説明

インプラントおよび生体分解性基準マーカー

埋込み可能な材料を医原性部位で用いることができる。用途には、基準マーキングのための放射線不透過性材料が含まれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
<関連出願の相互参照>
本特許出願は、2009年12月15日に出願された米国仮特許出願第61/286,450号明細書に対する優先権を主張するものであり、この文献は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本技術分野は、一般に、癌性組織の外科的摘出により残された組織の隙間を安定化および可視化することに関するものであり、特定の実施形態は、放射線不透過性マーカーが付着したポリマー微小粒子を含む。
【背景技術】
【0003】
米国癌協会によると、2009年には、浸潤性乳癌および粘膜内乳癌について、それぞれ、192,000件および62,000件を超える症例が新たに発生し、その多くに関して、米国だけで40,000人を超える死者が出ると推定されている。ひとたび検出されると、非浸潤性乳管癌(DCIS)を含む、ほとんどの乳癌は、非定型的乳房切除術か、または乳腺腫瘤摘出術かのいずれかによって外科的に摘出される。乳腺腫瘤摘出術に続いて、患者(patents)は、通常、5〜7週間の全乳房外照射療法(EBRT)を後に伴う化学療法か、または化学療法を後に伴うもしくはさらなる治療を伴わない5〜7日の加速部分乳房照射(APBI)かのいずれかによる治療を受ける。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
手術部位を共形的に(conformally)充填するインプラントが本明細書に記載されている。放射線不透過性材料による部位の共形充填(conformal filling)により、部位およびその組織辺縁部(tissue margins)が後に特定およびモニタリングされる。良好な可視化により、癌性組織を摘出した癌患者の注意深い術後経過観察が可能になる。まず第一に、部位を実質的に全て充填することにより、辺縁部の永久的な変形および移動に抵抗する巨大な塊が提供される。さらに、部位が実質的に満たされ、そのため、インプラントが組織辺縁部と隣接するので、辺縁部を可視化することができる。
【0005】
インプラントの一実施形態は、インプラント部位の辺縁部の容易な可視化を提供するヒドロゲルインプラントを作製するように構成された流動性前駆体を用いて、部位を充填することを含む。インプラントは固定化され、組織端に接着することができ、その結果、この端を追跡して、後に治療することができる。インプラントを作製する方法は、互いに反応したときにインプラントを形成する前駆体を互いに反応させることを含む。乳腺腫瘤摘出部位周辺の組織を支持する架橋ヒドロゲルをインサイチュ(in situ:原位置)で形成させて、乳腺腫瘤摘出部の辺縁部の組織を安定化することができ、そのため、例えば、放射線療法または焼灼のような、その後の治療の正確な標的とすることができる。
【0006】
本発明の別の実施形態は、部位およびその凹凸に流れ込み、密に詰まり、その辺縁部の良好な可視化を提供するように、小さくて、柔軟で、かつ滑りやすい小粒子を用いて部位を充填することを提供する。共有結合的に付着しているかまたは材料中に混合されているかのいずれかの、放射線不透過剤をインプラントとともに含めることができる。
【0007】
共形充填法は、部位の辺縁部の分解能が低い留め具(clip)の使用と比べると、かなりの改善である。共形充填はまた、同じく従来的慣行である放置法(do-nothing)よりも改善されている。この放置法では、空隙が手術部位に残り、漿液腫で満たされてしまう。漿液腫は症候性で、しばしばドレナージを必要とする場合があり、術後に大きさが変化し、部分的乳房放射線照射の標的とすることを妨げることが知られている。インプラントは、もはや必要なくなるまでは安定で、その後、生分解するように作製することができる。インプラントは、放射線不透過剤とともにまたは放射線不透過剤なしで用いることもできる。インサイチュで形成されたヒドロゲルは、組織辺縁部を密閉して、漿液腫形成を軽減することができる。さらに、ヒドロゲルは腔を充填し、その変形を防ぐので、ヒドロゲルを連続相としてまたは粒子状形態として使用することにより、美容が向上する可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1A】組織の摘出のために腫瘍周辺の部分を特定するための先行技術の説明である。
【図1B】図1Aの組織を摘出するための先行技術の説明である。
【図2A】双筒式アプリケータを用いた医原性部位へのマトリックス前駆体の配置を示す。
【図2B】図2Aの部位に複数の粒子を配置するための代わりのアプリケータを示す。
【図3】キロボルトCT(パネルa(図3a))、T2加重MRI(パネルB(図3b))、キロボルト円錐ビームCT(パネルC(図3c))、肉眼的横断切片(ヒドロゲルは青く染色されている)(パネルD(図3d))、および横断超音波(パネルe(図3e))で乳腺腫瘤摘出腔を明確に規定している、医原性部位に配置されたヒドロゲルの画像のモンタージュ写真である。
【図4】様々なヒドロゲル医原性部位治療のモンタージュ写真である。パネルa(図4a)(CT)およびb(図4b)(MRI)では、63ccの乳腺腫瘤摘出部に同じ体積のヒドロゲルを充填した。パネルc(図4c)(CT)およびd(図4d)(MRI)では、31ccの乳腺腫瘤摘出部に18ccのヒドロゲルを部分充填した。パネルe(図4e)(CT)およびf(MRI)では、33ccの乳腺腫瘤摘出腔を縫合閉鎖し(上腔壁と下腔壁を並置し)、その後、18ccのヒドロゲルを注入した。ヒドロゲルは腔の端をマーキングし、並置された組織の輪郭を示している。
【図5】ヒドロゲルを乳腺腫瘤摘出腔に注入する前と注入した後に実施した5フィールド部分乳房照射治療計画の詳細を示す。横断切片(ヒドロゲル注入前(パネルa(図5a))およびヒドロゲル注入後(パネルb(図5b)))を示す。105%、95%、50%、および30%等線量線を、それぞれ、105’、95’、50’、および30’の線で示す。DVH(パネルc(図5c))は、ヒドロゲル注入後計画(破線)での正常乳房組織、同側肺、および心臓に対するほんのわずかに高い放射線量を示す。
【図6】25mmのマージンを付けた治療計画を記載している。各々の線は、1対のヒドロゲル注入前/注入後計画に対応する。乳房(非PTV)V50%は、ヒドロゲル配置のために、5例中4例で増加した。しかしながら、増加は、50%の体積制約と比べて低かった(パネルa(図6a))。同側肺V30%も5例中4例で増加した。増加は、15%の体積制約と比べてかなり大きかった(パネルb(図6b))。全ての左側乳腺腫瘤摘出部について、ヒドロゲルは、心臓V5%を増加させたが、体積は、40%制約よりも十分に低いままであった(パネルc(図6c))。
【図7】15mmのマージンを付けた治療計画を記載している。乳房(非PTV)V50%は、5例全てで減少した(パネルa(図7a))。同側肺V30%も5例中4例で減少した(パネルb(図7b))。全ての左側乳腺腫瘤摘出部について、心臓V5%もわずかな減少を示した(パネルc(図7c))。
【図8】ヨウ素化ポリエチレングリコール(PEG−I)、ヨウ化カリウム(KI)およびヨウ素(オムニパーク:OMNIPAQUE)を比較した、ヨウ素濃度の関数としての放射線不透過性のプロットである。
【図9】ヒドロゲル膨潤について補正していない、ヨウ素が結合したヒドロゲルを含む試料の経時的な放射線不透過性を示すプロットである(実施例4)。1つ目のパーセンテージは、多腕前駆体の腕のパーセンテージとしてのヨウ素(TIBとして)置換を示したものであり、2つ目のパーセンテージは、パーセントとしてのヒドロゲルの固体含有量を示したものである。
【図10】ヒドロゲル膨潤について補正した、図9の試料の放射線不透過性を示すプロットである。
【図11A】浸透圧剤を用いて、小ゲージ針から粒子の集合体を噴出するのに必要な力をどのようにして軽減することができるかを示す。
【図11B】図11Aの浸透圧剤の存在下でのヒドロゲルの収縮を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
医原性(医学的に生成された)部位周辺の組織は、部位に配置される共形インプラントによって安定化することができる。インプラントが部位に適合することで、正確な追加治療が提供される。例えば、悪性組織材料の摘出後、多くの場合、例えば、部位の辺縁部の放射線療法または組織焼灼技術による、摘出材料周辺の組織のさらなる治療が望ましい。しかしながら、辺縁部は可視化が難しく、時間経過とともに大きさおよび形を変えるので、この辺縁部を正確に標的するのは困難である。図1Aおよび1Bは、腫瘍102を有する乳房組織100を示している。手術は、腫瘍102および周囲組織の摘出を含む。摘出組織材料104は、形および体積を有する。材料104の摘出により、これも面116(これは、医原性部位の組織辺縁部である)により規定される形および体積を有する、医原性部位110(腔とも呼ばれる)が生成される。部位110は明確な辺縁部を示し、これらの辺縁部は面である。完全には体内にない部位の場合であっても、摘出材料の形および体積を参照することにより、その部位の形および体積を十分正確に規定することができる。
【0010】
従来法では、放射線療法の前に、腔をイメージングする。漿液腫がない場合、腔は、特定すら難しい。イメージング用のクリップは有用であるが、これらは個々の点しか示さず、これらの点は、腔端を規定するものではない。漿液腫が存在する場合でも、腔は、数週間にわたる放射線療法の間に形を変える。このように、標的が、最初の計画から変化し、癌細胞を放射線の外側に移動させるか、または健康な組織を放射線の中に移動させる可能性がある。結果として、単に乳房全体を放射線照射する必要がある場合もある。
【0011】
本発明の一実施形態は、それが配置される部位に共形的に充填されるマトリックスを提供することにより、こうした問題を解決するものである。この手法で、良好な間接的可視性および正確な共形充填が可能となることや、そのようなヒドロゲルがさらにおよび/または代わりに基準マーカーとして使用可能であることが実験により示されている。ヒドロゲルは、医療上必要とされる期間は安定性を、しかし、その後は溶解を提供する期間にわたって分解可能であることができる。ヒドロゲルの安定性は、部位の安定性を提供する。この部位は、ヒドロゲルの安定性がなければ、形を変えてしまう可能性がある。図2Aは、部位110の内部でヒドロゲルを形成する前駆体を供給する双筒式アプリケータを用いて、部位110を充填しているところを図示している。図2Bは、マトリックスを形成させるために部位に配置される複数の粒子124を詰めた代わりの注射器型アプリケータ122を示している。カテーテルおよび他のアプリケータを用いることもできる。
【0012】
実施例1には、互いに共有結合的に架橋してヒドロゲルを形成する2種の前駆体の液体混合物として医原性部位に適用されるマトリックスが記載されている。ヒドロゲルによって、乳腺腫瘤摘出腔の形および大きさが細部にわたって詳細に明かされ、CT、MRI、円錐ビームCT、および肉眼的病理切片との一致も良好であった。重要なのは、乳腺腫瘤摘出部位が、部分充填した腔について、また、(これまで、正確に規定するのが極めて困難であった)縫合閉鎖した腔についてさえも、十分に規定されることであった。全ての場合において、肉眼的分析により、ヒドロゲルが腔表面全体を被覆している、すなわち、部位の組織辺縁部と真に共形的であることが示された。図3は、ヒドロゲルによって、部位が明確に規定されたことを示しており、パネル(a)(図3a)はキロボルトCT、パネル(b)(図3b)はT2加重MRI、パネル(c)(図3c)はキロボルト円錐ビームCT、パネル(d)(図3d)は肉眼的横断切片(gross axial section)(ヒドロゲルは青く染色されている)、およびパネル(e)(図3e)は横断超音波(axial ultrasound)である。図4は、CTおよびMRIによる正確な規定を示している。63ccの体積欠陥部位に、同じ体積のヒドロゲル(パネルa(図4a)(CT)およびb(図4b)(MRI))を充填した。図4のパネルc(図4c)(CT)およびd(MRI)では、31ccの乳腺腫瘤摘出部に、18ccのヒドロゲルを部分充填した。これは、腔がやはり十分に規定されることを示している。図4のパネルe(図4e)(CT)およびf(MRI)では、33ccの乳腺腫瘤摘出腔を縫合閉鎖し、その後、18ccのヒドロゲルを注入した。ヒドロゲルは、腔の端をマーキングし、並置された組織の輪郭を示している。
【0013】
実施例2には、治療を受けた部位についての一連の放射線療法計画が記載されており、また、ヒドロゲル充填部位のための計画と非充填部位のための計画が比較されている。放射線療法計画は、ルーチン的に作成されたものであり、これは、所望の線量、治療レジメン、および近くの健康な組織の放射線上限値などの様々な検討事項を考慮して、どのくらいの放射線を部位に適用するかを考慮している。標的サイズの増加は、近くの正常な組織に対する放射線量を増加させる可能性があることがよく知られているので、医原性部位の拡大は、従来の常識とは対照的である。
【0014】
実際、図5および6に示すように、試験した特定のヒドロゲルについて、この望ましくない効果が認められた(実施例2の詳細を参照されたい)。図6は、腔にヒドロゲルを注入する前と注入した後に実施した5フィールド部分乳房照射治療計画(five-field, partial-breast radiation treatment plans)を示している。横断切片(ヒドロゲル注入前(図5a)およびヒドロゲル注入後(図5b))が示されている。105%、95%、50%、および30%等線量線を、それぞれ、105’、95’、50’、および30’の線で示す。評価用のPTV(Planning Target Volume:計画標的体積)は影が付けられ、実質的に95’の領域にある。DVH(Dose-Volume Histogram:線量体積ヒストグラム)(パネルc(図5c))は、ヒドロゲル注入後計画(破線)での正常乳房組織、同側肺、および心臓に対するわずかに高い放射線量を示している。評価用のPTV範囲は同様であるが、ヒドロゲル注入後計画は不均一性のわずかな増加を示している。同様に、図6は、標準的な治療拡大(25mm)を用いたとき、ヒドロゲルインプラントが、正常組織線量を増加させる傾向にあることを示している。各々の線は、1対のヒドロゲル注入前/注入後計画に対応する。乳房(非PTV)V50%は、ヒドロゲル配置のために、5例中4例で増加した。しかしながら、増加は、50%の体積制約(volume constraint)に比べて低かった(図6a)。同側肺V30%も5例中4例で増加した。増加は、15%の体積制約に比べてかなり大きかった(図6b)。全ての左側乳腺腫瘤摘出部について、ヒドロゲルは、心臓V5%を増加させたが、体積は、40%制約よりも十分に低いままであった(図6c)。
【0015】
PTVを超える25mmの従来的治療拡張が利用されているが、それは、1つには、線量計画中の腔辺縁部の可視化が良好でないためである。ヒドロゲルが腔辺縁部の輪郭を描くのに有効であるならば、治療位置確認の不確実性は低下し、PTVを超える15mmの治療拡大が実現可能であろう。15mmの治療拡大を用いると、健康な周囲組織の放射線被曝は、従来治療と比較して軽減した。図7(実施例2参照)はこの効果を詳細に説明するものである。乳房(非PTV)V50%は、5例全てで減少した(パネルa(図7a))。同側肺V30%も5例中4例で減少した(パネルb(図7b))。全ての左側乳腺腫瘤摘出部について、心臓V5%もわずかな減少を示した(パネルc(図7c))。インプラントの優れた可視化という側面を考慮することにより、減少した治療拡大、例えば、約25mm未満、または約2〜約25mmの拡大を伴う医原性部位でヒドロゲルをインプラントとして使用することを含む方法が示される。当業者であれば、例えば、約20mm未満、または約5mm〜約25mm未満のような、明記されている範囲内の全ての範囲および値が想定されていることを直ちに理解するであろう。
【0016】
<ヒドロゲルおよびヒドロゲル前駆体>
したがって、インプラント材料を作製するための実施形態を本明細書で提供する。そのような材料は、約20%v/vよりも大きい空隙率を有するマトリックスを含む。当業者であれば、明記されている範囲内の全ての範囲および値が想定されていることを直ちに理解するであろう。ヒドロゲルは、そのようなインプラントの一実施形態である。ヒドロゲルは、水に溶解せず、かつその構造の内部にかなりの割合(20%を越える)の水を保持する材料である。実際、90%を超える水含有量が多く知られている。ヒドロゲルは、多くの場合、水溶性分子を架橋して、本質的に無限の分子量の網目構造を形成させることにより形成される。水含有量が高いヒドロゲルは、通常、柔らかく、柔軟な材料である。乾燥させたヒドロゲルが、水に曝したときにヒドロゲル状態に戻る場合、本明細書では、これを脱水ヒドロゲルと呼ぶ。このヒドロゲルは、過剰な水に曝されて、しかも制約されなければ、体積が拡大することになる。乾燥したという用語は、本質的に流体を含まないヒドロゲルを意味するが、それでもごく微量の水が存在し得ることに留意する。
【0017】
