説明

インフルエンザウイルス感染防止可溶化液

【課題】本発明は、経時安定性、安全性に優れた抗インフルエンザウイルス効果を有する可溶化液を提供することを目的とする。
【解決手段】モノエステル純度が50%以上のジグリセリンラウレート1〜20質量%と、HLB12以上のポリグリセリン脂肪酸エステルをジグリセリンラウレートに対して10〜200質量%含有するインフルエンザウイルス感染防止可溶化液。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全て食品添加物から構成される、安全性、皮膚刺激性などに優れたインフルエンザ感染防止目的の可溶化液を提供することにある。
【背景技術】
【0002】
毎年、インフルエンザ感染症は世界中で繰り返されている。一般的には、ワクチンを接種するか、アマンタジンやオセルタミビルリン酸塩(タミフル:登録商標)やザナミビル水和物(リレンザ:登録商標)などの抗インフルエンザウイルス剤を服用することで、予防もしくは治療を行っている。抗インフルエンザウイルス剤は高い抗インフルエンザ活性を示すものの、薬剤耐性ウイルスの出現や頭痛や呼吸困難などの副作用などの問題がある。このため、副作用がなく人体に安全でしかも効果の高い抗インフルエンザウイルス剤の開発が求められている。
【0003】
インフルエンザ感染症に対する感染予防としてワクチン接種があるが、その年に流行するインフルエンザウイルスの型が毎年異なるため、その型に対応するワクチンの製造が間に合わない事態が生じている。したがって、インフルエンザウイルスに対しては、感染予防が最も重要なものである。
このような観点から、これまでにインフルエンザウイルス感染予防剤として種々のものが提案されており、例えば、茶ポリフェノールを有効成分とするもの(例えば、特許文献1参照)、クロロゲン酸エステルを有効成分とするもの(例えば、特許文献2参照)などが提案されている。
しかしながら、安全性が高く、有効なインフルエンザウイルス感染予防剤は、これまで登場していなかったのが現状であった。
【0004】
本発明者らは、食品添加物に認可されており、食品や飲料などの乳化剤などとしても使われている安全性の高いポリグリセリン脂肪酸エステルの薬理作用について種々検討してきたなかで、モノエステル純度が50%以上であるポリグリセリン脂肪酸エステルに抗インフルエンザウイルス活性、すなわちインフルエンザウイルスに対する感染防止作用があることを見いだした(特許文献3)。
しかしながら、ポリグリセリン脂肪酸エステルはほとんどがペースト状であり、非常に使いにくい。そのため、消毒剤として用いたり、不織布に塗布したりして用いることを想定すると、水や水性溶剤で簡単に希釈できるように、水溶液状にしておく必要がある。しかし、ポリグリセリン脂肪酸エステルは水に溶解しにくく、溶解しても経時での安定性も悪く使用しにくいものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平3−101623号公報
【特許文献2】特開2004−345971号公報
【特許文献3】特願2009−112590号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、経時安定性に優れ、かつ、水や水性溶剤にも簡単に溶解できる使い易いポリグリセリン脂肪酸エステル可溶化液を提供し、かつその抗インフルエンザウィルス性を高めることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決するため鋭意検討を行った結果、数多く有るポリグリセリン脂肪酸エステルの内、モノエステル純度が50%以上であるジグリセリンラウレートが上記課題を解決するのに適したものであることを見出し本発明を完成した。
即ち、本発明は以下の構成からなる。
1.モノエステル純度が50%以上のジグリセリンラウレートを1〜20質量%と、HLB12以上のポリグリセリン脂肪酸エステルをジグリセリンラウレートに対して10〜200質量%と、水とを混合して得られるインフルエンザウイルス感染防止可溶化液。
2.前記1の可溶化液中に多価アルコールを5〜80質量%加えたインフルエンザウイルス感染防止可溶化液。
3.前記1又は2に記載のインフルエンザウイルス感染防止可溶化液を水または水性溶剤で希釈して得られる抗インフルエンザウイルス水溶液。
4.前記1又は2に記載の可溶化液を含有してなるマスク又はウエットティッシュ。
【発明の効果】
【0008】
本発明の可溶化液は、長期間保管しても分離することなく安定であり、かつ全て食品添加物から構成され安全性が高く、刺激性も少ないため、皮膚向け、口腔向け、食品向けなどのインフルエンザ感染防止可溶化液としての用途や、不織布などに塗布して、インフルエンザ感染防止効果を付与する用途などに用いることができる。
また、ジグリセリンラウレートが均一に溶解しているので不織布などに塗布したときインフルエンザウイルスとジグリセリンラウレートが接触しやすくなることで抗インフルエンザウィルス性がより高くなった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の詳細について説明する。
