説明

インプラント

【課題】従来のインプラントと比較して、切開範囲に対するプレート部の固定力を増大させ、皮膚の切開範囲をより小さくすることができるインプラントを提供すること。
【解決手段】大腿骨100の大腿骨頭部102を大腿骨幹部104に接合固定するためのインプラント1であって、大腿骨骨頸部101に向かってねじ込まれるラグスクリュー2と、大腿骨100にねじ込まれたラグスクリュー2の回転を防止するスリーブ部4と、大腿骨幹部104の側面に沿って大腿骨100に固定されるプレート部6と、を備える。プレート部6には、複数の固定ねじ46が貫通し、固定ねじ46は、大腿骨幹部104にねじ込まれる。複数の固定ねじ46のうち、最もスリーブ部4から遠い遠位固定ねじ46は、そのヘッド部からねじ山先端部に向かって、スリーブ部4から遠ざかるように斜め方向に大腿骨100にねじ込まれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インプラントに関し、更に詳細には、大腿骨に使用されるインプラントに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、大腿骨頚部を骨折したときに使用される大腿骨用のインプラントが知られている(例えば、特許文献1参照)。図15を参照して、かかるインプラントを概略的に説明する。図15は、従来の大腿骨用のインプラントの正面図である。図15に示す大腿骨300用のインプラント200は、大腿骨頚部302にひびが入ったり折れたりしたときに大腿骨頭部304と大腿骨幹部306とを固定するためのものである。インプラント200は、大腿骨頚部302及び大腿骨頭部304に向かってねじ込まれるラグスクリュー202と、大腿骨300に固定されるスリーブ付きプレート204とを有している。スリーブ付きプレート204は、大腿骨300の側面に沿って大腿骨300に固定されるプレート部206と、プレート部206の一方の端部から延び、且つ、ねじ込み後のラグスクリュー202の周りに位置するように大腿骨300に埋め込まれるスリーブ部208とを有している。プレート部206は、複数の固定ねじ210a〜210cによって大腿骨幹部306に固定されている。
【0003】
ラグスクリュー202を大腿骨300にねじ込むことによって、大腿骨頭部304と大腿骨幹部306とが接合された状態で固定される。また、スリーブ付きプレート204のスリーブ部208によってラグスクリュー202が折れてしまうこと等を防止し、且つ、スリーブ付きプレート204のプレート部206を複数の固定ねじ210a〜210cによって大腿骨300に固定することによって、ねじ込み後のラグスクリュー202をしっかり支持することができる。
【0004】
【特許文献1】特開2004−81681号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記インプラント200を用いる手技においては、ねじ込み後のラグスクリュー202を、スリーブ部208及びプレート部206を介して大腿骨300にしっかりと支持することが好ましい。
【0006】
これに関し、プレート部206を大腿骨300に更にしっかりと固定させるために、プレート部206を大腿骨300の長手方向に延長して固定ねじ210a〜210cの数を増やすことが考えられる。しかしながら、プレート部206を長手方向に延長して固定ねじ210a〜210cの数を増やすと、それに応じて、皮膚や筋肉を切開する切開範囲を広くする必要がある。
【0007】
詳細には、図15のインプラント200の例では、インプラント200を大腿骨300に取付けるためには、概略的には、スリーブ部208の軸線方向212と皮膚308との交点Xから、スリーブ部208から最も遠くに位置する固定ねじ210cの軸線方向214と皮膚308との交点Yとの間の切開範囲Zにわたって、皮膚308を切開する必要がある。このときのプレート部206の3本の固定ねじ210a〜210cによる大腿骨300への固定範囲は、範囲Wとなる。
【0008】
仮に、プレート部206の大腿骨300に対する固定力を増すために、図15の仮想線に示すように、プレート部206を延長して2本の固定ねじ210d、210eを増やすと、プレート部206の固定ねじ210による大腿骨300への固定範囲は、範囲Tとなる。従って、この範囲Tは、固定ねじ210a〜210cで固定される固定範囲Wよりも広くなるので、固定力を高めることができる。これに対して、切開する必要がある切開範囲は、概略的には、上記交点Xから、スリーブ部208から最も遠い固定ねじ210eの軸線方向216と皮膚308との交点Vまでの範囲Uとなる。従って、この切開範囲Uは、プレート部206を3本の固定ねじ210a〜210cで固定したときの切開範囲Zよりも大きくなってしまう。大腿骨頚部の骨折は、高齢者に多く見られる骨折であるので、より侵襲性が少ない手技、即ち、切開する範囲がより小さい手技が望まれる。
【0009】
そこで、本発明の第1の目的は、従来の大腿骨用のインプラントと比較して、使用する固定ねじの本数に対するプレート部の大腿骨への固定力を増大させることができる大腿骨用のインプラントを提供することにある。
【0010】
また、本発明の第2の目的は、第1の目的に加えて、従来の大腿骨用のインプラントと比較して、インプラントを患者に埋め込む際の皮膚及び筋肉の切開範囲を小さくすることができる大腿骨用のインプラントを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記第1の目的を達成するために、本発明によるインプラントは、大腿骨に使用されるインプラントであって、基端部と先端ねじ部とを有し、大腿骨の骨折部に向かってねじ込まれるラグスクリューと、ラグスクリューの基端部の周りに配置され且つ大腿骨に埋め込まれるスリーブ部と、スリーブ部に連結され且つ大腿骨の長手方向に沿って配置されるプレート部と、を有し、プレート部は、ヘッド部及びねじ部を有し且つプレート部を大腿骨に固定するための複数の固定ねじが貫通する複数の貫通孔を有し、スリーブ部から最も遠くに位置する第1の貫通孔及び/又はスリーブ部から2番目に遠くに位置する第2の貫通孔は、固定ねじを、そのヘッド部からねじ部に向かってスリーブ部から遠ざかるように大腿骨の長手方向に対して斜め方向に受入れ可能であることを特徴としている。
【0012】
このように構成された本発明のインプラントによれば、第1の貫通孔及び/又は第2の貫通孔は、固定ねじを、そのヘッド部からねじ部に向かってスリーブ部から遠ざかるように大腿骨に対して斜め方向に受入れ可能である。従って、第1の貫通孔に固定ねじを斜め方向に挿通した場合、及び、第1の貫通孔を使用せずに第2の貫通孔に固定ねじを斜め方向に挿通した場合、従来技術のように固定ねじが大腿骨に対して垂直方向にねじ込まれる場合よりも広い固定範囲でプレート部を大腿骨によって支持することができる。即ち、使用する固定ねじの本数が同じであっても、プレート部の大腿骨への固定力を増大させることができる。