ヒドロゲルは、天然ポリマー、合成ポリマー、または生合成ポリマーから形成させることができる。天然ポリマーとしては、グリコサミノグリカン、多糖類、およびタンパク質を挙げることができる。グリコサミノグリカンのいくつかの例としては、デルマタン硫酸、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、キチン、ヘパリン、ケラタン硫酸、ケラト硫酸、およびそれらの誘導体が挙げられる。一般に、グリコサミノグリカンは天然源から抽出され、精製および誘導体化される。しかしながら、それらは、合成で産生されることも、改変された微生物(例えば、細菌)によって合成されることもある。これらの材料は、天然の溶解状態から部分溶解状態または水膨潤性状態またはヒドロゲル状態へと合成的に改変することができる。この改変は、様々な周知の技術によって、例えば、イオン化可能もしくは水素結合可能な官能基(例えば、カルボキシルおよび/もしくはヒドロキシル)またはアミン基と、他のより疎水性の基との共役または置換によって達成することができる。
【0018】
例えば、ヒアルロン酸上のカルボキシル基をアルコールによってエステル化し、ヒアルロン酸の溶解度を低下させることができる。そのようなプロセスは、ヒドロゲルを形成するヒアルロン酸ベースのシート、繊維、および生地を生成させるために、ヒアルロン酸製品の様々な製造業者(例えば、Genzyme Corp.,Cambridge,MA)によって用いられている。例えば、カルボキシメチルセルロースまたは酸化再生セルロース、天然ゴム、寒天、アガロース、アルギン酸ナトリウム、カラギーナン、フコイダン、ファーセレラン、ラミナラン、ヒプネア(hypnea)、エウケウマ(eucheuma)、アラビアガム、ガティガム(gum ghatti)、カラヤガム、トラガカントゴム、ローカストビーンガム、アラビノガラクタン、ペクチン、アミロペクチン、ゼラチン、親水性コロイド(例えば、プロピレングリコールなどのポリオールと架橋したカルボキシメチルセルロースゴムまたはアルギネートゴム)などの他の天然多糖類も、水性環境に接したときにヒドロゲルを形成する。
【0019】
合成ヒドロゲルは、生体安定性であっても、生体分解可能であっても、生体分解可能であってもよい。生体安定性親水性ポリマー材料の例は、ポリ(ヒドロキシアルキルメタクリレート)、ポリ(電解質複合体)、加水分解可能な結合またはその他の分解可能な結合により架橋しているポリ(ビニルアセテート)、および水膨潤性のN−ビニルラクタムである。他のヒドロゲルとしては、酸性カルボキシポリマーのCARBOPOL(登録商標)として知られる親水性ヒドロゲル(カルボマー樹脂は、アリルペンタエリスリトール架橋された、高分子量のアクリル酸ベースのポリマーであり、C10−C30アルキルアクリレートで修飾されている)、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸、デンプングラフトコポリマー、アクリレートポリマー、エステル架橋ポリグルカンが挙げられる。そのようなヒドロゲルは、例えば、Etesに対する米国特許第3,640,741号明細書、Hartopに対する米国特許第3,865,108号明細書、Denzingerらに対する米国特許第3,992,562号明細書、Manningらに対する米国特許第4,002,173号明細書、Arnoldに対する米国特許第4,014,335号明細書、およびMichaelsに対する米国特許第4,207,893号明細書に記載されており、これらの文献は全て、参照により本明細書に組み入れられ、矛盾がある場合は、本明細書が優先される。
【0020】
ヒドロゲルは前駆体から作製することができる。前駆体はヒドロゲルではないが、互いに共有結合的に架橋してヒドロゲルを形成するので、ヒドロゲルの一部である。架橋は、共有結合もしくはイオン結合によって、前駆体分子セグメントの疎水性会合によって、または前駆体分子セグメントの結晶化によって形成させることができる。前駆体に反応を起こさせて、架橋ヒドロゲルを形成させることができる。前駆体は、重合可能であり、架橋剤(常にではないが、大抵は重合可能な前駆体である)を含むことができる。したがって、重合可能な前駆体は、互いに反応して繰返し単位から作られたポリマーを形成する官能基を有する前駆体である。前駆体はポリマーであってもよい。
【0021】
したがって、いくつかの前駆体は、付加重合とも呼ばれる連鎖成長重合によって反応し、かつ二重または三重化学結合を組み込んでいるモノマーが互いに結合したものを含む。こうした不飽和のモノマーは、切断しかつ他のモノマーと連結して、繰返し鎖を形成することができる余剰の内部結合を有する。モノマーは、他の基と反応してポリマーを形成する少なくとも1つの基を有する重合可能な分子である。マクロモノマー(または、マクロマー)は、多くの場合、その末端に、少なくとも1つの反応基を有するポリマーまたはオリゴマーであり、この反応基のために、マクロモノマーはモノマーとして機能することができる。各マクロモノマー分子は、反応基の反応によってポリマーに付加される。したがって、2つ以上のモノマーを含むまたは他の官能基を含むマクロモノマーは、共有結合性の架橋を形成する傾向がある。付加重合は、例えば、ポリプロピレンまたはポリ塩化ビニルの製造に関与する。付加重合の1つのタイプはリビング重合である。
【0022】
したがって、いくつかの前駆体は、モノマーが縮合反応を介して互いに結合するときに起こる縮合重合によって反応する。通常、アルコール、アミンまたはカルボン酸(もしくは他のカルボキシル誘導体)官能基を組み込んでいる分子を反応させることによって、こうした反応を達成することができる。アミンがカルボン酸と反応するとき、水の放出を伴って、アミドまたはペプチド結合が形成される。いくつかの縮合反応は、例えば、米国特許第6,958,212号明細書(この文献は、本明細書で明示的に開示されているものと矛盾しない程度に、その全体が参照により本明細書に組み込まれる)に見られるように、求核アシル置換に続く。
【0023】
いくつかの前駆体は、連鎖成長機構によって反応する。連鎖成長ポリマーは、モノマーまたはマクロモノマーと反応中心との反応によって形成されるポリマーと定義される。反応中心とは、化学物質が関わる反応の開始剤である化学化合物内の特定の部位である。連鎖成長ポリマー化学反応において、これは、成長鎖の伝播点でもある。反応中心は、一般に、ラジカル、陰イオンまたは陽イオンの性質があるが、他の形態を取ることもできる。連鎖成長系には、開始、伝播および停止というプロセスを含む、フリーラジカル重合が含まれる。開始とは、例えば有機過酸化物分子などのラジカル開始剤から生成されるような、伝播に必要なフリーラジカルの生成である。停止とは、ラジカルがさらなる伝播を妨げるように反応するときに起こる。最も一般的な停止方法は、2つのラジカル種が互いに反応して単一分子を形成するカップリングによるものである。
【0024】
いくつかの前駆体は、逐次成長機構によって反応し、かつモノマーの官能基間の段階的反応によって形成されるポリマーである。また、ほとんどの逐次成長ポリマーは縮合ポリマーに分類されるが、全ての逐次成長ポリマーが縮合物を放出するわけではない。
【0025】
モノマーは、ポリマーまたは小分子であってもよい。ポリマーは、多くの小分子(モノマー)を規則的なパターンで組み合せて形成される高分子量分子である。オリゴマーは、約20個未満のモノマー反復単位を有するポリマーである。小分子は、通常、約2000ダルトン未満の分子を意味する。
【0026】
したがって、前駆体は、小分子(例えばアクリル酸もしくはビニルカプロラクタムなど)、重合可能な基を含む巨大分子(例えばアクリレートでキャッピングされたポリエチレングリコール(PEG−ジアクリレート)など)、または、エチレン性不飽和基を含む他のポリマー(例えば、Dunnらに対する米国特許第4,938,763号明細書、Cohnらに対する米国特許第5,100,992号明細書および同第4,826,945号明細書、もしくはDeLucaらに対する米国特許第4,741,872号明細書および同第5,160,745号明細書に記載のもの)であってもよい。これらの文献は各々、本明細書で明示的に開示されているものと矛盾しない程度に、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0027】
共有結合的に架橋されたヒドロゲルを形成するためには、前駆体を互いに架橋しなければならない。一般に、ポリマー前駆体(polymeric precursors)は、2箇所以上の点で他のポリマー前駆体に結合されているポリマーを形成し、各々の点は、同じかまたは異なるポリマーとの結合になっている。少なくとも2つの反応基を有する前駆体は、各々の反応基が異なる成長ポリマー鎖の形成に関与することができるので、架橋剤として機能することができる。特に、反応中心がない官能基の場合、架橋には、前駆体タイプ(のポリマー)の少なくとも1つの上に3つ以上のそのような官能基が必要となる。例えば、多くの求電子−求核反応が、求電子性および求核性官能基を消費するので、架橋を形成するためには前駆体に第3の官能基が必要となる。したがって、そのような前駆体は、3つ以上の官能基を有して、2つ以上の官能基を有する前駆体によって架橋されていてもよい。架橋分子は、イオン結合もしくは共有結合、物理的な力、または他の引力を介して架橋されていてもよい。しかしながら、共有結合性の架橋は、通常、反応生成物構造における安定性および予測可能性を提供するだろう。
【0028】
いくつかの実施形態では、ある前駆体上の求核性官能基が別の前駆体上の求電子性官能基と反応して共有結合を形成することができるように、各々の前駆体は多官能性、つまり、各々の前駆体は2つ以上の求電子性または求核性官能基を含む。求電子−求核反応の結果として、前駆体が結合し、架橋されたポリマー生成物を形成するように、前駆体のうちの少なくとも1つは、3つ以上の官能基を含む。
【0029】
前駆体は、生物学的に不活性でかつ親水性の部分、例えば、コアを有することができる。分岐状ポリマーの場合、コアは、コアから伸びた腕(アーム:arms)に結合している分子の隣接部分(contiguous portion)を意味し、この腕は、分岐の末端にあることが多い官能基を有する。親水性前駆体または前駆体部分は、水溶液中で少なくとも1g/100mLの溶解度を有することが好ましい。親水性部分は、例えば、ポリエーテル、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリエチレンオキシド−コ−ポリエチレンオキシド(PPO)、コ−ポリエチレンオキシドのブロックもしくはランダムコポリマーなどのポリアルキレンオキシド、およびポリビニルアルコール(PVA)、ポリ(ビニルピロリドン)(PVP)、ポリ(アミノ酸)、デキストラン、またはタンパク質であることができる。前駆体は、ポリアルキレングリコール部分を有していてもよく、また、少なくとも約80重量%または90重量%のポリマーがポリエチレンオキシド反復を含む、ポリエチレングリコール系のものであってもよい。ポリエーテル類、およびより具体的には、ポリ(オキシアルキレン類)またはポリ(エチレングリコール)もしくはポリエチレングリコールは、通常、親水性である。
【0030】
また、前駆体は、千〜何百万という範囲の分子量を有する分子である巨大分子(またはマクロマー)であってもよい。しかしながら、いくつかの実施形態では、前駆体の少なくとも1つは、約1000Da以下の小分子である。約1000Da以下の小分子と組合せて反応させる場合、巨大分子は、分子量が小分子よりも少なくとも5〜50倍大きいことが好ましく、かつ約60,000Da未満であることが好ましい。当業者であれば、明記されている範囲内の全ての範囲および値が想定されていることを直ちに理解するであろう。より好ましい範囲は、分子量が架橋剤よりも約7〜約30倍大きい巨大分子であり、最も好ましい範囲は、約10〜20倍の重量差である。さらに、7,000〜40,000の分子量または10,000〜20,000の分子量と同じく、5,000〜50,000の巨大分子の分子量が有用である。
【0031】
特定のマクロマー前駆体は、Hubbellらに対する米国特許第5,410,016号明細書(この文献は、本明細書で明示的に開示されているものと矛盾しない程度に、その全体が参照により本明細書に組み込まれる)に記載されている、架橋可能で、生体分解性で、水溶性のマクロマーである。これらのマクロマーは、少なくとも1つの分解可能な領域によって隔てられた、少なくとも2つの重合可能な基を有することを特徴とする。
【0032】
合成前駆体を用いてもよい。合成とは、自然界には見られないか、または通常ヒトでは見られない分子を意味する。いくつかの合成前駆体は、天然に生じるアミノ酸を含まないか、または天然に生じるアミノ酸配列を含まない。いくつかの合成前駆体は、例えば、ジ−、トリ−、またはテトラ−リジンのような、天然には見られないか、または通常ヒトの体内では見られないポリペプチドである。いくつかの合成分子はアミノ酸残基を有するが、隣接する1つ、2つ、または3つのアミノ酸残基を有するに過ぎず、アミノ酸またはそのクラスターは、非天然のポリマーまたは基によって隔てられている。したがって、多糖類またはその誘導体は合成分子ではない。
【0033】
あるいは、天然のタンパク質または多糖類、例えば、コラーゲン、フィブリン(フィブリノーゲン)、アルブミン、アルギネート、ヒアルロン酸、およびヘパリンを、これらの方法を用いた使用に適合させることができる。これらの天然の分子は、例えば、合成ポリマー修飾などの、化学的な誘導体化をさらに含むことができる。天然の分子は、例えば、米国特許第5,304,595号明細書、同第5,324,775号明細書、同第6,371,975号明細書、および同第7,129,210号明細書(これらの文献は各々、本明細書で明示的に開示されているものと矛盾しない程度に、その全体が参照により本明細書に組み込まれる)に見られるように、その天然の求核剤を介して、または官能基で誘導体化した後に、架橋することができる。天然とは、自然界に見られる分子を意味する。天然ポリマー、例えば、コラーゲン、フィブリノーゲン、アルブミン、およびフィブリンなどのタンパク質またはグリコサミノグリカンは、求電子性官能基を有する反応性の前駆体種を用いて架橋することができる。通常、体内に見られる天然ポリマーは、体内に存在するプロテアーゼによって、タンパク分解的に分解される。そのようなポリマーは、そのアミノ酸上のアミン、チオール、もしくはカルボキシルなどの官能基を介して反応するか、または活性化可能な官能基を有するように誘導体化することができる。天然ポリマーは、ヒドロゲルで用いることができるが、そのゲル化までの時間および最終的な機械的特性は、さらなる官能基の適切な導入、および例えば、pHなどの好適な反応条件の選択によって制御されなければならない。
【0034】
結果として得られるヒドロゲルが、必要量の水、例えば、少なくとも約20%を保持するならば、疎水性部分を有する前駆体を作製することができる。場合により、前駆体は、それでも水に溶けるが、それは、前駆体が親水性部分も有しているからである。別の場合には、前駆体は水に分散する(懸濁液)が、それでも、架橋材料を形成するように反応することができる。いくつかの疎水性部分は、複数のアルキル、ポリプロピレン、アルキル鎖、または他の基を含むことができる。疎水性部分を有するいくつかの前駆体は、PLURONIC F68、JEFFAMINE、またはTECTRONICという商標名で販売されている。疎水性部分とは、マクロマーもしくはコポリマーを凝集させて、水性の連続相にミセルを形成させるのに十分疎水性であるもの、または単独で試験した場合、pH約7〜約7.5、温度約30〜約50℃の水溶液から沈殿するか、もしくはさもなければ、そのような溶液中にあるときに相を変化させるのに十分疎水性であるものである。
【0035】
いくつかの前駆体がデンドリマーまたは他の高度に分枝した材料であり得ることを考慮して、前駆体は、例えば2〜100本の腕を有し、各々の腕が末端を有してもよい。ヒドロゲル前駆体上の腕は、架橋可能な官能基をポリマーのコアに接続する、直鎖の化学基を意味する。いくつかの実施形態は、3〜300本の腕を有する前駆体である。当業者であれば、例えば、4〜16本、8〜100本、または少なくとも6本の腕のような、明記されている範囲内の全ての範囲および値が想定されることを直ちに理解するであろう。
【0036】
したがって、ヒドロゲルは、例えば、官能基の第1の組を有する多腕前駆体、および官能基の第2の組を有する低分子量前駆体から作製することができる。例えば、6本腕または8本腕の前駆体は、例えば、一級アミンで終端されたポリエチレングリコールなどの親水性の腕を有することができ、これらの腕の分子量は、約1,000〜約40,000である。当業者であれば、明記されている範囲内の全ての範囲および値が想定されることを直ちに理解するであろう。そのような前駆体は、比較的小さい前駆体(例えば、分子量が約100〜約5000、または約800、1000、2000、もしくは5000以下で、少なくとも約3つの官能基、または約3〜約16の官能基を有する分子)と混合することができる。当業者であれば、これらの明記された値の間にある全ての範囲および値が想定されることを理解するであろう。そのような小分子は、ポリマーであっても非ポリマーであってもよく、かつ天然物であっても合成物であってもよい。
【0037】
デンドリマーではない前駆体を用いてもよい。樹状分子は高度に分岐した放射状の対称性ポリマーであり、原子が多くの腕に配置され、サブアーム(subarms)が中心のコアから放射状に広がっている。デンドリマーは、対称性と多分散性の両方の評価に基づくその構造完全性の程度によって特徴付けられ、合成するために特定の化学プロセスを必要とする。したがって、当業者は、デンドリマー前駆体と非デンドリマー前駆体とを容易に区別することができる。デンドリマーは、通常、所与の環境でのその成分ポリマーの溶解度に依存する形状を有し、例えば、温度、pH、またはイオン含量の変化のように、その周辺の溶媒または溶質によって大幅に変化することがある。
【0038】
