予め4℃で3時間冷却しておいたものを使用した。
2) 得られた細胞を冷却したPBSで3回洗浄した後、10%牛胎児血清含有MEM培地を入れて、1時間、37℃、5% CO2存在下で培養した。
3) MDCK細胞を回収した後、クエン酸塩緩衝液(pH3)で1分間処理し、これに0.8%の寒天培地を重層して、37℃、5% CO2条件で培養した。
4) 培養から2日後に、形成されたプラークをクリスタルバイオレット液で染色して白く抜けたプラークを観察し、プラーク数を求めた。
【0094】
<実験結果>
結果を表3に示す。結果は、被験薬(アークチゲニン)を添加しないで同様に実験した場合(対照試験)に得られたプラーク数を100%として、それとの相対比(%)を示す。また、値は3回実験を行って得られた平均値である。
【0095】
【表3】

【0096】
この結果、アークチゲニンにインフルエンザウイルスの細胞吸着を阻害する作用は認められなかった。
【0097】
(3)インフルエンザウイルス侵入害作用の評価
アークチゲニンの作用機序を調べる目的で、アークチゲニンにインフルエンザウイルスの細胞への侵入を阻害する作用があるかを調べた。
【0098】
<実験方法>
1) 実験例1(1)と同様の方法で調製したMDCK細胞(35mmディッシュ)に、1ディッシュあたり、100μlのA型インフルエンザウイルス(H1N1)(100 PFU/100μl)を添加し、4℃で1時間静置して、ウイルスを感染させた。なお、MDCK細胞およびウイルスは予め4℃で3時間冷却したものを使用した。
2) 得られた細胞を冷却したPBSで3回洗浄した後、最終濃度が5μM、25μMまたは50μMとなるようにアークチゲニンを添加した10%牛胎児血清含有MEM培地、またはアークチゲニン不添加の培地を入れて、37℃、5% CO2存在下で培養した。
3) 培養から、一定時間(0h、0.5h、1h、2h、3h)後に、MDCK細胞を回収し、クエン酸塩緩衝液(pH3)で1分間処理し、これに0.8%の寒天培地を重層して、37℃、5% CO2条件で培養した。
4) 培養から2日後に、形成されたプラークをクリスタルバイオレット液で染色して白く抜けたプラークを観察し、プラーク数を求めた。
【0099】
<実験結果>
結果を表4に示す。結果は、被験薬(アークチゲニン)を添加しないで37℃で3時間処理した場合(対照試験)に得られたプラーク数を100%として、それとの相対比(%)を示す。また、値は3回実験を行って得られた平均値である。
【0100】
【表4】

【0101】
この結果から、アークチゲニンは、インフルエンザウイルスの細胞への侵入を弱いながらも阻止していることが判明した。
【0102】
(4)子孫ウイルス放出阻止作用の評価
アークチゲニンの作用機序を調べる目的で、アークチゲニンに感染細胞からの子孫ウイルス放出を阻止する作用があるかを調べた。
【0103】
<実験方法>
1) 実験例1(1)と同様の方法で調製したMDCK細胞(35mmディッシュ)に、A型インフルエンザウイルス(H1N1)(0.1PFU/細胞)を添加し、室温で1時間静置して、ウイルスを感染させた。
2) これに、アークチゲニン(最終濃度:5μM、25μM)またはリン酸オセルタミビル(最終濃度:1μM、5μM)を添加して、37℃、5% CO2存在下で培養した。
3) 培養から、一定時間(5h、8h、10h、12h、18h、20h、24h)後に、培地を回収した。
4)その後、培地に放出されたウイルス数を測定するために、培地を適宜希釈して、35mmディッシュに培養したMDCK細胞に感染させ、2日後に形成されたプラークをクリスタルバイオレット液で染色して白く抜けたプラークを観察し、プラーク数から培地に放出されたウイルス量を求めた(プラーク1個がウイルス1個に相当する。)。
【0104】
<実験結果>
結果を表5および図1に示す。表5の各上段は、被験薬(アークチゲニン、リン酸オセルタミビル)を添加しないで37℃で24時間培養した場合(対照試験)に培地に放出されたウイルス量を100%として、それとの相対比(%)を示した値である。また、表5の各下段は、各被験薬(アークチゲニン、リン酸オセルタミビル)を添加して37℃で24時間培養した場合に培地に放出されたウイルス量を100%として、それとの相対比(%)を示した値である。図1の縦軸は、培地に放出されたウイルスの量(×103 PFU/dish)を示す。
【0105】
【表5】