【0013】
なお、本明細書では、「骨折部」とは、大腿骨の一部が折れて分離した部分の他、例えば大腿骨にひびが入ったりした場合等、大腿骨に補強が必要な部分をも含む。
【0014】
上記インプラントにおいて、好ましくは、プレート部は、スリーブ部に分離可能に連結される。
【0015】
このように構成された本発明のインプラントによれば、インプラントを大腿骨に取付ける際、プレート部とスリーブ部とを分離して、スリーブ部を患者の切開部分から挿入した後に、プレート部を患者の切開部分から挿入することが可能になるので、患者の皮膚及び筋肉の切開範囲を小さくすることができる。詳細には、一体となったプレート部とスリーブ部を患者の皮膚から挿入する場合には、スリーブ部からプレート部までの寸法全体にわたって患者の皮膚及び筋肉を切開する必要がある。これに対して、本発明のインプラントは、プレート部とスリーブ部とが分離可能に連結されるので、プレート部とスリーブ部をより小さい部品に分離してから患者の皮膚から挿入することができる。更に、上述したように固定ねじを大腿骨に対して斜め方向に挿通する場合、固定ねじは、それを大腿骨に対して垂直方向に挿通する場合よりもスリーブ部に近い位置から挿通されることになる。これらの組み合わせにより、従来の大腿骨用のインプラントと比較して、インプラントを患者に埋め込む際の皮膚及び筋肉の切開範囲を小さくすることができる。かくして、上記第2の目的が達成される。
【0016】
上記インプラントにおいて、好ましくは、プレート部の第1の貫通孔及び/又は第2の貫通孔は、固定ねじのヘッド部を受入れる受入れ凹部を有し、この受入れ凹部は、所定の斜め方向に受入れた固定ねじを固定するために固定ねじのヘッド部に設けられた雄ねじ部に螺合する雌ねじ部を有する。
【0017】
このように構成された本発明のインプラントによれば、受入れ凹部が雌ねじ部を有するので、雄ねじ部を有する固定ねじを大腿骨にねじ込んでいくと、固定ねじの雄ねじ部が、受入れ凹部の雌ねじ部に螺合して固定される。それにより、プレート部を大腿骨にしっかりと固定することができる。この場合、プレート部を、大腿骨に押付けることなしに大腿骨に固定することができるので、プレート部を大腿骨に押付けて固定する場合よりも確実に大腿骨周りの血流を妨げないようにすることができる利点を有する。
【0018】
このインプラントにおいて、好ましくは、第1の貫通孔及び/又は第2の貫通孔の受入れ凹部は、雌ねじ部を使用することなしに、雄ねじ部を有しない固定ねじを所定の斜め方向以外の斜め方向に受入れ可能である。
【0019】
このように構成された本発明のインプラントによれば、実際の手技における柔軟性を確保することができる。具体的には、例えば、大腿骨の骨折部が複数あり、固定ねじを所定の斜め方向に挿通すると、骨折部に干渉して、プレート部を大腿骨に固定する十分な固定力が得られない場合がある。その場合、固定ねじを挿通する斜め方向の角度を変更することにより、骨折部との干渉を回避すると共に、プレート部の大腿骨への固定力を確保することができる。
【0020】
このインプラントにおいて、好ましくは、固定ねじのヘッド部は、凸形球面部分を有し、受入れ凹部は、所定の斜め方向以外の斜め方向に受入れた雄ねじ部を有しない固定ねじを固定するためにヘッド部の凸形球面部分に係合する凹形球面部分を有する。
【0021】
このように構成された本発明によれば、固定ねじのヘッド部が凸形球面部分を有し、受入れ凹部が、ヘッド部の凸形球面部分に適合する凹形球面部分を有するので、固定ねじを貫通孔に所定の斜め方向以外の斜め方向に挿通したとき、ヘッド部の凸形球面部分が受入れ凹部内の凹形球面部分に係合し押付けられる。ヘッド部と受入れ凹部が球面で係合するので、プレート部を大腿骨に安定的に固定することができる。この場合、プレート部を、大腿骨周りの血流を妨げない程度に大腿骨に押付けて大腿骨に固定することが好ましい。
【0022】
また、上記目的を達成するために、本発明によるインプラントは、大腿骨に使用されるインプラントであって、基端部と先端ねじ部とを有し、大腿骨の骨折部に向かってねじ込まれるラグスクリューと、ラグスクリューの基端部の周りに配置され且つ大腿骨に埋め込まれるスリーブ部と、スリーブ部に連結され且つ大腿骨の長手方向に沿って配置されるプレート部と、プレート部を大腿骨に固定するための複数の固定ねじと、を有し、プレート部は、複数の固定ねじが貫通する複数の貫通孔を有し、固定ねじは、プレート部に係合するヘッド部と、固定ねじの先端部に形成され、貫通孔を通して大腿骨にねじ込まれるねじ部とを有し、複数の固定ねじは、スリーブ部から最も遠くに位置する第1の固定ねじを有し、第1の固定ねじは、そのヘッド部からねじ部に向かってスリーブ部から遠ざかるように大腿骨の長手方向に対して斜め方向に延びることを特徴としている。
【0023】
このように構成された本発明のインプラントによれば、第1の固定ねじが、そのヘッド部からねじ部に向かって、スリーブ部から遠ざかるように大腿骨に対して斜め方向に延びる。従って、固定ねじの先端は、固定ねじが大腿骨に対して垂直方向にねじ込まれる場合よりも、スリーブ部から遠い位置まで延びる。したがって、本発明によるインプラントは、従来のインプラントよりも広い固定範囲でプレート部を大腿骨に支持することができる。即ち、使用する固定ねじの本数が同じであっても、プレート部の大腿骨への固定力を増大させることができる。
【0024】
上記インプラントにおいて、好ましくは、プレート部は、スリーブ部に分離可能に連結される。
【0025】
このように構成された本発明のインプラントによれば、インプラントを大腿骨に取付ける際、プレート部とスリーブ部とを分離して、スリーブ部を患者の切開部分から挿入した後に、プレート部を患者の切開部分から挿入することが可能になるので、患者の皮膚及び筋肉の切開範囲を小さくすることができる。更に、上述したように第1の固定ねじを大腿骨に対して斜め方向に挿通する場合、固定ねじは、それを大腿骨に対して垂直方向に挿通する場合よりもスリーブ部に近い位置から挿通されることになる。これらの組み合わせにより、従来の大腿骨用のインプラントと比較して、インプラントを患者に埋め込む際の皮膚及び筋肉の切開範囲を小さくすることができる。かくして、上記第2の目的が達成される。
【0026】
上記インプラントにおいて、好ましくは、複数の固定ねじは、スリーブ部から2番目に遠くに位置する第2の固定ねじを有し、スリーブ部の軸線と大腿骨を覆う皮膚とが交わるスリーブ交点から第1の固定ねじの軸線と皮膚とが交わる第1の交点までの長手方向距離は、スリーブ交点から第2の固定ねじの軸線と皮膚とが交わる第2の交点までの長手方向距離と等しいかそれよりも短い。
【0027】