本発明のモノエステル純度が50%以上であるジグリセリンラウレートは、ジグリセリンとラウリン酸との公知の反応の方法によるエステル化反応、又はジグリセリンとラウリン酸低級アルキルアルコールとの公知の方法によるエステル交換反応等の方法によって得られた反応物を、分子蒸留やクロマトグラフィー、溶剤分別等の公知の方法により、モノエステル純度を50%以上に高めることにより得られるジグリセリンラウレートであり、より好ましくは70質量%以上に高めたものが好適である。
用いられるラウリン酸は純度が50%以上のものが望ましい。脂肪酸鎖長の長い成分が多くなると水に可溶化しにくくなり、脂肪酸鎖長が短くなると皮膚刺激性などが強くなり、使いにくい。
【0010】
本発明のHLB12以上のポリグリセリン脂肪酸エステルとは、好適には平均重合度6以上のポリグリセリンと炭素数8以上22未満の飽和脂肪酸、または不飽和脂肪酸をエステル化したものである。例えば、ヘキサングリセリンモノカプリレート、ヘキサグリセリンモノカプレート、ヘキサグリセリンモノラウレート、ヘキサグリセリンモノミリステート、ヘキサグリセリンモノパルミテート、ヘキサグリセリンモノステアレート、ヘキサグリセリンモノオレート、ヘプタグリセリンモノカプリレート、ヘプタグリセリンモノカプレート、ヘプタグリセリンモノラウレート、ヘプタグリセリンモノミリステート、ヘプタグリセリンモノパルミテート、ヘプタグリセリンモノステアレート、ヘプタグリセリンモノオレート、デカグリセリンモノカプリレート、デカグリセリンモノカプレート、デカグリセリンモノラウレート、デカグリセリンモノミリステート、デカグリセリンモノパルミテート、デカグリセリンモノステアレート、デカグリセリンモノオレートなどが挙げられる。これらポリグリセリン脂肪酸エステルは、水にほとんど溶解しない本発明に用いられるジグリセリンラウレートを水に溶解させるために必須の成分である。これらHLB12以上のポリグリセリン脂肪酸エステルの配合量は、経時での安定性などの観点からジグリセリンラウレートに対して10〜200質量%、より好ましくは20〜200質量%である。
【0011】
本発明の多価アルコールとは、例えばグリセリン、ポリグリセリン、プロピレングリコール、ソルビトール、キシリトール、マンニトールなどが挙げられる。多価アルコールの配合量は、経時での安定性などの観点から可溶化液全量に対して5〜80質量%が望ましい。
【0012】
この可溶化液を希釈して、皮膚用や口腔用、食品用の抗インフルエンザ水溶液として使用したり、マスクやフィルター、ウェットティッシュ、繊維などに塗布してインフルエンザ感染防止効果を付与することができる。
【0013】
本発明に係るインフルエンザウイルス感染防止可溶化液を製造するには、室温〜90℃の範囲で加温して、上記成分を混合して製造できる。混合にはプロペラ式やアンカー式等の単純攪拌機でもよいし、ホモジナイザーやホモミキサーなどの高せん断乳化機等を用いてもよい。更には高圧ホモジナイザーや高圧加圧乳化機等で高圧処理しても良い。
【0014】
本発明の可溶化液には他の抗菌成分、防腐剤などを配合しても良い。例えば、安息香酸ナトリウム、ソルビン酸、ヒノキチオール、プロタミン、ポリフェノール類、キトサン、クエン酸、ポリリジン、焼成カルシウムなどが挙げられる。
【0015】
以下に、本発明の実施例を挙げ更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
【実施例】
【0016】
<試験液の調製と安定性>
表1の配合で70℃にて1時間攪拌し、試験液を調製した。原料と試験方法は以下に示す。
【0017】
<原材料>
ジグリセリンラウレート(理研ビタミン社製:ポエムDL−100、モノエステル含量77%)
デカグリセリンラウレート(理研ビタミン社製:ポエムJ−0021、HLB15.5)
デカグリセリンオレート(理研ビタミン社製:ポエムJ−0381、HLB12)
グリセリン(和光純薬工業社製)
プロピレングリコール(和光純薬工業社製)
ソルビトール(和光純薬工業社製)
【0018】
<ジグリセリンラウレートのモノエステル含量の測定>
ジグリセリンラウレートを10mgとり、下記移動相1mlに溶解し、下記条件のGPCにて、モノエステル含量を分析した。
装置 :島津製作所社製HPLC
移動相 :テトラヒドロフラン
検出器 :RI
カラム :Shim−Pack GPC−801 ×2本
移動相流量 :1.0ml/min
【0019】
<HLBの算出方法>
アトラス法にて算出した。
HLB=20×(1−エステルのケン化価/脂肪酸の中和価)
【0020】
<分離状態>
可溶化液をねじ口試験管に入れ、1ヶ月、40℃で保管して分離状態を確認した。
○・・・1月後も沈殿物無し
△・・・1月後には分離
×・・・1日後には分離
【0021】
<水溶液での抗インフルエンザ性評価>
