説明

インフルエンザウイルス感染阻止剤、インフルエンザウイルス感染阻止塗料及びインフルエンザウイルス感染阻止製品

【課題】 本発明は、インフルエンザウイルスを吸着することでインフルエンザウイルスの感染力をなくし又は低下させることによって感染拡大を防止することができる耐水性を有するインフルエンザウイルス感染阻止剤を提供する。
【解決手段】 本発明のインフルエンザウイルス感染阻止剤は、一般式(1)〜(3)で示される構造式の置換基を少なくとも一つ有する単量体とカルボキシ基を有する単量体との共重合体を架橋してなる架橋体を含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インフルエンザウイルスを吸着することで、インフルエンザウイルスの感染力をなくし又は低下させることによって感染拡大を防止することができるインフルエンザウイルス感染阻止剤、これを用いたインフルエンザウイルス感染阻止塗料及びインフルエンザウイルス感染阻止製品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、季節性インフルエンザウイルスの流行に加え、高病原性のトリインフルエンザウイルスが変異してヒト間で感染し、世界的な大流行が懸念されている。
【0003】
又、致死率のきわめて高いサーズウイルスの再発生も懸念されており、病原性の高いRNAウイルスへの不安感は高まる一方である。
【0004】
これらの問題に対して、例えば、特許文献1には、ドロマイトを焼成して得られる抗ウイルス性を有する塗膜を形成するための抗ウイルス性塗料組成物及びこの抗ウイルス性塗料組成物からなる塗膜を有する塗装物が開示されている。
【0005】
又、特許文献2には、壁面等に塗布することにより、光が無くても良好な抗ウイルス効果を発揮できる光触媒を含む塗料が開示されている。
【0006】
一方、特許文献3には、脂肪族化合物を主鎖とする鎖状高分子の炭化水素を直接スルホン化したスルホン化重合物を有効成分として含有する抗ウイルス剤が、HIVによる細胞破壊の抑制、巨細胞形成抑制及び逆転写酵素の阻害活性を有することが開示されている。
【0007】
しかしながら、特許文献1で開示されている方法では、ドロマイトを焼成して得られる抗ウイルス性分とカルシウム成分の含有量が塗料樹脂成分に対して40質量%以上と多量でないと抗ウイルス性を発揮せず、その結果、抗ウイルス性塗料組成物から形成される塗膜は硬くなり、用途が限定されるという問題点を有する。
【0008】
特許文献2で開示されている光触媒を含む塗料は、光が弱くても問題ないが、長時間に亘って光が当たらない用途には用いることができないという問題点がある。更に、特許文献3で開示されている抗エイズウイルス剤は、鎖状高分子のスルホン化度が高いほど抗エイズウイルス活性が高くなるとされているが、スルホン化度が高すぎると、耐水性が低下し、耐水性が必要な用途に用いることができないという問題点を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−106876号公報
【特許文献2】特開2008−50559号公報
【特許文献3】特開平5−139981号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、インフルエンザウイルスを吸着することでインフルエンザウイルスの感染力をなくし又は低下させることによって感染拡大を防止することができる耐水性を有するインフルエンザウイルス感染阻止剤並びにこれを用いて得られたインフルエンザウイルス感染阻止塗料及びインフルエンザウイルス感染阻止製品を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のインフルエンザウイルス感染阻止剤は、一般式(1)〜(3)で示される構造式の置換基を少なくとも一つ有する単量体とカルボキシ基を有する単量体との共重合体が3官能以上の架橋剤によって架橋されてなる架橋体を含むことを特徴とする。
【0012】
【化2】


(m,n及びpはそれぞれ0〜2の整数を示し、R1〜R19はそれぞれ、水素、スルホン酸基又はそれらの塩若しくは誘導体の何れかであって、R1〜R5のうちの少なくとも一つは、スルホン酸基又はそれらの塩若しくは誘導体であり、R6〜R12のうちの少なくとも一つは、スルホン酸基又はそれらの塩若しくは誘導体であり、R13〜R19のうちの少なくとも一つは、スルホン酸基又はそれらの塩若しくは誘導体である。)
【0013】
なお、インフルエンザウイルス感染阻止剤とは、インフルエンザウイルス感染阻止効果を有するものをいう。「インフルエンザウイルス感染阻止効果」とは、インフルエンザウイルスの細胞への感染力をなくし或いは低下させ又は感染しても細胞中で増殖できなくする効果をいう。このようなインフルエンザウイルスの感染性の有無を確認する方法としては、例えば、「医・薬科ウイルス学」(1990年4月初版発行)に記載されているようなプラック法や赤血球凝集価(HAU)測定法などが挙げられる。
【0014】
上記一般式(1)〜(3)中、m,n及びpはそれぞれ0〜2の整数を示している。m,n及びpは、3以上となると、インフルエンザウイルス感染阻止剤がインフルエンザウイルス感染阻止効果を喪失してしまうからである。
【0015】
又、一般式(1)において、R1〜R5はそれぞれ、水素(−H)、スルホン酸基(−SO3H)又はその塩若しくは誘導体の何れかであるが、R1〜R5のうちの少なくとも一つは、スルホン酸基又はその塩若しくは誘導体であることが必要である。
【0016】
同様に、一般式(2)において、R6〜R12はそれぞれ、水素(−H)、スルホン酸基(−SO3H)又はその塩若しくは誘導体の何れかであるが、R6〜R12のうちの少なくとも一つは、スルホン酸基又はその塩若しくは誘導体であることが必要である。
【0017】
加えて、一般式(3)において、R13〜R19はそれぞれ、水素(−H)、スルホン酸基(−SO3H)又はその塩若しくは誘導体の何れかであるが、R13〜R19のうちの少なくとも一つは、スルホン酸基又はその塩若しくは誘導体であることが必要である。