【0106】
上記の結果から、アークチゲニンにインフルエンザウイルスの放出阻害作用があることが観察された。この結果から、アークチゲニンは、ウイルスタンパク質合成を感染初期に阻害することにより、抗ウイルス作用を発揮しているのではないかと考えられる。
【0107】
実験例3 アークチンおよびアークチゲニンの抗インフルエンザウイルス作用(in vivo試験)
(1)被験試料の投与とインフルエンザウイルス感染
上記で抗インフルエンザウイルス作用が確認されたアークチンおよびアークチゲニンを用いて、インフルエンザウイルス感染マウスに対する抗インフルエンザウイルス作用を調べた。
【0108】
具体的には、BALB/cマウス(5週齢、雄)を下記の9群(第1群は14匹、他の群は各10匹)に分け、各群のマウスにA型インフルエンザウイルス(H1N1)(2×105 PFU/50μl/mouse)を麻酔下で経鼻接種(経鼻感染)させ、感染の1週間前から感染後1週間の計14日間(但し、リン酸オセルタミビルは、感染直後から感染後1週間の計7日間)、各被験試料(蒸留水、リン酸オセルタミビル、アークチゲニン、アークチン)を1日2回(午前9時と午後6時)経口投与した。
【0109】
<マウス被験群>
第1群(#1):対照群[蒸留水投与、0.2ml/mouse/day]
第2群(#2):比較群[リン酸オセルタミビル投与、0.2mg/0.2ml/mouse/day]
第3群(#3):アークチゲニン投与群[アークチゲニン投与、0.5mg/0.2ml/mouse/day]
第4群(#4):アークチゲニン投与群[アークチゲニン投与、1mg/0.2ml/mouse/day]
第5群(#5):アークチゲニン投与群[アークチゲニン投与、2mg/0.2ml/mouse/day]
第6群(#6):アークチン投与群[アークチン投与、0.5mg/0.2ml/mouse/day]
第7群(#7):アークチン投与群[アークチン投与、1mg/0.2ml/mouse/day]
第8群(#8):アークチン投与群[アークチン投与、2mg/0.2ml/mouse/day]
第9群(#9):アークチン投与群[アークチン投与、5mg/0.2ml/mouse/day]。
【0110】
(2)抗インフルエンザウイルス作用の評価
各被験群のマウスのうち、半数については、感染から3日目(3 day)に、気管・気管支洗浄液(以下、「BALF」という)及び肺を採取して、BALFと肺のインフルエンザウイルス量を、実験例1に記載する方法に従ってプラーク法にて定量した。各被験群のマウスのうち、残り半数について感染直後から4週間に亘って(0 day〜28 day)、体重と死亡数を記録するとともに、感染から14日目(14 day)に尾静脈から採血して、下記の方法に従って血清中の中和抗体価を評価した。また、感染から28日後には、血清における中和抗体価、およびBALFにおける中和抗体価とIgA量を
それぞれ求めた。なお、IgA量はELISA法で測定した。
【0111】
<中和抗体価の測定>
(a)血清における中和抗体価
マウスの血液から血清を分離し、滅菌した生理食塩水で5〜78125倍に希釈する。その希釈液0.1 mlとインフルエンザウイルス(200プラーク形成単位/0.1 ml)0.1 mlとを混合し、37℃で、1時間処理した。0.1mlの混合液を、35mmディッシュに培養したMDCK細胞に感染させ、2日後に形成されたプラークをクリスタルバイオレット液で染色して、プラーク数を測定する。血清の代わりに生理食塩水をウイルス液に加えた対照のプラーク数を100%として、50%のプラーク数になる血清希釈倍数を計算し、その値を中和抗体価とする。
【0112】
(b)BALFにおける中和抗体価
上記血清に代えて、BALFを用いる以外は、上記(a)と同様にして、中和抗体価を算出する。
【0113】
感染から3日目に採取した各被験群の肺とBALFについて、インフルエンザウイルス量を測定した結果を、それぞれ図2および3に示す。
【0114】
これらの結果からわかるように、アークチゲニン(#3−#5)またはアークチン(#6−#9)を、インフルエンザウイルス接種(感染)の前後各一週間に亘って投与することにより、アークチゲニンおよびアークチンの各経口投与による強い抗インフルエンザウイルス効果が認められた。具体的には、図2に示すように、アークチゲニン投与群(#4)およびアークチン投与群(#9)において、肺のウイルス量は、対照群(蒸留水投与群)(#1)と比べて、それぞれ18.8%と14.2%まで低下した。これは、比較群(リン酸オセルタミビル投与群)(#2)のウイルス残存量7%には及ばないものの、アークチゲニンおよびアークチンに強い抗インフルエンザウイルス効果があることを示すものである。また、図3に示すように、アークチゲニン投与群(#4)およびアークチン投与群(#9)において、BALFのウイルス量は、対照群(蒸留水投与群)(#1)と比べて、それぞれ14.3%と18.8%まで低下した。これも、比較群(リン酸オセルタミビル投与群)(#2)のウイルス残存量6%には及ばないものの、アークチゲニンおよびアークチンに強い抗インフルエンザウイルス効果があることを示している。
【0115】
感染から14日目(14 day)と28日目(28 day)に採血して得た血清における中和抗体価を図4に示す。また、感染から28日後に採取した、BALFにおける中和抗体価およびIgA量を、それぞれ図5および6に示す。
【0116】
図4から分かるように、感染14日後の比較群(リン酸オセルタミビル投与群)(#2)の抗体価は、対照群(蒸留水投与群)(#1)の抗体価(3900±812)に比し80%に低下するのに対して、アークチゲニン投与群(#3−#5)およびアークチン投与群(#6−#9)の抗体価は、対照群の約2.1〜2.6倍程度増加した。また感染28日後も、比較群(#2)の抗体価は、対照群(#1)(12600±2845)の抗体価に比して60%に低下するのに対して、アークチゲニン投与群(#3)およびアークチン投与群(#7)は、対照群(#1)の2倍および2.8倍といった高い中和抗体価を誘導し、有効な抗インフルエンザウイルス作用(免疫効果)を示した。
【0117】
また、図5に示すように、感染28日後、各被験群のBALFにおける中和抗体価の上昇が見られた。すなわち、比較群(リン酸オセルタミビル投与群)(#2)のBALFにおける中和抗体価は対照群(#1)(815±296)の場合の20%に低下したのに対し、例えばアークチゲニン投与群(#5)やアークチン投与群(#9)では、対照群(#1)のそれぞれ2倍及び2.1倍に上昇した。この結果からも、アークチゲニンおよびアークチンは、インフルエンザウイルス感染動物に対して高い中和抗体価を誘導して、優れた抗インフルエンザウイルス作用(免疫作用)を発揮することが示された。
【0118】
さらに、図6に示すように、感染28日後、アークチゲニン投与群およびアークチン投与群においてBALFにおけるIgA量の上昇が見られた。具体的には、比較群(リン酸オセルタミビル投与群)(#2)では、IgA量は対照群(#1)(243±54 ng/ml)の70%に低下したのに対して、例えば、アークチゲニン投与群(#5)やアークチン投与群(#9)では、対照群(#1)の1.3倍および1.4倍に上昇した。このことから、アークチゲニンおよびアークチンは、インフルエンザウイルス感染動物に対して、呼吸器粘膜上にIgAを分泌させ、ウイルスの体内への侵入を阻止する作用(免疫作用)を有することが確認された。
【0119】
(3)毒性評価
各被験群について、感染後4週間に亘って測定した体重の結果を図7に、死亡率を表6に示す。
図7からわかるように、対照群(蒸留水投与群)(#1)では、投与を中止した7日以降も体重減少が見られ、感染10日後に約30%の体重減少が認められた。その後は漸増した。比較群(リン酸オセルタミビル投与群)(#2)では、10%以内の体重減少が認められた。これに対して、アークチゲニン投与群およびアークチン投与群は、感染7日後に20−30%の体重減少が認められたものの、投与を中止した7日目以降急速に回復した。
【0120】
また、表6に示すように、対照群(#1)では、感染後8日〜10日の間に7匹中3匹が死亡したが、比較群(リン酸オセルタミビル投与群)(#2)、アークチゲニン投与群(#3−#5)、アークチン投与群(#6−#9)は、いずれも死亡例はなく、副作用は認められなかった。
【0121】
【表6】

