説明

インフルエンザウイルス感染抑制剤

【課題】インフルエンザウイルスの感染抑制効果を有する組成物の提供。
【解決手段】ヒナゲシを水を用いて、抽出し、その抽出液を凍結乾燥して精製することにより得た抽出物を有効成分とすることを特徴とする抗インフルエンザウイルス剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
インフルエンザウイルスの感染抑制効果を有する組成物の提供。
【背景技術】
【0002】
インフルエンザウイルスに感染すると高熱、頭痛、関節痛、全身倦怠等の臨床症状を示し、死亡する場合もある。インフルエンザウイルスは感染力が強く、一般的な風邪と異なり短期間で爆発的な流行を引き起こすのが特徴である。
インフルエンザの予防・治療法としては、ワクチン接種による予防やノイラミニダーゼ阻害剤等の薬剤による治療が一般的に知られている。しかし、ワクチンはインフルエンザウイルスのタイプによって効果が著しく異なるため万能ではなく、薬剤は副作用や耐性ウイルスの出現といった問題がある。
【0003】
このような背景から、インフルエンザウイルスの感染を予防または治療する組成物の開発が行われており、葛根湯(非特許文献1)、ラクトフェリンとラクトペルオキシダーゼ(非特許文献2)、有胞子性乳酸菌(特許文献1)、クロモグリク酸(特許文献2)、哺乳動物の初乳由来タンパク質画分(特許文献3)、シアロ糖鎖含有ポリマー(特許文献4)、蕎麦(特許文献5)、カシス(特許文献6)、各種植物抽出物(特許文献7、8)等がインフルエンザウイルス感染抑制効果を示す成分として開示されている。しかしながらこれらの成分は、いまだ十分なインフルエンザウイルス感染抑制効果を示すとは言えず、さらなる予防や治療法の開発が求められている。
【0004】
本発明者等は、インフルエンザウイルス感染抑制効果を示す物質を提供することを目的として、探索した結果、ヒナゲシ抽出物質が有効なインフルエンザウイルス感染抑制効果を示すことを見出した。本発明でインフルエンザウイルスの感染抑制効果が認められたヒナゲシ(ポピー)(学名:Papaver rhoeas L.)はケシ科の植物で別名を虞美人草といい、鎮静、催眠、止痛作用等があるといわれ、鎮咳薬や鎮静剤として用いられているが、ウイルスの感染抑制効果については全く知られていない。
ヒナゲシ(ポピー)の薬理作用に関し、ハーブを含む免疫賦活剤に関する特許(特許文献9)にハーブの一例としてポピーの記載があるものの、発明の具体性に欠ける文献であり、ポピーのウイルス感染抑制効果に関する記載も示唆もない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008-13543号公報
【特許文献2】特開2004-352712号公報
【特許文献3】特開2009-190994号公報
【特許文献4】特開2008-31156号公報
【特許文献5】特許第4185996号明細書
【特許文献6】特開2009-269861号公報
【特許文献7】特開2005-343836号公報
【特許文献8】特開2004-59463号公報
【特許文献9】特開2002-370993号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Kurokawa M. et al.、Antiviral Research、2002年、56巻、183-188頁、Effect of interleukin-12 level augmented by Kakkon-to, a herbal medicine, on the early stage of influenza infection in mice.
【非特許文献2】Shin K. et al.、Journal of Medical Microbiology、2005年、54巻、717-723頁、Effects of orally administered bovine lactoferrin and lactoperoxidase on influenza virus infection in mice.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、インフルエンザウイルスの感染抑制効果を有する組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ヒナゲシの抽出物を有効成分とすることを特徴とする抗インフルエンザウイルス剤に関する。
さらに、本発明は、ヒナゲシを水を用いて、抽出し、その抽出液を凍結乾燥して精製することにより得た抽出物を有効成分とすることを特徴とする抗インフルエンザウイルス剤に関する。
さらにまた、本発明は、ヒナゲシ抽出物を含有する抗インフルエンザウイルス作用を有する飲食品に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明のヒナゲシ抽出物は、IgA分泌促進効果やインフルエンザウイルス感染抑制効果を有し、インフルエンザに感染しにくい体質をつくると考えられ、のど飴の機能強化が可能に成る新素材である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】インフルエンザウイルス接種後16日までの、ポピー抽出物投与群と対照群とのマウス生存率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明者等は、インフルエンザウイルス感染抑制効果を示す物質を探索した結果、ヒナゲシ(ポピー)抽出物に注目し、このヒナゲシ抽出物を投与して飼育したマウスと非投与マウスとに同じ量のインフルエンザウイルスを感染させて、その後の経過を観察すると、ヒナゲシ抽出物を投与したマウスの方がインフルエンザウイルス感染による体重減少が緩やかになり、生存率も改善傾向にあることを見出した。
以下、具体例を実施例で説明する。なお、本発明は以下の具体例に限定されるものではない。
【実施例】
【0012】
(実施例1)
ヒナゲシ熱水抽出物の調製
ヒナゲシ(ポピー)(花)100gを粉砕した後、試料の重量に対して10倍量の水を加え、70℃で2時間抽出した。不溶物を濾過した後、得られた抽出液を凍結乾燥してヒナゲシ熱水抽出物37.5gを得た。
【0013】
(実施例2)
マウスへの反復舌下投与によるインフルエンザウイルス感染抑制効果
7週齢のマウス(BALB/c系)30匹を対照群(14匹)と投与群(16匹)に分け、普通飼料(MF, オリエンタル酵母)で飼育した。投与群には飼育開始時からヒナゲシ(花)熱水抽出物を4mg/dayの用量で水溶液として毎日舌下投与し、対照群は同量の水のみを舌下投与した。4週目にインフルエンザウイルスを麻酔下で経鼻接種(100pfu/50μl PBS/匹)し、接種後16日までの体重を測定した。インフルエンザウイルスはA/PR/8/34(H1N1)株を用い、ヒナゲシ(花)熱水抽出物の舌下投与はウイルス感染後も行った。ウイルス接種時の各動物の体重は以下の表1の通りであり、両群間に有意差を認めなかった。
【0014】
【表1】