【0018】
これは、一般式(1)〜(3)のそれぞれにおいて、置換基としてスルホン酸基又はその塩若しくは誘導体を有していないと、インフルエンザウイルス感染阻止剤がインフルエンザウイルス感染阻止効果を発現しないからである。
【0019】
スルホン酸基の塩としては、例えば、−SO3Na、(−SO32Ca、−SO3NH4+などが挙げられ、−SO3Naが好ましい。又、スルホン酸基の誘導体としては、例えば、−SO3CH3、−SO325などのエステル化体が挙げられる。
【0020】
そして、一般式(1)〜(3)において、スルホン酸基又はその塩若しくは誘導体の数は、多いと、インフルエンザウイルス感染阻止剤のインフルエンザウイルス感染阻止効果がなくなるので、1〜3が好ましく、1がより好ましい。
【0021】
又、一般式(1)において、立体障害が少ないことから、R3が、スルホン酸基又はその塩若しくは誘導体であると共に、R1、R2、R4及びR5が水素であることが好ましい。
【0022】
そして、インフルエンザウイルス感染阻止剤は、一般式(1)〜(3)で示される構造式の置換基を少なくとも一つ有する単量体とカルボキシ基を有する単量体との共重合体を架橋してなる架橋体を必須成分としている。
【0023】
上記共重合体を構成している一般式(1)〜(3)で示される構造式の置換基を少なくとも一つ有する単量体としては、例えば、p−スチレンスルホン酸、m−スチレンスルホン酸、o−スチレンスルホン酸、p−スチレンスルホン酸ナトリウム、m−スチレンスルホン酸ナトリウム、o−スチレンスルホン酸ナトリウム、p−スチレンスルホン酸カルシウム、m−スチレンスルホン酸カルシウム、o−スチレンスルホン酸カルシウム、p−スチレンスルホン酸アンモニウム、m−スチレンスルホン酸アンモニウム、o−スチレンスルホン酸アンモニウム、p−スチレンスルホン酸エチル、m−スチレンスルホン酸エチル、o−スチレンスルホン酸エチルなどが挙げられ、スチレンスルホン酸ナトリウムが好ましく、インフルエンザウイルスとの反応性において立体障害が少ないことから、p−スチレンスルホン酸ナトリウムがより好ましい。
【0024】
カルボキシ基を有する単量体としては、特に限定されず、例えば、マレイン酸、ビニル安息香酸、アクリル酸、アクリル酸ダイマー、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、フマール酸、シトラコン酸、リシノール酸などが挙げられ、マレイン酸、ビニル安息香酸が好ましく、マレイン酸、4−ビニル安息香酸がより好ましく、マレイン酸が特に好ましい。
【0025】
インフルエンザウイルス感染阻止剤を構成している共重合体中において、共重合体を構成している一般式(1)〜(3)で示される構造式の置換基を少なくとも一つ有する単量体成分の含有量は、少ないと、インフルエンザウイルス感染阻止剤のインフルエンザウイルス感染阻止効果が低下することがあり、多いと、共重合体の架橋が不十分となってインフルエンザウイルス感染阻止剤の耐水性が低下することがあるので、20〜90重量%が好ましく、50〜80重量%がより好ましい。
【0026】
インフルエンザウイルス感染阻止剤を構成しているカルボキシ基を有する単量体成分の含有量は、少ないと、共重合体の架橋が不十分となってインフルエンザウイルス感染阻止剤の耐水性が低下することがあり、多いと、インフルエンザウイルス感染阻止剤のインフルエンザウイルス感染阻止効果が低下することがあるので、10〜80重量%が好ましく、20〜50重量%がより好ましい。
【0027】
共重合体の製造方法としては、特に限定されず、例えば、一般式(1)〜(3)で示される構造式の置換基を少なくとも一つ有する単量体と、カルボキシ基を有する単量体とをラジカル重合する方法が挙げられる。
【0028】
共重合体中のスルホン酸基は、その全てが塩とされていなくてもよいが、塩とされたスルホン酸基の割合が低いと、インフルエンザウイルス感染阻止剤の酸性が強くなり、インフルエンザウイルス感染阻止剤を塗布する後述するインフルエンザウイルス対象物を破損する虞れがあるので、50モル%以上が好ましく、70〜100モル%がより好ましく、85〜100モル%が特に好ましい。
【0029】
なお、共重合体における塩とされたスルホン酸基の割合は、例えば、下記の要領で算出される。スチレンスルホン酸塩を含む単量体を共重合させて共重合体を製造した場合には、共重合に用いられた単量体の合計モル数を算出すると共に、スチレンスルホン酸塩のモル数を算出し、上記合計モル数に対するスチレンスルホン酸塩のモル数の百分率を算出すればよい。
【0030】
又、共重合体のスルホン酸塩がナトリウム塩である場合、イオンクロマトグラフィなどを用いてナトリウム量を定量することによって、共重合体におけるナトリウム塩とされたスルホン酸基の割合を算出することができる。
【0031】
インフルエンザウイルス感染阻止剤を構成している共重合体の架橋前の重量平均分子量は、低いと、インフルエンザウイルス感染阻止剤のインフルエンザウイルス感染阻止効果が低下することがあり、高いと、インフルエンザウイルス感染阻止剤の取扱性が低下することがあるので、5000〜200万が好ましく、5000〜100万がより好ましい。
【0032】
なお、本発明において、共重合体の重量平均分子量は、サイズ排除クロマトグラフィーでポリエチレンオキシドを標準物質として測定したものをいう。共重合体の重量平均分子量は、例えば、下記の条件にて測定することができる。
カラム:(東ソー社製TSKgel GMPWXL 7.8mmI.D.×30cm 2本)
溶離液:(0.2M硫酸ナトリウム水溶液:アセトニトリル=9:1)
流速:1ミリリットル/分
温度:40℃
検出:UV(210nm)
標準ポリエチレンオキシド:(東ソー社製、SE-2,5,8,15,30,70,150の7種類を使用)
【0033】