このように構成された本発明のインプラントによれば、スリーブ部から最も遠くに位置する第1の固定ねじの軸線と大腿骨を覆う皮膚とが交わる第1の交点が、第1の固定ねじを大腿骨にねじ込む際の皮膚からの挿入位置となる。同様に、スリーブ部から2番目に遠くに位置する第2の固定ねじの皮膚からの挿入位置は、第2の交点になる。更に、第1の交点が第2の交点上に位置し又はそれよりもスリーブ部に近くなれば、切開範囲が、第1の交点の代わりに第2交点によって規定されることになり、インプラントを患者に埋め込む際の皮膚及び筋肉の切開範囲を小さくすることができる。
【0028】
また、上記インプラントにおいて、好ましくは、プレート部の複数の貫通孔は、第1の固定ねじが貫通する第1の貫通孔を有し、プレート部の第1の貫通孔は、第1の固定ねじのヘッド部を受入れる受入れ凹部を有し、この受入れ凹部は、所定の斜め方向に受入れた第1の固定ねじを固定するために第1の固定ねじのヘッド部に設けられた雄ねじ部に螺合する雌ねじ部を有する。
【0029】
このインプラントにおいて、好ましくは、第1の貫通孔の受入れ凹部は、雌ねじ部を使用することなしに、雄ねじ部を有しない固定ねじを所定の斜め方向以外の斜め方向に受入れ可能であり、更に好ましくは、固定ねじのヘッド部は、凸形球面部分を有し、第1の貫通孔の受入れ凹部は、所定の斜め方向以外の斜め方向に受入れた雄ねじ部を有しない固定ねじを固定するためにヘッド部の凸形球面部分に係合する凹形球面部分を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本発明の好ましい実施形態を添付図面を参照して説明する。
【0031】
[第1実施形態]
本発明の第1実施形態によるインプラントについて説明する。
図1は、本発明の第1実施形態によるインプラントを、大腿骨に取り付けられた状態で示す側面図である。本実施形態のインプラント1は、大腿骨頸部101で骨折した大腿骨100の大腿骨頭部102を大腿骨幹部104に接合固定するためのインプラントで、大腿骨100の骨折部、つまり大腿骨骨頸部101に向かってねじ込まれるラグスクリュー2と、大腿骨100にねじ込まれたラグスクリュー2の回転を防止するスリーブ部4と、スリーブ部4と連結されると共に大腿骨幹部104の側面に沿って大腿骨100に固定されるプレート部6と、を備える。これらの部材は、チタン合金等の生体適合性を有する材料で作られている。
【0032】
図2は、本発明の第1実施形態によるインプラント1の分解斜視図である。ラグスクリュー2は、断面六角形の角柱状の軸部10と、軸部10の先端に連結されたスクリュー部12と、を有し、軸線16Aに沿って、貫通孔13が形成されている。軸部10の基端部分は、スリーブ部4と嵌合する嵌合部14となっている。また、軸部10の基端には、ラグスクリュー2を大腿骨100にねじ込む際の器具を取り付けるための凹部15が形成されている。スクリュー部12のねじ山には、大腿骨100にねじ込まれるとき大腿骨100をねじ切りしながら進むための歯11が形成されており、したがって、本実施形態のラグスクリュー2は、セルフタッピングスクリューとなっている。なお、ラグスクリュー2の各寸法は、大腿骨100の寸法等に応じて適宜選択される。
【0033】
スリーブ部4は、大腿骨100に埋め込まれて、大腿骨100にねじ込まれたラグスクリュー2の回転を防止するための回り止め部16と、回り止め部16の基端部分に形成され、プレート部6と連結する連結部18と、を有する。回り止め部16は、貫通孔17を有する筒状に形成されている。貫通孔17の先端部分は、ラグスクリュー2の嵌合部14が嵌合されるように、嵌合部14の断面形状に対応した断面六角形の被嵌合部19となっている。
【0034】
なお、嵌合部14及び被嵌合部19の断面形状は、六角形に限らず、例えば五角形や十二角形等の多角形でもよいし、或いは、嵌合部14及び回り止め部16のいずれか一方に溝が形成され、いずれか他方に溝に係合する突起が形成されていてもよい。
【0035】
連結部18は、回り止め部16の基端部分から連続して板状に形成されている。連結部18は、平面24,25を有し、骨幹部104の側面に沿って配置されるように、これらの平面24,25が回り止め部16の筒軸16Aに対して斜めに延びる。連結部18の側面20には、プレート部6に連結するための突起22が形成されている。突起22は、連結部18の側面20のうち、プレート部6に対向する面24に近い側の部分が、側面20から側面20に垂直な方向に突出して形成されている。
【0036】
プレート部6は、大腿骨100に対向する面26と、面26の反対側の面28とを有する細長い板状部材であり、その長手方向6Aが、骨幹部104の長手方向に沿って配置される。プレート部6の面26には、スリーブ部4の連結部18を受け入れるための凹部30が形成されている。凹部30は、プレート部6の長手方向6Aの一端部に形成されて該端部に開口し、プレート部6の平面視、つまり面26に垂直な方向から見て、略U字形となっている。凹部30は、プレート部6の面26に平行な底面32と、底面32と面26との間に形成される側面34とを有し、側面34には、連結部18の突起22を受け入れるための溝部36が形成されている。凹部30内には、プレート部6の長手方向6Aに沿った長孔38が形成され、この長孔38は、プレート部6とスリーブ部4とを連結したとき、スリーブ部4の貫通孔17と連通する位置に形成されている。
【0037】
図3は、本発明の第1実施形態によるインプラント1のスリーブ部4及びプレート部6を連結させた状態で示す側断面図である。スリーブ部4の突起22をプレート部6の凹部30の溝部36に係合させて、スリーブ部4をプレート部6の長手方向6Aに沿ってスライドさせると、スリーブ部4の連結部18が凹部30に収容されて互いに連結される。スリーブ部4がプレート部6と連結した状態では、スリーブ部4の回り止め16は、プレート部6の一端から、その筒軸16Aがプレート部6の長手方向6Aに対して斜めに延びるように配置される。このとき、スリーブ部4の連結部18の面25は、プレート部6の面26とほぼ同一平面となる。また、スリーブ部4をプレート部6に連結させた状態で、スリーブ部4の回り止め部16の貫通孔17は、プレート部6の長孔38と連通する。
【0038】
図3に示すように、プレート部6には、複数(本実施形態では3つ)の貫通孔40,42,44が形成されており、貫通孔40,42,44には、プレート部6を大腿骨幹部104に固定するための固定ねじ46(図4参照)が貫通する。
図4は、固定ねじ46を示す図である。固定ねじ46は、ヘッド部48と、その反対側のねじ山先端部50とを有する。ヘッド部48のねじ山先端部50側の部分は、凸形球面部分52となっている。また、ヘッド部48の凸形球面部分52よりもねじ山先端部50から遠い位置には、雄ねじ部54が形成されている。なお、固定ねじ46は、プレート部6等と同様に、生体適合性を有する適宜な材料で作られている。
【0039】