【0015】
本実施例において得られた結果を表2、表3および図1に示す。
表2及び表3は、インフルエンザウイルス接種後16日までのマウスの体重変化をグラムで示したものであり、ポピー抽出物投与群と対照群の個別データと平均データを示す。
図1は、インフルエンザウイルス接種後16日までの、ヒナゲシ抽出物投与群と対照群とのマウス生存率をプロットしたものである。
表2及び表3において、日数はインフルエンザウイルス接種後の経過日数、体重変化はウイルス接種時の体重からの変化量を示した。表2及び表3中の×はマウスが死亡したことを示す。
【0016】
図1から明らかなように、インフルエンザウイルス接種後16日経過時において、対照群は14匹中5匹の生存(生存率36%)に対し、ポピー抽出物投与群では16匹中10匹の生存(生存率63%)であった。ログランクテストの結果、12日目までの生存率では投与群が対照群に比べて有意に高く、16日目までの生存率では投与群が対照群に比べて高い傾向であった。
また、体重変化については、t−検定の結果、3日目から7日目までの期間は対照群に比べて投与群の体重減少が有意に抑えられており、投与群のほうがウイルス感染による体重減少が緩やかと考えられた。
【0017】
以上の結果から、ヒナゲシ抽出物の投与によってウイルス感染によるマウスの死亡や体重減少が抑えられると考えられた。
【0018】
【表2】