インフルエンザウイルス感染阻止剤を構成している共重合体がブロック共重合体である場合、一般式(1)〜(3)で示される構造式の置換基を少なくとも一つ有する単量体に由来するブロック部の重合度は、低いと、インフルエンザウイルス感染阻止剤がインフルエンザウイルス感染阻止効果を奏しないことがある一方、高いと、インフルエンザウイルス感染阻止剤の取扱性が低下することがあるので、5〜6000が好ましい。
【0034】
上記共重合体は架橋されて架橋体としてインフルエンザウイルス感染阻止剤に含まれている。上記共重合体は架橋剤を用いて架橋されて架橋体とされている。このように、共重合体は架橋されていることによって優れた耐水性が付与されており、架橋体の溶解度は1以下であることが好ましい。なお、架橋体の溶解度とは、20℃で且つpHが5〜9である水100gに対して溶解可能な架橋体のグラム数をいう。
【0035】
上記架橋剤は3官能以上の架橋剤が用いられる。3官能以上の架橋剤とは、共重合体と反応して共重合体と共有結合を形成可能な官能基を3個以上有している架橋剤をいう。3官能以上の架橋剤としては、例えば、エポキシ化合物、グリシジル化合物、アジリジン化合物、オキサゾリン化合物、アミン化合物、アミン化合物から合成されるポリアミノアミド化合物などの化合物、3級アミン化合物、イミダゾール化合物、ヒドラジド化合物、メラミン化合物、酸無水物、フェノール化合物、熱潜在性カチオン重合触媒、光潜在性カチオン重合開始剤、ジシアンアミド及びその誘導体、ジビニルベンゼンなどが挙げられ、共重合体のスルホン酸基又はその塩若しくは誘導体の自由度が高く、得られるインフルエンザウイルス感染阻止剤のインフルエンザウイルス感染阻止効果が高いので、エポキシ化合物、アジリジン化合物、グリシジル化合物、オキサゾリン化合物が好ましく、インフルエンザウイルス感染阻止剤を細粒化するのに必要な硬度を得ることができるので、4個以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物、3個以上のグリシジル基を有するグリシジル化合物、3個以上のアジリジニル基を有するアジリジン化合物、100個以上のオキサゾリン基を有するオキサゾリン化合物がより好ましく、4〜100個のエポキシ基を有するエポキシ化合物、3〜50個のグリシジル基を有するグリシジル化合物、3〜10個のアジリジニル基を有するアジリジン化合物、100〜1000個のオキサゾリン基を有するオキサゾリン化合物が特に好ましい。なお、架橋剤は、単独で用いられても2種以上が併用されてもよい。
【0036】
エポキシ化合物としては、1分子中にエポキシ基を3個以上有する化合物であり、1分子中にエポキシ基を4個以上有するエポキシ化合物が好ましい。エポキシ化合物としては、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールFノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールSノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル骨格を有するビフェニル型のノボラックエポキシ樹脂、ナフタレン環含有ノボラックエポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン骨格を有するジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂、ブロム含有エポキシ樹脂、脂肪族系エポキシ樹脂、トリグリシジルイソシアヌレートなどが挙げられ、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂が好ましい。エポキシ化合物としては、反応性がよいという理由から、水溶性エポキシ化合物が好ましい。なお、非水溶性エポキシ化合物は汎用の乳化剤を用いて水中に分散させて用いることが好ましい。
【0037】
グリシジル化合物としては、1分子中に一般式(4)に示すグリシジル基を3個以上有する化合物である。グリシジル化合物としては、例えば、グリセリンポリグリシジルエーテル、ジグリセリンポリグリシジルエーテル、ポリグリセリンポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ペンタエリストールポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、エチレン−アクリル酸エステル−グリシジルメタクリレートの三元共重合体、スチレン−アクリル酸エステル−グリシジルメタクリレートの三元共重合体などが挙げられ、ポリグリセリンポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテルが好ましい。なお、グリシジル化合物は、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0038】
【化3】

【0039】
アジリジン化合物は、1分子中に少なくとも一般式(5)に示すアジリジニル基又は置換アジリジニル基を3個以上有する化合物である。アジリジン化合物としては、例えば、2,2−ビスヒドロキシメチルブタノール−トリス[3−(1−アジリジニル)プロピオネート]、4,4−ビス(エチレンイミノカルボニルアミノ)ジフェニルメタン、N,N´−ヘキサメチレン−1,6−ビス(1−アジリジンカルボキシアミド)、トリメチロールプロパン−トリ−β−アジリジニルプロピオネート、ビスイソフタロイル−1−(2−メチルアジリジン)、トリ−1−アジリジニルホスフィンオキサイド、N,N´−ジフェニルメタン−4,4´−ビス(1−アジリジンカルボキシアミド)、N,N´−トルエン−2,4−ビス(1−アジリジンカルボキシアミド)、トリス−1−(2−メチルアジリジン)ホスフィン、トリメチロールプロパン−トリ−β−(2−メチルアジリジン)プロピオネートなどが挙げられ、2,2−ビスヒドロキシメチルブタノール−トリス[3−(1−アジリジニル)プロピオネート]が好ましい。なお、アジリジン化合物は、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。置換アジリジニル基は、アジリジニル基の何れかの水素が置換基で置換されている。置換基としては、例えば、メチル基、エチル基などのアルキル基が挙げられる。