一方、貫通孔40,42,44は、固定ねじ46のヘッド部48を受入れるための受入れ凹部56,58,60を有する。受入れ凹部56,58,60において面26に近い側の部分は、ヘッド部48の凸形球面部分52に適合する凹形球面部分62,64,66となっている。また、受入れ凹部56,58,60の、凹形球面部分62,64,66より面28に近い位置には、固定ねじ46の雄ねじ部54が螺合する雌ねじ部68,70,72が形成されている。
【0040】
ここで、3つの貫通孔40,42,44のうち、スリーブ部4に近い側の2つの貫通孔40,42は、固定ねじ46を、プレート部6の面26,28に対して略垂直な方向に挿通できるような方向に、つまり、固定ねじ46を大腿骨幹部104の長手方向に対して略垂直な方向にねじ込むことができるように形成され、貫通孔40,42の面26側の開口は円形となっている。また、貫通孔40,42の中心軸線40A,42Aは、プレート部6の面26,28に対して略垂直となり、プレート部6を大腿骨100の骨幹部104に取り付けたときに、骨幹部104の側面に対して略垂直となる。なお、貫通孔40,42の面26側の開口の円の直径は、固定ねじ46のねじ山先端部50のねじ山直径よりも若干大きく形成されている。
【0041】
これらの貫通孔40,42に対して、スリーブ部4から最も遠い位置にある遠位貫通孔44は、固定ねじ46を、プレート部6の面26,28に対して略垂直な方向から所定角度傾斜した方向に沿って、大腿骨100にねじ込むように形成されている。このため、遠位貫通孔44の面26側の開口は楕円形となっている。遠位貫通孔44の中心軸線44Aは、スリーブ部4から2番目に遠い貫通孔42の中心軸線42Aに対して、面26側の開口が、面28側の開口よりもスリーブ部4から遠ざかるように、角度αだけ傾斜している。
【0042】
遠位貫通孔44の雌ねじ部72も、遠位貫通孔44の傾きに応じて、中心軸線が中心軸線42Aに対して角度αだけ傾斜して形成されている。
この遠位貫通孔44に固定ねじ46を挿通して固定ねじ46を大腿骨幹部104にねじ込むと、固定ねじ46は、ヘッド部48からねじ山先端部50に向かってスリーブ部4から遠ざかるように、大腿骨100の側面に対して角度αを有して斜め方向に固定される。
【0043】
ここで、角度αは、好ましくは、10°以上70°以下であり、より好ましくは、30°以上60°以下である。角度αが10°より小さいと、遠位貫通孔44に挿通される固定ねじ46のねじ山先端部50がスリーブ部4から遠ざからず、隣接する貫通孔42に挿通される固定ねじ46に対して十分に広がって配置されない。したがって、固定ねじ46を斜めに挿通することによって期待されるプレート部6の固定力の増大の効果が十分に得られない。また、角度αが70°より大きいと、固定ねじ46が大腿骨100の表面に対して浅い角度でねじ込まれるため、望ましい固定力を得ることが困難になる。
なお、本発明では、角度αは、45°に設定されている。
【0044】
次に、インプラント1を大腿骨100に取り付ける方法について説明する。
図5乃至図8は、本実施形態によるインプラント1の取付方法を示す図である。
まず、図5に示すように、患者の皮膚106及び筋肉を切開し、切開部分から、大腿骨100の骨幹部104から骨頸部101に向けて、ラグスクリュー2を取り付ける位置を規定するために、骨幹部104及び骨頭部102を通るようにガイドピン108を刺入する。ガイドピン108の刺入は、骨幹部104の長手方向に対して所定角度且つ所定深さで行われるように、専用の器具を用いて行う。
【0045】
次に、ガイドピン108に沿ってリーミングを行い、ラグスクリュー2のねじ込み深さを決定するとともに、ラグスクリュー2及びスリーブ部4の回り止め部16を大腿骨100に挿入することができる大きさの孔110を形成する。
【0046】
図6に示すように、ガイドピン108をラグスクリュー2の貫通孔13に挿通し、ラグスクリュー2をガイドピン108に沿って大腿骨100にねじ込む。ラグスクリュー2のスクリュー部12には、ねじ切り用の歯11が形成されているため、ラグスクリュー2は、ねじを切りながら大腿骨100中を進む。ラグスクリュー2の大腿骨100へのねじ込みは、ラグスクリュー2の凹部15に専用の器具を取り付けて行う。
【0047】
ラグスクリュー2を大腿骨100にねじ込んだ後、ラグスクリュー2にスリーブ部4を取り付ける。図7に示すように、皮膚106の切開部分からスリーブ部4を挿入し、スリーブ部4を孔110内に配置して大腿骨100に埋め込む。そして、ラグスクリュー2の嵌合部14を回り止め部16の被嵌合部19に嵌合させる。ここで、ラグスクリュー2は、スリーブ部4の連結部18の側面20が、大腿骨幹部104の長手方向に沿って配置されるように、ラグスクリュー2のねじ込み回転位置を予め調整しておく。
【0048】
ラグスクリュー2の嵌合部14が回り止め部16の被嵌合部19に挿入されることにより、回り止め部16はラグスクリュー2の周りに延び、六角形の断面形状同士が嵌合することにより、ラグスクリュー2の大腿骨100内での回転が防止される。また、回り止め部16は、ラグスクリュー2の基端部分の周りに延びてラグスクリュー2の基端部分を補強する機能を有し、これによりラグスクリュー2を折れにくくしている。
【0049】
スリーブ部4を大腿骨100に配置した後、図8に示すように、プレート部6を取り付ける。まず、皮膚106の切開部分からプレート部6を挿入し、プレート部6の溝部36をスリーブ部4の突起22に係合させて、プレート部6をスライドさせる。これにより、プレート部6をスリーブ部4に連結させて、プレート部6を大腿骨幹部104の側面に配置する。このとき、スリーブ部4の連結部18の側面20が、大腿骨幹部104の長手方向に沿って配置されているので、プレート部6も、突起22に案内されて、その長手方向6Aが自動的に大腿骨幹部104の長手方向に沿って配置される。
【0050】
その後、3つの貫通孔40,42,44に固定ねじ46を貫通させて、それぞれの固定ねじ46を骨幹部104にねじ込む。固定ねじ46のねじ込み作業に際しては、まず、専用工具で大腿骨幹部104に孔をあけ、その後、固定ねじ46のねじ込み角度を規定するための適宜のガイド手段を用いて、各固定ねじ46を貫通孔40,42,44を通して大腿骨100にねじ込む。ここで、スリーブ部4に近い二つの固定ねじ46は、プレート部6の面28に垂直に、つまり、貫通孔40,42の中心軸線40A,42Aに沿って、大腿骨幹部104の側面に対して略垂直に大腿骨幹部104にねじ込まれる。一方、遠位貫通孔44に挿通される固定ねじ46(第1の固定ねじ)は、スリーブ部4から2番目に遠い固定ねじ46(第2の固定ねじ)のねじ込み方向、つまり貫通孔42の中心軸線42Aに対して角度αを有して、遠位貫通孔44の中心軸線44Aに沿って大腿骨幹部104に斜めにねじ込まれる。これにより、遠位貫通孔44に挿通される固定ねじ46は、そのヘッド部48からねじ山先端部50に向かって、スリーブ部4から遠ざかるように延びる。