前駆体は、例えば、特許刊行物の米国特許出願公開第20040086479号明細書、米国特許出願公開第20040131582号明細書、国際公開第07005249号パンフレット、国際公開第07001926号パンフレット、国際公開第06031358号パンフレット、またはこれらの米国の対応物に見られるようなデンドリマーであってもよい。また、デンドリマーは、例えば、特許刊行物の米国特許出願公開第20040131582号明細書、米国特許出願公開第20040086479号明細書、ならびにPCT出願の国際公開第06031388号パンフレットおよび国際公開第06031388号パンフレットに見られるような、多官能性前駆体として有用である。これらのUSおよびPCT出願は各々、本明細書で明示的に開示されているものと矛盾しない程度に、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。デンドリマーは、高度に規則正しく整列し、高い表面積対体積比を有し、かつ機能化が可能な多数の末端基を示す。実施形態は、デンドリマーではない多官能性前駆体を含む。
【0039】
いくつかの実施形態は、例えば、少なくとも1つのアミン、チオール、カルボキシル、またはヒドロキシルの側鎖を含むアミノ酸など、5残基以下のオリゴペプチド配列から本質的になる前駆体を含む。残基は、天然に存在するまたはそれらの誘導体化されたいずれかのアミノ酸である。そのようなオリゴペプチドの骨格は、天然物であっても合成物であってもよい。いくつかの実施形態では、2つ以上のアミノ酸のペプチドを合成骨格と組み合わせて、前駆体を作製した。そのような前駆体の特定の実施形態は、約100〜約10,000、または約300〜約500の範囲内の分子量を有する。当業者であれば、明記されている範囲内の全ての範囲および値が想定されることを直ちに理解するであろう。
【0040】
前駆体は、メタロプロテイナーゼおよび/またはコラゲナーゼが付着しやすい配列を含まないことを含め、導入部位に存在する酵素によって切断可能なアミノ酸配列を含まないように調製することができる。さらに、前駆体は、アミノ酸を全く含まないように、または約50、30、20、10、9、8、7、6、5、4、3、2、もしくは1つより多いアミノ酸のアミノ酸配列を含まないように作製することができる。前駆体は非タンパク質であってもよい。つまり、前駆体は、天然に存在するタンパク質ではなく、天然に存在するタンパク質の切断によって作製することができず、また、合成材料をタンパク質に付加することによって作製することもできない。前駆体は、非コラーゲン、非フィブリン、非フィブリノーゲン、および非アルブミンであってもよい。つまり、前駆体は、これらのタンパク質の1つではなく、また、これらのタンパク質の1つの化学的誘導体でもない。非タンパク質前駆体の使用、およびアミノ酸配列の限定的使用は、免疫反応を回避し、望ましくない細胞認識を回避し、かつ天然供給源に由来するタンパク質の使用に関連する危険を回避するのに役立つ可能性がある。前駆体は、非サッカリドである(サッカリドを含まない)ことも、または本質的に非サッカリドである(前駆体分子量の約5%w/wを超えるサッカリドを含まない)こともできる。したがって、前駆体は、例えば、ヒアルロン酸、ヘパリンまたはジェランを含まなくてもよい。前駆体は、非タンパク質と非サッカリドの両方であることもできる。
【0041】
ペプチドを前駆体として用いてもよい。一般に、約10残基未満のペプチドが好ましいが、より大きな配列(例えば、タンパク質)を用いてもよい。当業者であれば、例えば、1〜10、2〜9、3〜10、1、2、3、4、5、6、または7のような、これらの明示的範囲内の全ての範囲および値が含まれることを直ちに理解するであろう。いくつかのアミノ酸は、求核性基(例えば、一級アミンもしくはチオール)、または必要に応じて求核性基もしくは求電子性基(例えば、カルボキシルもしくはヒドロキシル)を組み込むように誘導体化することができる基を有する。合成により生成されるポリアミノ酸ポリマーは、それらが天然には見られず、かつ天然に存在する生体分子とは同一にならないように操作される場合、通常、合成物であると見なされる。
【0042】
いくつかのヒドロゲルは、ポリエチレングリコール含有前駆体を用いて作製される。ポリエチレングリコール(PEG、高分子量で生じる場合、ポリエチレンオキシドとも呼ばれる)は、反復基(CHCHO)(nは少なくとも3である)を有するポリマーを意味する。したがって、ポリエチレングリコールを有するポリマー前駆体は、少なくとも3つの、互いに線状に連なって結合した反復基を有する。ポリマーまたは腕のポリエチレングリコール含有量は、たとえ、それらが他の基によって中断されていても、ポリマーまたは腕上の全てのポリエチレングリコール基を足し合わせることによって計算される。したがって、少なくとも1000MWのポリエチレングリコールを有する腕は、合計が少なくとも1000MWとなるのに十分なCHCHO基を有する。当技術分野では通例の用語であるが、ポリエチレングリコールポリマーは、ヒドロキシル基で終わる分子を必ずしも意味するものではない。分子量は、記号kを用いて千単位で略記し、例えば、15Kは分子量15,000、すなわち、15,000ダルトンを意味する。SGまたはSGAは、スクシンイミジルグルタレートを意味する。SSはスクシンイミドスクシネートを意味する。SSおよびSGは、水中での加水分解によって分解するエステル基を有するスクシンイミジルエステルである。したがって、加水分解で分解可能とは、分解を媒介するために存在する酵素または細胞がなくても、過剰な水の中で、インビトロ(in vitro)で自然に分解する材料を意味する。分解の時間は、裸眼で判定される材料の効果的な消失を意味する。トリリジン(LLLとも略記される)は、合成トリペプチドである。PEGおよび/またはヒドロゲルは、薬学的に許容できる形態で提供されてもよい。つまり、PEGおよび/またはヒドロゲルは、高度に精製されており、例えば、発熱物質のような夾雑物を含まない。
【0043】
<官能基>
前駆体は、互いに反応して、患者の外側か、またはインサイチュかのいずれかで材料を形成する官能基を有する。官能基は、通常、重合のための重合可能な基を有するか、または求電子剤−求核剤反応で互いに反応するか、または他の重合反応に関与するように構成されている。重合反応の様々な態様は、本明細書中の前駆体の節で論じられている。
【0044】
したがって、いくつかの実施形態では、前駆体は、例えば、重合分野で用いられているような光開始もしくはレドックス系によって活性化される重合可能な基、例えば、またはカルボジイミダゾール、塩化スルホニル、クロロカルボネート、n−ヒドロキシスクシンイミジルエステル、スクシンイミジルエステルもしくはスルファスクシンイミジルエステルである求電子性官能基、もしくは米国特許第5,410,016号明細書もしくは同第6,149,931号明細書(これらの文献は、本明細書で明示的に開示されているものと矛盾しない程度に、その全体が参照により本明細書に組み込まれる)に見られる求電子性官能基を有する。求核性官能基は、例えば、アミン、ヒドロキシル、カルボキシル、およびチオールであってもよい。求電子剤の別のクラスは、例えば、米国特許第6,958,212号明細書に見られるようなアシルである。この文献では、特に、反応しているポリマーのマイケル付加スキームについて記載されている。
【0045】
アルコールまたはカルボン酸などの特定の官能基は、通常、生理的条件下(例えば、pH7.2〜11.0、37℃)では、アミンなどの他の官能基と反応しない。しかしながら、そのような官能基は、N−ヒドロキシスクシンイミドなどの活性化基を用いることによって、より反応性を高めることができる。特定の活性化基としては、カルボニルジイミダゾール、塩化スルホニル、アリールハロゲン化合物、スルホスクシンイミジルエステル、N−ヒドロキシスクシンイミジルエステル、スクシンイミジルエステル、エポキシド、アルデヒド、マレイミド、イミドエステルなどが挙げられる。N−ヒドロキシスクシンイミドエステルまたはN−ヒドロキシスルホスクシンイミド(NHS)基は、タンパク質、またはアミノ末端ポリエチレングリコールなどのアミン含有ポリマーの架橋のための有用な基である。NHS−アミン反応の利点は、反応速度論が好都合であることであるが、そのゲル化の速度は、pHまたは濃度によって調整することができる。NHS−アミン架橋反応は、副生成物としてのN−ヒドロキシスクシンイミドの形成をもたらす。N−ヒドロキシスクシンイミドのスルホン化またはエトキシ化形態は、水への溶解度が比較的増大しており、そのため、体から速やかに除去される。NHS−アミン架橋反応は、水溶液中、および例えば、リン酸塩緩衝剤(pH5.0〜7.5)、トリエタノールアミン緩衝剤(pH7.5〜9.0)、もしくはホウ酸緩衝剤(pH9.0〜12)、または炭酸水素ナトリウム緩衝剤(pH9.0〜10.0)などの緩衝剤の存在下で行なうことができる。NHS基と水とが反応するため、NHSベースの架橋剤および官能性ポリマーの水溶液は、架橋反応の直前に作製されることが好ましい。低いpH(pH4〜7)でこれらの溶液を保持することによって、これらの基の反応速度を遅らせることができる。緩衝剤は、体内に導入されるヒドロゲルに含めることもできる。
【0046】
いくつかの実施形態では、求核性前駆体と求電子性前駆体の両方が架橋反応に使用されるのであれば、各前駆体は、求核性官能基だけまたは求電子性官能基だけを含む。したがって、例えば、架橋剤が、アミンなどの求核性官能基を有する場合、官能性ポリマーは、N−ヒドロキシスクシンイミドなどの求電子性官能基を有することができる。一方、架橋剤が、スルホスクシンイミドなどの求電子性官能基を有する場合、官能性ポリマーは、アミンまたはチオールなどの求核性官能基を有することができる。したがって、タンパク質、ポリ(アリルアミン)、またはアミン末端を有する二官能性もしくは多官能性のポリ(エチレングリコール)などの官能性ポリマーを使用することができる。
【0047】
一実施形態は、各々3〜16個の求核性官能基を含む反応性前駆体種、および各々2〜12個の求電子性官能基を含む反応性前駆体種を有する。当業者であれば、明記されている範囲内の全ての範囲および値が想定されることを直ちに理解するであろう。
【0048】
官能基は、例えば、求核剤と反応可能な求電子剤、特定の求核剤(例えば、一級アミン)と反応可能な基、生体液中の物質とのアミド結合を形成する基、カルボキシルとのアミド結合を形成する基、活性化された酸官能基、またはそれらの組合せであってもよい。官能基は、例えば、強い求電子性官能基、つまり、室温および室内圧にて、pH9.0の水溶液中で一級アミンとの共有結合を効率的に形成する求電子性官能基および/またはマイケル型反応によって反応する求電子性基であってもよい。強い求電子剤は、マイケル型反応に関与しないタイプのものであっても、マイケル型反応に関与するタイプのものであってもよい。
【0049】
マイケル型反応は、共役不飽和系での求核剤の1,4付加反応を意味する。付加機構は、純粋に極性があるものであっても、ラジカル様中間体状態を経て進行するものであってもよい。ルイス酸または適切に設計された水素結合種が触媒として作用することができる。共役という用語は、炭素−炭素、炭素−ヘテロ原子もしくはヘテロ原子−ヘテロ原子多重結合が単結合と交互になっていること、または官能基が合成ポリマーもしくはタンパク質などの巨大分子と結合していることの両方を意味する。マイケル型反応は、米国特許第6,958,212号明細書で詳細に論じられており、この文献は、本明細書で明示的に開示されているものと矛盾しない程度に、その全体があらゆる目的のために参照により本明細書に組み込まれる。
【0050】
マイケル型反応に関与しない強い求電子剤の例は、スクシンイミド、スクシニミジルエステル、またはNHS−エステルである。マイケル型求電子剤の例は、アクリレート、メタクリレート、メチルメタクリレート、および他の不飽和重合可能基である。
【0051】
<開始系>
いくつかの前駆体は、開始剤を用いて反応する。開始剤基は、フリーラジカル重合反応を開始することができる化学基である。例えば、それは、別々の成分としてか、または前駆体上のペンダント基として存在することができる。開始剤基としては、熱開始剤、光活性化可能な開始剤、および酸化−還元(レドックス)系が挙げられる。長波長のUVおよび可視光で光活性化可能な開始剤としては、例えば、エチルエオシン基、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン基、他のアセトフェノン誘導体、チオキサントン基、ベンゾフェノン基、およびカンファーキノン基が挙げられる。熱反応性開始剤の例としては、4,4’アゾビス(4−シアノペンタン酸)基、および過酸化ベンゾイル基の類似体が挙げられる。Wako Chemicals USA社(Richmond,Va.)から入手可能なV−044などの、いくつかの市販の低温フリーラジカル開始剤を用いて、体温でフリーラジカル架橋反応を開始させ、前述のモノマーとともにヒドロゲルコーティングを形成させることができる。
【0052】
金属イオンを、レドックス開始系の酸化剤または還元剤のいずれかとして用いることができる。例えば、第一鉄イオンを、重合を開始させるための過酸化物またはヒドロペルオキシドと組み合せて、または重合系の一部として用いることができる。この場合、第一鉄イオンは還元剤として機能することになる。あるいは、金属イオンは、酸化剤として機能することができる。例えば、セリウムイオン(セリウムの4+価状態)は、カルボン酸およびウレタンをはじめとする、様々な有機基と相互作用し、電子を金属イオンに移動させ、有機基の後ろに開始ラジカルを残す。そのような系では、金属イオンは、酸化剤として作用する。どちらの役割にも潜在的に適した金属イオンは、遷移金属イオン、ランタニド、およびアクチニドのいずれかであり、これらは、少なくとも2つの容易に移行しやすい酸化状態を有する。特に有用な金属イオンは、たった1つの電荷の差で隔てられた、少なくとも2つの状態を有する。これらの中で、最も一般的に使用されるのは、第二鉄/第一鉄、第二銅/第一銅、第二セリウム/第一セリウム、第二コバルト/第一コバルト、バナデートV対バナデートIV、過マンガン酸、および第二マンガン/第一マンガンである。過酸化水素、t−ブチルヒドロペルオキシド、t−ブチルペルオキシド、過酸化ベンゾイル、クミルペルオキシドをはじめとする、過酸化物やヒドロペルオキシドなどの、過酸素含有化合物を用いることができる。
【0053】
開始系の例は、ある溶液中の過酸素化合物と、別の溶液中の遷移金属などの反応性イオンとの組合せである。この場合、外部の重合開始剤は必要なく、重合は、2つの相補的な反応性官能基を含有する部分が適用部位で相互作用するときに、自発的に、かつ外部エネルギーの適用または外部エネルギー源の使用なしで進行する。
【0054】
<ヒドロゲルおよびヒドロゲル形成>
一般に、前駆体を組み合わせて、共有結合的に架橋したヒドロゲルを作製することができる。ヒドロゲルは、好適な期間をかけて放出される1つまたは複数の治療剤を含むことができる。ヒドロゲルは、事前にまたはインサイチュで作製することができる。
【0055】
インサイチュで作製されるとき、架橋反応は、通常、生理的条件下、水溶液中で生じる。架橋反応は、重合の熱を発しないか、または重合の開始もしくは誘発に外部のエネルギー源を必要としないことが好ましい。インサイチュでのヒドロゲルの形成は、組織辺縁部へのヒドロゲルの接着をもたらし得る。この接着は、天然分子の架橋によるヒドロゲル障壁を超えた腔への流体の流れを低下させる傾向があり、それにより、漿液腫形成を有利に低下させる。
【0056】
実施例1および2のデータは、ヒドロゲルが適切な位置で膨潤したことを示している。一実施形態は、あまり膨潤しないヒドロゲルである。ヒドロゲルは、通常、物理的制限の非存在下で24時間、生理溶液に曝したときに、形成時のヒドロゲルの重量と比べて、重量が約50%までしか増加しないヒドロゲルによって測定されるように低膨潤であり得る。膨潤は、重量または体積によって測定または表現することができる。いくつかの実施形態は、重量または体積で約50%以下、約20%以下、または約0%以下だけ膨潤する。当業者であれば、例えば、10%〜20%の収縮(負の膨潤)、−10%〜50%以下の膨潤のような、明記されている範囲内の全ての範囲および値が想定されることを直ちに理解するであろう。膨潤の一態様は、大きな変化によって、所望のヒドロゲルサイズを達成する困難が増すことである。例えば、組織中の陥没に膨潤性ヒドロゲルを充填することにより、適用および/またはゲル化の時点では使用者に気付かれない高さがヒドロゲルにもたらされる。同様に、膨潤(および収縮)によって、ヒドロゲルを周囲組織から引き離す傾向がある力が生じ、その結果、接着が影響を受けることがある。
【0057】
低膨潤のための1つの手法は、架橋の数または固体含有量を増加させることである。しかしながら、これらの因子の増加は、通常、ゲルの機械的特性に影響を及ぼし、より多くの架橋はゲルをより脆いが、より強くし、より高い固体含有量はゲルをより強くする。これらの因子はまた、分解時間を延長することができ、かつ細胞との相互作用に影響を及ぼす場合がある。膨潤を低減させるための別の実施形態は、架橋時に高度の溶媒和を有するが、その後、溶媒和されなくなり、かつ効果的に収縮する溶媒和の半径を有する前駆体を選択することである。すなわち、前駆体は、架橋されたときは溶液中に広がっているが、後に収縮する。pH、温度、固体濃度、および溶媒環境の変化は、そのような変化を引き起こし得る。さらに、分枝の数の増加(他の因子は、事実上一定に保たれる)は、この効果も有する傾向がある。腕の数は、架橋前に腕が広がるように、互いに立体的に妨げ合うと考えられるが、こうした立体効果は、重合後、他の因子によって相殺される。いくつかの実施形態では、前駆体は、こうした効果を達成するために複数の同様の電荷を有し、例えば、負の電荷を有する複数の官能基、または各々正の電荷を有する複数の腕、または架橋もしくは他の反応の前と同様の電荷の官能基を有する各々の腕を有する。