【0040】
【化4】

【0041】
オキサゾリン化合物は、1分子中に少なくとも一般式(6)に示すオキサゾリン基を3個以上有する化合物であり、1分子中に少なくとも一般式(6)に示すオキサゾリン基を100個以上有する化合物が好ましい。オキサゾリン化合物としては下記に例示することができる。例えば、日本触媒社から商品名「エポクロスK−2010E」、「エポクロスK−2020E」及び「エポクロスK2030E」としてエマルジョンタイプのオキサゾリン化合物が市販されている。日本触媒社から商品名「エポクロスWS−300」、「エポクロスWS−500」及び「エポクロスWS−700」として水溶性タイプのオキサゾリン化合物が市販されている。日本触媒社から商品名「エポクロスWS−300」、「エポクロスWS−500」及び「エポクロスWS−700」で市販されているオキサゾリン化合物が好ましい。なお、オキサゾリン化合物は、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0042】
【化5】

【0043】
アミン化合物としては、特に限定されず、例えば、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ポリオキシプロピレンジアミン、ポリオキシプロピレントリアミンなどの脂肪族アミン及びその誘導体;メンセンジアミン、イソフォロンジアミン、ビス(4−アミノ−3−メチルシクロヘキシル)メタン、ジアミノジシクロヘキシルメタン、ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、N−アミノエチルピペラジン、3,9−ビス(3−アミノプロピル)2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカンなどの脂環式アミン及びその誘導体;m−キシレンジアミン、α−(m−アミノフェニル)エチルアミン、α−(p−アミノフェニル)エチルアミン、m−フェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルフォン、α,α−ビス(4−アミノフェニル)−p−ジイソプロピルベンゼンなどの芳香族アミン及びその誘導体などが挙げられる。
【0044】
又、アミン化合物から合成される化合物としては、特に限定されず、例えば、上記アミン化合物と、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカ二酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ジヒドロイソフタル酸、テトラヒドロイソフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸などのカルボン酸化合物とから合成されるポリアミノアミド化合物及びその誘導体;上記アミン化合物と、ジアミノジフェニルメタンビスマレイミドなどのマレイミド化合物とから合成されるポリアミノイミド化合物及びその誘導体;上記アミン化合物とケトン化合物とから合成されるケチミン化合物及びその誘導体;上記アミン化合物と、エポキシ化合物、尿素、チオ尿素、アルデヒド化合物、フェノール化合物、アクリル化合物などの化合物とから合成されるポリアミノ化合物及びその誘導体などが挙げられる。
【0045】
更に、上記3級アミン化合物としては、特に限定されず、例えば、N,N−ジメチルピペラジン、ピリジン、ピコリン、ベンジルジメチルアミン、2−(ジメチルアミノメチル)フェノール、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、1,8−ジアザビスシクロ(5,4,0)ウンデセン−1及びその誘導体などが挙げられる。
【0046】
そして、上記イミダゾール化合物としては、特に限定されず、例えば、2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−ウンデシルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール及びその誘導体などが挙げられる。
【0047】
又、上記ヒドラジド化合物としては、特に限定されず、例えば、1,3−ビス(ヒドラジノカルボエチル)−5−イソプロピルヒダントイン、7,11−オクタデカジエン−1,18−ジカルボヒドラジド、エイコサン二酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド及びその誘導体などが挙げられる。
【0048】
更に、上記メラミン化合物としては、特に限定されず、例えば、2,4−ジアミノ−6−ビニル−1,3,5−トリアジン及びその誘導体などが挙げられる。
【0049】
そして、上記酸無水物としては特に限定されず、例えば、フタル酸無水物、トリメリット酸無水物、ピロメリット酸無水物、ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物、エチレングリコールビスアンヒドロトリメリテート、グリセロールトリスアンヒドロトリメリテート、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ナジック酸無水物、メチルナジック酸無水物、トリアルキルテトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、5−(2,5−ジオキソテトラヒドロフリル)−3−メチル−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物、トリアルキルテトラヒドロ無水フタル酸−無水マレイン酸付加物、ドデセニル無水コハク酸、ポリアゼライン酸無水物、ポリドデカン二酸無水物、クロレンド酸無水物及びその誘導体などが挙げられる。
【0050】