【0051】
各固定ねじ46を貫通孔40,42,44にねじ込むと、固定ねじ46の雄ねじ部54が、それぞれの貫通孔40,42,44の雌ねじ部68,70,72に螺合し、固定ねじ46がプレート部6に固定される。また、固定ねじ46の凸形球面部分52が、受入れ凹部56,58,60の凹形球面部分62,64,66の形状に適合して、固定ねじ46が安定して受入れ凹部56,58,60に受け入れられる。ここで、雄ねじ部54及び雌ねじ部68,70,72によってプレート部6と固定ねじ46とが互いに固定され、固定ねじ46が大腿骨幹部104にねじ込まれることにより、プレート部6を大腿骨幹部104に固定する。したがって、固定ねじ46をねじ込んでプレート部6を大腿骨幹部104に押しつけることなく、プレート部6が大腿骨幹部104に対してしっかり固定される。プレート部6が大腿骨100に固定されると、プレート部6は、スリーブ部4の回転を阻止するとともに大腿骨100から抜けてくるのを阻止し、これによりラグスクリュー2の回転、抜け落ちを防止する。また、大腿骨頭部102の大腿骨幹部104に対する回転及び移動を防止する。
【0052】
また、貫通孔40,42,44にはそれぞれ受入れ凹部56,58,60が形成されているので、固定ねじ46のヘッド部48は、受入れ凹部56,58,60に収容される。このとき、スリーブ部4に近い二つの固定ねじ46のヘッド部48は、受入れ凹部56,58に完全に収容され、プレート部6の面28から突出しない。一方、遠位貫通孔44を貫通する固定ねじ46は、斜めに挿通されるため、ヘッド部48の一部がプレート部6の面28から突出するものの、そのほとんどが受入れ凹部60に収容される。
【0053】
医師が手術中の状況に応じて、固定ねじ46の挿入角度を調整したい場合には、雄ねじ部54及び雌ねじ部68,70,72を使用せずに、固定ねじ46を貫通孔40,42,44に挿入して、所定の斜め方向以外の斜め方向に固定ねじ46をねじ込んでもよい。その場合でも、受入れ凹部56,58,60の凹形球面部分62,64,66が固定ねじ46の凸形球面部分52の形状に適合して、固定ねじ46を安定して受け入れる。
【0054】
なお、この場合には、雄ねじ部及び雌ねじ部を使用せずに固定を行うので、図9に示すように、雄ねじ部が形成されていない固定ねじ76を用いるのがよい。つまり、場合に応じて、雌ねじ部56,58,60と螺合させて固定させたい場合には雄ねじ部54を有する固定ねじ48を使用し、雌ねじ部56,58,60との螺合を利用せずにプレート部6を大腿骨100に固定する場合には、雄ねじ部を有しない固定ねじ76を使用するようにするのがよい。
また、固定ねじ76は、好ましくは、ヘッド部からねじ山先端部に向かってスリーブ部から遠ざかるように、大腿骨100の側面に垂直な方向Bに対して角度βだけ傾斜して挿入される。ここで、角度βは、好ましくは5°以上70°以下の角度に設定され、より好ましくは、30°以上60°以下の角度に設定される。なお、固定ねじは、大腿骨100の側面に垂直な方向Bに対して斜め方向に挿入されるものに限らず、図9の一点鎖線で示す固定ねじ76Aのように、角度βが0°となるように、大腿骨100の側面に対して略垂直にねじ込まれてもよい。
【0055】
次に、本実施形態によるインプラント1を大腿骨100に取り付ける際に必要な皮膚の切開範囲について説明する。
図10は、本実施形態によるインプラント1を大腿骨100に取り付ける際に必要な皮膚の切開範囲を示す図である。
ラグスクリュー2及びスリーブ部4の挿入作業に際しては、その挿入位置は、ラグスクリュー2の軸線2A(または回り止め部16の筒軸16A)と患者の皮膚106との交点であるスリーブ交点Dとなる。
【0056】
また、スリーブ部4に近い二つの固定ねじ46をそれぞれの貫通孔40,42に挿通する際には、これらの挿入位置は、それぞれ、貫通孔40,42の中心軸線40A,42Aと皮膚106との交点である交点E,Fとなる。一方、遠位貫通孔44に挿通される固定ねじ46の挿入位置は、遠位貫通孔44の中心軸線44Aと皮膚106との交点である交点Gとなる。ここで、交点Gは、交点Fと同じ位置か、交点Fよりもスリーブ部4に近い位置に配置されることが好ましく、本実施形態では、交点Gは、交点Fよりもスリーブ部4に近い位置に位置する。
【0057】
したがって、ラグスクリュー2、スリーブ部4、プレート部6、及び3つの固定ねじ46を大腿骨100に配置するためには、互いに最も遠いスリーブ交点Dから交点Fまでの範囲で皮膚106を切開する必要がある。なお、この切開範囲は、遠位貫通孔44に挿通される固定ねじ46の傾斜角度αや、3つの固定ねじ46の間の間隔などに応じて異なる。本実施形態では、中央の貫通孔42に挿通される固定ねじ46の挿入位置である交点Fの方が、遠位貫通孔44に挿通される固定ねじ46の挿入位置である交点Gよりもスリーブ部4から遠い側に位置するので、固定ねじ46のねじ込み作業に際しては、皮膚106の切開範囲は、スリーブ交点Dから交点Fまでの範囲となる。
【0058】
なお、プレート部6の長さ寸法は、スリーブ交点Dと交点Fの間の距離よりも長いが、プレート部6を大腿骨100上に配置するときは、スリーブ交点Dから交点Fまでの切開部分からプレート部6を斜めに挿入しながら大腿骨100に配置し、スリーブ部4と連結させればよい。したがって、切開範囲をスリーブ交点Dから交点Fまでの範囲よりも広げる必要がない。
【0059】
このような実施形態によれば、次のような優れた効果が得られる。
スリーブ部4から最も遠い遠位貫通孔44が、斜め方向に形成され、最も遠位側の固定ねじ46が、ヘッド部48からねじ山先端部50に向かってスリーブ部4から遠ざかるように大腿骨100にねじ込まれるので、3つのヘッド部48の配置範囲よりも、大腿骨100内に配置される3つのねじ山先端部50の配置範囲の方が広くなる。つまり、従来全ての固定ねじを大腿骨の長手方向に対して略垂直にねじ込んでいた場合では、固定ねじによる固定範囲は、最もスリーブ部4に近い固定ねじの先端部分と、スリーブ部4から遠い固定ねじの先端部分との間の範囲である、図10の固定範囲Jで示される範囲となる。これに対して、本実施形態によれば、固定ねじ46による固定範囲は、貫通孔40に貫通する固定ねじ46のねじ山先端部50と、貫通孔44に貫通する固定ねじ46のねじ山先端部50までの範囲である、図10の固定範囲Kで示される範囲となる。したがって、従来のインプラントに比べて、より広い範囲でプレート部6を大腿骨100によって支持することができる。これにより、使用する固定ねじの本数が同じであっても、プレート部6の大腿骨100への固定力を増大させることができる。
【0060】