【0122】
実験例4 牛蒡子の抗インフルエンザウイルス作用(in vivo試験)
アークチゲニンおよびアークチンに代えて、調製例3〜5で調製した牛蒡子微細粉末(調製例3)、牛蒡子熱水抽出エキス粉末(調製例4)および牛蒡子熱エタノール抽出エキス粉末(調製例5)を用いて、下記表7に示す各マウス被験群に対して、実験例3と同様の試験を行い、感染後3日後の肺およびBALFにおけるインフルエンザウイルス量を測定した。
【0123】
結果を表7に併せて示す。
【0124】
【表7】

【0125】
#4を除いて、いずれの被験群も、肺及びBALF中のウイルス産生量を有意に抑制した。微細粉末投与群(#3)はとくに有効であった。
【0126】
実験例5
(1)被験試料の投与とインフルエンザウイルス感染
BALB/cマウス(5週齢、雌)を表8に記載するように11群(第1群は16匹、他の群は各10匹)に分け、各群のマウスにA型インフルエンザウイルス(H1N1)(2×105 PFU/50μl/mouse)を麻酔下で経鼻接種(経鼻感染)させ、感染前7日から感染直前の計7日間(投与A)、感染直後から感染後7日間の計7日間(投与B)、および感染前7日から感染後7日間の計14日間(投与C)(但し、牛蒡子微細粉末は、感染直後から感染後7日間の計7日間(投与A)のみ)、各被験試料(蒸留水、アークチン、アークチゲニン、牛蒡子微細粉末、リン酸オセルタミビル)を1日2回(午前9時と午後6時)経口投与した。
【0127】
【表8】

【0128】
(2)抗インフルエンザウイルス作用の評価
各被験群のマウスのうち、半数については、感染から3日目(3 day)に、BALF及び肺を採取して、BALFと肺のインフルエンザウイルス量を定量した。各被験群のマウスのうち、残り半数について感染直後から4週間に亘って(0 day〜28 day)、体重と死亡数を記録するとともに、感染から14日目(14 day)に尾静脈から採血して、下記の方法に従って血清中の中和抗体価を評価した。また、感染から28日後には、血清における中和抗体価、およびBALFにおける中和抗体価とIgA量をそれぞれ求めた。
【0129】
感染から3日目に採取した各被験群の肺とBALFにおけるインフルエンザウイルス量を、それぞれ図8および9に示す。
【0130】
図8の結果から、投与方法B(感染直後から感染7日後までの7日間投与)の場合、アークチンまたはアークチゲニン投与によるウイルス量の減少は、非投与群(第1群)と比べて、僅かであったが、投与方法C(感染7日前から感染7日後までの14日間投与)の場合、アークチンまたはアークチゲニンを投与することによって、非投与群(第1群)のウイルス量の48%まで低下した。また、投与方法A(感染前7日間投与)の場合、アークチン(#2)および牛蒡子微細粉末投与群(#4)のウイルス量は、非投与群(#1)の53〜56%まで低下することが確認された。
【0131】
また図9の結果から、上記と同様に、投与方法B(感染直後から感染7日後までの7日間投与)の場合、アークチンまたはアークチゲニン投与によるウイルス量の減少は、非投与群(第1群)と比べて、僅かであったが、投与方法C(感染7日前から感染7日後までの14日間投与)の場合、アークチンまたはアークチゲニンを投与することによって、非投与群(第1群)のウイルス量の33〜36%まで低下した。さらに投与方法A(感染前7日間投与)の場合、アークチン(#2)および牛蒡子微細粉末投与群(#4)のウイルス量は、それぞれ非投与群(#1)の59%および23%まで低下することが確認された。
【0132】
これらの結果は、アークチン、アークチゲニン、および牛蒡子微細粉末は、感染後の投与ではウイルス量低下効果をあまり示さないが、感染前あるいは感染前後投与によって有意なウイルス低下を起こすことを示す。このことから、アークチン、アークチゲニン、および牛蒡子微細粉末は免疫賦活効果によりその抗インフルエンザ活性を増強していることが示唆される。
【0133】
また、28日目(28 day)に全採血して得た血清における中和抗体価とBALFにおける中和抗体価を表9に示す。
【0134】
【表9】