又、上記フェノール化合物としては、特に限定されず、例えば、フェノールノボラック、o−クレゾールノボラック、p−クレゾールノボラック、t−ブチルフェノールノボラック、ジシクロペンタジエンクレゾール及びその誘導体などが挙げられる。
【0051】
更に、上記熱潜在性カチオン重合触媒としては、特に限定されず、例えば、6フッ化アンチモン、6フッ化リン、4フッ化ホウ素などを対アニオンとした、ベンジルスルホニウム塩、ベンジルアンモニウム塩、ベンジルピリジニウム塩、ベンジルホスホニウム塩などのイオン性熱潜在性カチオン重合触媒;N−ベンジルフタルイミド、芳香族スルホン酸エステルなどの非イオン性熱潜在性カチオン重合触媒が挙げられる。
【0052】
そして、上記光潜在性カチオン重合開始剤としては、特に限定されず、例えば、6フッ化アンチモン、6フッ化リン、4フッ化ホウ素などを対アニオンとした、芳香族ジアゾニウム塩、芳香族ハロニウム塩及び芳香族スルホニウム塩などのオニウム塩類、並びに、鉄−アレン錯体、チタノセン錯体及びアリールシラノール−アルミニウム錯体などの有機金属錯体類などのイオン性光潜在性カチオン重合開始剤;ニトロベンジルエステル、スルホン酸誘導体、リン酸エステル、フェノールスルホン酸エステル、ジアゾナフトキノン、N−ヒドロキシイミドスルホナートなどの非イオン性光潜在性カチオン重合開始剤が挙げられる。
【0053】
なお、インフルエンザウイルス感染阻止剤には、その物性を損なわない範囲内において、分散剤、乳化剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、移染防止剤などの製剤用補助剤、殺ダニ剤、殺菌剤、防黴剤、消臭剤などが含有されていてもよい。
【0054】
移染防止剤としては、特に限定されず、例えば、塩化カルシウムなどの塩類、水溶性カチオン化合物、ポリビニルピロリドン、ポリビニルピリジンベタイン、ポリアミンN−オキシド重合体などが挙げられる。
【0055】
上述のインフルエンザウイルス感染阻止剤を従来から用いられている塗料に添加することによってインフルエンザウイルス感染阻止塗料とすることができる。このインフルエンザウイルス感染阻止塗料から形成された塗膜は、優れたインフルエンザウイルス感染阻止効果を奏するインフルエンザウイルス感染阻止剤を含有していることから、インフルエンザウイルスが塗膜に接触することによって、インフルエンザウイルスの細胞への感染力をなくし或いは低下させ又は感染しても細胞中で増殖できなくし、人間への感染を効果的に抑制することができる。
【0056】
そして、インフルエンザウイルス感染阻止剤は耐水性に優れているので、塗膜に水が接触した場合にあっても、インフルエンザウイルス感染阻止剤が水に溶け出して塗膜が有しているインフルエンザウイルス感染阻止効果が低減するようなことはなく、塗膜は長期間に亘って優れたインフルエンザウイルス感染阻止効果を持続する。
【0057】
更に、インフルエンザウイルス感染阻止剤は、塗料から形成された塗膜を硬くしてしまうことはなく、塗料から形成された塗膜の物性を損なうことなく、塗膜にインフルエンザウイルス感染阻止効果を付与することができる。
【0058】
上記塗料としては、従来公知の塗料が用いられ、例えば、油性塗料、セルロース塗料、合成樹脂塗料などが挙げられる。
【0059】
油性塗料としては、例えば、ボイル油、顔料からなる調合ペイント、油ワニス、アルミニウム粉からなるアルミニウムペイントなどが挙げられる。セルロース塗料としては、硝化綿、合成樹脂、可塑剤、顔料からなるラッカーやハイソリッドラッカーなどが挙げられる。
【0060】
合成樹脂塗料としては、例えば、溶剤系塗料、水系塗料、無溶剤系塗料などが挙げられる。溶剤系塗料としては、例えば、アルキド樹脂及び顔料を含有するアルキド樹脂塗料、アルキド樹脂、アミノ樹脂、硬化剤及び顔料を含有する酸硬化アミノアルキド樹脂塗料、不飽和ポリエステル樹脂、硬化剤及び触媒を含有するポリエステル樹脂塗料、エポキシ樹脂、硬化剤及び顔料を含有するエポキシ樹脂塗料、ビニルブチラール樹脂、リン酸及び錆止め顔料を含有するエッチングプライマー、塩化ビニル樹脂、可塑剤及び顔料を含有する塩化ビニル樹脂塗料、塩化ゴム、可塑剤及び顔料を含有する塩化ゴム塗料、ポリオール、イソシアネート及び顔料を含有するポリウレタン樹脂塗料、アクリルウレタン樹脂、可塑剤及び顔料を含有するアクリルウレタン樹脂塗料、シリコーンアクリル樹脂及び顔料を含有するアクリルシリコン樹脂塗料、フッ素樹脂、イソシアネート及び顔料を含有する常乾フッ素樹脂塗料などが挙げられる。
【0061】
水系塗料としては、例えば、酢酸ビニル樹脂、可塑剤、乳化剤及び顔料を含有する酢酸ビニル系エマルジョン塗料、アクリル樹脂、可塑剤、乳化剤及び顔料を含有するアクリル系エマルジョン塗料、アクリルウレタン樹脂、可塑剤、乳化剤及び顔料を含有するアクリルウレタン系エマルジョン塗料、アクリルシリコン樹脂、可塑剤、乳化剤及び顔料を含有するアクリルシリコン系エマルジョン塗料、フッ素樹脂、可塑剤、乳化剤及び顔料を含有するフッ素樹脂系エマルジョン塗料、各種水溶性樹脂及び中和剤を含有する水溶性樹脂塗料、アクリル樹脂、可塑剤及び乳化剤を含有する水性ワニスなどが挙げられる。
【0062】
無溶剤系塗料としては、例えば、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂などを含有する粉体塗料、天然フェノールを含有する漆、天然フェノール、油溶性フェノール樹脂及び乾性油を含有するカシュー樹脂塗料などが挙げられる。
【0063】
上述した塗料を硬化させる場合、塗料を硬化させる方法としては、塗料の種類に応じて適宜行えばよいが、塗料を加熱する方法、塗料に紫外線を照射する方法、塗料に、α線、β線、γ線、電子線などの電離性放射線を照射する方法などが挙げられる。
【0064】
インフルエンザウイルス感染阻止塗料中におけるインフルエンザウイルス感染阻止剤の含有量は、少ないと、インフルエンザウイルス感染阻止塗料から形成された塗膜の有するインフルエンザウイルス感染阻止効果が不十分となることがあり、多いと、インフルエンザウイルス感染阻止塗料の塗工性が低下することがあるので、0.01〜20重量%が好ましく、0.1〜10重量%がより好ましい。