【0058】
本明細書に記載のヒドロゲルは、沈着後、最低限にしか膨潤しないヒドロゲルを含むことができる。そのような医療用の低膨潤性ヒドロゲルは、生理溶液への曝露により、例えば、約25重量%、約10重量%、約5重量%、約0重量%しか増加しないか、または例えば、少なくとも約5%、少なくとも約10%もしくはそれを上回って収縮する(重量および体積が減少する)重合時の重量を有することができる。当業者であれば、これらの明記された限度の範囲内またはさもなければこれらの明記された限度に関する全ての範囲および値が本明細書に開示されていることを直ちに理解するだろう。特に示さない限り、ヒドロゲルの膨潤は、架橋が事実上完了したときのその形成時間と、制約を受けない状態でインビトロの水溶液中に24時間置かれた後の時間との間のその体積(または重量)変化に関する。24時間の時点で、ヒドロゲルは、その平衡膨潤状態に達したと合理的に仮定することができる。ほとんどの実施形態について、架橋は、わずか約3分以内に事実上完了するため、初期重量は、通常、形成後約15分で、初期形成の重量と表すことができる。したがって、次の式が用いられる。膨潤%=[(24時間での重量−初期形成時の重量)/初期形成時の重量]100。ヒドロゲルの重量は、ヒドロゲル中の溶液の重量を含む。
【0059】
反応速度は、通常、外部開始剤または連鎖転移剤を必要する場合を除いて、特定の官能基、その濃度、および局所的pHを考慮して制御し、その場合、開始剤を作動させること、または転移剤を操作することが、制御工程となり得る。いくつかの実施形態では、前駆体の分子量を用いて、反応時間に影響を及ぼす。低分子量の前駆体は、官能基の濃度が高いために反応を加速する傾向があるので、いくつかの実施形態は、約1000または約2000ダルトン未満の分子量を有する少なくとも1つの前駆体を有する。当業者であれば、例えば、100〜約900ダルトンまたは500〜約1800ダルトンのような、明記されている範囲内の全ての範囲および値が想定されることを直ちに理解するであろう。
【0060】
結果として得られる生体適合性架橋ポリマーの架橋密度は、架橋剤および官能性ポリマーの全体の分子量、ならびに1分子当たりに利用可能な官能基の数によって制御される。500などの架橋間の低分子量は、10,000などの高分子量と比べて、はるかに高い架橋密度を生じる。架橋密度は、架橋剤および官能性ポリマー溶液の全体の固体パーセントによっても制御することができる。固体パーセントを高くすると、加水分解による不活化の前に、求電子性官能基が求核性官能基と化合する確率が高くなる。架橋密度を制御するためのまた別の方法は、求核性官能基対求電子性官能基の化学量論を調整することによるものである。1対1の比率は、最も高い架橋密度をもたらす。架橋間の距離がより長い前駆体は、通常、より柔らかく、より柔軟で、かつより弾性がある。したがって、ポリエチレングリコールなどの水溶性部分の長さの増加は、弾性を強化して、望ましい物理特性を生む傾向がある。したがって、特定の実施形態は、3,000〜100,000の範囲の分子量の水溶性部分を有する前駆体に関する。当業者であれば、例えば、10,000〜35,000のような、明記されている範囲内の全ての範囲および値が想定されることを直ちに理解するであろう。
【0061】
ヒドロゲルの固体含有量は、その機械的特性および生体適合性に影響を及ぼし、かつ競合する要件間のバランスを反映することがある。例えば、約2.5%〜約20%の比較的低い固体含有量が有用であり、これには、例えば、約2.5%〜約10%、約5%〜約15%、または約15%未満のような、その間の全ての範囲および値が含まれる。
【0062】
治療剤の存在下、インサイチュでヒドロゲルを作製するための実施形態は、アプリケータを用いて点および/または小管に投与することができる前駆体を水溶液中で組み合わせ、その後、ヒドロゲルを形成させることである。前駆体は、投与前、投与中、または投与後に、活性化剤と混合することができる。ヒドロゲルは、例えば、溶液、懸濁液、粒子、ミセルのように、その中に分散した治療剤とともに配置するか、またはカプセル化することができる。一実施形態では、架橋は、薬剤を捕捉する。別の実施形態では、架橋は、薬剤を沈殿させるかまたは薬剤を溶液から懸濁液に移す。
【0063】
したがって、一実施形態は、水性溶媒にて、この溶媒中の治療剤の存在下で、第1のタイプの官能基を有する第1のヒドロゲル前駆体を第2のタイプの官能基を有する第2のヒドロゲル前駆体と組み合わせることに関する。一実施形態では、前駆体を別々に溶解させ、効果的な架橋を提供する活性化剤の存在下で組み合わせる。あるいは、前駆体を単に混合することで架橋を誘発させる。したがって、一実施形態は、求核剤を含む低分子量前駆体を含有する低pH(4.0)希釈剤溶液)中に溶解した、複数のスクシンイミジル末端を有する分岐ポリマーを提供することである。この溶液は、より高いpH溶液(8.8)との組合せによって活性化され、架橋機構を開始する。薬剤は、希釈剤溶液中の懸濁液として事前に組み込まれる。ゲルはインサイチュで形成される。
【0064】
<他のシステムの概観>
例えば、米国特許第6,656,200号明細書、同第5,874,500号明細書、同第5,543,441号明細書、同第5,514,379号明細書、同第5,410,016号明細書、同第5,162,430号明細書、同第5,324,775号明細書、同第5,752,974号明細書、および同第5,550,187号明細書(これら文献は各々、本明細書で明示的に開示されているものと矛盾しない程度に、参照により本明細書に組み込まれる)に見られるような、例えば、FOCALSEAL(Genzyme社)、COSEAL(Angiotech Pharmaceuticals)、およびDURASEAL(Confluent Surgical社)などの製品で使用されている、合成前駆体を用いて作製された特定の重合可能なヒドロゲルが医療分野で公知である。これらの材料は非常に素早く重合するので、本明細書に記載した用途の少なくとも一部については制御された形で注射することができない可能性がある。また、COSEALおよびDURASEALはpHが高い(pH9を超える)。別の理由は、それらが明らかに、医原性部位の充填には大き過ぎるほど膨潤するということである。COSEALおよびDURASEALの膨潤は、フィブリンシーラントと比較して、インビトロモデルを用いて測定されている(Campbell et al.,Evaluation of Absorbable Surgical Sealants:In vitro Testing,2005)。3日にわたる試験で、COSEALは、平均約558重量%膨潤し、DURASEALは、平均約98重量%増加し、かつフィブリンシーラントは、約3%膨潤した。全ての軸に沿って均一に拡大すると仮定して、単一の軸のパーセント増加は、COSEAL、DURASEAL、およびフィブリンシーラントについて、それぞれ、87%、26%、および1%と計算された。FOCALSEALは、300%を超えて膨潤することが知られている。また、活性化するために、外部の光を必要とする。フィブリンシーラントは、接着性と、密封性と、COSEAL、DURASEAL、および本明細書で開示される他のヒドロゲルに劣る機械的特性とを有するタンパク質性の接着剤である。さらに、それは、汚染されている可能性がある生物学的供給源に通常由来し、水による分解とは異なる機構で身体から除去され、かつ通常、貯蔵の間は冷凍を必要とする。
【0065】
<ヒドロゲル用の放射線不透過剤>
ヒドロゲルが放射線不透過(RO)剤を含むならば、いくつかのヒドロゲル適用は容易になるであろう。これらの薬剤は、ヒドロゲルと混合し、かつ/または共有結合的に付着させることができる。一実施形態は、ヒドロゲルが、RO標識前駆体の混合物から、またはRO標識前駆体を含む混合物から形成することによって共有結合的に付着したRO剤を有するように、共有結合的に付着したRO剤を有する分岐前駆体を用いることを含む。
【0066】
実施例3および4は、そのような薬剤をマトリックスに組み込むための技術を示している。1つの問題は、RO剤が十分な濃度および容量で存在する必要があることである。有用な薬剤量は、組織部位およびイメージング法によって決まることがある。CT数(ハウンズフィールド単位またはハウンズフィールド数とも呼ばれる)は、間接的なイメージング法の下での可視性の尺度である。ヨウ素を含む、様々な濃度のRO剤、イオヘキソールについてCT数を決定した(図8)。
【0067】
少なくとも約90のCT数を用いることができる。実施形態は、マトリックス(例えば、ヒドロゲル)に、約50よりも大きいCT数を与えるRO剤濃度を提供することを含む。当業者であれば、例えば、少なくとも約80、約90〜約210、または約80〜約2000のような、明記されている範囲内の全ての範囲および値が想定されることを直ちに理解するであろう。また、実施形態は、約0.05%〜約15%のヨウ素濃度を含む。当業者であれば、例えば、約0.1%〜約3%のような、明記されている範囲内の全ての範囲および値が想定されることを直ちに理解するであろう。
【0068】
例えば、約10kダルトンの8本腕のPEG前駆体は、8本腕のうちの5本がSG末端を有し、8本腕のうちの3本が2%ゲル固体の濃度でトリヨードベンゾエート(TIB)に結合しているが、この前駆体は、ゲル中1.8%のヨウ素と約700 HUとを有する20%ゲル固体ゲルと比べて、ゲル中約0.18%のヨウ素と93 HUとを有する。4本腕(実施例3)および8本腕(実施例4)の分岐前駆体分子は、その腕の一部が、TIBという3つのヨウ素を含む分子と結合していた。TIBを含まない他のPEG腕はSGで官能化され、別の前駆体(実施例中のトリリジン)と架橋することが可能になっていた。したがって、得られたヒドロゲルは、ヨウ素由来の放射線不透過性を有していた(図9)。SG結合は加水分解的に不安定であり、したがって、水中で分解する。好適な時間にわたるヨウ素の存続については、RO剤で誘導体化される官能基の数を制御することにより対処した。
【0069】
マトリックスとの2つ以上の結合の存在は、加水分解によって前駆体−TIB分子の放出および除去が生じるまでマトリックス中に残存および存続するRO剤を提供する(図9)。図10のデータは、膨潤について補正されたROマトリックスを示し、また、ヒドロゲル内のヨウ素保持を示している。61%TIB試料に見られるROの減少は、PEG−TIB分子の喪失によるものである可能性が高い。なぜなら、より少ないSG結合を有するゲルは、31%TIB試料よりも速く完全加水分解へと向かっているからである(61%TIB−5%は、61%TIB−10%よりも速度が速い)。より多くのSG結合を有する31%TIB試料は、一定の放射線不透過性を有するように見え、PEG−TIBの喪失が始まっていないことを示唆している。総合すると、このデータは、PEG−TIB結合が確かに加水分解に抵抗し、この結合を伴って作製されるヒドロゲルが、膨潤による喪失の可能性はあるが、RO剤を保持すると思われることを示唆する。
【0070】
RO剤は、種々の方法で前駆体に付着させることができる。これらの方法のいくつかは、米国特許第7,790,141号明細書(この文献は、あらゆる目的のために参照により本明細書に組み込まれるが、矛盾がある場合、本明細書が優先される)に示されており、かつRO剤、前駆体、およびマトリックスを含む。本明細書中およびこの組み込まれた参考文献中に示された前駆体は、1種以上のRO剤で修飾することができる。分岐前駆体または多官能性前駆体の場合、利用可能な反応部位のうちの1つまたは複数を未反応のままにしておくことができる。したがって、8本腕の前駆体は、マトリックスを形成するための共有結合に利用可能な1〜8個の官能基およびRO剤により置換される(またはRO剤と反応する)1〜8個の官能基を有することができる。RO剤の例は、ヨウ素、TIB、フェニル環化合物(例えば、2,3,5−トリヨード安息香酸、3,4,5−トリヨードフェノール、エリスロシン、ローズベンガル、3,5−ビス(アセチルアミノ)−2,4,6−トリヨード安息香酸、および3,5−ジアセトアミド−2,4,6−トリヨード安息香酸)を含む分子である。
【0071】
放射線不透過性化合物に加えて、または放射線不透過性化合物の代わりとして、機械を援用するさらなるイメージング剤を用いることができる。そのような薬剤としては、例えば、蛍光化合物、超音波造影剤、またはMRI造影剤(例えば、ガドリニウム含有化合物)が挙げられる。
【0072】
<生体分解>
ヒドロゲルが水分解性基の分解によりインビトロで過剰の水に溶解可能であることによって測定可能なように、ヒドロゲルを水分解性にすることができる。この試験は、インビボでの加水分解による溶解を予測するものである。この加水分解による溶解は、細胞またはプロテアーゼによる分解とは対照的な過程である。しかしながら、重要なのは、ポリ無水物、または酸性成分に分解する他の常用される分解性材料は、組織中で炎症を引き起こす傾向があることである。しかしながら、ヒドロゲルは、そのような材料を除外することができ、ポリ無水物、無水物結合、または酸もしくは二酸に分解する前駆体を含まないものとすることができる。
【0073】
代わりに、例えば、SG(グルタル酸スクシンイミジル)、SS(コハク酸スクシンイミジル)、SC(炭酸スクシンイミジル)、SAP(アジピン酸スクシンイミジル)、カルボキシメチルヒドロキシ酪酸(CM−HBA)を用いることができ、かつこれらは、加水分解的に不安定なエステル結合を有する。スベリン酸エステル結合などのより疎水性の結合を用いることもでき、こうした結合は、コハク酸エステル、グルタル酸エステルまたはアジピン酸エステル結合よりも分解されにくい。ポリエチレングリコールおよび他の前駆体をこれらの基を伴って調製することができる。水分解性材料を用いたとき、架橋ヒドロゲルの分解が、生体分解性部分の水による加水分解によって進行する可能性がある。エステル結合を含むポリマーを含めて、エステル付近の基を加減し、分解速度を増減させることで、所望の分解速度を提供することもできる。このように、分解性部分を用いて、数日から何カ月にも及ぶ所望の分解プロファイルを有するヒドロゲルを構築することが可能である。ポリグリコレートを生体分解性部分として用いる場合、例えば、網目構造の架橋密度に応じて、約1〜約30日で分解するように、架橋ポリマーを作製することができる。同様に、ポリカプロラクトンベースの架橋網目構造を、約1〜約8カ月で分解するように作製することができる。分解時間は、通常、使用される分解性部分のタイプによって、ポリグリコレート<ポリラクテート<ポリトリメチレンカルボネート<ポリカプロラクトンの順で異なる。このように、分解性部分を用いて、数日から何カ月にも及ぶ所望の分解プロファイルを有するヒドロゲルを構築することが可能である。
【0074】
ヒドロゲルが水分解性基の分解によりインビトロで過剰の水に溶解可能であることによって測定可能なように、ヒドロゲルは水分解性(加水分解で分解可能)であることができる。この試験は、インビボでの加水分解による溶解を予測するものである。この加水分解による溶解は、細胞またはプロテアーゼによる分解とは対照的な過程である。ヒドロゲルは、数日、数週、または数カ月かけて吸収可能となるように選択することができる。
【0075】
ヒドロゲルおよび/または前駆体中の生体分解性結合は、水分解性または酵素分解性であることができる。例示的な水分解性の生体分解性結合としては、ポリマー、グリコリドのコポリマーおよびオリゴマー、dl−ラクチド、1−ラクチド、ジオキサノン、エステル、カルボネート、ならびにトリメチレンカルボネートが挙げられる。例示的な酵素的生体分解性結合としては、メタロプロテイナーゼおよびコラゲナーゼによって切断可能なペプチド性結合が挙げられる。生体分解性結合の例としては、ポリ(ヒドロキシ酸)、ポリ(オルトカルボネート)、ポリ(無水物)、ポリ(ラクトン)、ポリ(アミノ酸)、ポリ(カルボネート)、およびポリ(ホスホネート)のポリマーおよびコポリマーが挙げられる。
【0076】
生体適合性の架橋マトリックスが、生体分解性または吸収性であることが望ましい場合、官能基間に存在する生体分解性結合を有する1つ以上の前駆体を用いることができる。生体分解性結合は、場合により、マトリックスを作製するために用いられる前駆体の1つまたは複数の水溶性コアとしても機能することができる。各々の手法について、得られる生体分解性の生体適合性架橋ポリマーが、所望の期間内に分解するかまたは吸収されるように、生体分解性結合を選択することができる。
【0077】
マトリックス材料は、分解産物が循環系に吸収され、腎臓濾過により体から本質的に除去されるように選択することができる。マトリックス材料は、ヒドロゲルであってもよい。1つの方法は、前駆体間の結合が分解されて前駆体に戻る、体内で壊れない前駆体、またはわずかな変化が共有結合的架橋過程で生じる前駆体を選択することである。この手法は、酵素的過程で破壊される生体マトリックス材料および/もしくはマクロファージによって除去される材料、または事実上水に溶けない副生成物を生じさせる材料を選択するのとは対照的である。腎臓濾過により体から除去される材料を、当業者に公知の技術を用いて標識し、尿中で検出することができる。これらの材料の一部の他の身体システムへの少なくとも理論的な損失が存在し得るが、材料の通常の最終地は、腎クリアランス過程である。したがって、本質的に除去されるという用語は、腎臓を介して通常除去される材料を意味する。
【0078】
<可視化剤>
ヒドロゲルとともに可視化剤を用いることができる。可視化剤は、ヒトの眼で検出可能な波長の光を反射または放射するため、ヒドロゲルを適用する使用者は、ゲルを観察することができる。