【0135】
(3)毒性評価
各被験群について、感染後4週間に亘って測定した体重の結果を図10に、死亡率を表10に示す。図10からわかるように、対照群(蒸留水投与群)(#1)では、投与を中止した7日後に体重減少が見られ、その後は漸増した。比較群(リン酸オセルタミビル投与群)(#5)では、10%以内の体重減少が認められた。これに対して、アークチゲニン投与群およびアークチン投与群は、感染7日後に20−30%の体重減少が認められたものの、投与を中止した7日目以降急速に回復した。
【0136】
また、表10に示すように、対照群(#1)では、感染後8日までに8匹中4匹(1/2)が死亡した。一方、アークチン投与群(#2-B)、牛蒡子微細粉末投与群(#4-A)における死亡率は1/5まで低減した。他の投与群では死亡例はなかった。
【0137】
【表10】

【0138】
実験例6 貪食促進作用の評価
下記の方法により、牛蒡子微細粉末、アークチンおよびアークチゲニンについて貪食促進作用の有無を調べた。
【0139】
<実験方法>
1)24-well plate(10%牛胎児血清加ダルベッコMEM培地)にRAW 264.7(マウスのマクロファージ由来)細胞(2 x 104 cells/well)を加えて37℃で培養する。
2)1時間後に被験薬(牛蒡子微細粉末、アークチン、アークチゲニン)を表11に記載する濃度となるように加え、72時間、37℃で処理する。
3)これに蛍光ラテックスビーズ(Polysciences社製)を0.75μl/well加え、37℃で1時間培養する。
4)培養したRAW264.7細胞を、氷冷したPBS(リン酸緩衝生理食塩水)で3回洗浄する。
5)洗浄後、RAW264.7細胞を4%ホルムアルデヒドで固定後、クリスタルバイオレット液で染色する。
6)蛍光顕微鏡下で、蛍光ラテックスビーズを貪食した細胞としていない細胞とを計数する。
【0140】
<実験結果>
結果を表11に示す。
【0141】
【表11】

【0142】
いずれの被験薬も0.5−10μg/mlの濃度範囲で、無添加対照(コントロール)に比べて、異物の貪食を20−60%高めることが判明した。
【0143】
実験例7 NO産生刺激効果の評価
下記の方法により、牛蒡子微細粉末、アークチンおよびアークチゲニンについてNO産生刺激作用の有無を調べた。
<試験方法>
1) RAW 264.7細胞(1 x 106 cells/ml)を50μl/wellで96-well plateに加える。
2) 細胞が付着後、被験薬(牛蒡子微細粉末、アークチン、アークチゲニン)を表12の濃度で添加した培地(100μl/well)と交換する。
3) 20時間培養後、培養上清を80μl採取して、別の96-well plateに移す。
4) グリース試薬(1%スルファニルアミド+0.1% N-1-ナフチルエチレンジアミン二塩酸塩+2.5%リン酸)を同量加え、室温で10分間放置する。
5) OD550を測定する(対照OD630
6) NO定量のための標準曲線は、NaNO2溶液(1-50μMの範囲)を用いて作成する。
【0144】
<試験結果>
結果を表12に示す。
【0145】
【表12】