【0065】
インフルエンザウイルス感染阻止塗料中にインフルエンザウイルス感染阻止剤が溶解せずに分散している場合には、インフルエンザウイルス感染阻止剤の大きさは、大きいと、インフルエンザウイルス感染阻止塗料の塗工性が低下することがあるので、200μm以下が好ましく、100μm以下がより好ましい。なお、インフルエンザウイルス感染阻止塗料を自動車内装材用途に用いる場合には、インフルエンザウイルス感染阻止剤の大きさは30μm以下が好ましい。なお、インフルエンザウイルス感染阻止剤の大きさは、粒度分布計によって測定された値をいう。
【0066】
インフルエンザウイルス感染阻止塗料には、その物性を損なわない範囲内において、顔料、可塑性、硬化剤、増量剤、充填剤、老化防止剤、増粘剤、界面活性剤などの添加剤が含有されていてもよい。
【0067】
インフルエンザウイルス感染阻止塗料の製造方法としては、インフルエンザウイルス感染阻止剤と塗料とを均一に混合できれば、特に限定されず、例えば、インフルエンザウイルス感染阻止剤と塗料とを分散装置に供給して均一に混合する方法などが挙げられる。なお、分散装置としては、例えば、ハイスピードミル、ボールミル、サンドミルなどが挙げられる。
【0068】
そして、インフルエンザウイルス感染阻止塗料を、インフルエンザウイルスが存在し或いはインフルエンザウイルスが将来に存在する可能性のある対象物であって、この対象物に存在するインフルエンザウイルスが原因となって人間にインフルエンザウイルスが感染するのを防止したい対象物(以下、「インフルエンザウイルス対象物」という)に塗布し乾燥させて塗装することによってインフルエンザウイルス感染阻止製品とし、インフルエンザウイルス対象物に存在するインフルエンザウイルスが原因となって人間がウイルス感染するのを概ね阻止することができる。なお、インフルエンザウイルス感染阻止塗料は、単独で用いられても2種以上が併用されてもよい。
【0069】
インフルエンザウイルス対象物としては、車、飛行機、船などの車両内用品及び車両内装材、キッチン用品、ベビー用品、建築内装材などが挙げられる。
【0070】
建築内装材としては、特に限定されるものではなく、例えば、床材、壁紙、天井材、ドアノブ、スイッチ、スイッチカバーなどを挙げることができる。
【0071】
車両内用品及び車両内装材としては、特に限定されるものではなく、例えば、シート、チャイルドシート、シートベルト、カーマット、シートカバー、ドア、天井材、フロアマット、ドアトリム、インパネ、コンソール、グローブボックス、吊り革、手すりなどが挙げられる。
【0072】
インフルエンザウイルス対象物へのインフルエンザウイルス感染阻止塗料の塗布方法としては、特に限定されず、例えば、ローラー塗り、コテ塗り、スプレー塗り、刷毛塗り、ディップコート(浸漬)などが挙げられ、インフルエンザウイルス感染阻止塗料を乾燥させて得られる塗膜の表面形態も上記塗装方法の選択によって自由に変化させることができる。
【発明の効果】
【0073】
本発明のインフルエンザウイルス感染阻止剤は、上述の如き構成を有しているので、優れた耐水性及びインフルエンザウイルス感染阻止効果を奏し、耐水性を必要とする用途にも好適に用いることができる。
【0074】
更に、本発明のインフルエンザウイルス感染阻止剤は、そのインフルエンザウイルス感染阻止効果を発現するにあたって光の照射を必要としないので、光の当たらない用途にも好適に用いることができる。
【0075】
そして、本発明のインフルエンザウイルス感染阻止塗料は、上記インフルエンザウイルス感染阻止剤を汎用の塗料に混合することによって容易に作製することができる。このインフルエンザウイルス感染阻止塗料から形成された塗膜は、インフルエンザウイルス感染阻止剤に由来する優れたインフルエンザウイルス感染阻止効果を奏し、インフルエンザウイルスが塗膜に接触することによって、インフルエンザウイルスの細胞への感染力をなくし或いは低下させ又は感染しても細胞中で増殖できなくし、人間への感染を効果的に抑制することができる。
【0076】
そして、インフルエンザウイルス感染阻止剤は耐水性に優れているので、インフルエンザウイルス感染阻止塗料から形成された塗膜に水が接触した場合にあっても、インフルエンザウイルス感染阻止剤が水に溶け出して塗膜が有しているインフルエンザウイルス感染阻止効果が低減するようなことはなく、塗膜は長期間に亘って優れたインフルエンザウイルス感染阻止効果を奏する。
【0077】
更に、インフルエンザウイルス感染阻止剤は、塗料から形成された塗膜を硬くしてしまうことはなく、塗料から形成された塗膜の物性を損なうことなく、塗膜にインフルエンザウイルス感染阻止効果を付与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0078】
以下に実施例を挙げて本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例にのみ限定されるものではない。
【0079】
(実施例1)
スチレン−マレイン酸共重合体のベンゼン環のp位をスルホン化してなる化合物のスルホン酸ナトリウム塩(アクゾノ−ベル社製 商品名「VERSA−TL 3」、スチレン成分:75重量%、マレイン酸成分:25重量%、スチレン成分のベンゼン環のスルホン化率:99モル%以上、重量平均分子量(Mw):2万、溶解度:30以上)を脱イオン水に溶解させ、1規定(N)の塩酸でpHが1.0となるように調整しながら、スチレン−マレイン酸共重合体のベンゼン環のp位をスルホン化してなる化合物のスルホン酸ナトリウム塩の10重量%の水溶液を得た。
【0080】