【0079】
いくつかの生体適合性可視化剤には、FD&C BLUE #1、FD&C BLUE #2、およびメチレンブルーがある。これらの薬剤は、最終的な求電子性−求核性反応前駆体種の混合物中、0.05mg/mlを上回る濃度、好ましくは、少なくとも0.1〜12mg/mlの濃度範囲、より好ましくは、0.1〜4.0mg/mlの範囲で存在することが好ましいが、可視化剤の溶解度の限界までの、より大きな濃度を潜在的に用いることができる。これらの濃度範囲は、(反応性前駆体種がゲル化する時間により測定されるような)架橋時間に干渉することなく、ヒドロゲルに色を与えることができる。
【0080】
可視化剤は、FD&C BLUE色素3および6、エオシン、メチレンブルー、インドシアニングリーン、または合成手術縫合糸に通常見られる着色色素などの、医療用の埋込み可能な医療装置で使用するのに好適な様々な非毒性の着色物質のいずれかから選択することができる。可視化剤は、反応性前駆体種(例えば、架橋剤)か、または官能性ポリマー溶液かのいずれかとともに存在することができる。好ましい着色物質は、ヒドロゲルに化学的に結合するようになるものであっても、そうならないものであってもよい。可視化剤は、少量で、例えば、1%重量/体積、より好ましくは0.01%重量/体積未満、および最も好ましくは0.001%重量/体積未満の濃度で用いることができる。当業者であれば、明記されている範囲内の全ての範囲および値が想定されることを直ちに理解するであろう。
【0081】
<送達用の薬物または他の治療剤>
ヒドロゲルまたは他のマトリックスを、ステロイド、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDS)、抗癌薬、抗生物質、またはその他をはじめとする薬物の種類とともに調製し、これらの薬物の種類を送達するために用いることができる。ヒドロゲルを用いて、薬物および治療剤、例えば、抗炎症薬(例えば、ジクロフェナック)、鎮痛薬(例えば、ブピバカイン)、カルシウムチャネル遮断薬(例えば、ニフェジピン)、抗生物質(例えば、シプロフロキサシン)、細胞周期阻害剤(例えば、シンバスタチン)、タンパク質(例えば、インスリン)を送達することができる。ヒドロゲルからの放出速度は、薬物の大きさ、相対的な疎水性、ヒドロゲルの密度、ヒドロゲルの固体含有量、および例えば、微小粒子などの他の薬物送達モチーフの存在を含む因子を有する、薬物およびヒドロゲルの特性によって決まる。
【0082】
ヒドロゲル前駆体を用いて、例えば、ステロイド、NSAIDS、抗生物質、鎮痛薬、阻害剤または血管内皮増殖因子(VEGF)、化学療法薬、抗ウイルス薬をはじめとする薬剤の種類を送達することができる。薬物それ自体は、小分子、タンパク質、RNA断片、タンパク質、グリコサミノグリカン、炭水化物、核酸、無機および有機生物活性化合物であることができる。ここで、特定の生物活性化合物としては、酵素、抗生物質、抗新生物剤、局所麻酔薬、ホルモン、血管形成剤、抗血管形成剤、増殖因子、抗体、神経伝達物質、精神活性薬、抗癌薬、化学療法薬、生殖器に作用する薬物、遺伝子、およびオリゴヌクレオチド、または他の構造物が挙げられるが、これらに限定されない。低水溶性の薬物は、例えば、粒子状物質としてまたは懸濁液として組み込むことができる。高水溶性の薬物は、微小粒子またはリポソーム内に充填することができる。微小粒子は、例えば、PLGAまたは脂肪酸から形成させることができる。
【0083】
いくつかの実施形態では、水溶液の作製前、または官能性ポリマーの無菌製造中に、治療剤を前駆体と混合する。その後、この混合物を前駆体と混合して、生物活性物質が捕捉された架橋材料を生成させる。PLURONIC、TETRONICSまたはTWEEN界面活性剤のような不活性ポリマーから作られた官能性ポリマーを、小分子の疎水性薬物の放出に用いることができる。
【0084】
いくつかの実施形態では、架橋剤および架橋可能ポリマーを反応させて、マトリックスを生成させるとき、1つまたは複数の治療剤は分離相に存在している。この相分離は、NHSエステルとアミン基との反応などの化学的架橋反応への生体活性物質の関与を防ぐ。「分離相」が、油(水中油エマルジョン)、生体分解性ビヒクルなどである場合、この分離相は、架橋物質またはゲルからの活性剤の放出速度を調節することもできる。その中に活性剤が存在し得る生体分解性ビヒクルとしては、微小粒子、微小球、微小ビーズ、微小ペレットなどの封入ビヒクルが挙げられ、ここで、活性剤は、生体浸食性または生体分解性ポリマー、例えば、ポリ(無水物)、ポリ(ヒドロキシ酸)、ポリ(ラクトン)、ポリ(トリメチレンカルボネート)、ポリ(グリコール酸)、ポリ(乳酸)、ポリ(グリコール酸)−コ−ポリ(グリコール酸)、ポリ(オルトカルボネート)、ポリ(カプロラクトン)、フィブリン糊またはフィブリンシーラントのような架橋した生体分解性ヒドロゲル網目構造、シクロデキストリンのようなケージ分子および捕捉分子、モレキュラーシーブなどのポリマーおよびコポリマーに封入されている。ポリ(ラクトン)とポリ(ヒドロキシ酸)のポリマーおよびコポリマーから作られた微小球は、生体分解性の封入ビヒクルとして用いることができる。
【0085】
可視化剤は、例えば、微小球、微小粒子、および/または微小滴中に含めることができる。
【0086】
本発明の実施形態は、捕捉された治療用化合物を有するマトリックスを形成するための組成物および方法を含む。一実施形態では、生体活性剤は、疎水性の性質(疎水性微小領域とも呼ばれる)を有する微小粒子に捕捉されている。場合により、結果として得られる複合材料は2つの相分散を有し、その場合、どちらの相も吸収性であるが、混和性ではない。例えば、連続相が、親水性の網目構造(例えば、架橋されたまたは架橋されていないヒドロゲル)であることができる一方で、分散相は、疎水性(例えば、油、脂肪、脂肪酸、ワックス、フッ化炭素、または本明細書で「油」相もしくは「疎水性」相と総称される他の合成もしくは天然の水不混和相)であることができる。
【0087】
油相は、薬物を捕捉し、薬物のヒドロゲル中への分配による放出を妨げる障壁を提供する。同じく、ヒドロゲル相は、リパーゼなどの酵素による消化、ならびに天然の脂質および界面活性剤による溶解から油を保護する。後者は、例えば、疎水性、分子量、立体構造、拡散抵抗などのために、ヒドロゲルへの浸透がごく限られていると考えられる。ヒドロゲルマトリックスへの溶解が限られている疎水性薬物の場合、薬物の粒子状形態は、放出速度調節剤としての機能も果たす。一実施形態では、疎水性相と水溶性分子化合物(例えば、タンパク質、ペプチドまたは他の水溶性化学物質)の水溶液のマイクロエマルジョンを調製する。エマルジョンは、「水中油」系(この場合、水が連続相である)ではなく、「油中水」型(油を連続相として有する)である。薬物送達の他の態様は、米国特許第6,632,457号明細書、同第6,379,373号明細書、および同第6,514,534号明細書に見られる。これらの文献は各々、参照により本明細書に組み込まれ、矛盾がある場合、本明細書が優先される。さらに、2008年2月6日に出願された米国特許出願公開第2008/0187568号明細書に記載の薬物送達のスキームを本明細書中のヒドロゲルとともに用いることもできる。この文献は、参照により本明細書に組み込まれる(矛盾がある場合、本明細書が優先される)。
【0088】
本明細書で開示された系を用いて、生体活性分子と架橋ヒドロゲル網目構造との分解可能な共有結合により、制御された薬物送達速度を得ることができる。共有結合の性質は、数時間から数週間またはそれより長い間、放出速度の制御を可能にするように調節することができる。様々な加水分解時間を有する結合でできた複合材料を用いることにより、放出プロファイルの制御をより長時間に延長することができる。
【0089】
<基準マーキング>
ヒドロゲルの用途は、基準マーカーとしての使用である。基準マーカーは、広範な医療イメージング用途で用いられている。同じ対象物の異なる画像は、対象物に基準マーカーを配置することによって補正することができる。放射線療法では、基準点は、正確な治療標的を促進するためのマーカーである。他の組織の被爆を制限することを十分に考慮して、所望の放射線量を腫瘍標的部位に投与するように、放射線療法計画を立てる。シミュレーションを通じて計画を立ててもよい。計画は、治療される正確な領域、腫瘍に送達される総放射線量、腫瘍周辺の正常組織にどれくらいの線量が許容されるかということ、および放射線送達のための最も安全な経路に関するものである。通常、好適なソフトウェアを備えたコンピュータを用いて計画を立てる。治療が計画した通り正確に実現されるのを保証するために、多くのチェックを行なうべきである。治療用に選択される領域は、通常、全腫瘍に加え、腫瘍周辺の健康な組織を含む。これが治療辺縁部である。放射線は、体の外側にある機械(外部ビーム放射線療法)または体内に置かれた放射性物質(小線源療法)に由来することができる。
【0090】
本明細書に記載のヒドロゲルは、基準マーカーとして用いることができる。実施例1および2には、基準マーカーとして用いられるヒドロゲルが記載されている。ヒドロゲルを用いて、乳腺腫瘤摘出腔を完全に充填し、腔を部分充填し、かつ縫合閉鎖された腔をマーキングするのに成功した。実施例3および4には、ヒドロゲルと組み合わせて用いられる放射線不透過(RO)剤が記載されている。RO剤は、周囲組織とのコントラストを強調する。流動性前駆体を用いて、ヒドロゲルを医原性部位でインサイチュで作製することができる。前駆体は、マクロマー、ポリマー、またはモノマーであることができる。ヒドロゲルは、低膨潤性であるように作製することができる。一般に、前駆体を、本明細書に記載したように、医原性部位で組み合わせて、部位の辺縁部に接着し、かつ安定な形状を有する、共有結合的に架橋した材料、例えば、ヒドロゲルを作製することができる。乳房腫瘍形成外科手術(oncoplasty procedure)に見られるように、乳腺腫瘤摘出腔壁が縫い目と反対にある場合、この材料は、腔内に残存する全ての空洞を充填し、さらに腔辺縁部を規定することができる。
【0091】
したがって、実施形態は、ヒドロゲルを基準マーカーとして用いる放射線療法計画を作成することを含む。この計画は、書面形式であっても、コンピュータ読取り可能媒体に保存されたものであってもよい。この文脈での計画という用語は、人と人との間で書面形式または電子形式で交すことができる生成物を意味し、かつ意図または他の精神的過程を除外する。そのような計画は、放射線量または放射線療法レジメンおよび限度値を含むことができる。同様に、基準マーカーとしての役割は、ヒドロゲルを含む部位に放射線を提供することと組み合わせて、その部位を経時的に繰り返しイメージ化することを含むことができる。この部位およびマーカーは、医療技術分野で通常用いられるような複数のイメージング装置によってイメージングすることができる。
【0092】
ヒドロゲルは、例えば、流動性前駆体のような流動性形態で部位に提供することができる。前駆体は、液体に溶解、または懸濁させて、部位に適用することができる。前駆体が組み合わさり、単一連続相を有するヒドロゲルを形成する。あるいは、ヒドロゲルは、ヒドロゲル相が不連続相となって、互いに十分に接触している複数の粒子として提供することができる。粒子は、3〜5フレンチのカテーテル、または10〜30ゲージの針を通して注射器から手動で排出するための潤滑性および最大直径を有するように作製することができる。当業者であれば、明記されている範囲内の全ての範囲および値が想定されることを直ちに理解するであろう。
【0093】
ヒドロゲルを用いて、部位を実質的に充填することができる。実質的に満たされたとは、部位の弾性およびヒドロゲルのパッキングを一部考慮した上で、事実上満たされていることを意味する。ヒドロゲルを用いて、例えば、約10%〜約90%の部位を部分充填することもできる。当業者であれば、明記されている範囲内の全ての範囲および値が想定されることを直ちに理解するであろう。
【0094】
直径3cmの乳腺腫瘤摘出部は、約14ccの体積を有する。したがって、過度の張力を伴わずに、この腔を完全に充填するためには、約14mlのヒドロゲルが必要になる。したがって、材料の体積は、例えば、約1ml〜約100mlのような、特定の欠陥に合わせることができる。当業者であれば、例えば、6ml〜約40ml、または少なくとも5mlのような、明記されている範囲内の全ての範囲および値が想定されることを直ちに理解するであろう。インプラントは、インプラントが、1×1×1cmを上回るまたは1×2×2cmを上回る寸法を有する少なくとも1つの領域を含むほどの体積を有する傾向にある。したがって、実施形態は、各々1〜3cmの範囲の3つの寸法を有する少なくとも1つの領域を有する、インサイチュで形成されるインプラントを含む。当業者であれば、例えば、1×1×2cm、1×2×2cm、3×2×1cmのような、明記されている範囲内の全ての範囲および値が想定されることを直ちに理解するであろう。この領域は、マトリックスまたはパッキングされた粒子の連続相を含むことができる。これらの実施形態は、他の組織マトリックスまたはコーティングとは対照的である。対比として、5mmの厚さしかない材料の層ならば、1×1×1cmの領域を含まないであろう。
【0095】
有用な材料特性としては、組織適合性が挙げられる。材料は、高用量で全身毒性がなく、組織適合性であるべきである。別の特性は、所定量の時間の埋込みの後で、寸法が目に付くほどは変化しないインプラント安定性である。別の特性は生体分解性であり、ヒドロゲルは、埋込みの後、徐々に軟化し、液化し、吸収されてもよい。
【0096】
あるいは、ヒドロゲルは、例えば、乳房部位または顔面部位などの美容的用途のために、全体的にまたは部分的に永久的なものであって、生体分解性ではない場合がある。標準的な乳腺腫瘤摘出術は、美容を損なう結果になることがあり、また、不正確な腫瘍床の可視化のために全乳房照射を必要とすることが多い。
【0097】
<粒子>
本発明の一実施形態は、部位およびその凹凸に容易に流れ込み、密に詰まり、安定性を提供し、場合により、生体分解性であり、その辺縁部の良好な可視化を提供するように、小さくて、柔軟で、かつ滑りやすい粒子の集合体を用いて医原性部位を充填することに関する。
【0098】
粒子を作製するための1つの方法は、壊れて粒子になるマトリックスの生成を含む。したがって、マトリックス、および本明細書に記載の前駆体でできたマトリックスを生成させ、その後、壊してもよい。1つの技術は、ヒドロゲルを調製し、それを、例えば、ボールミルでまたは臼と杵で破砕することを含む。マトリックスは、ナイフまたはワイヤーで細断またはさいの目切りすることができる。または、マトリックスは、ブレンダーで裁断することができる。別の方法は、ヒドロゲルを強引にメッシュに通し、断片を回収し、かつ所望のサイズに達するまでそれらを同じメッシュまたは別のメッシュに通すことを含む。
【0099】
粒子は、種々の方法によって、所望のサイズ範囲およびサイズ分布を有する集合体に分離することができる。サイズを1ミクロン〜数mmとし、粒子サイズの平均および範囲を狭い分布で制御可能にした、極微細なサイジング制御が利用可能である。当業者であれば、明記されている範囲内の全ての範囲および値が想定されることを直ちに理解するであろう。約10〜約500ミクロンは、有用なそのような範囲の1つであり、サイズは、その範囲内の1つの値での平均サイジング、および例えば、約1%〜約100%のような、平均値を中心とする標準偏差を有する範囲全体に収まる。粒子をサイジングするための簡単な方法は、オーダーメイドのまたは標準化されたメッシュサイズを用いることを含む。標準的なU.S.およびTylerメッシュサイズの他に、ふるいも、市場等級の篩絹、製粉等級の篩絹、および引き延ばせる篩絹で一般に用いられている。強引にメッシュに通したヒドロゲルは、粒子サイズがメッシュサイズと厳密には一致しないような変形を示すことが観察されている。それでも、メッシュサイズは、所望の粒子サイズ範囲を達成するように選択することができる。回転楕円体粒子は、最も長い中心軸(粒子の幾何学的中心を通る直線)が、他の中心軸の長さの約2倍以下である粒子を意味し、この粒子は、文字通り球状であるか、または不規則な形状を有する。棹状粒子は、最も短い中心軸の長さの約2倍を上回る長手方向の中心軸を有する粒子を意味する。
【0100】
粒子は直接作製することもできる。イオン性材料の場合、例えば、少量の多糖をイオンの浴に滴下するような、粒子を作製するための十分に制御された方法が当業者に公知である。フリーラジカル重合については、例えば、米国特許第5,410,016号明細書に見られる、光重合技術が知られており、この文献は、参照により本明細書に組み込まれる(矛盾がある場合、本明細書が優先される)。エマルジョンに基づく技術も利用可能である。1つの方法では、第2の不混和相への重合可能な相の分散により、ヒドロゲル微小球を重合可能なマクロマーまたはモノマーから形成させる。その場合、この重合可能な相は、架橋を生じさせる重合の開始に必要な少なくとも1つの成分を含み、かつ不混和バルク相は、相転移剤とともに、架橋の開始に必要な別の成分を含む。さらに、反応のための全ての成分を含むが、重合速度が遅い、重合可能な相を、重合前に微小球の中に分散する第2の不混和相に導入することができる。重合技術は、粒子を作製するためのミセル技術およびマイクロエマルジョン技術も提供する。
【0101】
微小粒子の集合体は、粒子の組を含むことができる。例えば、ある粒子は、放射線不透過剤を含むように作製することができ、これらの粒子は、この集合体の内部に1つの組を形成する。他の組は、粒子サイズに関するものであり、この組は、異なる形状またはサイズ分布を有する。論じたように、粒子は、十分に制御されたサイズを有するように作製し、集合体へと組み合わされる様々な組に分割することができる。