【0146】
表12に示すように、アークチンは、濃度依存的にNO産生を刺激したが、他の被験薬(アークチゲニン、牛蒡子微細粉末)はNO産生に影響を及ぼさなかった。自然免疫機能の1つであるNOによる細胞障害には寄与しないと考えられる。
【0147】
実験例8 アークチンの代謝
マウスにアークチンを経口投与し、体内における代謝動向を調べた。
(1)検量線の作成
マウス(6週齢、雌、BALB/cマウス)3匹の腋下頚動脈から採血し、直ちに遠心分離処理(3000×g, 10 min, 25℃)し、上清より血漿を得た。この血漿 各50μlに、アークチン標品(1.07 mg)、アークチゲニン標品(0.74 mg)をそれぞれ加え、ボルテックスにてよく振盪した。各血漿溶液に、アセトニトリル200μlを加え、ボルテックス振盪後、遠心分離(15,000×g, 5 min, 4℃)を行った。次いで上清液を回収し、LC-MS用96穴プレートに移し、下記の条件でElectrospray Ionization Tandem Mass Spectrometry(ESI-MS/MS)測定を行った。
【0148】
SRM (selected reaction monitoring) で、アークチゲニン由来親イオンm/z: 373の娘イオンm/z: 173をモニターした。その時に得られたピーク面積から検量線を作成した。
【0149】
<LCの条件>
カラム:GL Sciences社製 イナートシル(R)シリーズHPLCカラム ODS-3
移動相:0.1%蟻酸水溶液(Aポンプ)及び0.1%蟻酸アセトニトリル (Bポンプ)によるグラジュエント
グラジュエント条件
0 min − 15 min: 80%A - 20%B − 20% A - 80%B
15 min − 18 min: 20%A - 80%B − 0%A - 100%B
18 min − 24 min: 0%A - 100%B
24 min − 26 min: 0%A - 100%B − 80%A − 20%B
26 min − 30 min: 80%A - 20%B
流速:400μl/mim
検出: UV 254 nm。
【0150】
<ESI-MS/MSの条件>
測定モード:positive
arctiin、arctigenin由来共通イオンm/z: 373の娘イオンm/z:173をSRMでモニターした。
DP 50、FP 270、EP 10、CE 30、CXP 15。
【0151】
(2)マウスへのアークチン投与とその代謝測定
マウス(6週齢,雌、BALB/cマウス)24匹に、アークチン5 mg/mL (1% ethanol)を経口投与し、0.5、1、2、3、6、12、24及び48時間後に、各3匹のマウスの腋下頚動脈から血液を採取した。各血液はすぐさま遠心分離処理(3000×g, 10 min, 25℃)し、上清より血漿を得た。各血漿溶液は、検量線作成時と同様に処理をし、LC-MS/MS測定用試料とした。各時間経過後の試料を、検量線作成の条件でLC-MSMS測定し、血漿中のアークチン及びアークチゲニンの濃度を求めた。
【0152】
結果を図11に示す。
【0153】
この結果から、経口投与したアークチンは、吸収され体内で速やかにアークチゲニンになるものの、一部はそのままで12時間にわたり体内に存在することがわかった。この結果は、牛蒡子成分が体内で長時間ウイルス複製抑制効果、免疫力増強効果を持続できることを意味するものであり、優れたインフルエンザ発症予防、または重篤化予防効果を裏付けるものとなった。
【0154】
実験例9 抗インフルエンザウイルス作用の増強効果
(1)インビトロ試験
抗インフルエンザウイルス作用が確認されたアークチゲニンを用いて、ノイラミニダーゼ阻害剤との併用効果を調べた。なお、ノイラミニダーゼ阻害剤として、リン酸オセルタミビル(商品名:タミフル、ロッシュ製)を用いた。
【0155】
具体的には、上記(3)に記載する方法に準じて、インフルエンザウイルス(H1N1)に感染させた直後のMDCK細胞に、アークチゲニンとリン酸オセルタミビルをそれぞれIC50(アークチゲニン:3.2μM、リン酸オセルタミビル:0.98μM)以下の濃度になるように組み合わせて添加し、プラークアッセイにより抗インフルエンザウイルス活性を評価した。この結果から、両化合物の併用効果を、fractional inhibitory concentration (FIC)法により解析した。
【0156】
結果を図12に示す。図12中、横軸の1と縦軸の1を結ぶ直線は、両化合物の相加効果を示す基準線であり、解析によって得られた線がこの基準線より左下にある場合は相乗効果ありと判断することができる。一方、解析によって得られた線がこの基準線より右上にある場合は、両化合物の併用によって作用が増悪したことを示す。
【0157】
この図からわかるように、アークチゲニンとリン酸オセルタミビルを併用することによって、抗インフルエンザウイルス作用が相乗的に増強することが判明した。
【0158】
(2)インビボ試験
アークチゲニンの配糖体であるアークチンとノイラミニダーゼ阻害剤とを組み合わせて、インフルエンザウイルス感染マウスに経口投与し、抗インフルエンザウイルス作用の相乗効果の有無を調べた。なお、ノイラミニダーゼ阻害剤として、リン酸オセルタミビル(商品名:タミフル、ロッシュ製)を用いた。
【0159】
具体的には、BALB/cマウス(5週齢、雌)を、8群(第1群(5匹):対照群[蒸留水投与]、第2〜4群(各5匹):比較群1[リン酸オセルタミビル投与]、第5群(5匹):比較群2[アークチン投与]、第6〜8群(各5匹):本発明群[リン酸オセルタミビル+アークチン投与])に分け、各群のマウスにA型インフルエンザウイルス(H1N1)(2×106 PFU/50μl/mouse)を経鼻感染させ、その直後から各被験薬(蒸留水、リン酸オセルタミビル、アークチン)を1日2回(午前9時と午後6時)経口投与した。
【0160】
感染から3日後に、各群のマウスから、気管・気管支洗浄液(以下、「BALF」という)
、肺を採取し、BALFと肺のウイルス量をプラーク法で定量した。
【0161】
結果を表13に示す。なお、表は各群5匹の平均値を示す。
【0162】
【表13】

【0163】
この結果からわかるように、リン酸オセルタミビルとアークチンとを、0.02mg/day/mouseと1 mg/day/mouseの割合、および0.05 mg/day/mouseと1 mg/day/mouseの割合で、組み合わせて投与した場合に(第6群および第7群)、それぞれ肺及びBALFにおけるウイルス増殖を有意に減少させた。特に、BALF中のウイルス量は、リン酸オセルタミビル0.02mg/day/mouseと0.05mg/day/mouseの単独投与では、それぞれ対照群のウイルス量の76%と32%であったが(第2群および第3群)、これらのリン酸オセルタミビルをアークチン1 mg/day/mouseと併用することによって、それぞれ対照群のウイルス量の16%と10%となり、顕著なウイルス量の低下をもたらした。
【0164】
実験例10 免疫低下インフルエンザウイルス感染動物に対する抗インフルエンザウイルス作用
アークチゲニンの配糖体であるアークチンのインフルエンザウイルス感染動物に対する抗インフルエンザウイルス作用を評価するとともに、制癌剤である5−フルオロウラシル(以下「5-FU」という)を投与して免疫を低下させたマウスを用いて、免疫低下動物に対するアークチンの有効性を評価した。
【0165】
具体的には、表14に示すように、BALB/cマウス(5週齢、雌)を大きく3群(第1群:対照群[蒸留水投与、0.2ml/mouse/day]、第2群:比較群[リン酸オセルタミビル投与、0.2mg/0.2ml/mouse/day]、第3群:本発明群[アークチン投与、5mg/0.2ml/mouse/day])に分け、これらの各群をさらに5-FU非処理群(正常マウス)と5-FU処理群(免疫低下マウス)に分けた。
【0166】
なお、5-FU処理は、BALB/cマウス(n=50)に5-FU(0.5mg/0.1ml/mouse)を、インフルエンザウイルス感染1週間前から1日おきに、3週間(-7day〜14day)に亘って皮下投与することによって行った。
【0167】
【表14】