【0019】
【表3】

【0020】
次に、インフルエンザウイルス感染抑制効果を示した本発明のヒナゲシ抽出物を用いて、錠剤、チューインガム、キャンディ、チョコレート、ビスケット、グミゼリー、錠菓、アイスクリーム、シャーベット、飲料を常法にて調製した。以下にその処方を示した。
【0021】
(実施例3)
下記処方にしたがって錠剤を調製した。
D−マンニトール 33.6%
乳糖 33.6
結晶セルロース 8.5
ヒドロキシプロピルセルロース 4.3
ヒナゲシ抽出物 20.0
100.0%
【0022】
(実施例4)
下記処方にしたがってチューインガムを調製した。
ガムベース 20.0%
砂糖 54.7
グルコース 15.0
水飴 9.5
香料 0.5
ヒナゲシ抽出物 0.3
100.0%
【0023】
(実施例5)
下記処方にしたがってキャンディを調製した。
砂糖 50.0%
水飴 33.0
クエン酸 1.0
香料 0.2
L−メントール 1.0
ヒナゲシ抽出物 0.5
水 14.3
100.0%
【0024】
(実施例6)
下記処方にしたがってチョコレートを調製した。
カカオビター 20.0%
全脂粉乳 20.0
カカオバター 17.0
粉糖 41.85
レシチン 0.45
香料 0.1
ヒナゲシ抽出物 0.6
100.0%
【0025】
(実施例7)
下記処方にしたがってビスケットを調製した。
砂糖 31.7%
小麦粉 26.8
片栗粉 26.8
バター 3.2
卵 10.2
重曹 0.3
ヒナゲシ抽出物 1.0
100.0%
【0026】
(実施例8)
下記処方にしたがってグミゼリーを調製した。
ポリデキストロース水溶液 40.0%
ソルビトール水溶液 8.0
パラチノース水溶液 9.0
マルトース水溶液 20.0
トレハロース水溶液 11.0
ゼラチン 10.0
酒石酸 1.0
ヒナゲシ抽出物 1.0
100.0%
【0027】
(実施例9)
下記処方にしたがって錠菓を調製した。
砂糖 76.1%
グルコース 19.0
ショ糖脂肪酸エステル 0.2
香料 0.2
ヒナゲシ抽出物 0.5
水 4.0
100.0%
【0028】
(実施例10)
下記処方にしたがってタブレットを調製した。
砂糖 35.85%
ショ糖脂肪酸エステル 0.15
ヒナゲシ抽出物 60.0
水 4.0
100.0%
【0029】
(実施例11)
下記処方にしたがってアイスクリームを調製した。
卵黄 11.0%
砂糖 14.0
牛乳 37.0
生クリーム 37.0
バニラビーンズ 0.5
ヒナゲシ抽出物 0.5
100.0%
【0030】
(実施例12)
下記処方にしたがってシャーベットを調製した。
オレンジ果汁 16.0%
砂糖 31.0
ヒナゲシ抽出物 3.0
水 50.0
100.0%
【0031】
(実施例13)
下記処方にしたがって飲料を調製した。
オレンジ果汁 30.0%
異性化糖 15.33
クエン酸 0.1
ビタミンC 0.04
香料 0.1
ヒナゲシ抽出物 0.01
水 54.42
100.0%
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明のヒナゲシ抽出物は、インフルエンザウイルス感染抑制効果を示すことから、インフルエンザウイルスを抑制するための種々の医薬品並びに飲食品に適用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒナゲシの抽出物を有効成分とすることを特徴とする抗インフルエンザウイルス剤。
【請求項2】
ヒナゲシを水を用いて、抽出し、その抽出液を凍結乾燥して精製することにより得た抽出物を有効成分とすることを特徴とする抗インフルエンザウイルス剤。
【請求項3】
ヒナゲシ抽出物を含有する抗インフルエンザウイルス作用を有する飲食品。

【図1】
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【公開番号】特開2012−1491(P2012−1491A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−138191(P2010−138191)
【出願日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【出願人】(307013857)株式会社ロッテ (101)
【Fターム(参考)】