スリーブ部4から最も遠い遠位貫通孔44に挿通される固定ねじ46が、斜め方向に配置されるので、必要な固定力を確保しながら、患者の皮膚106の切開範囲を小さくすることができる。すなわち、図10を参照すると、従来、全ての固定ねじを大腿骨に対して略垂直にねじ込んでいた場合では、スリーブ部4から最も遠い固定ねじの挿入位置は、固定ねじの挿入方向と皮膚106との交点Hとなる。したがって、固定ねじのねじこみに際して、患者の皮膚106をスリーブ交点Dから交点Hまで切開する必要がある。これに対して、本実施形態では、固定ねじ46が斜め方向にねじ込まれているので、遠位貫通孔44に挿通される固定ねじ46の挿入位置は、交点Gとなり、スリーブ部4に近くなる。したがって、患者の皮膚106の切開範囲は、スリーブ交点Dから一番遠い交点Fまでとなり、従来よりも切開範囲を小さくすることができる。
【0061】
ここで、遠位貫通孔44に挿通される固定ねじ46の挿入位置である交点Gが、スリーブ部4から2番目に遠い貫通孔42に挿通される固定ねじ46の挿入位置である交点Fよりも、スリーブ部4に近い位置にあるので、切開範囲が、交点Gの代わりに交点Fによって規定される。これにより、インプラント1を大腿骨100に取り付ける際の、患者の皮膚106の切開範囲を小さくすることができる。
【0062】
また、プレート部6とスリーブ部4とが分離可能に連結されるので、インプラント1の大腿骨100への取付の際に、プレート部6とスリーブ部4とを分解して皮膚106の切開部分から挿入することができる。したがって、図10のスリーブ交点Dから交点Fまでの切開範囲から各部品を挿入し、大腿骨100近傍でその組立を行うことができる。したがって、切開範囲を大きくすることなくインプラント1の取付を行うことができる。
【0063】
ラグスクリュー2とスリーブ部4もまた、分離可能に連結されているので、インプラント1の取付作業がより一層容易となる。即ち、ラグスクリューとスリーブ部が一体となっているインプラントの場合には、ラグスクリューを大腿骨にねじ込んでいくと、スリーブ部が一緒に大腿骨に近接していく。したがって、ラグスクリューのねじ込み作業中に、スリーブ部を患者の皮膚の切開部分から内部に挿入する作業が発生する。また、ラグスクリューを大腿骨にねじ込むのと同時に、スリーブ部を筋肉等との干渉を避けながら大腿骨に向けて移動させなければならない。これに対して本実施形態では、ラグスクリュー2とスリーブ部4とが分離可能に連結されているので、ラグスクリュー2の挿入及びスリーブ部4の取付を別々に行うことができる。したがって、ラグスクリュー2及びスリーブ部4の取付を容易に行うことができる。
【0064】
最も遠位側の固定ねじ46のみが斜め方向にねじ込まれているので、患者の歩行などによってインプラント1が繰り返し荷重を受けても、固定ねじ46のねじ込み角度が異なるから、3つの固定ねじ46が抜けにくくなる。これによっても、プレート部6の固定力を高めることができる。
【0065】
固定ねじ46のヘッド部48に雄ねじ部54が形成され、プレート部6の貫通孔40,42,44に雌ねじ部68,70,72が形成されているので、固定ねじ46を大腿骨100にねじ込むと、雄ねじ部54が雌ねじ部68,70,72に螺合して、プレート部6を固定する。従来、雄ねじ部及び雌ねじ部が形成されていないインプラントでは、プレート部を固定ねじによって大腿骨に押付けることによってプレート部の固定力を得ていた。これに対して、本実施形態では、固定ねじ46のヘッド部48によってプレート部6を固定するから、大腿骨100周辺の血流を良好に保ちながらプレート部6を大腿骨100に固定することができる。
【0066】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態によるインプラントについて説明する。第2実施形態によるインプラント400は、第1実施形態によるインプラント1のラグスクリュー2とスリーブ部4とが分離されないように一体となっている点が、第1実施形態と異なる。
【0067】
図11は、本発明の第2実施形態によるインプラント400の一部を破断した分解側面図である。本実施形態によるインプラント400は、スリーブ付きラグスクリュー402と、プレート部6とを有する。
スリーブ付きラグスクリュー402は、スリーブ部404と、ラグスクリュー部406とを有する。スリーブ部404は、プレート部6に連結される、第1実施形態の連結部18と同様の構成の連結部408と、ラグスクリュー部406を保持する回り止め部410を有する。回り止め部410には、貫通孔411が形成されている。貫通孔411は、断面円形の円形孔部分412と、断面積が円形孔部分412よりも小さい断面六角形の先端側の六角形孔部分414とを有し、六角形孔部分414により、ラグスクリュー部406が先端側に移動することができないように係止する被係止部414aを構成している。
【0068】
ラグスクリュー部406は、基端側に形成される軸部416と、先端側に形成されるスクリュー部418とを有する。軸部416は、最も基端に位置してスリーブ部404の貫通孔412内に配置され且つラグスクリュー部406をスリーブ部404の被係止部414aに係止させるための円筒形の大円筒係止部420と、大円筒係止部420よりも先端側に配置され且つ大円筒係止部420より直径の小さい円筒形の小円筒部422と、小円筒部422よりも先端側に配置された外形断面六角形の六角筒部424とで構成される。
【0069】
大円筒係止部420は、円形孔部分412内に進退可能に挿通されるが、貫通孔411の被係止部414aで係止され、それ以上先端側に移動することができないようになっている。したがって、ラグスクリュー部406は、大円筒係止部420が、貫通孔411の被係止部414に係止されることによって、貫通孔411から先端側に抜け落ちるのが阻止される。
小円筒部422は、貫通孔411の六角形孔部分414内で回転可能な直径を有する。そして六角筒部424の外形形状は、六角形孔部分414に対応し、六角形孔部分414に嵌合する寸法となっている。
また、スクリュー部418の外径は、六角形孔部分414よりも大きいので、ラグスクリュー部406が貫通孔411から基端側に抜け落ちるのが阻止される。
なお、ラグスクリュー部406は分割結合構造を有し、分割状態でスリーブ部404に組付けられた後、上述した構成に結合される。
【0070】
このようなインプラント400のスリーブ付きラグスクリュー402を大腿骨に取り付ける際には、まず、ラグスクリュー部406の大円筒係止部420をスリーブ部404の円形孔部分412の被係止部414aの位置に配置して、小円筒部422を六角形孔部分414内に配置する。このような配置により、ラグスクリュー部406は、貫通孔411に対して回転可能となる。
【0071】