撹拌機、冷却器及び温度計を配設した1リットルのセパラブルフラスコ内を窒素ガスで置換した後、上記スチレン−マレイン酸共重合体のベンゼン環のp位をスルホン化してなる化合物のスルホン酸ナトリウム塩の10重量%の水溶液150重量部及び一般式(7)で示されるビスフェノールAノボラック型固形エポキシ樹脂のエマルジョン(三菱化学社製 商品名「YL7505」、ビスフェノールAノボラック型固形エポキシ樹脂の含有量:60重量%)10重量部をセパラブルフラスコ内に供給して120℃で2時間に亘って攪拌して、スチレン−マレイン酸共重合体のベンゼン環のp位をスルホン化してなる化合物のスルホン酸ナトリウム塩をビスフェノールAノボラック型固形エポキシ樹脂を用いて架橋して架橋体を製造した。
【0081】
【化6】


但し、nは1〜20の整数である。
【0082】
セパラブルフラスコ内の水をエバポレーターを用いて回収、除去した後、架橋体を脱イオン水で遠心分離しながら洗浄し、架橋体からなるインフルエンザウイルス感染阻止剤を得た。なお、架橋体の溶解度は1以下であった。
【0083】
インフルエンザウイルス感染阻止剤5重量部をエアゾール塗料(杵屋ケミカル社製 商品名「コスモカラー」)95重量部に添加して均一に混合させてインフルエンザウイルス感染阻止塗料を得た。なお、エアゾール塗料は、アクリルウレタン樹脂、可塑剤及び顔料を含有する溶剤系の合成樹脂塗料であった。インフルエンザウイルス感染阻止剤は、エアゾール塗料中に溶解せずに分散しており、インフルエンザウイルス感染阻止剤の大きさは50〜100μmであった。
【0084】
得られたインフルエンザウイルス感染阻止塗料20gをポリプロピレン板1m2に均一に塗布して室温にて5時間に亘って乾燥させ、ポリプロピレン板から一辺が3.0cmの平面正方形状の試験片を切り出した。
【0085】
(実施例2)
ビスフェノールAノボラック型固形エポキシ樹脂のエマルジョンの代わりに一般式(8)で示されるポリグリセリンポリグリシジルエーテル(阪本薬品工業社製 商品名「SR−4GL」)15重量部を用いたこと以外は実施例1と同様にしてインフルエンザウイルス感染阻止剤、インフルエンザウイルス感染阻止塗料及び試験片を得た。なお、架橋体の溶解度は1以下であった。インフルエンザウイルス感染阻止剤は、エアゾール塗料中に溶解せずに分散しており、インフルエンザウイルス感染阻止剤の大きさは50〜100μmであった。一般式(8)で示されるポリグリセリンポリグリシジルエーテルは、1分子中にグリシジル基を3〜6個有していた。
【0086】
【化7】


但し、Rはそれぞれ独立して水素又はグリシジル基である。nは2〜3の整数である。
【0087】
(実施例3)
ビスフェノールAノボラック型固形エポキシ樹脂のエマルジョンの代わりに式(9)で示されるソルビトールポリグリシジルエーテル(ナガセケムテックス社製 商品名「デナコールEX−614B」)15重量部を用いたこと以外は実施例1と同様にしてインフルエンザウイルス感染阻止剤、インフルエンザウイルス感染阻止塗料及び試験片を得た。なお、架橋体の溶解度は1以下であった。インフルエンザウイルス感染阻止剤は、エアゾール塗料中に溶解せずに分散しており、インフルエンザウイルス感染阻止剤の大きさは50〜100μmであった。
【0088】
【化8】

【0089】
(実施例4)
ビスフェノールAノボラック型固形エポキシ樹脂のエマルジョンの代わりに式(10)で示される2,2−ビスヒドロキシメチルブタノール−トリス[3−(1−アジリジニル)プロピオネート](日本触媒社製 商品名「ケミタイトPZ−33」)15重量部を用いたこと以外は実施例1と同様にしてインフルエンザウイルス感染阻止剤、インフルエンザウイルス感染阻止塗料及び試験片を得た。なお、架橋体の溶解度は1以下であった。インフルエンザウイルス感染阻止剤は、エアゾール塗料中に溶解せずに分散しており、インフルエンザウイルス感染阻止剤の大きさは50〜100μmであった。
【0090】
【化9】

【0091】
(実施例5)
ビスフェノールAノボラック型固形エポキシ樹脂のエマルジョンの代わりに式(11)で示されるオキサゾリン化合物(日本触媒社製 商品名「エポクロスWS−700」、重量平均分子量:4万)5重量部を用いたこと以外は実施例1と同様にしてインフルエンザウイルス感染阻止剤、インフルエンザウイルス感染阻止塗料及び試験片を得た。なお、架橋体の溶解度は1以下であった。なお、オキサゾリン化合物は、アクリル系ポリマーからなる主鎖に一般式(6)で示されるオキサゾリン基を約180個有する化合物であった。インフルエンザウイルス感染阻止剤は、エアゾール塗料中に溶解せずに分散しており、インフルエンザウイルス感染阻止剤の大きさは50〜100μmであった。
【0092】
【化10】

【0093】
(実施例6)
スチレン−マレイン酸共重合体のベンゼン環のp位をスルホン化してなる化合物のスルホン酸ナトリウム塩として、アクゾノ−ベル社から商品名「VERSA−D72」にて市販されているスチレン−マレイン酸共重合体のベンゼン環のp位をスルホン化してなる化合物のスルホン酸ナトリウム塩(スチレン成分:50重量%、マレイン酸成分:50重量%、スチレン成分のベンゼン環のスルホン化率:99モル%以上、重量平均分子量(Mw):2万、溶解度:30以上)を用いたこと以外は実施例1と同様にしてインフルエンザウイルス感染阻止剤、インフルエンザウイルス感染阻止塗料及び試験片を得た。なお、架橋体の溶解度は1以下であった。インフルエンザウイルス感染阻止剤は、エアゾール塗料中に溶解せずに分散しており、インフルエンザウイルス感染阻止剤の大きさは50〜100μmであった。
【0094】
(比較例1)
実施例1と同様の要領で作製したスチレン−マレイン酸共重合体のベンゼン環のp位をスルホン化してなる化合物のスルホン酸ナトリウム塩の10重量%の水溶液140重量部及びビスフェノールA型液状エポキシ樹脂(三菱化学社製 商品名「YL7668」、ビスフェノールA型液状エポキシ樹脂の含有量:70重量%)10重量部をセパラブルフラスコ内に供給したこと以外は実施例1と同様にしてインフルエンザウイルス感染阻止剤を作成したが、溶解度が1以下の架橋体を得ることはできなかった。
【0095】
(比較例2)