【0168】
これらの各群のマウスに、A型インフルエンザウイルス(H1N1)2×105 PFU/50μl/mouseの液を麻酔下で経鼻接種し、その直後から1週間に亘って、各被験群のマウスにそれぞれ各投与試料(蒸留水、リン酸オセルタミビル、アークチン)を経口投与した。
【0169】
各被験群のマウスのうち半数について感染直後から2週間に亘って(0day〜14day)、体重と死亡数を記録した。残り半数については、感染から3日目(3day)と7日目(7day)に、各々半数ずつ血液、BALFおよび肺を採取して、インフルエンザウイルス量、および中和抗体価について評価を行った。
【0170】
(1)アークチンの抗インフルエンザウイルス作用
感染から3日目と7日目に採取した各被験群の肺とBALFについて、プラーク法によってインフルエンザウイルス量を測定した。結果を表15に示す。また、感染から3日目および7日目の肺中のインフルエンザウイルス量をそれぞれ図13(A)および図13(B)に、3日目および7日目のBALF中のインフルエンザウイルス量をそれぞれ図14(A)および図14(B)に示す。
【0171】
【表15】

【0172】
<肺中のインフルエンザウイルス量>
感染3日後の結果から、アークチン投与(No.5)によって対照群の正常マウス(No.1)に比べて有意にウイルス量が低下しており、アークチンの経口投与による抗インフルエンザウイルス効果が認められた。免疫低下マウスについては、感染3日目では両者に有意な差異はみられなかったが、感染7日後のアークチン投与マウス(No.6)は対照群の免疫低下マウス(No.2)に比べて有意にウイルス量が低下しており、免疫低下マウスに対するアークチンの抗インフルエンザウイルス効果が確認された。
【0173】
<BALF中のインフルエンザウイルス量>
感染3日後および7日後とも、肺のインフルエンザウイルス量と同様な結果を示した。具体的には、感染3日後の結果から、アークチン投与(No.5)によって対照群の正常マウス(No.1)に比べて有意にウイルス量が低下しており、アークチンの経口投与による抗インフルエンザウイルス効果が認められた。また免疫低下マウスについては、感染3日目では両者に有意な差異はみられなかったが、感染7日後のアークチン投与マウス(No.6)は対照群の免疫低下マウス(No.2)に比べて有意にウイルス量が低下しており、免疫低下マウスに対するアークチンの抗インフルエンザウイルス効果が確認された。
【0174】
一方、リン酸オセルタミビルは強い抗インフルエンザウイルス作用を有するものの、免疫低下マウスに対しては、感染7日後のウイルス量が、感染3日後のウイルス量のわずか1.8倍しか低下しなかった。アークチンについては約87倍の低下が認められることなどを考えると、リン酸オセルタミビルは免疫低下した動物に対しては効力が落ちることが示唆される。
【0175】
(2)中和抗体価
マウスの血液から血清を分離し、滅菌した生理食塩水で5〜78125倍に希釈した。その希釈液0.1 mlとインフルエンザウイルス(200プラーク形成単位/0.1 ml)0.1 mlとを混合し、37℃で、1時間処理した。0.1mlの混合液を、35mmディッシュに培養したMDCK細胞に感染させ、2日後に形成されたプラークをクリスタルバイオレット液で染色して、プラーク数を測定した。血清の代わりに生理食塩水をウイルス液に加えた対照のプラーク数を100%として、50%のプラーク数になる血清希釈倍数を計算し、その値を中和抗体価とした。
【0176】
血清とBALFについて、中和抗体価を測定した。
【0177】
結果を表16および図15に示す。
【0178】
【表16】