この状態で、ラグスクリュー部406を大腿骨にねじ込むと、ラグスクリュー部406は、スリーブ部404に対して回転可能であるため、ラグスクリュー部404のみを回転させることができる。ラグスクリュー部406を所定の位置までねじ込んだ後、スリーブ部404をラグスクリュー部406の軸線に沿って押し、連結部408を大腿骨に接触させるとともに、六角筒部424を六角形孔部分414に嵌合させる。六角筒部424は、六角形孔部分414に対応した断面六角形の外形形状を有しているため、六角筒部422が六角形孔部分414内に嵌合されることにより、ラグスクリュー部406の回転が阻止される。なお、スリーブ部404の大腿骨に対する取付け方向が定められているので、ラグスクリュー部404のねじ込みを、ラグスクリュー部404の六角筒部424がスリーブ部404の六角形孔部分414に嵌合できる回転方向位置まで行う必要がある。
その後、第1実施形態と同様にプレート部6を連結部408に連結し、固定ねじを大腿骨にねじ込むことによってプレート部6を大腿骨に固定する。
【0072】
このような実施形態によれば、ラグスクリュー部406とスリーブ部404とが一体となっており、六角形孔部分414に小円筒部422が配置されることによってラグスクリュー部406がスリーブ部404に対して回転可能になるので、スリーブ付きラグスクリュー402を大腿骨に取り付ける際に、ラグスクリュー部406のみを回転させることができ、取付作業が容易になる。
また、六角形孔部分414に六角筒部424が配置されることによってラグスクリュー部406の回転が阻止されるので、スリーブ付きラグスクリュー402を大腿骨に取り付けた後は、ラグスクリュー部406の大腿骨内での回転が防止され、それにより、大腿骨頭部が大腿骨幹部に対して移動することが確実に防止される。
【0073】
本発明は、以上の実施の形態に限定されることなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内で種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることはいうまでもない。
【0074】
例えば、前述の実施形態では、ラグスクリューがスリーブ部に対して回転しないようにスリーブ部に嵌合する構成を有していたが、これに限らず、ラグスクリューがスリーブ部に対して回転可能にスリーブ部に嵌合する構成を有していてもよい。
図12は、かかる構成を有する本発明のインプラントの変形例を示す一部を破断した側面図である。インプラント500は、第2実施形態のインプラント400と同様に、プレート部6とスリーブ付きラグスクリュー502とを備える。スリーブ付きラグスクリュー502は、スリーブ部504とラグスクリュー部506とを有し、スリーブ部504の貫通孔511は、円筒形孔部分512と、その先端側に位置し且つ円筒形孔部分512よりも直径の小さい断面円形の縮径孔部分514とを有している。
【0075】
ラグスクリュー部506の軸部516の基端には、縮径孔部分514よりも外径が大きく、円形孔部分512よりも外径が小さい円筒形の大径係止部520が形成されている。また、軸部516の係止部520以外の部分は、縮径孔部分514よりも小さい外径を有する円筒形の小径部522を構成している。
このようなスリーブ付きラグスクリュー502では、小径部522は、縮径孔部分514内で回転自在となり、ラグスクリュー部506は、スリーブ部504に対して回転可能となる。したがって、ラグスクリュー部506を大腿骨にねじ込む際に、スリーブ部504が一緒に回転しないので、ねじ込み作業が容易になる。また、前述の第2実施形態のように、ラグスクリュー部404のねじ込みを、ラグスクリュー部404の六角筒部424がスリーブ部404の六角形孔部分414に嵌合できる回転方向位置まで行う必要がなくなる。したがって、ラグスクリュー部506を、縮径孔部分514との嵌合のための向きを考慮に入れずに、大腿骨の骨折部を固定するためにねじ込むことができるので、大腿骨の骨折部の固定作業が容易となる。このような構成のインプラント500は、動きが激しくない患者に使用する場合に、特に有用である。
【0076】
また、上記第1及び第2の実施形態では、プレート部とスリーブ部とが分離可能に連結されていたが、これに限らず、例えば、プレート部とスリーブ部が一体に形成されていてもよい。
【0077】
固定ねじは、スリーブ部から最も遠位側の固定ねじだけが斜め方向にねじ込まれるものに限らず、例えば、前述の実施形態において、中央の固定ねじも、ヘッド部からねじ山先端部に向かってスリーブ部から遠ざかるように斜め方向にねじ込まれていてもよい。或いは、例えば図13に示すように、スリーブ部4から最も近位側の固定ねじ46が、ヘッド部48からねじ山先端部50に向かって、スリーブ部4に近接するように斜め方向にねじ込まれてもよい。この場合に、大腿骨100の小転子112の部分が骨折した場合に、この小転子112を近位側の固定ねじ46で固定してもよい。
固定ねじの数やプレート部への配置、固定ねじ間の間隔等は、骨折の部位、患者の体型等に応じて任意に選択することができる。
【0078】
また、貫通孔の数やプレート部への配置等も、任意に選択することができる。例えば、貫通孔は、プレート部に2つ、或いは4つ以上形成されていてもよい。また、貫通孔の全てに固定ねじが挿通されていなくてもよく、例えば部品の共通化を図るためにプレート部には複数の貫通孔が形成され、患者の体型や骨折部位等の条件に応じて、複数の貫通孔のうちの一部に固定ねじを挿通して、プレート部を固定してもよい。この場合においても、スリーブ部から最も遠い位置にある固定ねじが、ヘッド部からねじ山先端部に向かってスリーブ部から遠ざかるように斜め方向にねじ込まれることにより、固定力を増大させることができる。したがって、貫通孔もそれに応じて、スリーブ部から最も遠い貫通孔のみが、固定ねじを斜め方向に受入れ可能であるものに限らず、少なくとも、スリーブ部から最も遠い貫通孔及び/又はスリーブ部から2番目に遠い貫通孔が、固定ねじを斜め方向に受入れ可能であるのがよい。
雄ねじ部を有しない固定ねじを使用する場合には、貫通孔には、雌ねじ部が形成されていなくてもよい。
【0079】
前述の実施形態では、インプラントは大腿骨の近位端側での骨折部位を接合固定するものとして説明したが、例えば、図14に示すように、インプラント600は、大腿骨114の遠位端側の骨折部を固定するものであってもよい。また、この図14に示すように、大腿骨114の遠位端側が湾曲してインプラント600から離れている場合でも、固定ねじ116のヘッド部122に雄ねじ部120を形成し、プレート部118の貫通孔126に雌ねじ部124を形成し、固定ねじ116の雄ねじ部120を貫通孔126の雌ねじ部124に螺合させればよい。このようにすれば、プレート部118が螺合によって固定ねじ116に固定され、固定ねじ116が大腿骨114に固定されるので、プレート部118が大腿骨114から離れていても、固定ねじ116によってプレート部118を大腿骨114に固定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】本発明の第1実施形態によるインプラントを、大腿骨に取り付けられた状態で示す側面図である。