【0102】
放射線不透過剤を含む粒子を、放射線不透過剤を含んでいない粒子とブレンドして、所望の放射線不透過性を有する粒子の集合体を作製することができる。実施例3では、放射線不透過性ヒドロゲルの作製方法が詳述されている。したがって、集合体は、例えば、約0.05%〜5%の量のようなパーセンテージのヨウ素を有することができる。当業者であれば、例えば、約0.1%〜約0.4%のような、明記されている範囲内の全ての範囲および値が想定されることを直ちに理解するであろう。ヨウ素または他の薬剤は、粒子に共有結合したヨウ素、ならびに/または粒子中に混合されたヨウ素(例えば、形成の時点で粒子中に混合されたヨウ素)、および/もしくは粒子と混合された(例えば、粒子を含む溶液に添加された)ヨウ素の間に分布させることができる。1種以上の放射線不透過剤を用いて、例えば、約50を超えるまたは約50〜約2000の値の、標的ハウンズフィールド単位を有する集合体を提供することができる。当業者であれば、例えば、約90超、80〜800のような、明記されている範囲内の全ての範囲および値が想定されることを直ちに理解するであろう。
【0103】
他の組は、分解性に関するものである。1つの実施形態は、各々異なる分解性プロファイルを有する複数の組を含む。1つの用途は、医原性部位の組織統合を促進するための異なる分解性を有する複数の組を使用である。この技術を用いて、粒子が分解するにつれて組織が徐々に内方成長するのを可能にすることにより、周囲組織の形状の変化を軽減することができる。医原性部位に関する1つの問題は、それが周辺組織を収縮させるか、または別の形で変形させる可能性があることである。例えば、乳癌では、組織の摘出により、陥没または別の形での乳房の美容上の醜さが生じることがある。しかしながら、段階的分解を示す粒子の集合体は、時間とともに成長して間隙に入り込む組織を提供し、かつ成長性充填剤(growth−filler)を提供する。この集合体の一部または全部は、永久的なものであって、分解性ではないものとすることができる。分解時間は、3〜1000日を含む。当業者であれば、明記されている範囲内の全ての範囲および値が想定されることを直ちに理解するであろう。例えば、第1の組は約5〜約8日の分解時間中央値を有し、第2の組は約30〜約90日の時間中央値を有し、第3の組は約180〜約360日の時間中央値を有することができる。
【0104】
集合体は、望ましくない超音波エコーを生じさせることがある気体を含まないように任意に調製することができる。1つの方法は、液体溶媒とともにおよび/または液体溶媒なしで、真空下で、粒子を単に脱気することを含む。超音波は、使用される波長に応じて、約20ミクロンよりも大きい粒子を可視化する傾向にある。粒子のサイズ範囲は、約20未満および約20ミクロン未満を含む。あるいは、水分含有量の高いより大きいサイズの粒子もエコー輝度を避けることができる。したがって、実施形態は、超音波画像に本質的に寄与しない粒子を含む。この文脈において、本質的にとは、超音波によって時には粒子の存在を識別することが可能である場合でも、粒子が他の身体特徴の可視化を妨害しないことを意味する。
【0105】
小さいゲージの針を通して手動で注入されるサイズおよび潤滑性を伴って回収することができる。直径約40〜約100ミクロンの回転楕円体粒子となるように砕いた親水性ヒドロゲルは、30ゲージの針を通して手動で注入されるほど十分に小さい。
【0106】
親水性ヒドロゲル粒子は、小ゲージ針/カテーテルを辛うじて通過することが観察された。粒子サイズは、抵抗性、および溶液の粘度に寄与する。この粒子は、針を塞ぐ傾向があった。抵抗力は、流体の粘度に比例し、より粘度の高い流体は、小さな開口部を通して押し出すためにより大きな力を必要とする。
【0107】
しかしながら、粒子のための溶媒の粘度を高めることにより、カテーテルおよび/または針の通過に対する抵抗が減少し得ることが思いがけなく見出された。この減少は、高オスモル濃度の溶媒の使用が原因である可能性がある。特定の理論に束縛されることを望まないが、注射可能性を向上させるためのこうした作用の付加は、粒子の収縮、粘度に対する粒子間寄与を低下させる粒子間遊離水の増加、および遊離水の粘度の増大により生じ、これが、注射器内外への粒子の出入りを助け、歪みと詰まりを防いだ。線状ポリマーの使用はさらに、沈殿を防ぎ、粒子が溶媒とともに移動するのを促進するのに有用なチキソトロピー特性に寄与するが、小さな開口部の外へ押し出すときに剪断薄化を示すことがある。この手法は、別の問題、すなわち、粒子が沈殿する傾向、およびそれとは別の形で回収しにくい傾向があるために、溶液から針/カテーテルを通して粒子を移動させにくいという困難を解決することも観察された。小さな穴開口部からの粒子の水性溶媒溶液の排出が観察された。溶媒は、アプリケータの外に優先的に移動し、アプリケータから除去することができないか、またはアプリケータを詰まらせるか、または場合によっては、携帯式注射器を操作する平均的なユーザには適していない不適当に大きな力を用いることによってしか除去することができない過剰の粒子は残る傾向にあった。しかしながら、浸透圧剤の添加は、粒子をアプリケータから出すのを助ける粘度および/またはチキソトロピー挙動に寄与した。
【0108】
本発明の実施形態は、複数の粒子への浸透圧剤の付加を含む。そのような薬剤の例としては、塩およびポリマーが挙げられる。実施形態には、ポリマー、線状ポリマー、および親水性ポリマー、またはそれらの組合せが含まれる。実施形態には、分子量約500〜約100,000のポリマーが含まれる。当業者であれば、例えば、分子量約5000〜約50,000のような、明記されている範囲内の全ての範囲および値が想定されることを直ちに理解するであろう。実施形態には、例えば、約1%〜約50%w/wの濃度の浸透圧剤が含まれる。当業者であれば、例えば、10%〜30%のような、明記されている範囲内の全ての範囲および値が想定されることを直ちに理解するであろう。薬剤およびヒドロゲルは、患者に導入することができ、かつそのためのキットの一部とすることができる。
【0109】
<小線源療法>
いくつかの小線源療法技術が癌治療で用いられている。小線源療法では、放射性同位体をペレット(種)中に密封する。これらの種を患者の中に配置する。同位体が自然に崩壊するとき、近くの癌細胞を損傷する放射線を出す。所定の位置に留置された場合、数週間後または数カ月後に、同位体は完全に崩壊し、もはや放射線を出さない。この種は、体内に留置された場合に害を引き起こさないが(永久的小線源療法)、インプラントの部位からの望ましくない移動が観察されている。小線源療法は、低線量率または高線量率治療として与えることができる。低線量率治療では、癌細胞は、数日間かけて線源からの連続的な低線量放射線を受ける。
【0110】
従来の手法は、乳腺腫瘤摘出部位に配置されたバルーンカテーテル中の高線量率小線源療法源である。言い換えると、バルーンを腔の中に配置し、放射性種を、経皮装着によって個別の期間、バルーンの内側に配置する。組織の体積には多くの可能性があるので、臨床医は、通常、いくつかのサイズから選択し、部位のおおよその適正サイズと思われるサイズを採択する。MAMMOSITEシステム(Hologic)を手術時に挿入し、5日間の治療において放射線照射を可能にすることができる。このシステムの欠点としては、おそらくは経皮的アクセスが原因の報告された高い感染率(12〜16%)、不快感およびバルーン破裂などの患者の問題、ならびに高線量率小線源療法源、遮蔽室、および他の特殊な装置などの追加の装置の必要性が挙げられる。
【0111】
本発明の実施形態は、放射性種または他の源が腔内のマトリックスとともにまたは腔内のマトリックスの内部に配置される、小線源療法である。この源は、連続的なバルクヒドロゲル中に配置するか、ヒドロゲル粒子中に配置することができ、またはヒドロゲル粒子と混合することができ、またはその任意の組合せが可能である。ヒドロゲルの共形位置決めは、必要な場合に放射線を提供するための大きな利点を提供する。さらに、粒子またはマトリックスは、MAMMOSITEまたは他の放射線源と組み合わせて用いることができる。この源は、配置時点で、ヒドロゲル前駆体もしくは粒子との混合物中に存在していてもよく、またはマトリックスもしくはヒドロゲルの配置後に配置されてもよい。
【0112】
乳房小線源療法は、バルーン表面と患者の皮膚の間に十分なスペースがある場合にのみ進めることができる。それらの表面の間の距離が不十分であると認められる場合、皮膚を損傷することがあるか、または乳房小線源療法が縮小される。本明細書に記載のヒドロゲルは、バルーン休止と周囲の組織および/または皮膚との間に注入することができ、それにより、距離を効果的に増加させ、小線源療法を進めることができる。
【0113】
<組織強化>
本明細書に示したようなヒドロゲルは、組織強化に用いることができる。皮膚強化に関するコラーゲンの使用が周知である。例えば、粒子状物質のヒドロゲルは、皮膚充填剤に、または組織強化に用いることができる。実施形態は、組織中に複数の粒子を注入するかもしくは別の形で配置すること、またはヒドロゲルをインサイチュで形成させることを含む。材料は、意図した部位に注入するかもしくは別の形で配置することができる。
【0114】
<スペーサー>
本明細書に示したようなヒドロゲルを用いて、組織を引き離し、組織の1つが受ける放射能の線量を低下させることができる。米国特許第7,744,913号明細書(この文献は、あらゆる目的のために参照により本明細書に組み入れられ、矛盾がある場合は、本明細書が優先される)に示されているように、スペーサー材料を患者の中に配置することができる。特定の実施形態は、第1の組織部位と第2の組織部位の間の距離を増加させるために、第1の組織部位と第2の組織部位の間の位置にスペーサーを導入することを含む。さらに、少なくとも第1の組織部位または第2の組織部位にある線量の放射能を投与する工程があってもよい。第1の組織部位と第2の組織部位の間の距離を増加させるために第1の組織部位と第2の組織部位の間に、生体適合性で、生体分解性の粒子状ヒドロゲル、例えば、放射線不透過性内容物を任意に含む粒子の集合体を導入し、充填剤装置の存在によって、第1の組織部位がスペーサーの非存在下で受ける放射能の線量と比較して低い線量の放射能を第1の組織部位が受けるように、治療的線量の放射線で第2の組織部位を治療することを含む、方法により、例えば、治療的線量の放射線が患者に送達されている。スペーサーは、注射可能材料に入れて導入することができ、かつこれは、患者におけるスペーサーの生体分解によって除去される患者内ゲルである。一例として、第1の組織部位が直腸と関連するものであり、第2の組織部位が前立腺と関連するものである場合がある。放射線の減少量は様々に異なり得る。実施形態には、少なくとも約10%〜約90%が含まれる。当業者であれば、例えば、少なくとも約50%のような、明記されている範囲内の全ての範囲および値が想定されることを直ちに理解するであろう。
【0115】
あるいは、放射線療法は、第1の組織または第2の組織が他の組織からのその分離の結果としてより少ない量の放射線を受けたように、第3の組織に関するものであることができる。第1の組織および第2の組織は、体内で互いに近接していてもよく、または他の組織によって互いに離れていてもよい。
【0116】
組織を引き離すスペーサーの体積は、治療すべき組織の立体形状および互いに引き離すべき組織によって決まる。多くの場合、約20立方センチメートル(ccまたはml)の体積が好適である。他の実施形態では、ほんの約1ccしか必要ない場合もある。その他の体積範囲は、約5〜1000ccである。当業者であれば、例えば、10〜30ccのような、明記されている範囲内の全ての範囲および値が想定されることを直ちに理解するであろう。いくつかの実施形態では、組織を広げて、スペーサーを収容させ、それにより、それ以外の方法で直ちに可能なものよりも大きい体積のスペーサーを受け入れることが可能となるように、スペーサーを異なる時点で2つの用量で投与する。スペーサーで引き離すべき組織としては、例えば、直腸、前立腺、および乳房のうちの少なくとも1つ、またはその一部が挙げられる。例えば、乳房の第1の部分を第2の部分と引き離すことができる。
【0117】
<ヒドロゲルの投与>
投与の1つの様式は、医原性部位に、針、カニューレ、カテーテル、または中空ワイヤーを通して、前駆体と他の材料(例えば、治療剤、増粘剤、促進剤、開始剤)の混合物を適用することである。混合物は、例えば、手動制御式注射器または機械制御式注射器、例えば、注射器ポンプを用いて送達することができる。あるいは、双筒式注射器もしくは多筒式注射器または多管腔システムを用いて、部位またはその近くで前駆体を混合することができる。あるいは、前駆体の代わりに、複数のヒドロゲル粒子を適用することができる。前駆体と粒子を混合することもできる。
【0118】
腔がまだ開口している間か、または乳房再建(oncoplasty)の後でかつ皮膚閉鎖の前か、または皮膚閉鎖の後かのいずれかに、まず、空気または流体を吸引するために、次に、ヒドロゲル用の材料、例えば、ヒドロゲル粒子またはインサイチュ治癒材料を注入するために、部位中の小ゲージ針または経皮カテーテルを用いることができる。手術時またはその間近(数日もしくは数週間以内)での注入は、治癒プロセスを相当な時間経た位置で材料を用いることとは異なり、かつそれとは異なる転帰をもたらす。この文脈において、数日には、1〜13日が含まれ、数週間には、2〜10週間が含まれる。当業者であれば、明記されている範囲内の全ての範囲および値が想定されることを直ちに理解するであろう。前駆体は、分解産物が循環系に吸収され、腎臓濾過によって体から除去されるように選択することができる。送達実施形態の1つは、一体型静的ミキサーでY字コネクタに取り付けられた2本の注射器からなるアプリケータである。埋込みの時に、前駆体は、小型の可撓性カテーテルを通して注射器から注入される。あるいは、ヒドロゲルの粒子を提供するために、他の用途の注射器をカテーテルに接続して、用いることができる。粒子は、完全に水和しているものであっても、部分的に水和しているものであっても、乾燥しているものであってもよい。カテーテルは、手術時に縫合線に留置し、医原性部位まで延ばすことができる。カテーテルは、ヒドロゲルを送達した後に除去される。
【0119】
あるいは、場合により、アプリケータの遠位端を意図した部位にガイドするための間接的イメージングとともに針またはカテーテルを用いて、部位を閉鎖した後にヒドロゲルを送達することができる。
【0120】
マトリックスおよび/または前駆体と組み合わせてアプリケータを用いることができる。ヒドロゲルを作製するためのキットまたはシステムを調製することができる。キットは、医療上許容し得る条件を用いて製造され、滅菌性、純度および薬学的に許容できる調製物を有する構成要素を含む。キットは、必要に応じてアプリケータ、および指示書を含むことができる。治療剤は、予め混合されて含まれていても、混合に利用可能なものであってもよい。溶媒/溶液は、キットでもしくは個別に提供されてもよく、または構成要素は、溶媒と予め混合されていてもよい。キットは、混合および/または送達用の注射器および/または針を含んでいてもよい。キットまたはシステムは、本明細書に示した構成要素を含んでいてもよい。
【0121】
あるシステムでは、少なくとも1つの前駆体を送達するための、デュアル容器アプリケータ、例えば、双筒式注射器が用いられる。一方の注射器は、少なくとも1つの前駆体を有することができ、もう一方の注射器は、前駆体を活性化するための活性化剤、例えば、開始剤を有することができる。または、各々の注射器が前駆体を有することができ、これらの前駆体は、混合の結果としてマトリックスを形成する。
【0122】
キットまたはシステムの別の選択肢は粒子の集合体であり、その場合、粒子の少なくとも一部は脱水されているかまたは乾燥している。一実施形態は、30%〜100%乾燥した粒子を提供する。当業者であれば、明記されている範囲内の全ての範囲および値が想定されることを直ちに理解するであろう。キットは、任意に粒子と混合し得る1種以上の治療剤を含むことができる。例えば、キットは、第1の薬剤および第2の薬剤を含むことができ、これらの薬剤は、粒子が溶液および薬剤を吸収するように、半分乾燥した粒子の組と溶液中で混合される。第1の組の粒子を第1の薬剤と混合し、第2の組の粒子を第2の薬剤と混合することができるか、またはこれらの薬剤を粒子の組と混合することができる。吸収された薬剤を含む粒子の組を他の粒子とさらに混合して、患者内に配置するための集合体を作製することができる。
【0123】
他の実施形態は、送達される粒子を含む単一のアプリケータ、例えば、1つの注射器を提供する。一実施形態は、例えば、粒子がニートで用いられるか、または既に、患者内に配置される溶液もしくはスラリーの状態にあるような、さらなる内容物の添加を必要としない粒子送達用の容器(例えば、注射筒、セプタム付きバイアル)を提供する。これは、注射用の予め形成されたヒドロゲルスラリーの使用を可能にして、再構成、複数の注射器の必要性を排除し、かつ針詰まりの心配がないストップ・アンド・スタート式の注射(stop−and−start injection)を可能にする。粒子溶媒は、本質的には水であることができる、つまり、溶媒の約99%v/vは水であり、望ましい場合には、塩または緩衝剤が存在する。例えば、ジメチルスルホキシドのような、安全かつ生体適合性の他の溶媒を用いてもよい。
【0124】
患者を治療する方法の1つは、腔を密に充填するインプラントを形成させることに関するものである。本方法は、部位に流れ込むと同時に、充填を実施したときに、目視観察によって明らかになるように、摘出された材料の体積および形状と実質的に置き換わる少なくとも1つの流動性材料を用いて医原性部位を充填することに関するものである。材料は、粒子の集合体またはヒドロゲル前駆体を含むことができる。