【0179】
<血清>
いずれの被験群も、感染3日後の中和抗体価は全体的に低く、31〜39の範囲であり、処理の違いや5-FU処理の有無による差はみられなかった。またいずれの被験群も感染7日後には中和抗体価が上昇した。しかし、5-FU処理により免疫が低下したマウスでは中和抗体価は低下していた。具体的には、第1群(対照群)では3900(No.1)→ 990(No.2)(3.9倍の低下)、第2群(リン酸オセルタミビル投与群)では1100(No.3)→ 170(No.4)(6.5倍の低下)、第3群(アークチンン投与群)では2800(No.5)→ 1800(No,6)(1.6倍の低下)でいずれも5-FU処理により中和抗体価は低下した。中でもリン酸オセルタミビルは、被験群の免疫低下の影響を最も大きく受けることが確認された。一方、アークチンは被験群の免疫低下の影響を受けにくく、免疫低下したインフルエンザウイルス感染動物に対しても高い中和抗体価を誘導し、有効な抗インフルエンザウイルス作用(免疫効果)を示した。
【0180】
<BALF>
感染3日後の全被験群(No.1〜6)の試料と、感染7日後の5-FU処理群(No.2,4,6)の試料は、いずれもウイルスが存在するために中和試験による評価はできなかった。感染7日後の5-FU非処理群(No.1,3,5)の試料について測定した中和抗体価の結果から、アークチンの投与(No.5)によってリン酸オセルタミビルの投与(No.3)よりも中和抗体価が有意に高くなっていた。このことから、アークチンは、インフルエンザウイルス感染動物に対して高い中和抗体価を誘導して、優れた抗インフルエンザウイルス作用(免疫作用)を有することが確認された。
【0181】
(3)被験動物の体重変化
各被験群(No.1〜6)について、3週間(-7day〜14day)に亘って測定した体重の結果を図16に示す。
【0182】
第1群(蒸留水投与群)の5-FU非処理群(No.1)は、感染7日後に約30%の体重減少が認められたが、その後は漸増した。しかし、5-FU処理群(No.2)の体重は感染7日目以降も減少し続けた。第2群(リン酸オセルタミビル投与群)の5-FU非処理群(No.3)は、急性期(感染3日後)には約7%の体重減少を示したが、その後は漸増した。しかし5-FU処理群(No.4)の体重は、急性期が過ぎても、また投薬を中止した7日目以降も減少し続けた。免疫抑制状態では、リン酸オセルタミビルを投与しても体重が持続的に減少するということは既に論文で発表されており(M.G. Ison, V.P. Mishin, T.J. Braciale, F.G. Hayden, L.V. Gubareva: Comparative activities of oseltamivir and A-322278 in immunocompetent and immunocompromised murine models of influenza virus infection. The Journal of Infectious Diseases 2006; 193: 765-772.)、今回の実験はこれを裏付ける結果となった。
【0183】
一方、第3群(アークチン投与群)の5-FU処理群(No.6)は、第1群(No.2)と同様の体重の減少傾向を示したが、5-FU非処理群(No.5)の体重の減少傾向は第1群(No.1)の減少より軽度であった。
【0184】
また、アークチンの投与によって死亡する例はなく、副作用は認められなかった。
【0185】
実験例11 ウイルスの薬剤耐性化の評価
実験例10で調製した第2群(リン酸オセルタミビル投与群)の5-FU処理群(No.4)及び第3群(アークチン投与群)の5-FU処理群(No.6)のインフルエンザウイルス感染7日後の肺とBALFの試料を用いて、アークチン投与およびリン酸オセルタミビル投与によるウイルス耐性化の有無を評価した。
【0186】
具体的には、まず、No.4およびNo.6から採取した各試料(肺、BALF)を約20 PFU/dishになるように希釈し、単層に調製したMDCK細胞に感染させた。その2日後に、プラークの出現を確認して、肺とBALFの各試料からそれぞれ48 clonesのウイルス(virus isolates)をイエローチップで拾い、すぐに、別に用意したMDCK 細胞(単層)に感染させた(この方法をplaque purificationと呼ぶ)。翌日、CPE(細胞変性効果、cytopathic effect)を確認した。
【0187】
また得られたウイルス(virus isolates)を、約0.1 PFU/cellになるように適宜希釈し、No.4から採取した試料についてはリン酸オセルタミビル、No.6から採取した試料についてはアークチンを投与して、これらの薬剤に対する感受性を調べた。各結果をそれぞれ表に示す。なお、結果はIC50値で表現し、challenge virus(マウス鼻腔内接種に用いた最初のウイルス)のIC50値と比較して、drug resistanceの有無を評価した。
【0188】
【表17】

【0189】
この結果から、リン酸オセルタミビルに対する感受性が約10倍以上低下(IC50値:1.3 - 42)したインフルエンザウイルスは48 clonesのうちの24 clonesであり、これは全体の50%に相当した。また感受性が100倍以上も低下(IC50値:33, 42)したインフルエンザウイルスも2 clones (4.2 %)あった。
【0190】
【表18】