【図2】本発明の第1実施形態によるインプラントの分解斜視図である。
【図3】本発明の第1実施形態によるインプラントのスリーブ部及びプレート部を連結させた状態で示す側断面図である。
【図4】本発明の第1実施形態によるインプラントの固定ねじを示す側面図である。
【図5】本発明の第1実施形態によるインプラントの取付方法を示す図である。
【図6】本発明の第1実施形態によるインプラントの取付方法を示す図である。
【図7】本発明の第1実施形態によるインプラントの取付方法を示す図である。
【図8】本発明の第1実施形態によるインプラントの取付方法を示す図である。
【図9】本発明の第1実施形態によるインプラントの取付方法を示す図である。
【図10】本発明の第1実施形態によるインプラントを大腿骨に取り付ける際に必要な皮膚の切開範囲を示す図である。
【図11】本発明の第2実施形態によるインプラントの一部を破断した分解側面図である。
【図12】本発明のインプラントの変形例を示す一部を破断した側面図である。
【図13】本発明の変形例を示す図である。
【図14】本発明の別の変形例を示す図である。
【図15】従来のインプラントを示す側面図である。
【符号の説明】
【0081】
1,400,500,600 インプラント
2 ラグスクリュー
406,506 ラグスクリュー部
4,404,504 スリーブ部
6,72 プレート部
40,42,44 貫通孔
46 固定ねじ
48 ヘッド部
50 ねじ山先端部
52,82 凸形球面部分
54 雄ねじ部
56,58,60,74 受入れ凹部
62,64,66,80 凹形球面部分
68,70,72 雌ねじ部
100,110 大腿骨
101 骨頸部
102 骨頭部
104 骨幹部
106 皮膚

【特許請求の範囲】
【請求項1】
大腿骨に使用されるインプラントであって、
基端部と先端ねじ部とを有し、大腿骨の骨折部に向かってねじ込まれるラグスクリューと、
前記ラグスクリューの前記基端部の周りに配置され且つ大腿骨に埋め込まれるスリーブ部と、
前記スリーブ部に連結され且つ大腿骨の長手方向に沿って配置されるプレート部と、を有し、
前記プレート部は、ヘッド部及びねじ部を有し且つ前記プレート部を大腿骨に固定するための複数の固定ねじが貫通する複数の貫通孔を有し、
前記スリーブ部から最も遠くに位置する第1の貫通孔及び/又は前記スリーブ部から2番目に遠くに位置する第2の貫通孔は、前記固定ねじを、そのヘッド部からねじ部に向かって前記スリーブ部から遠ざかるように大腿骨の長手方向に対して斜め方向に受入れ可能であることを特徴とするインプラント。
【請求項2】
前記プレート部は、前記スリーブ部に分離可能に連結されることを特徴とする請求項1に記載のインプラント。
【請求項3】
前記プレート部の第1の貫通孔及び/又は第2の貫通孔は、前記固定ねじのヘッド部を受入れる受入れ凹部を有し、この受入れ凹部は、所定の斜め方向に受入れた固定ねじを固定するために前記固定ねじのヘッド部に設けられた雄ねじ部に螺合する雌ねじ部を有することを特徴とする請求項1又は2に記載のインプラント。
【請求項4】
前記第1の貫通孔及び/又は前記第2の貫通孔の受入れ凹部は、前記雌ねじ部を使用することなしに、前記雄ねじ部を有しない固定ねじを前記所定の斜め方向以外の斜め方向に受入れ可能であることを特徴とする請求項3に記載のインプラント。
【請求項5】
前記固定ねじのヘッド部は、凸形球面部分を有し、前記受入れ凹部は、前記所定の斜め方向以外の斜め方向に受入れた前記雄ねじ部を有しない固定ねじを固定するために前記ヘッド部の凸形球面部分に係合する凹形球面部分を有する、請求項4に記載のインプラント。
【請求項6】
大腿骨に使用されるインプラントであって、
基端部と先端ねじ部とを有し、大腿骨の骨折部に向かってねじ込まれるラグスクリューと、
前記ラグスクリューの基端部の周りに配置され且つ大腿骨に埋め込まれるスリーブ部と、
前記スリーブ部に連結され且つ大腿骨の長手方向に沿って配置されるプレート部と、
前記プレート部を大腿骨に固定するための複数の固定ねじと、を有し、
前記プレート部は、前記複数の固定ねじが貫通する複数の貫通孔を有し、
前記固定ねじは、前記プレート部に係合するヘッド部と、前記固定ねじの先端部に形成され、前記貫通孔を通して大腿骨にねじ込まれるねじ部とを有し、
前記複数の固定ねじは、前記スリーブ部から最も遠くに位置する第1の固定ねじを有し、前記第1の固定ねじは、そのヘッド部からねじ部に向かって前記スリーブ部から遠ざかるように大腿骨の長手方向に対して斜め方向に延びることを特徴とするインプラント。
【請求項7】
前記プレート部は、前記スリーブ部に分離可能に連結されることを特徴とする請求項6に記載のインプラント。
【請求項8】
前記複数の固定ねじは、前記スリーブ部から2番目に遠くに位置する第2の固定ねじを有し、
前記スリーブ部の軸線と大腿骨を覆う皮膚とが交わるスリーブ交点から前記第1の固定ねじの軸線と皮膚とが交わる第1の交点までの長手方向距離は、前記スリーブ交点から前記第2の固定ねじの軸線と皮膚とが交わる第2の交点までの長手方向距離と等しいかそれよりも短いことを特徴とする請求項6又は7に記載のインプラント。
【請求項9】
前記プレート部の複数の貫通孔は、前記第1の固定ねじが貫通する第1の貫通孔を有し、
前記プレート部の第1の貫通孔は、前記第1の固定ねじのヘッド部を受入れる受入れ凹部を有し、この受入れ凹部は、所定の斜め方向に受入れた第1の固定ねじを固定するために前記第1の固定ねじのヘッド部に設けられた雄ねじ部に螺合する雌ねじ部を有することを特徴とする請求項6〜8のいずれか1項に記載のインプラント。
【請求項10】
前記第1の貫通孔の受入れ凹部は、前記雌ねじ部を使用することなしに、前記雄ねじ部を有しない固定ねじを前記所定の斜め方向以外の斜め方向に受入れ可能であることを特徴とする請求項9に記載のインプラント。
【請求項11】
前記固定ねじのヘッド部は、凸形球面部分を有し、前記第1の貫通孔の受入れ凹部は、前記所定の斜め方向以外の斜め方向に受入れた前記雄ねじ部を有しない固定ねじを固定するために前記ヘッド部の凸形球面部分に係合する凹形球面部分を有する、請求項10に記載のインプラント。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate


【公開番号】特開2009−125553(P2009−125553A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−307425(P2007−307425)
【出願日】平成19年11月28日(2007.11.28)
【出願人】(505351979)バイオメット・ジャパン株式会社 (6)
【Fターム(参考)】