【0125】
場合により、第2の処置を用いて、部位を再診することができる。これは、医原性部位を再手術してマトリックスを摘出すること、さらなる組織を外科的に摘出すること、および新しいヒドロゲルを形成させるためにこの方法を繰り返すことを含み得る。これらの場合のうちのいくつかの場合では、もとのヒドロゲルは、目視観察可能な可視化剤を含み、ヒドロゲルの摘出は、可視化剤が吸引物中でそれ以上裸眼観察できなくなるまで部位を吸引することを含み、可視化剤は、場合により、色素、または緑色の色素および青色の色素からなる群から選択される色素である。
【実施例1】
【0126】
<実施例1:ヒドロゲルの共形充填>
承認されたプロトコルの下で、3つの死体標本を両側乳腺腫瘤摘出術用に入手した。1つでは、過去の乳房手術のために片側乳腺腫瘤摘出術を実施した。CTシミュレーション表で、各標本を(ウェッジを用いて)左側乳腺腫瘤摘出術用に位置決めした。31〜70ccの範囲に及ぶ乳腺腫瘤摘出術を実施した。乳腺腫瘤摘出術の後、0.25インチの直径のシリコーンカテーテルを腔の中に配置し、皮下組織を並置し、皮膚を閉鎖した。1つの症例では、閉鎖前に上腔壁と下腔壁を並置した。ヒドロゲル注入前に、各々にCTシミュレーションを実施した(Philips BRILLIANCE BIG BORE CT、3mmスライス、120kVp、300mA、60cm FOV)。
【0127】
CTシミュレーション後、18〜70ccのヒドロゲルを腔内に注入し、シリコーンカテーテルを回収し、ヒドロゲルを固化させておいた。ヒドロゲルは、注入したときには、水の粘度を有するが、その後、60秒以内に重合し、柔らかい固体ゲルを形成した。ヒドロゲルは、DURASEALとした。DURASEALは、市販品であり、トリリジンと反応した多腕PEGから形成されている。
【0128】
3つの症例において、注入体積は、乳腺腫瘤摘出部の体積(63、70、および35cc)と同じであった。他の2つの症例では、(31および33ccの乳腺腫瘤摘出術の後)18ccしかPEG−ヒドロゲルを注入しなかった。CTシミュレーションを繰り返した。横断面と矢状面でT2加重MRイメージングを実施した(Siemens ESPREE 1.5T MRI、ターボスピンエコー、TR 5.0秒、TE 106 10ミリ秒、FOV 26cm、3.0mmスライス、256×256マトリックス、100%の位相オーバーサンプリング、130Hz/ピクセル、エコートレイン長17)。その後、円錐ビームCTイメージングを実施した(Elekta Synergy、XVIソフトウェアv.4.1b21、1024×1024フラットパネル検出器、M10コリメータ、BOWTIEフィルター、120kVp、名目で40mA/フレーム、名目で40ms/フレーム、360°スキャン、410×410×120再構成、等方性1mmボクセル)。最後に、超音波イメージング(7.1MHz、B−K Medical 2101 FALCON、#8658 4−9 MHzプローブ)を実施した。イメージングが全て終了した後、肉眼的分析を行なって、ヒドロゲル位置を確認した(図3)。
【0129】
ヒドロゲルは、複数のイメージングモダリティで乳腺腫瘤摘出腔を明確に規定した。1つの乳腺腫瘤摘出手術から得た例を示す(図3)。CTイメージング(パネルa(図3a))で、均一な水密度ヒドロゲルは、低密度の乳房組織と好対照を成した。T2加重MRI(パネルb(図3b))の場合、ヒドロゲルは、周囲組織と比べて強度が高く、ひときわ目立っていた。T1加重イメージングでは、ヒドロゲルは、シグナル強度が低く、T2加重イメージングほどは目立たなかった。乳腺腫瘤摘出腔は、円錐ビームCTイメージングでも目に見えた(パネルc(図3c))。対応する肉眼的横断切片(パネルd(図3d);この試験の可視化を改善するために、ヒドロゲルは青く染色されている)は、3つの断面イメージングモダリティ全てと非常によく似た特徴を示した(乳腺腫瘤摘出腔内部の脂肪の弁に留意されたい)。超音波は、それほど詳細には腔を示さなかったが、低輝度ヒドロゲルは、周囲の乳房組織と好対照を成した(パネルe(図3e))。
【0130】
ヒドロゲルを用いて、乳腺腫瘤摘出腔を完全に充填し、腔を部分的に充填し、かつ縫合閉鎖された腔をマーキングするのに成功した。乳腺腫瘤摘出手術のうちの3例において、腔に、摘出された組織の体積と同じ体積のヒドロゲルを充填した。例えば、図3aおよび3bでは、63ccの乳腺腫瘤摘出術を実施し、同じ体積のヒドロゲルを注入した。ヒドロゲルは腔を完全に充填し、正常な、凸状の乳房の外形を回復させた。しかしながら、2つの症例では、より少ない体積のヒドロゲルを注入した(腔を充填し、それを拡大するのではなく、腔を単にマーキングした)。図3cおよび3dでは、31ccの乳腺腫瘤摘出術で、ヒドロゲルを18ccしか注入しなかった。ヒドロゲルは乳腺腫瘤摘出部位を明確にマーキングしたが、腔および乳房表面は凹んだままであった。1つの症例では、33ccの乳腺腫瘤摘出術を実施し、その後(一部の乳房外科医の好みであるが)、腔の上壁と下壁を一緒に縫合した。18ccのヒドロゲルをこの腔に注入し、これにより、腔の端がマーキングされ、並置された組織の輪郭が示された(図3eおよび3f)。各々の状況において、ヒドロゲルはやはり、CTとMRイメージングの両方で、腔位置を明確に規定した。5つの症例全てにおいて、肉眼的分析により、腔全体がヒドロゲルによってマーキングされることが確認された。
【実施例2】
【0131】
<実施例2:共形ヒドロゲルによる放射線被爆制御>
実施例1の標本に、ヒドロゲル注入前インプラント症例とヒドロゲル注入後インプラント症例のために立てた放射線療法計画を実施した。ヒドロゲル注入前とヒドロゲル注入後のCTスキャンをPinnacle処理計画システム(v8.0m,Philips Radiation Oncology Systems)にインポートした。第1の組の計画については、(NSABP−B−39/RTOG−0413プロトコルによって)標準的な辺縁部拡大(15mmのGTV(Gross Tumor Volume:肉眼的腫瘍体積)−CTV(Clinical Target Volume:臨床標的体積)拡大および10mmのCTV−PTV拡大)を5つのヒドロゲル注入前計画およびヒドロゲル注入後計画の全てに用いた。第2の組の計画については、ヒドロゲル注入前計画には標準的辺縁部を用いたが、ヒドロゲル注入後計画には、減少した辺縁部(10mmのGTV−CTV拡大および5mmのCTV−PTV拡大)を用いた。
【0132】
正常な構造物の放射線被曝を最小限に抑えるように設計された同一平面上にない5つのビームを用いて、強度変調放射線療法(IMRT)治療計画を実施した。非標的構造物には、同側肺および対側肺、心臓、ならびにPTVに含められない同側乳房組織(非PTV乳房)が含まれた。同側乳房組織は、(NSABP−B−39/RTOG−0413プロトコルによる)標準的な全乳房接線ビームの範囲内にある乳房組織と定義した。適切な線量−体積目標をこれらの構造物に割り当て、以下の制約を達成した場合に、計画を許容可能とみなした:非PTV乳房V50%<50%、同側肺V30%<15%、および心臓V5%<40%。
【0133】
標準的な辺縁部拡大を用いた場合、ヒドロゲルは、正常な組織の放射線量を増大させる傾向があった。5つの乳腺腫瘤摘出手術の各々について、5フィールド部分乳房照射治療計画を実施した。1つの計画はヒドロゲル注入前に実施し、2つ目の計画はヒドロゲル注入後に実施した。予想通り、乳腺腫瘤摘出腔とPTVはともに、ヒドロゲル配置後により大きく、正常組織線量は、やや増加した。ヒドロゲル注入によって、平均腔体積は、15.7から41.4ccに増加し、変化は25.7ccであった(95%信頼区間7.8〜43.7cc)。平均PTV体積は、471.9から562.7ccに増加し、変化は90.8ccであった(95%信頼区間26.3〜155.2cc)。平均腔体積はほぼ3倍になったが、PTVサイズの増加率はかなり低かった(19%しか増加しなかった)。図5に見られるように、ヒドロゲルは、腔を、横方向にではなく、胸壁から離れるように外側に拡大する傾向があった。CTV拡大は、乳房組織を超えないように限定されているので、PTVサイズに対する正味の影響はほとんどなかった。5つの乳腺腫瘤摘出術全ての正常組織線量測定パラメータを図6に示す。全体的に、標準的な治療マージン(25mm)を用いたとき、ヒドロゲルは、正常組織線量を増加させる傾向があった。乳房(非PTV)V50%は、5例中4例で増加した。平均増加は1.4%であった(95%信頼区間−1.7%〜4.5%)。この増加は、50%の体積制約と比べて低かった。同側肺V30%も5例中4例で増加した。増加は、15%の体積制約と比べてかなり大きかった(平均増加は、95%信頼区間−0.4%〜3.8%で1.7%であった)。予想通り、より深く、より大きい腔は、より高い肺線量をもたらした。1つの症例では、ヒドロゲル注入後計画は、15%の同側肺V30%限度に達した。3つ全ての左側乳腺腫瘤摘出部について、ヒドロゲルは、心臓V5%を増加させた。しかし、全症例において、体積は、40%制約よりも十分に低いままであった(平均増加3.1%、95%信頼区間−3.0%〜9.2%)。
【0134】
減少したマージン拡張(margin expansion)を用いると、ヒドロゲルは、正常組織放射線量を減少させる傾向があった。マージンの減少は、ヒドロゲルにより改善された腔の可視性によって実現可能になった。ヒドロゲルは乳腺腫瘤摘出腔の可視化を改善するので、より小さいマージン拡張を利用するときに、正常組織線量に対するその影響も検討した。標的規定の不確かさが減少し、日ごとの標的局在誤差も減少するため、マージンの減少は適切であり得る。治療マージンを減少(10mmのGTV−CTV拡大および5mmのCTV−PTV拡大)させた場合、ヒドロゲルは、(ヒドロゲルなしおよび標準的な25mmのマージンと比較して)乳腺腫瘤摘出腔体積が増加したにもかかわらず、正常組織線量を減少させる傾向があった(図7)。乳房(非PTV)V50%は5例全てで減少した(平均変化−3.2%、95%信頼区間−6.4%〜0.0%)。同側肺V30%も5例中4例で減少した(平均変化−1.5%、95%信頼区間−4.1%〜1.1%)。全ての左側乳腺腫瘤摘出部について、心臓V5%はわずかな減少を示した(平均変化−0.8%、95%信頼区間−2.3%〜0.8%)。
【実施例3】
【0135】
<実施例3:放射線不透過性ヒドロゲルおよびイメージング>
連続希釈したイオヘキソール(OMNIPAQUE)の放射線不透過性を測定し、ヨウ素濃度の関数としてのCT数を得た。CT数(ハウンズフィールド単位またはハウンズフィールド数とも呼ばれる)は、任意の尺度でCT(コンピュータ断層撮影)スキャン中のボクセルに割り当てられる密度であり、この尺度では、空気は−1000、水は0、および緻密骨は+1000の密度を有する。希釈したイオヘキソールのCT数は、50%濃度での2976から0.2%濃度での37までの範囲に及んだ。これらは、ヨウ素濃度対CT数のプロットに対応し、およそ0.15%のヨウ素濃度は、約90のCT数を生じさせた(図8)。異なる濃度のヨウ素を含む2つの異なるマトリックス製剤を試験した。まず、スクシンイミジルグルタレート(SGまたはSGA)官能末端基を有するヨウ素を5000ダルトンの線状PEGと錯化させて、ヨウ素と錯化したPEG分子(PEG−I)を作製した。次に、ヨウ化カリウム(KI)を様々な濃度でゲルに取り込ませた。
【0136】
<PEG分子へのヨウ素の取込み>
ヨウ素コアを含むPEG SG(1分子当たりSG数2.3)を合成した。PEG−I分子は6400ダルトンであり、そのうち、ヨウ素は381ダルトン(5.9%)であった。したがって、例えば、このヨウ素含有量の場合、結果として得られるマトリックスにおいて0.1%および0.2%のヨウ素濃度を生じさせるヒドロゲル中のPEG−Iの固体パーセントは、1.68および3.36%であった。表IIは、PEG−I濃度をいかに操作して、CT数と関連することができるヨウ素含有量パーセンテージを得ることができるかということを示している。
【0137】
【表1】

【0138】
試料調製において、PEG−I濃度の高い試料はゆっくりとゲル化するか、または全くゲル化しないことが分かった(表III)。これは、約20%までのPEG−I濃度で観察された。考えられるこの理由としては、ヨウ素の疎水性コア付近のSG末端基による架橋妨害、重合前の末端基の迅速な加水分解、または重合している可能性も、重合していない可能性もある、疎水性領域によるミセル形成が挙げられる。
【0139】
【表2】

【0140】
<遊離ヨウ素のゲルへの取込み>
特定のヒドロゲルにヨウ化カリウム(KI)もローディングした。KIは231.3ダルトンであり、ヨウ素は192.2ダルトン(83.1%)であるため、同じヨウ素濃度を得るために必要なKIの濃度を算出することができた。0.1%のヨウ素は0.120%のKIとなり、0.2%のヨウ素は0.241%のKIとなり、0.8%のヨウ素は0.963%のKIとなる。
【0141】
<微小球のゲルへの取込み>
4%の微小球ローディングを用いた。20%の濃度で微小球にローディングしたとき、ヒドロゲルへの4%の微小球ローディングを考慮すると、ヒドロゲル中のヨウ素濃度は約0.8%となる。微小球は上記のように作製した。
【0142】
<方法>
5mlのインサイチュゲル化ポリマーを10ml注射器に注入し、およそ直径13.5mmおよび長さ30mmのプラグを作製することにより、0.1、0.2、0.4または0.8%のヨウ素が取り込まれた非滅菌の棒状ゲルを作製した。試験前のゲル加水分解を防ぐように、条件を制御した。
【0143】
CT数を測定するよう、まだ注射器の中にあるときに、ゲル試料をコンピュータ断層撮影イメージングに供した。注射器をCTカウチの上に配置した(ゲル試料の長軸をカウチと揃えた)。以下のCTスキャナーとスキャン設定を用いた。Philips BRILLIANCE BIG BORE CTシミュレーター、スライス厚3mm、120kVp、300mA、FOV 60cm。ゲルを20ml注射器から空気で噴き出すことにより、ゲルを注射器から取り出した。ゲルを取り出した後、プラグの重さを量った。イメージングの後、各々100mlのPBSを含む150ml容器に試料を入れ、さらなる試験の前に、室温で保存した。
【0144】
<CTイメージング>
CTイメージングは、放射線不透過性の違いを示した。図8に示すように、両方のヨウ素ローディング法から、ヨウ素濃度に対する直線的なHU応答を示す、同様の結果が得られた。若干の補正はあったが、これらのデータは、以前にイオヘキソール(OMNIPAQUE)を用いて得られたデータと同様の傾きを有する。
【実施例4】
【0145】
<実施例4:ヨウ素が結合したヒドロゲルの放射線不透過性>
この実施例では、異なるレベルのトリオドオベンゾエート(TIB)ローディングの放射線不透過性を、異なるヒドロゲル固体パーセントとともに記載する。評価した材料およびその推定(実施例1に基づく)ハウンズフィールド単位(HU)を表VIに示す。ヒドロゲルプラグを0.375インチIDのシリコーンチューブ内で生成させ、蒸発を防ぐために円錐チューブに入れた。3〜4個の末端TIB(31%置換)または約5個の末端TIB(61%置換)を有する8a20kSGA PEGをトリリジンと反応させて、ゲルを作製した。試験前の過剰な加水分解を防ぐために、中性のヒドロゲルpHを用いた。推定された放射線不透過性とゼロ時間で実際に測定された放射線不透過性との間にかなり良好な一致が見られた。
【0146】
【表3】

【0147】
最初の放射線不透過性測定の後、試料を注射器から取り、水道水を含む円錐チューブに入れた。試料を室温(RT)で保存し、各時点で試料をバイアルから取り出し、重さを量り、再スキャンした。膨潤について補正をしていない、経時的な放射線不透過性(RO)を図9に示す。膨潤について補正した放射線不透過性を図10に示す。このデータは、いくつかの重要な特徴を示している。まず、試料の膨潤は進行中の加水分解を示し、試験した製剤が最終的に液化し、埋め込まれた場合、吸収することになることを示している。次に、膨潤について補正したとき、データは、ヨウ素が前駆体に結合したままであることを示している。この後者の観察は、必要なら、放射線不透過性をインプラントの寿命を通じて維持することができることを示している。
【0148】
<実施例5:注射可能スラリー用の浸透圧剤>
浸透圧剤の添加は、小さな開口部を通して粒子を移動させるために必要な力を低下させることが観察された。線状ポリマーの使用は、粘度、および特定の理論に束縛されることを望まないが、チキソトロピー効果に寄与した。図11Aは、スラリー注入力を試験する実験の結果のプロットである。直径約70ミクロンの共有結合的に架橋した多腕PEGヒドロゲル粒子の溶液を、異なる濃度の線状PEG(分子量20k)を用いて28%遊離水中に処方した。3ccの注射器および18ゲージの15cm針を用いて材料を注入して、力をモニタリングし、単位Nで記録した。
【0149】
図11Bは、PEG溶液中での収縮を示している。共有結合的に架橋した多腕PEGヒドロゲルプラグを記載した通りに作製し、表示したような様々な濃度の20kの線状PEGを含む37℃のリン酸緩衝化溶液(PBS、生理食塩水)中に24時間曝した。プラグは、収縮することが観察され(負の膨潤)、20%PEG溶液は、約70%の収縮を生じさせた。
【0150】
<さらなる開示>