実施例1と同様の要領で作製したスチレン−マレイン酸共重合体のベンゼン環のp位をスルホン化してなる化合物のスルホン酸ナトリウム塩の10重量%の水溶液134重量部及びビスフェノールA型半固形エポキシ樹脂(三菱化学社製 商品名「W3435R67」、ビスフェノールA型半固形エポキシ樹脂の含有量:67重量%)10重量部をセパラブルフラスコ内に供給したこと以外は実施例1と同様にしてインフルエンザウイルス感染阻止剤を作成したが、溶解度が1以下の架橋体を得ることはできなかった。
【0096】
(比較例3)
ビスフェノールAノボラック型固形エポキシ樹脂のエマルジョンの代わりにエチレングリコールジグリシジルエーテル(共栄社化学社製 商品名「エポライト100E」)10重量部を用いたこと以外は実施例1と同様にしてインフルエンザウイルス感染阻止剤を作成したが、溶解度が1以下の架橋体を得ることはできなかった。
【0097】
(比較例4)
ビスフェノールAノボラック型固形エポキシ樹脂のエマルジョンの代わりに一般式(12)に示されるポリエチレングリコールジグリシジルエーテル(共栄社化学社製 商品名「エポライト400E」、重量平均分子量:400)10重量部を用いたこと以外は実施例1と同様にしてインフルエンザウイルス感染阻止剤を作成したが、溶解度が1以下の架橋体を得ることはできなかった。
【0098】
【化11】


但し、nは7〜11の整数である。
【0099】
(比較例5)
エアゾール塗料(杵屋ケミカル社製 商品名「コスモカラー」)20gをポリプロピレン板1m2に均一に塗布して室温にて5時間に亘って乾燥させ、ポリプロピレン板から一辺が3.0cmの平面正方形状の試験片を切り出した。
【0100】
実施例及び比較例にて得られた試験片について、インフルエンザウイルス感染阻止性を下記の要領で評価し、その結果を表1に示した。
【0101】
(インフルエンザウイルス感染阻止性)
1)ウイルス液の調整
10cmDishに培養したMDBK細胞にインフルエンザウイルスを接種し、37℃で1時間に亘って培養後に、培養上清(未感作ウイルス含む)を除去した。上清を除いた10cmDishに新たにDMEM培地を加え、37℃で4日間培養後に、培養上清を採取し、800rpmの回転速度で5分間に亘って遠心分離した。遠心分離後の上清をウイルス液として使用した。
【0102】
2)試験方法
DMEM培地で20倍希釈したウイルス液を実施例及び比較例で得られた試験片に0.1ミリリットル滴下し、試験片を3分間に亘って室温で静置した。しかる後、試験片上のウイルス液を回収し、DMEM培地と混合して、10倍、100倍、1000倍、10000倍希釈し、96穴マイクロプレートに撒いたMDBK細胞に0.1ミリリットルずつ接種し、37℃で1時間に亘って培養した。培養後、培養上清(未感作ウイルス含む)を除去し、DMEM培地を加え、37℃で4日間に亘って培養した。培養上清を除去後、水溶性テトラゾリウム塩(同仁化学研究所社製 商品名「WST−8」)5重量%含むDMEM培地を添加し、37℃で3時間に亘って培養した。プレートリーダーにて450nmの吸光度を測定し、生存細胞の割合から50%の細胞がウイルスに感染するウイルス量(TCID50:Tissue Culture Infectious Dose 50)を算出し、ウイルスの低減率を求めた。上述の要領を各実施例及び比較例で作製した8個の試験片のそれぞれについて行い、各試験片のウイルスの低減率の相加平均値を「ウイルスの低減率」として採用した。
【0103】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明のインフルエンザウイルス感染阻止剤は、インフルエンザウイルス感染阻止効果を付与したいインフルエンザウイルス対象物の表面に付着させてインフルエンザウイルス感染阻止製品とするための用途に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)〜(3)で示される構造式の置換基を少なくとも一つ有する単量体とカルボキシ基を有する単量体との共重合体が3官能以上の架橋剤によって架橋されてなる架橋体を含むことを特徴とするインフルエンザウイルス感染阻止剤。
【化1】


(m,n及びpはそれぞれ0〜2の整数を示し、R1〜R19はそれぞれ、水素、スルホン酸基又はそれらの塩若しくは誘導体の何れかであって、R1〜R5のうちの少なくとも一つは、スルホン酸基又はそれらの塩若しくは誘導体であり、R6〜R12のうちの少なくとも一つは、スルホン酸基又はそれらの塩若しくは誘導体であり、R13〜R19のうちの少なくとも一つは、スルホン酸基又はそれらの塩若しくは誘導体である。)
【請求項2】
架橋剤は、エポキシ化合物、グリシジル化合物、アジリジン化合物及びオキサゾリン化合物からなる群から選ばれた架橋剤であることを特徴とする請求項1に記載のインフルエンザウイルス感染阻止剤。
【請求項3】
架橋剤は、4個以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物、3個以上のグリシジル基を有するグリシジル化合物、3個以上のアジリジニル基を有するアジリジン化合物及び100個以上のオキサゾリン基を有するオキサゾリン化合物からなる群から選ばれた架橋剤であることを特徴とする請求項1に記載のインフルエンザウイルス感染阻止剤。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載のインフルエンザウイルス感染阻止剤を含有することを特徴とするインフルエンザウイルス感染阻止塗料。
【請求項5】
請求項3に記載のインフルエンザウイルス感染阻止塗料を用いて塗装されていることを特徴とするインフルエンザウイルス感染阻止製品。

【公開番号】特開2012−126677(P2012−126677A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−279538(P2010−279538)
【出願日】平成22年12月15日(2010.12.15)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】