【0191】
この結果からわかるように、アークチンに対する感受性が約2倍以上低下したインフルエンザウイルスはなかった。
【0192】
以上の結果から、リン酸オセルタミビルの投与によって約50%のウイルス分離株がリン酸オセルタミビルに対する感受性の低下を示し、リン酸オセルタミビルの投与によると耐性ウイルスが出現しやすいことが明らかになった。これに対して、アークチン投与によっても薬剤感受性の低下はみられず、インフルエンザウイルスはアークチンに対して耐性を獲得しにくいことが判明した。
【0193】
上記の実験例から、本発明の有効成分であるアークチゲニンおよびその配糖体の効果をまとめると、以下のようになる。
【0194】
(1)無処理群と比較した場合:
(1-1) 免疫正常マウス(5-FU非処理マウス)において、感染3日後の急性期の肺及び気道のウイルス産生を有意に抑制した。
(1-2) 免疫低下マウス(5-FU処理マウス)において、感染7日後の肺及び気道のウイルス産生を有意に抑制した。また、中和抗体価を有意に上昇させた。これらのことから、アークチゲニンおよびその配糖体は、体内から早期にインフルエンザウイルスを排除することに寄与することが期待される。
【0195】
(2)リン酸オセルタミビルと比較した場合:
(2-1) 免疫正常マウス、免疫低下マウスのいずれにおいても、ウイルス量の低下効果はリン酸オセルタミビル投与の場合よりも低かったが、中和抗体価はリン酸オセルタミビル投与の場合よりも有意に上昇した。
(2-2) 感染7日後に体内(肺及び気道洗浄液)に残存していたウイルスについて薬剤感受性を検討したところ、リン酸オセルタミビル投与によって約50%の分離株が感受性の低下を示し、耐性ウイルスが出現しやすいことが明らかになった。これに対して、アークチン感受性には変化がみられなかった。すなわち、インフルエンザウイルスはアークチンに対して耐性を獲得しにくいとみられる。
【図面の簡単な説明】
【0196】
【図1】実験例2(4)において、アークチゲニンおよびリン酸オセルタミビルについて、インフルエンザウイルス感染細胞からの子孫ウイルスの放出阻止作用があるかどうかを調べた結果を示す。横軸は感染時間を、縦軸は培地中に放出されたウイルス量(×103PFU/dish)を示す。
【図2】実験例3(2)において、インフルエンザウイルス感染から3日目に採取した各マウス被験群の肺について、インフルエンザウイルス量を測定した結果を示す。
【図3】実験例3(2)において、インフルエンザウイルス感染から3日目に採取した各マウス被験群のBALFについて、インフルエンザウイルス量を測定した結果を示す。
【図4】実験例3(2)において、インフルエンザウイルス感染から14日目(14 day)と28日目(28 day)に尾静脈採血して得た血清における中和抗体価を示す。
【図5】実験例3(2)において、インフルエンザウイルス感染から28日後に採取した、BALFにおける中和抗体価を示す。
【図6】実験例3(2)において、インフルエンザウイルス感染から28日後に採取した、BALFにおけるIgA量を示す。
【図7】実験例3(3)において、インフルエンザウイルス感染後4週間に亘って測定した、マウス被験群の体重変化を示す。
【図8】実験例5(2)において、インフルエンザウイルス感染から3日目に採取した各マウス被験群の肺について、インフルエンザウイルス量を測定した結果を示す。
【図9】実験例5(2)において、インフルエンザウイルス感染から3日目に採取した各マウス被験群のBALFについて、インフルエンザウイルス量を測定した結果を示す。
【図10】実験例5(3)において、インフルエンザウイルス感染後4週間に亘って測定した、マウス被験群の体重変化を示す。
【図11】実験例8において、アークチンを経口投与したマウスの血漿中のアークチン及びアークチゲニンの濃度の経時的変化を示す。
【図12】実験例1(5)において、抗インフルエンザウイルス作用に対するアークチゲニンとリン酸オセルタミビルとの併用効果(−●−)を、fractional inhibitory concentration (FIC)法により解析した結果を示す。
【図13】実験例2(1)において、第1群(Water投与群)、第2群(Oseltamivir投与群)および第3群(Arctiin投与群)の5-FU非処理マウス(No.1、No.3、No.5:5-FU(-))および5-FU処理マウス(No.2、No.4、No.6:5-FU(+))について、インフルエンザウイルス感染から3日目と7日目の肺中のインフルエンザウイルス量を示す(図A)。なお、図Bは感染から7日目の結果の拡大図である。
【図14】実験例2(1)において、第1群(Water投与群)、第2群(Oseltamivir投与群)および第3群(Arctiin投与群)の5-FU非処理マウス(No.1、No.3、No.5:5-FU(-))および5-FU処理マウス(No.2、No.4、No.6:5-FU(+))について、インフルエンザウイルス感染から3日目と7日目のBALF中のインフルエンザウイルス量を示す(図A)。なお、図Bは感染から7日目の結果の拡大図である。
【図15】実験例2(2)において、第1群(Water投与群)、第2群(Oseltamivir投与群)および第3群(Arctiin投与群)の5-FU非処理マウス(No.1、No.3、No.5:5-FU(-))および5-FU処理マウス(No.2、No.4、No.6:5-FU(+))について、感染3日後と7日後の血清について中和抗体価を測定した結果を示す。
【図16】実験例2において、各被験群(No.1〜6)について、3週間(-7day〜14day)に亘って測定した体重の結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アークチゲニン、その配糖体およびそれらの塩からなる群から選択される少なくとも1種を有効成分とする、インフルエンザウイルス感染に対する免疫賦活剤。
【請求項2】
インフルエンザに対する予防剤として用いられる、請求項1記載の免疫賦活剤。
【請求項3】
インフルエンザウイルスの流行期または感染後に投与されることを特徴とする、請求項1または2に記載する免疫賦活剤。
【請求項4】
免疫低下した被験者に対して投与されるものである、請求項1乃至3のいずれかに記載する免疫賦活剤。
【請求項5】
ノイラミニダーゼ阻害剤と組み合わせて用いられる、アークチゲニン、その配糖体およびそれらの塩からなる群から選択される少なくとも1種を有効成分とする、抗インフルエンザウイルス剤。
【請求項6】
ノイラミニダーゼ阻害剤と、アークチゲニン、その配糖体およびそれらの塩からなる群から選択されるの少なくとも1種とを組み合わせてなる、抗インフルエンザウイルス剤。
【請求項7】
ノイラミニダーゼ阻害剤、およびアークチゲニン、その配糖体およびそれらの塩からなる群から選択される少なくとも1種を、それぞれ別個の包装形態で含むキットである、請求項6に記載する抗インフルエンザウイルス剤。
【請求項8】
ノイラミニダーゼ阻害剤が、オセルタミビル、ザナミビルまたはその薬学的に許容される塩である、請求項7乃至9のいずれかに記載する抗インフルエンザウイルス剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2010−138081(P2010−138081A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−313706(P2008−313706)
【出願日】平成20年12月9日(2008.12.9)
【出願人】(399030060)学校法人 関西大学 (208)
【Fターム(参考)】