本発明の実施形態は、薬学的に許容できるインプラントシステムまたはキットであって、該システムまたはキットが、薬学的に許容でき共有結合的に架橋したヒドロゲル粒子の集合体を含み、その集合体は該集合体中の複数の前記粒子に共有結合的に付着した放射線不透過剤を有しており、前記放射線不透過剤が少なくとも約0.1%w/wの濃度で前記集合体中に存在している、インプラントシステムまたはキットである。別の実施形態は、埋込み可能なシステムを作製する方法であって、共有結合的に付着した放射線不透過剤を含むヒドロゲルマトリックスを調製することと、前記マトリックスを薬学的に許容できる、共有結合的に架橋したヒドロゲル粒子の集合体に分解することを含む方法である。別の実施形態は、薬学的に許容できるインプラントシステムまたはキットであって、該システムまたはキットが、薬学的に許容でき共有結合的に架橋したヒドロゲル粒子の集合体を含み、その集合体が前記粒子の複数の組を含んでおりみ、前記組が異なる生体分解速度を有する、インプラントシステムまたはキットである。別の実施形態は、薬学的に許容できるインプラントシステムで患者を治療する方法であって、薬学的に許容でき共有結合的に架橋したヒドロゲル粒子の集合体を埋め込むことを含む方法である。別の実施形態は、組織の治療方法であって、ヒドロゲルを医原性部位に配置することを含み、前記ヒドロゲルは、前記部位の辺縁部に適合し、約50を越えるハウンズフィールド値を有する、方法である。別の実施形態は、インプラント、スペーサー、基準マーカー、または医原性部位用のインプラントとして使用される複数の粒子、または粒子の集合体である。
【0151】
これらの方法、プロセス、集合体、ヒドロゲル、粒子、およびシステムは、例えば、以下の特徴の1つ以上を含むことができる。粒子集合体は、共有結合した放射線不透過剤を含んでいない粒子をさらに含む。集合体は、非共有結合した放射線不透過剤をさらに含む。ここで、集合体粒子は、約20〜約200ミクロンの最大直径を有する回転楕円体であり、粒子は、生体分解可能で、循環系に吸収され腎臓濾過によって体から除去される分解産物のみを生じる。粒子は、加水分解で生体分解可能である。ここで、加水分解前の粒子は、生理的溶液中で約30体積%以下の総膨潤度を有する。ここで、分解産物は、放射線不透過剤に共有結合したポリエチレングリコールを含み、放射線不透過剤はヨウ素を含む。ここで、ポリエチレングリコールは、少なくとも4本の腕を有する分岐ポリエチレングリコールである。ここで、腕の25%〜90%は放射線不透過剤を含む。集合体は、30ゲージの針を通して注射器から手動で排出するための潤滑性および最大直径を有する。線状親水性ポリマーを含む浸透圧剤をさらに含み、薬剤は集合体との混合物中に存在する。ここで、粒子の集合体は、約30〜約365日の時間で完全に生体分解可能である。ここで、集合体は、粒子の複数の組を含み、組は異なる生体分解速度を有する。ここで、粒子の第1の組は約8〜約12日以内で生体分解可能であり、粒子の第2の組は約45〜約55日以内で生体分解可能である。ここで、粒子は、加水分解で分解可能である。アプリケータをさらに含み、粒子はアプリケータ中に配置される。ここで、粒子は脱水されている。アプリケータ中で生理食塩水および粒子を混合するために、アプリケータに流動的に接続可能な生理食塩水の容器をさらに含む。治療剤をさらに含む。放射線源をさらに含む。ここで、スペーサーまたはマトリックスは、複数の第1の官能基を含む第1の前駆体と、複数の第2の官能基を含む第2の前駆体とから形成され、第1の官能基は第2の官能基と共有結合を形成し、それによりマトリックスを形成する。ここで、少なくとも一方の前駆体は、放射線不透過剤をさらに含む。ここで、粒子は、破砕(grinding)、粉砕(milling)、細断(chopping)、ミセル重合(micellar polymerization)、またはエマルジョン重合(emulsion polymerization)によって調製される。ここで、粒子の第1の組は約8〜約12日以内に生体分解可能であり、粒子の第2の組は約45〜約55日以内に分解可能である。約60〜約90日以内に生体分解可能な粒子の組。ここで、粒子は、加水分解で分解可能である。共有結合的に付着した放射線不透過剤を有する複数の粒子を含み、放射線不透過剤は、少なくとも約0.1%w/wの濃度で集合体中に存在する。ここで、粒子は、複数の第1の官能基を含む第1の前駆体と複数の第2の官能基を含む第2の前駆体とから形成され、第1の官能基は第2の官能基と共有結合を形成し、それによりマトリックスを形成し、前駆体の少なくとも一方はポリエチレングリコールを含む。ここで、前駆体の少なくとも一方は、トリヨードベンゾエートにより終端した複数の分岐を有するポリエチレングリコールを含む。共有結合的に付着した放射線不透過剤を有する複数の粒子を含み、放射線不透過剤は、少なくとも約0.1%w/wの濃度で集合体中に存在する。集合体を2つの組織の間に配置することと、組織のうちの1つの中の癌を治療するための治療的線量の放射線を含む放射線治療計画を準備することを含む。強化のために集合体を組織内に配置することを含む。ヒドロゲルは放射線不透過剤をさらに含む。前記辺縁部に接着する前記ヒドロゲルを共有結合的に架橋した連続相として形成するために、部位に流れ込んで部位中で反応するヒドロゲル前駆体含有液体を、前記部位に導入することをさらに含む。共有結合を形成してヒドロゲルを形成するために、第1の前記前駆体と反応する第2の前駆体をさらに含む。ここで、前駆体は共有結合した放射線不透過剤を含む。ここで、放射線不透過剤はヨウ素を含む。ここで、前駆体は分岐ポリエチレングリコールを含み、放射線不透過剤は分岐のうちの少なくとも1つに配置される。部位にヒドロゲルを実質的に充填することをさらに含む。ここで、ヒドロゲルは生体分解可能である。基準マーカーとしてのヒドロゲルに基づく放射線計画を立てることをさらに含む。ここで、計画は約20mm未満のマージンを示す。ここで、ヒドロゲルは、共有結合的に架橋したヒドロゲル粒子の集合体を含む。ここで、ヒドロゲル粒子の集合体は、集合体中の複数の粒子に共有結合的に付着した放射線不透過剤を含み、放射線不透過剤は、少なくとも約0.1%w/wの濃度で集合体中に存在する。
【0152】
本発明の様々な実施形態が本明細書に示されている。一般に、様々な実施形態の特徴を組み合わせて、明示的に詳述されていないさらなる組合せに適合させることができる。見出しは、単に構成目的のために示されているのであって、本開示の範囲を限定するものではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬学的に許容できるインプラントシステムであって、
該システムが、薬学的に許容でき共有結合的に架橋したヒドロゲル粒子の集合体を含み、その集合体は該集合体中の複数の前記粒子に共有結合的に付着した放射線不透過剤を有しており、前記放射線不透過剤が少なくとも約0.1%w/wの濃度で前記集合体中に存在している、インプラントシステム。
【請求項2】
前記粒子集合体が、共有結合した放射線不透過剤を含んでいない粒子をさらに含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記集合体が、非共有結合した放射線不透過剤をさらに含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
前記集合体粒子が、約20〜約200ミクロンの最大直径を有する回転楕円体である、請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
前記粒子が生体分解可能で、循環系に吸収されて腎臓濾過により体から除去される分解産物のみを生じる、請求項1に記載のシステム。
【請求項6】
前記粒子が加水分解で生体分解可能である、請求項5に記載のシステム。
【請求項7】
加水分解前の前記粒子が、生理的溶液中で約30体積%以下の総膨潤度を有する、請求項6に記載のシステム。
【請求項8】
前記分解産物が、前記放射線不透過剤に共有結合したポリエチレングリコールを含み、前記放射線不透過剤がヨウ素を含む、請求項6に記載のシステム。
【請求項9】
前記ポリエチレングリコールが、少なくとも4本の腕を有する分岐ポリエチレングリコールである、請求項8に記載のシステム。
【請求項10】
前記腕の25%〜90%が前記放射線不透過剤を含む、請求項9に記載のシステム。
【請求項11】
前記集合体が、30ゲージの針を通して注射器から手動で排出するための潤滑性および最大直径を有する、請求項1に記載のシステム。
【請求項12】
線状親水性ポリマーを含む浸透圧剤をさらに含み、前記薬剤が前記集合体との混合物中に存在する、請求項11に記載のシステム。
【請求項13】
粒子の前記集合体が、約30〜約365日の時間で完全に生体分解可能である、請求項1に記載のシステム。
【請求項14】
前記集合体が前記粒子の複数の組を含み、前記組が異なる生体分解速度を有する、請求項13に記載のシステム。
【請求項15】
前記粒子の第1の組が約8〜約12日以内で生体分解可能であり、前記粒子の第2の組が約45〜約55日以内で生体分解可能である、請求項14に記載のシステム。
【請求項16】
前記粒子が加水分解で分解可能である、請求項1に記載のシステム。
【請求項17】
複数の前記粒子が生体分解可能ではない、請求項1に記載のシステム。
【請求項18】
アプリケータをさらに含み、前記粒子が前記アプリケータ中に配置される、請求項1に記載のシステム。
【請求項19】
前記粒子が脱水されている、請求項18に記載のシステム。
【請求項20】
前記アプリケータ中で生理食塩水と粒子とを混合するために、前記アプリケータに流動的に接続可能な前記生理食塩水の容器をさらに含む、請求項19に記載のシステム。
【請求項21】
治療剤をさらに含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項22】
放射線源をさらに含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項23】
埋込み可能なシステムを作製する方法であって、
共有結合的に付着した放射線不透過剤を含むヒドロゲルマトリックスを調製することと、
前記マトリックスを薬学的に許容できる、共有結合的に架橋したヒドロゲル粒子の集合体に分解することを含む、方法。
【請求項24】
前記マトリックスが、少なくとも約30体積%の空隙率を有し、
前記放射線不透過剤が、少なくとも約0.1%w/wの濃度で存在し、
前記粒子が分解可能で、循環系に吸収可能で腎臓濾過によって本質的に除去される水溶性の分解産物のみを生じる、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記粒子を形成するために、前記マトリックスを少なくとも2回メッシュに通す、請求項23に記載の方法。
【請求項26】
前記マトリックスを、メッシュストランド間が約50ミクロンである第1のメッシュに通し、その後、メッシュストランド間が約20ミクロンである第2のメッシュに通す、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記マトリックスが、複数の第1の官能基を含む第1の前駆体と複数の第2の官能基を含む第2の前駆体とから形成され、
前記第1の官能基が前記第2の官能基と共有結合を形成し、それにより前記マトリックスを形成する、請求項23に記載の方法。
【請求項28】
前記第1の前駆体が前記放射線不透過剤をさらに含む、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記粒子が、破砕、粉砕、細断、ミセル重合、またはエマルジョン重合によって調製される、請求項23に記載の方法。
【請求項30】
薬学的に許容できるインプラントシステムであって、
該システムが、薬学的に許容でき共有結合的に架橋したヒドロゲル粒子の集合体を含み、その集合体が前記粒子の複数の組を含んでおり、前記組が異なる生体分解速度を有する、システム。
【請求項31】
前記粒子の第1の組が約8〜約12日以内に生体分解可能であり、前記粒子の第2の組が約45〜約55日以内に分解可能である、請求項30に記載のシステム。
【請求項32】
約60〜約90日以内に生体分解可能な粒子の組をさらに含む、請求項30に記載のシステム。
【請求項33】
前記粒子が加水分解で分解可能である、請求項30に記載のシステム。
【請求項34】
共有結合的に付着した放射線不透過剤を有する複数の前記粒子を含み、
前記放射線不透過剤が、少なくとも約0.1%w/wの濃度で前記集合体中に存在する、請求項30に記載のシステム。
【請求項35】
前記粒子が、複数の第1の官能基を含む第1の前駆体と複数の第2の官能基を含む第2の前駆体とから形成され、
前記第1の官能基が前記第2の官能基と共有結合を形成し、それによりマトリックスを形成し、
前記前駆体の少なくとも一方がポリエチレングリコールを含む、請求項34に記載のシステム。
【請求項36】
前記前駆体の少なくとも一方が、トリヨードベンゾエートにより終端した複数の分岐を有するポリエチレングリコールを含む、請求項35に記載のシステム。
【請求項37】
薬学的に許容できるインプラントシステムで患者を治療する方法であって、
薬学的に許容でき共有結合的に架橋したヒドロゲル粒子の集合体を埋め込むことを含む、方法。
【請求項38】
前記集合体が前記粒子の複数の組を含み、前記組が異なる生体分解速度を有する、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
共有結合的に付着した放射線不透過剤を有する複数の前記粒子を含み、前記放射線不透過剤が、少なくとも約0.1%w/wの濃度で前記集合体中に存在する、請求項37に記載の方法。
【請求項40】
前記集合体を2つの組織の間に配置することと、
前記組織のうちの1つの中の癌を治療するための治療的線量の放射線を含む放射線治療計画を準備することを含む、請求項37に記載の方法。
【請求項41】
強化のために前記集合体を組織内に配置することを含む、請求項37に記載の方法。
【請求項42】
ヒドロゲルを医原性部位に配置することを含む組織の治療方法であって、
前記ヒドロゲルは、前記部位の辺縁部に適合し、約50を越えるハウンズフィールド値を有する、方法。
【請求項43】
前記ヒドロゲルが放射線不透過剤をさらに含む、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
前記辺縁部に接着する前記ヒドロゲルを共有結合的に架橋した連続相として形成するために、前記部位に流れ込んで該部位中で反応するヒドロゲル前駆体を含む液体を、前記部位に導入することをさらに含む、請求項42に記載の方法。
【請求項45】
共有結合を形成して前記ヒドロゲルを形成するために、第1の前記前駆体と反応する第2の前駆体をさらに含む、請求項44に記載の方法。
【請求項46】
前記前駆体が、共有結合した放射線不透過剤を含む、請求項44に記載の方法。
【請求項47】
前記放射線不透過剤がヨウ素を含む、請求項46に記載の方法。
【請求項48】
前記前駆体が分岐ポリエチレングリコールを含み、前記放射線不透過剤が前記分岐のうちの少なくとも1つに配置される、請求項46に記載の方法。
【請求項49】
前記部位に前記ヒドロゲルを実質的に充填することをさらに含む、請求項44に記載の方法。
【請求項50】
前記ヒドロゲルが生体分解可能である、請求項44に記載の方法。
【請求項51】
前記ヒドロゲルが放射線不透過剤を含む、請求項50に記載の方法。
【請求項52】
基準マーカーとしての前記ヒドロゲルに基づく放射線療法計画を立てることをさらに含む、請求項44に記載の方法。
【請求項53】
前記計画が約20mm未満のマージンを示す、請求項44に記載の方法。
【請求項54】
前記ヒドロゲルが、共有結合的に架橋したヒドロゲル粒子の集合体を含む、請求項44に記載の方法。
【請求項55】
ヒドロゲル粒子の集合体が、前記集合体中の複数の前記粒子に共有結合的に付着した放射線不透過剤を含み、
前記放射線不透過剤が、少なくとも約0.1%w/wの濃度で前記集合体中に存在する、請求項54に記載の方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4a】
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【図4b】
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【図4c】
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【図4d】
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【図4e】
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【図4f】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11A】
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【図11B】
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【公表番号】特表2013−514152(P2013−514152A)
【公表日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−544750(P2012−544750)
【出願日】平成22年12月15日(2010.12.15)
【国際出願番号】PCT/US2010/060474
【国際公開番号】WO2011/084465
【国際公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【出願人】(512156316)インセプト・リミテッド・ライアビリティ・カンパニー (1)
【氏名又は名称原語表記】INCEPT,LLC
【Fターム(参考)】