本発明のインフルエンザウイルス感染防止可溶化液を精製水で希釈して抗インフルエンザウィルス性を測定した。また、比較として、本発明に用いられるジグリセリンラウレート、デカグリセリンラウレート、グリセリンそれぞれを水に溶解した場合の抗インフルエンザウィルス性を評価した。
【0022】
<抗インフルエンザウイルス性試験方法>
[試験ウイルス]
インフルエンザウイルスA型(H1N1)
[使用細胞]
MDCK(NBL−2)細胞ATCC CCL−34株(大日本製薬社製)
【0023】
[ウイルス液の調製]
細胞増殖培地を用い、MDCK細胞を組織培養用フラスコ内に単層培養した。培養後、フラスコ内から細胞増殖培地を除き、試験ウイルスを接種した。次に細胞維持培地を加え、37±1℃の炭酸ガスインキュベーター内で1〜3日間培養した。培養後、倒立位相差顕微鏡を用いて細胞の形態を観察し、細胞の形態変化(細胞変性効果)が生じていることを確認した。確認後、培養液を遠心分離(3000r/m、10分間)して得られた上澄み液をウイルス液とした。
【0024】
[使用培地]
(1)細胞増殖培地
イーグルMEM培地「ニッスイ」(日水製薬社製)に牛胎仔血清を10%加えたものを使用。
(2)細胞維持培地
以下の組成の培地を使用。
イーグルMEM培地(ニッスイ) 1000ml
10%NaHCO3 14ml
L−グルタミン(30g/l) 9.8ml
100×MEM用ビタミン液 30ml
10%アルブミン 20ml
0.25%トリプシン20ml
【0025】
[ウイルス不活化試験]
試料1mlにウイルス液0.1mlを添加、混合し、室温にて10分間及び1時間、保存して、これを作用液とした。
[ウイルス感染価の測定]
細胞増殖培地を用い、MDCK細胞を組織培養用マイクロプレート(96穴)で単層培養した後、細胞増殖培地を除き、細胞維持培地を0.1mlずつ加えた。そして、作用液及びそれの希釈液0.1mlを4穴ずつに接種し、37±1℃の炭酸ガスインキュベーター内で4〜7日間培養した。培養後、顕微鏡を用いて細胞の形態変化(細胞変性効果)の有無を観察し、Reed−Muench法により50%組織培養感染量(TCID50)を算出して、試験液1mlあたりのウイルス感染価に換算した。
【0026】
<抗ウィルス性評価>
開始時、10分後、1時間後の抗ウィルス性を評価し、次のように評価した。
◎・・・logTCID50/mlが1.5未満
○・・・logTCID50/mlが1.5以上3未満
△・・・logTCID50/mlが3以上4.5未満
×・・・logTCID50/mlが4.5以上6以下
【0027】
【表1】

【0028】
表1に示すように、本発明によって得られた可溶化液は沈殿が生じず、安定した状態を保った。
また、本発明のインフルエンザウイルス感染防止可溶化液を精製水で希釈して得られた水溶液は、本発明に用いられるジグリセリンラウレート単品を水に溶解したものに比べて、優れた抗インフルエンザウイルス効果を持つことが分かる。また、インフルエンザウイルス感染防止可溶化液を調製するために用いられたデカグリセリンラウレートやグリセリンには抗インフルエンザウィルス性はもたないことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0029】
以上記載のように、本発明が提供するインフルエンザウイルス感染防止可溶化液は経時で安定であり、かつ全て食品添加物から構成されているため、安全性が極めて高い。また、それを希釈して得られる抗インフルエンザウィルス水溶液は優れた抗インフルエンザウィルス性を示す。
そのため、皮膚用、口腔用、食品用などのインフルエンザ感染防止液として使用したり、マスクやフィルター、ウェットティッシュ、繊維などに塗布してインフルエンザ感染防止効果を付与したりすることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モノエステル純度が50%以上のジグリセリンラウレートを1〜20質量%と、HLB12以上のポリグリセリン脂肪酸エステルをジグリセリンラウレートに対して10〜200質量%と、水とを混合して得られるインフルエンザウイルス感染防止可溶化液。
【請求項2】
請求項1の可溶化液中に多価アルコールを5〜80質量%加えたインフルエンザウイルス感染防止可溶化液。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のインフルエンザウイルス感染防止可溶化液を水または水性溶剤で希釈して得られる抗インフルエンザウイルス水溶液。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のインフルエンザウイルス感染防止可溶化液を含有してなるマスク又はウエットティッシュ。

【公開番号】特開2011−207790(P2011−207790A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−75527(P2010−75527)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【出願人】(390010674)理研ビタミン株式会社 (236)
【Fターム(参考)】